(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175093
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】溶接装置及び溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/16 20060101AFI20221117BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20221117BHJP
【FI】
B23K26/16
B23K26/21 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021081238
(22)【出願日】2021-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】391009833
【氏名又は名称】株式会社ナ・デックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】水谷 春樹
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 陽輔
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA00
4E168EA13
4E168EA17
4E168FC00
(57)【要約】 (修正有)
【課題】溶接時に発生する飛散物の飛散範囲を制御できる溶接装置を提供する。
【解決手段】本開示の一態様は、ワークWを溶接するように構成された溶接部2と、エネルギー照射により、溶接部による溶接個所から発生する飛散物の移動を規制する高エネルギー領域を形成するように構成された照射部3と、を備える溶接装置1である。このような構成によれば、高エネルギー領域に到達した飛散物は、その全体が蒸発するか、その一部が蒸発する反力によって高エネルギー領域から離反するように移動する。つまり、高エネルギー領域が飛散物の移動を規制するシールドとして機能する。そのため、高エネルギー領域を適切に設定することによって、溶接中の飛散物の飛散範囲を制御することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを溶接するように構成された溶接部と、
エネルギー照射により、前記溶接部による溶接個所から発生する飛散物の移動を規制する高エネルギー領域を形成するように構成された照射部と、
を備える、溶接装置。
【請求項2】
請求項1に記載の溶接装置であって、
前記溶接部は、レーザ照射により前記ワークを溶接する、溶接装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の溶接装置であって、
前記照射部は、前記エネルギー照射としてレーザ照射を行う、溶接装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の溶接装置であって、
前記高エネルギー領域は、前記溶接個所を囲む円錐筒状又は円筒状である、溶接装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の溶接装置であって、
前記ワークに重ね合わされると共に、前記溶接個所と重なる部分に開口が設けられた遮蔽部材をさらに備え、
前記照射部は、前記遮蔽部材に前記エネルギー照射を行う、溶接装置。
【請求項6】
ワークを溶接しつつ、エネルギー照射により、前記ワークの溶接個所から発生する飛散物の移動を規制する高エネルギー領域を形成する工程を備える、溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶接装置及び溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワークの溶接時には、例えばスパッタ等の飛散物が発生する。この飛散物はワークの溶接品質に影響する。そのため、例えば、主領域と主領域を囲んだ副領域とにレーザを照射することでスパッタの飛散を抑制する溶接装置が考案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の溶接装置では、スパッタの発生は抑制できるが、スパッタの発生を完全に無くすことはできない。そのため、少量のスパッタであってもその飛散先によっては溶接品の品質や生産設備に影響を及ぼす。
【0005】
本開示の一局面は、溶接時に発生する飛散物の飛散範囲を制御できる溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、ワークを溶接するように構成された溶接部と、エネルギー照射により、溶接部による溶接個所から発生する飛散物の移動を規制する高エネルギー領域を形成するように構成された照射部と、を備える溶接装置である。
