(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175111
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】軟磁性粉末、圧粉磁心、磁性素子、電子機器および移動体
(51)【国際特許分類】
H01F 1/20 20060101AFI20221117BHJP
H01F 1/24 20060101ALI20221117BHJP
H01F 1/153 20060101ALI20221117BHJP
H01F 3/08 20060101ALI20221117BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20221117BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20221117BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20221117BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
H01F1/20
H01F1/24
H01F1/153
H01F1/153 133
H01F3/08
H01F27/255
B22F1/00 Y
B22F3/00 B
C22C38/00 303S
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021081264
(22)【出願日】2021-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】佐野 世樹
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
【Fターム(参考)】
4K018AA24
4K018BA13
4K018BB04
4K018BB06
4K018BB07
4K018BC01
4K018BC08
4K018BC11
4K018BC12
4K018BC28
4K018BC30
4K018CA02
4K018CA09
4K018FA08
4K018HA04
4K018HA08
4K018KA44
4K018KA61
4K018KA63
5E041AA02
5E041AA11
5E041AA19
5E041BB03
5E041BC01
5E041BC05
5E041BD12
5E041CA01
5E041HB17
5E041NN01
5E041NN06
(57)【要約】
【課題】軟磁性金属粒子自体の比表面積を小さくすることにより、バインダーを介して粒子同士が結着した圧粉体を製造するとき、使用するバインダー量を減らすことができ、磁気特性に優れた圧粉体を製造可能な軟磁性粉末、ならびに、圧粉磁心、磁性素子、電子機器および移動体を提供すること。
【解決手段】比表面積をS[m2/g]とし、平均粒径をd[μm]とし、真比重をρ[g/cm3]としたとき、下記式(A)、下記式(B)および下記式(C)を満たす軟磁性金属粒子を含むことを特徴とする軟磁性粉末。
S=k{6/(d・ρ)} … (A)
1.0≦k≦4.0 … (B)
1.0≦d≦10.0 … (C)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
比表面積をS[m2/g]とし、平均粒径をd[μm]とし、真比重をρ[g/cm3]としたとき、下記式(A)、下記式(B)および下記式(C)を満たす軟磁性金属粒子を含むことを特徴とする軟磁性粉末。
S=k{6/(d・ρ)} … (A)
1.0≦k≦4.0 … (B)
1.0≦d≦10.0 … (C)
【請求項2】
前記軟磁性金属粒子は、粒径1.0nm以上30.0nm以下の結晶組織で構成されている微結晶質材料を主材料として含む請求項1に記載の軟磁性粉末。
【請求項3】
前記軟磁性金属粒子は、非晶質組織で構成されている非晶質材料を主材料として含む請求項1に記載の軟磁性粉末。
【請求項4】
前記軟磁性金属粒子の酸素含有率は、質量比で10000ppm以下である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の軟磁性粉末。
【請求項5】
前記軟磁性金属粒子と、
前記軟磁性金属粒子の表面に設けられている絶縁被膜と、
を有する請求項1ないし4のいずれか1項に記載の軟磁性粉末。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の軟磁性粉末を含むことを特徴とする圧粉磁心。
【請求項7】
請求項6に記載の圧粉磁心を備えることを特徴とする磁性素子。
【請求項8】
請求項7に記載の磁性素子を備えることを特徴とする電子機器。
【請求項9】
請求項7に記載の磁性素子を備えることを特徴とする移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性粉末、圧粉磁心、磁性素子、電子機器および移動体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、鉄含有量が20質量%以上である軟磁性金属粒子の表面にシリコン酸化物被膜層を有する粒子で構成されるシリコン酸化物被覆軟磁性粉末が開示されている。このシリコン酸化物被覆軟磁性粉末では、シリコン酸化物被覆層の平均膜厚が0.5~30nmであり、BET比表面積が1.0m2/g以下である。
