(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175561
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】サーマルプリントヘッド、およびサーマルプリントヘッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/335 20060101AFI20221117BHJP
【FI】
B41J2/335 101E
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082078
(22)【出願日】2021-05-14
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100200609
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 智和
(72)【発明者】
【氏名】仲谷 吾郎
【テーマコード(参考)】
2C065
【Fターム(参考)】
2C065GA01
2C065GB01
2C065JE03
2C065JE05
2C065JE12
2C065JE19
(57)【要約】
【課題】 製造にかかるコスト縮減を図ることが可能なサーマルプリントヘッドおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】 サーマルプリントヘッドA10は、基板10と、基板10に配置された配線層20と、主走査方向に配列され、かつ配線層20に導通する複数の発熱部31を含む抵抗体層30とを備える。配線層20は、基板10に接する第1層20Aと、第1層20Aに積層された第2層20Bとを含む。第1層20Aの組成は、ニッケルを含む。第2層20Bの組成は、銅を含む。第1層20Aの厚さt1は、第2層20Bの厚さt2よりも薄い。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板に配置された配線層と、
主走査方向に配列され、かつ前記配線層に導通する複数の発熱部を含む抵抗体層と、を備え、
前記配線層は、前記基板に接する第1層と、前記第1層に積層された第2層と、を含み、
前記第1層の組成は、ニッケルを含み、
前記第2層の組成は、銅を含み、
前記第1層の厚さは、前記第2層の厚さよりも薄い、サーマルプリントヘッド。
【請求項2】
前記基板は、基材と、前記基材に積層されたグレーズ層と、を含み、
前記第1層は、前記グレーズ層に接している、請求項1に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項3】
前記基材は、前記グレーズ層に対向する第1面を有し、
前記グレーズ層は、前記基板の厚さ方向において前記第1面と同じ側を向く第2面を有し、
前記第1層は、前記第2面に接しており、
前記第2面の表面粗さは、前記第1面の表面粗さよりも小さい、請求項2に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項4】
前記グレーズ層は、前記第1面の全体を覆っている、請求項3に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項5】
前記基板は、基材を含み、
前記第1層は、前記基材に接している、請求項1に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項6】
前記基材の組成は、酸化アルミニウムを含む、請求項2ないし5のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項7】
前記抵抗体層は、前記第2層に接している、請求項1ないし6のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項8】
前記抵抗体層は、前記第1層に接している、請求項1ないし6のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項9】
前記配線層は、共通配線、および複数の個別配線を含み、
前記共通配線は、前記抵抗体層に対して副走査方向に離れて位置し、かつ前記主走査方向に延びる連結部と、前記連結部から前記抵抗体層に向けて延びる複数の第1帯状部と、を有し、
前記複数の個別配線は、前記副走査方向に延びる第2帯状部を有し、
前記第2帯状部は、前記複数の第1帯状部のうち前記主走査方向において隣り合う2つの第1帯状部の間に位置する、請求項1ないし8のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項10】
前記抵抗体層は、前記複数の第1帯状部、および前記第2帯状部に交差している、請求項9に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項11】
前記基板に接し、かつ前記抵抗体層を覆う保護層をさらに備える、請求項1ないし10のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項12】
