(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175817
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】鉄道車両用仮台車
(51)【国際特許分類】
B61D 15/00 20060101AFI20221117BHJP
【FI】
B61D15/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082527
(22)【出願日】2021-05-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】祖田 雄輔
(57)【要約】
【課題】リフトアップ量を高くすることができ、かつ下降時の全高の低い鉄道車両用仮台車の提供。
【解決手段】検査・修理をする検修工場で用いる昇降装置を備えて車体10を昇降可能な鉄道車両用の仮台車100において、昇降装置が、テレスコピック構造の油圧シリンダ120であり、油圧シリンダ120のストロークが油圧シリンダ120自身の全長よりも長いことで、シャフトを多段に伸ばして車体10をリフトアップするとともに、シャフトを縮めた状態で車体10の移動をする際には低重心での移動を可能としている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台に備えた昇降装置を用いて車体を昇降可能な鉄道車両用仮台車において、
前記昇降装置が、多段式ロッドを有するテレスコピック構造の単動油圧シリンダであること、
を特徴とする鉄道車両用仮台車。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両用仮台車において、
前記単動油圧シリンダは、前記基台の幅方向の端部の一端側に第1シリンダが、他端側に第2シリンダが、それぞれのシリンダ部のロッド側端部を保持されて備えられていること、
を特徴とする鉄道車両用仮台車。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の鉄道車両用仮台車において、
前記基台に備えられたガイド機構が、テレスコピック構造のガイドロッドであり、
前記単動油圧シリンダの内側に配置されること、
を特徴とする鉄道車両用仮台車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両を検修工場内で運搬する鉄道車両用仮台車に関し、具体的には仮台車の全高を低くする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両を検修工場で検査・整備するにあたって、車体から台車を外して仮台車に乗せ替え、台車の検査・整備も行っている。この際に用いられる仮台車は、一つの車体に対して概ね前後に2つ配置されている。工場内に敷設されたレール上を、車体を搭載して走行することができる。また、昇降装置を備えていて鉄道車両の高さを変更することができるため、車体をリフトアップした状態で、車体の下部に設けられている床下機器の取り外し、取り付けを行うことができる。こうした技術は従来から様々な形で提案されている。
【0003】
特許文献1には、鉄道車両用仮台車に関する技術が開示されている。鉄道車両の車体を保持する車体受台に連結された各油圧シリンダに独立して油圧回路が接続され、各油圧回路を独立に操作して、各油圧シリンダに給排される油圧を調整することで、各油圧シリンダの伸縮を同調させつつ鉄道車両の車体を平行状態で昇降可能とした構成が示されている。
【0004】
特許文献2には、車体搬送用仮台車に関する技術が開示されている。走行可能とした台枠上に八字状に配列した4本のシリンダで車体を支持する昇降支持台を取り付け、この昇降支持台の下面中央に断面が四角形のガイド柱を設け、このガイド柱が挿入され摺動するガイド受けとシリンダへ油を供給する油圧供給装置を台車上に取り付ける。台車の搬送には、台枠に駆動装置を装着して走行機能を持たせた自走仮台車と走行機能を持たない付随仮台車を用いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-119773号公報
【特許文献2】特開平5-131901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、車体の床下スペースに艤装する変圧器やコンプレッサーなどが大きく重くなる傾向にあり、配管及び配線なども複雑化していることもあって、車体のリフトアップ量を増やしたい場合がある。特許文献1及び特許文献2に記載の技術を用いた場合、車体のリフトアップ量を増やそうとすると、リフトアップに用いるシリンダの全長が長くなるため、仮台車の全高を高くする必要がある。
【0007】
仮台車の昇降装置であるシリンダの上端に設けられた基台が下降端にいる時の仮台車の全高が高くなると、車体を仮台車に乗せる際の作業がやりづらくなる上、車体を搬送する際に全体の重心が高くなり、転倒のリスクが高くなるため望ましくない。
【0008】
そこで、本発明はこの様な課題を解決し、リフトアップ量を高くすることができてかつ下降時の全高の低い鉄道車両用仮台車の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の一態様による鉄道車両用仮台車は、以下のような特徴を有する。
