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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175593
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】鉄筋コンクリート構造物
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/20 20060101AFI20221117BHJP
【FI】
E04B1/20 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082138
(22)【出願日】2021-05-14
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】村田 裕志
(57)【要約】
【課題】壁とスラブとの隅角部において、ハンチを省略した場合であっても必要な剛性および耐力を確保することを可能とした鉄筋コンクリート構造物を提案する。
【解決手段】スラブ3と壁2との接合部を構成する隅角部5を備える鉄筋コンクリート構造物1であって、スラブ3の下面および壁2の外面に沿って配筋された隅角部外側主筋6と、スラブ3の上面に沿って配筋された隅角部内側スラブ主筋7と、壁2の内面に沿って配筋された隅角部内側壁主筋8とを有し、隅角部外側主筋6、隅角部内側スラブ主筋7および隅角部内側壁主筋8の鉄筋量を増加あるいは強度を高めている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラブと壁との接合部を構成する隅角部を備える鉄筋コンクリート構造物であって、
前記スラブの下面および前記壁の外面に沿って配筋された隅角部外側主筋と、
前記スラブの上面に沿って配筋された隅角部内側スラブ主筋と、
前記壁の内面に沿って配筋された隅角部内側壁主筋と、を有し、
前記隅角部外側主筋、前記隅角部内側スラブ主筋および前記隅角部内側壁主筋が多段配筋されていることを特徴とする、鉄筋コンクリート構造物。
【請求項2】
スラブと壁との接合部を構成する隅角部を備える鉄筋コンクリート構造物であって、
前記スラブの下面および前記壁の外面に沿って配筋された隅角部外側主筋と、
前記スラブの上面に沿って配筋された隅角部内側スラブ主筋と、
前記壁の内面に沿って配筋された隅角部内側壁主筋と、を有し、
前記隅角部外側主筋、前記隅角部内側スラブ主筋および前記隅角部内側壁主筋は、前記壁の前記隅角部以外の部分である壁一般部に配筋された外側壁主筋または内側壁主筋よりも高強度であることを特徴とする、鉄筋コンクリート構造物。
【請求項3】
スラブと壁との接合部を構成する隅角部を備える鉄筋コンクリート構造物であって、
前記スラブの下面および前記壁の外面に沿って配筋された隅角部外側主筋と、
前記スラブの上面に沿って配筋された隅角部内側スラブ主筋と、
前記壁の内面に沿って配筋された隅角部内側壁主筋と、を有し、
前記隅角部外側主筋、前記隅角部内側スラブ主筋および前記隅角部内側壁主筋の鉄筋径は、前記壁の前記隅角部以外の部分である壁一般部に配筋された外側壁主筋または内側壁主筋の鉄筋径よりも大きいことを特徴とする、鉄筋コンクリート構造物。
【請求項4】
前記壁のうち、前記隅角部に対応する範囲は、鋼繊維補強コンクリートにより形成されていることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の鉄筋コンクリート構造物。
【請求項5】
前記隅角部内側スラブ主筋の端部が、前記隅角部外側主筋に係止されていることを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の鉄筋コンクリート構造物。
【請求項6】
