(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175443
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】エンジンの冷却システム
(51)【国際特許分類】
F01P 7/16 20060101AFI20221117BHJP
【FI】
F01P7/16 503
F01P7/16 502P
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021081822
(22)【出願日】2021-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三角 春樹
(72)【発明者】
【氏名】漆原 友則
(57)【要約】
【課題】冷却水によるウォータジャケットの冷却を、高い応答性で、安定して制御できるようにする。
【解決手段】ラジエータ27をバイパスして第1ジャケット22aへ冷却水を還流させるバイパス流路53と、ラジエータ27を経由して第1ジャケット22aへ冷却水を還流させる第1ラジエータ流路51と、冷却水制御バルブ4と、冷却水制御バルブ4をバイパスして第1ラジエータ流路51に接続される第2ラジエータ流路52と、第2ラジエータ流路52に設置されたサーモスタット弁54を備える。冷却水制御バルブ4は、第1ジャケット22aに流れる冷却水の水量を調整する水量制御を行う。サーモスタット弁54が開くことで、冷却水が第2バイパス流路52を通って第1ラジエータ流路51に流入する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの冷却システムであって、
前記エンジンのシリンダヘッドに設けられていて冷却水が流れるウォータジャケットと、
前記冷却水を冷却する熱交換器と、
前記熱交換器をバイパスして前記ウォータジャケットへ前記冷却水を還流させるバイパス流路と、
前記熱交換器を経由して前記ウォータジャケットへ前記冷却水を還流させる第1ラジエータ流路と、
前記冷却水の流路における前記バイパス流路と前記第1ラジエータ流路とが分岐する部位に設置された流量調整装置と、
前記流量調整装置をバイパスして前記第1ラジエータ流路に接続される第2ラジエータ流路と、
前記第2ラジエータ流路に設置されたサーモスタット弁と、
を備え、
前記流量調整装置が、前記バイパス流路を流れる前記冷却水の水量を調整することによって、前記ウォータジャケットに流れる前記冷却水の水量を調整する水量制御を行い、
前記サーモスタット弁が開くことにより、前記冷却水が、前記第2ラジエータ流路を通って前記第1ラジエータ流路に流入する、エンジンの冷却システム。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンの冷却システムにおいて、
前記流量調整装置が、前記第1ラジエータ流路を流れる前記冷却水の水量を調整することによって、前記ウォータジャケットに流れる前記冷却水の水温を調整する水温制御を行う、エンジンの冷却システム。
【請求項3】
請求項2に記載のエンジンの冷却システムにおいて、
前記流量調整装置は、
前記冷却水が流入する流入口と、前記バイパス流路および前記第1ラジエータ流路とが設けられたハウジングと、
前記ハウジングに回転可能な状態で収容され、前記流入口と前記バイパス流路および前記第1ラジエータ流路の各々との間に介在し、第1通水開口および第2通水開口を通すことによって前記流入口に流入した前記冷却水を前記バイパス流路および前記第1ラジエータ流路の各々に流入させる回転弁体と、
前記回転弁体を回転させるアクチュエータと、
を有し、
前記アクチュエータを制御して前記第1通水開口および前記第2通水開口の各々の開度を変更することにより、前記バイパス流路および前記第1ラジエータ流路の各々を流れる前記冷却水の水量を調整する、エンジンの冷却システム。
【請求項4】
請求項2に記載のエンジンの冷却システムにおいて、
前記流量調整装置は、前記冷却水の流路を開閉する第1電磁弁および第2電磁弁を有し、
前記第1電磁弁および前記第2電磁弁の各々を制御することにより、前記バイパス流路および前記第1ラジエータ流路の各々を流れる前記冷却水の水量を調整する、エンジンの冷却システム。
【請求項5】
請求項2~4のいずれか1つに記載のエンジンの冷却システムにおいて、
前記水量制御が行われて前記水温制御が行われないときに前記ウォータジャケットを流れる前記冷却水の水温は、前記水量制御が行われないで前記水温制御が行われるときに前記ウォータジャケットを流れる前記冷却水の水温よりも高く設定されている、エンジンの冷却システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示する技術は、エンジンの冷却システムに関する。その中でも特に、エンジンの燃焼室の温度を高精度に制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エンジンの冷却装置が開示されている。この冷却装置は、エンジンとラジエータとの間で冷却水を循環させるラジエータ経路(23、同明細書で示す符号。以下同様)と、ラジエータをバイパスして冷却水を循環させるラジエータバイパス経路(24)とを有している。
【0003】
ラジエータバイパス経路(24)は、熱交換の対象となる機器(31,32)が設置されている第1バイパス経路(25)と、配管のみの第2バイパス経路(26)とを有している。ラジエータ経路(23)およびラジエータバイパス経路(24)を流れた冷却水は、リターン経路(27)を通ってウォータポンプ(21)に戻される。
【0004】
第2バイパス経路(26)の最大流量は、ラジエータ経路(23)および第1バイパス経路(25)の各々の最大流量に比べて、非常に小さい(同明細書の
図7参照)。
【0005】
冷却装置はまた、ロータリ式流量制御弁(50)を有している。ロータリ式流量制御弁(50)は、そのハウジング内の流通路(76)に設置された液温センサ(77)の温度に応じて、回転弁体(51)の回転位置を制御する。それにより、ラジエータ経路(23)、第1バイパス経路(25)、および、第2バイパス経路(26)への冷却水の流れを制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
エンジンの運転中、燃焼室は高温になる。その燃焼室を冷却するため、特許文献1の冷却装置にもあるように、エンジンの本体を構成しているシリンダボア、シリンダヘッドなどにおける燃焼室の周囲の部分には、ラジエータで冷却した冷却水が流れる流路、いわゆるウォータジャケットが設けられている。
【0008】
ところで、エンジンの燃焼制御において、燃焼室の中の温度(筒内温度)は、重要な因子の1つである。燃焼制御が高度になればなるほど、筒内温度は、緻密な制御が要求される。例えば、圧縮着火燃焼(CI燃焼)を安定して制御するためには、筒内温度を、火花点火燃焼(SI燃焼)よりも高温で、しかも精度高く制御することが必要になる。
【0009】
その筒内温度の制御においては、燃焼室の壁温は、重要な因子の1つである。従来のように、燃焼室の過剰な温度上昇を抑制するために、ウォータジャケットに流す冷却水の温度を低く保持するだけでは、高度な燃焼制御は実現できない。燃焼室の壁温が制御できるように、冷却水による冷却を、高い応答性で、安定して制御することが要求される。
【0010】
それに対し、特許文献1の冷却装置では、ラジエータバイパス経路が、第1バイパス経路と第2バイパス経路とで構成されている。第1バイパス経路は、経路が長く、しかも、熱交換する機器が設置されている。それに対し、第2バイパス経路は、経路が短く、配管のみで構成されている。しかしながら、第2バイパス経路の最大流量は、第1バイパス経路の最大流量に比べて非常に小さい。
【0011】
