(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175601
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】紫外光照射システム
(51)【国際特許分類】
A61L 2/10 20060101AFI20221117BHJP
【FI】
A61L2/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082153
(22)【出願日】2021-05-14
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥村 善彦
【テーマコード(参考)】
4C058
【Fターム(参考)】
4C058AA19
4C058AA24
4C058BB06
4C058KK02
4C058KK22
4C058KK28
4C058KK32
(57)【要約】
【課題】より効率的に不活化処理が可能な紫外光照射システムを提供する。
【解決手段】筐体と、筐体の内側に収容される紫外光源と、紫外光源から出射される紫外光を、筐体の外側に取り出すための光出射窓とを有する紫外光照射装置を備え、光出射窓から出射され、直接、又は光学系を介して照射対象物の被照射面に照射される紫外光の主光線が、被照射面に対して20°以上70°以下の入射角で入射するように構成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、前記筐体の内側に収容される紫外光源と、前記紫外光源から出射される紫外光を、前記筐体の外側に取り出すための光出射窓とを有する紫外光照射装置を備え、
前記光出射窓から出射され、直接、又は光学系を介して照射対象物の被照射面に照射される紫外光の主光線が、前記被照射面に対して20°以上70°以下の入射角で入射するように構成されていることを特徴とする紫外光照射システム。
【請求項2】
前記紫外光照射装置は、前記照射対象物が設置された面と同じ面に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の紫外光照射システム。
【請求項3】
前記紫外光が入射される反射面を有する反射部材を備え、
前記紫外光の前記主光線は、前記反射部材の前記反射面によって反射されて、前記照射対象物の前記被照射面に入射することを特徴とする請求項1又は2に記載の紫外光照射システム。
【請求項4】
前記反射部材は、前記照射対象物の前記被照射面に入射する前記紫外光の入射角を調整する調整機構を備えていることを特徴とする請求項3に記載の紫外光照射システム。
【請求項5】
前記光出射窓から出射された前記紫外光を取り込み、前記紫外光を、前記照射対象物の前記被照射面に向かって出射するように導光する導光部材を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の紫外光照射システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外光照射システムに関する。
【背景技術】
【0002】
菌やウイルスは、感染者から排出される飛沫による飛沫感染や、人同士の接触、又は人が触れる物を介した接触感染によって、人から人へと感染していく。飛沫感染は、例えば、それぞれの人がマスクを着用すること等によって比較的容易に対策を講じることができる。しかしながら、接触感染は、複数の人が触れる物品(例えば、エレベータのボタンや券売機のタッチパネル等)の表面をこまめに拭き取り清掃等を行う必要があり、対策のために大変な労力を要する。
【0003】
そこで、近年では、人による拭き取り作業等を要することのない接触感染対策として、紫外光を照射して物品の表面に付着している菌等を殺菌処理する方法が注目されている。例えば、下記特許文献1には、エレベータの階数ボタンが配列された操作パネルに対して、紫外光を照射する殺菌装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の殺菌装置は、エレベータのボタンが配置された壁面と同じ面上に配置され、当該ボタンが配列された平面に対して、ほぼ平行に紫外光を照射するように構成されている。
【0006】
ところが、本発明者は、上記特許文献1に記載の殺菌装置では、以下のような課題が存在することを見出した。以下、図面を参照しながら当該課題について説明する。
【0007】
図10は、従来の殺菌装置100による殺菌処理中の状態を模式的に示す図面であって、
