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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175836
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】電磁石及び荷電粒子加速装置
(51)【国際特許分類】
   H05H 7/04 20060101AFI20221117BHJP
   H05H 13/04 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
H05H7/04
H05H13/04 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082565
(22)【出願日】2021-05-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横田 龍輝
(72)【発明者】
【氏名】田島 裕二郎
【テーマコード(参考)】
2G085
【Fターム(参考)】
2G085AA13
2G085BA13
2G085BA14
2G085BC02
2G085BC05
2G085BD01
2G085EA07
(57)【要約】
【課題】分離した荷電粒子ビームの軌道と電磁石との干渉を回避しつつ、分離した荷電粒子ビームの軌道とメイン領域を進行する荷電粒子ビームの軌道との離反距離を十分に確保できること。
【解決手段】四極電磁石14は、荷電粒子ビームである周回ビーム2Aが進行するためのメイン領域23のほかに、分離した荷電粒子ビームである出射ビーム2Bが進行するためのビーム通過ギャップ26が設けられた鉄心20と、鉄心に巻き回された励磁コイル21A、21B、21C、21Dと、鉄心のメイン領域23に設けられて、内部を周回ビーム2Aが進行するメイン真空ダクト12と、鉄心のビーム通過ギャップ26に設けられて、内部を出射ビーム2Bが進行するサブ真空ダクト17と、を有して構成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームが進行するためのメイン領域の他に、分離した前記荷電粒子ビームが進行するためのビーム通過ギャップが設けられた鉄心と、
前記鉄心に巻き回された励磁コイルと、
前記鉄心の前記メイン領域に設けられて、内部を前記荷電粒子ビームが進行するメイン真空ダクトと、
前記鉄心の前記ビーム通過ギャップに設けられて、内部を分離した荷電粒子ビームが進行するサブ真空ダクトと、を有して構成されたことを特徴とする電磁石。
【請求項2】
前記鉄心には、ビーム通過ギャップが複数設けられたことを特徴とする請求項1に記載の電磁石。
【請求項3】
前記鉄心には、荷電粒子ビームが進行しないビーム不通過ギャップが設けられたことを特徴とする請求項1または2に記載の電磁石。
【請求項4】
前記ビーム不通過ギャップには、ビーム通過ギャップに設けられたサブ真空ダクトと同様な構成の構造物が設けられたことを特徴とする請求項3に記載の電磁石。
【請求項5】
前記鉄心には、ビーム通過ギャップの周囲またはビーム不通過ギャップの周囲をそれぞれ支持する支持部材が配置されたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電磁石。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電磁石を備えて構成されたことを特徴とする荷電粒子加速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は電磁石、及びこの電磁石を備えた荷電粒子加速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子加速装置は、電子や陽子をはじめとする荷電粒子を加速し、高エネルギの状態にする装置である。この荷電粒子加速装置から取り出された荷電粒子ビームは、例えば癌の粒子線治療や素粒子物理研究、新素材の開発などの幅広い分野で用いられる。
