(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175239
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】半導体洗浄用組成物および洗浄方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20221117BHJP
C11D 7/26 20060101ALI20221117BHJP
C11D 7/32 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
H01L21/304 647A
H01L21/304 648F
H01L21/304 642A
H01L21/304 643A
H01L21/304 622Q
C11D7/26
C11D7/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021081484
(22)【出願日】2021-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕也
(72)【発明者】
【氏名】岡本 匡史
(72)【発明者】
【氏名】羽木 慎一郎
【テーマコード(参考)】
4H003
5F057
5F157
【Fターム(参考)】
4H003AB08
4H003BA20
4H003DA15
4H003EB07
4H003EB08
4H003FA04
4H003FA16
4H003FA28
5F057AA21
5F057BA15
5F057CA12
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5F057EC30
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5F157BF72
5F157CB03
5F157CF74
5F157DB03
5F157DB57
(57)【要約】
【課題】被処理体の金属配線等に与えるダメージを抑制し、被処理体の表面から汚染を効率的に除去できる半導体洗浄用組成物、およびそれを用いた洗浄方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る半導体洗浄用組成物は、アミノ基およびその塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種の基と、カルボキシ基および炭素数8~18のアルキル基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の基とを有する化合物(A)と、カルボキシ基を有する化合物(B)と、液状媒体と、を含有し、前記化合物(A)の溶解パラメータと前記化合物(B)の溶解パラメータとの差が6以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基およびその塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種の基と、カルボキシ基および炭素数8~18のアルキル基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の基とを有する化合物(A)と、
カルボキシ基を有する化合物(B)と、
液状媒体と、
を含有し、
前記化合物(A)の溶解パラメータと前記化合物(B)の溶解パラメータとの差が6以下である、半導体洗浄用組成物。
【請求項2】
前記化合物(A)が、アミノ酸またはアミノ酸誘導体である、請求項1に記載の半導体洗浄用組成物。
【請求項3】
前記化合物(B)が、酢酸、マレイン酸、クエン酸、およびマロン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である、請求項1または請求項2に記載の半導体洗浄用組成物。
【請求項4】
pHが4~7である、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の半導体洗浄用組成物。
【請求項5】
配線基板の配線材料としてタングステンを含む面を、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の半導体洗浄用組成物を用いて処理する工程を含む、洗浄方法。
【請求項6】
配線材料としてタングステンを含む配線基板を、鉄イオンおよび過酸化物を含有する組成物を用いて化学機械研磨した後に、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の半導体洗浄用組成物を用いて処理する工程を含む、洗浄方法。
【請求項7】
さらに、前記半導体洗浄用組成物をデプスタイプまたはブリーツタイプのフィルタでろ過する工程を含む、請求項5または請求項6に記載の洗浄方法。
【請求項8】
前記半導体洗浄用組成物を用いて処理する手段が、洗浄槽に前記半導体洗浄用組成物を満たして前記配線基板を浸漬させるディップ式、ノズルから前記配線基板上に前記半導体洗浄用組成物を流下しながら該配線基板を高速回転させるスピン式、または前記配線基板に前記半導体洗浄用組成物を噴霧して洗浄するスプレー式、のいずれかの手段である、請求項5ないし請求項7のいずれか一項に記載の洗浄方法。
【請求項9】
さらに、前記配線基板を超純水または純水を用いて洗浄する工程を含む、請求項5ないし請求項8のいずれか一項に記載の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体洗浄用組成物およびそれを用いた洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造に活用されるCMP(Chemical Mechanical Polishing)とは、被処理体(被研磨体)を研磨パッドに圧着し、研磨パッド上に化学機械研磨用水系分散体(以下、単に「CMPスラリー」ともいう。)を供給しながら被処理体と研磨パッドとを相互に摺動させて、被処理体を化学的かつ機械的に研磨する技術である。このようなCMPに用いられるCMPスラリーには、研磨砥粒の他、エッチング剤やpH調整剤等の化学薬品が含有されている。そして、CMPにより研磨屑が発生するが、これらの研磨屑が被処理体に残留すると、致命的な装置欠陥となる場合がある。このため、CMP後、被処理体を洗浄する工程が必須となっている。
【0003】
