(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175697
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】乗員状態推定方法
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20221117BHJP
B60W 40/08 20120101ALI20221117BHJP
B60W 60/00 20200101ALI20221117BHJP
【FI】
G08G1/16 F
B60W40/08
B60W60/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082328
(22)【出願日】2021-05-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089004
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】幾久 健
(72)【発明者】
【氏名】吉田 誠
【テーマコード(参考)】
3D241
5H181
【Fターム(参考)】
3D241BA50
3D241CC01
3D241CC08
3D241CC17
3D241CE05
3D241DD01Z
5H181AA01
5H181AA21
5H181CC04
5H181FF32
5H181LL01
5H181LL02
5H181LL04
5H181LL07
5H181LL08
5H181LL09
5H181LL20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】乗員の疾患の予兆を容易に判定することができる乗員状態推定方法を提供する。
【解決手段】乗員状態推定方法であって、乗員の視線挙動と頭部挙動を検出する車内カメラを準備する準備工程S1と、車内カメラが検出した視線挙動に基づき眼球傾斜角Eを演算する眼球傾斜角演算工程と、車内カメラが検出した頭部挙動に基づき頭部傾斜角を演算する頭部傾斜角演算工程と、眼球傾斜角とこの眼球傾斜角に対応した頭部傾斜角とを用いて分担比Rを演算する分担比算出工程S4と、眼球傾斜角と分担比Rとからなる座標系において、眼球傾斜角と分担比Rとからなる座標点と座標系に予め設定された所定の基準関数との分担比偏差が大きい程乗員の異常度Tが高いと判定する異常度判定工程S6とを有する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に乗車した乗員の状態を推定する乗員状態推定方法であって、
乗員の視線挙動を検出する視線挙動検出手段と、乗員の頭部挙動を検出する頭部挙動検出手段とを準備する準備工程と、
前記視線挙動検出手段が検出した視線挙動に基づき視線ヨー角を演算する視線ヨー角演算工程と、
前記頭部挙動検出手段が検出した頭部挙動に基づき頭部ヨー角を演算する頭部ヨー角演算工程と、
前記視線ヨー角とこの視線ヨー角に対応した前記頭部ヨー角とを用いて分担比を演算する分担比算出工程と、
視線ヨー角と分担比とからなる座標系において、前記視線ヨー角と前記分担比とからなる座標点と前記座標系に予め設定された所定の基準関数との分担比偏差が大きい程乗員の異常度が高いと判定する異常度判定工程と、
を有することを特徴とする乗員状態推定方法。
【請求項2】
前記視線ヨー角と分担比とを用いて乗員の異常度を予め規定した異常度表を設定する異常度表設定工程を有し、
前記異常度判定工程において、前記異常度表に前記視線ヨー角と前記分担比とを適用して異常度を判定することを特徴とする請求項1に記載の乗員状態推定方法。
【請求項3】
前記分担比算出工程において、頭部ヨー角を視線ヨー角で除算して分担比を演算することを特徴とする請求項1又は2に記載の乗員状態推定方法。
【請求項4】
前記基準関数は、前記視線ヨー角の増加に伴い前記頭部ヨー角が増加する特性を有することを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の乗員状態推定方法。
【請求項5】