【0010】
(1)基台に備えた昇降装置を用いて車体を昇降可能な鉄道車両用仮台車において、
前記昇降装置が、多段式ロッドを有するテレスコピック構造の単動油圧シリンダであること、
を特徴とする。
【0011】
上記(1)に記載の態様により、単動油圧シリンダのストロークが全長より長くできるため、鉄道車両用仮台車の下降時の全高を低く、かつ重心を低くすることができ、仮台車に車体が乗った状態での転倒リスクを軽減することが可能となる。仮台車に用いる油圧シリンダは、構造が簡略化できるために複動タイプのものが用いられるケースが多いが、本発明では油圧シリンダの構造を単動タイプとしたことで、重心が油圧シリンダのキャップ側に寄せられることと、テレスコピック構造を採用したことで高ストロークと下降時の仮台車の低床性を両立している。
【0012】
(2)(1)に記載の鉄道車両用仮台車において、
前記単動油圧シリンダは、前記基台の幅方向の端部の一端側に第1シリンダが、他端側に第2シリンダが、それぞれのシリンダ部のロッド側端部で保持されて備えられていること、
が好ましい。
【0013】
上記(2)に記載の態様により、単動油圧シリンダを仮台車の幅方向外側に配置することによって、メンテナンス性が向上する効果が得られる。油圧シリンダのメンテナンスを行う場合には、仮台車の側面からアクセスして作業が行える。また、油圧シリンダのロッド側、即ちロッドの突出する側を支持する構造になっているために、キャップ側に設けられている作動油の供給口へのアクセスがし易く、このこともメンテナンス性の向上に寄与している。
【0014】
(3)(1)または(2)に記載の鉄道車両用仮台車において、
前記基台に備えられたガイド機構が、テレスコピック構造のガイドロッドであり、
前記単動油圧シリンダの内側に配置されること、
が好ましい。
【0015】
上記(3)に記載の態様により、ガイド機構に単動油圧シリンダと同じくテレスコピック構造を採用しているため、仮台車のリフトアップ量を増やした場合に対応可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図4】本実施形態の、車体を仮台車によってリフトアップした状態の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
まず、本発明の実施形態について、図面を用いて説明を行う。
図1に、本実施形態の、仮台車100の模式側面図を示す。
図2に、仮台車100の模式正面図を示す。
図3に、仮台車100の斜視図を示す。鉄道車両の車体10を工場内で移動させるための仮台車100は、車輪160を備えた下部基台110と車体10を支える上部受台130よりなる。
【0018】
下部基台110には、昇降装置としてテレスコピック構造を採用した単動タイプの油圧シリンダ120が備えられ、上部受台130を昇降させる機能を有している。油圧シリンダ120は多段式のロッド125(
図4参照)を伸ばすことで本実施形態では3段式で上部受台130を600mmリフトアップできるように設定されているが、必要に応じて油圧シリンダ120のストロークを更に伸ばすことを妨げない。
【0019】
下部基台110にはガイドシャフト140(第1ガイドシャフト140aと第2ガイドシャフト140b)を備えており、油圧シリンダ120と同様にテレスコピック構造を採用している。下部基台110は、角形鋼管よりなる横梁111及び縦梁112を、井桁状に組み合わせて構成されている。横梁111は工場内の床面に敷設されたレール20と直交するように、縦梁112はレール20と平行となるように配置される。縦梁112の間には下面側に桟材113が渡され、溶接されている。
【0020】
また下部基台110には、4つの車輪160が設けられており、工場内の床面に敷設されたレール20の上を走行可能となっている。車輪160は縦梁112の内側に配置されて図示しない軸受けに保持されている。また車輪160は、図示しない駆動用モータによって駆動する方式となっている。
【0021】
油圧シリンダ120とガイドシャフト140、
図2に示すように下部基台110の左右に各1基ずつ、具体的には、外側(車体幅方向外側)に油圧シリンダ120(第1シリンダ120a及び第2シリンダ120b)が、その間にガイドシャフト140が配置される。
【0022】
第1シリンダ120aは横梁111の一端に、第2シリンダ120bは横梁111の他端にそれぞれ最も距離が遠くなるように配置されている。横梁111は、リフトアップする車体10と同等の幅に設定されており、油圧シリンダ120は側構体の直下近傍に配置される位置関係としている。
【0023】
油圧シリンダ120はテレスコピック構造を採用した単動式の油圧駆動型シリンダであり、多段のロッドが油圧によって伸縮する構造となっている。油圧シリンダ120の取り付け位置は、油圧シリンダ120のシリンダ部のロッド側端部が下部基台110に保持されている。具体的には横梁111に渡されたブラケット114に回動可能に保持されている。2つのブラケット114で1つの油圧シリンダ120を保持するため、仮台車100には合計4つのブラケット114が固定されている。
【0024】
