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特開2022-175660回転電機の部分放電検出装置および検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175660
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】回転電機の部分放電検出装置および検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/12 20200101AFI20221117BHJP
   G01R 31/34 20200101ALI20221117BHJP
   H02P 29/024 20160101ALI20221117BHJP
【FI】
G01R31/12 A
G01R31/34 D
H02P29/024
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082275
(22)【出願日】2021-05-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】澤 史雄
(72)【発明者】
【氏名】廣島 聡
(72)【発明者】
【氏名】高根沢 真
(72)【発明者】
【氏名】小林 優介
(72)【発明者】
【氏名】根本 幸祐
【テーマコード(参考)】
2G015
2G116
5H501
【Fターム(参考)】
2G015AA12
2G015BA00
2G015BA02
2G015BA04
2G015BA10
2G015CA01
2G116BA03
2G116BB09
2G116BC02
2G116BD07
2G116BD12
5H501LL53
5H501MM09
(57)【要約】
【課題】非接触方式による回転電機の部分放電信号の検出感度を向上させる。
【解決手段】実施形態における回転電機の部分放電検出装置は、回転電機の固定子コイルが収納される固定子フレームに接続された金属フレームと、前記金属フレーム内に設けられ、前記固定子コイルの絶縁の劣化が発生したときに前記固定子コイルから発生する部分放電信号が伝播する信号線と、前記部分放電信号を検出可能な位置に設けられる電気素子と、前記信号線を向く方向への指向性を有して信号を受信可能な位置に設けられるアンテナと、前記電気素子により検出された信号および前記アンテナにより受信された信号を比較することで、前記固定子コイルに劣化が発生したか否かを判定する判定手段と、とを有する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機の固定子コイルが収納される固定子フレームに接続された金属フレームと、
前記金属フレーム内に設けられ、前記固定子コイルの絶縁の劣化が発生したときに前記固定子コイルから発生する部分放電信号が伝播する信号線と、
前記部分放電信号を検出可能な位置に設けられる電気素子と、
前記信号線を向く方向への指向性を有して信号を受信可能な位置に設けられるアンテナと、
前記電気素子により検出された信号および前記アンテナにより受信された信号を比較することで、前記固定子コイルに劣化が発生したか否かを判定する判定手段と、
を備えた回転電機の部分放電検出装置。
【請求項2】
前記部分放電信号を模擬する基準信号を出力する信号出力手段と、
前記信号出力手段により前記基準信号が出力された状態で、前記電気素子により検出された信号が増幅された信号の強度が、前記アンテナにより受信された信号が増幅された信号の強度より大きくなるように、前記電気素子により検出された信号の増幅度および前記アンテナにより受信された信号の増幅度の少なくとも一方を調整する調整手段と、
をさらに備えた請求項1に記載の回転電機の部分放電検出装置。
【請求項3】
前記部分放電信号と異なる信号を模擬する信号を出力する信号出力手段と、
前記信号出力手段により前記信号が出力された状態で、前記アンテナにより受信された信号が増幅された信号の強度が前記電気素子により検出された信号の強度より大きくなるように、前記電気素子により検出された信号の増幅度および前記アンテナにより受信された信号の増幅度の少なくとも一方を調整する調整手段と、
をさらに備えた請求項1に記載の回転電機の部分放電検出装置。
【請求項4】
前記固定子コイルおよび前記信号線は、3相の各々に配設され、
前記電気素子は、前記3相の各々における前記部分放電信号を検出可能な位置に設けられ、
前記アンテナは、前記3相の各相に対応して設けられ、
前記判定手段は、
