(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022017524
(43)【公開日】2022-01-25
(54)【発明の名称】ピストン装置
(51)【国際特許分類】
F02B 75/32 20060101AFI20220118BHJP
【FI】
F02B75/32 E
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021182047
(22)【出願日】2021-11-08
(62)【分割の表示】P 2020094226の分割
【原出願日】2015-01-13
(31)【優先権主張番号】1400682.9
(32)【優先日】2014-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】516060314
【氏名又は名称】ニューレノアー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100196117
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 利恵
(72)【発明者】
【氏名】ボーウェン,ライアン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ピストン装置における、ピストンヘッドをトラックに連結する動力伝達機構を改良する。
【解決手段】トラック11bと、シリンダ内部で移動可能なピストンと、を備え、トラック11bは、シリンダに対して、回転軸周囲を回転するように適合されており、かつ、カム表面12bおよびカム表面12bから伸長しているエッジ面14bを有し、ピストンは、カム表面12b上を走行するフォロワによってトラック11bと連結しており、カム表面12bは、トラックがシリンダに対して移動するときに、ピストンヘッドがカム表面12bの軌道に従ってシリンダ内部で往復運動するように形成されており、トラック11bは、互いに向かい合う第1カム表面および第2カム表面を有し、ピストンは、第1フォロワおよび第2フォロワを有し、第1フォロワおよび第2フォロワは、それぞれ、第1カム表面上および第2カム表面上を走行する。
【選択図】
図6b
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラックと、シリンダ内部で移動可能なピストンと、を備え、
前記トラックは、前記シリンダに対して、回転軸周囲を回転するように適合されており、かつ、カム表面および該カム表面から伸長しているエッジ面を有し、
前記ピストンは、前記カム表面上を走行するフォロワによって前記トラックと連結しており、
前記カム表面は、前記トラックが前記シリンダに対して移動するときに、ピストンヘッドが前記カム表面の軌道に従って前記シリンダ内部で往復運動するように形成されており、
前記トラックは、互いに向かい合う第1カム表面および第2カム表面を有し、
前記ピストンは、第1フォロワおよび第2フォロワを有し、該第1フォロワおよび該第2フォロワは、それぞれ、前記第1カム表面上および前記第2カム表面上を走行するピストン装置。
【請求項2】
前記ピストンは、ピストンヘッドおよびピストン軸を有し、
前記シリンダは、シリンダ軸を有し、
前記トラックは、前記シリンダに対して、前記ピストン軸に垂直に伸長する回転軸の周囲を回転するように適合されている請求項1に記載のピストン装置。
【請求項3】
前記トラックは、前記シリンダに対して、回転軸の周囲を回転し、前記シリンダ軸から離れるように適合されている請求項2に記載のピストン装置。
【請求項4】
前記第1カム表面と前記第2カム表面との間の距離は、前記トラックの範囲にわたって変化する高さを定義する請求項1から3のいずれか1項に記載のピストン装置。
【請求項5】
前記ピストンヘッドは、前記第1カム表面および前記第2カム表面の軌道に従って、ピストン軸に沿って、前記シリンダ内部で単振動でない往復運動をする請求項1から4いずれか1項に記載のピストン装置。
【請求項6】
前記ピストンに安定化部材が接続され、
該安定化部材は、前記ピストンヘッドの下部に伸長している請求項1から5のいずれか1項に記載のピストン装置。
【請求項7】
前記安定化部材は、前記トラックの前記エッジ面と係合する接触面、または、前記シリンダに対して固定された位置決め部材を有している請求項6に記載のピストン装置。
【請求項8】
前記安定化部材は、第1端面および第2端面を有し、前記接触面は、該第1端面と該第2端面との間に伸長し、
前記第1端面および前記第2端面の少なくとも1つは、前記ピストンが往復運動するときに、滑走するように位置決め部材と係合する請求項6または7に記載のピストン装置。
【請求項9】
各前記フォロワは、前記ピストンに取り付けられているローラを有しており、
当該ローラは、前記トラックに沿って走行するときに、前記ピストンに対して回転するように適合されている請求項1から8のいずれか1項に記載のピストン装置。
【請求項10】
前記トラックは、前記安定化部材の各反対面に位置している第1トラック部および第2トラック部を有しており、
前記第1トラック部は、少なくとも1つのカム表面から伸長するエッジ面を有し、また、前記第2トラック部は、エッジ面を有し、該エッジ面は、少なくとも1つのカム表面から伸長し、かつ前記第1トラック部の前記エッジ面に対向しており、
前記安定化部材は、第1接触面および第2接触面を有し、該第1接触面および該第2接触面は、前記第1トラック部および前記第2トラック部の各エッジ面と係合する請求項6に従属した場合の請求項1から9のいずれか1項に記載のピストン装置。
【請求項11】
前記安定化部材は、前記ピストンと前記トラックとの間の相対的な動きの方向に平行な方向に、前記安定化部材の範囲にわたって次第に細くなる厚さを有している請求項6に従属した場合の請求項1から10のいずれか1項に記載のピストン装置。
【請求項12】
前記トラックは、前記回転軸に対する半径方向内側表面および/または半径方向外側表面として配置されている前記カム表面を有する半径方向トラックである請求項1から11のいずれか1項に記載のピストン装置。
【請求項13】
前記第1トラック部の前記エッジ面は、実質的に、前記第2トラック部の前記エッジ面に平行である請求項10に従属した場合の請求項12に記載のピストン装置。
【請求項14】
前記安定化部材は、前記ピストンの軸に平行な方向から見た場合、実質的にまっすぐである請求項13に記載のピストン装置。
【請求項15】
前記エッジ面には、前記安定化部材の前記接触面が潤滑油の膜を介して前記トラックの前記エッジ面と接触するように潤滑油が差されている請求項6に従属した場合の請求項1から14のいずれか1項に記載のピストン装置。
【請求項16】
前記安定化部材の前記接触面は、前記トラックの前記エッジ面からオイルを受け取るように適合されているオイルピックアップを有している請求項15に記載のピストン装置。
【請求項17】
前記エッジ面は、潤滑油送達デバイスによって潤滑油が差され、
前記潤滑油送達デバイスは、潤滑油送達口を含む本体部を有し、前記潤滑油送達口を介して潤滑油が前記エッジ面に供給され、
前記潤滑油送達デバイスは、少なくとも1つのフォロワをさらに有しており、少なくとも1つの該フォロワは、前記トラックが前記シリンダに対して動いたとき、前記潤滑油送達デバイスが前記トラックの前記軌道に従って往復運動するように、前記潤滑油送達デバイスを前記トラックに連結し、これにより、前記エッジ面に対する潤滑油の供給が維持される請求項15または16に記載のピストン装置。
【請求項18】
前記ピストンは、第1ピストンであり、
第2シリンダ内部で移動可能な第2ピストンを備え、
該第2ピストンは、ピストンヘッドおよびピストン軸を有し、
前記第2ピストンは、第1フォロワおよび第2フォロワを有し、該第1フォロワおよび該第2フォロワは、それぞれ、前記第1カム表面および前記第2カム表面上を走行し、
前記第1ピストンは、該第1ピストンが前記第2ピストンから独立して移動可能であるように前記第2ピストンに固定されずに連結している請求項1から17のいずれか1項に記載のピストン装置。
【請求項19】
請求項1から18のいずれか1項に記載の少なくとも1つのピストン装置を備えている内燃エンジン。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、ピストン装置に関し、特に、ピストンヘッドを、当該ピストンヘッドの移動を制御するトラックに連結する動力伝達機構に関する。
【0002】
〔背景技術〕
例えば、内燃エンジンに用いられる従来のピストン装置は、連結棒によってクランクシャフトに連結されているシリンダ内部で移動可能なピストンヘッドを備えている。別のピストン装置では、ピストンヘッドは、カム表面を有するトラックに連結されてもよく、当該ピストンヘッドは、当該ピストンヘッドの移動を制御するようにトラックに沿って動く1つ以上のカムフォロワが備えられている。本発明は、上記別のピストン装置における、ピストンヘッドをトラックに連結する動力伝達機構の改良に関する。
【0003】
〔発明の概要〕
本発明の第一の態様は、トラックと、シリンダ内部で移動可能なピストンとを含み、上記トラックは、シリンダに対して、回転軸周囲を回転するように適合されており、かつ、カム表面と、当該カム表面から伸長(延在)しているエッジ面とを有し、上記ピストンは、上記カム表面上を走行するフォロワによって、上記トラックと連結しており、上記カム表面は、上記トラックが上記シリンダに対して移動するときに、ピストンヘッドが上記カム表面の軌道に従ってシリンダ内部で往復運動するように、形成されており、上記ピストンに安定化部材(固定部)が接続され、当該安定化部材は、上記ピストンヘッドの下部に伸長し、かつ、上記トラックの上記エッジ面と係合する接触面を備えている、ピストン装置を提供する。上記安定化部材は、上記ピストンを、上記トラックの上記エッジ面の平面に対して垂直な方向において固定するように働く。
【0004】
トラックは、シリンダが回転軸に対して静止し続けている間に、回転軸周囲を回転してもよい。あるいは、シリンダは、固定されたトラックに沿って動いてもよい。トラックは、単一のトラック部を備えていてもよく、または、代わりに、安定化部材の対になった面上に、少なくとも2つのトラック部を備えていてもよい。トラックまたは各トラックは、カム表面を備えていてもよく、当該カム表面上を、単一のフォロワが走行してもよく、または、トラックまたは各トラックは、代わりに、2つの背中合わせのカム表面を備えていてもよく、当該背中合わせのカム表面上を、第1フォロワおよび第2フォロワが走行してもよい。考え得る種々の異なるトラック配置が、下記で、より詳細に検討される。
【0005】
