(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175793
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】スピーカ用振動板およびスピーカ
(51)【国際特許分類】
H04R 7/10 20060101AFI20221117BHJP
H04R 7/02 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
H04R7/10
H04R7/02 B
H04R7/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082487
(22)【出願日】2021-05-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122529
【弁理士】
【氏名又は名称】藤枡 裕実
(74)【代理人】
【識別番号】100135954
【弁理士】
【氏名又は名称】深町 圭子
(74)【代理人】
【識別番号】100119057
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英生
(74)【代理人】
【識別番号】100131369
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100171859
【弁理士】
【氏名又は名称】立石 英之
(72)【発明者】
【氏名】四十宮 隆俊
【テーマコード(参考)】
5D016
【Fターム(参考)】
5D016AA04
5D016AA05
5D016DA00
5D016DA06
5D016EC05
5D016EC06
5D016EC07
5D016EC08
5D016EC09
5D016EC10
5D016EC11
5D016EC22
5D016EC23
(57)【要約】 (修正有)
【課題】小型化、薄型化及び耐熱性の要求に対応でき、かつ、音響特性を向上させるスピーカ用振動板及びこのスピーカ用振動板を用いたスピーカを提供する。
【解決手段】スピーカ用振動板1は、中央部に位置する第1振動部A1と、第1振動部A1の外周に位置する第2振動部A2と、を有する基材11と、基材11の第1振動部A1の上に、第1の金属層21と、発泡接着層22と、第2の金属層23とが、順次積層された積層体20と、を有する。発泡接着層22は、発泡成分を含む熱硬化型樹脂から構成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1振動部と、前記第1振動部の外周に位置する第2振動部と、を有する基材と、
前記基材の前記第1振動部の上に、
第1の金属層と、発泡接着層と、第2の金属層とが、順次積層された積層体と、を有し、
前記積層体の前記発泡接着層が、発泡成分を含む熱硬化型樹脂から構成される、スピーカ用振動板。
【請求項2】
前記発泡接着層の厚みが70μm以上100μm以下である、請求項1に記載のスピーカ用振動板。
【請求項3】
前記発泡接着層の曲げ弾性率が、6000MPa以上11000MPa以下である、請求項1または請求項2に記載のスピーカ用振動板。
【請求項4】
前記発泡接着層を構成する前記熱硬化型樹脂が、エポキシ樹脂である、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のスピーカ用振動板。
【請求項5】
前記第1の金属層および前記第2の金属層が、厚み9μm以上15μm以下のアルミニウム箔である、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のスピーカ用振動板。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のスピーカ用振動板を有する、スピーカ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スピーカ用振動板、および、このスピーカ用振動板を用いたスピーカに関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン等の携帯端末機器においては、小型化及び薄型化の開発競争が著しく、これらの機器に内蔵されるスピーカにおいても、小型化及び薄型化が要求されている。このようなスピーカは、マイクロスピーカとも呼ばれる。
マイクロスピーカの音質を決める振動板(スピーカ用振動板)には、エンジニアリングプラスチックフィルムを利用して、主に高音の周波数帯域を再生する中央部分(第1振動部)と、主に低音の周波数帯域を再生するエッジ部分(第2振動部)と、を一体化した一体型成形品が用いられてきた。
【0003】
ここで、マイクロスピーカの音質を良くするためには、スピーカ用振動板において、高音の周波数帯域を再生する中央部分(第1振動部)は、早い音速に対応するために高い弾性を有し、低音の周波数帯域を再生するエッジ部分(第2振動部)は高い内部損失を生じさせるために柔軟性を有することが要求される。このように相反する要求に対し、従来は、単一フィルムをプレス成型または圧空成形して、中央部分(第1振動部)を、エッジ部分(第2振動部)よりも高さのあるドーム状(半球形状)の形態(いわゆるセンタードーム)とすることで、中央部分(第1振動部)に弾性を付与していた(例えば、特許文献1)。
【0004】
しかしながら、近年のスマートフォン等の携帯端末機器においては、マイクロスピーカの薄型化のために、スピーカ用振動板の中央部分(第1振動部)も、高さのあるドーム状(半球形状)の形態ではなく、高さが抑えられたフラット状(平面状)の形態であることが望まれている。さらに、スマートフォン等の小型化のために、マイクロスピーカの平面形態も、円形状よりも無駄なスペースを排除し易い長方形状であることが望まれている。また、スピーカ用振動板に生じるノイズを抑制することも望まれている。
【0005】
