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特開2022-175223圧電デバイス、液体噴射ヘッド、液体噴射装置および圧電デバイスの製造方法
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  • 特開-圧電デバイス、液体噴射ヘッド、液体噴射装置および圧電デバイスの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175223
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】圧電デバイス、液体噴射ヘッド、液体噴射装置および圧電デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 41/187 20060101AFI20221117BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20221117BHJP
   B41J 2/16 20060101ALI20221117BHJP
   H01L 41/09 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
H01L41/187
B41J2/14 301
B41J2/14 607
B41J2/14 613
B41J2/16 301
H01L41/09
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021081454
(22)【出願日】2021-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】古池 晴信
(72)【発明者】
【氏名】沢崎 立雄
(72)【発明者】
【氏名】中山 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】清水 稔弘
(72)【発明者】
【氏名】西 智尋
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF65
2C057AG14
2C057AG44
2C057AG55
2C057AN01
2C057AP02
2C057AP14
2C057BA04
2C057BA14
(57)【要約】      (修正有)
【課題】振動板の破壊を抑制した圧電デバイス、液体噴射ヘッド、液体噴射装置及び圧電デバイスの製造方法を提供する。
【解決手段】液体噴射ヘッド2は、基板10と、振動板50と、圧電アクチュエーター300と、を具備し、基板、振動板及び圧電アクチュエーターがこの順で第1方向Zに積層している。振動板は、構成元素としてケイ素を含む第1層51と、第1層と圧電アクチュエーターとの間に配置され、構成元素としてジルコニウムを含む第3層53と、第1層と第3層との間に配置され、構成元素として鉄、ケイ素及びジルコニウム以外の金属、半金属及び半導体からなる群から選択される少なくとも1つを含む第2層52と、を有する。振動板において、第2層及び第3層の構成元素以外の不純物の濃度が最も高い位置が第2層にあり、ジルコニウム濃度が最も高い位置が第3層にあり、ケイ素濃度が最も高い位置が第1層にある。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
振動板と、
圧電アクチュエーターと、を具備し、
前記基板、前記振動板および前記圧電アクチュエーターがこの順で第1方向に積層されており、
前記振動板は、
構成元素としてケイ素を含む第1層と、
前記第1層と前記圧電アクチュエーターとの間に配置され、構成元素としてジルコニウムを含む第3層と、
前記第1層と前記第3層との間に配置され、構成元素として鉄、ケイ素およびジルコニウム以外の金属、半金属および半導体からなる群から選択される少なくとも1つを含む第2層と、
を有し、
前記第2層および前記第3層において、前記第2層および前記第3層の構成元素以外の不純物の濃度が最も高い位置が前記第2層にあり、
ジルコニウム濃度が最も高い位置が前記第3層にあり、
ケイ素濃度が最も高い位置が前記第1層にある
ことを特徴とする圧電デバイス。
【請求項2】
前記第2層は、クロム、チタンおよびアルミニウムからなる群から選択される少なくとも1つの金属元素を含むことを特徴とする請求項1に記載の圧電デバイス。
【請求項3】
前記不純物は、鉄、クロムおよびケイ素からなる群から選択される少なくとも1つの化合物である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の圧電デバイス。
【請求項4】
前記不純物は、鉄およびクロムの少なくとも一方を含む化合物である
ことを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の圧電デバイス。
【請求項5】
前記不純物の濃度は、前記第3層が、前記第1層よりも高い
ことを特徴とする請求項4に記載の圧電デバイス。
【請求項6】
前記第2層の前記第3層側の界面には、前記不純物が層状に偏在している
ことを特徴とする請求項1~5の何れか一項に記載の圧電デバイス。
【請求項7】
前記不純物がケイ素を含み、前記第2層の前記第1方向における厚さは10nm以上60nm以下である
ことを特徴とする請求項1~6の何れか一項に記載の圧電デバイス。
【請求項8】
前記不純物が、鉄またはクロムを含み、前記第2層の前記第1方向における厚さは10nm以上40nm以下である
ことを特徴とする請求項1~6の何れか一項に記載の圧電デバイス。
【請求項9】
前記第2層と前記第3層とは、価数が異なる
ことを特徴とする請求項1~8の何れか一項に記載の圧電デバイス。
【請求項10】
前記第2層と前記第3層とは、価数が同じである
ことを特徴とする請求項1~8の何れか一項に記載の圧電デバイス。
【請求項11】
前記第1層は、酸化シリコンを含み、
前記第3層は、酸化ジルコニウムを含む
ことを特徴とする請求項1~10の何れか一項に記載の圧電デバイス。
【請求項12】
前記第2層は、酸化クロムを含む
ことを特徴とする請求項1~11の何れか一項に記載の圧電デバイス。
【請求項13】
前記第2層に含まれる酸化クロムは、アモルファス構造を有する
ことを特徴とする請求項12に記載の圧電デバイス。
【請求項14】
前記第2層は、酸化チタンを含む
ことを特徴とする請求項1~11の何れか一項に記載の圧電デバイス。
【請求項15】
前記第2層に含まれる酸化チタンは、ルチル構造を有する
ことを特徴とする請求項14に記載の圧電デバイス。
【請求項16】
圧電アクチュエーターと、
前記圧電アクチュエーターの駆動により振動する振動板と、
前記振動板の振動により液体に圧力を付与する圧力室が設けられた流路形成基板と、を具備し、
前記流路形成基板、前記振動板および前記圧電アクチュエーターがこの順で第1方向に積層されており、
前記振動板は、
構成元素としてケイ素を含む第1層と、
前記第1層と前記圧電アクチュエーターとの間に配置され、構成元素としてジルコニウムを含む第3層と、
前記第1層と前記第3層との間に配置され、構成元素として鉄、ケイ素およびジルコニウム以外の金属、半金属および半導体からなる群から選択される少なくとも1つを含む第2層と、
を有し、
前記第2層および前記第3層において、前記第2層および前記第3層の構成元素以外の不純物の濃度が最も高い位置が前記第2層にあり、
ジルコニウム濃度が最も高い位置が前記第3層にあり、
ケイ素濃度が最も高い位置が前記第1層にある
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項17】
請求項16に記載の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項18】
基板と、
振動板と、
圧電アクチュエーターと、を具備し、
前記基板、前記振動板および前記圧電アクチュエーターがこの順で第1方向に積層されており、
前記振動板は、
構成元素としてケイ素を含む第1層と、
前記第1層と前記圧電アクチュエーターとの間に配置され、構成元素としてジルコニウムを含む第3層と、
前記第1層と前記第3層との間に配置され、構成元素として鉄、ケイ素およびジルコニウム以外の金属、半金属および半導体からなる群から選択される少なくとも1つを含む第2層と、
を有し、
前記第2層および前記第3層において、前記第2層および前記第3層の構成元素以外の不純物の濃度が最も高い位置が前記第2層にあり、
ジルコニウム濃度が最も高い位置が前記第3層にあり、
ケイ素濃度が最も高い位置が前記第1層にある圧電デバイスの製造方法であって、
前記基板上に前記第1層を形成する工程と、
前記第1層上に構成元素として鉄、ケイ素およびジルコニウム以外の金属、半金属および半導体からなる群から選択される少なくとも1つを含む元素層を形成し、当該元素層を加熱して酸化物で構成される前記第2層を形成する工程と、
前記第2層上にジルコニウムを含むジルコニウム層を形成し、当該ジルコニウム層を加熱して酸化ジルコニウムで構成される前記第3層を形成する工程と、
を具備することを特徴とする圧電デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に設けられた振動板および圧電アクチュエーターを有する圧電デバイス、液体を噴射する液体噴射ヘッド、液体噴射装置および圧電デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスの一つである液体噴射ヘッドとして、インクジェット式記録ヘッドが知られている。インクジェット式記録ヘッドは、ノズルに連通する圧力室が設けられた基板と、基板の一方面側に設けられた振動板と、振動板上に設けられた圧電アクチュエーターとを備え、圧電アクチュエーターの駆動によって圧力室内のインクに圧力変化を生じさせてノズルからインク滴を吐出させる。例えば、特許文献1では、二酸化シリコンからなる弾性膜と酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜とを有する振動板が開示される。ここで、弾性膜は、シリコン単結晶基板の一方の面を熱酸化することにより形成される。絶縁体膜は、スパッタリング法等により弾性膜上に形成されたジルコニウム単体の層を熱酸化することにより形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-78407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圧電アクチュエーターの変形による外力が加わった際に振動板に層間剥離や割れなどの破壊が生じるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する本発明の態様は、基板と、振動板と、圧電アクチュエーターと、を具備し、前記基板、前記振動板および前記圧電アクチュエーターがこの順で第1方向に積層されており、前記振動板は、構成元素としてケイ素を含む第1層と、前記第1層と前記圧電アクチュエーターとの間に配置され、構成元素としてジルコニウムを含む第3層と、前記第1層と前記第3層との間に配置され、構成元素として鉄、ケイ素およびジルコニウム以外の金属、半金属および半導体からなる群から選択される少なくとも1つを含む第2層と、を有し、前記第2層および前記第3層において、前記第2層および前記第3層の構成元素以外の不純物の濃度が最も高い位置が前記第2層にあり、ジルコニウム濃度が最も高い位置が前記第3層にあり、ケイ素濃度が最も高い位置が前記第1層にあることを特徴とする圧電デバイスにある。