図11は、
図10の殺菌装置100をX方向に見たときに断面図である。
図10に示すように、殺菌装置100は、同じ壁面W1上のエレベータの階数ボタンが配列された操作パネル110の+Y側に設置されており、操作パネル110の被照射面P1に対して、紫外光L1を照射するように構成されている。そして、殺菌装置100は、
図11に示すように、筐体101と、筐体101内に収容された長尺状の管体102aを有する紫外光源102とを備える。
【0008】
以下の説明においては、
図10に示すように、被照射面P1と平行な平面をXY平面とし、被照射面P1と直交する方向をZ方向とする。そして、
図11に示すように、管体102aの管軸方向をX方向とし、X方向及びZ方向に直交する方向をY方向として説明する。
【0009】
また、方向を表現する際に、正負の向きを区別する場合には、「+Z方向」、「-Z方向」のように、正負の符号を付して記載され、正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「Z方向」と記載される。
【0010】
殺菌装置100は、
図10及び
図11に示すように、操作パネル110と同じ壁面W1に設置されており、操作パネル110の+Y側から紫外光L1を出射するように構成されている。当該構成では、意図的に紫外光源102を壁面W1から大きく離間させない限り、操作パネル110の被照射面P1における紫外光L1の入射角θは、限りなく90°に近くなる。
【0011】
ここで、被照射面P1に対する紫外光L1の入射角θと、不活化処理の効果の関係性について考察する。被照射面P1における紫外光L1の照度は、紫外光L1の被照射面P1に対する入射角θが大きくなるほど低くなる。この特性は、被照射面P1上において紫外光L1が照射される面積がcosθに反比例するためであり、照度と入射角θとの関係として一般的に知られている光学特性である。
【0012】
紫外光L1による殺菌処理の効果は、被照射面P1における紫外光L1の照度に依存することも一般的に知られている。このため、以上の特性を総合的に考慮すると、殺菌装置100による殺菌処理の効果は、cosθに依存し、入射角θが大きくなるほど殺菌処理の効果が低下してしまうと推測される。
【0013】
以上より、本発明者は、被照射面P1に対して紫外光L1を照射して効率的に殺菌処理するためには、被照射面P1に対する紫外光の入射角θを適切に調整することが重要であることを見出した。
【0014】
本発明は、上記課題に鑑み、より効率的に不活化処理が可能な紫外光照射システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の紫外光照射システムは、
筐体と、前記筐体の内側に収容される紫外光源と、前記紫外光源から出射される紫外光を、前記筐体の外側に取り出すための光出射窓とを有する紫外光照射装置を備え、
前記光出射窓から出射され、直接、又は光学系を介して照射対象物の被照射面に照射される紫外光の主光線が、前記被照射面に対して20°以上70°以下の入射角で入射するように構成されていることを特徴とする。
【0016】
本明細書における「主光線」とは、被照射面に向かって進行する紫外光の光強度分布において、最も高い光強度を示す光線を指す。
【0017】
本明細書において、「不活化」とは、菌やウイルスを死滅させる又は感染力や毒性を失わせることを包括する概念を指し、「菌」とは、細菌や真菌(カビ)等の微生物を指す。以下において、「菌又はウイルス」を「菌等」と総称することがある。
【0018】
本明細書における「被照射面」とは、紫外光を照射されて不活化処理が行われる照射対象物のうちの、紫外光が照射される面をいう。なお、本明細書において、「被照射面」は、完全に平坦な面のみには限られず、照射対象物全体で見たときに、ボタンやパネルの縁等による小さな凹凸を無視すれば平坦な面として見做せる一つの面をも含む意味で用いられる。具体的な例としては、エレベータの階数ボタンが配列された操作盤や、空調の操作パネル、駅の券売機のタッチパネル等である。
【0019】
本発明者は、上述した推測が正しいかどうかを確認するために、紫外光の被照射面に対する入射角と、不活化処理の効果との相関関係を確認する実験を行った。すると、不活化処理の効果は、上述の推測に反して、入射角をθとしたときのcosθには依存せず、入射角が70°以下であれば、サンプルに付着させていた菌のうちの90%以上が不活化処理されていることが確認された。この特性については、「発明を実施するための形態」において、検証結果を参照しながら確認される。