そこで、スピーカ用振動板の中央部分(第1振動部)をドーム状に成形する方法ではなく、スピーカ用振動板の中央部分(第1振動部)に別の材料層を設けることが提案されている。例えば、特許文献2には、発泡性接着剤フィルムを介して三次元網状構造の金属シートを設けることが提案されている。また、特許文献3には、特定のポリエステル系接着剤層を介してPET樹脂発泡体等の樹脂発泡体を積層した振動板が提案されている。なお、上記の特許文献1には、繊維状シートが感熱性接着樹脂フィルムを介して積層されている形態についても提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-296233号公報
【特許文献2】特公昭58-58879号公報
【特許文献3】特開2017-75214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
マイクロスピーカの高音の音響特性を向上させるには、スピーカ用振動板の中央部分(第1振動部)に、第1の金属層と第2の金属層の間に中間層が設けられた積層体を設けることが好ましい。このような構成の積層体においては、第1の金属層と第2の金属層が主に高い弾性を発現し、中間層が弾性の補助とノイズの吸収を担う。そして、この中間層に、上述の特許文献1~3に記載された構成を用いることが考えられる。
【0008】
しかしながら、上述した特許文献1~3に記載された構成においては、いずれも、中間層の芯材となる層が、接着層(接着剤層)または接着樹脂フィルムを介して設けられるため、中間層にこれらの構成を用いた場合、積層体は、第1の金属層/接着層/芯材層/接着層/第2の金属層となり、積層体の厚みを薄くすることが困難であった。
【0009】
また、スマートフォン等の携帯端末機器においては、マイクロスピーカが振動によって高温になってしまう場合があるため、スピーカ用振動板も、より高い耐熱性、すなわち、高温においても安定した音質を再現できる性能を有していることが好ましい。
【0010】
本開示はこのような点を鑑みてなされたものであり、小型化、薄型化、及び耐熱性の要求に対応でき、かつ、音響特性を向上させることが可能なスピーカ用振動板、および、このスピーカ用振動板を用いたスピーカを提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示のスピーカ用振動板は、第1振動部と、前記第1振動部の外周に位置する第2振動部と、を有する基材と、前記基材の前記第1振動部の上に、第1の金属層と、発泡接着層と、第2の金属層とが、順次積層された積層体と、を有し、前記積層体の前記発泡接着層が、発泡成分を含む熱硬化型樹脂から構成されるものである。
【0012】
本開示のスピーカ用振動板において、前記発泡接着層の厚みが70μm以上100μm以下であってもよい。
【0013】
本開示のスピーカ用振動板において、前記発泡接着層の曲げ弾性率が、6000MPa以上11000MPa以下であってもよい。
【0014】
本開示のスピーカ用振動板において、前記発泡接着層を構成する前記熱硬化型樹脂が、エポキシ樹脂であってもよい。
【0015】
本開示のスピーカ用振動板において、前記第1の金属層および前記第2の金属層が、厚み9μm以上15μm以下のアルミニウム箔であってもよい。
【0016】
本開示のスピーカは、前記スピーカ用振動板を有するものである。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、小型化、薄型化、及び耐熱性の要求に対応でき、かつ、音響特性を向上させることが可能なスピーカ用振動板を提供することができる。
そして、本開示のスピーカ用振動板を用いることで、スピーカを小型及び薄型にすることができ、かつ、スピーカの音響特性を向上させることができる。さらに、本開示のスピーカ用振動板を用いることで、スピーカが高温になっても、安定した音質を再現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本開示の実施の形態について説明する。なお、以下に示す実施形態は本開示の実施形態の一例であって、本開示はこれらの実施形態に限定して解釈されるものではない。また、本明細書において、「基材」、「シート」、「フィルム」などの用語は、呼称の違いのみに基づいて、互いから区別されるものではない。例えば、「基材」は、シートやフィルムと呼ばれ得るような部材も含む概念である。更に、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件並びにそれらの程度を特定する、例えば、「長方形」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。また、本実施形態で参照する図面において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号または類似の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。また、図面の寸法比率は説明の都合上実際の比率とは異なる場合や、構成の一部が図面から省略される場合がある。
【0020】
<スピーカ用振動板>
図1は、本開示のスピーカ用振動板の一例を示す図である。ここで、
図1(a)は、スピーカ用振動板1の平面図であり、
図1(b)は、
図1(a)に示すスピーカ用振動板1のA-A線断面図である。
【0021】
図1(a)に示すように、スピーカ用振動板1の基材11は、中央部に位置する第1振動部(
図1(a)に示す領域A1)と、第1振動部(A1)の外周に位置する第2振動部(
図1(a)に示す領域A2)と、を有している。そして、
図1(b)に示すように、スピーカ用振動板1は、基材11の第1振動部(A1)の上に、接着層12を介して、積層体20を有している。積層体20は、第1の金属層21と、発泡接着層22と、第2の金属層23とが、順次積層された積層構造を有するものである。
【0022】