トラックは、途切れのない環を形成してもよく、また、カム表面は、当該環の周囲に伸長している途切れのない表面(連続表面)を形成してもよい。あるいは、カム表面における途切れ、例えば、小さな不連続点(切れ目)があってもよい。カム表面は、トラックに対して固定されてもよく、または、代わりに、カム表面は、トラックに対して固定されている固定部分と、カム表面の一部分を形成し、かつトラックに対して移動可能である可動部分、例えば、トラックに取り付けられている1つ以上のローラ、とを含んでもよい。ローラは、回転軸周囲を回転するように適合されていてもよく、また、自由に回転してもよく、部分的に制限、および/または、駆動されてもよい。
【0006】
安定化部材は、例えば、締め具によって、ピストンヘッドに固定して(強固に)接続されていてもよい。あるいは、安定化部材は、別の方法で、固定して、または回転自在(枢動可能)に、ピストンヘッドに接続されてもよく、または、ピストンヘッドと一体的に形成されてもよい。安定化部材は、連結棒などの中間部材を介してピストンヘッドに接続されてもよく、当該連結棒などの中間部材は、ピストンヘッドと安定化部材とに固定して接続されてもよく、または、当該連結棒などの中間部材は、代わりに、ピストンヘッドと安定化部材とに回転自在に接続されてもよい。
【0007】
エッジ面の平面に平行で、かつピストンの移動方向に垂直な、方向の長さよりも著しく小さい、トラックのエッジ面の平面に対して垂直な方向の厚さを有するように、安定化部材は、刀身のようであってもよい。例えば、安定化部材の上記長さは、安定化部材の上記厚さの少なくとも2倍であってもよく、または、上記厚さの少なくとも3倍であってもよく、または、上記厚さの少なくとも4倍であってもよく、または、上記厚さの少なくとも5倍であってもよい。安定化部材の上記長さは、実質的に、ピストンヘッドの直径と等しくてもよく、または、代わりに、ピストンヘッドの直径よりも、大きくてもよく、もしくは、小さくてもよい。
【0008】
上記安定化部材の上記接触面の形状は、実質的に、上記トラックの上記エッジ面の形状と一致してもよい。例えば、トラックのエッジ面は、まっすぐであってもよく、また、安定化部材の接触面は、それに対応するまっすぐな形状を有してもよく、または、代わりに、トラックのエッジ面は、凸状であってもよく、また、安定化部材の接触面は、それに対応する凹形状を有してもよい。あるいは、安定化部材の接触面は、いくつかの他の形状を有してもよく、例えば、凸状の安定化部材は、トラックのまっすぐなエッジ面または凸状のエッジ面を支持してもよい。
【0009】
上記安定化部材は、第1端面および第2端面を備えてもよく、上記接触面は、当該第1端面と当該第2端面との間に伸長し、上記第1端面および上記第2端面の少なくとも1つは、上記ピストンが往復運動するときに、滑走するように位置決め部材と係合する。好ましくは、安定化部材の第1端面および第2端面は、滑走するように第1位置決め部材および第2位置決め部材と係合し、これにより、トラックのエッジ面の平面に垂直な方向においてピストンを固定する。端面と位置決め部材との間の接合面は、好ましくは、平面であるが、任意の他の形状を有してもよい。
【0010】
上記フォロワは、上記ピストンに取り付けられているローラを備えていてもよく、当該ローラは、上記トラックに沿って走行するときに、上記ピストンに対して回転するように適合されている。ローラは、ピストンヘッド内もしくはピストンヘッド上に取り付けられてもよく、および/または、安定化部材内もしくは安定化部材上に取り付けられてもよい。ピストン装置は、例えば、本発明の第2の態様に係るベアリングを備えてもよい(後述する)。あるいは、フォロワは、ピストンヘッドおよび/または安定化部材から突出した完全な円筒形のシャフト上に取り付けられたローラであってもよい。あるいは、フォロワは、ピストンヘッドおよび/もしくは安定化部材を通って伸長するか、またはピストンヘッドおよび/もしくは安定化部材内に伸長するローラであってもよく、当該ローラは、当該ローラの外周に伸長する完全な円筒形の接触面を介して、ピストンヘッドおよび/または安定化部材に係合しているだけである。ピストンに取り付けられている複数のローラまたは他のフォロワ、例えば、トラックの複数のカム表面上を走行する複数のフォロワがあってもよい。
【0011】
上記トラックは、互いに反対方向を向いている第1カム表面および第2カム表面を備えていてもよく、上記エッジ面は、当該第1カム表面および当該第2カム表面の間に伸長し、上記ピストンは、第1フォロワおよび第2フォロワを備え、当該第1フォロワおよび当該第2フォロワは、それぞれ、上記第1カム表面および上記第2カム表面上を走行する。第1フォロワおよび第2フォロワは、好ましくは、ピストン軸に平行な方向において互いにずれて配置されている。安定化部材は、好ましくは、第1フォロワと第2フォロワとの間に伸長し、かつ、第1フォロワと第2フォロワとを接続している。第1フォロワは、ピストンの軸に並ぶ第1の向きにピストンを動かすように適合されてもよく、また、第2フォロワは、第1の向きと反対の第2の向きにピストンを動かすように適合されてもよい。対向する第1カム表面と第2カム表面とは、互いに外側を向くことにより、互いに対向してもよく、または、代わりに内側を向くことにより、互いに対向してもよい。
【0012】
上記トラックは、上記安定化部材の各反対面に位置している第1トラック部および第2トラック部を備えてもよく、上記第1トラック部は、少なくとも1つのカム表面から伸長するエッジ面を備え、また、上記第2トラック部は、エッジ面を備え、当該エッジ面は、少なくとも1つのカム表面から伸長し、かつ上記第1トラック部の上記エッジ面に対向しており、上記安定化部材は、第1接触面および第2接触面を備え、当該第1接触面および当該第2接触面は、上記第1トラック部および上記第2トラック部の各エッジ面と係合する。従って、ピストンは、トラックのエッジ面の平面に垂直な方向において、完全に固定されてもよい。
【0013】
安定化部材は、その全長にわたって、実質的に均一な厚さを有してもよい。上記安定化部材は、上記ピストンと上記トラックとの間の相対的な動きの方向に平行な方向に、上記安定化部材の範囲にわたって次第に細くなる厚さを有してもよい。当該テーパは、第1トラック部のエッジ面と第2トラック部のエッジ面との間に形成された隙間内部において、例えば静水圧下で、安定化部材が自分で中央に配置されることを可能にし得る。テーパは、安定化部材の全体の厚さと比較して小さくてもよく、例えば、安定化部材の一方の端部では、安定化部材の接触面と各トラック部のエッジ面との間の間隔は0.08mmであり、これは、反対の端部における0.04mmの間隔と対比される。種々の間隔およびテーパ角度が、ピストン装置の応用に従って採用されてもよい。あるいは、安定化部材は、任意の他の形状を有してもよく、例えば、まっすぐなエッジ面または凸状のエッジ面を支持する凸状の形状を有してもよい。
【0014】
上記トラックは、上記回転軸に対する半径方向内側表面(内部放射面)および/または半径方向外側表面(外部放射面)として配置されている上記カム表面を有する半径方向トラック(放射状トラック)であってもよい。従って、当該トラックは、回転軸から半径方向(放射状)に外側に伸長する方向の高さを有し、当該高さは、トラックの範囲にわたって変化してもよい。上記第1トラック部の上記エッジ面は、実質的に、上記第2トラック部の上記エッジ面に平行であってもよい。上記安定化部材は、上記ピストンの軸に平行な方向から見た場合、実質的にまっすぐであってもよい。
【0015】
上記トラックは、上記回転軸に平行な方向に向いて配置されている上記カム表面を有する環状トラックであってもよい。従って、当該トラックは、回転軸に平行な方向の高さを有し、当該高さは、トラックの範囲にわたって変化してもよい。上記第1トラック部および上記第2トラック部は、上記第1トラック部の上記エッジ面と上記第2トラック部の上記エッジ面との間に環状の隙間が形成されるように、同心円状に配置されてもよい。従って、当該第1トラック部のエッジ面と、当該第2トラック部のエッジ面とは、それぞれ、内部トラック部の半径方向外側表面と、外部トラック部の半径方向内側表面とを備えてもよい。上記安定化部材は、上記環状の隙間内部に位置し、かつ、上記回転軸に平行な方向から見た場合、湾曲した形状を有してもよく、当該湾曲した形状は、上記環状の隙間の湾曲した形状に実質的に一致する半径を有している。安定化部材は、第1接触面と第2接触面とを有してもよく、当該第1接触面は、内部トラック部の半径方向外側表面と係合し、かつ内部トラック部の半径方向外側表面の曲率半径と実質的に一致する曲率半径を有し、当該第2接触面は、外部トラック部の半径方向内側表面と係合し、かつ外部トラック部の半径方向内側表面の曲率半径と実質的に一致する曲率半径を有する。
【0016】
上記エッジ面は、上記安定化部材の上記接触面が、潤滑油の膜を介して上記トラックの上記エッジ面と接触するように潤滑油が差されてもよい。当該トラックが第1トラック部および第2トラック部を備えている場合、両方のトラック部のエッジ面に潤滑油が差されていてもよい。
【0017】
上記安定化部材の上記接触面は、上記トラックの上記エッジ面から潤滑油を受け取るように適合されている潤滑油ピックアップを備えてもよい。従って、潤滑油は、潤滑油ピックアップを介して安定化部材によって採取され、かつ、安定化部材周囲およびピストン周囲で、潤滑油が必要になる安定化部材またはピストンの任意の部分に供給されてもよい。ピックアップは、接触面に形成された開口部を備えてもよい。安定化部材の一方の接触面または両方の接触面上に位置する1つ以上のピックアップがあってもよい。
【0018】
上記エッジ面は、潤滑油送達デバイスによって潤滑油が差されてもよく、上記潤滑油送達デバイスは、潤滑油送達口を含む本体部を備え、当該潤滑油送達口を介して、潤滑油が上記エッジ面に供給され、上記潤滑油送達デバイスは、少なくとも1つのフォロワをさらに備えており、当該少なくとも1つのフォロワは、上記トラックが上記シリンダに対して動いたとき、上記潤滑油送達デバイスが、上記トラックの上記軌道に従って往復運動するように、上記潤滑油送達デバイスを上記トラックに連結し、これにより、上記エッジ面に対する潤滑油の供給が維持される。潤滑油送達デバイスは、好ましくは、トラックの第1カム表面および第2カム表面上を走行する第1フォロワおよび第2フォロワを備え、当該第1フォロワおよび第2フォロワは、それぞれ、反対方向に潤滑油送達デバイスを動かすように働く。いくつかの実施形態では、一方のフォロワまたは両方のフォロワは、潤滑油送達デバイスのフォロワが潤滑油を除去する機能を有する必要はないが、ピストンに取り付けられたフォロワが走行するトラックの1つ以上のカム表面から、余分なオイルを一掃するように適合されてもよい。好ましくは、潤滑油送達デバイスのフォロワは、ピストンに取り付けられている第1フォロワおよび第2フォロワと同じ間隔および半径を有する。潤滑油送達デバイスのフォロワは、好ましくは、当該潤滑油デバイスの本体部と一体的に形成され、かつ、トラックのカム表面上を走行する滑動ベアリング面を有する。しかし、潤滑油送達デバイスは、代わりに、ベアリングまたはローラを備えてもよい。あるいは、エッジ面は、別の方法、例えば、潤滑油噴射によって潤滑油が差されてもよい。
