(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175704
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/00 20060101AFI20221117BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20221117BHJP
B60C 11/03 20060101ALI20221117BHJP
C08L 7/00 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
B60C11/00 D
B60C11/00 B
B60C1/00 A
B60C11/03 100B
B60C11/03 300E
C08L7/00
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082339
(22)【出願日】2021-05-14
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】餝矢 理起
(72)【発明者】
【氏名】大泉 尚也
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA03
3D131BA01
3D131BA07
3D131BA08
3D131BA20
3D131BB01
3D131BB11
3D131BB12
3D131BC02
3D131BC12
3D131BC17
3D131BC18
3D131BC19
3D131BC22
3D131BC31
3D131EA02U
3D131EB11V
3D131EB11W
3D131EB11X
3D131EB28V
3D131EB28W
3D131EB28X
3D131EB31W
3D131EB31X
3D131EB32W
3D131EB48W
3D131EC02V
3D131EC06V
3D131EC12W
3D131EC12X
3D131EC14W
3D131EC14X
4J002AC011
4J002AC033
4J002AC082
4J002DA037
4J002DJ016
4J002FD016
4J002FD017
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】オフロード耐久性能、ウェット性能、およびスノー性能を向上しながら、転がり抵抗を低減し、これら性能を高次元で両立することを可能にした空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】キャップトレッド層11を、天然ゴム50質量%以上、スチレンブタジエンゴム20質量%以上40質量%以下を含むジエン系ゴム100質量部に対して、シリカ50質量部~100質量部と、カーボンブラック5質量部~25質量部が配合されたゴム組成物で構成し、スチレンブタジエンゴムとして、ビニル含有量が35質量%~70質量%である末端変性スチレンブタジエンゴムを用い、カーボンブラックとして窒素吸着比表面積N
2 SAが130m
2 /g未満のものを用い、キャップトレッド層11を構成するゴム組成物の抗張積TB×EBを12000以上、硬度を60以上70以下に設定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、前記トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、前記一対のサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間に装架されたカーカス層と、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側に配置された複数層の補強層とを有し、前記トレッド部が、前記補強層の外周側に配置されたアンダートレッド層と、前記アンダートレッド層の外周側に配置されて前記トレッド部の踏面を構成するキャップトレッド層との2層で構成された空気入りタイヤにおいて、
前記キャップトレッド層は、天然ゴム50質量%以上、スチレンブタジエンゴム20質量%以上40質量%以下を含むジエン系ゴム100質量部に対して、シリカ50質量部~100質量部と、カーボンブラック5質量部~25質量部が配合されたゴム組成物で構成されており、
前記スチレンブタジエンゴムは、ビニル含有量が35質量%~70質量%である末端変性スチレンブタジエンゴムであり、前記カーボンブラックの窒素吸着比表面積N2 SAは130m2 /g未満であり、
前記キャップトレッド層を構成するゴム組成物の破断強度TB〔単位:MPa〕と破断伸びEB〔単位:%〕との積として算出される抗張積TB×EBが12000以上であり、硬度が60以上70以下であることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記スチレンブタジエンゴムのビニル含有量が55質量%~70質量%であり、スチレン含有量が20質量%~30質量%であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ジエン系ゴムが、前記天然ゴムおよび前記スチレンブタジエンゴムの他に、ブタジエンゴム5質量%以上20質量%以下を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記トレッド部の外表面に、タイヤ周方向に沿って延在する4本の主溝と、前記主溝によって区画される複数の陸部とが形成されており、4本の前記主溝は、タイヤ赤道の両側に配置される2本のセンター主溝と、2本の前記センター主溝のそれぞれのタイヤ幅方向外側に配置される2本のショルダー主溝とを含み、各主溝は、2タイヤ幅方向における位置が異なる位置でタイヤ周方向に延びる周方向延在部を有するステップ形状で形成され、隣り合う前記センター主溝と前記ショルダー主溝との間には、タイヤ幅方向に延びて両端がセンター主溝と前記ショルダー主溝とに開口するセカンドラグ溝が配置され、前記ショルダー主溝のタイヤ幅方向外側には、接地端を跨いでタイヤ幅方向に延びて一端が前記ショルダー主溝に開口するショルダーラグ溝が配置され、前記セカンドラグ溝と前記ショルダーラグ溝とは、タイヤ幅方向に対するタイヤ周方向への傾斜方向が互いに反対方向になっており、タイヤ周方向に並んで配置される複数の前記セカンドラグ溝は、タイヤ幅方向に対する傾斜角度が異なる2種類の前記セカンドラグ溝が交互に配置され、前記センター主溝と前記ショルダー主溝に開口する前記セカンドラグ溝は、ステップ形状で形成される前記センター主溝及び前記ショルダー主溝がそれぞれ有する前記周方向延在部のうち、前記セカンドラグ溝寄りに位置する前記周方向延在部に開口し、前記ショルダー主溝に開口する前記ショルダーラグ溝は、ステップ形状で形成される前記ショルダー主溝が有する前記周方向延在部のうち、前記ショルダーラグ溝寄りに位置する前記周方向延在部に開口することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてオールシーズンタイヤとして用いることを意図した空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一年を通じて様々な天候下で使用することを意図した所謂オールシーズンタイヤは、通常の乾燥路面の他、雨天時のウェット路面や、冬季の積雪路面において優れた走行性能を発揮することが求められる(例えば、特許文献1を参照)。