従って、ラジエータをバイパスして冷却する場合、冷却水の多くは第1バイパス経路に流れる。第2バイパス経路へ流れる冷却水の量は少ない。そのため、環境温度などの外因、および、機器の影響を受けるので、ウォータジャケットに流れる冷却水の温度は安定しない。ウォータジャケットに流れる冷却水の水量も大きくは変化しない。従って、冷却水による冷却を、安定して制御することは難しい。
【0012】
ラジエータを経由して冷却する場合、冷却水が流れる経路は、更に長い。そのため、制御の応答性に欠けるうえに、環境温度などの影響も受け易い。従って、この場合も、冷却水による冷却を、高い応答性で、安定して制御することは難しい。
【0013】
そこで、開示する技術では、冷却水によるウォータジャケットの冷却を、高い応答性で、安定して制御できるようにする。そうすることにより、CI燃焼などの、高度な燃焼制御を実現させる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
開示する技術は、エンジンの冷却システムに関する。前記冷却システムは、前記エンジンのシリンダヘッドに設けられていて冷却水が流れるウォータジャケットと、前記冷却水を冷却する熱交換器と、前記熱交換器をバイパスして前記ウォータジャケットへ前記冷却水を還流させるバイパス流路と、前記熱交換器を経由して前記ウォータジャケットへ前記冷却水を還流させる第1ラジエータ流路と、前記冷却水の流路における前記バイパス流路と前記第1ラジエータ流路とが分岐する部位に設置された流量調整装置と、前記流量調整装置をバイパスして前記第1ラジエータ流路に接続される第2ラジエータ流路と、前記第2ラジエータ流路に設けられたサーモスタット弁と、を備える。
【0015】
前記流量調整装置が、前記バイパス流路を流れる前記冷却水の水量を調整することによって、前記ウォータジャケットに流れる前記冷却水の水量を調整する水量制御を行う。
【0016】
そして、前記サーモスタット弁が開くことにより、前記冷却水が、前記第2ラジエータ流路および前記第1ラジエータ流路を通って前記ウォータジャケットに還流するように構成されている。
【0017】
このエンジンの冷却システムには、熱交換器をバイパスするバイパス流路と、熱交換器を経由する第1ラジエータ流路とが備えられている。従って、第1ラジエータ流路を流れる冷却水は熱交換器で冷却されるが、バイパス流路を流れる冷却水は熱交換器で冷却されない。
【0018】
そして、これらバイパス流路および第1ラジエータ流路の分岐部位に設置されている流量調装置は、バイパス流路を通って、エンジンのシリンダヘッドに設けられているウォータジャケット、つまり燃焼室の周辺部位を流れる冷却水の水量を調整する水量制御を行う。
【0019】
すなわち、水量制御が行われると、熱交換器で冷却されないでウォータジャケットを循環する冷却水の水量が調整される。具体的には、ウォータジャケットを流れる冷却水の水量が減少すれば、それに応じてウォータジャケットと燃焼室との間の熱伝達率も減少する。ウォータジャケットを流れる冷却水の水量が増加すれば、それに応じてウォータジャケットと燃焼室との間の熱伝達率も増加する。
【0020】
水量制御により、ウォータジャケットと燃焼室との間の熱伝達率を調整できる。その結果、燃焼室の壁温を一定に保持することができる。
【0021】
更に、このエンジンの冷却システムでは、流量調整装置をバイパスして第1ラジエータ流路に接続される第2ラジエータ流路が備えられている。そして、その第2ラジエータ流路には、サーモスタット弁が設けられている。サーモスタット弁が開くことにより、冷却水は、第2ラジエータ流路を通って第1ラジエータ流路に流入する。
【0022】
サーモスタット弁は、予め設定されている所定の高い温度で開閉する。従って、ウォータジャケットを流れる冷却水の温度が高くなり過ぎた場合には、流量調整装置とは無関係に、冷却水を、自動的に第1ラジエータ流路に流すことができる。第1ラジエータ流路に流入した冷却水は冷却されるので、ウォータジャケットを循環する冷却水の温度を低下させることができる。その結果、循環する冷却水の温度を高く設定しながら、冷却水が高温になり過ぎることを抑制できる。
【0023】
このようなバイパス流路を用いた水量制御と、サーモスタット弁を用いた高温抑制制御との組み合わせにより、冷却水によるウォータジャケットの冷却を、高い応答性で、安定して制御することが可能になる。その結果、高度な燃焼制御を実現でき、燃費を向上できる。
【0024】
更に、サーモスタット弁は、流量調整装置をバイパスした部位に配置されている。従って、仮に流量調整装置で異常が発生して冷却水の水温が上昇しても、所定の温度になれば、サーモスタット弁が開いてラジエータで冷却水を冷却できる。エンジンのオーバーヒートを抑制できる。
【0025】
前記冷却システムはまた、前記流量調整装置が、前記第1ラジエータ流路を流れる前記冷却水の水量を調整することによって、前記ウォータジャケットに流れる前記冷却水の水温を調整する水温制御を行う、としてもよい。
【0026】
すなわち、水温制御が行われると、ウォータジャケットを循環する冷却水のうち、熱交換器で冷却される冷却水の水量が調整される。それにより、ウォータジャケットを流れる冷却水の水量が一定、つまり水量制御を行わなくても、燃焼室との熱交換量を増減できる。
【0027】
従って、水量制御に水温制御を組み合わせることにより、ウォータジャケットを流れる冷却水の温度を安定させることができる領域を拡大できる。その結果、高度な燃焼制御をより広範囲で実現でき、燃費を更に向上できる。
【0028】
前記冷却システムはまた、前記流量調整装置は、前記冷却水が流入する流入口と、前記バイパス流路および前記第1ラジエータ流路とが設けられたハウジングと、前記ハウジングに回転可能な状態で収容され、前記流入口と前記バイパス流路および前記第1ラジエータ流路の各々との間に介在し、第1通水開口および第2通水開口を通すことによって前記流入口に流入した前記冷却水を前記バイパス流路および前記第1ラジエータ流路の各々に流入させる回転弁体と、前記回転弁体を回転させるアクチュエータと、を有し、前記アクチュエータを制御して前記第1通水開口および前記第2通水開口の各々の開度を変更することにより、前記バイパス流路および前記第1ラジエータ流路の各々を流れる前記冷却水の水量を調整する、としてもよい。
【0029】
この冷却システムによれば、流量調整装置のアクチュエータを制御することで、2つの通水開口が形成されている回転弁体が回転する。その回転弁体が回転することで、バイパス流路および第1ラジエータ流路の各々と流入口との間の開度が変更され、バイパス流路および第1ラジエータ流路の各々を流れる冷却水の水量が調整される。
【0030】
従って、アクチュエータで回転弁体を回転させるだけで、バイパス流路および第1ラジエータ流路の各々を流れる冷却水の水量が調整できる。例えば、バイパス流路および第1ラジエータ流路の双方を流れる冷却水の水量をゼロにしたり、バイパス流路および第1ラジエータ流路のいずれか一方を流れる冷却水の水量のみをゼロにしたり、バイパス流路および第1ラジエータ流路の双方を流れる冷却水の水量を増減させたりできる。アクチュエータで回転弁体を回転させるだけでよいので、水量の調整が簡単に、しかも精度高く行える。
【0031】
前記冷却システムはまた、前記流量調整装置は、前記冷却水の流路を開閉する第1電磁弁および第2電磁弁を有し、前記第1電磁弁および前記第2電磁弁の各々を制御することにより、前記バイパス流路および前記第1ラジエータ流路の各々を流れる前記冷却水の水量を調整する、としてもよい。
【0032】
すなわち、この冷却システムでは、流量調整装置が、2つの電磁弁を用いて構成されている。例えば、バイパス流路および第1ラジエータ流路の各々に冷却水を流したり流さなくしたりする場合には、それに応じて第1電磁弁および第2電磁弁の各々を開閉すればよい。バイパス流路および第1ラジエータ流路の双方の水量を調整する場合には、その水量に応じて開閉のタイミングを調整すればよい。
