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特開2022-175795コールドスプレー用ノズルおよびコールドスプレー装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175795
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】コールドスプレー用ノズルおよびコールドスプレー装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 24/04 20060101AFI20221117BHJP
   B05B 7/14 20060101ALI20221117BHJP
   B05B 7/26 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
C23C24/04
B05B7/14
B05B7/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082489
(22)【出願日】2021-05-14
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】000222037
【氏名又は名称】東北電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 宏輝
(72)【発明者】
【氏名】ユセン メン
(72)【発明者】
【氏名】クリステル ベルナール
(72)【発明者】
【氏名】小川 和洋
(72)【発明者】
【氏名】市川 裕士
(72)【発明者】
【氏名】小林 隆
(72)【発明者】
【氏名】新藤 智也
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 隼司
(72)【発明者】
【氏名】藤村 祥基
【テーマコード(参考)】
4F033
4K044
【Fターム(参考)】
4F033QA01
4F033QB02Y
4F033QB05
4F033QB12Y
4F033QD02
4F033QD11
4F033QH02
4F033QH10
4K044BA21
4K044BB11
4K044CA23
4K044CA27
4K044CA29
4K044CA71
(57)【要約】
【課題】供給される作動ガスが流れる方向と交わる方向に粉末材料を噴射することができ、詰まりの発生を防ぐことができるコールドスプレー用ノズルおよびコールドスプレー装置を提供する。
【解決手段】ガス導入口21が、ガス供給部11から供給される作動ガスを流路に導入可能に設けられている。ノズル縮小部22が、流路の内径が、ガス導入口21の内径よりも小さくなるよう形成されている。ノズル拡大部23が、上流から下流に向かって、ノズル縮小部22から流路の内径が大きくなるよう設けられている。粉末供給口24が、流路に粉末材料を供給可能に、ノズル拡大部23に設けられている。ノズル拡大部23は、流路が上流から下流に向かって螺旋状を成すよう設けられた螺旋部23aを有し、先端の噴射口23cからの粉末材料の噴射方向が、ノズル縮小部22での作動ガスの流れる方向に対して平行な方向と交わるよう構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末材料の融点よりも低い温度の作動ガスを供給するガス供給部に取り付けられて、前記粉末材料を前記作動ガスと共に噴射口から噴射するよう構成されたコールドスプレー用ノズルであって、
前記作動ガスを流すための流路と、
前記ガス供給部に接続され、前記ガス供給部から供給される前記作動ガスを前記流路に導入可能に設けられたガス導入口と、
前記ガス導入口の下流側で、前記流路の内径が、前記ガス導入口の内径よりも小さく形成されたノズル縮小部と、
前記ノズル縮小部の下流側に、上流から下流に向かって、前記ノズル縮小部から徐々に前記流路の内径が大きくなるよう設けられ、下流側の前記流路の先端に前記噴射口を有するノズル拡大部と、
前記流路に前記粉末材料を供給可能に、前記ノズル拡大部に設けられた粉末供給口とを有し、
前記ノズル拡大部は、前記流路が上流から下流に向かって螺旋状を成すよう設けられた螺旋部を有し、前記噴射口からの前記粉末材料の噴射方向が、前記ノズル縮小部での前記作動ガスの流れる方向に対して平行な方向と交わるよう構成されていることを
特徴とするコールドスプレー用ノズル。
【請求項2】
前記ノズル拡大部は、前記噴射口からの前記粉末材料の噴射方向が、前記ノズル縮小部での前記作動ガスの流れる方向に対して平行な方向とほぼ垂直に交わるよう構成されていることを特徴とする請求項1記載のコールドスプレー用ノズル。
