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特開2022-175845高周波増幅装置および磁気共鳴イメージング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175845
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】高周波増幅装置および磁気共鳴イメージング装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20221117BHJP
   G01N 24/00 20060101ALI20221117BHJP
   G01R 33/36 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
A61B5/055 351
G01N24/00 580B
G01R33/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082584
(22)【出願日】2021-05-14
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川口 進
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AB34
4C096AD10
4C096AD23
4C096CC32
4C096CC40
(57)【要約】
【課題】高周波増幅回路のリニアリティを維持する機能をさらに高めること。
【解決手段】実施形態に係る高周波増幅装置は、高周波増幅回路と、負荷インピーダンス演算部と、第1の制御部とを備える。高周波増幅回路は、入力された高周波信号を増幅させる電力増幅素子を有する。負荷インピーダンス演算部は、高周波増幅回路の出力側の電圧定在波比および位相に関する情報に基づいて、負荷インピーダンスを算出する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された高周波信号を増幅させる電力増幅素子を有する高周波増幅回路と、
前記高周波増幅回路の出力側の電圧定在波比および位相に関する情報に基づいて、負荷インピーダンスを算出する負荷インピーダンス演算部と、
前記負荷インピーダンス演算部によって算出された前記負荷インピーダンスに応じて、前記電力増幅素子に印加されるバイアス電圧を制御する第1の制御部と、
を備える高周波増幅装置。
【請求項2】
前記第1の制御部による制御の下、出力するバイアス電圧の大きさを変更する電圧可変回路と、
前記電力増幅素子の温度を計測する温度センサと、
前記温度センサにより計測された温度と、前記電圧可変回路から出力された電圧とに基づいて、温度補償されたバイアス電圧を前記電力増幅素子に印加する温度補償回路と、をさらに備える、
請求項1に記載の高周波増幅装置。
【請求項3】
前記温度センサと前記温度補償回路との通信を接続または遮断するスイッチ、をさらに備える、
請求項2に記載の高周波増幅装置。
【請求項4】
前記負荷インピーダンス演算部によって算出された前記負荷インピーダンスに応じて、前記高周波増幅回路に入力される前記高周波信号の振幅および位相を制御する第2の制御部、をさらに備える、
請求項1から3のいずれか1項に記載の高周波増幅装置。
【請求項5】
前記負荷インピーダンス演算部によって算出された前記負荷インピーダンスに応じて、前記電力増幅素子に印加するドレイン電圧を制御する第3の制御部、をさらに備える、
請求項4に記載の高周波増幅装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の高周波増幅装置と、
前記高周波増幅装置から出力された出力信号に基づいて、高周波磁場を発生させるRFコイルと、
を備える磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
請求項3に記載の高周波増幅装置と、
前記高周波増幅装置から出力された出力信号に基づいて、高周波磁場を発生させる送信コイルと、
前記高周波磁場の影響によって被検体から発せられる磁気共鳴信号を受信する受信コイルと、を備え、
前記高周波増幅装置は、
前記送信コイルおよび前記受信コイルにより前記被検体をプリスキャンする場合に、前記スイッチを開状態とし、前記送信コイルおよび前記受信コイルにより前記被検体を本スキャンする場合に、前記スイッチを閉状態とする第4の制御部、をさらに備える、
磁気共鳴イメージング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、高周波増幅装置および磁気共鳴イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁気共鳴イメージング(Magnetic Resonance Imaging:MRI)装置においては、高周波を増幅する高周波増幅装置が用いられている。高周波増幅装置においては、負荷インピーダンスが規定の値から変動することによって生じるインピーダンス不整合が、リニアリティの低下の要因となり得る。このため、このような高周波増幅装置においては、リニアリティの低下を低減するための技術が用いられてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-37158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本明細書及び図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の一つは、高周波増幅回路のリニアリティを維持する機能をさらに高めることである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置づけることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係る高周波増幅装置は、高周波増幅回路と、負荷インピーダンス演算部と、第1の制御部とを備える。高周波増幅回路は、入力された高周波信号を増幅させる電力増幅素子を有する。負荷インピーダンス演算部は、高周波増幅回路の出力側の電圧定在波比および位相に関する情報に基づいて、負荷インピーダンスを算出する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、実施形態に係る送信回路の構成の一例を示すブロック図である。
図3図3は、実施形態に係る高周波増幅回路の構成の一例を示す図である。
図4図4は、実施形態に係るドレイン電圧、ドレイン電流、およびバイアス電圧と、電力増幅素子の動作点と関係の一例を示すグラフである。
図5図5は、増幅信号の出力波形の一例を模式的に示す図である。
図6図6は、増幅信号の他の出力波形の一例を模式的に示す図である。
図7図7は、実施形態に係る送信回路で実行されるリニアリティ維持のための処理全体の流れの一例を示すフローチャートである。
図8図8は、実施形態に係る送信回路でプリスキャンの際に実行されるリニアリティ維持のための処理の詳細な流れの一例を示すフローチャートである。
図9図9は、実施形態に係る送信回路で本スキャンの際に実行されるリニアリティ維持のための処理の詳細な流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しながら、高周波増幅装置および磁気共鳴イメージング装置の実施形態について詳細に説明する。
【0008】
(実施形態)
図1は、本実施形態に係るMRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴イメージング)装置100の構成の一例を示すブロック図である。MRI装置100は、静磁場磁石101と、傾斜磁場コイル102と、傾斜磁場電源103と、寝台104と、寝台制御回路105と、送信コイル106と、送信回路107と、受信コイル108と、受信回路109と、シーケンス制御回路110と、計算機システム120とを備える。なお、MRI装置100に被検体P(例えば、人体)は含まれない。
