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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175616
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】慣性センサー及び慣性計測装置
(51)【国際特許分類】
   G01P 15/08 20060101AFI20221117BHJP
   G01P 15/125 20060101ALI20221117BHJP
   G01P 15/18 20130101ALI20221117BHJP
【FI】
G01P15/08 102F
G01P15/08 101B
G01P15/125 Z
G01P15/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082188
(22)【出願日】2021-05-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】永田 和幸
(57)【要約】
【課題】過度な衝撃に対する可動体の貼り付きを防止する慣性センサー及び慣性計測装置を提供する。
【解決手段】慣性センサー1は、互いに直交する3軸をX軸、Y軸、及びZ軸としたとき、Z軸の変位に基づく物理量を検出する慣性センサー1であって、基板10と、基板10に固定され、X軸に沿う揺動軸Pまわりに揺動し、互いに対向する2つの平面21a,21bとその間を繋ぐ側面21c,21dとを有する可動体21と、基板10に固定され、可動体21の側面21c,21dに対向する規制部19と、を備え、可動体21は、規制部19に対向する部分に弾性部25を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直交する3軸をX軸、Y軸、及びZ軸としたとき、
前記Z軸の変位に基づく物理量を検出する慣性センサーであって、
基板と、
前記基板に固定され、前記X軸に沿う揺動軸まわりに揺動し、互いに対向する2つの平面とその間を繋ぐ側面とを有する可動体と、
前記基板に固定され、前記可動体の前記側面に対向する規制部と、を備え、
前記可動体は、前記規制部に対向する部分に弾性部を備える、
慣性センサー。
【請求項2】
前記弾性部は、前記Y軸に沿う方向に突出する突出部を備える、
請求項1に記載の慣性センサー。
【請求項3】
前記弾性部は、前記X軸に沿う方向に突出する突出部を備える、
請求項1又は請求項2に記載の慣性センサー。
【請求項4】
前記弾性部は、前記Z軸に沿う方向に突出する突出部を備える、
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の慣性センサー。
【請求項5】
前記弾性部は、前記2つの平面を貫通する貫通孔を備える、
請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の慣性センサー。
【請求項6】
前記基板は、前記可動体と対向する面の反対側の面に酸化膜を備える、
請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の慣性センサー。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の何れか一項に記載の慣性センサーと、
前記慣性センサーから出力された検出信号に基づいて制御を行う制御部と、
を備える、
慣性計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慣性センサー及び慣性計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いて製造された慣性センサーが開発されている。このような慣性センサーとして、例えば特許文献1には、支持部および固定電極を備えたベースと、固定電極に主面を対向させて支持部に支持されている可動体と、可動体の外縁の少なくとも一部に相対し、主面の面内方向の回転変位を規制する当接部と、を含み、鉛直方向の加速度を検出することができるMEMSデバイスが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-39804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された慣性センサーとしてのMEMSデバイスは、可動体が外部からの強い衝撃等により、主面の面内方向の過度の回転変位を生じると、可動体と当接部とが衝突し、可動体が1つの剛体として一定のエネルギーで衝突を繰り返すと、可動体と当接部との間で、スティクションと呼ばれる貼り付き現象が生じる虞があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