前記基板の厚さ方向において前記基板に対して前記抵抗体層とは反対側に位置する放熱部材をさらに備え、
前記基板は、前記放熱部材に接合されている、請求項1ないし11のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項13】
基材の上に配線層を形成する工程と、
主走査方向に配列され、かつ前記配線層に導通する複数の発熱部を含む抵抗体層を形成する工程と、を備え、
前記配線層は、第1層と、前記第1層に積層された第2層と、を含み、
前記第1層は、無電解めっきにより形成され、
前記第2層は、電解めっきにより形成される、サーマルプリントヘッドの製造方法。
【請求項14】
前記配線層を形成する工程では、前記第2層を形成した後、前記第2層から露出した前記第1層を除去する工程を含む、請求項13に記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【請求項15】
前記配線層を形成する工程の前に、前記基材の上にグレーズ層を形成する工程をさらに備え、
前記グレーズ層を形成する工程では、前記グレーズ層の表面を粗化する工程を含む、請求項14に記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【請求項16】
前記第1層を除去する工程と、前記グレーズ層の表面を粗化する工程と、には、ブラスト処理が用いられる、請求項15に記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【請求項17】
前記抵抗体層を形成する工程では、金属元素を含むペーストを印刷した後、前記ペーストを焼成することにより前記抵抗体層が形成される、請求項13ないし16のいずれかに記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、サーマルプリントヘッドおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サーマルプリントヘッドは、感熱紙などの記録媒体に印字するサーマルプリンタの主たる構成要素である。特許文献1には、サーマルプリントヘッドの一例が開示されている。当該サーマルプリントヘッドは、基板と、当該基板に配置された共通電極と、当該基板に配置された複数の個別電極と、当該共通電極、および当該複数の個別電極に導通する発熱抵抗体とを備える。共通電極、および複数の個別電極を介した通電により発熱抵抗体が選択的に発熱することによって、記録媒体にドット印字がされる。
【0003】
特許文献1に開示されているサーマルプリントヘッドを構成する共通電極、および複数の個別電極は、レジネート金ペーストを厚膜印刷した後、これを焼成することにより形成される。したがって、当該サーマルプリントヘッドにおいては、共通電極、および複数の個別電極の形成にかかるコストが比較的高いものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は上述の事情に鑑み、製造にかかるコスト縮減を図ることが可能なサーマルプリントヘッドおよびその製造方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の側面によって提供されるサーマルプリントヘッドは、基板と、前記基板に配置された配線層と、主走査方向に配列され、かつ前記配線層に導通する複数の発熱部を含む抵抗体層と、を備え、前記配線層は、前記基板に接する第1層と、前記第1層に積層された第2層と、を含み、前記第1層の組成は、ニッケルを含み、前記第2層の組成は、銅を含み、前記第1層の厚さは、前記第2層の厚さよりも薄い。
【0007】
本開示の第2の側面によって提供されるサーマルプリントヘッドの製造方法は、基材の上に配線層を形成する工程と、主走査方向に配列され、かつ前記配線層に導通する複数の発熱部を含む抵抗体層を形成する工程と、を備え、前記配線層は、第1層と、前記第1層に積層された第2層と、を含み、前記第1層は、無電解めっきにより形成され、前記第2層は、電解めっきにより形成される。
【発明の効果】
【0008】
本開示にかかるサーマルプリントヘッドおよびその製造方法によれば、製造にかかるコスト縮減を図ることが可能となる。
【0009】
本開示のその他の特徴および利点は、添付図面に基づき以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本開示の第1実施形態にかかるサーマルプリントヘッドの平面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すサーマルプリントヘッドの底面図である。
【
図4】
図4は、
図1に示すサーマルプリントヘッドの部分拡大平面図であり、保護層を透過している。
【
図9】
図9は、
図1に示すサーマルプリントヘッドの製造工程を説明する断面図である。
【
図11】
図11は、
図1に示すサーマルプリントヘッドの製造工程を説明する断面図である。
