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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175470
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】土堤補強構造
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/10 20060101AFI20221117BHJP
【FI】
E02B3/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021081862
(22)【出願日】2021-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002963
【氏名又は名称】弁理士法人MTS国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080458
【弁理士】
【氏名又は名称】高矢 諭
(74)【代理人】
【識別番号】100144299
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 崇
(72)【発明者】
【氏名】家根 拓矢
(72)【発明者】
【氏名】山田 慶太郎
(72)【発明者】
【氏名】奈良 正
【テーマコード(参考)】
2D118
【Fターム(参考)】
2D118AA02
2D118CA07
2D118FA01
2D118GA07
2D118GA12
(57)【要約】
【課題】土堤を補強しても、越水時に土堤浸食が進みにくく、決壊に至りにくい土堤補強構造を提供する。
【解決手段】土堤100の延びる方向に沿って間隔を空けて、少なくともその一部が当該土堤100内に配置されていて、かつ、長手方向が略鉛直方向になるように配置された複数の長尺部材12と、複数の長尺部材12の部位のうち、少なくとも土堤100内に位置している部位同士の間を掛け渡す遮水シート14と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
土堤の延びる方向に沿って間隔を空けて、少なくともその一部が当該土堤内に配置されていて、かつ、長手方向が略鉛直方向になるように配置された複数の長尺部材と、
前記複数の長尺部材の部位のうち、少なくとも前記土堤内に位置している部位同士の間を掛け渡す遮水シートと、
を備えることを特徴とする土堤補強構造。
【請求項2】
前記長尺部材の下端および前記遮水シートの下端は、前記土堤の陸域側の法尻よりも下方に達していることを特徴とする請求項1に記載の土堤補強構造。
【請求項3】
前記長尺部材の下端は、前記遮水シートが配置されている領域よりも下方に達していることを特徴とする請求項1または2に記載の土堤補強構造。
【請求項4】
前記遮水シートの下端は、不透水層に達していることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の土堤補強構造。
【請求項5】
前記長尺部材は、鋼管杭であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の土堤補強構造。
【請求項6】
前記鋼管杭の表面には、前記遮水シートを固定するための固定鋼板が、その長手方向が当該鋼管杭の長手方向となるように取り付けられていることを特徴とする請求項5に記載の土堤補強構造。
【請求項7】
前記固定鋼板は、その一側面が前記鋼管杭の表面に取り付けられており、当該固定鋼板の幅方向は、隣接する鋼管杭に向かう方向であることを特徴とする請求項6に記載の土堤補強構造。
【請求項8】
前記遮水シートを挟み込むための挟み付け鋼板をさらに備えており、
前記固定鋼板と前記挟み付け鋼板との間に、前記遮水シートを挟み込んで、前記遮水シートを固定していることを特徴とする請求項7に記載の土堤補強構造。
【請求項9】
前記挟み付け鋼板の長手方向の長さおよび前記固定鋼板の長手方向の長さは、前記遮水シートの高さ方向の長さ以上の長さであることを特徴とする請求項8に記載の土堤補強構造。
【請求項10】
前記固定鋼板と前記遮水シートとの間、および前記挟み付け鋼板と前記遮水シートとの間のうちの少なくとも一方において、止水ゴムがさらに設けられていることを特徴とする請求項8または9に記載の土堤補強構造。
【請求項11】