慣性センサーは、互いに直交する3軸をX軸、Y軸、及びZ軸としたとき、前記Z軸の変位に基づく物理量を検出する慣性センサーであって、基板と、前記基板に固定され、前記X軸に沿う揺動軸まわりに揺動し、互いに対向する2つの平面とその間を繋ぐ側面とを有する可動体と、前記基板に固定され、前記可動体の前記側面に対向する規制部と、を備え、前記可動体は、前記規制部に対向する部分に弾性部を備える。
【0006】
慣性計測装置は、上記に記載の慣性センサーと、前記慣性センサーから出力された検出信号に基づいて制御を行う制御部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1実施形態に係る慣性センサーの概略構造を示す平面図。
図2図1中のA-A線における断面図。
図3図1中のE部を拡大した平面図。
図4】慣性センサーの動作を説明する図1中のB-B線における断面図。
図5】第2実施形態に係る慣性センサーの概略構造を示す平面図。
図6図5中のF部を拡大した平面図。
図7】第3実施形態に係る慣性センサーの概略構造を示す平面図。
図8図7中のC-C線における断面図。
図9】第4実施形態に係る慣性センサーの概略構造を示す断面図。
図10】慣性センサーの製造方法を示す断面図。
図11】慣性センサーの製造方法を示す断面図。
図12】慣性センサーの製造方法を示す断面図。
図13】慣性センサーの製造方法を示す断面図。
図14】慣性センサーの製造方法を示す断面図。
図15】慣性センサーの製造方法を示す断面図。
図16】慣性センサーの製造方法を示す断面図。
図17】慣性センサーの製造方法を示す断面図。
図18】第5実施形態に係る慣性センサーの概略構造を示す平面図。
図19】第6実施形態に係る慣性センサーを備える慣性計測装置の概略構成を示す分解斜視図。
図20図19の基板の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.第1実施形態
先ず、第1実施形態に係る慣性センサー1について、鉛直方向の加速度を検出する加速度センサーを一例として挙げ、図1図2図3、及び図4を参照して説明する。
尚、図1において、慣性センサー1の内部の構成を説明する便宜上、蓋体50を取り外した状態を図示している。また、図1図2、及び図3において、基板10に設けられている配線の図示を省略している。
【0009】
また、説明の便宜上、以降の平面図、断面図、及び斜視図には互いに直交する3つの軸として、X軸、Y軸、及びZ軸を図示している。また、X軸に沿う方向を「X方向」、Y軸に沿う方向を「Y方向」、Z軸に沿う方向を「Z方向」と言う。また、各軸方向の矢印先端側を「プラス側」、基端側を「マイナス側」、Z方向プラス側を「上」、Z方向マイナス側を「下」とも言う。また、Z方向は、鉛直方向に沿い、XY平面は、水平面に沿っている。また、本明細書では、プラスZ方向とマイナスZ方向とを合わせてZ方向と呼ぶ。
【0010】
図1及び図2に示す慣性センサー1は、センサー素子20の鉛直方向であるZ方向の加速度を物理量として検出することができる。このような慣性センサー1は、基板10と、基板10上に配置されたセンサー素子20と、基板10上に配置された規制部19と、基板10に接合され、センサー素子20及び規制部19を覆う蓋体50と、を有する。
【0011】
基板10は、図1に示すように、X方向及びY方向に広がりを有し、Z方向を厚さとする。また、基板10は、図2に示すように、基板10の上面10aから下方に窪む第1凹部11と第1凹部11の第1底面12から下方に窪む第2凹部13とが形成されている。この第1凹部11及び第2凹部13は、Z方向からの平面視で、センサー素子20を内側に内包し、センサー素子20よりも大きく形成されている。第1凹部11及び第2凹部13は、センサー素子20を揺動するための逃げ部として機能する。また、基板10は、第1凹部11の第1底面12からセンサー素子20側に突出している支持部15を有し、支持部15の上にセンサー素子20を接合し固定している。これにより、センサー素子20を、第1凹部11の第1底面12及び第2凹部13の第2底面14と離間させた状態で基板10に固定することができる。
