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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175764
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 9/19 20060101AFI20221117BHJP
   H02K 9/22 20060101ALI20221117BHJP
   H02K 3/24 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
H02K9/19 A
H02K9/22 Z
H02K3/24 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082442
(22)【出願日】2021-05-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】長尾 喜信
(72)【発明者】
【氏名】森川 鉄平
【テーマコード(参考)】
5H603
5H609
【Fターム(参考)】
5H603AA13
5H603AA15
5H603BB07
5H603BB09
5H603BB12
5H603CA01
5H603CA05
5H603CB03
5H609BB03
5H609BB19
5H609PP06
5H609PP09
5H609QQ05
5H609QQ21
5H609QQ23
5H609RR61
(57)【要約】
【課題】冷却性能を高めつつ、回転子の回転に伴い発生する損失を低減することができる回転電機を提供する。
【解決手段】回転電機10は、周方向に極性が交互となる複数の磁極が形成された磁石ユニット21を有し、軸方向が水平方向又は略水平方向となる向きで回転する回転子20と、固定子巻線61を有し、径方向において回転子20に対向するとともに回転子20と同軸に配置された固定子60と、を備える。回転電機10において、固定子巻線61は、磁石ユニット21に対して径方向に対向する位置に周方向に並んで配置される中間導線部を有し、固定子60は、周方向に隣り合う中間導線部の間に、径方向において回転子20側に延びるティースが設けられていない構成となっており、回転子20及び固定子60により囲まれる空間に冷却液が貯留されており、固定子60の少なくとも最下部分が貯留された冷却液に浸されている。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に極性が交互となる複数の磁極が形成された磁石部(21)を有し、軸方向が水平方向又は略水平方向となる向きで回転する回転子(20)と、
固定子巻線(61)を有し、径方向において前記回転子に対向するとともに前記回転子と同軸に配置された固定子(60)と、を備える回転電機(10)であって、
前記固定子巻線は、前記磁石部に対して径方向に対向する位置に周方向に並んで配置される磁石対向部を有し、
前記固定子は、周方向に隣り合う前記磁石対向部の間に、径方向において前記回転子側に延びるティースが設けられていない構成となっており、
前記回転子及び前記固定子により囲まれる空間に冷却液が貯留されており、
前記回転子及び前記固定子のうち径方向内側に配置される方の少なくとも最下部分が、貯留された冷却液に浸されている、回転電機。
【請求項2】
前記固定子巻線は、相あたり複数の部分巻線からなる相巻線を有し、
前記固定子巻線の径方向内側及び径方向外側のうち前記回転子とは逆側に設けられ、複数の前記部分巻線を支持する支持部材(62)を備え、
前記部分巻線は、
軸方向に延びかつ周方向に所定間隔を離して設けられる前記磁石対向部としての一対の第1中間導線部(101A)、及び軸方向一端側及び他端側に設けられ一対の前記第1中間導線部を環状に接続する第1渡り部(102A)を有し、一対の前記第1中間導線部及び一対の前記第1渡り部において導線材(CR)が多重に巻回されて構成された第1部分巻線(100A)と、
軸方向に延びかつ周方向に所定間隔を離して設けられる前記磁石対向部としての一対の第2中間導線部(101B)、及び軸方向一端側及び他端側に設けられ一対の前記第2中間導線部を環状に接続する第2渡り部(102B)を有し、一対の前記第2中間導線部及び一対の前記第2渡り部において導線材(CR)が多重に巻回されて構成された第2部分巻線(100B)と、
を備え、
一対の前記第1中間導線部の間に、他相の前記第2中間導線部が配置されており、
前記第1渡り部は、径方向において前記第1中間導線部よりも前記支持部材の側に折り曲げられた状態となっており、
前記第2渡り部は、前記第1渡り部よりも軸方向外側に延びるとともに、前記第1渡り部の軸方向外側で当該第1渡り部の一部を周方向に跨いでおり、
前記各第1部分巻線及び前記各第2部分巻線に電気的に接続されたバスバー(200,201)を備え、
前記バスバーは、前記第2渡り部の径方向内側及び径方向外側のうち前記回転子側とは逆側であって、かつ、前記第1渡り部の軸方向外側の空間において、前記第2渡り部に沿って周方向に延びている、請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記各第1部分巻線及び前記各第2部分巻線において、軸方向一端側から前記導線材の端部が引き出されて第1巻線端部(103)とされており、軸方向他端側から前記導線材の端部が引き出されて第2巻線端部(104)とされており、
前記バスバーは、
前記第2渡り部の前記第1巻線端部の側において、該第2渡り部に沿って周方向に延びるとともに前記第1巻線端部に接続され、インバータ(300)との電力伝達を行う電力バスバー(200)と、
前記第2渡り部の前記第2巻線端部の側において、該第2渡り部に沿って周方向に延びるとともに前記第2巻線端部に接続された中性点バスバー(201)と、
を有する、請求項2に記載の回転電機。
【請求項4】
