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特開2022-175373遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法及び遷移金属含有ピロリン酸リチウム炭素複合体の製造方法
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  • 特開-遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法及び遷移金属含有ピロリン酸リチウム炭素複合体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175373
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法及び遷移金属含有ピロリン酸リチウム炭素複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/45 20060101AFI20221117BHJP
【FI】
C01B25/45 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021081713
(22)【出願日】2021-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深沢 純也
(72)【発明者】
【氏名】畠 透
(72)【発明者】
【氏名】加藤 拓馬
(57)【要約】
【解決課題】工業的に有利な方法で、X線回折的に単相の遷移金属含有ピロリン酸リチウムを、高い収率で得ることができる方法を提供すること。
【解決手段】Li1-y(1)で表される遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法であって、少なくともメタリン酸リチウム及びM源を、水溶媒と混合して、原料混合物を得る第1工程と、該原料混合物を湿式粉砕処理して、原料粉砕処理物を含むスラリーを得る第2工程と、該原料粉砕処理物を含むスラリーをスプレードライ法により噴霧乾燥して、噴霧乾燥粉体を得る第3工程と、該噴霧乾燥粉体を焼成する第4工程と、を有することを特徴とする遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
Li1-y (1)
(式中、1.7≦x≦2.2、0.0≦y≦0.5である。Mは、Co、Mn及びNiから選ばれる1種又は2種以上の遷移金属元素を示す。Aは、Mg、Zn、Cu、Fe、Cr、Al、B、Na、K、F、Cl、Br、I、Ca、Sr、Ba、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Y、Yb、Si、S、Mo、W、V、Bi、Te、Pb、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ga、Ge、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy及びHoから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を示す。)
で表される遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法であって、
少なくともメタリン酸リチウム及びM源を、水溶媒と混合して、原料混合物を得る第1工程と、
該原料混合物を湿式粉砕処理して、原料粉砕処理物を含むスラリーを得る第2工程と、
該原料粉砕処理物を含むスラリーをスプレードライ法により噴霧乾燥して、噴霧乾燥粉体を得る第3工程と、
該噴霧乾燥粉体を焼成する第4工程と、
を有することを特徴とする遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法。
【請求項2】
前記第1工程において、更に、A源(Aは、Mg、Zn、Cu、Fe、Cr、Al、B、Na、K、F、Cl、Br、I、Ca、Sr、Ba、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Y、Yb、Si、S、Mo、W、V、Bi、Te、Pb、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ga、Ge、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy及びHoから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を示す。)を、前記水溶媒に添加することを特徴とする請求項1記載の遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法。
【請求項3】
前記第1工程において、湿式粉砕処理をメディアミルにより行うことを特徴とする請求項1又は2記載の遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法。
【請求項4】
前記第2工程において、湿式粉砕処理後の前記原料粉砕処理物を含むスラリー中の固形分の平均粒子径が10.0μm以下であることを特徴とする請求項1~3いずれか1項記載の遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法。
【請求項5】
前記一般式(1)中のMが、Coであることを特徴とする請求項1~4いずれか1項記載の遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法。
【請求項6】
前記M源が、水酸化コバルトであることを特徴とする請求項1~5いずれか1項記載の遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法。
【請求項7】
前記第4工程における焼成温度が、600℃以上であることを特徴とする請求項1~6いずれか1項記載の遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法。
【請求項8】
前記第4工程において、600~700℃、大気雰囲気で、前記噴霧乾燥粉体を焼成することを特徴とする請求項1~6いずれか1項記載の遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法。
