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特開2022-175718運転支援システムおよび運転支援方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175718
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】運転支援システムおよび運転支援方法
(51)【国際特許分類】
   B61L 27/00 20220101AFI20221117BHJP
   B60L 15/40 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
B61L27/00 L
B61L27/00 Z
B60L15/40 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082372
(22)【出願日】2021-05-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】特許業務法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松尾 一毅
(72)【発明者】
【氏名】木村 祥太
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 有紀
(72)【発明者】
【氏名】石川 勝美
【テーマコード(参考)】
5H125
5H161
【Fターム(参考)】
5H125AA05
5H125CA06
5H125CC05
5H125EE52
5H125EE53
5H125EE55
5H161AA01
5H161JJ22
5H161JJ26
5H161JJ27
5H161JJ30
(57)【要約】
【課題】駅から出発する力行側列車に遅延を発生させることなく、走行中の減速側列車が発生する回生電力を力行側列車の駆動用電力として活用するために、列車の運行を支援するシステムを提供する。
【解決手段】運行支援システムとして、少なくとも1つの停車中列車が搭載する第1の車上装置と、少なくとも1つの走行中列車が搭載する第2の車上装置と、伝送回線を介して第1の車上装置および第2の車上装置と情報を交信する地上側装置とを備え、地上側装置は、少なくとも第1の車上装置からの受信情報から求めた停車中列車の力行開始情報に基づいて走行中列車の減速パターンを生成し、第2の車上装置に送信する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つ停車中列車が搭載する第1の車上装置と、
少なくとも1つ走行中列車が搭載する第2の車上装置と、
伝送回線を介して前記第1の車上装置および前記第2の車上装置と情報を交信する地上側装置とを備え、
前記地上側装置は、少なくとも前記第1の車上装置からの受信情報から求めた前記停車中列車の力行開始情報に基づいて前記走行中列車の減速パターンを生成し、前記第2の車上装置に送信する
ことを特徴とする運転支援システム。
【請求項2】
請求項1に記載の運転支援システムであって、
前記停車中列車は、前記走行中列車が前記減速パターンによる走行によって発生する回生電力を、自らの力行開始以降の力行電力として消費する
ことを特徴とする運転支援システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の運転支援システムであって、
前記受信情報は、前記停車中列車の運転台から出力される力行ノッチ投入の情報であり、
前記地上側装置は、前記第2の車上装置から受信した前記走行中列車の位置情報および速度情報に基づき前記力行開始情報をトリガにして前記減速パターンを生成し、前記第2の車上装置に送信する
ことを特徴とする運転支援システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の運転支援システムであって、
前記地上側装置は、前記走行中列車の減速途中で切り替わる2つの異なる減速度を用い、当該2つの異なる減速度の切り替えを前記走行中列車の運行ダイヤ上の次駅到着時間を守るタイミングに調整した前記減速パターンを生成し、前記第2の車上装置に送信する
ことを特徴とする運転支援システム。
【請求項5】
請求項1または2に記載の運転支援システムであって、
前記受信情報は、前記停車中列車の乗車率の情報であり、
前記地上側装置は、前記伝送回線を介して前記停車中列車が停車している駅から当該駅の混雑率の情報を受信し、前記乗車率と前記混雑率とから前記停車中列車の力行開始時刻を予測して前記力行開始情報とし、前記第2の車上装置から受信した前記走行中列車の位置情報および速度情報に基づき当該力行開始情報をトリガにして前記減速パターンを生成し、前記第2の車上装置に送信する
ことを特徴とする運転支援システム。
【請求項6】
請求項5に記載の運転支援システムであって、
前記走行中列車が複数在線する場合に、
前記地上側装置は、前記減速パターンを前記複数の走行中列車全てについて生成し、生成した前記全ての減速パターンから、前記停車中列車と前記複数の走行中列車それぞれとの走行状態の関係に基づく目的関数の値が最も小さい減速パターンを選択し、前記第2の車上装置に送信する
ことを特徴とする運転支援システム。
【請求項7】
請求項6に記載の運転支援システムであって、
前記目的関数は、前記停車中列車と前記走行中列車間の距離、前記走行中列車の減速度および前記走行中列車の運行ダイヤからの遅延時間の少なくともいずれか1つを変数とする
ことを特徴とする運転支援システム。
【請求項8】
請求項1または2に記載の運転支援システムであって、
前記走行中列車および前記停車中列車が複数在線する場合に、
前記第1の車上装置からの受信情報は、前記複数の停車中列車それぞれの乗車率の情報であり、
前記地上側装置は、前記伝送回線を介して前記複数の停車中列車それぞれが停車している駅から当該駅それぞれの混雑率の情報を受信し、前記乗車率と前記混雑率とから前記複数の停車中列車それぞれの力行開始時刻を予測して前記力行開始情報とし、当該力行開始情報から前記複数の停車中列車全体での力行消費電力波形を計算し、
前記複数の走行中列車全体で発生する回生電力波形が前記力行消費電力波形を超えないことを満足する前記複数の走行中列車の減速パターンを生成し、前記第2の車上装置に送信する
ことを特徴とする運転支援システム。
【請求項9】
請求項8に記載の運転支援システムであって、