前記基準関数は、シグモイド関数であることを特徴とする請求項4に記載の乗員状態推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員状態推定方法に関し、疾患発症の予兆に基づき乗員の状態を推定する乗員状態推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動運転車両では、車両の制御システムと乗員(ドライバ)との間において、車両の運転を主導的に行う権利を委譲(切替)可能に構成されている。
それ故、運転中の乗員が運転不能に陥った場合、運転の権利が手動運転側から自動運転側に切り替えられた後、車両主導で車速低下、路肩への緊急停車等が自動的に行われる。
特許文献1のドライバの運転不能状態検出装置は、ドライバの顔向きの崩れと運転中の無操作や異常操作とを組み合わせて、ドライバが運転不能に陥ったことを検出する技術が開示されている。
【0003】
通常、運転不能に陥る乗員の身体的変容として、以下の3つのパターンが存在する。
第1の変容パターンは、乗員の一部の運転機能が低下する場合である。この場合、乗員の運転能力レベルは、上昇及び下降の変動を複数回繰り返して最終的に運転不能になる。
第2の変容パターンは、乗員の運転機能全般が低下する場合である。この場合、乗員の運転能力レベルは、経過時間と共に緩やかに低下して運転不能になる。
第3の変容パターンは、乗員の意識が突然消失する場合である。この場合、乗員の運転能力レベルは、高い運転機能を暫くの間維持した後、急に運転不能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のドライバの運転不能状態検出装置は、疾患発症後、その可視的症状が発現した身体状態を検出することにより、ドライバの運転不能状態を判定している。
しかし、特許文献1の技術では、疾患が発症したタイミングで検出できない虞がある。
運転能力レベルは、予測や注意配分等を実行する高次随意行動、車線維持や速度維持等を実行する低次随意行動、及び姿勢維持や頭部運動等を実行する不随意行動によって区分される。前述した第1,第2の変容パターンは、疾患が発現した後、異常操作等の行動、所謂高低次の随意行動障害の期間を経て運転不能に到達するものの、第3の変容パターンは、異常操作等の行動を経ることなく急に運転不能に陥る。
つまり、第3の変容パターンでは、ドライバの随意行動をパラメータとして検出することが困難である。
【0006】
そこで、運転不能状態の判定に当り、乗員の不随意行動を検出することが考えられる。
これにより、何れの変容パターンであっても疾患の予兆を捉えることができる。
しかし、症状の発現前における不随意行動に基づき疾患の予兆を捉えようとした場合、不随意行動を判定するための演算処理が難しく、判定処理に時間を要する虞がある。
例えば、不随意行動の1つである前庭動眼反射は、頭部を移動させた際、空間に対する眼球の安定化を図るため、眼球を頭部と反対方向へ動かす反射行動である。この前庭動眼反射を検出するには、移動状態の頭部内における眼球の追従速度演算が必要である。
即ち、不随意行動に基づき乗員の異常状態を検出することは容易ではない。
【0007】
本発明の目的は、乗員の疾患の予兆を容易に判定することができる乗員状態推定方法等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の乗員状態推定方法は、車両に乗車した乗員の状態を推定する乗員状態推定方法であって、乗員の視線挙動を検出する視線挙動検出手段と、乗員の頭部挙動を検出する頭部挙動検出手段とを準備する準備工程と、前記視線挙動検出手段が検出した視線挙動に基づき視線ヨー角を演算する視線ヨー角演算工程と、前記頭部挙動検出手段が検出した頭部挙動に基づき頭部ヨー角を演算する頭部ヨー角演算工程と、前記視線ヨー角とこの視線ヨー角に対応した前記頭部ヨー角とを用いて分担比を演算する分担比算出工程と、視線ヨー角と分担比とからなる座標系において、前記視線ヨー角と前記分担比とからなる座標点と前記座標系に予め設定された所定の基準関数との分担比偏差が大きい程乗員の異常度が高いと判定する異常度判定工程と、を有することを特徴としている。
【0009】
この乗員状態推定方法では、乗員の視線挙動を検出する視線挙動検出手段と、乗員の頭部挙動を検出する頭部挙動検出手段とを準備する準備工程を有するため、乗員の視線挙動と頭部挙動とを確実に抽出することができる。
