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特開2022-175873架橋されたポリヒドロキシアルカン酸を含む樹脂組成物
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  • 特開-架橋されたポリヒドロキシアルカン酸を含む樹脂組成物 図1
  • 特開-架橋されたポリヒドロキシアルカン酸を含む樹脂組成物 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175873
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】架橋されたポリヒドロキシアルカン酸を含む樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/44 20060101AFI20221117BHJP
   C08F 283/02 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
C08F2/44 C
C08F283/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082634
(22)【出願日】2021-05-14
(71)【出願人】
【識別番号】000183428
【氏名又は名称】住友林業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂井 俊之
(72)【発明者】
【氏名】猪野 光太郎
【テーマコード(参考)】
4J011
4J026
【Fターム(参考)】
4J011AA05
4J011PA88
4J011PC02
4J011PC08
4J026AB10
4J026BA27
4J026BA40
4J026BA50
4J026DB06
4J026DB36
4J026FA05
4J026GA06
4J026GA07
(57)【要約】
【課題】従来のエステル系樹脂とは異なる構造を有する脂肪族ポリエステル系樹脂から構成される物品を提供すること。
【解決手段】200℃での貯蔵弾性率(E´)が1.00×105Pa以上である、架橋されたポリヒドロキシアルカン酸を含む物品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイズ排除クロマトグラフィーで測定した平均分子量が32万以上であるか、又はクロロホルムを用いて4時間還流させた後の重量減少量率が30%未満である、架橋されたポリヒドロキシアルカン酸を含む物品。
【請求項2】
200℃での貯蔵弾性率(E´)が1.00×105Pa以上である、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
ポリヒドロキシアルカン酸が、3-ヒドロキシブチレート、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)、もしくはポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、又はそれらの共重合体を含む、請求項1又は2に記載の物品。
【請求項4】
ポリヒドロキシアルカン酸又はヒドロキシアルカン酸の共重合体100重量部に対し、アリル基又はアクリル基を含有する架橋性モノマーを0.1~20重量部配合し、該配合物を電離性放射線で照射して得られる、物品。
【請求項5】
電離放射線が電子線であり、照射線量が1kGy以上、200kGy以下である、請求項4に記載の物品。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の物品、もしくは該物品を構成する架橋ポリマー含有樹脂組成物を電子線を用いて滅菌する方法であって、滅菌後の前記ポリヒドロキシアルカン酸を含む架橋ポリマーの平均分子量が、サイズ排除クロマトグラフィーで測定した平均分子量が32万以上であるか、又は滅菌後の前記物品もしくは該物品を構成する架橋ポリマー含有樹脂組成物が、クロロホルムを用いて4時間還流させた後の重量減少量率が30%未満である、方法。
【請求項7】
アリル基又はアクリル基を含有する架橋性モノマーにより架橋されているポリヒドロキシアルカン酸又はヒドロキシアルカン酸の共重合体を含む、架橋ポリマー。
【請求項8】
サイズ排除クロマトグラフィーで測定した平均分子量が32万以上である、請求項7に記載の架橋ポリマー。
【請求項9】
ヒドロキシアルカン酸が、3-ヒドロキシブチレート、3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート、3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエートを含む、請求項7又は8に記載の架橋ポリマー。
【請求項10】
ポリヒドロキシアルカン酸又はヒドロキシアルカン酸の共重合体及びそれらの混合物からの1種又は2種以上、ならびに1種又は2種以上の架橋性モノマーを含む樹脂組成物であって、前記ポリヒドロキシアルカン酸又はヒドロキシアルカン酸の共重合体は、ポリ3-ヒドロキシブチレート、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)、もしくはポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)である、前記樹脂組成物。
【請求項11】
請求項10に記載の樹脂組成物を電離性放射線で照射して、架橋されたポリヒドロキシアルカン酸を含む架橋ポリマーを得ることを含む、ポリヒドロキシアルカン酸を含む架橋ポリマーを製造する方法。
【請求項12】