【0019】
内燃エンジンが、本発明の第1の態様に係る少なくとも1つのピストン装置を備えてもよい。あるいは、当該ピストン装置は、別の応用、例えば、ポンプに用いられてもよい。内燃エンジンは、個々のピストン装置を駆動する共通のトラックおよび/または複数のトラックから稼働する複数のピストン装置を備えてもよい。ピストン装置
本発明の第2の態様は、シリンダ内部で移動可能なピストンと、当該シリンダに対して移動するように適合されているカム表面を有するトラックとを備えており、上記ピストンは、上記カム表面上を走行するベアリングによって上記トラックに連結されており、上記ベアリングは、ローラと湾曲したベアリング面(支持面)とを有しており、当該湾曲したベアリング面上で、上記ローラは、上記カム表面と上記ベアリング面との間に保持されているように、回転可能に取り付けられており、上記ベアリング面は、上記ローラの外周の長さにおける一部分にのみ伸長する接触面を介して上記ローラと係合している、ピストン装置を提供する。本発明の第2の態様に係るピストン装置は、本発明の第1の態様に関して記載される少なくともいくつかの特徴を含んでもよい。
【0020】
ベアリングは、ローラを介して、ピストンとトラックとの間の負荷を伝達する。ローラは、湾曲したベアリング面上を回転するように適合されており、また、ローラは、トラックに対して滑ってもよいが、トラックに沿って転がるように適合されている。ベアリングは、ベアリング面とローラとの間に、全面的な360度の接触面を有していないため、ベアリングは、ベアリング旋回(bearing whirl)を有利に減少または抑制する。
【0021】
上記湾曲したベアリング面は、上記ローラの半径方向内側表面と係合していてもよい。
【0022】
上記湾曲したベアリング面は、上記ローラの中空の中心部に伸長しているシュー上に備えられていてもよい。シューは、ピストンと一体的に形成されてもよい。あるいは、シューは、別の方法でピストンに接続されてもよく、例えば、締め具によって接続されてもよく、または溶接継手によって接続されてもよい。シューをピストンヘッドに結合させる1つ以上の介在する部材があってもよい。ローラは、シュー上を回転できるが、シューとトラックとが互いに離れない限り、シューから離れることができないように、シューと走行する表面との間に保持されていてもよい。シューは、単一の一体型シューを備えてもよく、または、代わりに、シューは、複数の離散的なシュー部分を備えてもよい。
【0023】
上記シューは、上記ローラの上記半径方向内側表面に潤滑油を供給し、かつ/または上記ローラの上記半径方向内側表面から潤滑油を除去するための潤滑油放出口および/または潤滑油ピックアップを備えていてもよい。従って、シューは、湾曲したベアリング面とローラとの間の境界面に潤滑油を差してもよく、また、例えば、ローラの半径方向内側表面上で潤滑油の温度を調節するために、潤滑油は、継続的に交換されてもよい。好ましくは、潤滑油排出口および/または潤滑油ピックアップは、湾曲したベアリング面上に備えられている。
【0024】
上記ローラは、上記シューの側面に位置した、半径方向に内部に伸長しているフランジを有していてもよい。フランジは、シューの互い違いの側面(alternate sides)上に半径方向に内部に伸長する第1フランジおよび第2フランジを備えてもよい。フランジは、ローラをシュー上に保持するのに役立ちうる。
【0025】
上記湾曲したベアリング面と、上記ローラの上記半径方向内側表面との間の上記接触面は、180度未満の角度で伸長していてもよい。好ましくは、接触面は、160度未満、または140度未満、または120度未満、または100度未満、または90度未満、の角度で伸長している。あるいは、接触面は、180度より大きい角度で伸長していてもよく、例えば200度より大きい角度で伸長していてもよい。特に、ローラが、半径方向に内部に伸長している1つ以上のフランジを備えている場合、180度未満で伸長する接触面は、シュー上にローラを設置することの容易さを向上し得る。
【0026】
上記湾曲したベアリング面と上記ローラの上記半径方向内側表面との間の上記接触面は、上記ローラの回転中心軸を通り、かつ上記シリンダ内部の上記ピストンの移動方向に並んでいる平面の片側に偏って配置されていてもよい。例えば、面積を基準として接触面の少なくとも55%または少なくとも60%または少なくとも70%または少なくとも80%は、上記平面の片側に配置されてもよい。接触面の中心点は、例えば、ローラの回転中心軸周囲で、少なくとも5度、または少なくとも10度、または少なくとも20度、または少なくとも30度、上記平面の片側に偏って配置されてもよい。シューは、上記平面の片側に偏って配置されてもよい。接触面とシューとは、ピーク負荷の方向に並べられてもよく、または、ピーク負荷の方向へ偏って配置されてもよい。ローラの片側へシューを偏って配置することは、ローラを介してトラックとピストンとの間に、当該部材の動きの方向に並んでいない角度で伝達されるピーク負荷に耐えることに役立ち得る。
【0027】
上記湾曲したベアリング面は、上記ローラの半径方向外側表面に係合してもよい。ベアリング面は、ローラの全周には伸長していないため、ローラの外部表面の一部は、露出されたままであり、それは、湾曲したベアリング面が伸長していないローラの外周の一部である。従って、ローラは、カム表面とのその境界面の真上(directly above)の位置で上記の湾曲したベアリング面と係合する一方で、カム表面上を走行し得る。従って、ローラを介した、トラックとピストンとの間の負荷伝達が向上する。
【0028】
湾曲したベアリング面は、ローラにおける外周の長さの一部にのみ伸長している接触面を介してローラに係合しており、これにより、ローラの露出した部分がカム表面に係合することを可能にしているが、ローラは、外周のより大きい部分、例えば、360度まで伸長している更なるベアリング面と係合してもよいことに注目すべきである。この場合、ローラがトラックに係合するようにローラの半径方向外側表面の一部を露出したままにする必要がない位置で、このさらなるベアリング面が、ローラの側面に配置される。このさらなるベアリング面は、上記で示されたベアリング面と繋がっていてもよい。例えば、ローラが、ピストンの互い違いの側面上でカム表面と係合するように、ピストンを通って伸長している場合(下記でより詳細に説明する)、ローラは、露出された半径方向外側表面の一部を残す接触面を介して、また、ローラの全周に伸長してもよい介在(中間)ベアリン
グ面も介して、ピストンの互い違いの側面上でカム表面と係合してもよい。
【0029】
上記ピストンは、作用面を伴ったピストンヘッドを有しており、上記湾曲したベアリング面は、上記ピストンヘッドの裏面上に備えられている。ピストンヘッドは、少なくとも部分的に中空であるか、または、代わりに、中が詰まっている。あるいは、ローラの半径方向外側表面と係合する湾曲したベアリング面は、ピストン上の別の位置に備えられてもよく、例えば締め具によってまたは溶接継手によってピストンに接続された別個の部材上に備えられてもよい。湾曲したベアリング面をピストンヘッドに結合する1つ以上の介在する部材があってもよい。ローラは、湾曲したベアリング面上を回転することができるが、湾曲したベアリング面とトラックとが互いに離れない限り、湾曲したベアリング面から離れることができないように、湾曲したベアリング面と走行する面との間で保持されていてもよい。
【0030】
上記ローラの上記半径方向外側表面と係合する上記湾曲したベアリング面は、潤滑油放出口および/または潤滑油ピックアップを備えていてもよい。
【0031】
上記ローラは、軸の端面を有していてもよく、上記ピストンには、保持部が取り外し可能で取り付けられており、当該保持部は、上記ローラが当該保持部を越えて、上記ローラの回転軸と並ぶ方向に上記ピストンに対して動くことを防ぐように、上記ローラの上記軸の端面に位置している。保持部は、例えば、1つ以上の取り外し可能な締め具によって、ピストンヘッドに取り付けられていてもよい。
【0032】
上記湾曲したベアリング面と上記ローラの上記半径方向外側表面との間の上記接触面は、120度と330度との間の角度で伸長していてもよい。好ましくは、接触面は、150度よりも大きい角度、または180度よりも大きい角度、または210度よりも大きい角度、または240度よりも大きい角度で伸長している。好ましくは、接触面は、310度よりも小さい角度、または、290度よりも小さい角度で伸長している。接触面は、例えば、約270度の角度で伸長している。しかし、接触面の少なくとも一部は、より小さい角度、例えば、90度で伸長してもよい。
【0033】
上記湾曲したベアリング面と上記ローラの上記半径方向外側表面との間の上記接触面は、上記ローラの回転中心軸を通り、かつ上記シリンダ内部の上記ピストンの移動方向に並んでいる面の片側に偏って配置されていてもよい。接触面の中心点は、上記平面の片側に偏って配置されてもよい。接触面は、ベアリング面によって係合されないローラの外部表面の露出された部分(それは、湾曲したベアリング面が伸長していないローラの外周の部分である)も上記平面の片側に偏って配置されるように、上記平面の片側に偏って配置されてもよい。ローラの露出した部分を片側に偏って配置させることにより、ベアリングは、ピストンヘッド(または、湾曲したベアリング面が備えられている他の部材)上とのトラックの衝突(fouling)を回避する一方で、トラックの幾何学的配置とシリンダの位置とを最適化し得る。代わりに、または、追加で、ベアリング面は、最大負荷の方向に並んでもよく、または、最大負荷の方向へ偏って配置されてもよい。
【0034】
上記カム表面は、上記トラックが上記シリンダに対して動くときに、上記ピストンヘッドが上記カム表面の軌道に従ってシリンダ内部で往復運動するように、形成されていてもよい。
【0035】
上記カム表面の少なくとも一部は、コーティング処理または表面処理が施されていてもよい。コーティング処理または表面処理は、硬度を向上させ、かつ/または、摩擦を低下させ得る。代わりに、または、追加で、カム表面の少なくとも一部は、トラックの本体に対して別個の部材上に備えられてもよく、当該別個の部材は、トラックの本体よりも、硬く、かつ/または、より小さい摩擦の、表面を備えている。
【0036】