【0006】
また、本発明の他の態様は、圧電アクチュエーターと、前記圧電アクチュエーターの駆動により振動する振動板と、前記振動板の振動により液体に圧力を付与する圧力室が設けられた流路形成基板と、を具備し、前記流路形成基板、前記振動板および前記圧電アクチュエーターがこの順で第1方向に積層されており、前記振動板は、構成元素としてケイ素を含む第1層と、前記第1層と前記圧電アクチュエーターとの間に配置され、構成元素としてジルコニウムを含む第3層と、前記第1層と前記第3層との間に配置され、構成元素として鉄、ケイ素およびジルコニウム以外の金属、半金属および半導体からなる群から選択される少なくとも1つを含む第2層と、を有し、前記第2層および前記第3層において、前記第2層および前記第3層の構成元素以外の不純物の濃度が最も高い位置が前記第2層にあり、ジルコニウム濃度が最も高い位置が前記第3層にあり、ケイ素濃度が最も高い位置が前記第1層にあることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0007】
また、本発明の他の態様は、上記態様に記載の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
【0008】
さらに本発明の他の態様は、基板と、振動板と、圧電アクチュエーターと、を具備し、前記基板、前記振動板および前記圧電アクチュエーターがこの順で第1方向に積層されており、前記振動板は、構成元素としてケイ素を含む第1層と、前記第1層と前記圧電アクチュエーターとの間に配置され、構成元素としてジルコニウムを含む第3層と、前記第1層と前記第3層との間に配置され、構成元素として鉄、ケイ素およびジルコニウム以外の金属、半金属および半導体からなる群から選択される少なくとも1つを含む第2層と、を有し、前記第2層および前記第3層において、前記第2層および前記第3層の構成元素以外の不純物の濃度が最も高い位置が前記第2層にあり、ジルコニウム濃度が最も高い位置が前記第3層にあり、ケイ素濃度が最も高い位置が前記第1層にある圧電デバイスの製造方法であって、前記基板上に前記第1層を形成する工程と、前記第1層上に構成元素として鉄、ケイ素およびジルコニウム以外の金属、半金属および半導体からなる群から選択される少なくとも1つを含む元素層を形成し、当該元素層を加熱して酸化物で構成される前記第2層を形成する工程と、前記第2層上にジルコニウムを含むジルコニウム層を形成し、当該ジルコニウム層を加熱して酸化ジルコニウムで構成される前記第3層を形成する工程と、を具備することを特徴とする圧電デバイスの製造方法にある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態1に係るインクジェット式記録装置の模式図である。
図2】実施形態1に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
図3】実施形態1に係る記録ヘッドの流路形成基板の平面図である。
図4】実施形態1に係る記録ヘッドの断面図である。
図5】実施形態1に係る記録ヘッドの断面図である。
図6】実施形態1に係る圧電デバイスの製造方法を説明するための図である。
図7】試験例1に係るSTEM-EDSによる分析結果を示す図である。
図8】試験例1に係るSTEM-EDSによる分析結果を示す図である。
図9】試験例1に係るSTEM-EDSによる分析結果を示す図である。
図10】サンプル1のSTEM画像である。
図11】サンプル4のSTEM画像である。
図12】サンプル8のSTEM画像である。
図13】サンプル10のSTEM画像である。
図14】リーク電流の結果を示すグラフである。
図15】サンプル16のSTEM画像である。
図16】サンプル17のSTEM画像である。
図17】サンプル18のSTEM画像である。
図18】サンプル19のSTEM画像である。
図19】サンプル20のSTEM画像である。
図20】サンプル20のSTEM-EDSによる分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本発明の一態様を示すものであって、本発明の範囲内で任意に変更可能である。各図において同じ符号を付したものは、同一の部材を示しており、適宜説明が省略されている。また、各図においてX、Y、Zは、互いに直交する3つの空間軸を表している。本明細書では、これらの軸に沿った方向をX方向、Y方向、およびZ方向とする。各図の矢印が向かう方向を正(+)方向、矢印の反対方向を負(-)方向として説明する。また、正方向および負方向を限定しない3つのX、Y、Zの空間軸については、X軸、Y軸、Z軸として説明する。また、以下の各実施形態では、一例として「第1方向」を-Z方向、「第2方向」を+Z方向としている。また、Z軸に沿う方向で見ることを「平面視」という。
【0011】
ここで、典型的には、Z軸が鉛直な軸であり、+Z方向が鉛直方向での下方向に相当する。ただし、Z軸は、鉛直な軸でなくともよい。また、X軸、Y軸およびZ軸は、典型的には互いに直交するが、これに限定されず、例えば、80°以上100°以下の範囲内の角度で交差すればよい。
【0012】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装置1を模式的に示す図である。
【0013】
図1に示すように液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装置1は、液体の一種であるインクをインク滴として印刷用紙等の媒体Sに噴射・着弾させて、当該媒体Sに形成されるドットの配列により画像等の印刷を行う印刷装置である。なお、媒体Sとしては、記録用紙の他、樹脂フィルムや布等の任意の材質を用いることができる。
【0014】
以下において、X、Y、Zの3つの空間軸のうち、後述する記録ヘッド2の移動方向(換言すると、主走査方向)をX軸とし、当該主走査方向と直交した媒体Sの搬送方向をY軸とし、記録ヘッド2のノズル21(図2参照)が形成されたノズル面に平行な面をXY平面とし、ノズル面、すなわち、XY平面に交差する方向、本実施形態では、XY平面に直交する方向をZ軸とし、インク滴はZ軸に沿った+Z方向に噴射されるものとする。
【0015】
インクジェット式記録装置1は、液体容器3と、媒体Sを送り出す搬送機構4と、制御部である制御ユニット5と、移動機構6と、インクジェット式記録ヘッド2(以下、単に記録ヘッド2とも言う)と、を具備する。
【0016】
液体容器3は、記録ヘッド2から噴射される複数種類(例えば、複数色)のインクを個別に貯留する。液体容器3としては、例えば、インクジェット式記録装置1に着脱可能なカートリッジ、可撓性のフィルムで形成された袋状のインクパック、インクを補充可能なインクタンクなどが挙げられる。また、特に図示していないが、液体容器3には、色や種類の異なる複数種類のインクが貯留されている。
【0017】
制御ユニット5は、特に図示していないが、例えば、CPU(Central Processing Unit)またはFPGA(Field Programmable Gate Array)等の制御装置と半導体メモリー等の記憶装置とを含んで構成される。制御ユニット5は、記憶装置に記憶されたプログラムを制御装置が実行することでインクジェット式記録装置1の各要素、すなわち、搬送機構4、移動機構6、記録ヘッド2等を統括的に制御する。
【0018】
搬送機構4は、制御ユニット5によって制御されて媒体SをY方向に搬送するものであり、例えば、搬送ローラー4aを有する。なお、媒体Sを搬送する搬送機構4は、搬送ローラー4aに限らず、ベルトやドラムによって媒体Sを搬送するものであってもよい。
【0019】
移動機構6は、制御ユニット5によって制御されて記録ヘッド2をX軸に沿って+X方向および-X方向に往復させる。
【0020】
具体的には、本実施形態の移動機構6は、搬送体7と搬送ベルト8とを具備する。搬送体7は、記録ヘッド2を収容する略箱形の構造体、所謂、キャリッジであり、搬送ベルト8に固定される。搬送ベルト8は、X軸に沿って架設された無端ベルトである。制御ユニット5による制御のもとで搬送ベルト8が回転することで記録ヘッド2が搬送体7と共に+X方向および-X方向に図示しないガイドレールに沿って往復移動する。なお、液体容器3を記録ヘッド2と共に搬送体7に搭載することも可能である。
【0021】
記録ヘッド2は、制御ユニット5による制御のもとで、液体容器3から供給されたインクを複数のノズル21のそれぞれからインク滴として+Z方向に媒体Sに噴射する。この記録ヘッド2からのインク滴の噴射が、搬送機構4による媒体Sの搬送と移動機構6による記録ヘッド2の往復移動とに平行して行われることにより、媒体Sの表面にインクによる画像が形成される、所謂、印刷が行われる。ここで、記録ヘッド2は、「圧電デバイス」の一例である。
【0022】
図2は、本実施形態の液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッド2の分解斜視図である。図3は、記録ヘッド2の流路形成基板10の平面図である。図4は、図3のA-A′線に準じた記録ヘッド2の断面図である。図5は、図3のB-B′線の断面図である。
【0023】
図示するように、本実施形態の記録ヘッド2は、「基板」の一例として流路形成基板10を具備する。流路形成基板10は、シリコン基板、ガラス基板、SOI基板、各種セラミック基板からなる。
【0024】
流路形成基板10には、複数の圧力室12が第1方向である+X方向に沿って並んで配置されている。複数の圧力室12は、+Y方向の位置が同じ位置となるように、+X方向に沿った直線上に配置されている。+X方向で互いに隣り合う圧力室12は、隔壁11によって区画されている。もちろん、圧力室12の配置は特にこれに限定されず、例えば、+X方向に並んで配置された圧力室12において、1つ置きに+Y方向にずれた位置に配置した、所謂、千鳥配置としてもよい。
【0025】
また、本実施形態の圧力室12は、+Z方向に見た形状は、矩形状、平行四辺形状、長方形状を基本として長手方向の両端部を半円形状とした、いわゆる、角丸長方形状や楕円形状や卵形状などのオーバル形状や、円形状、多角形状等であってもよい。この圧力室12が、「基板」に設けられた「凹部」に相当する。
