(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175544
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】エマルション型アニオン電着塗料、塗装方法、および塗装物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 163/00 20060101AFI20221117BHJP
C09D 5/44 20060101ALI20221117BHJP
C09D 163/02 20060101ALI20221117BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20221117BHJP
C09D 133/02 20060101ALI20221117BHJP
C09D 153/00 20060101ALI20221117BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20221117BHJP
【FI】
C09D163/00
C09D5/44 B
C09D163/02
C09D5/02
C09D133/02
C09D153/00
C09D7/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082045
(22)【出願日】2021-05-14
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 翔矢
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CQ001
4J038DB061
4J038JA17
4J038JA27
4J038MA07
4J038MA10
4J038MA13
4J038NA03
4J038NA12
4J038PA04
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】熱衝撃耐性、基材密着性、耐水性、耐食性等に優れた塗膜を形成できる貯蔵安定性に優れたエマルション型アニオン電着塗料の提供。
【解決手段】エポキシ樹脂(A)部と、カルボキシル基含有アクリル重合体(B)部とを有する複合樹脂(C)、水、および有機溶媒(D)を含有し、電気伝導率が300~1200μS/cmである、エマルション型アニオン電着塗料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)部と、カルボキシル基含有アクリル重合体(B)部とを有する複合樹脂(C)、水、および有機溶媒(D)を含有し、電気伝導率が300~1200μS/cmである、エマルション型アニオン電着塗料。
【請求項2】
カルボキシル基含有アクリル重合体(B)部が、ガラス転移温度(Tg)40~130℃である(B-1)部とガラス転移温度(Tg)-20~30℃である(B-2)部とを含む、請求項1に記載のエマルション型アニオン電着塗料。
【請求項3】
有機溶媒(D)を3.0~20.0質量%含有する、請求項1または2に記載のエマルション型アニオン電着塗料。
【請求項4】
有機溶媒(D)が、沸点が120~250℃である有機溶媒(D-1)を含む、請求項1~3いずれかに記載のエマルション型アニオン電着塗料。
【請求項5】
エポキシ樹脂(A)部が、ビスフェノール型エポキシ樹脂により形成されている、請求項1~4いずれかに記載のエマルション型アニオン電着塗料。
【請求項6】
請求項1~5いずれかに記載のエマルション型アニオン電着塗料により、金属被塗物に電着塗装する塗装方法。
【請求項7】
請求項1~5いずれかに記載のエマルション型アニオン電着塗料を用いて、金属被塗物に電着塗装し、140~250℃で加熱することを特徴とする、塗装物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニオン電着塗装において塗膜形成に使用できるエマルション型アニオン電着塗料と、その塗装方法、及び塗装物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電着塗装は、電着塗料中に金属等の被塗物と前記被塗物にとって対となる電極とを浸漬して電圧を印加し、塗料中の電荷を帯びた塗膜形成用成分を電気泳動させて被塗物上に析出させ、塗膜を形成する塗装方法である。電着塗装は被塗物が複雑な形状であっても、均一な膜厚の塗膜形成が可能であり、更にはエッジカバー性にも優れ、スプレー塗装やディッピング塗装等と比較してムラのない塗膜形成ができることから被塗物の耐食性、耐水性、耐久性等を向上させる目的で自動車部品、建材、電子材料部品等の様々な分野において使用されている。また、電着塗装は、少ない有機溶剤量にて塗装を行うことが可能であるため、VOC(揮発性有機化合物)対策の観点からも非常に優れた塗装方法である。
塗膜形成用成分の電荷によって、電着塗装はアニオン電着塗装とカチオン電着塗装とに分けられ、中でも、アニオン電着塗装はアニオン電荷を帯びたアニオン電着塗料を陽極である被塗物に電着させる塗装方法でありアルミニウム等の電着塗装においてはアニオン電着塗装が多く採用されている。
【0003】
特許文献1には、アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミドと、アルコキシシリル基を有する(メタ)アクリル系モノマーとを有機溶剤中で重合し樹脂溶液を得、前記樹脂溶液中のカルボキシル基を中和し水溶性とした後、メラミン樹脂を加えてアニオン電着塗料を得る旨記載されている(請求項1、段落0020、実施例等)。しかしながら、溶液重合によって得られる水溶性アクリル樹脂を塗膜樹脂の主成分として用いるため、形成される塗膜が脆くなり易く、基材密着性や熱衝撃耐性が不十分であるという問題があった。
【0004】
特許文献2には、界面活性剤としてポリオキシエチレンフェニルエーテル硫酸ナトリウムを用い、水中でアクリル系モノマーを乳化重合した後、さらにコア用のアクリル系モノマーを乳化重合してアニオン性アクリル樹脂系エマルションを得る旨記載されている(実施例6~7)。しかしながら、乳化重合の際使用する界面活性剤由来のナトリウムイオンが塗膜中に残るため、塗膜の耐水性、耐食性が不十分であるという問題があった。
【0005】
特許文献3には、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂に、1分子中に少なくとも1個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂を反応させてなるエポキシ樹脂変性ポリエステル樹脂を含んでなるアニオン電着塗料が開示されている。しかしながら、得られる塗膜は自動車部品等で要求される高度な耐食性を満足できるものではなく、また塗膜の熱衝撃耐性が不十分であるという問題があった。