CMP後の被処理体の表面には、銅やタングステン等の金属配線材、酸化シリコン等の絶縁材、窒化タンタルや窒化チタン等のバリアメタル材等が露出している。このような異種材料が被研磨面に共存する場合、被研磨面から汚染だけを除去し、腐食などのダメージを与えずに処理する必要がある。例えば特許文献1や特許文献2には、酸性の半導体洗浄用組成物を用いて金属配線材とバリアメタル材が露出した被研磨面の腐食を抑制する技術が開示されている。また、特許文献3や特許文献4には、中性からアルカリ性の半導体洗浄用組成物を用いて金属配線材とコバルトのようなバリアメタル材が露出した被研磨面を処理する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-258014号公報
【特許文献2】国際公開第2019/26478号
【特許文献3】特開2009-55020号公報
【特許文献4】特開2013-157516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の更なる回路構造の微細化に伴い、被処理体の金属配線等に与えるダメージを更に抑制し、被処理体の表面から汚染を効率的に除去できる処理技術が要求されている。
【0006】
例えば、金属配線としてタングステンを有する被処理体のCMPでは、硝酸鉄およびその他の酸化剤(過酸化水素、ヨウ素酸カリウムなど)を含有するCMPスラリーが使用される。このCMPスラリー中に含まれる鉄イオンが被処理体の表面に吸着しやすいため、被処理体の表面は鉄汚染されやすい。この場合、アンモニアおよび過酸化水素を含有する組成物や希フッ酸を用いて被処理体の表面を処理することで鉄汚染を除去することができるが、被処理体の表面が腐食されてしまいダメージを受けやすい。そのため、被処理体の金属配線等に及ぼす腐食によるダメージを可能な限り抑制し、被処理体の表面から汚染を効率的に除去できる処理技術が要求されていた。
【0007】
そこで、本発明に係る幾つかの態様は、被処理体の金属配線等に与えるダメージを抑制し、被処理体の表面から汚染を効率的に除去できる半導体洗浄用組成物、およびそれを用いた洗浄方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下のいずれかの態様として実現することができる。
【0009】
本発明に係る半導体洗浄用組成物の一態様は、
アミノ基およびその塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種の基と、カルボキシ基および炭素数8~18のアルキル基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の基とを有する化合物(A)と、
カルボキシ基を有する化合物(B)と、
液状媒体と、
を含有し、
前記化合物(A)の溶解パラメータと前記化合物(B)の溶解パラメータとの差が6以下である。
【0010】
前記半導体洗浄用組成物の一態様において、
前記化合物(A)が、アミノ酸またはアミノ酸誘導体であってもよい。
【0011】
前記半導体洗浄用組成物のいずれかの態様において、
前記化合物(B)が、酢酸、マレイン酸、クエン酸、およびマロン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であってもよい。
【0012】
前記半導体洗浄用組成物のいずれかの態様において、
pHが4~7であってもよい。
【0013】
本発明に係る洗浄方法の一態様は、
配線基板の配線材料としてタングステンを含む面を、前記いずれかの態様の半導体洗浄用組成物を用いて処理する工程を含む。
【0014】
本発明に係る洗浄方法の一態様は、
配線材料としてタングステンを含む配線基板を、鉄イオンおよび過酸化物を含有する組成物を用いて化学機械研磨した後に、前記いずれかの態様の半導体洗浄用組成物を用いて処理する工程を含む。
【0015】
前記洗浄方法の一態様において、
さらに、前記半導体洗浄用組成物をデプスタイプまたはブリーツタイプのフィルタでろ過する工程を含んでもよい。
【0016】
前記洗浄方法のいずれかの態様において、
前記半導体洗浄用組成物を用いて処理する手段が、洗浄槽に前記半導体洗浄用組成物を満たして前記配線基板を浸漬させるディップ式、ノズルから前記配線基板上に前記半導体洗浄用組成物を流下しながら該配線基板を高速回転させるスピン式、または前記配線基板に前記半導体洗浄用組成物を噴霧して洗浄するスプレー式、のいずれかの手段であってもよい。
【0017】
前記洗浄方法のいずれかの態様において、
さらに、前記配線基板を超純水または純水を用いて洗浄する工程を含んでもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る半導体洗浄用組成物を用いることにより、被処理体の金属配線等に与えるダメージを抑制し、被処理体の表面から汚染を効率的に除去できる。本発明に係る半導体
洗浄用組成物は、配線材料としてタングステンを含む配線基板を処理する場合に特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施形態に係る洗浄方法に用いられる配線基板の作製プロセスを模式的に示す断面図である。
【
図2】本実施形態に係る洗浄方法に用いられる配線基板の作製プロセスを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含む。
【0021】
1.半導体洗浄用組成物
本発明の一実施形態に係る半導体洗浄用組成物は、アミノ基およびその塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種の基と、カルボキシ基および炭素数8~18のアルキル基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の基とを有する化合物(A)と、カルボキシ基を有する化合物(B)と、液状媒体と、を含有し、前記化合物(A)の溶解パラメータと前記化合物(B)の溶解パラメータとの差が6以下である。
【0022】
本発明における「溶解パラメータ(Solubility Parameter:SP値)」とは、Fedorsの計算方法により算出される値のことをいう。本明細書においては、この「溶解パラメータ」を「SP値」ともいう。このSP値(δ)は、下記式(1)から求めることができる。
δ=(ΔE/ΔV)1/2(cal/cm3)1/2 (1)
式(1)中、ΔEは蒸発エネルギー(cal/mol)を表し、ΔVは25℃におけるモル体積(cm3/mol)を表す。
【0023】
