(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175526
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】大型船舶
(51)【国際特許分類】
B63H 9/061 20200101AFI20221117BHJP
【FI】
B63H9/061
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021081992
(22)【出願日】2021-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】391058082
【氏名又は名称】株式会社名村造船所
(74)【代理人】
【識別番号】100091443
【弁理士】
【氏名又は名称】西浦 ▲嗣▼晴
(74)【代理人】
【識別番号】100130720
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼見 良貴
(74)【代理人】
【識別番号】100130432
【弁理士】
【氏名又は名称】出山 匡
(72)【発明者】
【氏名】徳留 祐二
(57)【要約】
【課題】SOLAS条約に準拠した、船橋からの視界を確保可能な硬帆を有する大型船舶を提供する。
【解決手段】本発明は、甲板9上に平面視で船橋19の監視位置WPと船首5を通る中心線に沿ってn個(nは3以上の整数)の硬帆を間隔をあけて設置した全長55m以上の大型船舶を対象にしている。全ての硬帆の高さ寸法は、硬帆を除く船体構造物のうち最も高さ寸法の高いもの(本例ではレーダーマスト21)以下の高さ寸法である。監視位置WPから見た場合に、n番目の硬帆からm+1番目(但し2≦m<nの整数)の硬帆までは、n番目の硬帆からm番目の硬帆までの高さ方向の先端が監視位置の仮想視点から全て見えるように、高さ寸法が定められている。また、m-1番目の硬帆から船首方向に設置されている1以上の硬帆の幅方向の両端部が、監視位置WPの仮想視点からm番目の硬帆の両端を見たときの仮想視線を越えないように、幅寸法が定められている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
甲板上に平面視で船橋の監視位置と船首を通る中心線に沿ってn個(nは3以上の整数)の硬帆を間隔をあけて設置した全長55m以上の大型船舶であって、
前記船首に最も近い硬帆を1番目の硬帆とし、前記監視位置に最も近い硬帆をn番目の硬帆と定めたときに、全ての硬帆の高さ寸法は、前記硬帆を除く船体構造物のうち最も高さ寸法の高いもの以下の高さ寸法であり、
前記監視位置から見た場合に、前記n番目の硬帆からm+1番目(但し2≦m<nの整数)の硬帆までは、前記n番目の硬帆からm番目の硬帆までの高さ方向の先端が前記監視位置の仮想視点から全て見えるように、高さ寸法が定められており、
m-1番目の硬帆から前記船首方向に設置されている1以上の硬帆の幅方向の両端部が、前記監視位置の前記仮想視点から前記m番目の硬帆の両端を見たときの仮想視線を越えないように、幅寸法が定められていることを特徴とする大型船舶。
【請求項2】
前記n番目の硬帆から前記m+1番目までの硬帆の幅寸法は、前記仮想視線を越えている請求項1に記載の大型船舶。
【請求項3】
前記n番目の硬帆から前記m+1番目の硬帆は、高さ寸法Hnが下記の式を満たすように定められている請求項1に記載の大型船舶。
高さ寸法Hn≦Zp-(Xn-Xp)tanθ-Zmin
ただし、
Xp:監視位置(船橋)の後部垂線(Aft perpendicular)からの船長方向長さ寸法
Zp:監視位置(船橋)のベースラインからの高さ寸法
Xn:船首からn番目の硬帆の後部垂線(Aft perpendicular)からの船長方向長さ寸法
Zmin:硬帆の下端のベースラインからの高さ寸法
θ:監視位置(船橋)から船首を結ぶ直線と満載喫水線(LWL)がなす角度
【請求項4】
前記m番目の硬帆から前記1番目の硬帆は、幅寸法Bnが下記の式を満たすように定められている請求項1に記載の大型船舶。
幅寸法Bn≦((Xn-Xp)tan2.5)×2
ただし、
Xp:監視位置(船橋)の後部垂線(Aft perpendicular)からの船長方向長さ寸法