また、悪路での走行を意図したオフロード向けのタイヤは、舗装されていない草地、礫地、砂地、泥濘地、岩場、積雪路面などを走行するオフロード性能や耐久性に優れることが求められる(例えば、特許文献2を参照)。そのため、オフロード向けのオールシーズンタイヤは、前述の各種性能を兼ね備えることが求められる。例えば、悪路における耐久性能(以下、オフロード耐久性能という)、ウェット路面における制動性能(以下、ウェット性能という)、および積雪路面における制動性能(以下、スノー性能という)を高度に両立することが求められる。これに加えて、環境負荷を低減するために走行時の燃費性能を向上すること(転がり抵抗を低減すること)も求められる。
【0003】
しかしながら、これら性能を空気入りタイヤのトレッド部を構成するゴム(トレッドゴム)によって改善しようとしても、これら性能は相反するため、高次元で両立させることは困難である。例えば、ウェット性能に優れるゴムを得る方法として、0℃におけるtanδを高くすることが知られているが、0℃におけるtanδが高くなると、60℃におけるtanδも高くなり、転がり抵抗を低減することはできない。また、0℃におけるtanδが高くなることで、ガラス転移温度Tgが上昇するため、スノー性能が悪化することも懸念される。或いは、スノー性能に優れるゴムを得る方法として、ブタジエンゴムの配合量を増加することが知られているが、ブタジエンゴムの配合量が増えることでシリカの分散が悪化するため、転がり抵抗の低減が困難になる虞がある。また、シリカの分散が悪化した結果、ゴム組成物の伸びや強度が低下してオフロード耐久性能が悪化する虞がある。そのため、トレッドゴムの配合や物性を調整することで、オフロード耐久性能、ウェット性能、およびスノー性能をバランスよく向上しながら、転がり抵抗を低減して、これら性能を高次元で両立するための対策が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015‐229701号公報
【特許文献2】特開2018‐188036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、オフロード耐久性能、ウェット性能、およびスノー性能を向上しながら、転がり抵抗を低減し、これら性能を高次元で両立することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、前記トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、前記一対のサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間に装架されたカーカス層と、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側に配置された複数層の補強層とを有し、前記トレッド部が、前記補強層の外周側に配置されたアンダートレッド層と、前記アンダートレッド層の外周側に配置されて前記トレッド部の踏面を構成するキャップトレッド層との2層で構成された空気入りタイヤにおいて、前記キャップトレッド層は、天然ゴム50質量%以上、スチレンブタジエンゴム20質量%以上40質量%以下を含むジエン系ゴム100質量部に対して、シリカ50質量部~100質量部と、カーボンブラック5質量部~25質量部が配合されたゴム組成物で構成されており、前記スチレンブタジエンゴムは、ビニル含有量が35質量%~70質量%である末端変性スチレンブタジエンゴムであり、前記カーボンブラックの窒素吸着比表面積N2 SAは130m2 /g未満であり、前記キャップトレッド層を構成するゴム組成物の破断強度TB〔単位:MPa〕と破断伸びEB〔単位:%〕との積として算出される抗張積TB×EBが12000以上であり、硬度が60以上70以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の空気入りタイヤは、トレッド部をキャップトレッド層とアンダートレッド層の2層で構成し、キャップトレッド層を上述の配合からなるゴム組成物で構成し、更に、そのゴム物性を上述のように設定しているので、オフロード耐久性能、ウェット性能、およびスノー性能を向上しながら、転がり抵抗を低減することができる。尚、本発明において、ゴム組成物の「破断強度TB」および「破断伸びEB」は、JIS K6251に準拠して、JIS3号ダンベル型試験片(厚さ2mm)を打ち抜き、温度20℃、引張り速度500mm/分の条件で測定した破断時の応力(破断強度、単位:MPa)および破断時の伸び率(破断伸び、単位:%)である。また、ゴム組成物の「硬度」は、JIS K6253に準拠して、デュロメータのタイプAにより温度23℃で測定した値である。
【0008】
本発明においては、スチレンブタジエンゴムのビニル含有量が55質量%~70質量%であり、スチレン含有量が20質量%~30質量%であることが好ましい。また、ジエン系ゴムが、天然ゴムおよびスチレンブタジエンゴムの他に、ブタジエンゴム5質量%以上20質量%以下を含むことが好ましい。このような配合にすることで、オフロード耐久性能、ウェット性能、およびスノー性能を向上しながら、転がり抵抗を低減するには有利になる。
【0009】
