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特開2022-175284電力変換装置および電力変換システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175284
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】電力変換装置および電力変換システム
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20221117BHJP
【FI】
H02M7/48 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021081550
(22)【出願日】2021-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】龍 建儒
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA05
5H770DA01
5H770DA41
5H770EA01
5H770HA02Y
5H770HA03W
5H770HA03Y
5H770JA17Y
5H770KA01Y
5H770KA03Z
(57)【要約】
【課題】波形歪みを低減することができる電力変換装置を得る。
【解決手段】本発明の電力変換装置は、入力端子と、第1の接続端子と第1のノードとを結ぶ経路に設けられた第1のスイッチング素子と、第1のノードと第2の接続端子とを結ぶ経路に設けられた第2のスイッチング素子と、第1の接続端子と第2のノードとを結ぶ経路に設けられた第3のスイッチング素子と、第2のノードと第2の接続端子とを結ぶ経路に設けられた第4のスイッチング素子とを有するスイッチング部と、出力端子と、ローパスフィルタと、制御部とを備える。上記制御部は、出力端子における交流出力電圧の実効電圧値の指令値である第1の実効電圧指令値を生成し、第1の実効電圧指令値を所定の値でリミットすることにより第2の実効電圧指令値を生成し、第2の実効電圧指令値および実効電圧値に基づいてスイッチング部の動作を制御する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の接続端子および第2の接続端子を有する入力端子と、
前記第1の接続端子と第1のノードとを結ぶ経路に設けられた第1のスイッチング素子と、前記第1のノードと前記第2の接続端子とを結ぶ経路に設けられた第2のスイッチング素子と、前記第1の接続端子と第2のノードとを結ぶ経路に設けられた第3のスイッチング素子と、前記第2のノードと前記第2の接続端子とを結ぶ経路に設けられた第4のスイッチング素子とを有するスイッチング部と、
出力端子と、
前記第1のノードおよび前記第2のノードと前記出力端子とを結ぶ経路に設けられたローパスフィルタと、
前記スイッチング部の動作を制御する制御部と
を備え、
前記制御部は、前記出力端子における交流出力電圧の実効電圧値の指令値である第1の実効電圧指令値を生成し、前記第1の実効電圧指令値を所定の値でリミットすることにより第2の実効電圧指令値を生成し、前記第2の実効電圧指令値および前記実効電圧値に基づいて前記スイッチング部の動作を制御する
電力変換装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第2の実効電圧指令値および前記実効電圧値に基づいてデューティ比を算出し、前記デューティ比に基づいて前記スイッチング部の動作を制御する
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記交流出力電圧に基づいて、移動平均値を算出することにより、前記実効電圧値を算出する
請求項1または請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記交流出力電圧の半周期分の期間における前記交流出力電圧に基づいて、前記実効電圧値を算出する
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記交流出力電圧の1周期分の期間における前記交流出力電圧に基づいて、前記実効電圧値を算出する
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記交流出力電圧の直流成分値である第1の直流成分値を前記第2の実効電圧指令値に応じた値でリミットすることにより第2の直流成分値を生成し、前記直流成分値の指令値である直流成分指令値を生成し、前記第2の実効電圧指令値および前記実効電圧値と、前記直流成分指令値および前記第2の直流成分値とに基づいて前記スイッチング部の動作を制御する
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記スイッチング部と前記ローパスフィルタとの間に流れる電流と、前記交流出力電圧とに基づいて、前記出力端子に流れる負荷電流を推定し、前記第2の実効電圧指令値および前記実効電圧値と、前記直流成分指令値および前記第2の直流成分値と、推定された前記負荷電流の実効電流値とに基づいて前記スイッチング部の動作を制御する
請求項6に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記スイッチング部と前記ローパスフィルタとの間に流れる電流が所定のしきい値に到達した場合に、所定の時間長の期間において、前記スイッチング部が電流を出力しないように前記スイッチング部の動作を制御する
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記第1の実効電圧指令値、前記第2の実効電圧指令値、および前記実効電圧値を、前記第1の接続端子および前記第2の接続端子の端子間電圧を用いて正規化し、正規化された前記第1の実効電圧指令値、正規化された前記第2の実効電圧指令値、および正規化された前記実効電圧値を用いて前記スイッチング部の動作を制御する
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の電力変換装置と、
前記電力変換装置の前記入力端子に接続された直流電源と
を備えた
電力変換システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力を変換する電力変換装置および電力変換システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置には、直流電力を交流電力に変換するものがある。例えば、特許文献1には、各種電圧や電流の瞬時値に基づいてスイッチング動作を制御する電力変換装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2017/138103号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電力変換装置では、通常動作時だけでなく、入力電力よりも出力電力の方が大きい過負荷時においても、交流出力電圧の波形は、正弦波であり波形歪みが低いことが望まれる。
【0005】
交流出力電圧の波形歪みを低減することができる電力変換装置および電力変換システムを提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電力変換装置は、入力端子と、スイッチング部と、出力端子と、ローパスフィルタ尾と、制御部とを備える。入力端子は、第1の接続端子および第2の接続端子を有する。スイッチング部は、第1の接続端子と第1のノードとを結ぶ経路に設けられた第1のスイッチング素子と、第1のノードと第2の接続端子とを結ぶ経路に設けられた第2のスイッチング素子と、第1の接続端子と第2のノードとを結ぶ経路に設けられた第3のスイッチング素子と、第2のノードと第2の接続端子とを結ぶ経路に設けられた第4のスイッチング素子とを有する。ローパスフィルタは、第1のノードおよび第2のノードと出力端子とを結ぶ経路に設けられる。制御部は、スイッチング部の動作を制御する。上記制御部は、出力端子における交流出力電圧の実効電圧値の指令値である第1の実効電圧指令値を生成し、第1の実効電圧指令値を所定の値でリミットすることにより第2の実効電圧指令値を生成し、第2の実効電圧指令値および実効電圧値に基づいてスイッチング部の動作を制御する。
【0007】
本発明の電力変換システムは、上記電力変換装置と、直流電源とを備えている。直流電源は、電力変換装置の入力端子に接続される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電力変換装置および電力変換システムによれば、出力端子における交流出力電圧の実効電圧値の指令値である第1の実効電圧指令値を生成し、第1の実効電圧指令値を所定の値でリミットすることにより第2の実効電圧指令値を生成し、第2の実効電圧指令値および実効電圧値に基づいてスイッチング部の動作を制御するようにしたので、交流出力電圧の波形歪みを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施の形態に係る電力変換装置の一構成例を表す回路図である。
