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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175435
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】多目的車両
(51)【国際特許分類】
   B60P 1/04 20060101AFI20221117BHJP
【FI】
B60P1/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021081809
(22)【出願日】2021-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】▲吉▼田 純
(57)【要約】
【課題】調整作業が不要なロック機構を用いてダンプ可能な荷台が水平載置姿勢でロックされる多目的車両を提供する。
【解決手段】多目的車両は、走行車体を構成する後フレーム30rに支持されたダンプ揺動軸33と、ダンプ揺動軸33周りに水平載置姿勢とダンプ姿勢との間で揺動可能な荷台4と、水平載置姿勢における荷台4と後フレーム30rと間で、荷台4を受持する弾性部材50と、水平載置姿勢における荷台4を後フレーム30rにロックするロック機構9とを備える。ロック機構9は、ロック姿勢とロック解除姿勢とに変更可能で、ロック姿勢において、荷台4を介して弾性部材50を押し付け変位させる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪と後輪とによって対地支持された走行車体と、
前記走行車体を構成する後フレームに支持されたダンプ揺動軸と、
前記ダンプ揺動軸周りに水平載置姿勢とダンプ姿勢との間で揺動可能な荷台と、
前記水平載置姿勢における前記荷台と前記後フレームとの間で、前記荷台を受持する弾性部材と、
前記水平載置姿勢における前記荷台を前記後フレームにロックするロック機構と、
を備え、
前記ロック機構は、ロック姿勢とロック解除姿勢とに変更可能で、前記ロック姿勢において、前記荷台を介して前記弾性部材を押し付け変位させる、多目的車両。
【請求項2】
前記ロック機構は、係合部と、前記係合部と係合する複数の被係合部とを有し、前記係合部と係合する前記被係合部毎に前記弾性部材の押し付け変位量が異なる請求項1に記載の多目的車両。
【請求項3】
前記係合部は前記後フレームに揺動可能に支持された係合体に形成され、前記係合体の揺動によって複数の前記被係合部は前記荷台に固定された被係合体に形成され、それぞれの前記被係合部は前記荷台からの下方長さが異なる位置に形成されている請求項2に記載の多目的車両。
【請求項4】
前記ロック機構は、バネ付勢されたラチェット機構である請求項1から3のいずれか一項に記載の多目的車両。
【請求項5】
前記ロック機構の前記ダンプ揺動軸からの距離は、前記弾性部材の前記ダンプ揺動軸からの距離より長い請求項1から4のいずれか一項に記載の多目的車両。
【請求項6】
前記ロック機構と前記弾性部材とは、左右一対で配置されている請求項1から5のいずれか一項に記載の多目的車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水平載置姿勢とダンプ姿勢との間で揺動可能な荷台を走行車体に備えた多目的車両に関する。
【背景技術】
【0002】
ダンプ可能な荷台を備えた多目的車両(オフロード車両)の一例が、特許文献1に記載されている。この多目的車両では、荷台は走行車体を構成する後フレームの上方に配置されている。荷台は、後フレームに取り付けられた油圧シリンダによって、水平載置姿勢とダンプ姿勢とにわたって、揺動可能である。ダンプ姿勢における荷台は、油圧シリンダと荷台の揺動軸とによって支持され、水平載置姿勢における荷台は、後フレームに直接接当して、後フレームに載置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許8,499,870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の走行中や駐車中では、荷台は水平載置姿勢に維持されるが、油圧シリンダの圧が開放されていると、荷台が動く可能性がある。この動きを防止するため、スナップロックやフックロックなどが用いられている。しかしながら、このようなロック機構では、部品精度、組立精度、摩滅や永久変更などの経年劣化、などにより、ロックが緩むことから、音や振動が発生する。このようなロックの緩みは、ロック機構のロック位置を調整することで回避できるが、その調整は煩わしい作業となる。
