IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人物質・材料研究機構の特許一覧

特開2022-175789ペプチド、CCM合金-ペプチド複合体、ペプチド-リガンド結合体、CCM合金-ペプチド-リガンド複合体、及び、体内埋込型医療器具
<>
  • 特開-ペプチド、CCM合金-ペプチド複合体、ペプチド-リガンド結合体、CCM合金-ペプチド-リガンド複合体、及び、体内埋込型医療器具 図1
  • 特開-ペプチド、CCM合金-ペプチド複合体、ペプチド-リガンド結合体、CCM合金-ペプチド-リガンド複合体、及び、体内埋込型医療器具 図2
  • 特開-ペプチド、CCM合金-ペプチド複合体、ペプチド-リガンド結合体、CCM合金-ペプチド-リガンド複合体、及び、体内埋込型医療器具 図3
  • 特開-ペプチド、CCM合金-ペプチド複合体、ペプチド-リガンド結合体、CCM合金-ペプチド-リガンド複合体、及び、体内埋込型医療器具 図4
  • 特開-ペプチド、CCM合金-ペプチド複合体、ペプチド-リガンド結合体、CCM合金-ペプチド-リガンド複合体、及び、体内埋込型医療器具 図5
  • 特開-ペプチド、CCM合金-ペプチド複合体、ペプチド-リガンド結合体、CCM合金-ペプチド-リガンド複合体、及び、体内埋込型医療器具 図6
  • 特開-ペプチド、CCM合金-ペプチド複合体、ペプチド-リガンド結合体、CCM合金-ペプチド-リガンド複合体、及び、体内埋込型医療器具 図7
  • 特開-ペプチド、CCM合金-ペプチド複合体、ペプチド-リガンド結合体、CCM合金-ペプチド-リガンド複合体、及び、体内埋込型医療器具 図8
  • 特開-ペプチド、CCM合金-ペプチド複合体、ペプチド-リガンド結合体、CCM合金-ペプチド-リガンド複合体、及び、体内埋込型医療器具 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175789
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】ペプチド、CCM合金-ペプチド複合体、ペプチド-リガンド結合体、CCM合金-ペプチド-リガンド複合体、及び、体内埋込型医療器具
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/08 20060101AFI20221117BHJP
   A61L 31/02 20060101ALI20221117BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20221117BHJP
   A61L 31/08 20060101ALI20221117BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20221117BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20221117BHJP
   A61L 27/04 20060101ALI20221117BHJP
   A61L 27/22 20060101ALI20221117BHJP
   A61L 27/28 20060101ALI20221117BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20221117BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20221117BHJP
   A61K 6/84 20200101ALI20221117BHJP
   A61K 6/891 20200101ALI20221117BHJP
   A61F 2/07 20130101ALI20221117BHJP
   A61C 13/00 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
C07K7/08 ZNA
A61L31/02
A61L31/06
A61L31/08
A61L31/12
A61L31/16
A61L27/04
A61L27/22
A61L27/28
A61L27/40
A61L27/54
A61K6/84
A61K6/891
A61F2/07