【0020】
なお、入射角θが20°未満の場合は、入射角θが70°より大きい場合と比較すると不活化処理の効果は大きいものの、光出射窓が被照射面と対向するように、紫外光照射装置、又は紫外光照射装置から出射された紫外光を反射する反射部材を設置する必要がある。
【0021】
当該構成を実現する方法の一例としては、被照射面と対向する壁面に紫外光照射装置や反射部材を設置することが考えられる。しかしながら、このような構成の場合は、ボタンやタッチパネルを操作する人の背中や後頭部等に、常に紫外光が照射されることになり、紫外光照射装置から出射される紫外光の波長帯によっては、人体に影響を与えてしまうおそれがある。また、人がボタン等を操作している最中や、順番待ちをしている人の立ち位置によっては、人に対して紫外光が照射され、ボタンやタッチパネルに紫外光が全く照射されなくなってしまう。
【0022】
以上より、照射対象物に触れる人に対する紫外光の照射量をできる限り抑制しつつ、被照射面に対して紫外光を照射できると共に、被照射面において、高い不活化処理の効果を得るためには、被照射面に対する紫外光の入射角が20°以上であることが好ましい。
【0023】
また、被照射面において、高い不活化処理の効果を得るためには、被照射面に対する紫外光の入射角が60°以下であることが好ましく、50°以下であることがより好ましい。この理由については、後述される検証の説明において詳述されるが、被照射面に対する紫外光の入射角が上記のように設定されることで、紫外光照射後の被照射面上における菌の生存率(%)がより低減される。
【0024】
ここで、紫外光の波長帯と、人体に対する影響についても説明しておく。
図12は、たんぱく質の紫外光領域における吸光度特性を示すグラフである。
図12によれば、たんぱく質は、波長240nm以上では紫外光が吸収されにくく、波長240nm以下では波長200nmに向かう程、紫外光が吸収されやすくなる。波長が240nm以上の紫外光は、人の皮膚を透過しやすく、皮膚内部まで浸透する。そのため、人の皮膚内部の細胞がダメージを受けやすい。これに対して、波長240nm未満の紫外光は、人の皮膚表面(例えば角質層)で吸収されやすく、皮膚内部まで浸透し難い。そのため、皮膚に対して安全性が高い。
【0025】
また、目に対しても、波長240nm未満の紫外光は、角膜を透過しにくいため、波長が短くなるほど安全性が高くなる。
【0026】
一方で、波長190nm未満の紫外光が存在すると、大気中に存在する酸素分子が光分解されて酸素原子を多く生成し、酸素分子と酸素原子との結合反応によってオゾンを多く生成させてしまう。そのため、波長190nm未満の紫外光を大気中に照射させることは望ましくない。
【0027】
したがって、波長が190nm以上240nm未満の範囲内の紫外光は、人や動物に対する安全性が高い紫外光であるといえる。このため、前記紫外光源から出射される紫外光の波長は、上記の波長範囲に含まれるのが好ましい。なお、人や動物に安全性をより高める観点から、光源部から出射される紫外光は、波長範囲が190nm以上237nm以下の範囲内であることが好ましく、190nm以上235nm以下の範囲内であることがより好ましく、190nm以上230nm以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0028】
本発明の対象製品は、人や動物の皮膚や目に紅斑や角膜炎を起こすことはなく、紫外光本来の殺菌、ウイルスの不活化能力を提供することができる。特に、従来の紫外光を出射する光源とは異なり、有人環境で使用できるという特徴を生かし、屋内外の有人環境に設置することで、環境全体を照射することができ、空気と環境内設置部材表面のウイルス抑制・除菌を提供することができる。
【0029】
このことは、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標3「あらゆる年齢の全ての人々が健康的な生活を確保し、福祉を促進する」に対応し、また、ターゲット3.3「2030年までに、エイズ、結核、マラリア及び顧みられない熱帯病といった伝染病を根絶すると共に、肝炎、水系感染症及びその他の感染症に対処する」に大きく貢献するものである。
【0030】