【
図13】
図13は、
図1に示すサーマルプリントヘッドの製造工程を説明する断面図である。
【
図14】
図14は、
図1に示すサーマルプリントヘッドの製造工程を説明する断面図である。
【
図16】
図16は、
図1に示すサーマルプリントヘッドの製造工程を説明する断面図である。
【
図17】
図17は、
図1に示すサーマルプリントヘッドの製造工程を説明する断面図である。
【
図18】
図18は、本開示の第2実施形態にかかるサーマルプリントヘッドの断面図である。
【
図20】
図20は、本開示の第3実施形態にかかるサーマルプリントヘッドの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示を実施するための形態について、添付図面に基づいて説明する。
【0012】
〔第1実施形態〕
図1~
図8に基づき、本開示の第1実施形態にかかるサーマルプリントヘッドA10について説明する。サーマルプリントヘッドA10は、基板10、配線層20、抵抗体層30および保護層40を備える。さらにサーマルプリントヘッドA10は、駆動IC71、封止樹脂72、コネクタ73および放熱部材74をさらに備える。ここで、
図4および
図5は、理解の便宜上、保護層40を透過している。
【0013】
これらの図に示すサーマルプリントヘッドA10は、抵抗体層30に含まれる複数の発熱部31(詳細は後述)を選択的に発熱させることによって、
図3に示すように、感熱紙などの記録媒体81に印字を施す電子デバイスである。抵抗体層30は、印刷および焼成により形成される。したがって、サーマルプリントヘッドA10は、いわゆる厚膜型と呼ばれる。
【0014】
ここで、説明の便宜上、サーマルプリントヘッドA10の主走査方向を「x方向」と呼ぶ。サーマルプリントヘッドA10の副走査方向を「y方向」と呼ぶ。基板10の厚さ方向を「z方向」と呼ぶ。z方向は、x方向およびy方向の双方に対して直交している。以下の説明において、「z方向に沿って視て」とは、平面視を指す。
【0015】
基板10は、
図1および
図2に示すように、x方向に延びる帯状である。
図6および
図7に示すように、サーマルプリントヘッドA10においては、基板10は、基材11およびグレーズ層12を含む。基材11の組成は、アルミナ(Al
2O
3)を含む。基材11は、アルミナおよび樹脂バインダなどを含む材料からなるセラミックスである。基板10の材料は、これらに加えて遮光材料を含めてもよい。当該遮光材料は、たとえば炭素(C)である。
【0016】
図6および
図7に示すように、グレーズ層12は、基材11に積層されている。グレーズ層12は、非晶質ガラスを含む材料からなる。当該非晶質ガラスは、たとえばSiO
2-BaO-Al
2O
3-SnO-ZnO系ガラスである。このため、グレーズ層12は、透明または白色を呈する。
【0017】
図6および
図7に示すように、基材11は、第1面111を有する。第1面111は、グレーズ層12に対向している。グレーズ層12は、第1面111の全体を覆っている。グレーズ層12は、z方向において第1面111と同じ側を向く第2面121を有する。第2面121の表面粗さは、第1面111の表面粗さよりも小さい。
【0018】
配線層20は、
図1および
図4に示すように、基板10に配置されている。配線層20は、抵抗体層30に通電するための導電経路を構成している。配線層20は、共通配線21および複数の個別配線22を含む。サーマルプリントヘッドA10においては、共通配線21から抵抗体層30を経由して複数の個別配線22に向けて電流が流れる。したがって、共通配線21が正極であり、かつ複数の個別配線22が負極である。
【0019】
図6および
図7に示すように、配線層20は、第1層20Aおよび第2層20Bを含む。第1層20Aは、基板10に接している。サーマルプリントヘッドA10においては、第1層20Aは、グレーズ層12の第2面121に接している。第1層20Aの組成は、ニッケル(Ni)を含む。第2層20Bは、第1層20Aに積層されている。第2層20Bの組成は、銅(Cu)を含む。
図8に示すように、第1層20Aの厚さt1は、第2層20Bの厚さt2よりも薄い。
【0020】
図8に示すように、配線層20は、表面201を有する。表面201は、z方向において基材11の第1面111と同じ側を向く。表面201は、第2層20Bに含まれる。表面201には、第1層20Aに向けて凹む複数の凹部201Aが形成されている。表面201の表面粗さは、第1面111の表面粗さよりも小さい。
【0021】
図4および
図5に示すように、共通配線21は、連結部212、および複数の第1帯状部211を有する。連結部212は、抵抗体層30に対してy方向に離れて位置し、かつx方向に延びる帯状である。
【0022】
図4および