本実施形態に係る半導体洗浄用組成物は、純水や有機溶媒などの液状媒体で希釈して用いることを目的とした濃縮タイプであってもよいし、希釈せずにそのまま用いることを目的とした非希釈タイプであってもよい。本明細書において、濃縮タイプもしくは非希釈タイプであることを特定しない場合には、「半導体洗浄用組成物」との用語は、濃縮タイプおよび非希釈タイプの両方を含む概念として解釈される。
【0024】
このような半導体洗浄用組成物は、主にCMP終了後のタングステンを含む配線層が設けられた被処理体の表面に存在するパーティクルや有機残渣等の汚染物質を除去するための洗浄剤として使用することができる。以下、本実施形態に係る半導体洗浄用組成物に含まれる各成分について詳細に説明する。
【0025】
1.1.化合物(A)
本実施形態に係る半導体洗浄用組成物は、アミノ基およびその塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種の基と、カルボキシ基および炭素数8~18のアルキル基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の基とを有する化合物(A)(本明細書において、単に「化合物(A)」ともいう。)を含有する。
【0026】
本発明における「アミノ基」とは、-NR1R2(ただし、R1、R2は各々独立して、水素原子、炭素数1~18の炭化水素基、およびヘテロ原子を有する炭素数1~20の有機基よりなる群から選ばれるいずれかを表し、R1およびR2が炭化水素基である場合、R1とR2が結合して環状構造を形成していてもよい。)を指す。ここで、R1および
R2が炭素数1~18の炭化水素基またはヘテロ原子を有する炭素数1~20の有機基である場合、後述する一般式(2)中のR1~R3における炭素数1~18の炭化水素基、ヘテロ原子を有する炭素数1~20の有機基と同義である。
【0027】
本実施形態に係る半導体洗浄用組成物中では、化合物(A)のアミノ基は下記一般式(1)で表される塩を形成していてもよい。
【化1】
(上記一般式(1)中、R
1、R
2およびR
3は各々独立して、水素原子、炭素数1~18の炭化水素基、およびヘテロ原子を有する炭素数1~20の有機基よりなる群から選ばれるいずれかを表す。M
-は、アニオンを示す。なお、R
1~R
3は全てが水素原子となることはない。R
1~R
3の2つ以上が結合して環構造を形成していてもよい。)
【0028】
上記一般式(1)中、R1~R3が炭素数1~18の炭化水素基またはヘテロ原子を有する炭素数1~20の有機基である場合、後述する一般式(2)中のR1~R3における炭素数1~18の炭化水素基、ヘテロ原子を有する炭素数1~20の有機基と同義である。上記一般式(1)において、M-で示されるアニオンとしては、例えば酸性化合物由来のアニオン、水酸化物イオン(OH-)等が挙げられる。
【0029】
化合物(A)は、被処理面の金属表面に吸着して腐食を低減させる機能を有している。そのため、半導体洗浄用組成物に化合物(A)を添加すると、被処理体のタングステンを含む配線等に及ぼす腐食によるダメージを低減することができる。また、本実施形態に係る半導体洗浄用組成物を用いて被処理体を処理した後、超純水または純水でリンスをすると、化合物(A)はタングステンを含む配線等に残留せずに洗い流されるので、汚染のない清浄な被処理面を得ることができる。さらに、化合物(A)は、半導体洗浄用組成物のpHを調整するためのpH調整剤としての機能を有している。
【0030】
化合物(A)のFedorsの計算方法により算出される溶解パラメータは、好ましくは5以上であり、より好ましくは7以上であり、さらに好ましくは8以上であり、特に好ましくは9以上である。また、化合物(A)のFedorsの計算方法により算出される溶解パラメータは、好ましくは30以下であり、より好ましくは25以下であり、さらに好ましくは20以下であり、特に好ましくは18以下である。
【0031】
化合物(A)は、水溶性であることが好ましい。本発明における「水溶性」とは、20℃の中性の水100gに溶解する質量が0.1g以上であることをいう。
【0032】
このような化合物(A)としては、アミノ酸またはモノアルキルアミンが好ましい。
【0033】
アミノ酸としては、下記一般式(2)で表される化合物等が挙げられる。
【化2】
(上記一般式(2)中、R
1、R
2およびR
3は各々独立して、水素原子、炭素数1~18の炭化水素基、およびヘテロ原子を有する炭素数1~20の有機基よりなる群から選ばれるいずれかを表す。)
【0034】
上記一般式(2)中のR1、R2およびR3における炭素数1~18の炭化水素基としては、例えば、炭素数1~18の脂肪族飽和炭化水素基、炭素数1~18の環状飽和炭化水素基、炭素数6~10の芳香族炭化水素基を挙げることができ、これらの中でも炭素数1~18の脂肪族飽和炭化水素基が好ましい。
【0035】
上記一般式(2)中のR1、R2およびR3におけるヘテロ原子を有する炭素数1~20の有機基としては、例えば、カルボキシ基を有する炭素数1~20の炭化水素基、ヒドロキシ基を有する炭素数1~20の炭化水素基、アミノ基を有する炭素数1~20の炭化水素基、メルカプト基を有する炭素数1~20の炭化水素基、複素環を有する炭素数1~20の有機基等を挙げることができ、これらの基はさらに酸素、窒素、硫黄、ハロゲン等のヘテロ原子を含んでいてもよく、その一部は他の置換基で置換されていてもよい。
【0036】
モノアルキルアミンとしては、下記一般式(3)で表される化合物等が挙げられる。
【化3】
(上記式(3)中、R
4は、炭素数8~18のアルキル基である。)
【0037】
上記一般式(3)中のR4における炭素数8~18のアルキル基としては、オクチル基2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。
【0038】
化合物(A)の具体例としては、ドデシルアミノエチルアミノエチルグリシン(SP値:9.9)、アルギニン(SP値:14.0)、ヒスチジン(SP値:17.0)、リシン(SP値:10.0)、オクチルアミン(SP値:8.7)、デシルアミン(SP値:8.6)、ドデシルアミン(SP値:8.6)、N-ラウロイルサルコシン(SP値:10.4)、ラウリルジメチルアミノ酢酸(SP値:9.0)、ステアロイルメチルタウリンナトリウム(9.1)等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0039】