なお、本願出願日の時点では、人体に対して1日(8時間)あたりの紫外光の照射量に関して、ACGIH(American Conference of Governmental Industrial Hygienists:米国産業衛生専門家会議)やJIS Z 8812(有害紫外放射の測定方法)等によって、波長ごとの許容限界値(TLV:Threshold Limit Value)が定められている。つまり、人間が存在する環境下で紫外光が利用される場合には、所定の時間内に照射される紫外光の積算照射量がTLVの基準値以内となるように、光源部の放射強度や点灯時間を決定することが推奨されている。
【0031】
これらの規定には、波長が190nm以上240nm未満の紫外光についても許容限界値が定められている。このため、不活化処理が人体に影響を及ぼすリスクが極めて少ない、波長が190nm以上240nm未満の紫外光を用いて行われる場合であっても、当該紫外光が人に対して、許容限界値を超えないように照射されることが好ましい。
【0032】
前記紫外光照射システムにおいて、
前記紫外光照射装置は、前記照射対象物が設置された面と同じ面に配置されていても構わない。
【0033】
上記構成とすることで、紫外光照射装置と被照射面との間を、人が往来することがなく、人に対して照射される紫外光の量を、より低減させることができる。
【0034】
上記紫外光照射システムは、
前記紫外光が入射される反射面を有する反射部材を備え、
前記紫外光の前記主光線は、前記反射部材の前記反射面によって反射されて、前記照射対象物の前記被照射面に入射するように構成されていても構わない。
【0035】
さらに、紫外光照射システムにおいて、
前記反射部材は、前記照射対象物の前記被照射面に入射する前記紫外光の入射角を調整する調整機構を備えていても構わない。
【0036】
また、上記紫外光照射システムは、
前記光出射面から出射された前記紫外光を取り込み、前記紫外光を、前記照射対象物の前記被照射面に向かって出射するように導光する導光部材を備えていても構わない。
【0037】
上記構成とすることで、紫外光照射装置から出射される紫外光を、被照射面に対して、任意の入射角で入射することができる。
【0038】
また、入射角を調整する調整機構を備えていることで、紫外光照射装置が所定の場所に固定された状態で、異なる照射対象物、又は被照射面に対して紫外光を照射することができる。さらには、紫外光を浴びたくない人が照射対象物となっている操作パネル等を操作する場合に、一時的に操作者に紫外光が照射されないように、紫外光の進行方向を調整することができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、より効率的に不活化処理が可能な紫外光照射システムが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】紫外光照射システムの一実施形態を模式的に示す全体斜視図面である。
【
図2】
図1の紫外光照射システムをX方向に見たときの側面断面図である。
【
図3】
図1の紫外光照射装置を+Z側から見たときの図面である。
【
図4】検証用の紫外光照射システムの構成を示す模式的な図面である。
【
図5】入射角ごとの菌の生存率をプロットした検証結果のグラフである。
【
図6】入射角が大きい場合における、紫外光の照射状態を模式的に示す図面である。
【
図7】紫外光照射システムの別実施形態をX方向に見たときの側面断面図である。
【
図8】紫外光照射システムの別実施形態をX方向に見たときの側面断面図である。
【
図9】紫外光照射システムの別実施形態をX方向に見たときの側面断面図である。
【
図10】従来の殺菌装置による殺菌処理中の状態を模式的に示す図面である。
【
図11】
図10の殺菌装置をX方向に見たときの側面断面図である。
【
図12】たんぱく質の紫外光領域における吸光度特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の紫外光照射システムについて、図面を参照して説明する。なお、以下の各図面は、いずれも模式的に図示されたものであり、図面上の寸法比や個数は、実際の寸法比や個数と必ずしも一致していない。
【0042】
図1は、紫外光照射システム1の一実施形態を模式的に示す全体斜視図面である。
図1に示すように、本実施形態の紫外光照射システム1は、紫外光照射装置10から出射される紫外光L1が、人3が指でボタンを押して操作するエレベータの操作パネル2の被照射面P1に照射されるように構成されている。
【0043】
図2は、
図1の紫外光照射システム1をX方向に見たときの側面断面図であり、
図3は、
図1の紫外光照射装置10を+Z側から見たときの図面である。
図2に示すように、本実施形態の紫外光照射装置10は、筐体11と、紫外光源12と、反射部材13とを備える。なお、
