(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175933
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】鉛蓄電池および鉛蓄電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/12 20060101AFI20221117BHJP
H01M 50/463 20210101ALI20221117BHJP
H01M 10/08 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
H01M10/12 K
H01M50/463 B
H01M10/08
H01M10/12 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082716
(22)【出願日】2021-05-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005382
【氏名又は名称】古河電池株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100115679
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 勇毅
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】海藤 大哉
【テーマコード(参考)】
5H021
5H028
【Fターム(参考)】
5H021CC09
5H021EE02
5H021HH03
5H021HH06
5H028AA05
5H028CC07
5H028CC08
5H028HH03
5H028HH05
5H028HH09
(57)【要約】
【課題】高温地域で使用された場合であっても、セパレータの酸化劣化の進行が抑制されて長寿命が実現できる鉛蓄電池を提供する。
【解決手段】セル室に電解液と共に収納された極板群は、交互に配置された正極板および負極板と、正極板と負極板との間に配置されたセパレータと、からなる積層体を有し、セパレータ5は、板状の基部51と、基部の正極板と対向する面511から突出する複数のリブ52と、で構成され、リブは一方向に延びる筋状の突起であり、複数のリブは並列に配置され、リブの無加圧時の高さH
0は0.25mm以上1.15mm以下であり、組み立て前のリブを上に向けてセパレータを水平な台上に置き、押し付け板をリブの上に載せた状態で、押し付け板に対して上側から9kPaの圧力を付与した際のリブの高さHが、無加圧時の高さH
0の0.70倍以上0.90倍以下である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セル室と、前記セル室に収納された極板群と、前記セル室に注入された電解液と、を備え、
前記極板群は、交互に配置された正極板および負極板と、前記正極板と前記負極板との間に配置されたセパレータと、からなる積層体を有し、
前記セパレータは、板状の基部と、前記基部の前記正極板と対向する面から突出する複数のリブと、で構成され、前記リブは一方向に延びる筋状の突起であり、前記複数のリブは並列に配置され、
前記リブの無加圧時の高さH0は0.25mm以上1.15mm以下であり、
組み立て前に前記リブを上に向けて前記セパレータを水平な台上に置き、押し付け板を前記リブの上に載せた状態で、前記押し付け板に対して上側から9kPaの圧力を付与した際の前記リブの高さHが、前記無加圧時の高さH0の0.70倍以上0.90倍以下である鉛蓄電池。
【請求項2】
前記リブの無加圧時の高さH0は0.30mm以上0.80mm以下である請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記リブの無加圧時の高さH0は0.40mm以上0.60mm以下である請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
前記電解液はアルミニウムイオンを含む希硫酸であり、
前記アルミニウムイオンの濃度は0.01mol/L以上0.3mol/Lである請求項1~3のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
【請求項5】
前記電解液はナトリウムイオンを含む希硫酸であり、
前記ナトリウムイオンの濃度は0.002mol/L以上0.05mol/Lである請求項1~4のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
【請求項6】
セル室と、前記セル室に収納された極板群と、前記セル室に注入された電解液と、を備え、
前記極板群は、交互に配置された正極板および負極板と、前記正極板と前記負極板との間に配置されたセパレータと、からなる積層体を有し、
前記セパレータは、板状の基部と、前記基部の前記正極板と対向する面から突出する複数のリブと、で構成され、前記リブは一方向に延びる筋状の突起であり、前記複数のリブは並列に配置されている鉛蓄電池の製造方法であって、