【0003】
このような粉末では、軟磁性金属粒子の表面にシリコン酸化物被覆層を形成することにより、マイクロ孔の形成が少なくなり、BET比表面積が小さくなる。比表面積が小さくなると、軟磁性粉末を加圧成形する際に、樹脂の使用量を減らすことができる。これにより、圧粉磁心における磁気特性の低下を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のシリコン酸化物被覆軟磁性粉末では、比表面積を低下させるために、シリコン酸化物被覆層を形成している。つまり、特許文献1に記載の発明では、加圧成形に必要な樹脂の使用量を削減する目的を達成するために、シリコン酸化物の添加を必要としている。したがって、シリコン酸化物が添加された分、軟磁性金属粒子の充填率が低下し、かえって、圧粉磁心の磁気特性の低下を招いている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の適用例に係る軟磁性粉末は、
比表面積をS[m2/g]とし、平均粒径をd[μm]とし、真比重をρ[g/cm3]としたとき、下記式(A)、下記式(B)および下記式(C)を満たす軟磁性金属粒子を含むことを特徴とする軟磁性粉末。
S=k{6/(d・ρ)} … (A)
1.0≦k≦4.0 … (B)
1.0≦d≦10.0 … (C)
【0007】
本発明の適用例に係る圧粉磁心は、
本発明の適用例に係る軟磁性粉末を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明の適用例に係る磁性素子は、
本発明の適用例に係る圧粉磁心を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の適用例に係る電子機器は、
本発明の適用例に係る磁性素子を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の適用例に係る移動体は、
本発明の適用例に係る磁性素子を備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】トロイダルタイプのコイル部品を模式的に示す平面図である。
【
図2】閉磁路タイプのコイル部品を模式的に示す透過斜視図である。
【
図3】実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるモバイル型のパーソナルコンピューターを示す斜視図である。
【
図4】実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるスマートフォンを示す平面図である。
【
図5】実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるディジタルスチルカメラを示す斜視図である。
【
図6】実施形態に係る磁性素子を備える移動体である自動車を示す斜視図である。
【
図7】サンプルNo.17の軟磁性粉末の観察像である。
【
図8】サンプルNo.19の軟磁性粉末の観察像である。
【
図9】サンプルNo.21の軟磁性粉末の観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の軟磁性粉末、圧粉磁心、磁性素子、電子機器および移動体を添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0013】
1.軟磁性粉末
実施形態に係る軟磁性粉末は、軟磁性を示す金属粉末である。かかる軟磁性粉末は、いかなる用途にも適用可能であるが、例えば、結合材を介して粒子同士が結着され、圧粉磁心や電磁波吸収材等の各種圧粉体を製造するのに用いられる。
【0014】
実施形態に係る軟磁性粉末は、軟磁性金属粒子を含む。軟磁性金属粒子は、比表面積をS[m2/g]とし、平均粒径をd[μm]とし、真比重をρ[g/cm3]としたとき、下記式(A)、下記式(B)および下記式(C)を満たす。
S=k{6/(d・ρ)} … (A)
1.0≦k≦4.0 … (B)
1.0≦d≦10.0 … (C)
【0015】
このような軟磁性粉末では、上記のように、平均粒径dや真比重ρから仮想される真球状粒子の理論的な比表面積に比べて、比表面積Sの増加が十分に小さく抑えられた軟磁性金属粒子を含む。このため、かかる軟磁性粉末は、バインダーを介して粒子同士が結着した圧粉体を得るとき、バインダーの使用量を少なく抑えることを可能にする。これにより、圧粉体における軟磁性金属粒子の充填率が高められ、透磁率や磁束密度等の磁気特性に優れた圧粉体を得ることができる。
【0016】
また、上記の軟磁性粉末は、平均粒径dが十分に小さいため、圧粉体において渦電流損失を低く抑えることができる。したがって、このような軟磁性粉末によれば、磁気特性に優れるとともに、コアロスの少ない圧粉体を実現することができる。
【0017】
軟磁性金属粒子の比表面積Sは、例えば、株式会社マウンテック社製のBET式比表面積測定装置HM1201-010を用いて測定される。検体の量は5gとする。
【0018】
比表面積Sが上記式(A)を満たす軟磁性金属粒子は、平均粒径dおよび真比重ρから算出される、真球形粒子の理論的な比表面積を基準にしたとき、その基準からの増加が十分に小さく抑えられた比表面積Sを有する、といえる。
【0019】