【請求項3】
前記ノズル拡大部は、前記流路が前記螺旋部から滑らかに連続するよう、前記螺旋部の下流側に接続された直流部を有し、
前記粉末供給口は、前記直流部に設けられていることを
特徴とする請求項1または2記載のコールドスプレー用ノズル。
【請求項4】
前記粉末材料は、直径が20μm乃至45μmのポリマー粒子から成り、
前記ガス供給部は、前記作動ガスを0.4MP乃至0.8MPの圧力で前記ガス導入口に供給するよう構成され、
前記螺旋部は、螺旋の1周期の長さが40mm乃至60mmであり、螺旋の直径が40mm乃至60mmであり、螺旋の中心軸に沿った長さが120mm乃至140mmであることを
特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のコールドスプレー用ノズル。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のコールドスプレー用ノズルと、前記ガス供給部とを有することを特徴とするコールドスプレー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コールドスプレー用ノズルおよびコールドスプレー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基材の表面に被膜を形成する方法として、コールドスプレー法が知られている。コールドスプレー法は、粉末状の粒子を溶融温度以下で固相のまま基材へ衝突させることにより、空隙率が小さく、酸化の無い高品質の被膜を形成することができ、溶射法と比べて成膜速度が速いという特徴を有している。このコールドスプレー法を用いて、例えば、フッ素樹脂等の高分子のポリマー材料を基材に成膜し、超疎水性のコーティング膜を製造する方法が、本発明者等により開発されている(例えば、特許文献1、非特許文献1乃至3参照)。成膜された疎水性のコーティング膜は、例えば、配管の表面等を保護するために利用することができる。
【0003】
コールドスプレー法を用いた成膜では、成膜効率や被膜の密着強度を考慮すると、基材に対して垂直方向から粉末材料を噴射して衝突させることが重要である。例えば、配管の外壁に被膜を形成する際には、一般的な直線型のノズルを使用して、配管の外壁面に対して垂直方向から粉末材料を噴射することができるが、配管の内壁に被膜を形成する際には、配管の内径によっては、直線型のノズルでは、配管の内壁面に対して垂直方向から粉末材料を噴射するのは困難であった。そこで、配管の内壁など、垂直方向から粉末材料を噴射することが難しい場所で被膜を形成するために、ノズルをL字型に折り曲げて、粉末材料の噴射方向を変えたものが用いられている(例えば、非特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6341505号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】小川和洋、「コールドスプレー法によるポリマー皮膜の開発」、溶接学会誌、2013年、第82巻、第8号、p.5-8
【非特許文献2】W. L. Sulen, K. Ravi, C. Bernard, Y. Ichikawa, K. Ogawa, “Deposition Mechanism Analysis of Cold Sprayed Fluoropolymer Coatings and Its Wettability Evaluation”, [online], J. Therm. Spray Technol.,8 June 2020, インターネット〈URL : https://doi.org/10.1007/s11666-020-01059-w〉
【非特許文献3】K. Ravi, W.L. Sulen, C. Bernard, Y. Ichikawa, K. Ogawa, “Fabrication of micro-/nano-structured super-hydrophobic fluorinated polymer coatings by cold-spray”, Surf. Coat. Technol., 15 September 2019, Vol. 373, p.17-24
【非特許文献4】Wen-Ya Li and Chang-Jiu Li, “Optimal Design of a Novel Cold Spray Gun Nozzle at a Limited Space”, Journal of Thermal Spray Technology, September 2005, Volume 14(3), p.391-396