前記電気素子により検出された信号および、前記アンテナにより受信された信号を前記3相の各相について比較することで、前記固定子コイルに劣化が発生したか否かを前記3相の各相について判定する、
請求項1に記載の回転電機の部分放電検出装置。
【請求項5】
前記3相の各相について、前記部分放電信号の伝搬速度と前記部分放電信号の波形の立ち上がり幅とに基づく間隔で、複数個の前記電気素子および複数個の前記アンテナがそれぞれ設けられ、
前記判定手段は、
前記3相のいずれかの相において、前記固定子コイルに劣化が発生したことを判定したときに、当該相に対応して設けられる前記複数個の前記電気素子の各々により検出された信号を比較することで、前記劣化が発生した箇所を判定し、
前記3相のいずれかの相において、前記固定子コイルに劣化が発生していないことを判定したときに、当該相に対応して設けられる前記複数個の前記アンテナの各々により検出された信号を比較することで、前記部分放電信号と異なる信号が発生した箇所を判定する、
請求項4に記載の回転電機の部分放電検出装置。
【請求項6】
前記判定手段は、
前記固定子コイルに劣化が発生したことを判定したときに、前記電気素子により検出された信号について少なくとも2種類の特徴量を抽出し、前記抽出した特徴量の推移に基づいて、前記部分放電信号の推移を推定する、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の回転電機の部分放電検出装置。
【請求項7】
回転電機の固定子コイルが収納される固定子フレームに接続された金属フレームと、前記金属フレーム内に設けられ、前記固定子コイルの絶縁の劣化が発生したときに前記固定子コイルから発生する部分放電信号が伝播する信号線と、前記部分放電信号を検出可能な位置に設けられる電気素子と、前記信号線を向く方向への指向性を有して信号を受信可能な位置に設けられるアンテナとを有する装置に適用される、回転電機の部分放電検出方法であって、
判定手段により、前記電気素子により検出された信号および前記アンテナにより受信された信号を比較することで、前記固定子コイルに劣化が発生したか否かを判定することを含む、
回転電機の部分放電検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、回転電機の部分放電検出装置および検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高電圧の回転電機においては、長期にわたり運用すると、電気的、熱的、機械的及び環境的なストレスにより、機器内部の電気絶縁体の劣化(以下、単に劣化と称することがある)が進行し、最終的に絶縁破壊ひいては機器の故障に至ることがある。
ここでの劣化は、熱的劣化、電気的劣化(電圧的劣化)、環境的劣化、あるいは機械的な劣化を要因とする劣化を意味し、やがては機器が絶縁破壊、ひいては機器の故障に至ることがある。
特に、回転電機の固定子コイル(単にコイルと称することがある)においては、回転電機の各部品の中で最も電圧が高いため、回転電機の故障を回避する為には、電気絶縁体の劣化度を診断および検出する技術が必要である。
【0003】
このような、電気絶縁体の劣化度を診断する方法としては、コイルの劣化に伴なって発生する、パルス状の部分放電信号を検出する方法がある。
従来の技術としては、機器の高電圧部に直接接触させるセンサを用いた方法、あるいは、部分放電により発生する電磁波をアンテナで検出する方法がある。
それぞれの方法には一長一短があり、前者のセンサを用いた方法は、信号の検出感度が比較的高いものの、センサを上記高電圧部に直接接触させるため、高い耐電圧性能が要求される。また、後者のアンテナで検出する方法は、電磁波の伝搬距離の関係から、部分放電の発生源である固定子コイルにアンテナを近接させる必要性があることから、当該アンテナが設置される箇所は回転電機の内部であることが一般的である。
【0004】
このようなことから、非接触であり、かつ部分放電信号を感度良く検出可能な技術が求められる。そこで、コイルの高電圧充電部から取り出される母線、あるいは中性点接地点に対して、非接触方式のセンサ、例えばロッドアンテナ、または静電結合を行なう電極を配置し、このセンサの信号特性に効果を及ぼす回路定数を調整するものが提案されてきた(例えば特許文献1乃至4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-58166号公報
【特許文献2】特開2006-64461号公報
【特許文献3】特開2008-286715号公報
【特許文献4】特開2009-25020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非接触方式のセンサによる部分放電信号の測定は、回転電機の母線の外側に配置されるフレームから伝搬されるノイズの影響を受けることが課題であった。