図2図1に示した電力変換装置の一動作例を表すタイミング波形図である。
図3図1に示した制御部の一構成例を表すブロック図である。
図4図1に示した電力変換装置の一動作例を表す波形図である。
図5図1に示した負荷装置の一例を表す等価回路図である。
図6図1に示した電力変換装置の一動作例を表す他の波形図である。
図7図1に示した電力変換装置の一動作例を表す他の波形図である。
図8図3に示したゲート信号生成部の一構成例を表すブロック図である。
図9図7に示したゲート信号生成部の一動作例を表す波形図である。
図10図1に示した電力変換装置の一動作例を表すタイミング波形図である。
図11】参考例に係る電力変換装置の一動作例を表す他のタイミング波形図である。
図12図1に示した電力変換装置の一動作例を表す他のタイミング波形図である。
図13】他の参考例に係る電力変換装置の一動作例を表す他のタイミング波形図である。
図14図1に示した電力変換装置の一動作例を表す他のタイミング波形図である。
図15図1に示した電力変換装置の一動作例を表す他のタイミング波形図である。
図16】変形例に係る電力変換装置の一構成例を表す回路図である。
図17】他の変形例に係る電力変換装置の一構成例を表す回路図である。
図18】他の変形例に係る電力変換装置の一構成例を表す回路図である。
図19図18に示した電力変換装置におけるゲート信号生成部の一構成例を表すブロック図である。
図20】変形例に係る制御部の一構成例を表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
[構成例]
図1は、本発明の一実施の形態に係る電力変換装置(電力変換装置1)の一構成例を表すものである。この電力変換装置1は、単相二線式のインバータである。電力変換装置1は、入力端子T11,T12と、出力端子T21,T22とを備えている。入力端子T11,T12には、直流電源PDCが接続されている。直流電源PDCは、例えば直流電源装置であってもよい。この直流電源装置は、例えば、バッテリおよびDC/DCコンバータを有し、DC/DCコンバータが、このバッテリから供給された直流電力を変換し、変換された直流電力を電力変換装置1に供給してもよい。出力端子T21,T22は、負荷装置LOADに接続されている。
【0012】
電力変換装置1は、電圧センサ21と、入力キャパシタ22と、スイッチング部23と、電流センサ24と、ローパスフィルタ25と、電圧センサ28と、スイッチ29U,29Wと、制御部30とを備えている。
【0013】
電圧センサ21は、直流バス電圧Vdcを検出するように構成される。電圧センサ21の一端は入力端子T11に導かれた電圧線L1に接続され、他端は入力端子T12に導かれた基準電圧線L2に接続される。電圧センサ21は、基準電圧線L2での電圧を基準とした電圧線L1での電圧を直流バス電圧Vdcとして検出する。そして、電圧センサ21は、直流バス電圧Vdcの検出結果を制御部30に供給するようになっている。
【0014】
入力キャパシタ22の一端は電圧線L1に接続され、他端は基準電圧線L2に接続される。入力キャパシタ22は、キャパシタンスCdcを有する。入力キャパシタ22は、例えば電解コンデンサを用いることができる。
【0015】
スイッチング部23は、ゲート信号S1~S4に基づいてそれぞれスイッチング動作を行うように構成される。スイッチング部23は、トランジスタSW1~SW4を有している。トランジスタSW1~SW4は、ゲート信号S1~S4に基づいてそれぞれスイッチング動作を行うスイッチング素子である。トランジスタSW1~SW4のそれぞれは、例えば絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor)を用いて構成される。トランジスタSW1~SW4のそれぞれは、還流ダイオードを有している。トランジスタSW1の還流ダイオードのアノードは、トランジスタSW1のエミッタに接続され、カソードは、トランジスタSW1のコレクタに接続される。トランジスタSW2~SW4についても同様である。なお、この例では、絶縁ゲートバイポーラトランジスタを用いたが、スイッチング素子であればどのようなものを用いてもよい。
【0016】
トランジスタSW1は、電圧線L1とノードN1とを結ぶ経路に設けられ、オン状態になることによりノードN1を電圧線L1に接続するように構成される。トランジスタSW1のコレクタは電圧線L1に接続され、ゲートにはゲート信号S1が供給され、エミッタはノードN1に接続される。トランジスタSW2は、ノードN1と基準電圧線L2とを結ぶ経路に設けられ、オン状態になることによりノードN1を基準電圧線L2に接続するように構成される。トランジスタSW2のコレクタはノードN1に接続され、ゲートにはゲート信号S2が供給され、エミッタは基準電圧線L2に接続される。ノードN1は、トランジスタSW1のエミッタとトランジスタSW2のコレクタとの接続点である。
【0017】
トランジスタSW3は、電圧線L1とノードN2とを結ぶ経路に設けられ、オン状態になることによりノードN2を電圧線L1に接続するように構成される。トランジスタSW3のコレクタは電圧線L1に接続され、ゲートにはゲート信号S3が供給され、エミッタはノードN2に接続される。トランジスタSW4は、ノードN2と基準電圧線L2とを結ぶ経路に設けられ、オン状態になることによりノードN2を基準電圧線L2に接続するように構成される。トランジスタSW4のコレクタはノードN1に接続され、ゲートにはゲート信号S4が供給され、エミッタは基準電圧線L2に接続される。ノードN2は、トランジスタSW3のエミッタとトランジスタSW4のコレクタとの接続点である。
【0018】
電流センサ24は、ノードN1とローパスフィルタ25とを結ぶ経路に設けられ、この経路に流れる電流i_uを検出するように構成される。電流センサ24の一端はノードN1に接続され、他端はACリアクトル26の一端に接続される。電流センサ24は、ノードN1からローパスフィルタ25に向かって流れる場合に正になるように電流i_uを検出する。電流センサ24は、電流i_uの検出結果を制御部30に供給するようになっている。
【0019】
ローパスフィルタ25は、トランジスタSW1~SW4のスイッチング動作により生成された信号に含まれる高周波数成分を除去するように構成される。ローパスフィルタ25は、ACリアクトル26と、キャパシタ27とを有する。
【0020】
ACリアクトル26は、ノードN1と出力端子T21とを結ぶ経路に設けられ、一端は電流センサ24の他端に接続され、他端は電圧線ULに接続される。ACリアクトル26は、インダクタンスLinvと、内部レジスタンスRinvとを有する。
【0021】
キャパシタ27は、例えば、ACフィルムキャパシタを用いて構成される。キャパシタ27の一端は電圧線ULに接続され、他端はノードN2に導かれた電圧線WLに接続される。キャパシタ27は、キャパシタンスCinvと、寄生インダクタンスLcと、寄生レジスタンスRcとを有する。寄生インダクタンスLcは、等価直列インダクタンス(ESL:Equivalent Series Inductance)であり、寄生レジスタンスRcは、等価直列抵抗(ESR:Equivalent Series Resistance)である。
【0022】
電圧センサ28は、電力変換装置1から出力される交流出力電圧e_invを検出するように構成される。電圧センサ28の一端は電圧線ULに接続され、他端は電圧線WLに接続される。電圧センサ28は、電圧線WLでの電圧を基準とした電圧線ULでの電圧を交流出力電圧e_invとして検出する。そして、電圧センサ28は、交流出力電圧e_invの検出結果を制御部30に供給するようになっている。
【0023】
スイッチ29Uは、オン状態になることにより、電圧線ULを負荷装置LOADに接続するように構成される。スイッチ29Uの一端は電圧線ULに接続され、他端は出力端子T21に接続される。スイッチ29Uは、スイッチ制御信号Ssdに基づいてオンオフするようになっている。
【0024】
スイッチ29Wは、オン状態になることにより、電圧線WLを負荷装置LOADに接続するように構成される。スイッチ29Wの一端は電圧線WLに接続され、他端は出力端子T22に接続される。スイッチ29Wは、スイッチ制御信号Ssdに基づいてオンオフするようになっている。
【0025】
出力端子T21,T22は、負荷装置LOADに接続される。負荷装置LOADは、一端が出力端子T21に接続され他端が出力端子T22に接続された、インピーダンスZloadを有する負荷を含む。
【0026】
制御部30は、電力変換装置1の動作を制御するように構成される。制御部30は、例えば、1または複数のマイクロコントローラを用いて構成される。制御部30は、交流出力電圧e_inv、電流i_u、および直流バス電圧Vdcに基づいて、演算処理を行うことにより、ゲート信号S1~S4を生成する。これにより、制御部30は、交流出力電圧e_invの電圧振幅が所定の振幅になるように電圧振幅一定制御を行う。
【0027】
