(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175222
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】軟磁性粉末、圧粉磁心、磁性素子、電子機器および移動体
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20221117BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20221117BHJP
H01F 1/20 20060101ALI20221117BHJP
H01F 1/24 20060101ALI20221117BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20221117BHJP
C22C 45/02 20060101ALN20221117BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20221117BHJP
【FI】
B22F1/00 Y
B22F3/00 B
H01F1/20
H01F1/24
H01F27/255
C22C45/02 A
C22C38/00 303S
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021081453
(22)【出願日】2021-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】佐野 世樹
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
【Fターム(参考)】
4K018BA13
4K018BA18
4K018BB04
4K018CA02
4K018CA11
4K018FA08
4K018KA44
4K018KA61
5E041AA11
5E041BD03
5E041BD12
(57)【要約】
【課題】充填性が良好であり、かつ、高周波帯で用いられたときに渦電流損失の少ない圧粉体を製造可能な軟磁性粉末、ならびに、圧粉磁心、磁性素子、電子機器および移動体を提供すること。
【解決手段】レーザー回折散乱式粒度分布測定装置により体積基準の粒度分布を測定し、前記粒度分布を、横軸を粒径とし、縦軸を相対粒子量とする直交座標系にプロットして粒度分布曲線を描いたとき、前記粒度分布曲線は、粒径D1[μm]に極大値を持つ第1ピーク部と、前記粒径D1より大きい粒径D2[μm]に極大値を持つ第2ピーク部と、を有し、前記粒径D1は、1.0μm以上16.0μm以下の範囲内に位置し、前記粒径D1と前記粒径D2との差D2-D1は、下記式(A-1)および下記式(A-2)を満たすことを特徴とする軟磁性粉末。
D2-D1=k1×D1 … (A-1)
1.0≦k1≦15.0 … (A-2)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー回折散乱式粒度分布測定装置により体積基準の粒度分布を測定し、前記粒度分布を、横軸を粒径とし、縦軸を相対粒子量とする直交座標系にプロットして粒度分布曲線を描いたとき、
前記粒度分布曲線は、粒径D1[μm]に極大値を持つ第1ピーク部と、前記粒径D1より大きい粒径D2[μm]に極大値を持つ第2ピーク部と、を有し、
前記粒径D1は、1.0μm以上16.0μm以下の範囲内に位置し、
前記粒径D1と前記粒径D2との差D2-D1は、下記式(A-1)および下記式(A-2)を満たすことを特徴とする軟磁性粉末。
D2-D1=k1×D1 … (A-1)
1.0≦k1≦15.0 … (A-2)
【請求項2】
合金組成が異なる2種類以上の粒子を含む請求項1に記載の軟磁性粉末。
【請求項3】
結晶構造が異なる2種類以上の粒子を含む請求項1または2に記載の軟磁性粉末。
【請求項4】
前記粒径D2は、15.0μm以上50.0μm以下の範囲内に位置する請求項1ないし3のいずれか1項に記載の軟磁性粉末。
【請求項5】
前記第1ピーク部の高さをH1とし、前記第2ピーク部の高さをH2としたとき、前記高さH2は、下記式(B-1)および下記式(B-2)を満たす請求項1ないし4のいずれか1項に記載の軟磁性粉末。
H2=k2×H1 … (B-1)
0.2≦k2≦5.0 … (B-2)
【請求項6】
前記粒度分布曲線は、前記粒径D1と前記粒径D2との間に位置する粒径D3に極小値を持つボトム部を有し、
前記ボトム部の高さをH3としたとき、前記高さH3は、下記式(C-1)および下記式(C-2)を満たす請求項5に記載の軟磁性粉末。
H3=k3×H1 … (C-1)
k3<0.9 … (C-2)
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の軟磁性粉末を含むことを特徴とする圧粉磁心。
【請求項8】
請求項7に記載の圧粉磁心を備えることを特徴とする磁性素子。
【請求項9】
請求項8に記載の磁性素子を備えることを特徴とする電子機器。
【請求項10】