Xn:船首からn番目の硬帆の後部垂線(Aft perpendicular)からの船長方向長さ寸法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型船舶に関するものであり、特に、甲板上に平面視で船橋の監視位置と船首を通る中心線に沿ってn個(nは3以上の整数)の硬帆を間隔をあけて設置した全長55m以上の大型船舶に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ばら積み貨物船(バルク・キャリア(bulk carrier)ともいう)等の大型船舶は、大量の化石燃料を消費するため、CO2の排出源となっている。化石燃料の消費を抑えるため、大型船舶に、硬帆を設け、推進力を補助して、CO2の排出を削減する試みが進められている。「硬帆」は、風力を利用するために布地等の柔らかい素材を使わず、鋼製材料等を用いた帆のことである。
【0003】
硬帆は、甲板上で風を受けるように設置されるため、船舶の航行に影響がないように、甲板上に垂直方向に延びる硬帆を立てる場合には船橋からの視界を確保する必要がある(例えば、特許第5763479号(特許文献1))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
安全な航行を実現するため、船舶の安全性確保のための規則を定める多国間条約「海上における人命の安全のための国際条約(International Convention for the Safety of Life at Sea)(SOLAS条約)」が存在する。現行のSOLAS条約は、全長が55m以上の船舶を対象として、船橋からの視界について詳細を定めている(SOLAS条約第5章第22規則「航海船橋の視界(Chapter V Regulation 22 Navigation Bridge Visibility)」参照)。
【0006】
なお、各国が定める船舶の安全基準は、SOLAS条約に準拠した法律や規則によって定められており、例えば、日本では、一般財団法人日本海事協会(ClassNK)が公表している規則(鋼船規則)等がこれにあたるものである。
【0007】
本発明の目的は、SOLAS条約に準拠した、船橋からの視界を確保可能な硬帆を有する大型船舶を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明が改良の対象とする船舶は、甲板上に平面視で船橋の監視位置と船首を通る中心線に沿ってn個(nは3以上の整数)の硬帆を間隔をあけて設置した全長55m以上の大型船舶である。このような大型船舶において、船首に最も近い硬帆を1番目の硬帆とし、監視位置に最も近い硬帆をn番目の硬帆と定めたときに、本発明の大型船舶は、次の3つの条件を満たすようにする:
第1条件:全ての硬帆の高さ寸法は、硬帆を除く船体構造物のうち最も高さ寸法の高いもの以下の高さ寸法である
第2条件:監視位置から見た場合に、n番目の硬帆からm+1番目(但し2≦m<nの整数)の硬帆までは、n番目の硬帆からm番目の硬帆までの高さ方向の先端が監視位置の仮想視点から全て見えるように、高さ寸法が定められている
第3条件:m-1番目の硬帆から船首方向に設置されている1以上の硬帆の幅方向の両端部が、監視位置の仮想視点からm番目の硬帆の両端を見たときの仮想視線を越えないように、幅寸法が定められている。なおここで「硬帆の両端を見たときの仮想視線」とは、仮想視点と硬帆の幅方向の端部の上端と下端とを含む仮想面内を通る仮想の線である。
【0009】
このようにn個の硬帆の寸法を定めると、特別な計算を必要とすることなく、船橋から船首の先を見たときの視界に、n個の硬帆が安全な視界を遮る障害物として存在することがない、すなわち、SOLAS条約に準拠した、船橋からの視界を確保可能な硬帆の形状寸法を定めることができる。
【0010】
なお、ここで「越えない」とは、硬帆の幅方向の端部が仮想視線と一致している状態を含むものである。また、mは、2≦m<nの範囲において、設計者が任意に定めるものである。
【0011】
上述の条件を満たすようにすれば、他の設計事項は任意である。例えば、n番目の硬帆からm+1番目までの硬帆の幅寸法は、任意に決めることができるが、風を受ける能力を高めるために仮想視線を越えるようにしてもよい。