【0009】
静磁場磁石101は、中空の円筒形状(円筒の軸に直交する断面が楕円状となるものを含む)に形成された磁石であり、内部の空間に一様な静磁場を発生する。
【0010】
傾斜磁場コイル102は、中空の円筒形状(円筒の軸に直交する断面が楕円状となるものを含む)に形成されたコイルであり、傾斜磁場を発生する。傾斜磁場コイル102は、互いに直交するX,Y,Zの各軸に対応する3つのコイルが組み合わされて形成されており、これら3つのコイルは、傾斜磁場電源103から個別に電流の供給を受けて、X、Y、Zの各軸に沿って磁場強度が変化する傾斜磁場を発生する。
【0011】
傾斜磁場電源103は、傾斜磁場コイル102に電流を供給する。例えば、傾斜磁場電源103は、傾斜磁場コイル102を形成する3つのコイルのそれぞれに、個別に電流を供給する。
【0012】
寝台104は、被検体Pが載置される天板104aを備え、寝台制御回路105による制御のもと、天板104aを、被検体Pが載置された状態で傾斜磁場コイル102のボア(撮像口)内へ挿入する。寝台制御回路105は、計算機システム120による制御のもと、寝台104を駆動して天板104aを長手方向および上下方向へ移動するプロセッサである。
【0013】
送信コイル106は、傾斜磁場コイル102の内側に配置され、送信回路107からRF(Radio Frequency、高周波)信号の供給を受けて、高周波磁場を発生する。送信コイル106は、RFコイルの一例である。送信コイル106は、例えば被検体Pの全身を囲むホールボディ(Whole body)型のコイルである。
【0014】
送信回路107は、高周波増幅回路を備え、シーケンス制御回路110から入力されたRF信号を増幅し、送信コイル106に出力する。送信回路107は、本実施形態における高周波増幅装置の一例である。なお、送信回路107の構成の詳細については後述する。
【0015】
本実施形態において、シーケンス制御回路110から送信回路107に入力される増幅前のRF信号を、RF入力信号という。また、RF入力信号が増幅された信号を、増幅信号という。
【0016】
本実施形態においては、RF入力信号に対する増幅信号の増幅率が規定の範囲内であり、かつ、増幅信号の位相が規定の範囲内であることを、リニアリティ(Linearity:線形性)が高い状態という。また、増幅信号の増幅率または位相が規定の範囲内でない状態となることを、リニアリティが悪い状態、若しくは悪化した状態という。
【0017】
規定の増幅率および規定の位相は、例えばシーケンス制御回路110によって定められる。また、送信回路107で位相の変更をしないことを前提とする場合は、規定の位相は、送信回路107に入力されたRF入力信号の位相と同様である。
【0018】
受信コイル108は、傾斜磁場コイル102の内側に配置され、高周波磁場の影響によって被検体Pから発せられる磁気共鳴信号(以下、MR信号と称する)を受信する。受信コイル108は、MR信号を受信すると、受信したMR信号を受信回路109へ出力する。
【0019】
なお、図1では、受信コイル108が送信コイル106と別個に設けられる構成としたが、これは一例であり、当該構成に限定されるものではない。例えば、受信コイル108が送信コイル106と兼用される構成を採用しても良い。
【0020】
受信回路109は、受信コイル108から出力されるアナログのMR信号をアナログ・デジタル変換して、MRデータを生成する。また、受信回路109は、生成したMRデータをシーケンス制御回路110へ送信する。なお、アナログ・デジタル変換に関しては、受信コイル108内で行っても構わない。また、受信回路109はアナログ・デジタル変換以外にも任意の信号処理を行うことが可能である。
【0021】
シーケンス制御回路110は、計算機システム120から送信されるシーケンス情報に基づいて、傾斜磁場電源103、送信回路107および受信回路109を制御することによって、被検体Pの撮像を実行する。MRI装置100による被検体Pの撮像処理を、スキャンともいう。シーケンス制御回路110は、例えば、送信回路107におけるRF入力信号の増幅率や位相を規定する。また、シーケンス制御回路110は、受信回路109からMRデータを受信する。シーケンス制御回路110は、受信したMRデータを計算機システム120へ転送する。
【0022】
例えば、シーケンス制御回路110は、プロセッサにより実現されるものとしても良いし、ソフトウェアとハードウェアとの混合によって実現されても良い。シーケンス制御回路110は、シーケンス情報に基づいて、送信回路107にRF入力信号を入力する。シーケンス制御回路110は、シーケンス制御部ともいう。
【0023】
ここで、シーケンス情報は、撮像を行うための手順を定義した情報であり、送信回路107の制御に関する情報を含む。また、シーケンス情報は、傾斜磁場電源103が傾斜磁場コイル102に供給する電源の強さや、受信回路109がMR信号を検出するタイミングなどを含む。
【0024】
シーケンス制御回路110は、傾斜磁場電源103、送信回路107および受信回路109を駆動して被検体Pを撮像した結果、受信回路109からMRデータを受信すると、受信したMRデータを計算機システム120へ転送する。
【0025】
計算機システム120は、MRI装置100の全体制御や、データ収集、画像再構成などを行う。計算機システム120は、ネットワークインタフェース121、記憶回路122、処理回路123、入力インタフェース124、およびディスプレイ125を有する。
【0026】
ネットワークインタフェース121は、シーケンス情報をシーケンス制御回路110へ送信し、シーケンス制御回路110からMRデータを受信する。また、ネットワークインタフェース121によって受信されたMRデータは、記憶回路122に格納される。
【0027】
記憶回路122は、各種のプログラムを記憶する。記憶回路122は、例えば、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスク、光ディスク等により実現される。なお、記憶回路122は、ハードウェアによる非一過性の記憶媒体としても用いられる。
【0028】
入力インタフェース124は、医師や診療放射線技師等の操作者からの各種指示や情報入力を受け付ける。入力インタフェース124は、例えば、トラックボール、スイッチボタン、マウス、キーボード等によって実現される。入力インタフェース124は、処理回路123に接続されており、操作者から受け取った入力操作を電気信号に変換して処理回路123へと出力する。なお、本実施形態において入力インタフェース124は、マウス、キーボードなどの物理的な操作部品を備えるものだけに限られない。例えば、MRI装置100とは別体に設けられた外部の入力機器から入力操作に対応する電気信号を受け取り、この電気信号を処理回路123へ出力する電気信号の処理回路も、入力インタフェース124の例に含まれる。
【0029】
ディスプレイ125は、処理回路123による制御の下、各種GUI(Graphical User Interface)や、MR(Magnetic Resonance)画像等を表示する。ディスプレイ125は、例えば、液晶ディスプレイや有機EL(Organic Electro-Luminescence:OEL)ディスプレイ等である。
【0030】
処理回路123は、MRI装置100の全体制御を行う。具体的には、処理回路123は、入力インタフェース124を介して操作者から入力される撮像条件に基づいてシーケンス情報を生成し、生成したシーケンス情報をシーケンス制御回路110に送信することによって撮像を制御する。
【0031】
また、処理回路123は、撮像の結果としてシーケンス制御回路110から送られるMRデータを、上述した傾斜磁場により付与された位相エンコード量や周波数エンコード量に従って配列させる。配列されたMRデータはk空間データと称され、当該k空間データに例えばフーリエ変換などの再構成処理を行ってMR画像を生成する。処理回路123は、生成されたMR画像をディスプレイ125に表示させる制御を行う。処理回路123は、プロセッサにより実現される。
【0032】