前記地上側装置は、前記複数の走行中列車全体で生成される回生電力波形が前記力行消費電力波形を超えないことを満足する前記複数の走行中列車の減速パターンを複数生成した場合には、最も減速度が低い前記減速パターンを選択し、前記第2の車上装置に送信する
ことを特徴とする運転支援システム。
【請求項10】
地上側装置は、少なくとも1つの停車中列車から受信する情報から当該停車中列車の力行開始情報を求め、当該力行開始情報に基づいて少なくとも1つの走行中列車の減速パターンを生成し、当該走行中列車に送信する
ことを特徴とする運転支援方法。
【請求項11】
請求項10に記載の運転支援方法であって、
前記受信する情報は、前記停車中列車の運転台から出力される力行ノッチ投入の情報であり、
前記地上側装置は、前記減速パターンを前記走行中列車の位置情報および速度情報に基づき前記力行開始情報をトリガにして生成し、前記走行中列車に送信する
ことを特徴とする運転支援方法。
【請求項12】
請求項10に記載の運転支援方法であって、
前記受信する情報は、前記停車中列車の乗車率の情報であり、
前記地上側装置は、
さらに、前記走行中列車から当該走行中列車の位置情報および速度情報を受信し、前記停車中列車が停車している駅から当該駅の混雑率の情報を受信し、
前記乗車率と前記混雑率とから前記停車中列車の力行開始時刻を予測して前記力行開始情報とし、前記位置情報および前記速度情報に基づき当該力行開始情報をトリガにして前記減速パターンを生成する
ことを特徴とする運転支援方法。
【請求項13】
請求項12に記載の運転支援方法であって、
前記走行中列車が複数である場合に、
前記地上側装置は、
前記減速パターンを前記複数の走行中列車全てについて生成し、
生成した前記全ての減速パターンに対して前記停車中列車と前記複数の走行中列車それぞれとの走行状態の関係に基づく目的関数を設定し、
前記目的関数の値が最も小さい減速パターンを選択し、
選択した前記減速パターンを当該減速パターンに対応する前記走行中列車に送信する
ことを特徴とする運転支援方法。
【請求項14】
請求項10に記載の運転支援方法であって、
前記走行中列車および前記停車中列車が複数である場合に、
前記受信する情報は、前記複数の停車中列車それぞれの乗車率の情報であり、
前記地上側装置は、
さらに、前記複数の停車中列車それぞれが停車している駅から当該駅それぞれの混雑率の情報を受信し、
前記乗車率と前記混雑率とから前記複数の停車中列車それぞれの力行開始時刻を予測して前記力行開始情報とし、
前記力行開始情報から前記複数の停車中列車全体での力行消費電力波形を計算し、
前記複数の走行中列車全体で発生する回生電力波形が前記力行消費電力波形を超えないことを満足する前記複数の走行中列車の減速パターンを生成し、
生成した前記減速パターンを前記複数の走行中列車に送信する
ことを特徴とする運転支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気鉄道の運転支援システムおよび運転支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷低減とコスト軽減の観点から、鉄道においてもエネルギー効率の改善が望まれている。電気鉄道においては、エネルギー効率の改善手段として回生ブレーキの有効活用が注目されている。
【0003】
回生ブレーキは、列車に搭載されたモータの起電力により制動力を確保する減速手段であり、従来の摩擦ブレーキでは熱として消費していた列車の運動エネルギーを電力に変換することで再利用を可能にする。
【0004】
回生ブレーキにより発生した電力(回生電力)は、架線を介して、他の列車の駆動用電力として供給される。ただし、回生電力を消費する列車が不在の場合には、回生電力を活用できない。このため、回生電力を有効に活用するためには、回生電力の発生に応じて他の列車を駆動するように列車の運行を制御する技術が必要とされる。
【0005】
このような課題に対応する技術として、特許文献1に示される運行管理装置が知られている。特許文献1には、走行中の列車の回生ブレーキ動作開始時刻を予測し、予測した回生ブレーキ動作開始時刻まで駅に停車中の列車の出発時刻を待機させることで、回生電力を駅から出発する列車が活用できるようにした技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-109576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の技術では、回生列車に応じて運行が制御される列車の駅出発時刻が運行ダイヤに対して遅延することになる。その結果、駅出発後の列車は遅延を解消するために通常よりも高い速度で運転する必要が発生し、通常の運転よりもエネルギー消費が大きくなるという課題があった。
【0008】
そこで、本発明では、この課題に対処するために、駅から出発する力行側列車に遅延を発生させることなく、走行中の減速側列車が発生する回生電力を力行側列車の駆動用電力として有効に活用するために、列車の運行を支援するためのシステムおよび方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、代表的な本発明の運転支援システムの一つは、少なくとも1つの停車中列車が搭載する第1の車上装置と、少なくとも1つの走行中列車が搭載する第2の車上装置と、伝送回線を介して第1の車上装置および第2の車上装置と情報を交信する地上側装置とを備え、地上側装置は、少なくとも第1の車上装置からの受信情報から求めた停車中列車の力行開始情報に基づいて走行中列車の減速パターンを生成し、第2の車上装置に送信することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、列車の走行が予め定められた運行ダイヤよりも遅延している場合であっても、力行側列車の力行開始時刻を予測し、回生側列車の回生ブレーキ開始時刻の調整に反映することができる列車の運転支援装置を提供することにより、列車の回生ブレーキによる回生電力を効率的に活用し、列車運行に関わる消費エネルギーを削減することができる。
また、上記した以外の課題、構成および効果は、以下の発明を実施するための形態における説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例1に係る運転支援システムの構成および運転支援対象となる列車を示す図である。