ポリヒドロキシアルカン酸又はヒドロキシアルカン酸の共重合体100重量部に対し、アリル基又はアクリル基を含有する架橋性モノマーを0.1~20重量部配合することを含む、請求項11に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い耐熱性を有する、ポリヒドロキシアルカン酸を含む樹脂組成物から得られる架橋されたポリヒドロキシアルカン酸を含む物品、前記樹脂組成物、及び前記架橋されたポリヒドロキシアルカン酸に少なくとも関する。
【0002】
生分解性ポリマーは、通常の使用では実用的物性を保持し使用後は土壌中や海洋中の微生物により消化・分解されるため、環境に負荷を与えない材料として注目されており、今後様々な分野で用途の拡大が期待されている。
中でも、生分解性およびカーボンニュートラルの観点から、植物由来のプラスチックとして脂肪族ポリエステル系樹脂が注目されており、特にポリヒドロキシアルカノエート(ポリヒドロキシアルカン酸。以下、PHAと称する場合がある)系樹脂であるポリ(3-ヒドロキシブチレート)単独重合樹脂( 以下、PHBと称する場合がある)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート)共重合樹脂(以下、PHBVと称する場合がある)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)共重合樹脂(以下、PHBHと称する場合がある)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)共重合樹脂およびポリ乳酸等が注目されている。
ただし、非特許文献1ではポリ乳酸はコンポストでの高温多湿な環境では分解されるが、通常の土壌環境や水環境では分解されにくいことが指摘されており、コンポスト以外の用途ではPHAの方が望ましい。
【0003】
PHA系樹脂はガラス転移温度が-7~4℃と低温であるため、食器として用いるとポットからの熱湯や食器乾燥機の熱風、又は医療用部材の殺菌に用いる熱で成形物に変形が起こる。従って、このような材料の耐熱性の改善には、放射線による樹脂の架橋が最も有効であると考えられる。
【0004】
上記耐熱性の要求に応えるべく、例えば特許文献1では、ポリ乳酸、ポリヒドロキシ酪酸、ポリブチレンサクシネートに、多官能アクリル系モノマー又は多官能アリル系モノマーと混合した後、活性エネルギー線照射による架橋性樹脂組成物が提案されている。
【0005】
また、特許文献2では、ポリブチレンサクシネートをポリ乳酸にアリル系モノマーと混合した後、架橋させる製造方法が提案されている。
また、特許文献3では、ポリブチレンサクシネートを無機物と混合した後、架橋させる製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-1447720号公報
【特許文献2】特許3759067号公報
【特許文献3】特許3581138号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「生分解性プラスチックの課題と将来展望」三菱総合研究所レポート 2019年4月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、ポリブチレンサクシネートやPHA系樹脂といった脂肪族ポリエステル系樹脂は、従来の知見に反し、放射線による樹脂の架橋は起こしづらいことを本発明者らは実験により明らかにした。本発明者らは、上記樹脂からなる物品の用途は、分子量を増大させがたいことや物性における制限のため限定されていると考えた。
かかる背景のもと、本発明は、例えば従来のエステル系樹脂とは異なる構造を有する脂肪族ポリエステル系樹脂から構成される物品を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究を行ったところ、脂肪族ポリエステル系樹脂の一種であるPHAとともにある種のモノマーを用いることにより脂肪族ポリエステルの構造を制御することができる可能性があることを見出し、さらに研究を重ねて本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は下記の通りである。
【0010】
[1]
サイズ排除クロマトグラフィーで測定した平均分子量が32万以上であるか、又はクロロホルムを用いて4時間還流させた後の重量減少量率が30%未満である、架橋されたポリヒドロキシアルカン酸を含む物品。
[2]
200℃での貯蔵弾性率(E´)が1.00×105Pa以上である、[1]に記載の物品。
[3]
ポリヒドロキシアルカン酸が、3-ヒドロキシブチレート、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)、もしくはポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、又はそれらの共重合体を含む、[1]又は[2]に記載の物品。
[4]
ポリヒドロキシアルカン酸又はヒドロキシアルカン酸の共重合体100重量部に対し、アリル基又はアクリル基を含有する架橋性モノマーを0.1~20重量部配合し、該配合物を電離性放射線で照射して得られる、物品。
[5]
電離放射線が電子線であり、照射線量が1kGy以上、200kGy以下である、[4]に記載の物品。
[6]
[1]~[5]のいずれかに記載の物品、もしくは該物品を構成する架橋ポリマー含有樹脂組成物を電子線を用いて滅菌する方法であって、滅菌後の前記ポリヒドロキシアルカン酸を含む架橋ポリマーの平均分子量が、サイズ排除クロマトグラフィーで測定した平均分子量が32万以上であるか、又は滅菌後の前記物品もしくは該物品を構成する架橋ポリマー含有樹脂組成物が、クロロホルムを用いて4時間還流させた後の重量減少量率が30%未満である、方法。
[7]
アリル基又はアクリル基を含有する架橋性モノマーにより架橋されているポリヒドロキシアルカン酸又はヒドロキシアルカン酸の共重合体を含む、架橋ポリマー。
[8]
サイズ排除クロマトグラフィーで測定した平均分子量が32万以上である、[7]に記載の架橋ポリマー。
[9]