A61C13/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082482
(22)【出願日】2021-05-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り Journal of Applied Biomaterials & Functional Materials、Volume 18: 1-6 https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/2280800020924739
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】山崎 智彦
(72)【発明者】
【氏名】右田 聖
【テーマコード(参考)】
4C081
4C089
4C097
4H045
【Fターム(参考)】
4C081AB05
4C081AB06
4C081AC09
4C081BA13
4C081BA14
4C081BB04
4C081CD112
4C081CG04
4C081DC03
4C089AA01
4C089BB02
4C089BE17
4C089CA04
4C097AA03
4C097AA15
4C097BB01
4C097CC03
4C097DD09
4C097EE18
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA16
4H045EA34
4H045FA74
(57)【要約】      (修正有)
【課題】CCM合金用の結合ペプチドを提供する。
【解決手段】特定のアミノ酸配列からなるペプチドを提供する。さらに、Co-Cr-Mo合金の表面に結合したペプチドとを備えるCCM合金-ペプチド複合体及び体内埋込型医療器具を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の配列番号1~4からなる群より選択されるアミノ酸配列からなるペプチド。
HEHSWPSMYSVV(配列番号1)
QHKYTPIHEGRW(配列番号2)
GHHWPNTDTWSV(配列番号3)
KLHISKDHIYPT(配列番号4)
【請求項2】
Co-Cr-Mo合金と、前記Co-Cr-Mo合金の表面に結合した請求項1に記載のペプチドとを備えるCCM合金-ペプチド複合体。
【請求項3】
請求項1に記載のペプチドと、前記ペプチドと結合したリガンドとを備えるペプチド-リガンド結合体。
【請求項4】
Co-Cr-Mo合金と、前記Co-Cr-Mo合金の表面に結合した請求項3に記載のペプチド-リガンド結合体とを備えるCCM合金-ペプチド-リガンド複合体。
【請求項5】
本体と、前記本体の表面に結合した請求項3に記載のペプチド-リガンド結合体とを備える体内埋込型医療器具。
【請求項6】
ステント、人工関節、又は、歯科インプラントである、請求項5に記載の体内埋込型医療器具。
【請求項7】
前記本体の少なくとも表面がCo-Cr-Mo合金からなる、請求項5又は6に記載の体内埋込型医療器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチド、CCM合金-ペプチド複合体、ペプチド-リガンド結合体、CCM合金-ペプチド-リガンド複合体、及び、体内埋込型医療器具に関する。
【背景技術】
【0002】
Co-Cr-Mo(CCM)合金は、冠動脈ステント、歯科インプラント(インプラント体、及び、アバットメント)、人工股関節等の体内埋込型医療機器に広く使用されている。
CCM合金は、高い融点と、高い硬度を有し、更に、耐腐食性にも優れているという特徴を有するが、その一方で、表面が生体不活性(bioinert)であり、同様の用途で使用されることが多いチタンと比較して、細胞付着活性が低いという問題がある。
【0003】
一般に、合金表面を生体機能分子で修飾することにより、細胞や細胞外マトリックス(ECM)に対する機能を制御する方法が知られている。このような用途には、合金表面で構造変化を引き起こし不活性化しやすいタンパク質は利用しにくく、短い接着性のペプチドが使用されることが多い。
【0004】
このような短い接着性のペプチドとして、Arg-Gly-Asp(-Ser)(RGD(S))ペプチドやGLY-ARG-GLY-ASP-SER(GRGDS)ペプチドが挙げられる。RGDペプチドとGRGDSペプチドは、フィブロネクチンに由来する最も有名なペプチドである。このペプチドは、細胞膜タンパク質であるインテグリンを介して細胞足場に作用する。