本発明においては、トレッド部の外表面に、タイヤ周方向に沿って延在する4本の主溝と、前記主溝によって区画される複数の陸部とが形成されており、4本の前記主溝は、タイヤ赤道の両側に配置される2本のセンター主溝と、2本の前記センター主溝のそれぞれのタイヤ幅方向外側に配置される2本のショルダー主溝とを含み、各主溝は、2タイヤ幅方向における位置が異なる位置でタイヤ周方向に延びる周方向延在部を有するステップ形状で形成され、隣り合う前記センター主溝と前記ショルダー主溝との間には、タイヤ幅方向に延びて両端がセンター主溝と前記ショルダー主溝とに開口するセカンドラグ溝が配置され、前記ショルダー主溝のタイヤ幅方向外側には、接地端Eを跨いでタイヤ幅方向に延びて一端が前記ショルダー主溝に開口するショルダーラグ溝が配置され、前記セカンドラグ溝と前記ショルダーラグ溝とは、タイヤ幅方向に対するタイヤ周方向への傾斜方向が互いに反対方向になっており、タイヤ周方向に並んで配置される複数の前記セカンドラグ溝は、タイヤ幅方向に対する傾斜角度が異なる2種類の前記セカンドラグ溝が交互に配置され、前記センター主溝と前記ショルダー主溝に開口する前記セカンドラグ溝は、ステップ形状で形成される前記センター主溝及び前記ショルダー主溝がそれぞれ有する前記周方向延在部のうち、前記セカンドラグ溝寄りに位置する前記周方向延在部に開口し、前記ショルダー主溝に開口する前記ショルダーラグ溝は、ステップ形状で形成される前記ショルダー主溝が有する前記周方向延在部のうち、前記ショルダーラグ溝寄りに位置する前記周方向延在部に開口することが好ましい。前述のゴム組成物でトレッド部を構成するにあたって、このようなトレッドパターンを採用することで、オフロード耐久性能、ウェット性能、およびスノー性能を向上しながら、転がり抵抗を低減するには有利になる。
【0010】
尚、「接地端」とは、タイヤを正規リムにリム組みして正規内圧を充填した状態で平面上に垂直に置いて正規荷重を加えたときに形成される接地領域のタイヤ幅方向の端部である。「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRAであれば“Design Rim”、或いはETRTOであれば“Measuring Rim”とする。「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”であるが、タイヤが乗用車用である場合には180kPaとする。「正規荷重」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“LOAD CAPACITY”であるが、タイヤが乗用車用である場合には前記荷重の88%に相当する荷重とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の空気入りタイヤの一例を示す子午線断面図である。
【
図2】本発明の空気入りタイヤのトレッドパターンを例示する正面図である。
【
図3】
図2に示す主溝を拡大して示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
図1に示すように、本発明の空気入りタイヤは、トレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。
図1において、符号CLはタイヤ赤道を示し、符号Eは接地端を示す。尚、
図1は子午線断面図であるため描写されないが、トレッド部1、サイドウォール部2、ビード部3は、それぞれタイヤ周方向に延在して環状を成しており、これにより空気入りタイヤのトロイダル状の基本構造が構成される。以下、
図1を用いた説明は基本的に図示の子午線断面形状に基づくが、各タイヤ構成部材はいずれもタイヤ周方向に延在して環状を成すものである。
【0014】
左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コード(カーカスコード)をコートゴムで被覆することで構成され、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ幅方向内側から外側に折り返されている。ビードコア5の外周上にはビードフィラー6が配置され、このビードフィラー6がカーカス層4の本体部と折り返し部とにより包み込まれている。
【0015】
図1の例では、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側に複数層(2層)のベルト層7が設けられている。各ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コード(ベルトコード)を含み、かつ層間でベルトコードが互いに交差するように配置されている。これらベルト層7において、ベルトコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。ベルトコードとしては、例えばスチールコードが使用することができる。
【0016】
図1の例では、ベルト層7の外周側に、複数層(2層)のベルトカバー層8が設けられている。尚、図示の例の2層のベルトカバー層8のうち、一方はベルト層7の全域を覆うフルカバー層8aであり、他方はベルト層7の両端部を局所的に覆う一対のエッジカバー層8bである。ベルトカバー層8は、タイヤ周方向に配向する補強コード(ベルトカバーコード)を含む。ベルト補強層8において、ベルトカバーコードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°~5°に設定されている。ベルトカバーコードとしては、例えば有機繊維コードを使用することができる。
【0017】
本発明では、これらベルト層7およびベルトカバー層8を総称して補強層という。本発明では、補強層として、ベルト層7のみを設けても、ベルト層7およびベルトカバー層8の両者を設けてもよい。以降の説明における「補強層の外周側」とは、ベルト層7のみを設ける場合は、ベルト層7(特に、複数のベルト層7のうちタイヤ径方向最外側の層)の外周側を意味し、ベルト層7およびベルトカバー層8の両者を設ける場合は、ベルトカバー層8(特に、複数のベルトカバー層8のうちタイヤ径方向最外側の層)の外周側を意味する。
【0018】
トレッド部1において、上述のカーカス層4および補強層(ベルト層7、ベルトカバー層8)の外周側にはトレッドゴム層10が配置される。本発明では、トレッドゴム層10は、物性の異なる2種類のゴム層(キャップトレッド層11およびアンダートレッド層12)がタイヤ径方向に積層した構造を有する。キャップトレッド層11は、アンダートレッド層12の外周側に配置されてトレッド部1の踏面を構成する。アンダートレッド層12は、キャップトレッド層11と補強層との間に挟まれる。尚、サイドウォール部2におけるカーカス層4の外周側(タイヤ幅方向外側)にはサイドゴム層20が配置され、ビード部3におけるカーカス層4の外周側(タイヤ幅方向外側)にはリムクッションゴム層30が配置されている。