前記壁の前記隅角部以外の部分である壁一般部で発生する断面力が前記壁一般部の終局耐力に達した際に、前記隅角部に発生する断面力が前記隅角部の降伏耐力以下、かつ、前記スラブの前記隅角部以外の部分であるスラブ一般部に発生する断面力が前記スラブ一般部の降伏耐力以下であることを特徴とする、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の鉄筋コンクリート構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁とスラブとの隅角部を有する鉄筋コンクリート構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
ボックスカルバート等の鉄筋コンクリート構造物の壁とスラブとの隅角部では、ハンチを設けることで補強を行うのが一般的である。このような隅角部では、耐力の増強を目的として、主筋の他に、ハンチの表面に沿って斜めに配筋されたハンチ筋や、せん断補強筋等が配筋されている。そのため、隅角部においては、鉄筋を密に配筋する必要があり、配筋作業に手間がかかる。
これに対し、本出願人は、例えば特許文献1に示すように、鉄筋コンクリート構造物の隅角部での鉄筋の過密配置を回避しつつ、隅角部に必要な耐力を確保することを目的として、隅角部を繊維補強コンクリートで構築した鉄筋コンクリート構造物を開示している。
一方、隅角部のハンチの施工には、ハンチの面に沿って伏せ型枠を設置する必要がある。伏せ型枠は、設置に手間がかかるとともに、密実にコンクリートを打設するために注意が必要である。さらに、ハンチを設けることにより、内部空間の断面積が小さくなる。
そのため、コンクリートの隅角部において、ハンチを省略する構造が望まれている。例えば、特許文献2には、隅角部のハンチを省略した場合であっても隅角部において必要な強度を確保することが可能なボックスカルバートとして、隅角部の外面が壁の外面またはスラブの下面よりも外方に張り出したボックスカルバートが開示されている。
特許文献2にボックスカルバートは、隅角部の外面を外方に張り出させる分、コンクリート量および鉄筋量が増加し、施工に手間がかかる。また、隅角部の外面を外方に張り出させることによってボックスカルバートの外面に凹凸が形成されるため、型枠の組み立てが複雑になり、施工に手間がかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-014864号公報
【特許文献2】特開2009-243139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、壁とスラブとの隅角部において、ハンチを省略した場合であっても必要な剛性および耐力を確保することを可能とした鉄筋コンクリート構造物を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための本発明は、スラブと壁との接合部を構成する隅角部を備える鉄筋コンクリート構造物であって、前記スラブの下面および前記壁の外面に沿って配筋された隅角部外側主筋と、前記スラブの上面に沿って配筋された隅角部内側スラブ主筋と、前記壁の内面に沿って配筋された隅角部内側壁主筋とを有している。
第一発明の鉄筋コンクリート構造物では、前記隅角部外側主筋、前記隅角部内側スラブ主筋および前記隅角部内側壁主筋が多段配筋されている。
第二発明の鉄筋コンクリート構造物では、前記隅角部外側主筋、前記隅角部内側スラブ主筋および前記隅角部内側壁主筋が、前記壁の前記隅角部以外の部分である壁一般部に配筋された外側壁主筋または内側壁主筋よりも高強度である。
第三発明の鉄筋コンクリート構造物では、前記隅角部外側主筋、前記隅角部内側スラブ主筋および前記隅角部内側壁主筋の鉄筋径が、前記壁の前記隅角部以外の部分である壁一般部に配筋された外側壁主筋または内側壁主筋の鉄筋径よりも大きい。
【0006】