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献4に記載のL字型のノズルでは、折り曲げた位置で、粉末材料を運ぶための作動ガスに渦流が発生するため、作動ガス中の粉末材料または渦流の発生後に作動ガス中に投入される粉末材料の分布が偏り、ノズル内で堆積して詰まりが発生することがあるという課題があった。
【0007】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、供給される作動ガスが流れる方向と交わる方向に粉末材料を噴射することができ、詰まりの発生を防ぐことができるコールドスプレー用ノズルおよびコールドスプレー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係るコールドスプレー用ノズルは、粉末材料の融点よりも低い温度の作動ガスを供給するガス供給部に取り付けられて、前記粉末材料を前記作動ガスと共に噴射口から噴射するよう構成されたコールドスプレー用ノズルであって、前記作動ガスを流すための流路と、前記ガス供給部に接続され、前記ガス供給部から供給される前記作動ガスを前記流路に導入可能に設けられたガス導入口と、前記ガス導入口の下流側で、前記流路の内径が、前記ガス導入口の内径よりも小さく形成されたノズル縮小部と、前記ノズル縮小部の下流側に、上流から下流に向かって、前記ノズル縮小部から徐々に前記流路の内径が大きくなるよう設けられ、下流側の前記流路の先端に噴射口を有するノズル拡大部と、前記流路に前記粉末材料を供給可能に、前記ノズル拡大部に設けられた粉末供給口とを有し、前記ノズル拡大部は、前記流路が上流から下流に向かって螺旋状を成すよう設けられた螺旋部を有し、前記噴射口からの前記粉末材料の噴射方向が、前記ノズル縮小部での前記作動ガスの流れる方向に対して平行な方向と交わるよう構成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係るコールドスプレー用ノズルは、コールドスプレー法により、配管等の基材の表面に、粉末材料による被膜を形成するために使用される。本発明に係るコールドスプレー用ノズルは、ガス供給部からガス導入口を介して流路に供給され、ノズル縮小部からノズル拡大部を通って噴射口から噴射される作動ガスに、粉末供給口から粉末材料を供給することにより、作動ガスと共に粉末材料を噴射口から噴射することができる。
【0010】
本発明に係るコールドスプレー用ノズルは、流路が上流から下流に向かって螺旋状を成すよう設けられた螺旋部を介して、噴射口からの粉末材料の噴射方向が、ノズル縮小部での作動ガスの流れる方向に対して平行な方向と交わるよう構成されており、ガス導入口から供給される作動ガスが流れる方向と交わる方向に粉末材料を噴射することができる。本発明に係るコールドスプレー用ノズルは、L字型などの折れ曲がりを有する場合と比べて、螺旋部により作動ガスをスムーズに流しながら作動ガスの流れの方向を変えることができるため、渦流の発生を抑えて、粉末材料による詰まりの発生を防ぐことができる。
【0011】
本発明に係るコールドスプレー用ノズルは、ガス導入口から供給される作動ガスが流れる方向と交わる方向に粉末材料を噴射することができるため、直線型のノズルにより垂直方向から粉末材料を噴射することが難しい場所でも、効率的に被膜を形成することができる。なお、本発明に係るコールドスプレー用ノズルは、市販のラバルノズルを利用して構成されていてもよい。この場合、例えば、ラバルノズルのノズル縮小部の先端側に螺旋部を形成してもよく、ラバルノズルの先端に螺旋部を取り付けて構成されていてもよい。また、ノズル拡大部は、流路の内径が上流から下流に向かって連続的に大きくなっていてもよく、段状に大きくなっていてもよい。
【0012】
本発明に係るコールドスプレー用ノズルで、粉末材料は、金属粒子やポリマー粒子など、コールドスプレー法で使用可能なものであれば、いかなるものから成っていてもよい。粉末材料は、ポリマー粒子から成る場合、疎水性のフッ素樹脂の粒子を含む粉末や、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、ポリイミド(PI)等から成ることが好ましい。