【0006】
また、特許文献4には、イオン性官能基含有水性高分子化合物で被覆されたポリアリーレンスルフィド微粒子分散液と、イオン性官能基含有水性樹脂とを含むことを特徴とする電着塗料組成物が開示されている。しかしながら、結晶性の熱可塑性樹脂であるポリアリーレンスルフィドの水性媒体中での長期分散安定性を得ることが難しいために、塗料の貯蔵安定性、および得られる塗膜の塗装外観が不十分であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10-7739号公報
【特許文献2】特開平4-55479号公報
【特許文献3】特開2007-112996号公報
【特許文献4】特開2017-186391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の課題を解決するものであり、電着塗装に用いることで優れた塗膜外観が得られ、被塗装物に熱衝撃耐性、基材密着性、耐水性、耐食性等に優れた塗膜を形成できる貯蔵安定性に優れたエマルション型アニオン電着塗料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のエマルション型アニオン電着塗料(以下、単に電着塗料と省略する場合がある)は、エポキシ樹脂(A)部と、カルボキシル基含有アクリル重合体(B)部とを有する複合樹脂(C)、水、および有機溶媒(D)を含有し、電気伝導率が300~1200μS/cmである、エマルション型アニオン電着塗料である。
【発明の効果】
【0010】
上記の本発明によれば、長期にわたり高い貯蔵安定性を有し、アニオン電着塗装によって形成した塗膜の塗膜外観、熱衝撃耐性、基材密着性、耐水性および、耐食性に優れたエマルション型アニオン電着塗料を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のエマルション型アニオン電着塗料、及びその製造方法について説明する。
なお、本発明において、モノマーは、エチレン性不飽和モノマーである。また、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸、及びメタクリル酸の各々を含み、(メタ)アクリレートは、アクリレート及びメタクリレートの各々を含む。
また、本発明において、(イソ)アルキルエーテルは、ノルマルアルキルエーテル(n-アルキルエーテル)、及び、イソアルキルエーテルの各々を含む(アルキルには、プロピル、ブチル等の具体的なアルキル基が入ることがある)。
また、本発明の塗膜は、エマルション型アニオン電着塗料を金属板等の基材に電着塗装した後に焼き付けをおこなって形成した被膜をいう。
【0012】
[エマルション型アニオン電着塗料]
本発明のエマルション型アニオン電着塗料は、複合樹脂(C)、水、および有機溶媒(D)を含有する、エマルション型アニオン電着塗料であって、
前記複合樹脂(C)が、エポキシ樹脂(A)部と、カルボキシル基含有アクリル重合体(B)部(以下、単に重合体(B)部とも称す)とを有する。
【0013】
<エポキシ樹脂(A)部>
エポキシ樹脂(A)部とは、エポキシ樹脂(A)の一部が反応してアクリル重合体(B)と結合状態を形成した複合樹脂(C)における、エポキシ樹脂(A)に由来する構造部位を示す。エポキシ樹脂(A)としてはビスフェノール型、ノボラック型、ナフタレン型、ビフェニル型、脂環族系等のエポキシ樹脂を好適に用いることが出来る。これらの中でも、塗膜にした際の熱衝撃耐性、耐食性、基材密着性を考慮すると、ビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましい。
【0014】
エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量は、200~50,000が好ましく、300~35,000がより好ましく、350~25,000が特に好ましい。
エポキシ当量が上記下限値以上であれば、塗膜の熱衝撃耐性、及び耐食性がより優れている。また、上記上限値以下であれば、塗膜の基材密着性、及びエマルション型アニオン電着塗料の貯蔵安定性がより優れている。
【0015】
また、エポキシ樹脂(A)の重量平均分子量は、1,000~200,000が好ましく、1,250~150,000がより好ましく、1,500~100,000が特に好ましい。
重量平均分子量が上記下限値以上であれば、塗膜の熱衝撃耐性及び耐食性がより優れている。また、上記上限値以下であれば、塗膜の基材密着性及びエマルション型アニオン電着塗料の貯蔵安定性がより優れている。
【0016】
本発明においてエポキシ樹脂(A)の市販品としては、例えば、三菱ケミカル(株)製jER1001、jER1002、jER1003、jER1004、JER1007 、jER1009、jER1010、jER1256、jER4250、jER4275、jER4005P、jER4007P、jER4010P等が挙げられる。
【0017】
<カルボキシル基含有アクリル重合体(B)部>
カルボキシル基含有アクリル重合体(B)部とは、エチレン性不飽和モノマーからなるアクリル系重合体であって、複合樹脂(C)においてエポキシ樹脂(A)と結合状態を形成している部位である。前記モノマーは少なくともカルボキシル基含有モノマーを含み、必要に応じて更に、その他のエチレン性不飽和モノマーを用いてもよい。
【0018】
カルボキシル基含有モノマーは、少なくとも、エチレン性不飽和結合と、カルボキシル基とを有している。エチレン性不飽和結合としては、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基などが挙げられる。
具体例としては、(メタ)アクリル酸、(無水)マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等が挙げられ、中でも、(メタ)アクリル酸を含むことが好ましい。
カルボキシル基含有モノマーは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
その他のエチレン性不飽和モノマーは、特に限定されないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー;
ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等の水酸基を有するエチレン性不飽和モノマー;