かかる鉄筋コンクリート構造物は、隅角部の鉄筋量を増加あるいは隅角部の鉄筋の強度を高めているため、隅角部の剛性および耐力も高められている。そのため、鉄筋コンクリート構造物に大きな力が作用した際に、隅角部よりも先に壁部の隅角部以外の部分において終局耐力に至るようになる。すなわち、ハンチを省略したとしても、ハンチがあった位置よりも上部の位置で塑性化(塑性ヒンジ化)するようになるので、隅角部の破壊が防止され、構造物としての剛性を確保できる。
なお、前記壁のうち、前記隅角部に対応する範囲が鋼繊維補強コンクリートにより形成されていれば、隅角部の剛性および耐力をより高めることができ、また、隅角部における鉄筋量の増加を防ぐことができる。
また、前記隅角部内側スラブ主筋の端部が、前記隅角部外側主筋に係止されていれば、隅角部の剛性および耐力をさらに高めることができる。
前記壁部の前記隅角部以外の部分である壁一般部で発生する断面力が前記壁一般部の終局耐力に達した際に、前記隅角部に発生する断面力が前記隅角部の降伏耐力以下、かつ、前記スラブ部の前記隅角部以外の部分であるスラブ一般部に発生する断面力が前記スラブ一般部の降伏耐力以下であるのが望ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の鉄筋コンクリート構造物によれば、壁とスラブとの隅角部においてハンチを省略した場合であっても必要な剛性および耐力を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る鉄筋コンクリート構造物を示す断面図である。
図2】第一実施形態の隅角部の概要を示す拡大断面図である。
図3】隅角部の応力分布を示す模式図であって、(a)はハンチを省略したのみの場合、(b)は本実施形態の隅角部である。
図4】第二実施形態または第三実施形態の隅角部の概要を示す拡大断面図である。
図5】加力実験を行った試験体(実施例1,3)の概要を示す断面図である。
図6】加力実験を行った試験体(実施例2,4)の概要を示す断面図である。
図7】加力実験を行った試験体(比較例)の概要を示す断面図である。
図8】加力実験の結果を示すグラフである。
図9】非線形FEMによるシミュレーション結果を示す図であって、(a)は比較例、(b)は実施例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第一実施形態>
第一実施形態では、図1に示すように、左右の壁2,2と、スラブ(底版)3と、頂版4とにより断面視矩形状に形成されたボックスカルバート(鉄筋コンクリート構造物1)について説明する。図1は、本実施形態に係る鉄筋コンクリート構造物1を示す断面図である。本実施形態の鉄筋コンクリート構造物1は、壁2とスラブ3との接合部を構成する隅角部5にハンチ50が形成されていない。
図2に第一実施形態の鉄筋コンクリート構造物1の隅角部5を示す。隅角部5は、図2に示すように、スラブ3と壁2との接合部のL字状部分である。本実施形態の隅角部5の高さは、ハンチ50を形成する場合におけるハンチ50の上端と壁2との交点以上の高さ位置(隅角部上端51)から鉄筋コンクリート構造物1の下面までの範囲ととする。また、隅角部5の幅は壁2の外面からハンチ50を形成する場合におけるハンチ50の下端とスラブ3との交点付近(隅角部側端52)までの範囲とする。隅角部5の高さは、例えばスラブ3の厚さの1.5倍以上、2.0倍以下であり、隅角部5の幅は、壁2の厚さの1.5倍以上、2.0倍以下である。
本実施形態では、壁2のうち、隅角部5に対応する部分(鉄筋コンクリート構造物1の下端から隅角部上端51までの区間に存在する壁一般部21と同幅の領域)が鋼繊維補強コンクリート91により形成されていて、その他の部分が普通コンクリート9により形成されている。鋼繊維補強コンクリートの繊維混入率は限定されるものではないが、本実施形態では、0.4~1.0%とする。
