(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175812
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】工作機械の液体排出構造
(51)【国際特許分類】
F16N 31/00 20060101AFI20221117BHJP
F16N 29/02 20060101ALI20221117BHJP
F16N 7/36 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
F16N31/00 A
F16N29/02
F16N7/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082516
(22)【出願日】2021-05-14
(71)【出願人】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100199369
【弁理士】
【氏名又は名称】玉井 尚之
(72)【発明者】
【氏名】松本 吉祝
(57)【要約】
【課題】動力源を必要とせず、省スペースで、液体の逆流防止機能を備えた工作機械の液体排出構造を提供する。
【解決手段】 液体排出構造は、構造体の液体排出口に連通する流入路5と、下方に開口する排出路6とが設けられたブロック状本体2を有している。ブロック状本体2に、流入路5の終端部と連通溝8を介して連通する環状の凹溝7が設けられている。排出路6は、その上端開口が連通溝8の凹溝側開口と位相をずらして凹溝7の一部に連通するように形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の構造体に設けられた液体排出口から液体を外部に排出するための液体排出構造であって、前記構造体の前記液体排出口に連通する流入路と、下方に開口する排出路とが設けられたブロック状本体を有し、前記ブロック状本体に、前記流入路の終端部と連通溝を介して連通する凹溝が設けられており、前記排出路は、その上端開口が前記連通溝の凹溝側開口と位相をずらして前記凹溝の一部に連通するように形成されていることを特徴とする工作機械の液体排出構造。
【請求項2】
前記凹溝の外周は、円形状に形成されていることを特徴とする請求項1の工作機械の液体排出構造。
【請求項3】
前記連通溝は、前記流入路の軸線に対して水平あるいは軸線よりも下側に形成されていることを特徴とする請求項1または2の工作機械の液体排出構造。
【請求項4】
前記連通溝の深さは、前記凹溝の深さよりも浅くなされていることを特徴とする請求項1から3までのいずれかに記載の工作機械の液体排出構造。
【請求項5】
前記排出路の深さは、前記凹溝の深さよりも浅くなされていることを特徴とする請求項1から4までのいずれかに記載の工作機械の液体排出構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の構造体の液体排出口に設けられる液体排出構造に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の加工室内に設けられる刃物台等の構造体では、潤滑油等の液体が使用されており、この液体を排出する一番簡易な構造として、排出口を設けて加工室内に排出するものがある。
【0003】
しかしながら、上記構造では、排出口から液体が逆流して構造体内に流入し、構造体が破損するという問題があった。
【0004】
そこで、逆流を確実に防止するために構造体に加工室へと通じる排出口を設けず、使用済みの潤滑油を専用の装置により回収する方法が提案されている。例えば、特許文献1では、潤滑油回収装置として、排出される潤滑油を回収するための回収タンク、潤滑油を潤滑油排出路へ吸引するポンプ(吸引装置)などを備えたものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1などの潤滑油回収装置によると、潤滑油回収装置のための専用のスペースが必要となり、構造体が大型化し、ポンプなどの吸引装置の動力源のための設備費用も増大するという問題があり、また、動力源に対するランニングコストが発生し、装置も複雑化してメンテナンスが必要となるという問題もある。
【0007】
この発明の目的は、動力源を必要とせず、省スペースで、液体の逆流防止機能を備えた工作機械の液体排出構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明による工作機械の液体排出構造は、工作機械の構造体に設けられた液体排出口から液体を外部に排出するための液体排出構造であって、構造体の液体排出口に連通する流入路と、下方に開口する排出路とが設けられたブロック状本体を有し、ブロック状本体に、流入路の終端部と連通溝を介して連通する凹溝が設けられており、排出路は、その上端開口が連通溝の凹溝側開口と位相をずらして凹溝の一部に連通するように形成されていることを特徴とするものである。
【0009】
連通溝および凹溝は、逆流防止機能を備えたいわゆるラビリンス構造を形成するものとなっている。
【0010】
ブロック状本体は、一体品であってもよく、例えば2分割したものを接合することで形成してもよい。ここで、2分割する場合に、流入路、排出路、連通溝および凹溝が形成されたブロック状本体と、本体にネジなどで取り付けられて本体の一端に開口する排出路、連通溝および凹溝の各開口を閉じるカバーとからなるものとしてもよい。