図5に示すように、複数の第1帯状部211は、連結部212から抵抗体層30に向けて延びている。複数の第1帯状部211は、x方向において等間隔に配列されている。複数の第1帯状部211は、基部211Aおよび延出部211Bを有する。基部211Aは、矩形状である。基部211Aのy方向の一方側が連結部212につながっている。延出部211Bは、基部211Aのy方向の他方側から抵抗体層30に向けて延びている。延出部211Bの幅(x方向における寸法)は、基部211Aの幅(x方向における寸法)よりも小さい。延出部211Bの幅は、25μm以下とされている。
【0023】
図4および
図5に示すように、複数の個別配線22は、y方向に延びている。複数の個別配線22は、基板10の上において、個々の駆動IC71に対応した束となって配置されている。複数の個別配線22は、個別に選択された抵抗体層30の部分に電圧を印加する。複数の個別配線22は、x方向に配列されている。複数の個別配線22は、第2帯状部221、中間部222および接続部223を有する。
【0024】
図4および
図5に示すように、第2帯状部221は、y方向に延びる帯状である。共通配線21の複数の共通配線21のうちx方向において隣り合う2つの第1帯状部211の間に第2帯状部221が位置する。第2帯状部221は、基部221Aおよび延出部221Bを有する。基部221Aは、矩形状である。基部221Aのy方向の一方側が中間部222につながっている。延出部221Bは、基部221Aのy方向の他方側から抵抗体層30に向けて延びている。延出部221Bの幅(x方向における寸法)は、基部221Aの幅(x方向における寸法)よりも小さい。延出部221Bの幅は、25μm以下とされている。
【0025】
図4および
図5に示すように、中間部222は、第2帯状部221と接続部223とを連結している。中間部222は、平行部222Aおよび斜行部222Bを有する。平行部222Aは、y方向の一方側において接続部223につながり、かつy方向に沿っている。平行部222Aの幅(x方向における寸法)は、20μm以下とされている。斜行部222Bは、y方向に対して傾斜している。斜行部222Bは、y方向の一方側において第2帯状部221の基部221Aにつながり、かつy方向の他方側において平行部222Aにつながっている。
図4に示すように、個々の駆動IC71に対応した束となって配置された複数の個別配線22において、平行部222Aと斜行部222Bとの境界位置は、x方向の両端で対比するとy方向のずれΔLが生じている。
【0026】
図4に示すように、接続部223は、y方向において中間部222に対して第2帯状部221とは反対側に位置する。接続部223は、中間部222の平行部222Aにつながっている。接続部223は、第1接続部223Aおよび第2接続部223Bを含む。第2接続部223Bは、第1接続部223Aよりもy方向に離れて位置する。これにより、複数の個別配線22の第1接続部223Aと、複数の個別配線22の第2接続部223Bとは、x方向において千鳥配置されている。第2接続部223Bにつながり、かつ隣り合う2つの第1接続部223Aの間に位置する平行部222Aの幅(x方向における寸法)は、10μm以下とされている。複数の個別配線22の接続部223には、複数のワイヤ50が個別に接続されている。複数のワイヤ50の組成は、たとえば金(Au)を含む。
【0027】
抵抗体層30は、
図1および
図4に示すように、x方向に延びる帯状である。抵抗体層30は、基板10に接している。サーマルプリントヘッドA10においては、抵抗体層30は、グレーズ層12の第2面121に接している。抵抗体層30は、共通配線21の複数の第1帯状部211と、複数の個別配線22の第2帯状部221とに交差している。抵抗体層30は、複数の第1帯状部211、および複数の個別配線22の第2帯状部221のそれぞれ一部ずつを覆っている。抵抗体層30のうち、複数の第1帯状部211のいずれかを覆う部分と、x方向において当該第1帯状部211の隣に位置する複数の個別配線22の第2帯状部221のいずれかを覆う部分とにより挟まれた領域が発熱部31とされている。これにより、抵抗体層30は、x方向に配列され、かつ配線層20に導通する複数の発熱部31を含む構成をとる。配線層20により選択的に通電されることにより、複数の発熱部31は、選択的に発熱する。これにより、
図3に示す記録媒体81にドット印字が施される。抵抗体層30の材料は、配線層20よりも電気抵抗率が高い材料が選択される。抵抗体層30の材料の一例は、酸化ルテニウム(RuO
2)粒子およびガラスフリットを含む導電性ペーストである。抵抗体層30の最大厚さは、6μm以上10μm以下である。
【0028】
図6および
図7に示すように、サーマルプリントヘッドA10においては、抵抗体層30は、配線層20の第2層20Bに接している。このため、抵抗体層30は、共通配線21の複数の第1帯状部211と、複数の個別配線22の第2帯状部221とを跨いでいる。
図8に示すように、抵抗体層30は、第2層20Bの表面201に形成された複数の凹部201Aに接している。
【0029】
保護層40は、
図6および
図7に示すように、基板10に接している。サーマルプリントヘッドA10においては、保護層40は、グレーズ層12の第2面121に接している。保護層40は、抵抗体層30を覆っている。さらに保護層40は、接続部223を含む複数の個別配線22の一部を除き、配線層20を覆っている。保護層40は、グレーズ層12と同じく非晶質ガラスを含む材料からなる。