【0005】
上記実情に鑑み、本発明の目的は、調整作業が簡単なロック機構を用いてダンプ可能な荷台が水平載置姿勢でロックされる多目的車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による多目的車両は、前輪と後輪によって対地支持された走行車体と、前記走行車体を構成する後フレームに支持されたダンプ揺動軸と、前記ダンプ揺動軸周りに水平載置姿勢とダンプ姿勢との間で揺動可能な荷台と、前記水平載置姿勢における前記荷台と前記後フレームとの間で、前記荷台を受持する弾性部材と、前記水平載置姿勢における前記荷台を前記後フレームにロックするロック機構とを備え、前記ロック機構は、ロック姿勢とロック解除姿勢とに変更可能で、前記ロック姿勢において、前記荷台を介して前記弾性部材を押し付け変位させる。
【0007】
この構成では、水平載置姿勢の荷台は、ロック機構をロック姿勢に操作することで、水平載置姿勢に固定される。その際、ロック機構は、荷台と後フレームとの間に位置する弾性部材を押し付け変位させながら、ロック解除姿勢からロック姿勢に移行する。したがって、最終的なロック機構のロック解除姿勢では、弾性部材による弾性復帰力が、ロック機構の緩みのないロック姿勢を保証する。製作誤差や経年劣化などによるロック機構の緩みは、弾性部材の押し付け変位によって解消される。
【0008】
本発明の実施形態の1つでは、前記ロック機構は、係合部と、前記係合部と係合する複数の被係合部とを有し、前記係合部と係合する前記被係合部毎に前記弾性部材の押し付け変位量が異なる。この構成では、荷台に重量物が積載されており、水平載置姿勢での荷台が弾性部材を変位させて下方に沈んだ場合でも、係合部材はその位置に適合する被係合部と係合することで、ロック機構は荷台を後フレームにしっかりとロックするロック姿勢となる。
【0009】
本発明の実施形態の1つでは、前記係合部材は前記後フレームに揺動可能に支持された係合体に形成され、複数の前記被係合部は前記荷台に固定された被係合体に形成され、それぞれの前記被係合部は前記荷台からの下方長さが異なる位置に形成されている。この構成では、揺動によってロック機構のロック姿勢とロック解除姿勢とを作り出す係合体が、後フレーム支持されているので、運転席近傍から操作するためのリンクやワイヤなどを用いた係合体の操作機構の構成が簡単となる。
【0010】
本発明の実施形態の1つでは、前記ロック機構は、バネ付勢されたラチェット機構である。バネ付勢されたラチェット機構を用いることで、係合部と係合部材との係合及び係合離脱にバネ力が作用し、ロック機構のロック姿勢とロック解除姿勢との相互移行が安定したものとなる。
【0011】
本発明の実施形態の1つでは、前記ロック機構の前記ダンプ揺動軸からの距離は、前記弾性部材の前記ダンプ揺動軸からの距離より長い。この構成では、ダンプ揺動軸を支点とすれば、支点からロック機構(力点)までの距離は、支点から弾性部材(作用点)までの距離より長くなるので、軽いロック力でも十分に弾性部材を押し付け変位することができる。その結果、弾性部材の弾性復帰力を生かしたロック機構のロック姿勢がしっかりしたものとなる。
【0012】
本発明の実施形態の1つでは、前記ロック機構と前記弾性部材とは、左右一対で配置されている。この構成では、ロック機構と弾性部材とが、荷台の左側と右側とに配置されるので、水平載置姿勢の荷台は後フレームに安定して支持される。さらに、左右のロック機構は、左右の弾性部材の変位を通じて独立的にロック姿勢のためのロック位置が自動調整されるので、例えば、左右のロック機構の構成部材の精度や組立精度が異なっていても、そのずれが弾性部材の弾性変形で吸収できる限り、そのずれをなくす調整は不要である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】荷台が水平載置姿勢である多目的車両の側面図である。