【0012】
n番目の硬帆からm+1番目の硬帆は、高さ寸法Hnが下記の式を満たすように定められていれば、SOLAS条約に準拠したものとすることができる:
高さ寸法Hn≦Zp-(Xn-Xp)tanθ-Zmin
ただし、
Xp:監視位置(船橋)の後部垂線(Aft perpendicular)からの船長方向長さ寸法
Zp:監視位置(船橋)のベースラインからの高さ寸法
Xn:船首からn番目の硬帆の後部垂線(Aft perpendicular)からの船長方向長さ寸法
Zmin:硬帆の下端のベースラインからの高さ寸法
θ:監視位置(船橋)から船首を結ぶ直線と満載喫水線(LWL)がなす角度である。
【0013】
同様に、m番目の硬帆から1番目の硬帆は、幅寸法Bnが下記の式を満たすように定められていれば、SOLAS条約に準拠したものとすることができる:
幅寸法Bn≦((Xn-Xp)tan2.5)×2
ただし、
Xp:監視位置(船橋)の後部垂線(Aft perpendicular)からの船長方向長さ寸法
Xn:船首からn番目の硬帆の後部垂線(Aft perpendicular)からの船長方向長さ寸法である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施の形態の一例の船舶である、ばら積み貨物船の斜視図である。
【
図2】本実施の形態のばら積み貨物船の左側面図(右舷側から見た側面図)である。
【
図3】本実施の形態のばら積み貨物船の平面図である。
【
図4】第7船倉~第9船倉が設けられた船体の後方部分を示した図である。
【
図5】格納庫及び硬帆装置の部分を船体から切り出した状態で示した斜視図である。
【
図6】格納庫の入り口の近傍部と、硬帆装置の装置本体を模式的に示した平面図である。
【
図7】同期駆動装置の詳細を説明するための模式図である。
【
図8】格納庫内に硬帆を格納した状態を示す模式図であり、(A)は、正面図、(B)は平面図である。
【
図9】硬帆を格納庫から出して使用状態にした状態を示す模式図であり、(A)は、正面図、(B)は平面図である。
【
図10】幅方向寸法が可変になる構造を有した硬帆の例を示す図である。
【
図11】幅方向寸法が可変になる構造を有した硬帆の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の船舶の実施の形態を詳細に説明する。
【0016】
図1は、本実施の形態の一例の船舶である、ばら積み貨物船の斜視図であり、
図2は、本実施の形態のばら積み貨物船の左側面図(右舷側から見た側面図)であり、
図3は、平面図である。また
図4は、後述する第7船倉~第9船倉が設けられた船体の後方部分の一部切り欠き斜視図である。
【0017】
<全体構成>
本実施の形態のばら積み貨物船1は、船舶の安全性確保のための規則を定める多国間条約「海上における人命の安全のための国際条約(International Convention for the Safety of Life at Sea)(SOLAS条約)」の対象となる、全長55m以上の大型船舶である。ばら積み貨物船1は、船体3の進行方向の一方の端部に船首5を有し、他方の端部に船尾7を有し、船体3上に甲板(上甲板)9を有している。ばら積み貨物船1は、船体3内が複数の区画に区切られており、甲板9の下に、
図4に一部を示すように、貨物を積載する船倉11(第1船倉11A~第9船倉11I)が形成されている。なお、
図1には、第1船倉~第9船倉が内部に存在する位置に、符号11A~11Iを付してある。第1船倉11A~第9船倉11Iのそれぞれは、甲板9に開口した開口部13A~13Iと、開口部13A~13Iの周囲を取り囲む縁材(ハッチコーミング)15A~15Iと、船体の幅方向にスライドし、開口部13A~13Iを閉じるハッチカバー17A~17Iを備えている。船尾7には、船橋19と、レーダーマスト21と、煙突23が設けられている。
【0018】
本実施の形態のばら積み貨物船1は、8台の風力推進装置25を備えている。本実施の形態では、具体的には、8台の風力推進装置25は、8台の硬帆装置25A~25Hである。8台の硬帆装置25A~25Hは、それぞれ風力推進力発生部である硬帆27A~27Hを備えている。
図1乃至