【0033】
この冷却システムによれば、2つの電磁弁を用いて流量調整装置を構成するので、冷却システムの構成をコンパクトにできる。
【0034】
前記冷却システムはまた、前記水量制御が行われて前記水温制御が行われないときに前記ウォータジャケットを流れる前記冷却水の水温は、前記水量制御が行われないで前記水温制御が行われるときに前記ウォータジャケットを流れる前記冷却水の水温よりも高く設定されている、としてもよい。
【0035】
この冷却システムによれば、水量制御と水温制御との組み合わせにより、ウォータジャケットを流れる冷却水の温度を安定させることができる領域が拡大されている。そして、ウォータジャケットを流れる冷却水の水温が、水量制御が行われて水温制御が行われないときは相対的に高く設定されており、水量制御が行われないで水温制御が行われるときには相対的に低く設定されている。
【0036】
水温制御では、ラジエータで冷却した冷却水で熱交換量を調整する。それに対し、水量制御では、ラジエータをバイパスして循環する冷却水の水量を増減することで熱伝達率を調整する。従って、水量制御は、水温制御よりも応答性、安定性に優れるので、高い温度に設定しても、冷却水によるウォータジャケットの冷却を安定して制御できる。
【0037】
それにより、高い温度での精度高い冷却水の制御が可能になり、領域を拡大しながら、高度な燃焼制御を安定して行うことが可能になる。
【発明の効果】
【0038】
開示する技術を適用したエンジンの冷却システムによれば、冷却水によるウォータジャケットの冷却を、高い応答性で、安定して制御できる。その結果、そのエンジンは、CI燃焼などの、高度な燃焼制御を安定して行うことが可能になり、燃費を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】
図1は、エンジンの冷却システムを示す概略図である。
【
図2】
図2は、エンジン本体の上部の内部構造を説明するための概略図である。
【
図3】
図3は、冷却水制御バルブの構造を示す概略図である。上図は、冷却水制御バルブの縦断面図である。下図は、上図の矢印で示す方向から見た横断面図である。
【
図4】
図4は、サーモスタット弁の開閉動作を例示する図である。
【
図5】
図5は、冷却水の流し方をまとめた表である。
【
図6】
図6は、
図5の表に対応した冷却システムでの通水状態を示す図である。
【
図7】
図7は、完全暖機時における冷却水の流し方を説明するための図である。
【
図8】
図8は、エンジンの冷却システムの変形例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、開示する技術について説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎない。
【0041】
<冷却システムの構成>
図1に、開示する技術に基づいて構成したエンジンの冷却システムを例示する。この冷却システム2は、自動車(車両)に搭載されている。エンジンの駆動力により、自動車は走行する。なお、自動車は、エンジンとモータとを搭載したハイブリッド車でもよいが、以下の説明では、エンジンのみを搭載した自動車とする。
【0042】
(エンジン、補機)
開示する技術は、ガソリンエンジンおよびディーゼルエンジンのいずれにも適用できる。ただし、高度な燃焼制御の観点からはガソリンエンジンの方が好適である。従って、本実施形態のエンジン1は、ガソリンエンジンとする。
【0043】
エンジン1は、駆動軸(図示せず)が延びる方向に長いエンジン本体10を有している。
図2に、そのエンジン本体10の上部の内部構造を簡略化して示す。エンジン本体10は、シリンダブロック10Bと、このシリンダブロック10Bの上部に組み付けられたシリンダヘッド10Hとで構成されている。エンジン本体10の内部には、駆動軸に沿って直列に並ぶ複数の気筒(シリンダ11)が形成されている。
【0044】
すなわち、シリンダブロック10Bには、複数の円筒状のシリンダ11が形成されている。各シリンダ11には、ピストン12が摺動自在に収容されている。そして、ピストン12の上面と、シリンダ11の上部を塞ぐシリンダヘッド10Hの下面とで、各シリンダ11が区画されることにより、燃焼室13が形成されている。
【0045】
燃焼室13の上面を構成しているシリンダヘッド10Hの下面には、排気弁14aで開閉される2つの排気口14,14と、吸気弁16aで開閉される2つの吸気口16,16とが開口している。各排気口14は排気ポート15を通じて図外の排気装置と接続されている。各吸気口16は吸気ポート17を通じて図外の吸気装置と接続されている。そして、このエンジン1では、これら排気口14と吸気口16との間に、点火プラグ18および燃料噴射弁19が取り付けられている。
【0046】
エンジン1は、燃料噴射弁19により、燃焼室13の中にガソリンを噴射することができる。そして、エンジン1は、点火プラグ18で、燃焼室13の中に形成される混合気に着火して燃焼することができる(いわゆるSI燃焼)。更にこのエンジン1は、SI燃焼のみを行うエンジンと比べて圧縮比(幾何学的圧縮比)が高く設計されている。このエンジン1は、圧縮着火による燃焼(いわゆるCI燃焼)もできるように構成されている。
【0047】
エンジン本体10の内部には、冷却水(クーラント)が流れるウォータジャケット20が形成されている。ウォータジャケット20は、冷却システム2が備える流路の一部を構成している。ウォータジャケット20は、ブロック内ジャケット21、および、ヘッド内ジャケット22を有している。ブロック内ジャケット21は、各シリンダの外周に沿って拡がるように、シリンダブロック10Bに形成されている。
【0048】
ヘッド内ジャケット22は、ブロック内ジャケット21と連通するように、シリンダヘッド10Hに形成されている。ヘッド内ジャケット22は、第1ジャケット22a(開示する技術における「ウォータジャケット」に相当)と第2ジャケット22bとを有している。第1ジャケット22aおよび第2ジャケット22bは、互いに独立した流路を構成している。
【0049】
第1ジャケット22aは、各シリンダ11の上部、つまり燃焼室13の周辺部位に沿って延びるように形成されている。それにより、第1ジャケット22aを流れる冷却水は、主に、燃焼が行われる燃焼室13と熱交換(主に冷却)する。
【0050】
詳細には、第1ジャケット22aを流れる冷却水は、燃焼室13の中の雰囲気と、燃焼室13の壁面を介して熱交換する。すなわち、燃焼室13の壁温は、第1ジャケット22aを流れる冷却水によって冷却される。従って、燃焼室13の壁温を安定して制御するためには、第1ジャケット22aを流れる冷却水による冷却を、高い応答性で、精度高く制御することが鍵になる。
【0051】
一方、第2ジャケット22bは、各シリンダ11の排気ポート15の周辺部位に沿って延びるように形成されている。第2ジャケット22bを流れる冷却水は、主に、高温の排気ガスが流れる排気ポート15と熱交換(主に冷却)する。
【0052】
図1、
図2に示すように、エンジン本体10の端部(流入側端部10a)におけるシリンダブロック10Bには、ウォータポンプ3が設置されている。ウォータポンプ3は、冷却システム2の一部を構成している。
【0053】
ウォータポンプ3は、プーリ、ベルトなどを介して、エンジン1の駆動軸にポンプの回転軸が連結されている機械式ポンプである。ウォータポンプ3は、エンジン1の駆動力によって作動する。なお、ウォータポンプ3は、エンジン1から独立して作動できる電動ポンプであってもよい。
【0054】