【0026】
流路形成基板10の+Z方向側には、連通板15とノズルプレート20とが順次積層されている。
【0027】
連通板15には、圧力室12とノズル21とを連通するノズル連通路16が設けられている。
また、連通板15には、複数の圧力室12が共通して連通する共通液室となるマニホールド100の一部を構成する第1マニホールド部17と第2マニホールド部18とが設けられている。第1マニホールド部17は、連通板15を+Z方向に貫通して設けられている。また、第2マニホールド部18は、連通板15を+Z方向に貫通することなく、+Z方向側の面に開口して設けられている。
【0028】
さらに、連通板15には、圧力室12のY軸の端部に連通する供給連通路19が圧力室12の各々に独立して設けられている。供給連通路19は、第2マニホールド部18と圧力室12とを連通して、マニホールド100内のインクを圧力室12に供給する。
【0029】
このような連通板15としては、シリコン基板、ガラス基板、SOI基板、各種セラミック基板、ステンレス基板等の金属基板などを用いることができる。なお、連通板15は、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料を用いることが好ましい。このように流路形成基板10と連通板15とを熱膨張率が略同一の材料を用いることで、熱膨張率の違いによって熱により反りが発生するのを低減することができる。
【0030】
ノズルプレート20は、連通板15の流路形成基板10とは反対側、すなわち、+Z方向側の面に設けられている。
【0031】
ノズルプレート20には、各圧力室12にノズル連通路16を介して連通するノズル21が形成されている。本実施形態では、複数のノズル21は、+X方向に沿って一列となるように並んで配置されたノズル列が+Y方向に離れて2列設けられている。すなわち、各列の複数のノズル21は、+Y方向の位置が同じ位置となるように配置されている。もちろん、ノズル21の配置は特にこれに限定されず、例えば、+X方向に並んで配置されたノズル21において、1つ置きに+Y方向にずれた位置に配置した、所謂、千鳥配置としてもよい。このようなノズルプレート20としては、シリコン基板、ガラス基板、SOI基板、各種セラミック基板、ステンレス基板等の金属基板、ポリイミド樹脂のような有機物などを用いることができる。なお、ノズルプレート20は、連通板15の熱膨張率と略同一の材料を用いることが好ましい。このようにノズルプレート20と連通板15とを熱膨張率が略同一の材料を用いることで、熱膨張率の違いによって熱により反りが発生するのを低減することができる。
【0032】
流路形成基板10の-Z方向側の面には、振動板50と圧電アクチュエーター300とが順次積層されている。すなわち、流路形成基板10、振動板50および圧電アクチュエーター300とは、この順に-Z方向に積層されている。
【0033】
流路形成基板10の-Z方向の面には、図2および図4に示すように、流路形成基板10と略同じ大きさを有する保護基板30が接合されている。保護基板30は、圧電アクチュエーター300を保護する空間である保持部31を有する。保持部31は、+X方向に並んで配置される圧電アクチュエーター300の列毎に独立して設けられたものであり、+Y方向に2つ並んで形成されている。また、保護基板30には、+Y方向に並んで配置される2つの保持部31の間に+Z方向に貫通する貫通孔32が設けられている。圧電アクチュエーター300の電極から引き出された個別リード電極91および共通リード電極92の端部は、この貫通孔32内に露出するように延設され、個別リード電極91および共通リード電極92と配線基板120とは、貫通孔32内で電気的に接続されている。
【0034】
また、図4に示すように、保護基板30上には、複数の圧力室12に連通するマニホールド100を流路形成基板10と共に画成するケース部材40が固定されている。ケース部材40は、平面視において上述した連通板15と略同一形状を有し、保護基板30に接合されると共に、上述した連通板15にも接合されている。本実施形態では、ケース部材40は、連通板15に接合されている。また、特に図示していないが、ケース部材40と保護基板30とも接合されている。
【0035】
このようなケース部材40は、保護基板30側に流路形成基板10および保護基板30が収容される深さの凹部41を有する。この凹部41は、保護基板30の流路形成基板10に接合された面よりも広い開口面積を有する。そして、凹部41に流路形成基板10等が収容された状態で凹部41のノズルプレート20側の開口面が連通板15によって封止されている。これにより、流路形成基板10の外周部には、ケース部材40と流路形成基板10とによって第3マニホールド部42が画成されている。そして、連通板15に設けられた第1マニホールド部17および第2マニホールド部18と、ケース部材40と流路形成基板10とによって画成された第3マニホールド部42と、によって本実施形態のマニホールド100が構成されている。マニホールド100は、圧力室12が並んで配置される+X方向に亘って連続して設けられており、各圧力室12とマニホールド100とを連通する供給連通路19は、+X方向に並んで配置されている。また、ケース部材40には、マニホールド100に連通して各マニホールド100にインクを供給するための導入口44が設けられている。また、ケース部材40には、詳しくは後述する保護基板30の貫通孔32に連通して配線基板120が挿通される接続口43が設けられている。
【0036】
また、連通板15の第1マニホールド部17および第2マニホールド部18が開口する+Z方向側の面には、コンプライアンス基板45が設けられている。このコンプライアンス基板45が、第1マニホールド部17と第2マニホールド部18の液体噴射面20a側の開口を封止している。このようなコンプライアンス基板45は、本実施形態では、可撓性を有する薄膜からなる封止膜46と、金属等の硬質の材料からなる固定基板47と、を具備する。固定基板47のマニホールド100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部48となっているため、マニホールド100の一方面は可撓性を有する封止膜46のみで封止された可撓部であるコンプライアンス部49となっている。
【0037】
本実施形態の振動板50および圧電アクチュエーター300について説明する。
【0038】
図4および図5に示すように、圧電アクチュエーター300は、振動板50側である+Z方向側から-Z方向側に向かって順次積層された第1電極60と圧電体層70と第2電極80とを具備する。圧電アクチュエーター300が、圧力室12内のインクに圧力変化を生じさせる圧力発生手段となっている。このような圧電アクチュエーター300は、圧電素子とも言い、第1電極60と圧電体層70と第2電極80とを含む部分を言う。また、第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加した際に、圧電体層70に圧電歪みが生じる部分を活性部310と称する。これに対して、圧電体層70に圧電歪みが生じない部分を非活性部と称する。すなわち、活性部310は、圧電体層70が第1電極60と第2電極80とで挟まれた部分を言う。本実施形態では、凹部である圧力室12毎に活性部310が形成されている。つまり、圧電アクチュエーター300には複数の活性部310が形成されていることになる。そして、一般的には、活性部310の何れか一方の電極を活性部310毎に独立する個別電極とし、他方の電極を複数の活性部310に共通する共通電極として構成する。本実施形態では、第1電極60が個別電極を構成し、第2電極80が共通電極を構成している。もちろん、第1電極60が共通電極を構成し、第2電極80が個別電極を構成してもよい。この圧電アクチュエーター300のうち、圧力室12にZ軸で対向する部分が可撓部となり、圧力室12の外側部分が非可撓部となる。
【0039】
具体的には、第1電極60は、図3図5に示すように、圧力室12毎に切り分けられて活性部310毎に独立する個別電極を構成する。第1電極60は、+X方向において、圧力室12の幅よりも狭い幅で形成されている。すなわち、+X方向において、第1電極60の端部は、圧力室12に対向する領域の内側に位置している。また、図4に示すように、第1電極60のY軸において、ノズル21側の端部は、圧力室12よりも外側に配置されている。この第1電極60のY軸において圧力室12よりも外側に配置された端部に、引き出し配線である個別リード電極91が接続されている。
【0040】
このような第1電極60としては、導電性を有する材料であり、例えば、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、金(Au)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、ニッケルクロム(NiCr)、タングステン(W)、チタン(Ti)、酸化チタン(TiO)、チタンタングステン(TiW)等を用いることができる。
【0041】
圧電体層70は、図3図5に示すように、+Y方向の幅が所定の幅で、+X方向に亘って連続して設けられている。圧電体層70の+Y方向の幅は、圧力室12の長手方向である+Y方向の長さよりも長い。このため、圧力室12の+Y方向および-Y方向の両側では、圧電体層70は、圧力室12に対向する領域の外側まで延設されている。このような圧電体層70のY軸においてノズル21とは反対側の端部は、第1電極60の端部よりも外側に位置している。すなわち、第1電極60のノズル21とは反対側の端部は圧電体層70によって覆われている。また、圧電体層70のノズル21側の端部は、第1電極60の端部よりも内側に位置しており、第1電極60のノズル21側の端部は、圧電体層70に覆われていない。なお、第1電極60の圧電体層70の外側まで延設された端部には、上述したように金(Au)等からなる個別リード電極91が接続されている。
【0042】
また、圧電体層70には、各隔壁11に対応する凹部71が形成されている。この凹部71の+X方向の幅は、隔壁11の幅と同一、もしくは、それより広くなっている。本実施形態では、凹部71の+X方向の幅は、隔壁11の幅よりも広くなっている。これにより、振動板50の圧力室12の+X方向および-X方向の両端部に対向する部分、所謂、振動板50の腕部の剛性が抑えられるため、圧電アクチュエーター300を良好に変位させることができる。なお、凹部71は、圧電体層70を厚さ方向である+Z方向に貫通して設けられていてもよく、また、圧電体層70を+Z方向に貫通することなく、圧電体層70の厚さ方向の途中まで設けられていてもよい。すなわち、凹部71の+Z方向の底面には、圧電体層70が完全に除去されていてもよく、圧電体層70の一部が残留していてもよい。
【0043】