請求項8に記載の磁性素子を備えることを特徴とする移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性粉末、圧粉磁心、磁性素子、電子機器および移動体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、絶縁被膜をもつ軟磁性粉末が圧縮固形化されてなる軟磁性固形材料であって、粉末の充填率の観点で、軟磁性粉末として粒径ピークが2つあるバイモーダルの粉末混合系を用いることが開示されている。これにより、軟磁性固形材料の高密度化を図ることができる。そして、高密度化を図ることにより、軟磁性固形材料の透磁率を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1には、バイモーダルの粉末混合系において、2つの粒径ピークをどのように設定するか明示されていない。粒径ピークは、充填性やコアロスに影響を及ぼす。したがって、2つの粒径ピークを最適化することが必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の適用例に係る軟磁性粉末は、
レーザー回折散乱式粒度分布測定装置により体積基準の粒度分布を測定し、前記粒度分布を、横軸を粒径とし、縦軸を相対粒子量とする直交座標系にプロットして粒度分布曲線を描いたとき、
前記粒度分布曲線は、粒径D1[μm]に極大値を持つ第1ピーク部と、前記粒径D1より大きい粒径D2[μm]に極大値を持つ第2ピーク部と、を有し、
前記粒径D1は、1.0μm以上16.0μm以下の範囲内に位置し、
前記粒径D1と前記粒径D2との差D2-D1は、下記式(A-1)および下記式(A-2)を満たすことを特徴とする。
D2-D1=k1×D1 … (A-1)
1.0≦k1≦15.0 … (A-2)
【0006】
本発明の適用例に係る圧粉磁心は、
本発明の適用例に係る軟磁性粉末を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明の適用例に係る磁性素子は、
本発明の適用例に係る圧粉磁心を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明の適用例に係る電子機器は、
本発明の適用例に係る磁性素子を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の適用例に係る移動体は、
本発明の適用例に係る磁性素子を備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る軟磁性粉末について得られた粒度分布曲線PSDの一例を示す図である。
【
図2】トロイダルタイプのコイル部品を模式的に示す平面図である。
【
図3】閉磁路タイプのコイル部品を模式的に示す透過斜視図である。
【
図4】実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるモバイル型のパーソナルコンピューターを示す斜視図である。
【
図5】実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるスマートフォンを示す平面図である。
【
図6】実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるディジタルスチルカメラを示す斜視図である。
【
図7】実施形態に係る磁性素子を備える移動体である自動車を示す斜視図である。
【
図8】実施例1~5の軟磁性粉末について得られた粒度分布曲線を重ねて示したグラフである。
【
図9】実施例6~9および比較例2の軟磁性粉末について得られた粒度分布曲線を重ねて示したグラフである。
【
図10】実施例10~14の軟磁性粉末について得られた粒度分布曲線を重ねて示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の軟磁性粉末、圧粉磁心、磁性素子、電子機器および移動体を添付図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
1.軟磁性粉末
まず、実施形態に係る軟磁性粉末について説明する。
実施形態に係る軟磁性粉末は、軟磁性粒子を含み、粒度分布曲線が2つのピーク部を有するバイモーダル分布(二峰性分布)を有する粉末である。
【0013】
具体的には、まず、実施形態に係る軟磁性粉末では、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置により体積基準の粒度分布が測定されたとき、得られた粒度分布曲線PSDが次のような特徴を持つ。粒度分布曲線PSDは、測定した粒度分布を、横軸を粒径とし、縦軸を相対粒子量とする直交座標系にプロットしたとき、描くことができる曲線である。なお、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置としては、例えば、日機装株式会社製マイクロトラック、HRA9320-X100等が挙げられる。
【0014】
図1は、実施形態に係る軟磁性粉末について得られた粒度分布曲線PSDの一例を示す図である。
【0015】
図1に示す粒度分布曲線PSDは、粒径D1[μm]に極大値を持つ第1ピーク部P1と、前記粒径D1より大きい粒径D2[μm]に極大値を持つ第2ピーク部P2と、を有する曲線である。粒径D1は、1.0μm以上16.0μm以下の範囲内に位置している。また、粒径D1と粒径D2との差D2-D1は、下記式(A-1)および下記式(A-2)を満たしている。