スピーカ用振動板1において、第1振動部(A1)は、高音の周波数帯域を良好に再生するために、弾性が要求される。一方、第2振動部(A2)は、低音の周波数帯域を良好に再生するために、高い内部損失が要求される。内部損失とは、固体に動的な力が加わったとき、変形及び回復した際に熱エネルギーとして消失される力の数値である。この数値が大きいほど振幅を抑え、周波数のブレを抑え、共振を防ぐことができる。このため不快な音や音の歪みを減らし低音の再現性を向上することができる。
このように材料として相反する要求に対し、スピーカ用振動板1においては、高い内部損失を有する基材11を用い、基材11の第1振動部(A1)に、所定の積層構造を有する積層体20を設けることで、第1振動部(A1)には弾性を付与し、第2振動部(A2)は高い内部損失に薄肉性と強度を有する形態としている。
【0023】
また、スピーカ用振動板1においては、積層体20を、第1の金属層21と、発泡接着層22と、第2の金属層23とが、順次積層された積層構造とすることで、スピーカ用振動板1に生じるノイズを抑制することもできる。
【0024】
また、スピーカ用振動板1の平面形態は、
図1(a)に示すように、長方形状である。近年のスマートフォン等の携帯端末機器においては、小型化のために、マイクロスピーカの平面形態も、円形状よりも無駄なスペースを排除し易い長方形状であることが望まれている。それゆえ、スピーカ用振動板1においては、平面形態が長方形状の形態になっている。
ただし、本開示のスピーカ用振動板は、この長方形状の平面形態に限定されず、例えば、従来の円形状の平面形態で用いられても構わない。
【0025】
なお、ここで言う「長方形状」と言う用語は、円形状に対し、無駄なスペースを排除し易い形態として用いられるものであって、厳密な定義の長方形(すなわち、全ての角が直角の四角形)の他に、4つの角を丸めた形態(いわゆる角丸)や、各辺が直線以外の形態等も含むものである。
【0026】
また、スピーカ用振動板1において、第1振動部(A1)は、ドーム状(半球形状)の形態ではなく、フラット状(平面状)の形態である。近年のスマートフォン等の携帯端末機器においては、マイクロスピーカの薄型化のために、高さのあるドーム状(半球形状)の形態ではなく、高さが抑えられたフラット状(平面状)の形態であることが望まれている。それゆえ、スピーカ用振動板1においては、第1振動部(A1)がフラット状(平面状)の形態になっている。
【0027】
なお、ここで言う「フラット状(平面状)」と言う用語は、従来のような、弾性の付与を目的として特定の高さを有していたドーム状(半球形状)の形態に対して、このような弾性付与のためのドーム状の形態を要せず、高さを低く抑えられる形態として用いられるものであって、厳密な意味に縛られることなく、例えば、多少の湾曲や凹凸を有していても、同様の効果を期待し得る程度の範囲であれば、含まれる。
【0028】
また、スピーカ用振動板1においては、積層体20を、第1の金属層21と、発泡接着層22と、第2の金属層23とが、順次積層された積層構造とすることで、積層体20の厚み(
図1(b)に示すT1)を薄くすることもできる。より詳しく述べると、積層体20の発泡接着層22は、発泡層として作用する他に、接着層としても作用するため、別途、接着層を要しない。それゆえ、例えば、第1の金属層/接着層/芯材層(例えば、発泡層として作用する層)/接着層/第2の金属層という積層構造を有する積層体に比べて、積層体20の厚み(T1)を薄くすることができる。
【0029】
また、スマートフォン等の携帯端末機器においては、マイクロスピーカが振動によって高温になってしまう場合があるが、スピーカ用振動板1においては、積層体20の発泡接着層22を構成する材料に、発泡成分を含む熱硬化型樹脂を用いることで、耐熱性も兼ね備えたものとすることができる。それゆえ、スピーカ用振動板1においては、高温においても安定した音質を再現することができる。
以下、スピーカ用振動板1を構成する各構成要素について説明する。
【0030】
(基材)
基材11は、マイクロスピーカの振動板として機能するものであり、第2振動部(
図1に示す領域A2)において、低音の周波数帯域を良好に再生するために高い内部損失を有している。また、スピーカ用振動板1においては、第1振動部(
図1に示す領域A1)において積層体20を支持する支持層としても機能する。また、基材11は、スピーカ用振動板として必要な軽さ、薄さ、および強度を備えるものである。
基材11は単層であっても良く、積層構造を有していてもよい。例えば、上層および下層に、耐熱性を有するエンジニアリングプラスチックフィルムを用い、その間に、柔軟性を付与する目的で、TPU(熱可塑性ウレタン樹脂)等の柔軟な材料から構成されるダンパー層を設けた積層構造としてもよい。
基材11を構成する材料には、従来のマイクロスピーカの振動板として用いられてきた材料を用いることができる。例えば、上記の積層構造において、上層および下層を構成するエンジニアリングプラスチックフィルムとして、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等を用いることができる。また、上記の積層構造のダンパー層の材料として、ウレタン系粘着剤等を用いることができる。
基材11の厚みは、従来のマイクロスピーカの振動板として用いられてきた基材と同様とすることができ、例えば、6μm以上50μm以下とすることができる。
【0031】
(接着層)
接着層12は、基材11の第1振動部(
図1に示す領域A1)の上に、積層体20を接着するために設けられる。接着層12を構成する材料には、耐熱性を有し、基材11(積層構造の場合は、その上層)と積層体20(より詳しくは、積層体20の第1の金属層21)とを、強固に接着することができるものであればよく、例えば、既存のアクリル系、エポキシ系、オレフィン系等の接着剤を用いることができる。通常は耐熱性を重視するためエポキシ系樹脂が使用される。接着層12の厚みは、例えば、5μm以上20μm以下とすることができる。