ヒドロキシアルカン酸が、3-ヒドロキシブチレート、3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート、3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエートを含む、[7]又は[8]に記載の架橋ポリマー。
[10]
ポリヒドロキシアルカン酸又はヒドロキシアルカン酸の共重合体及びそれらの混合物からの1種又は2種以上、ならびに1種又は2種以上の架橋性モノマーを含む樹脂組成物であって、前記ポリヒドロキシアルカン酸又はヒドロキシアルカン酸の共重合体は、ポリ3-ヒドロキシブチレート、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)、もしくはポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)である、前記樹脂組成物。
[11]
[10]に記載の樹脂組成物を電離性放射線で照射して、架橋されたポリヒドロキシアルカン酸を含む架橋ポリマーを得ることを含む、ポリヒドロキシアルカン酸を含む架橋ポリマーを製造する方法。
[12]
ポリヒドロキシアルカン酸又はヒドロキシアルカン酸の共重合体100重量部に対し、アリル基又はアクリル基を含有する架橋性モノマーを0.1~20重量部配合することを含む、[11]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ポリヒドロキシアルカン酸を含む、生分解性である架橋ポリマーが提供される。かかる架橋ポリマーを用いることにより、ポリヒドロキシアルカン酸を含む、貯蔵弾性率が高い物品として成形物、フィルム・シート、糸、及び粒子などが提供される。
本発明の物品又は架橋ポリマーは貯蔵弾性率や耐熱性に優れる。また、本発明の物品又は架橋ポリマーは電子線を用いた殺菌を、好適に行うことができる。そのため本発明の物品又は架橋ポリマーは、清潔さが重視され滅菌の必要があり、電子線による滅菌が行われる器具の製造や用途に好適に用いられる。
理論に束縛されるものではないが、本発明により架橋ポリマーが提供されるのは次のように推測される。放射線照射されると一般的に高分子材料はラジカルなどの反応活性種が生成され、これが化学反応の起点となり架橋、分子鎖切断などが起こる。ヒドロキシアルカン酸は主鎖に反応活性種を生成しやすく、また架橋性モノマーとの相溶性にも優れることから、架橋が進行した。
これに対して、結晶性が低く、2級炭素が多いといった特性を有し、理論的にはより架橋しやすそうなPBSにおいては、上記のとおり放射線による樹脂の架橋は生じがたい。
これらのことから、本発明による架橋ポリマーやその製造方法は、当業者といえども想起することさえできなかったものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の樹脂組成物及び物品の外観の例を、製造工程に従って示す写真図である。4つの写真は、左から順にPHA(「PHAのみ」)、所定の各種材料を配合・混練した、架橋性樹脂組成物(「PHA+架橋性モノマー」)、前記架橋性樹脂組成物をプレス加工した、物品前躯体(「プレスフィルム化」)、及び物品前躯体に電子線を照射して得られた物品(「電子架橋後」)を示す。
図2】実施例における、架橋ポリマーの製造を、架橋性モノマーの添加量及び電子線の強度を変化させて行った結果を示すグラフである。架橋性モノマーを用いない場合には、電子線の照射によりPHBVは分解し、分子量は低下した。これに対し架橋性モノマーを用いるとより分子量が大きい生成物が生成したことから、PHBVが架橋されたことが示されている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ポリヒドロキシアルカノエート又はポリヒドロキシアルカン酸(本明細書において、「PHA」と省略して記載することがある)は、ヒドロキシアルカン酸をモノマーとし、該モノマーが線状に重合されている重合体を含むポリマーである。該モノマーの種類は限定されず、単一のモノマーであってよく、2種以上のモノマーを含むコポリマーであってもよい。
【0014】
本発明における「架橋されたポリヒドロキシアルカン酸」は、ポリヒドロキシアルカン酸が架橋性モノマーにより架橋されている架橋ポリマーである。ポリマーの種類は限定されず、前記ポリヒドロキシアルカン酸と同一のポリヒドロキシアルカン酸であってもよく、前記ポリヒドロキシアルカン酸とは異なるポリヒドロキシアルカン酸であってもよく、ポリブチレンサクシネート(PBS)やポリ乳酸といったポリマーであってよい。すなわち、本発明における「架橋されたポリヒドロキシアルカン酸」は、PBSや乳酸とポリヒドロキシアルカン酸とが架橋された分子を包含する。 本発明における「ポリヒドロキシアルカン酸又はヒドロキシアルカン酸の共重合体及びそれらの混合物からの1種又は2種以上、ならびに架橋性モノマーを含む樹脂組成物」は、前記各成分が配合された、電離性放射線の照射を適用される前の架橋性樹脂組成物である。当該架橋性樹脂組成物は、電離性放射線の照射により、架橋されたポリヒドロキシアルカン酸を含有する樹脂組成物になる。
架橋されたポリヒドロキシアルカン酸を含む(含有する)当該架橋ポリマーを含有する樹脂組成物を、本明細書においては「架橋ポリマー含有樹脂組成物」と記載して示すことがある。
前記電離性放射線の照射を適用される前の架橋性樹脂組成物、及び架橋ポリマー含有樹脂組成物も、ポリブチレンサクシネート(PBS)やポリ乳酸といったポリマーを含有してよい。本発明の物品を構成する架橋されたポリヒドロキシアルカン酸を含む組成物として、ポリブチレンサクシネート(PBS)のみが架橋されたポリマーやポリ乳酸のみが架橋されたポリマーのみからなる組成物は包含されない。
本発明における「物品」には、成形物、フィルム・シート、糸、及び粒子といった、限定されない一定の形状を有することが観念できる物が包含されるが、同物品はこれらの物に限定されない。
【0015】
[1 .架橋されたポリヒドロキシアルカン酸を含むフィルム]