処理回路123は、記憶回路122から読み出した各種のプログラムを実行することで、各プログラムに対応する機能を実現する。なお、複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路123を構成しても良い。
【0033】
次に、本実施形態に係る送信回路107の詳細を説明する。
【0034】
図2は、本実施形態に係る送信回路107の構成の一例を示すブロック図である。図に示すように、送信回路107は、入力端子210と、参照信号生成回路211と、ゲイン調整回路212と、位相調整回路213と、高周波増幅回路250と、カプラ215と、電圧・電流検出回路216と、出力端子217と、位相演算回路218と、VSWR(Voltage Standing Wave Rate、電圧定在波比)演算回路219と、負荷インピーダンス演算回路220と、制御回路221とを備える。
【0035】
入力端子210は、シーケンス制御回路110の出力端子と接続する。送信回路107は、入力端子210を介して、例えばシーケンス制御回路110からRF入力信号を取得する。
【0036】
参照信号生成回路211は、入力端子210から入力されたRF入力信号から、参照信号を生成する。参照信号生成回路211は、生成した参照信号を制御回路221に送出する。参照信号は、RF入力信号の振幅および位相を制御回路221に伝達するための信号である。参照信号は、例えば、RF入力信号と同じ信号でも良いし、参照信号生成回路211によってRF入力信号に変換処理が施された信号でも良い。変換処理の内容は、特に限定するものではない。なお、シーケンス制御回路110からはRF入力信号の振幅および位相を示すデジタルデータであるRF情報のみが入力されても良い。この場合、参照信号生成回路211がRF情報に基づいて、RF入力信号を生成しても良い。
【0037】
ゲイン調整回路212は、制御回路221の制御の下、RF入力信号を減衰または増幅する。本実施形態においては、高周波増幅回路250でRF入力信号を増幅させる前に、ゲイン調整回路212でRF入力信号の振幅の大きさを調整することにより、送信回路107に入力されるRF入力信号と出力される増幅信号との関係を高精度に制御している。
【0038】
本実施形態においては、ゲインは、電圧の入出力関係のことを指す。より具体的には、ゲインは、入力電圧と出力電圧の比である。ゲイン調整回路212は、RF入力信号を減衰または増幅することにより、送信回路107に入力されるRF入力信号と出力される増幅信号の電圧の関係を調整する。
【0039】
位相調整回路213は、制御回路221の制御の下、RF入力信号の位相を調整する。より具体的には、位相調整回路213は、RF入力信号の電圧波形の位相を調整する。
【0040】
なお、図2ではゲイン調整回路212と位相調整回路213とを別個の回路として記載したが、当該構成は一例である。例えば、ゲイン調整回路212と位相調整回路213との機能を有する1つの調整回路が送信回路107内に設けられても良い。
【0041】
高周波増幅回路250は、RF入力信号を増幅して増幅信号を出力する。本実施形態においては、高周波増幅回路250は、ゲイン調整回路212および位相調整回路213によって振幅および位相が調整されたRF入力信号を増幅する。なお、高周波増幅回路250は、RFアンプともいう。高周波増幅回路250が出力した増幅信号は、出力端子217を介して送信コイル106に供給される。出力端子217から出力された増幅信号は、送信回路107の出力信号ともいう。高周波増幅回路250は、FET(Field Effect Transistor)等の電力増幅素子を備える。高周波増幅回路250の構成の詳細については後述する。
【0042】
カプラ215と電圧・電流検出回路216とは、高周波増幅回路250と出力端子217との間に設けられる。なお、カプラ215と電圧・電流検出回路216の設置順は、図2に示す例に限定されるものではない。例えば、図2に示す例とは逆に、電圧・電流検出回路216がカプラ215よりも高周波増幅回路250に近くなるように設置されても良い。
【0043】
カプラ215は、高周波増幅回路250から出力された増幅信号を出力端子217側に出力するとともに、増幅信号の進行波電力(Forward Power:Pf)を、VSWR演算回路219に出力する。また、カプラ215は、出力端子217側からの反射波電力(Reflected Power:Pr)を、VSWR演算回路219に出力する。カプラ215は、方向性結合器ともいう。
【0044】
電圧・電流検出回路216は、高周波増幅回路250から出力された増幅信号の電圧と電流を検出する。電圧・電流検出回路216は、検出した電圧と電流を位相演算回路218に送出する。
【0045】
出力端子217は、高周波増幅回路250から出力された増幅信号を送信コイル106に出力する。
【0046】
位相演算回路218は、電圧・電流検出回路216によって検出された電圧と電流の位相差を算出する。位相演算回路218は、算出した電圧と電流の位相差を、負荷インピーダンス演算回路220に送出する。
【0047】
VSWR演算回路219は、カプラ215から取得した進行波電力と反射波電力から、VSWRを算出する。VSWR演算回路219は、算出したVSWRを負荷インピーダンス演算回路220に送出する。
【0048】
負荷インピーダンス演算回路220は、高周波増幅回路250の出力側のVSWRおよび位相に関する情報に基づいて、負荷インピーダンスを算出する。より詳細には、負荷インピーダンス演算回路220は、VSWR演算回路219によって算出されたVSWRと、位相演算回路218によって算出された位相差とから、負荷インピーダンスを算出する。負荷インピーダンスの演算式は、公知の数式を採用することができる。負荷インピーダンス演算回路220は、負荷インピーダンス演算部の一例である。
【0049】
本実施形態における負荷インピーダンスの変化は、高周波増幅回路250から負荷側を見た場合における高周波電圧と電流の位相差により観測される。本実施形態の高周波増幅回路における負荷は、送信コイル106である。また、負荷インピーダンスは、式(1)により表される。
【0050】
【数1】
【0051】
例えば、本実施形態の高周波増幅回路250は、負荷インピーダンスが規定の値である場合に、入力側と出力側のインピーダンスが整合するように設計されているものとする。
【0052】
負荷インピーダンスの規定の値は、例えば50Ω±j0Ωとする。負荷インピーダンスが50Ω±j0Ωである状態を、インピーダンス整合(インピーダンスマッチング)の状態という。また、負荷インピーダンスが50Ω±j0Ω以外の値である状態では、高周波増幅回路250の入力側と出力側のインピーダンスが整合していないため、負荷不整合(インピーダンス不整合)の状態となる。なお、負荷インピーダンスの規定の値は、上述の値に限定されるものではない。
【0053】
負荷インピーダンスの変動によりインピーダンス不整合になると、高周波増幅回路250のリニアリティが低下する。負荷インピーダンスの変動は、例えば、被検体PがMRI装置100の撮像口内に入ることで発生する。例えば、送信コイル106がホールボディ型のコイルである場合、送信コイル106の中心に被検体P等の誘電体が入ることにより、送信コイル106のインピーダンスが変化することで、高周波増幅回路250の負荷インピーダンスが変化する。
【0054】
負荷インピーダンスは、例えば、被検体Pの体重や身長等の大きさ、および体脂肪の量等により変化するため、負荷インピーダンスの変動量は個々の被検体Pにより異なる。このため、本実施形態の送信回路107においては、被検体Pのプリスキャンの際における高周波増幅回路250の出力側のVSWRおよび位相に関する情報に基づいて算出された負荷インピーダンスを、当該被検体Pの本スキャンにおけるリニアリティ維持のための処理に利用する。
【0055】
本実施形態において、本スキャンは、例えば診断用のMR画像の撮像のために、被検体Pをスキャンすることをいう。また、プリスキャンは、位置決め用のMR画像の撮像等のために、本スキャンの前に被検体Pをスキャンすることをいう。