前記長尺部材は、H形鋼であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の土堤補強構造。
【請求項12】
前記遮水シートを挟み込むための挟み付け鋼板をさらに備えており、
また、前記H形鋼の一方のフランジの表面は水域側を向いており、
前記一方のフランジの表面と前記挟み付け鋼板との間に、前記遮水シートを挟み込んで、前記遮水シートを固定することを特徴とする請求項11に記載の土堤補強構造。
【請求項13】
前記挟み付け鋼板の長手方向の長さおよび前記H形鋼の長手方向の長さは、前記遮水シートの高さ方向の長さ以上の長さであることを特徴とする請求項12に記載の土堤補強構造。
【請求項14】
前記H形鋼の前記一方のフランジ表面と前記遮水シートとの間、および前記挟み付け鋼板と前記遮水シートとの間のうちの少なくとも一方において、止水ゴムがさらに設けられていることを特徴とする請求項12または13に記載の土堤補強構造。
【請求項15】
前記遮水シートは、漏水量が25(ml/scc)/(1.8m2)以下、引張強さが11.8N/mm2以上、摩擦係数が0.8以上を満足することを特徴とする請求項1~14のいずれかに記載の土堤補強構造。
【請求項16】
前記遮水シートは、純ポリ塩化ビニルまたはエチレン酢酸ビニルであることを特徴とする請求項1~15のいずれかに記載の土堤補強構造。
【請求項17】
前記土堤は、河川堤防であることを特徴とする請求項1~16のいずれかに記載の土堤補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土堤補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
令和元年東日本台風(令和元年10月の台風19号)により、多くの河川堤防が決壊し、各地で甚大な浸水被害が発生した。その後の調査により、決壊原因の主な要因は「越水」であると推定されている(例えば、非特許文献1、2参照)。
【0003】
河川堤防は原則として土堤であり、土堤に対する越水対策のための工法として、土堤の裏法面や天端をブロック、シート等で被覆する工法や、土堤内部に剛体コア(例えば鋼管矢板等)を設置する工法等が検討されているが、いずれの工法にも問題点が指摘されている。
【0004】
土堤内部に剛体コアを設置する工法においては、剛体コアに土以外の材料を用いるため、土を用いた既存堤防(土堤)とのなじみが悪く、例えば地震の作用により、剛体コアと堤体盛土との境界で剥離が生じ、空洞等が発生することが懸念されている(例えば、非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献1】第1回 令和元年台風第19号の被災を踏まえた河川堤防に関する技術検討会の配付資料“資料2-2 国管理河川の決壊要因(堤防調査委員会の検討)”、3ページ、[online],令和2年2月14日、国土交通省 治水課、[令和3年4月2日検索]、インターネット<URL:https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/gijutsu_kentoukai/dai01kai/pdf/doc2-2.pdf>
【非特許文献2】第1回 令和元年台風第19号の被災を踏まえた河川堤防に関する技術検討会の配付資料“資料2-3 県管理河川を含めた決壊の要因や特徴の分析”、2ページ、[online],令和2年2月14日、国土交通省 治水課、[令和3年4月2日検索]、インターネット<URL:https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/gijutsu_kentoukai/dai01kai/pdf/doc2-3.pdf>
【非特許文献3】第2回 令和元年台風第19号の被災を踏まえた河川堤防に関する技術検討会の配布資料“補足資料1 対策工法について(案)”、22ページ、[online],令和2年3月25日、国土交通省 治水課、[令和3年3月31日検索]、インターネット<URL:https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/gijutsu_kentoukai/dai02kai/pdf/hosoku1.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