D2-D1=k1×D1 … (A-1)
1.0≦k1≦15.0 … (A-2)
【0016】
このような軟磁性粉末では、バイモーダル特性が最適化されているため、大径粒子と小径粒子との粒径バランスがよく、かつ、全体として小径である。このため、実施形態に係る軟磁性粉末は、充填性が良好であり、かつ、高周波帯で用いられたときに渦電流損失の少ない圧粉体を製造可能な粉末となる。その結果、透磁率や磁束密度等の磁気特性が良好で、かつ、コアロスが低い圧粉体を実現することができる。圧粉体としては、例えば、圧粉磁心、圧粉磁性シート、圧粉磁性フィルム等が挙げられる。
【0017】
第1ピーク部P1は、前述したように粒径D1[μm]に極大値を持つ。そして、粒径D1は、1.0μm以上16.0μm以下の範囲内に位置しているが、好ましくは1.0μm以上10.0μm以下の範囲内に位置し、より好ましくは1.0μm以上8.0μm以下の範囲内に位置する。
【0018】
なお、粒径D1が前記下限値を下回ると、軟磁性粉末の充填性が低下し、圧粉体の磁気特性が低下する。一方、粒径D1が前記上限値を上回ると、高周波帯で用いられたとき、圧粉体中の粒子内で渦電流損失が増大する。
【0019】
第2ピーク部P2は、前述したように粒径D2[μm]に極大値を持つ。そして、上記式(A-1)が含む係数k1は、上記式(A-2)を満たしているが、好ましくは下記式(A-3)を満たし、より好ましくは下記式(A-4)を満たす。
【0020】
2.0≦k1≦14.0 … (A-3)
4.0≦k1≦12.0 … (A-4)
【0021】
なお、係数k1が前記下限値を下回ると、第1ピーク部P1と第2ピーク部P2とが互いに近づくことになる。このため、大径粒子と小径粒子とのバランスが崩れて、軟磁性粉末の充填性が低下する。一方、係数k1が前記上限値を上回ると、第1ピーク部P1と第2ピーク部P2とが互いに離れることになる。このため、大径粒子と小径粒子とのバランスが崩れて、軟磁性粉末の充填性が低下する。また、粒径D2が大きくなりすぎて、高周波帯で用いられたとき、圧粉体中の粒子内で渦電流損失が増大しやすくなる。
【0022】
また、粒径D2は、15.0μm以上50.0μm以下の範囲内に位置しているのが好ましく、25.0μm以上45.0μm以下であるのがより好ましく、28.0μm以上40.0μm以下であるのがさらに好ましい。
【0023】
粒径D2が前記範囲内に位置していることにより、大径粒子と小径粒子との粒径バランスをより高めることができ、また、全体として粒径が大きくなりすぎるのを抑制することができる。その結果、圧粉体の磁気特性の向上および低コアロス化を図り得る軟磁性粉末が得られる。
【0024】
この軟磁性粉末を構成する軟磁性材料は、1種類であっても、2種類以上の混合物であってもよい。つまり、軟磁性粉末は、多数の軟磁性粒子の集合体であるため、第1の軟磁性材料で構成された粒子と、第1の軟磁性材料とは合金組成が異なる第2の軟磁性材料で構成された粒子と、を有する混合粉末という形態もとり得る。合金組成が異なる2種類以上の粒子を有する混合粉末によれば、第1の軟磁性材料と第2の軟磁性材料の双方に由来する磁気特性を持つ軟磁性粉末が得られる。このため、例えば、磁気特性が特に高い圧粉体が得られる。
【0025】
軟磁性粉末は、軟磁性材料を主材料とする。軟磁性材料としては、例えば、純鉄、ケイ素鋼のようなFe-Si系合金、パーマロイのようなFe-Ni系合金、パーメンジュールのようなFe-Co系合金、センダストのようなFe-Si-Al系合金、Fe-Cr-Si系合金、Fe-Cr-Al系合金等の各種Fe系合金の他、各種Ni系合金、各種Co系合金等が挙げられる。このうち、透磁率、磁束密度等の磁気特性、および、コスト等の観点から、各種Fe系合金が好ましく用いられる。
【0026】
また、軟磁性材料の結晶構造は、特に限定されず、結晶質であっても、非晶質(アモルファス)であっても、微結晶質(ナノ結晶質)であってもよい。
結晶質の軟磁性材料は、比較的安価であるため、軟磁性粉末の低コスト化に寄与する。非晶質の軟磁性材料は、結晶質の軟磁性材料に比べて透磁率が高く、保磁力が低い傾向にあるため、圧粉体の磁気特性の向上および低コアロス化に寄与する。微結晶質の軟磁性材料は、非晶質の軟磁性材料に比べて透磁率および飽和磁束密度が高い傾向にあるため、圧粉体の磁気特性のさらなる向上に寄与する。
【0027】
したがって、軟磁性粉末は、結晶構造が異なる2種類以上の粒子を含むことが好ましい。これにより、結晶構造によって異なる2つ以上の特性を併せ持つ軟磁性粉末を実現することができる。
【0028】
このうち、軟磁性粉末は、非晶質の軟磁性材料または微結晶質の軟磁性材料を含むことが好ましい。これらを含むことにより、軟磁性粉末の磁気特性を高めるとともに、低い保磁力を実現することができる。その結果、磁気特性が特に高く、かつ、さらなる低コアロス化が図られた圧粉体を実現することができる。
【0029】
軟磁性粉末には、非晶質の軟磁性材料を主材料とする粉末と、微結晶質の軟磁性材料を主材料とする粉末と、が混在していてもよい。これにより、双方の粉末が有する特性を併せ持つ軟磁性粉末を実現することができる。
【0030】