【請求項9】
更に、前記第4工程を行い得られる遷移金属含有ピロリン酸リチウムを、粉砕処理する第5工程を有することを特徴とする請求項1~8いずれか1項記載の遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法。
【請求項10】
請求項1~9いずれか1項記載の遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法を行い得られた遷移金属含有ピロリン酸リチウムと、加熱分解により炭素が析出する導電性炭素材料源とを混合し、該遷移金属含有ピロリン酸リチウムと該導電性炭素材料源との混合物を得、次いで、該混合物を加熱処理して、該導電性炭素材料源を加熱分解することにより、遷移金属含有ピロリン酸リチウム炭素複合体を得る第A工程を有することを特徴とする遷移金属含有ピロリン酸リチウム炭素複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池、全固体電池等の正極材として有用な遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯機器、ノート型パソコンの電池としてリチウムイオン電池が活用されている。リチウムイオン電池は一般に容量、エネルギー密度に優れているとされている。また、ハイブリット自動車や電気自動車としての利用も期待さている。
【0003】
ピロリン酸コバルトリチウム(LiCoP)等のピロリン酸塩は、高容量且つ高エネルギー密度のリチウム二次電池の正極活物質(例えば、特許文献1、特許文献2)や、高い電池と容量を持つ全固体電池等の正極活物質(例えば、特許文献3、特許文献4)として注目されている。
【0004】
ピロリン酸コバルトリチウムの製造方法としては、例えば、特許文献1には、リチウム源、コバルト源、リン源とをボールミルで混合し、得られる粒子混合物を、更にぺレット化し、該ぺレット化した混合物を焼成する方法、また、特許文献3には、リチウム源、コバルト源、リン源とを混合し、得られる混合物を大気雰囲気中で仮焼成し、次いで仮焼成して得られた仮焼成品を仮焼成より高い温度で大気雰囲気中で650~680℃で20~30時間焼成する方法が提案されている。
【0005】
また、本発明者らも、先に工業的に有利な方法で、ピロリン酸コバルトリチウムを製造する方法を提案した(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2006-523930号公報
【特許文献2】特開2016-38996号公報
【特許文献3】特開2017-192949号公報
【特許文献4】特開2017-228453号公報
【特許文献5】国際公開WO2020/031690号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2のように、各原料を乾式で混合する方法では、X線回折分析において、単相のピロリン酸コバルトリチウムが得られ難い。
【0008】
また、特許文献5の方法では、工業的に有利な方法で、X線回折的に単相のピロリン酸コバルトリチウムが得られる。ところが、引用文献5の方法には、原料粉砕処理物を含むスラリーをスプレードライヤーで噴霧乾燥する際に、原料粉砕処理物を含むスラリーが、スプレードライヤーに付着し、ピロリン酸コバルトリチウムの収率が低くなってしまうという問題がある。
【0009】
また、ピロリン酸コバルトリチウムは、安全な正極活物質として注目され、より一層工業的な有利方法での開発が望まれている。
【0010】
メタリン酸リチウムは、LiPOで表される化合物で、LiとPを含み、更にLiとPを等モルで含むため、他のLiとPを含む化合物に比べて、少なくともLiとPを原子モル比で、1:1で含む化合物を製造する場合において、製造原料として用いた場合、組成調製することが容易である等の利点がある。しかしながら、工業的に入手可能なメタリン酸リチウムは、粗大な粒子で、反応性に問題があり、X線回折的に異相の存在を嫌う分野では、LiとPを含む化合物の製造原料として、ほとんど用いられてこなかった。
【0011】
従って、本発明の目的は、工業的に有利な方法で、X線回折的に単相の遷移金属含有ピロリン酸リチウムを、高い収率で得ることができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記実情に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、下記一般式(1):
Li1-y (1)
(式中、1.7≦x≦2.2、0.0≦y≦0.5である。Mは、Co、Mn及びNiから選ばれる1種又は2種以上の遷移金属元素を示す。Aは、Mg、Zn、Cu、Fe、Cr、Al、B、Na、K、F、Cl、Br、I、Ca、Sr、Ba、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Y、Yb、Si、S、Mo、W、V、Bi、Te、Pb、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ga、Ge、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy及びHoから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を示す。)
で表される遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法において、リン源及びリチウム源として、メタリン酸リチウムを用い、該メタリン酸リチウム及びM源を水溶媒に混合し、湿式粉砕して得られるスラリーは、スプレー乾燥装置への付着が少ないこと、及びそのことにより、湿式粉砕処理を行い得られる原料粉砕処理物を含むスラリーをスプレードライ法により噴霧乾燥し、次いで、得られる噴霧乾燥粉体を焼成することにより、X線回折的に単相の遷移金属含有ピロリン酸リチウムが高収率で得られることを見出し、本発明を完成するに至った。更に、本発明者らは、このようにして得られる遷移金属含有ピロリン酸リチウムを粉砕処理することにより、粒度が揃ったものが得られることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明(1)は、下記一般式(1):
Li1-y (1)