このような圧電体層70は、一般式ABOで示されるペロブスカイト構造の複合酸化物からなる圧電材料を用いて構成されている。本実施形態では、圧電材料としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT;Pb(Zr,Ti)O)を用いている。PZTを圧電材料に用いることで、圧電定数d31が比較的大きな圧電体層70が得られる。
【0044】
一般式ABOで示されるペロブスカイト構造の複合酸化物では、Aサイトには酸素が12配位しており、Bサイトには酸素が6配位して8面体(オクタヘドロン)をつくっている。本実施形態では、Aサイトに鉛(Pb)が位置し、Bサイトにジルコニウム(Zr)およびチタン(Ti)が位置している。
【0045】
圧電材料は、上記のPZTに限定されない。AサイトやBサイトに他の元素が含まれていてもよい。例えば、圧電材料は、チタン酸ジルコン酸バリウム(Ba(Zr,Ti)O)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O)、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O)、シリコンを含むニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti,Nb)O)等のペロブスカイト材料であってもよい。
【0046】
その他、圧電材料は、Pbの含有量を抑えた材料、いわゆる低鉛系材料、またはPbを使用しない材料、いわゆる非鉛系材料であってもよい。圧電材料として低鉛系材料を使用すればPbの使用量を低減することができる。また、圧電材料として非鉛系材料を使用すれば、Pbを使用せずに済む。よって、圧電材料として低鉛系材料や非鉛系材料の使用により、環境負荷を低減することができる。
【0047】
非鉛系圧電材料として、例えば、鉄酸ビスマス(BFO;BiFeO)を含むBFO系材料が挙げられる。BFOでは、Aサイトにビスマス(Bi)が位置し、Bサイトに鉄(Fe)が位置している。BFOに、他の元素が添加されていてもよい。例えば、BFOに、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、ランタン(La)、バリウム(Ba)、チタン(Ti)、コバルト(Co)、セリウム(Ce)、サマリウム(Sm)、クロム(Cr)、カリウム(K)、リチウム(Li)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、ユウロピウム(Eu)から選択される少なくとも1種の元素が添加されていてもよい。
【0048】
また、非鉛系圧電材料の他の例として、ニオブ酸カリウムナトリウム(KNN;KNaNbO)を含むKNN系材料が挙げられる。KNNに、他の元素が添加されていてもよい。例えば、KNNに、マンガン(Mn)、リチウム(Li)、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、ビスマス(Bi)、タンタル(Ta)、アンチモン(Sb)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銀(Ag)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)およびユウロピウム(Eu)から選択される少なくとも1種の元素が添加されていてもよい。
【0049】
圧電材料には、元素の一部欠損した組成を有する材料、元素の一部が過剰である組成を有する材料、および元素の一部が他の元素に置換された組成を有する材料も含まれる。圧電体層70の基本的な特性が変わらない限り、欠損・過剰により化学量論の組成からずれた材料や、元素の一部が他の元素に置換された材料も、本実施形態に係る圧電材料に含まれる。もちろん、本実施形態で使用可能な圧電材料は、上述したようなPb、Bi、Na、K等を含む材料に限定されない。
【0050】
第2電極80は、図2図5に示すように、圧電体層70の第1電極60とは反対側である-Z方向側に連続して設けられており、複数の活性部310に共通する共通電極を構成する。第2電極80は、+Y方向が所定の幅となるように、+X方向に亘って連続して設けられている。また、第2電極80は、凹部71の内面、すなわち、圧電体層70の凹部71の側面上および凹部71の底面である振動板50上にも設けられている。もちろん、第2電極80は、凹部71の内面の一部のみに設けるようにしてもよく、凹部71の内面の全面に亘って設けないようにしてもよい。すなわち、本実施形態では、流路形成基板10上において、圧電アクチュエーター300の+Y方向側および-Y方向側の端部には、第2電極80は設けられておらず、振動板50が-Z方向の表面に露出して設けられている。
【0051】
第2電極80の材料としては、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、金(Au)等の貴金属材料、およびランタンニッケル酸化物(LNO)に代表される導電性酸化物などが用いられる。また、第2電極80は、複数材料の積層であってもよい。第2電極80としては、イリジウム(Ir)とチタン(Ti)とを含むものを用いるのが好ましい。第2電極80は、本実施形態では、イリジウム(Ir)とチタン(Ti)との積層電極を使用している。
【0052】
また、第1電極60からは、引き出し配線である個別リード電極91が引き出されている。第2電極80からは引き出し配線である共通リード電極92が引き出されている。これら個別リード電極91および共通リード電極92の圧電アクチュエーター300に接続された端部とは反対側の端部には、上述のように可撓性を有する配線基板120が接続されている。配線基板120は、圧電アクチュエーター300を駆動するためのスイッチング素子を有する駆動回路121が実装されている。
【0053】
振動板50は、図5に示すように、第1層51と第2層52と第3層53とを有し、これらがこの順で-Z方向に積層される。すなわち、振動板50は、第1層51と、第1層51と圧電アクチュエーター300との間に配置される第3層53と、第1層51と第3層53との間に配置される第2層52と、を有する。第1層51は、振動板50のうち最も流路形成基板10側、つまり、+Z方向側に配置されるものであり、流路形成基板10の-Z方向側に面に接する。また、第3層53は、振動板50のうち最も-Z方向側に配置されるものであり、圧電アクチュエーター300に接する。第2層52は、第1層51と第3層53との間に介在する。なお、図4および図5では、説明の便宜上、振動板50を構成する層同士の界面が明確に図示されるが、当該界面は明確でなくともよく、例えば、互いに隣り合う2つの層の界面付近において当該2つの層の構成材料同士が混在してもよい。このような第1層51、第2層52および第3層53を有する振動板50は、流路形成基板10の-Z方向側の全面に亘って連続して設けられている。
【0054】
第1層51は、構成元素としてケイ素(Si)を含む層である。具体的には、第1層51は、例えば、酸化シリコン(SiO)で構成される弾性膜である。ここで、第1層51には、酸化シリコンおよびその構成元素のほか、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、クロム(Cr)またはハフニウム(Hf)等の元素が不純物として少量含まれていてもよい。このような不純物は、酸化シリコン(SiO)を柔らかくする効果をもたらす。
【0055】
このように、本実施形態の第1層51は、例えば、酸化シリコンを含む。このような第1層51は、シリコン単結晶基板で構成される流路形成基板10を熱酸化することにより形成することで、スパッタリング法により形成する場合に比べて生産性よく形成することができる。
【0056】
なお、第1層51中のケイ素は、酸化物の状態で存在するほか、単体、窒化物または酸窒化物等の状態で存在してもよい。また、第1層51中の不純物は、第1層51の形成の際に不可避的に混入される元素であってもよく、意図的に第1層51内に混入される元素であってもよい。
【0057】
第1層51の厚さT1は、振動板50の厚さTおよび幅W等に応じて決められる。第1層51の厚さT1は、例えば、100nm以上20000nm以下の範囲内であることが好ましく、500nm以上1500nm以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0058】
第3層53は、構成元素としてジルコニウム(Zr)を含む層である。具体的には、第3層53は、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO)で構成される絶縁膜である。ここで、第3層53には、酸化ジルコニウムおよびその構成元素のほか、チタン(Ti)、鉄(Fe)、クロム(Cr)またはハフニウム(Hf)等の元素が不純物として少量含まれていてもよい。このような不純物は、酸化ジルコニウム(ZrO)を柔らかくする効果をもたらす。ただし、第3層53に含まれる不純物の濃度は、詳しくは後述する第2層52に含まれる不純物の濃度よりも低い。
【0059】
このように第3層53は、例えば、酸化ジルコニウムを含む。このような第3層53は、例えば、スパッタリング法等によりジルコニウム単体の層を形成した後に、当該層を熱酸化することにより得られる。このため、第3層53を形成する際、所望の厚さの第3層53を容易に得ることができる。また、酸化ジルコニウムが優れた電気絶縁性、機械的強度および靱性を有するので、第3層53が酸化ジルコニウムを含むことにより、振動板50の特性を高めることができる。また、例えば、圧電体層70がチタン酸ジルコン酸鉛で構成される場合、第3層53が酸化ジルコニウムを含むことにより、圧電体層70を形成する際、高い配向率で(100)面に優先配向した圧電体層70を得やすいという利点もある。
【0060】
なお、第3層53中のジルコニウムは、酸化物の状態で存在するほか、単体、窒化物または酸窒化物等の状態で存在してもよい。また、第3層53中の不純物は、第3層53の形成の際に不可避的に混入される元素であってもよく、意図的に第3層53内に混入される元素であってもよい。例えば、当該不純物は、第3層53をスパッタリング法で形成する際に用いるジルコニウムターゲット中に含まれる不純物である。
【0061】
第3層53の厚さT3は、振動板50の厚さTおよび幅W等に応じて決められる。第3層53の厚さT3は、例えば、100nm以上20000nm以下の範囲内であることが好ましい。
【0062】
第2層52は、第1層51と第3層53との間に介在する。このため、第1層51と第3層53との接触が防止される。したがって、第1層51と第3層53とが接触する構成に比べて、第1層51中のシリコン酸化物が第3層53中のジルコニウムにより還元されることが低減される。
【0063】