図2は、電力変換装置1における電力変換動作の一例を表すものであり、(A)はU相のスイッチング素子であるトランジスタSW1,SW2のデューティ比d_uを示し、(B)はキャリア信号CRの波形を示し、(C)~(F)はゲート信号S1~S4の波形を示す。この例では、ゲート信号S1が高レベルである場合にはトランジスタSW1はオン状態になり、ゲート信号S1が低レベルである場合にはトランジスタSW1はオフ状態になる。ゲート信号S2~S4についても同様である。周波数fsdは交流出力電圧e_invの周波数であり、時間Tsdは交流出力電圧e_invの周期に対応する時間である。時間TsはトランジスタSW1,SW2のスイッチング周期に対応する時間である。なお、この図2では、説明の便宜上、時間Tsdに比べて時間Tsの期間を長く描いているが、例えば、時間Tsは50μsec.(=1/20kHz)に設定することができ、時間Tsdは16.7msec.(=1/60Hz)に設定することができる。
【0028】
制御部30は、後述するようにデューティ比d_uおよびキャリア信号CRを生成する(図2(A),(B)))。そして、制御部30は、デューティ比d_uおよびキャリア信号CRに基づいてPWM(Pulse Width Modulation)信号であるゲート信号S1,S2を生成する(図2(C),(D))。また、制御部30は、デューティ比が約50%であるゲート信号S3,S4を生成する(図2(E),(F))。トランジスタSW1~SW4は、これらのゲート信号S1~S4に基づいてそれぞれオンオフする。ローパスフィルタ25は、トランジスタSW1~SW4のスイッチング動作により生成された交流パルス電圧に含まれる高周波数成分を除去する。このようにして、電力変換装置1は、交流出力電圧e_invを生成するようになっている。
【0029】
制御部30の動作を説明する前に、電力変換装置1の動作を以下に定式化する。スイッチング部23のノードN1における電圧v_uおよびノードN2における電圧v_wは、以下の式EQ1により表される
【数1】

ここで、“d_u”はU相のスイッチング素子であるトランジスタSW1,SW2のデューティ比であり、“d_w”はW相のスイッチング素子であるトランジスタSW3,SW4のデューティ比である。ノードN1における電圧v_u、および電流i_uは、キルヒホッフの電圧則およびキルヒホッフの電流則を用いて、以下の式EQ2により表される。
【数2】

ここで、“i_laod”は、図1に示したように、負荷装置LOADに流れる負荷電流である。この負荷電流i_laodは、以下の式EQ3により表される。
【数3】

この電力変換装置1では、検出された交流出力電圧e_invおよび検出された電流i_uに基づいて、この式EQ3を用いて、負荷電流i_laodを推定する。これにより、電力変換装置1では、大きな電流が流れる電圧線ULに、電流センサを設けないようにすることができる。
【0030】
図3は、制御部30の一構成例を表すものである。制御部30は、指令値生成部31と、実効値算出部32,33と、負荷電流推定部34と、実効値算出部35と、直流成分算出部36と、リミッタ37と、交流電圧制御部38と、交流電流制御部39と、リミッタ41,42と、直流成分制御部43と、加算部44と、乗算部45と、ゲートブロック信号生成部46と、キャリア信号生成部47と、ゲート信号生成部50とを有している。
【0031】
制御部30は、交流出力電圧e_inv、電流i_u、および直流バス電圧Vdcを、サンプリング周波数fsに応じたサンプリング周期でサンプリングするAD変換回路を有している。サンプリング周波数fsは、この例では20kHzである。この例では、サンプリング周期(1/fs)は、図2に示した時間Tsと同じである。そして、制御部30は、これらのデジタル値に基づいて演算処理を行う。以下、AD変換されたデジタル値を表すものとして、交流出力電圧e_inv、電流i_u、および直流バス電圧Vdcを適宜用いる。
【0032】
指令値生成部31は、交流出力電圧e_invの実効電圧値の指令値である実効電圧指令値X_inv*、および交流出力電圧e_invの直流成分値の指令値である直流成分指令値X_invdc*を生成するように構成される。具体的には、指令値生成部31は、まず、交流出力電圧e_invの実効電圧値の電圧指令値である実効電圧指令値E_inv*、および交流出力電圧e_invの直流成分値の電圧指令値である直流成分指令値E_invdc*を生成する。実効電圧指令値E_inv*および直流成分指令値E_invdc*の単位は電圧である。そして、以下の式EQ4に示すように、指令値生成部31は、生成した実効電圧指令値E_inv*を直流バス電圧Vdcで正規化することにより実効電圧指令値X_inv*を生成し、生成した直流成分指令値E_invdc*を直流バス電圧Vdcで正規化することにより直流成分指令値X_invdc*を生成するようになっている。
【数4】
【0033】
実効値算出部32は、検出された交流出力電圧e_invに基づいて、この交流出力電圧e_invの実効値を算出することにより実効電圧値X_invを算出するように構成される。実効電圧値X_invは、例えば以下の式EQ5を用いて算出される。
【数5】

ここで、パラメータMは、以下の式EQ6のように表される。
【数6】

式EQ6において、“fs・Tsd”は、時間Tsdにおけるサンプリングポイント数を示している。パラメータaは、例えば“0.5”である。この場合には、実効値算出部32は、交流出力電圧e_invの半周期分の時間(時間Tsd/2)における交流出力電圧e_invに基づいて実効値を算出する。なお、これに限定されるものではなく、例えば“0.5”の整数倍であってもよい。
【0034】
式EQ5の第1式は、交流出力電圧e_invの2乗を時間積分することにより実効電圧値E_invを算出する式である。すなわち、この第1式は、連続時間系の式である。この例では、制御部30は、上述したように、サンプリング周波数fsに応じたサンプリング周期で交流出力電圧e_invをサンプリングしている。よって、連続時間系の第1式は、離散時間系の第2式に変換される。この式EQ5の第2式は、移動平均法を用いることにより、第3式に変換される。この式EQ5の右辺のルート内では、前回得られた実効電圧値の2乗((E_inv[k-1])^2)から、一番古い瞬時値に係る値(1/M・(E_inv[k-M])^2)を減算し、一番新しい瞬時値に係る値(1/M・(E_inv[k])^2)を加算している。実効値算出部32は、サンプリングされた交流出力電圧e_invに基づいて、この第3式を用いて、実効電圧値E_invを算出することができる。そして、実効値算出部32は、第4式を用いて、算出された実効電圧値E_invを直流バス電圧Vdcで正規化することにより、実効電圧値X_invを算出するようになっている。
【0035】
実効値算出部33は、検出された電流i_uに基づいて、この電流i_uの実効値を算出することにより実効電流値X_uを算出するように構成される。実効電流値X_uは、例えば以下の式EQ7を用いて算出される。
【数7】
【0036】
式EQ7の第1式は、電流i_uの2乗を時間積分することにより実効電流値I_uを算出する式である。式EQ5と同様に、この連続時間系の第1式は、離散時間系の第2式に変換される。そして、この式EQ7の第2式は、移動平均法を用いることにより、第3式に変換される。実効値算出部33は、サンプリングされた電流i_uに基づいて、この第3式を用いて、実効電流値I_uを算出することができる。そして、実効値算出部33は、第4式を用いて、算出された実効電流値I_uを直流バス電圧Vdcで正規化することにより、実効電流値X_uを算出するようになっている。
【0037】
負荷電流推定部34は、検出された交流出力電圧e_invおよび検出された電流i_uに基づいて、式EQ3を用いて負荷電流i_laodを推定するように構成される。
【0038】
実効値算出部35は、推定された負荷電流i_loadに基づいて、この負荷電流i_loadの実効値を算出することにより実効負荷電流値X_loadを算出するように構成される。実効負荷電流値X_loadは、例えば以下の式EQ8を用いて算出される。
【数8】
【0039】
式EQ8の第1式は、負荷電流i_loadの2乗を時間積分することにより実効負荷電流値I_loadを算出する式である。式EQ5と同様に、この連続時間系の第1式は、離散系の第2式に変換される。そして、この式EQ8の第2式は、移動平均法を用いることにより、第3式に変換される。実効値算出部35は、サンプリングされた負荷電流i_loadに基づいて、この第3式を用いて、実効負荷電流値I_loadを算出することができる。そして、実効値算出部35は、第4式を用いて、算出された実効負荷電流値I_loadを直流バス電圧Vdcで正規化することにより、実効負荷電流値X_loadを算出するようになっている。
【0040】
直流成分算出部36は、検出された交流出力電圧e_invに基づいて、交流出力電圧e_invの平均値を算出することにより直流成分値X_invdcを算出するように構成される。直流成分値X_invdcは、例えば以下の式EQ9を用いて算出される。
【数9】

ここで、パラメータNは、以下の式EQ10のように表される。
【数10】

上述したように、“fs・Tsd”は、時間Tsdにおけるサンプリングポイント数を示している。パラメータbは、例えば“1”である。この場合には、直流成分算出部36は、交流出力電圧e_invの1周期分の時間(時間Tsd)における交流出力電圧e_invに基づいて平均値を算出する。なお、これに限定されるものではなく、例えば“1”の整数倍であってもよい。