前記固定子巻線において、周方向に隣り合う前記第1中間導線部と前記第2中間導線部とが当接している、請求項2又は3に記載の回転電機。
【請求項5】
前記回転子は、径方向において前記固定子の外側に配置されており、
前記回転子は、
前記磁石部が内周面に固定される円筒部(24)と、
前記円筒部の軸方向両端それぞれから前記回転子の回転中心に向かって径方向内側に延びる端板部(23,25)と、
を有し、
前記冷却液は、前記円筒部、前記各端板部及び前記固定子により囲まれる空間に貯留されており、
前記磁石部の軸方向の端面は、前記端板部から離間しており、
前記磁石部と前記端板部との間に周方向に沿って配置されるとともに、前記磁石部の軸方向の端面に当接した状態で配置されたスペーサ部材(26A,26B)を備える、請求項1~4のいずれか1項に記載の回転電機。
【請求項6】
前記スペーサ部材は、金属により構成されている請求項5に記載の回転電機。
【請求項7】
前記スペーサ部材は、非磁性材料により構成されている請求項5又は6に記載の回転電機。
【請求項8】
前記スペーサ部材は、径方向において前記固定子巻線のコイルエンドに対向する位置に配置されている、請求項5~7のいずれか1項に記載の回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、周方向に極性が交互となる複数の磁極が形成された磁石部を有する回転子と、固定子巻線を有し、径方向において回転子に対向するとともに回転子と同軸に配置された固定子と、を備える回転電機が知られている。回転子は、軸方向が水平方向又は略水平方向となる向きで回転する。
【0003】
回転電機の中には、例えば特許文献1に記載されているように、回転子及び固定子により囲まれる空間に冷却液が貯留されているものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-10219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
回転電機の冷却性能を高めるには、固定子巻線が浸るように冷却液が上記空間に貯留されていることが望ましい。この場合、回転子の回転により冷却液が攪拌され、その結果、回転子の回転を妨げる攪拌抵抗が発生する。
【0006】
固定子として、径方向において回転子側に延びるティースを備えるものがある。この固定子が用いられる場合、回転子の回転に伴い、周方向に隣り合うティース間に形成されるスロット内に冷却液が入り込むなどして、攪拌抵抗が増加してしまう。その結果、回転電機で発生する損失が増大してしまう。
【0007】
このため、回転電機の冷却性能を高めつつ、回転電機で発生する損失を低減することについては、未だ改善の余地がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、冷却性能を高めつつ、回転子の回転に伴い発生する損失を低減することができる回転電機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
手段1は、
周方向に極性が交互となる複数の磁極が形成された磁石部を有し、軸方向が水平方向又は略水平方向となる向きで回転する回転子と、
固定子巻線を有し、径方向において前記回転子に対向するとともに前記回転子と同軸に配置された固定子と、を備える回転電機であって、
前記固定子巻線は、前記磁石部に対して径方向に対向する位置に周方向に並んで配置される磁石対向部を有し、
前記固定子は、周方向に隣り合う前記磁石対向部の間に、径方向において前記回転子側に延びるティースが設けられていない構成となっており、
前記回転子及び前記固定子により囲まれる空間に冷却液が貯留されており、
前記回転子及び前記固定子のうち径方向内側に配置される方の少なくとも最下部分が、貯留された冷却液に浸されている。
【0010】
手段1では、回転電機の冷却性能を向上するべく、回転子及び固定子のうち径方向内側に配置される方の少なくとも最下部分が、貯留された冷却液に浸されている。また、手段1では、ティースが設けられていない構成とされているため、周方向に隣り合うティース間に形成されるスロット内に冷却液が入り込むこと等に起因した攪拌抵抗を低減でき、回転子の回転に伴い発生する損失を抑制することができる。その結果、回転電機の冷却性能を向上しつつ、回転電機で発生する損失を抑制することができる。
【0011】
手段2では、手段1において、
前記固定子巻線は、相あたり複数の部分巻線からなる相巻線を有し、
前記固定子巻線の径方向内側及び径方向外側のうち前記回転子とは逆側に設けられ、複数の前記部分巻線を支持する支持部材を備え、
前記部分巻線は、
軸方向に延びかつ周方向に所定間隔を離して設けられる前記磁石対向部としての一対の第1中間導線部、及び軸方向一端側及び他端側に設けられ一対の前記第1中間導線部を環状に接続する第1渡り部を有し、一対の前記第1中間導線部及び一対の前記第1渡り部において導線材が多重に巻回されて構成された第1部分巻線と、
軸方向に延びかつ周方向に所定間隔を離して設けられる前記磁石対向部としての一対の第2中間導線部、及び軸方向一端側及び他端側に設けられ一対の前記第2中間導線部を環状に接続する第2渡り部を有し、一対の前記第2中間導線部及び一対の前記第2渡り部において導線材が多重に巻回されて構成された第2部分巻線と、
を備え、
一対の前記第1中間導線部の間に、他相の前記第2中間導線部が配置されており、
前記第1渡り部は、径方向において前記第1中間導線部よりも前記支持部材の側に折り曲げられた状態となっており、
前記第2渡り部は、前記第1渡り部よりも軸方向外側に延びるとともに、前記第1渡り部の軸方向外側で当該第1渡り部の一部を周方向に跨いでおり、
前記各第1部分巻線及び前記各第2部分巻線に電気的に接続されたバスバーを備え、
前記バスバーは、前記第2渡り部の径方向内側及び径方向外側のうち前記回転子側とは逆側であって、かつ、前記第1渡り部の軸方向外側の空間において、前記第2渡り部に沿って周方向に延びている。
【0012】