本発明のポリヒドロキシアルカン酸を含む物品のうちフィルムを例として説明するに、該フィルムにおいては、以下の測定条件で測定した200℃での貯蔵弾性率(E´)は、1.00×105Pa以上の範囲に設定される。
貯蔵弾性率(E´)の測定条件:JIS K7244-1及び7244-4に準拠し、架橋ポリマー含有樹脂組成物を幅5mm、厚さ150μmのシートをクランプ間距離10mm 、開始温度-25℃ 、終了温度200℃、昇温速度5℃/分、測定周波数1Hzにて測定する。
【0016】
上記の200℃での貯蔵弾性率(E´)が1.0×105Pa以上が好ましい。貯蔵弾性率を上記下限以上とすることにより、当該架橋ポリマー含有樹脂組成物(フィルム)の寸法安定性を好適にすることができる。
本発明のポリヒドロキシアルカン酸を含む物品のうちフィルムとして、サイズ排除クロマトグラフィーで測定した平均分子量が32万以上であるか、又はクロロホルムを用いて4時間還流させた後の重量減少量率が30%未満である、ポリヒドロキシアルカン酸を含むものも好ましい。これらの特性を有するポリヒドロキシアルカン酸においては、架橋がなされていることが明らかである。
【0017】
上記重量減少量率の測定方法の例は以下のとおりである。重量減少量率の測定方法は、同等の重量減少量率が得られる範囲において改変することが可能である。
(重量減少率の測定方法の例)
試験片(秤量値をA(g))をクロロホルムで4時間還流する。完了後、試験片を取り出し、50℃で24時間乾燥させ質量を測定する(秤量値をB(g))。重量減少率(%)を下記の式にて求める。

重量減少率(%)=100×(A-B)/A

架橋処理後の重量減少率が低い、すなわちクロロホルムに溶解しにくくなるということは、樹脂の架橋密度が高くなり分子量が増加していることを示すといえる。
本発明のポリヒドロキシアルカン酸を含むフィルムにおいては、重量減少率は30%以下であり、好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは10%以下である。
【0018】
<ポリヒドロキシアルカン酸>
本発明のポリヒドロキシアルカン酸を含む物品に使用することが出来るポリヒドロキシアルカン酸は特に限定されないが、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)単独重合樹脂、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート)共重合樹脂、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)共重合樹脂、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)共重合樹脂およびポリ乳酸等が例として挙げられる。
なかでもポリ(3-ヒドロキシブチレート)単独重合樹脂、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート)共重合樹脂、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)共重合樹脂は特に生分解性に優れる点を考慮すると、コンポスト袋以外の用途、例えば、使い捨て食器や医療用部材、農園芸用部材、林業用部材や漁業用部材、これらの部材を用いた資材としての使用に好適である。
【0019】
ポリ(3-ヒドロキシブチレート)単独重合樹脂(本明細書において「PHB」と記載することがある)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート)共重合樹脂(本明細書において「PHBV」と記載することがある)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)共重合樹脂(本明細書において「PHBH」と記載することがある)、ポリブチレンサクシネート(本明細書において「PBS」と記載することがある)に対して電子線を照射(例えば、吸収線量:100kGy)しても、架橋と同時に起こる分子鎖の切断により分子量が低下することが確認された。しかし、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)単独重合樹脂、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート)共重合樹脂、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)共重合樹脂は本発明に係る架橋性モノマーを含有させることにより、電子線照射によって有効に架橋反応が起こることを、本発明者らは見出した。かかる架橋反応により得られる架橋ポリマーは耐熱性に優れ、熱湯にも耐えて樹脂の変形を防ぐことができるようになる。
【0020】
ポリブチレンサクシネートは単独あるいは架橋性モノマーとの混合物のいずれも架橋反応ではなく分解反応による分子量低下が確認された。電子線で架橋に成功した先行事例として特許文献2および非特許文献1が挙げられるが、いずれも200メッシュを用いたゲル分率測定で評価されており、メッシュに樹脂分解物や無機物が詰まることで溶出を抑制され、架橋したと誤認識されたものと推測される。
これに対し本発明ではサイズ排除クロマトグラフィー測定を行っており、分子量の変化をより詳細に測定することで、分子量の低下する現象を確認することが出来た。また貯蔵弾性率も低下しており、分子量の低下とも相関する結果となった。しかし、ポリブチレンサクシネートであっても、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)単独重合樹脂、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート)共重合樹脂、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)共重合樹脂および架橋性モノマーと混合することで、電子線照射によって有効に架橋反応が起こすことができることを確認した。すなわち、本発明の物品には、ポリブチレンサクシネートやポリ乳酸といった、ポリヒドロキシアルカン酸以外の生分解性ポリマーを含有させてもよい。以上の点からも、本発明においてPHAは極めて有効であると言える。