本発明者は、式(A)が含む係数kが、上記式(B)を満たすとき、バインダーの使用量を十分に少なくしても、軟磁性金属粒子が良好な流動性および充填性を示すことを見出した。このため、式(A)が含む係数kが上記式(B)を満たすとき、バインダーの使用量を抑えつつ、軟磁性粉末の充填性が良好な圧粉体を得ることができる。このような圧粉体では、バインダーの使用量が少ないため、優れた磁気特性が得られるとともに、強度が高くなる。
【0020】
なお、式(A)が含む係数kは、下記式(B-1)を満たすのが好ましく、下記式(B-2)を満たすのがより好ましい。
【0021】
1.0≦k≦3.5 … (B-1)
1.0≦k≦3.0 … (B-2)
【0022】
係数kの値が前記上限値を上回ると、比表面積Sが基準に比べて著しく大きくなるため、バインダーの使用量も著しく多くなる。その結果、圧粉体における軟磁性金属粒子の充填率(占有率)が低下し、圧粉体の磁気特性が低下するおそれがある。
【0023】
また、平均粒径dは、上記式(C)を満たす。このように平均粒径dが十分に小さければ、前述したように、圧粉体における渦電流損失を低く抑えることができる。
【0024】
なお、平均粒径dは、下記式(C-1)を満たすのが好ましく、下記式(C-2)を満たすのがより好ましい。
【0025】
1.5≦d≦9.5 … (C-1)
2.0≦d≦9.0 … (C-2)
【0026】
平均粒径dが前記下限値を下回ると、凝集が顕著になって、軟磁性粉末の流動性や充填性が低下するおそれがある。平均粒径dが前記上限値を上回ると、圧粉体における渦電流損失が増大するおそれがある。また、粒子間の隙間が大きくなり、軟磁性粉末の充填性が低下するおそれがある。
【0027】
軟磁性金属粒子の平均粒径dは、レーザー回折法により取得された体積基準の粒度分布において、小径側から累積50%となるときの粒径D50として求められる。
【0028】
また、軟磁性金属粒子について、レーザー回折法により取得された体積基準の粒度分布において、小径側から累積10%となるときの粒径をD10とし、小径側から累積90%となるときの粒径をD90とする。このとき、(D90-D10)/D50は1.0以上1.5以下であるのが好ましく、1.0以上1.3以下であるのがより好ましい。(D90-D10)/D50は粒度分布の広がりの程度を示す指標であるが、この指標が前記範囲内であることにより、軟磁性金属粒子の充填性が良好になる。このため、透磁率、磁束密度のような磁気特性が特に高い圧粉体が得られる。
【0029】
軟磁性粉末は、上述した条件を満たす軟磁性金属粒子以外に、任意の軟磁性粒子や非磁性粒子を含んでいてもよいが、軟磁性金属粒子の含有率は50質量%以上であるのが好ましく、80質量%以上であるのがより好ましく、90質量%以上であるのがさらに好ましい。
【0030】
軟磁性金属粒子は、軟磁性材料で構成されている。軟磁性材料としては、Fe、NiまたはCoを主成分とする軟磁性材料であれば、特に限定されないが、例えば、純鉄、ケイ素鋼のようなFe-Si系合金、パーマロイのようなFe-Ni系合金、パーメンジュールのようなFe-Co系合金、センダストのようなFe-Si-Al系合金、Fe-Cr-Si系合金、Fe-Cr-Al系合金等の各種Fe系合金の他、各種Ni系合金、各種Co系合金等が挙げられる。このうち、透磁率、磁束密度等の磁気特性、および、コスト等の観点から、各種Fe系合金が好ましく用いられる。
【0031】
また、Feを主成分とし、主成分に次いで濃度が高い元素としてSiまたはCrを含む組成の材料が特に好ましく用いられる。このような材料で構成された粒子では、粒子表面にSi酸化物やCr酸化物を含む酸化膜が形成される。この酸化膜が母相の酸化を抑制することにより、比表面積が増加したり、粒子形状が異形状になったりするのを抑制することができる。
なお、主成分とは、原子数比でFe、NiまたはCoの濃度が最も高いことをいう。
【0032】
また、軟磁性金属粒子の結晶構造は、特に限定されず、結晶質であっても、非晶質(アモルファス)であっても、微結晶質(ナノ結晶質)であってもよい。
【0033】
このうち、軟磁性金属粒子は、微結晶質材料を主材料として含むことが好ましい。この微結晶質材料は、粒径1.0nm以上30.0nm以下の結晶組織で構成されている材料である。このような微結晶質材料を含むことにより、軟磁性金属粒子の軟磁性をより向上させることができる。すなわち、低保磁力と高透磁率とを両立する軟磁性金属粒子が得られる。
【0034】
なお、主材料とは、軟磁性金属粒子において微結晶質材料が占める割合が、50体積%以上であることを指すが、好ましくは70体積%以上とされる。軟磁性金属粒子には、微結晶質材料以外に、結晶質材料および非晶質材料の少なくとも一方が含まれていてもよい。結晶質材料とは、粒径30.0nm以上の結晶組織で構成されている材料を指す。また、非晶質材料とは、非晶質組織で構成されている材料を指す。
【0035】
また、軟磁性金属粒子は、非晶質材料を主材料として含むことが好ましい。この非晶質材料は、非晶質組織で構成されている材料である。このような非晶質材料を含むことにより、軟磁性金属粒子の軟磁性をより向上させることができる。
【0036】
なお、主材料とは、軟磁性金属粒子において非晶質材料が占める割合が、50体積%以上であることを指すが、好ましくは70体積%以上とされる。軟磁性金属粒子には、非晶質材料以外に、結晶質材料および微結晶質材料の少なくとも一方が含まれていてもよい。
