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特開2022-175378エネルギ制御装置、エネルギ制御方法、及びエネルギ制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175378
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】エネルギ制御装置、エネルギ制御方法、及びエネルギ制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20221117BHJP
【FI】
F02D45/00 372
F02D45/00 376
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021081721
(22)【出願日】2021-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山中 玄太郎
(72)【発明者】
【氏名】黒石 真且
(72)【発明者】
【氏名】加古 純一
【テーマコード(参考)】
3G384
【Fターム(参考)】
3G384BA01
3G384DA35
3G384EE31
3G384FA18Z
3G384FA53Z
(57)【要約】      (修正有)
【課題】経年劣化による特性の変化を考慮した駆動力制御を可能とするエネルギ制御装置等を提供する。
【解決手段】車両の要素の経年変化を検出するギャップ検出部110と、ギャップ検出部110が検出した経年変化を定量把握する定量把握部と、定量把握部が定量把握した経年変化からサンプル点を決定するサンプル点決定部と、サンプル点決定部が決定したサンプル点を用いて前記要素の特性マップを作成するマップ作成部と、既存の特性マップをマップ作成部が作成した特性マップに書き換えるマップ書き換え部130と、を備える、エネルギ制御装置である。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の要素の経年変化を検出する経年変化検出部と、
前記経年変化検出部が検出した経年変化を定量把握する定量把握部と、
前記定量把握部が定量把握した経年変化からサンプル点を決定するサンプル点決定部と、
前記サンプル点決定部が決定したサンプル点を用いて前記要素の特性マップを作成するマップ作成部と、
既存の特性マップを前記マップ作成部が作成した特性マップに書き換えるマップ書き換え部と、
を備える、エネルギ制御装置。
【請求項2】
前記マップ作成部は、前記既存の特性マップに所定の数理手法を用いて抽出した特徴量と、前記サンプル点で新たに取得したデータとを用いて前記要素の特性マップを作成する、請求項1に記載のエネルギ制御装置。
【請求項3】
前記マップ作成部は、前記既存の特性マップの特異値分解から求めた左右固有ベクトルの両方、又はいずれか一方を前記特徴量とし、前記マップ作成部が特性マップを作成する際に用いる固有ベクトルにより決定されるサンプル点を用いる、請求項2に記載のエネルギ制御装置。
【請求項4】
プロセッサが、
車両の要素の経年変化を検出し、
検出した経年変化を定量把握し、
定量把握した経年変化からサンプル点を決定し、
決定したサンプル点を用いて前記要素の特性マップを作成し、
既存の特性マップを、作成した特性マップに書き換える、
処理を実行する、エネルギ制御方法。
【請求項5】
コンピュータに、
車両の要素の経年変化を検出し、
検出した経年変化を定量把握し、
定量把握した経年変化からサンプル点を決定し、
決定したサンプル点を用いて前記要素の特性マップを作成し、
既存の特性マップを、作成した特性マップに書き換える、
処理を実行させる、エネルギ制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギ制御装置、エネルギ制御方法、及びエネルギ制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車における駆動力の制御方法に関する技術が提案されている。例えば非特許文献1では、車両のエンジンの燃料消費量マップを用いて、最適な要求エネルギを算出することで、バッテリの充電状態を考慮した駆動力制御を可能にする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】2モータ式ハイブリッドシステムにおける駆動力制御方法,自動車技術会講演会前刷集,Vol. 982, pp. 73-76, 1998
