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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175876
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】劣化診断方法および劣化診断装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/389 20190101AFI20221117BHJP
   G01R 31/392 20190101ALI20221117BHJP
   G01R 31/367 20190101ALI20221117BHJP
   G01R 31/374 20190101ALI20221117BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20221117BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20221117BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
G01R31/389
G01R31/392
G01R31/367
G01R31/374
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H01M10/42 P
H02J7/00 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082637
(22)【出願日】2021-05-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】吉田 翔治
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 涼
(72)【発明者】
【氏名】沖田 優斗
(72)【発明者】
【氏名】長岡 直人
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
2G216BA23
2G216BA34
2G216BA54
2G216BA59
2G216BA67
2G216CB12
2G216CB13
2G216CB44
2G216CB52
5G503CA01
5G503CA11
5G503CB11
5G503EA05
5G503EA09
5G503GD06
5H030AA01
5H030AS20
5H030FF22
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
(57)【要約】
【課題】蓄電池の劣化の状態を的確に診断する。
【解決手段】劣化診断装置(1)は、蓄電池(電池90)の充電中または放電中の端子電流及び端子間電圧を基に過渡応答解析を行い、直列抵抗成分を算出する解析部(21)と、基準温度における直列抵抗成分に補正する補正部(22)と、補正された直列抵抗成分を基に、蓄電池の劣化状態を診断する診断部(23)と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電池の充電中または放電中の蓄電池温度、端子電流及び端子間電圧を測定するステップと、
前記端子電流及び前記端子間電圧を基に前記蓄電池の過渡応答解析を行い、前記蓄電池の前記蓄電池温度における直列抵抗成分を算出するステップと、
前記蓄電池温度における前記直列抵抗成分を、予め定められた基準温度における前記直列抵抗成分に補正するステップと、
前記基準温度における前記直列抵抗成分を基に、前記蓄電池の蓄電容量の、前記蓄電池の初期状態での蓄電容量に対する減少割合である、容量低下率を算出して、前記蓄電池の劣化状態を診断するステップと、を含み、
前記過渡応答解析は、前記蓄電池が、前記直列抵抗成分、及び、並列容量成分と並列抵抗成分とが並列に接続された並列接続回路が、直列に接続された回路を含む等価回路に還元されて実行されることを特徴とする、劣化診断方法。
【請求項2】
前記蓄電池の劣化状態を診断する前記ステップにおいて、
前記容量低下率が、前記基準温度における前記直列抵抗成分についての1次式から算出されることを特徴とする、請求項1に記載の劣化診断方法。
【請求項3】
前記等価回路は、更に、前記直列抵抗成分及び前記並列接続回路に、直列に接続された直列容量成分を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の劣化診断方法。
【請求項4】