また、Arg-Glu-Asp-Val(REDV)ペプチドは、フィブロネクチン由来の内皮細胞に対する特異的なリガンドであることが判明し、CCMベースの冠動脈ステントの生体適合性を向上させることが知られている。
また、特許文献1にはチタン等の表面への接着力を有するペプチドが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2005/010031号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、CCM合金に用いることができる結合ペプチドはこれまで特定されていない。そこで本発明は、CCM合金用の結合ペプチドを提供することを課題とする。
また、本発明は、CCM合金-ペプチド複合体、ペプチド-リガンド結合体、CCM合金-ペプチド-リガンド複合体、及び、埋込型医療器具を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明のペプチドは、以下の配列番号1~4からなる群より選択されるアミノ酸配列からなるペプチドである。
HEHSWPSMYSVV(配列番号1)
QHKYTPIHEGRW(配列番号2)
GHHWPNTDTWSV(配列番号3)
KLHISKDHIYPT(配列番号4)
【0008】
上記ペプチドは、CCM合金表面に特異的に結合する機能を有する。このペプチドを用いることで、生体不活性(bioinert)なCCM表面の機能化(例えば、足場提供)が可能になる。
【0009】
また、本発明のCCM合金-ペプチド複合体は、CCM合金と、CCM合金の表面に結合した上記のペプチドとを備えるCCM合金-ペプチド複合体である。
【0010】
上記複合体は、生体不活性なCCM合金表面に結合した上記ペプチドを有するため、上記ペプチドを介した表面の機能化のために使用できる。すなわち、機能化表面を有するCCM合金を作製するための前駆体として使用できる。
【0011】
また、本発明のペプチド-リガンド結合体は、上記ペプチドと、上記ペプチドと結合したリガンドとを備えるペプチド-リガンド結合体である。上記ペプチドはCCM合金に対して特異的に結合する機能を有する。そのため、CCM合金に結合させることで、リガンドにより機能化された表面を有するCCM合金を生成できる。
【0012】
リガンドとしては、例えば、RGDペプチドが挙げられる。上記ペプチドとRGDとを結合させた結合体により、インテグリンを介して細胞足場に作用する機能化表面が生成できる。
【0013】
また、リガンドとしてREDVペプチドを用いれば、内皮細胞に特異的な機能化表面を生成でき、血管ステントの生体適合性を向上させられる。
【0014】
また、骨分化を促進するサイトカイン、ハイドロキシアパタイトのバイオミネラリゼーションを促進するペプチド又はタンパク質を用いると、CCM合金製の体内埋込型医療機器の表面に適用した場合、埋込後の石灰化が促進され、Tiにおけるオッセオインテグレーション様の効果が期待できる。
【0015】
また、抗菌作用を持つペプチド、タンパク質、又は、化合物を用いると、CCM合金製の体内埋込型医療機器の表面に適用した場合、埋込後の感染症を低減効果が期待できる。
【0016】
また、コラーゲンを用いると、CCM合金製のインプラントの表面に適用した場合、人工歯根に対し垂直にコラーゲン繊維が結合したような構造を構築することができる。これは、強い力がかかったとき、本来の歯が持つ力を分散させるメカニズムを模倣しており、これにより人工歯根に対して強い力がかかったときに、従来の人工歯根よりも高い安定性を持つことができる。
【0017】
また、本発明のCCM合金-ペプチド-リガンド複合体は、CCM合金と、上記CCM合金の表面に結合した上記ペプチド-リガンド結合体とを備えるCCM合金-ペプチド-リガンド複合体である。上記複合体は、リガンドにより機能化された表面を有しており、従来生体不活性であったCCM合金と比較して、優れた機能を有する。
【0018】
また、本発明の体内埋込型医療器具は、本体と、上記本体の表面に結合したペプチド-リガンド結合体とを備える体内埋込型医療器具である。体内埋込型医療器具としては、ステント、人工関節、及び、歯科インプラント(インプラント体、アバットメント)等が挙げられる。