【0041】
式EQ9の第1式は、交流出力電圧e_invを時間積分することにより直流成分値E_invdcを算出する式である。すなわち、この第1式は、連続時間系の式である。この例では、制御部30は、上述したように、サンプリング周波数fsに応じたサンプリング周期で交流出力電圧e_invをサンプリングしている。よって、連続時間系の第1式は、離散時間系の第2式に変換される。直流成分算出部36は、サンプリングされた交流出力電圧e_invに基づいて、この第2式を用いて、直流成分値E_invdcを算出することができる。そして、直流成分算出部36は、第3式を用いて、算出された直流成分値E_invdcを直流バス電圧Vdcで正規化することにより、直流成分値X_invdcを算出するようになっている。
【0042】
リミッタ37は、実効電圧指令値X_inv*を所定の値でリミットすることにより実効電圧指令値X_invlim*を生成するように構成される。具体的には、リミッタ37は、以下の式EQ11に基づいて、実効電圧指令値X_inv*をリミットする。
【数11】

ここで、minは、2つの引数のうちの小さい値を選択することを示す関数である。この式EQ11は、実効電圧指令値X_inv*をパラメータTmaxでリミットすることを示している。パラメータTmaxは、以下の式EQ12を用いて表される。
【数12】

ここで、“Td”はスイッチング部23におけるトランジスタSW1,SW2のデッドタイムである。パラメータTmaxは、時間Tsのうちの2つのデッドタイムTdを除く時間の、時間Tsに対する比率を示している。すなわち、このパラメータTmaxは、PWM信号のパルス幅の最大値に対応する。
【0043】
このリミッタ37は、例えば、電力変換装置1の入力電力よりも電力変換装置1の出力電力の方が大きい過負荷時において動作し得る。すなわち、このような場合には、電力変換装置1の前段の直流電源PDCは、十分な電力を電力変換装置1に供給することができない。例えば、このような状況が過渡的に生じた場合には、電力変換装置1は、入力キャパシタ22に蓄えられた電力を効果的に活用することにより、負荷装置LOADに対して電力を供給する。この場合、電力変換装置1は、PWM信号のパルス幅の最大値でスイッチング部23を動作させる。言い換えれば、電力変換装置1は、とり得る最大のデューティ比で動作することにより、負荷装置LOADに対して電力を供給するようになっている。
【0044】
交流電圧制御部38は、実効電圧指令値X_invlim*および実効電圧値X_invに基づいて、実効電圧値X_invが実効電圧指令値X_invlim*と等しくなるように実効電圧値X_invを制御することにより、実効電流値X_uの指令値である実効電流指令値X_u*を生成するように構成される。
【0045】
交流電流制御部39は、実効電流指令値X_u*および実効電流値X_u,X_loadに基づいて、実効電流値X_uが実効電流指令値X_u*と等しくなるように実効電流値X_uを制御することにより、出力電流指令値X_L*を生成するように構成される。
【0046】
リミッタ41は、実効電圧値X_invを所定の値でリミットすることにより実効電圧値X_invlimを生成するように構成される。具体的には、リミッタ41は、リミッタ37と同様に、以下の式EQ13に基づいて、実効電圧値X_invをリミットする。
【数13】

このリミッタ41は、リミッタ37と同様に、例えば、電力変換装置1の入力電力よりも電力変換装置1の出力電力の方が大きい過負荷時において動作し得る。
【0047】
リミッタ42は、直流成分値X_invdcを実効電圧指令値X_invlim*に応じた値でリミットすることにより直流成分値X_invdclimを生成するように構成される。具体的には、リミッタ42は、以下の式EQ14に基づいて、直流成分値X_invdcをリミットする。
【数14】

ここで、maxは、2つの引数のうちの大きい値を選択することを示す関数である。この式は、直流成分値X_invdcを、実効電圧指令値X_invlim*のc倍の値(c・X_invlim*)、および実効電圧指令値X_invlim*の(-c)倍の値(-c・X_invlim*)でリミットすることを示している。パラメータcは、0より大きく1より小さい値である。パラメータcは、例えば“0.01”に設定される。
【0048】
このリミッタ42は、リミッタ37,41と同様に、例えば、電力変換装置1の入力電力よりも電力変換装置1の出力電力の方が大きい過負荷時において動作し得る。この場合、上述したように、電力変換装置1は、入力キャパシタ22に蓄えられた電力を効果的に活用することにより、負荷装置LOADに対して電力を供給する。リミッタ37は、実効電圧指令値X_inv*を所定の値でリミットすることにより実効電圧指令値X_invlim*を生成し、リミッタ41は、実効電圧値X_invを所定の値でリミットすることにより実効電圧値X_invlimを生成する。指令値生成部31は、このような過負荷時において、以下の式EQ15に示すように、直流成分指令値X_invdc*を“0”にする
【数15】

そして、リミッタ42は、直流成分値X_invdcを実効電圧指令値X_invlim*に応じた値でリミットすることにより直流成分値X_invdclimを生成する。これにより、直流成分値X_invdclimは、式EQ14に示したように、実効電圧指令値X_invlim*の“-0.01”倍の値以上、かつ実効電圧指令値X_invlim*の“0.01”倍の値以下になる。
【0049】
直流成分制御部43は、直流成分指令値X_invdc*および直流成分値X_invdclimに基づいて、直流成分値X_invdclimが直流成分指令値X_invdc*と等しくなるように直流成分値X_invdclimを制御することにより、直流成分指令値X_dc*を生成するように構成される。
【0050】
電力変換装置1では、直流成分制御部43を設けることにより、例えば、負荷装置LOADが半波整流負荷を有する場合の不具合を抑えることができる。すなわち、半波整流負荷に対して電力を供給する場合には、図4に示したように、交流出力電圧e_invの周期期間における半分の期間において負荷電流i_loadが流れ、残りの半分の期間において負荷電流i_loadが流れない。このように負荷電流i_loadがアンバランスであるので、負荷電流i_loadが流れる期間における交流出力電圧e_invのピーク値e_aは、負荷電流i_loadが流れない期間における交流出力電圧e_invのピーク値e_aよりも低い。このような交流出力電圧e_invを、複数の負荷装置に供給する場合には、他の負荷装置の動作に影響を与える可能性がある。直流成分制御部43は、このように半波整流負荷に対して電力を供給する場合でも、交流出力電圧e_invの直流成分を調節するので、ピーク値e_aとピーク値e_bとを互いに等しくすることができる。これにより、電力変換装置1では、交流出力電圧e_invを複数の負荷装置に供給する場合でも、他の負荷装置の動作に影響を与えないようにすることができる。
【0051】
なお、近年は、家庭用の一般的な負荷装置は、商用系統電圧の変動に耐えられるように設計されている。よって、電力変換装置1は、このような家庭用の一般的な負荷装置に対して、電力を供給することができる。電力変換装置1では、このように、交流出力電圧e_invの直流成分を調節するので、家庭用の一般的な負荷装置は、問題なく動作することができる。
【0052】
加算部44(図3)は、出力電流指令値X_L*と、直流成分指令値X_dc*と、実効電圧値X_invlimとを加算することにより、信号D_u*を生成するように構成される。
【0053】
乗算部45は、信号D_u*と“Sin(θsd)”の値とを乗算することにより信号d_inv*を生成する。θsdは交流出力電圧e_invの位相角度である。
【0054】
ゲートブロック信号生成部46は、ゲートブロック信号Gu,Gwを生成するように構成される。ゲートブロック信号生成部46は、検出された電流i_uの絶対値|i_u|が所定のしきい値Ithに到達した場合に、ゲートブロック信号Guを低レベルにするようになっている。
【0055】
電力変換装置1では、このように瞬時過電流が生じた場合に、ゲートブロック信号Guを低レベルにすることにより、スイッチング部23におけるトランジスタSW1,SW2を所定の時間にわたりオフにすることができる。その結果、電力変換装置1では、トランジスタSW1~SW4を保護することができる。以下に、負荷装置LOADが非線形負荷を有する場合を例に挙げて説明する。
【0056】
図5は、負荷装置LOADが非線形負荷を有する場合における、負荷装置LOADの等価回路の一例を表すものである。負荷装置LOADは、入力端子T31,T32と、ダイオードD1~D4と、キャパシタ101と、抵抗素子102とを有している。入力端子T31,T32は、電力変換装置1の出力端子T21,T22にそれぞれ接続される。ダイオードD1のアノードは入力端子T31に接続され、カソードは電圧線L31に接続される。ダイオードD2のアノードは基準電圧線L32に接続され、カソードは入力端子T31に接続される。ダイオードD3のアノードは入力端子T32に接続され、カソードは電圧線L31に接続される。ダイオードD4のアノードは基準電圧線L32に接続され、カソードは入力端子T32に接続される。キャパシタ101の一端は電圧線L31に接続され、カソードは基準電圧線L32に接続される。抵抗素子102の一端は電圧線L31に接続され、他端は基準電圧線L32に接続される。