前記等価回路は、並列容量成分と並列抵抗成分とが並列に接続された並列接続回路が、複数直列に接続された回路を含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の劣化診断方法。
【請求項5】
前記蓄電池温度が所定の範囲内にあるか否かを判断するステップを更に含み、
前記蓄電池温度が所定の範囲内にあるか否かを判断する前記ステップにおいて、前記蓄電池温度が前記所定の範囲内に無いと判断される場合には、
前記蓄電池の劣化状態を診断する前記ステップを実行しないことを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の劣化診断方法。
【請求項6】
前記蓄電池温度における前記直列抵抗成分を、予め定められた基準温度における前記直列抵抗成分に補正する前記ステップにおいて、
前記蓄電池温度をT[K]、前記基準温度をTst[K]、前記蓄電池温度Tにおける前記直列抵抗成分をRiと表したとき、前記基準温度Tstにおける前記直列抵抗成分Ri_stは、温度補正係数B及びCを用いて、下記式(E1)から算出されることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の劣化診断方法。
【数1】
【請求項7】
蓄電池の充電中または放電中の蓄電池温度、端子電流及び端子間電圧を測定する測定部と、
前記端子電流及び前記端子間電圧を基に前記蓄電池の過渡応答解析を行い、前記蓄電池の前記蓄電池温度における直列抵抗成分を算出する解析部と、
前記蓄電池温度における前記直列抵抗成分を、予め定められた基準温度における前記直列抵抗成分に補正する補正部と、
前記基準温度における前記直列抵抗成分を基に、前記蓄電池の蓄電容量の、前記蓄電池の初期状態での蓄電容量に対する減少割合である、容量低下率を算出して、前記蓄電池の劣化状態を診断する診断部と、備え、
前記解析部は、前記蓄電池を、前記直列抵抗成分、及び、並列容量成分と並列抵抗成分とが並列に接続された並列接続回路が、直列に接続された回路を含む等価回路に還元して、前記過渡応答解析を実行することを特徴とする、劣化診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池の劣化を診断する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄電池の劣化状態を診断する技術が知られている。そのような従来技術として、蓄電池の充放電時の回路特性から、劣化の状態を判定できる技術が検討されている(特許文献1参照)。蓄電池の劣化状態の診断のために蓄電池の充放電を試験的に実施するなどの診断技術とは異なり、本技術によれば、蓄電池の運用を停止する必要が無い。また一方では、蓄電池の充放電時の回路特性から、等価な回路を短時間で合成する技術も検討されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-149280号公報
【特許文献2】特開2013-253784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
蓄電池の充放電時の回路特性から、劣化の状態を判定できる上に、更に的確に蓄電池の劣化状態を判定することができる技術の実現が望まれる。本発明の開示の一側面では、このような実情を鑑みてなされたものであり、蓄電池の充放電時の回路特性から、的確に蓄電池の劣化状態を判定することができる劣化診断方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る劣化診断方法は、蓄電池の充電中または放電中の蓄電池温度、端子電流及び端子間電圧を測定するステップと、前記端子電流及び前記端子間電圧を基に前記蓄電池の過渡応答解析を行い、前記蓄電池の前記蓄電池温度における直列抵抗成分を算出するステップと、前記蓄電池温度における前記直列抵抗成分を、予め定められた基準温度における前記直列抵抗成分に補正するステップと、前記基準温度における前記直列抵抗成分を基に、前記蓄電池の蓄電容量の、前記蓄電池の初期状態での蓄電容量に対する減少割合である、容量低下率を算出して、前記蓄電池の劣化状態を診断するステップと、を含み、前記過渡応答解析は、前記蓄電池が、前記直列抵抗成分、及び、並列容量成分と並列抵抗成分とが並列に接続された並列接続回路が、直列に接続された回路を含む等価回路に還元されて実行されることを特徴とする。
【0006】