スチレン、ビニルトルエン、2-メチルスチレン、tert-ブチルスチレン、クロルスチレン等のスチレン系モノマー;
N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミド等のN-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-(n-,イソ)ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-エトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-(n-、イソ)ブトキシエチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド、及び(メタ)アクリルアミド等のアミド系モノマー等が挙げられる。
また、前記その他のエチレン性不飽和モノマーとして、アクリル酸アルキルエステル系モノマー、又はスチレン系モノマーを用いることが好ましい。
その他のエチレン性不飽和モノマーは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
重合体(B)部は、常法に従い、アゾビス系の重合開始剤や、過酸化物系の重合開始剤等を適宜用いて、エチレン性不飽和モノマーを重合することにより得られる。
アゾビス系の重合開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスメチルブチロニトリル、アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス-(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。
過酸化物系の重合開始剤としては、例えば、tert-ブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド(過酸化ベンゾイル)、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられる。
【0021】
また、反応工程において使用される有機溶媒としては、特に限定されるものではないが、下記に示すような親水性が比較的高い溶媒が好ましい。
具体的には、例えば、エタノール、n-プロパノール、イソプロパール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n-アミルアルコール、アミルアルコール、メチルアミルアルコール、オクタノール、2-エチルヘキサノール等のアルコール類;
エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等のグリコール類;
エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノ(イソ)プロピルエーテル、エチレングリコールジ(イソ)プロピルエーテル、エチレングリコールモノ(イソ)ブチルエーテル、エチレングリコールジ(イソ)ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-tert-ブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、1,3-ブチレングリコール-3-モノメチルエーテル、3-メトキシブタノール、3-メチル-3-メトキシブタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ(イソ)プロピルエーテル、ジエチレングリコールジ(イソ)プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ(イソ)ブチルエーテル、ジエチレングリコールジ(イソ)ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールジヘキシルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ(イソ)プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ(イソ)ブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジ(イソ)プロピルエーテル、プロピレングリコールジ(イソ)ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ(イソ)プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ(イソ)ブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジ(イソ)プロピルエーテル、ジプロピレングリコールジ(イソ)ブチルエーテル等の各種エーテルアルコールないしはエーテル類;
エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メトシブチルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート等のアセテート類等の有機溶媒を適宜用いることができ、必要に応じては、反応後に別途追加してもよい。
【0022】
重合体(B)部は、カルボキシル基含有アクリル重合体(B-1)部とカルボキシル基含有アクリル重合体(B-2)部とを含むことがより好ましい。(以下夫々、(B-1)部、(B-2)部と省略する。)
上記、(B-1)部と(B-2)部を含む複合樹脂(C)は、後述するエステル化法により形成することが好ましい。具体的には予め(B-1)部、(B-2)部を形成するアクリル系重合体を夫々作製した後、これらとエポキシ樹脂(A)とを反応させることで得られる。
【0023】
(B-1)部のガラス転移温度(Tg)は、40~130℃が好ましく、45~125℃がより好ましく、50~120℃が特に好ましい。ガラス転移温度(Tg)が上記下限値以上であれば、塗膜の耐食性、及びエマルション型アニオン電着塗料の貯蔵安定性がより優れている。また、上記上限値以下であれば、電着塗装した際の塗膜外観、塗膜の熱衝撃耐性がより優れている。
【0024】
(B-2)部のガラス転移温度(Tg)は、-20~30℃が好ましく、-20~25℃がより好ましく、-20~20℃が特に好ましい。
ガラス転移温度(Tg)が上記下限値以上であれば、塗膜の耐水性、及び耐食性がより優れている。また、上記上限値以下であれば、電着塗装した際の塗膜外観、塗膜の熱衝撃耐性がより優れている。
【0025】