図3においては、光出射窓11aを通して筐体11の内側を視認できるように、反射部材13が取り外された状態で図示されている。
【0044】
なお、上述したように、本明細書における「被照射面」は、完全に平坦な面のみには限られず、照射対象物全体で見たときに、ボタンやパネルの縁等による小さな凹凸を無視すれば平坦な面として見做せる一つの面をも含む。この点も考慮して、操作パネル2の被照射面P1は、ボタン等が形成されているため、実際には凹凸が存在するが、
図2においては、説明の便宜のために、平面として図示されている。
【0045】
以下の説明においては、
図1に示すように、被照射面P1に対して直交する方向をZ方向、被照射面P1と平行な平面をXY平面とする。そして、
図3に示すように、後述する紫外光源12が備える管体12aの管軸方向をX方向とし、X方向及びZ方向に直交する方向をY方向として説明する。
【0046】
また、方向を表現する際に、正負の向きを区別する場合には、「+Z方向」、「-Z方向」のように、正負の符号を付して記載され、正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「Z方向」と記載される。
【0047】
筐体11は、
図2に示すように、内側に紫外光源12が収容されており、一側面において、紫外光源12から出射された紫外光L1を外側に取り出すための光出射窓11aが設けられている。そして、本実施形態の筐体11は、光出射窓11aから+Z側に向かって紫外光L1を出射するように、処理対象物である操作パネル2が設置された壁面W1に固定されている。なお、本実施形態では、筐体11が壁面W1に固定されているが、筐体11は、壁面W1に対して着脱可能であっても構わない。
【0048】
光出射窓11aは、後述される紫外光源12から出射される紫外光L1に対して透過性を示す材料で形成されている。光出射窓11aを構成する具体的な材料は、例えば、石英ガラスやサファイアガラス等を採用し得る。また、光出射窓11aは、開口であっても構わない。
【0049】
本実施形態における光出射窓11aは、人体に対する影響を抑止して安全性を向上させるために、240nm~280nmの波長範囲の光強度を抑止するように構成されていることが好ましい。具体的な構成の一例として、本実施形態における光出射窓11aは、図示されない光学フィルタが設けられている。ただし、紫外光源12から出射される紫外光L1のスペクトルにおいて、240nm~280nmの波長域の光強度が、十分低いような場合は、光学フィルタが設けられていなくても構わない。また、上記の波長範囲の光強度を抑止する構成は、光出射窓11aに設けられる光学フィルタ以外に、筐体11や光出射窓11aとは別に設けられる機構や光学系によって実現されていても構わない。
【0050】
本実施形態における紫外光源12は、
図3に示すように、発光ガスが封入された管体12aと、管体12aの外表面に接触するように構成された一対の電極(12b,12b)とを備えるエキシマランプである。
【0051】
本実施形態における管体12a内には、発光ガスとしてクリプトン(Kr)と塩素(Cl)が封入されており、電極12b間に所定の閾値以上の電圧が印加されると、管体12aからピーク波長が222nmの紫外光L1が出射される。なお、本実施形態における紫外光源12は、エキシマランプで構成されているが、菌等の不活化処理に利用できる波長帯の紫外光L1を出射できる光源であれば、例えば、LEDで構成されていても構わない。
【0052】
また、紫外光源12が出射する紫外光L1は、ピーク波長が222nmとは異なる波長であってもよい。具体的には、人や動物に安全性をより高める観点から、紫外光源12から出射される紫外光L1は、波長範囲が190nm以上237nm以下の範囲内であることが好ましく、190nm以上235nm以下の範囲内であることがより好ましく、190nm以上230nm以下の範囲内であることが特に好ましい。また、オゾンの生成をより効果的に抑制する観点からは、波長範囲の下限値を200nm以上としてもよい。
【0053】
反射部材13は、
図2に示すように、筐体11の光出射窓11aから出射された紫外光L1を、操作パネル2の被照射面P1に向かうように反射させる反射面13aを備える。本実施形態の反射面13aはアルミニウムで形成されているが、反射面13aを形成する他の材料としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を採用し得る。