【0019】
上記体内埋込型医療器具の少なくとも表面がCCM合金からなる場合、その用途に応じたリガンドにより機能化された表面を有し、優れた生体適合性が発揮される。
【0020】
体内埋込型医療器具がステントであれば、一例として、リガンドとしてREDVが使用できる。これによって、内皮細胞に特異的なステントが提供される。
また、体内埋込型医療器具が人工関節であれば、一例として、リガンドとして骨分化を促進するサイトカイン、ハイドロキシアパタイトのバイオミネラリゼーションを促進するペプチド又はタンパク質が利用できる。これにより、オッセオインテグレーション様の効果が期待できる。
また、体内埋込型医療器具が歯科インプラントであれば、一例としてリガンドとしてコラーゲンが利用できる。これにより人工歯根に対し垂直にコラーゲン繊維が結合したような構造を構築することができる。
【発明の効果】
【0021】
上記のとおり、本発明によれば、CCM合金用の結合ペプチドが提供できる。また、本発明によれば、CCM合金-ペプチド複合体、ペプチド-リガンド結合体、CCM合金-ペプチド-リガンド複合体、及び、体内埋込型医療器具が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】CCM-BPとCCM(黒)、Ti(網掛け)、SUS 316Lステンレス(白)との結合力の測定結果(平均値±SDで示した(n=3))である。
図2】3DプリントされたCCM合金ディスクに対するCCM-BPの結合力の測定結果(平均値±SDで示した(n=3))である。
図3】CCM合金のSEM(走査型電子顕微鏡)画像である。(a)は400番台の研磨紙で磨いたCCM合金の表面で、ペプチドの結合試験に使用したものである。(b)は3DプリントしたCCM合金を1200番の研磨紙で研磨し、内皮細胞の付着試験に使用したものである。
図4】3DプリントしたCCM合金に接着した内皮細胞の割合である。白いはCCM-RGDペプチドでコーティングしたCCM合金に付着した細胞、網掛けは灰色のバーは未処理のCCM合金に付着した細胞を表す。
図5図4の試験における、基板上の細胞の位相差画像である。スケールバー(白)は100μmである。
図6】リン酸緩衝生理食塩水で7日間保存した際の、3DプリントしたCCM合金上に残存しているペプチドの測定結果である。
図7】3DプリントしたCCM合金に接着した骨芽細胞の測定結果である。
図8】3DプリントしたCCM合金における1日から7日間の増殖活性の結果である。白丸はCCM-RGDペプチドでコーティングしたCCM上の細胞数、黒丸はRGDペプチドでコーティングしたCCM合金上の細胞数を表す。
図9】3DプリントしたCCM合金で骨芽細胞の分化を28日間誘導した後の石灰化領域を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
【実施例0024】
(CCM結合ペプチドの選抜)
CCM結合ペプチド(BP)の単離には、PhD-12ファージディスプレイ・ペプチドライブラリーキット(New England Biolabs (NEB)、Beverly、MA、USA)を用いた。
【0025】
CCM合金(ASTM F75)ディスク(φ10×1.0mm)の表面を400番の研磨紙で磨き、アセトンで15分間超音波処理を3回行った後、UV/オゾンクリーナー(PC-440;明和製作所、東京)を用いて30分間照射し、表面に付着した異物を除去した。
【0026】
パンニングの手順は、ファージディスプレイ・ペプチドライブラリーキットのマニュアルにしたがって行った。CCM合金表面からpH2.2で溶出したファージを回収し、増幅した。その後、それらのDNAを分離し、96 gIII sequencing primer(NEB)を用いて塩基配列を決定した。
【0027】
(CCM結合ペプチドの結合力の評価)
CCM結合ペプチドの結合力を評価するために、選抜し、配列決定したペプチドのN-末端にビオチンを付加したペプチドを委託合成(Thermo Fisher Scientific、Waltham、MA、USA)して、これを用いた。
【0028】