また、第2層52は、第3層53中の不純物を吸収し、第3層53の第2層52側に不純物が溜まり、第3層53が変質することで隙間(ボイド)が生じるのを抑制する不純物吸収層として機能する。
【0064】
このような第2層52は、構成元素として、鉄、ケイ素およびジルコニウム以外の金属、半金属および半導体からなる群から選択される少なくとも1つを含む。このような第2層52の構成元素は、酸化物の状態で存在するほか、単体、窒化物または酸窒化物の状態で存在してもよい。なお、第2層52は、金属元素を1つだけ含むものであってもよく、2以上の複数の金属元素を含むものであってもよい。また、第2層52は、半金属や半導体の構成元素においても1つだけ含むものであってもよく、2以上の複数を含むものであってもよい。さらに、第2層52は、金属、半金属および半導体の何れか1つまたは2つ以上を組み合わせて含むものであってもよい。
【0065】
また、第2層52は、構成元素としてクロム(Cr)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)から選択される少なくとも1つの金属元素を含むことが好ましい。このような第2層52の金属元素は、酸化物の状態で存在するほか、単体、窒化物または酸窒化物の状態で存在してもよい。また、第2層52は、前述の金属元素を1つだけ含むものであってもよく、2以上の複数含むものであってもよい。
【0066】
また、第2層52は、ジルコニウムよりも酸化され難い金属元素を含む層であることが好ましく、第2層52は、例えば、当該金属元素の酸化物で構成されるのが好適である。言い換えると、第2層52は、ジルコニウムよりも酸化物生成自由エネルギーの大きい金属元素を含むのが好ましい。当該金属元素としては、クロム、チタンおよびアルミニウムのうち何れかの金属元素を含むことが好ましく、当該金属元素の酸化物で構成されるのが好適である。なお、酸化物生成自由エネルギーの大小関係は、例えば、公知のエリンガムダイアグラムに基づいて評価することが可能である。
【0067】
第2層52は、ジルコニウムよりも酸化され難い金属元素を含むことで、第2層52に含まれる金属元素がジルコニウムよりも酸化されやすい構成に比べて、つまり第2層52に含まれる金属元素の酸化物生成自由エネルギーがジルコニウムの酸化物生成自由エネルギーよりも小さい構成に比べて、第1層51に含まれるシリコン酸化物の還元を低減することができる。この結果、第2層52を用いない構成に比べて、第1層51と第3層53との密着力を高めることができる。
【0068】
また、第2層52は、クロム、チタンおよびアルミニウムの酸化物で構成されることにより、単体、窒化物、炭素系の材料よりも第1層51および第3層53との密着力を高めることができる。
【0069】
クロムは、ケイ素よりも酸化され難い。言い換えると、クロムの酸化物生成自由エネルギーは、ケイ素の酸化物生成自由エネルギーよりも大きい。このため、第2層52に金属元素としてクロムが含まれる場合、ケイ素よりも酸化され難い金属元素が第2層52に含まれない場合に比べて、第1層51に含まれるシリコン酸化物の還元を低減することができる。
【0070】
また、第2層52は、クロムを含む場合、例えば、クロムが酸化物を構成しており、酸化クロムを含む。このような第2層52は、スパッタリング法等によりクロム単体の層を形成した後に、当該層を熱酸化することにより得られる。このため、第2層52を形成する際、所望厚さの第2層52を容易に得ることができる。
【0071】
ここで、第2層52に含まれる酸化クロムは、多結晶、アモルファスまたは単結晶のいずれの状態でもよい。ただし、第2層52に含まれる酸化クロムがアモルファス状態であるアモルファス構造を有する場合、第2層52に含まれる酸化クロムが多結晶または単結晶の状態である場合に比べて、第2層52に生じる圧縮応力を低減することができる。この結果、第1層51または第3層53と第2層52との界面に生じる歪みを低減することができる。
【0072】
チタンまたはアルミニウムの酸化物は、熱により移動しやすい。このため、第2層52に金属元素としてチタンまたはアルミニウムが含まれる場合、当該金属元素の酸化物によるアンカー効果または化学結合により第1層51または第3層53のそれぞれと第2層52との層間での密着力を高めることができる。しかもチタンは、ケイ素またはジルコニウムとともに酸化物を形成しやすい。このため、第2層52に金属元素としてチタンが含まれる場合、チタンがケイ素とともに酸化物を形成することにより、第1層51と第2層52との密着力を高めたり、チタンがジルコニウムとともに酸化物を形成することにより、第2層52と第3層53との密着力を高めたりすることができる。
【0073】
また、第2層52は、チタンを含む場合、例えば、チタンが酸化物を構成しており、酸化チタンを含む。このような第2層52は、スパッタリング法等によりチタン単体の層を形成した後に、当該層を熱酸化することにより得られる。このため、第2層52を形成する際、所望の厚さの第2層52を容易に得ることができる。
【0074】
ここで、第2層52に含まれる酸化チタンは、多結晶、アモルファスまたは単結晶の何れの状態でもよい。ただし、第2層52に含まれる酸化チタンは、多結晶または単結晶の状態であることが好ましく、特に、結晶構造としてルチル構造を有することが好ましい。酸化チタンがとり得る結晶構造の中でも、ルチル構造は最も安定であり、熱により移動してもアナターゼまたはブロッカイト等の多形に変化し難い。したがって、第2層52に含まれる酸化チタンの結晶構造が他の結晶構造である場合に比べて、第2層52の熱安定性を高めることができる。
【0075】
また、第2層52は、アルミニウムを含む場合、例えば、アルミニウムが酸化物を構成しており、酸化アルミニウムを含む。このような第2層52は、スパッタリング法等によりアルミニウム単体の層を形成した後に、当該層を熱酸化することにより得られる。このため、第2層52を形成する際、所望の厚さの第2層52を容易に得ることができる。
【0076】
ここで、第2層52に含まれる酸化アルミニウムは、多結晶、アモルファスまたは単結晶の何れの状態でもよく、多結晶または単結晶の状態である場合、結晶構造として三方晶系構造を有する。
【0077】
また、第2層52には、前述の金属元素のほか、チタン(Ti)、ケイ素(Si)、鉄(Fe)、クロム(Cr)またはハフニウム(Hf)等の元素が不純物として含まれている。第2層52に含まれる不純物は、第1層51または第3層53に含まれる元素である。なお、不純物は、例えば、第2層52の当該金属元素とともに酸化物の状態で存在する。
【0078】
また、第2層52および第3層53において、不純物の濃度は、第2層52が最も高い。ここで言う「第2層52および第3層53における不純物」とは、第2層52および第3層の主成分である構成元素以外の元素のことである。主成分とは、各層から検出される強度が最も高い元素を言い、各層に含まれる主成分の状態は特に限定されず、それぞれ単体、酸化物の状態、窒化物の状態、酸窒化物の状態で存在してもよい。つまり、「第2層52および第3層53における不純物」とは、第2層52を構成する前述の金属元素および第3層53を構成するジルコニウム以外の元素のことである。したがって、第2層52および第3層53における不純物には、第1層51の構成元素であるケイ素も含まれる。また、第2層52および第3層53において不純物の濃度は、第2層52が最も高いとは、第2層52および第3層53の-Z方向における不純物の濃度分布において最も高い濃度の位置が第2層52の膜中に存在することを言う。
【0079】
第2層52は、第3層53に含まれる不純物を吸収して、第2層52および第3層53において不純物の濃度が最も高い位置を第2層52内にすることで、第3層53の不純物の濃度を低くすることができる。したがって、第3層53の第2層52側の界面に不純物が局在するのを抑制して、不純物による隙間が形成されるのを抑制することができる。このため、振動板50の靱性が隙間によって低下するのを抑制し、圧電アクチュエーター300の変形によって振動板50に外力が加わった際に振動板50が破壊されるのを抑制することができる。また、前述の金属元素を構成元素として含む第2層52を設けることで、第1層51側からケイ素が第3層53に拡散するのを抑制することができる。したがって、ケイ素とジルコニウムとの化合物が形成されるのを抑制して、ケイ素由来の不純物による第2層52と第3層53との隙間の発生を抑制することができる。
【0080】
また、第2層52を設けることで、第3層53と第2層52との界面に隙間が形成されるのを抑制することができるため、圧電アクチュエーター300の端面側から第2層52と第3層53との界面に水分が侵入するのを抑制することができる。したがって、第3層53のジルコニウムが水分によって脆化するのを抑制することができ、第3層53と当該第3層53の上下の層との間で層間剥離や、第3層53のクラック等の破損を抑制することができる。
【0081】
また、振動板50は、ジルコニウム濃度が最も高い位置が第3層53にあり、ケイ素濃度が最も高い位置が第1層51にある。つまり、振動板50は、-Z方向におけるジルコニウムの濃度分布において、最も高い濃度の位置が第3層53の膜中に存在する。また、振動板50は、-Z方向におけるケイ素の濃度分布において、最も高い濃度の位置が第1層51の膜中に存在する。第3層53は、ジルコニウムを主成分とするため、ジルコニウムの濃度は、第3層53の-Z方向に亘って略同じ最も高い濃度となっている。同様に、第1層51は、ケイ素を主成分とするため、ケイ素の濃度は、-Z方向に亘って略同じ最も高い濃度となっている。
【0082】
なお、第2層52および第3層53に含まれる不純物が、鉄、クロムの少なくとも一方の場合、第3層53の不純物の濃度は、第1層51の不純物の濃度よりも高いことが好ましい。第1層51の不純物の濃度を小さくすることで、第1層51の第2層52側の界面に不純物が局在するのを抑制して、当該界面に隙間が形成されるのを抑制することができる。これにより、当該界面からの水分浸入が抑制でき、第2層52と第1層51が水分により、脆化するのを抑制することができ、第2層52と第1層51の間での層間剥離や、第2層52や第1層51のクラック等の破損を抑制することができる。
【0083】
また、第2層52の厚さT2は、第2層52の材料および不純物によって決まる。例えば、第2層52がチタンの酸化物で構成され、第2層52および第3層53の不純物が、鉄またはクロムの少なくとも一方を含む化合物の場合、第2層52の-Z方向における厚さは、10nm以上40nm以下とするのが好ましい。このように第2層52の厚さを10nm以上40nm以下とすることで、不純物である鉄およびクロムの濃度が最も高い位置を第2層52内にすることができる。なお、第2層52の厚さT2が前述の厚さよりも厚い場合、第2層52の構成元素が第2層52から第3層53に多く拡散し、第3層53の不純物が第2層52に吸収され難くなる。この結果、不純物の濃度が最も高い位置が第2層52内に存在しなくなり、第3層53の第2層52側の界面付近に不純物が局在した層が形成されてしまう。