【0037】
軟磁性粉末には、微結晶質材料を主材料とする粒子、非晶質材料を主材料とする粒子、および、結晶質材料を主材料とする粒子のうちの2種以上が混在していてもよい。これにより、複数種の粒子が有する特性を併せ持つ軟磁性粉末を実現することができる。
【0038】
非晶質材料および微結晶質材料としては、例えば、Fe-Si-B系、Fe-Si-B-C系、Fe-Si-B-Cr-C系、Fe-Si-Cr系、Fe-B系、Fe-P-C系、Fe-Co-Si-B系、Fe-Si-B-Nb系、Fe-Si-B-Nb-Cu系、Fe-Zr-B系のようなFe系合金、Ni-Si-B系、Ni-P-B系のようなNi系合金、Co-Si-B系のようなCo系合金等が挙げられる。
【0039】
軟磁性粉末では、軟磁性材料以外に不純物が含まれていてもよい。例えば、軟磁性金属粒子の酸素含有率は、質量比で10000ppm以下であるのが好ましく、1000ppm以上8000ppm以下であるのがより好ましく、2000ppm以上6000ppm以下であるのがさらに好ましい。
【0040】
軟磁性金属粒子の酸素含有率が前記範囲内であれば、軟磁性金属粒子の表面に付着する酸化物の量を十分に少なく抑えることができる。粒子表面の酸化物は、軟磁性金属粒子の比表面積Sを増大させる原因の1つである。したがって、その酸化物の量を少なく抑えることにより、比表面積Sをより小さくすることができる。
【0041】
なお、軟磁性金属粒子の酸素含有率は、例えば、LECO社製酸素・窒素分析装置、TC-300/EF-300により測定される。
【0042】
軟磁性金属粒子の表面には、必要に応じて、絶縁被膜が設けられていてもよい。つまり、軟磁性粉末は、軟磁性金属粒子と、軟磁性金属粒子の表面に設けられている絶縁被膜と、を有していてもよい。このような絶縁被膜を設けることにより、軟磁性金属粒子同士の絶縁性を高めることができる。その結果、粒子間に流れる渦電流を抑制し、圧粉体における渦電流損失を抑制することができる。
【0043】
絶縁被膜としては、例えば、ガラス材料、セラミックス材料、樹脂材料等が挙げられる。
【0044】
軟磁性金属粒子の保磁力は、特に限定されないが、20[Oe]以下(1592[A/m]以下)であるのが好ましく、10[Oe]以下(796[A/m]以下)であるのがより好ましく、0.1[Oe]以上3.0[Oe]以下(8.0[A/m]以上239[A/m]以下)であるのがさらに好ましい。このように保磁力が小さい軟磁性金属粒子を用いることにより、高周波域で用いられてもヒステリシス損失を十分に抑制可能な圧粉体を製造することができる。
【0045】
軟磁性金属粒子の保磁力は、例えば、株式会社玉川製作所製、TM-VSM1230-MHHLのような振動試料型磁力計により測定することができる。
【0046】
実施形態に係る軟磁性金属粒子は、圧粉体としたときの透磁率が測定周波数100kHzにおいて15以上であるのが好ましく、17以上であるのがより好ましい。このような軟磁性金属粒子は、磁気特性に優れた圧粉磁心の実現に寄与する。
【0047】
圧粉体の透磁率とは、例えば、圧粉体をトロイダル形状とし、閉磁路磁心コイルの自己インダクタンスから求められる比透磁率、すなわち実効透磁率のことである。透磁率の測定には、インピーダンスアナライザーを用い、測定周波数は100kHzとする。また、巻線の巻き数は7回、巻線の線径は0.6mmとする。
【0048】
2.軟磁性粉末の製造方法
次に、前述した軟磁性粉末の製造方法の一例について説明する。
【0049】
前述した軟磁性金属粒子は、いかなる方法で製造された粉末であってもよい。製造方法の例としては、例えば、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、回転水流アトマイズ法等の各種アトマイズ法の他、粉砕法等が挙げられる。このうち、軟磁性金属粒子には、アトマイズ法で製造された粒子が好ましく用いられる。アトマイズ法によれば、粒子形状がより真球に近く、かつ、酸化物等の形成が少ない、良質な金属粉末を効率よく製造することができる。したがって、アトマイズ法により、比表面積がより小さい金属粉末を製造することができる。
【0050】
アトマイズ法は、溶融金属を、高速で噴射された液体または気体に衝突させることにより、溶湯を微粉化するとともに冷却して、金属粉末を製造する方法である。アトマイズ法では、溶融金属が微細化された後、固化に至る過程で球形化が進むため、より真球に近い粒子を製造することができる。
【0051】
このうち、水アトマイズ法は、冷却液として水等の液体を使用し、これを一点に集束する逆円錐状に噴射するとともに、この集束点に向けて溶融金属を流下させ、衝突させることにより、溶融金属から金属粉末を製造する方法である。
【0052】
また、回転水流アトマイズ法は、冷却用筒体の内周面に沿って冷却液を供給し、内周面に沿って旋回させる一方、溶融金属に液体または気体のジェットを吹き付け、飛散させた溶融金属を冷却液中に取り込むことにより、金属粉末を製造する方法である。
【0053】
さらに、ガスアトマイズ法は、冷却媒として気体(ガス)を使用し、これを一点に集束する逆円錐状に噴射するとともに、この集束点に向けて溶融金属を流下させ、衝突させることにより、溶融金属から金属粉末を製造する方法である。
【0054】