本発明の物品のうち、架橋ポリマーとして、ポリヒドロキシアルカン酸又はヒドロキシアルカン酸の共重合体のみからなる架橋ポリマーを含む物品は好ましい。本発明の物品のうち、架橋ポリマーを構成するポリヒドロキシアルカン酸又はヒドロキシアルカン酸の共重合体が、3-ヒドロキシブチレート、3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート、及び/又は3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエートである物品は一層好ましい。
【0021】
ポリヒドロキシアルカン酸の電子線照射前の分子量は、流動性、加工性の観点からサイズ排除クロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量Mwが100,000以上、5,000,000以下が好ましい。
本発明の物品に用いられる架橋ポリマーとして、クロロホルムに非溶解であるものは高分子量であり好ましい。かかる架橋ポリマーの分子量は500万を超える。
【0022】
<架橋性モノマー>
本発明に係る架橋性モノマーとしては、電離性放射線の照射により架橋できるモノマーであれば特に制限をうけないが、例えば、アクリル系もしくはメタクリル系統の架橋性モノマー、又はアリル系モノマーが挙げられる。
【0023】
本発明に係る架橋性モノマーの分子量は、1000以下であることが好ましく、500以下であることがより好ましく、300以下であることがさらに好ましい。分子量が1000以下であることで、樹脂組成中の分散性が低くなることを防ぎ、電子線照射による有効な架橋反応をより効率的に起こすことが可能となる。
【0024】
架橋性モノマーの融点は、使用するポリヒドロキシアルカン酸の融点以下であることが好ましく、例えば120℃以下であることが好ましい。
上記のような架橋性モノマーであれば、加工時に流動性に優れるため、熱可塑性樹脂の加工温度を低下させ熱負荷を軽減、あるいは加工時の摩擦を軽減することができる。
【0025】
具体的には、アクリル系もしくはメタクリル系の架橋性モノマーとしては、アクリレート誘導体、メタクリレート誘導体が挙げられる。具体的にはウレタンアクリレート、ロジンアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(メタクリロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。
アクリル系もしくはメタクリル系の架橋性モノマーとして、ウレタンアクリレート及びロジンアクリレートは好ましい。
【0026】
アリル基を含むアリル系架橋性モノマーとしては、トリアリルイソシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリメタアリルシアヌレート、ジアリルアミン、トリアリルアミン、ジアクリルクロレンテート、アリルアセテート、アリルベンゾエート、アリルジプロピルイソシアヌレート、アリルオクチルオキサレート、アリルプロピルフタレート、ビチルアリルマレート、ジアリルアジペート、ジアリルカーボネート、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジアリルフマレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルマロネート、ジアリルオキサレート、ジアリルフタレート、ジアリルプロピルイソシアヌレート、ジアリルセバセート、ジアリルサクシネート、ジアリルテレフタレート、ジアリルタトレート、ジメチルアリルフタレート、エチルアリルマレート、メチルアリルフマレート、メチルメタアリルマレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート等が挙げられる。
トリアリルイソシアヌレート及びトリメタアリルイソシアヌレートが好ましく、トリアリルイソシアヌレートが一層好ましい。
【0027】
本発明に係る架橋性モノマーは、ポリヒドロキシアルカン酸100重量部に対して0.1重量部超で20重量部以下配合されており、2~15重量部配合されてなることが好ましく、4~12重量部配合されてなることがより好ましい。かかる量にすることによって、ブリードアウトすることなく架橋反応を効果的に進行させることができる。
【0028】
<本発明の物品の製造方法>
本発明の物品は、少なくとも既述のポリヒドロキシアルカン酸と架橋性モノマーに、ロジン誘導体を混合して得られる架橋性樹脂組成物から架橋ポリマーを調製して作製することができる。
【0029】
上記ロジン誘導体は、本発明の架橋ポリマーの調製において、結晶核剤として作用する。該ロジン誘導体としては、ガムロジン、ウッドロジンもしくはトール油ロジン等の原料ロジン類、該原料ロジンを不均化又は水素化処理した安定化ロジンや重合ロジン、その他にロジンエステル類、強化ロジンエステル類、ロジンフェノール類、ロジン変性フェノール樹脂等が挙げられる。これらは1種類を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いても良い。
ロジンエステル類とは、原料ロジン類とアルコール類とをエステル化反応させたものをいう。ロジンフェノール類とは原料ロジン類にフェノール類を付加させ熱重合させたもの、又は次いでエステル化させたものをいう。また、前記ロジン類にエチレンオキシドやプロピレンオキシドなどのアルキレンオキシド類を付加反応させて得られる化合物も、上記ロジンエステル類と同様に使用できる。
ロジン誘導体として、不均化ロジン部分金属塩単体、または不均化ロジン部分金属塩と酸化マグネシウムとの混合物が好ましい。