【0084】
また、例えば、第2層52がチタンの酸化物で構成され、第2層52および第3層53の不純物が、ケイ素を含む化合物の場合、第2層52の-Z方向における厚さは、10nm以上60nm以下であることが好ましく、20nm以上60nm以下であることが好適である。このように第2層52の厚さを10nm以上60nm以下、より好ましくは20nm以上60nm以下とすることで、不純物であるケイ素の濃度が最も高い位置を第2層52内にすることができる。
【0085】
また、例えば、第2層52がクロムの酸化物で構成され、第2層52および第3層53の不純物が、ケイ素を含む化合物の場合、第2層52の-Z方向における厚さは、5nm以上30nm以下であることが好ましい。このように第2層52の厚さを5nm以上30nm以下とすることで、不純物であるケイ素の濃度が最も高い位置を第2層52内にすることができる。
【0086】
これに対し、厚さT2が薄すぎると、第2層52に含まれる構成元素の種類等によっては、第1層51からのケイ素単体の拡散を第2層52により低減する効果が低下する傾向を示す。例えば、第2層52が酸化チタンで構成される場合、厚さT2が薄すぎると、製造時の熱処理の条件等によっては、第1層51から第2層52に拡散したケイ素が第3層53に到達してしまう場合がある。一方、厚さT2が厚すぎると、第2層52の製造時の熱処理を十分に行うことができないことや、当該熱酸化に長時間を要する結果、他の層に悪影響を与えたりする場合がある。
【0087】
このように第3層53の不純物を、第2層52に吸収させることで、第2層52および第3層53における不純物の濃度が最も高い位置を第2層52内に存在させることができる。したがって、第3層53の不純物の濃度を低くすることができる。このため、第3層53の第2層52側の界面に不純物が局在するのを抑制して、第2層52と第3層53との界面に不純物による隙間が形成されるのを抑制することができる。これにより、振動板50の靱性が隙間によって低下するのを抑制し、圧電アクチュエーター300の変形によって振動板50に外力が加わった際に振動板50が破壊されるのを抑制することができる。また、前述の金属元素を構成元素として含む第2層52を設けることで、第1層51側からケイ素が第3層53に拡散するのを抑制することができる。したがって、ケイ素とジルコニウムとの化合物が形成されるのを抑制して、ケイ素由来の不純物による第2層52と第3層53との隙間の発生を抑制することができる。
【0088】
なお、第3層53の不純物は、第3層53内において、酸化物の状態で存在するほか、単体、窒化物または酸窒化物の状態で存在してもよい。
【0089】
図6は、圧電デバイスの製造方法を説明するための図である。以下、図6に基づいて記録ヘッドを製造する場合を例に圧電デバイスの製造方法を説明する。
【0090】
記録ヘッドの製造方法は、図6に示すように、基板準備工程S10と振動板形成工程S20と圧電アクチュエーター形成工程S30と圧力室形成工程S40とを有する。ここで、振動板形成工程S20は、第1層形成工程S21と第2層形成工程S22と第3層形成工程S23とを有する。以下、各工程を順次説明する。
【0091】
基板準備工程S10は、流路形成基板10となるべき基板を準備する工程である。当該基板は、例えば、シリコン単結晶基板である。
【0092】
振動板形成工程S20は、前述の振動板50を形成する工程であり、基板準備工程S10の後に行われる。振動板形成工程S20では、第1層形成工程S21と第2層形成工程S22と第3層形成工程S23とがこの順で行われる。
【0093】
第1層形成工程S21は、前述の第1層51を形成する工程である。第1層形成工程S21では、例えば、基板準備工程S10で準備したシリコン単結晶基板の一方の面を熱酸化することにより、酸化シリコン(SiO)で構成される第1層51を形成する。なお、第1層51の形成方法は、特にこれに限定されず、例えば、スパッタリング法、化学蒸着法(CVD法)、真空蒸着法(PVD法)、原子層堆積法(ALD法)、スピンコート法等によって形成してもよい。
【0094】
第2層形成工程S22は、前述の第2層52を形成する工程である。第2層形成工程S22では、例えば、第1層51上に、スパッタリング法によりクロム、チタンまたはアルミニウムの元素層を形成し、当該元素層を加熱して酸化させることにより、酸化クロム、酸化チタンまたは酸化アルミニウムで構成される第2層52を形成する。なお、第2層52の形成方法は、特にこれに限定されず、例えば、CVD法、PVD法、ALD法、スピンコート法等を用いてもよい。もちろん、上述したように、第2層52の構成元素は、クロム、チタンまたはアルミニウムに限定されず、鉄、ケイ素およびジルコニウム以外の金属、半金属および半導体であればよい。
【0095】
第3層形成工程S23は、前述の第3層53を形成する工程である。第3層形成工程S23では、例えば、第1層51上に、スパッタリング法によりジルコニウムのジルコニウム層を形成し、当該ジルコニウム層を加熱して酸化させることにより、酸化ジルコニウムで構成される第3層53を形成する。これら第1層形成工程S21および第3層形成工程S23によって振動板50が形成される。なお、第3層53の形成は、特にこれに限定されず、例えば、CVD法、PVD法、ALD法、スピンコート法等を用いてもよい。
【0096】
このように、第2層52と第3層53とをそれぞれ熱酸化して成膜することで、第3層53内の不純物を第2層52に拡散および吸収させて、第2層52および第3層53において不純物の濃度が最も高い位置を第2層52にすることができる。つまり、第3層53の不純物の濃度を低減することができる。
【0097】
圧電アクチュエーター形成工程S30は、前述の圧電アクチュエーター300を形成する工程であり、第3層形成工程S23の後に行われる。圧電アクチュエーター形成工程S30は、第3層53上に第1電極60、圧電体層70および第2電極80がこの順で形成される。
【0098】
第1電極60および第2電極80のそれぞれは、例えば、スパッタリング法等の公知の成膜技術、およびフォトリソグラフィー法およびエッチング等を用いる公知の加工技術により形成される。圧電体層70は、例えば、ゾル-ゲル法により圧電体層70の前駆体層を形成し、その前駆体層を焼成して結晶化することにより圧電体層70を形成する。もちろん、圧電体層70の形成方法は、特にこれに限定されず、例えば、MOD(Metal-Organic Decomposition)法や、スパッタリング法、レーザーアブレーション法等で形成してもよい。また、圧電体層70は、フォトリソグラフィー法およびエッチング等を用いる公知の加工技術により所定形状に形成される。
【0099】
圧電アクチュエーター300の形成後には、必要に応じて、その形成後の基板の両面のうち圧電アクチュエーター300が形成される面とは異なる面がCMP(chemical mechanical polishing)等により研削され、当該面の平坦化または当該基板の厚さ調整が行われる。
【0100】
圧力室形成工程S40は、前述の圧力室12を形成する工程であり、圧電アクチュエーター形成工程S30の後に行われる。圧力室形成工程S40では、例えば、圧電アクチュエーター300の形成後のシリコン単結晶基板の両面のうち圧電アクチュエーター300が形成される面とは異なる面を異方性エッチングすることにより、圧力室12が形成される。この結果、圧力室12が形成される流路形成基板10が得られる。このとき、シリコン単結晶基板を異方性エッチングするエッチング液としては、例えば、水酸化カリウム水溶液(KOH)等が用いられる。また、このとき、第1層51は、当該異方性エッチングを停止させる停止層として機能する。
【0101】
圧力室形成工程S40の後、流路形成基板10に保護基板30、連通板15等を接着剤により接合する工程等を適宜に行うことにより、記録ヘッド2が製造される。
【0102】
(サンプル1)
面方位(110)のシリコン単結晶基板の一方の面を熱酸化することにより、酸化シリコンで構成される厚さ1185nmの第1層51を形成した。
【0103】
次に、第1層51上にスパッタリング法によりジルコニウムからなる膜を成膜し、当該膜を900℃で熱酸化することにより、酸化ジルコニウムで構成される厚さ645nmの第3層53を形成した。
以上により第1層51および第3層53からなる振動板50を製造した。
【0104】
(サンプル2)
上述したサンプル1と同じ第1層51の上に、スパッタリング法でチタンからなる膜を成膜し、当該膜を熱酸化することにより酸化チタンで構成される厚さ10nmの第2層52を形成した。
【0105】
この第2層52上にサンプル1と同じ第3層53を形成した。
【0106】
以上により第1層51、第2層52および第3層53からなる振動板50を製造した。
【0107】
(サンプル3~10)
第2層52の厚さを変更した以外、上述したサンプル2と同じとした。サンプル3~10は、第2層52の厚さがそれぞれ順番に15nm、20nm、25nm、30nm、35nm、40nm、50nm、60nmである。
【0108】
(試験例1)
サンプル1~10を収束イオンビーム(FIB)で断面を作成し、断面の元素分布をSTEM-EDSにより分析した。この結果を図7図9に示す。なお、図7は、鉄の元素分布を示すグラフである。図8は、クロムの元素分布を示すグラフである。図9は、ケイ素の元素分布を示すグラフである。
【0109】
また、サンプル1、4、8、10のそれぞれの断面をSTEM(走査型透過電子顕微鏡)により観察した。この結果を図10図13に示す。また、これらの結果を下記表1に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
図7図9に示す結果から、第2層52を設けていないサンプル1では、鉄、クロム、シリコンの不純物は、第3層53の第1層51側の界面に局在分布している。そして、サンプル1では、図10に示すように、第3層53の第1層51側に鉄化合物が局在的に集積している。
これに対して、図7図9図11図13に示す結果から、サンプル2~サンプル8では、鉄、クロムの濃度が最も高い位置が第2層52に存在し、第3層53の不純物が局在化するのを抑制している。また、サンプル2~サンプル8では、サンプル1に比べて、第1層51のケイ素が第3層53に拡散するのを抑制することができる。また、サンプル4~サンプル8では、サンプル2およびサンプル3に比べて、第3層53へのケイ素の拡散をより抑制することができる。なお、サンプル4では、隙間が見られるものの、連続的につながった隙間ではなく点在する隙間であるため、水分侵入は抑制できる。
図12に示すように、特にサンプル8では、不純物である鉄が第3層53に殆ど見られない。