【0030】
駆動IC71は、
図1および
図3に示すように、抵抗体層30に対してy方向の他方側に位置する。駆動IC71は、基板10の上に搭載されている。駆動IC71の上面には、複数のパッド(図示略)が設けられている。複数のパッドのいくつかには、駆動IC71に対応する複数の個別配線22の接続部223に接続された複数のワイヤ50が接続されている。これにより、駆動IC71は、これに対応する複数の個別配線22に導通している。他の複数の当該パッドには、基板10に配置された配線に接続された複数のワイヤ50が接続されている。駆動IC71は、複数のワイヤ50を介して複数の個別配線22を選択的に通電させる。これにより、抵抗体層30に含まれる複数の発熱部31が選択的に発熱する。この他、駆動IC71は、y方向において基板10とは分離され、かつ放熱部材74に支持された配線基板に搭載される構成でもよい。当該配線基板は、たとえばフレキシブル基板である。
【0031】
封止樹脂72は、
図3に示すように、駆動IC71および複数のワイヤ50を覆っている。これらに加え、封止樹脂72は、保護層40に覆われていない複数の個別配線22の一部の領域(複数の接続部223など)をさらに覆っている。封止樹脂72は、たとえばアンダーフィルに用いられる黒色かつ軟質の樹脂である。
【0032】
コネクタ73は、
図1~
図3に示すように、y方向において駆動IC71に対して抵抗体層30とは反対側に位置する基板10の端部に配置されている。コネクタ73は、サーマルプリントヘッドA10をサーマルプリンタに接続するために用いられる。コネクタ73は、基板10に配置された配線に接続されている。これにより、コネクタ73は、当該配線、駆動IC71および複数のワイヤ50を介して複数の個別配線22に導通している。さらにコネクタ73は、当該配線を介して共通配線21の連結部212に導通している。
【0033】
放熱部材74は、
図3に示すように、z方向において基板10に対して抵抗体層30とは反対側に位置する。基板10は、接合材(図示略)を介して放熱部材74に接合されている。放熱部材74の組成は、たとえばアルミニウム(Al)を含む。
【0034】
次に、サーマルプリントヘッドA10の作動について説明する。
【0035】
図3に示すように、サーマルプリントヘッドA10の複数の発熱部31は、サーマルプリンタに組み込まれたプラテンローラ82に保護層40を介して対向している。複数の発熱部31を覆う保護層40の領域と、プラテンローラ82との間に、記録媒体81が挟み込まれている。サーマルプリンタの作動時は、プラテンローラ82が回転することにより、記録媒体81が一定速度で送られる。その際、複数の発熱部31が選択的に発熱すると、熱が保護層40を介して記録媒体81に伝わることにより、記録媒体81に印字が施される。同時に、複数の発熱部31から発生した熱は、グレーズ層12にも伝わる。当該熱の一部は、グレーズ層12に蓄えられる。当該熱の残りは、基材11および放熱部材74を介してサーマルプリントヘッドA10の外部に放出される。
【0036】
次に、
図9~
図17に基づき、サーマルプリントヘッドA10の製造方法の一例について説明する。
【0037】
最初に、
図9に示すように、基材11の上にグレーズ層12を形成する。グレーズ層12の形成にあたっては、非晶質ガラスのペーストを厚膜印刷した後に、これを焼成することにより行う。これにより、基材11の第1面111がグレーズ層12に覆われる。さらに当該ペーストを焼成した後、
図10に示すように、グレーズ層12の表面を粗化する。グレーズ層12の表面の粗化には、ブラスト処理が用いられる。当該ブラスト処理の手法は、たとえば湿式(ウエット)ブラストである。湿式ブラストは、研削材と水を混合してブラスト処理を行う手法である。当該研削材は、たとえば珪砂である。本工程を経ることにより、グレーズ層12の表面には、第2面121が現れる。
【0038】
次いで、
図11~
図15に示すように、基材11の上に配線層20を形成する。サーマルプリントヘッドA10の製造方法においては、配線層20は、グレーズ層12の第2面121に接して形成される。
【0039】
まず、
図11および
図12に示すように、グレーズ層12の第2面121に接する第1層20Aを形成する。第1層20Aは、無電解めっきにより第2面121の上に金属層を析出させることによって形成される。当該金属層の組成は、ニッケルを含む。これにより、第2面121の全体が第1層20Aに覆われる。
【0040】
次いで、
図13に示すように、第1層20Aに積層された第2層20Bを形成する。第2層20Bは、第1層20Aに対してフォトリソグラフィパターニングを施した後、第1層20Aを導電経路とする電解めっきにより形成される。これにより、第1層20Aの上に金属層が析出される。当該金属層の組成は、銅を含む。
【0041】
次いで、
図14に示すように、第2層20Bから露出した第1層20Aを除去する。第1層20Aの除去には、