前記セパレータとして、
前記リブの無加圧時の高さH0が0.25mm以上1.15mm以下であり、
組み立て前に前記リブを上に向けて前記セパレータを水平な台上に置き、押し付け板を前記リブの上に載せた状態で、前記押し付け板に対して上側から9kPaの圧力を付与した際の前記リブの高さHが、前記無加圧時の高さH0の0.70倍以上0.90倍以下であるものを使用する鉛蓄電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
液式の鉛蓄電池は、セル室と、セル室に電解液と共に収納された極板群と、を備え、極板群は、交互に配置された正極板および負極板と、正極板と負極板との間に配置されたセパレータと、からなる積層体を有する。正極板および負極板は、それぞれ、長方形の格子状基板と格子状基板から上側に突出する耳部とを有する集電体と、格子状基板に保持された活物質合剤(正極合剤、負極合剤)と、を有する。
【0003】
近年、鉛蓄電池は東南アジアをはじめとした高温(熱帯)地域で使用されることが多くなっている。そのような高温地域で鉛蓄電池が使用される場合、常温で使用される場合に比べて、電池の劣化が進みやすくなり、短寿命になる問題がある。
短寿命になる理由の一つとして、過充電時に正極板から発生する酸素ガスによって、セパレータが酸化劣化することで正極板と負極板が触れ合い、短絡する可能性が挙げられる。特に、高温条件下は、このようなセパレータの酸化劣化が進行しやすい環境である。また、高温環境下で使用される鉛蓄電池は、正極板の格子状基板に生じるグロースが顕著になることで正極板が湾曲し、セパレータが正極板で加圧され易い環境となっている。
【0004】
セパレータの工夫により鉛蓄電池の寿命を向上させる従来技術としては、例えば、特許文献1に、正極板を収容する袋状セパレータが正極板と当接する面に、正極板の上下方向に平行で、かつ正極板の端部に当接する部分の間隔を他の部分より狭くした複数のリブ状突起を設けて、セパレータの酸化劣化や穴あきを抑制し、短絡を抑制することが開示されている。
また、特許文献2には、セパレータの正極板に対向する面に直線状のリブの複数本を互いに平行に形成し、リブの断面形状を台形のリブ下位部とリブ上位部とから構成させることで、高温地域・高振動下で使用したときの正極からの活物質の脱落と鉛蓄電池短寿命を抑制することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-231995号公報
【特許文献2】特許第4590813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1および2に記載された鉛蓄電池には、高温地域で使用された場合に、セパレータの酸化劣化の進行を抑制するという点で改善の余地がある。
本発明の課題は、高温地域で使用された場合であっても、セパレータの酸化劣化の進行が抑制されて長寿命が実現できる鉛蓄電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第一態様の鉛蓄電池は、下記の構成(1)~(3)を有している。
(1)セル室と、セル室に収納された極板群と、セル室に注入された電解液と、を備え、極板群は、交互に配置された正極板および負極板と、正極板と負極板との間に配置されたセパレータと、からなる積層体を有する。セパレータは、板状の基部と、基部の正極板と対向する面から突出する複数のリブと、で構成されている。リブは一方向に延びる筋状の突起であり、複数のリブは並列に配置されている。
(2)リブの無加圧時の高さH0は0.25mm以上1.15mm以下である。
(3)組み立て前にリブを上に向けてセパレータを水平な台上に置き、押し付け板をリブの上に載せた状態で、押し付け板に対して上側から9kPaの圧力を付与した際のリブの高さHが、無加圧時の高さH0の0.70倍以上0.90倍以下である。
【0008】
本発明の第二態様は、上記構成(1)を有する鉛蓄電池の製造方法であって、下記の構成(11)を有している。
(11)セパレータとして、リブの無加圧時の高さH0が0.25mm以上1.15mm以下であり、組み立て前にリブを上に向けてセパレータを水平な台上に置き、押し付け板をリブの上に載せた状態で、押し付け板に対して上側から9kPaの圧力を付与した際のリブの高さHが、無加圧時の高さH0の0.70倍以上0.90倍以下であるものを使用する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の鉛蓄電池によれば、高温地域で使用された場合であっても、セパレータの酸化劣化の進行が抑制されて長寿命となることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態の鉛蓄電池を構成する積層体の一部を示す平面図である。
【
図2】積層体を構成する袋状セパレータの外面(正極板と対向する面)を示す平面図である。
【
図3】袋状セパレータを示す部分断面図であって、