土堤内部に剛体コアを設置する工法を採用して、剛体コアと堤体盛土との境界に空洞等が発生した場合、そこを起点として越水時に土砂の浸食が進み、剛体コアの転倒に至るケースが生じる可能性があると本発明者は考えた。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、土堤を補強しても、越水時に土堤浸食が進みにくく、決壊に至りにくい土堤補強構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は前記課題を解決する発明であり、例えば、以下の態様の土堤補強構造である。
【0009】
即ち、本発明に係る土堤補強構造の一つの態様は、土堤の延びる方向に沿って間隔を空けて、少なくともその一部が当該土堤内に配置されていて、かつ、長手方向が略鉛直方向になるように配置された複数の長尺部材と、前記複数の長尺部材の部位のうち、少なくとも前記土堤内に位置している部位同士の間を掛け渡す遮水シートと、を備えることを特徴とする土堤補強構造である。
【0010】
ここで、本願において、土堤とは、周囲の地表面よりも上方に盛り上がっていて、堤防としての機能を果たす土構造物のことを意味するものとする。
【0011】
また、土堤が河川堤防である場合、「土堤の延びる方向」は、通常の場合、河川に沿う方向となる。また、本願において、「土堤の延びる方向」を「土堤の延在方向」と記すことがある。
【0012】
前記長尺部材の下端および前記遮水シートの下端は、前記土堤の陸域側の法尻よりも下方に達しているように構成してもよい。
【0013】
前記長尺部材の下端は、前記遮水シートが配置されている領域よりも下方に達しているように構成してもよい。
【0014】
前記遮水シートの下端は、不透水層に達しているように構成してもよい。
【0015】
前記長尺部材は、鋼管杭であってもよい。
【0016】
前記鋼管杭の表面には、前記遮水シートを固定するための固定鋼板が、その長手方向が当該鋼管杭の長手方向となるように取り付けられている、ように構成してもよい。
【0017】
前記固定鋼板は、その一側面が前記鋼管杭の表面に取り付けられており、当該固定鋼板の幅方向は、隣接する鋼管杭に向かう方向である、ように構成してもよい。
【0018】
前記遮水シートを挟み込むための挟み付け鋼板をさらに備えており、前記固定鋼板と前記挟み付け鋼板との間に、前記遮水シートを挟み込んで、前記遮水シートを固定している、ように構成してもよい。
【0019】
前記挟み付け鋼板の長手方向の長さおよび前記固定鋼板の長手方向の長さは、前記遮水シートの高さ方向の長さ以上の長さであるように構成してもよい。
【0020】
前記固定鋼板と前記遮水シートとの間、および前記挟み付け鋼板と前記遮水シートとの間のうちの少なくとも一方において、止水ゴムがさらに設けられている、ように構成してもよい。
【0021】
前記長尺部材は、H形鋼であってもよい。
【0022】
前記遮水シートを挟み込むための挟み付け鋼板をさらに備えており、また、前記H形鋼の一方のフランジの表面は水域側を向いており、前記一方のフランジの表面と前記挟み付け鋼板との間に、前記遮水シートを挟み込んで、前記遮水シートを固定する、ように構成してもよい。
【0023】
前記挟み付け鋼板の長手方向の長さおよび前記H形鋼の長手方向の長さは、前記遮水シートの高さ方向の長さ以上の長さであるように構成してもよい。
【0024】
前記H形鋼の前記一方のフランジ表面と前記遮水シートとの間、および前記挟み付け鋼板と前記遮水シートとの間のうちの少なくとも一方において、止水ゴムがさらに設けられている、ように構成してもよい。
【0025】
前記遮水シートは、漏水量が25(ml/scc)/(1.8m2)以下、引張強さが11.8N/mm2以上、摩擦係数が0.8以上を満足することが好ましい。
【0026】
ここで、前記「漏水量が25(ml/scc)/(1.8m2)以下」における「漏水量」は、建設省土木研究資料第3103号の小型浸透試験による試験方法によって測定された値であり、前記「引張強さが11.8N/mm2以上」における「引張強さ」は、日本産業規格(JIS)で規定されている各材料ごとの試験方法によって測定された値であり、前記「摩擦係数が0.8以上」における「摩擦係数」は、平成4年度建設省告示第1324号に基づく摩擦試験方法によって測定された値である。本願の他の箇所における同様の記載においても同様である。
【0027】
前記遮水シートは、純ポリ塩化ビニルまたはエチレン酢酸ビニルであってもよい。
【0028】