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、非特許文献1で開示されている技術では、エンジンの経年劣化が考慮されておらず、経年劣化による特性の変化を考慮した駆動力制御が行われていない。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、経年劣化による特性の変化を考慮した駆動力制御を可能とするエネルギ制御装置、エネルギ制御方法、及びエネルギ制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様に係るエネルギ制御装置は、車両の要素の経年変化を検出する経年変化検出部と、前記経年変化検出部が検出した経年変化を定量把握する定量把握部と、前記定量把握部が定量把握した経年変化からサンプル点を決定するサンプル点決定部と、前記サンプル点決定部が決定したサンプル点を用いて前記要素の特性マップを作成するマップ作成部と、既存の特性マップを前記マップ作成部が作成した特性マップに書き換えるマップ書き換え部と、を備える。
【0007】
本発明の第2態様に係るエネルギ制御装置は、第1態様に係るエネルギ制御装置であって、前記マップ作成部は、前記既存の特性マップに所定の数理手法を用いて抽出した特徴量と、前記サンプル点で新たに取得したデータとを用いて前記要素の特性マップを作成する。
【0008】
本発明の第3態様に係るエネルギ制御装置は、第2態様に係るエネルギ制御装置であって、前記マップ作成部は、前記既存の特性マップの特異値分解から求めた左右固有ベクトルの両方、又はいずれか一方を前記特徴量とし、前記マップ作成部が特性マップを作成する際に用いる固有ベクトルにより決定されるサンプル点を用いる。
【0009】
本発明の第4態様に係るエネルギ制御方法は、第1態様に係るエネルギ制御装置であって、プロセッサが、車両の要素の経年変化を検出し、検出した経年変化を定量把握し、定量把握した経年変化からサンプル点を決定し、決定したサンプル点を用いて前記要素の特性マップを作成し、既存の特性マップを、作成した特性マップに書き換える、処理を実行する。
【0010】
本発明の第5態様に係るエネルギ制御プログラムは、第1態様に係るエネルギ制御装置であって、コンピュータに、車両の要素の経年変化を検出し、検出した経年変化を定量把握し、定量把握した経年変化からサンプル点を決定し、決定したサンプル点を用いて前記要素の特性マップを作成し、既存の特性マップを、作成した特性マップに書き換える、処理を実行させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、特性マップを書き換えることで、経年劣化による特性の変化を考慮した駆動力制御を可能とするエネルギ制御装置、エネルギ制御方法、及びエネルギ制御プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】従来のハイブリッド自動車の駆動力制御フローを説明する図である。
図2】燃料消費量マップの例を示す図である。
図3】本発明の実施形態に係るエネルギ制御装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図4】エネルギ制御装置の機能構成の例を示すブロック図である。
図5】マップ再作成処理部の機能構成例を示す図である。
図6】エネルギ制御装置によるエネルギ制御処理の流れを示すフローチャートである。
図7】疎な選択点の決定例を示す図である。
図8】予測すべきモータ損失マップの例を示す図である。
図9】元データに対して、予測データを散布図でプロットしたものを、ランク数毎に並べた例を示す図である。
図10】ランク数で元データを予測したデータと元データとの標準偏差を誤差として示した例を示す図である。
図11】マップの例を示す図である。
図12】観測点数に対応する条件数の変化の例を示す図である。
図13】選択アルゴリズムより得られた観測ベクトルを用いて予測した結果を示す図である。
図14】2種類の観測ベクトルを用いて予測に必要な疎なデータセットを作成する手順を示す図である。
図15】左特異値ベクトル及び右特異値ベクトルから導出される観測点から元のデータを導出する流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態について詳細に説明する前に、従来技術について説明する。図1は、非特許文献1に開示されている、従来のハイブリッド自動車の駆動力制御フローを説明する図である。
【0014】
従来のハイブリッド自動車の駆動力制御は、アクセル開度、車速(モータ回転数)、発電機回転数、及び使用可能バッテリパワーを入力とし、エンジン要求パワー、発電機トルク、及びモータトルクを出力とする。