前記視線挙動検出手段が検出した視線挙動に基づき視線ヨー角を演算する視線ヨー角演算工程と、前記頭部挙動検出手段が検出した頭部挙動に基づき頭部ヨー角を演算する頭部ヨー角演算工程と、前記視線ヨー角とこの視線ヨー角に対応した前記頭部ヨー角とを用いて分担比を演算する分担比算出工程とを有するため、眼球頭部の協調運動における頭部の追従性を容易に検出することができる。眼球は、6つの外眼筋(上下斜筋、上下及び内外直筋)により拘束されて総腱輪に連結されているため、眼球が外眼筋を介して移動された場合、頭部は眼球に追従する不随意行動として眼球と頭部が協調運動を行う。
視線ヨー角と分担比とからなる座標系において、前記視線ヨー角と前記分担比とからなる座標点と前記座標系に予め設定された所定の基準関数との分担比偏差が大きい程乗員の異常度が高いと判定する異常度判定工程とを有するため、乗員の異常度をパラメータとしてこれから発現する疾患の予兆を容易に判定することができる。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記視線ヨー角と分担比とを用いて乗員の異常度を予め規定した異常度表を設定する異常度表設定工程を有し、前記異常度判定工程において、前記異常度表に前記視線ヨー角と前記分担比とを適用して異常度を判定することを特徴としている。
この構成によれば、乗員の異常度をテーブル化された異常度表を用いて一層容易に検出することができる。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において、前記分担比算出工程において、頭部ヨー角を視線ヨー角で除算して分担比を演算することを特徴としている。
この構成によれば、簡単な演算で分担比を求めることができる。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1~3の何れか1項の発明において、前記基準関数は、前記視線ヨー角の増加に伴い前記頭部ヨー角が増加する特性を有することを特徴としている。
この構成によれば、不随意行動に係る頭部の追従性を関数モデルに置き換えることにより、判定精度を向上することができる。
【0013】
請求項5の発明は、請求項4の発明において、前記基準関数は、シグモイド関数であることを特徴としている。
この構成によれば、頭部の追従性を神経細胞の発火周波数に対応付けすることにより、一層判定精度を向上することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の乗員状態推定方法によれば、不随意行動に係る頭部の追従性をパラメータにして乗員の疾患の予兆を容易に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1に係る乗員状態推定装置のブロック図である。
【
図2】正常な乗員の眼球傾斜角及び頭部傾斜角の時系列データである。
【
図3】
図2の一部領域を2次元分布に変換した相関グラフである。
【
図4】正常な乗員の視線角度と分担比との相関関係を示すグラフである。
【
図7】乗員状態推定処理を示すフローチャートである。
【
図8】傾斜角演算処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
以下の説明は、本発明を車両に乗車した乗員に適用したものを例示したものであり、本発明、その適用物、或いは、その用途を制限するものではない。
【実施例0017】
以下、本発明の実施例1について
図1~
図8に基づいて説明する。
乗員状態推定装置1は、車両運転中の乗員の健康状態、特に乗員の疾患の予兆を捉えることにより運転不能状態の発生を疾患の発現よりも早く判定可能な運転支援装置である。
尚、乗員の定義は、車両の進行方向及び目的地点を決定可能な乗員であり、ステアリングを操作するドライバ、或いは、自動運転車両において行先を指示する乗員等を含むものである。
【0018】