図2】運転支援システムの地上側装置が備える演算部が、実施例1の場合に実行する処理の流れ(フローチャート)を示す図である。
図3図2に示すフローチャートによる第2の列車(減速側列車)の運転曲線を示す図である。
図4】実施例1に係る運転支援システムによる効果を示す図である。
図5】運転支援システムの地上側装置が備える演算部が、実施例2の場合に実行する処理の流れ(フローチャート)を示す図である。
図6図5に示すフローチャートによる第2の列車(減速側列車)の運転曲線を示す図である。
図7】実施例2に係る運転支援システムによる効果を示す図である。
図8】実施例3に係る運転支援システムの構成および運転支援対象となる列車を示す図である。
図9】運転支援システムの地上側装置が備える演算部および力行時刻予測部が、実施例3の場合に実行する処理の流れ(フローチャート)を示す図である。
図10図9に示すフローチャートによる第2の列車(減速側列車)の運転曲線を示す図である。
図11】実施例3に係る運転支援システムによる効果を示す図である。
図12】実施例4に係る運転支援システムの構成および運転支援対象となる列車を示す図である。
図13】運転支援システムの地上側装置が備える演算部および力行時刻予測部が、実施例4の場合に実行する処理の流れ(フローチャート)を示す図である。
図14】実施例4に係る運転支援システムによる効果について、目的関数の変数として減速度のみを用いた場合を示す図である。
図15】実施例5に係る運転支援システムの構成および運転支援対象となる列車を示す図である。
図16】運転支援システムの地上側装置が備える演算部および力行時刻予測部が、実施例5の場合に実行する処理の流れ(フローチャート)を示す図である。
図17】実施例5に係る運転支援システムによる効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態として、実施例1~5について、図面を用いて説明する。なお、これら実施例により本発明が限定されるものではない。また、少なくとも実施例1の説明において言及した符号等の意味は、同義として他の実施例の説明にも援用する。
【実施例0013】
実施例1では、力行側列車の運転台において、力行ノッチが投入された情報(以下、「力行ノッチ投入情報」という)を用いて、確定した力行開始時刻を求め、この力行開始時刻から減速を始める走行パターンを生成し、生成した走行パターンに沿って列車の運行制御を行う。
【0014】
図1は、本発明の実施例1に係る運転支援システムの構成および運転支援対象となる列車を示す図である。この運転支援システムの構成は、後述する実施例2も同様である。
ここで、本発明の実施例1に係る運転支援システムは、第1の列車101Aが搭載する車上装置104A、第2の列車101Bが搭載する車上装置104Bと運転制御装置106B、地上側装置103およびこれらの装置に関与する情報を相互に交信するための伝送回線102、から構成される。ここで、本発明の全ての実施例において、列車が搭載する車上装置は、同じ列車が搭載する運転制御装置を含む構成としてもよい。
【0015】
地上側装置103は、少なくとも演算部107および列車毎の各駅発着時刻を記憶したダイヤデータベース108を備える。
【0016】
第1の列車101Aは、駅113に停車中であって、車上装置104Aから伝送回線102を介して地上側装置103に対して、力行ノッチ投入情報111を送信する。
【0017】
第2の列車101Bは、走行中であって、車上装置104Bから伝送回線102を介し地上側装置103に対して位置情報109Bおよび速度情報110Bを送信する。
【0018】
地上側装置103では、演算部107が、第1の列車101Aの車上装置104Aから受信した力行ノッチ投入情報111を列車101Aの力行開始のトリガにし、第2の列車101Bから受信した位置情報109Bと速度情報110Bに基づき、ダイヤデータベース108を用いて第2の列車101Bの目標減速パターン112を生成し、伝送回線102を介して第2の列車101Bに送信する。
【0019】
第2の列車101Bでは、運転制御装置106Bが、地上側装置103から受信した目標減速パターン112に追従するように、自列車の速度を制御する。
【0020】
ここで、伝送回線102は、携帯電話などの公衆無線回線、または、列車無線や列車信号装置などの鉄道用の専用無線回線などの公知の無線回線により構成される。
【0021】
また、列車側に搭載する運転制御装置106(第2の列車101Bでは運転制御装置106B)は、与えられた目標運転パターンに自動的に追従する自動列車運転装置、または、運転士に指示する運転パターンを手動操作により追従可能とする列車運転支援システム、により構成される。
【0022】
図2は、運転支援システムの地上側装置103が備える演算部107が、実施例1の場合に実行する処理の流れ(フローチャート)を示す図である。以下では、各処理の実行主体である演算部107の表記を省略する。
処理202では、第2の列車(減速側列車)101Bが、現在の速度110Bからダイヤ上の次駅到着時刻に次駅の停車位置に停車するために最低限必要な減速度(以下、「ダイヤ上の減速度」という)で、次駅に停車するために必要な減速開始位置302C(以下、「ダイヤ上減速開始位置302C」という)を計算する。その後、処理203に進む。
【0023】
処理203では、第2の列車(減速側列車)101Bが、現在の速度110Bから常用最大減速度で次駅に停車するために必要な常用最大減速開始位置302Aを計算する。その後、条件分岐204に進む。
【0024】
条件分岐204では、第2の列車(減速側列車)101Bの現在位置109Bと常用最大減速開始位置302Aとを比較し、現在位置109Bが常用最大減速開始位置302Aより次駅停車位置301に近いか否かを判定する。
【0025】
現在位置109Bが、常用最大減速開始位置302Aよりも次駅停車位置301に近い場合(YES)は、処理207Aに進み、近くない場合(NO)は、条件分岐205に進む。
【0026】
条件分岐205では、力行ノッチ投入情報111が入力されたか否かを判定する。
力行ノッチ投入情報111の入力が確認された場合(YES)には、条件分岐206に進み、確認されなかった場合(NO)には、処理202に戻る。
【0027】