本発明の一態様に係る劣化診断装置は、蓄電池の充電中または放電中の蓄電池温度、端子電流及び端子間電圧を測定する測定部と、前記端子電流及び前記端子間電圧を基に前記蓄電池の過渡応答解析を行い、前記蓄電池の前記蓄電池温度における直列抵抗成分を算出する解析部と、前記蓄電池温度における前記直列抵抗成分を、予め定められた基準温度における前記直列抵抗成分に補正する補正部と、前記基準温度における前記直列抵抗成分を基に、前記蓄電池の蓄電容量の、前記蓄電池の初期状態での蓄電容量に対する減少割合である、容量低下率を算出して、前記蓄電池の劣化状態を診断する診断部と、備え、前記解析部は、前記蓄電池を、前記直列抵抗成分、及び、並列容量成分と並列抵抗成分とが並列に接続された並列接続回路が、直列に接続された回路を含む等価回路に還元して、前記過渡応答解析を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様に係る劣化診断方法、または、本発明の一態様に係る劣化診断装置によれば、蓄電池の充放電時の回路特性から、的確に蓄電池の劣化状態を判定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態1に係る劣化診断装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
図2】本発明の実施形態1に係る劣化診断装置が実行する劣化診断方法の処理手順を説明するためのフローチャートである。
図3】本発明の実施形態1に係る劣化診断装置の測定部が計測した電流Ib、電圧Vbの波形例を示すグラフである。
図4】本発明の実施形態1に係る劣化診断装置の解析部が行う過渡応答解析に適用する、電池の等価回路である。
図5】様々な温度Tにおいて、過渡応答解析により算出された直列抵抗成分Riの結果をまとめて示すグラフである。記号が互いに異なるプロットは、それぞれ電池の劣化の状態が互いに異なる場合の結果を表す。
図6】温度補正係数Aの、容量低下率D依存性を示すグラフである。
図7】温度補正係数Bの、容量低下率D依存性を示すグラフである。
図8】温度補正係数Cの、容量低下率D依存性を示すグラフである。
図9】容量低下率Dと、電池の温度Tを固定した条件下での直列抵抗成分Riとの関係を示すプロット(四角)と、容量低下率Dと、補正が施された直列抵抗成分Ri_stとの関係を示すプロット(丸)とを示すグラフである。
図10】電池の温度Tを固定した条件下での、容量低下率Dと直列抵抗成分Riとの関係を示すプロット(三角)と、容量低下率Dと並列抵抗成分R1との関係を示すプロット(丸)とを示すグラフである。
図11】本発明の実施形態2に係る劣化診断装置が実行する劣化診断方法の処理手順を説明するためのフローチャートである。
図12】本発明の一態様に係る劣化診断装置の解析部が行う過渡応答解析に適用する、電池の等価回路の例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔実施形態1〕
<劣化診断装置の構成>
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る劣化診断装置1の概略構成を示す機能ブロック図である。劣化診断装置1は、本発明の一実施形態に係る劣化診断方法を実行する装置である。
【0010】
劣化診断装置1は、蓄電池すなわち二次電池である電池90を監視し、電池90の劣化診断を実行する。電池90は例えばリチウムイオン二次電池である。劣化診断装置1は、図1及び以下の説明に示される各機能ブロックが実現されていれば、物理的に一筐体に納められた形態の装置である必要は無い。
【0011】
劣化診断装置1は、測定部10と、演算処理部20と、記憶部30と、を備える。記憶部30は情報を記憶するメモリであり、磁気ディスク、半導体メモリ、その他、任意の公知のメモリ装置が単体で、または組み合わされて構成されてよい。
【0012】
測定部10は、電池90の端子に流れる端子電流である電流Ibを監視する、電流計11を有している。なお、本明細書において、充電が行われている場合の電流Ibは正値、放電が行われている場合の電流Ibは負値であるように表す。測定部10は、電池90の端子間に印加される端子間電圧である電圧Vbを監視する、電圧計12を有している。
【0013】
また、測定部10は、電池90の温度T(蓄電池温度)を監視する、温度計13を有している。より具体的には、温度計13が、電池90のセルの表面の温度を測定するように構成されていてもよい。あるいは、温度計13は、電池90の端子の温度を測定するように構成されていてもよい。
【0014】