本実施形態に係る半導体洗浄用組成物中の化合物(A)の含有量は、CMP後の被処理体の表面に露出しているタングステン等の金属配線材、酸化シリコン等の絶縁材、窒化タンタルや窒化チタン等のバリアメタル材等の材質や、使用されたCMPスラリーの組成により適宜変更することができる。
【0040】
さらに、本実施形態に係る濃縮タイプの半導体洗浄用組成物の希釈度合によっても、化合物(A)の含有量を適宜変更することができる。化合物(A)の含有量は、濃縮タイプの半導体洗浄用組成物を希釈して調製される洗浄剤もしくは非希釈タイプの半導体洗浄用組成物100質量%に対して、好ましくは0.0001~5質量%であり、より好ましくは0.001~1質量%であり、特に好ましくは0.005~0.1質量%である。化合物(A)の含有量が前記範囲内にあると、被処理体のタングステンを含む配線等の表面に吸着して保護することにより腐食を低減し、配線等に与えるダメージを抑制することができる。また、被処理体を超純水または純水でリンスした後に、化合物(A)は配線等の表面に残留せずに洗い流されるので、汚染のない清浄な被処理面を得ることができる。
【0041】
1.2.化合物(B)
本実施形態に係る半導体洗浄用組成物は、カルボキシ基を有する化合物(B)(本明細書において、単に「化合物(B)」ともいう。)を含有する。化合物(B)は、被処理体の表面に作用して有機残渣を除去する目的で用いられる。
【0042】
化合物(B)のFedorsの計算方法により算出される溶解パラメータは、好ましくは10以上であり、より好ましくは11以上であり、特に好ましくは12以上である。また、化合物(A)のFedorsの計算方法により算出される溶解パラメータは、好ましくは20以下であり、より好ましくは18以下であり、特に好ましくは16以下である。溶解パラメータが前記範囲にある化合物(B)は、被処理体の表面に残留する有機残渣と相互作用しやすく、有機残渣を組成物中に可溶化または分散させることができ、被処理体の表面から有機残渣を効率的に除去することができる。一方、溶解パラメータが前記範囲未満の化合物は、水溶性が低いため、被処理体の表面から有機残渣等の汚染を除去する効率が悪くなる。
【0043】
化合物(B)としては、有機酸であることが好ましく、例えば、酢酸(SP値:11.2)、クエン酸(SP値:15.8)、マレイン酸(SP値:13.5)、マロン酸(SP値:14.0)、ピロメリット酸(SP値:16.3)、ギ酸(SP値:17.1)、酒石酸(SP値:17.7)、トリメリット酸(SP値:15.2)、リンゴ酸(SP値:15.5)等を挙げることができる。これらの有機酸は、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0044】
また、化合物(B)としては、溶解パラメータが10以上の水溶性高分子であってもよく、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、およびこれらの塩;スチレン、α-メチルスチレン、4-メチルスチレン等のモノマーと、(メタ)アクリル酸、マレイン酸等の酸モノマーとの共重合体や、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸等をホルマリンで縮合させた芳香族炭化水素基を有する繰り返し単位を有する重合体およびこれらの塩;等を挙げることができる。これらの水溶性高分子は、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0045】
このような水溶性高分子は、単独重合体であってもよく、2種以上の単量体を共重合させた共重合体であってもよい。このような単量体としては、カルボキシ基を有する単量体を用いることができる。
【0046】
化合物(B)としての水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1千以上150万以下、より好ましくは3千以上120万以下である。なお、本明細書中における「重量平均分子量(Mw)」とは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によって測定されたポリエチレングリコール換算の重量平均分子量のことを指す。
【0047】
化合物(B)としての水溶性高分子は、半導体洗浄用組成物の粘度を調整することもできる。本実施形態に係る半導体洗浄用組成物の25℃における粘度は、好ましくは5mPa・s未満であり、より好ましくは4mPa・s以下であり、さらに好ましくは2mPa・s以下であり、さらにより好ましくは1.2mPa・s以下であり、特に好ましくは1mPa・s以下である。本実施形態に係る半導体洗浄用組成物の25℃における粘度が前記範囲にあると、半導体洗浄用組成物をろ過して精製する際に十分なろ過速度を出すことができ、実用に供するために十分なスループットを得ることができる。また、半導体洗浄用組成物の25℃における粘度が前記範囲にあると、半導体洗浄用組成物を用いた処理工程において、被処理体の表面に凹凸があった場合でも、該凹凸に組成物が侵入して凹凸表面に接触して処理することができるため、被処理体の表面をより均質に処理することができる。半導体洗浄用組成物の25℃における粘度が前記範囲を超えると、粘度が高くなりすぎることで被処理体に半導体洗浄用組成物を安定して供給することができない場合がある。化合物(B)が水溶性高分子である場合、半導体洗浄用組成物の粘度は、添加する水溶性高分子の重量平均分子量や含有量によりほぼ決定されるので、それらのバランスを考慮しながら調整するとよい。
【0048】
なお、本明細書における「半導体洗浄用組成物の粘度」とは、JIS K2283に準拠して測定したウベローデ粘度のことをいう。
【0049】
本実施形態に係る半導体洗浄用組成物中の化合物(B)の含有量は、タングステンを含む配線層が設けられた被処理体のCMP後の表面状態や、使用されたCMPスラリーの組成により適宜変更することができる。
【0050】
本実施形態に係る濃縮タイプの半導体洗浄用組成物の希釈度合によっても、化合物(B)の含有量を適宜変更することができる。化合物(B)の含有量は、濃縮タイプの半導体洗浄用組成物を希釈して調製される洗浄剤もしくは非希釈タイプの半導体洗浄用組成物100質量%に対して、好ましくは0.001~5質量%であり、より好ましくは0.01~1質量%であり、特に好ましくは0.1~0.8質量%である。化合物(B)の含有量が前記範囲内にあると、CMPスラリー中に含まれていたパーティクルや有機残渣等の汚染物質を配線基板上から除去する効果が促進されるので、より清浄な被処理面が得られやすい。