微結晶質の軟磁性材料とは、結晶粒径1.0nm以上30.0nm以下の結晶粒を含有する軟磁性材料のことをいう。微結晶質の軟磁性材料において、この結晶粒が占める体積比率は、好ましくは30体積%以上とされ、より好ましくは40体積%以上とされる。
【0031】
非晶質の軟磁性材料および微結晶質の軟磁性材料としては、例えば、Fe-Si-B系、Fe-Si-B-C系、Fe-Si-B-Cr-C系、Fe-Si-Cr系、Fe-B系、Fe-P-C系、Fe-Co-Si-B系、Fe-Si-B-Nb系、Fe-Si-B-Nb-Cu系、Fe-Zr-B系のようなFe系合金、Ni-Si-B系、Ni-P-B系のようなNi系合金、Co-Si-B系のようなCo系合金等が挙げられる。
【0032】
軟磁性粉末では、軟磁性材料が主材料であることが好ましく、その他に不純物が含まれていてもよい。主材料とは、軟磁性粉末の粒子の50質量%以上を占める材料のことをいう。また、軟磁性粉末の粒子における軟磁性材料の含有率は、80質量%以上であるのが好ましく、90質量%以上であるのがより好ましい。
【0033】
軟磁性粉末には、軟磁性材料の他に、任意の添加物が添加されていてもよい。かかる添加物としては、例えば、各種金属材料、各種非金属材料、各種金属酸化物材料等が挙げられる。
【0034】
また、
図1において、第1ピーク部P1の高さをH1とし、第2ピーク部P2の高さをH2とする。高さH1とは、粒度分布曲線が描かれている直交座標系の縦軸に沿って、原点から第1ピーク部P1のピークトップまでの長さのことをいう。高さH2とは、縦軸に沿って、原点から第2ピーク部P2のピークトップまでの長さのことをいう。そして、高さH2は、下記式(B-1)および下記式(B-2)を満たすのが好ましい。
【0035】
H2=k2×H1 … (B-1)
0.2≦k2≦5.0 … (B-2)
【0036】
また、上記式(B-1)が含む係数k2は、上記式(B-2)を満たしているが、より好ましくは下記式(B-3)を満たし、さらに好ましくは下記式(B-4)を満たす。
【0037】
0.3≦k2≦4.0 … (B-3)
0.4≦k2≦2.0 … (B-4)
【0038】
このような粒度分布曲線を示す軟磁性粉末では、第1ピーク部P1に属する粒子と、第2ピーク部P2に属する粒子と、の量的バランスがより最適化される。これにより、充填性が特に良好な軟磁性粉末を実現することができる。
【0039】
なお、係数k2が前記下限値を下回ると、第1ピーク部P1に属する粒子の体積比率が大きくなりすぎるため、第1ピーク部P1に属する粒子と第2ピーク部P2に属する粒子との量的バランスが崩れやすくなり、充填性が低下するおそれがある。一方、係数k2が前記上限値を上回ると、第2ピーク部P2に属する粒子の体積比率が大きくなりすぎるため、前述した量的バランスが崩れやすくなり、充填性が低下するおそれがある。また、全体として粒径が大きくなりすぎるため、高周波帯で用いられたとき、圧粉体中の粒子内で渦電流損失が増大しやすくなるおそれがある。
【0040】
さらに、
図1に示す粒度分布曲線は、第1ピーク部P1と第2ピーク部P2との間に位置するボトム部Bを有する。ボトム部Bは、粒径D1と粒径D2との間に位置する粒径D3に極小値を持つ。
図1において、ボトム部Bの高さをH3とする。高さH3とは、粒度分布曲線が描かれている直交座標系の縦軸に沿って、原点からボトム部Bの底までの長さのことをいう。そして、高さH3は、下記式(C-1)および下記式(C-2)を満たすのが好ましい。
【0041】
H3=k3×H1 … (C-1)
k3≦0.9 … (C-2)
【0042】
また、上記式(C-1)が含む係数k3は、上記式(C-2)を満たしているが、より好ましくは下記式(C-3)を満たし、さらに好ましくは下記式(C-4)を満たす。
【0043】
0.1≦k3≦0.8 … (C-3)
0.1≦k3≦0.7 … (C-4)
【0044】
このような粒度分布曲線を示す軟磁性粉末では、第1ピーク部P1に属する粒子と第2ピーク部P2に属する粒子との粒径バランスがより最適化される。これにより、充填性が特に良好な軟磁性粉末を実現することができる。
【0045】
なお、係数k3が前記下限値を下回ると、第1ピーク部P1に属する粒子と第2ピーク部P2に属する粒子との量的バランスが崩れやすくなり、充填性が低下するおそれがある。一方、係数k3が前記上限値を上回ると、バイモーダル分布による充填性の向上という効果が小さくなるおそれがある。
【0046】
軟磁性粉末の粒子表面には、必要に応じて、絶縁被膜が設けられていてもよい。絶縁被膜としては、例えば、ガラス材料、セラミックス材料、樹脂材料等が挙げられる。
【0047】
なお、軟磁性粉末についての粒度分布曲線が有するピーク部の数は、2つに限定されず、3つ以上であってもよい。すなわち、軟磁性粉末について粒度分布曲線を描いたとき、その粒度分布曲線はマルチモーダル分布を有していてもよい。粒度分布曲線が3つ以上のピーク部を有する場合、隣り合う2つのピーク部のうち、一方を第1ピーク部P1とし、他方を第2ピーク部P2とすればよい。
【0048】
2.軟磁性粉末の製造方法
次に、前述した軟磁性粉末の製造方法の一例について説明する。
前述した軟磁性粉末は、第1粉末と、第1粉末より平均粒径が大きい第2粉末と、を混合する方法で製造される。
【0049】