【0057】
図6は、非線形負荷を有する負荷装置LOADに対して電力を供給する場合における、電力変換装置1の交流出力電圧e_invおよび負荷電流i_loadの波形例を表すものである。電力変換装置1が図5に示したような負荷装置LOADに対して電力を供給する場合には、キャパシタ101の充放電により突入電流が発生する。電力変換装置1では、このような瞬時過電流が生じた場合に、ゲートブロック信号Guを低レベルにすることにより、スイッチング部23におけるトランジスタSW1,SW2を所定の短い時間にわたりオフにする。その結果、電力変換装置1では、トランジスタSW1~SW4を保護することができる。
【0058】
図7は、ゲートブロック信号生成部46の一動作例を表すものである。電流i_uの絶対値|i_u|が所定のしきい値Ithに到達すると、ゲートブロック信号生成部46は、ゲートブロック信号Guを所定の時間Toffにわたり低レベルにする。この時間Toffは、以下の式EQ16のように表される。
【数16】

第2式に示したように、パラメータzは“0”より大きい値に設定される。パラメータzは、例えば、“0.5”にすることができる。この場合には、スイッチング部23におけるトランジスタSW1,SW2は、図2に示した、スイッチング周期に対応する時間Tsの半分の時間だけオフ状態になる。なお、パラメータzは、例えば“1”より大きい値にしてもよい。この場合には、例えば、トランジスタSW1,SW2は、時間Tsより長い時間だけオフ状態になる。
【0059】
このように、電力変換装置1では、交流出力電圧e_invの実効値、電流i_uの実効値、負荷電流i_loadの実効値に基づく制御と併せて、瞬時過電流が生じた場合にトランジスタSW1,SW2を短時間だけオフにする制御を行うようにした。例えば、特許文献1に記載されているような、各種電圧の瞬時値および各種電流の瞬時時に基づく制御と併せて、本開示のような瞬時過電流に対する制御を行うことは難しい。すなわち、このような瞬時値に基づく制御では、スイッチング周期、サンプリング周期、および制御周期で同期動作を行うので、このようにトランジスタSW1,SW2を短時間だけオフにすると、フィードバック制御において外乱が生じ、制御ループが不安定になる可能性がある。電力変換装置1では、実効値に基づく制御を行うので、このようにトランジスタSW1,SW2を短時間だけオフにしても、瞬時的な外乱は緩和されるので、フィードバック制御への影響を小さくすることができる。
【0060】
キャリア信号生成部47(図3)は、図2に示したキャリア信号CRを生成するように構成される。
【0061】
ゲート信号生成部50は、信号d_inv*、キャリア信号CR、およびゲートブロック信号Gu,Gwに基づいて、ゲート信号S1~S4を生成するように構成される。
【0062】
図8は、ゲート信号生成部50の一構成例を表すものである。ゲート信号生成部50は、比較部51と、加算部52と、PWM信号生成部53と、信号生成部54とを有している。
【0063】
比較部51は、“Sin(θsd)”の値と“0”とを比較することによりデューティ比d_wを生成するように構成される。比較部51は、Sin(θsd)の値が“0”より大きい場合(Sin(θsd)>0)にデューティ比d_wを“0”にし、Sin(θsd)の値が“0”より小さい場合(Sin(θsd)<0)にデューティ比d_wを“1”にする。このようにして、比較部51は、Sin(θsd)のゼロクロスタイミングで、“1”および“0”の間で遷移するデューティ比d_wを生成するようになっている。
【0064】
加算部52は、乗算部45(図3)から供給された信号d_inv*とデューティ比d_wとを加算することによりデューティ比d_uを生成するように構成される。
【0065】
PWM信号生成部53は、デューティ比d_uおよびキャリア信号CRに基づいて、図2(C),(D)に示したゲート信号S1,S2を生成するように構成される。PWM信号生成部53は、ゲートブロック信号Guが高レベルである場合に、デューティ比d_uに基づいて、PWM信号であるゲート信号S1,S2を生成し、ゲートブロック信号Guが低レベルである場合に、低レベルのゲート信号S1,S2を生成するようになっている。PWM信号生成部53は、デューティ比d_uに基づいてゲート信号S1,S2を生成する際、デッドタイムTdについての情報に基づいて、ゲート信号S1が高レベルになる期間と、ゲート信号S2が高レベルになる期間との間に、ゲート信号S1,S2がともに低レベルになる、所定の時間(デッドタイムTd)を有する期間を設けるようになっている。
【0066】
信号生成部54は、デューティ比d_wに基づいて、図2(E),(F)に示したゲート信号S3,S4を生成するように構成される。信号生成部54は、ゲートブロック信号Gwが高レベルである場合に、デューティ比d_wに基づいてゲート信号S3,S4を生成し、ゲートブロック信号Gwが低レベルである場合に、低レベルのゲート信号S3,S4を生成するようになっている。信号生成部54は、デューティ比d_wに基づいてゲート信号S3,S4を生成する際、デッドタイムTdについての情報に基づいて、ゲート信号S3が高レベルになる期間と、ゲート信号S4が高レベルになる期間との間に、ゲート信号S3,S4がともに低レベルになる、所定の時間(デッドタイムTd)を有する期間を設けるようになっている。
【0067】
図9は、ゲート信号生成部50の一動作例を表すものであり、(A)は信号d_inv*の波形を示し、(B)はデューティ比d_wの波形を示し、(C)はデューティ比d_uの波形を示す。比較部51は、“Sin(θsd)”の値と“0”とを比較することによりデューティ比d_wを生成する(図9(B))。加算部52は、乗算部45から供給された信号d_inv*とデューティ比d_wとを加算することによりデューティ比d_uを生成する(図9(C))。PWM信号生成部53は、デューティ比d_u(図2(A))およびキャリア信号CR(図2(B))に基づいて、ゲート信号S1,S2(図2(C),(D))を生成する。そして、信号生成部54は、デューティ比d_wに基づいて、ゲート信号S3,S4(図2(E),(F))を生成するようになっている。
【0068】
ここで、スイッチング部23は、本開示における「スイッチング部」の一具体例に対応する。トランジスタSW1~SW4は、本開示における「第1~第4のスイッチング素子」の一具体例にそれぞれ対応する。入力端子T11,T12は、本開示における「入力端子」に対応する。入力端子T11は、本開示における「第1の接続端子」の一具体例に対応する。入力端子T12は、本開示における「第2の接続端子」の一具体例に対応する。ノードN1は、本開示における「第1のノード」の一具体例に対応する。ノードN2は、本開示における「第2のノード」の一具体例に対応する。出力端子T21,T22は、本開示における「出力端子」に対応する。ローパスフィルタ25は、本開示における「ローパスフィルタ」に対応する。制御部30は、本開示における「制御部」に対応する。
【0069】
デューティ比d_uは、本開示における「デューティ比」に対応する。交流出力電圧e_invは、本開示における「交流出力電圧」の一具体例に対応する。実効電圧値X_invは、本開示における「実効電圧値」の一具体例に対応する。実効電圧指令値X_inv*は、本開示における「第1の実効電圧指令値」の一具体例に対応する。実効電圧指令値X_invlim*は、本開示における「第2の実効電圧指令値」の一具体例に対応する。直流成分指令値X_invdc*は、本開示における「直流成分指令値」の一具体例に対応する。直流成分値X_invdcは、本開示における「第1の直流成分値」の一具体例に対応する。直流成分値X_invdclimは、本開示における「第2の直流成分値」の一具体例に対応する。負荷電流i_loadは、本開示における「負荷電流」の一具体例に対応する。実効負荷電流値X_loadは、本開示における「実効負荷電流値」の一具体例に対応する。
【0070】
[動作および作用]
続いて、本実施の形態の電力変換装置1の動作および作用について説明する。
【0071】
(全体動作概要)
まず、図1,2を参照して、電力変換装置1の全体動作概要を説明する。自立運転を行う際、電力変換装置1は、スイッチ29U,29Wをオン状態にする。これにより、負荷装置LOADが電力変換装置1に接続される。制御部30は、交流出力電圧e_inv、電流i_u、および直流バス電圧Vdcに基づいて、演算処理を行うことにより、ゲート信号S1~S4を生成する。トランジスタSW1~SW4は、ゲート信号S1~S4に基づいてそれぞれオンオフする。制御部30は、交流出力電圧e_invの電圧振幅が所定の振幅になるように電圧振幅一定制御を行う。
【0072】
(詳細動作)