また、部分放電信号の発生源を推定するために複数のセンサが配置されたときに、部分放電により発生する電磁波が回転電機の筐体、固定子コイル、または固定子鉄心などで反射してセンサに届くため、センサ同士で検出された信号波形の比較が困難であるなどの課題もあった。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、非接触方式による部分放電信号の検出感度を向上させることが可能な回転電機の部分放電検出装置および検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態における回転電機の部分放電検出装置は、回転電機の固定子コイルが収納される固定子フレームに接続された金属フレームと、前記金属フレーム内に設けられ、前記固定子コイルの絶縁の劣化が発生したときに前記固定子コイルから発生する部分放電信号が伝播する信号線と、前記部分放電信号を検出可能な位置に設けられる電気素子と、前記信号線を向く方向への指向性を有して信号を受信可能な位置に設けられるアンテナと、前記電気素子により検出された信号および前記アンテナにより受信された信号を比較することで、前記固定子コイルに劣化が発生したか否かを判定する判定手段と、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、非接触方式による回転電機の部分放電信号の検出感度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る回転電機の部分放電検出装置の構成例を示す図。
図2】実施形態に係る回転電機の部分放電検出装置の構成の変形例を示す図。
図3】実施形態に係る回転電機の部分放電検出装置のデータ処理装置の機能構成例を示すブロック図。
図4】実施形態に係る回転電機の部分放電検出装置のデータ処理装置による検出信号に対する増幅度調整の第1の手順の一例を示すフローチャート。
図5】実施形態に係る回転電機の部分放電検出装置のデータ処理装置による検出信号に対する増幅度調整の第2の手順の一例を示すフローチャート。
図6】実施形態に係る回転電機の部分放電検出装置のデータ処理装置による固定子コイルの劣化の有無の判定の手順の一例を示すフローチャート。
図7】実施形態に係る回転電機の部分放電検出装置の構成の変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態について図面を用いて説明する。
図1は、実施形態に係る回転電機の部分放電検出装置10の構成例を示す図である。
図1に示された例では、回転電機の固定子コイル11は、固定子フレーム11aの内周面に取付けられた図示しない固定子鉄心に設けられるスロットに収納されている。
【0012】
また、固定子フレーム11aの一端部の底部にはターミナルボックス15が取り付けられ、このターミナルボックス15の側面には円筒状の金属フレーム16が取付けられている。この金属フレーム16内の中心軸線上には、固定子コイル11に連なる電力線12が、図示しない絶縁支持体に支持されて配設される。すなわち、電力線12は金属フレーム16により保護される。
【0013】
電力線12には、固定子コイル11内の絶縁の劣化が発生したときに固定子コイル11から発生する部分放電信号が伝搬する。電力線12は中性点引出線であってもよい。電力線12または中性点引出線は信号線と称されることもある。
【0014】
また、ターミナルボックス15内の電力線12の近傍に、電気伝導材料で構成された、非接触によるセンサを成す電気素子13が設置される。この電気素子13は、固定子コイル11内の絶縁の劣化が発生したときに当該固定子コイル11から発生する部分放電信号を検出可能な位置に設けられる。
【0015】
また、電力線12を向く方向への指向性を有して、信号を検出(受信)可能な位置に指向性アンテナ17が設置される。この指向性アンテナ17は、金属フレーム16内の電力線12の近傍に設置されてもよい。
【0016】
図1に示されるように、本実施形態では、固定子フレーム11a内における、金属フレーム16寄りの端部からみた反対側の端部、すなわち上記一端部に対する他端部には、この端部から周囲に伝搬する信号を出力するパルス校正器21が設置される。
また、金属フレーム16の外側における、当該金属フレーム16とターミナルボックス15とが連なる部分の近傍には、この近傍から周囲に伝搬する信号を出力する校正パルス発生器22が設置される。
【0017】