第1粉末および第2粉末は、それぞれいかなる方法で製造された粉末であってもよい。製造方法の例としては、例えば、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、回転水流アトマイズ法等の各種アトマイズ法の他、還元法、カルボニル法、粉砕法等が挙げられる。このうち、第1粉末および第2粉末には、それぞれアトマイズ法で製造された粉末が好ましく用いられる。アトマイズ法によれば、微小で粒子形状が良好な粉末を効率よく製造することができる。したがって、アトマイズ法で製造された粉末(アトマイズ粉末)を用いることにより、特に充填性の高い軟磁性粉末が得られる。
【0050】
また、第1粉末および第2粉末は、製造方法が互いに同じであってもよいが、互いに異なっていてもよい。製造方法ごとに製造される粉末の異なる特性が引き出されることが多いため、後者の場合、軟磁性粉末に持たせたい複数の特性を、第1粉末および第2粉末に振り分けることができる。これにより、同じ製造方法で得られた粉末では有し得ない複数の特性を併せ持つ軟磁性粉末を製造することができる。
【0051】
具体的には、水アトマイズ法により製造した粉末を第1粉末とし、回転水流アトマイズ法により製造した粉末を第2粉末とする例が挙げられる。水アトマイズ法では、高速に噴射された水を溶融金属に衝突させて微細化するため、特に小径の第1粉末を効率よく製造することができる。回転水流アトマイズ法では、高速に噴射されたガスに溶融金属を衝突させて微細化した後、回転する水流に突入させて急速に冷却することができるため、水アトマイズ法よりも大径の粉末であっても、高い冷却速度が得られる。このため、非晶質度の高い非晶質および結晶サイズの小さい微結晶質を容易に得ることができ、透磁率および飽和磁束密度が高い組成であっても、低保磁力を併せ持つ第2粉末を効率よく製造することができる。
【0052】
このような製造方法の違いにより、第1粉末と第2粉末とで平均粒径を揃えた場合、例えば、第2粉末の比表面積を第1粉末に比べて約半分程度に抑えることができる。これは、回転水流アトマイズ法により製造した粉末の方が、水アトマイズ法により製造した粉末に比べて、粒子の真球度が高いことを示唆していると考えられる。
【0053】
また、製造方法の違いにより、例えば、第2粉末の保磁力を第1粉末に比べて約半分程度に抑えることができる。これは、回転水流アトマイズ法の方が、水アトマイズ法に比べて、冷却速度が高いことを示唆していると考えられる。
【0054】
このような第1粉末および第2粉末を用いることにより、充填性が良好であり、かつ、磁気特性および高周波帯におけるコアロスが低い圧粉体を製造可能な軟磁性粉末を容易に得ることができる。
【0055】
なお、このようにして製造された第1粉末および第2粉末に対し、必要に応じて分級を行ってもよい。分級の方法としては、例えば、ふるい分け分級、慣性分級、遠心分級、風力分級のような乾式分級、沈降分級のような湿式分級等が挙げられる。
【0056】
第1粉末および第2粉末には、それぞれ保磁力が小さい粉末が用いられる。第1粉末および第2粉末の保磁力は、それぞれ5.0[Oe](398[A/m])以下であるのが好ましく、3.0[Oe](239[A/m])以下であるのがより好ましい。このように保磁力が小さい第1粉末および第2粉末を用いることにより、高周波帯で用いられてもヒステリシス損失を十分に抑制可能な圧粉体を製造することができる。
【0057】
なお、第1粉末および第2粉末の保磁力は、例えば、株式会社玉川製作所製、磁化測定装置、TM-VSM1230-MHHL等により測定することができる。
【0058】
3.圧粉磁心および磁性素子
次に、実施形態に係る圧粉磁心および磁性素子について説明する。
実施形態に係る磁性素子は、例えば、チョークコイル、インダクター、ノイズフィルター、リアクトル、トランス、モーター、アクチュエーター、電磁弁、発電機等のような、磁心を備えた各種磁性素子に適用可能である。また、実施形態に係る圧粉磁心は、これらの磁性素子が備える磁心に適用可能である。
【0059】
以下、磁性素子の一例として、2種類のコイル部品を代表に説明する。
3.1.トロイダルタイプ
まず、実施形態に係る磁性素子の一例であるトロイダルタイプのコイル部品について説明する。
図2は、トロイダルタイプのコイル部品を模式的に示す平面図である。
【0060】
図2に示すコイル部品10は、リング状の圧粉磁心11と、この圧粉磁心11に巻き回された導線12と、を有する。このようなコイル部品10は、一般に、トロイダルコイルと称される。
【0061】
圧粉磁心11は、実施形態に係る軟磁性粉末と結合材とを混合し、得られた混合物を成形型に供給するとともに、加圧、成形して得られる。すなわち、圧粉磁心11は、実施形態に係る軟磁性粉末を含む圧粉体である。このような圧粉磁心11では、軟磁性粉末の充填性が良好であり、かつ、高周波帯で用いられたときに渦電流損失が少ない。したがって、圧粉磁心11を備えるコイル部品10は、コアロスが低く、透磁率や磁束密度等の磁気特性が高いものとなる。その結果、コイル部品10を電子機器等に搭載したとき、電子機器等の消費電力を低減したり高性能化および小型化を図ったりすることができる。
【0062】