なお、上述したガラス転移温度(Tg)は、ポリマーハンドブック等に記載されたモノマーのホモポリマーのTgを使用し、下記数式(1)で示すFoxの式で算出した値である。
例えば、M1、M2、M3、M4、・・・・MNのモノマーを使用する場合、それぞれの質量%を、W1、W2、W3、W4、・・・・WN(W1、W2、W3、W4、・・・・WNの合計を100質量%とする。)とし、それぞれのモノマーの単独重合体のガラス転移温度(単位:K)を、Tg1、Tg2、Tg3、Tg4、・・・・TgNとした時に、共重合して得られる共重合体のTg(K)は、下記数式(1)のFoxの式で求める。
1/Tg(K)=[(W1/Tg1)+(W2/Tg2)+(W3/Tg3)+(W4/Tg4)・・・・(WN/TgN)]/100・・・・数式(1)
なお、モノマーのホモポリマーのTgが既知でない場合、TgはDSC(Differential Scanning Calorimetry、示差走査熱量分析)で測定する。DSCでの昇温は、10℃/minである。
【0026】
また、(B-1)部を形成するアクリル系重合体の酸価は、180~500mgKOH/gが好ましく、200~480mgKOH/gがより好ましく、200~450mgKOH/gが特に好ましい。
酸価が上記下限値以上であれば、塗膜の基材密着性、及びエマルション型アニオン電着塗料の貯蔵安定性がより優れている。また、上記上限値以下であれば、塗膜の耐水性、及び耐食性がより優れている。
なお、本発明における酸価は、重合体(B)部を形成するモノマー全量中のカルボキシル基含有モノマーの仕込み比率から求められる理論値を用いた。
【0027】
(B-1)部を形成するアクリル系重合体の重量平均分子量は、5,000~100,000が好ましく、6,000~90,000がより好ましく、7,000~80,000が特に好ましい。
重量平均分子量が上記下限値以上であれば、塗膜の熱衝撃耐性、及び耐食性がより優れている。また、上記上限値以下であれば、電着塗装にて塗装した際の塗膜外観がより優れる。
【0028】
また、(B-2)部を形成するアクリル系重合体の酸価は、10~170mgKOH/gが好ましく、10~150mgKOH/gがより好ましく、10~135mgKOH/gが特に好ましい。
酸価が上記下限値以上であれば、塗膜の基材密着性、及びエマルション型アニオン電着塗料の貯蔵安定性がより優れている。また、上記上限値以下であれば、塗膜の耐水性、及び耐食性がより優れている。
【0029】
(B-2)部を形成するアクリル系重合体の重量平均分子量は、7,000~200,000が好ましく、8,000~170,000がより好ましく、9,000~150,000が特に好ましい。
重量平均分子量が上記下限値以上であれば、塗膜の耐食性がより優れている。また、上記上限値以下であれば、電着塗装にて塗装した際の塗膜外観がより優れる。
【0030】
重合体(B)部中の(B-1)部と(B-2)部の割合は質量比で(B-1)部/(B-2)部=100/0~20/80であることが好ましく、100/0~25/75であることがより好ましく、85/15~25/75であることが特に好ましい。
(B-1)部と(B-2)部の質量比が上記範囲であれば、複合樹脂(C)の電着塗料中での分散安定性に優れ、また、電着塗装した際の塗膜外観、塗膜の熱衝撃耐性、耐食性がより優れている。
なお、重合体(B)部は(B-1)部と(B-2)部に加えて、その他のアクリル重合体部を含んでもよい。
【0031】
<複合樹脂(C)>
複合樹脂(C)は、エポキシ樹脂(A)部と、カルボキシル基含有アクリル重合体(B)部とを有し、エポキシ樹脂(A)の少なくとも一部と、アクリル重合体(B)の少なくとも一部とが結合している樹脂である。
【0032】
複合樹脂(C)の合成方法は特に限定されないが、その製造方法の例として、エステル化法、グラフト法、直接法等が挙げられる。即ち、
エステル化法:カルボキシル基含有モノマーを必須成分とするエチレン性不飽和モノマーを重合してカルボキシル基含有アクリル重合体(B)を得、このカルボキシル基の一部と、エポキシ樹脂(A)中のエポキシ基の一部とを塩基性化合物の存在下にエステル化反応することにより複合樹脂(C)を得る方法である。
グラフト法:エポキシ樹脂(A)の存在下で重合開始剤を用いて、カルボキシル基含有モノマーを必須成分とするエチレン性不飽和モノマーを重合することにより、アクリル重合体がエポキシ樹脂にグラフトした複合樹脂(C)を得る方法である。
直接法:エポキシ樹脂(A)中のエポキシ基の一部を、カルボキシル基含有モノマーのカルボキシル基と反応せしめ、この化合物とカルボキシル基含有モノマーを必須成分とするエチレン性不飽和モノマーを共重合することによって複合樹脂(C)を得る方法である。
【0033】
また、複合樹脂(C)は上記の手法を組み合わせても得ることが可能である。例えば、エポキシ樹脂(A)の存在下でエチレン性不飽和モノマーを重合してグラフト重合を行った後、塩基性化合物を加えてエステル化反応する方法や、エポキシ樹脂(A)とカルボキシル基含有モノマーとの反応生成物の存在下、エチレン性不飽和モノマーを共重合して直接重合を行い、次いで、エステル化反応する方法等が挙げられる。
【0034】
上記グラフト法において、重合に使用する重合開始剤としては、重合体(B)部を得る際に例示した重合開始剤のうち、過酸化物が好適であり、特にベンゾイルパーオキサイドが好ましい。
尚、グラフト反応時の温度、時間等の反応条件は特別なものではなく、公知の条件を用いて行うことができる。
【0035】
エステル化の際に用いられるエステル化触媒としては、有機アミン化合物、アンモニア、アルカリ金属の水酸化物等の塩基性化合物が好ましい。
前記有機アミン化合物は、例えばモノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N-ジメチル-エタノールアミン(別名:ジメチルアミノエタノール)、N,N-ジエチル-エタノールアミン、2-ジメチルアミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。
前記アルカリ金属の水酸化物は、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
塩基性化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができ、また、これらを1度にあるいは数度に分けて添加してもよい。
尚、エステル化反応時の温度、時間等の反応条件は特別なものではなく、公知の条件を用いて行うことができる。
【0036】