図2】ダンプ姿勢での荷台の斜視図である。
図3】水平載置姿勢での荷台の側面図である。
図4】ダンプ姿勢での荷台の側面図である。
図5】ロック機構の拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明による多目的車両の実施形態の一つについて説明する。なお、以下の説明では、多目的車両に関し、図1に示される矢印Fの方向を「車体前方」、矢印Bの方向を「車体後方」、矢印Uの方向を「車体上方」、矢印Dの方向を「車体下方」、紙面表側の方向を「車体左方」、紙面裏側の方向を「車体右方」とする。
【0015】
多目的車両は、左右一対の前輪1と左右一対の後輪2とによって対地支持された走行車体3を備えている。左右一対の前輪1は駆動可能かつ操向操作可能であり、左右一対の後輪2は駆動可能である。走行車体3は車体フレーム30を備えている。車体フレーム30は、形材からなるフレーム構造体である。
【0016】
走行車体3の前部に運転部7が形成されている。運転部7は、ロプス(ROPS:Roll-Over Protective Structure)8によって包囲されている。運転部7には、運転席5と搭乗者席(非図示)が配置されている。運転席5の前方にはステアリングホイール6などが設けられている。走行車体3の後部に荷台4が配置され、荷台4の下方にエンジンやトランスミッションが配置されている。
【0017】
車体フレーム30は、図2に示すように、走行車体3の前半分を構成する前フレーム30fと、走行車体3の後半分を構成する後フレーム30rとを備えている。後フレーム30rには、互いに間隔をあけて前後方向に延びた2本のフレーム部材300や、車体横断方向に延びたクロスバー30cが含まれている。クロスバー30cには、ダンプシリンダ31の一端が回動可能に取り付けられている。ダンプシリンダ31は、この実施形態では、油圧シリンダが用いられているが、電動シリンダやその他の駆動装置が用いられてもよい。
【0018】
図2に示すように、後フレーム30rの上方空間に、荷台4が配置されている。荷台4は、荷台フレーム40、前板41、左右のサイドカバー42、テイルゲート43、床板44とからなる。荷台フレーム40は、車体前後方向に延びる左右一対の縦部材40aと、車体横断方向に延びる前後一対の横部材40bと、補強部材40cと、垂直部材40dとを有する。
【0019】
荷台フレーム40の後部両端に揺動用ブラケット34が固定されている。揺動用ブラケット34に設けられた貫通孔に、後フレーム30rの後部両端に設けられたダンプ揺動軸33が挿入されている。さらに、ダンプシリンダ31の他端端が、荷台フレーム40の補強部材40cに回動可能に取り付けられている。この構成により、荷台4は、床板44が水平となる水平載置姿勢(図4参照)と、床板44が後傾斜となるダンプ姿勢(図3参照)との間で揺動可能となる。
【0020】
図3図4とに示すように、荷台フレーム40の左右の縦部材40aと後フレーム30rの左右のフレーム部材300との間に、弾性部材50とロック機構9とが位置している。弾性部材50は、バネまたはゴムあるいはバネとゴムの組み合わせによって構成され、この実施形態では、後フレーム30rの左右のフレーム部材300の上面に取り付けられている。これに代えて、弾性部材50は、荷台フレーム40の各縦部材40aの下面に取り付けられてもよい。いずれにしても、図4に示すように、荷台4が水平載置姿勢になれば、弾性部材50が後フレーム30rと荷台4との間で、荷台4を受持する。
【0021】
図3図5に示すように、ロック機構9は、水平載置姿勢における荷台4を後フレーム30rにロックするために、係合体91と被係合体92とを有する。この実施形態では、係合体91は、後フレーム30rに取り付けられた揺動軸93周りで揺動可能に支持されている。揺動軸93は、図示されていない位置調整機構(ボルトと長孔など)を介して後フレーム30rに取り付けられている。揺動軸93は、車体横断方向に延びているので、係合体91は、車体前後方向に揺動する。
【0022】