【0054】
本実施形態における反射部材13は、
図2に示すように、紫外光L1を反射する方向を微調整する調整機構として、反射面13aを回動する回動機構13bを備える。回動機構13bは、例えば、角度を維持できるように構成された蝶番や、ネジ止による角度固定機構等である。なお、
図2に示すように、照射対象物が固定された操作パネル2のような物品であれば、回動機構13bを備えず、反射面13aの角度が固定されていても構わない。
【0055】
反射部材13の反射面13aで反射された紫外光L1は、操作パネル2の被照射面P1に対して、主光線Lxが入射角θで入射するように構成されている。本実施形態においては、入射角θが60°となるように反射面13aの向きが調整されている。
【0056】
[検証]
ここで、入射角θと不活化処理の効果との相関関係を確認するために行った検証実験について説明する。
【0057】
(装置構成)
図4は、検証用の紫外光照射システムの構成を示す模式的な図面である。本検証は、
図4に示すように、ポール40に固定した紫外光照射装置10から、台座41上に配置されたサンプルNxに紫外光L1を照射して行った。
【0058】
サンプルNxは、20mm□のポリカーボネート板の主面上に、不活化処理対象である菌を含む試液を滴下し、風乾させたものとした。つまり、本検証においては、試液が滴下されたポリカーボネート板の主面が被照射面P1である。なお、
図4においては、入射角θや被照射面P1が確認できるように、サンプルNxのサイズが実際よりも大きく図示されている。
【0059】
サンプルNxに対する紫外光L1の照射は、床面に対して平行な載置面41aを有する台座41、及び床面に対して傾斜した載置面41aを有する台座41に載置された、サンプルNxの被照射面P1に対して行った。なお、床面に対して傾斜した載置面41aを有する台座41は、下記条件に合わせて、それぞれ載置面41aの床面に対する傾斜角度αが異なるもの使用した。
【0060】
紫外光照射装置10と被照射面P1との離間距離は、下記の照度の条件を満たすように、紫外光照射装置10から照射される紫外光L1の強度に合わせて設定した。
【0061】
(条件)
不活化処理の効果を検証する菌は、黄色ブドウ球菌とした。
【0062】
載置面41aの床面に対する傾斜角度αが0°、10°、20°、30°、40°、50°、60°、70°、80°となっている台座41を用いた。
図4からわかるように、床面に対する傾斜角度αが、そのまま入射角θに対応する。
【0063】
サンプルNxは、8.5×107個の黄色ブドウ球菌が含まれる試液を、ポリカーボネート板の被照射面P1上に、0.1mLを滴下し、風乾させたものを準備した。
【0064】
紫外光L1の照射は、5mJ/cm2(=5μW/cm2×1000秒)、5mJ/cm2(=10μW/cm2×500秒)、10mJ/cm2(=10μW/cm2×1000秒)の三つのパターンの照度で行った。
【0065】
紫外光L1の照射後は、10mLの希釈液が入った遠沈管にそれぞれのサンプルNxを入れて、ボルテックスミキサーによって30秒程攪拌した後、遠沈管内の溶液0.1mLを培地に播種して培養し、コロニーの数をカウントした。そして、プレートに生存していた菌数は、カウントしたコロニーの数から計算によって算出した。
【0066】
(結果)
図5は、入射角θごとの菌の生存率をプロットした検証結果のグラフである。
図5に示すグラフの縦軸は、紫外光L1を照射していないサンプルNxの菌の生存数に対する、紫外光L1を照射したサンプルNxの菌の生存数の比率であり、横軸は、入射角θである。
【0067】
ここで、上述したように、紫外光L1による不活化処理の効果は、入射角θに依存しており、理論的にはcosθと比例関係を示すものと予想されていた。しかしながら、
図5に示すように、入射角θが60°の場合であっても、0°~50°の範囲と同様に菌の生存率が10%未満となっており、不活化処理の効果が、cosθに比例するという関係は確認されなかった。
【0068】
本検証の結果は、
図5に示すように、入射角θが70°以下の範囲では、菌の生存率が10%以下であり、入射角θが80°では、菌の生存率が10%を超える結果となっていた。特に、照度が5mJ/cm
2のパターンにおいては、入射角θが80°では約20%の菌が不活化処理されずに生存していた。
【0069】
以上の結果からすれば、紫外光L1(少なくとも主光線Lx)は、入射角θが70°以下であれば、90%以上の菌を死滅させることができており、より高い不活化処理の効果が得られることが確認された。