(式中、1.7≦x≦2.2、0.0≦y≦0.5である。Mは、Co、Mn及びNiから選ばれる1種又は2種以上の遷移金属元素を示す。Aは、Mg、Zn、Cu、Fe、Cr、Al、B、Na、K、F、Cl、Br、I、Ca、Sr、Ba、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Y、Yb、Si、S、Mo、W、V、Bi、Te、Pb、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ga、Ge、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy及びHoから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を示す。)
で表される遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法であって、
少なくともメタリン酸リチウム及びM源を、水溶媒と混合して、原料混合物を得る第1工程と、
該原料混合物を湿式粉砕処理して、原料粉砕処理物を含むスラリーを得る第2工程と、
該原料粉砕処理物を含むスラリーをスプレードライ法により噴霧乾燥して、噴霧乾燥粉体を得る第3工程と、
該噴霧乾燥粉体を焼成する第4工程と、
を有することを特徴とする遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明(2)は、前記第1工程において、更に、A源(Aは、Mg、Zn、Cu、Fe、Cr、Al、B、Na、K、F、Cl、Br、I、Ca、Sr、Ba、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Y、Yb、Si、S、Mo、W、V、Bi、Te、Pb、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ga、Ge、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy及びHoから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を示す。)を、前記水溶媒に添加することを特徴とする(1)の遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法を提供するものである。
【0015】
また、本発明(3)は、前記第1工程において、湿式粉砕処理をメディアミルにより行うことを特徴とする(1)又は(2)の遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法を提供するものである。
【0016】
また、本発明(4)は、前記第2工程において、湿式粉砕処理後の前記原料粉砕処理物を含むスラリー中の固形分の平均粒子径が10.0μm以下であることを特徴とする(1)~(3)いずれかの遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法を提供するものである。
【0017】
また、本発明(5)は、前記一般式(1)中のMが、Coであることを特徴とする(1)~(4)いずれかの遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法を提供するものである。
【0018】
また、本発明(6)は、前記M源が、水酸化コバルトであることを特徴とする(1)~(5)いずれかの遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法を提供するものである。
【0019】
また、本発明(7)は、前記第4工程における焼成温度が、600℃以上であることを特徴とする(1)~(6)いずれかの遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法を提供するものである。
【0020】
また、本発明(8)は、前記第4工程において、600~700℃、大気雰囲気で、前記噴霧乾燥粉体を焼成することを特徴とする(1)~(6)いずれかの遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法を提供するものである。
【0021】
また、本発明(9)は、更に、前記第4工程を行い得られる遷移金属含有ピロリン酸リチウムを、粉砕処理する第5工程を有することを特徴とする(1)~(8)いずれかの遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法を提供するものである。
【0022】
また、本発明(10)は、(1)~(9)いずれかの遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法を行い得られた遷移金属含有ピロリン酸リチウムと、加熱分解により炭素が析出する導電性炭素材料源とを混合し、該遷移金属含有ピロリン酸リチウムと該導電性炭素材料源との混合物を得、次いで、該混合物を加熱処理して、該導電性炭素材料源を加熱分解することにより、遷移金属含有ピロリン酸リチウム炭素複合体を得る第A工程を有することを特徴とする遷移金属含有ピロリン酸リチウム炭素複合体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明の遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法によれば、工業的に有利な方法で、X線回折的に単相の遷移金属含有ピロリン酸リチウムを、高い収率で得ることができる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施例1で得られた遷移金属含有ピロリン酸リチウム試料のX線回折図。
図2】実施例2で得られた遷移金属含有ピロリン酸リチウム試料のX線回折図。
図3】比較例1で得られた遷移金属含有ピロリン酸リチウム試料のX線回折図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法は、下記一般式(1):
Li1-y (1)