被係合体92は、水平載置姿勢の荷台4において、係合体91に向き合うように、荷台フレーム40の縦部材40aに取り付けられている。被係合体92は、板材から作られており、図示されていない位置調整機構(ボルトと長孔など)を介して縦部材40aに取り付けられている。
【0023】
図5に示すように、被係合体92の係合体91と向き合う側面には、係合体91の先端領域に設けられた係合部91aと係合する1つ以上の被係合部92aが形成される。この実施形態では3つの被係合部92aが形成されている。複数の被係合部92aは、それぞれ荷台フレーム40からの下方長さが異なる位置に形成されている。係合部91aの断面はクサビ状となっている。被係合部92aは、係合体91の揺動にともなってその係合部91aを受け入れるクサビ状の切り欠きである。複数の切り欠きは、凸曲面と平坦面との繰り返しで形成されている。被係合体92の下降にともなって、被係合部92aが凸曲面に沿って移動し、さらに、被係合部92aが平坦面に沿って被係合部92aである切り欠きに進入する。つまり、このロック機構9は、ラチェット機構と同様な機能を有する。
【0024】
係合体91は、係合部91aが被係合部92aから離れた位置(係合解除位置:ロック解除姿勢)から被係合部92aに係合する位置(係合位置:ロック姿勢)までの揺動範囲において、コイルバネ94によって係合位置の方に付勢されている。これにより、荷台4がダンプ姿勢から水平載置姿勢に揺動し、さらに弾性部材50を押し付け変位させながら揺動すると、係合部91aが被係合部92aに係合し、荷台4は後フレーム30rにロックされる。その際、係合部91aが被係合部92aに進入する手前であれば、乗員が荷台4を下方に押すことにより、弾性部材50が少し変位して、係合部91aが被係合部92aに進入する。つまり、弾性部材50の押し付け変位量によって、係合部91aと係合する被係合部92aが異なることになる。
【0025】
ロック姿勢のロック機構9をロック解除姿勢に移行させるには、つまり、係合部91aを被係合部92aから離脱させるには、係合体91をコイルバネ94に抗して強制的に揺動させる。このために、図2に示すように、係合体91を揺動させるロック操作機構90が備えられている。ロック操作機構90は、揺動アーム90aと、連動連結体90bと、操作レバー90cとを有する。揺動アーム90aは、左右の係合体91を連結する連結ロッドに固定されており、揺動アーム90aを揺動させることで、左右の係合体91が揺動する。連動連結体90bは、揺動アーム90aと操作レバー90cとを連動連結するワイヤまたはリンク、あるいはその両方で構成され、操作レバー90cの動きを揺動アーム90aに伝達し、揺動アーム90aを揺動させる。
【0026】
〔別実施の形態〕
(1)上述した実施形態では、荷台4のサイズは固定されていたが、前板41やサイドカバー42を折り畳んで、サイズ変更可能な荷台4が採用されてもよい。
(2)上述した実施形態では、弾性部材50は、荷台4の左右に1個ずつ配置されていたが、より多くの弾性部材50が配置されてもよい。
(3)上述した実施形態では、ロック機構9は、後フレーム30rの左右両側に配置されていたが、1つだけ、あるいは3つ以上のロック機構9が配置されてもよい。その場合でも、共通のロック操作機構90によって操作可能である。
(4)上述した実施形態では、ロック機構9は、係合体91の被係合体92に対する揺動変位によって係合または係合離脱を実現していたが、係合体91の被係合体92に対するその他の変位、例えばスライド変位によって係合または係合離脱を実現してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、ダンプ可能な荷台を備えた走行車両に適用可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 :前輪
2 :後輪
3 :走行車体
4 :荷台
30 :車体フレーム
30r :後フレーム
31 :ダンプシリンダ
33 :ダンプ揺動軸
34 :揺動用ブラケット
40 :荷台フレーム
50 :弾性部材
9 :ロック機構
91 :係合体
91a :係合部
92 :被係合体
92a :被係合部
93 :揺動軸
図1
図2
図3
図4
図5