前記土堤は、河川堤防であってもよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、土堤を補強しても、越水時に土堤浸食が進みにくく、決壊に至りにくい土堤補強構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の第1実施形態に係る土堤補強構造10を模式的に示す斜視図
図2】本第1実施形態に係る土堤補強構造10を模式的に示す側面図
図3】本第1実施形態に係る土堤補強構造10を模式的に示す平面図
図4】固定部16を中心にして示す拡大平面図
図5】本発明の第2実施形態に係る土堤補強構造20を模式的に示す斜視図
図6】本第2実施形態に係る土堤補強構造20を模式的に示す鉛直断面図(図7のVI-VI線断面図)
図7】本第2実施形態に係る土堤補強構造20を模式的に示す平面図
図8】固定部26を中心にして示す拡大平面図
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して、本発明に係る土堤補強構造の実施形態を詳細に説明する。
【0032】
(1)第1実施形態
図1は、本発明の第1実施形態に係る土堤補強構造10を模式的に示す斜視図であり、図2は、本第1実施形態に係る土堤補強構造10を模式的に示す側面図であり、図3は、本第1実施形態に係る土堤補強構造10を模式的に示す平面図であり、図4は、固定部16を中心にして示す拡大平面図である。図1では、土堤100の内部およびその下方に位置する鋼管杭12および遮水シート14についても実線で表記しており、また、固定部16の明示は省略している。また、図3、4では、ボルト16Dを、1本の線分で簡略に表記している。なお、図1において、符号100Aは土堤100の天端を示し、符号100Bは土堤100の表法面(水域側の法面)を示し、符号100Cは土堤100の裏法面(水域とは反対側の法面)を示し、符号200は水域の水を示している。第2実施形態を示す図5においても同様である。
【0033】
本第1実施形態に係る土堤補強構造10は、図1~3に示すように、長尺部材である鋼管杭12と、遮水シート14と、固定部16と、を有してなり、それらは、土堤100の内部および土堤100の下部に配置されている。
【0034】
鋼管杭12は、本第1実施形態に係る土堤補強構造10の全体を地盤に固定するとともに、遮水シート14の位置を保持して土堤補強構造10の全体の構造を保持する役割を有する。このため、通常の場合、鋼管杭12の下端は、遮水シート14の下端よりも下方まで地盤に埋め込まれている。また、鋼管杭12の上端は、土堤100の天端100Aまたは天端100A近傍に達している。
【0035】
鋼管杭12は、その長手方向が略鉛直方向になるように、かつ、その下端が土堤100の裏法面100Cの法尻100Dよりも下方に達するように打設されている。土堤100の裏法面100Cの法尻100Dの高さ位置は、通常の場合、土堤100の陸域側の周囲の地表面300の高さ位置と一致する。鋼管杭12の具体的な打設深さは、設計条件に応じて適宜に定めればよい。また、鋼管杭12の打設位置は、標準的には土堤100の横断方向(土堤100の延在方向と直交する方向)中央部付近であり、鋼管杭12の打設間隔は、標準的には2m程度以上である。
【0036】
鋼管杭12の形状は円筒状であり、一般的な土堤への適用を考えた場合に想定される外径は標準的には400mm以上2600mm以下であり、厚さは標準的には3.2mm以上30.0mm以下である。通常の場合、鋼管杭12の外径が大きくなるほど、鋼管杭12の厚さおよび打設間隔も大きくする。
【0037】
遮水シート14は、図1に示すように、鋼管杭12の部位のうち、土堤100内に位置している部位同士の間を掛け渡されており、土堤100によって隔てられた水域側領域とその反対側の領域(以下、陸域側領域と記すことがある。)との間で水の行き来を遮断または妨害する役割を有する。このため、通常の場合、遮水シート14の下端は不透水層に達するようにする。したがって、通常の場合、遮水シート14の下端は、土堤100の裏法面100Cの法尻100Dよりも下方に達している。なお、図1、2では、少なくとも一部の部位が土堤100内に配置されている鋼管杭12の下端は、遮水シート14の下端よりも下方に達しており、土堤100内に位置している鋼管杭12の一部の部位同士の間を遮水シート14が掛け渡しているが、遮水シート14と鋼管杭12の下端は高さ方向において同じ位置にあってもよく、つまり遮水シート14が土堤100内に位置している鋼管杭12の部位全体の間を掛け渡すものであってもよい。
【0038】