トラックはシリンダに対して回転軸の周りに回転する連続した環を形成してもよく、さらにはカム表面は前記環の周囲に伸長している連続表面(切れ目)を形成してもよい。あるいはカム表面に途切れがあってもよく、例えば小さな不連続点を形成してもよい。カム表面はトラックに対して固定されてもよく、あるいはカム表面はトラックに対して固定された固定部分とカム表面の一部分を形成し、かつトラックに対して運動可能である可動部分を含んでもよく、例えばトラックに取り付けられている1つ以上のローラを構成してもよい。ローラは1回転軸の周りに回転できるようになっており、自由回転でもよく、部分的に回転が制限されていてもよく、および/または、駆動されるようになっていてもよい。
【0037】
シリンダは、トラックがシリンダに相対的に移動する間は固定された状態となっている。あるいはシリンダは、固定されたトラックに相対的に移動してもよい。
【0038】
ローラは、ローラの周囲の周りに、ローラの半径方向外側表面を越えて伸長する隆起を有してもよく、隆起は、ローラの回転軸で決まる方向にローラがピストンに相対的に移動するのを防ぐようにトラックと係合し(噛み合い)てもよく、および/または、トラックは、トラックの周囲の周りに、カム表面を越えて伸長する隆起を有してもよく、隆起は、ローラの回転軸で決定される方向にローラがピストンに相対的に移動するのを防ぐようにローラと係合してもよい。ローラが隆起を有する場合、トラックは、隆起と係合するための対応する陥凹または溝を有してもよい。トラックが隆起を有する場合、ローラは、隆起と係合するための対応する陥凹または溝を有してもよい。ローラ上および/またはトラック上に備えられた一つ以上の隆起は、ローラの一方または両方の軸端に位置してもよく、および/または、ローラの両軸端の間の中間地点に位置してもよい。
【0039】
接触面は部分的に円柱状であってもよい。あるいは接触面はそれに加えて、ローラの回転軸によって決まる第2の方向に湾曲していてもよい。
【0040】
トラックはさらに、第1カム表面と対向する第2カム表面を有してもよく、ここにおいてピストン装置はさらに、一つのローラと湾曲したベアリング表面とを有する第2のベアリングを有し、ローラが第2カム表面とベアリング表面との間で保持されるようにローラが前記ベアリング表面に回転可能に取り付けられており、ここにおいてベアリング表面はローラの周囲の周りのある距離だけ伸長する接触面を介してローラと係合している。第2ベアリングは、第1ベアリングに関連する上記の特徴のいくつかまたは全てを有していてよい。第1ベアリングのローラは、第1カム表面の軌道に沿った第1方向にピストンを移動させるようにできており、第2ベアリングのローラは、第2カム表面の軌道に沿った対向する第2方向にピストンを移動させるようにできている。それゆえ、部品は両方向に固定されていてもよく、トラックの軌道に沿った往復運動で運動してもよい。互いに対向する第1と第2の動作表面は外向きに離れて対向していてもよく、内向きに対面となるように対向してもよい。
【0041】
トラックは、ピストンの両方の対向面に位置した第1トラック部及び第2トラック部を有してもよく、各トラックは各カム表面を設けている。一つの共通ローラが第1、第2トラック部両方のカム表面と係合してもよい。共通のローラはピストンから伸長してもよい。あるいは2つに別々のローラがピストンの互い違いの側に設けられてもよく、各ローラは第1、第2トラック部の各一つに係合している。第1トラック部および第2トラック部はそれぞれ、第1カム表面と第2カム表面を有しており、各表面は、第1カム表面と第2カム表面の各々上で動作する第1ベアリングおよび第2ベアリングと対向する方向に面している。
【0042】
トラックは、シリンダに対するトラックの回転軸に対して半径方向内側表面または半径方向外側表面として配置されたカム表面を有する半径方向のトラック(ラジアルトラック)でもよい。
【0043】
シリンダは中心軸を持っており、ここにおいてシリンダの軸はシリンダに相対的なトラックの回転軸を通過しない。この場合、部品は、単純にトラックの中心に近づいたり離れたりして半径方向の追従動作をするのではなく、半径線に対して鋭角に移動する。シリンダに対するトラックの回転軸は、シリンダ軸からピストン工程長の少なくとも10%、少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも100%の距離または100%を越える距離だけ離れていてよい。シリンダに対するトラックの回転軸は、ローラの回転軸から見て少なくとも2°、少なくとも5°、少なくとも10°、少なくとも15°または20°までの角度だけシリンダの軸から離れていてもよい。シリンダの軸をトラックの回転軸に対するある角度に配置することで、ピストン装置の構造とトラックはピストンからトラックへ動力を効率的に伝送する為に最適化され、その逆も然りである。ピストンをある角度に配置することはトラックの傾斜を最適化させることをも可能にする。
【0044】
トラックは、シリンダに相対的なトラックの回転軸に平行な方向に面して配置されたカム表面を有する環状のトラックでもよい。そのようなトラックが部品の互い違いの側上の第1トラック部及び第2トラック部を含む場合、第1及び第2トラック部は、環状間隙が第1トラック及び第2トラック部のエッジ面の間に形成されるよう、好ましくは同心円上に配置される。本発明の第1態様に関連して説明されるように、ピストンは、第1及び第2部の間で伸長する安定化部材を有してもよい。
【0045】
シリンダは中心軸を有してもよく、ここにおいてシリンダの軸はシリンダに相対的なトラックの回転軸に平行ではない。シリンダの軸はシリンダに対するトラックの回転軸から少なくとも2°、少なくとも5°、少なくとも10°、少なくとも15°または20°まで離れていてもよい。シリンダの軸をトラックの回転軸に対してある角度で配置させることで、ピストン装置とトラックの構造はピストンからトラックへ動力を効率よく伝送させるために最適化でき、その逆も然りである。ピストンをある角度に配置することでトラックの傾斜を最適化させることも可能となる。
【0046】
ローラは、カム表面の半径方向最内側端におけるローラの直径がカム表面の半径方向最外側端のローラの直径より小さくなるようにテーパ状の形状を含んでもよい。テーパはトラックの最内側部と最外側部の間とで経路長の相違させることができ、従ってトラックを渡ってローラが滑ることなくより滑らかに回転できる。
【0047】
内燃エンジンは本発明の第2の形態に係るベアリング装置により動作するピストンを有している。あるいは第2の形態に係るピストン装置はいかなる他の用途にも使用可能で、例えばポンプに適用できる。
【0048】
本発明の第3の形態は、シリンダ内で可動なピストンと、シリンダに相対的に移動するように適合されているカム表面を有するトラックとを含むピストン装置を提供し、カム表面上を動くベアリングによって前記ピストンがトラックと結合しており、ベアリングは、ローラと、湾曲したベアリング表面とを有し、ローラはカム表面を動く半径方向外側表面を有しており、湾曲したベアリング表面は、ローラがベアリング表面とカム表面との間で保持されるよう、ローラの半径方向外側表面に係合するようになっており、ベアリング表面は、ローラの半径方向外側表面の一部分が露出し、ベアリングがカム表面上を動くことができるよう、ローラの周囲の周りの距離の一部分だけ伸長する接触面を介してローラと係合している。
【0049】
本発明の第4の形態は、トラックと結合したピストンを含むピストン装置を含む内燃エンジンを提供し、トラックはシャフトと結合しており、カム表面を有し、ピストンは、トラックのカム表面上を走行してピストンの動きを制御するフォロワを有し、エンジンはさらに、第1ケーシング部材及び第2ケーシング部材を含むケーシングを有し、ここにおいて第1ケーシング部材は界面で第2ケーシング部材と接触し、第1ピストンは第1ケーシング部材および第2ケーシング部材の間の界面を通る内腔(bore)内を往復運動する。
【0050】
前記ピストンが動作する範囲の内腔には、第1ケーシング部材及び第2ケーシング部材が取り付けられた別々のシリンダが設けられてもよい。あるいは、前記内腔は、第1ケーシング部材及び第2ケーシング部材内に直接形成されてもよい。前記第1ケーシング部材及び第2ケーシング部材内で形成された内腔には、追加的に、シリンダライナが設けられてもよい。一つ以上のピストンがトラックと結合されてもよい。例えば、2つの相対するピストンがシャフトの反対側上のトラックに結合してもよく、ここにおいて各ピストンは第1ケーシング部材及び第2ケーシング部材の間の界面を通る各々のケーシング部材の内腔内を移動する。本発明の前述の形態に関連して説明したようにトラックは好ましくは半径方向のトラックである。前記トラックには好ましくはシャフトを受け取る中心孔が設けられており、シャフトを前記中心孔を介して移送することでトラックはシャフトに取り付けられる。前記トラックと前記シャフトとの間の相対的な回転は、好ましくは、トラックとシャフトの間のキー溝を付けられた(splined)または楔を付けられた(keyed)界面によって達成される。
【0051】
動力伝達機構は、カム表面を有するトラックによって出力のシャフトに結合したフォロワを有するピストンを含んでおり、クランクシャフトと連接棒を用いた従来の動力伝達機構より組み立てが難しいかもしれない。ピストンがトラックと結合した後でピストンとトラックの周りで組み立てられるようにエンジンのケーシングを適合させることにより、エンジンの設計と組み立てがより容易になる。ケーシング部材ケーシング部材隣り合うケーシング部材間の分割線が内腔の位置に来るようにケーシングを構成することで、第1ケーシング部材及び第2ケーシング部材は、ピストンがトラックと結合し、トラックがシャフトと結合した後でピストンとトラックの周りに容易に組み立て可能となる。
【0052】
トラックは、互いに反対方向に面する第1カム表面と第2カム表面を有してもよく、ピストンは、各トラックの第1カム表面と第2カム表面上を各々動く第1フォロワ及び第2フォロワを有してもよく、ここにおいてピストンは、第1カム表面を第1フォロワと係合するように、また第2カム表面を第2フォロワに係合するようにすることで、各トラックと結合されている。第1フォロワと第1カム表面は、ピストンが第1方向に移動するのに適合されてもよく、第2フォロワと第2表面は、ピストンが第1方向とは反対の方向に移動するように適合されてもよい。トラックが第1及び第2フォロワの間で保持されてもよく、あるいは、第1フォロワと第2フォロワとが第1及び第2カム表面の間で保持されてもよい。
【0053】
