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  • 特開-電解質膜の細孔径の分布の測定方法 図1
  • 特開-電解質膜の細孔径の分布の測定方法 図2
  • 特開-電解質膜の細孔径の分布の測定方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175186
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】電解質膜の細孔径の分布の測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 24/08 20060101AFI20221117BHJP
   G01R 33/50 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
G01N24/08 510L
G01R33/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021081400
(22)【出願日】2021-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】000151243
【氏名又は名称】株式会社東レリサーチセンター
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】木村 一雄
(72)【発明者】
【氏名】三好 理子
(57)【要約】      (修正有)
【課題】時間領域核磁気共鳴法による電解質膜の細孔径の分布の測定方法を提供する。
【解決手段】冷熱サイクルを行った電解質膜について、TD-NMR(Time-Domain NMR、時間領域核磁気共鳴法)による細孔中の水の緩和時間測定を行い、細孔の分布を評価する。前記冷熱サイクル試験の各サイクルの電解質膜の細孔径分布への影響を任意の温度で評価し、経時的に水の緩和時間測定を行う。時間領域NMRを用い冷熱サイクル試験を適用した電解質膜の細孔径の分布の測定方法である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔中に水を含む状態の電解質膜に冷熱サイクル試験を適用し、前記細孔中の水の緩和時間を時間領域核磁気共鳴法により測定する手順を含む、電解質膜の細孔径の分布の測定方法。
【請求項2】
昇温または降温速度を変える請求項1に記載の電解質膜の細孔径の分布の測定方法。
【請求項3】
前記冷熱サイクル試験の各サイクルの電解質膜の細孔径分布への影響を任意の温度で評価する、請求項1または2に記載の電解質膜の細孔径の分布の測定方法。
【請求項4】
前記冷熱サイクル試験後の電解質膜について経時的に水の緩和時間測定を行う、請求項1~3のいずれに記載の電解質膜の細孔径の分布の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜の細孔径の分布の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は水素を燃料とする高効率の発電装置であり、二酸化炭素排出量の低減のための切り札となる技術として注目を集めている。電解質として固体高分子膜を用いる固体高分子型燃料電池に用いられる電解質膜では、膜中の細孔がプロトンを伝導することでその性能を発揮する。特に車載用の燃料電池に用いられる電解質膜では、車の仕様環境から‐50℃の極寒地から80℃程度までの幅広い温度領域での昇温・冷却を繰り返しながら、その性能を保つことが要求される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】古瀬佑馬,高橋貴文, 田中徹, 大窪貴洋: 1H核磁気共鳴法によるセメント中の微細空隙構造の経時的観察, コンクリート工学論文集, No.24, pp 68-73, 2013
【非特許文献2】米村美紀, 北垣亮馬, 大窪貴洋、金志訓: 1H NMRを用いたセメント硬化体の細孔構造分析, コンクリート工学年次論文集, Vol.37, No.1, pp 511-516, 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のため、冷熱サイクル下での電解質膜内の細孔径の変化を評価することが必要となるが、これまでは、冷熱サイクルによる細孔の変化を簡便に評価する方法がなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、冷熱サイクルを行った電解質膜について、TD-NMR(Time-Domain NMR、時間領域核磁気共鳴法)による細孔中の水の緩和時間測定を行い、細孔の分布を評価することを可能とした。本発明は、細孔中に水を含む状態の電解質膜に冷熱サイクル試験を適用し、前記細孔中の水の緩和時間を時間領域核磁気共鳴法により測定する手順を含む、電解質膜の細孔径の分布の測定方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の測定方法を用いることで、冷熱サイクルを行った電解質膜中の細孔のサイズの分布の評価を室温など任意の温度で評価することができる。また、冷熱サイクルによる細孔サイズの分布の変化も評価が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】冷熱サイクルの例
図2】冷熱サイクルにおけるTD-NMR測定例(水の緩和曲線)
図3】The minispec SoftwareのCONTIN(Bruker社製の逆ラプラス変換を行うソフト)を用いた逆ラプラス変換による解析結果例
