(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175864
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】輝度分布画像表示装置
(51)【国際特許分類】
G06T 5/50 20060101AFI20221117BHJP
G06F 30/13 20200101ALI20221117BHJP
G06F 30/20 20200101ALI20221117BHJP
G06T 11/80 20060101ALI20221117BHJP
G09B 9/00 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
G06T5/50
G06F30/13
G06F30/20
G06T11/80 A
G09B9/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082618
(22)【出願日】2021-05-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊池 卓郎
(72)【発明者】
【氏名】大石 潤
【テーマコード(参考)】
5B050
5B057
5B146
【Fターム(参考)】
5B050AA03
5B050BA06
5B050BA11
5B050BA18
5B050BA20
5B050CA01
5B050DA01
5B050EA14
5B050EA19
5B050FA02
5B050FA13
5B057CA08
5B057CA12
5B057CA16
5B057CB08
5B057CB12
5B057CB16
5B057CE08
5B057DA16
5B057DB02
5B057DB09
5B057DC16
5B146AA04
5B146DE06
5B146DJ11
5B146DL08
(57)【要約】
【課題】より高速で高精細な輝度分布画像を表示することができる輝度分布画像表示装置を得る。
【解決手段】輝度分布画像表示装置10は、表示対象とする空間の輝度分布を示す画像である輝度分布画像における空間周波数が予め定められた閾値以上の領域である高空間周波数領域の輝度分布画像を導出する高空間周波数画像導出部11Aと、高空間周波数画像導出部11Aとは別構成とされ、かつ、輝度分布画像における空間周波数が上記閾値未満の領域である低空間周波数領域の輝度分布画像を導出する低空間周波数画像導出部11Bと、高空間周波数画像導出部11Aによって導出された輝度分布画像、及び低空間周波数画像導出部11Bによって導出された輝度分布画像を合成する輝度分布画像合成部11Cと、輝度分布画像合成部11Cによる合成によって得られた画像を表示部15に表示させる制御を行う表示制御部11Dと、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示対象とする空間の輝度分布を示す画像である輝度分布画像を表示する輝度分布画像表示装置であって、
前記輝度分布画像における空間周波数が予め定められた閾値以上の領域である高空間周波数領域の輝度分布画像を導出する高空間周波数画像導出部と、
前記高空間周波数画像導出部とは別構成とされ、かつ、前記輝度分布画像における空間周波数が前記閾値未満の領域である低空間周波数領域の輝度分布画像を導出する低空間周波数画像導出部と、
前記高空間周波数画像導出部によって導出された輝度分布画像、及び前記低空間周波数画像導出部によって導出された輝度分布画像を合成する輝度分布画像合成部と、
前記輝度分布画像合成部による合成によって得られた画像を表示部に表示させる制御を行う表示制御部と、
を備えた輝度分布画像表示装置。
【請求項2】
前記高空間周波数領域の輝度分布画像は、少なくとも直射日光の直接成分による画像を含む、
請求項1に記載の輝度分布画像表示装置。
【請求項3】
前記低空間周波数領域の輝度分布画像は、直射日光の間接成分による画像、天空光の直接成分による画像、及び天空光の間接成分による画像の少なくとも1つの画像を含む、
請求項2に記載の輝度分布画像表示装置。
【請求項4】
前記高空間周波数画像導出部は、予め定められたゲームエンジン・プログラムにより前記高空間周波数領域の輝度分布画像を導出し、
前記低空間周波数画像導出部は、予め定められた物理照明シミュレーション・プログラムにより前記低空間周波数領域の輝度分布画像を導出する、
請求項1~請求項3の何れか1項に記載の輝度分布画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輝度分布画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、室内等の空間における輝度分布を仮想空間上で再現して表示装置により表示する技術に関する技術として、次の技術があった。
【0003】
特許文献1には、3次元空間である照明空間から光観測面に入射する光の入射エネルギー分布を、光観測面の位置や向きの変更に対して対話的ないし連続的に評価できるようにすることを目的とした光分布シミュレータが開示されている。