【0012】
また、第1凹部11の第1底面12に、第1固定電極16と第2固定電極17とが配置され、第2凹部13の第2底面14に、ダミー電極となる第3固定電極18が配置されている。第1固定電極16と第2固定電極17とは、略等しい面積を有する。また、第1固定電極16と第2固定電極17とは、図示しない外部装置のQVアンプにそれぞれ接続され、その静電容量差を差動検出方式により電気信号として検出する。従って、第1固定電極16と第2固定電極17とは、等しい面積であることが望ましい。
【0013】
また、基板10の第1凹部11及び第2凹部13が設けられてない領域の上面10aには、外部装置と第1~第3固定電極16,17,18とを電気的に接続する接続端子41,42,43が設けられている。接続端子41は、図示しない配線により第1固定電極16と電気的に接続され、接続端子42は、図示しない配線により第2固定電極17と電気的に接続され、接続端子43は、図示しない配線により第3固定電極18及び可動体21と電気的に接続されている。
【0014】
基板10としては、例えば、Na+等の可動イオンであるアルカリ金属イオンを含むガラス材料、例えば、パイレックス(登録商標)ガラス、テンパックス(登録商標)ガラスのような硼珪酸ガラスで構成されたガラス基板を用いることができる。ただし、基板10としては、特に限定されず、例えば、シリコン基板や石英基板を用いてもよい。
【0015】
また、第1~第3固定電極16,17,18としては、Au、Pt、Ag、Cu、Al等の金属を用いることができる。
【0016】
蓋体50は、図2に示すように、上方に窪む凹部51が基板10の第1凹部11及び第2凹部13と重なる位置に形成されている。蓋体50は、凹部51内にセンサー素子20を収容して基板10の上に接合されている。そして、蓋体50及び基板10によって、その内側に、センサー素子20を収容する内部空間Sが形成されている。
【0017】
内部空間Sは、気密空間であり、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスが封入され、使用温度が-40℃~125℃程度で、ほぼ大気圧となっていることが好ましい。ただし、内部空間Sの雰囲気は、特に限定されず、例えば、減圧状態であってもよいし、加圧状態であってもよい。
【0018】
蓋体50としては、例えば、シリコン基板を用いることができる。ただし、これに特に限定されず、例えば、ガラス基板や石英基板を用いてもよい。また、基板10と蓋体50との接合方法としては、特に限定されず、基板10や蓋体50の材料によって適宜選択すればよく、例えば、陽極接合、プラズマ照射によって活性化させた接合面同士を接合させる活性化接合、ガラスフリット等の接合材による接合、基板10の上面10a及び蓋体50の下面50aに成膜した金属膜同士を接合する金属共晶接合等を用いることができる。
【0019】
センサー素子20は、例えば、リン(P)、ボロン(B)、砒素(As)等の不純物がドープされた導電性のシリコン基板をエッチング、特に、深堀エッチング技術であるボッシュ・プロセスによって垂直加工することにより形成される。
【0020】
センサー素子20は、図1に示すように、支持部15の上に接合され固定されている2つの固定部27と、2つの固定部27を連結する2つの支持梁部28と、一方の支持梁部28からプラスX方向に延在する懸架部29と、他方の支持梁部28からマイナスX方向に延在する懸架部29と、2つの懸架部29と第1連結部30を介して連結している可動体21と、を有する。可動体21は、固定部27に対して所定方向に変位可能であり、Z方向に沿った加速度が作用すると、可動体21が懸架部29をX軸に沿う揺動軸Pとして、懸架部29を捩り変形させながら、揺動軸Pまわりに揺動する。換言すれば、揺動軸Pを中心軸として、可動体21が固定部27に対して、シーソー揺動可能に構成されている。
【0021】