【0032】
(積層体)
積層体20は、基材11の第1振動部(A1)の上に設けられ、主たる効果として、高音の周波数帯域を良好に再生するための弾性を、第1振動部(A1)に付与する効果を奏する。スピーカ用振動板1においては、積層体20により弾性が付与されるため、ドーム状(半球形状)の形態ではなく、フラット状(平面状)の形態とすることができる。また、他の効果として、積層体20は、スピーカ用振動板1に生じるノイズを抑制する効果も奏する。積層体20は、
図1(b)に示すように、第1の金属層21と、発泡接着層22と、第2の金属層23とが、順次積層された積層構造を有する。
以下、積層体20を構成する各要素について説明する。
【0033】
(第1の金属層および第2の金属層)
第1の金属層21および第2の金属層23は、弾性を有し、高音の音響特性を向上させる材料である。第1の金属層21および第2の金属層23は、弾性率が40GPa以上であって、内部損失が0.01以下の振動板材であれば使用できる。第1の金属層21および第2の金属層23を構成する材料としては、アルミニウム、銅、ニッケル、パーマロイ、鉄、金、または銀など軽金属箔と呼ばれる金属が挙げられる。
第1の金属層21および第2の金属層23は、コストや入手し易さや強度等の観点と、弾性率が比較的高く内部損失が小さい点で、アルミニウム箔であることが好ましい。また、アルミニウム箔は、硬質アルミニウム箔よりも軟質アルミニウム箔であることが好ましい。軟質アルミニウム箔は高温処理されているため、油成分等の汚染物質が表面にないため、接着層12を介した発泡接着層22との接着性に優れる。
第1の金属層21および第2の金属層23の厚みは、弾性および耐久性を考慮して、6μm以上30μm以下とすることができる。第1の金属層21および第2の金属層23にアルミニウム箔を用いる場合、9μm以上15μm以下であることが好ましい。
【0034】
(発泡接着層)
発泡接着層22は、第1の金属層21と第2の金属層23との間に設けられ、高音の周波数帯域を良好に再生するための弾性をさらに付与する効果と、スピーカ用振動板1に生じるノイズを抑制する効果と、を奏する。また、発泡接着層22は、発泡層として作用する他に、接着層としても作用するため、別途、接着層を要しない。それゆえ、例えば、第1の金属層/接着層/芯材層(例えば、発泡層として作用する層)/接着層/第2の金属層という積層構造を有する積層体に比べて、積層体20の厚み(
図1(b)に示すT1)を薄くすることができる。発泡接着層22を構成する組成物には、発泡成分としての発泡剤と、熱硬化型樹脂と、が含まれる。
【0035】
[熱硬化型樹脂]
発泡接着層22を構成する熱硬化型樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、オキセタン樹脂、フェノール 樹脂、(メタ)アクリレート樹脂、ジアリルフタレート樹脂、マレイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ビスマレイミド-トリアジン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂等が挙げられる。
また、エポキシ基、水酸基、アミド基、カルボキシル基、シラノール基、メルカプト基等の反応性基をもつ熱可塑性樹脂は硬化剤を加えることによって熱硬化型樹脂としても使用することができる。このような熱硬化型樹脂としては、例えば、フェノキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド酸樹脂等が挙げられる。
【0036】
このような熱硬化型樹脂の中でも、特に、エポキシ樹脂、(メタ)アクリレート樹脂、フェノキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド酸樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、シリコーン樹脂、マレイミド樹脂、ビスマレイミド-トリアジン樹脂等が好ましく、これらの樹脂を単独で、又は複数を組み合わせて用いることができる。中でも、硬化性と保存性、硬化物の耐熱性、耐湿性、耐薬品性に優れるという観点からエポキシ樹脂が好ましい。
【0037】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ヒダントイン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン/フェノールエポキシ樹脂、脂環式アミンエポキシ樹脂、脂肪族アミンエポキシ樹脂及びこれらにCTBN変性やハロゲン化等といった各種変性を行ったエポキシ樹脂が挙げられる。これらの中でもビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。これらは単独で、又は複数を混合して用いることができる。
【0038】
用いるエポキシ樹脂としては、190℃での粘度が0.05Pa・s以上であることが好ましく、0.1Pa・s以上であることがさらに好ましい。また、190℃での粘度が3.0Pa・s以下であることが好ましく、1.8Pa・s以下であることがさらに好ましい。粘度が低すぎると発泡剤の発泡状態を維持することができず、連泡化や破泡が発生するおそれがある。一方、粘度が高すぎると発泡内圧よりも発泡外圧が高くなるので発泡剤が発泡しないおそれがある。なお、ここで言う粘度は、動的粘弾性測定装置を用いて測定した値である。
【0039】
また用いるエポキシ樹脂は、エポキシ当量(WPE)が150以上、好ましくは180以上であって、1000以下、好ましくは700以下である。「エポキシ当量」とは、エポキシ基1個あたりのエポキシ樹脂の分子量で定義される。ここで「エポキシ基」とは、3員環のエーテルであるオキサシクロプロパン(オキシラン環)を含むものであり、狭義のエポキシ基の他、グリシジル基(グリシジルエーテル基及びグリシジルエステル基を含む)を含むものである。WPEは、JIS K7236:2001(エポキシ樹脂のエポキシ当量の求め方)に記載されている方法(過塩素酸-臭化テトラエチルアンモニウム法)等により決定される。