フッ素樹脂は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene;PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(polychlorotrifluoroethylene;PCTFE)、フッ化エチレンプロピレン(fluorinated ethylene propylene;FEP)、4フッ化エチレンのエチレン共重合体(ethylene copolymer of tetrafluoroethylene;ETFE)、クロロトリフルオロエチレンのエチレン共重合体(ethylene copolymer of chlorotrifluoroethylene;ECTFE)、ペルフルオロアルコキシ(perfluoroalkoxy;PFA)、ポリフッ化ビニル(polyvinylfluoride;PVF)、フッ化ポリビニリデン(polyvinyldifluoride;PVDF)、ナフィオン(Nafion、登録商標)、フルオロエチレンビニルエーテル(fluoroethylenevinylether;FEVE)、テトラフルオロエチレン(tetrafluoroethylene)とヘキサフルオロプロペン(hexafluoropropylene)とフッ化ビニリデン(vinylidene fluoride)の半結晶三成分テルポリマー(semicrystalline three-component terpolymer;THV)、テフロン(Teflon、登録商標)AF、サイトップ(Cytop、登録商標)、ハイフロン(Hyflon、登録商標)などである。
【0013】
本発明に係るコールドスプレー用ノズルで、ノズル拡大部は、噴射口からの粉末材料の噴射方向と、ノズル縮小部での作動ガスの流れる方向に対して平行な方向との成す角が、いかなる角度であってもよいが、コールドスプレーの噴射対象の表面に対して、ほぼ垂直方向に粉末材料を噴射可能な角度を成していることが好ましい。例えば、前記ノズル拡大部は、前記噴射口からの前記粉末材料の噴射方向が、前記ノズル縮小部での前記作動ガスの流れる方向に対して平行な方向とほぼ垂直に交わるよう構成されていてもよい。この場合、特に、配管の内部に挿入して、配管の内壁面に対して垂直方向から粉末材料を噴射することができ、配管の内壁に効率的に被膜を形成することができる。このとき、ノズル拡大部は、噴射口からの粉末材料の噴射方向が、ノズル縮小部での作動ガスの流れる方向に対して、正確に90度を成していなくてもよく、例えば80度~100度の範囲であればよい。
【0014】
本発明に係るコールドスプレー用ノズルで、前記ノズル拡大部は、前記流路が前記螺旋部から滑らかに連続するよう、前記螺旋部の下流側に接続された直流部を有し、前記粉末供給口は、前記直流部に設けられていることが好ましい。この場合、螺旋部を作動ガスのみが流れるため、螺旋部で粉末材料が詰まるのを防ぐことができる。また、螺旋部と直流部との境界で、作動ガスの流れに渦流が発生するのを抑えることができる。このため、直流部の粉末供給口から投入された粉末材料が、渦流の影響により直流部で詰まるのを防ぐことができる。また、直流部により、噴射方向を制御することができる。なお、粉末供給口は、粉末材料の噴射速度や噴射時の温度を高めるために、螺旋部に近い、直流部の上流側に設けられることが好ましい。
【0015】
本発明に係るコールドスプレー用ノズルで、前記粉末材料は、直径が20μm乃至45μmのポリマー粒子から成り、前記ガス供給部は、前記作動ガスを0.4MP乃至0.8MPの圧力で前記ガス導入口に供給するよう構成され、前記螺旋部は、螺旋の1周期の長さが40mm乃至60mmであり、螺旋の直径が40mm乃至60mmであり、螺旋の中心軸に沿った長さが120mm乃至140mmであることが好ましい。この場合、噴射口から噴射される粉末材料の噴射速度および噴射時の温度を、特に高めることができ、成膜効率を高めることができる。
【0016】
本発明に係るコールドスプレー装置は、本発明に係るコールドスプレー用ノズルと、前記ガス供給部とを有することを特徴とする。
【0017】
本発明に係るコールドスプレー装置は、本発明に係るコールドスプレー用ノズルを有するため、ガス供給部からコールドスプレー用ノズルに供給する作動ガスの流れの方向と交わる方向に粉末材料を噴射することができると共に、コールドスプレー用ノズルでの粉末材料の詰まりの発生を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、供給される作動ガスが流れる方向と交わる方向に粉末材料を噴射することができ、詰まりの発生を防ぐことができるコールドスプレー用ノズルおよびコールドスプレー装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施の形態のコールドスプレー装置を示す(a)側面図、(b)背面図である。
図2】直線型のノズル(Straight nozzle)を用いた従来のコールドスプレー装置を示す側面図である。