複合樹脂(C)を得る際、エポキシ樹脂(A)とアクリル重合体(B)との割合は質量比で(A)/(B)=45/55~90/10であることが好ましく、50/50~85/15であることがより好ましく、55/45~85/15であることが特に好ましい。なお、重合体(B)の質量は、構成するモノマーの合計量とする。
尚、(B)は(B-1)部および(B-2)部を形成するアクリル系重合体を用いる場合、上記アクリル重合体の質量合計である。
(B)の割合が55以下であれば、得られる複合樹脂(C)の電着塗料中での分散安定性に優れる上、親水性が高くなりすぎないことで塗膜の耐水性、耐食性がより優れ、また、塗膜の熱衝撃耐性がより優れる。
一方、(B)の割合が10以上であれば、得られる複合樹脂(C)の親水性が十分となり、電着塗料中での分散安定性に優れ、また、電着塗装した際の塗膜外観、塗膜の基材密着性がより優れる。
【0037】
本願の複合樹脂(C)は水と有機溶媒(D)の混合溶媒中に分散しエマルション型塗料として用いる。複合樹脂(C)をエマルションとするには、常法のアクリル変性エポキシ樹脂のエマルション化と同様の手法で得ることができる。詳しくは、複合樹脂(C)中に存在するカルボキシル基を、塩基性化合物等で中和し、親水性を付与する手法が挙げられる。さらに詳しくは、複合樹脂(C)の溶液に塩基性化合物を加えた後、水性媒体を添加してエマルションとする方法や、複合樹脂(C)の溶液に、塩基性化合物を含有する水性媒体を添加してエマルション化する方法等が例示できる。
【0038】
複合樹脂(C)中に存在するカルボキシル基の中和に用いられる塩基性化合物としては、有機アミン化合物、アンモニア、アルカリ金属の水酸化物等が好ましい。
前記有機アミン化合物は、例えばモノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N-ジメチル-エタノールアミン(別名:ジメチルアミノエタノール)、N,N-ジエチル-エタノールアミン、2-ジメチルアミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。
前記アルカリ金属の水酸化物は、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
塩基性化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
<有機溶媒(D)>
本発明のエマルション型アニオン電着塗料は、溶媒として水及び有機溶媒(D)を含有する。有機溶媒(D)を含有することにより、例えば、電着塗装時の造膜性を向上することができ、塗装外観や塗膜の基材密着性、熱衝撃耐性、耐食性等を向上できる。有機溶媒(D)としては、特に限定されるものではないが、前記アクリル重合体(B)部を合成する際に用いる溶媒として例示した親水性が高い溶媒が好ましい。中でも、エマルション型アニオン電着塗料の貯蔵安定性、表面張力の制御効果、電着塗装時の造膜性、焼付時の溶剤揮発速度の観点から、アルキル基の炭素数が1~6であるアルキレングリコールモノアルキルエーテル、またはアルキル基の炭素数が1~10であるアルキルアルコールが好ましい。
有機溶媒(D)は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
有機溶媒(D)は、エマルション型アニオン電着塗料の中に3.0~20.0質量%含むことが好ましく、3.0~18.0質量%含むことがより好ましく、4.0~17.0質量%含むことが特に好ましい。
有機溶媒(D)の含有量が3.0質量%以上20.0質量%以下であれば、電着塗装時の造膜性が向上し、より優れた塗膜外観が得られることで、塗膜の熱衝撃耐性、耐食性等がより優れる。
水は、エマルション型アニオン電着塗料の中に50~98質量%含むことが好ましく、55~97質量%含むことがより好ましく、60~96質量%含むことが特に好ましい。
【0041】
また、有機溶媒(D)は、沸点が120~250℃である有機溶媒(D-1)を含むことが好ましく、150~250℃がより好ましい。有機溶媒(D-1)の沸点が120~250℃の範囲であれば、電着塗装時の造膜性、焼付時の造膜性が向上し、より優れた塗膜外観が得られることで、塗膜の熱衝撃耐性、基材密着性、耐食性等がより優れる。
尚、有機溶媒(D)は有機溶媒(D-1)単独で構成されていても良く、必要に応じて有機溶媒(D-1)とは異なる沸点の有機溶媒を混合して使用してもよい。
【0042】
沸点120~250℃の有機溶媒(D-1)はエマルション型アニオン電着塗料の中に1.5~17.0質量%含むことが好ましく、3.0~15.0質量%含むことがより好ましく、3.0~13.0質量%含むことが特に好ましい。
有機溶媒(D-1)の含有量が1.5質量%以上17.0質量%以下であれば、電着塗装時の造膜性、焼付時の造膜性が向上し、より優れた塗膜外観が得られることで、塗膜の熱衝撃耐性、基材密着性、耐食性等がより優れる。
【0043】
本発明のエマルション型アニオン電着塗料には、さらに、必要に応じて塗膜の硬化性や基材への密着性を向上させる目的で、硬化剤を添加することができる。硬化剤としては、フェノール樹脂、アミノ樹脂、ブロック化ポリイソシアネート化合物、β-ヒドロキシアルキルアミド、トリス(アルコキシカルボニルアミノ)トリアジン等を用いることができる。中でもフェノール樹脂、アミノ樹脂からなる群より選ばれることが好ましい。
硬化剤は1種または2種以上添加することができる。
硬化剤は、複合樹脂(C)中のカルボキシル基と反応し得る。また、複合樹脂(C)が水酸基を有する場合には、硬化剤は、それらの水酸基とも反応し得る。さらに、アクリル重合体(B)部を構成する、その他のエチレン性不飽和モノマーがアミド系モノマーを含み、複合樹脂(C)がこのアミド系モノマーに由来する架橋性官能基を有する場合は、これら架橋性官能基とも反応し得る。
【0044】
フェノール樹脂としては、フェノール化合物と、ホルムアルデヒド等のアルデヒドとの付加縮合反応により合成した樹脂が挙げられる。
フェノール化合物としては、例えば、ビスフェノールA、フェノール、o-クレゾール、p-クレゾール、m-クレゾール、p-tert-ブチルフェノール、p-フェニルフェノール、p-ノニルフェノール、2,3-キシレノール、2,5-キシレノール、3,5-キシレノール、カテコール、レゾルシノール、およびハイドロキノン等が挙げられる。この場合、フェノール化合物は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
フェノール樹脂は市販品を用いてもよい。好ましく使用できる市販品としては、例えば、Allnex社製Phenodur PR285、PR411、PR516、PR517、R612、VPR1785;アイカSDKフェノール社製 ショウノールCKS-380A、CKS-3898等を挙げることができる。