【0007】
このような構成によれば、高エネルギー領域に到達した飛散物は、その全体が蒸発するか、その一部が蒸発する反力によって高エネルギー領域から離反するように移動する。つまり、高エネルギー領域が飛散物の移動を規制するシールドとして機能する。そのため、高エネルギー領域を適切に設定することによって、溶接中の飛散物の飛散範囲を制御することができる。
【0008】
本開示の一態様では、溶接部は、レーザ照射によりワークを溶接してもよい。このような構成によれば、高品質が求められるレーザ溶接において、スパッタ等の飛散物による品質低下を効果的に抑制できる。
【0009】
本開示の一態様では、照射部は、エネルギー照射としてレーザ照射を行ってもよい。このような構成によれば、大気雰囲気下で高エネルギー領域を形成することができる。そのため、溶接コストを低減できる。
【0010】
本開示の一態様では、高エネルギー領域は、溶接個所を囲む円錐筒状又は円筒状であってもよい。このような構成によれば、飛散部を一定の領域に閉じ込めることで、飛散物の拡散を効果的に抑制できる。
【0011】
本開示の一態様は、ワークに重ね合わされると共に、溶接個所と重なる部分に開口が設けられた遮蔽部材をさらに備えてもよい。照射部は、遮蔽部材にエネルギー照射を行ってもよい。このような構成によれば、高エネルギー領域を形成するためのエネルギー照射によるワークの変質等を抑制できる。
【0012】
本開示の別の態様は、ワークを溶接しつつ、エネルギー照射により、ワークの溶接個所から発生する飛散物の移動を規制する高エネルギー領域を形成する工程を備える溶接方法である。
【0013】
このような構成によれば、高エネルギー領域を適切に設定することによって、溶接中の飛散物の飛散範囲を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施形態における溶接装置の模式図である。
【
図2】
図2は、
図1の溶接装置における溶接個所と高エネルギー領域とを示す模式図である。
【
図3】
図3は、飛散物と高エネルギー領域とを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[1.第1実施形態]
[1-1.構成]
図1に示す溶接装置1は、金属製又は樹脂製のワークWを溶接するために用いられる。溶接装置1は、溶接部2と、照射部3と、遮蔽部材4とを備える。
【0016】
<溶接部>
溶接部2は、ワークWを溶接個所Pにて溶接するように構成されている。溶接部2は、ワークWを溶接するためのレーザを照射するレーザヘッドである。
【0017】
溶接部2は、ヘッド本体21と、ファイバーケーブル22と、コリメーションレンズ23と、集光レンズ24とを有する。コリメーションレンズ23及び集光レンズ24とは、筒状のヘッド本体21の内部に配置されている。
【0018】
ファイバーケーブル22によりヘッド本体21に伝送されたレーザ光L1は、コリメーションレンズ23及び集光レンズ24を通過して、ワークWの溶接個所Pに照射される。溶接部2は、レーザ光L1をワークWに照射しながら、移動可能に構成されている。
【0019】
<照射部>
照射部3は、遮蔽部材4へのエネルギー照射により、溶接部2による溶接個所Pから発生する飛散物の移動を規制する高エネルギー領域Aを形成するように構成されている。具体的には、照射部3は、ワークWに向けてレーザを照射するレーザヘッドである。
【0020】
照射部3は、ヘッド本体31と、ファイバーケーブル32と、コリメーションレンズ33と、集光レンズ34と、変換素子35とを有する。コリメーションレンズ33、集光レンズ34及び変換素子35は、筒状のヘッド本体31の内部に配置されている。
【0021】
ファイバーケーブル32によりヘッド本体31に伝送されたレーザ光L2は、コリメーションレンズ33、変換素子35及び集光レンズ34を通過して、遮蔽部材4に照射される。
【0022】
照射部3が発するレーザ光L2は、変換素子35によって円錐筒状のビームに変換される。
図2に示すように、照射部3は、遮蔽部材4の照射面I上において溶接個所Pを囲むリング部Rを含む円錐筒状の高エネルギー領域Aを形成する。照射部3の変換素子35としては、例えば、アキシコンレンズ、二重リングを用いた回析光学素子(DOE)、多重焦点レンズ等が使用できる。
【0023】
照射部3が照射するエネルギーの大きさ(つまりレーザ光L2の出力)は、飛散物が沸点以上に加熱される大きさ以上とされる。また、照射部3は、レーザ光L2を照射面Iに照射しながら、溶接部2と共に移動可能に構成されている。
【0024】
<遮蔽部材>
遮蔽部材4は、ワークWの溶接時にワークWの溶接を行う面に重ね合わされる板状の部材である。
【0025】