トラックは第1トラックと第2トラック部を含んでもよく、各トラック部はカム表面を有し、ここにおいてピストンは第1トラック部と第2トラック部のカム表面を介してトラックと結合している。第1トラック部および第2トラック部のカム表面は各々共通のフォロワによって係合されてもよく、あるいは、2つの別々のフォロワを設けて、各フォロワがトラック部のうちの各一つについてのカム表面に係合してもよい。ピストンは、第1トラック部と第2トラック部との間で伸長する安定化部材を含んでもよい。反対方向を向いた第1カム表面と第2カム表面とを各トラック部が有して、第1カム表面と第2カム表面とのそれぞれの上をフォロワが走行するようにしてもよい。トラック部は、シャフトに取り付けられたスペーサ、例えば環状スリーブタイプのスペーサで、互いに分離されていてもよい。
【0054】
第1トラック部と第2トラック部の間にプレート状の位置決め部材が提供され、前記位置決め部材は、ピストンを安定化し、第1トラック部および第2トラック部の間でピストンが移動するのを防ぐように働く。
【0055】
第1ケーシング部材および第2ケーシング部材の界面は実質的に平坦であってよい。上記界面はシャフトの軸に実質的に垂直な平面上にあってよい。あるいは上記界面はいかなる他の形状であってもよく、シャフトに垂直な面上になくてもよく、および/またはつなぎ合わせたものでもよく、他の重ね合わせ機構を含んでいてもよい。
【0056】
内燃エンジンはさらに、第2トラックに結合した第2ピストンを含んでもよく、ここにおいて第2トラックはシャフトと結合しており、カム表面を有し、第2ピストンは第2トラックのカム表面上を走行するフォロワを有し、フォロワは、第2ピストンの動きを制御する。ケーシングはさらに第3ケーシング部材を含み、ここにおいて第2ケーシング部材は界面で第3のケーシング部材と接触し、第2ピストンは第2ケーシング部材と第3のケーシング部材との間の界面を貫通する内腔で往復運動する。
【0057】
エンジンが複数のピストンを動作させる複数のトラックを含む場合、複数のケーシング部材は、ピストンが2つの隣り合うケーシング部材の間の界面を貫通して伸長する内腔内で往復運動するように、シャフトの長さに沿って設けられる。上記エンジンは通常、シャフトに沿って離れている任意の個数のトラックを含んでよく、各々のトラックは1つ以上のピストンと結合している。2つのケーシング部材は各々のトラックに結合した上記または各々のピストンの周囲に集められる。そのため、各追加トラックに対して上記エンジンは、隣り合うトラックからなる各ペアの間にケーシング部材が配置されるような追加のケーシング部材を含む。例えば、一つのトラックしか有していないエンジンは、単一のトラックに結合した上記または各ピストンの周囲の界面で接触する一組の端部ケーシング部材を有する。各端部ケーシング部材は、単一のトラックに結合した上記または各ピストンが当該内腔内を移動するような内腔を部分的に含有する。2つのトラックのみを有するエンジンは、一組の端部ケーシング部材と、トラックペア間に配置される中間ケーシング部材とを有し、上記中間ケーシング部材は、トラックの一方に結合した上記または各ピストンが通過する界面で端部ケーシング部材のうちの一つと接触し、かつ、トラックの他方に結合した上記または各ピストンが通過する界面で端部ケーシング部材のうちの他方と接触する。3つトラックのみを有するエンジンでは、ケーシング部材は、一組の端部ケーシング部材と、第1トラック及び第2トラックの間に配置された中間ケーシング部材と、第2トラックと第3トラックの間に配置されたもう一つのケーシング部材とを含む。
【0058】
多数の異なるトラック/ピストン装置を有する多様で異なるエンジンを組み立てるのに、共通設計のケーシング部材を使用してもよい。それゆえ、複数の異なる設計のエンジンを作り出すために必要とされる異なる部品の数が低減される。
【0059】
各ケーシング部材は少なくとも実質的にシャフトの周りを取り囲んでもよい。間隙または開口は油溜め内に向かって開口する少なくとも一つのケーシング部材内に配置されてもよい。あるいは、少なくとも一つのケーシング部材は、シャフトの周りに伸長しなくてもよい。端部ケーシング部材は、隣り合うケーシング部材と接合するために、内側を向いた端部で開いていてもよく、エンジンケーシング部材の端部を封止するために、外側を向いた端部で閉じていてもよい。(エンジンが複数のトラックを有する場合に2つの隣り合うトラックの間に配置された)中間ケーシング部材は、両方の側で隣り合うケーシング部材と接合するために、概して両方の端部で開いている。ケーシング部材は鋳造および/または機械加工されてもよい。
【0060】
ケーシング部材は、各ケーシング部材を通過する複数の締め具によって互いに接続されていてもよい。締め具は、例えば、ボルトやねじ棒としてもよい。ケーシング部材は、全てのケーシング部材を通過するただ一組の締め具によって互いに接続されてもよく、あるいは、各ケーシング部材は、隣り合うケーシング部材に個々に接続されてもよい。追加として、一つ以上の位置合わせ用ピンが、隣り合う少なくとも2つのケーシング部材を通過するようにしてもよい。
【0061】
本発明の第5の態様は、トラックに結合したピストンを含むピストン装置を含む内燃エンジンの組み立て方法を提供し、ここにおいて、トラックは、シャフトに結合していてカム表面を有し、ピストンは、トラックのカム表面上を走行してピストンの動きを制御するフォロワを有し、エンジンはさらに、第1ケーシング部材及び第2ケーシング部材を含むケーシングを含み、ここにおいて第1ケーシング部材は界面で第2ケーシング部材と接触し、第1ピストンは第1ケーシング部材および第2ケーシング部材の間の界面を通る内腔内を往復運動し、その方法は、以下のステップを含む。
a)第1トラックをシャフトに結合し第1ピストンを第1トラックに結合することによって第1ピストン装置をシャフトに結合し、
b)第1ピストン装置がシャフトに結合された後、第1ケーシング部材及び第2ケーシング部材を第1ピストンの周囲に集め、
c)一つ以上の締め具を用いて第1ケーシング部材及び第2ケーシング部材を結合する。
【0062】
第1ケーシング部材及び第2ケーシング部材は、第1ピストン装置がトラックに結合された後同時に、あるいは第1ピストン装置がトラックに結合した後の異なる時間に、シャフトに関する所定の位置に移動してもよい。あるいはケーシング部材のどちらか一方は、第1ピストン装置がシャフトに結合する前に所定の位置に移動し、もう一方のケーシング部材は、第1ピストン装置がシャフトに結合した後に(第1ケーシング部材及び第2ケーシング部材が集まるような)所定の位置に移動してもよい。
【0063】
上述のように、動力伝達機構は、カム表面を有するトラックによって出力のシャフトに結合したフォロワを有するピストンを含んでおり、クランクシャフトと連接棒を用いた従来の動力伝達機構よりも大きく、さらに組み立てるのが難しいかもしれない。ピストンがトラックと結合した後でピストンとトラックの周りで組み立てられるようにエンジンのケーシングを適合させることにより、エンジンの設計と組み立てがより容易になる。特に、エンジンを組み立てる技術者は、ピストン装置の少なくとも片側から完全にエンジンに到達できるため、第1ピストンを第1トラックに結合させ第1トラックをシャフトに結合させるために十分な空間がある。
【0064】
内燃エンジンはさらに、第2トラックに結合した第2ピストンを含んでもよく、ここにおいて第2トラックはシャフトと結合しており、カム表面を有し、第2ピストンは第2トラックのカム表面上を走行するフォロワを有し、フォロワは、第2ピストンの動きを制御する。ケーシングはさらに第3のケーシング部材を含み、ここにおいて第2ケーシング部材は界面で第3のケーシング部材と接触し、第2ピストンは第2ケーシング部材と第3のケーシング部材との間の界面を貫通する内腔で往復運動する。その方法はさらに以下の工程を有する。
d)第2トラックをシャフトに結合して第2ピストンを第2トラックに結合させることによって、第2ピストン装置をシャフトに結合し、
e)第2ピストン装置がシャフトに結合した後で第2ケーシング部材及び第3のケーシング部材を第2ピストンの周りに集め、
f)1つ以上の締め具を使用し、第1ケーシング部材及び第2ケーシング部材を結合し、第2ケーシング部材及び第3ケーシング部材を結合し、
ここにおいて第1ピストン装置および第2ピストン装置がともにシャフトに結合する前に、第2ケーシング部材は第1ピストン及び第2ピストンの間に配置される。
【0065】
(2つの隣り合う個々のトラックに連結した2つの隣り合うピストン装置の間に位置する中間ケーシング部材である)第2ケーシング部材は、第1ピストン装置及び第2ピストン装置がトラックに結合する前に、シャフトに関する所定の位置に加えられる。このようにして、第2ケーシング部材を、ピストンがトラック上で衝突することなく所定の位置に移動させることが可能となる。第2ケーシング部材は、第1ピストン装置及び第2ピストン装置のいずれかがシャフトに結合される前に、あるいは、ピストン装置の一方がシャフトに結合された後であって他方のピストン装置がシャフトに結合される前に、所定の位置に加えられる。
【0066】
第1ケーシング部材、第2ケーシング部材、第3ケーシング部材は、例えば共通の締め具の組を用いて、同時に互いに結合されてもよい。あるいは、第1ケーシング部材および第2ケーシング部材は第1の締め具の組で互いに結合し、第2ケーシング部材および第3ケーシング部材は、別途、第2の締め具の組を使用することで互いに結合してもよい。
【0067】
発明の第5の態様は、シャフトに沿って離れた任意の個数のトラックを有するエンジンを組み立てるのに使用されてよく、各トラックは、一つのピストン装置部を形成している。この場合、(2つの隣り合うトラックの間に位置する)各中間ケーシング部材は、(通常は、片側上のピストン装置がシャフトに結合した後に所定の位置に加えられるが、)両側のピストン装置がシャフトに結合する前に所定の位置に加えられる。各端部ケーシング部材は、シャフトの遠端部に配置されたピストン装置が所定の位置に加えられた後に、所定の位置に加えられる。
【0068】
エンジンが、2つの隣り合うトラック部の間に位置する1つ以上の位置決め部材を有する場合、本方法はさらに、ピストンとトラックの周りにケーシング部を形成するために、複数のケーシング部材同士を接合する前に、第1トラック部及び第2トラック部の間に上記位置決め部材を配置する工程をさらに含む。
【0069】
第4の態様に係る内燃エンジンは、本発明の第1、第2および/または第3の態様のうちの任意のものに係るピストン装置を含んでもよく、本発明の第5の態様に係る方法は、本発明の第1、第2および/または第3の態様のうちの任意のものに係るピストン装置を含む内燃エンジンを組み立てるために使用されてもよい。
【0070】
〔図面〕
続いて、以下に示す添付の図面を参照して、本発明の各実施形態を説明する。
【0071】
【0072】