上部受台130の昇降は油圧シリンダ120の伸縮によって実現され、この昇降をガイドする役目を果たすのが下部基台140に取り付けられたガイドシャフト140である。ガイドシャフト140も、油圧シリンダ120のストロークにあわせるためにテレスコピック構造を採用している。油圧シリンダ120は、接続される油圧制御機器115によって油圧を送られることで動作する。第1シリンダ120aと第2シリンダ120bは、上部受台130の上面の水平を維持するように制御される。
【0025】
上部受台130は
図2に示すようにレール幅方向に長く作られており、その両側上面には枕部材135がそれぞれ配設され、車体10の下部に当接し、支持する。一方、上部受台130の下面には油圧シリンダ120とガイドシャフト140が固定されている。なお、図には複数(本実施例では2つ)の枕部材135を用いて高さを変更することが可能な構成としている。これを一体の部材にすることを妨げない。
【0026】
油圧シリンダ120を制御する油圧制御機器115は、下部基台110の桟材113に固定されている。油圧制御機器115は、仮台車100の側面に備えられた制御盤116に接続されている。なお、
図3では、説明のために油圧制御機器115を省略して描いてある。制御盤116にて操作を行うことで、油圧制御の操作を行う。なお、特に図示しないが、ティーチングペンダントのような遠隔操作装置を用いて操作しても良い。また、対となる仮台車100との協調制御を行う場合には、別途通信ケーブルを接続しても良い。
【0027】
本実施形態の鉄道車両用の仮台車100は上記構成であるため、以下に示すような作用及び効果を奏する。
【0028】
まず、仮台車100のリフトアップ量を大きくしつつかつ全高hの低い仮台車100の提供が可能となる。これは、昇降装置を備えて車体10を昇降可能な鉄道車両用の仮台車100において、昇降装置が、多段式のロッド125を有したテレスコピック構造の油圧シリンダ120であること、を特徴とするためである。
【0029】
図4に、車体10を仮台車100によってリフトアップした状態を実線で、搬送時の状態を二点鎖線で描いた模式図を示す。車体10を仮台車100によって搬送する場合には油圧シリンダ120は下降端にある状態とし、所定の場所に移動した後、仮台車100を停止させて油圧シリンダ120によって車体10を持ち上げる。油圧シリンダ120及びガイドシャフト140にテレスコピック構造を採用することで、油圧シリンダ120のストロークを長く取ることが可能となり、結果的に仮台車100の全高hを低く抑えたままで車体10のリフトアップ量を増やすことが可能となる。
【0030】
車体10の下面を整備するにあたって、床下作業空間を十分確保するためには十分なストロークSTが必要となる。一方で、車体10を仮台車100で移動させる時には、仮台車100の全高hは極力低い方が望ましい。これは課題に示した通り、車体10の搬送時における転倒リスクを下げたいからである。重心が低い状態で搬送できることが望ましく、その為には、できるだけ油圧シリンダ120の収縮時の全長を短くする必要がある。油圧シリンダ120にテレスコピック構造を採用することで、シャフトを多段に伸ばすことができるので、結果的に車体10の全高hを低くすることが可能となる。
【0031】
また、油圧シリンダ120の取り付けについても、下部基台110の横梁111に渡されたブラケット114から吊り下げる構造としていることで、油圧シリンダ120の全長を長くとることが出来る。また、油圧シリンダ120に複動タイプではなく単動タイプのものを用いた点も、仮台車100の全高hを下げることに貢献している。
【0032】
更に、単動タイプの油圧シリンダ120を用いることで、仮台車100の重心を下げることにも貢献している。これは油圧シリンダ120のロッドが突出するロッド側に油圧を供給する供給口を設ける必要がなく、反対側のキャップ側に供給口を設ける構成なので、油圧シリンダ120の重心が仮台車100の下側に移動する結果となる為である。こうして、仮台車100の全高hが低くなり重心が低くなることで、車体10を搬送する際の転倒リスクを低減することが可能である。また、車体10をリフトアップしている際にも低重心の方が有利となる。
【0033】
また、油圧シリンダ120を横梁111の端部に配置することで、仮台車100のメンテナンス性を向上させている。ガイドシャフト140に比べて油圧機器である油圧シリンダ120の方が頻繁にメンテナンスする必要があることから、ガイドシャフト140の外側に油圧シリンダ120を配置して、アクセスしやすくすることでメンテナンス性を向上させることができる。
【0034】
以上、本発明に係る鉄道車両用の仮台車100に関する説明をしたが、本発明はこれに限定されるわけではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。例えば、テレスコピック構造の油圧シリンダ120やガイドシャフト140の段数を増やすことを妨げない。また、下部基台110の上に油圧制御機器115を設ける構成としているが、大径の車輪160を用いた場合には、下部基台110の下面に油圧制御機器115を取り付ける構造としても良い。
【符号の説明】
【0035】
10 車体
100 仮台車
110 下部基台
120 油圧シリンダ
125 ロッド
130 上部受台
140 ガイドシャフト