【0051】
1.3.液状媒体
本実施形態に係る半導体洗浄用組成物は、液状媒体を主成分とする液体である。液状媒体としては、水を主成分とした水系媒体が好ましい。このような水系媒体としては、水、水およびアルコールの混合媒体、水および水との相溶性を有する有機溶媒を含む混合媒体等が挙げられる。これらの中でも、水、水およびアルコールの混合媒体を用いることが好ましく、水を用いることがより好ましい。
【0052】
1.4.その他の成分
本実施形態に係る半導体洗浄用組成物は、必要に応じて、例えばpH調整剤や界面活性剤等を含有してもよい。
【0053】
<pH調整剤>
本実施形態に係る半導体洗浄用組成物のpHは、好ましくは7以下であり、より好ましくは6以下である。本実施形態に係る半導体洗浄用組成物のpHは、好ましくは2以上であり、より好ましくは3以上であり、特に好ましくは4以上である。半導体洗浄用組成物のpHが前記範囲内にあると、タングステンを含む配線の腐食の抑制と有機残渣の除去効果との両立が促進されて、より良好な被処理面が得られやすい。
【0054】
本実施形態に係る半導体洗浄用組成物において、上述した化合物(A)や化合物(B)を添加することによって所望のpHが得られない場合には、pHを上記範囲内に調整するためのpH調整剤を別途添加してもよい。pH調整剤としては、例えば、リン酸、硝酸、硫酸等の無機酸;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア等の塩基性化合物が挙げられる。これらのpH調整剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
【0055】
<界面活性剤>
界面活性剤としては、公知の界面活性剤を適時使用することができるが、ノニオン性界面活性剤またはアニオン性界面活性剤を好ましく使用することができる。界面活性剤を添加することにより、CMPスラリー中に含まれていたパーティクルや金属不純物を配線基板上から除去する効果が高まり、より良好な被処理面が得られる場合がある。
【0056】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアリールエーテル;ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート等のソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。上記例示したノニオン性界面活性剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
【0057】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸等のアルキルベンゼンスルホン酸;アルキルナフタレンスルホン酸;ラウリル硫酸等のアルキル硫酸エステル;ポリオキシエチレンラウリル硫酸等のポリオキシエチレンアルキルエーテルの硫酸エステル;ナフタレンスルホン酸縮合物;アルキルイミノジカルボン酸;リグニンスルホン酸等が挙げられる。これらのアニオン性界面活性剤は、塩の形態で使用してもよい。この場合、カウンターカチオンとしては、例えばナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン等が挙げられるが、カリウムやナトリウムが過剰に含まれることを防止する観点からアンモニウムイオンが好ましい。
【0058】
配線材料としてタングステンを有する被処理体のCMPでは、鉄イオンおよび過酸化物(過酸化水素、ヨウ素酸カリウムなど)を含有するCMPスラリーが使用される。このCMPスラリー中に含まれる鉄イオンが被処理体の表面に吸着しやすいため、被処理体の表面は鉄汚染されやすい。この場合、鉄イオンはプラスにチャージするため、半導体洗浄用組成物にアニオン性界面活性剤を添加することにより、被処理体の表面の鉄汚染を効果的に除去できる場合がある。
【0059】
界面活性剤の含有量は、CMP後の被処理体の表面に露出しているタングステン等の金属配線材、酸化シリコン等の絶縁材、窒化タンタルや窒化チタン等のバリアメタル材等の材質や、使用されたCMPスラリーの組成により適宜変更することができる。
【0060】
本実施形態に係る濃縮タイプの半導体洗浄用組成物の希釈度合によっても、界面活性剤の含有量を適宜変更することができる。界面活性剤の含有量は、濃縮タイプの半導体洗浄用組成物を希釈して調製される洗浄剤もしくは非希釈タイプの半導体洗浄用組成物100質量部に対して、好ましくは0.001~1質量部である。界面活性剤の含有量が前記範囲内にあると、CMP終了後における処理工程において、タングステンを含む配線層が設けられた被処理体からCMPスラリー中に含まれていたパーティクルや金属不純物を効率
的に除去することができる。
【0061】
1.5.化合物(A)の溶解パラメータと化合物(B)の溶解パラメータとの差
本実施形態に係る半導体洗浄用組成物は、上記化合物(A)と上記化合物(B)とを含有するが、化合物(A)の溶解パラメータと化合物(B)の溶解パラメータとの差が6以下となるように、化合物(A)および化合物(B)が選定される。化合物(A)の溶解パラメータと化合物(B)の溶解パラメータとの差は、好ましくは0.01以上であり、より好ましくは0.05以上である。
【0062】
一般的にCMP後の被研磨面には、タングステン等の金属部位とシリコン窒化膜やシリコン酸化膜等の絶縁膜が露出している。このようなCMP後の被研磨面を洗浄するためには、金属部位の腐食を抑制するとともに、CMPスラリーに含有されていた砥粒や有機物を効果的に除去する必要がある。この点、本実施形態に係る半導体洗浄用組成物が含有する化合物(A)は、錯形成によって金属部位表面に吸着し金属部位の腐食を抑制することができる。一方、化合物(A)は静電相互作用によって絶縁膜上にも付着してしまうため、化合物(A)だけを洗浄の際に使用すると残渣として洗浄面に残留してしまう。この問題に対し、本実施形態に係る半導体洗浄用組成物では、化合物(A)だけではなく溶解パラメータの差が6以下である化合物(A)と溶解特性が近い化合物(B)を併用する。化合物(B)を併用することで、静電相互作用により錯形成より弱い力で絶縁膜に吸着した化合物(A)を脱離させ、半導体洗浄用組成物への溶解を促進させることができると推測する。その結果、タングステン等の金属部位の過剰な腐食を抑制すると共に、シリコン窒化膜やシリコン酸化膜など絶縁膜上の残渣を効率的に低減することができる。