(式中、1.7≦x≦2.2、0.0≦y≦0.5である。Mは、Co、Mn及びNiから選ばれる1種又は2種以上の遷移金属元素を示す。Aは、Mg、Zn、Cu、Fe、Cr、Al、B、Na、K、F、Cl、Br、I、Ca、Sr、Ba、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Y、Yb、Si、S、Mo、W、V、Bi、Te、Pb、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ga、Ge、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy及びHoから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を示す。)
で表される遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法であって、
少なくともメタリン酸リチウム及びM源を、水溶媒と混合して、原料混合物を得る第1工程と、
該原料混合物を湿式粉砕処理して、原料粉砕処理物を含むスラリーを得る第2工程と、
該原料粉砕処理物を含むスラリーをスプレードライ法により噴霧乾燥して、噴霧乾燥粉体を得る第3工程と、
該噴霧乾燥粉体を焼成する第4工程と、
を有することを特徴とする遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法である。
【0026】
本発明の遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法により得られる遷移金属含有ピロリン酸リチウムは、下記一般式(1):
Li1-y (1)
(式中、1.7≦x≦2.2、0.0≦y≦0.5である。Mは、Co、Mn及びNiから選ばれる1種又は2種以上の遷移金属元素を示す。Aは、Mg、Zn、Cu、Fe、Cr、Al、B、Na、K、F、Cl、Br、I、Ca、Sr、Ba、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Y、Yb、Si、S、Mo、W、V、Bi、Te、Pb、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ga、Ge、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy及びHoから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を示す。)
で表される遷移金属含有ピロリン酸リチウムである。
【0027】
一般式(1)の式中のxは、1.7以上2.2以下、好ましくは1.8以上2.1以下である。yは0.0以上0.5以下、好ましくは0.0以上0.4以下である。式中のMは、Co、Mn及びNiから選ばれる1種又は2種以上の遷移金属元素を示し、Coであることが、高容量且つ高エネルギー密度のリチウム二次電池や全固体電池が得られる正極活物質となる点で好ましい。式中のAは、電池特性を向上させることを目的として必要により含有させる金属元素である。Aは、Mg、Zn、Cu、Fe、Cr、Al、B、Na、K、F、Cl、Br、I、Ca、Sr、Ba、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Y、Yb、Si、S、Mo、W、V、Bi、Te、Pb、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ga、Ge、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy及びHoから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を示す。
【0028】
本発明の遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法に係る第1工程は、少なくともメタリン酸リチウム及びM源を、水溶媒と混合して、原料混合物を得る工程である。
【0029】
第1工程に係るメタリン酸リチウム(LiPO)は、工業的に入手可能なものであれば、特に制限されない。通常、工業的に入手可能なメタリン酸リチウムは、レーザー散乱・回折法により求められる平均粒子径で200μm以上の硬い粗大粒子であるが、本発明では、このような硬い粗大粒子のメタリン酸リチウムであっても、問題なく用いることができる。
【0030】
第1工程に係るM源としては、例えば、M元素を含む酸化物、水酸化物、炭酸塩、有機酸塩、硝酸塩、リン酸塩が挙げられる。M源としては、M元素を含む酸化物、水酸化物、炭酸塩が、工業的な入手し易さやハンドリングの容易さの観点から、好ましい。
【0031】
第1工程に係るM源としては、Coを含む化合物、例えば、Coを含む酸化物、水酸化物、炭酸塩、有機酸塩、硝酸塩、リン酸塩が、高容量且つと高エネルギー密度のリチウム二次電池や全固体電池が得られる正極活物質が得られる点で好ましく、水酸化コバルトが、更に、反応性に優れる点で特に好ましい。
【0032】
第1工程に係る水溶媒は、水単独であってもよいし、水と親水性溶媒との混合溶媒であってもよい。
【0033】
第1工程では、水溶媒に、少なくともメタリン酸リチウム及びM源を添加し、少なくともメタリン酸リチウム及びM源を水溶媒と混合することにより、原料混合物を得る。
【0034】
第1工程において、水溶媒へのメタリン酸リチウムの混合量は、水溶媒100.0質量部に対し、好ましくは5.0~40.0質量部、特に好ましくは15.0~30.0質量部である。第1工程におけるメタリン酸リチウムの混合量が、上記範囲にあることにより、粉砕効率を高くすることができる又は粉砕後のスラリー粘度の上昇を抑えることができる。
【0035】
第1工程において、水溶媒へのM源の混合量は、メタリン酸リチウム中のリン原子に対するM源中のM原子のモル比(M/P)が、好ましくは0.30~0.70、特に好ましくは0.40~0.60となる量である。メタリン酸リチウム中のリン原子に対するM源中のM原子のモル比(M/P)が、上記範囲にあることにより、X線回折的に単相の遷移金属含有ピロリン酸リチウムが得られ易くなる。
【0036】