圧粉磁心11の作製に用いられる結合材の構成材料としては、例えば、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等の有機材料、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸亜鉛、リン酸マンガン、リン酸カドミウムのようなリン酸塩、ケイ酸ナトリウムのようなケイ酸塩等の無機材料等が挙げられるが、特に、熱硬化性ポリイミドまたはエポキシ系樹脂が好ましい。これらの樹脂材料は、加熱されることによって容易に硬化するとともに、耐熱性に優れたものである。したがって、圧粉磁心11の製造容易性および耐熱性を高めることができる。なお、結合材は、必要に応じて添加されればよく、省略されてもよい。
【0063】
また、軟磁性粉末に対する結合材の割合は、作製する圧粉磁心11の目的とする磁気特性や機械的特性、許容される渦電流損失等に応じて若干異なるが、0.5質量%以上5.0質量%以下程度であるのが好ましく、1.0質量%以上3.0質量%以下程度であるのがより好ましい。これにより、軟磁性粉末の各粒子同士を十分に結着させつつ、磁気特性に優れたコイル部品10を得ることができる。
混合物中には、必要に応じて、任意の目的で各種添加剤を添加するようにしてもよい。
【0064】
導線12の構成材料としては、導電性の高い材料が挙げられ、例えば、Cu、Al、Ag、Au、Ni等を含む金属材料が挙げられる。また、導線12の表面には、必要に応じて絶縁膜が設けられる。
【0065】
なお、圧粉磁心11の形状は、
図2に示すリング状に限定されず、例えばリングの一部が欠損した形状であってもよく、長手方向の形状が直線状である形状であってもよく、シート状、フィルム状等であってもよい。
また、圧粉磁心11は、必要に応じて、前述した実施形態に係る軟磁性粉末以外の軟磁性粉末や非磁性粉末を含んでいてもよい。
【0066】
以上のように、磁性素子であるコイル部品10は、前述した軟磁性粉末を含む圧粉磁心11を備えている。これにより、コアロスが低く、磁気特性に優れたコイル部品10を実現することができる。
【0067】
3.2.閉磁路タイプ
次に、実施形態に係る磁性素子の一例である閉磁路タイプのコイル部品について説明する。
図3は、閉磁路タイプのコイル部品を模式的に示す透過斜視図である。
【0068】
以下、閉磁路タイプのコイル部品について説明するが、以下の説明では、トロイダルタイプのコイル部品との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0069】
本実施形態に係るコイル部品20は、
図3に示すように、コイル状に成形された導線22を、圧粉磁心21の内部に埋設してなるものである。すなわち、磁性素子であるコイル部品20は、前述した軟磁性粉末を含む圧粉磁心21を備え、導線22を圧粉磁心21でモールドしてなる。この圧粉磁心21は、前述した圧粉磁心11と同様の構成を有する。これにより、コアロスが低く、磁気特性に優れたコイル部品20を実現することができる。
【0070】
このような形態のコイル部品20は、比較的小型のものが容易に得られる。また、コイル部品20は、磁気特性が高く、かつ、コアロスが低い。したがって、コイル部品20を電子機器等に搭載したとき、電子機器等の消費電力を低減したり高性能化および小型化を図ったりすることができる。
【0071】
また、導線22が圧粉磁心21の内部に埋設されているため、導線22と圧粉磁心21との間に隙間が生じ難い。このため、圧粉磁心21の磁歪による振動を抑制し、この振動に伴う騒音の発生を抑制することもできる。
【0072】
なお、圧粉磁心21の形状は、
図3に示す形状に限定されず、シート状、フィルム状等であってもよい。
また、圧粉磁心21は、必要に応じて、前述した実施形態に係る軟磁性粉末以外の軟磁性粉末や非磁性粉末を含んでいてもよい。
【0073】
4.電子機器
次に、実施形態に係る磁性素子を備える電子機器について、
図4~
図6に基づいて説明する。
【0074】
図4は、実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるモバイル型のパーソナルコンピューターを示す斜視図である。
図4に示すパーソナルコンピューター1100は、キーボード1102を備えた本体部1104と、表示部100を備えた表示ユニット1106と、を備える。表示ユニット1106は、本体部1104に対しヒンジ構造部を介して回動可能に支持されている。このようなパーソナルコンピューター1100には、例えばスイッチング電源用のチョークコイルやインダクター、モーター等の磁性素子1000が内蔵されている。
【0075】
図5は、実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるスマートフォンを示す平面図である。
図5に示すスマートフォン1200は、複数の操作ボタン1202、受話口1204および送話口1206を備える。また、操作ボタン1202と受話口1204との間には、表示部100が配置されている。このようなスマートフォン1200には、例えばインダクター、ノイズフィルター、モーター等の磁性素子1000が内蔵されている。
【0076】
図6は、実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるディジタルスチルカメラを示す斜視図である。ディジタルスチルカメラ1300は、被写体の光像をCCD(Charge Coupled Device)等の撮像素子により光電変換して撮像信号を生成する。