ブロック内ジャケット21は、冷却水導入路23を介してウォータポンプ3の吐出口3aと接続されている。従って、ウォータポンプ3が吐出する冷却水は、冷却水導入路23を通ってブロック内ジャケット21に流入する。ブロック内ジャケット21に流入した冷却水は、ヘッド内ジャケット22に流入する。詳細には、第1ジャケット22aと第2ジャケット22bとに分かれて流入する。
【0055】
図1、
図2に示すように、エンジン本体10の流入側端部10aとは反対側の端部(流出側端部10b)におけるシリンダヘッド10Hには、冷却水制御バルブ4(CCV、開示する技術における「流量調整装置」に相当)と、サーモスタット弁54とが設置されている。冷却水制御バルブ4およびサーモスタット弁54は、冷却システム2の一部を構成している。
【0056】
流出側端部10bにおけるシリンダヘッド10Hには、第1ジャケット22aに連通した一対の第1冷却水導出路24,24が形成されている。その一方の第1冷却水導出路24(CCV側第1冷却水導出路24)は、冷却水制御バルブ4に接続されている。その他方の第1冷却水導出路24(サーモ側第1冷却水導出路24)は、サーモスタット弁54を介して第2ラジエータ流路52に接続されている。
【0057】
従って、第1ジャケット22aを流れる冷却水は、CCV側第1冷却水導出路24を通ってエンジン本体10から流出し、冷却水制御バルブ4に流入する。そして、サーモスタット弁54が開いている時には、サーモ側第1冷却水導出路24を通ってエンジン本体10から流出し、第2ラジエータ流路52に流入する。(サーモスタット弁54、冷却水制御バルブ4の詳細は後述)。
【0058】
流出側端部10bにおけるシリンダヘッド10Hの排気側の部位には、第2ジャケット22bに連通した第2冷却水導出路25が形成されている。従って、第2ジャケット22bを流れる冷却水は、第2冷却水導出路25を通ってエンジン本体10から流出し、後述する第2循環流路31に流入する。
【0059】
流出側端部10bにおけるシリンダブロック10Bの吸気側の部位には、ブロック内ジャケット21に連通した第3冷却水導出路26が形成されている。従って、ブロック内ジャケット21を流れる冷却水の一部は、第3冷却水導出路26を通ってエンジン本体10から流出し、後述する第3循環流路41に流入する。
【0060】
自動車には、エンジン1に加え、冷却システム2に組み込まれる様々な補機が搭載されている。この自動車では、そのような補機として、EGRクーラー5、EGR弁6、ヒーター7、オイルクーラー8、および、ATF熱交換器9が搭載されている。
【0061】
このエンジン1には、図示しないが、EGR(いわゆる排気再循環)システムが付設されている。EGRクーラー5およびEGR弁6は、そのEGRシステムに設置されている。ヒーター7は、車室内の空気を調節する空調機に組み込まれている。
【0062】
オイルクーラー8は、エンジン1に潤滑油を循環供給するシステムに設置されている。ATF熱交換器9は、自動変速機の作動油を循環供給するシステムに設置されている。このエンジン1の冷却システム2では、エンジン1と共に、これら補機とも熱交換する。
【0063】
(冷却システム)
冷却システム2は、予混合圧縮着火燃焼(いわゆるHCCI燃焼)のような、高度な燃焼制御がエンジン1で行えるように、構造および配置が工夫されている。
【0064】
具体的には、
図1に示すように、冷却システム2は、上述したウォータポンプ3、冷却水制御バルブ4、および、サーモスタット弁54に加え、ラジエータ27(開示する技術における「熱交換器」に相当)を備える。そして、冷却システム2は、大別すると、冷却水が循環する流路として、第2回路30、第3回路40、および、第1回路50を備える。
【0065】
(第2回路)
第2回路30は、2つに分岐した流路(第1分岐流路31aおよび第2分岐流路31b)が設けられた第2循環流路31を有している。第1分岐流路31aには、EGRクーラー5およびヒーター7が配置されている。第2分岐流路31bには、EGR弁6が配置されている。第2循環流路31の上流側の端部は、第2冷却水導出路25に接続されている。第2循環流路31の下流側の端部は、第1回路50および第3回路40と合流した状態で、ウォータポンプ3の吸込口3bに接続されている。
【0066】
エンジン本体10の内部では、ブロック内ジャケット21、第2ジャケット22b、および、第2冷却水導出路25が、第2回路30の流路を構成している。従って、第2回路30では、ウォータポンプ3から吐出された冷却水のうち、ブロック内ジャケット21および第2ジャケット22bを流れた冷却水が、第1分岐流路31aおよび第2分岐流路31bの各々に分流して流れる。そして、合流した後、ウォータポンプ3に戻るように構成されている。
【0067】
第2回路30を流れる冷却水は、エンジン1の主に排気ポート15と熱交換する。そして、EGRクーラー5、ヒーター7、および、EGR弁6とも熱交換する。
【0068】
(第3回路)
第3回路40は、オイルクーラー8およびATF熱交換器9が設置された第3循環流路41を有している。第3循環流路41の上流側の端部は、第3冷却水導出路26に接続されている。第3循環流路41の下流側の端部は、第1回路50および第2回路30と合流した状態で、ウォータポンプ3の吸込口3bに接続されている。
【0069】
エンジン本体10の内部では、ブロック内ジャケット21および第3冷却水導出路26が、第3回路40の流路を構成している。従って、第3回路40では、ウォータポンプ3から吐出された冷却水のうち、ブロック内ジャケット21を流れる冷却水の一部が、第3循環流路41に流れてウォータポンプ3に戻るように構成されている。第3回路40を流れる冷却水は、オイルクーラー8およびATF熱交換器9と熱交換する。
【0070】
(第1回路)
第1回路50は、バイパス流路53、第1ラジエータ流路51、および、第2ラジエータ流路52を有している。エンジン本体10の内部では、ブロック内ジャケット21、第1ジャケット22a、および、一対の第1冷却水導出路24,24が、第1回路50の流路を構成している。
【0071】
上述したように、第1回路50の流路は、エンジン本体の内部において、2つの第1冷却水導出路24,24に分岐していて、その一方のCCV側第1冷却水導出路24が冷却水制御バルブ4に接続され、その他方のサーモ側第1冷却水導出路24がサーモスタット弁54を介して第2ラジエータ流路52に接続されている。
【0072】
CCV側第1冷却水導出路24を経由する流路は、冷却水制御バルブ4において、バイパス流路53および第1ラジエータ流路51に分岐している。バイパス流路53および第1ラジエータ流路51の各々の下流側の端部は、第2回路30および第3回路40と合流した状態で、ウォータポンプ3の吸込口3bに接続されている。
【0073】
第1ラジエータ流路51には、ラジエータ27が設けられている。ラジエータ27は、自動車のフロントグリルの後方に設置されている。ラジエータ27を流れる冷却水は、主に走行風による外気との間で熱交換する。冷却水は、第1ラジエータ流路51を流れることで放熱して冷却される。
【0074】
それにより、第1ラジエータ流路51は、ウォータポンプ3から吐出されて、ブロック内ジャケット21および第1ジャケット22aを流れて熱交換して加熱された冷却水を、ラジエータ27で冷却して、ブロック内ジャケット21および第1ジャケット22aに還流させる。
【0075】
バイパス流路53は、第1ラジエータ流路51をバイパスする流路である。バイパス流路53は、第1ラジエータ流路51よりも短く、配管のみで構成されている。
【0076】
それにより、バイパス流路53は、ウォータポンプ3から吐出されて、ブロック内ジャケット21および第1ジャケット22aを流れて熱交換した冷却水を、ラジエータ27で冷却することなく、ほとんどそのままの状態で、ブロック内ジャケット21および第1ジャケット22aに還流させる。
【0077】