制御部30は、交流出力電圧e_inv、電流i_u、および直流バス電圧Vdcを、サンプリング周波数fsに応じたサンプリング周期(例えば50μsec.(=1/20kHz))でサンプリングしてAD変換を行うことにより、交流出力電圧e_inv、電流i_u、および直流バス電圧Vdcを示すデジタル値をそれぞれ求める。そして、制御部30は、これらのデジタル値に基づいて演算処理を行う。
【0073】
指令値生成部31(図3)は、交流出力電圧e_invの実効電圧値の指令値である実効電圧指令値X_inv*、および交流出力電圧e_invの直流成分値の指令値である直流成分指令値X_invdc*を生成する。実効値算出部32は、検出された交流出力電圧e_invに基づいて、この交流出力電圧e_invの実効値を算出することにより実効電圧値X_invを算出する。実効値算出部33は、検出された電流i_uに基づいて、この電流i_uの実効値を算出することにより実効電流値X_uを算出する。負荷電流推定部34は、検出された交流出力電圧e_invおよび検出された電流i_uに基づいて、負荷電流i_laodを推定する。実効値算出部35は、推定された負荷電流i_loadに基づいて、この負荷電流i_loadの実効値を算出することにより実効負荷電流値X_loadを算出する。直流成分算出部36は、検出された交流出力電圧e_invに基づいて、交流出力電圧e_invの平均値を算出することにより直流成分値X_invdcを算出する。リミッタ37は、実効電圧指令値X_inv*を所定の値でリミットすることにより実効電圧指令値X_invlim*を生成する。交流電圧制御部38は、実効電圧指令値X_invlim*および実効電圧値X_invに基づいて、実効電圧値X_invが実効電圧指令値X_invlim*と等しくなるように実効電圧値X_invを制御することにより、実効電流値X_uの指令値である実効電流指令値X_u*を生成する。交流電流制御部39は、実効電流指令値X_u*および実効電流値X_u,X_loadに基づいて、実効電流値X_uが実効電流指令値X_u*と等しくなるように実効電流値X_uを制御することにより、出力電流指令値X_L*を生成する。リミッタ41は、実効電圧値X_invを所定の値でリミットすることにより実効電圧値X_invlimを生成する。リミッタ42は、直流成分値X_invdcを実効電圧指令値X_invlim*に応じた値でリミットすることにより直流成分値X_invdclimを生成する。直流成分制御部43は、直流成分指令値X_invdc*および直流成分値X_invdclimに基づいて、直流成分値X_invdclimが直流成分指令値X_invdc*と等しくなるように直流成分値X_invdclimを制御することにより、直流成分指令値X_dc*を生成する。加算部44は、出力電流指令値X_L*と、直流成分指令値X_dc*と、実効電圧値X_invとを加算することにより、信号D_u*を生成する。乗算部45は、信号D_u*と“Sin(θsd)”の値とを乗算することにより信号d_inv*を生成する。ゲートブロック信号生成部46は、ゲートブロック信号Gu,Gwを生成する。キャリア信号生成部47は、キャリア信号CRを生成する。ゲート信号生成部50は、信号d_inv*、キャリア信号CR、およびゲートブロック信号Gu,Gwに基づいて、ゲート信号S1~S4を生成する。
【0074】
以下に、いくつかのシミュレーション結果を用いて、電力変換装置1の動作および作用について説明する。
【0075】
図10は、負荷急変時の電力変換装置1の一動作例を表すものである。この例では、タイミングt11において、電力変換装置1に負荷装置LOADが接続され、負荷電流i_loadが流れ始める。このとき、交流出力電圧e_invは、この負荷急変の影響をほぼ受けずに、ほぼ一定の振幅の交流電圧を維持する。
【0076】
電力変換装置1では、式EQ5,EQ7,EQ8の第3式を用いて移動平均値を算出することにより、実効電圧値X_inv、実効電流値X_u、および実効負荷電流値X_loadを算出するようにした。これにより、電力変換装置1は、負荷急変に対して短い時間で応答し、交流出力電圧e_invを安定させることができる。
【0077】
すなわち、例えば、移動平均値を算出せずに、例えば時間Tsd(図2)ごとに実効電圧値X_inv、実効電流値X_u、および実効負荷電流値X_loadを算出した場合には、図11に示すように、交流出力電圧e_invは、負荷急変の影響を受ける可能性がある。この例では、タイミングt12において、電力変換装置に負荷装置LOADが接続され、負荷電流i_loadが流れ始める。このタイミングt12以降において、交流出力電圧e_invは、やや乱れ、交流出力電圧e_invの2周期程度の時間が経過した後に、安定する。このように、移動平均値を用いない場合には、負荷急変に対する応答時間が長くなり得る。
【0078】
一方、電力変換装置1では、移動平均値を算出することにより、実効電圧値X_inv、実効電流値X_u、および実効負荷電流値X_loadを算出するようにした。これにより、電力変換装置1は、負荷急変に対する応答時間を短くすることができる。
【0079】
図12は、負荷装置LOADが半波整流負荷を有する場合における、電力変換装置1の一動作例を表すものであり、(A)は負荷電流i_loadの波形を示し、(B)は交流出力電圧e_invの波形を示し、(C)は交流出力電圧e_invの絶対値|e_inv|の波形を示す。負荷装置LOADが半波整流負荷を有するので、図12(A)に示したように、交流出力電圧e_invの周期期間における半分の期間において負荷電流i_loadが流れ、残りの半分の期間において負荷電流i_loadが流れない。この場合でも、図12(B),(C)に示したように、交流出力電圧e_invの正のピーク値と負のピーク値とを、ほぼ同じにすることができる。
【0080】
電力変換装置1では、直流成分制御部43を設け、交流出力電圧e_invの直流成分を調節するようにした。これにより、電力変換装置1では、負荷装置LOADが半波整流負荷を有する場合でも、交流出力電圧e_invの直流成分が調節されるので、交流出力電圧e_invの正のピーク値と負のピーク値とを、ほぼ同じにすることができる。
【0081】
すなわち、例えば、直流成分制御部43を設けない場合には、図13に示すように、交流出力電圧e_invの正のピーク値と負のピーク値とがずれてしまう。この例では、負荷電流i_loadが流れる期間における交流出力電圧e_invのピーク値は、負荷電流i_loadが流れない期間における交流出力電圧e_invのピーク値よりも低い。この場合には、このような交流出力電圧e_invを、複数の負荷装置に供給する場合に、他の負荷装置に影響を与える可能性がある。
【0082】
一方、電力変換装置1では、直流成分制御部43を設けるようにしたので、交流出力電圧e_invの直流成分が調節される。これにより、交流出力電圧e_invの正のピーク値と負のピーク値とを、ほぼ同じにすることができる。これにより、電力変換装置1では、交流出力電圧e_invを複数の負荷装置に供給する場合でも、他の負荷装置の動作に影響を与えないようにすることができる。
【0083】
図14は、電力変換装置1の入力電力よりも電力変換装置1の出力電力の方が大きい過負荷時における、電力変換装置1の一動作例を表すものであり、(A)は交流出力電圧e_invの波形を示し、(B)は負荷電流i_loadの波形を示し、(C)は直流バス電圧Vdcの波形を示す。この例では、タイミングt13において、電力変換装置1に負荷装置LOADが接続される。これにより、電力変換装置1は、電力変換装置1の前段の直流電源PDCから供給された電力に基づいて、負荷装置LOADに対して電力を供給しようとする。しかしながら、この例では、この直流電源PDCの応答が遅く、直流電源PDCは、電力変換装置1に対してすぐに電力を供給することができない。この場合には、直流電源PDCの電力供給能力が過渡的に不足するので、電力変換装置1は、入力キャパシタ22に蓄えられた電力を効果的に活用することにより、負荷装置LOADに対して電力を供給する。これにより、直流バス電圧Vdcが過渡的に低下する(図14(C))。このとき、電力変換装置1は、PWM信号のパルス幅の最大値でスイッチング部23を動作させる。言い換えれば、電力変換装置1は、とり得る最大のデューティ比で動作することにより、負荷装置LOADに対して電力を供給する。このような過負荷時において、交流出力電圧e_invの振幅は小さくなるが、波形は正弦波の波形を維持する(図14(A))。そして、直流電源PDCが応答すると、直流電源PDCが電力変換装置1に対して電力を供給するので、直流バス電圧Vdcは、徐々に元の電圧に戻る。これに応じて、交流出力電圧e_invもまた、徐々に元の振幅に戻る。
【0084】