図10に示すグレーズ層12の表面の粗化と同じく、ブラスト処理が用いられる。当該ブラスト処理の手法は、先述の湿式ブラストである。本工程を経ることにより、配線層20の形成が完了する。さらに本工程を経ることにより、
図15に示すように、複数の凹部201Aが形成された表面201が第2層20Bに現れる。これは、第1層20Aを除去する際、ブラスト処理にかかる研削材が第2層20Bにも衝突するためである。
【0042】
次いで、
図16に示すように、配線層20に導通する複数の発熱部31を含む抵抗体層30を形成する。抵抗体層30の形成にあたっては、まず、金属元素を含むペーストをx方向に延びる帯状に厚膜印刷する。当該ペーストは、酸化ルテニウム粒子およびガラスフリットを含む。当該ペーストは、配線層20の第2層20Bに接するようにする。その後、当該ペーストを焼成する。最後に、当該ペーストの焼成物に対して抵抗値を調整するためのトリミングを適宜行うことにより、抵抗体層30が形成される。
【0043】
次いで、
図17に示すように、グレーズ層12に接するとともに、抵抗体層30、および配線層20の一部を覆う保護層40を形成する。保護層40は、非晶質ガラスのペーストを厚膜印刷した後に、これを焼成することにより形成される。
【0044】
保護層40を形成した後、グレーズ層12の第2面121に駆動IC71をダイボンディングにより搭載する。次いで、複数のワイヤ50をワイヤボンディングにより形成し、その後、封止樹脂72を形成する。次いで、y方向に沿って基板10を切断する。最後に、基板10にコネクタ73および放熱部材74を取り付けることによって、サーマルプリントヘッドA10が得られる。
【0045】
次に、サーマルプリントヘッドA10の作用効果について説明する。
【0046】
サーマルプリントヘッドA10の配線層20は、基板10に接する第1層20Aと、第1層20Aに積層された第2層20Bとを含む。第1層20Aの組成は、ニッケルを含む。第2層20Bの組成は、銅を含む。第1層20Aの厚さは、第2層20Bの厚さよりも薄い。これにより、金を含むレジネートペーストから形成された配線層20と比較して、単位体積当たりの配線層20の形成にかかるコストを縮減できる。したがって、サーマルプリントヘッドA10によれば、サーマルプリントヘッドA10の製造にかかるコスト縮減を図ることが可能となる。
【0047】
サーマルプリントヘッドA10の製造方法によれば、配線層20の第1層20Aは、無電解めっきにより形成される。これにより、配線層20の第2層20Bを電解めっきにより形成することができる。第2層20Bの厚さは自在に設定できる。たとえば、第2層20Bの厚さをより厚くすることによって、配線層20の電気抵抗を低減することができる。これにより、サーマルプリントヘッドA10の電力損失を抑制することができる。
【0048】
サーマルプリントヘッドA10の製造工程のうちグレーズ層12を形成する工程では、グレーズ層12の表面を粗化する工程を含む。これにより、基板10に対する配線層20の第1層20Aの密着性の低下を防止できる。さらにサーマルプリントヘッドA10の製造工程のうち配線層20を形成する工程では、第2層20Bから露出した第1層20Aを除去する工程を含む。第1層20Aを除去する工程と、グレーズ層12の表面を粗化する工程とには、ブラスト処理が用いられる。これにより、エッチング処理と比較してこれらの工程に要する時間の短縮を図ることができる。
【0049】
基板10のグレーズ層12は、抵抗体層30の複数の発熱部31から発した熱の一部を蓄熱する機能を有する。たとえばサーマルプリントヘッドA10を寒冷地において使用する場合、グレーズ層12の蓄熱機能により複数の抵抗体層30の急激な温度低下を抑制できる。これにより、記録媒体81への印字品質の悪化を防止できる。本構成においては、グレーズ層12が基材11の第1面111の全体を覆っていることが好ましい。
【0050】
サーマルプリントヘッドA10においては、抵抗体層30は、配線層20の第2層20Bに接している。
図8に示すように、抵抗体層30は、第2層20Bの複数の凹部201Aに接している。これにより、配線層20に対する抵抗体層30の密着性の向上を図ることができる。さらに抵抗体層30に接触する配線層20の表面積が拡大されるため、配線層20と抵抗体層30との界面における電気抵抗を低減することができる。
【0051】
〔第2実施形態〕
図18および
図19に基づき、本開示の第2実施形態にかかるサーマルプリントヘッドA20について説明する。これらの図において、先述したサーマルプリントヘッドA10と同一または類似の要素には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0052】
サーマルプリントヘッドA20においては、配線層20および抵抗体層30の構成が、先述したサーマルプリントヘッドA10の当該構成と異なる。
【0053】
図18および
図19に示すように、サーマルプリントヘッドA20においては、抵抗体層30は、配線層20の第1層20Aに接している。このため、抵抗体層30は、共通配線21の複数の第1帯状部211と、複数の個別配線22の第2帯状部221との下を潜っている。したがって、抵抗体層30は、