図2は、様々な部材が省略された状態のエンジンを示す。
【0073】
図3および
図4は、ケーシングが省略された状態のエンジンの端面図および上面図を示す。
【0074】
図5a、
図5b、
図6a、および
図6bは、所定の部材が省略された状態のエンジンのピストンのうちの1つに対する動力伝達機構を示す。
【0075】
【0076】
図8は、エンジンのピストンのうちの1つに対する動力伝達機構の断面を示す。
【0077】
図9aおよび
図9bは、エンジンのピストンのうちの2つと、当該ピストンを安定させるために用いられる位置決め部材と、送油機構とを示す。
【0078】
図10aから
図10dは、様々な代替的なベアリングの配置を示す。
【0079】
図11は、エンジンにおいて使用可能な代替的なトラックを示す。
【0080】
【0081】
【0082】
図16aから
図16jは、組立時におけるエンジンの様々な段階を示す。
【0083】
〔各実施形態の詳細な説明〕
図1は、ブロックアセンブリ2と、2つのヘッドアセンブリ3a・3bと、排気システムとを備えた内燃エンジン1を示す。
図2は、ヘッドアセンブリ3a・3bと排気システムとが省略された状態のエンジン1を示す。これらのヘッドアセンブリおよび排気システムは、本発明の一部を構成するものではないため、詳細な説明を行わない。ブロックアセンブリ2は、3つのケーシング部材4a・4b・4cを備えている。ケーシング部材4a・4b・4cの内部には、4つのピストンアセンブリ5a・5b・5c・5dが取り付けられている。
図3および
図4はそれぞれ、ピストンアセンブリ5a・5b・5c・5dが可視となるように、ケーシング部材4a・4b・4cが取り除かれた状態のエンジン1の端面図および上面図を示す。
図5a、
図5b、
図6a、および
図6bは、明確化のために、第2ピストンアセンブリ5b、第3ピストンアセンブリ5c、および第4ピストンアセンブリ5dが省略された状態における、第1ピストンアセンブリ5aを示す。以下、第1ピストンアセンブリの構造および機能について、詳細に説明する。なお、第2ピストンアセンブリ、第3ピストンアセンブリ、および第4ピストンアセンブリは、第1ピストンアセンブリと構造的および機能的に同様であると理解されてよい。
【0084】
第1ピストンアセンブリ5aは、ピストン80を備えている。ピストン80は、シリンダスリーブ8(
図2において可視)の内部において可動であるピストンヘッド7(
図7aから
図7dに図示)を有している。ピストンヘッド7は、回転軸9aと出力フランジ10とを有する出力シャフト9に、トラックを介して接続されている。トラックは、第1トラック部11aおよび第2トラック部11bを備えている。各トラック部11a・11bは、スプライン連結部(不図示)によって、出力シャフト9に取り付けられており、かつ、当該出力シャフト9に対して回転可能に固定されている。トラック部11a・11bは、ピストンヘッド7およびシリンダスリーブ8に対して、出力シャフト9とともに回転軸9aの周りに回転する。
【0085】
各トラック部11a・11bは、自身の外周の周りに伸びる、半径方向外側表面のカム表面12a・12bを有している。また、各トラック部11a・11bは、張り出し部の下面に配置された、半径方向において内側のカム表面13a・13bを有している。当該内側のカム表面13a・13bは、上記外側のカム表面から遠ざかる方向を向いている(つまり、反対方向に向いている)。平面状のエッジ表面14a・14bは、各トラック部の外側のカム表面と内側のカム表面との間に伸びている。
【0086】
図7a、
図7b、
図7c、および
図7dは、第1ピストンアセンブリ5aの側面図、正面図、背面図、および斜視図を示す。ピストンは、ピストンヘッド7と、安定化部材(固定部)またはブレード部材15と、キャップ部材16とを備えている。安定化部材15は、ピストンヘッドの下部に接続されており、かつ、当該ピストンヘッドの下方に伸びている。また、キャップ部材16は、安定化部材の下部に接続されており、かつ、当該安定化部材の下方に伸びている。安定化部材15およびキャップ部材16は、ボルト17によってピストンヘッド7に接続されている。ピストンは、円筒状の第1ローラ18および第2ローラ20をさらに備えている。第1ローラ18および第2ローラ20は、回転可能であるように、ピストンの内部に取り付けられている。
【0087】
第1ローラ18は、半径方向外側表面を有している。当該表面は、部分的に円筒状である接触面19aの組に支持される。接触面19aは、ピストンのそれぞれの面(つまり、安定化部材15の対向する両面)において、ピストンヘッド7の下面(つまり、作用面とは反対の面)に形成されている。部分的に円筒状である接触面19aはそれぞれ、ローラ18の外周の周りにおいて、一部の距離のみ伸びている。これにより、接触面19aは、ローラを完全に囲むことなく、当該ローラの半径方向外側表面の一部18aを、当該接触面19aの下部に露出したままにできる(
図7aから
図7dに図示されている)。露出部18aは、トラック11a・11bの外側のカム表面12a・12b上において走行し、ピストンとトラックとの間において負荷を伝達する。部分的に円筒状であるベアリング面19aは、ローラ18とトラックの外側のカム表面12a・12bとの間に位置する接触面の真上に配置されている。このため、当該ローラは、ピストンとトラックとの間において、負荷の直接的な伝達を効率的に行うことができる。
【0088】
部分的に円筒状である接触面19aは、(i)最も幅が狭い最外部(つまり、安定化部材15の本体から最も離れた端部)において、ローラ18の回転角の周りに約90°の角度α1に亘って伸びており、かつ、(ii)最も幅が広い最内部において、約270°の角度に亘って伸びている。また、
図7eに示されるように、ローラ18は、部分的に円筒状である接触面19a同士の間に位置する、完全に円筒状である付加的な接触面19bを介して、ピストンと係合している。しかしながら、完全に円筒状である接触面19bは、カム表面12a・12b間で、ローラがトラックと係合しない位置に配置されている。このため、ローラの半径方向外側表面のどの部分も、当該位置で露出させておく必要がない。
【0089】
図7aに示されるように、部分的に円筒状である接触面19aは、ピストンヘッド7の中心軸7aに対して対称に配置されていない。当該接触面のそれぞれは、ピストンをローラ18の回転軸の方向から見た場合に、当該ピストンの軸の片側にずれている。当該ずれによって、ローラの露出部18aがピストンの片側にずれ、トラック11a・11bに対する空隙が生じる。当該空隙が無い場合には、ピストンに衝突(foul)が生じ得る。
図3、および後により詳細に述べる
図5aにも示されるように、このことは、
図3に示される実施形態(ピストンの軸が半径方向に配置されておらず、トラックの回転軸から角度的にずらされている)においては特に重要である。第1ローラ18は、キーパープレート22(
図7aに図示)によって、軸方向の移動が阻止されている。キーパープレート22は、ローラの軸方向の各端部において、ピストンヘッドにボルト締めされている。
【0090】
第2ローラ20は、半径方向外側表面を有している。当該表面は、部分的に円筒状である接触面21aの組に支持される。接触面21aは、ピストンのそれぞれの面において、キャップ部材16の上面に形成されている。部分的に円筒状である接触面21aはそれぞれ、ローラ20の外周の周りにおいて、(角度α2に亘って)一部の距離のみ伸びている。これにより、接触面21aは、ローラを完全に囲むことなく、半径方向外側表面の一部20aを、当該接触面21aの上部に露出したままにできる。露出部20aは、内側のカム表面12a・12b上において走行し、ピストンとトラック11a・11bとの間において負荷を伝達する。
図7aに示されるように、部分的に円筒状である接触面21aは、ローラ18と係合する部分的に円筒状である接触面19aと同様に、位置がずらされている。また、第2ローラ20は、第1ローラに比べて、より小さい直径およびより軽い構造を有している。その理由は、第2ローラによってピストンとトラックとの間において伝達されるピーク負荷は、第1ローラによってピストンとトラックとの間において伝達されるピーク負荷よりも小さいためである。
【0091】
安定化部材15は、第1接触面23aおよび第2接触面23b(
図7dに図示)を備えている。第1接触面23aおよび第2接触面23bはそれぞれ、トラックに対してピストンを安定させるための油膜を介して、トラック11a・11bのエッジ面14a・14bと係合している。接触面23a・23bは、トラックの平面状のエッジ面に対応するように、実質的に平面状である。しかしながら、安定化部材は、その厚さtにおいて、安定化部材の範囲にわたって、安定化部材とトラックとの間の相対的な移動の方向(
図8において矢印で示されている)と平行な方向にテーパを備えている。これにより、安定化部材の接触面23a・23bとトラック11a・11bのエッジ面14a・14bとの間の空隙の距離が、当該安定化部材の前方から後方に向かうにつれて減少する(前方は、接近してくるトラックに対向する端部として定義されている。つまり、前方は、
図8のページの上方に面するエッジである)。一例として、安定化部材は、約0.03°のテーパ角α3を有していてよい。安定化部材15のテーパ形状により、トラックがピストンに対して移動した場合に、静水圧の作用によって当該安定部材自身を中央に位置させ、ピストンを安定させることができる。
図8には、ピストンの移動軸に垂直な平面によって得られる、安定化部材およびトラックの断面が示されている。
図8では、例示の目的のためにテーパが強調されている。
【0092】
安定化部材15は、第1端面30および第2端面31を備えている。第1端面30と第2端面31との間には、接触面23a・23bが伸びている。
図9aに示されるように、第1端面30および第2端面31は、第1位置決め部材32および第2位置決め部材33上に設けられた、第1位置決め面32aおよび第2位置決め面33aと係合し、かつ、当該第1位置決め面32aおよび第2位置決め面33aに対してスライドする(なお、
図3から
図6bにおいては、明確性を向上させるため、位置決め部材は図示されていない)。位置決め部材は、板状の部材である。当該位置決め部材は、第1トラック部11aと第2トラック部11bとの間に配置され、エンジンが完全に組み立てられた時点では、ケーシング部材4a・4b・4cにボルト締めされている(なお、
図3から
図7においては、ピストントラックおよびピストンが覆い隠されないように、位置決め部材は省略されている)。位置決め部材32・33は、安定化部材15が、トラック部の間に形成されたスロットの内部において、前後方向に移動することまたは回転することを防ぐ。