【0070】
ここで、上記のような結果が得られた要因について考察する。
図6は、入射角θが大きい場合における、紫外光L1の照射状態を模式的に示す図面である。
図6に示すように、菌は被照射面P1上に、積層するように付着していることから、入射角θが大きくなるほど、最も光源に近い位置に存在する菌V1の影となってしまう位置に存在する菌V2の数が多くなる。この影響が、入射角θが70°よりも大きくなると顕著になり、不活化処理の効果が著しく低下することで、
図5に示すような結果となったのではないかと推察される。
【0071】
上記構成とすることで、紫外光照射システム1は、
図1に示すように、操作パネル2を操作する人3に対する紫外光L1の照射量をできる限り抑制しつつ、被照射面P1に対して紫外光L1を照射できると共に、高い不活化処理の効果が得られる。
【0072】
また、
図2に示すように、本実施形態における紫外光照射装置10は、回動機構13bを備えた反射部材13が設けられているため、照射対象物や人3の位置に応じて、紫外光L1を反射する方向を適宜調整することができる。
【0073】
なお、紫外光照射装置10が、壁面W1に固定されている操作パネル2専用で用いられるような場合は、反射部材13が回動機構13bを備えず、反射面13aの角度が固定されていても構わない。
【0074】
また、本実施形態においては、反射部材13が紫外光照射装置10の筐体11の側面に固定されているが、反射部材13は、紫外光照射装置10とは別体として構成されていても構わない。
【0075】
[別実施形態]
以下、別実施形態につき説明する。
【0076】
〈1〉
図7は、別実施形態をX方向に見たときの側面断面図である。
図7に示すように、本実施形態における紫外光照射装置10は、壁面W1に傾斜して固定されることで、光出射窓11aから出射された紫外光L1の主光線Lxが、壁面W1に固定された操作パネル2の被照射面P1に対して、入射角θで入射するように構成されている。
【0077】
上記構成とすることで、反射部材13を備えることなく、紫外光L1の主光線Lxが、操作パネル2の被照射面P1に対して、所望の入射角θで入射するように構成することができる。
【0078】
〈2〉
図8は、紫外光照射システム1の
図7とは異なる、紫外光照射システム1の別実施形態をX方向に見たときの側面断面図である。
図8に示すように、本実施形態における紫外光照射装置10は、筐体11の光出射窓11aから出射された紫外光L1を取り込み、操作パネル2の被照射面P1に対して、主光線Lxが入射角θで入射するように導光する導光部材80を備えている。
【0079】
導光部材80は、例えば、UVライトガイド等を採用し得る。
【0080】
上記構成とすることで、反射部材13を設ける場合と比較して、紫外光L1の照射方向や、入射角θの調整の自由度がより高くなる。つまり、紫外光照射システム1は、
図1に示すような、操作パネル2に触れる人3を回避するように構成しやすくなり、さらには、被照射面P1の一部の領域に集中的に紫外光L1を照射することも可能となる。
【0081】
〈3〉
図9は、紫外光照射システム1の
図7及び
図8とは異なる、別実施形態をX方向に見たときの側面断面図である。
図9に示すように、本実施形態における紫外光照射装置10は、光出射窓11aから出射された紫外光L1の主光線Lxが、操作パネル2の被照射面P1に対して、入射角θで入射するように、固定台11bを介して天井U1に設置されている。さらに、固定台11bは、筐体11を天井U1に固定しつつ、光出射窓11aが向く方向を偏向できるように、回動部11cが構成されている。なお、回動部11cは、例えば、球体関節や、自在接手等である。
【0082】
〈4〉 上述した紫外光照射システム1が備える構成は、あくまで一例であり、本発明は、図示された各構成に限定されない。
【符号の説明】
【0083】
1 : 紫外光照射システム
2 : 操作パネル
3 : 人
10 : 紫外光照射装置
11 : 筐体
11a : 光出射窓
11b : 固定台
11c : 回動部
12 : 紫外光源
12a : 管体
12b : 電極
13 : 反射部材
13a : 反射面
13b : 回動機構
40 : ポール
41 : 台座
41a : 載置台
80 : 導光部材
100 : 殺菌装置
101 : 筐体
102 : 紫外光源
110 : 操作パネル
L1 : 紫外光
Lx : 主光線
P1 : 被照射面
U1 : 天井
V1,V2 : 菌
W1 : 壁面
α : 傾斜角度
θ : 入射角