【0056】
負荷インピーダンス演算回路220は、算出した負荷インピーダンスを制御回路221に送出する。
【0057】
制御回路221は、負荷インピーダンス演算回路220によって算出された負荷インピーダンスに応じて、高周波増幅回路250、ゲイン調整回路212、および位相調整回路213を制御する。
【0058】
制御回路221による高周波増幅回路250、ゲイン調整回路212、および位相調整回路213の制御の手法は特に限定されるものではないが、例えば、制御回路221は、高周波増幅回路250、ゲイン調整回路212、および位相調整回路213の各々に制御信号を送信する。
【0059】
本実施形態の制御回路221は、記憶回路(不図示)からプログラムを読み出し、実行することで各プログラムに対応する機能を実現するプロセッサである。制御回路221は、バイアス(Bias)電圧制御機能221a、ゲイン・位相制御機能221b、ドレイン電圧制御機能221c、およびスイッチ制御機能221dを備える。
【0060】
バイアス電圧制御機能221aは、バイアス電圧制御部および第1の制御部の一例である。ゲイン・位相制御機能221bは、ゲイン・位相制御部および第2の制御部の一例である。ドレイン電圧制御機能221cは、ドレイン電圧制御部および第3の制御部の一例である。スイッチ制御機能221dは、スイッチ制御部および第4の制御部の一例である。また、制御回路221全体を、制御部と称しても良い。
【0061】
バイアス電圧制御機能221aは、負荷インピーダンス演算回路220によって算出された負荷インピーダンスに応じて、高周波増幅回路250の電力増幅素子に印加されるバイアス電圧を制御する。バイアス電圧は、高周波増幅回路250の電力増幅素子の動作点を変動させる要素の1つである。
【0062】
動作点は、高周波増幅回路250がRF入力信号を増幅する際の動作の基準となる点である。また、動作点は、電力増幅素子から出力される増幅信号の出力波形の振幅の中心となる。
【0063】
より詳細には、バイアス電圧制御機能221aは、高周波増幅回路250の電力増幅素子の動作点を適切な位置にすることが可能なバイアス電圧の設定値を、負荷インピーダンスに応じて特定する。バイアス電圧制御機能221aは、特定したバイアス電圧の設定値を示す制御信号を、高周波増幅回路250に送信する。また、動作点は後述のドレイン電圧によっても変動する。バイアス電圧およびドレイン電圧と動作点との関係については後述する。
【0064】
ゲイン・位相制御機能221bは、負荷インピーダンス演算回路220によって算出された負荷インピーダンスに応じて、送信回路107に入力されたRF入力信号を規定の増幅率および規定の位相で増幅するように、高周波増幅回路250に入力されるRF入力信号の振幅および位相を制御する。換言すれば、ゲイン・位相制御機能221bは、送信回路107が予め定められた線形性を維持するように、高周波増幅回路250に入力されるRF入力信号の振幅および位相を調整する。例えば、制御回路221は、負荷インピーダンスが50Ω±j0Ω以外の値になった場合に、インピーダンス不整合による高周波増幅回路250のリニアリティの低下を加味して、RF入力信号の振幅および位相を調整し、調整後のRF入力信号を高周波増幅回路250に入力させる。
【0065】
例えば、高周波増幅回路250のリニアリティが維持されている場合は、高周波増幅回路250は、RF入力信号の値に関わらず、RF入力信号を規定の倍率にした増幅信号を出力する。しかしながら、高周波増幅回路250のリニアリティが低下している場合、RF入力信号と増幅信号の関係が非線形となるため、同じ負荷インピーダンスでも、RF入力信号に応じて増幅率は変動する。また、高周波増幅回路250のリニアリティが維持されている場合は、RF入力信号の大きさに関わらず、高周波増幅回路250が出力する増幅信号の位相は規定の位相を維持する。これに対して、高周波増幅回路250のリニアリティが低下している場合、RF入力信号の大きさによって増幅信号の位相が変動する。このため、高周波増幅回路250から出力される増幅信号の位相が、規定の位相からずれてしまう場合がある。
【0066】
具体的には、ゲイン・位相制御機能221bは、負荷インピーダンス演算回路220によって算出された負荷インピーダンスに応じて、ゲイン調整回路212と、位相調整回路213とを制御することにより、RF入力信号の振幅および位相を調整する。例えば、ゲイン・位相制御機能221bは、負荷インピーダンスに応じたゲインの調整値および位相の調整値を示す制御信号を、高周波増幅回路250に送信する。
【0067】
制御回路221による制御により、RF入力信号が高周波増幅回路250に入力される前に、ゲイン調整回路212および位相調整回路213によってRF入力信号の振幅および位相が調整される。当該調整により、負荷インピーダンスが規定の値以外の値であっても、高周波増幅回路250から出力される増幅信号は、負荷インピーダンスが規定の値である場合の増幅信号に近くなる。このため、高周波増幅回路250のリニアリティが低下しても、送信回路107全体では、リニアリティが維持される。つまり、送信回路107に入力された調整前のRF入力信号が規定の増幅率で増幅された増幅信号が、送信コイル106に供給される。
【0068】
また、ドレイン電圧制御機能221cは、負荷インピーダンス演算回路220によって算出された負荷インピーダンスに応じて、電力増幅素子に印加するドレイン電圧を制御する。なお、ゲイン・位相制御機能221bとドレイン電圧制御機能221cとを1つの機能としても良い。この場合、ゲイン・位相制御機能221bとドレイン電圧制御機能221cは共に、第2の制御部の一例としても良い。また、この場合、スイッチ制御機能221dを第3の制御部の一例としても良い。
【0069】
また、本実施形態において、バイアス電圧制御機能221a、ゲイン・位相制御機能221b、およびドレイン電圧制御機能221cは、プリスキャンの際に検出された負荷インピーダンスに基づいて特定したバイアス電圧の設定値、ゲインの調整値、位相の調整値、およびドレイン電圧の設定値を、本スキャンにおいて適用する。すなわち、本スキャン中にはバイアス電圧の設定値およびドレイン電圧の設定値は変更されず、固定値となる。また、ゲインの調整値および位相の調整値は負荷インピーダンスだけではなく、RF入力信号にも連動して変化するが、調整値の基準となる負荷インピーダンスはプリスキャンの際に検出されたものとする。
【0070】
スイッチ制御機能221dは、高周波増幅回路250に含まれる温度センサと加算器との間に設けられたスイッチの開閉を制御する。スイッチが開状態の場合には温度センサと加算器との間が遮断され、スイッチが閉状態の場合には温度センサと加算器との間が電気的に接続される。スイッチ制御機能221dは、プリスキャンの際には、スイッチを開状態にし、本スキャンの際には、スイッチを閉状態にするように、高周波増幅回路250に制御信号を送信する。プリスキャンの実行および本スキャンの実行は、例えば、シーケンス制御回路110から制御信号によりスイッチ制御機能221dへ伝達される。高周波増幅回路250に含まれるスイッチ、温度センサ、および加算器については図3で後述する。
【0071】
本実施形態における負荷インピーダンスに応じたゲインの調整値、位相の調整値、ドレイン電圧、およびバイアス電圧の特定の手法としては、例えば、不図示の記憶回路に負荷インピーダンス、RF入力信号、ゲインの調整値、位相の調整値、ドレイン電圧の設定値、およびバイアス電圧の設定値が対応付けられて記憶されていても良い。負荷インピーダンス、RF入力信号、ゲインの調整値、位相の調整値、ドレイン電圧の設定値、およびバイアス電圧の設定値が対応付けられた情報を、例えば調整値情報という。この場合、バイアス電圧制御機能221a、ゲイン・位相制御機能221b、およびドレイン電圧制御機能221cは、調整値情報に基づいて、ゲインの調整値、位相の調整値、ドレイン電圧の設定値、およびバイアス電圧の設定値を特定する。調整値情報は、例えばテーブルとして、記憶回路に保存される。また、調整値情報は、RF入力信号の代わりに、RF入力信号から生成される参照信号が、負荷インピーダンス、ゲインの調整値、位相の調整値、ドレイン電圧の設定値、およびバイアス電圧の設定値が対応付けられた情報であっても良い。