電流計11が測定した電流Ibの値は、ADコンバータ14によって、アナログデジタル変換され、デジタル信号として演算処理部20に伝送される。電圧計12が測定した電圧Vbの値は、ADコンバータ15によって、アナログデジタル変換され、デジタル信号として演算処理部20に伝送される。温度計13が測定した温度Tの値は、ADコンバータ16によって、アナログデジタル変換され、デジタル信号として演算処理部20に伝送される。
【0015】
上記構成を備えた測定部10によって、劣化診断装置1は、電池90の充電中または放電中の、電池90の温度T(蓄電池温度)、電流Ib(端子電流)、電圧Vb(端子間電圧)の測定を行うことが可能である。
【0016】
演算処理部20は、解析部21、補正部22、診断部23、及び、制御部24の各機能ブロックを有している。解析部21は、測定部10が測定した電池90(蓄電池)の充電中または放電中の電流Ib(端子電流)、電圧Vb(端子間電圧)を解析し、温度T(蓄電池温度)における直列抵抗成分Riを算出する機能ブロックである。
【0017】
補正部22は、解析部21が算出した温度T(蓄電池温度)における直列抵抗成分Riを、予め定められた基準温度Tstにおける直列抵抗成分Ri_stに補正する機能ブロックである。診断部23は、補正部22が算出した基準温度Tstにおける直列抵抗成分Ri_stを基に、電池90(蓄電池)の劣化状態を診断する機能ブロックである。
【0018】
制御部24は、演算処理部20を統括し、また劣化診断装置1の各部を制御する機能ブロックである。演算処理部20が有する各機能ブロックが実行する動作については、詳細に後述される。
【0019】
<劣化診断装置の動作>
図2から図10を参照して、劣化診断装置1が実行する特徴的な動作である劣化診断方法の詳細が説明される。なお、各図のグラフの軸において、単位が記載されていない場合は、その軸は任意単位である。図2は、劣化診断装置1が実行する劣化診断方法をステップ毎に示す、フローチャートである。
【0020】
劣化診断方法の始めに、制御部24は測定部10が計測する電流Ib、電圧Vb、及び温度Tを取得する(ステップS1)。図3は、測定部10の電流計11で検出した電流Ibの波形と、電圧計12で検出した電圧Vbの波形の例を示すグラフである。図3には、一時的に電流値の大きい放電が行われる状況が示されている。図示されるように、放電が行われている間、電圧Vbは徐々に低下する。
【0021】
次に、制御部24は取得した電流Ib、電圧Vbの波形データを基に、解析部21に電池90についての充電時または放電時の過渡応答解析を実行させる。このとき、解析部21は、電流Ib、電圧Vbの波形を基に、電池90についての充電時または放電時の過渡応答解析を実行する(ステップS2)。
【0022】
電池90の過渡応答解析において解析部21は、電池90を図4に示される等価回路として取り扱う。電池90の端子間の内部等価回路は、直列抵抗成分Ri、並列容量成分Cnと並列抵抗成分RnとのRC並列回路(並列接続回路)が1段以上、直列容量成分Co、及び、起電力Eoが直列接続された回路で表される。ここで起電力Eoは電池90の端子間の開回路電圧である。並列容量成分Cnと並列抵抗成分Rnにおける符号nは、RC並列回路のインデックスを表す。RC並列回路の段数がMであるとき、インデックスnは1~Mのいずれかの自然数である。
【0023】
すなわち、電池90の端子間の内部インピーダンスは、並列容量成分Cnと並列抵抗成分RnとのRC並列回路(並列接続回路)の各段のインピーダンス、直列抵抗成分Ri、及び、直列容量成分Coの、直列接続で表される。ステップS2では、電流Ib、電圧Vbの波形のデータをこのような等価回路にフィッティングして解析部21が電池90の温度Tにおける直列抵抗成分Riを算出する。なお、RC並列回路の段数Mは1段でも良く、その場合、等価回路は図12のように表される、
並列抵抗成分Rnは、電池90の反応抵抗成分に相当する抵抗成分でもある。直列容量成分Co及び開回路電圧である起電力Eoは、電池90の劣化状態により変動しない電池90の固有の値であり、予め記憶部30に記憶されている。補正部22は記憶部30に記憶された直列容量成分Co及び起電力Eoの値を参照して、当該フィッティングを実行する。
【0024】
図5は、様々な電池90の温度Tにおいて、算出された直列抵抗成分Riの結果をまとめて示すグラフである。なお劣化診断装置1において、電池90の温度Tとしては、過渡応答解析の対象とした、充電または放電の直前の温度を採用することが好ましい。図5に示されるように、直列抵抗成分Riは、電池90の温度Tに大きく依存していることが理解される。また、図5において、記号の異なる各プロットは、電池90の劣化状態が互いに異なるケースにおいて得られた結果を示している。電池90の劣化が進むほど、直列抵抗成分Riが大きくなっている。すなわち、三角で表されている結果が、図5の3通りの結果のうちで、最も電池90の劣化が進んだ状態を表している。