なお、パルス校正器21の筐体の設置箇所は、例えばこの筐体に接続されたケーブルなどを用いて、主に固定子コイル11側から電力線12側に向けて伝搬する信号を出力できるのであれば、特に限られない。同様に、校正パルス発生器22の筐体の設置箇所は、例えば、この筐体に接続されたケーブルなどを用いて、主に電力線12側から固定子コイル11側に向けて伝搬する信号を出力できるのであれば、特に限られない。
【0018】
このような電気素子13および指向性アンテナ17には信号引出線(信号線)が接続され、この信号引出線を通して伝播入力される信号が、図示しない抵抗器又は高周波変流器を介してデータ処理装置14に取込まれる。この場合、データ処理装置14に入力される信号は、必要に応じてデータ処理装置14内の図示しない信号増幅用プリアンプにより増幅される。
【0019】
本実施形態に係る回転電機の部分放電検出装置10は、上記の固定子コイル11および電力線12以外の各要素である、固定子フレーム11a、電気素子13、データ処理装置14、ターミナルボックス15、金属フレーム16、指向性アンテナ17、パルス校正器21、および校正パルス発生器22を含んで構成され得る。
また、データ処理装置14、パルス校正器21、および校正パルス発生器22で成る各機器のうち全部でない複数または全部の機器は一体の機器でもよい。
【0020】
図1に示される固定子コイル11に高電圧が印加されている場合、固定子コイル11内の絶縁の劣化状況に応じて、電力周波数、一般的には50もしくは60Hzの電力に重畳されたパルス状の電流が発生する。
【0021】
しかしながら、このパルス状の電流による振幅の変化分は非常に微弱であるので、電気素子13により検出される電圧も微弱である。
上記のパルス状の微弱な電流は、固定子コイル11からの部分放電に由来する成分に限らず、固定子コイル11の外、例えばターミナルボックス15より外側で生じる外部ノイズ成分(単にノイズと称することがある)および電力線12を保護する金属フレーム16からの外部ノイズ成分が含まれ得る。
【0022】
本実施形態では、このような構成において、上記のように指向性アンテナ17がターミナルボックス15上に配置され、この指向性アンテナ17による検出方向が、ターミナルボックス15側または金属フレーム16側となるように設定される。指向性アンテナ17としては、例えばマイクロストリップアンテナ(microstrip antenna)が用いられ得るが、指向性を有するアンテナであれば他の方式を有するアンテナが用いられても良い。
【0023】
図2は、実施形態に係る回転電機の部分放電検出装置10aの構成の変形例を示す図である。なお、図2において図1と同一部分には同一符号を付してその構成の説明は省略する。
実施形態に係る回転電機の部分放電検出装置10aの構成は、図2に示されるように、図1に示された構成からターミナルボックス15が除かれた構成である。
【0024】
この図2に示された例では、図1に示された固定子フレーム11aに代わる固定子フレーム11bの上記一端部には、円筒状の金属フレーム16が直接取付けられており、この金属フレーム16内の中心軸線上に、固定子コイル11に連なる電力線12が絶縁支持体に支持されて配設される。
また、固定子フレーム11b内における金属フレーム16寄りの端部を通る固定子コイル11の近傍には、図1に示された電気素子13および指向性アンテナ17が設置される。
【0025】
図2に示された例では、図1に示されたパルス校正器21が設置されるとともに、金属フレーム16の外における、当該金属フレーム16と固定子フレーム11bとが連なる部分の近傍には、図1に示された校正パルス発生器22が配置される。図2に示された他の構成は、図1に示された構成と同様である。
【0026】
図3は、実施形態に係る回転電機の部分放電検出装置10のデータ処理装置14の機能構成例を示すブロック図である。
図3に示されるように、データ処理装置14は、信号入力部14a、信号強度記録部14b、比較部14c、判定部14d、表示処理部14e、モード設定部14f、信号出力制御部14g、およびゲイン調整部14hを有する。
【0027】
データ処理装置14は、コンピュータとして構成され得る装置で、プログラム(program)を実行するCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ(processor)、およびRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等の記憶媒体等を備える装置であってよい。
【0028】