手段2では、第2渡り部の径方向内側及び径方向外側のうち回転子側とは逆側であって、かつ、第1渡り部の軸方向外側の空間をバスバーの配置空間として有効利用できる。この空間に、第2渡り部に沿って周方向に延びるバスバーを配置することにより、回転電機の軸方向における体格を小さくすることができ、ひいては冷却液が貯留される空間の体積を小さくすることができる。その結果、貯留される冷却液の量を削減できる。
【0013】
手段3では、手段2において、
前記各第1部分巻線及び前記各第2部分巻線において、軸方向一端側から前記導線材の端部が引き出されて第1巻線端部とされており、軸方向他端側から前記導線材の端部が引き出されて第2巻線端部とされており、
前記バスバーは、
前記第2渡り部の前記第1巻線端部の側において、該第2渡り部に沿って周方向に延びるとともに前記第1巻線端部に接続され、インバータとの電力伝達を行う電力バスバーと、
前記第2渡り部の前記第2巻線端部の側において、該第2渡り部に沿って周方向に延びるとともに前記第2巻線端部に接続された中性点バスバーと、
を有する。
【0014】
手段3では、電力バスバーと、中性点バスバーとが軸方向両端それぞれの側に分かれて配置される。そのため、電力バスバーと、中性点バスバーとが軸方向の同じ側に配置される場合と比べて、各バスバーが、第2渡り部よりも軸方向外側に突出することを的確に抑制することができる。これにより、回転電機の軸方向における体格をいっそう小さくすることができ、ひいては冷却液が貯留される空間の体積をいっそう小さくすることができる。
【0015】
手段4は、手段2又は3において、前記固定子巻線において、周方向に隣り合う前記第1中間導線部と前記第2中間導線部とが当接している。
【0016】
手段4によれば、第1,第2部分巻線のうち径方向において回転子側の周面の凹凸を極力なくすことができる。これにより、攪拌抵抗をより低減でき、回転子の回転に伴い発生する損失を好適に抑制することができる。
【0017】
手段5では、手段1~4のいずれか1つにおいて、
前記回転子は、径方向において前記固定子の外側に配置されており、
前記回転子は、
前記磁石部が内周面に固定される円筒部と、
前記円筒部の軸方向両端それぞれから前記回転子の回転中心に向かって径方向内側に延びる端板部と、
を有し、
前記冷却液は、前記円筒部、前記各端板部及び前記固定子により囲まれる空間に貯留されており、
前記磁石部の軸方向の端面は、前記端板部から離間しており、
前記磁石部と前記端板部との間に周方向に沿って配置されるとともに、前記磁石部の軸方向の端面に当接した状態で配置されたスペーサ部材を備える。
【0018】
手段5では、スペーサ部材が、磁石部と端板部との間に周方向に沿って配置されるとともに、磁石部の軸方向の端面に当接した状態で配置されている。これにより、円筒部、各端板部及び固定子により囲まれる冷却液の貯留空間を小さくすることができ、冷却液の量を削減することができる。
【0019】
手段6では、手段5において、前記スペーサ部材は、金属により構成されている。
【0020】
手段6によれば、冷却液からスペーサ部材への熱伝達を好適に行わせることができる。その結果、スペーサ部材を介して冷却液の熱を外部へと好適に放出できるため、回転電機の冷却性能を向上することができる。
【0021】
手段7では、手段5又は6において、前記スペーサ部材は、非磁性材料により構成されている。
【0022】
手段7によれば、磁石部及びスペーサ部材を含む磁気回路が形成されることを抑制できる。その結果、例えば、回転電機のトルクの低下を抑制したり、回転電機の外部への磁束漏れを抑制したりできる。
【0023】
手段8では、手段5~7のいずれか1つにおいて、前記スペーサ部材は、径方向において前記固定子巻線のコイルエンドに対向する位置に配置されている。
【0024】
手段8によれば、径方向において固定子巻線のコイルエンドに対向する位置であって、回転電機のトルク増強にあまり寄与しない位置である軸方向両端の空間にスペーサ部材が配置される。これにより、円筒部、各端板部及び固定子により囲まれる冷却液の貯留空間を小さくすることができ、冷却液の量を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】回転電機の縦断面図。
図2図1の2-2線断面図。
図3】円環状に形成された固定子巻線の斜視図。
図4】第1部分巻線及び第2部分巻線の側面図。
図5】第1部分巻線の斜視図。
図6】第2部分巻線の斜視図。
図7】各相巻線における部分巻線の電気的な接続状態を示す図。
図8図1の8-8線断面図。
図9】回転電機の制御システムを示す電気回路図。
図10】磁石ユニット及び第1,第2スペーサ部材の斜視図。
図11】第1スペーサ部材の斜視図。
図12】磁石ユニット及び第1,第2スペーサ部材の縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図面を参照しながら、複数の実施形態を説明する。複数の実施形態において、機能的におよび/または構造的に対応する部分および/または関連付けられる部分には同一の参照符号、または百以上の位が異なる参照符号が付される場合がある。対応する部分および/又は関連付けられる部分については、他の実施形態の説明を参照することができる。
【0027】
本実施形態における回転電機は、例えば車両動力源として用いられるものとなっている。ただし、回転電機は、産業用、車両用、航空機用、家電用、OA機器用、遊技機用などとして広く用いられることが可能となっている。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一又は均等である部分には、図中、同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。
【0028】