遮蔽部材4は、溶接個所Pと重なる部分に開口41が設けられている。溶接部2が発するレーザ光L1は、開口41を通過してワークWに照射される。一方、照射部3が発するレーザ光L2は、開口41を囲うように、遮蔽部材4の表面で構成される照射面Iに照射される。
【0026】
遮蔽部材4は、図示しない搬送機構によって、溶接部2の溶接個所Pの移動に合わせて、照射部3と共に移動する。
【0027】
<飛散物と高エネルギー領域>
溶接部2による溶接時には、スパッタ、溶滴等の飛散物が溶接個所Pから発生する。
図3に示すように、飛散物Sが高エネルギー領域Aに到達すると、飛散物Sのうち高エネルギー領域Aに重なった部分Eはエネルギーによって蒸発する。
【0028】
この蒸発する部分Eの体積膨張に伴う反力Fによって、飛散物Sは高エネルギー領域Aから離反する(つまり押し返される)ように移動する。このように、高エネルギー領域Aによって飛散物Sの進行方向が変えられる。そのため、飛散物Sは、円錐筒状の高エネルギー領域Aの内部空間に閉じ込められる。
【0029】
<溶接方法>
本実施形態の溶接方法は、溶接装置1を用いてワークWを溶接する。具体的には、本実施形態の溶接方法では、ワークWを溶接しつつ、遮蔽部材4へのエネルギー照射により、ワークWの溶接個所Pから発生する飛散物の移動を規制する高エネルギー領域Aを形成する工程を備える。
【0030】
[1-2.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1a)高エネルギー領域Aに到達した飛散物は、その全体が蒸発するか、その一部が蒸発する反力によって高エネルギー領域Aから離反するように移動する。つまり、高エネルギー領域Aが飛散物の移動を規制するシールドとして機能する。そのため、高エネルギー領域Aを適切に設定することによって、溶接中の飛散物の飛散範囲を制御することができる。
【0031】
(1b)高エネルギー領域Aの形成により、飛散物の拡散を抑制するためのクロスジェットガスの噴射が必要なくなるため、溶接時における騒音が低減される。また、真空中でのワークWの溶接が可能になる。
【0032】
(1c)高品質が求められるレーザ溶接において、スパッタ等の飛散物による品質低下を効果的に抑制できる。
(1d)照射部3がエネルギー照射としてレーザ照射を行うことで、大気雰囲気下で高エネルギー領域Aを形成することができる。そのため、溶接コストを低減できる。
【0033】
(1e)高エネルギー領域Aが溶接個所Pを囲む円錐筒状であることで、飛散部を一定の領域に閉じ込めることで、飛散物の拡散を効果的に抑制できる。
【0034】
(1f)遮蔽部材4に照射部3がレーザ照射を行うことで、高エネルギー領域Aを形成するためのエネルギー照射によるワークWの変質等を抑制できる。
【0035】
[2.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0036】
(2a)上記実施形態の溶接装置において、溶接部は、レーザ照射以外の手法(例えばアーク放電)によってワークを溶接してもよい。
【0037】
(2b)上記実施形態の溶接装置において、照射部は、レーザ照射以外のエネルギー照射(例えば電子ビームの照射)を行ってもよい。
【0038】
(2c)上記実施形態の溶接装置において、高エネルギー領域は、円筒状であってもよい。また、高エネルギー領域は、必ずしも溶接個所を囲まなくてもよい。例えば、
図4Aに示すように、高エネルギー領域Aは、溶接個所Pの近傍に配置された板状(照射面I上ではライン状)の壁として形成されてもよい。
【0039】
また、
図4Bに示すように、照射部は、エネルギー照射位置(つまり照射面I上の高エネルギー領域Aの位置)を溶接個所Pの周りに回転させてもよい。つまり、高エネルギー領域Aは、その軌跡が溶接個所Pを囲む円錐筒状又は円筒状となるように変動してもよい。高エネルギー領域Aの移動速度は、飛散物の移動速度よりも大きくされる。このような実施形態では、高エネルギー領域を円錐筒状又は円筒状とした場合よりも照射エネルギーを大きくできる。
【0040】
(2d)上記実施形態の溶接装置は、必ずしも遮蔽部材を備えなくてもよい。つまり、照射部は、ワークに直接エネルギー照射を行ってもよい。
【0041】
(2e)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0042】
1…溶接装置、2…溶接部、3…照射部、4…遮蔽部材、21…ヘッド本体、
22…ファイバーケーブル、23…コリメーションレンズ、24…集光レンズ、
31…ヘッド本体、32…ファイバーケーブル、33…コリメーションレンズ、
34…集光レンズ、35…変換素子、41…開口、A…高エネルギー領域、F…反力、
I…照射面、L1…レーザ光、L2…レーザ光、P…溶接個所、R…リング部、
S…飛散物、W…ワーク。