上記信号入力部14a、信号強度記録部14b、比較部14c、判定部14d、表示処理部14e、モード設定部14f、信号出力制御部14g、およびゲイン調整部14hの機能は、上記プロセッサと、上記記憶媒体と、データ処理装置14に例えば付設されるキーボード(keyboard)などの入力装置と、データ処理装置14に例えば内蔵または付設されるディスプレイ(display)などの出力装置とが用いられることで実現され得る。
【0029】
信号入力部14aは、電気素子13により検出された信号、および指向性アンテナ17により受信(検出)されたパルス信号(単に信号と称することがある)をそれぞれ入力する。
信号強度記録部14bは、信号入力部14aにより入力したパルス信号の強度およびそのタイミングを検出して、データ処理装置14の内部メモリ、またはその他の記憶装置に、上記検出の結果が示される情報を記録する機能を有する。
【0030】
比較部14cは、信号強度記録部14bにより記録された情報で示される、電気素子13により検出されたパルス信号の強度およびそのタイミング、ならびに指向性アンテナ17により検出されたパルス信号の強度およびそのタイミングを比較する機能を有する。
【0031】
判定部14dは、比較部14cによる比較の結果に基づいて、固定子コイル11内の絶縁の劣化が生じていること、または上記劣化が生じていないことを判定する機能を有する。
上記劣化が生じていることとは、上記検出されたパルス信号に、固定子コイル11からの部分放電信号が含まれていることを指す。また、この上記劣化が生じていない場合とは、上記検出されたパルス信号は、上記部分放電信号を含まず、固定子コイル11以外の電力線12などから発生する外部ノイズであることを指す。
【0032】
表示処理部14eは、判定部14dによる判定結果を示す文字などを、データ処理装置14に係る出力装置の表示画面に表示させる表示処理を行なう機能を有する。
モード設定部14fは、固定子コイル11側のパルス校正器21に係る校正モードである第1校正モード、電力線12側の校正パルス発生器22に係る校正モードである第2校正モード、および校正後における固定子コイル11内の絶縁の劣化の判定モードのうちいずれか1つのモードを、データ処理装置14のオペレータによる操作に従って設定する。
【0033】
信号出力制御部14gは、上記第1校正モードが設定されたときの固定子コイル11側のパルス校正器21に対する、部分放電信号を模擬する基準信号の出力制御信号、または上記第2校正モードが設定されたときの電力線12側の校正パルス発生器22に対する、外部ノイズを模擬する模擬パルス信号の出力制御信号を、後述する増幅度(ゲインと称することもある)の調整を目的として出力する。
【0034】
ゲイン調整部14hは、信号出力制御部14gによる出力制御信号出力後における、判定部14dによる判定結果に基づいて、電気素子13により検出されて信号入力部14aにより入力されるパルス信号に係る増幅度、および指向性アンテナ17により受信されて信号入力部14aにより入力されるパルス信号に係る増幅度をそれぞれ調整するゲイン調整を行なう機能を有する。
【0035】
次に、上記第1校正モードによる処理について説明する。図4は、実施形態に係る回転電機の部分放電検出装置10のデータ処理装置14による検出信号に対する増幅度調整の第1の手順の一例を示すフローチャートである。
まず、モード設定部14fにより第1校正モードが設定されたとき、データ処理装置14の信号出力制御部14gは、固定子コイル11側のパルス校正器21へ上記基準信号の出力制御信号を出力する基準信号出力制御を行なう(S11)。この信号を受けて、パルス校正器21は、部分放電信号を模擬する基準信号を発生(出力)させる。
【0036】
この基準信号が発生している状態で、データ処理装置14の信号入力部14aは、電気素子13により検出されたパルス信号および指向性アンテナ17により検出されたパルス信号をそれぞれ入力する(S12)。
【0037】
信号強度記録部14bは、信号入力部14aにより入力した各信号の強度を測定して、この強度を示す情報を上記内部メモリなどに記録する(S13)。
例えば、信号強度記録部14bは、(1)パルス校正器21から発生した基準信号の一定の強度A、例えば単位がミリボルトである強度、(2)電気素子13で検出されて上記受信された信号が増幅された信号の強度B、および(3)指向性アンテナ17で検出されて上記受信された信号が増幅された信号の強度Cを示す情報を上記内部メモリなどにそれぞれ記録する。
【0038】
比較部14cは、上記記録された情報で示される、(1)電気素子13からのパルス信号による信号強度B、および(2)指向性アンテナ17からのパルス信号による信号強度Cを比較する(S14)。