液体や気体の流速は、特に限定されないが、100m/s以上1000m/s以下に設定されるのが好ましい。これにより、飛散した液滴に十分な速度が与えられるため、液滴が冷却されやすい。その結果、酸化物の生成が抑制され、製造される粒子の比表面積を抑えることができる。また、溶融金属の状態における原子配列が保存されたまま固化に至るので、例えば非晶質材料の粉末を製造するときには、非晶質化度の高い粉末を効率よく製造することができる。なお、冷却媒の流速を上げることにより、軟磁性粉末の比表面積が小さくなる傾向がある。
【0055】
溶融金属の温度は、原材料の融点Tmに対し、Tm+20℃以上Tm+200℃以下程度に設定されるのが好ましく、Tm+50℃以上Tm+150℃以下程度に設定されるのがより好ましい。これにより、溶融金属を微粉化する際、製造される粒子の球形化が進み、比表面積を抑えることができる。なお、溶融金属の温度を上げることにより、軟磁性粉末の比表面積が小さくなる傾向がある。
【0056】
アトマイズ法において溶融金属を冷却する際の冷却速度は、1×104℃/s以上であるのが好ましく、1×105℃/s以上であるのがより好ましい。このような急速な冷却により、酸化物の生成が抑制され、製造される粒子の比表面積を抑えることができる。また、溶融金属の状態における原子配列が保存されたまま固化に至るので、例えば非晶質材料の粉末を製造するときには、非晶質化度の高い粉末を効率よく製造することができる。
【0057】
上記のような方法で製造された軟磁性金属粒子に対し、熱処理を施すことで、磁気特性を高めるとともに、さらなる低保磁力化を図ることができる。また、比表面積を小さくすることができる。
【0058】
熱処理における加熱温度は、軟磁性金属粒子における結晶化温度をTxとしたとき、Tx-250℃以上Tx未満であるのが好ましく、Tx-100℃以上Tx未満であるのがより好ましい。
【0059】
熱処理における加熱時間は、加熱温度を前記範囲としたとき、5分以上120分以下であるのが好ましく、10分以上60分以下であるのがより好ましい。
【0060】
このような加熱条件で熱処理を施すことにより、軟磁性金属粒子の製造時に生じた急冷凝固による残留応力を緩和することができる。これにより、軟磁性金属粒子において歪みが緩和され、低保磁力化を図るとともに、磁気特性の向上を図ることができる。また、粒子表面が滑らかになって、比表面積が小さくなる。
【0061】
また、製造した軟磁性金属粒子に対し、必要に応じて、分級を行ってもよい。分級の方法としては、例えば、ふるい分け分級、慣性分級、遠心分級のような乾式分級、沈降分級のような湿式分級等が挙げられる。
【0062】
3.圧粉磁心および磁性素子
次に、実施形態に係る圧粉磁心および磁性素子について説明する。
【0063】
実施形態に係る磁性素子は、例えば、チョークコイル、インダクター、ノイズフィルター、リアクトル、トランス、モーター、アクチュエーター、電磁弁、発電機等のような、磁心を備えた各種磁性素子に適用可能である。また、実施形態に係る圧粉磁心は、これらの磁性素子が備える磁心に適用可能である。
【0064】
以下、磁性素子の一例として、2種類のコイル部品を代表に説明する。
3.1.トロイダルタイプ
まず、実施形態に係る磁性素子の一例であるトロイダルタイプのコイル部品について説明する。
図1は、トロイダルタイプのコイル部品を模式的に示す平面図である。
【0065】
図1に示すコイル部品10は、リング状の圧粉磁心11と、この圧粉磁心11に巻き回された導線12と、を有する。このようなコイル部品10は、一般に、トロイダルコイルと称される。
【0066】
圧粉磁心11は、実施形態に係る軟磁性粉末と結合材とを混合し、得られた混合物を成形型に供給するとともに、加圧、成形して得られる。すなわち、圧粉磁心11は、実施形態に係る軟磁性粉末を含む圧粉体である。このような圧粉磁心11では、結合材(バインダー)の使用量が少なくて済むため、軟磁性粉末の充填率(占有率)を高めることができる。このため、圧粉磁心11を備えるコイル部品10は、透磁率や磁束密度等の磁気特性が高いものとなる。したがって、コイル部品10を電子機器等に搭載したとき、電子機器等の高性能化および小型化を図ることができる。
【0067】
圧粉磁心11の作製に用いられる結合材の構成材料としては、例えば、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等の有機材料、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸亜鉛、リン酸マンガン、リン酸カドミウムのようなリン酸塩、ケイ酸ナトリウムのようなケイ酸塩等の無機材料等が挙げられるが、特に、熱硬化性ポリイミドまたはエポキシ系樹脂が好ましい。これらの樹脂材料は、加熱されることによって容易に硬化するとともに、耐熱性に優れたものである。したがって、圧粉磁心11の製造容易性および耐熱性を高めることができる。
【0068】
軟磁性粉末に対する結合材の割合は、作製する圧粉磁心11の目的とする磁気特性や機械的特性、許容される渦電流損失等に応じて若干異なるが、0.3質量%以上5.0質量%以下程度であるのが好ましく、0.5質量%以上3.0質量%以下程度であるのがより好ましく、0.7質量%以上2.0質量%以下程度であるのがさらに好ましい。これにより、軟磁性粉末の各粒子同士を十分に結着させつつ、磁気特性に優れたコイル部品10を得ることができる。