【0025】
なお本明細書において、電池90の劣化の状態を、電池90の蓄電容量Qの、電池90の初期状態での蓄電容量Qoに対する減少割合である、容量低下率Dで表すこととする:
【0026】
【数1】
【0027】
ここで、容量低下率Dの単位は、パーセント(%)である。
【0028】
図5の劣化状態が互いに異なる各プロットにおいて、温度Tと直列抵抗成分Riとの関係はそれぞれ式(2)で良好に近似できる:
【0029】
【数2】
【0030】
ここでの係数A、B、Cを、温度補正係数と称することとする。
【0031】
図6図7図8は、それぞれ温度補正係数A、B、Cの、容量低下率D依存性を示すグラフである。図から明らかなように、温度補正係数Aは容量低下率Dに大きく依存するパラメータである。一方、温度補正係数Bは容量低下率Dに依存しないパラメータであり、温度補正係数Cの容量低下率D依存性は小さい。従って、式(2)において、温度補正係数Aは容量低下率Dの関数であるが、温度補正係数B、Cは容量低下率Dに依存しない定数とみなすこととする。
【0032】
これにより、電池90のある基準温度Tstにおける直列抵抗成分Ri_stを考慮すると、式(2)から温度補正係数Aを消去して、基準温度Tstにおける直列抵抗成分Ri_stが式(3)で表される:
【0033】
【数3】
【0034】
なお、各式中において、温度T及び基準温度Tstは絶対温度を用いるものとする。
【0035】
このようにして、測定されたある温度Tにおける直列抵抗成分Riから、基準温度Tstにおける直列抵抗成分Ri_stが、電池90の劣化の状態にかかわらず、すなわち、容量低下率Dが未知であっても、算出できるようになる。
【0036】
次に、制御部24は補正部22を制御して、補正部22に、取得した温度Tに基づいて、解析部21が算出した直列抵抗成分Riから、基準温度Tstにおける直列抵抗成分Ri_stを算出させる。すなわち、補正部22は、温度Tにおける直列抵抗成分Riを基準温度Tstにおける値に補正する。温度補正係数B、Cは、電池90毎に決まった値であって、予め記憶部30に記憶されている。補正部22は、記憶部30に記憶された温度補正係数B、Cの値を参照して、式(3)に従って、当該補正を実行する(ステップS3)。
【0037】
続いて、制御部24は診断部23を制御して、診断部23に、基準温度Tstにおける直列抵抗成分Ri_stを基に、電池90の容量低下率Dを算出させる。上述のように容量低下率Dは、電池90の劣化の状態を示す指標であり、こうして、劣化診断装置1では、電池90の劣化診断が実現される(ステップS4)。
【0038】
図9の四角で表されるプロットは、電池90の温度Tを25℃に固定した条件下での容量低下率Dと、直列抵抗成分Riとの関係を示す。図示されるように、容量低下率Dは、直列抵抗成分Riに対して強い依存性があり、一次式で良好に表すことができることが理解される。すなわち、温度Tが一定下の条件で、直列抵抗成分Riを算出できれば、容量低下率Dを的確に判定できることとなる。しかし、現実には、電池90を実際に運用している状況において、温度Tが一定下の条件で、電流Ib、電圧Vbの計測が行われることを期待することは困難である。
【0039】
また、図9において、測定時の電池90の温度Tが25℃とは異なるが、基準温度Tstを25℃とし、上記の手続きに従って直列抵抗成分Riを補正して得られた、基準温度Tstにおける直列抵抗成分Ri_stが丸でプロットされている。この場合であっても、容量低下率Dは、補正が施された直列抵抗成分Ri_stに対して強い依存性があり、一次式で良好に表すことができることが理解される。すなわち、上記手続きによって、適正に直列抵抗成分Riが、基準温度Tstにおける直列抵抗成分Ri_stに補正されていることが明らかである。
【0040】
よって、容量低下率Dは、基準温度Tstにおける直列抵抗成分Ri_stを用いて、1次式である式(4)により良好に見積もることができる:
【0041】
【数4】
【0042】
ここで、定数Rioは、初期状態での基準温度Tstにおける直列抵抗成分であり、係数dを、劣化補正係数と称することとする。
【0043】
定数Rio及び劣化補正係数dは、電池90毎に決まった値であって、予め記憶部30に記憶されている。ステップS4において診断部23は記憶部30に記憶された定数Rio及び劣化補正係数dの値を参照して、式(4)に従って、基準温度Tstにおける直列抵抗成分Ri_stから、電池90の容量低下率Dを算出する。