【0030】
架橋性樹脂組成物を得るための上記各成分の混合方法としては、2本ロールあるいは3本ロール、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー等の撹拌機、ポリラボシステムやラボプラストミル、単軸あるいは2軸混錬機等の溶融混練機等の公知の手段を適用することができる。これらは常温、冷却状態、加熱状態、常圧、減圧状態、加圧状態のいずれで行ってもよい。
【0031】
なお、本発明の効果を損なわない限り、本発明の架橋性樹脂組成物に種々の添加剤を含有させることができる。例えば、架橋性樹脂組成物の性質を改善する目的で、種々のウィスカー、シリコーンパウダー、熱可塑性エラストマー、有機合成ゴム、脂肪酸エステル、グリセリン酸エステル、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸エステル、ステアリン酸カルシウム等の内部離型剤や、ベンゾフェノン系、サリチル酸系、シアノアクリレート系、イソシアヌレート系、シュウ酸アニリド系、ベンゾエート系、ヒンダートアミン系、ベンゾトリアゾール系、フェノール系等の酸化防止剤や、ヒンダードアミン系、ベンゾエート系等の光安定剤、シランカップリング剤のような分散剤といった添加剤を配合することができる。
本発明の架橋性樹脂組成物には、ポリブチレンサクシネートやポリ乳酸といった、ポリヒドロキシアルカン酸以外のポリマーを含有させてもよい。本発明の架橋性樹脂組成物のうち、ポリマーとして、ポリヒドロキシアルカン酸又はヒドロキシアルカン酸の共重合体のみを含む組成物は好ましい。本発明の架橋性樹脂組成物のうち、ポリヒドロキシアルカン酸又はヒドロキシアルカン酸の共重合体が、3-ヒドロキシブチレート、3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート、及び/又は3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエートである組成物は一層好ましい。
【0032】
本発明の架橋性樹脂組成物を用いることで、種々の物品を作製することができ、より厚みの薄い物品を作製することもできる。すなわち、本発明の架橋性樹脂組成物に電子線照射を適用して架橋性モノマーによる架橋反応を行い、ポリヒドロキシアルカン酸を含むポリマー同士を架橋させて、硬化した樹脂組成物(架橋ポリマー含有樹脂組成物)からなる物品を作製することができる。
このような物品は、本発明の方法により製造することが好ましい。すなわち、本発明の物品として、フィルムは、本発明の架橋性樹脂組成物に対し、シリンダー温度150~200℃、金型温度40~80℃でフィルム化する工程と、その工程の前又は後に、電子線照射処理を施す電子線照射工程を含む方法により作製することが好ましい。
あるいは本発明のフィルムは、本発明の架橋性樹脂組成物をプレス加工して得た前駆体に電子線照射処理を施して得てもよい。
なお、本発明の架橋性樹脂組成物の成形性を損なわない限りは、本発明の架橋ポリマー又は物品を得るための電子線照射による架橋反応は、フィルム化する工程のようなプレス加工等による成形処理の前に行うことができる。
【0033】
電子線の加速電圧については、用いる樹脂や層の厚みに応じて適宜選定し得る。例えば、厚みが0.1~10mmの物品の場合は通常加速電圧250~3000kV程度で未硬化樹脂層を硬化させることが好ましい。なお、電子線の照射においては、加速電圧が高いほど透過能力が増加するため、基材として電子線により劣化する基材を使用する場合には、電子線の透過深さと樹脂層の厚みが実質的に等しくなるように、加速電圧を選定することにより、基材への余分の電子線の照射を抑制することができ、過剰電子線による基材の劣化を最小限にとどめることができる。
また、電子線を照射する際の吸収線量は架橋性樹脂組成物の組成により適宜設定されるが、物性を損なわない限り照射量増加に特に制限はないが、実用性を踏まえると樹脂層の架橋密度が飽和する量が好ましく、具体的な照射線量としては、0.1~200kGy(0.1kGy以上、200kGy以下。「~」の意味について、上記及び下記において同様)が好ましく、1~200kGyがより好ましく、10~100kGyが一層より好ましい。
さらに、電子線源としては、特に制限はなく、例えばコックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、あるいは直線型、ダイナミトロン型、高周波型などの各種電子線加速器を用いることができる。
本発明の架橋性樹脂組成物の表面に電離線硬化性の機能性コーティングを施した後に電子線照射を行うことで、架橋性樹脂組成物とコーティングを同時に硬化させることが出来るため、耐熱性の他に所望の機能性を付与することができる。かかる機能性にかかる機能として、耐擦傷性の付与、耐薬品性・耐汚染性の向上、耐候性の向上などが挙げられる。
【0034】
[2.架橋ポリマー]
本発明により、アリル基又はアクリル基を含有する架橋性モノマーにより架橋されているポリヒドロキシアルカン酸又はヒドロキシアルカン酸の共重合体を含む架橋ポリマーも提供される。本発明の架橋ポリマーのうち、ポリヒドロキシアルカン酸又はヒドロキシアルカン酸の共重合体が、アリル基又はアクリル基を含有する架橋性モノマーにより架橋されてなる、架橋ポリマーは好ましい。
かかる架橋ポリマーのうち、サイズ排除クロマトグラフィーで測定した平均分子量が32万以上である架橋ポリマーは好ましい。かかる架橋ポリマーのうち、クロロホルムを用いて4時間還流させた後の重量減少量率が30%未満である架橋ポリマーも好ましい。
かかる架橋ポリマーのうち、ヒドロキシアルカン酸が、3-ヒドロキシブチレート、3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート、3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエートである架橋ポリマーも好ましい。