このようにして、第1工程において原料混合物が得られるが、本発明の遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法では、必要により、第1工程において、水溶媒に更に、A源(Aは、Mg、Zn、Cu、Fe、Cr、Al、B、Na、K、F、Cl、Br、I、Ca、Sr、Ba、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Y、Yb、Si、S、Mo、W、V、Bi、Te、Pb、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ga、Ge、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy及びHoから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を示す。)を混合することができる。つまり、本発明の遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法では、水溶媒に、メタリン酸リチウム及びM源に加え、必要に応じA源を添加し、メタリン酸リチウム、M源及びA源を水溶媒と混合することにより、第1工程に係る原料混合物に、メタリン酸リチウム及びM源に加え、A源を含有させることができる。
【0037】
A源としては、例えば、A元素を含む酸化物、水酸化物、炭酸塩、有機酸塩、硝酸塩、リン酸塩が挙げられる。
【0038】
A源の混合量は、M源中のM原子とA源中のA原子の合計のモル比に対するA源中のA原子のモル比(A/(A+M))が、好ましくは0.10~0.20となる量である。
【0039】
なお、第1工程に係るメタリン酸リチウム、M源及び必要に応じて混合するA源は、高純度の遷移金属含有ピロリン酸リチウムが得られる点で、高純度品であることが好ましい。
【0040】
本発明の遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法に係る第2工程は、第1工程を行い得られる原料混合物を湿式粉砕処理して、原料粉砕処理物を含むスラリーを得る工程である。
【0041】
第2工程において、湿式粉砕処理を行う際の原料混合物中の固形分濃度は、好ましくは5~40質量%、特に好ましくは10~30質量%である。湿式粉砕を行う際の原料混合物中の固形分濃度が上記範囲にあることにより、操作性が良好であり、また、効率的に粉砕処理を行うことができる。このため、第1工程を行った後、必要により、上記の固形分濃度になるように、原料混合物の固形分濃度を調節してから、第2工程を行ってもよい。
【0042】
そして、第2工程では、原料混合物を、湿式粉砕処理する。第2工程での湿式粉砕処理は、例えば、メディアミル、挽臼原理を利用した摩砕型粉砕機、湿式ジェットミル、超音波を用いて粉砕する超音波粉砕機、超音速液滴衝突分散法を用いる粉砕機等を用いて行うことができ、メディアミルにより湿式粉砕処理を行うことが好ましい。原料混合物を、メディアミルにより湿式粉砕処理することにより、工業的に有利に原料混合物に含有されている固形分を、より一層微細に粉砕することができるので、第3工程においてスプレードライ法で噴霧乾燥することにより、一層優れた反応性を有する噴霧乾燥粉体を得ることができる。
【0043】
メディアミルとしては、ビーズミル、ボールミル、ペイントシェーカー、アトライタ、サンドミル等が挙げられ、ビーズミルが好ましい。ビーズミルを用いる場合、運転条件やビーズの種類及び大きさは、装置のサイズや処理量に応じて適切に選択される。
【0044】
湿式粉砕処理を一層効率的に行う観点から、原料混合物に分散剤を加えてもよい。分散剤は、スラリーの種類や特性に応じて、適宜選択される。分散剤としては、各種の界面活性剤、ポリカルボン酸アンモニウム塩等が挙げられる。スラリー中の分散剤の濃度は、十分な分散効果が得られる点で、好ましくは0.01~10質量%、特に好ましくは0.1~5質量%である。
【0045】
第2工程では、湿式粉砕処理を、原料粉砕処理物を含むスラリー中の固形分の平均粒子径が、レーザー散乱・回折法により求められるD50で、好ましくは10.0μm以下、特に好ましくは1.0~8.0μmとなるまで行う。原料粉砕処理物を含むスラリー中の固形分の平均粒子径が、上記範囲にあることにより、優れた反応性を有する噴霧乾燥粉体が得られ易くなる。なお、レーザー散乱・回折法により求められるD50とは、例えば、マイクロトラックベル製のMT3300を用いるレーザー散乱・回折法により求められる粒度分布曲線における体積積算で50%の粒径を指す。
【0046】
このようにして、第2工程を行うことにより、原料粉砕処理物を含むスラリーを得ることができる。
【0047】
本発明の遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法では、メタリン酸リチウム、M源及び必要に応じてA源を、水溶媒と混合する第1工程を、第2工程を行う湿式粉砕処理装置とは、別の装置又は容器で行ってもよい。
【0048】
また、本発明の遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法では、第2工程を行う湿式粉砕処理装置内で、メタリン酸リチウム、M源及び必要に応じてA源を、水溶媒と混合する第1工程と、湿式粉砕処理装置により湿式粉砕処理する第2工程と、を行ってもよい。例えば、湿式粉砕処理装置としてメディアミルを用いる場合、第2工程を行うメディアミルに、メディアと、メタリン酸リチウム、M源及び必要に応じてA源と、水溶媒とを、添加し、次いで、メタリン酸リチウム、M源、水溶媒、及び必要に応じてA源を、メディアミル内で混合して、原料混合物を得、続いて、得られる原料混合物を、湿式粉砕処理することにより、あるいは、第2工程を行うメディアミルに、メディアと、メタリン酸リチウム、M源及び必要に応じてA源と、水溶媒とを、添加し、次いで、メディアミルの運転を開始し、メタリン酸リチウム、M源、必要に応じてA源、及び水溶媒の混合と、得られる原料混合物の湿式粉砕処理を行うことができる。
【0049】
本発明の遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法に係る第3工程は、第2工程を行い得られる原料粉砕処理物を含むスラリーを噴霧乾燥して、噴霧乾燥粉体を得る工程である。
【0050】
スラリーの乾燥方法にはスプレードライ法以外の方法も知られているが、本発明の遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法においては、スプレードライ法を選択することが有利であるとの知見に基づき、この乾燥方法を採用している。詳細には、スプレードライ法を用いることにより、粒子が詰まった状態の乾燥粉体を得ることができるので、得られる乾燥粉体を第4工程で焼成することにより、X線回折的に単相の遷移金属含有ピロリン酸リチウムを得ることができる。
【0051】