可動体21は、互いに対向する2つの平面21a,21bとその間を繋ぐ側面21c,21dとを有し、Z方向からの平面視で、Y方向を長辺とする長方形状をなしている。そして、可動体21は、揺動軸Pに対してY方向のプラス側に位置する第1可動電極22と、揺動軸Pに対してY方向のマイナス側に位置する第2可動電極23と、第2可動電極23と連結する第3可動電極24と、を有する。第1可動電極22、第2可動電極23、及び第3可動電極24は、Z方向からの平面視で、基板10の第1底面12に設けられた第1固定電極16、第2固定電極17、及び第3固定電極18とそれぞれ重なって配置されている。
【0022】
また、揺動軸Pに対してY方向のマイナス側に位置する可動体21は、第2可動電極23と第3可動電極24とが連結しているため、揺動軸Pに対してY方向のプラス側に位置する可動体21である第1可動電極22よりもY方向に長く構成されている。従って、揺動軸Pに対してY方向のマイナス側に位置する可動体21は、Z方向からの平面視で、揺動軸Pに対してY方向のプラス側に位置する可動体21よりも面積が大きくなり、質量が大きくなることから、加速度が加わったときの回転モーメントがY方向のプラス側に位置する可動体21よりも大きい。この回転モーメントの差によって、Z方向の加速度が加わると、可動体21が揺動軸Pまわりにシーソー揺動する。尚、シーソー揺動とは、第1可動電極22がプラスZ方向に変位すると、第2可動電極23がマイナスZ方向に変位し、反対に、第1可動電極22がマイナスZ方向に変位すると、第2可動電極23がプラスZ方向に変位することを意味する。
【0023】
慣性センサー1の駆動時、センサー素子20に駆動信号が印加されることにより、第1可動電極22と第1固定電極16との間に静電容量Caが形成される。同様に、第2可動電極23と第2固定電極17との間に静電容量Cbが形成される。加速度が加わっていない自然状態では静電容量Ca,Cbが互いにほぼ等しい。
【0024】
慣性センサー1にZ方向の加速度が加わると、可動体21が揺動軸Pを中心にしてシーソー揺動する。この可動体21のシーソー揺動により、第1可動電極22と第1固定電極16とのギャップと、第2可動電極23と第2固定電極17とのギャップと、が逆相で変化し、これに応じて静電容量Ca,Cbが互いに逆相で変化する。そのため、慣性センサー1は、静電容量Ca,Cbの容量値の差に基づいてZ方向の加速度を検出することができる。
【0025】
また、可動体21は、第1可動電極22と第2可動電極23との間に開口部34を有し、開口部34内に固定部27、支持梁部28、及び懸架部29が配置されている。このような形状とすることにより、センサー素子20の小型化を図ることができる。また、可動体21の第1~第3可動電極22,23,24及び弾性部25,26には、2つの平面21a,21bを貫通する複数の貫通孔35が設けられている。そのため、可動体21がZ方向に変位する際に生じる空気抵抗を低減することができる。
【0026】
第1可動電極22は、揺動軸Pに対してY方向のプラス側の端部の中央からプラスY方向に延在する第2連結部31を有し、第2連結部31の先端部には、第3連結部32を介して、第2連結部31のX方向のプラス側及びマイナス側にそれぞれ弾性部25が連結されている。弾性部25は、規制部19と対向する部分に設けられており、第3連結部32を軸とし、可動体21の平面21a,21bの面内方向に回転変位可能に構成されている。そのため、外部からの強い衝撃等により、面内方向の過度の回転変位を生じ、弾性部25の規制部19と対向し、X方向と直交する側面21cが規制部19に衝突しても、弾性部25が変形する弾性機能により衝突による衝撃を弱めることができ、可動体21と規制部19とのスティクションと呼ばれる貼り付き現象を抑制することができる。
【0027】
また、図3に示すように、弾性部25の規制部19と対向し、Y方向と直交する側面21dには、Y方向に突出する突出部36が設けられている。突出部36は、側面21dにおいて、第2連結部31のX方向のプラス側に連結された弾性部25のプラスX方向の端部と、第2連結部31のX方向のマイナス側に連結された弾性部25のマイナスX方向の端部と、に設けられており、第3連結部32を軸とし、可動体21の平面21a,21bの直交方向であるZ方向に回転変位可能に構成されている。そのため、Z方向の過度な加速度が加わった場合に、図4に示すように、矢印Gで示す揺動軸Pまわりに回転変位し、突出部36の規制部19と対向する当接面36cが規制部19に衝突しても、弾性部25が変形する弾性機能により衝突による衝撃を弱めることができ、可動体21と規制部19との貼り付き現象を抑制することができる。