【0015】
まず、アクセル開度と車速とから、モータ軸に換算したドライバの要求駆動トルクが算出される。モータ軸に換算したドライバの要求駆動トルクTは、タイヤへの要求トルクTreqと減速ギア比Gとから、以下で求められる。
【0016】
【数1】
【0017】
また、車速vから、タイヤ軸の回転角速度ωとモータ軸の角速度ωはそれぞれ以下の通りになる。
【0018】
【数2】
【0019】
ドライバの要求駆動トルクと、モータ回転数とから、必要な駆動パワーが計算される。駆動パワーと、バッテリの充電要求パワー、及びシステムロスの合計が、システムとして必要な要求駆動パワーとなる。要求駆動パワーPreqは、以下の数式で求めることが出来る。
【0020】
【数3】
【0021】
この合計値が所定値を超える場合は、その所定値を要求駆動パワーとし、所定値以下の場合は、エンジンを使わずにバッテリのみの走行を行い、エンジン要求パワーを0とする。要求駆動パワーPreqが閾値Pth以下であれば、モータトルクTをTとし、要求駆動パワーPreqが閾値Pthを超える場合は、Preq=Tωを制約として、エンジンの燃料消費量fが最小となる動作点で駆動する。実際には、T及びωは、あらかじめ保有する燃料消費量マップ(図2参照)から計算された最適燃費線(図2の実線)と、等要求エネルギ線との交点より求められる。図2に示したグラフの横軸がモータの角速度、縦軸がモータのトルクである。
【0022】
次に、エンジンパワーを発生するのに最も効率の良いエンジン回転数を算出し、算出した値を目標回転数とする。この目標回転数と、モータ回転数とから、発電機の目標回転数を計算する。この発電機の目標回転数となるように、PID(Proportional-Integral-Differential)制御で発電機のトルクを決定する。決定した発電機のトルクから、エンジントルクが逆算でき、さらに、エンジンからモータ軸に伝達されるトルクが計算できる。
【0023】
最初に算出されたドライバの要求駆動トルクから、モータ軸に伝達されるトルクを引いたものがモータトルクとなる。モータ消費パワーが発電機発生パワーとバッテリ供給可能パワーとの合計を超えるようなパワーは出せないので、この発電機発生パワーとバッテリ供給可能パワーとの合計を超えないようにモータトルクを制御する。
【0024】
このような特性マップを活用した制御を実施する際、要素の経年劣化等の要因により要素特性が変化し、想定した要素性能が出現しない可能性がある。例えば、エンジンの経年劣化により、上記の制御を用いて要求駆動パワーPreqより決定された燃料消費量では、エンジン要求出力を満足しない可能性がある。
【0025】
そこで、本件発明者は、経年劣化による特性の変化を考慮した駆動力制御を可能とする技術について鋭意検討を行った。その結果、本件発明者は、以下で説明するように、特性マップを書き換えることで経年劣化による特性の変化を考慮した駆動力制御を可能とする技術を考案するに至った。
【0026】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面において同一または等価な構成要素および部分には同一の参照符号を付与している。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0027】
図3は、本発明の実施形態に係るエネルギ制御装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【0028】
図3に示すように、エネルギ制御装置10は、CPU(Central Processing Unit)11、ROM(Read Only Memory)12、RAM(Random Access Memory)13、ストレージ14、入力部15、表示部16及び通信インタフェース(I/F)17を有する。各構成は、バス19を介して相互に通信可能に接続されている。
【0029】
CPU11は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。すなわち、CPU11は、ROM12またはストレージ14からプログラムを読み出し、RAM13を作業領域としてプログラムを実行する。CPU11は、ROM12またはストレージ14に記録されているプログラムにしたがって、上記各構成の制御および各種の演算処理を行う。本実施形態では、ROM12またはストレージ14には、ハイブリッド自動車の駆動力を制御するエネルギ制御プログラムが格納されている。
【0030】