本発明の架橋ポリマーのうち、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート)共重合樹脂(又はポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート)共重合体:PHBV)は好ましい。本発明のPHBVを構成する3-ヒドロキシブタン酸と3-ヒドロキシバレリル酸とのモル比は限定されない。3HV分率(共重合体を構成する3-ヒドロキシブタン酸のモル数と3-ヒドロキシバレリル酸のモル数の総和に対する3-ヒドロキシバレリル酸のモル数の割合)が、約0.1%~約28.0%である本発明のPHBVは好ましく、約0.5%~18.0%である本発明のPHBVはより好ましく、約1.0%~約15.0%である本発明のPHBVは一層より好ましい。
本発明の架橋ポリマーのうち、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキヘキサノエート)共重合樹脂(又はポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)共重合体:PHBH)は好ましい。本発明のPHBHを構成する3-ヒドロキシブタン酸と3-ヒドロキシヘキサン酸とのモル比は限定されない。3HH分率(共重合体を構成する3-ヒドロキシブタン酸のモル数と3-ヒドロキシヘキサン酸のモル数の総和に対する3-ヒドロキシヘキサン酸のモル数の割合)が、約0.1%~約28.0%である本発明のPHBHは好ましく、約0.5%~18.0%である本発明のPHBHはより好ましく、約1.0%~約15.0%である本発明のPHBHは一層より好ましい。
【0035】
本発明の架橋ポリマーは、ポリヒドロキシアルカン酸と架橋性モノマーに、ロジン誘導体を混合して得られる架橋性樹脂組成物から調製してよい。該調製は、上記のポリヒドロキシアルカン酸、架橋性モノマー、及びロジン誘導体を用いてよい。
【0036】
なお、本発明の架橋ポリマーにおける上記重量減少量率の測定方法の例は以下のとおりである。重量減少量率の測定方法は、同等の重量減少量率が得られる範囲において改変することが可能である。

(重量減少率の測定方法の例)
試験片(秤量値をA(g))をクロロホルムで4時間還流する。完了後、試験片を取り出し、50℃で24時間乾燥させ質量を測定する(秤量値をB(g))。重量減少率(%)を下記の式にて求める。

重量減少率(%)=100×(A-B)/A

架橋処理後の重量減少率が低い、すなわちクロロホルムに溶解しにくくなるということは、樹脂の架橋密度が高くなり分子量が増加していることを示すといえる。
本発明の架橋ポリマーにおいては、重量減少率は30%以下であり、好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは10%以下である。
【0037】
[3.本発明の物品の用途]
本発明の物品又は架橋ポリマーは貯蔵弾性率や耐熱性に優れる。また、本発明の物品又は架橋ポリマーは、電子線を用いた殺菌を、好適に行うことができる。そのため本発明の物品又は架橋ポリマーを含有する樹脂組成物は、清潔さが重視され、電子線による滅菌が行われる器具の製造や用途に好適に用いられる。
かかる器具や用途として、コンポスト袋以外の用途、例えば、使い捨て食器や医療用部材、農園芸用部材、林業用部材や漁業用部材、これらの部材を用いた資材が例示される。
【0038】
本発明の物品を用いて使い捨て食器や医療用部材、農園芸用部材、林業用部材や漁業用部材、これらの部材を用いた資材を製造する方法は限定されず、本技術分野における通常の方法を用いてよい。例えば、本発明の物品がフィルムである場合には、該フィルムに、用途に応じた層を積層させて材料を得て、該材料を所望の形状に加工して上記各資材を製造してよい。
【実施例0039】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、本実施例1~13及び比較例1~10において使用した材料は下記の通りである。
【0040】
(A)樹脂
・PHA-1
PHBV:ENMAT Y1000P(商品名、TiaAn Biologic Materials製)
・PHA-2
PHB:ENMAT Y3000P(商品名、TiaAn Biologic Materials製)
・PHA-3
PHBH:3-ヒドロキシブタン酸-3-ヒドロキシヘキサン酸重合物
非特許文献(Biomacromolecules 2002,3,208-213)を参考に、Cupriavidus necator NCIMB11599を用いて5L容ジャーファーメンターで培養した。培養後、菌体をクロロホルムに溶解し、ろ過して菌体を除いた後、メタノール中で再沈殿して回収、真空乾燥したものを用いた。
・PBS:BioPBS FZ91PM(商品名、三菱ケミカル(株)製)
【0041】
(B)架橋性モノマー
・架橋―1:トリアリルイソシアヌレート:TAIC(商品名、日本化成(株)製)
・架橋―2:ウレタンアクリレート:ビームセット550B(商品名、荒川化学(株)製)
・架橋―3:ロジンアクリレート :ビームセット101(商品名、荒川化学(株)製)
【0042】
(C)ロジンエステル誘導体
・KM-1500(商品名、荒川化学(株)製)
・KR-50M (商品名、荒川化学(株)製)
【0043】
[実施例1~13、比較例1~10]
<材料と方法>
下記表1~2に示すように各種材料を配合、混練し、樹脂組成物(架橋性樹脂組成物でありえる)を得た。なお、該組成物は、各種材料を配合し、樹脂混錬機(商品名、東洋精機製作所(株)ラボプラストミル3S150)を用いて得た。なお、表中の「部」の表記は重量部を表す。
これらの組成物につき、150~180℃、30秒、20MPaの条件で、100(±1)mm×100(±0.1)mm×厚さ0.15(±0.1)mmにプレス加工し、電子線を照射する前の物品前駆体(架橋性樹脂組成物でありえる)を作製した。物品前駆体に、電子線照射装置にて加速電圧を250kVで10~200kGyの吸収線量にて電子線を照射し、フィルムを得た(図1)。