第3工程における噴霧乾燥では、所定手段によって原料粉砕処理物を含むスラリーを霧化し、それによって生じた微細な液滴を乾燥させることにより、噴霧乾燥粉体を得る。スラリーの霧化には、例えば回転円盤を用いる方法と、圧力ノズルを用いる方法がある。第3工程においてはいずれの方法も用いることもできる。
【0052】
第3工程におけるスプレードライ法では、霧化されたスラリーの液滴の大きさと、それに含まれる原料粉砕処理物の粒子の大きさとの関係が、安定した乾燥や、得られる乾燥粉体の性状に影響を与える。詳細には、液滴の大きさに対して原料粉砕処理物の粒子の大きさが小さすぎると、液滴が不安定になり、乾燥を首尾よく行いづらくなる。この観点から、霧化された液滴の大きさは、5~50μmが好ましく、10~40μmが特に好ましい。噴霧乾燥装置へのスラリーの供給量は、この観点を考慮して決定することが好ましい。
【0053】
第3工程における噴霧乾燥により得られる噴霧乾燥粉体は、第4工程で焼成に付されるが、得られる遷移金属含有ピロリン酸リチウムの平均粒子径等の粉体特性は、噴霧乾燥粉体の特性を概ね引き継ぐようになる。このため、第3工程での噴霧乾燥においては、目的とする遷移金属含有ピロリン酸リチウムの粒子径の制御の点から、噴霧乾燥粉体の二次粒子の大きさが、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により求められる粒子径で、5~50μmとなるように噴霧乾燥を行うことが好ましく、10~40μmとなるように噴霧乾燥を行うことが特に好ましい。
【0054】
第3工程のスプレードライ法において、乾燥温度は、スプレードライヤーの熱風入口温度を170~320℃、好ましくは190~300℃に調整し、熱風出口温度が80~140℃となるように調整することが、粉体の吸湿を防ぎ粉体の回収が容易になることから好ましい。
【0055】
このようにして、第3工程を行うことにより、第4工程において焼成に付する噴霧乾燥粉体を得る。
【0056】
本発明の遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法に係るに係る第4工程は、第3工程を行い得られる噴霧乾燥粉体を焼成して、X線的に単相の遷移金属含有ピロリン酸リチウムを得る工程である。
【0057】
第4工程での焼成温度は、600℃以上、好ましくは600~700℃、特に好ましくは650~700℃である。焼成温度が上記範囲であることにより、X線回折的に単相の遷移金属含有ピロリン酸リチウムが得られる。一方、焼成温度が上記範囲未満だと、反応が完結し難く、遷移金属含有ピロリン酸リチウムが得られない傾向にある。
【0058】
第4工程での焼成雰囲気は、大気雰囲気又は不活性ガス雰囲気である。第4工程において、焼成を、700℃を超える高温で行う場合は、大気雰囲気中で焼成を行うと溶融状のものが得られ、粉末状のものが得られないため、700℃を超える温度で焼成を行う場合は、不活性ガス雰囲気で焼成を行うことが好ましい。不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等が挙げられ、これらの中、窒素ガスが、安価で工業的に有利になる観点から好ましい。
【0059】
本発明の遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法では、工業的に有利となる点で、第4工程において、600~700℃、大気雰囲気で、噴霧乾燥粉体を焼成することが好ましい。
【0060】
第4工程における焼成時間は、特に制限されず、2時間以上、好ましくは4~10時間である。第4工程では、2時間以上、好ましくは4~10時間焼成を行えば、X線回折的に単相の遷移金属含有ピロリン酸リチウムを得ることができる。
【0061】
第4工程では、一旦焼成を行い得られた遷移金属含有ピロリン酸リチウムを、必要に応じて、複数回焼成してもよい。
【0062】
第4工程を行った後、第4工程を行い得られる遷移金属含有ピロリン酸リチウムを、必要に応じて、更に分級してもよい。
【0063】
本発明の遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法では、第1工程において、リン源及びリチウム源として、メタリン酸リチウムを用いて、M源と共に水溶媒に混合し、第2工程において、メタリン酸リチウム及びM源を含む原料混合物を、湿式粉砕処理することにより得られる原料粉砕処理物を含むスラリーは、第3工程の噴霧乾燥の際に、スプレー乾燥装置に付着し難く、且つ、第3工程のスプレードライ法による噴霧乾燥及び第4工程の焼成を経て、X線回折的に単相の遷移金属含有ピロリン酸リチウムへと変換されるので、X線回折的に単相の遷移金属含有ピロリン酸リチウムを高収率で得ることができる。
【0064】
また、本発明の遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法では、必要に応じて、第4工程を行い得られる遷移金属含有ピロリン酸リチウムを粉砕処理する第5工程を行うことができる。本発明の遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法では、第4工程を行い得られる遷移金属含有ピロリン酸リチウムに対して、粉砕処理を行うことが、微粒且つ粒度分布がシャープな遷移金属含有ピロリン酸リチウムが得られる点で、好ましい。
【0065】
第5工程における粉砕処理は、乾式の粉砕処理であっても、湿式の粉砕処理であってもよい。湿式粉砕装置としては、例えば、ボールミル、ビーズミル等が挙げられる。乾式粉砕装置としては、例えば、ジェットミル、ピンミル、ロールミル、ボールミル、ビーズミル等の公知の粉砕装置が挙げられる。
【0066】
第5工程を行った後、第5工程を行い得られる遷移金属含有ピロリン酸リチウムを、必要に応じて、更に分級してもよい。
【0067】
このようにして本発明の遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法を得られる遷移金属含有ピロリン酸リチウムは、X線回折的に単相の遷移金属含有ピロリン酸リチウムであることに加えて、SEM観察により求められる平均粒子径が、好ましくは10.0μm以下、特に好ましくは1.0~5.0μmであり、BET比表面積が、好ましくは1.0m/g以上、特に好ましくは2.0~10.0m/gである。
【0068】