混合物中には、必要に応じて、任意の目的で各種添加剤を添加するようにしてもよい。
【0069】
導線12の構成材料としては、導電性の高い材料が挙げられ、例えば、Cu、Al、Ag、Au、Ni等を含む金属材料が挙げられる。また、導線12の表面には、必要に応じて絶縁膜が設けられる。
【0070】
圧粉磁心11の形状は、
図1に示すリング状に限定されず、例えばリングの一部が欠損した形状であってもよく、長手方向の形状が直線状である形状であってもよく、シート状、フィルム状等であってもよい。
【0071】
圧粉磁心11は、必要に応じて、前述した実施形態に係る軟磁性粉末以外の軟磁性粉末や非磁性粉末を含んでいてもよい。
【0072】
以上のように、磁性素子であるコイル部品10は、前述した軟磁性粉末を含む圧粉磁心11を備えている。これにより、磁気特性に優れたコイル部品10を実現することができる。
【0073】
3.2.閉磁路タイプ
次に、実施形態に係る磁性素子の一例である閉磁路タイプのコイル部品について説明する。
図2は、閉磁路タイプのコイル部品を模式的に示す透過斜視図である。
【0074】
以下、閉磁路タイプのコイル部品について説明するが、以下の説明では、トロイダルタイプのコイル部品との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0075】
本実施形態に係るコイル部品20は、
図2に示すように、コイル状に成形された導線22を、圧粉磁心21の内部に埋設してなるものである。すなわち、磁性素子であるコイル部品20は、前述した軟磁性粉末を含む圧粉磁心21を備え、導線22を圧粉磁心21でモールドしてなる。この圧粉磁心21は、前述した圧粉磁心11と同様の構成を有する。これにより、磁気特性に優れたコイル部品20を実現することができる。
【0076】
このような形態のコイル部品20は、比較的小型のものが容易に得られる。また、コイル部品20は、磁気特性が高いので、コイル部品20を電子機器等に搭載したとき、電子機器等の高性能化および小型化を図ることができる。
【0077】
また、導線22が圧粉磁心21の内部に埋設されているため、導線22と圧粉磁心21との間に隙間が生じ難い。このため、圧粉磁心21の磁歪による振動を抑制し、この振動に伴う騒音の発生を抑制することもできる。
【0078】
なお、圧粉磁心21の形状は、
図2に示す形状に限定されず、シート状、フィルム状等であってもよい。
【0079】
また、圧粉磁心21は、必要に応じて、前述した実施形態に係る軟磁性粉末以外の軟磁性粉末や非磁性粉末を含んでいてもよい。
【0080】
4.電子機器
次に、実施形態に係る磁性素子を備える電子機器について、
図3~
図5に基づいて説明する。
【0081】
図3は、実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるモバイル型のパーソナルコンピューターを示す斜視図である。
図3に示すパーソナルコンピューター1100は、キーボード1102を備えた本体部1104と、表示部100を備えた表示ユニット1106と、を備える。表示ユニット1106は、本体部1104に対しヒンジ構造部を介して回動可能に支持されている。このようなパーソナルコンピューター1100には、例えばスイッチング電源用のチョークコイルやインダクター、モーター等の磁性素子1000が内蔵されている。
【0082】
図4は、実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるスマートフォンを示す平面図である。
図4に示すスマートフォン1200は、複数の操作ボタン1202、受話口1204および送話口1206を備える。また、操作ボタン1202と受話口1204との間には、表示部100が配置されている。このようなスマートフォン1200には、例えばインダクター、ノイズフィルター、モーター等の磁性素子1000が内蔵されている。
【0083】
図5は、実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるディジタルスチルカメラを示す斜視図である。ディジタルスチルカメラ1300は、被写体の光像をCCD(Charge Coupled Device)等の撮像素子により光電変換して撮像信号を生成する。
【0084】
図5に示すディジタルスチルカメラ1300は、ケース1302の背面に設けられた表示部100を備える。表示部100は、被写体を電子画像として表示するファインダーとして機能する。また、ケース1302の正面側、すなわち図中裏面側には、光学レンズやCCDなどを含む受光ユニット1304が設けられている。
【0085】
撮影者が表示部100に表示された被写体像を確認し、シャッターボタン1306を押下すると、その時点におけるCCDの撮像信号が、メモリー1308に転送・格納される。このようなディジタルスチルカメラ1300にも、例えばインダクター、ノイズフィルター等の磁性素子1000が内蔵されている。
【0086】
実施形態に係る電子機器としては、
図3のパーソナルコンピューター、
図4のスマートフォン、