本実施形態に係る回転電機10は、同期式多相交流モータであり、アウタロータ構造(外転構造)のものとなっている。本実施形態の回転電機10は、車両のインホイールモータとして用いられる。なお、車両においては、本実施形態のインホイールモータ構造を種々の形態で適用することが可能であり、例えば車両前後にそれぞれ2つの車輪を有する車両では、車両前側の2輪、車両後側の2輪、又は車両前後の4輪に本実施形態のインホイールモータ構造を適用することが可能である。ただし、車両前後の少なくとも一方が1輪である車両への適用も可能である。
【0029】
回転電機10の概要を図1,2に示す。以下の記載では、回転電機10において、軸部11が延びる方向を軸方向とし、軸部11の中心から放射状に延びる方向を径方向とし、軸部11を中心として円周状に延びる方向を周方向としている。本実施形態において、回転電機10は、軸部11の向きが水平方向となるように配置されている。図1は、回転電機10の軸方向に平行な方向の縦断面図であり、図2は、回転電機10の軸方向と直交する方向の横断面図であり、図1の2-2線断面図である。
【0030】
回転電機10は、回転子20及び固定子ユニット50を備えている。これら各部材はいずれも、回転電機10の軸部11に対して同軸に配置されている。回転子20は、永久磁石を有する磁石ユニット21と、略円筒状の回転子キャリア22と、円環板状をなす回転子カバー23とを有している。
【0031】
磁石ユニット21において、磁石は、回転子20の周方向に沿って極性が交互に変わるように並べて設けられている。これにより、磁石ユニット21は、周方向に複数の磁極を有する。磁石は、極異方性の永久磁石であり、例えば、固有保磁力が400[kA/m]以上であり、かつ残留磁束密度Brが1.0[T]以上である焼結ネオジム磁石を用いて構成されている。なお、磁石ユニット21が「磁石部」に相当する。
【0032】
回転子キャリア22は、円筒状をなす円筒部24と、その円筒部24の軸方向一端に設けられた接続部25とを有しており、それらが一体化されることで構成されている。接続部25は、円環板状をなしている。回転子キャリア22は、磁石保持部材として機能し、円筒部24の径方向内側に環状に磁石ユニット21が固定されている。回転子20の開放端側、すなわち軸方向において接続部25の反対側には、回転子カバー23が固定されている。接続部25及び回転子カバー23それぞれの中央部には、軸部11が挿通される貫通孔が形成されている。なお、回転子カバー23及び接続部25が「端板部」に相当する。
【0033】
回転電機10は、第1軸受12a及び第2軸受12bを備えている。本実施形態において、各軸受12a,12bは、内輪、外輪及びそれらの間に配置された複数の玉を有するラジアル玉軸受である。接続部25の径方向内側には第1軸受12aの外輪が固定され、第1軸受12aの内輪には軸部11が固定されている。回転子カバー23の径方向内側には第2軸受12bの外輪が固定され、第2軸受12bの内輪には軸部11が固定されている。これにより、軸部11に対して回転子20が回転可能に支持されている。
【0034】
図示は省略するが、車両は、例えば周知の空気入りタイヤと、タイヤの内周側に固定されたホイールとを備えている。回転電機10は、ホイールの内周側に配置されている。詳しくは、回転電機10は、軸部11が車体側に固定されるとともに、回転子20がホイールに固定されるように配置されている。タイヤ及びホイールは、回転子20の回転により回転する。
【0035】
回転電機10において、固定子ユニット50は軸部11を囲むように設けられ、その固定子ユニット50の径方向外側に回転子20が配置されている。固定子ユニット50は、固定子60と、固定子60よりも径方向内側に軸部11と一体となるように組み付けられた固定子ホルダ70とを有している。回転子20と固定子60とは、エアギャップを挟んで径方向に対向配置されている。
【0036】
固定子60は、固定子巻線61と固定子コア62とを有している。固定子コア62と固定子ホルダ70とが一体化されてコアアセンブリCAとされ、そのコアアセンブリCAに対して、固定子巻線61を構成する複数の部分巻線が組み付けられている。なお、固定子コア62が「支持部材」に相当する。
【0037】
ここではまず、コアアセンブリCAについて説明する。コアアセンブリCAは、上述したとおり固定子コア62と、固定子コア62よりも径方向内側に設けられた固定子ホルダ70とを有している。固定子ホルダ70の外周面には、固定子コア62が一体に組み付けられて構成されている。
【0038】
固定子コア62は、磁性材料からなるコアシート(具体的には電磁鋼板)が軸方向に積層されて構成されており、径方向に所定の厚さを有する円筒状をなしている。固定子コア62において回転子20側となる径方向外側には固定子巻線61が組み付けられている。固定子コア62の外周面は凹凸のない曲面状をなしている。固定子コア62は、例えば円環板状に打ち抜き形成された複数枚のコアシートが軸方向に積層されて構成されている。ただし、固定子コア62としてヘリカルコア構造を有するものを用いてもよい。ヘリカルコア構造の固定子コア62では、帯状のコアシートが用いられ、このコアシートが環状に巻回形成されるとともに軸方向に積層されることで、全体として円筒状の固定子コア62が構成されている。
【0039】
固定子ホルダ70は、コア固定部材71と、固定カバー72とを有している。本実施形態において、コア固定部材71及び固定カバー72は、鉄等の磁性材料で構成されている。コア固定部材71は、円柱状をなしている。コア固定部材71の中央部には、軸方向に貫通する貫通孔71aが形成されている。その貫通孔71aに軸部11が挿通された状態において、軸部11がコア固定部材71に固定されている。コア固定部材71には、軸方向に貫通するボルト挿通孔71bが形成されている。本実施形態では、周方向において所定間隔を隔ててボルト挿通孔71bが複数形成されている。なお、図2には、ボルト挿通孔71bが3つ形成されている例を示したが、これに限らない。
【0040】
コア固定部材71の軸方向端部には、径方向外側に延びる拡径部71cが形成されている。拡径部71cは円環状をなしている。