【0046】
またアミノ樹脂としては、尿素やメラミン、ベンゾグアナミン等のアミノ化合物にホルムアルデヒドを付加反応させたもの等を挙げることができる。この場合、アミノ化合物は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
アミノ樹脂は市販品を用いてもよい。好ましく使用できる市販品としては、例えば、Allnex社製Cymel301、303LF、304、323、325、328、370、659、1123;また、BASF社製 Luwipal014、015、018、066、070、052、B017等を挙げることができる。
【0048】
上記フェノール樹脂やアミノ樹脂は、ホルムアルデヒドの付加により生成したメチロール基の一部ないし全部を、炭素数が1~12であるアルコール類によってエーテル化した形のものも好適に用いられる。
【0049】
ブロック化ポリイソシアネート化合物に用いられるポリイソシアネート化合物としては、トルエンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネートなどのポリイソシアネート化合物;これらのポリイソシアネート化合物の環化重合体又はビゥレット体; 又はこれらの組合せ等が挙げられる。
ブロック剤としては、ジメチルピラゾール、メチルエチルケトンオキシム、およびε-カプロラクタム等が挙げられる。
【0050】
ブロック化ポリイソシアネート化合物は市販品を用いてもよい。好ましく使用できる市販品としては、COVESTRO社製 Desmodur BL 1265;また、EVONIK社製 VESTANAT B1358A、B1370、B1186A等が挙げられる。
【0051】
硬化剤は、複合樹脂(C)100質量部に対して、0~30質量部添加することが好ましく、0.5~25質量部添加することがより好ましく、0.5~20質量部添加することが特に好ましい。硬化剤をこの範囲内とすることで、塗料の貯蔵安定性を損なうことなく、基材密着性、耐食性、熱衝撃耐性等がより向上する。
【0052】
また、本発明のエマルション型アニオン電着塗料には、必要に応じ塗膜の傷付きを防止する目的で、ワックス等の滑剤を添加することもできる。ワックスとしては、カルナバワックス、ラノリンワックス、パーム油、キャンデリラワックス、ライスワックス等の動植物系ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等の石油系ワックス、ポリオレフィンワックス、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)ワックス等の合成ワックス等が好適に用いられる。
【0053】
本発明の電着塗料には、塗装性や形成される塗膜物性を向上させる目的で、硬化触媒、レベリング剤、消泡剤、界面活性剤、防腐剤、防カビ剤、防錆剤、pH調整剤等を、それぞれの目的や用途に応じて配合することができる。
【0054】
本発明の電着塗料は、顔料や染料等の着色剤を配合することもできる。顔料は、有彩色顔料(例えば、キナクリドン系、フタロシアニン系、アゾ系等)、無彩色顔料(例えば、酸化チタン、酸化鉄、アルミニウム、カーボンブラック等)が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を併用しても良い。
【0055】
<電気伝導率>
本発明の電着塗料の電気伝導率は塗料温度25℃にて300~1200μS/cmであることが重要であり、350~1100μS/cmがより好ましく、350~1000μS/cmが特に好ましい。
300μS/cm以上であれば、得られる複合樹脂(C)の電着塗料中での分散安定性が優れ、貯蔵安定性や電着塗装にて得られる塗膜の平滑性がより優れる。
また、1200μS/cm以下であれば、電着塗装時において過剰の電流が流れることが抑制され、また、水の電気分解によるガス発生が抑制されることで、ガスピンやヘコミ、ワキなどの塗装欠陥の発生が抑制され塗膜表面外観がより優れる。
電気伝導率は、市販の電気伝導率計を使用してJIS K 0130(電気伝導率測定方法通則)に準拠して測定することができる。
電気伝導率は、例えばカルボキシル基の中和に用いられる塩基性化合物や有機溶媒(D)の添加量により制御することが可能であり、上述した塩基性化合物の添加量を増量することや、有機溶媒(D)の添加量を減量することで上昇する。一方、塩基性化合物を減量することや、有機溶媒(D)を増量することで電気伝導率は減少する。
【0056】
本発明のエマルション型電着塗料の作製方法としては、合成した複合樹脂(C)中に存在するカルボキシル基を一部もしくは全量中和し、攪拌しながら水を添加していくことでエマルション化し、更に有機溶媒(D)、必要に応じて硬化剤等を加えて撹拌混合する。 また、これら有機溶媒(D)や硬化剤等は、水を添加する前に加えることも出来る。好ましい不揮発分濃度は1~20質量%であり、1~15質量%がより好ましい。
【0057】
本発明の電着塗料を用い、一般的なアニオン電着塗装の手法にて被塗物上に着塗料の樹脂成分を付着させた後、焼き付けすることによって被塗物上に塗膜を形成することができる。
アニオン電着の手法としては、例えば、当該電着塗料を満たした電着浴槽に、被塗物を完全にまたは部分的に浸漬して陽極とし、対電極を浸漬してこれらの間に電圧を印加して電着塗装を行う。次いで、電着塗料とその樹脂成分とが付着した被塗物を引き上げて水浴中で余分な電着塗料を水洗し、その後、焼き付けを行ってアニオン電着塗装物品を得る。
アニオン電着塗装の塗装条件としては特に制限はなく、被塗物の種類や形状、電着塗料の性状、電着浴槽の大きさおよび形状、被塗装物品の用途や目的等に応じて適宜調節でき、電着塗料の液温は10~50℃、印加電圧は1~400V、電着時間は10秒~30分が例示できる。
塗装後、付着させた樹脂成分を焼き付けするために加熱する。加熱は140~250℃で一括で加熱しても良く、60~130℃、3~60分程で予備乾燥後、140~250℃で焼き付けする工程も好ましい。
形成される塗膜の厚みは、1μm~150μm程度である。
【0058】
本発明の電着塗料は、被塗物を被覆する塗膜を形成する目的で使用する。被塗物としては、電着塗装ができる金属被塗物であり、例えば、鉄材、アルミニウムもしくはアルマイト処理を施したアルミニウム材、銅材、ニッケル材、ステンレス材、マグネシウム材、めっき素材またはめっきを施した物品、ダイカスト等の金属素材が好ましい。電着塗装した塗装物品の用途としては、例えば電子部品、自動車部品、建材等に用いることができる。