図3図1に示すコールドスプレー装置の、螺旋部の螺旋の直径D(MCD)を変えたときのシミュレーション結果の、(a)粉末材料の粒子径と粒子速度との関係、(b)粉末材料の粒子径と粒子温度との関係を示すグラフである。
図4図1に示すコールドスプレー装置の、螺旋部の螺旋の1周期の長さL(AP)を変えたときのシミュレーション結果の、(a)粉末材料の粒子径と粒子速度との関係、(b)粉末材料の粒子径と粒子温度との関係を示すグラフである。
図5図1に示すコールドスプレー装置の、粉末供給口の位置を変えたときのシミュレーション結果の、(a)粉末材料の粒子径と粒子速度との関係、(b)粉末材料の粒子径と粒子温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面などに基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
図1図3乃至図5は、本発明の実施の形態のコールドスプレー用ノズルおよびコールドスプレー装置を示している。
図1に示すように、コールドスプレー装置10は、ガス供給部11とコールドスプレー用ノズル12とを有している。
【0021】
ガス供給部11は、ガス供給口11aを有し、コールドスプレー用の粉末材料の融点よりも低い温度の作動ガスを、ガス供給口11aからコールドスプレー用ノズル12に供給可能に設けられている。
【0022】
コールドスプレー用ノズル12は、一端から他端まで伸びるよう設けられた、ガス供給部11から供給される作動ガスを流すための流路を有している。コールドスプレー用ノズル12は、ガス導入口21とノズル縮小部22とノズル拡大部23と粉末供給口24とを有している。コールドスプレー用ノズル12は、ガス導入口21とガス供給部11のガス供給口11aとが連通するよう、ガス導入口21をガス供給口11aに接続して、ガス供給部11に取り付けられている。
【0023】
ガス導入口21は、流路に連通しており、ガス供給部11から供給される作動ガスを、流路に導入可能に設けられている。ノズル縮小部22は、ガス導入口21の下流側に設けられている。ノズル縮小部22は、流路の内径が、ガス導入口21の内径よりも小さくなるよう形成されている。
【0024】
ノズル拡大部23は、ノズル縮小部22の下流側に設けられ、螺旋部23aと直流部23bと噴射口23cとを有している。螺旋部23aは、流路が上流から下流に向かって螺旋状を成すよう設けられている。直流部23bは、流路が直線状を成すよう設けられ、流路が螺旋部23aから滑らかに連続するよう、螺旋部23aの下流側に接続されている。噴射口23cは、直流部23bの先端かつ流路の先端に設けられている。ノズル拡大部23は、上流から下流に向かって、ノズル縮小部22から徐々に流路の内径が大きくなるよう設けられている。
【0025】
粉末供給口24は、ノズル拡大部23の直流部23bに設けられている。粉末供給口24は、粉末材料を供給するための供給管25が接続されており、供給管25からの粉末材料を流路に供給可能に構成されている。
【0026】
コールドスプレー用ノズル12は、粉末供給口24から供給される粉末材料を、ガス供給部11から供給される作動ガスと共に噴射口23cから噴射するよう構成されている。コールドスプレー用ノズル12は、ガス導入口21から流路に供給された作動ガスを、ノズル縮小部22からノズル拡大部23を通すことにより、作動ガスを加速して噴射口23cから噴射するよう構成されている。コールドスプレー用ノズル12は、螺旋部23aで流路の方向を変えることにより、噴射口23cからの粉末材料の噴射方向が、ノズル縮小部22での作動ガスの流れる方向に対して平行な方向と交わるよう構成されている。
【0027】
図1に示す具体的な一例では、コールドスプレー用ノズル12は、噴射口23cからの粉末材料の噴射方向が、ノズル縮小部22での作動ガスの流れる方向に対して平行な方向とほぼ垂直に交わるよう構成されている。また、コールドスプレー用ノズル12は、市販のラバルノズルを利用して構成されており、ラバルノズルの先端に螺旋部23aおよび直流部23bが取り付けられている。また、ノズル拡大部23は、螺旋部23aでは流路の内径が一定であり、螺旋部23aの上流側の部分および直流部23bでは、上流から下流に向かって、流路の内径が連続的に大きくなるよう構成されている。なお、ノズル拡大部23は、直流部23bを有さず、螺旋部23aの下流側の端部に噴射口23cを有し、螺旋部23aに粉末供給口24を有していてもよい。
【0028】
次に、作用について説明する。