【0041】
固定カバー72は、円板状をなしている。固定カバー72の中央部には、貫通孔72aが形成されている。固定カバー72には、ボルト73の頭部の座面となる座部72bと、ボルト73が挿通される貫通孔72cとが形成されている。固定カバー72の周縁部は、軸方向において拡径部71cと対向している。
【0042】
拡径部71cと固定カバー72とで固定子コア62を挟んだ状態において、ボルト73が貫通孔72c及びボルト挿通孔71bに挿通され、ボルト73に形成された雄ネジがボルト挿通孔71bに形成された雌ネジにねじ込まれる。これにより、拡径部71cと固定カバー72とにより固定子コア62が挟み込まれ、固定子コア62が固定子ホルダ70に固定される。この固定状態において、固定子コア62と、コア固定部材71及び固定カバー72とが密接している。これにより、固定子巻線61の径方向内側を磁性材料で極力埋めることができ、磁気抵抗の低減された磁気回路を構成することができる。その結果、回転電機10のトルクを高めることができる。
【0043】
次に、図3図6を用いて、コアアセンブリCAに対して組み付けられる固定子巻線61の構成を詳しく説明する。図3に示すように、固定子巻線61は、複数の相巻線を有し、各相の相巻線が周方向に所定順序で配置されることで円筒状(環状)に形成されている。本実施形態では、U相、V相及びW相の相巻線を用いることで、固定子巻線61が3相の相巻線を有する構成となっている。
【0044】
固定子巻線61において各相の相巻線は各々複数の部分巻線100を有している。部分巻線100は、2種類の形状を有するものとなっており、軸方向両側の形状が異なる。2種類の部分巻線100のうち一方は、軸方向両側において部分巻線100が径方向内側、すなわち固定子コア62側に折り曲げられた形状を有するものであり、他方は、軸方向両側において部分巻線100が径方向内側に折り曲げられておらず、軸方向に直線状に延びる形状を有するものである。以下の説明では、便宜を図るべく、軸方向両端側に屈曲形状を有する部分巻線100を「第1部分巻線100A」と称する。また、軸方向両端側の屈曲形状を有していない部分巻線100を「第2部分巻線100B」と称する。
【0045】
図4は、第1部分巻線100Aと第2部分巻線100Bとを横に並べて対比して示す側面図である。各部分巻線100A,100Bは、軸方向において、中間導線部101と、渡り部102とを有している。中間導線部101は、径方向において磁石ユニット21の有する磁石に対向するコイルサイドCSに相当する部分であり、渡り部102は、コイルサイドCSの軸方向外側であるコイルエンドCEに相当する部分である。以下の説明では、便宜を図るべく、第1部分巻線100Aの中間導線部101を「第1中間導線部101A」、第1部分巻線100Aの渡り部102を「第1渡り部102A」と称する。また、第2部分巻線100Bの中間導線部101を「第2中間導線部101B」、第2部分巻線100Bの渡り部102を「第2渡り部102B」と称する。
【0046】
各部分巻線100A,100Bは、軸方向長さが互いに異なり、かつ、コイルエンドCEである軸方向両側の各渡り部102A,102Bの形状が互いに異なるものとなっている。第1部分巻線100Aは、側面視において略C字状をなし、第2部分巻線100Bは、側面視において略I字状をなしている。
【0047】
図5に、第1部分巻線100Aの斜視図を示す。第1部分巻線100Aは、互いに平行でかつ直線状に設けられる一対の第1中間導線部101Aと、一対の第1中間導線部101Aを軸方向両端でそれぞれ接続する一対の第1渡り部102Aとを有している。一対の第1中間導線部101Aと、一対の第1渡り部102Aとにより第1部分巻線100Aが環状に形成されている。一対の第1中間導線部101Aは、所定のコイルピッチ分を離して設けられており、周方向において一対の第1中間導線部101Aの間に、他相の部分巻線100の中間導線部101が配置可能となっている。本実施形態では、一対の第1中間導線部101Aは2コイルピッチ分を離して設けられ、一対の第1中間導線部101Aの間に、他2相の部分巻線100における中間導線部101が1つずつ配置される構成となっている。
【0048】
一対の第1渡り部102Aは、軸方向両側でそれぞれ同じ形状となっており、いずれもコイルエンドCEに相当する部分として設けられている。各第1渡り部102Aは、第1中間導線部101Aに対して直交する向き、すなわち軸方向に直交する方向に折り曲がるようにして設けられている。
【0049】
第1部分巻線100Aでは、軸方向両側の第1渡り部102Aのうち、一方の第1渡り部102Aから導線材CRの端部が引き出され、第1巻線端部103となっており、他方の第1渡り部102Aから導線材CRの端部が引き出され、第2巻線端部104となっている。つまり、各巻線端部103,104は、互いに軸方向反対側に引き出されている。各巻線端部103,104は、それぞれ導線材CRの巻き始め及び巻き終わりとなる部分である。各巻線端部103,104のうち一方がインバータ300の電流入出力端子に接続され、他方が中性点に接続されるようになっている。
【0050】
次に、第2部分巻線100Bについて説明する。
【0051】
図6に、第2部分巻線100Bの斜視図を示す。第2部分巻線100Bは、互いに平行でかつ直線状に設けられる一対の第2中間導線部101Bと、一対の第2中間導線部101Bを軸方向両端でそれぞれ接続する一対の第2渡り部102Bとを有している。一対の第2中間導線部101Bと、一対の第2渡り部102Bとにより第2部分巻線100Bが環状に形成されている。第2部分巻線100Bにおいて一対の第2中間導線部101Bは、第1部分巻線100Aの第1中間導線部101Aと構成が同じである。これに対して、一対の第2渡り部102Bは、第1部分巻線100Aの第1渡り部102Aとは構成が異なっている。第2部分巻線100Bの第2渡り部102Bは、径方向に折り曲げられることなく、第2中間導線部101Bから直線状に軸方向に延びるようにして設けられている。図4には、部分巻線100A,100Bの違いが対比して明示されている。