ROM12は、各種プログラムおよび各種データを格納する。RAM13は、作業領域として一時的にプログラムまたはデータを記憶する。ストレージ14は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)またはフラッシュメモリ等の記憶装置により構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム、および各種データを格納する。
【0031】
入力部15は、マウス等のポインティングデバイス、およびキーボードを含み、各種の入力を行うために使用される。
【0032】
表示部16は、たとえば、液晶ディスプレイであり、各種の情報を表示する。表示部16は、タッチパネル方式を採用して、入力部15として機能しても良い。
【0033】
通信インタフェース17は、他の機器と通信するためのインタフェースであり、たとえば、イーサネット(登録商標)、FDDI、Wi-Fi(登録商標)等の規格が用いられる。
【0034】
上記のエネルギ制御プログラムを実行する際に、エネルギ制御装置10は、上記のハードウェア資源を用いて、各種の機能を実現する。エネルギ制御装置10が実現する機能構成について説明する。
【0035】
図4は、エネルギ制御装置10の機能構成の例を示すブロック図である。図4に示したエネルギ制御装置10の機能構成は、図1に示した従来のハイブリッド自動車の駆動力制御フローに追加されて設けられている。
【0036】
図4に示すように、エネルギ制御装置10は、機能構成として、ギャップ検出部110、マップ再作成処理部120、マップ書き換え部130およびマップ使用部140を有する。各機能構成は、CPU11がROM12またはストレージ14に記憶されたエネルギ制御装置プログラムを読み出し、実行することにより実現される。
【0037】
ギャップ検出部110は、本発明の経年変化検出部の一例であり、要素であるエンジンの経年変化を検出する。具体的には、ギャップ検出部110は、エンジン要求トルクと、実際のエンジン出力トルクとの差分が所定の閾値以上に達したかどうかを検出する。実際のエンジン出力トルクは、ハイブリッド自動車の発電機のトルク、又はトルクに対応する電流からわかる。エンジン要求トルクと、実際のエンジン出力トルクとの差分が所定の閾値以上に達していれば、ギャップ検出部110は、マップ再作成処理部120に対して、燃料消費量マップの再作成を指示する。
【0038】
マップ再作成処理部120は、ギャップ検出部110からの燃料消費量マップの再作成の指示を受けると、燃料消費量マップの再作成を行う。マップ再作成処理部120は、燃料消費量マップの再作成を行う際には、マップ使用部140が保持している既存の燃料消費量マップを参照する。
【0039】
図5は、マップ再作成処理部120の機能構成例を示す図である。図5に示したように、マップ再作成処理部120は、定量把握部121、サンプル点決定部122、およびマップ作成部123を有する。
【0040】
定量把握部121は、ギャップ検出部110が検出した経年変化を定量把握する。具体的に、定量把握部121は、特異値分解を用いて、経年変化を定量把握する。サンプル点決定部122は、定量把握部121が把握した経年変化からサンプル点を決定する。マップ作成部123は、サンプル点決定部122が決定したサンプル点を用いて燃料消費量マップを作成する。具体的に、マップ作成部123は、供給燃料消費量に対して実トルクと実回転数とをプロットし直すことで、燃料消費量マップを作成する。
【0041】
マップ書き換え部130は、マップ再作成処理部120が再作成した燃料消費量マップで、マップ使用部140が保持している既存の燃料消費量マップを書き換える。
【0042】
マップ使用部140は、燃料消費量マップを使用したハイブリッド自動車の駆動制御を実行する。具体的に、マップ使用部140は、燃料消費量マップを用いて、最適燃費線と、等要求エネルギ線との交点から、エンジンの燃料消費量が最小となるようなモータのトルク及びモータの角速度を決定する。
【0043】
次に、エネルギ制御装置10の作用について説明する。
【0044】
図6は、エネルギ制御装置10によるエネルギ制御処理の流れを示すフローチャートである。CPU11がROM12又はストレージ14からエネルギ制御ログラムを読み出して、RAM13に展開して実行することにより、エネルギ制御処理が行なわれる。
【0045】
図6に示したフローチャートは、既存の燃料消費量マップを書き換える際の処理の流れを示したものである。CPU11は、既存の燃料消費量マップ(参照用マップ)の特異値分解を行う(ステップS101)。
【0046】
ステップS101に続いて、CPU11は、固有値ベクトルを用いてサンプル点の算出を行う(ステップS102)。
【0047】