【0063】
1.6.半導体洗浄用組成物の調製方法
本実施形態に係る半導体洗浄用組成物は、特に制限されず、公知の方法を使用することにより調製することができる。具体的には、水や有機溶媒等の液状媒体に上述した各成分を溶解させて、ろ過することにより調製することができる。上述した各成分の混合順序や混合方法については特に制限されない。
【0064】
本実施形態に係る半導体洗浄用組成物の調製方法では、必要に応じて、デプスタイプまたはプリーツタイプのフィルタでろ過して粒子量を制御することが好ましい。ここで、デプスタイプのフィルタとは、深層ろ過または体積ろ過タイプのフィルタとも称される高精度ろ過フィルタである。このようなデプスタイプのフィルタは、多数の孔が形成されたろ過膜を積層させた積層構造をなすものや、繊維束を巻き上げたものなどがある。デプスタイプのフィルタとしては、具体的には、プロファイルII、ネクシスNXA、ネクシスNXT、ポリファインXLD、ウルチプリーツプロファイル(以上、日本ポール社製)、デプスカートリッジフィルタ、ワインドカートリッジフィルタ(以上、アドバンテック社製)、CPフィルタ、BMフィルタ(以上、チッソ社製)、スロープピュア、ダイア、マイクロシリア(以上、ロキテクノ社製)等が挙げられる。
【0065】
プリーツタイプのフィルタとしては、不織布、ろ紙、金属メッシュなどからなる精密ろ過膜シートをひだ折り加工した後、筒状に成形するとともに前記シートのひだの合わせ目を液密にシールし、かつ、筒の両端を液密にシールして得られる筒状の高精度ろ過フィルタが挙げられる。具体的には、HDCII、ポリファインII等(全て、日本ポール社製)、PPプリーツカートリッジフィルタ(アドバンテック社製)、ポーラスファイン(チッソ社製)、サートンポア、ミクロピュア等(全て、ロキテクノ社製)等が挙げられる。
【0066】
フィルタは、定格ろ過精度が0.01~20μmであるものを用いることが好ましい。定格ろ過精度が前記範囲のものを用いることにより、パーティクルカウンタで測定したときの、1mL当たりにおける粒子径20μm以上の粒子の数が0個であるろ液を効率良く
得ることができる。また、フィルタに捕捉される粗大粒子の数が最小限になるため、フィルタの使用可能期間が延びる。
【0067】
2.洗浄剤
本発明における「洗浄剤」とは、上述の濃縮タイプの半導体洗浄用組成物に液状媒体を添加して希釈することにより調製されたもの若しくは上述の非希釈タイプの半導体洗浄用組成物自体であって、実際に被処理面を洗浄する際に用いられる液剤のことをいう。上述の濃縮タイプの半導体洗浄用組成物は、通常、各成分が濃縮された状態で存在する。そのため、各ユーザーが、上述の濃縮タイプの半導体洗浄用組成物を適宜液状媒体で希釈して洗浄剤を調製し、または非希釈タイプの半導体洗浄用組成物を洗浄剤としてそのまま使用に供する。
【0068】
ここで希釈に用いられる液状媒体は、上述の半導体洗浄用組成物に含有される液状媒体と同義であり、上記例示した液状媒体の中から適宜選択することができる。
【0069】
濃縮タイプの半導体洗浄用組成物に液状媒体を加えて希釈する方法としては、濃縮タイプの半導体洗浄用組成物を供給する配管と液状媒体を供給する配管とを途中で合流させて混合し、この混合された洗浄剤を被処理面に供給する方法がある。この混合は、圧力を加えた状態で狭い通路を通して液同士を衝突混合させる方法;配管中にガラス管などの充填物を詰め液体の流れを分流分離、合流させることを繰り返し行う方法;配管中に動力で回転する羽根を設ける方法など通常に行われている方法を採用することができる。
【0070】
また、濃縮タイプの半導体洗浄用組成物に液状媒体を加えて希釈する別の方法としては、濃縮タイプの半導体洗浄用組成物を供給する配管と液状媒体を供給する配管とを独立に設け、それぞれから所定量の液を被処理面に供給し、被処理面上で混合する方法がある。さらに、濃縮タイプの半導体洗浄用組成物に液状媒体を加えて希釈する別の方法としては、1つの容器に、所定量の濃縮タイプの半導体洗浄用組成物と所定量の液状媒体を入れ混合してから、被処理面にその混合した洗浄剤を供給する方法がある。
【0071】
濃縮タイプの半導体洗浄用組成物に液状媒体を加えて希釈する際の希釈倍率としては、濃縮タイプの半導体洗浄用組成物1質量部に対し、液状媒体を添加して1~500質量部(1~500倍)に希釈することが好ましく、20~500質量部(20~500倍)に希釈することがより好ましく、30~300質量部(30~300倍)に希釈することが特に好ましい。なお、上述の濃縮タイプの半導体洗浄用組成物に含有される液状媒体と同じ液状媒体で希釈することが好ましい。このように半導体洗浄用組成物を濃縮された状態とすることにより、洗浄剤をそのまま運搬し保管する場合と比較して、より小型な容器での運搬や保管が可能になる。その結果、運搬や保管のコストが低減できる。また、そのまま洗浄剤を濾過等するなどして精製する場合よりも、より少量の洗浄剤を精製することになるので、精製時間の短縮化を行うことができ、これにより大量生産が可能になる。
【0072】
3.洗浄方法
本発明の一実施形態に係る洗浄方法は、タングステンを含む配線基板を、上述の半導体洗浄用組成物(上述の洗浄剤)を用いて処理する工程を含む。以下、本実施形態に係る洗浄方法の一例について、図面を用いながら詳細に説明する。
【0073】
<配線基板の作製>
図1は、本実施形態に係る洗浄方法に用いられる配線基板の作製プロセスを模式的に示す断面図である。かかる配線基板は、以下のプロセスを経ることにより形成される。
【0074】
図1は、CMP処理前の被処理体を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、被
処理体100は、基体10を有する。基体10は、例えばシリコン基板とその上に形成された酸化シリコン膜から構成されていてもよい。さらに、基体10には、図示していないが、トランジスタ等の機能デバイスが形成されていてもよい。
【0075】
被処理体100は、基体10の上に、配線用凹部20が設けられた絶縁膜12と、絶縁膜12の表面ならびに配線用凹部20の底部および内壁面を覆うように設けられたバリアメタル膜14と、配線用凹部20を充填しかつバリアメタル膜14の上に形成されたタングステン膜16と、が順次積層されて構成される。
【0076】