【0003】
一方、上述の荷電粒子加速装置では、荷電粒子ビームは主に電磁石によってその軌道や形状が制御される。例えば、荷電粒子加速装置としてのシンクロトロンにおいては、荷電粒子ビームは環状に設置された真空ダクトの内部を周回するように偏向電磁石の磁場によって偏向され、荷電粒子ビームの拡散は四極電磁石及び六極電磁石によって抑制される。シンクロトロンにおけるビームの出射部では、静電デフレクタにより荷電粒子を蹴り出し、この蹴り出されて分離された荷電粒子のビームをセプタム電磁石によりビーム周回軌道の外側へ偏向させて、荷電粒子ビームの利用のためにビーム輸送系に送られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平3-55700号公報
【特許文献2】特開2019-96543号公報
【特許文献3】特開2007-35495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図7に示す従来のシンクロトロンのビーム出射部100は、静電デフレクタ101、偏向電磁石102、四極電磁石103及びセプタム電磁石104が順次配置されてなる。このビーム出射部100では、出射される荷電粒子ビームのみをセプタム電磁石104内の磁場で偏向する必要があるため、周回する荷電粒子ビームのビーム周回軌道1Aと出射すべき荷電粒子ビームのビーム出射軌道1Bとのセパレーション(離反距離)を十分にとる必要がある。
【0006】
しかしながら、セプタム電磁石104よりも上流側の四極電磁石103(図8参照)において、荷電粒子ビームの軌道は、励磁コイル105が巻き回される鉄心106の中央位置にある真空ダクト107内に制限される。そのため、ビーム出射軌道1Bの出射ビーム2Bは、四極電磁石103の中央付近を、ビーム周回軌道1Aの周回ビーム2Aに接近した浅い角度で進行しなければならない。従って、ビーム周回軌道1Aとビーム出射軌道1B間に十分なセパレーション(離反距離)を得るためには、四極電磁石103からセプタム電磁石104に至る直線部分の長さL0を大きく設定しなければならない。このことはビーム出射部100の設計尤度が低下する要因になっている。
【0007】
本発明の実施形態は、上述の事情を考慮してなされたものであり、分離した荷電粒子ビームの軌道と電磁石との干渉を回避しつつ、分離した荷電粒子ビームの軌道とメイン領域を進行する荷電粒子ビームの軌道との離反距離を十分に確保できる電磁石及び荷電粒子加速装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態における電磁石は、荷電粒子ビームが進行するためのメイン領域の他に、分離した前記荷電粒子ビームが進行するためのビーム通過ギャップが設けられた鉄心と、前記鉄心に巻き回された励磁コイルと、前記鉄心の前記メイン領域に設けられて、内部を前記荷電粒子ビームが進行するメイン真空ダクトと、前記鉄心の前記ビーム通過ギャップに設けられて、内部を分離した荷電粒子ビームが進行するサブ真空ダクトと、を有して構成されたことを特徴とするものである。
【0009】
本発明の実施形態における荷電粒子加速装置は、前記実施形態に記載の電磁石を備えて構成されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、分離した荷電粒子ビームの軌道と電磁石との干渉を回避しつつ、分離した荷電粒子ビームの軌道とメイン領域を進行する荷電粒子ビームの軌道との離反距離を十分に確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係る電磁石が適用された四極電磁石及び偏向電磁石を備えるシンクロトロンのビーム出射部を示す平面図。
図2図1の四極電磁石を示す正面図。
図3図2の四極電磁石の第1変形形態を示す正面図。
図4図2の四極電磁石の第2変形形態を示す正面図。
図5図1の偏向電磁石を示す正面図。