ステップS102に続いて、CPU11は、サンプル点での燃料消費量を取得する(ステップS103)。
【0048】
ステップS103に続いて、CPU11は、取得した燃料消費量に基づき、燃料消費量マップの再作成を行う(ステップS104)。
【0049】
ステップS104に続いて、CPU11は、再作成した燃料消費量マップで、既存の燃料消費量マップを書き換える(ステップS105)。
【0050】
図6に示した一連の処理の具体例を示す。CPU11は、トルク方向にm分割(mは2以上の整数)、回転数方向にn分割(nは2以上の整数)されたデータセットX∈Rm×nで表される燃料消費量マップに特異値分解X=UΣVを施す。燃料消費量マップに特異値分解を施すことで、2つの直交行列U∈Rm×m、V∈Rn×nが求められる。
【0051】
U=(u ・・・u)とすると、各成分U∈Rm×1は、それぞれがお互いに直交する単位固有ベクトルとなる。経年変化した燃料消費量マップをY=(y ・・・y)と表現すると、yの近似ベクトルは
【0052】
【数4】
【0053】
となるが、ここではYをなるべく少ないサンプル点での観測データで近似することを考える。
【0054】
データセットYのトルク方向について、任意のq個の点を選択するベクトルpを定義する。pはp∈Rm×1で表される。ここで、pの要素pは、p∈{0,1}である。ベクトルpを用いることで、疎なデータセットを以下のように表すことができる。
【0055】
【数5】
【0056】
以下では、
【0057】
【数6】
【0058】
を用いて、以下のように表すこととする。
【0059】
【数7】
【0060】
特異値行列Uの最初のr個の列のみを残した行列を、以下のように表す。
【0061】
【数8】
【0062】
の近似ベクトルは以下のように表すことができる。
【0063】
【数9】
【0064】
ここで、記号(例えば、X)上に“^”が付された文字を、以下では、^Xとして表す場合がある。また、式中において、記号(例えば、X)上に“~”が付された文字を、以下では、~Xとして表す場合がある。
【0065】
^akiを、誤差
【0066】
【数10】
【0067】
を最小化するように決定することが、Yを最良指定することになる。
【0068】
【数11】
【0069】
とすると、数式(1)は、以下のように表すことができる。
【0070】
【数12】
【0071】
そして、誤差を最小化する条件は以下の通りとなる。
【0072】
【数13】
【0073】
上記(3)を展開すると、以下の数式(4)の通りとなる。
【0074】
【数14】
【0075】
数式(4)を行列で表現すると以下の数式(5)となる。
【0076】
【数15】
【0077】
数式(5)の左辺をF、右辺第1項をM、右辺第2項を^Aとする。F及びMは既知であるので、
^A=M-1F (6)と求まる。従って、以下の数式(7)が成り立つ。
【0078】
【数16】
【0079】
次に、Yを列ベクトルで表した場合のそれぞれの要素をy ∈Rn×1とする。任意のt個の要素が1、他の要素を0とするw∈Rn×1を定義し、右特異値行列Vの最初のl個の列のみを残した行列Vを用いて、左特異値行列の場合について係数行列^Aを求める手順と同様の手順で求めた係数行列を^Bとすると、以下の数式(8)が成り立つ。
【0080】
【数17】
【0081】
図7は、疎な選択点の決定例を示す図である。数式(8)により。疎な選択点を図7のように決定すれば、Rn×mのデータセットをRr×tのデータセットで予測出来る。
【0082】
ここで、疎な選択点の決定方法の具体例を示す。ここでは、インバータ駆動のIPM(Interior Permanent Magnet)モータを例に、インバータへの入力DC電圧が300Vの場合のモータ損失マップから、入力DC電圧が650Vのモータ損失マップを予測する手順を示すことで、疎なデータセットを選択する手法を説明する。
【0083】
図8は、予測すべきモータ損失マップの例を示す図である。図8の(a)で示したのは、縦軸にトルク方向のサンプル点(37点)を示し、横軸に回転数方向のサンプル点(35点)を示し、濃さが損失の絶対値に対応している。
【0084】
図8の(b-1)~(b-3)は、トルク方向に任意のサンプル点を23点選択し、選択した点を白で示したマップである。これは、ベクトルpに相当する。ベクトルpの要素で0が図中の白に対応し、1が図中の黒に対応する。図8の(c-1)~(c-3)は、疎なデータセット^Yに対応し、それらから得られた~Yが、図8の(d-1)~(d-3)で示されている。これにより、ベクトルpをどのように選ぶかが、予測精度に影響を及ぼすことがわかる。
【0085】