【0052】
第2部分巻線100Bでも、第1部分巻線100Aと同様に、軸方向両側の第2渡り部102Bのうち、一方の第2渡り部102Bから導線材CRの端部が引き出され、第1巻線端部103となっており、他方の第2渡り部102Bから導線材CRの端部が引き出され、第2巻線端部104となっている。つまり、各巻線端部103,104は、互いに軸方向反対側に引き出されている。第2部分巻線100Bでも、各巻線端部103,104のうち一方がインバータ300の電流入出力端子に接続され、他方が中性点に接続されるようになっている。
【0053】
なお、各部分巻線100A,100Bの中間導線部101A,101Bが、コイルサイドCSにおいて周方向に1つずつ並ぶ「磁石対向部」に相当する。
【0054】
次に、コアアセンブリCAに対する各部分巻線100A,100Bの組み付けに関する構成を説明する。
【0055】
各部分巻線100A,100Bは、軸方向長さが互いに異なり、かつ、各部分巻線100A,100Bの渡り部102A,102Bの形状が互いに異なっている。第1部分巻線100Aの第1渡り部102Aを軸方向内側にして、第2部分巻線100Bの第2渡り部102Bを軸方向外側にした状態で、コアアセンブリCAに取り付けられる構成となっている。
【0056】
図1に示すように、第1部分巻線100Aでは、軸方向両側の第1渡り部102Aのうち、一方の第1渡り部102Aが径方向内側に折り曲げられることにより、コアアセンブリCAよりも軸方向外側に配置される。
【0057】
第1渡り部102Aは、軸方向において固定子コア62の軸方向外側の端面から離間して設けられている。本実施形態では、固定子コア62の軸方向外側の端面と、その面に対向する第1渡り部102Aの対向面との間を、コア固定部材71の拡径部71cと、固定カバー72の周縁部とで埋める構成としている。拡径部71cの径方向外側の端部と、固定カバー72の周縁部とには、面取り加工が施されている。これにより、第1渡り部102Aの折り曲がり部分との干渉を避けつつ、固定子巻線61とコアアセンブリCAとの間の隙間を極力小さくしている。その結果、磁気抵抗の低減された磁気回路を構成することができる。
【0058】
なお、固定子巻線61では、相ごとに部分巻線100が並列又は直列に接続されることにより、各相の相巻線が構成されている。図7は、3相巻線における部分巻線100の接続状態を示す回路図である。図7では、各相の相巻線における部分巻線100がそれぞれ並列に接続された状態が示されている。
【0059】
本実施形態において、固定子60は、スロットを形成するためのティースを有していないスロットレス構造を有するものである。詳しくは、固定子60において、周方向に隣り合う第1中間導線部101Aと第2中間導線部101Bとが当接している構成となっている。
【0060】
次に、図1及び図8を用いて、回転電機10の軸方向外側に配置される構成について説明する。図8は、図1の8-8線断面図である。
【0061】
回転電機10は、電力バスバー200と、中性点バスバー201とを備えている。電力バスバー200は、各相の部分巻線100の第1巻線端部103とインバータ300とを電気的に接続する。中性点バスバー201は、各相の部分巻線100の第2巻線端部104同士を電気的に接続し、中性点を構成する。
【0062】
電力バスバー200は、第2渡り部102Bの径方向内側であって、かつ、軸方向両側の第2渡り部102Bのうち第1巻線端部103の側において、第2渡り部102Bに沿って周方向に延びる円環状をなしている。電力バスバー200は、3相分設けられている。各相の電力バスバー200は、軸方向に並んで配置されている。
【0063】
中性点バスバー201は、第2渡り部102Bの径方向内側であって、かつ、軸方向両側の第2渡り部102Bのうち第2巻線端部104の側において、第2渡り部102Bに沿って周方向に延びる円環状をなしている。つまり、電力バスバー200と、中性点バスバー201とは、互いに軸方向反対側に分かれて配置されている。なお、電力バスバー200及び中性点バスバー201は、円環状をなすものに代えて、周方向の一部が途切れたC字状をなすものであってもよい。
【0064】
次に、図9を用いて、回転電機10を制御する制御システムの構成について説明する。
【0065】
図9に示すように、固定子巻線61はU相巻線、V相巻線及びW相巻線よりなり、固定子巻線61に、電力変換器に相当するインバータ300が接続されている。インバータ300は、相数と同じ数の上下アームを有するフルブリッジ回路により構成されており、相ごとに上アームスイッチ301及び下アームスイッチ302からなる直列接続体が設けられている。これら各スイッチ301,302はドライバ303によりそれぞれオンオフされ、そのオンオフにより各相の相巻線が通電される。各スイッチ301,302は、例えばMOSFETやIGBT等の半導体スイッチング素子により構成されている。また、各相の上下アームには、スイッチ301,302の直列接続体に並列に、スイッチング時に要する電荷を各スイッチ301,302に供給する電荷供給用のコンデンサ304が接続されている。
【0066】
上下アームの各スイッチ301,302の間の中間接続点に、電力バスバー200を介して、それぞれU相巻線、V相巻線、W相巻線の一端が接続されている。これら各相巻線は星形結線(Y結線)されており、各相巻線の他端は中性点バスバー201により互いに接続されている。
【0067】