また、隅角部5には、隅角部外側主筋6と、隅角部内側スラブ主筋7と、隅角部内側壁主筋8とが配筋されている。
【0010】
隅角部外側主筋6は、図2に示すように、スラブ3の下面および壁2の外面に沿って配筋されている。本実施形態の隅角部外側主筋6は、多段(本実施形態では2段)配筋されている。
最も外側に配筋された隅角部外側主筋6である第一外側主筋61は、曲げ加工が施されたL字状の鉄筋により構成されている。第一外側主筋61の上端部(一方の端部)は、壁2の隅角部5以外の部分(壁一般部21)の外面に沿って配筋された壁主筋22と、継手(例えば、重ね継手や機械式継手)23を介して連結されている。また、本実施形態の第一外側主筋61は、スラブ3の隅角部5以外の部分であるスラブ一般部31の下面に沿って連続して配筋されていてスラブ主筋32の一部を兼ねている。
【0011】
スラブ3の下面に沿って第一外側主筋61の内側(上側)に配筋された隅角部外側主筋6である第二外側スラブ主筋62は、両端に定着部62aが形成された直線状の鉄筋からなる。定着部62aは、第二外側スラブ主筋62の鉄筋径よりも大きな幅(外形)を有している。本実施形態の定着部62aは、第二外側スラブ主筋62に鋼板を摩擦圧接することにより形成されている。第二外側スラブ主筋62の一端(壁側の端部)側の定着部62aは、第一外側主筋61の外側に係止されている。また、第二外側スラブ主筋62の他端部は、隅角部側端52よりもスラブ3の中央側において、スラブ3内に定着している。
【0012】
第一外側主筋61の内側(図2において右側)において、壁2の外面に沿って配筋された隅角部外側主筋6である第二外側壁主筋63は、直線状の鉄筋からなる。第二外側壁主筋63の両端には、定着部63aが形成されている。定着部63aは、第二外側壁主筋63の鉄筋径よりも大きな幅(外形)を有している。本実施形態の定着部63aは、第二外側壁主筋63に鋼板を摩擦圧接することにより形成されている。第二外側壁主筋63は、隅角部の下端(スラブ3の下面)から隅角部上端までの範囲内に配筋されている。
【0013】
隅角部内側スラブ主筋7は、図2に示すように、スラブ3の上面に沿って配筋されている。本実施形態の隅角部内側スラブ主筋7は多段(本実施形態では2段)配筋されている。
隅角部内側スラブ主筋7の壁2側の先端には定着部71が形成されている。定着部71は、隅角部内側スラブ主筋7の鉄筋径よりも大きな幅を有している。本実施形態の定着部71は、隅角部内側スラブ主筋7の先端に鋼板を摩擦圧接することにより形成されている。隅角部内側スラブ主筋7の壁2側の端部(定着部71)は、必要なコンクリート被りを確保した状態で、隅角部外側主筋6(第一外側主筋61)の外側に係止されている。
本実施形態のスラブ3の最も上面側に配筋された隅角部内側スラブ主筋7(上段内側スラブ主筋72)は、スラブ3の隅角部5以外の部分であるスラブ一般部31の上面に沿って連続して配筋されていて、スラブ主筋32の一部を兼ねている。一方、上段内側スラブ主筋72の下側に並設された隅角部内側スラブ主筋7である下段内側スラブ主筋73は、隅角部側端52よりもスラブ3の中央側において、スラブ3内に定着している。下段内側スラブ主筋73は、両端に定着部71が形成されている。
【0014】
隅角部内側壁主筋8は、図2に示すように、壁2の内面に沿って配筋されている。本実施形態の隅角部内側壁主筋8は多段(本実施形態では2段)配筋されている。
隅角部内側壁主筋8の下端には、定着部81が形成されている。定着部81は、隅角部内側壁主筋8の鉄筋径よりも大きな幅を有している。本実施形態の定着部81は、隅角部内側壁主筋8の先端に鋼板を摩擦圧接することにより形成されている。