【0072】
なお、ゲインの調整値、位相の調整値、ドレイン電圧の設定値、およびバイアス電圧の設定値の特定方法は、これに限定されるものではなく、例えば、ゲインの調整値、位相の調整値、ドレイン電圧の設定値、およびバイアス電圧の設定値の対応関係を示す数式がバイアス電圧制御機能221a、ゲイン・位相制御機能221b、およびドレイン電圧制御機能221cに組み込まれていても良い。
【0073】
図3は、本実施形態に係る高周波増幅回路250の構成の一例を示す図である。図3に示すように、高周波増幅回路250は、入力端子301、出力端子302、電力増幅素子303、電圧可変抵抗器304、温度センサ305、およびVDD308を備える。
【0074】
なお、図3では図示を省略するが、実際には、高周波増幅回路250は、複数セットの入力端子301、出力端子302、電力増幅素子303、電圧可変抵抗器304、温度センサ305、スイッチ306、加算器307、およびVDD308を備える。つまり、図3は、高周波増幅回路250に含まれる複数セットの要素群(入力端子301、出力端子302、電力増幅素子303、電圧可変抵抗器304、温度センサ305、スイッチ306、加算器307、およびVDD308)のうちの1セットを示す。複数セットの要素群は、並列に接続する。また、高周波増幅回路250は、複数セットの要素群に接続する合成回路(不図示)をさらに備える。
【0075】
入力端子301は、ゲイン調整回路212および位相調整回路213を経由したRF入力信号の入力を受ける端子である。
【0076】
出力端子302は、電力増幅素子303によって増幅された増幅信号を出力する端子である。出力端子302から出力された増幅信号は、図2に図示したカプラ215に入力される。処理詳細には、各セットの要素群に含まれる電力増幅素子303で増幅された増幅信号は、合成回路を介してカプラ215に出力される。
【0077】
電力増幅素子303は、入力端子301から入力されたRF入力信号を増幅する。電力増幅素子303は、例えばFET等である。
【0078】
電圧可変抵抗器304は、制御回路221のバイアス電圧制御機能221aによる制御の下、出力するバイアス電圧の大きさを変更する。具体的には、電圧可変抵抗器304は、電力増幅素子303に印加されるバイアス電圧を、規定の設定値に変更するための抵抗器である。電圧可変抵抗器304は、不図示の電源回路からバイアス電圧の入力を受け、当該バイアス電圧を規定の設定値に変更した上で、加算器307へ出力する。電圧可変抵抗器304は、バイアス電圧設定回路ともいう。電圧可変抵抗器304は、本実施形態における電圧可変回路の一例である。
【0079】
規定の設定値は、制御回路221のバイアス電圧制御機能221aによって特定されたバイアス電圧の設定値である。電圧可変抵抗器304は、制御回路221のバイアス電圧制御機能221aから送信された制御信号に基づいて、抵抗値を変更する。
【0080】
温度センサ305は、電力増幅素子303の温度を計測するセンサである。より詳細には、温度センサ305が計測する温度は、電力増幅素子303のケース温度である。ケース温度は電力増幅素子303が格納されたケースの表面温度であり、パッケージ温度ともいう。温度センサ305は、温度の計測結果を、加算器307へ送信する。
【0081】
温度センサ305は、例えば、電力増幅素子303の基準温度と計測温度の差分を温度の計測結果として加算器307へ送信する。基準温度の値は特に限定されるものではないが、電力増幅素子303が発熱していない状態の一般的な温度とする。
【0082】
加算器307は、温度センサ305による温度の計測結果と、電圧可変抵抗器304から出力された電圧とに基づいて、温度補償されたバイアス電圧を、電力増幅素子303に印加する。より詳細には、加算器307は、温度センサ305によって計測された温度に応じた電圧を、電圧可変抵抗器304から出力されたバイアス電圧に加算し、加算後のバイアス電圧を、電力増幅素子303に印加する。加算器307は、本実施形態における温度補償回路の一例である。
【0083】
一般に、FETの温度係数は-2mV/℃という性質がある。このため、電力増幅素子303がFETである場合、電力増幅素子303の温度が1度上昇すると、FETから出力される増幅信号の電圧が2mV低下する。つまり、MRI装置100によるスキャン処理中に、電力増幅素子303の温度が上昇すると電力増幅素子303から出力される増幅信号の増幅率が低下する。このため、加算器307は、温度センサ305によって計測された温度が基準温度から1度上昇するごとに、電圧可変抵抗器304から出力されたバイアス電圧に2mV分を加算して出力する。なお、電力増幅素子303の温度係数の値はこれに限定されない。
【0084】
また、スイッチ306は、温度センサ305と加算器307との間に設けられる。スイッチ306は、制御回路221から送信された制御信号に基づいて、温度センサ305と加算器307との通信を接続または遮断する。
【0085】
スイッチ306が開状態の場合には温度センサ305と加算器307との間が遮断されるため、温度センサ305による温度の計測結果は加算器307に伝達されない。この場合、電圧可変抵抗器304から出力されたバイアス電圧は、加算器307により変更されないまま、電力増幅素子303に印加される。本実施形態においては、プリスキャンの際にはスイッチ306が開状態となるため、プリスキャンの際には温度に応じたバイアス電圧の変更は行われない。
【0086】
また、スイッチ306が閉状態の場合には温度センサ305と加算器307とが電気的に接続されるため、温度センサ305から加算器307へ温度の計測結果を伝達することができる。本実施形態においては、本スキャンの際にはスイッチ306が閉状態となるため、本スキャン中に電力増幅素子303の温度が上昇したことにより電力増幅素子303の増幅機能が低下した場合においても、電力増幅素子303に印加されるバイアス電圧を加算器307が上昇させることにより、温度補償をすることができる。
【0087】
VDD308は、電力増幅素子303にドレイン電圧を印加する直流電源である。VDD308は、制御回路221から送信された制御信号に基づいて、ドレイン電圧の大きさを変更する。
【0088】
次に、本実施形態における負荷インピーダンス、ドレイン電圧、およびバイアス電圧と、電力増幅素子303の動作点との関係について説明する。
【0089】
図4は、本実施形態に係るドレイン電圧、ドレイン電流、およびバイアス電圧と、電力増幅素子303の動作点と関係の一例を示すグラフである。
【0090】
図4の横軸はドレイン電圧(VDS)、縦軸はドレイン電流(I)を示す。ドレイン電流の値は、負荷インピーダンスとドレイン電圧により決まる。式(2)は、ドレイン電流と負荷インピーダンス、ドレイン電圧の関係を示す数式である。また、図4のVGSは、バイアス電圧を示す。
【0091】
【数2】
【0092】
式(2)のIはドレイン電流、VDSはドレイン電圧、RLは負荷インピーダンスを表す。式(2)により、例えば、ドレイン電圧が“12V”、負荷インピーダンスが“1kΩ”の場合、ドレイン電流は“12mA”となる。また、ドレイン電圧が“12V”、負荷インピーダンスが“1.2kΩ”の場合、ドレイン電流は“10mA”となる。また、ドレイン電圧が“12V”、負荷インピーダンスが“1.4kΩ”の場合、ドレイン電流は約“8.6mA”となる。
【0093】
図4に示すグラフ上で、ドレイン電流とドレイン電圧とを結ぶ直線と、バイアス電圧を表すグラフとの交点をバイアスポイントという。バイアスポイントは、電力増幅素子303の動作点を表す。例えば、図4に示す例では、ドレイン電圧が“12V”、ドレイン電流が“10mA”、バイアス電圧が“-0.1V”の場合に、ドレイン電流とドレイン電圧とを結ぶ直線とバイアス電圧を表すグラフとの交点Aが動作点となる。この場合、動作点の位置は、電圧が約5Vの位置となる。
【0094】