図15は、負荷装置LOADが非線形負荷を有する場合における、電力変換装置1の一動作例を表すものであり、(A)は交流出力電圧e_invの波形を示し、(B)は負荷電流i_loadの波形を示す。この例では、タイミングt14において、電力変換装置1に負荷装置LOADが接続される。これにより、図15(B)に示したように、負荷電流i_loadに、負荷装置LOADのキャパシタ101(図6)の充放電による瞬時過電流が生じ得る。電力変換装置1は、電流i_uの絶対値|i_u|が所定のしきい値Ith(この例では75A)に到達すると、ゲートブロック信号Guを低レベルにすることにより、スイッチング部23におけるトランジスタSW1,SW2を所定の短い時間にわたりオフにする。これにより、出力電流が抑制されるので、負荷電流i_loadは、瞬時に大きな電流にならずに済む。このようにして電力変換装置1では、トランジスタSW1~SW4を保護する。負荷装置LOADのキャパシタ101の充電が進むにつれ、瞬時過電流が減っていき、交流出力電圧e_invの振幅は徐々に元の振幅に戻る。
【0085】
なお、図15(A)に示した交流出力電圧e_invの波形は、商用系統電圧が非線形負荷に電力を供給するときの系統電圧の波形と同様である。よって、電力変換装置1は、家庭用の一般的な負荷装置に対して、このような交流出力電圧e_invを供給しても、負荷装置は問題なく動作することができる。
【0086】
このように、電力変換装置1では、出力端子T21,T22における交流出力電圧e_invの実効電圧値の指令値である第1の実効電圧指令値(実効電圧指令値X_inv*)を生成し、この第1の実効電圧指令値を所定の値でリミットすることにより第2の実効電圧指令値(実効電圧指令値X_invlim*)を生成し、第2の実効電圧指令値(実効電圧指令値X_invlim*)および実効電圧値X_invに基づいてスイッチング部23の動作を制御するようにした。具体的には、電力変換装置1では、第2の実効電圧指令値(実効電圧指令値X_invlim*)および実効電圧値X_invに基づいてデューティ比d_uを算出し、デューティ比d_uに基づいてスイッチング部23の動作を制御するようにした。これにより、電力変換装置1では、通常動作時だけでなく、入力電力よりも出力電力の方が大きい過負荷時においても、交流出力電圧e_invの波形を正弦波に維持することができる。
【0087】
すなわち、例えば、特許文献1に記載されているように、各種電圧の瞬時値および各種電流の瞬時時に基づいてスイッチング部の動作を制御した場合には、過負荷時には、出力電流のピーク値をカットする方法があり得る。しかしながら、この場合には、出力電流のピーク値がカットされることにより出力電圧のピーク値もまたカットされ、交流出力電圧e_invの波形が方形波に近づき、波形歪みが増大してしまう。このような交流出力電圧e_invが供給する負荷装置LOADでは、不具合が生じる可能性がある。
【0088】
一方、電力変換装置1では、第1の実効電圧指令値を所定の値でリミットすることにより第2の実効電圧指令値(実効電圧指令値X_invlim*)を生成し、第2の実効電圧指令値(実効電圧指令値X_invlim*)および実効電圧値X_invに基づいてデューティ比d_uを算出するようにした。これにより、通常動作時だけでなく、過負荷時においても、図14に示したように、交流出力電圧e_invの波形を正弦波に維持することができる。その結果、電力変換装置1では、交流出力電圧の波形歪みを低減することができる。
【0089】
電力変換装置1では、交流出力電圧e_invに基づいて、移動平均値を算出することにより、実効電圧値X_invを算出するようにした。これにより、図10,11に示したように、例えば移動平均値を算出せずに、時間Tsごとに実効電圧値X_invを算出した場合に比べ、負荷急変に対する応答時間を短くすることができる。
【0090】
電力変換装置1では、交流出力電圧e_invの直流成分値である第1の直流成分値(直流成分値X_invdc)を第2の実効電圧指令値(実効電圧指令値X_invlim*)に応じた値でリミットすることにより第2の直流成分値(直流成分値X_invdclim)を生成し、交流出力電圧e_invの直流成分値の指令値である直流成分指令値X_invdc*を生成し、第2の実効電圧指令値(実効電圧指令値X_invlim*)および実効電圧値X_invと、直流成分指令値X_invdc*および第2の直流成分値(直流成分値X_invdclim)とに基づいてスイッチング部23の動作を制御するようにした。これにより、例えば負荷装置LOADが半波整流負荷を有する場合において、電力変換装置1は、図12に示したように、交流出力電圧e_invの直流成分を調節し、交流出力電圧e_invの正のピーク値と負のピーク値とを、ほぼ同じにすることができる。よって、電力変換装置1では、交流出力電圧e_invを複数の負荷装置に供給する場合でも、他の負荷装置の動作に交流出力電圧e_invの直流成分に起因する影響を与えないようにすることができる。
【0091】
また、電力変換装置1では、ノードN1とローパスフィルタとの間に流れる電流が所定のしきい値Ithに到達した場合に、所定の時間長(時間Toff)の期間において、スイッチング部23が電流を出力しないようにスイッチング部23の動作を制御するようにした。これにより、例えば、負荷装置LOADが非線形負荷を有する場合に、図15に示したように、動作を継続しつつ、負荷電流i_loadを抑制することができるので、トランジスタSW1~SW4を保護することができる。
【0092】
すなわち、例えば、瞬時過電流が生じた場合に、運転を停止するように構成することがあり得る。しかしながら、この場合には、負荷装置LOADが非線形負荷を有する場合には、瞬時過電流が繰り返し生じ得るので、電力変換装置は、運転の停止および再起動を繰り返すため、継続運転を行うことができない。
【0093】
一方、電力変換装置1では、スイッチング部23とローパスフィルタ25との間に流れる電流i_uが所定のしきい値Ithに到達した場合に、所定の時間長(時間Toff)の期間において、スイッチング部23が電流を出力しないようにスイッチング部23の動作を制御するようにした。これにより、電力変換装置1では、負荷装置LOADが非線形負荷を有する場合でも、継続運転を行うことができる。
【0094】
[効果]
以上のように本実施の形態では、出力端子における交流出力電圧の実効電圧値の指令値である第1の実効電圧指令値を生成し、この第1の実効電圧指令値を所定の値でリミットすることにより第2の実効電圧指令値を生成し、第2の実効電圧指令値および実効電圧値に基づいてスイッチング部の動作を制御するようにしたので、交流出力電圧の波形歪みを低減することができる。
【0095】
本実施の形態では、交流出力電圧に基づいて、移動平均値を算出することにより、実効電圧値を算出するようにしたので、負荷急変に対する応答時間を短くすることができる。
【0096】
本実施の形態では、交流出力電圧の直流成分値である第1の直流成分値を第2の実効電圧指令値に応じた値でリミットすることにより第2の直流成分値を生成し、交流出力電圧の直流成分値の指令値である直流成分指令値を生成し、第2の実効電圧指令値および実効電圧値と、直流成分指令値および第2の直流成分値とに基づいてスイッチング部の動作を制御するようにしたので、交流出力電圧を複数の負荷装置に供給する場合でも、他の負荷装置の動作に影響を与えないようにすることができる。
【0097】
本実施の形態では、スイッチング部とローパスフィルタとの間に流れる電流が所定のしきい値に到達した場合に、所定の時間長の期間において、スイッチング部が電流を出力しないようにスイッチング部の動作を制御するようにしたので、トランジスタを保護することができる。
【0098】
[変形例1]
上記実施の形態では、式EQ6において、パラメータaを“0.5”にした。これにより、実効値算出部32は、交流出力電圧e_invの半周期分の時間(時間Tsd/2)における交流出力電圧e_invに基づいて、移動平均値を算出することにより実効電圧値X_invを算出した。同様に、実効値算出部33は、交流出力電圧e_invの半周期分の時間(時間Tsd/2)における電流i_uに基づいて、移動平均値を算出することにより実効電流値X_uを算出した。実効値算出部35は、交流出力電圧e_invの半周期分の時間(時間Tsd/2)における負荷電流i_loadに基づいて、移動平均値を算出することにより実効負荷電流値X_loadを算出した。しかしながら、これに限定されるものではない。これに代えて、例えばパラメータaを“1”にしてもよい。これにより、実効値算出部32は、交流出力電圧e_invの1周期分の時間(時間Tsd)における交流出力電圧e_invに基づいて、移動平均値を算出することにより実効電圧値X_invを算出し、実効値算出部33は、交流出力電圧e_invの1周期分の時間(時間Tsd)における電流i_uに基づいて、移動平均値を算出することにより実効電流値X_uを算出し、実効値算出部35は、交流出力電圧e_invの1周期分の時間(時間Tsd)における負荷電流i_loadに基づいて、移動平均値を算出することにより実効負荷電流値X_loadを算出することができる。
【0099】
[変形例2]
上記実施の形態では、式EQ5,EQ7,EQ8の第3式を用いて移動平均値を算出することにより、実効電圧値X_inv、実効電流値X_u、および実効負荷電流値X_loadを算出するようにしたが、これに限定されるものではない。これに代えて、例えば、移動平均値を算出せずに、式EQ5,EQ7,EQ8の第2式を用いて、例えば交流出力電圧e_invの半周期分の時間(時間Tsd/2)ごとに、実効電圧値X_inv、実効電流値X_u、および実効負荷電流値X_loadを算出してもよい。また、例えば、移動平均値を算出せずに、式EQ5,EQ7,EQ8の第2式を用いて、例えば交流出力電圧e_invの1周期分の時間(時間Tsd)ごとに、実効電圧値X_inv、実効電流値X_u、および実効負荷電流値X_loadを算出してもよい。