図3では、硬帆装置25A~25Hは、使用状態にあり、甲板9上において垂直方向に硬帆27A~27Hが延びた状態になっている。8台の硬帆装置25A~25Hは、船舶の進行方向FDに並ぶ2つの船倉11の間(例えば、第1船倉11Aと第2船倉11Bの間、第2船倉11Bと第3船倉11Cの間・・・)に配置された格納庫(29A~29H)とセットになっている。なお
図1には、格納庫が存在する位置に符号29A~29Hを付してある。後述のように、硬帆27A~27Hは、甲板9下に設けられた格納庫29A~29H内に格納可能な構成となっている。
【0019】
<船橋からの視界を確保するための設計>
本実施の形態では、硬帆27A~27Hは、甲板9上に平面視で船橋19の監視位置WPと船首5の頂部を通る中心線CLに沿って間隔をあけて8個〔一般化した場合、n個(nは3以上の整数)〕配置し、船首5に最も近い硬帆27Aを1番目の硬帆とし、監視位置WPに最も近い硬帆をn番目の硬帆と定めたときに、次の3つの条件を満たすように設計してある。
【0020】
第1条件:全ての硬帆の高さ寸法は、硬帆を除く船体構造物のうち最も高さ寸法の高いもの以下の高さ寸法である。本実施の形態では、
図2に示すように、レーダーマスト21が最も高さ寸法の高いもの(
図2に示す高さ寸法Zmax)であるため、1番目から8番目の硬帆(硬帆27A~27H)は、全て、レーダーマスト21の高さ寸法以下になっている。
【0021】
第2条件:監視位置WPから見た場合に、n番目の硬帆からm+1番目(但し2≦m<nの整数)の硬帆までは、n番目の硬帆からm番目の硬帆までの高さ方向の先端が監視位置WPの仮想視点から全て見えるように、高さ寸法が定められている。なお本明細書において「仮想視点」とは、監視位置に平均的な身長を有する船員が立った状態における両目の視点の位置である。本実施の形態では、n=8、m=3であり、硬帆27Aが1番目の硬帆、硬帆27Cが3(=m)番目の硬帆、硬帆27Dが4(=m+1)番目の硬帆、硬帆27Hが8(=n)番目の硬帆である。
図2に示すように、8番目の硬帆27Hから4番目の硬帆27Dまでは、8番目の硬帆27Hから3番目の硬帆27Cまでの高さ方向の先端が監視位置WPの仮想視点から全て見える(1番目及び2番目の先端は見えない)ように高さ寸法が定められている。
【0022】
第3条件:m-1番目の硬帆から船首方向に設置されている1以上の硬帆の幅方向の両端部が、監視位置WPの仮想視点からm番目の硬帆の両端を見たときの仮想視線ILを越えないように、幅寸法が定められている。本明細書における「仮想視線IL」とは、仮想視点と、m番目の硬帆の幅方向の両端の上端及び下端を結んだ2面を含むものを言い、m番目の硬帆の幅方向の両端が甲板に対して垂直に上下方向に延びる場合には、仮想視点とm番目の硬帆の幅方向の両端の上端から下端までのいずれかの部分とを結んだ線に相当する。本実施の形態では、n=8、m=3であり、硬帆27Bが2(=m-1)番目の硬帆、硬帆27Cが3(=m)番目の硬帆である。
図3に示すように、1番目と2番目の硬帆27A及び27Bの幅方向の両端部が、監視位置WPの仮想視点から3番目の硬帆27Cの両端を見たときの仮想視線ILを越えないように、幅寸法が定められている。なお、ここで「越えない」とは、硬帆の幅方向の端部が仮想視線と一致している状態を含むものである。また、mは、2≦m<nの範囲において、設計者が任意に定めるものである。
【0023】
n番目の硬帆からm+1番目の硬帆(本実施の形態では、8番目の硬帆27Hから4番目の硬帆27D)の高さ寸法Hnは、下記の式を満たすものと表現することができる:
高さ寸法Hn≦Zp-(Xn-Xp)tanθ-Zmin
ただし、
Xp:監視位置(船橋)の後部垂線(Aft perpendicular)からの船長方向長さ寸法
Zp:監視位置(船橋)のベースライン(船底基準線)からの高さ寸法
Xn:船首からn番目の硬帆の後部垂線(Aft perpendicular)からの船長方向長さ寸法
Zmin:硬帆の下端のベースライン(船底基準線)からの高さ寸法
θ:監視位置(船橋)から船首を結ぶ直線と満載喫水線(LWL)がなす角度である。
【0024】