【0019】
本発明は、主としてトレッド部1(特に、キャップトレッド層11)を構成するゴム組成物に関するものであるので、他の部位や構成部材については、上述の構造に限定されない。尚、以降の説明では、キャップトレッド層11を構成するゴム組成物をキャップトレッドゴム、アンダートレッド層12を構成するゴム組成物をアンダートレッドゴムという場合がある。
【0020】
キャップトレッド層11を構成するゴム組成物において、ゴム成分は、天然ゴム、スチレンブタジエンゴムの2種を必ず含み、任意でブタジエンゴムを組み合わせて使用することができ、これらの合計が100質量%になる。本発明では、これら2種または3種のゴムを後述の割合で併用することで、オフロード耐久性能、スノー性能、ウェット性能、転がり抵抗性能を向上することができる。
【0021】
天然ゴムは、タイヤ用ゴム組成物に一般的に用いられるものであれば特に限定されない。天然ゴムを含むことにより、オフロード耐久性能をより優れたものにすることができる。天然ゴムの含有量は、ゴム成分100質量%中、50質量%以上、好ましくは50質量%以上60質量%以下である。天然ゴムの含有量が50質量%未満であると、オフロード耐久性能を十分に改良することができない。
【0022】
本発明で使用されるスチレンブタジエンゴムは、ビニル含有量が35質量%~70質量%、好ましくは55質量%~70質量%である末端変性スチレンブタジエンゴムである。このような末端変性スチレンブタジエンゴムを用いることで、ウェット性能と低転がり抵抗性を向上することができる。尚、スチレンブタジエンゴムにおけるスチレン含有量については、特に限定されないが好ましくは20質量%~40質量%、より好ましくは20質量%~30質量%である。ビニル含有量(およびスチレン含有量)が上述の条件を満たしていれば、末端変性スチレンブタジエンゴムにおける変性基の種類は特に限定されるものではないが、例えばエポキシ基、カルボキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シリル基、アルコキシシリル基、アミド基、オキシシリル基、シラノール基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、カルボニル基、アルデヒド基、シロキサン基、等が挙げられる。これら変性基の中でも、アミノ基、アルコキシシリル基、シラノール基を好適に用いることができる。
【0023】
スチレンブタジエンゴムの含有量は、ゴム成分100質量%中、20質量%以上40質量%以下、好ましくは30質量%以上40質量%以下である。スチレンブタジエンゴムの含有量が20質量%未満であるとウェット性能が低下する。スチレンブタジエンゴムの含有量が40質量%を超えるとスノー性能が低下する。
【0024】
前述のように、本発明のゴム成分においては、任意でブタジエンゴムを組み合わせて使用することができるが、ブタジエンゴムの種類は特に限定されない。ブタジエンゴムを併用する場合、その含有量はゴム成分100質量%中、好ましくは5質量%以上20質量%以下、より好ましくは5質量%以上15質量%以下である。ブタジエンゴムの含有量が5質量%未満であると耐摩耗性が低下する。ブタジエンゴムの含有量が20質量%を超えるとウェット性能が低下する。
【0025】
キャップトレッド層11を構成するゴム組成物にはシリカが必ず配合される。シリカとしては、例えば湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が用いることができる。これらシリカは、単独または2種以上を組合わせて使用することができる。シリカの表面にシランカップリング剤による表面処理を施した表面処理シリカを使用してもよい。シリカを配合することにより、ゴム組成物のゴム硬度を高くし、空気入りタイヤにしたとき、オフロード耐久性能を優れたものにすることができる。シリカの配合量は、上述のゴム成分100質量部に対して、50質量部~100質量部、好ましくは65質量部~85質量部である。シリカの配合量が50質量部未満であるとウェット性能が低下する。シリカの配合量が100質量部を超えるとオフロード耐久性能が低下する。
【0026】
シリカのCTAB吸着比表面積は、特に制限されるものではないが、好ましくは130m2/g~185m2/g、より好ましくは155m2/g~175m2/gであるとよい。シリカのCTAB吸着比表面積を130m2/g以上にすることによりウェット性能を向上することができる。また、シリカのCTAB吸着比表面積を185m2/g以下にすることにより低転がり抵抗性能を向上することができる。本発明において、シリカのCTAB吸着比表面積は、ISO 5794により測定された値とする。
【0027】
キャップトレッド層11を構成するゴム組成物にはシリカの他に、カーボンブラックが必ず配合される。カーボンブラックを配合することで、ゴム組成物のゴム硬度を高くし、空気入りタイヤにしたとき、オフロード耐久性能を優れたものにすることができる。カーボンブラックの配合量は、上述のゴム成分100質量部に対して、5質量部~25質量部、好ましくは8質量部~15質量部である。カーボンブラックの配合量が5質量部未満であるとオフロード耐久性能が低下する。カーボンブラックの配合量が25質量部を超えるとウェット性能および低転がり抵抗性能が低下する。
【0028】
本発明で使用されるカーボンブラックは、窒素吸着比表面積(N2SA)が130m2/g未満、好ましくは126m2/g~79m2/gである。このようなカーボンブラックを用いることで転がり抵抗性を低減することができる。カーボンブラックの窒素吸着比表面積が130m2/g以上であると、転がり抵抗性を低減することができない。本発明においてカーボンブラックの窒素吸着比表面積は、JIS K6217‐2により測定された値とする。
【0029】
キャップトレッド層11を構成するゴム組成物においては、上述のシリカおよびカーボンブラック以外の他の充填剤を配合することもできる。他の充填材として、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、クレー、アルミナ、水酸化アルミニウム、酸化チタン、硫酸カルシウムを挙げることができる。これら他の充填剤は単独または2種以上を組合わせて使用することができる。
【0030】