図8に示す配線層20の第2層20Bの複数の凹部201Aに接していない。サーマルプリントヘッドA20は、
図11~
図15に示す配線層20を形成する工程の前に、
図16に示す抵抗体層30を形成する工程を設定することによって得られる。
【0054】
次に、サーマルプリントヘッドA20の作用効果について説明する。
【0055】
サーマルプリントヘッドA20の配線層20は、基板10に接する第1層20Aと、第1層20Aに積層された第2層20Bとを含む。第1層20Aの組成は、ニッケルを含む。第2層20Bの組成は、銅を含む。第1層20Aの厚さは、第2層20Bの厚さよりも薄い。したがって、サーマルプリントヘッドA20によっても、サーマルプリントヘッドA20の製造にかかるコスト縮減を図ることが可能となる。さらに、サーマルプリントヘッドA20は、サーマルプリントヘッドA10と共通する構成を具備することにより、サーマルプリントヘッドA10と同等の作用効果を奏する。
【0056】
〔第3実施形態〕
図20~
図22に基づき、本開示の第3実施形態にかかるサーマルプリントヘッドA30について説明する。これらの図において、先述したサーマルプリントヘッドA10と同一または類似の要素には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0057】
サーマルプリントヘッドA30においては、基板10の構成が、先述したサーマルプリントヘッドA10の当該構成と異なる。
【0058】
図20および
図21に示すように、サーマルプリントヘッドA30においては、基板10は、基材11は含むものの、グレーズ層12を含まない。これにより、
図22に示すように、配線層20の第1層20Aは、基材11の第1面111に接している。さらに抵抗体層30は、基材11の第1面111に接している。
【0059】
次に、
図23および
図24に示すように、サーマルプリントヘッドA30の製造方法の一例について説明する。
【0060】
サーマルプリントヘッドA30の製造にあたっては、
図9および
図10に示すグレーズ層12を形成する工程が不要となる。したがって、配線層20を形成する工程においては、
図23に示すように、基材11の第1面111の全体を覆うように第1層20Aを形成する。基材11の第1面111の表面粗さは、グレーズ層12の第2面121の表面粗さよりも大きいため、
図10と同様に基材11の表面(第1面111)を粗化する工程は不要である。
【0061】
図23に示す工程を経た後、
図13に示す工程と同一の方法により配線層20の第2層20Bを形成する。その後、
図24に示すように、第2層20Bから露出した第1層20Aを除去する。第1層20Aの除去方法は、サーマルプリントヘッドA10の製造にかかる第1層20Aの除去方法と同一である。
図24に示すように、第1層20Aの除去がなされると基材11の第1面111が露出する。
【0062】
その後、
図16に示す抵抗体層30を形成する工程と、
図17に示す保護層40を形成する工程を経ることによって、サーマルプリントヘッドA30が得られる。
【0063】
次に、サーマルプリントヘッドA30の作用効果について説明する。
【0064】
サーマルプリントヘッドA30の配線層20は、基板10に接する第1層20Aと、第1層20Aに積層された第2層20Bとを含む。第1層20Aの組成は、ニッケルを含む。第2層20Bの組成は、銅を含む。第1層20Aの厚さは、第2層20Bの厚さよりも薄い。したがって、サーマルプリントヘッドA30によっても、サーマルプリントヘッドA20の製造にかかるコスト縮減を図ることが可能となる。さらに、サーマルプリントヘッドA30は、サーマルプリントヘッドA10と共通する構成を具備することにより、サーマルプリントヘッドA10と同等の作用効果を奏する。
【0065】
サーマルプリントヘッドA30の基板10は、グレーズ層12を含まない構成となっている。したがって、抵抗体層30の複数の発熱部31から基材11に至る熱の伝熱経路が短縮されるため、サーマルプリントヘッドA30の放熱性をより向上させることができる。さらにサーマルプリントヘッドA30の製造において、グレーズ層12を形成する工程が不要となる。したがって、サーマルプリントヘッドA30の製造効率の向上を図ることができる。
【0066】
本開示は、先述した実施形態に限定されるものではない。本開示の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【0067】
本開示によって提供されるサーマルプリントヘッドおよびその製造方法の技術的構成について、以下に付記する。
[付記1]
基板と、
前記基板に配置された配線層と、
主走査方向に配列され、かつ前記配線層に導通する複数の発熱部を含む抵抗体層と、を備え、
前記配線層は、前記基板に接する第1層と、前記第1層に積層された第2層と、を含み、
前記第1層の組成は、ニッケルを含み、
前記第2層の組成は、銅を含み、