図6】第2実施形態に係る電磁石が適用されたビーム輸送系の四極電磁石を示す正面図。
図7】従来のシンクロトロンのビーム出射部を示す平面図。
図8図7の四極電磁石を示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を、図面に基づき説明する。
[A]第1実施形態(図1図5
図1は、第1実施形態に係る電磁石が適用された四極電磁石及び偏向電磁石を備えるシンクロトロンのビーム出射部を示す平面図である。荷電粒子加速装置としてのシンクロトロン10は、陽子や電子などの荷電粒子を周回させて加速し、高エネルギの状態にするものであり、メイン真空ダクト12、偏向電磁石13、四極電磁石14、六極電磁石及び高周波加速空胴(共に図示せず)を有して構成される。
【0013】
メイン真空ダクト12は、環状に設置されており、内部を荷電粒子ビームが進行する。偏向電磁石13は、発生する磁場によりメイン真空ダクト12内の荷電粒子ビームを偏向させて、この荷電粒子ビームをメイン真空ダクト12内で周回させる。四極電磁石14及び六極電磁石は、メイン真空ダクト12内の荷電粒子ビームを収束させてその拡散を抑制する。高周波加速空胴は、メイン真空ダクト12内を周回して進行する荷電粒子ビームを加速する。ここで、メイン真空ダクト12内を周回して進行する荷電粒子ビームを周回ビーム2Aと称し、その軌道をビーム周回軌道1Aと称する。
【0014】
シンクロトロン10により加速された荷電粒子ビームは、図1に示すシンクロトロン10のビーム出射部11からビーム輸送系(図示せず)へ出射され、このビーム輸送系を経て粒子線治療や素粒子物理研究などのための各装置へ導かれる。上記ビーム出射部11は、静電デフレクタ15、偏向電磁石13、四極電磁石14及びセプタム電磁石16が順次配置されて構成され、更に、メイン真空ダクト12及びサブ真空ダクト17を有する。
【0015】
静電デフレクタ15は、ビーム周回軌道1Aを周回する周回ビーム2Aの荷電粒子を蹴り出す。この静電デフレクタ15により蹴り出されてビーム周回軌道1Aから分離された荷電粒子のビームはサブ真空ダクト17内を進行し、偏向電磁石13の磁場により、ビーム周回軌道1Aから離反する方向に偏向されて出射ビーム2Bとなる。この出射ビーム2Bの軌道をビーム出射軌道1Bと称する。サブ真空ダクト17内を進行する出射ビーム2Bは、四極電磁石14の磁場により再度ビーム周回軌道1Aから離反する方向へ偏向され、セプタム電磁石16によりビーム周回軌道1Aから更に離反する方向に偏向されて、ビーム輸送系に送られる。
【0016】
上述のシンクロトロン10のビーム出射部11における四極電磁石14を図2に示し、その変形形態を図3及び図4に示し、更に、ビーム出射部11における偏向電磁石13を図5に示す。
【0017】
図2に示す四極電磁石14は、鉄心20、励磁コイル21A、21B、21C及び21D、並びに支持部材22を有し、更に、前述のメイン真空ダクト12及びサブ真空ダクト17を有して構成される。
【0018】
四極電磁石14の鉄心20は、正面視矩形状の中央位置に空隙(ギャップ)であるメイン領域23が形成される。更に、鉄心20は、メイン領域23を臨む周辺部24から等間隔にメイン領域23へ向かって磁極部25が4本突設されると共に、周辺部24に単一のビーム通過ギャップ26が形成される。メイン領域23は周回ビーム2Aを進行させるために、ビーム通過ギャップ26は出射ビーム2Bを進行させるためにそれぞれ設けられたものである。
【0019】
4本の各磁極部25に、励磁コイル21A、21B、21C、21Dがそれぞれ巻き回される。また、支持部材22は、鉄心20の周辺部24におけるビーム通過ギャップ26の周囲、つまりビーム通過ギャップ26を臨む位置に掛け渡されて固定され、周辺部24におけるビーム通過ギャップ26の周囲を支持して補強する。この支持部材22は、非磁性体にて構成される。
【0020】