【0028】
第2可動電極23は、揺動軸Pに対してY方向のマイナス側の端部の中央からマイナスY方向に延在する第2連結部31を有し、第2連結部31には、第3連結部32を介して、第2連結部31のX方向のプラス側及びマイナス側にそれぞれ弾性部26が連結されている。第2連結部31のX方向のプラス側に連結された弾性部26のプラスX方向の端部と、第2連結部31のX方向のマイナス側に連結された弾性部26のマイナスX方向の端部と、に第4連結部33を介して、第3可動電極24が連結されている。
【0029】
規制部19は、可動体21の平面21a,21bの面内方向の回転変位と、揺動軸Pまわりの回転変位と、を規制するために設けられており、可動体21の側面21c,21dに対向して、基板10の上面10aに接合され固定されている。
【0030】
規制部19は、センサー素子20と同じ、リン(P)、ボロン(B)、砒素(As)等の不純物がドープされた導電性のシリコン基板をセンサー素子20とともに同時にエッチング、特に、深堀エッチング技術であるボッシュ・プロセスによって垂直加工することにより形成される。
【0031】
本実施形態の慣性センサー1は、可動体21が規制部19に対向する部分に弾性部25を備えているので、外部からの強い衝撃等により、面内方向の過度の回転変位を生じ、弾性部25の側面21cが規制部19に衝突しても、弾性部25が変形する弾性機能により衝突による衝撃を弱めることができ、可動体21と規制部19との貼り付き現象を抑制することができる。
【0032】
また、弾性部25は、Y方向に突出する突出部36を備えているので、Z方向の過度な加速度が加わった場合に、突出部36の規制部19と対向する当接面36cが規制部19に衝突しても、弾性部25が変形する弾性機能により衝突による衝撃を弱めることができ、可動体21と規制部19との貼り付き現象を抑制することができる。
【0033】
また、弾性部25は、2つの平面21a,21bを貫通する貫通孔35を備えているので、弾性部25においても可動体21がZ方向に変位する際に生じる空気抵抗を低減することができ、高感度の慣性センサー1を得ることができる。
【0034】
2.第2実施形態
次に、第2実施形態に係る慣性センサー1aについて、図5及び図6を参照して説明する。尚、図5は、説明する便宜上、蓋体50を取り外した状態を図示している。また、図5において、基板10に設けられている配線の図示を省略している。
【0035】
本実施形態の慣性センサー1aは、第1実施形態の慣性センサー1に比べ、センサー素子20aの弾性部25aの構造が異なること以外は、第1実施形態の慣性センサー1と同様である。尚、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
【0036】
慣性センサー1aは、図5及び図6に示すように、可動体211aの弾性部25aの規制部19と対向し、X方向と直交する側面21cに、X方向に突出する突出部37が設けられている。また、突出部37は、第2連結部31のX方向のプラス側に連結された弾性部25aの規制部19と対向する側面21cと、第2連結部31のX方向のマイナス側に連結された弾性部25aの規制部19と対向する側面21cと、に設けられている。
【0037】
突出部37は、突出部37の規制部19と対向する当接面37cと規制部19とが接触することで、X方向の衝撃に対しても、弾性部25aの弾性機能による耐衝撃性を向上させることができる。
【0038】
このような構成とすることで、X方向の過度な衝撃に対しても耐衝撃性を向上させることができ、第1実施形態の慣性センサー1と同等の効果を得ることができる。
【0039】
3.第3実施形態
次に、第3実施形態に係る慣性センサー1bについて、図7及び図8を参照して説明する。尚、図7は、説明する便宜上、蓋体50を取り外した状態を図示している。また、図7及び図8において、基板10に設けられている配線の図示を省略している。
【0040】
本実施形態の慣性センサー1bは、第1実施形態の慣性センサー1に比べ、センサー素子20bの弾性部25b,26bの構造が異なること以外は、第1実施形態の慣性センサー1と同様である。尚、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