図1に示すように、乗員状態推定装置1は、車内カメラ2と、1又は複数のディスプレイ3と、音声出力装置4と、ステアリング制御装置5と、ブレーキ制御装置6と、アクセル制御装置7と、情報送信機8と、ECU(Electronic Control Unit)10とを主な構成要素としている。ディスプレイ3は、乗員が視認可能なディスプレイであり、インストルメントパネル(図示略)上に配設されたセンタディスプレイ、ヘッドアップディスプレイ、シートバックディスプレイ等が含まれている。
【0019】
車内カメラ2は、乗員の眼球挙動(視線挙動)及び頭部挙動の時系列データを得るため、例えば、フロントガラス(図示略)の内側に設置されている。
この車内カメラ2は、ステアリング(図示略)を操作する乗員を含む室内状況を撮影可能なCCD(Charge Coupled Device)又はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等のイメージセンサである。車内カメラ2により撮影された画像は、車載ネットワーク(図示略)を介してECU10に送信される。
車内カメラ2が、視線挙動検出手段及び頭部挙動検出手段に相当している。
【0020】
各ディバイス3~8は、ECU10からの指令信号を受信して規定された動作を行う。
ディスプレイ3は、疾患の予兆検出時、乗員に視覚情報を介して警告する。音声出力装置4は、疾患の予兆検出時、乗員に音声を介して警告する。ステアリング制御装置5は、車両がカーブを曲がるための操舵角を制御する。ブレーキ制御装置6は、車両を減速させるための制動力を生成する。アクセル制御装置7は、車両が走行するための駆動力を生成する。情報送信機8は、疾患の予兆検出時、基地局に位置等車両情報を送信する。
疾患の予兆検出により乗員が運転不能と判定された場合、異常出力が行われ、車両主導で車速低下、路肩への緊急停車が行われる。
【0021】
次に、ECU10について説明する。
ECU10は、各種プログラムを実行する中央演算処理部、メモリ(RAM、ROM)、及び入出力バス等によって構成されている。
図1に示すように、ECU10は、ヨー角演算部11と、分担比算出部12と、異常度判定部13等を備えている。
【0022】
まず、ヨー角演算部11について説明する。
ヨー角演算部11は、車内カメラ2の撮影情報に基づき、乗員の眼球挙動及び頭部挙動について夫々の時系列データを連続的に演算している(
図2参照)。
このヨー角演算部11は、眼球挙動に基づき眼球傾斜角(視線ヨー角)を演算する視線ヨー角演算部11aと、頭部挙動に基づき頭部傾斜角(頭部ヨー角)を演算する頭部ヨー角演算部11bとを有している。尚、眼球傾斜角及び頭部傾斜角の傾斜角は、平面視にて車体前後方向に対する交差角度(ヨー角)である。
【0023】
次に、分担比算出部12について説明する。
人の眼球は、6つの外眼筋(上下斜筋、上下及び内外直筋)によって拘束された状態で、眼窩の最後部に位置する総腱輪に物理的に連結されている。
それ故、眼球を何れかの方向に意識的に移動させた場合、頭部は、眼球に追従(連動)する行動、換言すれば筋に作用する負荷を軽減するために無意識的な不随意行動を行う。以下、この不随意行動を「眼球頭部の協調運動」と表す。
【0024】
図2に示すように、乗員が疾患を発症していない身体的に正常状態である場合、眼球傾斜角(実線)は、車両の運転操作に伴って不規則に変化し、また、変化が大きい。
一方、頭部傾斜角(破線)は、眼球挙動を身体的及び物理的に補助するものである。
それ故、頭部傾斜角は、眼球傾斜角に追随すると共に眼球傾斜角よりも小さい角度で変化している。
【0025】
図3は、
図2の所定期間の領域について、眼球傾斜角Eとこの眼球傾斜角Eに対応した頭部傾斜角Hとの相関グラフである。この相関グラフは、眼球傾斜角Eと頭部傾斜角Hとを非線形次元圧縮手法を用いて2次元の変位量確率分布に変換したものである。
眼球傾斜角Eの最大値をEmax、頭部傾斜角Hの最大値をHmaxとしたとき、乗員挙動の分担比Rは次式のように表すことができる。
R=Hmax/Emax …(1)
分担比算出部12では、各ヨー角演算部11a,11bで求めた眼球傾斜角Eと頭部傾斜角Hを式(1)に代入して分担比Rを演算している。
【0026】
次に、異常度判定部13について説明する。
本発明者は、眼球の傾斜角毎に対応した頭部傾斜角変位を検討したところ、眼球と頭部との協調運動が乗員の意思に影響を受けない不随意運動であることを知見するに至った。