隅角部内側壁主筋8のうちの最も内側(図2において右側)に配筋された第一内側壁主筋82は、壁2の隅角部5以外の部分である壁一般部21に配筋された壁主筋22と継手(例えば、重ね継手や機械式継手)23を介して連結されている。一方、第一内側壁主筋82以外の隅角部内側壁主筋8(第一内側壁主筋82の外側(図2において左側)に並設された隅角部内側壁主筋8)である第二内側壁主筋83は、隅角部5の下端(スラブ3の下面)から隅角部上端51までの範囲内に配筋されている。また、第二内側壁主筋83は、両端に定着部81が形成されている。
【0015】
本実施形態の隅角部5の降伏耐力は、壁の終局耐力以上である。すなわち、壁2の隅角部5以外の部分である壁一般部21で発生する断面力が、壁一般部21の終局耐力に達した際に、隅角部5に発生する断面力が隅角部の降伏耐力以下である。また、本実施形態のスラブ3の隅角部5以外の部分であるスラブ一般部31の降伏耐力は、壁一般部21の終局耐力以上である。すなわち、壁一般部21で発生する断面力が、壁一般部21の終局耐力に達した際に、スラブ一般部31に発生する断面力がスラブ一般部31の降伏耐力以下である。
【0016】
このように、本実施形態の鉄筋コンクリート構造物1は、隅角部5の鉄筋量を増加しているため、隅角部5の剛性および耐力も高められている。また、壁2の隅角部5に対応する範囲が鋼繊維補強コンクリートにより形成されているため、隅角部5の剛性および耐力をより高められている。そのため、鉄筋コンクリート構造物1に大きな力が作用した際に、隅角部5よりも先に壁2の隅角部5以外の部分において終局耐力に至るようになる。そのため、隅角部5およびスラブ3の破壊が防止され、構造物としての剛性を確保できる。
また、隅角部内側スラブ主筋7の端部が、隅角部外側主筋6に係止されているため、隅角部5の剛性および耐力をさらに高めることができる。すなわち、隅角部5の内角が広がる方向の力に対して隅角部内側スラブ主筋7により耐力が確保されている。
【0017】
図3にハンチを省略した場合の応力分布を示す。ボックスカルバートにおいてハンチ50を省略すると、図3(a)に示すように、壁2とスラブ3のつけ根において、曲げモーメント(Mw、Ms)が最大となるため、この部分が終局耐力に至るようになる。一方、本実施形態の鉄筋コンクリート構造物1では、隅角部上端51まで壁2の強度(耐力)が高められているため、図3(b)に示すように、最大曲げモーメントMw1が作用する部分は終局耐力に至らず、終局耐力に至る部分を壁2の隅角部上端5よりも高い位置(最大曲げモーメントMw1よりも小さい曲げモーメントMw2が作用する部分)に移動させることができる。
【0018】
<第二実施形態>
第二実施形態では、第一実施形態と同様に、断面視矩形状に形成されていて、スラブ3と壁2との接合部を構成する隅角部5にハンチが形成されていないボックスカルバート(鉄筋コンクリート構造物1)について説明する(図1参照)。
図4に第二実施形態の鉄筋コンクリート構造物1の隅角部5を示す。隅角部5は、図4に示すように、スラブ3と壁2との接合部のL字状部分である。本実施形態の隅角部5は、ハンチ50を形成する場合におけるハンチ50の上端と壁2との交点以上の高さ位置(隅角部上端51)から鉄筋コンクリート構造物1の下面までの範囲と、ハンチ50の下端とスラブ3との交点よりもスラブ3の中央側の位置(隅角部側端52)から鉄筋コンクリート構造物1の外面までの範囲とする。
本実施形態では、壁2のうち、隅角部5に対応する部分(鉄筋コンクリート構造物1の下端から隅角部上端51までの区間に存在する壁一般部21と同幅の領域)が鋼繊維補強コンクリート91により形成されていて、その他の部分が普通コンクリート9により形成されている。
また、隅角部5には、隅角部外側主筋6と、隅角部内側スラブ主筋7と、隅角部内側壁主筋8とが配筋されている。
【0019】
隅角部外側主筋6は、図4に示すように、スラブ3の下面および壁2の外面に沿って配筋されている。