【発明を実施するための形態】
【0008】
TD-NMRは、主に1H核(水素核)を測定対象とし、物質中の水素核の緩和時間を評価する測定法である。TD-NMRの特長は、高い再現性と精度の高い緩和時間の評価ができる点である。細孔内に閉じ込められた液体のT2緩和時間は、細孔のサイズが小さいほど緩和時間が短くなることが知られている。この性質を利用することで、細孔の分布を評価する。
【0009】
電解質膜の細孔に含まれる水の緩和時間の値は、細孔のサイズによって変化する。このことから、冷熱サイクルを行った電解質膜中の水の緩和応答を逆ラプラス変換することで、緩和時間の分布を評価することができる。細孔内の水の緩和時間は、細孔のサイズに比例することから、緩和時間の分布から細孔のサイズの分布を評価することができる。本発明は、DSC(示差走査熱量計)のように温度を変えながら測定する必要がないことから、ある温度での細孔サイズの分布の評価が可能である。TD-NMRは、試料の温度コントロールを自動で行うことができるため、冷熱サイクルによる細孔分布の変化を評価することが可能である。
【0010】
電解質膜は、例えば“Nafion(登録商標)”膜などのフッ素系の樹脂が例示される。分析に先立ち、評価目的に合わせた温度、例えば、燃料電池の使用条件に近い温度である80℃付近で予め調湿を行うことが望ましい。
【0011】
冷熱サイクルの昇温や降温の温度範囲およびそれらの速度は、評価目的に合わせて設定できる。電解質膜中の水を評価することを考慮すると100℃以下、望ましくは80℃程度である。低温側は、自動車で用いる電解質膜の評価を考慮すると-50℃程度が望ましい。昇温および降温速度は、測定する電解質膜サンプルに対して任意に選択できるが、設定温度に対するサンプルの実温度の追従性を考慮すると、10K/min程度以下が望ましい。緩和時間測定は、各サイクルで細孔分布を評価したい温度で実施する。ただし、水を評価することを考慮すると室温付近が望ましい。
【0012】
緩和時間測定は、細孔内の水の緩和時間を評価することを考慮するとT2緩和時間を評価するCPMG法(Carr-Purcel-Meiboom-Gill法)が望ましい。CPMG法は、秒オーダーで緩和する磁化の緩和時間測定に適した方法であり、かつ短時間で評価が可能であることから、本発明のように細孔内の水の緩和時間を複数回実施するのに適した手法である。測定条件は、測定温度によってT1やT2磁化緩和時間が異なるため一概には言えないが、室温付近では繰り返し時間が3秒程度が望ましい。測定では、磁化の強度変化をデータとして取り込むが、磁化が十分緩和することを考慮すると、取り込み時間が2秒程度以上が望ましい。
【0013】
緩和時間の解析では、逆ラプラス変換による解析を実施する。逆ラプラス変換の計算では、時間に対する磁化の強度を観測したデータを入力する。この際は、磁化が十分緩和時するまでのデータを入力することが望ましい。
【実施例0014】
以下、本発明を実施例で説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0015】
本発明において、TD-NMR装置は、Bruker社製のmq-20を用いた。電解質膜として“Nafion(登録商標)”膜を用いて、冷熱サイクル下での細孔の評価をCPMG法によるT2緩和時間測定により行った。
【0016】
冷熱サイクル下での自動測定は、Bruker社のTDNMR-Aを用いて、以下に示すプログラムした温度の制御、および測定の実施を行った。
【0017】
データの解析では、逆ラプラス変換によるT2緩和時間の解析を、装置の制御ソフトであるthe minispec SoftwareのCONTINを用いて実施した。以下に詳細を記す。
【0018】
試料調製は、80℃相対湿度100%の下で“Nafion(登録商標)”膜を1日間調湿した。サンプリングでは、調湿した電解質膜を速やかにTD-NMR試料管内部に挿入した。
【0019】
NMR測定では、TD-NMR試料管を装置にセットし、図1に示すように25℃から{80℃から-40℃、-40℃から25℃}の繰り返しの昇温降温を昇温、降温速度ともに10K/minで12回繰り返し実施した。TD-NMRによる測定は、25℃においてCPMG法にてT2緩和時間測定を実施した。測定の際は、試料の温度を平衡化させるために25℃に制御された状態で1200秒保ってから測定を実施した。CPMG測定では、エコーの取り込み時間(2000ms、1000ポイント)とパルス待ち時間(1000ms)を合わせた3000msの繰り返し時間で積算し、磁化の応答を観測した。
【0020】
TD-NMR測定結果を図2に示した。TD-NMRの測定結果は、磁化の緩和応答を示したものであり、図2では最大の信号強度を1に規格化して示した。図2より、サイクル数が増すごとに緩和が遅くなっていることがわかる。
【0021】
図3には、図2で示した磁化の緩和応答を逆ラプラス変換により解析し、T2緩和時間を求めた結果を示した。逆ラプラス変換の計算では、時間に対する磁化の強度を観測したデータを入力する。計算では、ソフトの制約上、1000msまでのデータ(500ポイント)で計算を行った。サイクル数が増すにつれ、T2緩和時間が長くなること、およびT2緩和時間の値の範囲が広くなっていることがわかる。このことから、サイクル数が増すにつれ、細孔サイズが大きくなること、および細孔サイズのばらつきが大きくなることが示唆される。
【0022】
なお、冷熱サイクルを繰り返した電解質膜を室温で保持した試料について同様の測定を行うと、T2緩和時間のばらつきがサイクル初期に近づいていくことが観測された。
図1
図2
図3