【実施例0059】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、実施例中、「部」は質量部を、「%」とは質量%をそれぞれ表す。
【0060】
(重量平均分子量の測定条件)
東ソー(株)製 高速GPC装置 8020シリーズ(THF(テトラヒドロフラン)溶媒、カラム温度40℃、ポリスチレン標準)を用いて測定した。具体的には、カラムとして東ソー(株)製G1000HXL、G2000HXL、G3000HXL、G4000HXLの4本を直列に連結し、流量1.0ml/minにて測定して得られた測定値である。
【0061】
(電気伝導率の測定条件)
東亜ディーケーケー(株)製 ポータブル電気伝導率・pH計 WM-32EPを用い、25℃における電着塗料の電気伝導率を測定した。
【0062】
[製造例1]
<アクリル重合体(B1)の合成>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、n-ブチルアルコール146部を仕込んで、窒素雰囲気下で100℃に加熱攪拌し、メタクリル酸60部、スチレン10部、エチルアクリレート30部、エチレングリコールモノブチルエーテル62部、および過酸化ベンゾイル1.4部(初期量)の混合物を滴下槽から2時間にわたって連続滴下し重合した。滴下終了から1時間後、2時間後、及び3時間後に初期量の1/10量の過酸化ベンゾイル(0.14部)をそれぞれ添加し、滴下終了から4時間反応を継続した。次いで、エチレングリコールモノブチルエーテル90部を仕込んで冷却することで酸価391mgKOH/g、重量平均分子量25,000、ガラス転移温度67℃のアクリル重合体(B1)の溶液(不揮発分濃度25%)を得た。
また、ガラス転移温度は、Foxの式で算出した。計算に使った各ホモポリマーのガラス転移温度は、メタクリル酸:130℃、スチレン:100℃、エチルアクリレート:-20℃、メチルメタクリレート:105℃である。
【0063】
[製造例2~4、101]
<アクリル重合体(B2)~(B4)、(B101)の合成>
製造例1の原料および配合量を表1に示した原料および配合量に変更した以外は、製造例1の合成方法と同様にして行い、それぞれアクリル重合体(B2)~(B4)、および(B101)の溶液(不揮発分濃度25%)を得た。
【0064】
[製造例5]
<アクリル系重合体(B5)の合成>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、n-ブチルアルコール87.5部を仕込んで、窒素雰囲気下で100℃に加熱攪拌し、メタクリル酸5部、スチレン3部、エチルアクリレート92部、エチレングリコールモノブチルエーテル15部、および過酸化ベンゾイル0.6部(初期量)の混合物を滴下槽から2時間にわたって連続滴下し重合した。滴下終了から1時間後、2時間後、及び3時間後に初期量の1/10量の過酸化ベンゾイル(0.06部)をそれぞれ添加し、滴下終了から4時間反応を継続した。次いで、エチレングリコールモノブチルエーテル47.5部を仕込んで冷却することで酸価33mgKOH/g、重量平均分子量42,000、ガラス転移温度-13℃のアクリル重合体(B5)の溶液(不揮発分濃度40%)を得た。
【0065】
[製造例6、7、102]
<アクリル重合体(B6)、(B7)、(B102)の合成>
製造例5の原料および配合量を表1に示した原料および配合量に変更した以外は、製造例5の合成方法と同様にして行い、それぞれアクリル重合体(B6)、(B7)、および(B102)の溶液(不揮発分濃度40%)を得た。
【0066】
【0067】
<エマルション型アニオン電着塗料の合成>
[実施例1]
撹拌機、温度計、還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、エポキシ樹脂(A1)74.3部(三菱ケミカル社製、jER1009)、アクリル重合体(B5)溶液31部(アクリル重合体(B-2):不揮発分12.4部を含む)、n-ブチルアルコール4部、エチレングリコールモノブチルエーテル27部を仕込み、窒素ガス雰囲気下、120℃まで加熱、攪拌して、エポキシ樹脂を完全に溶解させた。その後、70℃まで冷却し、70℃を保持した状態でジメチルアミノエタノール3.5部を添加し、1時間反応させた。次いで、アクリル重合体(B1)溶液49.5部(アクリル重合体(B-1):不揮発分12.4部を含む)を添加し、さらに3時間反応させ、複合樹脂を得た。その後、イオン交換水809.5部を1時間かけて徐々に滴下した後、硬化剤としてPhenodur PR411(Allnex社製、フェノール樹脂溶液:不揮発分濃度75%)を1.3部添加し、不揮発分濃度10.0%のエマルション型アニオン電着塗料を得た。
なお、反応に供したエポキシ樹脂(A1)、アクリル重合体(B1)、及びアクリル重合体(B5)は質量比で75:12.5:12.5である。
【0068】
[実施例2~12、14~18]、[比較例1~6]
実施例1の原料および配合量を表2に示した原料および配合量に変更した以外は、実施例1の合成方法と同様にして表2に示すエマルション型アニオン電着塗料を得た。
【0069】
[実施例13]
撹拌機、温度計、還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、エポキシ樹脂(A1)74.3部(三菱ケミカル社製、jER1009)、アクリル重合体(B1)溶液99部(アクリル重合体(B-1):不揮発分24.8部を含む)、n-ブチルアルコール4部、エチレングリコールモノブチルエーテル27部を仕込み、窒素ガス雰囲気下、120℃まで加熱、攪拌して、エポキシ樹脂を完全に溶解させた。その後、70℃まで冷却し、70℃を保持した状態でジメチルアミノエタノール5.0部を添加し、3時間反応させて複合樹脂を得た。その後、イオン交換水789.4部を1時間かけて徐々に滴下した後、硬化剤としてPhenodur PR411(Allnex社製、フェノール樹脂溶液:不揮発分濃度75%)を1.3部添加し、不揮発分濃度10.0%のエマルション型アニオン電着塗料を得た。
なお、反応に供したエポキシ樹脂(A1)、及びアクリル重合体(B1)は質量比で75:25である。
【0070】
[実施例19]