【0044】
なお、式(1)~(4)により、電池90の蓄電容量Qは、
【0045】
【数5】
【0046】
で表すことができる。
【0047】
<作用、効果>
実施形態1によれば、劣化診断装置1は、充電または放電時の電池90の端子電流(電流Ib)及び端子間電圧(電圧Vb)と、電池90の温度Tを監視することによって、電池の回路特性から電池90の劣化の指標である容量低下率Dを算出することができる。
【0048】
そのため、電池90の放電、フル充電を実行することにより充電容量を求めるような試験を実行することなく、電池90の劣化の状態を診断することができる。あるいは、電池90に特定の電流を導入、あるいは電圧を印加するような試験を実行することなく、電池90の劣化の状態を診断することができる。よって実施形態1によれば、電池90の運用を維持した状態で、電池90の劣化の状態を診断することができる。
【0049】
また実施形態1の劣化診断方法によれば、電池90の温度Tを測定し、電池90の回路特性(直列抵抗成分Ri)の補正を行うため、図5に示されているような、温度Tの強い影響をキャンセルして正しく電池90の劣化の状態を診断することができる。特に実施形態1では、式(3)に表されたように、電池90の劣化の状態(容量低下率D)に影響されずに、温度Tの影響をキャンセルできる巧みな手法を用いており、的確に電池90の劣化の状態を診断することができる。
【0050】
また、実施形態1の劣化診断方法は、式(4)及び図9に示されたように、電池90の劣化の状態を示す指標である容量低下率Dを良好に予測し得る直列抵抗成分Riという回路パラメータを用いることを基礎としている。そのため実施形態1の劣化診断方法によれば、電池90の劣化の状態を正確に診断することができるようになる。
【0051】
図10は、温度Tの影響を排除するために電池90の温度Tを一定とした条件下での、容量低下率Dと、直列抵抗成分Riまたは並列抵抗成分R1(反応抵抗成分)との関係を示すグラフである。なおここで、過渡応答解析の等価回路としては、RC並列回路の段数Mを一段とした、図12に示される等価回路が採用された。
【0052】
図10に示されるように、容量低下率Dは、直列抵抗成分Riに対して一様に変化するのに対し、並列抵抗成分R1に対しては、依存性が不明瞭な領域がある。また、容量低下率Dは直列抵抗成分Riについての1次式で表され、容量低下率Dの広い領域に亘って良好な精度で容量低下率Dを予測し得る。
【0053】
従って実施形態1では、電池90を、図4または図10に示された等価回路で表し、抵抗分に関して、直列抵抗成分Riという特定の成分を抽出することで、電池90の劣化の状態を正確に診断することが可能となっていることが理解される。
【0054】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0055】
図11は、実施形態2に係る劣化診断装置が実行する劣化診断方法を示すフローチャートである。実施形態2に係る劣化診断方法では、図2に示された実施形態1に係る劣化診断方法に対して、ステップS1とステップS2との間に、判断のステップSJが付加されてフローの分岐が行われる他は、実施形態1と同様である。
【0056】
ステップS1に続くステップSJでは、制御部24が、取得した温度Tが所要の範囲内にあるか、すなわち、取得した温度Tが下限温度T1以上かつ上限温度T2以下であるかを判断する。所要の範囲内にあると判断される場合(ステップSJでYES)フローはステップS2に進む。それ以外の場合(ステップSJでNO)、フローは終了する。
【0057】
実施形態2に係る劣化診断方法では、取得した温度Tが、所要の範囲内にある場合にのみ、電池90の劣化の状態の診断を実行するため、より正確に劣化診断が行われるようになる。なお、取得した温度Tが、所要の範囲内にあることの条件としては、上述の例に限られず、温度Tが下限温度T1以上であることを条件としてもよい。あるいは、温度Tが上限温度T2以下であることを条件としてもよい。
【0058】
〔ソフトウェアによる実現例〕
劣化診断装置1の制御ブロック(特に演算処理部20)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0059】
後者の場合、劣化診断装置1は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。
【0060】