遮水シート14の幅方向(土堤100の延在方向)両端部は、図2~4に示すように、固定部16によって固定されており、固定部16を介して鋼管杭12に連結されている。
【0039】
遮水シート14は、水域側領域と陸域側領域との間で水の行き来をある程度以上遮断または妨害できるような止水材としての性能を満足するようなものであればよく、例えば、漏水量が25(ml/scc)/(1.8m2)以下、引張強さが11.8N/mm2以上、摩擦係数が0.8以上を満足するものが好ましい。また、土堤100の盛土の動きに追随できるように、前記引張強さに加えて、所定以上の引裂強さおよび伸び率を有しているものが好ましい。土堤100の盛土の動きに十分に追随できるように、具体的には、遮水シート14の伸び(JIS K 6773)は、200%以上であることが好ましい。また、遮水シート14の厚さは、標準的には1mm程度である。
【0040】
前記した特性を有するとともに、所定以上の遮水性および耐久性を有すれば、遮水シート14として使用可能であり、土質に応じて適宜に採用可能であり、遮水シート14の具体的な材質としては、例えば、純ポリ塩化ビニルやエチレン酢酸ビニルを挙げることができる。
【0041】
固定部16は、図4に示すように、固定鋼板16Aと、挟み付け鋼板16Bと、止水ゴム16Cと、ボルト16Dとを有してなり、固定鋼板16Aと挟み付け鋼板16Bとの間に、止水ゴム16Cを介在させて遮水シート14の端部を挟み込んで、遮水シート14の位置を固定する。
【0042】
固定鋼板16Aは、その長手方向が鋼管杭12の長手方向となるように鋼管杭12に取り付けられており、固定鋼板16Aの一側面が鋼管杭12の表面に溶接で取り付けられている。固定鋼板16Aの幅方向は、図3に示すように、隣接する鋼管杭12に向かう方向である。固定鋼板16Aおよび挟み付け鋼板16Bの長さ(鋼管杭12の長手方向に沿う方向の長さ)は、遮水シート14の高さ方向の長さ以上の長さを有しており、遮水シート14の高さ方向の全範囲を、固定鋼板16Aと挟み付け鋼板16Bとの間に挟み込んで鋼管杭12に連結することができるようになっている。
【0043】
具体的には、図4に示すように、挟み付け鋼板16Bと遮水シート14との間に止水ゴム16Cを介在させて、ボルト16Dおよび図示せぬナットにより固定鋼板16Aと挟み付け鋼板16Bとを締め込んで、遮水シート14の両端部をそれぞれ固定部16で固定して、遮水シート14の両端部を鋼管杭12に連結している。
【0044】
本第1実施形態に係る土堤補強構造10では、挟み付け鋼板16Bと遮水シート14との間に止水ゴム16Cを介在させたが、固定鋼板16Aと遮水シート14との間に止水ゴム16Cを介在させるようにしてもよい。また、挟み付け鋼板16Bと遮水シート14との間、および固定鋼板16Aと遮水シート14との間の両方に止水ゴム16Cを介在させるようにしてもよい。
【0045】
以上説明したように、本第1実施形態に係る土堤補強構造10では、鋼管杭12が土堤100の延在方向に沿って所定の間隔を空けて離散的に配置されており、鋼管杭12同士の間には、両端部を鋼管杭12に連結された遮水シート14が掛け渡されている。このため、鋼管杭12と土堤100の盛土との境界にたとえ空洞等が発生したとしても、土堤100における限定的な領域に止まり、また、遮水シート14は土堤100の盛土の動きに十分に追随できるので、遮水シート14と土堤100の盛土との間には空隙は発生しにくい。したがって、本第1実施形態に係る土堤補強構造10においては、洪水時に土堤100を越水するような状況になっても、鋼管杭12と土堤100の盛土との境界に生じた空洞を起点とした浸食は限定的な領域に止まり、本第1実施形態に係る土堤補強構造10の全体が転倒して土堤100の決壊につながるような事態は発生しにくい。
【0046】
(2)第2実施形態
図5は、本発明の第2実施形態に係る土堤補強構造20を模式的に示す斜視図であり、図6は、本第2実施形態に係る土堤補強構造20を模式的に示す鉛直断面図(図7のVI-VI線断面図)であり、図7は、本第2実施形態に係る土堤補強構造20を模式的に示す平面図であり、図8は、固定部26を中心にして示す拡大平面図である。図5では、土堤100の内部およびその下方に位置するH形鋼22および遮水シート24についても実線で表記しており、また、固定部26の明示は省略している。また、図7、8では、ボルト26E、26Fを、それぞれ1本の線分で簡略に表記している。
【0047】