コールドスプレー装置10は、コールドスプレー用ノズル12を使用して、コールドスプレー法により、配管等の基材の表面に、粉末材料による被膜を形成することができる。コールドスプレー用ノズル12は、流路が上流から下流に向かって螺旋状を成すよう設けられた螺旋部23aを介して、噴射口23cからの粉末材料の噴射方向が、ノズル縮小部22での作動ガスの流れる方向に対して平行な方向と交わるよう構成されており、ガス導入口21から供給される作動ガスが流れる方向と交わる方向に粉末材料を噴射することができる。コールドスプレー用ノズル12は、L字型などの折れ曲がりを有する場合と比べて、螺旋部23aにより作動ガスをスムーズに流しながら作動ガスの流れの方向を変えることができるため、渦流の発生を抑えて、粉末材料による詰まりの発生を防ぐことができる。
【0029】
コールドスプレー用ノズル12は、ガス導入口21から供給される作動ガスが流れる方向と交わる方向に粉末材料を噴射することができるため、直線型のノズルにより垂直方向から粉末材料を噴射することが難しい場所でも、効率的に被膜を形成することができる。特に、コールドスプレー用ノズル12は、ガス導入口21から供給される作動ガスが流れる方向に対して、ほぼ垂直に交わる方向に粉末材料を噴射するよう構成することにより、配管の内部に挿入して、配管の内壁面に対して垂直方向から粉末材料を噴射することができ、配管の内壁に効率的に被膜を形成することができる。
【0030】
コールドスプレー用ノズル12は、粉末供給口24が直流部23bに設けられているため、螺旋部23aを作動ガスのみが流れ、螺旋部23aで粉末材料が詰まるのを防ぐことができる。また、流路が螺旋部23aから直流部23bに滑らかに連続しているため、螺旋部23aと直流部23bとの境界で、作動ガスの流れに渦流が発生するのを抑えることができる。このため、直流部23bの粉末供給口24から投入された粉末材料が、渦流の影響により直流部23bで詰まるのを防ぐことができる。
【0031】
[シミュレーション]
図1に示すコールドスプレー装置10について、作動ガスおよび粉末材料の挙動を調べるために、三次元数値シミュレーションを行った。また、比較のため、図2に示す、直線型のノズル(Straight nozzle)51を用いた従来のコールドスプレー装置50についても、同様に三次元数値シミュレーションを行った。なお、図2に示すように、コールドスプレー装置50もラバルノズルを用いており、コールドスプレー装置10のガス供給部11から、コールドスプレー用ノズル12のガス導入口21、ノズル縮小部22、およびノズル拡大部23の上流部(図2中のSの位置)までは、コールドスプレー装置10と同じ構成および形状を成している。
【0032】
シミュレーションでは、図1に示すコールドスプレー装置10のコールドスプレー用ノズル12の、螺旋部23a(図1中のSからEまでの範囲)の螺旋の直径D(Mean coil diameter;MCD)および螺旋の1周期の長さL(Axial pitch:AP)が、粉末材料の速度および温度に及ぼす影響を調べた。また、粉末供給口24の位置についても、その影響を調べた。
【0033】
シミュレーションでは、図1に示すコールドスプレー装置10の、螺旋部23aの螺旋の中心軸に沿った長さを140mm、螺旋部23aの下流端(図1中のEの位置)から噴射口23cまでの長さ(直流部23bの長さ)を60mm、ノズル縮小部22での流路の内径を2mm、螺旋部23aでの流路の内径を4mm、噴射口23cの内径を4.9mmとした。シミュレーションでは、表1に示すDとLの組合せについて計算を行った。また、螺旋部23aで粉末材料が詰まるのを防ぐため、粉末供給口24の位置を、螺旋部23aの下流側とし、螺旋部23aの下流端(図1中のEの位置)からの距離を、2mm、6mm、10mmと変更して計算を行った。
【0034】
【表1】
【0035】
また、図2に示す比較例のシミュレーションでは、ノズルの拡大部52の上流部(図2中のSの位置)から噴射口53までの長さを120mm、ノズル縮小部54での流路の内径を2mm、ノズルの拡大部52の上流部(図2中のSの位置)での流路の内径を4mm、噴射口53の内径を4.8mmとした。粉末供給口55の位置を、ノズルの拡大部52の上流部に固定した。
【0036】
三次元数値シミュレーションでは、市販のソフトウェア「ANSYS Fluent 2020 R2(ANSYS社製)」を用いた。シミュレーションでは、ガス供給部11から供給される作動ガスのガス導入口21での圧力を0.5MPa、温度を623Kとした。また、噴射口23cでの境界圧力を1気圧、粉末供給口24での圧力を1.2気圧とした。シミュレーションに含まれるノズル内壁および噴射対象の基材の表面を、断熱およびすべりなし条件とした。また、図2に示すコールドスプレー装置50では、粉末供給口55での圧力を1気圧とした以外は、図1に示すコールドスプレー装置10と同じ条件とした。