一般に、電力増幅素子303の出力振幅を大きくするためには,動作点はドレイン電圧の半分程度に設定することが好ましい。図4に示す例では、ドレイン電圧が“12V”、ドレイン電流が“10mA”、バイアス電圧が“-0.05V”の場合、動作点が約2.5Vの位置になり、ドレイン電圧“12V”の半分である6Vより大きく下回る。また、ドレイン電圧が“12V”、ドレイン電流が“10mA”、バイアス電圧が“-0.1V”の場合に、バイアス電圧が“-0.15V”であると、動作点が約7.5Vの位置になり、ドレイン電圧“12V”の半分である6Vを超える。このため、図4に示す例では、バイアス電圧を0.05V単位で制御可能な場合、バイアス電圧が“-0.1V”である場合が、動作点の位置がドレイン電圧“12V”の半分に最も近くなる。この場合、バイアス電圧制御機能221aは、“-0.1V”が最適なバイアス電圧であると判定し、“-0.1V”を設定値とする。
【0095】
なお、図4に示す数値はドレイン電圧、ドレイン電流、およびバイアス電圧と、電力増幅素子303の動作点との関係を示すための一例に過ぎず、実際にMRI装置100で用いられる値は図4に示すものに限定されない。
【0096】
動作点をドレイン電圧の半分程度にすることが好ましい理由は、ドレイン電圧によって増幅信号の出力波形の上下端の電圧が制限されるためである。より詳細には、動作点は、増幅信号の出力波形の振幅の中心となるため、動作点が高すぎたり低すぎたりする状態になると、出力波形の上側または下側がクリップすることにより、出力波形に歪が生じたり、規定の大きさの波形を出力できなかったりする場合がある。
【0097】
クリップとは、電力増幅素子303の出力がドレイン電圧の制約などにより制限された状態のことをいう。クリップが発生すると、例えば、増幅信号の出力波形の先端が平らにカットされることにより、出力波形に歪が生じる。
【0098】
図4および式(2)に示すように、動作点は、負荷インピーダンス、ドレイン電圧、およびバイアス電圧によって変化する。例えば、ドレイン電圧およびバイアス電圧が一定でも、負荷インピーダンスが大きくなると、動作点が下がる。この場合、増幅信号の出力波形の下側がクリップする場合がある。このため、例えば、負荷インピーダンスが規定の値よりも大きくなった場合、ドレイン電圧制御機能221cがドレイン電圧を大きくする、またはバイアス電圧制御機能221aがバイアス電圧を小さくすることにより、増幅信号の出力波形の振幅の上限と下限の両方がクリップしない位置に、動作点の位置を上げる。
【0099】
図5、6を用いて、動作点と出力波形の関係について説明する。
【0100】
図5は、増幅信号の出力波形90aの一例を模式的に示す図である。図5に示す2本の破線は、電力増幅素子303が出力可能な電圧の上端および下端の位置を示す。出力波形90aの振幅の中心C1は、動作点である。
【0101】
図5に示す例では、動作点が電力増幅素子303の出力可能な電圧の範囲の中心付近に位置しているため、出力波形90aが歪まずに出力されている。
【0102】
図6は、増幅信号の他の出力波形90bの一例を模式的に示す図である。図6に示す例では、動作点の位置が図5よりも高いため、出力波形90bの振幅の中心C2の位置が図5に示した中心C1よりも高くなる。このため、出力波形90bの上端がクリップし、出力波形90bが歪んだ状態となる。このようなクリップが発生すると、増幅信号の波形がRF入力信号の波形の相似形とならないため、電力増幅素子303のリニアリティが低下する。
【0103】
電力増幅素子303の動作点が図5に例示したように適切な位置に調整されることで、増幅信号の歪みを低減することができる。また、動作点が適切な位置に調整されることで、電力増幅素子303を効率良く作動させることができる。
【0104】
なお、本実施形態においては、動作点の電圧がドレイン電圧の2分の1に最も近くなるバイアス電圧を、バイアス電圧の最適値として例示したが、他の条件によりバイアス電圧の最適値が規定されても良い。
【0105】
また、上記説明では、「プロセッサ」が各機能に対応するプログラムを記憶回路から読み出して実行する例を説明したが、実施形態はこれに限定されない。「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(Central Processing Unit )、GPU(Graphics Processing Unit)、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device :CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。プロセッサが例えばCPUである場合、プロセッサは記憶回路に保存されたプログラムを読み出して実行することで機能を実現する。一方、プロセッサがASICである場合、記憶回路にプログラムを保存する代わりに、当該機能がプロセッサの回路内に論理回路として直接組み込まれる。なお、本実施形態の各プロセッサは、プロセッサごとに単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのプロセッサとして構成し、その機能を実現するようにしてもよい。また、複数の構成要素を1つのプロセッサへ統合してその機能を実現するようにしてもよい。
【0106】
例えば、図2では、位相演算回路218と、VSWR演算回路219と、負荷インピーダンス演算回路220と、制御回路221とをそれぞれ異なる回路として図示したが、これらの回路の機能を1つのプロセッサ等が実行しても良い。また、制御回路221が有する複数の機能が、異なるプロセッサ等によりそれぞれ実行されても良い。
【0107】
次に、以上のように構成された本実施形態のMRI装置100の送信回路107における処理の流れについて説明する。
【0108】
図7は、本実施形態に係る送信回路107で実行されるリニアリティ維持のための処理全体の流れの一例を示すフローチャートである。図7では、プリスキャンおよび本スキャンを通した全体の流れの概要を表す。
【0109】
まず、入力インタフェース124が操作者からプリスキャンの開始を指示する操作を受けた場合に、計算機システム120の処理回路123は、MRI装置100全体を制御してプリスキャンをスタートする(S1)。例えば、処理回路123は、シーケンス制御回路110にプリスキャンの開始時の指示および各種撮像条件を送信する。また、シーケンス制御回路110は、傾斜磁場電源103、送信回路107および受信回路109を制御することによって、被検体Pのプリスキャンを実行する。
【0110】
そして、プリスキャン中の送信回路107における負荷インピーダンスの測定処理が実行される(S2)。
【0111】
そして、測定された負荷インピーダンスに応じて、制御回路221は、電力増幅素子303に印加されるバイアス電圧を設定する(S3)。より詳細には、測定された負荷インピーダンスに応じて、制御回路221のバイアス電圧制御機能221aがバイアス電圧の設定値を特定する。バイアス電圧制御機能221aは、電圧可変抵抗器304に制御信号を送信することにより、特定した設定値のバイアス電圧が出力されるように、電圧可変抵抗器304を設定する。
【0112】
なお、図7に示す例では、プリスキャン中に、ドレイン電圧の設定が完了するものとして記載しているが、ドレイン電圧の設定は本スキャンの開始前であれば良く、プリスキャンの終了後であっても良い。
【0113】
また、図7では図示を省略したが、制御回路221は、ゲインの調整値、位相の調整値、ドレイン電圧の設定値についても、プリスキャンの際に測定された負荷インピーダンスに応じて特定する。
【0114】
そしてプリスキャンの終了後(S4)、入力インタフェース124が操作者から本スキャンの開始を指示する操作を受けた場合に、計算機システム120の処理回路123は、MRI装置100全体を制御して本スキャンをスタートする(S5)。
【0115】
本スキャン中は、温度センサ305により計測された電力増幅素子303の温度に基づいて、加算器307が、バイアス電圧を温度補償する(S6)。
【0116】
そして、本スキャンが終了すると(S7)、本フローチャートの処理は終了する(S8)。