図5のディジタルスチルカメラの他に、例えば、携帯電話、タブレット端末、時計、インクジェットプリンターのようなインクジェット式吐出装置、ラップトップ型パーソナルコンピューター、テレビ、ビデオカメラ、ビデオテープレコーダー、カーナビゲーション装置、ページャー、電子手帳、電子辞書、電卓、電子ゲーム機器、ワードプロセッサー、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニター、電子双眼鏡、POS端末、電子体温計、血圧計、血糖計、心電図計測装置、超音波診断装置、電子内視鏡のような医療機器、魚群探知機、各種測定機器、車両、航空機、船舶の計器類、自動車制御機器、航空機制御機器、鉄道車両制御機器、船舶制御機器のような移動体制御機器類、フライトシミュレーター等が挙げられる。
【0087】
このような電子機器は、前述したように、実施形態に係る磁性素子を備えている。これにより、磁気特性に優れるという磁性素子の効果を享受し、電子機器の高性能化を図ることができる。
【0088】
5.移動体
次に、本実施形態に係る磁性素子を備える移動体について、
図6に基づき説明する。
図6は、実施形態に係る磁性素子を備える移動体である自動車を示す斜視図である。
【0089】
自動車1500には、磁性素子1000が内蔵されている。具体的には、磁性素子1000は、例えば、カーナビゲーションシステム、アンチロックブレーキシステム(ABS)、エンジンコントロールユニット、ハイブリッド自動車や電気自動車の電池制御ユニット、車体姿勢制御システム、自動運転システムのような電子制御ユニット(ECU:electronic control unit)、駆動用モーター、ジェネレーター、エアコンユニット等の各種自動車部品に内蔵される。
【0090】
このような移動体は、前述したように、実施形態に係る磁性素子を備えている。これにより、磁気特性に優れるという磁性素子の効果を享受し、移動体の高性能化を図ることができる。
【0091】
なお、本実施形態に係る移動体は、
図6に示す自動車の他にも、例えば、二輪車、自転車、航空機、ヘリコプター、ドローン、船舶、潜水艦、鉄道、ロケット、宇宙船等であってもよい。
【0092】
以上、本発明の軟磁性粉末、圧粉磁心、磁性素子、電子機器および移動体について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0093】
例えば、前記実施形態では、本発明の軟磁性粉末の用途例として圧粉磁心等の圧粉体を挙げて説明したが、用途例はこれに限定されず、例えば磁性流体、磁気ヘッド、磁気遮蔽シート等の磁性デバイスであってもよい。
【0094】
また、圧粉磁心や磁性素子の形状も、図示したものに限定されず、いかなる形状であってもよい。
【実施例0095】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
6.軟磁性粉末の製造
6.1.サンプルNo.1
まず、水アトマイズ法により金属粉末を得た。次いで、得られた金属粉末を、ふるいを用いて分級した。
【0096】
次に、分級後の金属粉末に対し、熱処理を施して軟磁性金属粒子を得た。そして、得られた軟磁性金属粒子を、サンプルNo.1の軟磁性粉末とした。
【0097】
得られた軟磁性粉末の構成材料(軟磁性材料)を、表1に示す。なお、表1に示す組成式は、軟磁性材料の構成元素の比率を原子%で表したものである。
【0098】
6.2.サンプルNo.2~27
軟磁性粉末の組成を表1および表2または表3に示すようにした以外は、サンプルNo.1と同様にして軟磁性粉末を得た。なお、表2および表3に示す平均粒径dや比表面積Sは、アトマイズ法による粉末の製造条件を変えることによって調整した。調整に用いた製造条件は、主に、単位時間当たりの溶融金属の流下量、冷却媒の流速および溶融金属の温度であった。
【0099】
【0100】
7.軟磁性粉末の評価
7.1.粒度分布
各サンプルNo.の軟磁性粉末について、粒度分布を測定した。この測定は、日機装株式会社製のレーザー回折方式の粒度分布測定装置、マイクロトラック、HRA9320-X100により行った。そして、粒度分布から軟磁性粉末の粒径D10、D50、D90を算出した。算出結果を表2または表3に示す。なお、粒径D50を平均粒径dとした。
【0101】
7.2.真比重
各サンプルNo.の軟磁性粉末について、全自動ガス置換式密度計、マイクロメリティックス社製、AccuPyc1330により、真比重ρを測定した。測定結果を表2または表3に示す。
【0102】
7.3.比表面積
各サンプルNo.の軟磁性粉末について、比表面積Sを測定した。この測定は、株式会社マウンテック社製のBET式比表面積測定装置、HM1201-010により行った。測定結果を表2または表3に示す。
【0103】
7.4.真球相当比表面積
各サンプルNo.の軟磁性粉末について、真球相当比表面積6/(d・ρ)を算出した。真球相当比表面積6/(d・ρ)は、平均粒径dおよび軟磁性材料の真比重ρから算出した。算出結果を表2または表3に示す。
【0104】
7.5.比表面積Sの真球相当比表面積6/(d・ρ)に対する倍数としての係数k
各サンプルNo.の軟磁性粉末について、係数kを算出した。係数kは、測定した比表面積Sの、真球相当比表面積6/(d・ρ)に対する倍数である。算出結果を表2または表3に示す。
【0105】
7.6.酸素含有率
各サンプルNo.の軟磁性粉末について、質量比における酸素含有率を測定した。LECO社製酸素・窒素分析装置、TC-300/EF-300を使用した。測定結果を表2または表3に示す。
【0106】
8.圧粉体の製造
各サンプルNo.の軟磁性粉末を用い、以下のようにして圧粉体を製造した。