条件分岐206では、力行ノッチ投入情報111を受信した位置302B(以下、「力行ノッチ受信位置302B」という)とダイヤ上減速開始位置302Cとを比較し、力行ノッチ受信位置302Bがダイヤ上減速開始位置302Cよりも次駅停車位置301に近いか否かを判定する。判定の結果、近い場合(YES)は処理207Bに進み、近くない場合(NO)は処理207Cに進む。
【0028】
処理207Aでは、第2の列車(減速側列車)101Bが常用最大減速度で次駅に停車する減速パターン303Aを生成し、目標減速パターン112とする。
【0029】
処理207Bでは、第2の列車(減速側列車)101Bが力行ノッチ受信位置302Bから減速を開始して一定の減速度βで次駅に停車する減速パターン303Bを生成し、目標減速パターン112とする。
【0030】
減速度βとしては、以下に示す、式(1.1)から式(1.4)の連立方程式を満たす値を与える。これにより、力行ノッチ受信位置302Bから一定の減速度βで次駅停車位置301に停車させる減速パターン303Bを生成することができる。
【0031】
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【0032】
ここで、時間:t、速度:v、位置:xは変数、速度110B:v、力行ノッチ受信位置302Bから次駅停車位置301までの距離:Δx、ダイヤ上の次駅停車時刻までの残時間:Δtとする。
【0033】
処理207Cでは、第2の列車(減速側列車)101Bがダイヤ上の減速度で次駅に停車する減速パターン303Cを生成し、目標減速パターン112とする。
【0034】
図3は、図2に示すフローチャートによる第2の列車(減速側列車)101Bの運転曲線を示す図である。
(A)演算部107は、常用最大減速開始位置302Aまでに力行ノッチ投入情報111を受信しなかった場合には、第2の列車(減速側列車)101Bが常用最大減速開始位置302Aから減速を開始し、次駅停車位置301で速度0となる減速パターン303Aを生成する。
【0035】
運転制御装置106Bは、演算部107から受信した目標減速パターン112(減速パターン303A)に追従するように、第2の列車(減速側列車)101Bの速度を制御することで、第2の列車(減速側列車)101Bは走行履歴304Aのように走行する。
【0036】
(B)演算部107は、ダイヤ上減速開始位置302Cよりも次の駅に接近して力行ノッチ投入情報111を受信した場合には、第2の列車(減速側列車)101Bが力行ノッチ受信位置302Bから減速を開始し、次駅停車位置301で速度0となる減速パターン303Bを生成する。
【0037】
運転制御装置106Bは、演算部107から受信した目標減速パターン112(減速パターン303B)に追従するように、第2の列車(減速側列車)101Bの速度を制御することで、第2の列車(減速側列車)101Bは走行履歴304Bのように走行する。
【0038】
(C)演算部107は、ダイヤ上減速開始位置302Cよりも手前で力行ノッチ投入情報111を受信した際には、第2の列車(減速側列車)101Bがダイヤ上減速開始位置302Cから減速を開始し、次駅停車位置301で速度0となる減速パターン303Cを生成する。
【0039】
運転制御装置106Bは、演算部107から受信した目標減速パターン112(減速パターン303C)に追従するように、第2の列車(減速側列車)101Bの速度を制御することで、第2の列車(減速側列車)101Bは走行履歴304Cのように走行する。
【0040】
また、第2の列車(減速側列車)101Bの減速が行われている途中に第1の列車(力行側列車)101Aの力行が終了した場合は、そのままの減速度で減速を継続してもよいし、在線位置や速度に応じてより省エネなパターンを再計算してもよい。
【0041】
このように、第2の列車(減速側列車)101Bは、力行ノッチの投入時刻に応じた目標減速パターン112に従って減速を開始し、次駅停車位置301に停車することが可能となる。
【0042】
図4は、実施例1に係る運転支援システムによる効果を示す図である。
図では、第1の列車(力行側列車)101Aによる力行電力401の波形(点線)と、第2の列車(減速側列車)101Bによる回生電力402の波形(402Aおよび402B)を示し、両者の重なった部分は第1の列車(力行側列車)101Aが活用できる回生電力である。回生電力402A(一点鎖線)は運転支援システムによる制御がない場合、回生電力402B(実線)は運転支援システムによる制御が働いた場合である。
【0043】
回生電力402A(一点鎖線)は、力行電力401よりも早く立ち上がるため、力行電力401と重ならない部分が多く発生する。それに対し、回生電力402B(実線)は、力行ノッチ投入情報111の受信により力行電力401と同時に立ち上がることで、力行電力401と重なる部分が増加することになる。
【0044】
以上のように、実施例1に係る運転支援システムによれば、駅停車中の列車の出発に合わせて、走行中の列車の減速を開始させることにより、その回生電力を駅から出発する列車の駆動用電力として有効に活用することができる。
【実施例0045】
実施例2に係る運転支援システムが生成する減速パターンは、実施例1に係る運転支援システムが生成する減速パターンと比較して、減速側列車の早着を回避する効果を得られる点で異なる。ここで、実施例2に係る運転支援システムの構成は、実施例1に係る運転支援システムと同じ構成である。
【0046】
図5は、運転支援システムの地上側装置103が備える演算部107が、実施例2の場合に実行する処理の流れ(フローチャート)を示す図である。
実施例2では、実施例1の場合のフローチャートにおける処理207Bに替えて、処理501、処理502および処理503を実行する点が、実施例1と異なる。これらの処理の実行主体も演算部107であるが、以下ではその表記を省略する。
【0047】
処理501では、第2の列車(減速側列車)101Bの現在位置109Bにおいて、速度110Bから第1減速度β1により減速する第1減速パターン602Aを生成する。
【0048】
処理502では、第1減速度β1と異なる第2減速度β2(β1>β2)によりダイヤ上の次駅停車時刻に、第2の列車(減速側列車)101Bが次駅停車位置301に停車する第2減速パターン602Bを生成する。
【0049】
処理503では、第1減速パターン602Aと第2減速パターン602Bが交わる位置601(以下、「減速度変化点601」という)を導出する。すなわち、減速度変化点601で第1減速パターン602Aから第2減速パターン602Bに切り替わり、減速度変化点601より手前では第1減速パターン602A、減速度変化点601より次駅停車位置301側では第2減速パターン602Bとする減速パターン603を生成し、目標減速パターン112とする。