サーモ側第1冷却水導出路24を経由する流路は、第2ラジエータ流路52の上流側の端部に接続されている。サーモスタット弁54は、その第2ラジエータ流路52の端部に設置されている。第2ラジエータ流路52の下流側の端部は、第1ラジエータ流路51におけるラジエータ27よりも上流側の部位に接続されている。換言すれば、第2ラジエータ流路52は、冷却水制御バルブ4をバイパスして、第1ラジエータ流路51に接続されている。なお、サーモスタット弁54は、第2ラジエータ流路52の端部以外の部位に設置してあってもよい。
【0078】
サーモスタット弁54は、予め設定された高い温度で開閉する公知の装置である。サーモスタット弁54は、バネの弾性力で閉じ方向に付勢された弁体を有している。その弁体が、ワックスの作用によって変位することで、サーモスタット弁54は開閉する。
【0079】
サーモスタット弁54が閉じている時は、サーモ側第1冷却水導出路24は第2ラジエータ流路52と連通しない(冷却水は流れない)。サーモスタット弁54が開くことで、サーモ側第1冷却水導出路24は、第2ラジエータ流路52を介して、第1ラジエータ流路51と連通する。従って、サーモスタット弁54が開くと、第1ジャケット22aを流れる冷却水は、第2ラジエータ流路52を通って、第1ラジエータ流路51に流入する。
【0080】
図4に、サーモスタット弁54の開閉動作を例示する。サーモスタット弁54は、サーモスタット弁54を流れる冷却水の温度が、所定の温度(全開温度to、例えば100℃)以上になると、全開するように設定されている。
【0081】
そして、サーモスタット弁54を流れる冷却水の温度が、全開温度toより低くなると、ワックスの収縮により、バネの弾性力の作用で、弁体が次第に閉じ方向に変位する。サーモスタット弁54は、次第に閉じていく。そして、サーモスタット弁54を流れる冷却水の温度が、所定の温度(全閉温度tc、例えば約95℃)未満になることで、サーモスタット弁54は、全閉になる。サーモスタット弁54は、サーモスタット弁54を流れる冷却水の温度に応じて、自動的に開閉する。
【0082】
(冷却水制御バルブ)
図3に、冷却水制御バルブ4を示す。冷却水制御バルブ4は、冷却水の流量調整が可能なバルブであり、ハウジング60、回転弁体61、アクチュエータ62などで構成されている。
【0083】
ハウジング60の内部には、円筒状の分流室60aが設けられている。分流室60aには、円筒状の回転弁体61が、回転可能な状態で収容されている。ハウジング60には、分流室60aの外周における所定の位置から径方向外側に延びるように、第1流路63および第2流路64が形成されている。ハウジング60にはまた、バイパス流路53と第1ジエータ流路51とが設けられている。第1流路63は、バイパス流路53に接続されている。第2流路64は、第1ラジエータ流路51に接続されている。
【0084】
分流室60aの一端は、開口している。その開口により、分流室60aに冷却水が流入する流入口65が構成されている。そして、その流入口65がCCV側第1冷却水導出路24と中心を一致させた状態で接続されるように、ハウジング60がシリンダヘッド10Hに取り付けられている。それにより、流入口65と、第1流路63およびバイパス流路53、並びに、第2流路64および第1ラジエータ流路51の各々との間には、回転弁体61の周壁が介在している。
【0085】
回転弁体61の周壁の所定位置には、第1通水開口61aと第2通水開口61bとが形成されている。第1通水開口61aは、第2通水開口61bよりも周方向の長さが長く、相対的に大きな開口面積を有している。回転弁体61の回転位置により、流入口65は、第1通水開口61aおよび第2通水開口61bの各々を介して、第1流路63および第2流路64の各々と連通したり連通しなかったりする。また、連通する場合においても、第1流路63および第2流路64の各々と流入口65との間の開度が、回転弁体61の回転位置によって大小に変化する。
【0086】
分流室60aの他端は、封止壁66で密閉されている。ハウジング60の内部における封止壁66を挟んだ分流室60aの反対側には、アクチュエータ62が収容されている。そのアクチュエータ62の回転軸62aが、封止壁66の中心に開口した軸穴を通って分流室60aの内部に突出している。分流室60aに突出した回転軸62aに、支持アーム62bを介して回転弁体61が取り付けられている。アクチュエータ62を制御することにより、回転弁体61は回転する。
【0087】
図1に示すように、冷却システム2には、入口水温センサS1とジャケット内水温センサS2とが設置されている。入口水温センサS1は、第1回路50、第2回路30、および、第3回路40が合流してウォータポンプ3に流入する流路に配置されている。ジャケット内水温センサS2は、第1ジャケット22aに配置されている。入口水温センサS1は、冷却システム2を循環する冷却水全体の温度を計測する。ジャケット内水温センサS2は、第1ジャケット22aを流れる冷却水の温度を計測する。
【0088】
これらセンサS1,S2は、冷却水の制御および燃焼制御に利用される。例えば、ジャケット内水温センサS2は、高度な燃焼制御を行う際に、燃焼室13の壁温の推定に利用される。ジャケット内水温センサS2はまた、アクチュエータ62の制御に利用される。
【0089】
この冷却システム2では、ジャケット内水温センサS2の計測値に基づいて、冷却水制御バルブ4を制御する。それにより、第1回路50、つまり、バイパス流路53および第1ラジエータ流路51に流れる冷却水の水量を調整する(第2ラジエータ流路52の冷却水の流れはサーモスタット弁54によって自動的に調整される)。
【0090】
冷却システム2を流れる冷却水は、主に、第1ラジエータ流路51に設置されているラジエータ27によって冷却される。それにより、この冷却システム2に流れる冷却水の温度が調整される。
【0091】
すなわち、この冷却システム2の主体は第1回路50である。第2回路30および第3回路40の各々における冷却水の流量および温度は、第1回路50での冷却水の流量および温度の調整に応じて変化する。この冷却システム2において、第1回路50は必須であるが、第2回路30および第3回路40は必須でない。
【0092】
<冷却水の流し方>
上述したように、第1ジャケット22aを流れる冷却水は、主に、燃焼室13と熱交換し、燃焼室13の壁温を冷却する。この冷却システム2では、エンジン1の燃焼制御を安定的かつ効率的に行うために、第1ジャケット22aを流れる冷却水の温度(ジャケット内水温センサS2の計測値)に応じて、冷却水の流し方が複数設定されている。
【0093】
図5に、その通水パターンをまとめた表を示す。表の上段は、燃焼室13の温度状態を示している。表の中段は、その温度状態に応じた第1回路50の通水状態を示している。表の下段は、その温度状態に応じた冷却水制御バルブ4の状態を示している。また、
図6に、
図5の表に対応した冷却システム2における各回路の通水状態を示す。
【0094】
冷却水制御バルブ4では、アクチュエータ62が制御され、第1流路63および第2流路64の双方に流れる冷却水の水量が調整される。すなわち、回転弁体61が所定の回転位置となるように、第1通水開口61aおよび第2通水開口61bの各々の開度が変更される。
【0095】
「低温」は、エンジン1の始動直後など、いわゆる冷間時の状態である。「低温」は、例えば、第1ジャケット22aを流れる冷却水の温度(第1切替温度)が40℃未満の状態である。「完全暖機」は、エンジン1が運転に適した温度に暖まった状態であり、いわゆる温間時の状態である。
【0096】
「完全暖機」は、例えば、第1ジャケット22aを流れる冷却水の温度(第2切替温度)が80℃以上の状態である。「暖機」は、「低温」と「完全暖機」との間の状態、つまり過渡期の状態である。「暖機」は、例えば、第1ジャケット22aを流れる冷却水の温度が40℃から80℃の状態(第1切替温度以上第2切替温度未満)である。