同様に、m番目の硬帆から1番目の硬帆(本実施の形態では、3番目の硬帆27Cから1番目の硬帆27A)の幅寸法Bnは、下記の式を満たすものと表現することができる: 幅寸法Bn≦((Xn-Xp)tan2.5)×2
ただし、
Xp:監視位置(船橋)の後部垂線(Aft perpendicular)からの船長方向長さ寸法
Xn:船首からn番目の硬帆の後部垂線(Aft perpendicular)からの船長方向長さ寸法である。
【0025】
このようにn個の硬帆の寸法を定めると、特別な計算を必要とすることなく、船橋から船首の先を見たときの視界に、n個の硬帆が安全な視界を遮る障害物として存在することがない、すなわち、SOLAS条約に準拠した、船橋からの視界を確保可能な硬帆の形状寸法を定めることができる。
【0026】
<硬帆装置の昇降機構>
図4には、第7船倉11G~第9船倉11Iが設けられた船体3の後方部分を示してある。図示したように、第7船倉11Gと第8船倉11Hの間や、第8船倉11Hと第9船倉11Iの間には、船倉同士を隔てる隔壁(30A~30H)が設けられている。なお
図4には、隔壁30Gと隔壁30Hを示してあり、その他の図には隔壁30A~30Fは図示していない。この隔壁30A~30Hは、船舶の進行方向に間隔をあけて並ぶ2枚の隔壁板によって構成されている。この2枚の隔壁板の間に硬帆を収納する格納庫29が設けられている。
【0027】
図4には全ては図示していないが、第1船倉11Aと第2船倉11Bの間には格納庫29A、第2船倉11Bと第3船倉11Cの間には格納庫29B・・・というように、船体3には計8個の格納庫29A~29H(
図1参照)が設けられており、それぞれが硬帆装置25A~25Hとセットになっている。
図4に示した例では、硬帆27Gは、格納庫29Gから出された使用状態であり、硬帆27Hは、格納庫29H内に格納された不使用状態である。必要に応じて硬帆を格納庫内に収納することができるため、風力が航行の妨げになる場合は全ての硬帆を格納庫に格納する事で通常の船舶として航行可能であり、また港にて硬帆を格納庫に格納すれば、硬帆が荷役クレーンの妨げにならない。
【0028】
図5は、格納庫29H及び硬帆装置25Hの部分を船体3から切り出した状態で示した斜視図である。他の格納庫及び硬帆装置も、基本的な構造は同一であるため、以下では、説明の便宜上、区別することなく、格納庫は符号29、硬帆装置は符号25として説明し、他の格納庫及び硬帆装置については、説明を省略する。
図6は、格納庫29の入り口31の近傍部と、硬帆装置25の装置本体45を模式的に示した平面図である。
【0029】
格納庫29は、船体3の幅方向WD、上下方向VD及び進行方向FDに延びる形状をしており、その入り口31を塞ぐ蓋部材33が、甲板9上に開放位置と閉鎖位置との間で移動可能に配置されている。本実施の形態では、蓋部材33は、入り口31を開放する開放位置と入り口31を閉じる閉鎖位置との間で移動させる蓋移動機構を更に備えている。格納庫29内には、後述の装置本体45が昇降する際に接触する複数の振動抑制リブフレーム35が進行方向FD両側に配置されている。複数の振動抑制リブフレーム35は、前述の隔壁30を構成する2枚の隔壁板に溶接されている。格納庫29の周囲には、二重底37と、船舷側下部に設けられた一対の下部ホッパータンク39,39´と、船舷側上部に設けられた一対の上部ホッパータンク41,41´とが設けられている。格納庫29の入り口31の近傍部には、後述の装置本体45の固定装置を構成する複数の(本実施の形態では一例として計8本の)ピストン43が配置されている(
図6参照)。
【0030】
硬帆装置25は、風力推進力発生部である硬帆27と、硬帆27が固定された装置本体45と、硬帆27を上下方向に昇降させる昇降装置47とを備えている。装置本体45は、硬帆27を回転可能に支持する軸部49と、該軸部49を回動させる回動駆動源を含んだ駆動装置51を備えている。また、装置本体45の側面には、ピストン43の延伸部分を受け入れる計8つのシリンダ53(
図6では、破線で示してある)と、格納庫29の壁面に接触する4つの第1のローラ55と、振動抑制リブフレーム35に接触する4つの第2のローラ57が設けられている(
図6参照)。昇降装置47は、幅方向WDに位置する装置本体45の両端部を同期した状態で一緒に昇降させる一対の昇降機構59,59´を備えている。
【0031】