キャップトレッド層11を構成するゴム組成物においては、上述のシリカと共にシランカップリング剤を配合することが好ましい。シランカップリング剤により、シリカの分散性を改良することができる。シランカップリング剤の配合量は、好ましくはシリカの6質量%~12質量%、より好ましくは8質量%~10質量%であるとよい。シランカップリング剤の配合量が6質量%未満であると、シリカの分散性を十分に改良することができない虞がある。シランカップリング剤の配合量が12質量%を超えると、ゴム組成物が早期加硫を起こしやすくなり成形加工性が悪化する虞がある。
【0031】
シランカップリング剤としては、タイヤ用ゴム組成物に使用可能なものであれば特に制限されるものではないが、例えば、ビス-(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラサルファイド、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン等の硫黄含有シランカップリング剤を例示することができる。なかでもメルカプト基を有するシランカップリング剤が好ましく、シリカとの親和性を高くしその分散性を改良することができる。これらシランカップリング剤は、単独で配合してもよいし、複数を組合わせて配合してもよい。
【0032】
本発明において、キャップトレッド層11を構成するゴム組成物は、上述の配合剤の他に、加硫または架橋剤、加硫促進剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を、本発明の目的を阻害しない範囲内で配合することができる。またこれら添加剤は一般的な方法で混練してゴム組成物とし、加硫または架橋するのに使用することができる。これら添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。タイヤ用ゴム組成物は、通常のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用して、上記各成分を混合することによって製造することができる。
【0033】
上述の配合からなるキャップトレッドゴムについて、破断強度をTB〔単位:MPa〕、破断伸びをEB〔単位:%〕とし、それらの積として算出される抗張積をTB×EBとすると、本発明のキャップトレッドゴムの抗張積TB×EBは12000以上、好ましくは12500以上である。また、本発明のキャップトレッドゴムの硬度は60以上70以下、好ましくは64以上68以下であるとよい。このような抗張積および硬度に設定することで、オフロード耐久性能、スノー性能、ウェット性能、転がり抵抗性能をバランスよく両立するには有利になる。キャップトレッドゴムの抗張積TB×EBが12000未満であるとオフロード耐久性能が低下する。キャップトレッドゴムの硬度が60未満であるとオフロード耐久性能を向上することができない。キャップトレッドゴムの硬度が70を超えるとスノー性能を向上することができない。
【0034】
前述の抗張積の算出に用いる破断強度TBおよび破断伸びEBのそれぞれの値については特に限定されないが、破断強度TBは好ましくは23MPa~28MPa、より好ましくは24MPa~27MPaであるとよく、破断伸びEBは好ましくは450%以上、より好ましくは550%以上であるとよい。このように各値を設定することで、ゴム物性がより良好になり、オフロード耐久性能、スノー性能、ウェット性能、転がり抵抗性能をバランスよく両立するには有利になる。
【0035】
上述のキャップトレッドゴムを空気入りタイヤのトレッド部1(キャップトレッド層11)に用いるにあたって、そのトレッド部1の外表面に形成されるトレッドパターンは、特に限定されないが、例えば、
図2に例示する態様にすることが好ましい。
図2のトレッドパターンは、オフロード走行に適したパターンであり、オフロード耐久性能、スノー性能、ウェット性能に優れるので、上述のキャップトレッドゴムと組み合わせることで、本発明が目的とする上述の各種タイヤ性能を効果的に高めることができる。
【0036】
図2の例において、トレッド部1には4本の主溝40が形成されている。4本の主溝40は、タイヤ幅方向におけるタイヤ赤道面CLの両側にそれぞれ2本ずつ配設されており、これにより、主溝は、4本がタイヤ幅方向に並んで形成されている。つまり、トレッド部1には、タイヤ赤道面CLの両側に配置される2本のセンター主溝41と、2本のセンター主溝41のそれぞれのタイヤ幅方向外側に配置される2本のショルダー主溝42との、計4本の主溝30が形成されている。
【0037】
尚、主溝40とは、少なくとも一部がタイヤ周方向に延在する縦溝をいう。一般に主溝40は、3mm以上の溝幅を有し、6mm以上の溝深さを有し、摩耗末期を示すトレッドウェアインジケータ(スリップサイン)を内部に有する。本実施形態では、主溝40は、5mm以上8mm以下の溝幅を有し、8mm以上9mm以下の溝深さを有しており、延在方向が、タイヤ赤道面CLとトレッド接地面3とが交差するタイヤ赤道線(センターライン)と実質的に平行である。
【0038】
尚、「溝幅」とは、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を充填した無負荷状態で溝開口部において測定される、対向する溝壁同士の距離の最大値である。陸部が切欠部や面取部をエッジ部に有する構成では、溝長さ方向を法線方向とする断面視にて、トレッド接地面と溝壁の延長線との交点を測定点として、溝幅が測定される。また、溝がタイヤ周方向にジグザグ状あるいは波状に延在する構成では、溝壁の振幅の中心線を測定点として、溝幅が測定される。「溝深さ」は、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を充填した無負荷状態で測定されるトレッド接地面から溝底までの距離の最大値である。溝が部分的な凹凸部やサイプを溝底に有する構成では、これらを除外して溝深さが測定される。
【0039】
主溝40によって区画される複数の陸部50は、センター陸部51と、セカンド陸部52と、ショルダー陸部53とを含む。このうち、センター陸部51は、2本のセンター主溝41同士の間に配置され、タイヤ赤道面CL上に位置しており、タイヤ幅方向における両側がセンター主溝41によって区画されている。また、セカンド陸部52は、タイヤ幅方向に隣り合うセンター主溝41とショルダー主溝42との間に位置し、センター陸部51のタイヤ幅方向外側に配置されており、タイヤ幅方向における両側がセンター主溝41とショルダー主溝42とにより区画されている。また、ショルダー陸部53は、ショルダー主溝42のタイヤ幅方向外側に配置され、ショルダー主溝42を挟んでセカンド陸部52に隣り合って配置されており、タイヤ幅方向における内側がショルダー主溝42によって区画されている。