図9aに示されるように、位置決め部材の同一の組は、第2ピストンアセンブリ5bの安定化部材の位置決めを行うためにも利用される。
【0093】
安定化部材15は、油ピックアップ24を備えている。油ピックアップ24は、自身の接触面23a・23bに開口を有している。当該開口は、トラック11a・11bのエッジ表面14a・14b上の油膜から油を受容する。油は、ピストンの周辺の油ピックアップ24から、内部の油路25を介して、潤滑が必要である位置へと供給される。当該位置は、例えば、第1ローラ18とピストンヘッド7と安定化部材15との間の界面、および、第2ローラ20と安定化部材15とキャップ部材16との間の界面である。
【0094】
油は、
図9aおよび
図9bに示される送油デバイス50によって、エッジ面14a・14bへと輸送される。送油デバイス50は、細長い本体部51を備えている。本体部51は、位置決め部材33の内部に形成された収納部60の内部に、スライド可能であるように受容される。本体51は、位置決め部材33およびカムフォロワ52・53の組と反対方向を向く作用面を有している。カムフォロワ52・53は、本体部の作用面のいずれか一方の端部から延びている。第1カムフォロワ52は、第1ローラ18の半径に実質的に等しい曲率半径を有するベアリング面を有している。第1カムフォロワは、第1トラック部11aの外側のカム表面12aに支持される。第2カムフォロワ53は、第2ローラ20の半径に実質的に等しい曲率半径を有するベアリング面を有している。第2カムフォロワは、第1トラック部11aの内側のカム表面13aに支持される。送油デバイスの作用面は、第1トラック部11aのエッジ表面14aに近接するように位置している。トラックがエンジンの内部において回転する場合、フォロワ52・53は、トラックの経路の形状に応じて、収納部60の内部において送油デバイスを移動させる。これにより、作用面がトラックのエッジ表面に近接したままである状態が維持される。他の位置決め部材32に形成された同様のスロット62には、第2送油デバイス(不図示)が設けられている
【0095】
油は、ポンプ(不図示)による圧力によって、内部経路を介して、収納部60の内部へと輸送される。当該内部経路は、位置決め部材33を貫通するように伸び、かつ、収納部の内部において排出口を有している(なお、内部経路の排出口は、送油デバイス50の本体51によって覆い隠されている。但し、
図9aにおいて、他の位置決め部材32における同様の送油装置を受容するための、同様の収納部の内部へ向かう排出口の開口については、可視である)。油は、本体51の裏面に形成されたチャンバ54(
図9bに図示)の内部に受容され、かつ収集される。そして、油は、チャンバ54から作用面まで、本体51を貫通するように伸びる穴55を介して、第1トラック部11aのエッジ表面14aに供給される。チャンバは十分に長いため、送油デバイスがトラック11aによって動かされた場合、当該送油デバイスの全ての移動範囲に亘って、排出口は油をチャンバ54の内部へと直接的に排出できる。作用面は、エッジ表面14aにおいて形成された油膜の高さを制限する役割を果たす。また、作用面は、過剰な油を除去するワイパーとしての役割を果たすこともできる。それゆえ、送油デバイス50は、安定化部材の上流において、トラック部11aのエッジ表面14aに対して、制御された方法によって短時間で、油を連続的に供給できる。これにより、エッジ表面が安定化部材を通り過ぎた時に、当該エッジ表面を良好に潤滑させることができる。第2送油デバイスは、トラック11a・11bの対向する面に配置されたピストンアセンブリ5aの安定化部材の上流において、トラック部11aのエッジ表面14aを短時間で潤滑させる。付加的な送油デバイス(不図示)は、第2トラック部11bのエッジ表面14bを潤滑させるために、位置決め部材32・33の対向する面に取り付けられている。
【0096】
図5aに示されるように、ピストンの中心軸は、トラック11a・11bの回転軸を通過しない。トラックの回転軸は、ピストン軸に対して角度α4だけずらされている。ピストンがストロークの中心にある時、第1ローラ18の回転軸における角度α4は約15°である。それゆえ、ピストンヘッド7は、トラック11a・11bに対して、純粋な半径方向の移動に追従しない。このようにピストンをトラックからずらすことにより、ピストンからトラックへの動力、および/または逆方向の動力が伝達される効率を、最大化できる。また、トラックとピストンとの衝突(foul)を避けるため、当該トラックの形状が最適化されてもよい。
【0097】
エンジンの動作中において、第1ローラ18は、トラック11a・11bの外側のカム表面12a・12bに支持され、当該カム表面12a・12bとともに回転する。第2ローラ20は、トラック11a・11bの内側のカム表面13a・13bに支持され、当該カム表面13a・13bとともに回転する。トラック11a・11bがエンジンの内部において回転すると、ピストンヘッド7は、トラックの通路の形状に応じて、シリンダスリーブ8の内部を移動する。動作サイクルのある時点において(例えば、吸気ストローク時、圧縮ストローク時、および排気ストローク時)、ピストンはトラックによって駆動される。動作サイクルのある時点において(例えば、パワーストローク時)、出力シャフト9から仕事が取り出されるように、トラックはピストンによって駆動される。トラックの経路の形状は任意の所定の形状であってよい。このため、ほとんどの従来型の内燃エンジンとは異なり、ピストンは単純な調和運動(単振動)に追従するように制約される必要はない。当該ピストンは、所望の変位プロファイルを有することが可能となる。一例として、変位プロファイルは、(i)異なる高さにおける複数の異なる局所的な上死点の位置、および/または、(ii)異なる高さにおける複数の異なる下死点の位置を含んでいてよい。
図3に示されるように、ピストンが出力シャフトの回転ごと(吸気ストローク、圧縮ストローク、パワーストローク、および排気ストロークに加え、蒸気サイクルを含む)に6回のストロークを完了させ、当該ピストンが異なる高さにおいて、異なる上死点の位置および下死点の位置を通過するように、トラック11a・11bは形成されている。
【0098】
図4に示されるように、第2ピストン装置5bは、同様のベアリング配置によって、第1ピストン装置5aと同一のトラック11a・11bに接続されたピストンを備えている。第1ピストン装置5aおよび第2ピストン装置5bのピストンは、互いに180°位相をずらして操作される。第3ピストン装置5cおよび第4ピストン装置5dはそれぞれ、2つのトラック部11c・11dを有する同様のトラックに接続されたピストンを備えている。トラック部11c・11dは、回転不能であるように出力シャフト9に取り付けられている。ピストン装置5a・5b・5c・5dのタイミングは、エンジンの振動を実質的に相殺するように設定される。代替的な実施形態において、エンジンは任意の数(例:1、2、3、または3より多い数)のトラックを備えていてもよく、かつ、各トラックによって操作される任意の数(例:1、2、3、または3より多い数)のピストン装置を有していてもよい。
【0099】
上述の実施形態において、トラックは第1トラック部11aおよび第2トラック部11bを備えている。第1トラック部11aおよび第2トラック部11bはそれぞれ、上側のカム表面および下側のカム表面を提供する。ピストンは、(i)第1トラック部および第2トラック部の両方の上側の表面に係合する第1ローラ18と、(ii)第1トラック部および第2トラック部の両方のトラック部の下側の表面に係合する第2ローラ20と、(iii)第1トラック部と第2トラック部との間に伸びる安定化部材を有している(
図10aを参照)。しかしながら、当業者であれば、その他のトラック/ローラの配置(例:
図10bから
図10dに示される配置)が可能であることが理解できるであろう。例えば、第1ローラおよび第2ローラはそれぞれ、2つの個別のローラに置き換えられてよい。この場合、(i)第1ローラ1018aおよび第2ローラ1020aがそれぞれ、第1トラック部1011aの上側および下側の表面に係合し、(ii)第3ローラ1018bおよび第4ローラ1020bがそれぞれ、第2トラック部1011bの上側および下側の表面に係合し、(iii)安定化部材1015が第1トラック部と第2トラック部との間に伸びる(
図10bを参照)。ローラ1018a・1018b・1020a・1020bはそれぞれ、ピストンヘッドの本体の内部、および/または、安定化部材の本体の内部へと伸びていてよい。あるいは、ローラ1018a・1018b・1020a・1020bはそれぞれ、ピストンヘッドの本体の外側、および/または、安定化部材の本体の内部に配置されて、ローラ1018a・1018b・1020a・1020bはそれぞれ、湾曲したベアリング面とトラックとの間に拘束されているようにしてもよい。代替的な例では、第1ローラ2018は、2つの平行な安定化部2015a・2015bの間に伸びており、かつ、単一のトラック部2011の上側の表面と係合する。一方、さらなるローラ2020a・2020bの組は、同一のトラック部に設けられた下側のカム表面の対応する組と係合する(
図10c)。さらに代替的な例では、1つのトラック部3011のみが安定化部材3015の片側に設けられてよい。そして、第1ローラ3018および第2ローラ3020はそれぞれ、トラック3011の上側および下側のカム表面と係合する(
図10dを参照)。この場合、位置決め部材は、ピストンを安定させるために、トラック3011とは反対方向を向いている安定化部材の面と係合してよい。
【0100】
上述の実施形態において、トラックは、連続的な環状のカム表面を提供する剛体のトラック部を備えている。代替的な実施形態では、トラックは、少なくとも1つの移動部を含んでいてもよい。当該移動部は、カム表面の一部を形成し、かつ、トラックのその他の部分に対して移動する。例えば、
図11には、トラック100が示されている。トラック100は、当該トラック100に取り付けられたベアリングまたはローラ101を有している。当該ローラは、半径方向外側表面102を有している。当該表面は、トラックのカム表面103の一部を形成する。ローラ101は、トラックの極大の位置に配置されている。当該位置は、トラック100によって操作されるピストンの上死点の位置に対応する。ピストンは、カム表面103に沿って走行するフォロワを有している。フォロワがローラ101の半径方向外側表面102の上部を移動すると、ローラ101は、トラックに対するピストンの移動方向に回転する。これにより、フォロワとカム表面103との間の滑りを防止または低減できる。ローラ101は360°に亘って回転可能であってもよいし、あるいは、より小さい回転角に制限されてもよい。ローラは、当該ローラの上部のフォロワの移動によって受動的に駆動されてもよいし、あるいは、例えばモータによって能動的に駆動されてもよい。