【0040】
また用いるエポキシ樹脂は、常温で半固形又は固体であって、固体の場合には軟化温度が105℃以下であることが好ましく、95℃以下であることがより好ましい。また、軟化温度が40℃以上であることが好ましく、45℃以上であることがより好ましい。一方、常温で液状であると硬化発泡時における粘度低下が顕著となりエポキシ樹脂の発泡状態を維持できなくなることから破泡、連泡化が進む可能性がある。また発泡接着層の形状を保てないおそれがある。
【0041】
本開示においては、軟化温度が105℃以下の熱硬化型樹脂(好ましくはエポキシ樹脂)を含有させて発泡接着層を構成することで、加熱により熱硬化型樹脂を柔らかくし、これにより発泡剤を発泡接着層中で良好に発泡させることができる。また、軟化温度が60℃以下の熱硬化型樹脂(好ましくはエポキシ樹脂)を含有させて発泡接着層を構成することで、上記作用に加え、発泡接着層に割れが発生することを抑止でき、これにより発泡接着層の脱落防止に寄与することができる。なお、ここでの軟化温度は、JIS K7234(環球法)で定められた方法により測定される値である。
【0042】
本開示においては、熱硬化型樹脂として、重量平均分子量が1650以下、より好ましくは800以下のものを用いることが望ましい。接着性能を維持することに加え、発泡接着層に割れが発生することを抑止できるからである。本開示では、シート状に形成しやすくするため、熱硬化型樹脂は、重量平均分子量が450以上であることが好ましい。分子量が450未満であると常温で液状に近い樹脂となるため、発泡接着層の形状が保てない場合があるからである。
【0043】
[発泡剤]
発泡接着層22を構成する組成物に含有させる発泡剤としては、特に制限されず、例えば公知の熱発泡剤(熱分解型のもの、膨張黒鉛、マイクロカプセル化されたもの等)を適宜選択して用いることができる。中でもマイクロカプセル化されたもの(以下「熱膨張性微小球」と称する)を好適に用いることができる。
熱膨張性微小球としては、弾性を有する外殻の内部に発泡剤が封入された構造を有し、全体として熱膨張性(加熱により全体が膨らむ性質)を示す微小球を好適例として挙げることができる。弾性を有する外殻としては、熱溶融性物質や熱膨張により破壊する物質、例えば、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスルホン等で形成されたものを挙げることができる。
封入される発泡剤としては、加熱により容易にガス化して膨張する物質、例えば、イソブタン、プロパン、ペンタン等の炭化水素を挙げることができる。
熱膨張性微小球の市販品としては、例えば、松本油脂製薬社製「マツモトマイクロスフェアー」シリーズ、積水化学工業社製「アドバンセルEM」シリーズ、日本フェライト社製「エクスパンセル」等を挙げることができる。
【0044】
熱膨張性微小球は、その粒度分布を調整してから使用してもよい。粒度分布の調整は、使用する熱膨張性微小球に含まれる比較的大きな粒径のものを、遠心力型風力分級機、乾式分級機、し過機等で分級して除去すればよい。具体的には、熱膨張性微小球の粒度分布の標準偏差が5.0μm以下となるようにするとよい。
【0045】
熱膨張性微小球の膨張倍率は、5倍以上であることが好ましく、7倍以上であることが より好ましい。その一方で15倍以下であることが好ましく、12倍以下であることがより好ましい。なお、熱膨張性微小球の外殻は、該熱膨張性微小球が前記所定の膨張倍率となるまで膨張した場合であっても破裂しない、適度な強度を有するものであることが好ましい。
【0046】
熱膨張性微小球の配合量は、熱硬化型樹脂100質量部に対して下限が好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上であって、上限が好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは15質量部以下である。
【0047】
また、その他の熱発泡剤としては、熱分解型発泡剤や膨張黒鉛等が挙げられる。熱分解型発泡剤は、無機系と有機系に分類される。無機系発泡剤としては、例えば、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、亜硝酸アンモニウム、水素化ホウ素ナトリウム、アジド類等が挙げられる。有機系発泡剤としては、例えば、水、塩フッ化アルカン(例えば、トリクロロモノフルオロメタン、ジクロロモノフルオロメタン等)、アゾ系化合物(例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾジカルボンアミド(ADCA)、バリウムアゾジカルボキシレート等)、ヒドラジン系化合物(例えば、パラトルエンスルホニルヒドラジドやジフェニルスルホン-3,3'-ジスルホニルヒドラジド、4,4'-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、アリルビス(スルホニルヒドラジド)等)、セミカルバジド系化合物(例えば、ρ-トルイレンスルホニルセミカルバジド、4,4'-オキシビス(ベンゼンスルホニルセミカルバジド)等)、トリアゾール系化合物(例えば、5-モルホリル-1,2,3,4-チアトリアゾール等)、N-ニトロソ系化合物(例えば、N,N'-ジニトロソペ ンタメチレンテトラミン、N,N'-ジメチル-N,N'-ジニトロソテレフタルアミド等)などが挙げられる。これらの熱発泡剤は単独で、又は複数を混合して用いることができる。
【0048】
このような熱分解型発泡剤の配合量は、熱硬化型樹脂100質量部に対し、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上であって、好ましくは30質量部以下、より好ましくは25質量部以下である。