隅角部外側主筋6は、曲げ加工が施されたL字状の鉄筋により構成されている。隅角部外側主筋6の上端部(一方の端部)は、壁2の隅角部5以外の部分(壁一般部21)の外面に沿って配筋された壁主筋22と、継手(例えば、重ね継手や機械式継手)23を介して連結されている。また、隅角部外側主筋6の他方の端部(スラブ3内の端部)は、スラブ3の隅角部5以外の部分(スラブ一般部31)の下面に沿って配筋されたスラブ主筋32と継手(例えば、重ね継手や機械式継手)33を介して連結されている。隅角部外側主筋6は、壁主筋22およびスラブ主筋32よりも高強度である。本実施形態の隅角部外側主筋6はSD490からなり、壁主筋22およびスラブ主筋32はSD345からなる。
【0020】
隅角部内側スラブ主筋7は、図4に示すように、スラブ3の上面に沿って配筋されている。本実施形態の隅角部内側スラブ主筋7の壁2側の先端には定着部71が形成されている。定着部71は、隅角部内側スラブ主筋7の鉄筋径よりも大きな幅を有している。本実施形態の定着部71は、隅角部内側スラブ主筋7の先端に鋼板を摩擦圧接することにより形成されている。隅角部内側スラブ主筋7の壁2側の端部(定着部71)は、必要なコンクリート被りを確保した状態で、隅角部外側主筋6の外側に係止されている。また、隅角部内側スラブ主筋7は、スラブ3の隅角部5以外の部分であるスラブ一般部31の上面に沿って配筋されたスラブ主筋32と継手(例えば、重ね継手や機械式継手)33を介して連結されている。本実施形態の隅角部内側スラブ主筋7は、SD490により構成されていて、壁主筋22およびスラブ主筋32よりも高強度である。
【0021】
隅角部内側壁主筋8は、図4に示すように、壁2の内面に沿って配筋されている。本実施形態の隅角部内側壁主筋8の下端には、定着部81が形成されている。定着部81は、隅角部内側壁主筋8の鉄筋径よりも大きな幅を有している。本実施形態の定着部81は、隅角部内側壁主筋8の先端に鋼板を摩擦圧接することにより形成されている。隅角部内側壁主筋8は、壁2の隅角部5以外の部分である壁一般部21に配筋された壁主筋22と継手(例えば、重ね継手や機械式継手)を介して連結されている。本実施形態の隅角部内側壁主筋8は、SD490からなり、壁主筋22およびスラブ主筋32よりも高強度である。
【0022】
本実施形態の隅角部5の降伏耐力は、壁の終局耐力以上である。すなわち、壁2の隅角部5以外の部分である壁一般部21で発生する断面力が、壁一般部21の終局耐力に達した際に、隅角部5に発生する断面力が隅角部の降伏耐力以下である。また、本実施形態のスラブ3の隅角部5以外の部分であるスラブ一般部31の降伏耐力は、壁一般部21の終局耐力以上である。すなわち、壁一般部21で発生する断面力が、壁一般部21の終局耐力に達した際に、スラブ一般部31に発生する断面力がスラブ一般部31の降伏耐力以下である。
【0023】
このように、本実施形態の鉄筋コンクリート構造物1は、隅角部5の鉄筋の強度を高めているため、隅角部5の剛性および耐力も高められている。そのため、鉄筋コンクリート構造物1に大きな力が作用した際に、隅角部5よりも先に壁2の隅角部5以外の部分において終局耐力に至るようになる。そのため、隅角部5およびスラブ3の破壊が防止され、構造物としての剛性を確保できる。
また、隅角部5において高強度鉄筋を使用するため、鉄筋量を増加することなく、隅角部の耐力を増強できる。そのため、隅角部5内の鉄筋の過密化を抑制し、施工性の向上を図ることができる。
【0024】
<第三実施形態>
第三実施形態では、第一実施形態と同様に、断面視矩形状に形成されていて、スラブ3と壁2との接合部を構成する隅角部5にハンチが形成されていないボックスカルバート(鉄筋コンクリート構造物1)について説明する(図1参照)。