【0050】
第1減速度β1および第2減速度β2としては、式(2.1)から式(2.4)の連立方程式を満たす値をそれぞれ与える。これにより、第2の列車(減速側列車)101Bは、力行ノッチ受信位置302Bから減速し、ダイヤ上の次駅到着時刻に次駅停車位置301に停車することができる。
【0051】
【数5】
【数6】
【数7】
【数8】
【0052】
ここで、時間:t、速度:v、位置:xは変数、速度110B:v、ダイヤ上の次駅停車時刻までの残時間:Δt、減速度変化点601から次駅停車位置301までの距離:Δx、第1減速度β1から第2減速度β2に切り替えるまでの時間:t1である。
【0053】
図6は、図5に示すフローチャートによる第2の列車(減速側列車)101Bの運転曲線を示す図である。ただし、力行ノッチ投入情報111を受信しなかった場合、または、力行ノッチ投入情報111をダイヤ上減速開始位置302Cよりも手前(次駅停車位置301から遠い位置)で受信した場合における第2の列車(減速側列車)101Bの走行については、実施例1と同様であるので省略する。
【0054】
演算部107は、力行ノッチ投入情報111をダイヤ上減速開始位置302Cよりも遠方(次駅停車位置301に近い位置)で受信した場合には、減速度変化点601を境界として、手前(次駅停車位置301から遠い位置)は減速度β1の減速パターン602Aに、遠方(次駅停車位置301に近い位置)は減速度β2で減速する減速パターン602Bに、それぞれ一致する減速パターン603を目標減速パターン112として生成する。
【0055】
運転制御装置106Bが、目標減速パターン112として減速パターン603に追従するように速度を制御することで、第2の列車(減速側列車)101Bは走行履歴604のように走行する。
【0056】
これにより、第2の列車(減速側列車)101Bは、次駅停車位置301に、ダイヤ上の停車時刻どおりに停車することで、早着を回避できる。すなわち、実施例1における減速パターン303Bの場合の走行履歴304Bによる次駅停車駅位置301への到着時間(図3の下側の時間特性の図)と比較して、実施例2における減速パターン603の場合の走行履歴604による次駅停車駅位置301への到着時間(図6の下側の時間特性の図)は、ダイヤ上減速開始位置302Cから減速パターン303Cによる到着時間(ダイヤ上の停車時刻)と同じ時間に早着することなく到着することを示している。
【0057】
図7は、実施例2に係る運転支援システムによる効果を示す図である。
力行ノッチ投入情報111をダイヤ上減速開始位置302Cよりも遠方(次駅停車位置301に近い位置)で受信した場合の実施例2による回生電力701(太い実線)は、同様の場合の実施例1による回生電力402B(細い実線)と比較して、回生電力が発生している時間が増加することから、実施例2に係る運転支援システムでは、実施例1に係る運転支援システムより回生電力を有効に活用することができる。
【実施例0058】
実施例3に係る運転支援システムの特徴は、減速側列車の速度を調整することにより、減速側列車の早着を回避しつつ回生電力をより有効に活用する減速パターンを生成する点が、実施例1および2と異なる。
【0059】
図8は、本発明の実施例3に係る運転支援システムの構成および運転支援対象となる列車を示す図である。
実施例3に係る運転支援システムは、実施例1および2に係る運転支援システムと比べて以下の点が相違する。
【0060】
地上側装置103は、新たに力行時刻予測部802を備える。力行時刻予測部802は、第1の列車(力行側列車)101Aの乗車率803および駅113の混雑率804を入力とし、これらの入力に対して混雑率データベース805を参照して力行開始時刻801を算出する。この力行開始時刻801は、駅113のホーム上の混雑率804が高い場合、また、第1の列車(力行側列車)101Aの乗車率803が高い場合には、乗客の乗降時間が通常よりも長くなるために、ダイヤ上の力行開始時刻よりも遅延する。
【0061】
ここで、混雑率804を計測する方法としては、例えば、駅113のホーム上に設置されたカメラ806の撮影映像から計測する手法を採用することができる。
【0062】
また、乗車率803を計測する方法としては、例えば、第1の列車(力行側列車)101Aの車両荷重から計測する手法を採用することができる。
【0063】
その上で、駅の混雑率および列車の乗車率に対応する乗客の乗降時間を混雑率データベース805に蓄積し、計測された混雑率804および乗車率803から、対応する列車の乗降時間を推定する方法を用いる。
【0064】
演算部107は、実施例1および2と同様の入力に加えて、力行時刻予測部802が算出する力行開始時刻801を入力とする。
【0065】
図9は、運転支援システムの地上側装置103が備える演算部107および力行時刻予測部802が、実施例3の場合に実行する処理の流れ(フローチャート)を示す図である。
処理91Aでは、力行時刻予測部802が、駅113のホーム上の混雑率804と列車101Aの乗車率803から、第1の列車(力行側列車)101Aのダイヤ時刻に対する力行開始時刻801を予測する。その後、処理92Aに進む。
【0066】
処理92Aでは、演算部107が、第2の列車(減速側列車)101Bに対し、ダイヤ上の次駅停車時刻にダイヤ上の減速度で次駅停車するために必要な減速開始位置(ダイヤ上減速開始位置302C)と減速開始時の時刻(ダイヤ上減速開始時刻1002C)を計算し、処理92Bに進む。
【0067】
処理92Bでは、演算部107が、第2の列車(減速側列車)101Bに対し、常用最大減速度を用いて次駅にダイヤ上の到着時刻に停車する場合の、常用最大減速開始時刻1002Aおよび常用最大減速開始位置1001Aを計算し、条件分岐93Aに進む。
【0068】
条件分岐93Aでは、演算部107が、力行開始時刻801と常用最大減速開始時刻1002Aを比較し、力行開始時刻801が常用最大減速開始時刻1002Aよりも、後の場合(YES)は処理95Aに進み、その他の場合(NO)は分岐94Bに進む。
【0069】
条件分岐94Bでは、演算部107が、力行開始時刻801とダイヤ上減速開始時刻1002Cを比較し、力行開始時刻801がダイヤ上減速開始時刻1002Cよりも、後の場合(YES)は処理95Bに進み、その他の場合(NO)は処理95Cに進む。