【0077】
図6に示すディジタルスチルカメラ1300は、ケース1302の背面に設けられた表示部100を備える。表示部100は、被写体を電子画像として表示するファインダーとして機能する。また、ケース1302の正面側、すなわち図中裏面側には、光学レンズやCCDなどを含む受光ユニット1304が設けられている。
【0078】
撮影者が表示部100に表示された被写体像を確認し、シャッターボタン1306を押下すると、その時点におけるCCDの撮像信号が、メモリー1308に転送・格納される。このようなディジタルスチルカメラ1300にも、例えばインダクター、ノイズフィルター等の磁性素子1000が内蔵されている。
【0079】
実施形態に係る電子機器としては、
図4のパーソナルコンピューター、
図5のスマートフォン、
図6のディジタルスチルカメラの他に、例えば、携帯電話、タブレット端末、時計、インクジェットプリンターのようなインクジェット式吐出装置、ラップトップ型パーソナルコンピューター、テレビ、ビデオカメラ、ビデオテープレコーダー、カーナビゲーション装置、ページャー、電子手帳、電子辞書、電卓、電子ゲーム機器、ワードプロセッサー、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニター、電子双眼鏡、POS端末、電子体温計、血圧計、血糖計、心電図計測装置、超音波診断装置、電子内視鏡のような医療機器、魚群探知機、各種測定機器、車両、航空機、船舶の計器類、自動車制御機器、航空機制御機器、鉄道車両制御機器、船舶制御機器のような移動体制御機器類、フライトシミュレーター等が挙げられる。
【0080】
このような電子機器は、前述したように、実施形態に係る磁性素子を備えている。これにより、低保磁力および低コアロスという磁性素子の効果を享受し、電子機器の高性能化を図ることができる。
【0081】
5.移動体
次に、本実施形態に係る磁性素子を備える移動体について、
図7に基づき説明する。
図7は、実施形態に係る磁性素子を備える移動体である自動車を示す斜視図である。
自動車1500には、磁性素子1000が内蔵されている。具体的には、磁性素子1000は、例えば、カーナビゲーションシステム、アンチロックブレーキシステム(ABS)、エンジンコントロールユニット、ハイブリッド自動車や電気自動車の電池制御ユニット、車体姿勢制御システム、自動運転システムのような電子制御ユニット(ECU:electronic control unit)、駆動用モーター、ジェネレーター、エアコンユニット等の各種自動車部品に内蔵される。
【0082】
このような移動体は、前述したように、実施形態に係る磁性素子を備えている。これにより、低保磁力および低コアロスという磁性素子の効果を享受し、移動体の高性能化を図ることができる。
なお、本実施形態に係る移動体は、
図7に示す自動車の他にも、例えば、二輪車、自転車、航空機、ヘリコプター、ドローン、船舶、潜水艦、鉄道、ロケット、宇宙船等であってもよい。
【0083】
以上、本発明の軟磁性粉末、圧粉磁心、磁性素子、電子機器および移動体について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、前記実施形態では、本発明の軟磁性粉末の用途例として圧粉磁心等の圧粉体を挙げて説明したが、用途例はこれに限定されず、例えば磁性流体、磁気ヘッド、磁気遮蔽シート等の磁性デバイスであってもよい。
また、圧粉磁心や磁性素子の形状も、図示したものに限定されず、いかなる形状であってもよい。
【実施例0084】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
6.原料粉末の製造
6.1.原料粉末No.1~3
回転水流アトマイズ法により、原料粉末No.1~3の軟磁性粉末を製造した。原料粉末No.1~3の軟磁性粉末の属性は、表1に示す通りである。
【0085】
6.2.原料粉末No.4~7
水アトマイズ法により、原料粉末No.4~7の軟磁性粉末を製造した。原料粉末No.4~7の軟磁性粉末の属性は、表1に示す通りである。
【0086】
6.3.原料粉末No.8
回転水流アトマイズ法により、原料粉末No.8の軟磁性粉末を製造した。原料粉末No.8の軟磁性粉末の属性は、表1に示す通りである。
【0087】
7.原料粉末の評価
7.1.平均粒径
各原料粉末No.の軟磁性粉末について、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置により、体積基準の粒度分布を取得した。そして、取得した粒度分布に基づいて、平均粒径を算出した。なお、平均粒径は、相対粒子量が50体積%になるときの粒径である。得られた平均粒径を表1に示す。
【0088】
7.2.保磁力
各原料粉末No.の軟磁性粉末について、磁化測定装置として株式会社玉川製作所製、VSMシステム TM-VSM1230-MHHLを用い、保磁力を測定した。測定結果を表1に示す。
【0089】
7.3.磁気損失(コアロス)
各原料粉末No.の軟磁性粉末について、以下の方法により磁気損失(コアロス)を測定した。