乗員の疾患により恒常性機能に障害が生じた場合、運転能力レベルとしては最も低次元レベルの不随意運動に影響が生じることが予想される。この不随意運動の変化を検出できれば、何れの変容パターンであっても乗員が運転不能状態になる前に疾患の予兆を捉えることが可能である。
【0027】
一方、恒常性機能を司る脳幹は、眼筋と頸筋とが夫々繋がり、「眼球頭部の協調運動」に関る神経回路が存在している。神経回路は神経細胞の集合体であり、神経細胞は、所定の発火周波数(発火特性)に従って出力を行う。それ故、脳幹の神経回路をモデル化した場合、眼球傾斜角Eと頭部傾斜角Hとは、神経回路からの出力と見做すことができる。
図4は、眼球傾斜角Eと分担比Rとの相関グラフである。
図4に示すように、眼球傾斜角E毎の分担比Rの分布平均値(▲印)を繋げた線は、活性化関数の1つであるシグモイド関数F(基準関数)(
図5参照)に近似できることが判明した。
【0028】
異常度判定部13は、眼球傾斜角Eと分担比Rとの座標点(E,R)と、シグモイド関数Fとの分担比偏差ΔRを求め、分担比偏差ΔRが大きい程異常度Tが高いと判定する。
図5の異常度マップMに示すように、シグモイド関数Fは、単調増加、点対称、微分可能等の属性を有する関数である。分担比Rの分布平均値をA、分担比Rの分散をDとしたとき、乗員の異常度Tは、次式のように表すことができる。
T=(R-A)/D …(2)
【0029】
異常度Tは、眼球傾斜角Eを所定値にした際のシグモイド関数Fからの離隔度合いと見做すことができる。異常度マップMには、異常度Tが低い低異常度領域T1、異常度Tが中程度の中異常度領域T2、異常度Tが高い高異常度領域T3が夫々設定される。
座標点(E,R)が、低異常度領域T1の内部に存在する場合、乗員の疾患の予兆は低く、低異常度領域T1の外部で且つ中異常度領域T2の内部に存在する場合、乗員の疾患の予兆は中程度、中異常度領域T2の外部で且つ高異常度領域T3の内部に存在する場合、乗員の疾患の予兆は高いと推定される。
図5では、中程度の疾患の予兆を示している。
【0030】
図6に示すように、本実施形態では、異常度マップMに代えて、眼球傾斜角E毎に複数の分担比Rとそれら分担比Rに対応した異常度Tを規定した異常度テーブルTa(異常度表)を予め設定している。異常度判定部13は、異常度テーブルTaを有すると共に、事前に設定された閾値と異常度テーブルTaから求められた異常度Tとを比較して異常判定を行っている。尚、閾値は、経験値から、疾患が発症し且つ乗員が運転不能状態になる確率に対応するように設定されている。これにより、乗員の異常度Tをテーブルとした異常度テーブルTaを用いて一層容易に検出することができる。
【0031】
次に、
図7、
図8のフローチャートに基づいて、乗員状態推定処理について説明する。尚、Si(i=1,2…)は、各処理のためのステップを示す。
まず、
図7に示すように乗員状態推定装置1では、車内カメラ2が取得した撮影データ、異常度テーブルTa、及び異常判定閾値等各種情報を読み込み(S1)、S2へ移行する。
また、S1では、車内カメラ2を準備する準備工程を行う。
【0032】
S2では、傾斜角演算を実行して、S3に移行する。
S3では、取得された眼球傾斜角E及び頭部傾斜角Hの時系列データから評価期間相当の領域についてデータを切り出し、分担比算出工程S4に移行する。
S4では、眼球傾斜角E及び頭部傾斜角Hの最大値Emax,Hmaxを式(1)に代入して分担比Rを計算し、異常度算出工程S5に移行する。
S5では、眼球傾斜角Eと分担比Rを用いて異常度テーブルTaから異常度Tを求めて、異常度判定工程S6に移行する。
【0033】
S6では、異常度Tが事前に設定された閾値よりも大きいか否かを判定する。
S6の判定の結果、異常度Tが閾値よりも大きい場合、運転不能状態に陥る疾患の予兆が存在する(発現確率が高い)ため、異常出力を行い(S7)、終了する。
S6の判定の結果、異常度Tが閾値以下の場合、運転不能状態に陥る疾患の予兆が存在しない(発現確率が低い)ため、正常出力を行い(S8)、リターンする。
【0034】
次に、
図8に示すフローチャートを参照しながら、S2で実行される傾斜角演算処理動作の一例について説明する。