図4に第三実施形態の鉄筋コンクリート構造物1の隅角部5を示す。なお、第三実施形態の鉄筋コンクリート構造物1の構成は、鉄筋径を除いて第二実施形態の鉄筋コンクリート構造物1と同様であるため、図4を参照して第三実施形態を説明する。隅角部5は、図4に示すように、スラブ3と壁2との接合部のL字状部分である。本実施形態の隅角部5は、ハンチ50を形成する場合におけるハンチ50の上端と壁2との交点以上の高さ位置(隅角部上端51)から鉄筋コンクリート構造物1の下面までの範囲と、ハンチ50の下端とスラブ3との交点よりもスラブ3の中央側の位置(隅角部側端52)から鉄筋コンクリート構造物1の外面までの範囲とする。
本実施形態では、壁2の隅角部5に含まれる部分(鉄筋コンクリート構造物1の下端から隅角部上端51までの区間)が鋼繊維補強コンクリートにより形成されている。
また、隅角部5には、隅角部外側主筋6と、隅角部内側スラブ主筋7と、隅角部内側壁主筋8とが配筋されている。
【0025】
隅角部外側主筋6は、図4に示すように、スラブ3の下面および壁2の外面に沿って配筋されている。
隅角部外側主筋6は、曲げ加工が施されたL字状の鉄筋により構成されている。隅角部外側主筋6の上端部(一方の端部)は、壁2の隅角部5以外の部分(壁一般部21)の外面に沿って配筋された壁主筋22と、継手(例えば、重ね継手や機械式継手)を介して連結されている。また、隅角部外側主筋6の他方の端部(スラブ3内の端部)は、スラブ3の隅角部5以外の部分(スラブ一般部31)の下面に沿って配筋されたスラブ主筋32と継手(例えば、重ね継手や機械式継手)を介して連結されている。隅角部外側主筋6の鉄筋径は、壁主筋22およびスラブ主筋32の鉄筋径よりも大きい(図4では、表現上同じ太さになっている)。
【0026】
隅角部内側スラブ主筋7は、図4に示すように、スラブ3の上面に沿って配筋されている。本実施形態の隅角部内側スラブ主筋7の壁2側の先端には定着部71が形成されている。定着部71は、隅角部内側スラブ主筋7の鉄筋径よりも大きな幅を有している。本実施形態の定着部71は、隅角部内側スラブ主筋7の先端に鋼板を摩擦圧接することにより形成されている。隅角部内側スラブ主筋7の壁2側の端部(定着部71)は、必要なコンクリート被りを確保した状態で、隅角部外側主筋6の外側に係止されている。また、隅角部内側スラブ主筋7は、スラブ3の隅角部5以外の部分であるスラブ一般部31の上面に沿って配筋されたスラブ主筋32と継手(例えば、重ね継手や機械式継手)を介して連結されている。本実施形態の隅角部内側スラブ主筋7の鉄筋径は、スラブ主筋32の鉄筋径よりも大きい(図4では、表現上同じ太さになっている)。
【0027】
隅角部内側壁主筋8は、図4に示すように、壁2の内面に沿って配筋されている。本実施形態の隅角部内側壁主筋8の下端には、定着部81が形成されている。定着部81は、隅角部内側壁主筋8の鉄筋径よりも大きな幅を有している。本実施形態の定着部81は、隅角部内側壁主筋8の先端に鋼板を摩擦圧接することにより形成されている。隅角部内側壁主筋8は、壁2の隅角部5以外の部分である壁一般部21に配筋された壁主筋22と継手(例えば、重ね継手や機械式継手)を介して連結されている。本実施形態の隅角部内側壁主筋8の鉄筋径は、壁主筋22の鉄筋径よりも大きい。
【0028】
本実施形態の隅角部5の降伏耐力は、壁の終局耐力以上である。すなわち、壁2の隅角部5以外の部分である壁一般部21で発生する断面力が、壁一般部21の終局耐力に達した際に、隅角部5に発生する断面力が隅角部の降伏耐力以下である。また、本実施形態のスラブ3の隅角部5以外の部分であるスラブ一般部31の降伏耐力は、壁一般部21の終局耐力以上である。すなわち、壁一般部21で発生する断面力が、壁一般部21の終局耐力に達した際に、スラブ一般部31に発生する断面力がスラブ一般部31の降伏耐力以下である。
【0029】
このように、本実施形態の鉄筋コンクリート構造物1は、隅角部の鉄筋の鉄筋径を他の部分の鉄筋の鉄筋径よりも大きくして、隅角部の鉄筋量を増加させているため、隅角部の剛性および耐力も高められている。そのため、鉄筋コンクリート構造物1に大きな力が作用した際に、隅角部5よりも先に壁2の隅角部5以外の部分において終局耐力に至るようになる。そのため、隅角部5およびスラブ3の破壊が防止され、構造物としての剛性を確保できる。