[昇降機構の詳細]
図5に示すように、一対の昇降機構59,59´は、一対の線状体群61,61´、一対のウインチ63,63´と、一対の滑車装置65,65´と、一対の線状体導出部66,66´と、同期駆動装置67を備えている。一対の線状体群61,61´は、装置本体45の両端部にそれぞれ連結された吊り上げ用の複数本の線状体(本実施の形態では複数本のチェーン)からなる。一対のウインチ63,63´は、甲板9上の入り口31の幅方向WDの両側に配置されて、一対の線状体群61,61´に含まれる複数本の線状体を巻き上げ又は巻き下げる。一対の滑車装置65,65´は、複数本の線状体を対応するウインチ63,63´に案内する。一対の線状体導出部66,66´は、複数本の線状体を格納庫内から対応する滑車装置に導出する。同期駆動装置67は、一対のウインチ63,63´を同期して相反する方向に回転駆動する。
【0032】
図7は、同期駆動装置67の詳細を説明するための模式図である。
図7では、一対のウインチ63,63´は回転軸69,69´のみを図示している。回転軸69,69´は一対の端部69a,69b及び69´a,69´bを有している。本実施の形態では、同期駆動装置67は、同期運転される2台の原動機(2つの電動機71及び73)と、第1の力伝達機構75、第2の力伝達機構77、第3の力伝達機構79及び第4の力伝達機構81の計4つの力伝達機構によって構成されている。軸の回転方向は、矢印で明示した通りである。
【0033】
具体的には、第1の原動機71は、第1の駆動軸71aを有しており、第1の力伝達機構75は、第1の原動機71の第1の駆動軸71aとウインチ63の回転軸69の一方の端部69aとの間に設けられて、第1の駆動軸71aの回転を、ウインチ63の回転軸69が、第1の駆動軸71aと同じ方向に回転するように伝達する。第2の力伝達機構77は、第1の原動機71の第1の駆動軸71aとウインチ63´の回転軸69´の一方の端部69´aとの間に設けられて、第1の駆動軸71aの回転を、ウインチ63´の回転軸69´が、第1の駆動軸71aと逆方向に回転するように伝達する。
【0034】
より詳細には、第1の力伝達機構75は、第1の駆動軸71aに設けられた第1の駆動スプロケット83と、回転軸69の一方の端部69aに設けられた第1の被駆動スプロケット85と、第1の駆動スプロケット83と第1の被駆動スプロケット85との間に張り渡された第1のチェーン87とを備えており、第2の力伝達機構77は、第1の駆動軸71aに設けられた第2の駆動スプロケット89と、回転軸69´の一方の端部69´aの近傍に配置された第1の被駆動軸91に設けられた第2の被駆動スプロケット93と、第2の駆動スプロケット89と第2の被駆動スプロケット93との間に張り渡された第2のチェーン95と、回転軸69´と第1の被駆動軸との間に設けられて、第1の被駆動軸91の回転力で第1の被駆動軸91の回転方向とは逆方向に回転軸69´を回転させる第1の逆転機構97とを備えている。
【0035】
また、第2の原動機73は、第2の駆動軸73aを有しており、第3の力伝達機構79は、第2の原動機73の第2の駆動軸73aとウインチ63´の回転軸69´の他方の端部69´bとの間に設けられて、第2の駆動軸73aの回転を、ウインチ63´の回転軸69´が、第2の駆動軸73aと同じ方向に回転するように伝達する。第4の力伝達機構81は、第2の原動機73の第2の駆動軸73aとウインチ63の回転軸69の他方の端部69bとの間に設けられて、第2の駆動軸73aの回転を、ウインチ63の回転軸69が、第2の駆動軸73aと逆方向に回転するように伝達する。
【0036】
より詳細には、第3の力伝達機構79は、第2の駆動軸73aに設けられた第3の駆動スプロケット99と、回転軸69´の他方の端部69´bに設けられた第3の被駆動スプロケット101と、第3の駆動スプロケット99と第3の被駆動スプロケット101との間に張り渡された第3のチェーン103とを備えており、第4の力伝達機構81は、第2の駆動軸73aに設けられた第4の駆動スプロケット105と、回転軸69の他方の端部69bの近傍に配置された第2の被駆動軸107に設けられた第4の被駆動スプロケット109と、第4の駆動スプロケット105と第4の被駆動スプロケット109との間に張り渡された第4のチェーン111と、回転軸69と第2の被駆動軸107との間に設けられて、第2の被駆動軸107の回転力で第2の被駆動軸107の回転方向とは逆方向に回転軸69を回転させる第2の逆転機構113とを備えている。