CCM合金ディスク(鋳造品)を1μg/mLのペプチド溶液に室温で1時間浸漬した。浸漬後、ディスクをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)pH7.2で洗浄した。その後、0.1μg/mLのストレプトアビジン-西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)(Thermo Fisher Scientific)を用いて、室温で1時間浸漬した。
【0029】
最後に、ディスクをPBS(リン酸緩衝生理食塩水、pH7.2)で洗浄した後、2,2′-azino-bis(3-ethylbenzothiazoline-6-sulfonic acid)(ABTS)(東京化成工業、東京、日本)0.08mg/mLと0.17(v/v)%Hを含む、50mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)のペルオキシダーゼアッセイ溶液に浸した。
これを30分インキュベートした後、マイクロプレートリーダー(MTP-880Lab;コロナ電気、茨城県)を用いて、溶液の吸光度を415nmで測定した。
【0030】
(3DプリントしたCCM合金へのペプチドの結合力の評価)
ASTM F75と同じ含有量のEOS MP1粉末(Co-28Cr-6Mo;EOS)を使用した。CCM-BPの結合力を評価する前に、UV/オゾン洗浄機(PC-440;明和製作所)で30分間表面を洗浄した。結合力は、上述の方法で評価し、CCM合金の鋳造品と比較した。
【0031】
(吸着したペプチドの耐久性の評価)
CCM-RGDペプチドとRGDペプチドを蛍光標識するために、それぞれのペプチドのN末端にフルオレセインイソチオシアネート(FITC)を結合した。3DプリントしたCCM合金を20μMのFITC標識CCM-RGDペプチドおよび80μMのFITC標識RGDペプチドの溶液に30分間浸漬した。洗浄後、リン酸緩衝生理食塩水中、37℃、5%COの生理的条件で7日間保存した。7日後にFITCの蛍光強度を測定することで残存ペプチドの量を計測した。
【0032】
(ウシ肺動脈内皮細胞(CPAE)培養)
ウシ肺動脈内皮細胞(CPAE)は、理化学研究所バイオリソース研究センター(日本、つくば)から入手した。CPAEは、20%ウシ胎児血清(FBS)(Biosera、Sussex、UK)、及び、100unit/mLペニシリンと100μg/mLストレプトマイシン(Nacalai Tesque、Kyoto、Japan)を含む最小必須培地α(MEMα)(和光純薬工業、大阪、日本)で、5%COインキュベーターを用いて37℃で培養した。
【0033】
(CPAE付着活性試験)
選抜したペプチドである「CCM-BP04」(配列は後述する)のC末端に細胞接着性ペプチドRGDSを融合させ、「CCM-RGD(配列番号6:GQHKYTPIHEGRWGGGRGDS)」と命名した。3DプリントしたCCMを滅菌し、1g/mLの「CCM-RGD」ペプチドに30分間浸漬した。
CPAEを3,000個/cmの細胞密度で3DプリントしたCCMに播種し、4時間培養した。
【0034】
なお、「CCM-RGD」のN末端が「G」なのは、N末端がGln(Q)の場合と比較して、不可逆的なピログルタミル化が起こりにくいためである。また、「GG」は2つのペプチドをつなぐスペーサとして導入されている。
【0035】
培養後、PBSで表面を洗浄し、付着していない細胞を除去した。その後、表面の細胞を70%エタノールで5分間固定し、0.5%クリスタルバイオレット(和光純薬工業)で染色した。付着した細胞をデジタルマイクロスコープシステム(キーエンス、大阪、日本)で撮影し、顕微鏡(レーマー、大阪、日本)でカウントした。
細胞付着活性は、播種した細胞数に対する付着細胞数の比率として算出した。
【0036】
(マウス頭蓋冠由来骨芽細胞(MC3T3-E1)の培養)
マウス頭蓋冠由来骨芽細胞(MC3T3-E1)は、理化学研究所バイオリソース研究センター(日本、つくば)から入手した。MC3T3-E1は、10%ウシ胎児血清(FBS)(Biosera、Sussex、UK)及び、100unit/mLペニシリンと100μg/mLストレプトマイシン(Nacalai Tesque、Kyoto、Japan)を含む最小必須培地α(MEMα)(和光純薬工業、大阪、日本)で、5%COインキュベーターを用いて37℃で培養した。
【0037】
(MC3T3-E1の付着試験と増殖試験)