【0040】
トレッド部1の外表面(トレッド接地面)には、タイヤ幅方向に延びるラグ溝60が複数形成されており、ラグ溝60として、セカンドラグ溝61とショルダーラグ溝65とを有している。本実施形態では、ラグ溝60は、溝幅が1.6mm以上6mm以下の範囲内になっており、溝深さが4mm以上7mm以下の範囲内になっている。セカンドラグ溝61とショルダーラグ溝65とのうち、セカンドラグ溝61は、隣り合うセンター主溝41とショルダー主溝42との間に配置され、タイヤ幅方向に延びて両端がセンター主溝41とショルダー主溝42とに開口している。また、ショルダーラグ溝65は、ショルダー主溝42のタイヤ幅方向外側に配置され、接地端Eを跨いでタイヤ幅方向に延びて一端がショルダー主溝42に開口している。
【0041】
主溝40によって区画される陸部50のうち、センター主溝41とショルダー主溝42とによりタイヤ幅方向における両側が区画されるセカンド陸部52は、タイヤ周方向に隣り合うセカンドラグ溝61により、タイヤ周方向における両側が区画されている。セカンドラグ溝61は、両端がセンター主溝41とショルダー主溝42とに開口するため、タイヤ周方向における両側がセカンドラグ溝61により区画されるセカンド陸部52は、ブロック状の陸部50として形成されている。同様に、タイヤ幅方向における内側がショルダー主溝42により区画されるショルダー陸部53は、タイヤ周方向に隣り合うショルダーラグ溝65により、タイヤ周方向における両側が区画されている。ショルダーラグ溝65は、接地端Eを跨いでタイヤ幅方向に延びるため、タイヤ周方向における両側がショルダーラグ溝65により区画されるショルダー陸部53は、少なくとも接地端Eよりもタイヤ幅方向内側の部分は、ブロック状に形成されている。一方、タイヤ幅方向における両側がセンター主溝41により区画されるセンター陸部51は、陸部50がラグ溝60によって分断されずにタイヤ周方向に連続して形成されるリブ状の陸部50として形成されている。
【0042】
図3は、
図2に示す主溝40の詳細図である。トレッド部1には、2本のセンター主溝41と2本のショルダー主溝42との4本の主溝40が配置されているが、それぞれの主溝40は、タイヤ幅方向における位置が異なる位置でタイヤ周方向に延びる周方向延在部44を有するステップ形状で形成されている。ここでいうステップ形状は、溝幅方向における中心を示す中心線が、矩形波や台形波となって振幅する形状をいう。つまり、主溝40は、タイヤ幅方向における位置が互いに異なる2種類の周方向延在部44を有しており、2種類の周方向延在部44は、タイヤ周方向に交互に配置され、タイヤ周方向に隣り合う異なる周方向延在部44同士の端部間が、接続部45によって接続されている。接続部45も、主溝40を構成している。
【0043】
2種類の周方向延在部44は、例えば、複数の内側周方向延在部44iと、内側周方向延在部44iよりもタイヤ幅方向外側に位置する複数の外側周方向延在部44oとからなり、内側周方向延在部44iと外側周方向延在部44oとが、タイヤ周方向に交互に配置されている。これらの内側周方向延在部44iと外側周方向延在部44oとは、内側周方向延在部44i同士はタイヤ幅方向における位置が同じ位置になっており、外側周方向延在部44oはタイヤ幅方向における位置が同じ位置になっている。
【0044】
また、接続部45は、タイヤ周方向において隣り合う内側周方向延在部44iと外側周方向延在部44oとの、接近している端部同士を接続しており、本実施形態では、接続部45は、タイヤ幅方向に対してタイヤ周方向に傾斜して延びて形成されている。このため、本実施形態では、ステップ形状で形成される主溝40は、いわゆる台形波状の形状で形成されている。これらのように、内側周方向延在部44iと外側周方向延在部44oと接続部45とを有する主溝40は、1つの主溝40内では、内側周方向延在部44iと外側周方向延在部44oと接続部45との溝幅は、ほぼ一定になっている。
【0045】
このように形成される主溝40には、ラグ溝60が開口しているが、ラグ溝60は、主溝40が有する2種類の周方向延在部44のうち、タイヤ幅方向において主溝40に開口するラグ溝60が位置する側の周方向延在部44に対して開口している。例えば、センター主溝41とショルダー主溝42に開口するセカンドラグ溝61は、ステップ形状で形成されるセンター主溝41およびショルダー主溝42がそれぞれ有する周方向延在部44のうち、セカンドラグ溝61寄りに位置する周方向延在部44に開口している。つまり、セカンドラグ溝61は、センター主溝41に対しては、タイヤ幅方向外側からセンター主溝41に開口するため、セカンドラグ溝61は、センター主溝41が有する外側周方向延在部44oに開口している。また、セカンドラグ溝61は、ショルダー主溝42に対しては、タイヤ幅方向内側からショルダー主溝42に開口するため、セカンドラグ溝61は、ショルダー主溝42が有する内側周方向延在部44iに開口している。
【0046】
また、ショルダー主溝42に開口するショルダーラグ溝65は、ステップ形状で形成されるショルダー主溝42が有する周方向延在部44のうち、ショルダーラグ溝65寄りに位置する周方向延在部44に開口している。つまり、ショルダー主溝42は、ショルダー主溝42に対しては、タイヤ幅方向外側からショルダー主溝42に開口するため、ショルダー主溝42は、ショルダー主溝42が有する外側周方向延在部44oに開口している。ショルダー主溝42のタイヤ幅方向における内側と外側からショルダー主溝42に対して開口するセカンドラグ溝61とショルダーラグ溝65とは、異なる周方向延在部44に開口するため、ショルダー主溝42に対して、タイヤ周方向において異なる位置で開口している。
【0047】
これらのように、主溝40に開口するセカンドラグ溝61とショルダーラグ溝65とは、それぞれタイヤ幅方向に延びつつ、タイヤ幅方向に対してタイヤ周方向に傾斜して形成されている。その際に、セカンドラグ溝61とショルダーラグ溝65とは、タイヤ幅方向に対するタイヤ周方向への傾斜方向が、互いに反対方向になっている。例えば、セカンドラグ溝61とショルダーラグ溝65とは、タイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側に向かって延びる際に、いずれもタイヤ幅方向に延びつつ、タイヤ周方向に向かって傾斜して形成されているが、タイヤ周方向に向かう際の方向が、セカンドラグ溝61とショルダーラグ溝65とで、互いに反対方向になっている。
【0048】