固有直交分解(Proper Orthogonal Decomposition,POD)の一つであるGappy-PODは、予測に用いるPOD基底のランク数r、観測データの点数q、観測データ点の位置を示す観測ベクトルpにより異なる。予測に用いるPOD基底のランク数は、あるランク数で元データXを予測した際の誤差により判定できる。図9に、元データXに対して、予測データを散布図でプロットしたものを、ランク数毎に並べた例を示す。図9によれば、ランク数が13以上では、見た目に大きな変化は認められない。図10に、横軸にランク数を取り、ランク数で元データを予測したデータと元データとの標準偏差を誤差として示した例を示す。図10によれば、ランク数が13以上では、誤差が損失のオーダーの2桁程度下の値となっている。従って、POD基底のランク数は13以上を選択することとした。
【0086】
次に、観測データの点数q、及び、観測データ点の位置sを選択する方法を示す。観測データ点の選択方法は、例えば、Brunton, Steven L. and Kutz, J. Nathan,“Data-Driven Science and Engineering”, chapter 12, Cambridge University Press, (2019)に記載されている“Minimize condition number”アルゴリズムを用いて決定することとした。この選択アルゴリズムの概要は以下の通りである。
【0087】
1.i≦qとした場合に、i番目の観測点を配置することが可能な全ての位置それぞれに対して行列Mを求め、かつ、Mの条件数(M)を計算することを繰り返す。観測点の配置制約は、既に配置済みのi-1番目までの観測点と重ならないようにすることのみである。
【0088】
2.最も小さな条件数となる観測点の位置をi番目の観測点として決定する。
【0089】
3.i+1番目の観測点の配置についても、上記2つのステップを繰り返す。
【0090】
判定基準となる条件数(M)は、(M)=λmax(M)/λmin(M)で表される。λmax(M)はMの最大固有値であり、λmin(M)はMの最小固有値である。
【0091】
PODモードのランク数rを予め決定しておけば、上記選択アルゴリズムにより、適切な観測点数q及び観測ベクトルpを決定することが可能である。ここで、PODモードのランク数rと、観測点数qとの関係が予測精度に及ぼす影響(ここでは、条件数の値)を確認するため、以下の手順でPODモードのランク数rと、観測点数qとの関係を確認する。
【0092】
手順1.j≦mとした場合において、jランクのPODモードを用いて、k点の観測点数を選択したときの適切な観測点配置、及びその観測点数を選択した際の(M)を計算する。
【0093】
手順2.PODモードのランク数はjで固定し、観測点数をk+1とした場合について、上記手順1と同様の処理を行い、観測点数がmとなるまで繰り返し実施する。
【0094】
手順3.PODモードのランク数をj+1として、上記手順1、手順2と同様の処理を行い、PODモードのランク数がrとなるまで繰り返す。
【0095】
手順4.PODモードのランク数を横軸、観測点数を縦軸とし、条件数に対応する値を濃淡で表したマップを作成する。図11は、手順4で作成されるマップの例を示す図である。さらに、必要に応じて、図12に示したような、観測点数に対応する条件数の変化の図から、PODモードのランク数r及び観測点数qを決定する。
【0096】
手順5.手順4で決定したPODモードのランク数r及び観測点数qに対応する観測ベクトルpを呼び出し、上記数式(6)~(8)に記載した手順で~Yを求める。
【0097】
図13は、上述の手順を用いて、r=13、q=20と決定し、上記選択アルゴリズムより得られた観測ベクトルpを用いて予測した結果を、一連の順と共に示した図である。図13(a)は、予測対象Yを示し、図13(b)は、観測ベクトルpを示し、図13(c)は、予測に用いる疎なデータセット^Yを示し、図13(d)は、予測した結果~Yを示す。図13(a)と図13(d)とを比較した結果から、予測結果は予測対象と良好に一致している。図13(e)は、定量的判定のため、予測対象に対して予測結果を散布図でプロットした図である。図13(e)の実線は理想値であり、良好な予測結果を示していることがわかる。
【0098】
ここで、さらなる参照点数の削減を図るため、右特異値ベクトルVを活用する。左特異値ベクトルの場合と同様に、PODモードランク数l=13、データの点数t=20と決定した後に、上記選択アルゴリズムを用いて観測ベクトルwを求めることが出来る。
【0099】