3DプリントしたCCM合金を滅菌し、1g/mLの「CCM-RGD」ペプチドに30分間浸漬した。MC3T3-E1を10,000個/cmの細胞密度で3DプリントしたCCMで24時間培養し、付着活性を評価した。また、増殖活性を評価するために1日~7日間培養した。
【0038】
(骨分化誘導試験)
3DプリントしたCCM合金にCCM-RGDペプチドおよびRGDペプチド(Arg-Gly-Asp-Ser、Merck社、「A9041」)を結合させた表面にMC3T3-E1細胞を10,000個/cmの細胞密度で播種し、3日後に分化誘導を開始した。分化誘導には、50mg/mLのアスコルビン酸と2mMのβグリセロリン酸を含む培養培地を用いた。この分化誘導培地を3日おきに交換し、28日間培養した。
28日間分化誘導した細胞を洗浄し、4%のホルマリンで固定した。その後、1%アリザリンレッドSで石灰化領域を染色した。
【0039】
(統計解析)
ペプチド結合能のテストでは、実験は3重に行った。統計的な差異は、一元配置のANOVA分析と多重比較のためのDunnett検定によって決定した。CPAE付着活性試験では、5枚のCCM合金ディスクの3回の定量分析から平均値と標準偏差を算出した。統計的差異は、Student’s t-testにより決定した。p<0.05を有意とした。
【0040】
(結果)
CCM結合ペプチドのスクリーニングには、M13ファージの表面に直鎖状の12merペプチドを4.1×1015の多様性をもって提示したファージライブラリを利用した。
CCM合金に対して4回のパンニングを行った後、ファージプールから85個のクローンをランダムに選抜した。そして、これらのクローンの塩基配列を決定した。
【0041】
表1は、CCM結合ペプチドの特性評価結果である。選抜されたペプチドはそれぞれ異なる配列を持っていたが、正に帯電したアミノ酸残基が負に帯電したアミノ酸残基よりも多く含まれていた。CCM表面に結合したペプチドの定量は、ABTS発色基質を用いたHRP活性で行った。
【0042】
【表1】
【0043】
表1中、電荷は、酸性アミノ酸残基(D、E)の数から塩基性アミノ酸残基(R、H、K)の数を差し引いて算出した。また、ハイドロパシシティ(Hydropathicity)インデックスは、ProtParamツールを用いて算出た。また、対照ペプチドである「GBP」は、「Gold-binding peptide」の略であり、J Mol Biol 2000; 299: 725-735に記載されているものである。
【0044】
選抜したペプチドの結合親和性を評価するために、ビオチン化したペプチドを使用した。ビオチン化したCCM結合ペプチドを合金上でインキュベートした後、ストレプトアビジン融合HRPを添加し、その後、遊離したストレプトアビジン融合HRPを表面から除去した。ABTS溶液は、HRPの活性により、415nmに吸光度の最大値を持つ青緑色に変化する。従って、CCM-BPの結合力は、415nmの吸光度として示される。
【0045】
図1はCCM結合ペプチドのCCM合金(黒色)、Ti(網掛け)、及び、SUS 316Lステンレス鋼(白)に対する結合力の測定結果(415nmの吸光度)である。
【0046】
「CCM BP-02」(配列番号1)、「CCM-BP04」(配列番号2)、「CCM BP-06」(配列番号3)、「CCM BP-08」(配列番号4)は、CCMに対する優れた結合力を有していた。なかでも、「CCM-BP04」(配列番号2)、「CCM BP-06」(配列番号3)、「CCM BP-08」(配列番号4)はより優れた結合力を有していた。
【0047】
図2は、3DプリントしたCCMに対するペプチドの結合力を比較したものである。「CCM BP-04」は、「CCM BP-05」よりも4倍高い結合親和性を3DプリントしたCCMに示した。そこで「CCM BP-04」を用いて「CCM-RGDペプチド」を合成した。
【0048】
図3は、キャストしたCCMと、3DプリントしたCCMをそれぞれ400番グリッドと1200番グリッドの研磨紙で研磨したときの走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
キャストしたCCMと3DプリントしたCCMでは、表面の形状や粗さが異なっていたが、「CCM BP-04」の結合力は同等であった。
【0049】
図4は、内皮細胞の付着に対するCCM-RGDペプチドの機能化の効果を示している。このペプチドは、血清を含む培養液、及び、血清を含まない培養液中で、より高い細胞付着活性を誘導した。