【0117】
次に、図7のS1~S4のプリスキャンの際に実行される処理の詳細について、図8を用いて説明する。
【0118】
図8は、本実施形態に係る送信回路107でプリスキャンの際に実行されるリニアリティ維持のための処理の詳細な流れの一例を示すフローチャートである。このフローチャートの処理の前提として、被検体Pがボア内に載置されているものとする。
【0119】
このフローチャートが実行される際には、スイッチ306は開状態であり、温度センサ305と加算器307との接続は切断されているものとする。また、このフローチャートが実行される際には、ドレイン電圧およびバイアス電圧は、それぞれの規定の大きさで印加されるものとする。プリスキャン時のドレイン電圧およびバイアス電圧の規定の大きさは、例えば、インピーダンス整合がとれていることを前提とした規定の設定値とするが、これに限定されるものではない。
【0120】
まず、シーケンス制御回路110から送信回路107にRF入力信号が入力される(S101)。
【0121】
そして、参照信号生成回路211は、入力端子210から入力されたRF入力信号から、参照信号を生成する(S102)。参照信号生成回路211は、生成した参照信号を制御回路221に送出する。
【0122】
そして、ゲイン調整回路212と位相調整回路213とが、RF入力信号のゲインおよび位相を調整する(S103)。ゲインおよび位相が調整されたRF入力信号は、高周波増幅回路250の入力端子301から入力され、電力増幅素子303へ伝達される。S3の処理の際は、負荷インピーダンスがまだ計測されていないため、ゲインの調整値および位相の調整値は、例えば予め設定された規定値とする。
【0123】
なお、図8ではプリスキャンの際にもゲインおよび位相を調整するものとしたが、プリスキャンの際は、RF入力信号のゲインおよび位相は調整されなくとも良い。この場合は、ゲイン調整回路212と位相調整回路213は、入力されたRF入力信号を補正せずにそのまま通過させる。
【0124】
そして、高周波増幅回路250は、ゲイン調整回路212と位相調整回路213によってゲインおよび位相が調整された調整後のRF入力信号を、電力増幅素子303で増幅し、増幅信号を出力する(S104)。
【0125】
次に、カプラ215は、高周波増幅回路250の出力側の進行波電力と反射波電力を検出する(S105)。カプラ215は、検出した進行波電力と反射波電力をVSWR演算回路219に送出する。
【0126】
そして、VSWR演算回路219は、検出された進行波電力と反射電力からVSWRを算出する(S106)。VSWR演算回路219は、算出したVSWRを負荷インピーダンス演算回路220に送出する。
【0127】
また、電圧・電流検出回路216は、高周波増幅回路250の出力側の電圧と電流を検出する(S107)。電圧・電流検出回路216は、検出した電圧と電流を位相演算回路218に送出する。
【0128】
そして、位相演算回路218は、検出された電圧と電流の位相差を算出する(S108)。位相演算回路218は、算出した位相差を負荷インピーダンス演算回路220に送出する。
【0129】
負荷インピーダンス演算回路220は、VSWR演算回路219によって算出されたVSWRと、位相演算回路218によって算出された位相差とから、負荷インピーダンスを算出する(S109)。負荷インピーダンス演算回路220は、算出した負荷インピーダンスを制御回路221に送出する。
【0130】
制御回路221のゲイン・位相制御機能221bは、負荷インピーダンス演算回路220によって算出された負荷インピーダンスに応じて、ゲインの調整値、および位相の調整値、を特定する。また、制御回路221のドレイン電圧制御機能221cは、負荷インピーダンス演算回路220によって算出された負荷インピーダンスに応じて、ドレイン電圧の設定値を特定する(S110)。
【0131】
例えば、ゲイン・位相制御機能221bおよびドレイン電圧制御機能221cは、予め記憶回路に登録された調整値情報から、負荷インピーダンス演算回路220によって算出された負荷インピーダンスと参照信号生成回路211から入力された参照信号との組み合わせに対応するゲインの調整値、位相の調整値、およびドレイン電圧の設定値を特定する。
【0132】
そして、ゲイン・位相制御機能221bは、特定したゲインの調整値を示す制御信号をゲイン調整回路212に、特定した位相の調整値を示す制御信号を位相調整回路213に、それぞれ送信することにより、ゲイン調整回路212と位相調整回路213の設定を変更する。また、ドレイン電圧制御機能221cは、特定したドレイン電圧の設定値を示す制御信号を、VDD308に送信することにより、VDD308の設定を変更する(S111)。
【0133】
そして、制御回路221のバイアス電圧制御機能221aは、負荷インピーダンス演算回路220によって算出された負荷インピーダンスに応じて、電力増幅素子303の動作点を適切な位置にすることが可能なバイアス電圧の設定値を特定する(S112)。
【0134】
例えば、バイアス電圧制御機能221aは、電力増幅素子303の動作点がS110で特定されたドレイン電圧の2分の1に最も近くなるバイアス電圧を、設定値として特定する。バイアス電圧制御機能221aは、設定値を、負荷インピーダンスとドレイン電圧の値とから演算されても良いし、予め調整値情報として対応付けられたテーブル等から検索しても良い。バイアス電圧制御機能221aは、特定したバイアス電圧の設定値を表す制御信号を高周波増幅回路250に送信する。
【0135】
高周波増幅回路250の電圧可変抵抗器304は、制御回路221から送信された制御信号によって示される設定値に基づいて、可変抵抗を変更する(S113)。ここで、このフローチャートの処理は終了する。
【0136】
なお、図8では、S110のゲインの調整値、位相の調整値、およびドレイン電圧の設定値の特定と、S112のバイアス電圧の設定値の特定とを分けて記載したが、これらの処理は統合されても良い。
【0137】
なお、S101~S105、およびS107の処理は、プリスキャン中に実行されることが必須である。また、S106、およびS108~S113の処理は、プリスキャン中の実行は必須ではなく、本スキャンの実行前に実行されれば良い。なお、被検体Pに応じて高周波増幅回路250の負荷が変動するため、負荷インピーダンスの計測、およびドレイン電圧とバイアス電圧の設定値の決定の際には、被検体Pがボア内に存在することを前提とする。
【0138】
次に、図7のS5~S7の本スキャンの際に実行される処理の詳細について、図9を用いて説明する。
【0139】
図9は、本実施形態に係る送信回路107で本スキャンの際に実行されるリニアリティ維持のための処理の詳細な流れの一例を示すフローチャートである。このフローチャートの処理の前提として、プリスキャンされた被検体Pと同一の被検体Pが、ボア内に載置されているものとする。このフローチャートの実行時には、プリスキャン時に特定された設定値のドレイン電圧が、VDD308により出力されているものとする。また、このフローチャートの実行時には、プリスキャン時に特定された設定値のバイアス電圧が、電圧可変抵抗器304から出力されているものとする。
【0140】
まず、制御回路221のスイッチ制御機能221dは、制御信号を送信することにより、スイッチ306をクローズさせる(S201)。これにより、温度センサ305と加算器307とが通信可能に接続する。
【0141】
次に、加算器307は、温度センサ305から電力増幅素子303の温度の計測結果を取得する(S202)。
【0142】
そして、加算器307は、取得した温度の計測結果に基づいて、電圧可変抵抗器304から出力されたバイアス電圧に、加算をする(S203)。なお、一般に、本スキャンの開始直後は電力増幅素子303の温度は基準温度に近いが、本スキャンの進行とともに温度が上昇する。温度センサ305による温度の計測結果の変化に応じて、加算器307が加算する電圧も変化する。加算器307の当該動作により、電力増幅素子303の温度の上昇に伴う電力増幅素子303の機能低下を補うための温度補償が可能となる。