また、本発明の遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法では、必要に応じて、第4工程及び第5工程の何れかを行い得られる遷移金属含有ピロリン酸リチウムに対して、後述する第A工程を行うことができる。
【0069】
第A工程は、第4工程及び第5工程の何れかを行い得られた遷移金属含有ピロリン酸リチウムと、加熱分解により炭素が析出する導電性炭素材料源(以下、単に「導電性炭素材料源」とも記載する。)とを混合し、遷移金属含有ピロリン酸リチウムと導電性炭素材料源との混合物を得、次いで、該混合物を加熱処理して、導電性炭素材料源を加熱分解して遷移金属含有ピロリン酸リチウム炭素複合体を得る工程である。
【0070】
導電性炭素材料源としては、少なくとも第A工程で加熱処理することにより加熱分解して炭素が析出するものが用いられる。導電性炭素材料源は、遷移金属含有ピロリン酸リチウムに導電性を付与する成分であり、導電性の炭素と遷移金属含有ピロリン酸リチウムとの複合体とすることで、遷移金属含有ピロリン酸リチウム炭素複合体を正極活物質とするリチウム二次電池は、放電容量やサイクル特性の向上が期待できる。
【0071】
導電性炭素材料源としては、例えば、軟ピッチから硬ピッチまでのコールタールピッチ;乾留液化油等の石炭系重質油、常圧残油、減圧残油の直流重質油、原油、ナフサ等の熱分解時に副生するエチレンタール等の分解系重質油の石油系重質油;アセナフチレン、デカシクレン、アントラセン、フェナントレン等の芳香族炭化水素;フェナジン、ビフェニル、テルフェニル等のポリフェニレン;ポリ塩化ビニル;ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエチレングリコール等の水溶性ポリマー、及びこれらの不溶化処理品;含窒素性のポリアクリロニトリル;ポリピロール等の有機高分子;含硫黄性のポリチオフェン、ポリスチレン等の有機高分子;グルコース、フルクトース、ラクトース、マルトース、スクロース等の糖類などの天然高分子;ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキシド等の熱可塑性樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、イミド樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられ、これらのうち、糖類が工業的に安価に入手でき、また、最終的に得られる遷移金属含有リン酸リチウム炭素複合体を正極活物質とするリチウム二次電池の放電容量やサイクル特性を向上させる観点から好ましい。
【0072】
導電性炭素材料源の配合割合は、遷移金属含有ピロリン酸リチウムに対して導電性炭素材料源中の炭素原子が、0.1~20.0質量%、好ましくは0.5~15.0質量%となるように、導電性炭素材料源を添加することが遷移金属含有ピロリン酸リチウム炭素複合体を正極活物質とするリチウム二次電池の放電容量やサイクル特性を向上させる観点から好ましい。
【0073】
第A工程において、遷移金属含有ピロリン酸リチウムと、導電性炭素材料源との混合を、乾式又は湿式で行うことができる。
【0074】
第A工程において、乾式で混合処理を行う方法としては、機械的手段にて行うことが均一な混合物が得られる点で好ましい。乾式混合に用いられる装置としては、均一な混合物が得られるものであれば特に制限はないが、例えば、ハイスピードミキサー、スーパーミキサー、ターボスフェアミキサー、アイリッヒミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー、リボンブレンダー、V型混合機、コニカルブレンダー、ジェットミル、コスモマイザー、ペイントシェイカー、ビーズミル、ボールミル等が挙げられる。なお、実験室レベルでは、家庭用ミキサーで十分である。
【0075】
また、第A工程において、湿式で混合処理を行う方法としては、水溶媒に遷移金属含有ピロリン酸リチウムと導電性炭素材料源を、固形分含有量が10~80質量%、好ましくは20~70質量%となるように添加し、これを機械的手段で混合してスラリーを調製し、次いで、該スラリーを静置させた状態で乾燥させるか、あるいは、該スラリーを噴霧乾燥処理して乾燥させる等により、遷移金属含有ピロリン酸リチウムと導電性炭素材料源との混合物を得る方法が挙げられる。
【0076】
湿式混合に用いられる装置としては、均一なスラリーが得られるものであれば特に制限はないが、例えば、スターラー、撹拌羽による攪拌機、3本ロール、ボールミル、ディスパーミル、ホモジナイザー、振動ミル、サンドグラインドミル、アトライター及び強力撹拌機等の装置が挙げられる。湿式混合処理は、上記で例示した機械的手段による混合処理に限定されるものではない。なお、湿式混合の際に、界面活性剤をスラリーに添加して混合処理を行ってもよい。
【0077】
次いで、前記のようにして調製した遷移金属含有ピロリン酸リチウムと導電性炭素材料源との混合物を加熱処理する。加熱処理を、導電性炭素材料源が加熱分解して炭素を析出させる温度で行う必要があり、加熱温度は、180~900℃、好ましくは210~800℃である。加熱処理の加熱温度が上記範囲にあることにより、炭素を粒子表面に均一被覆しながら凝集を抑えることができる。加熱処理の加熱時間は、0.2時間以上、好ましくは0.5~5時間である。加熱処理の雰囲気は不活性ガス雰囲気とすることが、炭素の酸化を抑制することができる点で好ましい。また、本発明の遷移金属含有ピロリン酸リチウムの製造方法における加熱処理では、用いた導電性炭素材料源の融点以上に一度加熱して導電性炭素材料源を溶融し、次いで、上記範囲で加熱処理して導電性炭素材料源から炭素を析出させることが、粒子表面に均一に炭素を被覆させることができる点で好ましい。
【0078】
本発明の製造方法を行い得られる遷移金属含有ピロリン酸リチウム及び遷移金属含有ピロリン酸リチウム炭素複合体は、リチウム二次電池、全固体電池等の正極材として好適に利用される。
【実施例0079】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0080】
(実施例1)
<第1工程・第2工程>
2.4Lのポリプロピレン製ポットに、φ5mmジルコニアボールを2.3kg、高純度メタリン酸リチウム(平均粒子径300μm、日本化学工業製)181.5g、水酸化コバルト(平均粒子径0.24μm)100.0g、純水950g 、分散剤(ポリカルボン酸アンモニウム)19gを入れ、200rpmの回転数でミルの運転を開始し、20時間粉砕処理を行った。粉砕後、ジルコニアボールを1mm篩で分離し、原料粉砕処理物を含むスラリーを得た。