【0041】
慣性センサー1bは、図7及び図8に示すように、可動体211bの弾性部25bの第1固定電極16と対向する平面21bに、Z方向に突出する突出部38が設けられている。また、突出部38は、第2連結部31のX方向のプラス側に連結された弾性部25bの規制部19に一番近い貫通孔35とY方向に沿う位置と、第2連結部31のX方向のマイナス側に連結された弾性部25bの規制部19に一番近い貫通孔35とY方向に沿う位置と、に設けられている。また、突出部38は、弾性部26bの第2固定電極17と対向する平面21bにも設けられている。
【0042】
第1固定電極16上には、弾性部25bの突出部38と対向する位置に、第1固定電極16と第1可動電極22とのショートを防止するための絶縁膜40が形成されている。また、第2固定電極17上には、弾性部26bの突出部38と対向する位置に、第2固定電極17と第2可動電極23とのショートを防止するための絶縁膜40が形成されている。
【0043】
弾性部25b,26bに設けられた突出部38の当接面38cと絶縁膜40とが接触することで、Z方向の衝撃に対しても、弾性部25b,26bの弾性機能による耐衝撃性を向上させることができる。
【0044】
このような構成とすることで、Z方向の過度な衝撃に対しても、弾性部25bに設けられた突出部36とともに耐衝撃性を更に向上させることができ、第1実施形態の慣性センサー1と同等の効果を得ることができる。
【0045】
4.第4実施形態
次に、第4実施形態に係る慣性センサー1cについて、図9を参照して説明する。尚、図9は、図1のA-A線の位置に相当する部分の断面図であり、基板100に設けられている配線の図示を省略している。
【0046】
本実施形態の慣性センサー1cは、第1実施形態の慣性センサー1に比べ、センサー素子20、規制部19、及び蓋体50を固定する基板100の構造が異なること以外は、第1実施形態の慣性センサー1と同様である。尚、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
【0047】
慣性センサー1cは、図9に示すように、センサー素子20側に凹状に反っている基板100を有している。基板100は、シリコン基板で構成され、シリコン基板を熱酸化することで生成される酸化膜101を有している。酸化シリコン(SiO2)である酸化膜101は、基板100の可動体21と対向する上面100aの反対側の面に配置されている。尚、基板100のそりは、シリコン基板の一方の面だけに形成された酸化膜101の残留応力によって生じる。
【0048】
基板100のそりにより、基板100の上面100aに形成された枠部112に接合し固定された規制部19が可動体21の側面21d側に傾き、側面21dと規制部19との間隔を狭めることができる。そのため、基板100を反らすことにより、可動体21と規制部19との間隔が狭い慣性センサー1cを容易に製造することができる。
【0049】
このような構成とすることで、可動体21と規制部19との間隔が狭い慣性センサー1cを得ることができ、第1実施形態の慣性センサー1と同等の効果を得ることができる。
【0050】
次に、第4実施形態に係る慣性センサー1cの製造方法について、図10図17を参照して説明する。
【0051】
先ず、シリコン基板から構成される基板100を熱酸化し、図10に示すように、基板100の上下両面に酸化シリコン(SiO2)である酸化膜101を形成する。
【0052】
次に、図11に示すように、基板100の上下面どちらか一方の面に形成された酸化膜101をエッチング等により除去する。
【0053】
次に、酸化膜101が除去された上面100aにフォトリソグラフィー技術を用いて、図12に示すように、第1~第3固定電極16,17,18及び図示しない配線を形成する。
【0054】
次に、図13に示すように、第1~第3固定電極16,17,18が形成された基板100の上面100a上に犠牲層となる酸化シリコン(SiO2)の酸化膜111をCVD装置等で形成する。
【0055】
次に、図14に示すように、酸化膜111上に可動体21及び規制部19を形成するためのシリコン(Si)の構造体膜200をCVD装置等で形成する。その後、リン(P)、ボロン(B)、砒素(As)等の不純物をドープし導電性の構造体膜200とする。