【0097】
「低温」の時における冷却システムの状態を、
図6の左の図に示す。冷却水の温度は、全閉温度tcより低い。従って、サーモスタット弁54は全閉である。第2ラジエータ流路52を通って、第1ラジエータ流路51に冷却水が流入することはない。
【0098】
冷却水制御バルブ4では、バイパス流路53および第1ラジエータ流路51のいずれにも、冷却水は流さない(これら双方の流量はゼロ)。すなわち、第1回路50では、冷却水の循環は行わない。このとき、冷却水制御バルブ4では、回転弁体61が、第1流路63および第2流路64の双方が流入口65と連通しない回転位置に設定される。
【0099】
第1ラジエータ流路51に冷却水は流れないので、冷却水がラジエータ27で冷却されることはない。従って、冷却水は速やかに水温が上昇する。しかも、燃焼室13は、冷却水の循環で冷却されない。燃焼室13を、燃焼熱で速やかに暖めることができる。燃焼に適した温度状態にエンジン1が早期に立ち上がるので、燃費を向上できる。このとき、ウォータポンプ3で吐出される冷却水は第2回路30および第3回路40を循環する。
【0100】
「暖機」の時における冷却システムの状態を、
図6の中央の図に示す。「暖機」の時も、冷却水の温度は、全閉温度tcより低い。従って、サーモスタット弁54は全閉である。第2ラジエータ流路52を通って、第1ラジエータ流路51に冷却水が流入することはない。
【0101】
対して、「暖機」の時の冷却水制御バルブ4は、第1ラジエータ流路51に冷却水は流さないが(第1ラジエータ流路51の流量はゼロ)、バイパス流路53には冷却水を流す。すなわち、第1回路50では、バイパス流路53においてのみ冷却水の循環を行う。このとき、冷却水制御バルブ4では、回転弁体61が、第1流路63のみが流入口65と連通する回転位置に設定される。第1流路63と流入口65との間の開度は、全開である。
【0102】
第1ラジエータ流路51に冷却水は流れないので、冷却水は速やかに水温が上昇する。対して、バイパス流路53に冷却水が流れるので、第1ジャケット22aに冷却水が流れる。バイパス流路53は短い。そして、冷却水制御バルブ4は全開に設定されているので、冷却水の多くがバイパス流路53および第1ジャケット22aを流れる。
【0103】
燃焼室13を、循環する冷却水で速やかに暖めることができる。冷却水が循環するので、燃焼室13およびその周辺を、偏ることなく暖めることができる。燃焼に適した温度状態にエンジン1が早期に立ち上がるので、燃費を向上できる。なお、このとき、ウォータポンプ3で吐出される冷却水の残部は第2回路30および第3回路40を循環する(「完全暖機」の時も同様)。
【0104】
「完全暖機」の時における冷却システムの状態を、
図6の右の図に示す。「完全暖機」の時は、エンジン1は、燃焼に適した温度状態に達している。
【0105】
従って、エンジン1の負荷が大小に変化することで、第1ジャケット22aを流れる冷却水の温度は、100℃よりも高くなり得るし、95℃よりも低くなり得る。従って、「完全暖機」では、サーモスタット弁54は開いたり閉じたりする。
【0106】
エンジン1の負荷が高くなって燃焼室13が高温になれば、エンジン1を燃焼に適した温度状態に保持するために、燃焼室13の冷却が必要になる。そこで、「完全暖機」の時には、第1回路50の全体を用いて冷却水の循環が行われる。
【0107】
例えば、バイパス流路53および第1ラジエータ流路51の双方に冷却水が流される。その場合、冷却水制御バルブ4では、回転弁体61が、第1流路63および第2流路64の双方が流入口65と連通する回転位置に設定される。そして、「完全暖機」の時には、エンジン1の負荷に応じて、第1流路63(バイパス流路53)および第2流路64(第1ラジエータ流路51)の双方において、冷却水の流量が調整される。
【0108】
すなわち、HCCI燃焼のような高度な燃焼制御を可能にするため、エンジン1の負荷に応じて、第1ジャケット22aに流れる冷却水の水量制御および水温制御を行う。それにより、燃焼室13の壁温を、所定の高温で、精度高く保持できるようにする。
【0109】
(完全暖機時における冷却水の流し方)
図7に、完全暖機時における冷却水の流し方の具体例を示す。
図7には、エンジン1の負荷の大小に応じた主な諸元の変化が、(A)~(D)の各チャートに表してある。
【0110】
(A)には、冷却水制御バルブ4を通過する冷却水の総量の変化G1、および、第1ラジエータ流路51を通過する冷却水の水量の変化G2が表されている。(B)には、第1回路50を流れる冷却水の水量の変化の内訳、つまり、冷却水制御バルブ4からバイパス流路53へ流れる冷却水の水量の変化G3、第2ラジエータ流路52を流れる冷却水の水量の変化G4、および、冷却水制御バルブ4から第1ラジエータ流路51へ流れる冷却水の水量の変化G5が表されている。
【0111】
(C)には、第1ジャケット22aを流れる冷却水の水温の変化G6、および、ウォータポンプ3に流入する冷却水の水温の変化G7が表されている。換言すれば、ジャケット内水温センサS2および入口水温センサS1の計測値の変化が表されている。(D)には、燃焼室13の壁温の変化G8が表されている。
【0112】
エンジン1の負荷の領域は、冷却水の制御に関連して、第1負荷L1未満の領域(低負荷領域)、第2負荷L2以上の領域(高負荷領域)、および、第1負荷L1以上第2負荷L2未満の領域(中負荷領域)からなる3つの領域に区画されている。第1負荷L1および第2負荷L2は、エンジン1および冷却システム2の仕様、外気温などの条件に応じて定まる値である。
【0113】
そして、この冷却システム2では、低負荷領域で水量制御が行われ、中負荷領域で水温制御が行われる。それにより、エンジン1の低負荷領域および中負荷領域において、HCCI燃焼のような、高度な燃焼制御が行えるようにしている。
【0114】
すなわち、そのような高度な燃焼制御を実現するためには、燃焼室13の中の温度(筒内温度)を、一般的な火花点火燃焼(SI燃焼)よりも高温で、しかも精度高く制御することが必要になる。それに対し、エンジン1の負荷が小さくなると、燃焼熱が減少するので、適切な筒内温度を保持するためには、燃焼室13の壁温を高くすることが求められる。一方、エンジン1の負荷が大きくなると、燃焼熱が増加するので、燃焼室13の壁温を低くすることが求められる。
【0115】
これら双方の要求を、精度高く実現するためには、第1ジャケット22aに流れる冷却水による熱交換量(冷却量)を、高い応答性で、安定して制御することが要求される。それに対し、従来は、冷却水をラジエータ27で冷却し、冷却水の水温を制御することによって、第1ジャケット22aに流れる冷却水による冷却量を制御することが行われている。
【0116】
しかし、冷却水は熱容量が大きいため、冷却水の温度を上げたり下げたりするには長い時間が必要である。従って、冷却水の水温を制御する方法では、求める応答性が得られない。環境温度などの外因の影響も大きい。従って、この方法だけでは、安定した制御の実現は困難である。それに対し、冷却水の流量であれば、短時間で増減できる。高い応答性で熱伝達率を調整できる。そこで、この冷却システム2では、冷却水の水温制御だけではなく、冷却水の水量制御を行うことにより、第1ジャケット22aに流れる冷却水による冷却を、高い応答性で、安定して制御できるようにしている。
【0117】
具体的には、冷却水制御バルブ4を用いて、第1流路63を流れる冷却水の水量を制御する。そうすることによって、第1ジャケット22aに流れる冷却水の水量を変化させ、第1ジャケット22aと燃焼室13との間の熱伝達率を調整する。
【0118】
(低負荷領域)