【0101】
上述の実施形態において、トラックは、半径方向内側表面および半径方向外側表面によってピストンの位置を制御する、半径方向のトラック(ラジアルトラック)である。代替的な実施形態において、ピストン207は、カム表面212a・212b・213a・213bによって、環状のトラック211a・211bと接続されてよい。例えば、
図12に示されるように、カム表面212a・212b・213a・213bは、トラックの回転軸209aと平行な方向を向いている。
図12は、第1トラック211aおよび第2トラック211bを備えた環状のトラックを示す。第1トラック211aおよび第2トラック211bはそれぞれ、エッジ表面214a・214bを有している。エッジ表面214a・214bは、ピストン207の安定化部材の対向面と係合する。トラック部211a・211bは、同心円状に配置されている。これにより、
図13aに示されるように、回転軸209aの方向から見た場合に、内側のトラック部のエッジ表面214aと外側のトラック部のエッジ表面214bとの間には、環状のギャップが形成される。
図13bに示されるように、ピストン207の安定化部材215は、回転軸と平行な方向から見た場合に、湾曲した形状を有している。当該形状は、エッジ表面214a・214b間に形成された環状のギャップの形状と対応している(なお、
図13bでは、例示の目的のために、安定化部材の曲率半径および厚さは強調されている)。
【0102】
一例として、ピストンからトラックへの、および、逆方向への動力の伝達の効率を最大化するために、ピストンの中心軸は、トラックの回転軸に対してずらされていてよい(例えば、
図12において、紙面内にトラックの回転軸が存在している場合には、ピストンの中心軸は、紙面外を向くように角度付けされる)。
【0103】
図14に示されるように、トラックが環状である場合、ローラ218・220の表面はそれぞれ、テーパ形状を有していてよい。これにより、トラックの回転軸に対するローラの最内端218a・220aは、最外端218a・220aよりも小さい直径を有する。それゆえ、ローラの最外端は、最内端に比べて、より大きい外周を有し、かつ、ローラの回転ごとにより長い距離を走行する。このように、テーパ状のローラは、トラックの半径方向における最内部と当該トラックのカム表面の半径方向における最外部とで、経路の長さを相違させることができる。
【0104】
上述の実施形態において、安定化部材はピストンヘッドに直接的に取り付けられており、第1ローラはピストンヘッドの下面に支持される。代替的な実施形態において、安定化部材は、連結棒等の中間的な部材を介して、ピストンヘッドに接続されていてもよい。当該部材は、ピストンヘッドおよび安定化部材に固定して取り付けられてもよい。あるいは、当該部材は、回転自在であるように、ピストンヘッドおよび安定化部材に取り付けられてもよい。
【0105】
上述の実施形態において、ローラは湾曲したベアリング面において、ピストンに取り付けられている。当該ベアリング面は、ローラの半径方向外側表面と係合しており、かつ、当該ローラの外周の周りの方向にある距離だけ伸びている。例えば、
図15aに示されるように、付加的な(または代替的な)他の実施形態において、ローラ318aは、ローラの半径方向内側表面と係合する湾曲したベアリング面において、ピストン307に取り付けられていてよい。
図15aおよび
図15bに示される代替的な実施形態において、第1ローラ318aは、シュー319aに設けられた湾曲したベアリング面を介して、ピストン307に取り付けられている。シュー319aは、ピストンの安定化部材315から、外側方向に、ローラ318aの中空の中心の内部へと伸びて、ローラの半径方向内側表面と係合する。また、第1ローラ318aは、ピストンヘッドの下面に設けられた湾曲したベアリング面を介して、ピストン307に取り付けられている。当該ベアリング面は、ローラの半径方向外側表面と係合する。ローラ318aは、両方の湾曲したベアリング面を介して、ピストン307とトラック部との間において、負荷を伝達する。
図15aに示されるように、シュー319aは、ピストン307の片側にずらされている。これにより、ローラとシューとの間の接触面の中心は、負荷が最大となる方向に位置合わせされる。
図15bに示されるように、ローラ318aは、シュー上において当該ローラを軸方向に保持するために、シュー319aの反対側に配置された、半径方向内側表面に伸びるフランジを有している。シューは、安定化部材の接触面に配置された油ピックアップから、ローラの半径方向内側表面へと、油を供給してよい。同様のローラ配置が、安定化部材の反対側に設けられている。当該反対側では、ローラ318bがシュー319bに取り付けられており、当該ローラ318bはトラック部311b上で走行する。また、ピストン307を反対方向に移動させるために、トラックの反対側には、同様のローラ配置320a/321aおよび320b/321bが設けられている。他の実施形態において、ローラは、半径方向内側表面のみを介して、ピストンと係合していてもよい。これにより、ローラはシューのみに取り付けられるので、当該ローラはシューのみを介して、ピストンとトラックとの間において負荷を伝達する。
【0106】
エンジンは、以下の工程によって組み立てられる。以下に述べる方法は、エンジンの一部を形成する全ての部材を組み立てるために必要な全ての工程を含んでいるわけではない。当該方法は、明確化のために、動力伝達機構およびケーシングを組み立てるための主要な工程に簡単化されている。
【0107】
a)ベアリングAを、ケーシング部材4bに形成された収納部の内部へと圧入する。そして、ケーシング部材4bを貫通するように形成された穴に、シャフト9を挿入する(
図16aおよび
図16b)。
【0108】
b)シャフト9にトラック部11bを取り付け、当該トラック部11bをベアリングAと係合させる(
図16c)。
【0109】
c)外側の表面12bを上側のローラ18に係合させ、かつ、内側の表面13bを下側のローラ20に係合させることで、ピストン80をトラック部11bに接続する。そして、ピストンヘッドをシリンダスリーブ8に取り付ける(
図16dおよび
図16e)。同様に、第2ピストン装置の反対側のピストンをトラック部11bに接続する。
【0110】
d)位置決め部材32・33をケーシング部材4bに取り付ける(
図16f)。なお、位置決め部材32・33のそれぞれのスロット(それぞれの安定化部材の各面におけるスロットの1つ)には、送油デバイスが配置されている。
【0111】
e)シャフト9にスペーサ部材Sを取り付ける(
図6bにおいて、トラック部11bの近傍に示されている)。そして、当該シャフトにトラック部11aを取り付け、当該トラック部11aをスペーサ部材と係合させる(
図16g)。
【0112】
f)ベアリングB(
図4において、トラック部12aの下方に示されている)をケーシング部材4cに圧入する。そして、シャフト9にケーシング部材4cを取り付け、ベアリングBをトラック部11aと係合させる(
図16h)
g)上記と同様の工程を行い、シャフト9にピストンアセンブリ5c・5dを接続する。そして、ケーシング部材4aを配置する(
図16i)。
【0113】
h)ケーシングを貫通するように伸びる締め具によって、ケーシング部材4a・4b・4cを一体的に取り付ける(
図16j)。
【0114】
トラック11a・11bとトラック1c・11dとの間に位置するケーシング部材4bは、各トラックと当該各トラックのピストンとがシャフトに接続される前に、シャフト9の周囲に配置される。ケーシング部材4b・4cは、ピストンアセンブリ5a・5bがシャフト9に接続された後に、一体化される。そして、ケーシング部材4a・4bは、ピストンアセンブリ5c・5dがシャフト9に接続された後に、一体化される。
【0115】
以上では、1つまたは複数の好適な実施形態を参照して、本発明を説明した。但し、添付の特許請求の範囲において規定される発明の範囲から逸脱しない限り、様々な変更または修正が行われてもよいことが理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【
図2】様々な部材が省略された状態のエンジンを示す図である。
【
図3】ケーシングが省略された状態のエンジンの端面図を示す図である。
【
図4】ケーシングが省略された状態のエンジンの上面図を示す図である。
【
図5a】所定の部材が省略された状態のエンジンのピストンのうちの1つに対する動力伝達機構を示す図である。
【
図5b】所定の部材が省略された状態のエンジンのピストンのうちの1つに対する動力伝達機構を示す図である。
【
図6a】所定の部材が省略された状態のエンジンのピストンのうちの1つに対する動力伝達機構を示す図である。
【
図6b】所定の部材が省略された状態のエンジンのピストンのうちの1つに対する動力伝達機構を示す図である。
【
図8】エンジンのピストンのうちの1つに対する動力伝達機構の断面を示す図である。
【
図9a】エンジンのピストンのうちの2つと、当該ピストンを安定させるために用いられる位置決め部材とを示す図である。
【
図10a】様々な代替的なベアリングの配置を示す図である。
【
図10b】様々な代替的なベアリングの配置を示す図である。
【
図10c】様々な代替的なベアリングの配置を示す図である。
【
図10d】様々な代替的なベアリングの配置を示す図である。
【
図11】エンジンにおいて使用可能な代替的なトラックを示す。
【
図12】代替的なトラックのレイアウトを示す図である。
【
図13a】代替的なトラックのレイアウトを示す図である。
【
図13b】代替的なトラックのレイアウトを示す図である。
【
図14】代替的なトラックのレイアウトを示す図である。
【
図15a】代替的なベアリングの配置を示す図である。
【
図15b】代替的なベアリングの配置を示す図である。
【
図16a】組立時におけるエンジンの様々な段階を示す図である。
【
図16b】組立時におけるエンジンの様々な段階を示す図である。
【
図16c】組立時におけるエンジンの様々な段階を示す図である。
【
図16d】組立時におけるエンジンの様々な段階を示す図である。
【
図16e】組立時におけるエンジンの様々な段階を示す図である。
【
図16f】組立時におけるエンジンの様々な段階を示す図である。
【
図16g】組立時におけるエンジンの様々な段階を示す図である。
【
図16h】組立時におけるエンジンの様々な段階を示す図である。
【
図16i】組立時におけるエンジンの様々な段階を示す図である。
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図16j】組立時におけるエンジンの様々な段階を示す図である。