第1実施形態に係る土堤補強構造10では、長尺部材として鋼管杭12を用いたが、本第2実施形態に係る土堤補強構造20では、長尺部材としてH形鋼22を用いている。本第2実施形態に係る土堤補強構造20は、長尺部材としてH形鋼22を用いている点、およびこれに付随して第1実施形態に係る土堤補強構造10から変更した点以外は、第1実施形態に係る土堤補強構造10と基本的に同様である。第1実施形態で説明した内容と同内容の点については、以下の記載において、説明を省略または簡略にしている場合がある。
【0048】
第2実施形態に係る土堤補強構造20は、図5~7に示すように、長尺部材であるH形鋼22と、遮水シート24と、固定部26と、を有してなり、それらは、土堤100の内部および土堤100の下部に配置されている。
【0049】
H形鋼22は、本第2実施形態に係る土堤補強構造20の全体を地盤に固定するとともに、遮水シート24の位置を保持して土堤補強構造20の全体の構造を保持する役割を有する。このため、通常の場合、H形鋼22の下端は、遮水シート24の下端よりも下方まで地盤に埋め込まれている。また、H形鋼22の上端は、土堤100の天端100Aまたは天端100A近傍に達している。
【0050】
H形鋼22は、その長手方向が略鉛直方向になるように、かつ、その下端が土堤100の裏法面100Cの法尻100Dよりも下方に達するように打設されている。H形鋼22の具体的な打設深さは、設計条件に応じて適宜に定めればよい。また、H形鋼22の打設位置は、標準的には土堤100の横断方向(土堤100の延在方向と直交する方向)中央部付近であり、H形鋼22の打設間隔は、標準的には2m程度以上である。
【0051】
H形鋼22は断面がH形の鋼材であり、一般的な土堤への適用を考えた場合に想定される断面形状の大きさは標準的にはH200mm×200mmからH1000mm×400mmまでである。通常の場合、H形鋼22は断面が大きくなるほど、H形鋼22の打設間隔も大きくする。
【0052】
H形鋼22は、2つのフランジ(水域側フランジ22A、陸域側フランジ22B)とウェブ22Cとを有して構成されており、水域側フランジ22Aの表面が水域側を向いて、土堤100の延在方向と平行になるように配置されている。
【0053】
遮水シート24は、H形鋼22の部位のうち、土堤100内に位置している部位同士の間を掛け渡されており、土堤100によって隔てられた水域側領域と陸域側領域との間で水の行き来を遮断または妨害する役割を有する。このため、通常の場合、遮水シート24の下端は不透水層に達するようにする。したがって、通常の場合、遮水シート24の下端は、土堤100の裏法面100Cの法尻100Dよりも下方に達している。なお、図5、6では、少なくとも一部の部位が土堤100内に配置されているH形鋼22の下端は、遮水シート24の下端よりも下方に達しており、土堤100内に位置しているH形鋼22の一部の部位同士の間を遮水シート24が掛け渡しているが、遮水シート24とH形鋼22の下端は高さ方向において同じ位置にあってもよく、つまり遮水シート24が土堤100内に位置しているH形鋼22の部位全体の間を掛け渡すものであってもよい。
【0054】
遮水シート24の幅方向(土堤100の延在方向)両端部は、図6~8に示すように、固定部26によって固定されており、固定部26を介してH形鋼22に連結されている。
【0055】
遮水シート24は、水域側領域と陸域側領域との間で水の行き来をある程度以上遮断または妨害できるような止水材としての性能を満足するようなものであればよく、例えば、漏水量が25(ml/scc)/(1.8m2)以下、引張強さが11.8N/mm2以上、摩擦係数が0.8以上を満足するものが好ましい。また、土堤100の盛土の動きに追随できるように、前記引張強さに加えて、所定以上の引裂強さおよび伸び率を有しているものが好ましい。土堤100の盛土の動きに十分に追随できるように、具体的には、遮水シート24の伸び(JIS K 6773)は、200%以上であることが好ましい。また、遮水シート24の厚さは、標準的には1mm程度である。
【0056】
前記した特性を有するとともに、所定以上の遮水性および耐久性を有すれば、遮水シート24として使用可能であり、土質に応じて適宜に採用可能であり、遮水シート24の具体的な材質としては、例えば、純ポリ塩化ビニルやエチレン酢酸ビニルを挙げることができる。
【0057】
固定部26は、図8に示すように、水域側フランジ22Aと、挟み付け鋼板26A、26Bと、止水ゴム26C、26Dと、ボルト26E、26Fとを有してなり、水域側フランジ22Aと挟み付け鋼板26A、26Bと間に、止水ゴム26C、26Dを介在させて遮水シート24の端部を挟み込んで、遮水シート24の位置を固定する。