【0070】
処理95Aでは、演算部107が、第2の列車(減速側列車)101Bに対して、常用最大減速度で次駅停車位置301に停車する減速パターン1003Aを生成し、目標減速パターン112とする。
【0071】
処理95Bでは、演算部107が、第2の列車(減速側列車)101Bに対して、力行開始時刻801から減速を開始して一定の減速度βで次駅に停車する減速パターン1003Bを生成し、目標減速パターン112とする。
【0072】
処理95Cでは、演算部107が、第2の列車(減速側列車)101Bに対して、ダイヤ上の減速度で次駅に停車する減速パターン303Cを生成し、目標減速パターン112とする。
【0073】
減速度βおよび速度vとしては、式(3.1)から式(3.4)の連立方程式を満たす値をそれぞれ与える。これにより、ダイヤ上の到着時刻を満たすことができる。
ここで、時間:t、速度:v、位置:xを変数とし、残時間:Δt、残距離:Δx、力行開始までの時間:t1、である。
【0074】
【数9】
【数10】
【数11】
【数12】
【0075】
図10は、図9に示すフローチャートによる第2の列車(減速側列車)101Bの運転曲線を示す図である。
(A)演算部107は、力行開始時刻801がダイヤ上減速開始時刻(ダイヤ上減速開始位置302Cに到達する時刻)よりも前の場合には、ダイヤ上減速開始位置302Cから減速を開始して次駅停車位置301で速度0となる減速パターン303Cを生成する。
【0076】
運転制御装置106Bは、演算部107から受信した目標減速パターン112(減速パターン303C)に追従するように、第2の列車(減速側列車)101Bの速度を制御することで、第2の列車(減速側列車)101Bは、走行履歴304Cのように走行する。
【0077】
(B)演算部107は、力行開始時刻801がダイヤ上減速開始時刻1002Cよりも後で、かつ、常用最大減速開始時刻1002Aより前の場合には、力行開始時刻801で減速を開始し、次駅停車位置301で速度0となる減速パターン1003Bを生成する。
【0078】
運転制御装置106Bは、演算部107から受信した目標減速パターン112(減速パターン1003B)に追従するように、第2の列車(減速側列車)101Bの速度を制御することで、第2の列車(減速側列車)101Bは、走行履歴1004Bのように走行する。
【0079】
(C)演算部107は、力行開始時刻801が常用最大減速開始時刻1002Aよりも後の場合には、常用最大減速開始時刻1002Aで減速を開始し、次駅停車位置301で速度0となる減速パターン1003Aを生成する。
【0080】
運転制御装置106Bは、演算部107から受信した目標減速パターン112(減速パターン1003A)に追従するように、第2の列車(減速側列車)101Bの速度を制御することで、第2の列車(減速側列車)101Bは、走行履歴1004Aのように走行する。
【0081】
図11は、実施例3に係る運転支援システムによる効果を示す図である。
実施例3に係る運転支援システムでは、予測された力行開始時刻801に応じて、図10に示すように減速パターン(303C、1003B、1003A)に入る減速開始時の速度が異なってくるため、減速開始時の速度を抑えられることで、より弱い減速度に制御することができる。このため、回生電力1101(太い実線)は、実施例1の場合の回生電力402B(細い実線)と比較して、減速度がゆるやかな(減速度を抑えた)波形となり、また、運転支援システムによる制御がない場合の回生電力402A(一点鎖線)に比較して、回生電力融通量を増加させることができる。
【0082】
このように、実施例3に係る運転支援システムによれば、減速側列車の早着を回避しつつ、併せて回生電力を駅から出発する列車の駆動用電力として有効に活用することができる。
【実施例0083】
実施例1から3では、減速側列車が1つの場合を想定しているが、回生電力を生成可能な減速側列車が同一き電システム上に複数存在する可能性がある。複数存在する場合に、例えば実施例3を適用すると、複数の減速側列車が同時に力行側列車と同期するように減速するため、回生電力生成量が力行電力消費量を上回ることが想定される。その際、減速側列車の減速度を高めて乗り心地を損なうデメリットに比べて、得られる回生電力融通の省エネ効果が制限されるという課題がある。このため、回生可能な複数の減速側列車から、実際に回生電力の融通を行う減速側列車を選択する必要がある。
【0084】
実施例4は、力行側と減速側の列車間の距離、減速側列車の減速度および減速側列車の遅延時間の3つの条件に対して、複数の減速側列車を比較して制御対象とする減速側列車を選択することを特徴とする。その点で実施例3と異なる。
【0085】
図12は、本発明の実施例4に係る運転支援システムの構成および運転支援対象となる列車を示す図である。実施例4に係るシステムは、実施例3に係るシステムと比べて以下の点が相違する。
実施例4では、第1の列車101Aと第2の列車101Bに加え、減速側列車として第3の列車101Cが加わる。第3の列車101Cは、第1の列車101Aと第2の列車101Bと同一のき電システム上に存在し、減速側列車である第2の列車101Bと同様に、第3の車上装置104Cから自らの位置情報109Cおよび速度情報110Cを、伝送回線102を介して地上側装置103に送る。
【0086】
地上側装置103の演算部107は、受信した列車位置情報109A、109Bおよび109C、速度情報110Bおよび110C並びにダイヤデータベース108に基づき、第2の列車(減速側列車)101Bの目標減速パターン112Bおよび第3の列車(減速側列車)101Cの目標減速パターン112Cを生成する。
【0087】
図13は、運転支援システムの地上側装置103が備える演算部107および力行時刻予測部802が、実施例4の場合に実行する処理の流れ(フローチャート)を示す図である。
実施例4では、実施例3と比較して次の点が相違する。以下では、実施例3と相違する処理ステップについて説明し、それ以外は実施例3と同様であるので省略する。なお、図13では、紙面の大きさの都合上、実施例3における、開始21Aに続く力行開始時刻を予測する処理91A(図9)を処理92Aに含ませている。省略したが、実施例4においても、開始21Aに続いて、同様に力行開始時刻予測処理91Aを実行する。
【0088】