【0037】
このようにすることで、2台の原動機71及び73を用いて同期駆動装置67を実現することができ、負荷の分散が可能である。また、原動機を2台にすることで、2台のうち、1台の原動機が故障等したとしても、同期駆動装置を駆動させることができ、冗長化することもできる。
【0038】
[昇降機構の動作]
図8は、格納庫29内に硬帆27を格納した状態を示す模式図であり、(A)は、正面図、(B)は平面図であり、
図9は、硬帆27を格納庫29から出して使用状態にした状態を示す模式図であり、(A)は、正面図、(B)は平面図である。
図8(B)及び
図9(B)では、蓋部材33は省略してあり、また、硬帆部分については、説明の便宜上、一部透明なものとして図示してある。なお
図8及び
図9には、
図1乃至
図7に示した部材と同一の部材には、
図1乃至
図7に付した符号と同じ符号を付してある。
【0039】
格納庫29内に硬帆27を格納した状態(
図8A及び
図8B)では、蓋部材33は入り口31を閉じる閉鎖位置に存在する。硬帆を使用状態にする場合は、蓋部材33を開放位置に移動させてから、第1及び第2の電動機71,73を駆動させる。第1及び第2の電動機71,73を駆動させると、一対のウインチ63,63´が一対の線状体群61,61´を巻き取ることで、装置本体45の両端部が同期した状態で上昇する。そして装置本体45が入り口31の近傍部まで上昇したところで、ピストン43を作動させ、ピストン43の延伸部分をシリンダ53内に挿入し、装置本体45を固定し、硬帆を使用状態にする(
図9A及び
図9B)。
【0040】
[硬帆の拡張]
本実施の形態では、
図1に示した硬帆27D~27Hは、それぞれ幅方向寸法が可変になる構造も有している。具体的には、
図10及び
図11に示すように、内側に第1の拡張部27a及び第2の拡張部27bを収納している。甲板9上に硬帆27を出した状態で、第1の拡張部27a及び第2の拡張部27bを繰り出すことにより、風を受ける硬帆27の面積を拡張させることが可能である。
【0041】
上記実施の形態は、一例として記載したものであり、その要旨を逸脱しない限り、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、SOLAS条約に準拠した、船橋からの視界を確保可能な硬帆を有する大型船舶を提供することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 ばら積み貨物船
3 船体
5 船首
7 船尾
9 甲板(上甲板)
11(11A~11I) 船倉
13(13A~13I) 開口部
15(15A~15I) 縁材
17(17A~17I) ハッチカバー
19 船橋
21 レーダーマスト
23 煙突
25(25A~25H) 風力推進装置(硬帆装置)
27(27A~27H) 風力推進力発生部(硬帆)
29(29A~29H) 格納庫
31 入り口
33 蓋部材
35 振動抑制リブフレーム
37 二重底
39,39´ 一対の下部ホッパータンク
41,41´ 一対の上部ホッパータンク
43 ピストン
45 装置本体
47 昇降装置
49 軸部
51 駆動装置
53 シリンダ
55 第1のローラ
57 第2のローラ
59,59´ 一対の昇降機構
61,61´ 一対の線状体群
63,63´ 一対のウインチ
65,65´ 一対の滑車装置
67 同期駆動装置
69,69´ 回転軸
71 第1の電動機
73 第2の電動機
75 第1の力伝達機構
77 第2の力伝達機構
79 第3の力伝達機構
81 第4の力伝達機構
83 第1の駆動スプロケット
85 第1の被駆動スプロケット
87 第1のチェーン
89 第2の駆動スプロケット
91 第1の被駆動軸
93 第2の被駆動スプロケット
95 第2のチェーン
97 第1の逆転機構
99 第3の駆動スプロケット
101 第3の被駆動スプロケット
103 第3のチェーン
105 第4の駆動スプロケット
107 第2の被駆動軸
109 第4の被駆動スプロケット
111 第2の逆転機構