【0011】
排出路の上端開口と連通溝の凹溝側開口との位相がずらされているとは、排出路の上端開口と連通溝の凹溝側開口とが対向していないことを意味し、例えば、連通溝が水平方向に延び、排出路が垂直方向または斜め方向に延びるように設けられることで、これを実現することができる。
【0012】
構造体の液体排出口から排出された液体は、ブロック状本体に設けられた流入路に流入した後、流入路の終端部から連通溝を介して凹溝内に流入し、凹溝から排出路を介して、下向きに排出される。そして、排出路から逆流した液体に対しては、液体が凹溝内で広がり、開口が排出路の上端開口と位相がずらされている連通溝に流入しにくいものとなり、構造体の液体排出口への液体の浸入防止効果を高めることができる。
【0013】
この液体排出構造を使用する構造体は、常時定位置に維持される必要はなく、旋回や直進移動するものであってもよい。
【0014】
流入路は、例えば水平方向に延びるものとされるが、これに限定されるものではなく、水平方向に対して傾斜していてもよく、L字状とされてもよい。
排出路は、構造体が通常の位置にある場合に真下を向いていることが好ましいが、斜め下向きであってもよい。
【0015】
凹溝は、排出路から逆流した液体が凹溝内で広がることで、液体を連通溝に流入しにくくし、これにより、液体が流入路の入口に到達することを防ぐもので、例えば、凹溝は、流入路の方向(例えば水平方向)に直交する環状とされるが、これに限定されるものではなく、排出路から逆流した液体が凹溝内で広がるようにするものであれば種々の形状とすることができる。
【0016】
連通溝は、一端開口が流入路の終端開口に通じ、他端開口が凹溝の一部に通じるものであればよい。凹溝が流入路の方向に直交する環状とされる場合、連通溝は、凹溝の内周を形成するブロック本体の部分(凹溝内周形成部)を削ることで形成することができる。連通溝は、1本でもよいし、複数本設けてもよい。
【0017】
排出路は、上端開口が凹溝の一部に通じ、下端開口がブロック状本体の下面に臨まされているものであればよい。排出路は、1本でもよいし、2本設けてもよく、2本設ける場合に、互いに平行となるように形成してもよいし、逆V字状になるように形成してもよい。ここで、連通溝の凹溝側開口と排出路の上端開口とは、互いに対向していると、排出路から逆流した液体が連通溝に流入しやすいため、これらの開口同士は、位相がずらされている必要がある。
【0018】
この発明の工作機械の液体排出構造によると、ラビリンス構造を使用して、外部からの液体の浸入を防止しつつ、内部からの液体の排出を確実に行うことができる。したがって、ポンプなどの動力源を必要とせず、省スペースで、液体の逆流防止機能を備えた工作機械の液体排出構造を得ることができる。
【0019】
凹溝の外周は、円形状に形成されていることが好ましい。このようにするには、凹溝を円形の環状(内周も円形)とすればよいが、内周については、円形でなくてもよい。
【0020】
環状の凹溝の外周が円形状であると、排出口から浸入した液体の流れを外周に沿うように誘導する効果が高くなり、排出口から浸入した液体が連通溝に浸入しにくいものとすることができる。
【0021】
凹溝の形状は、環状に限られるものではなく、C字状やU字状として、凹溝の始端側と終端側がそれぞれ別々の排出路に通じるようにしてもよい。このようにすれば、排出路から浸入した液体は、まず、凹溝の内周面を形成する凹溝内周形成部の下面に当たって、凹溝内周形成部の下面でせき止められることになり、連通部に到達しにくいものとなる。凹溝の形状を環状とするとともに、その外周を円形とすると、排出路から浸入した液体の流れが強い場合、液体は、凹溝の外周に沿って移動して、排出路まで戻ってくることができ、より一層連通溝に浸入しにくいものとなる。
【0022】
連通溝は、流入路の軸線に対して水平あるいは軸線よりも下側に形成されていることが好ましい。
連通溝は、排出路からの逆流を防止するために、開口が排出路の上端開口と位相がずれていることが第1の条件となるが、流入路の軸線に対して水平あるいは軸線よりも下側に形成されているという条件を満たすことで、連通溝が上に向いている場合よりも構造体からの液体の排出性を向上させることができる。
【0023】
連通溝の深さは、凹溝の深さよりも浅くなされていることが好ましい。
このようにすると、流入路から凹溝への液体の流入は容易で、排出路から凹溝への液体の浸入は難しくなり、ラビリンス効果を高めることができる。
【発明の効果】
【0024】
この発明の工作機械の液体排出構造によれば、上記のように、動力源を必要とせず、省スペースで、液体の逆流防止機能を備えた工作機械の液体排出構造を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、この発明の工作機械の液体排出構造を示す分解斜視図である。
【
図5】
図5は、排出される液体の流れを示す矢印を
図1に追加した図である。
【
図9】
図9は、外部から浸入した液体の流れを示す矢印を