【0058】
前述したように、H形鋼22は、水域側フランジ22Aの表面が水域側を向いて、土堤100の延在方向と略平行になるように配置されており、水域側フランジ22Aの幅方向は、土堤100の延在方向と略平行である。
【0059】
水域側フランジ22Aおよび挟み付け鋼板26A、26Bの長さ(H形鋼22の長手方向に沿う方向の長さ)は、遮水シート24の高さ方向の長さ以上の長さを有しており、遮水シート24の高さ方向の全範囲を、水域側フランジ22Aと挟み付け鋼板26A、26Bとの間に挟み込んでH形鋼22に連結することができるようになっている。
【0060】
具体的には、図8に示すように、水域側フランジ22Aと遮水シート24との間に止水ゴム26C、26Dを介在させて、ボルト26E、26Fおよび図示せぬナットにより水域側フランジ22Aと挟み付け鋼板26A、26Bとを締め込んで、遮水シート24の両端部をそれぞれ固定部26で固定して、遮水シート24の両端部をH形鋼22の水域側フランジ22Aに連結している。
【0061】
本第2実施形態に係る土堤補強構造20では、水域側フランジ22Aと遮水シート24との間に止水ゴム26C、26Dを介在させたが、挟み付け鋼板26A、26Bと遮水シート24との間に止水ゴム26C、26Dを介在させるようにしてもよい。また、水域側フランジ22Aと遮水シート24との間、および挟み付け鋼板26A、26Bと遮水シート24との間の両方に止水ゴム26C、26Dを介在させるようにしてもよい。
【0062】
以上説明したように、本第2実施形態に係る土堤補強構造20では、H形鋼22が土堤100の延在方向に沿って所定の間隔を空けて離散的に配置されており、H形鋼22同士の間には、両端部をH形鋼22に連結された遮水シート24が掛け渡されている。このため、H形鋼22と土堤100の盛土との境界にたとえ空洞等が発生したとしても、土堤100における限定的な領域に止まり、また、遮水シート24は土堤100の盛土の動きに十分に追随できるので、遮水シート24と土堤100の盛土との間には空隙は発生しにくい。したがって、本第2実施形態に係る土堤補強構造20においては、洪水時に土堤100を越水するような状況になっても、H形鋼22と土堤100の盛土との境界に生じた空洞を起点とした浸食は限定的な領域に止まり、本第2実施形態に係る土堤補強構造20の全体が転倒して土堤100の決壊につながるような事態は発生しにくい。
【0063】
なお、本第2実施形態に係る土堤補強構造20では、隣り合うH形鋼22同士の間の間隔1つごとに1枚の遮水シート24を掛け渡すように配置したが、1枚の遮水シート24の幅(土堤100の延在方向の長さ)を長くして、1枚の遮水シート24で、隣り合うH形鋼22同士の間の間隔2つ以上を掛け渡すようにしてもよい。この場合には、遮水シート24の端部に位置しない固定部26においては、2部材である挟み付け鋼板26A、26Bを1部材の挟み付け鋼板に置き換えてもよく、2部材である止水ゴム26C、26Dを1部材の止水ゴムに置き換えてもよい。
【0064】
(3)補足
第1実施形態に係る土堤補強構造10では、長尺部材として鋼管杭12を用い、第2実施形態に係る土堤補強構造20では、長尺部材としてH形鋼22を用いたが、本発明に係る土堤補強構造において使用可能な長尺部材は、これらに限定されるわけではなく、他の形状の長尺鋼製部材を用いることも可能である。また、本発明に係る土堤補強構造において使用可能な長尺部材は、鋼製に限定されるわけではなく、長尺部材であれば鋼製以外でも使用可能であり、例えばコンクリート製部材を使用することも可能である。また、遮水シート14、24が掛け渡される長尺部材の上端が土堤100の上端より上方に突出するように構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0065】
10、20…土堤補強構造
12…鋼管杭
14、24…遮水シート
16、26…固定部
16A…固定鋼板
16B、26A、26B…挟み付け鋼板
16C、26C、26D…止水ゴム
16D、26E、26F…ボルト
22…H形鋼
22A…水域側フランジ
22B…陸域側フランジ
22C…ウェブ
100…土堤
100A…天端
100B…表法面
100C…裏法面
100D…裏法面の法尻
200…水
300…地表面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8