また、隅角部の鉄筋径を大きくして鉄筋の本数を最小限に抑えることで、鉄筋の過密化を抑制し、施工性の向上を図ることができる。
【0030】
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、壁2の隅角部5に含まれる部分が鋼繊維補強コンクリートにより形成されている場合について説明したが、隅角部5を構成するコンクリートは限定されるものではなく、鋼繊維補強コンクリート以外のコンクリート(例えば、鋼繊維以外の繊維を用いた繊維補強コンクリートや高強度コンクリートや壁一般部21等と同じコンクリート等)であってもよい。また、隅角部5全体が同じコンクリート(例えば、繊維補強コンクリート)により構成されていてもよい)。
隅角部内側スラブ主筋7は、必ずしも隅角部外側主筋6に係止している必要はない。
また、定着部の形成方法は限定されるものではなく、例えば、鉄筋の先端をU字状やL字状に加工することにより形成されたフックにより定着部を形成してもよい。また、定着部は、鉄筋の先端に螺合されたナットであってもよい。また、適宜配筋されるせん断補強鉄筋の端部についても同様に定着部を形成してもよい。
【0031】
以下、本発明の鉄筋コンクリート構造物1について実施した実験結果について説明する。図5および図6に本実験で使用した試験体11,12の概要を示す。本実験では、ケース1(試験体11)として隅角部5の主鉄筋6,7,8を多段配筋した場合(図5参照)、ケース2(試験体12として隅角部5の主鉄筋6,7,8を高強度鉄筋にした場合(図6参照)、ケース3として隅角部5の主鉄筋を多段配筋するとともに隅角部5の壁部分のコンクリートを鋼繊維補強コンクリート91にした場合(図5参照)、ケース4として隅角部の主鉄筋を高強度鉄筋にして隅角部の壁部分のコンクリートを鋼繊維補強コンクリートにした場合(図6参照)の試験体に加力実験を行った。加力実験は、図5および図6に示すように、壁2とスラブ3に対して斜めにジャッキJを取り付けて、自己反力により正負交番加力を実施した。なお、比較例として、図7に示すように、ハンチ50を有した試験体13に対しても同様に加力実験を行った。図7は、比較例の試験体13の概要を示す断面図である。試験体13の隅角部5には、壁主筋22およびスラブ主筋32の他にハンチ筋53や、補強筋54を配筋した。
図8にケース1~4と比較例の変位と荷重の関係を示す。図8に示すように、各ケースとも、比較例と同等の線形を示した。そのため、従来のハンチ50を有する場合と同様に、構造物としての剛性を確保できることが確認できた。
【0032】
次に、実施例として、隅角部5の主鉄筋6,7,8を多段配筋するとともに隅角部5の壁部分のコンクリートを鋼繊維補強コンクリート91にした場合(図5の試験体11参照)について、非線形FEMによるシミュ―レーションを行った。また、比較例として、ハンチ50を有した従来の隅角部構造(図7の試験体13参照)についても同様のシミュレーションを行った。図9(a)にハンチを有する従来の隅角部構造のシミュレーション結果、(b)に実施例のシミュレーション結果を示す。図9(b)に示すように、実施例では、隅角部5よりも上方において破損(破損部C)が生じる結果となり、図9(a)に示すハンチ50を有している場合と同様に、隅角部5とスラブ3での破損を防止し、構造物としての剛性を確保できることが確認できた。
【符号の説明】
【0033】
1 鉄筋コンクリート構造物(ボックスカルバート)
2 壁
3 スラブ
4 頂版
5 隅角部
6 隅角部外側主筋
7 隅角部内側スラブ主筋
8 隅角部内側壁主筋
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9