【0143】
そして、加算器307は、加算後のバイアス電圧を、電力増幅素子303に印加する(S204)。
【0144】
そして、シーケンス制御回路110から送信回路107にRF入力信号が入力される(S205)。
【0145】
参照信号生成回路211は、入力端子210から入力されたRF入力信号から、参照信号を生成する(S206)。参照信号生成回路211は、生成した参照信号を制御回路221に送出する。
【0146】
そして、ゲイン調整回路212と位相調整回路213とが、プレスキャン時に設定されたゲインの調整値および位相の調整値に基づいて、RF入力信号のゲインおよび位相を調整する(S207)。
【0147】
そして、高周波増幅回路250は、ゲイン調整回路212と位相調整回路213によってゲインおよび位相が調整された調整後のRF入力信号を増幅した増幅信号を出力する(S208)。
【0148】
本スキャンが継続している場合(S209“No”)、S202~S208の処理が繰り返される。
【0149】
また、本スキャンが終了する場合(S209“Yes”)、制御回路221のスイッチ制御機能221dは、制御信号を送信することにより、スイッチ306をオープンさせる(S210)。ここで、本フローチャートの処理は終了する。
【0150】
このように、本実施形態の送信回路107は、高周波増幅回路250の出力側のVSWRおよび位相に関する情報に基づいて算出した負荷インピーダンスに応じて、電力増幅素子303に印加されるバイアス電圧を制御する。このような機能により、本実施形態の送信回路107によれば、負荷インピーダンスが規定の値から変動しても、電力増幅素子303の動作点を適切な位置に設定することが可能となり、動作点がずれることによるクリップ等の発生を低減することができる。このため、本実施形態の送信回路107によれば、電力増幅素子303のリニアリティを精度良く安定した状態で維持することができる。
【0151】
比較例として、例えば、高周波増幅回路と出力端子との間に、アイソレータまたはサーキュレータ等を設けて出力端子側から高周波増幅回路への反射波電力を除去することにより、反射波電力によって負荷インピーダンスが変動することを抑制する送信回路がある。このような構成においては、負荷インピーダンスの変動によるインピーダンス不整合の発生自体を低減するために、アイソレータまたはサーキュレータ等の構成が必須となる。
【0152】
これに対して、本実施形態の送信回路107によれば、上述のように、負荷インピーダンスが変動する場合においても、電力増幅素子303のリニアリティを維持することができるため、負荷インピーダンスも変動を抑制する機器等を設けなくとも良い。
【0153】
また、本実施形態の送信回路107は、算出された負荷インピーダンスに応じたバイアス電圧の設定値に合わせて、出力するバイアス電圧の大きさを変更する電圧可変抵抗器304と、電力増幅素子303の温度を計測する温度センサ305と、温度センサ305により計測された温度と、電圧可変抵抗器304から出力された電圧とに基づいて、温度補償されたバイアス電圧を電力増幅素子303に印加する加算器307を更に備える。このため、本実施形態の送信回路107によれば、電力増幅素子303の温度上昇により増幅機能が低下しても、電力増幅素子303のリニアリティの低下を低減することができる。
【0154】
また、本実施形態の送信回路107は、温度センサ305と加算器307との通信を接続または遮断するスイッチ306をさらに備える。これにより、本実施形態の送信回路107によれば、バイアス電圧の温度補償をするか否かを切り替えることができる。
【0155】
例えば、本実施形態の送信回路107を備えるMRI装置100では、被検体Pをプリスキャンする場合に、スイッチ306を開状態とし、被検体Pを本スキャンする場合に、スイッチ306を閉状態とする。これにより、例えば、バイアス電圧の温度補償をしない状態でプリスキャンの際に測定された負荷インピーダンスに基づいて、本スキャンでは電力増幅素子303の温度上昇を加味したバイアス電圧を出力するように、MRI装置100の使用場面に合わせた制御をすることが可能となる。
【0156】
また、本実施形態の送信回路107は、高周波増幅回路250の出力側のVSWRおよび位相に関する情報に基づいて算出した負荷インピーダンスに応じて、高周波増幅回路250に入力されるRF入力信号の振幅および位相を制御する。このような構成により、本実施形態の送信回路107では、負荷インピーダンスの変動による高周波増幅回路250のリニアリティの低下を加味して調整したRF入力信号を高周波増幅回路250に入力することにより、負荷インピーダンスが変動する場合においても、規定の大きさおよび位相の増幅信号を送信回路107から出力することができる。このため、本実施形態の送信回路107によれば、負荷インピーダンスが変動する場合においても、送信回路107全体でのリニアリティを維持することができる。
【0157】
また、本実施形態の送信回路107は、高周波増幅回路250の出力側のVSWRおよび位相に関する情報に基づいて算出した負荷インピーダンスに応じて、電力増幅素子303に印加するドレイン電圧を制御する。このため、本実施形態の送信回路107によれば、バイアス電圧とドレイン電圧の両方を調整することで、電力増幅素子303の動作点の制御が容易となる。
【0158】
本実施形態のMRI装置100は、上述の送信回路107を備えることにより、個々の被検体Pによって負荷インピーダンスが変動しても、リニアリティが維持された増幅信号に基づく高周波磁場を発生させることができる。
【0159】
(変形例1)
なお、上述の実施形態では、送信コイル106は、被検体Pの全身を囲むホールボディ型のコイルとしたが、送信コイル106の形状はこれに限定されるものではない。例えば、送信コイル106は、被検体Pの身体の一部に取り付けられる局所コイルであっても良い。
【0160】
(変形例2)
また、上述の実施形態では、電力増幅素子303のケース温度に基づくバイアス電圧の温度補償について説明したが、高周波増幅回路250は、電力増幅素子303のケース温度、内部損失、および熱抵抗等から、電力増幅素子303のジャンクション温度を推定する機能を備えても良い。この場合、加算器307は、推定されたジャンクション温度に基づいてバイアス電圧を加算しても良い。
【0161】
なお、本明細書において扱う各種データは、典型的にはデジタルデータである。
【0162】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、高周波増幅回路のリニアリティを維持する機能をさらに高めることができる。
【0163】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、実施形態同士の組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0164】
90a,90b 出力波形
100 MRI装置
101 静磁場磁石
102 傾斜磁場コイル
103 傾斜磁場電源
104 寝台
104a 天板
105 寝台制御回路
106 送信コイル
107 送信回路
108 受信コイル
109 受信回路
110 シーケンス制御回路
120 計算機システム
121 ネットワークインタフェース
122 記憶回路
123 処理回路
124 入力インタフェース
125 ディスプレイ
210 入力端子
211 参照信号生成回路
212 ゲイン調整回路
213 位相調整回路
215 カプラ
216 電圧・電流検出回路
217 出力端子
218 位相演算回路
219 VSWR演算回路
220 負荷インピーダンス演算回路
221 制御回路
221a バイアス電圧制御機能
221b ゲイン・位相制御機能
221c ドレイン電圧制御機能
221d スイッチ制御機能
250 高周波増幅回路
301 入力端子
302 出力端子
303 電力増幅素子
304 電圧可変抵抗器
305 温度センサ
306 スイッチ
307 加算器
P 被検体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9