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、エポキシ樹脂(A1)74.3部(三菱ケミカル社製、jER1009)、アクリル重合体(B5)溶液31部(アクリル重合体(B-2):不揮発分12.4部を含む)、n-ブチルアルコール4部、エチレングリコールモノブチルエーテル27部を仕込み、窒素ガス雰囲気下、120℃まで加熱、攪拌して、エポキシ樹脂を完全に溶解させた。その後、70℃まで冷却し、70℃を保持した状態でジメチルアミノエタノール3.5部を添加し、1時間反応させた。次いで、100℃まで加熱し、メタクリル酸7.44部、スチレン1.24部、エチルアクリレート3.72部、エチレングリコールモノブチルエーテル18.8部、および過酸化ベンゾイル0.4部の混合物を滴下槽から1時間かけて滴下した。滴下終了から1時間後に過酸化ベンゾイル0.04部を添加し、滴下終了から2時間反応を継続した。その後、n-ブチルアルコール18.3部を添加した後、イオン交換水809.5部を1時間かけて徐々に滴下した後、硬化剤としてPhenodur PR411(Allnex社製、フェノール樹脂溶液:不揮発分濃度75%)を1.3部添加し、不揮発分濃度10.0%のエマルション型アニオン電着塗料を得た。
【0071】
[実施例20]
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、エポキシ樹脂(A1)74.3部(三菱ケミカル社製、jER1009)、アクリル重合体(B5)溶液31部(アクリル重合体(B-2):不揮発分12.4部を含む)、n-ブチルアルコール4部、エチレングリコールモノブチルエーテル27部を仕込み、窒素ガス雰囲気下、120℃まで加熱、攪拌して、エポキシ樹脂を完全に溶解させた。その後、70℃まで冷却し、70℃を保持した状態でジメチルアミノエタノール3.5部を添加し、1時間反応させた。次いで、100℃まで加熱し、ハイドロキノン0.004部、25%水酸化ナトリウム水溶液0.06部、メタクリル酸0.30部を添加し、100℃にて3時間攪拌した。次いで、メタクリル酸7.14部、スチレン1.24部、エチルアクリレート3.72部、エチレングリコールモノブチルエーテル18.8部、および過酸化ベンゾイル0.4部の混合物を滴下槽から1時間かけて滴下した。滴下終了から1時間後に過酸化ベンゾイル0.04部を添加し、滴下終了から2時間反応を継続した。その後、n-ブチルアルコール18.3部を添加した後、イオン交換水809.5部を1時間かけて徐々に滴下した後、硬化剤としてPhenodur PR411(Allnex社製、フェノール樹脂溶液:不揮発分濃度75%)を1.3部添加し、不揮発分濃度10.0%のエマルション型アニオン電着塗料を得た。
【0072】
【0073】
表2、3中、各記号は以下の通り。
なお、「BPA」はビスフェノールAを、「BPF」はビスフェノールFをそれぞれ表す。
エポキシ樹脂A1:jER1009(三菱ケミカル社製 BPA型エポキシ樹脂、エポキシ当量;2,400~3,300、重量平均分子量;約20,000)
エポキシ樹脂A2:jER1007(三菱ケミカル社製 BPA型エポキシ樹脂、エポキシ当量;1,750~2,200、重量平均分子量;約11,000)
エポキシ樹脂A3:jER4250(三菱ケミカル社製 BPA/BPF混合型フェノキシ樹脂、エポキシ当量;7,500~8,900、重量平均分子量;約60,000)
フェノール樹脂:PHENODUR PR411/75B(Allnex社製、レゾール型フェノール樹脂、不揮発分濃度75%)
アミノ樹脂:CYMEL303LF(Allnex社製、メチル化メラミン樹脂、不揮発分濃度98%以上)
【0074】
<貯蔵安定性>
得られたエマルション型アニオン電着塗料を37℃の恒温器中に1ヵ月静置した後、外観性状を評価した。
○・・・・貯蔵安定性良好
×・・・・ゲル化、沈降、分離等の異常が発生
【0075】
[アニオン電着塗装]
得られたアニオン電着塗料を槽に入れ、陰極をSUS304鋼板とし、被塗物としてアルミニウム材(10cm×10cm×厚さ0.30mm)を浸漬し、乾燥塗膜の膜厚が15μmになるように液温25℃にて電圧、塗装時間を調整してアニオン電着塗装を行い、水浴にて余分な塗料を水洗した。その後、温度80℃-20分間乾燥した後、温度200℃-10分間焼付けを行い、評価用の電着塗装板を作製し、塗膜の物性試験を行った。
【0076】
<塗装外観>
上記で得られた電着塗装板の表面を下記基準に基づき目視評価を行った。
A: 問題なく良好。
B: やや塗膜に凹凸が見られるが、実用上問題なし。
C: 塗膜にガスピンやワキ、平滑性の低下が見られる。実用不可。
【0077】
<基材密着性(碁盤目剥離試験)>
得られた電着塗装板に対して塗膜にカッターナイフで基材に到達するように直交する11本の傷を1mm間隔で付けた後、傷にセロハンテープを密着させた後、剥がし、塗膜の剥離状態等を観察した。
A:全く剥離なし
B:5%未満の面積の剥離あり。実用上問題なし。
C:5%を超える面積の剥離あり。実用不可。
【0078】
<熱衝撃耐性>
Espec社製冷熱衝撃装置TSE-12-Aを使用し、電着塗装板を-40℃で15分間冷却保持後、直ちに180℃に加熱し15分間保持し、これを1サイクルとして連続500サイクルの熱衝撃試験を行い、試験後の塗装板の表面状態を目視で評価した。
A:外観異常は無く良好。
B:僅かな塗膜の発泡が見られるが、実用上問題なし。
C:塗膜の顕著な発泡やワレが見られた。実用不可。
【0079】
<耐水性>
電着塗装板を水に浸漬したまま、100℃-2時間ボイル処理を行い、処理後の塗膜の表面状態を目視で評価した。
A:未処理の塗膜と変化なし。
B:やや白化が見られるが、実用上問題なし。
C:顕著な白化やブリスターが見られる。実用不可。
【0080】
<耐食性>
得られた電着塗装板をサイクル腐食試験方法(JIS K 5600-7-9)を用いて耐食性試験を行い、試験後の塗膜の表面状態を目視で評価した。具体的には、電着塗装板に対角状に交差する切り込み傷を付けてサイクル試験機に入れ、5%塩化ナトリウム水溶液にて35℃-2時間の塩水噴霧を実施し、直ちに60℃-20~30%RHにて4時間乾燥させた後、直ちに50℃-95%RH以上にて2時間湿潤させ、これを1サイクル(8時間)として連続60サイクル(480時間)の耐食性試験を行った。
A:外観異常は無く良好。
B:やや白化が見られるが、実用上問題なし。
C:塗膜の剥離や顕著な白化、ブリスター、基材の腐食等が見られる。実用不可。
【0081】
表3、表4に実施例1~20、比較例1~6で得られたエマルション型アニオン電着塗料の組成、およびこれらエマルション型アニオン電着塗料から得られた塗膜の物性評価結果を示す。
【0082】
【0083】
【0084】
表3に示すように、実施例1~20のエマルション型アニオン電着塗料は、全ての物性が良好であったのに対し、比較例1~6のエマルション型アニオン電着塗料では物性のいずれかが不良であり、全てが良好となるものは得られなかった。