制御装置320は、CPUや各種メモリからなるマイコンを備えており、回転電機10における各種の検出情報や、力行駆動及び発電の要求に基づいて、各スイッチ301,302のオンオフにより通電制御を実施する。回転電機10の検出情報には、例えば、レゾルバ等の角度検出器により検出される回転子20の回転角度(電気角情報)や、電圧センサにより検出される電源電圧(インバータ入力電圧)、電流センサにより検出される各相の通電電流が含まれる。制御装置320は、例えば所定のスイッチング周波数(キャリア周波数)でのPWM制御や、矩形波制御により各スイッチ301,302のオンオフ制御を実施する。制御装置320は、回転電機10に内蔵された内蔵制御装置であってもよいし、回転電機10の外部に設けられた外部制御装置であってもよい。
【0068】
インバータ300の高電位側端子は直流電源310の正極端子に接続され、低電位側端子は直流電源310の負極端子(グランド)に接続されている。直流電源310は、例えば複数の単電池が直列接続された組電池により構成されている。また、インバータ300の高電位側端子及び低電位側端子には、直流電源310に並列に平滑用のコンデンサ305が接続されている。
【0069】
続いて、図1及び図10図12を用いて、スペーサ部材について説明する。図10は、磁石ユニット21及び第1,第2スペーサ部材26A,26Bを示す斜視図であり、図11は、第1スペーサ部材26Aの斜視図である。図12は、磁石ユニット21及び第1,第2スペーサ部材26A,26Bの縦断面図であり、図2の12-12線断面図である。
【0070】
回転子20は、第1スペーサ部材26A及び第2スペーサ部材26Bを有している。第1スペーサ部材26A及び第2スペーサ部材26Bは、磁石ユニット21の軸方向両側に配置されている。詳しくは、磁石ユニット21の軸方向両側のうち一方の端面は、接続部25から離間しており、第1スペーサ部材26Aは、磁石ユニット21と接続部25との間に配置されている。また、磁石ユニット21の軸方向両側のうち他方の端面は回転子カバー23から離間しており、第2スペーサ部材26Bは、磁石ユニット21と回転子カバー23との間に配置されている。本実施形態において、各スペーサ部材26A,26Bは、鉄等の金属により構成されている。
【0071】
第1スペーサ部材26Aは、リング形状をなす一部材として形成されており、磁石ユニット21の軸方向両端のうち一方の端面に当接した状態で配置されている。第1スペーサ部材26Aが一部材として形成されているため、第1スペーサ部材26Aを回転子20に組み付ける際の作業効率の向上を図ることができる。
【0072】
第2スペーサ部材26Bは、周方向に分割された複数の部材を組み合わせることによりリング形状に形成されており、磁石ユニット21の軸方向両端のうちの他方の端面に当接した状態で配置されている。なお、各スペーサ部材26A,26Bの内周面は、磁石ユニット21の内周面よりも径方向外側に配置されている。第2スペーサ部材26Bが複数の部材から構成されるため、スペーサ部材が一部材として形成される場合と比べて、例えばスペーサ部材を切削加工する際に発生する材料の無駄を少なくすることができる。その結果、回転電機10の製造コストの低減を図ることができる。
【0073】
なお、第1スペーサ部材26Aは、リング形状をなす一部材として形成されるものに代えて、周方向に分割された複数の部材を組み合わせることによりリング形状に形成されるものであってもよい。また、第2スペーサ部材26Bは、周方向に分割された複数の部材を組み合わせることによりリング形状に形成されるものに代えて、リング形状をなす一部材として形成されるものであってもよい。
【0074】
第1スペーサ部材26Aの径方向内側であって、かつ、電力バスバー200の径方向外側には、固定子巻線61の各渡り部102A,102Bが配置されている。つまり、第1スペーサ部材26Aは、径方向において固定子巻線61のコイルエンドCEに対向する位置に配置されている。
【0075】
第2スペーサ部材26Bの径方向内側であって、かつ、中性点バスバー201の径方向外側には、固定子巻線61の各渡り部102A,102Bが配置されている。つまり、第2スペーサ部材26Bは、径方向において固定子巻線61のコイルエンドCEに対向する位置に配置されている。
【0076】
本実施形態では、磁石ユニット21の軸方向両側が、各スペーサ部材26A,26Bに当接した状態で回転子20に対して組み付けられることにより、磁石ユニット21の軸方向における位置決めがなされる。詳しくは、回転子キャリア22の開放端側から、第1スペーサ部材26A、磁石ユニット21及び第2スペーサ部材26Bの順序で、これらの部材が回転子20に組み付けられる。または、第1スペーサ部材26A、磁石ユニット21及び第2スペーサ部材26Bが一体化されたアッシーが、回転子キャリア22の開放端側から回転子20に組付けられる。
【0077】
第1スペーサ部材26Aのうち軸方向において磁石ユニット21側の端部は、径方向外側に延びるフランジ部27とされている。回転子キャリア22を構成する円筒部24には、フランジ部27が引っかかる段差部28が形成されている。第1スペーサ部材26Aは、フランジ部27と段差部28とが当接した状態で、回転子20に組み付けられている。
【0078】
回転電機10内には、冷却液(具体的には冷却油)が貯留されている。本実施形態では、冷却液は、回転子20の回転子カバー23、円筒部24及び接続部25により囲まれる空間に満充填されている。つまり、固定子巻線61及び各バスバー200,201といった部材それぞれの全体が冷却液に浸されている。これにより、固定子巻線61及び各バスバー200,201への通電により発生した熱が冷却液を介して外部に放出される。その結果、固定子巻線61及び各バスバー200,201を冷却することができる。
【0079】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0080】
回転電機10の冷却性能を向上するべく、固定子巻線61及び各バスバー200,201の全体が貯留された冷却液に浸されている。また、固定子60にはティースが設けられていない。このため、周方向に隣り合うティース間に形成されるスロット内に冷却液が入り込むこと等に起因した攪拌抵抗を低減でき、回転子20の回転に伴い発生する損失を抑制することができる。その結果、回転電機10の冷却性能を向上しつつ、回転電機10で発生する損失を抑制することができる。