【0004】
この光分布シミュレータは、コンピュータを用いて構築された仮想の三次元空間を記憶する空間記憶手段と、当該三次元空間に存在する面を小領域である多数個の面要素に分割する面分割手段と、を備えている。また、この光分布シミュレータは、面分割手段により分割された面要素をそれぞれ光源面として面要素ごとに光の放射エネルギーを算出する光エネルギー分布算出手段と、前記三次元空間を観測する仮想の光観測面を規定する光観測面規定手段と、を備えている。また、この光分布シミュレータは、光エネルギー分布算出手段により算出した面要素ごとの光の放射エネルギーを面要素ごとに関係付けて記憶する光エネルギー分布記憶手段を備えている。そして、この光分布シミュレータは、光エネルギー分布記憶手段に記憶された面要素ごとの光の放射エネルギーを用い前記三次元空間における面要素を光観測面から見込んだときの光観測面に入射する光のエネルギーを求める視知覚模擬手段を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した輝度分布画像を仮想空間上で表示する技術の分野において、異なる天候や時刻、或いは観察者の視点や視線の移動も含めて、体感上リアルタイムに反映して表示したいといったニーズがある。このため、汎用の技術である、ゲームの3次元(以下、「3D」ともいう。)グラフィックスデータを生成するプログラムである、所謂「ゲームエンジン」を利用する取り組みが成されている。
【0007】
「ゲームエンジン」には、3Dグラフィックスデータを生成するにあたり、物理現象を仮想空間上で再現する物理シミュレーション機能も有しているものがあるが、ゲームエンジンに内在する物理シミュレーション機能は比較的単純なものに留まっている。
【0008】
照度値をゲームエンジンに3D空間上のテクスチャとして与えれば、照度値と反射率を乗じて輝度値を求め、観察者の視点や視線の移動を反映して視野内の輝度分布を提示することができる。
【0009】
このような照度値を精度よく計算するには、既存のゲームエンジンの物理シミュレーション機能のみでは完結しない。このため、既存の物理照明シミュレーション・プログラムで詳細な前処理計算により得られた計算結果を、Unity(登録商標)等のゲームエンジンにテクスチャデータとして引き渡すことが行われてきた。
【0010】
従来のRadiance等の物理照明シミュレーション・プログラムの利用において、昼光は天候や時刻によって計算結果が異なる。このため、その条件毎にシミュレーションを実行することになるが、この計算を高速に行うために、マルチ・フェーズ法(multi-phase method)がある。
【0011】
マルチ・フェーズ法では、予め、離散化した光源の基準強さ当たりの計算点別の計算結果行列M(光源位置×計算点)を作成しておき、天候及び時刻に応じた光源の強さベクトル(光源位置)と積和することで、指定した天候及び時刻の条件下における計算点の結果を瞬時に得るようにしている。
【0012】
図9に、光源位置の離散化の例として、マルチ・フェーズ法における直射日光の光源位置の例を示す(出典:「“Standard daylight coefficient model for dynamic daylighting simulations”、[online]、[令和3年5月14日検索]、インターネット<URL:https://www.researchgate.net/publication/228683789_Standard_daylight_coefficient_model_for_dynamic_daylighting_simulations>」)。実際の太陽は太い枠線の中のあらゆる位置を取り得るが、離散化し、+印の位置のみで計算点の値を求め、実際の太陽の位置に隣接する複数の光源位置(+印)の計算結果を加重平均する。この平均化処理によって、空間分解能(エッジの強さ)を犠牲にするが、物理量の正確さを担保している。
【0013】
一方、昼光照明の分野における主要な光源の分類は以下に示す2種類の光源及び2種類の成分に分類される。
【0014】
(1)光源:直射日光、天空光
(2)成分:直接成分(光源から直接届く光)、間接成分(1回以上反射して届く光)
【0015】
従って、主要な光源の分類としては4(=2×2)成分があることになる。このうち、直射日光の直接成分のみ、建築空間にエッジの強い(換言すれば、急激に変化する、更に換言すれば、高い空間周波数の)輝度分布を生じさせることが多い。窓から入る太陽の光が直接壁に当たっているシーン等が当該輝度分布に相当する。
【0016】
マルチ・フェーズ法では光源の位置を離散化するため、上述した4成分のうち、直射日光の直接成分にとっては十分な分解能で(エッジの強い輝度分布を)表示できない問題がある。これを解決するために、5フェーズ法(5-phase method)がある。
【0017】
一例として
図10に示すように、5フェーズ法は、マルチ・フェーズ法で計算した結果(