上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。
【0061】
また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0062】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る劣化診断方法は、蓄電池の充電中または放電中の蓄電池温度、端子電流及び端子間電圧を測定するステップと、前記端子電流及び前記端子間電圧を基に前記蓄電池の過渡応答解析を行い、前記蓄電池の前記蓄電池温度における直列抵抗成分を算出するステップと、前記蓄電池温度における前記直列抵抗成分を、予め定められた基準温度における前記直列抵抗成分に補正するステップと、前記基準温度における前記直列抵抗成分を基に、前記蓄電池の蓄電容量の、前記蓄電池の初期状態での蓄電容量に対する減少割合である、容量低下率を算出して、前記蓄電池の劣化状態を診断するステップと、を含み、前記過渡応答解析は、前記蓄電池が、前記直列抵抗成分、及び、並列容量成分と並列抵抗成分とが並列に接続された並列接続回路が、直列に接続された回路を含む等価回路に還元されて実行されることを特徴とする。
【0063】
本発明の態様2に係る劣化診断方法は、上記態様1において、前記蓄電池の劣化状態を診断する前記ステップにおいて、前記容量低下率が、前記基準温度における前記直列抵抗成分についての1次式から算出される特徴を備えていてもよい。
【0064】
本発明の態様3に係る劣化診断方法は、上記態様1または2において、前記等価回路は、更に、前記直列抵抗成分及び前記並列接続回路に、直列に接続された直列容量成分を含む特徴を備えていてもよい。
【0065】
本発明の態様4に係る劣化診断方法は、上記態様1から3のいずれかにおいて、前記等価回路は、並列容量成分と並列抵抗成分とが並列に接続された並列接続回路が、複数直列に接続された回路を含む特徴を備えていてもよい。
【0066】
本発明の態様5に係る劣化診断方法は、上記態様1から4のいずれかにおいて、前記蓄電池温度が所定の範囲内にあるか否かを判断するステップを更に含み、前記蓄電池温度が所定の範囲内にあるか否かを判断する前記ステップにおいて、前記蓄電池温度が前記所定の範囲内に無いと判断される場合には、前記蓄電池の劣化状態を診断する前記ステップを実行しない特徴を備えていてもよい。
【0067】
本発明の態様6に係る劣化診断方法は、上記態様1から5のいずれかにおいて、前記蓄電池温度における前記直列抵抗成分を、予め定められた基準温度における前記直列抵抗成分に補正する前記ステップにおいて、前記蓄電池温度をT[K]、前記基準温度をTst[K]、前記蓄電池温度Tにおける前記直列抵抗成分をRiと表したとき、前記基準温度Tstにおける前記直列抵抗成分Ri_stは、温度補正係数B及びCを用いて、式(3)から算出される特徴を備えていてもよい。
【0068】
本発明の態様7に係る劣化診断装置は、蓄電池の充電中または放電中の蓄電池温度、端子電流及び端子間電圧を測定する測定部と、前記端子電流及び前記端子間電圧を基に前記蓄電池の過渡応答解析を行い、前記蓄電池の前記蓄電池温度における直列抵抗成分を算出する解析部と、前記蓄電池温度における前記直列抵抗成分を、予め定められた基準温度における前記直列抵抗成分に補正する補正部と、前記基準温度における前記直列抵抗成分を基に、前記蓄電池の蓄電容量の、前記蓄電池の初期状態での蓄電容量に対する減少割合である、容量低下率を算出して、前記蓄電池の劣化状態を診断する診断部と、備え、前記解析部は、前記蓄電池を、前記直列抵抗成分、及び、並列容量成分と並列抵抗成分とが並列に接続された並列接続回路が、直列に接続された回路を含む等価回路に還元して、前記過渡応答解析を実行することを特徴とする。
【0069】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0070】
1 劣化診断装置
10 測定部
11 電流計
12 電圧計
13 温度計
14、15、16 ADコンバータ
20 演算処理部
21 解析部
22 補正部
23 診断部
24 制御部
30 記憶部
90 電池(蓄電池)
C1~CM、Cn 並列容量成分
Co 直列容量成分
Ri 直列抵抗成分
R1~RM、Rn 並列抵抗成分
Eo 起電力(開回路電圧)
Ib 電流(端子電流)
Vb 電圧(端子間電圧)
T 温度(蓄電池温度)
Tst 基準温度
Ri_st 基準温度における直列抵抗成分
D 容量低下率
図1
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図12