また、図7図9に示すように、サンプル9およびサンプル10では、第3層53へのケイ素の拡散は抑制できるものの、第3層53の第2層52側の界面付近に鉄とクロムが局在分布している。そして、サンプル10では、図13に示すように、第3層53と第1層51との界面に隙間が形成されている。
このため、鉄、クロム、ケイ素の全ての不純物の第3層53への拡散を抑制するには、第2層52の厚さT2は、20nm以上40nm以下であることが好ましい。
【0112】
また、第2層52と第3層53とは、価数が同じであることが好ましい。ここで、第2層52と第3層53との価数が同じであるとは、第2層52の主となる構成元素の価数と第3層53の主となる構成元素の価数との差Xが、-0.5≦X<+0.5の範囲内にあることを言う。このように第2層52と第3層53との価数を同じにすることで、振動板50全体の絶縁性が高くなるため、圧電アクチュエーター300の複数の活性部310の間におけるリーク電流を抑制することができる。したがって、リーク電流を抑制して、リーク電流による活性部310の変位低下を低減することができる。
【0113】
例えば、第3層53が酸化ジルコニウム(ZrO)の+4価で構成される場合には、第2層52の構成元素は、同じ+4価で安定なチタン等を用いるのが好ましい。
【0114】
また、第2層52と第3層53とは、価数が異なることが好ましい。ここで、第2層52と第3層53との価数が異なるとは、第2層52の主となる構成元素の価数と第3層53の主となる構成元素の価数との差Xが、X<-0.5、+0.5≦Xの範囲内にあることを言う。つまり、第2層52の構成元素が+4価の場合、第3層53の構成元素は、+3.5価よりも小さい、または、+4.5価以上であることが好ましい。
【0115】
このように、第2層52と第3層53との価数を異ならせることで、第2層52の構成元素が、第3層53の-Z方向側に移動し易くなる。このため、活性部310を選択的に駆動した際に、駆動しない他の活性部310にリーク電流を発生させて微少な電流を流すことにより、動かし続けた活性部310と動かしていない他の活性部310との劣化ばらつきを抑制することができる。したがって、複数の活性部310の変位低下のばらつきを抑制することができ、インク滴の吐出特性のばらつきを抑制し、印刷品質を向上することができる。
【0116】
例えば、第3層53が酸化ジルコニウム(ZrO)の+4価で構成される場合には、第2層52の構成元素は、第3層53と異なる価数のクロム、アルミニウム等を用いるのが好ましい。
【0117】
(サンプル11)
サンプル1と同じ振動板50上に第1電極60、圧電体層70および第2電極80を成膜及びパターニングして実施形態1と同様の形状の圧電アクチュエーター300を形成した。
【0118】
その後、水酸化カリウム水溶液(KOH)等をエッチング液として用いてシリコン単結晶基板の他方の面を異方性エッチングすることにより、第1層51を底面とする凹部を形成した。
【0119】
(サンプル12)
第3層53の厚みを645nmとした以外は、サンプル11と同じとした。
【0120】
(サンプル13)
サンプル11の第1層51上にスパッタリング法でチタンからなる膜を成膜し、当該膜を熱酸化することにより、酸化チタンで構成される厚さ40nmの第2層52を形成した。
【0121】
また、第2層52上に形成する第3層53の厚さを250nmとした以外、上述したサンプル11と同じとした。
【0122】
(サンプル14)
サンプル11の第1層51上にスパッタリング法でクロムからなる膜を成膜し、当該膜を熱酸化することにより、酸化クロムで構成される厚さ40nmの第2層52を形成した。
【0123】
また、第2層52上に形成する第3層53の厚さを500nmとした以外、上述したサンプル11と同じとした。
【0124】
(サンプル15)
第3層53の厚さを250nmとした以外、前述のサンプル14と同じとした。
【0125】
(試験例2)
サンプル11から15のそれぞれの圧電アクチュエーターの複数の活性部に対して、後述の耐圧試験を行って平均値を求めた。この結果を図14および下記表2に示す。
【0126】
なお、耐圧試験は、第1電極60と第2電極80との間に印加する電圧を40Vから180Vまで変化させ、その中でリーク電流が1000nAを越えたら電圧の印加を停止し、その1000nAを越えた電圧を「耐圧」とする。
【0127】
【表2】
【0128】
図14および表2に示す結果からサンプル13のように第3層53と第2層52との価数を揃えることで振動板50の絶縁性が高くなり、複数の活性部310の間におけるリーク電流を抑制することができる。
【0129】
また、サンプル14および15のように第3層53と第2層52との価数を異ならせることで、リーク電流を大きくして他の活性部310を微振動駆動させることができる。
【0130】
また、第2層52は、第3層53側に層状の不純物が偏在していることが好ましい。当該不純物は、鉄酸化物からなる。つまり、第2層52内において不純物である鉄はZ軸に沿って均一に分布されておらず、第3層53側のみに偏在することで、不純物である鉄の濃度を局所的に高くすることができる。このような第2層52の第3層53側の鉄の原子濃度は、0.9%以上であることが好ましい。
【0131】
このように第2層52の第3層53側に層状の鉄酸化物を有することで、第2層52の膜厚と垂直方向に結晶格子の変形を大きくすることができ、第2層52全体の内部応力である引張応力を低減し、振動板50全体における内部応力を低減することができる。したがって、圧電アクチュエーター300の変形によって振動板50に外力が加わった際に振動板50が破壊されるのを抑制することができる。特に破壊されやすい第2層52と第3層53との界面近傍に鉄酸化物を層状に偏在させることで、界面付近における第2層52の結晶格子の変形を大きくして応力集中を抑制することができ、破壊されやすい界面付近の破壊を効果的に抑制することができる。
【0132】
(サンプル16)
第3層53の厚さを400nmとした以外は、サンプル1と同じ振動板50とした。
【0133】
(サンプル17)
第3層53の厚さを491nmとした以外は、サンプル1と同じ振動板50とした。
【0134】
(サンプル18)
第3層53の厚さを645nmとした以外は、サンプル1と同じ振動板50とした。
【0135】
(サンプル19)
第3層53の厚さを1280nmとした以外は、サンプル1と同じ振動板50とした。
【0136】
(サンプル20)
第3層53の厚さを605nmとした以外は、サンプル8と同じ振動板50とした。すなわち、厚さが40nmの第2層52を設ける構成とした。
サンプル16~20の第3層の膜厚と図15~19の膜厚が対応していないように見えます。
【0137】
(試験例3)
サンプル16~20を収束イオンビーム(FIB)で断面を作成し、この断面をSTEMにより観察した。この結果を図15図19に示す。また、サンプル20をSTEM-EDSによる分析を行った。この結果を図20に示す。
【0138】
図15および図16に示すように、サンプル16およびサンプル17の第3層53には、粒状の鉄酸化物が形成されていない。
【0139】
また、図17および図18に示すように、サンプル18およびサンプル19の第3層53の第1層51側には、粒状の鉄酸化物が局所的に形成されている。
これに対して、図19および図20に示すように、サンプル20の第2層52の第3層53側には、層状の鉄酸化物が局所的に形成されている。
【0140】
以上の結果から、第2層52を設けることで、第2層52の第3層53側に層状の不純物、本実施形態では、鉄酸化物を形成することができる。また、上述したサンプル20では、第2層52の第1層51側にも鉄酸化物からなる不純物が層状に形成されている。これによっても第2層52の第1層51側の界面付近における第2層52の結晶格子の変形を大きくして応力集中を抑制することができ、破壊されやすい界面付近の破壊を効果的に抑制することができる。
【0141】
(試験例4)
サンプル16~20に対して、シリコン単結晶基板の反り量を薄膜応力測定装置(別名、薄膜ストレス測定装置)で測定し、シリコン単結晶基板の反り量から第3層53の膜応力を算出した。この結果を下記表3に示す。
【0142】
【表3】
【0143】
表3に示すように、第2層52に鉄酸化物である不純物が層状に偏在するサンプル20では、サンプル16~サンプル19と比較して引張応力となる膜応力を低減することができる。したがって、サンプル20のように第2層52の第3層53側に鉄酸化物の不純物を偏在させることで、振動板50に外力が加わった際に、振動板50が応力限界に達するのを抑制して、振動板50の破壊を抑制することができる。
【0144】
以上説明したように、本発明の圧電デバイスの一例である記録ヘッド2は、基板である流路形成基板10と、振動板50と、圧電アクチュエーター300と、を具備し、流路形成基板10、振動板50および圧電アクチュエーター300がこの順で第1方向である-Z方向に積層されている。また、振動板50は、構成元素としてケイ素を含む第1層51と、第1層51と圧電アクチュエーター300との間に配置され、構成元素としてジルコニウムを含む第3層53と、を有する。また、振動板50は、第1層51と第3層53との間に配置され、構成元素として鉄、ケイ素およびジルコニウム以外の金属、半金属および半導体からなる群から選択される少なくとも1つを含む第2層52を有する。そして、第2層52および第3層53において、第2層52および第3層53の構成元素以外の不純物の濃度が最も高い位置が第2層52にあり、ジルコニウム濃度が最も高い位置が第3層53にあり、ケイ素濃度が最も高い位置が第1層51にある。
【0145】
このように第2層52および第3層53において不純物の濃度が最も高い位置を第2層52とする、すなわち、第3層53の不純物を第2層52で吸収することで、第3層53内の不純物を低減することができる。特に、第3層53内の不純物が第2層52との界面付近に局在するのを抑制して、第3層53と第2層52との界面に隙間が形成されるのを抑制することができる。このため、振動板50の靱性が隙間によって低下するのを抑制し、圧電アクチュエーター300の変形によって振動板50に外力が加わった際に振動板50が破壊されるのを抑制することができる。また、第3層53と第2層52との隙間に水分が侵入するのを抑制して、第3層53のジルコニウムが水分によって脆化するのを抑制することができ、第3層53と当該第3層53の上下の層との間で層間剥離や、第3層53のクラック等の破損を抑制することができる。
【0146】
また、本実施形態の記録ヘッド2では、第2層52は、クロム、チタンおよびアルミニウムからなる群から選択される少なくとも1つの金属元素を含むことが好ましい。第2層52の構成元素として、クロム、チタンおよびアルミニウムを用いることで、成膜し易く、第2層52と第1層51および第3層53との密着性を向上することができる。また、前述の金属元素を構成元素として含む第2層52を設けることで、第1層51側からケイ素が第3層53に拡散するのを抑制することができる。したがって、ケイ素とジルコニウムとの化合物が形成されるのを抑制して、ケイ素由来の不純物による第2層52と第3層53との隙間の発生を抑制することができる。したがって、ケイ素とジルコニウムとの化合物が形成されるのを抑制して、ケイ素由来の不純物による第2層52と第3層53との隙間の発生を抑制することができる。