【0056】
次に、フォトリソグラフィー技術を用いて構造体膜200を加工し、図15に示すように、第1~第3可動電極22,23,24や固定部27等を含む可動体21と、規制部19と、を形成する。
【0057】
次に、固定部27が接合し固定されている支持部115と、規制部19が接合し固定されている枠部112を含み、センサー素子20を内側に内包する枠部112と、を除く酸化膜111を、図16に示すように、フォトリソグラフィー技術を用いてエッチングし除去する。
【0058】
次に、可動体21と規制部19とが形成された基板100は、酸化膜111の一部が除去されることで、基板100の上面100aと反対側の面に形成された酸化膜101の残留応力によって、図17に示すように、センサー素子20側に凹状に反る。
【0059】
その後、基板100に形成された枠部112上に接合部材60を用いて蓋体50を接合することにより、図9に示すように、基板100がセンサー素子20側に凹状にそり、可動体21と規制部19との間隔が狭い慣性センサー1cを製造することができる。
なお、製造方法については上記に限定されず、基板100の上下面どちらか一方の面に形成された酸化膜101をエッチング等により一部除去し、上下面の酸化膜101の膜厚を異ならせる方法も考えられる。また、基板100に成膜する膜については、酸化膜に限らず、シリコン窒化膜(Si34)をCVD装置等で成膜する方法も考えられる。
【0060】
5.第5実施形態
次に、第5実施形態に係る慣性センサー1dについて、図18を参照して説明する。尚、図18は、説明する便宜上、蓋体50を取り外した状態を図示している。また、図18において、基板10に設けられている配線の図示を省略している。
【0061】
本実施形態の慣性センサー1dは、第1実施形態の慣性センサー1に比べ、センサー素子20dの第1可動電極22d、第2可動電極23d、及び弾性部25dの構造が異なること以外は、第1実施形態の慣性センサー1と同様である。尚、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
【0062】
慣性センサー1dは、図18に示すように、可動体211dの第1可動電極22dにプラスX方向とマイナスX方向にそれぞれ延在する弾性部25dが設けられており、弾性部25dには、規制部19と対向し、Y方向と直交する側面21dに、Y方向に突出する突出部36dが設けられている。尚、弾性部25dは、第1可動電極22dの揺動軸Pに対してY方向のプラス側の端部の中央からプラスY方向に延在する第2連結部31dの先端部に連結されている。そのため、第2連結部31dの先端部を軸とし、可動体211dの平面21a,21bの面内方向に回転変位可能で且つ可動体211dの平面21a,21bの直交方向であるZ方向に回転変位可能に構成されている。
また、第2可動電極23dは、マイナスY方向の端部において、第4連結部33を介して、第3可動電極24と連結されている。
【0063】
尚、弾性部25dは、片持ち梁構造であるため、弾性機能部分の共振周波数が高い。そのため、振動試験等の周期的な振動に対する耐久試験に対して、共振が発生しセンサー素子20dが破損する虞が小さく、より信頼性の高い慣性センサー1dを得ることができる。
【0064】
このような構成とすることで、より信頼性を高めることができ、第1実施形態の慣性センサー1と同等の効果を得ることができる。
【0065】
6.第6実施形態
次に、第6実施形態に係る慣性センサー1~1dを備える慣性計測装置2000について、図19及び図20を参照して説明する。尚、以下の説明では、慣性センサー1を適用した構成を例示して説明する。
【0066】
図19に示す慣性計測装置2000(IMU:Inertial Measurement Unit)は、自動車や、ロボットなどの運動体の姿勢や、挙動などの慣性運動量を検出する装置である。慣性計測装置2000は、3軸に沿った方向の加速度Ax,Ay,Azを検出する加速度センサーと、3軸周りの角速度ωx,ωy,ωzを検出する角速度センサーと、を備えた、いわゆる6軸モーションセンサーとして機能する。
【0067】