また、タイヤ周方向に並んで配置される複数のセカンドラグ溝61は、タイヤ幅方向に対する傾斜角度が異なる2種類のセカンドラグ溝61が交互に配置されている。即ち、セカンドラグ溝61は、タイヤ幅方向に対する傾斜角度が互いに異なり、タイヤ周方向に交互に配置される第1セカンドラグ溝62と第2セカンドラグ溝63とを有している。このため、タイヤ周方向に隣り合うセカンドラグ溝61によってタイヤ周方向の両側が区画されるセカンド陸部52は、タイヤ周方向における両側が、タイヤ周方向に隣り合う第1セカンドラグ溝62と第2セカンドラグ溝63とによって区画されている。
【0049】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0050】
図1に示す基本構造を有し、タイヤサイズが285/60R18である20種類の空気入りタイヤ(試験タイヤ)を製造した(標準例1、比較例1~6、実施例1~13)。各例において、キャップトレッド層を構成するキャップトレッドゴムは、表1~3に示す配合および物性とした(表3はすべての例に共通の配合である)。また、トレッドパターンについて、表1~2に示すように、主溝の形状、セカンドラグ溝とショルダーラグ溝の傾斜方向が同じであるか逆であるか(表中の「ラグ溝の傾斜方向」の欄)、傾斜角度が異なる2種類のセカンドラグ溝の有無(表中の「2種類のセカンドラグ溝」の欄)、ラグ溝がラグ溝寄りに位置する周方向延在部に開口するか否か(表中の「ラグ溝の開口位置」の欄)を異ならせた。
【0051】
尚、各例に使用したキャップトレッドゴム(タイヤ用ゴム組成物)を調製する際には、それぞれ加硫促進剤および硫黄を除く配合成分を秤量し、1.8Lの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練し、マスターバッチを放出し室温冷却した。その後、このマスターバッチを1.8Lの密閉式バンバリーミキサーに供し、加硫促進剤及び硫黄を加え2分間混合して、各タイヤ用ゴム組成物を得た。
【0052】
表1~2に記載される物性値は、各例に使用したキャップトレッドゴム(タイヤ用ゴム組成物)をそれぞれ用いて、所定形状の金型を用いて145℃、35分間加硫し、各タイヤ用ゴム組成物からなる加硫ゴム試験片を作成して測定したものである。具体的には、「硬度」は、JIS K6253に準拠して、デュロメータのタイプAにより温度20℃で測定した値である。また、「破断強度TB」および「破断伸びEB」は、JIS K6251に準拠して、JIS3号ダンベル型試験片(厚さ2mm)を打ち抜き、温度20℃、引張り速度500mm/分の条件で測定した破断時の応力(破断強度、単位:MPa)および破断時の伸び率(破断伸び、単位:%)である。抗張積は、「破断強度TB」および「破断伸びEB」の積TB×EBであり、各例の値に基づいて算出した。
【0053】
表1~2の「主溝の形状」の欄について、主溝の形状が、タイヤ幅方向における位置が異なる位置でタイヤ周方向に延びる周方向延在部を有するステップ形状である場合を「ステップ」と表示し、タイヤ周方向に延びつつタイヤ幅方向に振幅するジグザグ形状である場合を「ジグザグ」と表示した。表1~2の「ラグ溝の傾斜方向」の欄について、セカンドラグ溝とショルダーラグ溝の傾斜方向が同じである場合を「同」、逆である場合を「逆」と表示した。表1~2の「2種類のセカンドラグ溝」の欄について、傾斜角度が異なる2種類のセカンドラグ溝の有する場合を「有」、すべてのセカンドラグ溝の傾斜角度が同じ場合を「無」と表示した。表1~2の「ラグ溝の開口位置」の欄について、各ラグ溝がラグ溝寄りに位置する周方向延在部に開口する場合を「〇」、ラグ溝から離れた周方向延在部に開口する場合を「×」と表示した。
【0054】
各試験タイヤについて、下記に示す方法により、スノー性能、ウェット性能、低転がり性能、オフロード耐久性能の評価を行った。
【0055】
スノー性能
各試験タイヤをリムサイズ18×8Jのリムホイールに組み付けて、空気圧を230kPaとして四輪駆動のSUV車両の評価車両に装着し、氷雪路面において速度40km/hの走行状態から制動し、完全停止までの制動距離を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用い、標準例1を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど、制動距離が短く、氷雪路面での制動性能(スノー性能)が優れていることを意味する。尚、指数値が「98」以上であれば、十分なスノー性能が得られたことを意味する。
【0056】
ウェット性能
各試験タイヤをリムサイズ18×8Jのリムホイールに組み付けて、空気圧を230kPaとして四輪駆動のSUV車両の評価車両に装着し、濡れた路面において速度100km/hの走行状態から制動し、完全停止までの制動距離を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用い、標準例1を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど、制動距離が短く、濡れた路面での制動性能(ウェット性能)が優れていることを意味する。
【0057】
低転がり性能
各試験タイヤをリムサイズ18×8Jのリムホイールに組み付け、ISO28580に準拠して、ドラム径1707.6mmのドラム試験機を用い、空気圧240kPa、荷重4.82kN、速度80km/hの条件で転がり抵抗を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用い、標準例1を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど転がり抵抗が低く、低転がり性能に優れることを意味する。
【0058】
オフロード耐久性能
各試験タイヤをリムサイズ18×8Jのリムホイールに組み付けて、空気圧を230kPaとして四輪駆動のSUV車両の評価車両に装着し、岩場、泥濘路、砂地のそれぞれで走行試験を行い、試験後のトレッド部を調べ、範囲および深さが5mm以上となる明瞭なチャンキングのタイヤ周上における発生個数を測定した。そして測定したタイヤ周上の発生個数からトレッドパターンの1ピッチあたりの平均個数を算出した。評価結果は、チャンキングの平均個数が3個以上である場合を「×」、チャンキングの平均個数が1個以上3個未満である場合を「△」、チャンキングの平均個数が1個未満である場合を「〇」で示した。評価結果が「△」または「〇」であれば十分なオフロード耐久性が得られたことを意味し、特に評価結果が「〇」の場合、優れたオフロード耐久性が得られたことを意味する。