レーザー散乱・回析法により求められる原料粉砕処理物を含むスラリー中の固形分の平均粒子径(D50)は、6.0μmであった。
<第3工程>
熱風入口の温度を220℃に設定したスプレードライヤーに、2.4L/hの供給速度で原料粉砕処理物を含むスラリーを供給し、噴霧乾燥粉体280gを得た。また、噴霧乾燥後のスプレードライヤーの内部を目視で観察したところ、内部付着物は少なく、回収率は固形分基準で96.7%であった。
<第4工程・第5工程>
次いで、得られた噴霧乾燥粉体を650℃で4時間、大気雰囲気中で焼成し、焼成品を得た。
次いで、焼成物をラボジェットミルで粉砕を行い、粉砕物を得た。
得られた粉砕物をX線回折分析したところ、粉砕物は単相のLi1.86CoPであった。これを遷移金属含有ピロリン酸リチウム試料とした。また、得られた遷移金属含有ピロリン酸リチウム試料のX線回折図を図1に示す。
【0081】
(実施例2)
<第1工程・第2工程>
2.4Lのポリプロピレン製ポットに、φ5mmジルコニアボールを2.3kg、高純度メタリン酸リチウム(平均粒子径300μm、日本化学工業製)154.8g、炭酸マンガン(平均粒子径17.8μm)110.0g、純水882g、分散剤(ポリカルボン酸アンモニウム)16gを入れ、200rpmの回転数でミルの運転を開始し、20時間粉砕処理を行った。粉砕後、ジルコニアボールを1mm篩で分離し、原料粉砕処理物を含むスラリーを得た。
レーザー散乱・回析法により求められる原料粉砕処理物を含むスラリー中の固形分の平均粒子径(D50)は、4.1μmであった。
<第3工程>
熱風入口の温度を220℃に設定したスプレードライヤーに、2.4L/hの供給速度で原料粉砕処理物を含むスラリーを供給し、噴霧乾燥粉体261gを得た。また、噴霧乾燥後のスプレードライヤーの内部を目視で観察したところ、内部付着物は少なく、回収率は固形分基準で96.4%であった。
<第4工程・第5工程>
次いで、得られた噴霧乾燥粉体を650℃で4時間、大気雰囲気中で焼成し、焼成品を得た。次いで、焼成物をラボジェットミルで粉砕を行い、粉砕物を得た。
得られた粉砕物をX線回折分析したところ、粉砕物は単相のLiMnPであった。これを遷移金属含有ピロリン酸リチウム試料とした。また、得られた遷移金属含有ピロリン酸リチウム試料のX線回折図を図2に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
(参考例1)
純水11Lに、室温(25℃)で、シュウ酸・2水塩1604.5gを加えてスリーワンモーター攪拌機を用いて30分攪拌し、分散剤(ポリカルボン酸アンモニウム)228gを加えた。次に、水酸化コバルト1200gを加えて30分攪拌した。次に、85質量%リン酸2922.4gを加えて30分攪拌した。次に、水酸化リチウム・1水塩1068.8gを加えて1時間攪拌し水性原料スラリーを得た。
次いで、この水性原料スラリーを攪拌しながら、直径0.5mmのジルコニアビーズを仕込んだメディア攪拌型ビーズミルに供給し、3時間混合して湿式粉砕を行った。
次いで、熱風入口の温度を220℃に設定したスプレードライヤーに、2.4L/hの供給速度でスラリーを供給し、反応前駆体2590gを得た。また、噴霧乾燥後のスプレードライヤーの内部を目視で観察したところ、内部付着物が多く、回収率は固形分基準で44.8%であった。
次いで、得られた反応前駆体を650℃で4時間、大気雰囲気中で焼成し、焼成品を得た。
次いで、焼成物を気流粉砕機で粉砕を行い、粉砕物を得た。
得られた粉砕物をX線回折分析したところ、粉砕物は単相のLi1.86CoPであった。これを遷移金属含有ピロリン酸リチウム試料とした。
【0084】
(比較例1)
第2工程後に得られる粉砕処理物を含むスラリーを、スプレードライ法にて乾燥を行わず、そのまま120℃で5時間乾燥を行った以外は、実施例1と同様にして焼成品を調製した。次いで、焼成物をラボジェットミルで粉砕を行い、粉砕物を得た。
得られた粉砕物をX線回折分析したところ、粉砕物はLi1.86CoPの他にLiCoPO等の異相があった。これを遷移金属含有ピロリン酸リチウム試料とした。また、得られた遷移金属含有ピロリン酸リチウム試料のX線回折図を図3に示す。
【0085】
<諸物性の評価>
実施例、参考例及び比較例で得られた遷移金属含有ピロリン酸リチウム試料について、平均粒子径、BET比表面積、及び粒度分布を測定した。なお、平均粒子径の測定については、走査型電子顕微鏡において倍率1万倍で観察し、任意に抽出した粒子50個以上の平均値を、平均粒子径として求めた。また、粒度分布は下記のようにして評価した。
(粒度分布)
実施例、参考例及び比較例で得られた遷移金属含有ピロリン酸リチウム試料について、レーザー回折・散乱法(社名:日機装製、品名:マイクロトラックMT3300EXII粒度分析計、型式:MTEX-SDU)によりD50、D90を測定した。
なお、D50とD90の差が小さい方が、より粒径が揃っていることを示す。
【0086】
【表2】
表2の結果より、実施例1と比較例1を比べると、実施例1では、比較例1のものと比べて、D50とD90の差が小さく、粒度が揃ったものが得られていることが分かる。
【0087】
(実施例3)
<第A工程>
実施例1で得られたLiCoP10gとラクトース2gを(自転・公転ミキサーにて100rpmで1分間)で混合した。該混合物を窒素雰囲気下、220℃で2時間加熱処理した後、700℃まで昇温し4時間保持してLiCoP炭素複合体を得た。また、LiCoP炭素複合体を(SEM-EDX)で観察した結果、LiCoPの粒子表面が炭素で均一にコートされていることが確認できた。また、TOCでカーボン量を測定したところ、カーボン含有量は3質量%であった。
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2021-06-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0086
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0086】
【表2】
表2の結果より、実施例1と比較例1を比べると、実施例1では、比較例1のものと比べて、D50とD90の差が小さく、粒度が揃ったものが得られていることが分かる。