慣性計測装置2000は、平面形状が略正方形の直方体である。また、正方形の対角線方向に位置する2ヶ所の頂点近傍に、固定部としてのネジ穴2110が形成されている。この2ヶ所のネジ穴2110に2本のネジを通して、自動車などの被装着体の被装着面に慣性計測装置2000を固定することができる。尚、部品の選定や設計変更により、例えば、スマートフォンやデジタルカメラに搭載可能なサイズに小型化することも可能である。
【0068】
慣性計測装置2000は、アウターケース2100と、接合部材2200と、センサーモジュール2300と、を有し、アウターケース2100の内部に、接合部材2200を介在させて、センサーモジュール2300を挿入した構成となっている。また、センサーモジュール2300は、インナーケース2310と、基板2320と、を有する。
【0069】
アウターケース2100の外形は、慣性計測装置2000の全体形状と同様に、平面形状が略正方形の直方体であり、正方形の対角線方向に位置する2ヶ所の頂点近傍に、それぞれネジ穴2110が形成されている。また、アウターケース2100は、箱状であり、その内部にセンサーモジュール2300が収容されている。
【0070】
インナーケース2310は、基板2320を支持する部材であり、アウターケース2100の内部に収まる形状となっている。また、インナーケース2310には、基板2320との接触を防止するための凹部2311や後述するコネクター2330を露出させるための開口2312が形成されている。このようなインナーケース2310は、接合部材2200を介してアウターケース2100に接合されている。また、インナーケース2310の下面には接着剤を介して基板2320が接合されている。
【0071】
図20に示すように、基板2320の上には、コネクター2330、Z軸周りの角速度を検出す角速度センサー2340z、X軸、Y軸およびZ軸の各軸方向の加速度を検出する加速度センサーユニット2350などが実装されている。また、基板2320の側面には、X軸周りの角速度を検出する角速度センサー2340x及びY軸周りの角速度を検出する角速度センサー2340yが実装されている。
【0072】
加速度センサーユニット2350は、前述したZ方向の加速度を測定するための慣性センサー1を少なくとも含み、必要に応じて、一軸方向の加速度を検出したり、二軸方向や三軸方向の加速度を検出したりすることができる。尚、角速度センサー2340x,2340y,2340zとしては、特に限定されず、例えば、コリオリの力を利用した振動ジャイロセンサーを用いることができる。
【0073】
また、基板2320の下面には、制御IC2360が実装されている。慣性センサー1から出力された検出信号に基づいて制御を行う制御部としての制御IC2360は、MCU(Micro Controller Unit)であり、不揮発性メモリーを含む記憶部や、A/Dコンバーターなどを内蔵しており、慣性計測装置2000の各部を制御する。記憶部には、加速度、および角速度を検出するための順序と内容を規定したプログラムや、検出データをデジタル化してパケットデータに組込むプログラム、付随するデータなどが記憶されている。尚、基板2320には、その他にも複数の電子部品が実装されている。
【0074】
このような慣性計測装置2000は、慣性センサー1を含む加速度センサーユニット2350を用いているため、耐衝撃性に優れ、信頼性の高い慣性計測装置2000が得られる。
【符号の説明】
【0075】
1,1a,1b,1c…慣性センサー、10…基板、10a…上面、11…第1凹部、12…第1底面、13…第2凹部、14…第2底面、15…支持部、16…第1固定電極、17…第2固定電極、18…第3固定電極、19…規制部、20…センサー素子、21…可動体、21a,21b…平面、21c,21d…側面、22…第1可動電極、23…第2可動電極、24…第3可動電極、25,26…弾性部、27…固定部、28…支持梁部、29…懸架部、30…第1連結部、31…第2連結部、32…第3連結部、33…第4連結部、34…開口部、35…貫通孔、36…突出部、36c…当接面、41,42,43…接続端子、50…蓋体、50a…下面、51…凹部、G…矢印、P…揺動軸、S…内部空間。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図10
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