目標減速パターンを作成した後のステップとして、条件分岐1301Aを加え、全ての減速側列車で目標減速パターンを生成したか否かを判定する。判定の結果、全て生成した場合(YES)は処理1302Aに進み、その他の場合(NO)は処理1303Bに進む。
【0089】
処理1302Aでは、各減速側列車(実施例4では、第2の列車101Bと第3の列車101C)の目標減速パターンに対して、力行側と減速側の列車間の距離、減速側列車の減速度および減速側列車の遅延時間を変数とする目的関数を設定し、この目的関数の値が最も小さい減速側列車にのみ目標減速パターン112を送信する。それ以外の減速側列車には、ダイヤ通りの減速パターンを送信する。その後、処理を終了する。
【0090】
処理1303Bでは、目標減速パターン112の生成対象とする減速側列車を切り替える。その後、処理92Aに進む。
【0091】
次に、処理1302Aで設定する目的関数について内容を説明する。目的関数の変数としては以下の3つを設定する。
x:力行側と減速側の列車間の距離
a:減速側列車の減速パターンにおける減速度
t:減速側列車の運行ダイヤからの遅延時間
このとき、目的関数は、変数x、aおよびtを含む関数として定義され、具体例として、各変数に対して線形の対応を取るものを採用する。
【0092】
また、変数x、aおよびそれぞれに対して以下のゲインkを掛ける。
:力行側と減速側の列車間の距離に対するゲイン
:速側列車の減速パターンにおける減速度に対するゲイン
:減速側列車のダイヤからの遅延時間に対するゲイン
とする。
【0093】
このとき、目的関数は、以下の式(4.1)に示す定義となる。
【数13】
【0094】
実施例4では、この目的関数を、同一き線上の全ての減速側列車に適用し、この目的関数の値が最も小さい列車にのみ目標減速パターン112を送信する。
【0095】
図14は、実施例4に係る運転支援システムによる効果について、目的関数の変数として減速度のみを用いた場合を示す図である。図14の上の図に電力量の特性を示し、図14の下の図に速度の特性を示す。
【0096】
上の図で、回生電力1401B(一点鎖線)および1401C(破線)は、それぞれ運転支援システムによる制御を行わない、すなわち、減速開始時刻の調整を行わない場合の第2の列車(減速側列車)101Bおよび第3の列車(減速側列車)101Cの回生電力生成量を示す。
【0097】
一方で、回生電力1402B(太い実線)および1402C(太い2点鎖線)は、それぞれ運転支援システムによる制御によって減速開始時刻の調整を行う場合の第2の列車(減速側列車)101Bおよび第3の列車(減速側列車)101Cの回生電力生成量を示す。
【0098】
また、下の図で、速度1403B(実線)および1403C(2点鎖線)は、それぞれ減速開始時刻の調整を行う場合の第2の列車(減速側列車)101Bおよび第3の列車(減速側列車)101Cの速度を示す。
【0099】
第2の列車(減速側列車)101Bおよび第3の列車(減速側列車)101Cに対して、数(4.1)に示す目的関数を適用したところ、第3の列車(減速側列車)101Cの減速度1403Cは、第2の列車(減速側列車)101Bの減速度1403Bよりも小さくなっている。よって、演算部107は、第3の列車(減速側列車)101Cに対して目標減速パターン112Cを送信し、減速開始時刻の調整を行う。
【0100】
このように、複数の減速側列車の中から、減速度を変数とする目的関数により制御対象となる列車が選択されることで、乗り心地の悪化を抑制しつつ回生電力融通を行うことができる。
【0101】
更に複数の変数を用いる目的関数を適用する場合には、複数の変数に対する総合的な判断によって制御対象となる列車を選択することになる。
【実施例0102】
実施例4は、複数の減速側列車の回生電力の中から1つの力行側列車に対してその回生電力を供給する例であるが、実施例5は、力行側列車も複数在線する場合に対応する例である。
【0103】
力行側列車から断続的に電力が消費される場合には、減速側列車の減速度が過剰になり、乗り心地が悪化する。実施例5では、複数の力行側列車に対して回生電力を融通するように減速開始時刻を変更する点が、実施例4と異なる。また、実施例5は、減速側および力行側が1つの列車である実施例3に対しても、適用できることは勿論である。
【0104】
図15は、本発明の実施例5に係る運転支援システムの構成および運転支援対象となる列車を示す図である。実施例5に係るシステムは、実施例4に係るシステムと比べて以下の点が相違する。
実施例5では、実施例4に加えて同一き電システム上の力行側列車として第4の列車101Dが加わる。第1の列車101Aと同様に、第4の列車101Dは、第4の車上装置104Dから、第4の列車101Dの位置情報109Dおよび乗車率803D並びに駅113Dのホーム上の混雑率804Dを、伝送回線102を介して地上側装置103に送る。
【0105】
地上側装置103の力行時刻予測部802は、第4の列車101Dの乗車率803Dおよび駅113Dのホーム上の混雑率804Dに対して、混雑率データベース805を参照して第4の列車101Dの力行開始時刻801Dを算出する。この混雑率804Dを取得する手法として、例えば、駅113Dのホーム上に設置されたカメラ806Dの撮影映像から計測する手法を採用する。
【0106】
図16は、運転支援システムの地上側装置103が備える演算部107および力行時刻予測部802が実施例5の場合に実行する処理の流れ(フローチャート)を示す図である。
処理1601Aでは、演算部107が、同一き電システム上の全ての力行側列車に対し、予測した力行開始時刻(図15では、801Aまたは801D)およびダイヤ上の走行速度から、このき電システム全体における力行電力消費量の時系列を計算する。その後、処理1602Aに進む。
【0107】
処理1602Aでは、演算部107が、同一き電システム上の全ての減速側列車に対し、ダイヤ上の次駅停車時刻にダイヤ上の減速度で次駅停車するために必要な減速パターンおよびその際のき電システム全体における回生電力生成量を計算する。その後、条件分岐1606Aに進む。
【0108】
条件分岐1606Aでは、演算部107が、回生電力生成量は力行電力消費量よりも常に少ないか否かを判定する。判定の結果、常に少ない場合(YES)は処理1604Aに進み、その他の場合(NO)は処理1603Aに進む。
【0109】
処理1604Aでは、演算部107が、複数の減速側列車に対して、処理1602Aで生成した減速パターンを目標減速パターン112として送信する。その後、処理を終了する。
【0110】