まず、各原料粉末No.の軟磁性粉末に対して、結合材であるエポキシ系樹脂のメチルエチルケトン溶液を、固形分量で2.0質量%の添加量となるように添加した。これを混合して乾燥させて塊状物とした。塊状物を粉砕した後、成形圧力294MPaにて、外径φ14mm、内径φ7mm、厚さ3mmのリング状にプレス成形した、次に、150℃にて30分間の加熱を施してトロイダルコアとした。
【0090】
次に、得られたトロイダルコアについて、コアロスPcvを測定した。なお、測定条件として、1次コイルのターン数および2次コイルのターン数がそれぞれ36ターン、測定周波数が1MHz、最大磁束密度が30mT、透磁率μ’が21、という条件を採用した。測定結果を表1に示す。
【0091】
7.4.透磁率
各原料粉末No.の軟磁性粉末について、以下の方法により透磁率を測定した。
まず、各原料粉末No.の軟磁性粉末に対して、結合材であるエポキシ系樹脂のメチルエチルケトン溶液を、固形分量で2.0質量%の添加量となるように添加した。これを混合して乾燥させて塊状物とした。塊状物を粉砕した後、成形圧力294MPaにて、外径φ14mm、内径φ7mm、厚さ3mmのリング状にプレス成形した、次に、150℃にて30分間の加熱を施してトロイダルコアとした。
【0092】
次に、このトロイダルコアについて、Agilent社の4294Aプレシジョン・インピーダンス・アナライザーを用いて周波数1MHzの透磁率を測定した。測定結果を表1に示す。
【0093】
【0094】
8.軟磁性粉末の製造
8.1.実施例1
第1粉末として原料粉末No.5を使用し、第2粉末として原料粉末No.1を使用し、これらを混合した。これにより、軟磁性粉末を得た。なお、第1粉末および第2粉末の混合条件は、表2に示す通りである。
【0095】
8.2.実施例2~17
第1粉末および第2粉末の混合条件を表2または表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして軟磁性粉末を得た。
【0096】
8.3.比較例1~4
軟磁性粉末の製造条件を表2または表3に示すようにした以外は、実施例1と同様にして軟磁性粉末を得た。
【0097】
【0098】
【0099】
9.軟磁性粉末の評価
9.1.粒度分布
各実施例および各比較例の軟磁性粉末について、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置により、体積基準の粒度分布を取得した。そして、取得した粒度分布に基づいて、粒度分布曲線を作成した。そして、得られた粒度分布曲線がバイモーダル分布を有する場合、表4および表5において、粒径D1、粒径D2、差D2-D1、係数k1、高さH1、高さH2、係数k2、高さH3および係数k3を記載した。一方、得られた粒度分布曲線がバイモーダル分布を有さない場合、表4および表5において、粒径D1または粒径D2のいずれか一方、および、高さH1または高さH2のいずれか一方のみを記載した。
【0100】
図8は、実施例1~5の軟磁性粉末について得られた粒度分布曲線を重ねて示したグラフである。
図9は、実施例6~9および比較例2の軟磁性粉末について得られた粒度分布曲線を重ねて示したグラフである。
図10は、実施例10~14の軟磁性粉末について得られた粒度分布曲線を重ねて示したグラフである。なお、
図8ないし
図10には、第1粉末と第2粉末の混合比率を、例えば5:5のように記載している。
【0101】
図8ないし
図10に示すように、第1粉末と第2粉末の混合比率を変えることにより、その混合比率に応じて、第1ピーク部P1の高さ、第2ピーク部P2の高さおよびボトム部Bの高さを制御することができる。
【0102】
9.2.磁気損失(コアロス)
各実施例および各比較例の軟磁性粉末を用い、7.3と同様の方法により、トロイダルコアを作製した。次に、得られたトロイダルコアについて、コアロスPcvを測定した。なお、測定条件は、7.3と同様である。測定結果を表4または表5に示す。
【0103】
9.3.透磁率
各実施例および各比較例の軟磁性粉末を用い、7.4と同様の方法により、トロイダルコアを作製した。次に、得られたトロイダルコアについて、7.4と同様の方法により透磁率を測定した。測定結果を表4または表5に示す。
【0104】
【0105】
【0106】
表4および表5から明らかなように、各実施例の軟磁性粉末は、いずれも、粒度分布曲線が所定の条件を満たすバイモーダル分布を有していた。そして、各実施例の軟磁性粉末から作製した圧粉体については、各比較例の軟磁性粉末から作製した圧粉体に比べて、透磁率およびコアロスの双方が良好であった。このことから、各実施例の軟磁性粉末は、充填性が良好であり、かつ、高周波帯で用いられたときに渦電流損失の少ない圧粉体を作製し得ると推察される。
10…コイル部品、11…圧粉磁心、12…導線、20…コイル部品、21…圧粉磁心、22…導線、100…表示部、1000…磁性素子、1100…パーソナルコンピューター、1102…キーボード、1104…本体部、1106…表示ユニット、1200…スマートフォン、1202…操作ボタン、1204…受話口、1206…送話口、1300…ディジタルスチルカメラ、1302…ケース、1304…受光ユニット、1306…シャッターボタン、1308…メモリー、1500…自動車、B…ボトム部、H1…高さ、H2…高さ、H3…高さ、P1…第1ピーク部、P2…第2ピーク部、PSD…粒度分布曲線