前記第1層の厚さは、前記第2層の厚さよりも薄い、サーマルプリントヘッド。
[付記2]
前記基板は、基材と、前記基材に積層されたグレーズ層と、を含み、
前記第1層は、前記グレーズ層に接している、付記1に記載のサーマルプリントヘッド。
[付記3]
前記基材は、前記グレーズ層に対向する第1面を有し、
前記グレーズ層は、前記基板の厚さ方向において前記第1面と同じ側を向く第2面を有し、
前記第1層は、前記第2面に接しており、
前記第2面の表面粗さは、前記第1面の表面粗さよりも小さい、付記2に記載のサーマルプリントヘッド。
[付記4]
前記グレーズ層は、前記第1面の全体を覆っている、付記3に記載のサーマルプリントヘッド。
[付記5]
前記基板は、基材を含み、
前記第1層は、前記基材に接している、付記1に記載のサーマルプリントヘッド。
[付記6]
前記基材の組成は、酸化アルミニウムを含む、付記2ないし5のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
[付記7]
前記抵抗体層は、前記第2層に接している、付記1ないし6のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
[付記8]
前記抵抗体層は、前記第1層に接している、付記1ないし6のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
[付記9]
前記配線層は、共通配線、および複数の個別配線を含み、
前記共通配線は、前記抵抗体層に対して副走査方向に離れて位置し、かつ前記主走査方向に延びる連結部と、前記連結部から前記抵抗体層に向けて延びる複数の第1帯状部と、を有し、
前記複数の個別配線は、前記副走査方向に延びる第2帯状部を有し、
前記第2帯状部は、前記複数の第1帯状部のうち前記主走査方向において隣り合う2つの第1帯状部の間に位置する、付記1ないし8のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
[付記10]
前記抵抗体層は、前記複数の第1帯状部、および前記第2帯状部に交差している、付記9に記載のサーマルプリントヘッド。
[付記11]
前記基板に接し、かつ前記抵抗体層を覆う保護層をさらに備える、付記1ないし10のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
[付記12]
前記基板の厚さ方向において前記基板に対して前記抵抗体層とは反対側に位置する放熱部材をさらに備え、
前記基板は、前記放熱部材に接合されている、付記1ないし11のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
[付記13]
基材の上に配線層を形成する工程と、
主走査方向に配列され、かつ前記配線層に導通する複数の発熱部を含む抵抗体層を形成する工程と、を備え、
前記配線層は、第1層と、前記第1層に積層された第2層と、を含み、
前記第1層は、無電解めっきにより形成され、
前記第2層は、電解めっきにより形成される、サーマルプリントヘッドの製造方法。
[付記14]
前記配線層を形成する工程では、前記第2層を形成した後、前記第2層から露出した前記第1層を除去する工程を含む、付記13に記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
[付記15]
前記配線層を形成する工程の前に、前記基材の上にグレーズ層を形成する工程をさらに備え、
前記グレーズ層を形成する工程では、前記グレーズ層の表面を粗化する工程を含む、付記14に記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
[付記16]
前記第1層を除去する工程と、前記グレーズ層の表面を粗化する工程と、には、ブラスト処理が用いられる、付記15に記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
[付記17]
前記抵抗体層を形成する工程では、金属元素を含むペーストを印刷した後、前記ペーストを焼成することにより前記抵抗体層が形成される、付記13ないし16のいずれかに記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【符号の説明】
【0068】
A10,A20,A30:サーマルプリントヘッド
10:基板
11:基材
111:第1面
12:グレーズ層
121:第2面
20:配線層
20A:第1層
20B:第2層
201:表面
201A:凹部
21:共通配線
211:第1帯状部
211A:基部
211B:延出部
212:連結部
22:個別配線
221:第2帯状部
221A:基部
221B:延出部
222:中間部
222A:平行部
222B:斜行部
223:接続部
223A:第1接続部
223B:第2接続部
30:抵抗体層
31:発熱部
40:保護層
50:ワイヤ
71:駆動IC
72:封止樹脂
73:コネクタ
74:放熱器
81:記録媒体
82:プラテンローラ
ΔL:ずれ
t1,t2:厚さ