【0049】
発泡接着層22には、上述した熱硬化型樹脂及び熱発泡剤の他に、硬化剤等の任意成分を含有させても良い。硬化剤としては、例えば、ジシアンジアミド(DICY)、脂肪族ポリアミド等のアミド系硬化剤;ジアミノジフェニルメタン、メタフェニレンジアミン、アンモニア、トリエチルアミン、ジエチルアミン、等のアミン系硬化剤;ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、p-キシレンノボラック樹脂等のフェノール系硬化剤;無水メチルナジック酸等の酸無水物系硬化剤等が挙げられる。これらの硬化剤は単独で、又は複数を混合して用いることができる。
【0050】
硬化剤の配合量は、使用する熱硬化型樹脂との当量比から算出され、当量比の適切な範囲は0.8以上3.0以下である。例えば、硬化剤がジシアンジアミドの場合は、熱硬化型樹脂100質量部に対し、下限としては3質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましく、上限としては30質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましい。また、例えば無水メチルナジックの場合は、熱硬化型樹脂100質量部に対し、下限としては60質量部以上が好ましく、80質量部以上がより好ましく、上限としては240質量部以下が好ましく、200質量部以下がより好ましい。硬化剤の配合量が上記下限値未満では、十分に硬化しにくく、耐熱性、耐薬品性等、熱硬化性樹脂としての特徴を十分に発揮できない可能性がある。その一方で配合量が上記上限値を超えると、硬化時に過剰な発熱反応を伴い、硬化中の樹脂組成物粘度が必要以上に低下し、最終的に十分な発泡状態を維持することが難しくなるおそれがある。
【0051】
発泡接着層22においては、硬化剤とともに、硬化促進剤を併用することもできる。硬化促進剤としては、例えば、2-メチルイミダゾール、2-メチル-4-エチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール等のイミダゾール類;1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン等の3級アミン類;トリブチルポスフィン、トリフェニルホスフィン等の有機ホスフィン類;等が挙げられる。これらは単独で、又は複数を混合して用いることができる。硬化促進剤の配合量は、熱硬化型樹脂100質量部に対し、例えば5質量部以下である。
【0052】
発泡接着層22に任意成分として配合可能なその他の添加剤としては、例えば、エラストマー成分として天然ゴム、イソプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム等の固形あるいは液状のゴム類やポリウレタン、ウレタンプレポリマー等が挙げられる。その配合量としては、熱硬化型樹脂100質量部に対し、20質量部以下、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。また、発泡接着層22には、発泡助剤、各種充填剤、整泡剤、酸化防止剤、紫外線、吸収剤、着色剤を配合しても良い。
【0053】
発泡接着層22は、上述した熱硬化型樹脂、発泡剤、さらには必要に応じて、硬化剤、硬化促進剤、発泡助剤、各種添加剤等を任意の順序で混合させることにより得ることができる。上記原材料の混合は、ミキシングロール、プラネタリーミキサー、バタフライミキサー、ニーダー、単軸若しくは二軸押出機等の混合機あるいは混練機を用いて行うことができる。混合温度は、組成により異なるが、熱発泡剤の熱発泡温度以下で行うことが必要である。発泡接着層22の組成物は、シート状に形成した発泡接着層22の状態における硬化開始温度が好ましくは110℃以上250℃以下となるように各成分を配合することが望ましい。
【0054】
発泡前のシート状の発泡接着層は、上述した組成物を、例えば、離型フィルムの上に塗布し、乾燥させることにより、得ることができる。発泡前の発泡接着層の厚みは、適宜選択可能であるが、下限として20μm以上、さらには30μm以上とすることが好ましく、上限として50μm以下とすることが好ましい。発泡前の発泡接着層の厚みを20μm以上とすることにより、発泡工程によって生成された気泡を発泡接着層内に保持させやすい。発泡前の発泡接着層の厚みを50μm以下とすることにより、例えば、3倍発泡で150μm以下の狭い空隙を充填させることが可能となる。
【0055】
<スピーカ>
図2は、本開示のスピーカの一例を示す図である。ここで、
図2(a)は、スピーカ2の平面図であり、
図2(b)は、
図2(a)に示すスピーカ2のB-B線断面図である。
図2に示すように、スピーカ2は、スピーカ用振動板1と、フレーム31と、ボイスコイル32と、マグネット33a、マグネット33bを有している。
【0056】
フレーム31は、スピーカ用振動板1が振動可能なように、スピーカ用振動板1をその外縁部で保持するものであり、フレーム31の上面は、スピーカ用振動板1の積層体20が設けられている部分(すなわち、第1振動部A1)に対向する部分が開口部になっている。
【0057】
ボイスコイル32は、スピーカ用振動板1の裏面側(
図2(b)に示すZ方向と反対側)であって、スピーカ用振動板1の積層体20が設けられている部分(すなわち、第1振動部A1)と積層体20が設けられていない部分(すなわち、第2振動部A2)との境界部を含む位置に設けられている。
【0058】
マグネット33aおよびマグネット33bは、フレーム31の底面の内側に設けられている。そして、平面視において、スピーカ用振動板1の積層体20が設けられている部分(すなわち、第1振動部A1)に重なる位置であって、ボイスコイル32が設けられている位置の内側にマグネット33aが位置している。また、平面視において、スピーカ用振動板1の積層体20が設けられていない部分(すなわち、第2振動部A2)に重なる位置であって、ボイスコイル32が設けられている位置の外側にマグネット33bが位置している。