判定部14dは、電気素子13からのパルス信号および指向性アンテナ17からのパルス信号のうち、強度が高い信号の種別を判定する(S15)。表示処理部14eは、この判定の結果を上記表示画面に表示させる表示処理を行なう(S16)。
【0039】
上記判定の結果に基づいて、ゲイン調整部14hは、電気素子13からのパルス信号により上記受信された信号が増幅された信号の強度Bが、指向性アンテナ17からのパルス信号により上記受信された信号が増幅された信号の強度Cよりも大きくなるように、信号入力部14aにより入力した、電気素子13からのパルス信号による信号強度に係る増幅度、および指向性アンテナ17からの信号による信号強度に係る増幅度のうち少なくとも一方を調整するゲイン調整を行なう(S17)。
【0040】
次に、上記第2校正モードによる処理について説明する。図5は、実施形態に係る回転電機の部分放電検出装置10のデータ処理装置14による検出信号に対する増幅度調整の第2の手順の一例を示すフローチャートである。
まず、モード設定部14fにより第2校正モードが設定されたとき、データ処理装置14の信号出力制御部14gは、電力線12側の校正パルス発生器22へ、外部ノイズを模擬する模擬パルス信号の出力制御信号を出力する外部ノイズ模擬パルス出力制御を行なう(S21)。この信号を受けて、校正パルス発生器22は、模擬パルス信号を発生させる。
【0041】
この模擬パルス信号が発生している状態で、データ処理装置14の信号入力部14aは、電気素子13により検出されたパルス信号および指向性アンテナ17により検出されたパルス信号をそれぞれ入力する(S22)。
【0042】
信号強度記録部14bは、信号入力部14aにより入力した各信号の強度を測定して、この強度を示す情報を上記内部メモリなどに記録する(S23)。
例えば、信号強度記録部14bは、(1)電気素子13で検出されて上記受信された信号が増幅された信号の強度B、および(2)指向性アンテナ17で受信されて上記受信された信号が増幅された信号の強度Cを示す情報を上記内部メモリなどにそれぞれ記録する。
【0043】
比較部14cは、電気素子13に係る上記信号の強度Bと指向性アンテナ17に係る上記信号の強度Cとを比較する(S24)。
判定部14dは、電気素子13からの信号および指向性アンテナ17からの信号のうち、強度が高い信号の種別を判定する(S25)。表示処理部14eは、この判定の結果を上記表示画面に表示させる表示処理を行なう(S26)。
【0044】
上記判定の結果に基づいて、ゲイン調整部14hは、指向性アンテナ17に係る上記信号の強度Cが、電気素子13に係る上記信号の強度Bよりも大きくなるように、信号入力部14aにより入力した、電気素子13からの信号による信号強度に係る増幅度、および指向性アンテナ17からの信号による信号強度に係る増幅度の少なくとも一方を調整するゲイン調整を行なう(S27)。
【0045】
次に、上記判定モードによる処理について説明する。図6は、実施形態に係る回転電機の部分放電検出装置10のデータ処理装置14による固定子コイル11の劣化の有無の判定の手順の一例を示すフローチャートである。
まず、モード設定部14fにより判定モードが設定されたとき、データ処理装置14の信号入力部14aは、電気素子13により検出されたパルス信号および指向性アンテナ17により検出されたパルス信号を入力する(S31)。
信号強度記録部14bは、信号入力部14aにより入力した各信号の強度およびそのタイミングを測定して、これを上記内部メモリなどに記録する(S32)。
【0046】
比較部14cは、電気素子13からのパルス信号による信号強度およびそのタイミング、ならびに指向性アンテナ17からのパルス信号による信号強度およびそのタイミングを比較する(S33)。
【0047】
判定部14dは、電気素子13からのパルス信号のタイミングと、指向性アンテナ17からのパルス信号のタイミングとの差分が所定の差分以内であって、電気素子13からのパルス信号の強度が、指向性アンテナ17からのパルス信号の強度より大きい場合に、固定子コイル11内の絶縁に劣化が発生していると判定する(S34)。この判定では、検出された信号が外部ノイズからの信号であるか、固定子コイル11からの信号であるかを、各信号のタイミングと信号強度の大小に基づいて判定され得る。
表示処理部14eは、この判定の結果を上記表示画面に表示させる(S35)。この判定の結果の表示により、コイルの劣化の有無が容易に判別され得る。
【0048】
次に、本実施形態の第1の変形例について説明する。この変形例では、固定子コイル11は3相の各々に設けられ、図1または図2に示された電力線12が、3相の各相の電力線として設けられる。
【0049】