図10では「第3フェーズ」と表記。)から、マルチ・フェーズ法で計算した直射日光の直接成分のみ差し引く。更に、5フェーズ法は、以上の直射日光の直接成分を差し引いた結果に、光源の位置を離散化しない通常の計算方法で計算した直射日光の直接成分を足す(
図10では「第5フェーズ」と表記。)。なお、5フェーズ法については、「“The Five-Phase Method for Simulating Complex Fenestration with Radiance”、[online]、[令和3年4月23日検索]、インターネット<URL:https://www.radiance-online.org/learning/tutorials/fivephasetutorialfiles/Tutorial-FivePhaseMethod_v2.pdf>」等にも記載されている既知の技術であるため、これ以上の説明は省略する。
【0018】
一方、ベクトルと行列の積和計算を高速に行う場合、行列の大きさが大きいと記憶部の記憶容量を超えてしまって実行不可能になったり、積和計算が遅くなったりする。よって、計算の点数は粗くする(少ない)ことが望ましいが、直射日光のようなエッジの強い輝度分布(高周波成分)を高精細に表示することができず、エッジがぎざぎざになる。
【0019】
マルチ・フェーズ法の利用において、光源位置の離散化によってエッジの強い、高精細な輝度分布を作成できないという問題は、5フェーズ法により解決することができる。しかしながら、マルチ・フェーズ法をゲームエンジンで利用するにあたってはテクスチャの計算の点数を粗くしないといけないため、依然としてエッジの強い、高精細な輝度分布を表示できない、という問題点があった。
【0020】
なお、上述した特許文献1に開示されている技術は、マルチ・フェーズ法や5フェーズ法については考慮されていないため、この問題点を解決することはできない。
【0021】
本開示は、以上の事情を鑑みて成されたものであり、より高速で高精細な輝度分布画像を表示することができる輝度分布画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
請求項1に記載の本発明に係る輝度分布画像表示装置は、表示対象とする空間の輝度分布を示す画像である輝度分布画像を表示する輝度分布画像表示装置であって、前記輝度分布画像における空間周波数が予め定められた閾値以上の領域である高空間周波数領域の輝度分布画像を導出する高空間周波数画像導出部と、前記高空間周波数画像導出部とは別構成とされ、かつ、前記輝度分布画像における空間周波数が前記閾値未満の領域である低空間周波数領域の輝度分布画像を導出する低空間周波数画像導出部と、前記高空間周波数画像導出部によって導出された輝度分布画像、及び前記低空間周波数画像導出部によって導出された輝度分布画像を合成する輝度分布画像合成部と、前記輝度分布画像合成部による合成によって得られた画像を表示部に表示させる制御を行う表示制御部と、を備えている。
【0023】
請求項1に記載の本発明に係る輝度分布画像表示装置によれば、表示対象とする空間の輝度分布を示す画像である輝度分布画像を表示するにあたり、輝度分布画像における空間周波数が予め定められた閾値以上の領域である高空間周波数領域の輝度分布画像を高空間周波数画像導出部により導出する一方、当該高空間周波数画像導出部とは別構成とされた低空間周波数画像導出部により、輝度分布画像における空間周波数が上記閾値未満の領域である低空間周波数領域の輝度分布画像を導出し、導出した各輝度分布画像を合成することで、より高速で高精細な輝度分布画像を表示することができる。
【0024】
請求項2に記載の本発明に係る輝度分布画像表示装置は、請求項1に記載の輝度分布画像表示装置であって、前記高空間周波数領域の輝度分布画像が、少なくとも直射日光の直接成分による画像を含むものである。
【0025】
請求項2に記載の本発明に係る輝度分布画像表示装置によれば、高空間周波数領域の輝度分布画像が、少なくとも直射日光の直接成分による画像を含むものとすることで、直射日光の直接成分の輝度分布画像を、より高精細に導出することができる。
【0026】
請求項3に記載の本発明に係る輝度分布画像表示装置は、請求項2に記載の輝度分布画像表示装置であって、前記低空間周波数領域の輝度分布画像が、直射日光の間接成分による画像、天空光の直接成分による画像、及び天空光の間接成分による画像の少なくとも1つの画像を含むものである。
【0027】
請求項3に記載の本発明に係る輝度分布画像表示装置によれば、低空間周波数領域の輝度分布画像が、直射日光の間接成分による画像、天空光の直接成分による画像、及び天空光の間接成分による画像の少なくとも1つの画像を含むものとすることで、含めた輝度分布画像を、より高速に導出することができる。
【0028】
請求項4に記載の本発明に係る輝度分布画像表示装置は、請求項1~請求項3の何れか1項に記載の輝度分布画像表示装置であって、前記高空間周波数画像導出部が、予め定められたゲームエンジン・プログラムにより前記高空間周波数領域の輝度分布画像を導出し、前記低空間周波数画像導出部が、予め定められた物理照明シミュレーション・プログラムにより前記低空間周波数領域の輝度分布画像を導出するものである。