【0059】
このような構成を有するスピーカ2においては、外部信号の供給を受けたボイスコイル32が、磁力によって上下に動き、この動きによりスピーカ用振動板1が振動することで、外部空気との圧力により音が発生する。
【0060】
ここでスピーカ2は、振動板として、上述したスピーカ用振動板1を備えている。それゆえ、スピーカ2は、全体の大きさを小型及び薄型にすることができ、かつ、スピーカ2の音響特性を向上させることができる。さらに、スピーカ2が高温になっても、安定した音質を再現することができる。
【0061】
より詳しく述べると、まず、高音の周波数帯域に対しては、スピーカ用振動板1の第1振動部(
図1に示す領域A1)により良好に再生される。低音の周波数帯域に対しては、スピーカ用振動板1の第2振動部(
図1に示す領域A2)により良好に再生される。
また、スピーカ用振動板1においては、積層体20が発泡接着層22を有するため、スピーカ用振動板1に生じるノイズを抑制することもできる。
【0062】
また、スピーカ用振動板1においては、積層体20を、第1の金属層21と、発泡接着層22と、第2の金属層23とが、順次積層された積層構造とすることで、積層体20の厚み(
図1(b)に示すT1)を薄くすることができる。より詳しく述べると、積層体20の発泡接着層22は、発泡層として作用する他に、接着層としても作用するため、別途、接着層を要しない。それゆえ、例えば、第1の金属層/接着層/芯材層(例えば、発泡層として作用する層)/接着層/第2の金属層という積層構造を有する積層体に比べて、積層体20の厚み(T1)を薄くすることができる。
それゆえ、スピーカ2においても、例えば、第1の金属層/接着層/芯材層/接着層/第2の金属層という積層構造を有する積層体を有する振動板を備えたスピーカに比べて、全体の厚み(
図2(b)に示すT2)を薄くすることができる。
【0063】
また、スピーカ用振動板1の平面形態は、
図1(a)に示すように、長方形状であるため、スピーカ2の平面形態も、
図2(a)に示すように、長方形状とすることができる。
上述したように、近年のスマートフォン等の携帯端末機器においては、小型化のために、マイクロスピーカの平面形態も、円形状よりも無駄なスペースを排除し易い長方形状であることが望まれている。スピーカ2においては、このような小型化の要求を満たすことができる。
ただし、本開示のスピーカ用振動板は、この長方形状の平面形態に限定されず、例えば、従来の円形状の平面形態で用いられても構わない。同様に、本開示のスピーカも、この長方形状の平面形態に限定されず、従来の円形状の平面形態で用いられても構わない。
【0064】
また、スピーカ用振動板1において、第1振動部(
図1に示す領域A1)はドーム状(半球形状)の形態ではなく、フラット状(平面状)の形態である。
上述したように、近年のスマートフォン等の携帯端末機器においては、マイクロスピーカの薄型化のために、高さのあるドーム状(半球形状)の形態ではなく、高さが抑えられたフラット状(平面状)の形態であることが望まれている。スピーカ用振動板1を有するスピーカ2においては、このような薄型化の要求を満たすことができる。
【0065】
また、スマートフォン等の携帯端末機器においては、マイクロスピーカが振動によって高温になってしまう場合がある。これに対し、スピーカ用振動板1においては、積層体20の発泡接着層22を構成する材料に、発泡成分を含む熱硬化型樹脂を用いることで、耐熱性も兼ね備えたものとすることができる。すなわち、スピーカ用振動板1においては、高温においても安定した音質を再現することができる。
それゆえ、スピーカ用振動板1を有するスピーカ2においても、高温においても安定した音質を再現することができる。
【0066】
なお、
図2に示すスピーカ2においては、スピーカ用振動板1の積層体20が設けられている側が上側(
図2(b)に示すZ方向と同じ側)になっている構成例を示したが、本開示のスピーカは、これに限定されず、スピーカ用振動板1の積層体20が設けられている側が下側(
図2(b)に示すZ方向と反対側)になっている構成であってもよい。
【実施例0067】
以下、実施例により本開示をさらに具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。実施例における特性値の測定は、下記方法により行った。
【0068】
<積層体の作製>
(実施例1)
発泡接着層として、厚み30μmのエポキシ発泡接着シート(ソマールEP-0003FA、ガラス転移温度113℃)を用い、第1の金属層および第2の金属層として、厚み15μmの軟質アルミニウム箔を用い、上記のエポキシ発泡接着シートの両面に上記の軟質アルミニウム箔を圧着シールして、150℃のオーブンで30分間加熱して、エポキシ発泡接着シートを発泡させて、発泡接着層の厚みが100μmの積層体を作製した。
【0069】
(実施例2)
150℃のオーブンによる加熱時間を20分間にして、発泡接着層の厚みを80μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の積層体を作製した。
【0070】
(実施例3)
150℃のオーブンによる加熱時間を15分間にして、発泡接着層の厚みを70μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3の積層体を作製した。
【0071】
(実施例4)
第1の金属層および第2の金属層として、厚み9μmの軟質アルミニウム箔を用い、150℃のオーブンによる加熱時間を20分間にして、発泡接着層の厚みを80μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4の積層体を作製した。
【0072】