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
表1~3において使用した原材料の種類を下記に示す。
・NR:天然ゴム、PT.KIRANA SAPTA社製SIR20
・SBR1:末端変性スチレンブタジエンゴム、JSR社製HPR850(変性基:アミン基、アルコキシシリル基、ビニル含有量:59質量%、スチレン含有量:27質量%)
・SBR2:末端変性スチレンブタジエンゴム、ZSエラストマー社製Nipol NS616(変性基:ポリオルガノシロキサン基、ビニル含有量:67質量%、スチレン含有量:21質量%)
・SBR3:末端変性スチレンブタジエンゴム、JSR社製HPR840(変性基:アミン基、アルコキシシリル基、ビニル含有量:40質量%、スチレン含有量:10質量%)
・SBR4:末端変性スチレンブタジエンゴム、ZSエラストマー社製Nipol NS612(変性基:ポリオルガノシロキサン基、ビニル含有量:30質量%、スチレン含有量:15質量%)
・SBR5:未変性のスチレンブタジエンゴム、ZSエラストマー社製NS460(ビニル含有量:63質量%、スチレン含有量:25質量%)
・BR:ブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol 1220
・シリカ:Evonik社製Urtrasil 7000GR
・CB1:カーボンブラック、東海カーボン社製シースト7HM N234(窒素吸着比表面積N2SA:126m2/g)
・CB2:カーボンブラック、東海カーボン社製シースト9M N110(窒素吸着比表面積N2SA:142m2/g)
・シランカップリング剤:Evonik Degussa社製Si69
・アロマオイル:昭和シェル石油社製エキストラクト4号S
・ステアリン酸:日油社製ビーズステアリン酸
・亜鉛華:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
・老化防止剤:Korea Kumho Petrochemical社製6PPD
・硫黄:鶴見化学工業社製金華印油入微粉硫黄
・加硫促進剤1:大内新興化学工業社製ノクセラーCZ‐G
・加硫促進剤2:住友化学社製ソクシノールD‐G
【0063】
表1から明らかなように、実施例1~13の空気入りタイヤは、標準例1に対してウェット性能、低転がり性能、およびオフロード耐久性能を向上し、これら性能をバランスよく高度に両立した。一方、比較例1は、シリカの配合量が多いため、スノー性能、低転がり性能、およびオフロード耐久性能が悪化した。比較例2は、シリカの配合量が少ないため、ウェット性能および低転がり性能が悪化した。比較例3は、硬度が高いため、スノー性能が悪化した。比較例4は、硬度が低いため、オフロード耐久性能が悪化した。比較例5は、カーボンブラックの窒素吸着比表面積が大きいため、低転がり性能が悪化した。比較例6は、スチレンブタジエンゴムのビニル量が少ないため、スノー性能が悪化した。
前記トレッド部の外表面に、タイヤ周方向に沿って延在する4本の主溝と、前記主溝によって区画される複数の陸部とが形成されており、4本の前記主溝は、タイヤ赤道の両側に配置される2本のセンター主溝と、2本の前記センター主溝のそれぞれのタイヤ幅方向外側に配置される2本のショルダー主溝とを含み、各主溝は、タイヤ幅方向における位置が異なる位置でタイヤ周方向に延びる周方向延在部を有するステップ形状で形成され、隣り合う前記センター主溝と前記ショルダー主溝との間には、タイヤ幅方向に延びて両端がセンター主溝と前記ショルダー主溝とに開口するセカンドラグ溝が配置され、前記ショルダー主溝のタイヤ幅方向外側には、接地端を跨いでタイヤ幅方向に延びて一端が前記ショルダー主溝に開口するショルダーラグ溝が配置され、前記セカンドラグ溝と前記ショルダーラグ溝とは、タイヤ幅方向に対するタイヤ周方向への傾斜方向が互いに反対方向になっており、タイヤ周方向に並んで配置される複数の前記セカンドラグ溝は、タイヤ幅方向に対する傾斜角度が異なる2種類の前記セカンドラグ溝が交互に配置され、前記センター主溝と前記ショルダー主溝に開口する前記セカンドラグ溝は、ステップ形状で形成される前記センター主溝及び前記ショルダー主溝がそれぞれ有する前記周方向延在部のうち、前記セカンドラグ溝寄りに位置する前記周方向延在部に開口し、前記ショルダー主溝に開口する前記ショルダーラグ溝は、ステップ形状で形成される前記ショルダー主溝が有する前記周方向延在部のうち、前記ショルダーラグ溝寄りに位置する前記周方向延在部に開口することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
本発明においては、トレッド部の外表面に、タイヤ周方向に沿って延在する4本の主溝と、前記主溝によって区画される複数の陸部とが形成されており、4本の前記主溝は、タイヤ赤道の両側に配置される2本のセンター主溝と、2本の前記センター主溝のそれぞれのタイヤ幅方向外側に配置される2本のショルダー主溝とを含み、各主溝は、タイヤ幅方向における位置が異なる位置でタイヤ周方向に延びる周方向延在部を有するステップ形状で形成され、隣り合う前記センター主溝と前記ショルダー主溝との間には、タイヤ幅方向に延びて両端がセンター主溝と前記ショルダー主溝とに開口するセカンドラグ溝が配置され、前記ショルダー主溝のタイヤ幅方向外側には、接地端Eを跨いでタイヤ幅方向に延びて一端が前記ショルダー主溝に開口するショルダーラグ溝が配置され、前記セカンドラグ溝と前記ショルダーラグ溝とは、タイヤ幅方向に対するタイヤ周方向への傾斜方向が互いに反対方向になっており、タイヤ周方向に並んで配置される複数の前記セカンドラグ溝は、タイヤ幅方向に対する傾斜角度が異なる2種類の前記セカンドラグ溝が交互に配置され、前記センター主溝と前記ショルダー主溝に開口する前記セカンドラグ溝は、ステップ形状で形成される前記センター主溝及び前記ショルダー主溝がそれぞれ有する前記周方向延在部のうち、前記セカンドラグ溝寄りに位置する前記周方向延在部に開口し、前記ショルダー主溝に開口する前記ショルダーラグ溝は、ステップ形状で形成される前記ショルダー主溝が有する前記周方向延在部のうち、前記ショルダーラグ溝寄りに位置する前記周方向延在部に開口することが好ましい。前述のゴム組成物でトレッド部を構成するにあたって、このようなトレッドパターンを採用することで、オフロード耐久性能、ウェット性能、およびスノー性能を向上しながら、転がり抵抗を低減するには有利になる。