【0029】
請求項4に記載の本発明に係る輝度分布画像表示装置によれば、高空間周波数画像導出部が、予め定められたゲームエンジン・プログラムにより高空間周波数領域の輝度分布画像を導出し、低空間周波数画像導出部が、予め定められた物理照明シミュレーション・プログラムにより低空間周波数領域の輝度分布画像を導出することで、既存かつ汎用のプログラムを適切に利用することができる。
【発明の効果】
【0030】
以上説明したように、本発明によれば、より高速で高精細な輝度分布画像を表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】実施形態に係る輝度分布画像表示装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】実施形態に係る輝度分布画像表示装置の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】実施形態に係る建物関連情報データベースの構成の一例を示す模式図である。
【
図4】実施形態に係る太陽位置情報データベースの構成の一例を示す模式図である。
【
図5】実施形態に係る輝度分布画像表示処理の説明に供する図であり、輝度分布画像表示処理の各段階における輝度分布画像の一例を示す模式図である。
【
図6】実施形態に係る輝度分布画像表示処理の一例を示すフローチャートである。
【
図7】実施形態に係る初期情報入力画面の構成の一例を示す正面図である。
【
図8】実施形態に係る輝度分布画像表示画面の構成の一例を示す正面図である。
【
図9】従来の技術の説明に供する図であり、光源位置の離散化の一例として、マルチ・フェーズ法における直射日光の光源位置の一例を示すグラフである。
【
図10】従来の技術の説明に供する図であり、5フェーズ法による段階的な輝度分布画像の推移の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態例を詳細に説明する。
【0033】
まず、
図1及び
図2を参照して、本実施形態に係る輝度分布画像表示装置10の構成を説明する。
図1は、本実施形態に係る輝度分布画像表示装置10のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。また、
図2は、本実施形態に係る輝度分布画像表示装置10の機能的な構成の一例を示すブロック図である。なお、輝度分布画像表示装置10の例としては、パーソナルコンピュータ及びサーバコンピュータ等の情報処理装置が挙げられる。
【0034】
図1に示すように、本実施形態に係る輝度分布画像表示装置10は、CPU(Central Processing Unit)11、一時記憶領域としてのメモリ12、不揮発性の記憶部13、キーボードとマウス等の入力部14、液晶ディスプレイ等の表示部15、媒体読み書き装置(R/W)16及び通信インタフェース(I/F)部18を備えている。CPU11、メモリ12、記憶部13、入力部14、表示部15、媒体読み書き装置16及び通信I/F部18はバスBを介して互いに接続されている。媒体読み書き装置16は、記録媒体17に書き込まれている情報の読み出し及び記録媒体17への情報の書き込みを行う。
【0035】
記憶部13はHDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等によって実現される。記憶媒体としての記憶部13には、輝度分布画像表示プログラム13A、物理照明シミュレーション・プログラム13B、及びゲームエンジン・プログラム13Cが記憶されている。輝度分布画像表示プログラム13Aは、当該プログラム13Aが書き込まれた記録媒体17が媒体読み書き装置16にセットされ、媒体読み書き装置16が記録媒体17からの上記プログラム13Aの読み出しを行うことで、記憶部13へ記憶される。また、物理照明シミュレーション・プログラム13B及びゲームエンジン・プログラム13Cの各プログラムも、当該各プログラムが書き込まれた記録媒体17が媒体読み書き装置16にセットされ、媒体読み書き装置16が記録媒体17からの上記各プログラムの読み出しを行うことで、記憶部13へ記憶される。CPU11は、輝度分布画像表示プログラム13A、物理照明シミュレーション・プログラム13B、及びゲームエンジン・プログラム13Cの各プログラムを記憶部13から適宜読み出してメモリ12に展開し、当該各プログラムが有するプロセスを順次実行する。
【0036】
本実施形態では、物理照明シミュレーション・プログラム13Bとして既存のプログラムであるRadianceを適用している。また、本実施形態では、ゲームエンジン・プログラム13Cとして、既存のプログラムであるUnity(登録商標)を適用している。但し、これらの形態に限るものではなく、何れのプログラムも、既存の同様の機能を有する他のプログラムや、専用のプログラムを適用する形態としてもよい。