(比較例1)
厚み1mmの古河電工製発泡PETシート(MCPET M4)をスライス加工して、厚み110μmの発泡シートを得た。得られた発泡シートの両面に、厚み5μmのエポキシ系接着剤を介して厚み15μmの軟質アルミニウム箔を貼り合わせて、比較例1の積層体を作製した。
【0073】
(比較例2)
2枚の軟質アルミニウム箔(それぞれの厚み15μm)を、厚み5μmのエポキシ系接着剤で貼り合わせて、比較例2の積層体を作製した。
【0074】
<スピーカ用振動板およびスピーカの作製>
基材には、上層および下層を構成するエンジニアリングプラスチックフィルムとして、厚み6μmのポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を用い、その間にダンパー層として、厚み3μmのウレタン系粘着剤を用いた3層構造の基材を用い、この基材に対して、厚み5μmのエポキシ系接着剤を用いて、上記作製した各積層体を接着して、実施例1~4、および、比較例1、2のスピーカ用振動板を作製した。平面視におけるスピーカ用振動板の大きさは10mm×14mm、積層体の大きさは6mm×10mmとした。
【0075】
ここで、各スピーカ用振動板は、室温状態でスピーカに組み込むものと、150℃オーブンで6時間加熱後、室温に戻してスピーカに組み込むものと、の2種類を作製した。その後、各スピーカ用振動板をスピーカに組み込み、実施例1~4、および、比較例1、2のスピーカ(室温保持と150℃加熱処理の2種)を作製した。
【0076】
<評価>
(曲げ弾性率)
実施例1~4、および、比較例1~2の各積層体と同じ積層構成のサンプルついて、曲げ弾性率を評価した。サンプルのサイズは平面視の大きさを7mm×15mmとした。結果を表1に示す。
【0077】
[測定条件]
試験機:エー・アンド・デイ製テンシロン万能試験機RTG-1310
エッジスパン幅:5mm
標点間距離:50mm
チャック間距離:20mm
圧縮間距離:30mm
移動速度:50mm/min
【0078】
(音質)
実施例1~4、および、比較例1~2の各積層体を有する各スピーカ用振動板(室温保持と150℃加熱処理の2種)を組み込んだ各スピーカに対して、音質を官能試験により以下の判定基準で評価した。結果を表1に示す。
【0079】
[判定基準]
音圧があり音がクリアでスピーカとして非常に良好なものを〇とし、ビビリ音やノイズが多い等の問題が発生し、性能が劣ったものを×とした。
【0080】
【0081】
(積層体厚み)
表1に示すように、実施例1~4の積層体(第1の金属層/発泡接着層/第2の金属層)は、比較例1の積層体(軟質アルミニウム箔/接着剤/発泡PETシート/接着剤/軟質アルミニウム箔)に比べて、その厚みを薄くできた。
実施例1~4の積層体は、発泡接着層が発泡層として作用する他に、接着層としても作用するため、別途、接着層を要しない。それゆえ、比較例1のように、第1の金属層/接着層/発泡層/接着層/第2の金属層という積層構造を有する積層体に比べて、積層体の厚みを薄くすることができる。
また、実施例1~4の積層体は、発泡接着層を構成する材料に、発泡成分を含む熱硬化型樹脂(エポキシ発泡接着シート)を用いているため、発泡工程を制御すること(例えば、加熱時間の制御)で、その厚みを調整できる。例えば、発泡接着層の厚みを70μm以上100μm以下に調整できる。一方、比較例1のように、発泡済みのシート(発泡PETシート)をスライス加工して薄くする場合は、110μmよりも薄くすることは困難である。
それゆえ、実施例1~4の積層体は、薄型化という要求に対し、優れていると評価できる。
【0082】
(曲げ弾性率)
表1に示すように、実施例1~4の積層体は、比較例1の積層体に比べて、その厚さが薄いにもかかわらず、曲げ弾性率が高いものであった。
実施例1~4の積層体は、発泡接着層を構成する材料に、発泡成分を含む熱硬化型樹脂(エポキシ発泡接着シート)を用いることで、その厚さが薄いにもかかわらず、より高い弾性を有するものとすることができる。
それゆえ、実施例1~4の積層体は、薄型でありながらも、高音の周波数帯域をより良い音質で再生することができる。
【0083】
(音質)
表1に示すように、実施例1~4の各積層体を有する各スピーカ用振動板(室温保持と150℃加熱処理の2種)を組み込んだ各スピーカは、いずれも、音圧があり音がクリアでスピーカとして非常に良好なものであった。一方、比較例1の積層体を有するスピーカ用振動板を組み込んだスピーカにおいては、150℃加熱処理を経たものは、性能が劣ったものになった。
熱硬化型のエポキシ樹脂は、硬化させた後は優れた耐熱性を有する。例えば、熱分解温度は250℃以上350℃以下である。実施例1~4の積層体は、発泡接着層を構成する材料に、発泡成分を含む熱硬化型樹脂(エポキシ発泡接着シート)を用いているため、スピーカ用振動板が150℃に加熱されても、安定した音質を再現できる。
それゆえ、実施例1~4の積層体を有するスピーカ用振動板は耐熱性を有し、実施例1~4の各積層体を有するスピーカ用振動板を組み込んだ各スピーカにおいては、高温に曝されても音質評価が良好であった。
【0084】
(比較例2について)
表1に示すように、比較例2の積層体(軟質アルミニウム箔/接着剤/軟質アルミニウム箔)は、実施例1~4の積層体(第1の金属層/発泡接着層/第2の金属層)に比べて、その厚みを薄くすることはできるものの、その評価結果は、曲げ弾性率、音質(室温保持と150℃加熱処理の2種)ともに、実施例1~4に比べて劣るものであった。
【0085】
以上、本開示に係るスピーカ用振動板およびスピーカについて、それぞれの実施形態を説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本開示の技術的思想と実質的に同一の構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなる場合であっても本開示の技術的範囲に包含される。