【0100】
[変形例3]
上記実施の形態では、リミッタ42は、式EQ14に基づいて、直流成分値X_invdcを実効電圧指令値X_invlim*に応じた値でリミットしたが、これに限定されるものではない。これに代えて、例えば、以下の式EQ17に基づいて、直流成分値X_invdcを実効電圧指令値X_inv*に応じた値でリミットしてもよい。
【数17】

これにより、直流成分値X_invdclimは、式EQ17に示したように、実効電圧指令値X_inv*の“-0.01”倍の値以上、かつ実効電圧指令値X_inv*の“0.01”倍の値以下になる。
【0101】
[変形例4]
上記実施の形態では、図1に示したように、ノードN1とローパスフィルタ25とを結ぶ経路に電流センサ24を設けたが、これに限定されるものではない。これに代えて、例えば、図16に示す電力変換装置1Aのように、ノードN2とローパスフィルタ25とを結ぶ経路に電流センサ24Aを設けてもよい。この電力変換装置1Aは、電流センサ24Aと、制御部30Aとを備えている。
【0102】
電流センサ24Aは、ノードN2とローパスフィルタ25とを結ぶ経路に設けられ、この経路に流れる電流i_wを検出するように構成される。電流センサ24Aの一端はノードN2に接続され、他端はキャパシタ27の他端に接続される。電流センサ24Aは、ローパスフィルタ25からノードN2に向かって流れる場合に正になるように電流i_wを検出する。電流センサ24Aは、電流i_wの検出結果を制御部30Aに供給するようになっている。
【0103】
制御部30Aは、交流出力電圧e_inv、電流i_w、および直流バス電圧Vdcに基づいて、演算処理を行うことにより、ゲート信号S1~S4を生成する。制御部30Aは、上記実施の形態に係る各式における電流i_uを、電流i_wに置き換えた式を用いて、各種演算を行うようになっている。
【0104】
また、例えば、図17に示す電力変換装置1Bのように、ノードN1とローパスフィルタ25とを結ぶ経路に電流センサ24を設けるとともに、ノードN2とローパスフィルタ25とを結ぶ経路に電流センサ24Aを設けてもよい。この電力変換装置1Bは、電流センサ24,24Aと、制御部30Bとを備えている。
【0105】
制御部30Bは、交流出力電圧e_inv、電流i_u,i_w、および直流バス電圧Vdcに基づいて、演算処理を行うことにより、ゲート信号S1~S4を生成する。制御部30Bは、上記実施の形態に係る各式における電流i_uを、電流i_uおよび電流i_wの平均値に置き換えた式を用いて、各種演算を行うようになっている。
【0106】
[変形例5]
上記実施の形態では、トランジスタSW1,SW2に対してPWM制御を行うようにしたが、これに限定されるものではなく、これに代えて、さらに、トランジスタSW3,SW4に対してもPWM制御を行うようにしてもよい。以下に、本変形例に係る電力変換装置1Cについて詳細に説明する。
【0107】
図18は、電力変換装置1Cの一構成例を表すものである。電力変換装置1Cは、ローパスフィルタ25Cと、制御部30Cとを備えている。
【0108】
ローパスフィルタ25Cは、ACリアクトル26,66と、キャパシタ27とを有している。ACリアクトル66は、ノードN2と出力端子T22とを結ぶ経路に設けられ、一端はノードN2に接続され、他端は電圧線WLに接続される。ACリアクトル66は、ACリアクトル26と同様に、インダクタンスLinvと、内部レジスタンスRinvとを有する。
【0109】
制御部30Cは、交流出力電圧e_inv、電流i_u、および直流バス電圧Vdcに基づいて、演算処理を行うことにより、ゲート信号S1~S4を生成する。制御部30Cは、上記実施の形態に係る制御部30(図3)と同様に、ゲート信号生成部50Cを有している。
【0110】
図19は、ゲート信号生成部50Cの一構成例を表すものである。ゲート信号生成部50Cは、乗算部62と、PWM信号生成部53,63とを有している。
【0111】
乗算部62は、信号Finvと信号d_inv*を乗算することによりデューティ比d_wを生成するように構成される。信号Finvは、“1”または“-1”をとり得る。信号Finvが“1”である場合には、電力変換装置1Cは、バイポーラPWM動作を行う。信号Finvが“-1”である場合には、電力変換装置1Cは、ユニポーラPWM動作を行う。
【0112】
PWM信号生成部53は、信号d_inv*をデューティ比d_uとして用い、デューティ比d_uおよびキャリア信号CRに基づいてゲート信号S1,S2を生成するように構成される。
【0113】
PWM信号生成部63は、デューティ比d_wおよびキャリア信号CRに基づいてゲート信号S3,S4を生成するように構成される。
【0114】
[変形例6]
上記実施の形態では、図3に示したように、直流成分制御部43を設け、交流出力電圧e_invの直流成分を調節するようにしたが、これに限定されるものではなく、これに代えて、例えば、交流出力電圧e_invの直流成分を調整しないようにしてもよい。以下に、本変形例に係る電力変換装置について詳細に説明する。この電力変換装置は、制御部30Dを備えている。
【0115】
図20は、制御部30Dの一構成例を表すものである。制御部30Dは、指令値生成部31Dと、実効値算出部32,33と、負荷電流推定部34と、実効値算出部35と、リミッタ37と、交流電圧制御部38と、交流電流制御部39と、リミッタ41と、加算部44Dと、乗算部45と、ゲートブロック信号生成部46と、キャリア信号生成部47と、ゲート信号生成部50とを有している。すなわち、制御部30Dは、上記実施の形態に係る制御部30(図3)から、リミッタ42および直流成分制御部43を省くとともに、指令値生成部31を指令値生成部31Dに変更し、加算部44を加算部44Dに変更したものである。
【0116】
指令値生成部31Dは、交流出力電圧e_invの実効電圧値の指令値である実効電圧指令値X_inv*を生成するように構成される。加算部44Dは、出力電流指令値X_L*および実効電圧値X_invlimを加算することにより、信号D_u*を生成するように構成される。
【0117】
このような電力変換装置は、例えば、所定の特性や所定の用途を有する負荷装置LOADに対してのみ電力を供給する場合に用いられる。このような電力変換装置は、例えば、パーソナルコンピュータに電力を供給する、パーソナルコンピュータ用の無停電電源装置電源(Uninterruptible Power Supply)に適用することができる。交流出力電圧e_invの直流成分は、このような負荷装置LOADの動作に影響がないようにすることができる。具体的には、交流出力電圧e_invの直流成分は、例えば定格出力電圧の±1%以内に収まるようにすることができる。
【0118】
以上、実施の形態および変形例を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれらの実施の形態等には限定されず、種々の変形が可能である。
【0119】
例えば、交流出力電圧e_invの周期(時間Tsd)の値、トランジスタSW1,SW2のスイッチング周期(時間Ts)の値、サンプリング周波数fsの値は、一例であり、適宜変更してもよい。
【符号の説明】
【0120】
1,1A,1B,1C…電力変換装置、21…電圧センサ、22…入力キャパシタ、23…スイッチング部、24,24A…電流センサ、25,25C…ローパスフィルタ、26…ACリアクトル、27…キャパシタ、28…電圧センサ、29U,29W…スイッチ、30,30A,30B,30C,30D…制御部、31,31D…指令値生成部、32,33,35…実効値算出部、34…負荷電流推定部、36…直流成分算出部、37,41,42…リミッタ、38…交流電圧制御部、39…交流電流制御部、43…直流成分制御部、44,44D…加算部、45…乗算部、46…ゲートブロック信号生成部、47…キャリア信号生成部、50,50C…ゲート信号生成部、51…比較部、52…加算部、53,63…PWM信号生成部、54…信号生成部、62…乗算部、66…ACリアクトル、CR…キャリア信号、d_u,d_w…デューティ比、e_inv…交流出力電圧、i_load…負荷電流、i_u,i_w…電流、Gu,Gw…ゲートブロック信号、LOAD…負荷装置、L1…電圧線、L2…基準電圧線、N1,N2…ノード、PDC…直流電源、Ssd…スイッチ制御信号、SW1~SW4…トランジスタ、S1~S4…ゲート信号、Td…デッドタイム、T11,T12…入力端子、T21,T22…出力端子、UL,WL…電圧線、Vdc…直流バス電圧、X_inv,X_invlim…実効電圧値、X_invdc,X_invdclim…直流成分値、Xinvdc*…直流成分指令値、X_inv*,X_invlim*…実効電圧指令値、X_load…実効負荷電流値、X_u…実効電流値。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20