図7に示すように、低負荷領域では、冷却水制御バルブ4により、第1ラジエータ流路51には冷却水を流さないで、バイパス流路53に流れる冷却水の水量を調整する(G3,G5参照)。具体的には、低負荷領域では、エンジン1の負荷が減るのに従って、バイパス流路53に流れる冷却水の水量が減少するように、冷却水制御バルブ4で水量を調整する。
【0119】
このとき、冷却水制御バルブ4では、流入口65が第2流路64と連通しない状態、かつ、流入口65が第1流路63と連通する状態となる回転位置に回転弁体61が位置するように、アクチュエータ62が制御される。そして、エンジン1の負荷に応じて、流入口65と第1流路63との間の開度が大小に調整される。
【0120】
冷却水制御バルブ4から流出する冷却水は、バイパス流路53に流れて、第1ジャケット22aとの間で循環し、第1ラジエータ流路51には流れない。第1ラジエータ流路51に冷却水が流れないと、冷却水は、ラジエータ27で冷却されない。第1ラジエータ流路51に冷却水が流れるのは、サーモスタット弁28が開いて、第2ラジエータ流路52に冷却水が流入する場合のみである。
【0121】
すなわち、低負荷領域での冷却水の温度は、サーモスタット弁28によって決定される。それに対し、サーモスタット弁28が開閉する温度は比較的高い温度に設定されている。従って、第1ジャケット22aを流れる冷却水の温度は高くなる。冷却水の温度を高くすることにより、燃焼室13の壁温を比較的高い温度(つまり、目標温度tw)に維持することが可能になる。尚、低負荷領域では、第1ラジエータ流路51に冷却水がほとんど流れないので、エンジン1の負荷が増えるのに従って、冷却水全体の温度は次第に上昇していく(G7参照)。
【0122】
バイパス流路53、つまり第1ジャケット22aを流れる冷却水の水量が減少すれば、それに応じて第1ジャケット22aと燃焼室13との間の熱伝達率も減少する。従って、負荷が低下して燃焼熱が減少しても、それに応じて冷却水の水量が減少することで、燃焼室13の壁温を高く調整できる。第1ジャケット22aを流れる冷却水の水量が増加すれば、それに応じて第1ジャケット22aと燃焼室13との間の熱伝達率も増加する。従って、負荷が上昇して燃焼熱が増加しても、それに応じて冷却水の水量が増加することで、燃焼室13の壁温を低く調整できる。
【0123】
その結果として、燃焼室13の壁温を一定に保持できる(G8参照)。
【0124】
そして、このエンジン1では、高度な燃焼制御を可能にするため、目標とする燃焼室13の壁温(目標壁温tw)は、従来よりも高く設定されている。それに応じて、第1ジャケット22aに流れる冷却水の第1目標水温t1も、高く設定されている(例えば、100℃)。なお、目標壁温twの上側の破線は冷却水の温度の信頼限界を示している。
【0125】
低負荷領域では、第1ジャケット22aを流れる冷却水の一部は、第2ラジエータ流路52を通って第1ラジエータ流路51に流入する(G4参照)。詳細には、第1ジャケット22aでは、CCV側第1冷却水導出路24を通って第1目標水温t1の冷却水が流れている。そのため、サーモスタット弁54が設置されている第2ラジエータ流路52の端部の中の温度は、外気温、風速などの状況にもよるが、通常、全開温度to未満全閉温度tc以上となる。
【0126】
その結果、サーモスタット弁54は一部が開いた状態となり、第1ジャケット22aを流れる冷却水の一部は、第2ラジエータ流路52に流入する。ただし、その水量は少ないので、冷却水全体の温度に与える影響は小さい。
【0127】
それに対し、第1ジャケット22aを流れる冷却水の温度が過度に高くなると、サーモスタット弁54は全開になる。すなわち、サーモスタット弁54を流れる冷却水の温度が全開温度to以上になれば、サーモスタット弁54は全開になる。第1ジャケット22aを流れる冷却水の多くが、第2ラジエータ流路52を通って第1ラジエータ流路51に流入する。
【0128】
それにより、冷却水は冷却される。冷却水全体の温度は低下する。従って、冷却システム2を循環する冷却水の温度が過度に高くなることを抑制できる。更に、全開温度toと第1目標水温t1とが、略同一の温度に設定されていれば、第1ジャケット22aに流れる冷却水の水温を、第1目標水温t1に、よりいっそう安定して制御することができる。
【0129】
(中負荷領域)
冷却水制御バルブ4に流れる冷却水の水量、つまり第1回路50に流れる冷却水の水量は、第1負荷L1において上限に達している(G1参照)。すなわち、第1負荷L1以上の負荷では、水量制御は行えない。そこで、中負荷領域では、冷却水の冷却を開始する。バイパス流路53に流れる冷却水を、徐々に第1ラジエータ流路51に流して冷却することで、目標壁温twを保持する。
【0130】
具体的には、冷却水制御バルブ4により、第1回路50に流れる冷却水の水量を最大に保持した状態で、第1流路63に流れる冷却水の水量を徐々に減らしながら、第2流路64に流れる冷却水の水量を徐々に増やしていく(G1,G2,G3,G5参照)。中負荷領域では、冷却水制御バルブ4において、第2流路64を流れる冷却水の水量を調整することによって、第1ジャケット22aに流れる冷却水の水温を調整する。
【0131】
このとき、冷却水制御バルブ4では、流入口65が第1流路63および第2流路64の双方と連通する状態となる回転位置に回転弁体61が位置するように、アクチュエータ62が制御される。そして、エンジン1の負荷に応じて、流入口65と第1流路63および第2流路64の各々との間の開度が大小に調整される。
【0132】
それにより、第1ジャケット22aに流れる冷却水を含めた、冷却水全体の温度は、徐々に低下していく(G6,G7参照)。第1ジャケット22aを流れる冷却水の水量は一定でも、その温度が低下するので、第1ジャケット22aに流れる冷却水による冷却量を保持することができる。その結果、中負荷領域においても、燃焼室13の壁温を、目標壁温twに保持できる(G8参照)。
【0133】
燃焼室13の過剰な温度上昇を抑制するために、この冷却システム2では、第1ジャケット22aに流れる冷却水の目標とする水温として、第1目標水温t1よりも低い第2目標水温t2(例えば、88℃)が設定されている。水温制御は、第1ジャケット22aに流れる冷却水の水温がこの第2目標水温t2に達するまで行われる。
【0134】
このように、この冷却システム2では、水量制御が行えるときは、水温制御は行われない。そして、水量制御が行えないときに、水温制御が行われる。そして、前者、つまりエンジン1の負荷が低負荷領域にあるときの第1ジャケット22aを流れる冷却水の水温は、後者、つまりエンジン1の負荷が中負荷領域にあるときに第1ジャケット22aを流れる冷却水の水温よりも高く設定されている(G6参照)。
【0135】
水温制御では、ラジエータで冷却した冷却水で熱交換量を調整する。それに対し、水量制御では、ラジエータをバイパスして循環する冷却水の水量を増減することで熱交換量を調整する。従って、水量制御は、水温制御よりも応答性、安定性に優れる。水量制御であれば、高い温度に設定しても、水温を安定して制御できる。
【0136】
そして、水温制御では、第1ジャケット22aを流れる冷却水の水量を最大に保持した状態で、その水温を冷却してゆく。水温制御は水量制御よりも応答性は劣るが、熱交換は比較的穏やかに進むので、燃焼室の壁温を一定に保持できる。
【0137】
このように、この冷却システム2では、エンジン1の負荷の広い範囲において、燃焼室13の壁温を高い温度で一定に保持することが可能になり、HCCI燃焼などの高度な燃焼制御が行える。従って、燃費に優れたエンジン1を実現できる。
【0138】
中負荷領域では、第2ラジエータ流路52を通って第1ラジエータ流路51に流入する冷却水は、エンジン1の負荷が増えるのに従って、次第に減少して流れなくなる(G4参照)。詳細には、第1ジャケット22aから第2ラジエータ流路52に流入する冷却水の温度は、第1目標水温t1から次第に低下していく。それに伴い、サーモスタット弁54を流れる冷却水の温度も低下する。そして、第2目標水温t2は、全閉温度tcよりも低い。