図1に追加した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、この発明の工作機械の液体排出構造(1)の1実施形態を説明する。以下の説明において、流入路(5)の始端開口(5a)が設けられている側を後、排出路(6)の下端(終端)開口(6b)が設けられている側を下といい、左右は前方に向かっていうものとする。この上下・前後・左右は、便宜的なものであり、工作機械の構造体に設けられた液体排出口に応じて適宜変更されてもよく、また、工作機械の構造体がその位置を変更することに伴って変化することもある。
【0027】
液体排出構造(1)は、直方体のブロック状とされた本体(2)と、本体(2)にネジ(4)で固定されたカバー(3)とを備えており、本体(2)内に、工作機械の構造体の液体排出口(図示略)に連通する流入路(5)と、下方に開口する排出路(6)と、流入路(5)の終端部と左右の連通溝(8)を介して連通する凹溝(7)とが設けられているものである。
【0028】
本体(2)は、その後面(2a)が、構造体における液体排出口が設けられている面に密着するように構造体に取り付けられる。後面(2a)の中央部には、流入路(5)の始端開口(5a)が設けられており、流入路(5)は始端開口(5a)から前方に向かって水平に延びて、その終端開口(5b)は、後述する連通溝(8)に連通するように、本体(2)の前面(2b)の近傍に設けられている。
【0029】
排出路(6)は、本体(2)の前面(2b)の左右の中央部に上下に延びるように設けられており、その上端開口(6a)は、本体(2)の下面(2c)よりも少し上に、その下端開口(6b)は、下面(2c)に開口するように設けられている。
【0030】
凹溝(7)は、本体(2)の前面(2b)に円環状となるように設けられており、その外周(7a)は、排出路(6)の上端開口(6a)を含むように形成され、その内周(7b)は、流入路(5)の終端開口(5b)を囲むように形成されている。
【0031】
左右の連通溝(8)は、凹溝(7)の内周面を形成している本体(2)の前面(2b)に面一の円板状部分(凹溝内周形成部)(9)の上下の中央部が左右方向(水平な径方向)に端から端まで削られることで、流入路(5)の終端開口(5b)から水平方向の左右にそれぞれ延びて、凹溝(7)の内周(7b)に開口するように形成されている。
【0032】
排出路(6)の深さは、凹溝(7)の深さよりも浅くなされており、連通溝(8)の深さも、凹溝(7)の深さよりも浅くなされている。これにより、排出路(6)から凹溝(7)内に流入した液体は、凹溝(7)内で広がり、連通溝(8)から凹溝(7)内に流入した液体も、凹溝(7)内で広がることになる。連通溝(8)の深さは、排出路(6)の深さよりも若干深くなされている。
【0033】
排出路(6)、凹溝(7)および連通溝(8)は、本体(2)の前面(2b)に開口しており、これらの開口は、カバー(3)によって閉じられている。したがって、本体(2)外に露出している開口は、本体(2)の後面(2a)に開口している流入路(5)と、本体(2)の下面(2c)に開口している排出路(6)とだけになっている。
【0034】
この実施形態の液体排出構造(1)によると、
図5から
図8までに二点鎖線の矢印で示すように、構造体から排出されて流入路(5)内に入ってきた液体は、その終端開口(5b)において、左右に分かれて左右の各連通溝(8)内に入り、ここから、凹溝(7)内に入って、排出路(6)から排出される。液体には重力が作用しているので、環状の凹溝(7)における連通溝(8)よりも上方の部分には、液体が流入しにくいものとなっている。こうして、工作機械の構造体の液体排出口から排出された液体は、本体(2)内を経て確実に排出される。
【0035】
そして、排出路(6)から逆流して凹溝(7)内に入った液体は、凹溝(7)の内周面を形成している本体(2)の円板状部分(9)の外周面に当たり、連通溝(8)内には浸入しにくいものとなっており、液体に作用する上向きの力が弱い場合には、自重で排出路(6)から排出される。排出路(6)から凹溝(7)内に入った液体に作用する上向きの力が強い場合、
図9から
図12までに二点鎖線の矢印で示すように、液体は、円板状部分(9)に当たった後、凹溝(7)の外周に沿って移動させられて、排出路(6)まで戻ってくる。戻ってくる途中の液体には、水平方向内向きの力はほとんど作用していないため、連通溝(8)の高さを超えた場合であっても、連通溝(8)内には浸入することはほとんどなく、流入路(5)を経て工作機械の構造体内まで浸入することが確実に防止される。
【0036】
上記実施形態における連通溝(8)および凹溝(7)は、逆流防止機能を奏するためのラビリンス構造を形成するものとなっており、排出路(6)からの液体の逆流を確実に防止することができる。これにより、加工室へと通じる排出口を構造体に設けたとしても逆流による構造体の破損を防止することができるので、排出口を設けないポンプなどの吸引装置を使用して潤滑油を回収するような構造と比較して、省スペース化や低コスト化を実現することができる。
【0037】
なお、図示省略するが、上記実施形態の液体排出構造(1)において、流入路(5)、排出路(6)、凹溝(7)および連通溝(8)の形状については、排出路(6)からの液体の逆流を防止することができるものであれば、種々変更できることはもちろんである。
【符号の説明】
【0038】
(1):液体排出構造
(2):本体
(5):流入路
(6):排出路
(6a):上端開口
(6b):下端開口
(7):凹溝
(7a):外周
(8):連通溝