【0037】
また、記憶部13には、建物関連情報データベース13D及び太陽位置情報データベース13Eが記憶される。建物関連情報データベース13D及び太陽位置情報データベース13Eについては、詳細を後述する。
【0038】
次に、
図2を参照して、本実施形態に係る輝度分布画像表示装置10の機能的な構成について説明する。
【0039】
図2に示すように、本実施形態に係る輝度分布画像表示装置10は、高空間周波数画像導出部11A、低空間周波数画像導出部11B、輝度分布画像合成部11C、及び表示制御部11Dを含む。輝度分布画像表示装置10のCPU11が輝度分布画像表示プログラム13Aを実行することで、高空間周波数画像導出部11A、低空間周波数画像導出部11B、輝度分布画像合成部11C、及び表示制御部11Dとして機能する。
【0040】
本実施形態に係る高空間周波数画像導出部11Aは、表示対象とする空間の輝度分布を示す画像である輝度分布画像における空間周波数が予め定められた閾値以上の領域である高空間周波数領域の輝度分布画像を導出する。本実施形態では、上記閾値として、輝度分布画像における空間周波数が当該値以上の領域であれば、対応する日時及び天候における直射日光で直接成分の領域であると見なすことのできる値として、コンピュータ・シミュレーション等によって予め得られた値を適用している。但し、これに限るものではなく、例えば、ユーザに対して、輝度分布画像表示装置10の用途等に応じて、当該閾値を予め設定させる形態としてもよい。
【0041】
また、本実施形態に係る低空間周波数画像導出部11Bは、高空間周波数画像導出部11Aとは別構成とされ、かつ、上記輝度分布画像における空間周波数が上記閾値未満の領域である低空間周波数領域の輝度分布画像を導出する。この低空間周波数領域の輝度分布画像には、直射日光の間接成分による画像、天空光の直接成分による画像、及び天空光の間接成分による画像が含まれる。
【0042】
このように、本実施形態では、結果的に得られる輝度分布画像における、空間周波数が上記閾値以上となる領域と、当該閾値未満となる領域とで、互いに別構成とされた導出部によって導出するように役割分担している。この空間周波数が上記閾値以上の領域、及び当該閾値未満の領域は、換言すれば、エッジ部における輝度値の変化量が所定量以上の領域、及び当該所定量未満の領域(所謂「エッジが強い領域」、及び「エッジが弱い領域」)とも言える。
【0043】
なお、本実施形態では、高空間周波数画像導出部11Aが、予め定められたゲームエンジン・プログラム(本実施形態では、ゲームエンジン・プログラム13C)により高空間周波数領域の輝度分布画像を導出するものとされている。また、本実施形態では、低空間周波数画像導出部11Bが、予め定められた物理照明シミュレーション・プログラム(本実施形態では、物理照明シミュレーション・プログラム13B)により低空間周波数領域の輝度分布画像を導出するものとされている。但し、これらの形態に限定されるものではないことは上述した通りである。
【0044】
また、本実施形態に係る輝度分布画像合成部11Cは、高空間周波数画像導出部11Aによって導出された輝度分布画像、及び低空間周波数画像導出部11Bによって導出された輝度分布画像を合成する。
【0045】
そして、本実施形態に係る表示制御部11Dは、輝度分布画像合成部11Cによる合成によって得られた画像を表示部15に表示させる制御を行う。
【0046】
次に、
図3を参照して、本実施形態に係る建物関連情報データベース13Dについて説明する。
図3は、本実施形態に係る建物関連情報データベース13Dの構成の一例を示す模式図である。なお、建物関連情報データベース13Dは、本実施形態に係る輝度分布画像表示装置10が表示対象としている建物に関する情報が記憶されたデータベースである。
【0047】
図3に示すように、本実施形態に係る建物関連情報データベース13Dは、輝度分布画像表示装置10が取り扱い対象としている建物毎に、建物名称、建物位置情報、及び3次元CAD(Computer Aided Design)情報の各情報が関連付けられて記憶されている。
【0048】
上記建物名称は、対応する建物の名称を示す情報であり、上記建物位置情報は、対応する建物の建設位置を示す情報である。なお、本実施形態では、上記建物位置情報として、対応する建物の住所を適用しているが、これに限定されるものではない。上記建物位置情報として、緯度及び経度の各情報を適用する形態としてもよいし、これらの住所や、緯度及び経度に対して高度を付加して適用する形態等としてもよい。
【0049】
一方、上記3次元CAD情報は、対応する建物の形状を示す建物形状情報、及び当該建物の屋外に存在する、太陽からの当該建物に対する直達日射を遮蔽する遮蔽物の形状を示す遮蔽物形状情報を含むモデル(以下、「建物関連モデル」という。)を示す情報とされている。本実施形態に係る上記遮蔽物には、対応する建物に隣接する建物、電柱、橋等の建造物や、樹木、当該建物の周囲に設けられた塀等の他、当該建物の外壁に設けられた庇等が含まれる。