絶縁膜12としては、例えば、真空プロセスで形成された酸化シリコン膜(例えば、PETEOS膜(Plasma Enhanced-TEOS膜)、HDP膜(High Density Plasma Enhanced-TEOS膜)、熱化学気相蒸着法により得られる酸化シリコン膜等)、FSG(Fluorine-doped silicate glass)と呼ばれる絶縁膜、ホウ素リンシリケート膜(BPSG膜)、SiON(Silicon oxynitride)と呼ばれる絶縁膜、Siliconnitride等が挙げられる。
【0077】
バリアメタル膜14としては、例えば、タンタル、チタン、コバルト、ルテニウム、マンガン、およびこれらの化合物等が挙げられる。バリアメタル膜14は、これらの1種から形成されることが多いが、チタンと窒化チタンなど2種以上を併用することもできる。
【0078】
タングステン膜16は、
図1に示すように、配線用凹部20を完全に埋めることが必要となる。そのためには、通常、化学蒸着法、物理蒸着法または原子層堆積法により、100~10000Åのタングステン膜を堆積させる。
【0079】
次いで、
図1の被処理体100のうち、配線用凹部20に埋没された部分以外のタングステン膜16をバリアメタル膜14が露出するまでCMPにより高速研磨する(第1研磨工程)。さらに、表面に露出したバリアメタル膜14をCMPにより研磨する(第2研磨工程)。このようにして、
図2に示すような配線基板200が得られる。
【0080】
<配線基板の処理>
次いで、
図2に示す配線基板200の表面(被処理面)を上述の洗浄剤を用いて処理する。本実施形態に係る洗浄方法によれば、CMP終了後の配線材料およびバリアメタル材料が表面に共存する配線基板を処理する際に、配線材料およびバリアメタル材料の腐食を抑制するとともに、配線基板上の酸化膜や有機残渣を効率的に除去することができる。
【0081】
本実施形態に係る洗浄方法は、配線基板の配線材料としてタングステンを含み、前記配線基板を特開平10-265766号公報等に記載されている鉄イオンおよび過酸化物を含有する組成物(フェントン試薬)を用いて化学機械研磨した後に行うと非常に有効である。タングステンを含む配線が設けられた被処理体のCMPでは、鉄イオンおよび過酸化物(過酸化水素、ヨウ素酸カリウムなど)を含有するCMPスラリーが使用されることが多い。このCMPスラリー中に含まれる鉄イオンが被処理体の表面に吸着しやすいため、被処理体の表面は鉄汚染されやすい。この場合、希フッ酸を用いて被処理体の表面を処理することで鉄汚染を除去することができるが、被研磨面の表面がエッチングされてしまいダメージを受けやすい。この点、上述の半導体洗浄用組成物は、化合物(A)および化合物(B)を含有しており、処理工程において化合物(A)のアミノ基の非共有電子対を介して化合物(A)と鉄イオンとが結合し、リンスによって洗い流される。これにより、配線基板上の金属汚染を低減でき、被処理体のダメージを低減しながら研磨残渣を効率的に除去できると考えられる。
【0082】
洗浄方法としては、特に制限されないが、配線基板200に上述の洗浄剤を直接接触させる方法により行われる。洗浄剤を配線基板200に直接接触させる方法としては、洗浄槽に洗浄剤を満たして配線基板を浸漬させるディップ式;ノズルから配線基板上に洗浄剤を流下しながら配線基板を高速回転させるスピン式;配線基板に洗浄剤を噴霧して洗浄するスプレー式等の方法が挙げられる。また、このような方法を行うための装置としては、カセットに収容された複数枚の配線基板を同時に処理するバッチ式処理装置、1枚の配線基板をホルダーに装着して処理する枚葉式処理装置等が挙げられる。
【0083】
本実施形態に係る洗浄方法において、洗浄剤の温度は、通常室温とされるが、性能を損なわない範囲で加温してもよく、例えば40~70℃程度に加温することができる。
【0084】
また、上述の洗浄剤を配線基板200に直接接触させる方法に加えて、物理力による洗浄方法を併用することも好ましい。これにより、配線基板200に付着したパーティクルによる汚染の除去性が向上し、処理時間を短縮することができる。物理力による洗浄方法としては、洗浄ブラシを使用したスクラブ洗浄や超音波洗浄が挙げられる。
【0085】
さらに、本実施形態に係る洗浄方法による洗浄の前および/または後に、超純水または純水による洗浄を行うことが望ましい。
【0086】
4.実施例
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、本実施例における「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0087】
4.1.半導体洗浄用組成物の調製
ポリエチレン製容器に、下表1~4に示す含有量となるように各成分を添加し、イオン交換水を適量入れ、15分間撹拌した。この混合物に、全構成成分の合計量が100質量%となるようにイオン交換水を加え、水酸化カリウムを用いて下表1~4に示すpHとなるように調整した後、孔径5μmのフィルタで濾過して、下表1~4に示す各半導体洗浄用組成物を得た。なお、pHは、株式会社堀場製作所製のpHメーター「F52」を用いて測定した。
【0088】
4.2.評価方法
4.2.1.欠陥評価
酸化シリコン膜付き8インチウエハおよび窒化シリコン膜付き8インチウエハを、上記で調製した半導体洗浄用組成物に、45℃、1時間浸漬した後、水洗、乾燥処理した。そしてウエハ表面を欠陥検査装置(ケーエルエー・テンコール社製、型式「KLA2351」)を用いて全面の欠陥数を計測した。欠陥数が100個未満であれば良好であると判断し、欠陥数が100個以上であれば実用に供することができないので不良と判断した。結果を下表1~4に示す。
【0089】
4.2.2.腐食評価
タングステンを含む配線の腐食性については、タングステン膜ウエハを、半導体洗浄用組成物に浸漬したときのエッチング速度を比較評価することにより優劣を判断することができる。エッチング速度のより低い方がタングステンを含む配線の腐食性が小さいと判断することができる。具体的には、以下のようにして評価した。
【0090】
アドバンテック社製タングステン膜付きの8インチウエハを5cm角に切り出し試験片とした。この試験片を上記で調製した半導体洗浄用組成物に、45℃、1時間浸漬した後、水洗、乾燥処理した。浸漬前後の試験片の重量を測定して、タングステン密度19.2
5g/cm3とタングステン膜ウエハの面積(5cm×5cm)よりエッチングされたタングステン膜厚みを算出し、タングステンのエッチング速度を評価した。エッチング速度が15Å/min未満である場合、腐食性が極めて低いため非常に良好であると判断した。エッチング速度が15Å/min以上である場合、腐食性が高いため実用に供することができず不良であると判断した。結果を下表1~4に示す。