各例の物品の試料について、下記諸特性を、それぞれについて記載の方法及び指標により評価した。
結果は下記表1~2に示す。また、各例の物品の試料を得る際に用いられた電子線照射条件の吸収線量も下記表1~2に示した。
【0044】
(評価1)
・貯蔵弾性率
物品の試料を、RSA3(商品名、TA INSTRUMNTS製)により、測定温度25~200℃、昇温速度5℃/分、測定周波数1Hzで、Strain0.1%の条件にて測定した。200℃での貯蔵弾性率を下記表1~2に示す。
【0045】
(評価2)
・分子量
混合物(樹脂組成物)又は電子線照射後の試料の分子量はポリスチレン標準を用いたサイズ排除クロマトグラフィー(GPC ゲルろ過クロマトグラフィー)により測定した。測定には、東ソー株式会社製EcoSEC HLC―8320GPC(商品名)を使用した。ガードカラムはTSKgel guardcolumn SuperHZ―H(商品名)を、カラムはTSKgel Super HZM―H(商品名)2本を直列につないで用いた。移動相にはクロロホルム(0.6mL/min)を用い、カラム温度は40℃とした。サンプル濃度は約0.5 mg/mLとし、サンプル注入量は10μLとした。検量線の作成には、ポリスチレン標準を用いた。結果を下記表1~2に示す。
【0046】
(評価3)
・重量減少率
試験片(秤量値をA(g))をクロロホルムで4時間還流した。完了後、試験片を取り出し、50℃で24時間乾燥させ質量を測定した(秤量値をB(g))。重量減少率(%)を下記の式にて求めた。

重量減少率(%)=100×(A-B)/A

結果を下記表1~2に示す。
【0047】
(評価4)
・寸法安定性
サンプルを100mm角にカットし、200℃タルクバス中で10分間浸漬後、常温(25℃)まで放置して冷却より加熱前後で変形するか否かを外観より判断した。結果を下記表1~2に示す。
〇:外観変化なし
×:外観変化あり
【0048】
<結果>
上記各実施例及び比較例についての結果から明らかなとおり、本発明のポリヒドロキシアルカン酸と所定の架橋性モノマーを含む架橋性樹脂組成物により、物品前駆体を経て、物品における200℃での貯蔵弾性率(E´)を1.0×105Pa以上の範囲とすることができた。すなわち、架橋性樹脂組成物の組成を上記の組成とすることにより、物品とした場合に優れた耐熱変形性を発揮させえる架橋ポリマー含有樹脂組成物とすることができた。
また、該架橋ポリマー含有樹脂組成物においては、電子線照射後の分子量はいずれも500万以上であり、かつ重量減少率は10%以下であり(表1)、対応する比較例(表2)と比較して、分子量低下は明らかに抑制されていた。このことから、該物品は電子線照射による滅菌作業に耐えられ、また、該架橋ポリマー含有樹脂組成物は、電子線照射による滅菌作業にも耐えられる、かかる樹脂組成物を作製するための材料でありえることが示唆された。
以上から、本発明の樹脂組成物は、食器や医療用部材等の滅菌性と耐熱性が求められる用途に特に有用であるといえる。

【表1】


【表2】

【0049】
[架橋ポリマーの製造]
さらなる架橋ポリマーの製造を、架橋性モノマーの添加量及び電子線の強度を変化させて行った。

<材料と方法>
以下の材料を用いた:
(A)樹脂
PHBV:ENMAT Y1000P(商品名、TiaAn Biologic Materials製)、分子量31万
(B)架橋性モノマー
トリアリルイソシアヌレート:TAIC(商品名、日本化成(株)製)
PHBV100重量部に対して0、1、2、4、又は8重量部
(C)ロジンエステル誘導体
KM-1500(商品名、荒川化学(株)製)
【0050】
所定の材料を配合した後、樹脂混錬機(東洋精機製作所(株)ラボプラストミル3S150)を用いて混練し、樹脂組成物(架橋性樹脂組成物でありえる)を得た。
得られた上記組成物につき、150~180℃、30秒、20MPaの条件で、100(±1)mm×100(±0.1)mm×厚さ0.15(±0.1)mmにプレス加工し、電子線を照射する前の物品前駆体(架橋性樹脂組成物でありえる)を作製した。 物品前駆体に、電子線照射装置にて加速電圧を250kVで、0、2、10、20、50、100、又は200kGyの吸収線量にて電子線を照射し、調製物を得た。
得られた調製物の分子量を、上記「(評価2)」の項において述べた方法と同じ方法により測定した。
【0051】
<結果>
表3に示す通りであった。
架橋性モノマーを用いないと、電子線の照射によりPHBVは分解し、分子量が低下した。
架橋性モノマーを用いることによりPHBVは架橋され、より分子量が大きい生成物が生成した。分子量は、10kGyまでは電子線の照射量の増大に伴い増加することが確認された。なお、分子量が45万を超えると生成物が溶媒に不溶となり、分子量は測定不能になった。しかしながら、分子量は500万を超えたと推察された(図2)。
これらの結果から、本発明の方法によりポリヒドロキシアルカン酸の架橋ポリマーが得られること、及び該架橋ポリマーにおける架橋の度合いを架橋性モノマーの量及び電子線の照射強度によりコントロールできることが明らかになった。また、架橋性モノマーの量を増大し、電子線の照射強度を高めることにより、より分子量の大きい架橋ポリマーが得られることも明らかになった。

【表3】
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、従来のエステル系樹脂とは異なる構造を有する脂肪族ポリエステル系樹脂を用いた物品として、ポリヒドロキシアルカン酸を含む、生分解性である架橋ポリマーが提供され、かかる架橋ポリマーを用いることにより、ポリヒドロキシアルカン酸を含む、貯蔵弾性率が高い物品が提供される。したがって本発明は、ポリマーを用いた物品に関連する製造業の発展に寄与するところ大である。
図1
図2