【0050】
また、本実施形態に係る建物関連モデルには、対応する建物における各部屋を特定するための特定情報も含まれている。
【0051】
本実施形態では、建物関連モデルを、予め定められた3次元CADソフトウェアを用いて作成している。本実施形態では、上記3次元CADソフトウェアとして、ライノセラス(Rhinoceros)(登録商標)を適用しているが、これに限定されるものではない。例えば、レビット(Revit)(登録商標)等の他のソフトウェアを上記3次元CADソフトウェアとして適用する形態としてもよい。
【0052】
次に、
図4を参照して、本実施形態に係る太陽位置情報データベース13Eについて説明する。
図4は、本実施形態に係る太陽位置情報データベース13Eの構成の一例を示す模式図である。なお、太陽位置情報データベース13Eは、本実施形態に係る輝度分布画像表示装置10が表示対象としている建物の建設位置における太陽の位置に関する情報が記憶されたデータベースである。
【0053】
図4に示すように、本実施形態に係る太陽位置情報データベース13Eは、予め定められた複数の地域毎で、かつ、日時毎に、太陽の位置を示す情報である太陽位置情報が記憶されている。
【0054】
なお、本実施形態では、上記地域として、住所を示す情報を適用しているが、これに限定されるものではない。当該地域として、対応する位置の緯度及び経度の各情報を適用する形態としてもよい。また、本実施形態では、上記日時として、対応する地域における1月1日から12月31日までの日の出時刻から日没時刻までの日時帯で、かつ、所定時間(本実施形態では、5分)間隔の時刻を適用しているが、これに限定されるものでないことは言うまでもない。更に、本実施形態では、上記太陽位置情報として、対応する地域の地表面における、対応する時刻での太陽に対する方位角及び傾斜角の2つの角度で表される情報を適用しているが、これに限定されるものでないことも言うまでもない。なお、太陽位置情報は、拡張アメダス気象データ等から得ることができる。また、太陽位置情報は、対応する位置の緯度及び経度から各種近似式を用いて算出することもできる。
【0055】
ここで、
図5を参照して、後述する輝度分布画像表示処理の原理について説明する。
図5は、本実施形態に係る輝度分布画像表示処理の説明に供する図であり、輝度分布画像表示処理の各段階における輝度分布画像の一例を示す模式図である。
【0056】
本実施形態に係る輝度分布画像表示装置10では、輝度分布画像を導出するために、上述した5フェーズ法を用いる。即ち、一例として
図5に示すように、5フェーズ法における第3フェーズまでの処理によって得られる輝度分布画像の導出、及び当該輝度分布画像から直射日光の直接成分を差し引くところまでの処理を物理照明シミュレーション・プログラム13Bにより実行する。そして、直射日光の直接成分の輝度分布画像の導出、及び以上の処理によって得られた輝度分布画像に対する、導出した直射日光の直接成分の輝度分布画像の合成をゲームエンジン・プログラム13Cによって実行する。
【0057】
このように、本実施形態に係る輝度分布画像表示装置10では、直射日光の直接成分の領域の処理についてはゲームエンジン・プログラム13Cによって行い、光に関する他の領域の処理については物理照明シミュレーション・プログラム13Bによって行っている。これにより、このような役割分担を行わない場合に比較して、より高速で高精細な輝度分布画像を表示することができる。
【0058】
次に、
図6~
図8を参照して、本実施形態に係る輝度分布画像表示装置10の作用を説明する。ユーザによって輝度分布画像表示プログラム13Aの実行を開始する指示入力が入力部14を介して行われた場合に、輝度分布画像表示装置10のCPU11が当該プログラム13Aを実行することにより、
図6に示す輝度分布画像表示処理が実行される。なお、ここでは、錯綜を回避するために、建物関連情報データベース13D及び太陽位置情報データベース13Eが構築済みである場合について説明する。
【0059】
図6のステップ100で、CPU11は、予め定められた構成とされた初期情報入力画面を表示するように表示部15を制御し、ステップ102で、CPU11は、所定情報が入力されるまで待機する。
【0060】
図7には、本実施形態に係る初期情報入力画面の一例が示されている。
図7に示すように、本実施形態に係る初期情報入力画面では、処理対象とする部屋(以下、「対象部屋」という。)に関する情報の入力を促すメッセージが表示される。また、本実施形態に係る初期情報入力画面では、対象部屋が設けられている建物、当該対象部屋、対象とする日時、及び対象とする天候の各情報を入力するための入力領域15Aが表示される。
【0061】
一例として
図7に示す初期情報入力画面が表示部15に表示されると、ユーザは、入力部14を介して、対応する情報を、対応する入力領域15Aに入力した後に、終了ボタン15Bを指定する。これに応じて、ステップ102が肯定判定となって、ステップ104に移行する。