【0037】
シミュレーションでは、粉末材料を、ポリマー樹脂であるペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(perfluoroalkoxy alkane;PFA)とした。粉末材料の粒子径を全て等しいものとし、粉末材料の粒子径を13μmから63μmの範囲で変化させた。また、粉末材料の初期位置を投入面に一様な分布とした。粉末材料の初期速度を0m/s、温度を300Kとした。シミュレーションに用いたPFAの物性値を、表2に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
また、シミュレーションでは、作動ガスを空気とし、圧縮性を考慮して理想気体の状態方程式に従うものとした。また、流れ場での乱流の効果を評価するために、質量保存則、運動量保存則、エネルギー保存則を支配方程式として用いた。定常流の流れ場を評価するために、二次の離散精度を有する連結法を用いた。また、圧力ベースでの解法および標準k-ε乱流モデルを用いた。粉末材料の挙動の解析には、DPM(Dispersed Phase Modeling)法を用いた。粉末材料と気体との体積比が10%未満であるため、流れ場に与える粉末材料の影響を無視した。また、ノズル内部を流れる粉末材料のポリマー粒子のビオ数(Biot number)は1以上であるが、粒子の温度勾配は考慮せず、粒子の平均温度のみを考慮するものとした。
【0040】
シミュレーションでは、図1に示すコールドスプレー用ノズル12で200万個、図2に示す直線型のノズルで170万個の多面体の要素を用いた。ノズル内壁および基材には、5層の境界層を導入し、増加率が1.1の角柱型の独立した要素に分けた。シミュレーションは、連続性、速度、k(乱流の運動エネルギー)、ε(乱流の分散率)の残差が10-3より小さい値まで収束し、エネルギーの残差が10-6よりも小さい値まで収束した段階で終了とした。
【0041】
シミュレーションでは、各ノズルの噴射口23cと基材の表面との間の距離を10mmとし、噴射口23cから噴射された粉末材料が、基材の表面に到達した時の粒子速度および温度について計算を行った。
【0042】
[シミュレーション結果;螺旋部23aの螺旋の直径Dの影響について]
図1に示すコールドスプレー用ノズル12の、螺旋部23aの螺旋の1周期の長さL(AP)を60mmとし、粉末供給口24の位置を、螺旋部23aの下流端(図1中のEの位置)から2mmとし、螺旋部23aの螺旋の直径D(MCD)を変えてシミュレーションを行った。シミュレーションの結果を、図3に示す。図3中には、比較のため、図2に示す従来の直線型のノズル(Straight nozzle)51のシミュレーション結果も示す。
【0043】
図3(a)に示すように、コールドスプレー用ノズル12は、直線型のノズル51と比較すると、いずれの粒子径でも基材到達時の粒子速度が遅いことが確認された。これは、コールドスプレー用ノズル12は、直線型のノズル51と比べて流路長が長く、摩擦損失が大きくなるためであると考えられる。また、螺旋の直径Dが小さいほど粒子速度が遅くなることが確認された。
【0044】
また、螺旋の直径Dの大きさに関わらず、粒子径が23μmで粒子速度が最大となり、粒子径が大きくなるのに従って、粒子速度が小さくなることが確認された。これは、粒子径の増加に伴って慣性が大きくなることから、作動ガスによる粒子の加速度が小さくなるためであると考えられる。また、螺旋の直径Dの大きさに関わらず、粒径が13μmの場合には、粒子径が23μmのときよりも、粒子速度が小さくなっていることが確認された。これは、粒子の慣性が小さいため、基材付近での作動ガスの急激な減速の影響を受けるためであると考えられる。
【0045】
図3(b)に示すように、コールドスプレー用ノズル12は、螺旋の直径Dの大きさに関わらず、粒子径が大きくなるのに従って粒子温度が低下しており、最大で100K以上低下することが確認された。これは、粒子径の増加に伴って、粒子の体積や表面積が増加し、所定の温度になるまでに時間がかかるためであると考えられる。また、粒子径が大きいときには、直線型のノズル51よりも粒子温度が高くなることも確認された。
【0046】
[シミュレーション結果;螺旋部23aの螺旋の1周期の長さLの影響について]