鉄心20のメイン領域23内にメイン真空ダクト12が配置され、このメイン真空ダクト12の内部を周回ビーム2Aが進行する。メイン真空ダクト12は非磁性体にて構成されると共に、内部が真空に保持されることで、進行する周回ビーム2Aに対しビーム損失を抑制する。このメイン真空ダクト12内を進行する周回ビーム2Aは、励磁コイル21A~21Dにより励起された磁場Mによってメイン真空ダクト12の中央位置に収束され、拡散が抑制される。
【0021】
鉄心20のビーム通過ギャップ26内にサブ真空ダクト17が配置され、このサブ真空ダクト17の内部をビーム周回軌道1Aから分離した出射ビーム2Bが進行する。サブ真空ダクト17は、非磁性体にて構成されると共に、内部が真空に保持されることで、進行する出射ビーム2Bに対しビーム損失を抑制する。このサブ真空ダクト17内を進行する出射ビーム2Bは、ビーム通過ギャップ26に生じた磁場Nによってビーム周回軌道1A(周回ビーム2A)から離反する方向Pに偏向される。
【0022】
上述のようにメイン領域23及びビーム通過ギャップ26が形成された鉄心20は、四極電磁石14の磁場の対称性を維持するように、その厚さを含めた形状が調整されている。
【0023】
図3に示す四極電磁石27は四極電磁石14の第1変形形態である。この四極電磁石27では、鉄心28にメイン領域23及びビーム通過ギャップ26が形成されると共に、ビーム通過ギャップ26の対称な位置にビーム不通過ギャップ29X、29Y、29Zが形成されている。例えば、ビーム不通過ギャップ29Zは、ビーム通過ギャップ26に対向する位置に形成され、ビーム不通過ギャップ29X及び29Yは、ビーム通過ギャップ26に対し互いに反対方向に90度離れた位置に形成される。これらのビーム不通過ギャップ29X、29Y及び29Zは、荷電粒子ビームが進行(通過)しないギャップである。
【0024】
ビーム不通過ギャップ29X、29Y及び29Zは、ビーム通過ギャップ26と同様な形状に形成され、これにより、四極電磁石27の磁場の対称性が維持される。また、鉄心28には、ビーム不通過ギャップ29X、29Y、29Zのそれぞれの周囲に、つまりビーム不通過ギャップ29X、29Y、29Zのそれぞれを臨む位置に支持部材22が掛け渡されて固定されて、鉄心28のビーム不通過ギャップ29X~29Zのそれぞれの周囲が支持されて補強される。
【0025】
図4に示す四極電磁石30は四極電磁石14の第2変形形態である。この四極電磁石30では、鉄心は第1変形形態の鉄心28であり、この鉄心28のビーム不通過ギャップ29X、29Y、29Zのそれぞれに、四極電磁石30の磁場の対称性をより厳密に維持するための構造物31が配置される。この構造物31は、ビーム通過ギャップ26に配置されたサブ真空ダクト17と同様な構成、例えば非磁性体製の筒形状に形成される。
【0026】
図5に示す偏向電磁石13は、四極電磁石14の第2変形形態の四極電磁石30と同様な構成である。つまり、正面視矩形状の鉄心32の中央位置にメイン領域35が形成され、鉄心32はメイン領域35を臨む周辺部36の対向位置に、メイン領域35へ向かって磁極部37が突設される。各磁極部37に励磁コイル33X、33Yがそれぞれ巻き回される。
【0027】
鉄心32の周辺部36には、ビーム通過ギャップ38が形成されると共に、このビーム通過ギャップ38の対向位置にビーム不通過ギャップ39が形成される。鉄心32の周辺部36におけるビーム通過ギャップ38とビーム不通過ギャップ39のそれぞれの周囲、つまりビーム通過ギャップ38とビーム不通過ギャップ39のそれぞれを臨む位置に、非磁性体製の支持部材34が掛け渡されて固定される。この支持部材34が、鉄心32の周辺部36におけるビーム通過ギャップ38、ビーム不通過ギャップ39のそれぞれの周囲を支持して補強する。
【0028】
鉄心32のメイン領域35内にメイン真空ダクト12が配置され、このメイン真空ダクト12の内部を周回ビーム2Aが進行する。このメイン真空ダクト12内を進行する周回ビーム2Aは、励磁コイル33X及び33Yにより励起される磁場Sによってビーム位置が偏向されて、メイン真空ダクト12内を周回する。
【0029】