【0062】
ステップ104で、CPU11は、初期情報入力画面において入力された建物に対応する建物位置情報及び3次元CAD情報(以下、「建物関連情報」という。)を建物関連情報データベース13Dから読み出す。また、ステップ104で、CPU11は、読み出した建物関連情報における建物位置情報が示す建設位置に対応し、かつ、初期情報入力画面において入力された日時に対応する太陽位置情報を太陽位置情報データベース13Eから読み出す。ここで、CPU11は、建物位置情報が示す建設位置と同一の地域が太陽位置情報データベース13Eに登録されている場合は当該地域を適用する一方、上記建設位置と同一の地域が太陽位置情報データベース13Eに登録されていない場合には、当該建設位置の最寄りの地域を適用する。
【0063】
ステップ106で、CPU11は、物理照明シミュレーション・プログラム13Bにより、5フェーズ法における第4フェーズによる輝度分布画像(
図5に示す第3フェーズによる輝度分布画像(
図5上段左側の画像)から直射日光の直接成分の領域の輝度分布画像(
図5上段右側の画像)を差し引いた画像)を生成する。この際、CPU11は、読み出した建物関連情報の3次元CAD情報における、初期情報入力画面において入力された対象部屋の情報を対象とし、かつ、読み出した太陽位置情報及び入力された天候を示す情報を用いて、第4フェーズによる輝度分布画像を物理照明シミュレーション・プログラム13Bにより生成する。
【0064】
ステップ108で、CPU11は、ゲームエンジン・プログラム13Cにより、5フェーズ法における第5フェーズで用いる、直射日光の直接成分の領域の輝度分布画像(
図5下段左側の画像)を生成する。この際も、CPU11は、3次元CAD情報における対象部屋の情報を対象とし、かつ、読み出した太陽位置情報及び入力された天候を示す情報を用いて、直射日光の直接成分の領域の輝度分布画像をゲームエンジン・プログラム13Cにより生成する。
【0065】
ステップ110で、CPU11は、ゲームエンジン・プログラム13Cにより、ステップ106の処理によって得られた第4フェーズによる輝度分布画像と、ステップ108の処理によって得られた直射日光の直接成分の領域の輝度分布画像と、を合成する。この輝度分布画像の合成により、5フェーズ法における第5フェーズによる輝度分布画像(
図5下段右側の画像)が生成される。
【0066】
ステップ112で、CPU11は、以上の処理によって得られた第5フェーズによる輝度分布画像を示す情報を用いて、予め定められた構成とされた輝度分布画像表示画面を表示するように表示部15を制御する。ステップ114で、CPU11は、所定情報が入力されるまで待機する。
【0067】
図8には、本実施形態に係る輝度分布画像表示画面の一例が示されている。
図8に示すように、本実施形態に係る輝度分布画像表示画面では、以上の処理によって得られた、5フェーズ法の第5フェーズによる輝度分布画像が表示される。
【0068】
一例として
図8に示す輝度分布画像表示画面が表示部15に表示されると、ユーザは、表示されている輝度分布画像を確認した後、入力部14を介して終了ボタン15Bを指定する。これに応じて、ステップ114が肯定判定となって、本輝度分布画像表示処理が終了する。
【0069】
以上説明したように、本実施形態によれば、表示対象とする空間の輝度分布を示す画像である輝度分布画像を表示するにあたり、輝度分布画像における空間周波数が予め定められた閾値以上の領域である高空間周波数領域の輝度分布画像を導出する高空間周波数画像導出部11Aと、高空間周波数画像導出部11Aとは別構成とされ、かつ、輝度分布画像における空間周波数が上記閾値未満の領域である低空間周波数領域の輝度分布画像を導出する低空間周波数画像導出部11Bと、高空間周波数画像導出部11Aによって導出された輝度分布画像、及び低空間周波数画像導出部11Bによって導出された輝度分布画像を合成する輝度分布画像合成部11Cと、輝度分布画像合成部11Cによる合成によって得られた画像を表示部に表示させる制御を行う表示制御部11Dと、を備えている。従って、より高速で高精細な輝度分布画像を表示することができる。
【0070】
また、本実施形態によれば、高空間周波数領域の輝度分布画像が、少なくとも直射日光の直接成分による画像を含むものとしている。従って、直射日光の直接成分の輝度分布画像を、より高精細に導出することができる。
【0071】
また、本実施形態によれば、低空間周波数領域の輝度分布画像が、直射日光の間接成分による画像、天空光の直接成分による画像、及び天空光の間接成分による画像を含むものとしている。従って、これらの輝度分布画像を、より高速に導出することができる。
【0072】
更に、本実施形態によれば、高空間周波数画像導出部11Aが、ゲームエンジン・プログラム13Cにより高空間周波数領域の輝度分布画像を導出し、低空間周波数画像導出部11Bが、物理照明シミュレーション・プログラム13Bにより低空間周波数領域の輝度分布画像を導出する。従って、既存かつ汎用のプログラムを適切に利用することができる。