【0147】
また、本実施形態の記録ヘッド2では、不純物は、鉄、クロムおよびケイ素からなる群から選択される少なくとも1つの化合物であることが好ましい。第3層53に含まれる鉄、クロムや、第1層51のケイ素の第3層53における濃度を低減して、第3層53と第2層52との界面に隙間が形成されるのを抑制することができる。
【0148】
また、本実施形態の記録ヘッド2では、不純物は、鉄およびクロムの少なくとも一方を含む化合物であることが好ましい。これによれば、第3層53における鉄、クロムの濃度を低減し、第3層53と第2層52との界面に隙間が形成されるのを抑制することができる。
【0149】
また、本実施形態の記録ヘッド2では、不純物の濃度は、第3層53が、第1層51よりも高いことが好ましい。これによれば、第1層51の不純物の濃度を低くすることで、第1層51の第2層52側の界面に不純物が局在するのを抑制して、当該界面に隙間が形成されるのを抑制することができる。これにより、当該界面からの水分浸入が抑制でき、第2層52と第1層51が水分により、脆化するのを抑制することができ、第2層52と第1層51の間での層間剥離や、第2層52や第1層51のクラック等の破損を抑制することができる。
【0150】
また、本実施形態の記録ヘッド2では、第2層52の第3層53側の界面には、不純物が層状に偏在していることが好ましい。このように第2層52の第3層53側に層状の不純物を有することで、第2層52の膜厚と垂直方向に結晶格子の変形を大きくすることができ、第2層52全体の内部応力である引張応力を低減し、振動板50全体における内部応力を低減することができる。したがって、圧電アクチュエーター300の変形によって振動板50に外力が加わった際に振動板50が破壊されるのを抑制することができる。特に、第2層52と第3層53との界面における応力集中を抑制して、当該界面における破壊を抑制することができる。
【0151】
また、本実施形態の記録ヘッド2では、不純物がケイ素を含み、第2層52の第1方向である-Z方向における厚さは10nm以上60nm以下であることが好ましい。このように第2層52を前述の厚さの範囲とすることで、第1層51から第2層52に拡散したケイ素が第3層53に到達するのを抑制して、第3層53におけるケイ素の濃度を低減することができる。
【0152】
また、本実施形態の記録ヘッド2では、不純物が、鉄またはクロムを含み、第2層52の第1方向である-Z方向における厚さは10nm以上40nm以下であることが好ましい。このように第2層52を前述の厚さの範囲とすることで、第3層53内の不純物を第2層52に吸収して、第3層53の不純物の濃度を低減することができる。
【0153】
また、本実施形態の記録ヘッド2では、第2層52と第3層53とは、価数が異なることが好ましい。これによれば、活性部310を選択的に駆動した際に、駆動しない他の活性部310にリーク電流を発生させて微少な電流を流すことにより、動かし続けた活性部310と動かしていない他の活性部310との劣化ばらつきを抑制することができる。したがって、複数の活性部310の変位低下のばらつきを抑制することができ、インク滴の吐出特性のばらつきを抑制し、印刷品質を向上することができる。
【0154】
また、本実施形態の記録ヘッド2では、第2層52と第3層53とは、価数が同じであることが好ましい。これによれば、振動板50の絶縁性を高くして、リーク電流を抑制し、活性部310の変位低下を抑制することができる。
【0155】
また、本実施形態の記録ヘッド2では、第1層51は、酸化シリコンを含み、第3層53は、酸化ジルコニウムを含むことが好ましい。これによれば、第1層51をエッチングストップ層として流路形成基板10に圧力室12をエッチングにより高精度に形成することができる。また、第3層53の表面状態により、圧電体層70の結晶構造を制御することができる。
【0156】
また、本実施形態の記録ヘッド2では、第2層52は、酸化クロムを含むことが好ましい。このように、第2層52が酸化クロムを含むことで、第2層52と第3層53との密着力を向上して、界面に空隙が形成されるのを抑制することができる。
【0157】
また、本実施形態の記録ヘッド2では、第2層52に含まれる酸化クロムは、アモルファス構造を有することが好ましい。これによれば、第2層52の内部応力である圧縮応力を低減することができ、第1層51または第3層53との界面に生じる歪みを低減することができる。
【0158】
また、本実施形態の記録ヘッド2では、第2層52は、酸化チタンを含むことが好ましい。このように、第2層52が酸化チタンを含むことで、第2層52と第3層53との密着力を向上して、界面に空隙が形成されるのを抑制することができる。
【0159】
また、本実施形態の記録ヘッド2では、第2層52に含まれる酸化チタンは、ルチル構造を有することが好ましい。このように、第2層52に含まれる酸化チタンがルチル構造を有することにより、第2層52に含まれる酸化チタンの結晶構造が他の結晶構造である場合に比べて、第2層52の熱安定性を高めることができる。
【0160】
また、本発明の液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装置1は、前述の記録ヘッド2を具備する。振動板50の破壊を抑制して信頼性を向上したインクジェット式記録装置1を実現できる。
【0161】
本発明の圧電デバイスの一例である記録ヘッド2は、基板である流路形成基板10と、振動板50と、圧電アクチュエーター300と、を具備し、流路形成基板10、振動板50および圧電アクチュエーター300がこの順で第1方向である-Z方向に積層されている。また、振動板50は、構成元素としてケイ素を含む第1層51と、第1層51と圧電アクチュエーター300との間に配置され、構成元素としてジルコニウムを含む第3層53と、を有する。また、振動板50は、第1層51と第3層53との間に配置され、構成元素として鉄、ケイ素およびジルコニウム以外の金属、半金属および半導体からなる群から選択される少なくとも1つを含む第2層52を有する。そして、第2層52および第3層53において、第2層52および第3層53の構成元素以外の不純物の濃度が最も高い位置が第2層52にあり、ジルコニウム濃度が最も高い位置が第3層53にあり、ケイ素濃度が最も高い位置が第1層51にある。このような記録ヘッド2の製造方法は、流路形成基板10上に第1層51を形成する工程を有する。また、第1層51上に鉄、ケイ素およびジルコニウム以外の金属、半金属および半導体からなる群から選択される少なくとも1つを含む元素層を形成し、当該元素層を加熱して酸化物で構成される第2層52を形成する工程を有する。また、第2層52上にジルコニウムを含むジルコニウム層を形成し、当該ジルコニウム層を加熱して酸化ジルコニウムで構成される第3層53を形成する工程と、を具備する。
【0162】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明の基本的な構成は上述したものに限定されるものではない。
【0163】
例えば、上述した各実施形態では、第1電極60を圧電アクチュエーター300の個別電極とし、第2電極80を複数の圧電アクチュエーター300の共通電極としたが、特にこれに限定されず、第1電極60を複数の圧電アクチュエーター300の共通電極とし、第2電極80を各圧電アクチュエーター300の個別電極としてもよい。
【0164】
また、上述したインクジェット式記録装置1では、記録ヘッド2が搬送体7に搭載されて主走査方向であるX軸に沿って往復移動するものを例示したが、特にこれに限定されず、例えば、記録ヘッド2が固定されて、紙等の媒体Sを副走査方向であるY軸に沿って移動させるだけで印刷を行う、所謂ライン式記録装置にも本発明を適用することができる。
【0165】
なお、上記実施形態においては、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを、また液体噴射装置の一例としてインクジェット式記録装置を挙げて説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド及び液体噴射装置全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドや液体噴射装置にも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられ、かかる液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置にも適用できる。
【0166】
また、本発明は、インクジェット式記録ヘッドに代表される液体噴射ヘッドに限定されず、超音波デバイス、モーター、圧力センサー、焦電素子、強誘電体素子などの圧電デバイスにも適用することができる。また、これらの圧電デバイスを利用した完成体、たとえば、上記液体等噴射ヘッドを利用した液体等噴射装置、上記超音波デバイスを利用した超音波センサー、上記モーターを駆動源として利用したロボット、上記焦電素子を利用したIRセンサー、強誘電体素子を利用した強誘電体メモリーなども、圧電デバイスに含まれる。
【符号の説明】
【0167】
1…インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、2…インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、3…液体容器、4…搬送機構、4a…搬送ローラー、5…制御ユニット、6…移動機構、7…搬送体、8…搬送ベルト、10…流路形成基板(基板)、11…隔壁、12…圧力室(凹部)、15…連通板、16…ノズル連通路、17…第1マニホールド部、18…第2マニホールド部、19…供給連通路、20…ノズルプレート、20a…液体噴射面、21…ノズル、30…保護基板、31…保持部、32…貫通孔、40…ケース部材、41…凹部、42…第3マニホールド部、43…接続口、44…導入口、45…コンプライアンス基板、46…封止膜、47…固定基板、48…開口部、49…コンプライアンス部、50…振動板、51…第1層、52…第2層、53…第3層、60…第1電極、70…圧電体層、71…凹部、80…第2電極、91…個別リード電極、92…共通リード電極、100…マニホールド、120…配線基板、121…駆動回路、300…圧電アクチュエーター、310…活性部、S…媒体
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