【0107】
まず、軟磁性粉末、エポキシ樹脂(結合材)およびメチルエチルケトン(有機溶媒)を混合して、混合材料を得た。なお、エポキシ樹脂の添加量は、表2または表3に示すとおりである。
【0108】
次に、得られた混合材料を撹拌したのち、温度150℃で30分間加熱して乾燥させ、塊状の乾燥体を得た。次いで、この乾燥体を、目開き500μmのふるいにかけ、乾燥体を粉砕して、造粒粉末を得た。
【0109】
次に、得られた造粒粉末を、成形型に充填し、下記の成形条件に基づいて成形体を得た。
【0110】
・成形方法 :プレス成形
・成形体の形状:リング状
・成形体の寸法:外径φ14mm、内径φ7mm、厚さ3mm
・成形圧力 :294MPa
次に、成形体中の結合材を加熱により硬化させた。これにより、圧粉体を得た。
【0111】
9.混合材料の評価
各サンプルNo.の軟磁性粉末を含む混合材料について、粘性を測定した。混合材料の測定には、動的粘弾性測定装置(レオメーター)を使用し、20℃における粘度を測定した。そして、測定した粘度を、以下の評価基準に照らして評価した。
【0112】
A:粘度が特に低い
B:粘度がやや低い
C:粘度が中程度である
D:粘度がやや高い
E:粘度が特に高い
評価結果を表2または表3に示す。
【0113】
10.軟磁性粉末の評価
10.1.圧粉体の強度
各サンプルNo.の軟磁性粉末について、8で示す方法により、圧粉体を得た。
【0114】
次に、得られた圧粉体の強度を測定した。強度の測定には、圧縮試験機を使用し、圧粉体が破壊するまでの最大荷重を測定した。そして、測定した最大荷重を以下の評価基準に照らすことにより、圧粉体の強度を評価した。
【0115】
A:圧粉体の強度が特に高い
B:圧粉体の強度がやや高い
C:圧粉体の強度が中程度である
D:圧粉体の強度がやや低い
E:圧粉体の強度が特に低い
評価結果を表2または表3に示す。
【0116】
10.2.圧粉体の密度
各サンプルNo.の軟磁性粉末について、8で示す方法により、圧粉体を得た。
【0117】
次に、得られた圧粉体の質量を測定し、測定した質量に基づいて、圧粉体の密度を算出した。そして、算出した密度を以下の評価基準に照らして評価した。
【0118】
A:圧粉体の密度が特に高い
B:圧粉体の密度がやや高い
C:圧粉体の密度が中程度である
D:圧粉体の密度がやや低い
E:圧粉体の密度が特に低い
評価結果を表2または表3に示す。
【0119】
10.3.保磁力
各サンプルNo.の軟磁性粉末について、磁化測定装置として玉川製作所社VSMシステム TM-VSM1230-MHHLを用い、保磁力を測定した。測定結果を表3に示す。
【0120】
10.4.飽和磁束密度
各サンプルNo.の軟磁性粉末について、以下の方法により、飽和磁束密度を算出した。
まず、磁化測定装置を用い、軟磁性粉末の最大磁化Mmを測定した。
【0121】
次に、以下の式により飽和磁束密度Bsを求めた。
Bs=4π/10000×ρ×Mm
算出結果を表3に示す。
【0122】
【0123】
【0124】
表2および表3では、各サンプルNo.の軟磁性粉末のうち、本発明に相当するものには「実施例」、本発明に相当しないものには「比較例」と記載している。
【0125】
表2および表3に示すように、軟磁性粉末(軟磁性金属粒子)について測定した比表面積Sの、真球相当比表面積6/(d・ρ)に対する倍数としての係数kを算出したとき、係数kが所定の範囲内にある場合には、結合材の添加量を少なくしても、混合材料において適当な粘性を得ることができた。そして、このような混合材料は、結合材の添加量が少なくても、強度や密度の高い圧粉体を得られることが認められた。また、密度の高い圧粉体では、飽和磁束密度が高められることも認められた。よって、本発明によれば、結合材を用いて圧粉体を製造するとき、使用する結合材の量を減らすことができ、磁気特性に優れた圧粉体を製造可能であることがわかった。
【0126】
さらに、表3では、非晶質材料や微結晶質材料を用いることで、保磁力の低い軟磁性粉末が得られることも示されている。
【0127】
10.5.顕微鏡観察
サンプルNo.17、19、21の軟磁性粉末について、走査型電子顕微鏡により観察した。観察像を
図7ないし
図9に示す。
図7は、サンプルNo.17の軟磁性粉末の観察像である。
図8は、サンプルNo.19の軟磁性粉末の観察像である。
図9は、サンプルNo.21の軟磁性粉末の観察像である。
【0128】
図7では、粒子表面の所々に異物が付着しているような領域Rが認められる。この領域Rは、酸化物が析出している領域であると考えられる。したがって、サンプルNo.17の軟磁性粉末では、粒子表面における酸化物の析出によって、比表面積Sが増加していると考えられる。
【0129】
図8および
図9では、
図7に見られたような濃色の領域は、ほとんど確認されなかった。
10…コイル部品、11…圧粉磁心、12…導線、20…コイル部品、21…圧粉磁心、22…導線、100…表示部、1000…磁性素子、1100…パーソナルコンピューター、1102…キーボード、1104…本体部、1106…表示ユニット、1200…スマートフォン、1202…操作ボタン、1204…受話口、1206…送話口、1300…ディジタルスチルカメラ、1302…ケース、1304…受光ユニット、1306…シャッターボタン、1308…メモリー、1500…自動車、R…領域