【0073】
なお、上記実施形態では、直射日光の直接成分の領域の輝度分布画像の導出、及び当該輝度分布画像と、第4フェーズによる輝度分布画像との合成をゲームエンジン・プログラム13Cにより実行する場合について説明したが、これに限定されない。例えば、直射日光の直接成分の領域の輝度分布画像の導出のみをゲームエンジン・プログラム13Cによって実行する形態としてもよい。この場合、直射日光の直接成分の領域の輝度分布画像と、第4フェーズによる輝度分布画像との合成を、物理照明シミュレーション・プログラム13Bを用いて行う形態としてもよい。また、この場合、各プログラム13B、13Cを用いることなく、CPU11が直接、直射日光の直接成分の領域の輝度分布画像と、第4フェーズによる輝度分布画像との合成を行う形態としてもよい。
【0074】
また、上記実施形態では、物理照明シミュレーション・プログラム13Bによる処理が終了した後にゲームエンジン・プログラム13Cによる処理を実行する場合について説明したが、これに限定されない。例えば、これらの各プログラム13B、13Cの処理を並行して実行する形態としてもよい。この場合、上記実施形態に比較して、より高速に輝度分布画像を表示することができる。
【0075】
また、上記実施形態では、5フェーズ法を適用して最終的な輝度分布画像を導出する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、適用する手法は5フェーズ法には限らないことは言うまでもない。直射日光と天空光を含む領域の輝度分布画像から直射日光の直接成分を差し引く処理を物理照明シミュレーション・プログラムで実行し、当該処理を経た輝度分布画像に直射日光の直接成分を合成する処理をゲームエンジン・プログラムで実行する形態としてもよい。
【0076】
また、上記実施形態で適用した各種データベースの構成は一例であり、例示したものに限定されるものでないことは言うまでもない。また、太陽位置情報データベース13Eは必ずしも必要ではなく、対象とする建物の建設位置及び対象とする時刻を用いて、予め定められた演算式により太陽位置情報に相当する情報を算出する形態としてもよい。
【0077】
また、上記実施形態において、例えば、高空間周波数画像導出部11A、低空間周波数画像導出部11B、輝度分布画像合成部11C、及び表示制御部11Dの各処理を実行する処理部(processing unit)のハードウェア的な構造としては、次に示す各種のプロセッサ(processor)を用いることができる。上記各種のプロセッサには、前述したように、ソフトウェア(プログラム)を実行して処理部として機能する汎用的なプロセッサであるCPUに加えて、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なプロセッサであるプログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Device:PLD)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が含まれる。
【0078】
処理部は、これらの各種のプロセッサのうちの1つで構成されてもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGAの組み合わせや、CPUとFPGAとの組み合わせ)で構成されてもよい。また、処理部を1つのプロセッサで構成してもよい。
【0079】
処理部を1つのプロセッサで構成する例としては、第1に、クライアント及びサーバ等のコンピュータに代表されるように、1つ以上のCPUとソフトウェアの組み合わせで1つのプロセッサを構成し、このプロセッサが処理部として機能する形態がある。第2に、システムオンチップ(System On Chip:SoC)等に代表されるように、処理部を含むシステム全体の機能を1つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサを使用する形態がある。このように、処理部は、ハードウェア的な構造として、上記各種のプロセッサの1つ以上を用いて構成される。
【0080】
更に、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造としては、より具体的には、半導体素子などの回路素子を組み合わせた電気回路(circuitry)を用いることができる。
【符号の説明】
【0081】
10 輝度分布画像表示装置
11 CPU
11A 高空間周波数画像導出部
11B 低空間周波数画像導出部
11C 輝度分布画像合成部
11D 表示制御部
12 メモリ
13 記憶部
13A 輝度分布画像表示プログラム
13B 物理照明シミュレーション・プログラム
13C ゲームエンジン・プログラム
13D 建物関連情報データベース
13E 太陽位置情報データベース
14 入力部
15 表示部
15A 入力領域
15B 終了ボタン
16 媒体読み書き装置
17 記録媒体
18 通信I/F部