【0081】
第2渡り部102Bの径方向内側であって、かつ、第1渡り部102Aの軸方向外側の空間を各バスバー200,201の配置空間として有効利用できる。この空間に、第2渡り部102Bに沿って周方向に延びる各バスバー200,201を配置することにより、回転電機10の軸方向における体格を小さくすることができ、ひいては冷却液が貯留される空間の体積を小さくすることができる。その結果、貯留される冷却液の量を削減できる。
【0082】
電力バスバー200と、中性点バスバー201とが軸方向両端それぞれの側に分かれて配置される。そのため、電力バスバー200と、中性点バスバー201とが軸方向の同じ側に配置される場合と比べて、各バスバー200,201が、第2渡り部102Bよりも軸方向外側に突出することを的確に抑制することができる。これにより、回転電機10の軸方向における体格をいっそう小さくすることができ、ひいては冷却液が貯留される空間の体積をいっそう小さくすることができる。
【0083】
周方向に隣り合う第1中間導線部101Aと第2中間導線部101Bとが当接するように配置されるため、第1,第2部分巻線100A,100Bのうち径方向内側の凹凸を極力なくすことができる。これにより、攪拌抵抗をより低減でき、回転子20の回転に伴い発生する損失を好適に抑制することができる。
【0084】
第1スペーサ部材26Aが、磁石ユニット21と接続部25との間に周方向に沿って配置されるとともに、磁石ユニット21の軸方向の端面に当接した状態で配置されている。また、第2スペーサ部材26Bが、磁石ユニット21と回転子カバー23との間に周方向に沿って配置されるとともに、磁石ユニット21の軸方向の端面に当接した状態で配置されている。これにより、回転子カバー23、円筒部24及び接続部25部により囲まれる冷却液の貯留空間を小さくすることができ、冷却液の量を削減することができる。
【0085】
各スペーサ部材26A、26Bが鉄等の金属により構成されるため、冷却液から各スペーサ部材26A、26Bへの熱伝達を好適に行わせることができる。その結果、冷却液の熱を各スペーサ部材26A,26Bを介して外部へと好適に放出できるため、回転電機10の冷却性能を向上することができる。
【0086】
<その他の実施形態>
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0087】
・回転子カバー23、円筒部24及び接続部25により囲まれる空間に冷却液が満充填されることに代えて、この空間の一部のみに冷却液が貯留されていてもよい。具体的には、回転子20の回転停止状態において、鉛直方向における固定子巻線61の少なくとも最下部分が冷却液に浸されていればよい。より具体的には、冷却液の液面が、図1に示す液面レベルLよりも高くされていればよい。
【0088】
これにより、冷却液が貯留される空間の体積を小さくすることができ、所定の量の冷却液に対して、冷却液に浸される固定子巻線61の部分、及び冷却液に浸される各バスバー200,201の部分が増える。このため、回転電機10を好適に冷却することができる。
【0089】
・回転電機を、アウタロータ構造の回転電機に代えて、固定子ユニットの径方向内側に回転子が配置されるインナロータ構造の回転電機としてもよい。この場合、回転子の回転停止状態において、鉛直方向における回転子の少なくとも最下部分が冷却液に浸されていればよい。インナロータ構造の回転電機では、第2部分巻線は、軸方向両側において径方向外側に折り曲げられた形状を有する。すなわち、第2部分巻線の第2渡り部は、中間導線部に対して直交して、かつ、径方向外側に折り曲がるようにして設けられていればよい。
【0090】
電力バスバーは、第2渡り部の径方向外側であって、かつ、軸方向両側の第2渡り部のうち第1巻線端部の側において、第2渡り部に沿って周方向に延びていればよい。また、中性点バスバーは、第2渡り部の径方向外側であって、かつ、軸方向両側の第2渡り部のうち第2巻線端部の側において、第2渡り部に沿って周方向に延びていればよい。
【0091】
・第1スペーサ部材及び第2スペーサ部材は、鉄等に代えて、アルミニウムやステンレス鋼等の非磁性金属、又は合成樹脂といった非磁性材料により構成されていてもよい。これにより、第1スペーサ部材及び第2スペーサ部材を含む磁気回路が形成されるのを抑制できる。その結果、例えば、回転電機のトルクの低下を抑制できる。
【0092】
・回転電機の用途は車両の走行用モータ以外であってもよく、航空機を含め広く移動体に用いられる回転電機や、産業用又は家庭用の電気機器に用いられる回転電機であってもよい。
【0093】
・この明細書における開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形態様を包含する。例えば、開示は、実施形態において示された部品および/または要素の組み合わせに限定されない。開示は、多様な組み合わせによって実施可能である。開示は、実施形態に追加可能な追加的な部分をもつことができる。開示は、実施形態の部品および/または要素が省略されたものを包含する。開示は、ひとつの実施形態と他の実施形態との間における部品および/または要素の置き換え、または組み合わせを包含する。開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示されるいくつかの技術的範囲は、請求の範囲の記載によって示され、さらに請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むものと解されるべきである。
【符号の説明】
【0094】
10…回転電機、20…回転子、21…磁石ユニット、60…固定子、61…固定子巻線。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12