【0091】
4.2.3.化学機械研磨後の窒化シリコン膜付きウエハの洗浄試験
(1)化学機械研磨工程
アドバンテック社製窒化シリコン膜付きウエハを、株式会社荏原製作所製の化学機械研磨装置「EPO112 FREX300SII」を用いて、下記の条件で一段階の化学機械研磨を実施した。
<研磨条件>
・化学機械研磨用水系分散体:キャボット(株)製、「W2000」(鉄イオンおよび過酸化水素を含有するスラリー)
・研磨パッド:ロデール・ニッタ(株)製、「IC1000/SUBA400」
・定盤回転数:70rpm
・ヘッド回転数:71rpm
・ヘッド荷重:50g/cm2
・化学機械研磨用水系分散体供給速度:300mL/分
・研磨時間:30秒
【0092】
(2)洗浄工程
上記で得られた研磨後の基板表面を、上記で調製した半導体洗浄用組成物を用いて、下記の条件で定盤上洗浄に供した。その後、下記の条件でブラシスクラブ洗浄に供した。その後、下記の条件でリンス洗浄に供した。
<定盤上洗浄>
・洗浄剤:上記で調製した半導体洗浄用組成物
・ヘッド回転数:71rpm
・ヘッド荷重:100g/cm2
・定盤回転数:70rpm
・洗浄剤供給速度:300mL/分
・洗浄時間:30秒
<ブラシスクラブ洗浄>
・洗浄剤:上記で調製した半導体洗浄用組成物
・上部ブラシ回転数:100rpm
・下部ブラシ回転数:100rpm
・基板回転数:100rpm
・洗浄剤供給量:300mL/分
・洗浄時間:10秒
<リンス洗浄>
・洗浄剤:超純水
・上部ブラシ回転数:100rpm
・下部ブラシ回転数:100rpm
・基板回転数:100rpm
・洗浄剤供給量:300mL/分
・洗浄時間:10秒
【0093】
(3)信頼性評価
上記で得られた洗浄後の窒化シリコン膜付きウエハ1000枚の表面をウエハ欠陥検査装置(ケーエルエー・テンコール社製、型番「KLA2351」)を用いて、上記洗浄工
程で除去することができなかったパーティクルや金属汚染の原因となる微粒子欠陥について、被研磨面全面における欠陥数を計測した。該ウエハ表面全体における欠陥数が250個より多い場合を不良とした。1000枚中不良となったウエハ数をカウントすることにより、半導体洗浄用組成物の信頼性について評価した。その結果を下表1~4に示す。評価基準は以下の通りである。
(評価基準)
1000枚中不良となったウエハの数が、
・A(良好):100枚以下である場合、使用可能である。
・B(不良):100枚超である場合、実用に供することができないため不良である。
【0094】
4.3.評価結果
下表1~4に、各実施例、各比較例で使用した半導体洗浄用組成物の組成および評価結果を示す。
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
上表1~4において、各成分の数値は質量%を表す。各実施例および各比較例において、各成分の合計量は100質量%となり、残量はイオン交換水である。以下に、上表1~4に記載された成分について補足する。
【0100】
<化合物(A)>
・ドデシルアミノエチルアミノエチルグリシン(SP値:10.0):富士フイルム和光純薬株式会社製
・アルギニン(SP値:14.0):富士フイルム和光純薬株式会社製
・ヒスチジン(SP値:17.0):富士フイルム和光純薬株式会社製
・リシン(SP値:10.0):富士フイルム和光純薬株式会社製
・オクチルアミン(SP値:8.7):富士フイルム和光純薬株式会社製
・デシルアミン(SP値:8.6):富士フイルム和光純薬株式会社製
・ドデシルアミン(SP値:8.6):富士フイルム和光純薬株式会社製
・N-ラウロイルサルコシン(SP値:10.4):東京化成工業株式会社製
・ラウリルジメチルアミノ酢酸(SP値:9.0):富士フイルム和光純薬株式会社製
・ステアロイルメチルタウリンNa(NIKKOLSMT)(SP値9.1):日光ケミカルズ株式会社製
<化合物(B)>
・酢酸(SP値:11.2):富士フイルム和光純薬株式会社製
・クエン酸(SP値:15.8):富士フイルム和光純薬株式会社製
・マレイン酸(SP値:13.5):富士フイルム和光純薬株式会社製
・マロン酸(SP値:14.0):富士フイルム和光純薬株式会社製
・ピロメリット酸(SP値:16.3):富士フイルム和光純薬株式会社製
・ギ酸(SP値:17.1):富士フイルム和光純薬株式会社製
・酒石酸(SP値:17.7):富士フイルム和光純薬株式会社製
・ラウリル酸(SP値:9.36):富士フイルム和光純薬株式会社製
<添加剤>
・β-シクロデキストリン:富士フイルム和光純薬株式会社社製
・ヘキシルアミン(SP値:8.68):富士フイルム和光純薬株式会社製
・ポリスチレンスルホン酸:富士フイルム和光純薬株式会社製
・ポリオキシエチレンデシルエーテル:竹本油脂株式会社株式会社製
・イコサン-1-アミン(SP値:9.07):富士フイルム和光純薬株式会社製
・1-アミノデカン(SP値:9.09):東京化成工業株式会社製
【0101】
実施例1~22に示すように、化合物(A)のSP値と化合物(B)のSP値との差が6以下となる半導体洗浄用組成物は、タングステン膜に対する腐食によるダメージを抑制でき、当該組成物を用いたCMP工程後の欠陥評価についても良好な結果であった。
【0102】
一方、比較例1~3、10~14に示すように、化合物(A)のSP値と化合物(B)のSP値との差が6を超える半導体洗浄用組成物は、酸化シリコン膜や窒化シリコン膜上に欠陥を生じさせやすい傾向が認められた。比較例4、6~9、15~18に示すように、化合物(A)を含有しない半導体洗浄用組成物は、タングステン膜に対する腐食によるダメージが生じやすい傾向が認められた。比較例5に示すように、化合物(B)を含有しない半導体洗浄用組成物は、酸化シリコン膜や窒化シリコン膜上に非常に多くの欠陥を生じさせる傾向が認められた。比較例15~18に示すように、化合物(A)に代えて、アミノ基および炭素数18超のアルキル基を有する化合物を用いた半導体洗浄用組成物は、CMP工程後の洗浄工程で欠陥が発生しやすい傾向が認められた。
【0103】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例
えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0104】
10…基体、12…絶縁膜、14…バリアメタル膜、16…タングステン膜、20…配線用凹部、100…被処理体、200…配線基板