また、この変形例では、電気素子13は、3相の各々について1対1で設けられ、かつ劣化が発生したときの部分放電信号を検出可能な位置に設けられる。また、指向性アンテナ17は、3相の各々について該当する相における電力線12への指向性を有して1対1で設けられる。
【0050】
この変形例では、データ処理装置14は各相で共通する1つの装置であってもよい。また、パルス校正器21および校正パルス発生器22の筐体は、各相で共通する1つの筐体であってもよい。
この構成において、データ処理装置14が各相について上記判定を行なうことで各相について固定子コイル11内の絶縁の劣化が生じていると判定されたときに、各相での電気素子13からの信号強度を比較することで、各相のうち、部分放電が発生した相が判定され得る。
【0051】
また、データ処理装置14が各相について上記判定を行なうことで各相について固定子コイル11内の絶縁の劣化は生じていないと判定されたときに、各相での指向性アンテナ17からの信号強度を比較することで、各相のうち、外部のノイズ源である相が判定され得る。
【0052】
次に、本実施形態の第2の変形例について説明する。図7は、実施形態に係る回転電機の部分放電検出装置10bの構成の変形例を示す図である。なお、図7において図1と同一部分には同一符号を付してその構成の説明は省略する。
図7に示された例では、回転電機の部分放電検出装置10bでは、上記第1の変形例で説明した各相について、部分放電信号の伝搬速度と部分放電信号の波形の立ち上がり幅とに基づく間隔で、複数の箇所、すなわち2か所以上に電気素子13および指向性アンテナ17がそれぞれ配置される。例えば3相の各相について2か所に電気素子13および指向性アンテナ17がそれぞれ設けられたときは、各相の合計で電気素子13および指向性アンテナ17は6個ずつ設けられる。
【0053】
この構成において、データ処理装置14により、固定子コイル11内の絶縁の劣化が生じていると判定されたいずれかの相で、同じ相における各所の電気素子13からの信号強度を比較することで、各所のうち部分放電信号が発生した箇所および部分放電信号が伝搬する方向が判定され得る。よって、例えば部分放電信号が、固定子コイル11自体から発生した信号であるか、または電力線12の外側に接続された系統側から発生した信号であるかが判定され得る。
【0054】
また、この変形例では、データ処理装置14により、固定子コイル11の劣化が生じていないと判定されたいずれかの相で、同じ相における各所の指向性アンテナ17からの信号強度を比較することで、各所のうち、部分放電信号でない信号である外部ノイズが発生した箇所および伝搬する方向が判定され得る。
【0055】
また、この変形例では、電気素子13が図1に示されるターミナルボックス15内に設置されて、電力線12が金属フレーム16内に設置されて各相の電力線12を支持するフレーム碍子により支持される場合において、例えば部分放電信号がターミナルボックス15内での固定子コイル11と電力線12との接続部分で発生すること、または電力線12を支持するフレーム碍子間で外部ノイズが発生することが判定され得る。
【0056】
次に、本実施形態の第3の変形例について説明する。この変形例では、データ処理装置14は、固定子コイル11の劣化が発生したことを判定したときに、電気素子13により検出された信号について少なくとも2種類の特徴量、例えば信号の波形の立ち上がりのタイミング、および減衰のタイミングを抽出し、この抽出した特徴量の推移に基づいて、固定子コイル11からの部分放電信号の推移を推定することができる。
【0057】
以上説明した、本実施形態に係る回転電機の部分放電検出装置では、回転電機の固定子コイル内から生じる微弱な部分放電信号と外部ノイズとが効果的に判別され得る固定子コイルからの放電の大きさ、頻度、および発生タイミングを精度よく検出することが可能で、ひいては回転電機のコンディションモニタリング(condition monitoring)に有益な診断データを提供することが可能である。したがって、非接触方式による回転電機の部分放電信号の検出感度を向上させることができる。
【0058】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0059】
10,10a,10b…回転電機の部分放電検出装置、11…固定子コイル、11a…固定子フレーム、12…電力線、13…電気素子、14…データ処理装置、15…ターミナルボックス、16…金属フレーム、17…指向性アンテナ、21…パルス校正器、22…校正パルス発生器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7