図14は、2種類の観測ベクトルp、wを用いて予測に必要な疎なデータセットを作成する手順を示す図である。図14(a)で示したのは、縦軸にトルク方向のサンプル点(37点)を示し、横軸に回転数方向のサンプル点(35点)を示し、濃さが損失の絶対値に対応している。図14(b)で示したのは、トルク方向に任意のサンプル点を23点選択し、選択した点を白で示したマップである。図14(c)は、疎なデータセットに対応し、これは、ベクトルpに相当する。図14(d)で示したのは、回転数方向に任意のサンプル点を23点選択し、選択した点を白で示したマップである。図14(e)は、疎なデータセットに対応し、これは、ベクトルwに相当する。図14(f)で示したのは、図14(b)及び(d)を組み合わせたマップである。そして図14(g)は、左特異値ベクトル及び右特異値ベクトルから導出される必要な観測点である。
【0100】
図14(g)から図14(a)を予測可能かどうかが重要であり、図15は、左特異値ベクトル及び右特異値ベクトルから導出される観測点から元のデータを導出する流れを示す図である。図15(a)は、予測対象を示し、図15(b)は、疎なデータセット^Yを示し、図15(c)は、予測した結果を示す。図15(d)は、定量的判定のため、予測対象に対して予測結果を散布図でプロットした図である。図15(d)を見れば、定量的に良好に予測ができていると考えられる。
【0101】
エネルギ制御装置10は、このようにサンプル点を決定することで、燃料消費量の取得数を削減できる。そして、エネルギ制御装置10は、サンプル点で取得した燃料消費量から、燃料消費量マップを再作成することで、全てのサンプル点から燃料消費量を取得する場合と比較して、燃料消費量マップの再作成の処理を軽減させることができる。
【0102】
このように、本実施形態に係るエネルギ制御装置10は、経年変化があることを検出し、実動作中のサンプリング点における値を基に新たなマップを作成することできる。本実施形態に係るエネルギ制御装置10は、実動作中のサンプリング点における値を基に新たなマップを作成するため、経年変化後のマップをあらかじめ保有しておく必要がない。従って、本実施形態に係るエネルギ制御装置10は、経年変化後のマップをあらかじめ保有する場合と比較して、記憶領域に保存するマップの容量を削減する。また、本実施形態に係るエネルギ制御装置10は、実動作中のサンプリング点における値を基に新たなマップを作成するため、車載要素の経年変化の状態にかかわらず、適切な制御を実現することができる。
【0103】
上記実施形態では、燃料消費量マップの書き換えについて示したが、本発明が書き換える対象とするマップは燃料消費量マップに限定されない。例えば、本発明は、リチウムイオン電池の内部抵抗マップの再作成に適用できる。すなわち、本発明は、経年劣化による電池セル内部の抵抗変化に対応した内部抵抗マップの再作成に適用してもよい。また、本発明は、太陽電池のセル特性マップの再作成に適用できる。
【0104】
なお、上記各実施形態でCPUがソフトウェア(プログラム)を読み込んで実行したエネルギ制御処理を、CPU以外の各種のプロセッサが実行してもよい。この場合のプロセッサとしては、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なPLD(Programmable Logic Device)、及びASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が例示される。また、エネルギ制御処理を、これらの各種のプロセッサのうちの1つで実行してもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGA、及びCPUとFPGAとの組み合わせ等)で実行してもよい。また、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路である。
【0105】
また、上記各実施形態では、エネルギ制御処理のプログラムがROMまたはストレージに予め記憶(インストール)されている態様を説明したが、これに限定されない。プログラムは、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory)、及びUSB(Universal Serial Bus)メモリ等の非一時的(non-transitory)記録媒体に記録された形態で提供されてもよい。また、プログラムは、ネットワークを介して外部装置からダウンロードされる形態としてもよい。
【符号の説明】
【0106】
10 エネルギ制御装置
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