図1に示すコールドスプレー用ノズル12の、螺旋部23aの螺旋の直径D(MCD)を40mmとし、粉末供給口24の位置を、螺旋部23aの下流端(図1中のEの位置)から2mmとし、螺旋部23aの螺旋の1周期の長さL(AP)を変えてシミュレーションを行った。シミュレーションの結果を、図4に示す。図中には、比較のため、図2に示す従来の直線型のノズル(Straight nozzle)51のシミュレーション結果も示す。
【0047】
図4(a)に示すように、コールドスプレー用ノズル12は、図3(a)と同様に、直線型のノズル51と比較すると、いずれの粒子径でも基材到達時の粒子速度が遅いことが確認された。また、螺旋の1周期の長さLが長いほど粒子速度が遅くなることが確認された。
【0048】
また、螺旋の1周期の長さLの大きさに関わらず、図3(a)と同様に、粒子径が23μmで粒子速度が最大となり、粒子径が大きくなるのに従って、粒子速度が小さくなることが確認された。また、螺旋の1周期の長さLの大きさに関わらず、粒径が13μmの場合には、粒子径が23μmのときよりも、粒子速度が小さくなっていることが確認された。
【0049】
図4(b)に示すように、コールドスプレー用ノズル12は、螺旋の1周期の長さLの大きさに関わらず、図3(b)と同様に、粒子径が大きくなるのに従って粒子温度が低下しており、最大で100K以上低下することが確認された。また、粒子径が大きいときには、直線型のノズルよりも粒子温度が高くなることも確認された。また、螺旋の1周期の長さLが長い方が、粒子温度が若干高くなることが確認された。
【0050】
図3(a)および図4(a)の結果から、粒子速度を大きくして成膜効率を高めるためには、螺旋部23aの螺旋の直径Dを大きくする、または、螺旋の1周期の長さLを小さくする方がよいといえる。具体的には、螺旋の1周期の長さLが40mm乃至60mmであり、螺旋の直径Dが40mm乃至60mmであることが好ましいといえる。また、特に、ポリマー粒子から成る粉末材料の直径が、20μm乃至45μmであることが好ましいといえる。
【0051】
また、図3(b)および図4(b)の結果から、螺旋部23aの螺旋の直径D、および、螺旋の1周期の長さLは、粒子温度にはほとんど影響せず、粒子温度を上げて成膜効率を高めるためには、粉末材料の粒子径を小さくしたほうがよいといえる。例えば、ポリマー粒子から成る粉末材料の直径が、10μm乃至45μmであることが好ましいといえる。以上の結果から、粒子速度を大きくして成膜効率を高めるため、および粒子温度を上げて成膜効率を高めるためには、ポリマー粒子から成る粉末材料の直径が、20μm乃至45μmであることが好ましい。
【0052】
[シミュレーション結果;粉末供給口24の位置の影響について]
図1に示すコールドスプレー用ノズル12の、螺旋部23aの螺旋の直径D(MCD)を40mm、螺旋部23aの螺旋の1周期の長さL(AP)を40mmとし、粉末供給口24の位置を、螺旋部23aの下流端(図中のEの位置)から2mm、6mm、10mmと変えてシミュレーションを行った。シミュレーションの結果を、図5に示す。
【0053】
図5(a)に示すように、粒子径が33μm以上のとき、粉末供給口24の位置が螺旋部23aに近い2mmのときの方が6mm、10mmのときより粒子速度が大きく、また、6mmの方が10mmのときより粒子速度が大きいことが確認された。これは、流路の上流で粒子を投入するほど、作動ガスにより加速される経路長が長くなるためであると考えられる。また、粉末供給口24の位置が2mmのときは粒子径が23μm以上で、粉末供給口24の位置が6mmおよび10mmのときは全ての粒子径の範囲で、粒子径が大きくなるのに従って、粒子速度が小さくなることが確認された。
【0054】
図5(b)に示すように、粉末供給口24の位置に関わらず、粒子径が大きくなるのに従って粒子温度が低下しており、最大で100K以上低下することが確認された。また、粉末供給口24の位置が2mmのとき、作動ガスによる加熱時間が長くなるため、他の位置のときと比べて、粒子温度が若干高くなることが確認された。
【0055】
この図5に示す結果から、粉末材料の噴射速度や噴射時の温度を高めるためには、粉末供給口24は、直流部23bの上流側の、螺旋部23aにより近い位置に設けるのがよいといえる。
【符号の説明】
【0056】
10 コールドスプレー装置
11 ガス供給部
11a ガス供給口
12 コールドスプレー用ノズル
21 ガス導入口
22 ノズル縮小部
23 ノズル拡大部
23a 螺旋部
23b 直流部
23c 噴射口
24 粉末供給口
25 供給管

50 (従来の)コールドスプレー装置
51 直線型のノズル
52 ノズルの拡大部
53 噴射口
54 ノズル縮小部
55 粉末供給口


図1
図2
図3
図4
図5