鉄心32のビーム通過ギャップ38内にサブ真空ダクト17が配置され、このサブ真空ダクト17の内部をビーム周回軌道1Aから分離した出射ビーム2Bが進行する。このサブ真空ダクト17を進行する出射ビーム2Bは、ビーム通過ギャップ38に生じた磁場Tによってビーム周回軌道1A(周回ビーム2A)から離反する方向Pに偏向される。また、鉄心32のビーム不通過ギャップ39内に、偏向電磁石13の磁場の対称性を厳密に維持するための構造物31が配置されている。
【0030】
以上のように構成されたことから、本第1実施形態の四極電磁石14、27及び30によれば、次の効果(1)及び(2)を奏する。偏向電磁石13においても、四極電磁石14等と同様な効果を奏する。
【0031】
(1)シンクロトロン10のビーム出射部11に設けられた四極電磁石14、27及び30の鉄心20、28には、周回ビーム2Aを進行させるためのメイン領域23のほかに、ビーム周回軌道1Aから分離して出射する出射ビーム2Bを進行させるためのビーム通過ギャップ26が設けられている。このため、出射ビーム2Bのビーム出射軌道1Bと四極電磁石14、27及び30との干渉を回避しつつ、サブ真空ダクト17内の出射ビーム2Bのビーム出射軌道1Bとメイン真空ダクト12内の周回ビーム2Aのビーム周回軌道1Aとの図1に示す離反距離(セパレーション)Hを十分に確保することができる。この結果、シンクロトロン10のビーム出射部11における四極電磁石14、27、30からセプタム電磁石16に至る直線部分の長さLを、従来の直線部分の長さL0(図7)に比べて短縮できるので、シンクロトロン10のビーム出射部の設計尤度を向上させることができる。
【0032】
(2)ビーム周回軌道1Aから分離して出射するサブ真空ダクト17内の出射ビーム2Bは、四極電磁石14、27、30の鉄心20、28のビーム通過ギャップ26を進行するとき、このビーム通過ギャップ26内の磁場Nによって、鉄心20、28のメイン領域23のメイン真空ダクト12内を進行する周回ビーム2Aのビーム周回軌道1Aから離反する方向Pに偏向される。この観点からも、出射ビーム2Bのビーム出射軌道1Bと周回ビーム2Aのビーム周回軌道1Aとの図1に示す離反距離(セパレーション)Hを、更に十分に確保できる。この結果、シンクロトロン10のビーム出射部11に設置されたセプタム電磁石16を削減または省略できるので、ビーム出射部11における直線部分の長さLの短縮と相俟って、シンクロトロン10の設置面積を減少させることができる。
【0033】
[B]第2実施形態(図6
図6は、第2実施形態に係る電磁石が適用されたビーム輸送系の四極電磁石を示す正面図である。この第2実施形態において第1実施形態と同様な部分ついては、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0034】
本第2実施形態の電磁石としての四極電磁石40が第1実施形態と異なる点は、四極電磁石40がビーム輸送系に設置された電磁石であると共に、この四極電磁石40を構成する鉄心41の周辺部42に、荷電粒子ビーム2Cのビーム軌道1Cから分離した荷電粒子ビーム2D、2Eが進行するためのビーム通過ギャップが複数、例えば2個(ビーム通過ギャップ26及び43)が形成された点である。
【0035】
つまり、四極電磁石40は、鉄心41、励磁コイル21A~21D、及び支持部材22を有し、更に、メイン真空ダクト12及びサブ真空ダクト17を有して構成される。鉄心41は、正面視矩形状の中央位置に空隙(ギャップ)であるメイン領域23が形成される。更に、鉄心41は、メイン領域23を臨む周辺部42から等間隔にメイン領域23へ向かって磁極部25が4本突設されると共に、それぞれの磁極部25に励磁コイル21A、21B、21C、21Dが巻き回される。
【0036】