【0139】
従って、中負荷領域の中で、サーモスタット弁54は、次第に閉じて全閉になる。それにより、第2ラジエータ流路52を通って第1ラジエータ流路51に流入する冷却水は、次第に減少して流れなくなる。
【0140】
(高負荷領域)
高負荷領域では、ラジエータ27による冷却水の冷却に基づく従来の制御が行われる。すなわち、燃焼室13の過剰な温度上昇を抑制するために、第1ジャケット22aを含め、ウォータジャケット20に流す冷却水全体の温度を低く保持する水温制御が行われる。
【0141】
具体的には、中負荷領域における水温制御により、第1ジャケット22aに流れる冷却水の水温が、第2目標水温t2まで冷却されると、高負荷領域になる。そして、その高負荷領域では、第1ジャケット22aに流れる冷却水の水温がその第2目標水温t2に保持されるように、冷却水制御バルブ4で水量調整が行われる。冷却水全体の温度を下げるために、冷却水制御バルブ4では、第1ラジエータ流路51に、冷却水がよりいっそう多く流れるように、水量が調整される。
【0142】
具体的には、アクチュエータ62が制御され、エンジン1の負荷が増えるのに従って、流入口65と第2流路64との間の開度が大きくなるように、そして、流入口65と第1流路63との間の開度が小さくなるように調整される。それにより、第1ラジエータ流路51に流れる冷却水は次第に増加し、そして、バイパス流路53に流れる冷却水は次第に減少していく(G3,G5参照)。
【0143】
そうすることにより、第1ジャケット22aに流れる冷却水の水温を、第2目標水温t2に保持することができ、冷却水全体の温度も低く保持することができる(G6,G7参照)。第1ジャケット22aに流れる冷却水の水温が第2目標水温t2になるタイミングで、水温制御と、第2目標水温t2に保持する制御とが切り替わるので、内容が異なる冷却水の制御を円滑に切り替えることができ、冷却水の制御の連続性を確保できる。
【0144】
一方、そのタイミングでは、制御の目標とする対象が燃焼室13の壁温から第1ジャケット22aに流れる冷却水の水温に変わるので、冷却水制御バルブ4からバイパス流路53へ流れる冷却水の水量、および、冷却水制御バルブ4から第1ラジエータ流路51へ流れる冷却水の水量の変化の度合いは、そのタイミングで変化する(G3,G5参照)。
【0145】
高負荷領域では、燃焼室13の壁温も、エンジン1の負荷が増えるのに従って、次第に増加していく(G8参照)。しかし、第1ジャケット22aを流れる冷却水の水温は第2目標水温t2に保持されるので、過剰な温度上昇は抑制できる。
【0146】
なお、高負荷領域では、サーモスタット弁54は全閉である。第2ラジエータ流路52に冷却水は流れない。ただし、冷却水制御バルブ4において、回転弁体61が固着するなどして、流量制御が適正に行えなくなる場合があり得る。そのような異常状態になると、第1ジャケット22aを流れる冷却水の温度が上昇し、燃焼室13は過剰な高温になり得る(いわゆるオーバーヒート)。
【0147】
それに対し、この冷却システム2では、冷却水制御バルブ4をバイパスして第1ラジエータ流路51に冷却水を流す第2ラジエータ流路52が設けられている。そして、第1ジャケット22aの冷却水の温度が全閉温度tcを越えると、サーモスタット弁54が自動的に開いて、第1ジャケット22aの冷却水は、第2ラジエータ流路52を通って第1ラジエータ流路51に流入する。従って、この冷却システム2によれば、仮に冷却水制御バルブ4で異常が発生した場合でも、エンジン1がオーバーヒートするのを抑制できる。
【0148】
このように、この冷却システム2によれば、冷却水による燃焼室13との熱交換(冷却)を、高い応答性で、安定して制御できる。その結果、エンジン1は、HCCI燃焼などの高度な燃焼制御であっても、安定して行うことが可能になり、燃費を向上できる。そして、冷却水制御バルブ4で異常が発生しても、エンジン1のオーバーヒートを抑制できる。
【0149】
<冷却システムの変形例>
図8に、別形態のエンジンの冷却システム2’(冷却システム2の変形例)を示す。この冷却システム2’では、流量調整装置が上述した冷却システム2と異なっている。
【0150】
すなわち、上述した冷却システム2では、流量調整装置として、冷却水制御バルブ4を例示した。それに対し、この冷却システム2’では、流量調整装置が2つの電磁弁71,72を用いて構成されている。なお、その他の構成は上述した実施形態と同じであるため、同じ構成には同じ符号を用いることで、その説明は省略する。
【0151】
この冷却システム2’では、
図8に簡略的に示すように、エンジン本体10の流出側端部10bにおけるシリンダヘッド10Hの内部に、CCV側第1冷却水導出路24に代えて、第1ジャケット22aから分岐する2つの流出路(第1流出路70aおよび第2流出路70b)が形成されている。そして、第1流出路70aがバイパス流路53に接続され、第2流出路70bが第1ラジエータ流路51に接続されている。
【0152】
そして、その第1流出路70aとバイパス流路53との接続部位(第1流路63を構成)に、第1電磁弁71が設置されている。その第2流出路70bと第1ラジエータ流路51との接続部位(第2流路64を構成)に、第2電磁弁72が設置されている。第1電磁弁71は第1流路63を開閉する。第2電磁弁72は第2流路64を開閉する。
【0153】
この冷却システム2’では、これら第1電磁弁71および第2電磁弁72の各々を制御することにより、第1流路63および第2流路64の各々を流れる冷却水の水量を調整する。例えば、「低温」の時のように、バイパス流路53および第1ラジエータ流路51の双方に冷却水を流さない場合には、第1電磁弁71および第2電磁弁72の双方を閉じればよい。
【0154】
そして、「完全暖機」の時のように、バイパス流路53および第1ラジエータ流路51の双方に冷却水を流し、かつ、その水量を調整する場合には、その水量に応じて、第1電磁弁71および第2電磁弁72の各々の開閉のタイミングを調整すればよい。例えば、デューティ制御を行って開弁と閉弁とを繰り返し行えば、バイパス流路53および第1ラジエータ流路51の双方に流れる冷却水の水量を、精度高く調整することができる。
【0155】
変形例の冷却システム2’によれば、流量調整装置が2つの電磁弁71,72を用いて構成されているので、システムの構成をコンパクトにできる。
【0156】
なお、開示する技術は、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。
【0157】
例えば、実施形態および変形例の冷却システム2,2’では、流量調整装置を第1ジャケット22aの出口に配置した。しかし、冷却水は第1回路50を循環するので、流量調整装置は、第1ジャケット22aの出口以外の部位にも配置できる。例えば、ウォータポンプ3の吸込口3bの近傍に流量調整装置を配置し、バイパス流路53および第1ラジエータ流路51の双方から流量調整装置に冷却水が流入するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0158】
1 エンジン
2 冷却システム
3 ウォータポンプ
4 冷却水制御バルブ(流量調整装置)
10 エンジン本体
10B シリンダブロック
10H シリンダヘッド
13 燃焼室
22a 第1ジャケット(ウォータジャケット)
22b 第2ジャケット
27 ラジエータ(熱交換器)
30 第2回路
31 第2循環流路
40 第3回路
41 第3循環流路
50 第1回路
51 第1ラジエータ流路
52 第2ラジエータ流路52
53 バイパス流路
54 サーモスタット弁54
60 ハウジング
61 回転弁体
62 アクチュエータ
63 第1流路
64 第2流路
65 流入口
S1 入口水温センサ
S2 ジャケット内水温センサ