図5は、3DプリントしたCCMの表面に付着した細胞の画像である。血清を含む培地では、ペプチドを固定化したCCMとコントロールのCCMの間で、細胞の形状に違いは見られなかった。しかし、血清を含まない条件では、ペプチドを固定化したCCMは、より高い細胞接着性とより大きな細胞拡散性を示した。
【0050】
図5の矢印で示すように、無血清状態のコントロールCCMでは、細胞は接着不良を起こしていた。したがって、「CCM-RGDペプチド」は、無血清条件下でも、細胞の接着と拡散にかなりの効果があることがわかった。
【0051】
「CCM BP-04」と「CCM BP-08」は、他のCCM-BPよりも高いCCMへの特異的結合を示した(図1)。CCMの表面は生体不活性であるため、CCMの細胞接着性はTiのそれに比べて極端に低い。RGD細胞接着モチーフは、インテグリンを介した細胞接着を誘導する。CCM-RGDペプチドは、3DプリントしたCCMに特異的に結合し、インテグリンを介した細胞接着のための足場機能を表面に提供することができた。
【0052】
血清を含む培地では、ペプチドの有無にかかわらず3DプリントしたCCMに細胞を接着させることができた。これは、血清成分が細胞の足場となる機能も提供しているからである。しかし、「CCM-RGDペプチド」は、血清を含む条件で有意に高い細胞接着を誘導した。
血清に含まれる成分との競合吸着によりペプチドが剥離することが懸念されたが、血清は細胞の接着と拡散の過程において、3DプリントしたCCMの足場機能を発揮することがわかった。
【0053】
図6は、リン酸緩衝生理食塩水中に7日間保存した後の3DプリントしたCCMの表面に残存するペプチドの量を表す図である。CCM-RGDペプチドは7日後にもCCM合金表面に約6割が残存しているのに対し、RGDペプチドは3割程度しか残存しない。CCM-RGDペプチドは生理的環境下で1週間以上安定に結合し続けられる。
【0054】
図7は、3DプリントしたCCM合金への骨芽細胞の付着に対するCCM-RGDペプチドの機能化の効果を表す図である。CCM-RGDペプチドは、血清を含む培地の中で、RGDペプチドよりも優位に高い骨芽細胞の付着活性を誘導した。図8は3DプリントしたCCM合金における骨芽細胞の増殖活性を示している。CCM-RGDペプチドはRGDペプチドよりも高い増殖活性を誘導した。
【0055】
図9は、3DプリントしたCCM合金での骨芽細胞の骨分化を誘導した際の石灰化領域を表す図である。石灰化領域はアリザリンレッドSにより染色され、赤紫色を呈している。図9では、染色領域を見やすくするため、染色領域以外が白く表されるよう画像処理されている。従って、赤紫色に染色された領域は、図9では、網掛け状に表されている領域となっている。
【0056】
図9の結果から、CCM-RGDペプチドは、RGDペプチドと比較してより広い領域で骨芽細胞の石灰化を誘導した。CCM-RGDペプチドは骨芽細胞のような線維芽細胞に対しても付着活性を誘導した。また、骨芽細胞の増殖、分化活性を誘導した。
【0057】
当然のことながら、ペプチドの効果は、血清を含まない条件では、血清を含む培地での効果に比べて顕著には見られなかった。RGDを他の生体分子と結合させることで、表面修飾の機能性を大幅に高めることができる。実際、RGDとラミニン由来のYIGSR(Tyr-Ile-Gly-Ser-Arg)モチーフの両方を含む融合ペプチド構造体33は、内皮細胞への接着力がSMCへの接着力よりも10倍高いことがわかっている。また、RGDで機能化したバイオマテリアル表面は、細胞接着だけでなく、増殖、分化、内皮化、及び、創傷治癒等、in vitro及びin vivoでのさまざまな現象を促進する。
【0058】
通常、生体分子を用いた固定化プロセスは複数のステップを必要とするが、CCM合金上に生体機能分子をコーティングするシンプルなワンステップ固定化法によって、CCM表面を機能化することができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のペプチドは、生体機能を有するCCMを用いたバイオデバイスを構築するための魅力的なツールとなる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
2022175789000001.app