鉄心41の周辺部42には、対向位置にビーム通過ギャップ26、43がそれぞれ1個形成されると共に、ビーム不通過ギャップ29X、29Yが対向して形成される。また鉄心41の周辺部42には、ビーム通過ギャップ26、43、ビーム不通過ギャップ29X、29Yの周囲、つまりビーム通過ギャップ26、43、ビーム不通過ギャップ29X、29Yをそれぞれ臨む位置に支持部材22が架け渡されて固定されて、鉄心41の周辺部42におけるビーム通過ギャップ26、43、ビーム不通過ギャップ29X、29Yのそれぞれの周囲が支持されて補強される。
【0037】
メイン真空ダクト12は、鉄心41のメイン領域23内に配置され、このメイン真空ダクト12の内部を荷電粒子ビーム2Cが進行する。このメイン真空ダクト12内を進行する荷電粒子ビーム2Cは、励磁コイル21A~21Dにより励起された磁場Mによってメイン真空ダクト12の中央位置に収束され、拡散が抑制される。この荷電粒子ビーム2Cの軌道がビーム軌道1Cである。
【0038】
サブ真空ダクト17は、鉄心41のビーム通過ギャップ26、43のそれぞれに配置され、これらのサブ真空ダクト17の内部を、ビーム軌道1Cから分離した荷電粒子ビーム2D、2Eがそれぞれ進行する。荷電粒子ビーム2Dの軌道がビーム軌道1Dであり、荷電粒子ビーム2Eの軌道がビーム軌道1Eである。
【0039】
ビーム通過ギャップ26に配置されたサブ真空ダクト17内を進行する荷電粒子ビーム2Dは、ビーム通過ギャップ26に生じた磁場Nによってビーム軌道1C(荷電粒子ビーム2C)から離反する方向Pに偏向される。また、ビーム通過ギャップ43に配置されたサブ真空ダクト17内を進行する荷電粒子ビーム2Eは、ビーム通過ギャップ43に生じた磁場Kによってビーム軌道1C(荷電粒子ビーム2C)から離反する方向Qに偏向される。ここで、離反する方向Qは、例えば離反する方向Pと反対方向である。
【0040】
以上のように構成されたことから、本第2実施形態によれば、次の効果(3)を奏する。
(3)四極電磁石40の鉄心41には、荷電粒子ビーム2Cを進行させるためのメイン領域23のほかに、荷電粒子ビーム2Cのビーム軌道1Cから分離した荷電粒子ビーム2D、2Eをそれぞれ進行させるための複数のビーム通過ギャップ(ビーム通過ギャップ26及び43)が設けられている。このため、分離した荷電粒子ビーム2Dのビーム軌道1D及び分離した荷電粒子ビーム2Eのビーム軌道1Eと四極電磁石40との干渉を回避しつつ、荷電粒子ビーム2Dのビーム軌道1Dと荷電粒子ビーム2Cのビーム軌道1Cとの離反距離、荷電粒子ビーム2Eのビーム軌道1Eと荷電粒子ビーム2Cのビーム軌道1Cとの離反距離をそれぞれ十分に確保することができる。
【0041】
従って、この四極電磁石40によって、荷電粒子ビーム毎に進行すべきビーム通過ギャップ26、43を選択することで、各荷電粒子ビーム(例えば荷電粒子ビーム2D、2E)を異なる方向へ偏向させることができる。この結果、1台の四極電磁石40で荷電粒子ビーム(例えば荷電粒子ビーム2D、2E)を異なる方向に同時に分岐することができる。
【0042】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができ、また、それらの置き換えや変更は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0043】
2A…周回ビーム(荷電粒子ビーム)、2B…出射ビーム(荷電粒子ビーム)、10…シンクロトロン(荷電粒子加速装置)、11…ビーム出射部、12…メイン真空ダクト、13…偏向電磁石(電磁石)、14…四極電磁石(電磁石)、17…サブ真空ダクト、20…鉄心、21A~21D…励磁コイル、22…支持部材、23…メイン領域、26…ビーム通過ギャップ、27…四極電磁石(電磁石)、28…鉄心、29X~29Z…ビーム不通過ギャップ、30…四極電磁石(電磁石)、31…構造物、32…鉄心、33X、33Y…励磁コイル、34…支持部材、35…メイン領域、38…ビーム通過ギャップ、39…ビーム不通過ギャップ、40…四極電磁石(電磁石)、41…鉄心、42…周辺部、43…ビーム通過ギャップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8