処理1603Aでは、演算部107が、同一き電システム上の全ての減速側列車に対し、ダイヤ上の次駅停車時刻に次駅停車することを守りつつ、減速度を変化させることで、回生電力融通量を最大化する減速パターンを生成する。
【0111】
具体的な生成手法の例を以下に説明する。ダイヤ上の減速度から常用最大減速度までを、所定の分解能ごとに減速度を区切る。区切られた減速度ごとに現在時刻から停車時刻までの回生電力波形を、回生を行う減速側列車ごとに算出する。減速側列車ごとに各回生電力波形を1つ選択し、全ての減速側列車の合計値を総合回生電力波形として生成する。ここで、回生電力波形の選択方法としては総当たりで行う。総合回生電力波形と総合力行消費電力波形とを比較し、総合回生電力波形が総合力行消費電力波形を常に下回る場合に、総合回生電力波形を生成する各回生列車の減速パターンを生成する。その後、条件分岐1607Aに進む。
【0112】
条件分岐1607Aでは、演算部107が、回生電力融通量を最大化する減速パターンは複数存在するか否かを判定する。判定の結果、複数存在する場合(YES)は処理1605Aに進み、複数存在しない場合(NO)は処理1606Aに進む。
【0113】
処理1605Aでは、演算部107が、複数ある減速パターンの中から減速度が最も低くなる減速パターンを目標減速パターン112として、対応する減速側列車に対して送信する。その後、処理を終了する。
【0114】
処理1606Aでは、演算部107が、最大化する減速パターンが存在する減速側列車に対して、その最大化する減速パターンを目標減速パターン112として送信する。その後、処理を終了する。
【0115】
図17は、実施例5に係る運転支援システムによる効果を示す図である。
力行側列車である第1の列車101Aと第4の列車101Dとの総合力行消費電力波形が1701(点線)である。
【0116】
第1の列車(力行側列車)101Aの力行開始時刻801Aに、第2の列車(減速側列車)101Bの減速開始時刻を調整した場合の減速パターンにおける回生電力生成量を1702B(細い1点鎖線)、第3の列車(減速側列車)101Cの減速開始時刻を調整した場合の減速パターンにおける回生電力生成量を1702C(細い破線)とする。
【0117】
その上で、これら2つの回生電力生成量1702Bと1702Cとの合計である総合回生電力波形(すなわち、第1の列車(力行側列車)101Aの力行開始時刻801Aに、第2の列車(減速側列車)101Bと第3の列車(減速側列車)101Cの減速開始時刻を調整した場合の総合回生電力波形)は、1703(細い実線)となる。
【0118】
一方、処理1603Aによって得られる、第2の列車(減速側列車)101Bにおける回生電力融通量を最大化した減速パターンの場合の回生電力量を1704B(太い1点鎖線)、第3の列車(減速側列車)101Cにおける回生電力融通量を最大化した減速パターンの場合の回生電力量を1704C(太い破線)とする。
【0119】
その上で、これら2つの回生電力生成量1704Bと1704Cとの合計として、回生電力融通量を最大化した減速パターンにおける総合回生電力波形は、1705(太い実線)となる。
【0120】
減速開始時刻を調整した場合の総合回生電力波形1703(細い実線)は、1つの力行側列車に対して回生電力融通先を集中させるため、総合力行消費電力波形1701(点線)を超える期間が発生し、回生電力を損失してしまうことになる。
【0121】
一方、回生電力融通量を最大化した減速パターンの場合の総合回生電力波形1705(太い実線)は、総合力行消費電力波形1701(点線)を超えないため、効率の良い回生電力融通を行うことができると共に、より低い減速度での回生電力融通が可能になる。
【0122】
このように、複数の減速側列車の減速度を変更し、力行側列車の消費電力量および減速側列車の回生電力量を求め、回生電力融通を最大限に行う減速パターンを求めることにより、減速度の上昇を抑えると共に乗り心地の悪化を抑制して回生電力融通を行うことができる。
【0123】
以上、本発明の実施の形態として各実施例について説明したが、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0124】
101A:第1の列車、101B:第2の列車、101C:第3の列車、
101D:第4の列車、102:伝送回線、103:地上側装置、
104A:第1の車上装置、104B:第2の車上装置、104C:第3の車上装置、
104D:第4の車上装置、106B:(第2の)運転制御装置、
106C:(第3の)運転制御装置、107:演算部、108:ダイヤデータベース、
109(109A,109B,109C,109D):位置情報、
110(110B,110C):速度情報、111:力行ノッチ投入情報、
112(112B,112C):目標減速パターン、
113(113A,113D):駅(第1の駅,第2の駅)、
301:次駅停車位置、302A,1001A:常用最大減速開始位置、
302B:力行ノッチ受信位置、302C:ダイヤ上減速開始位置、
303A,303B,303C,603,1003A,1003B:減速パターン、
304A,304B,304C,604,1004A,1004B:走行履歴、
401:力行電力、402A:従来の回生電力、402B:実施例1による回生電力、
601:減速度変化点(第1減速度と第2減速度の切替位置)、
602A:第1減速パターン、602B:第2減速パターン、
701:実施例2による回生電力、801:力行開始時刻、802:力行時刻予測部、
803(803A,803D):乗車率、804(804A,804D):混雑率、
805:混雑率データベース、806:カメラ、
1002A:常用最大減速開始時刻、1002C:ダイヤ上減速開始時刻、
1101:実施例3による回生電力、
1401B,1401C:減速開始時刻の調整を行わない場合の回生電力生成量、
1402B,1402C:減速開始時刻の調整を行う場合の回生電力生成量、
1701:力行側列車の総合力行消費電力波形、
1702B,1702C:減速開始時刻を調整した場合の回生電力生成量、
1703:減速開始時刻を調整した場合の総合回生電力波形、
1704B,1704C:回生電力融通量を最大化した減速パターンの場合の回生電力量、
1705:回生電力融通量を最大化した減速パターンにおける総合回生電力波形。
図1
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