まず、眼球傾斜角演算工程S11にて、視線ヨー角演算部11aが撮影情報に基づき眼球傾斜角Eを演算し、S13に移行する。また、頭部傾斜角演算工程S12にて、頭部ヨー角演算部11bが撮影情報に基づき頭部傾斜角Hを演算し、S14に移行する。
【0035】
S13では、演算結果である眼球傾斜角Eが規定数以上蓄積されたか否か判定する。
S13の判定の結果、眼球傾斜角Eが規定数以上蓄積された場合、終了する。
S13の判定の結果、眼球傾斜角Eが規定数以上蓄積されていない場合、S11にリターンする。
【0036】
S14では、演算結果である頭部傾斜角Hが規定数以上蓄積されたか否か判定する。
S14の判定の結果、頭部傾斜角Hが規定数以上蓄積された場合、終了する。
S14の判定の結果、頭部傾斜角Hが規定数以上蓄積されていない場合、S12にリターンする。
【0037】
評価対象である乗員に対応したシグモイド関数Fを予め保持していない場合、シグモイド関数Fを作成した後、異常度テーブルTaを作成する必要がある。
傾斜角演算工程S2では、シグモイド関数Fを予め保持していない場合、車内カメラ2が取得した撮影データに基づき乗員に対応したシグモイド関数Fを設定すると共に、事前に設定された閾値と設定されたシグモイド関数Fを用いて異常度テーブルTaを作成している。それ故、上記規定数は、シグモイド関数Fの設定に必要なデータを収集可能な時間、例えば、約2時間分の眼球傾斜角E及び頭部傾斜角Hが設定されている。
【0038】
次に、上記乗員状態推定装置1運転者状態検出装置1の作用、効果について説明する。
本乗員状態推定装置1によれば、乗員の視線挙動と頭部挙動を検出する車内カメラ2を準備する準備工程S1を有するため、乗員の視線挙動と頭部挙動とを確実に抽出することができる。車内カメラ2が検出した視線挙動に基づき眼球傾斜角Eを演算する眼球傾斜角演算工程S11と、車内カメラ2が検出した頭部挙動に基づき頭部傾斜角Hを演算する頭部傾斜角演算工程S12と、眼球傾斜角Emaxとこの眼球傾斜角Emaxに対応した頭部傾斜角Hmaxとを用いて分担比Rを演算する分担比算出工程S4とを有するため、眼球頭部の協調運動における頭部の追従性を容易に検出することができる。
眼球傾斜角Eと分担比Rとからなる座標系において、眼球傾斜角Eと分担比Rとからなる座標点(E,R)と座標系に予め設定された所定の基準関数Fとの分担比偏差ΔRが大きい程乗員の異常度Tが高いと判定する異常度判定工程S6とを有するため、乗員の異常度Tをパラメータとしてこれから発現する疾患の予兆を容易に判定することができる。
【0039】
眼球傾斜角Eと分担比Rとを用いて乗員の異常度Tを予め規定した異常度テーブルTaを設定する異常度表設定工程(傾斜角演算工程S2)を有し、異常度判定工程S6において、異常度テーブルTaに眼球傾斜角Eと分担比Rとを適用して異常度Tを判定するため、乗員の異常度Tを異常度テーブルTaを用いて一層容易に検出することができる。
【0040】
分担比算出工程S4において、頭部傾斜角Hmaxを眼球傾斜角Emaxで除算して分担比Rを演算するため、簡単な演算で分担比Rを求めることができる。
【0041】
基準関数は、眼球傾斜角Eの増加に伴い頭部傾斜角Hが増加する特性を有するため、不随意行動に係る頭部の追従性を関数モデルに置き換えることにより、判定精度を向上することができる。
【0042】
基準関数は、シグモイド関数Fであるため、頭部の追従性を神経細胞の発火周波数に対応付けすることにより、一層判定精度を向上することができる。
【0043】
次に、前記実施形態を部分的に変更した変形例について説明する。
1〕前記実施形態においては、神経回路モデルの出力傾向を表す基準関数として活性化関数の1つであるシグモイド関数Fの例を説明したが、他の活性化関数、ReLU、恒等関数等を適用しても良い。
【0044】
2〕前記実施形態においては、疾患の予兆検出により乗員が運転不能と判定された場合、車両主導で車速低下、路肩へ緊急停車する例を説明したが、搬送時間が最も短い病院を検索し、この病院に自動搬送するように設定することも可能である。
【0045】
3〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施形態に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。