図2のA-A断面図に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下に示す実施形態に限定されない。以下に示す実施形態では、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定は本発明の必須要件ではない。
【0012】
〔全体構成の説明〕
この実施形態の鉛蓄電池は、モノブロックタイプの電槽と、蓋と、六個の極板群とを有する。電槽は、隔壁により六個のセル室に区画されている。六個のセル室は電槽の長手方向に沿って配列されている。各セル室に一つの極板群が収納され、電解液が注入されている。各極板群は、交互に配置された複数枚の正極板および負極板と、正極板と負極板との間に配置されたセパレータと、からなる積層体を有する。
【0013】
正極板は、正極集電体と正極合剤(正極活物質を含む合剤)で構成され、正極集電体は、長方形の格子状基板と、格子状基板から上側に突出する耳部とを有し、格子状基板に正極合剤が保持されている。負極板は、負極集電体と負極合剤(負極活物質を含む合剤)で構成され、負極集電体は、長方形の格子状基板と、格子状基板から上側に突出する耳部とを有し、格子状基板に負極合剤が保持されている。複数枚の正極板および負極板は、セパレータを介して交互に配置されている。
負極板は袋状セパレータ内に収納されている。この負極板が入った袋状セパレータと正極板とが交互に積層されて、正極板と負極板との間にセパレータが配置された状態となっている。なお、負極板ではなく、正極板が袋状のセパレータ内に収納されていても良い。
【0014】
また、各極板群は、積層体の正極板および負極板をそれぞれ幅方向の別の位置で連結する正極ストラップおよび負極ストラップと、正極ストラップおよび負極ストラップからそれぞれ立ち上がる正極中間極柱および負極中間極柱を有する。正極ストラップおよび負極ストラップは、正極板および負極板の耳部をそれぞれ連結している。セル配列方向の両端のセル室に配置された正極ストラップおよび負極ストラップには、正極極柱および負極極柱がそれぞれ小片部を介して形成され、外部端子となる正極極柱および負極極柱と接続している。
【0015】
〔セパレータについて〕
図1には、正極板1、負極板4、および袋状のセパレータ5からなる積層体が示されている。
図2には、セパレータ5の外面(正極板1と対向する面)が示されている。
図3には、
図2のA-A断面が示されている。これらの図において、Xは積層体の積層方向を、Yは積層体の幅方向を、Zはセル室の上下方向を示している。
【0016】
図1に示すように、正極板1は、正極集電体2と正極合剤3で構成されている。正極集電体2は、長方形の格子状基板21と、格子状基板21から上側に突出する耳部22で構成されている。負極板4は袋状のセパレータ5の中に収納されている。
図2に示すように、セパレータ5は、板状の基部51と、基部51の外面(正極板1と対向する面)511からX方向に突出する複数本のリブ52と、で構成されている。リブ52は、セル室の上下方向Zに延びる筋状の突起である。同じ形状および寸法を有する複数本のリブ52が、Y方向(正極板の幅方向)に並列に等間隔で形成されている。また、Y方向の両端部がシール部511aとなっている。
【0017】
図3に示すように、リブ52のY方向に沿った断面形状は等脚台形であり、基部51の外面511側の幅(下底)W1が先端の幅(上底)W2より大きい。また、Y方向の両端部のシール部511aより内側の部分に、リブ52より高さが低い小突起54を備えている。この小突起54を備えることで、セパレータ5のY方向両端部の強度が向上する。小突起54の高さ(X方向の寸法)は0.05mm以上0.3mm以下であることが好ましく、幅(Y方向の寸法)は、0.1mm以上0.4mm以下であることが好ましい。なお、セパレ-タ5は、基部51の内面(負極板4と対向する面)に小突起54を備えていてもよい。
【0018】
リブ52の無加圧時の高さ(X方向の寸法)H0は0.25mm以上1.15mm以下である。
組み立て前のリブ52を上に向けてセパレータ5を水平な台上に置き、押し付け板をリブ52の上に載せた状態で、押し付け板に対して上側から9kPaの圧力を付与した際のリブの高さHは、無加圧時の高さH0の0.70倍以上0.90倍以下である。つまり、リブ52の無加圧時の高さH0に対する加圧状態での高さHの比(H/H0)が0.70以上0.90以下である。
基部51の厚さ(X方向の寸法)Tは0.15mm以上0.3mm以下である。
なお、正極板1を袋状のセパレータ5内に収納する場合、セパレータ5の基部51の内面(正極板1と対向する面)にリブ52を設ける。
【0019】
〔電解液について〕
電解液は、アルミニウムイオンを0.01mol/L以上0.3mol/Lの濃度で含む希硫酸、またはナトリウムイオンを0.002mol/L以上0.05mol/Lの濃度で含む希硫酸である。
【0020】
〔実施形態の作用、効果〕
高温環境下で使用される鉛蓄電池は、正極板の格子状基板に生じるグロースが顕著になることで正極板が湾曲し、セパレータが正極板で加圧され易い環境となっている。この実施形態の鉛蓄電池では、セパレータ5のリブ52の無加圧時の高さH0が0.25mm以上1.15mm以下であることと、セパレータのリブ側が板状物で押された時に全てのリブにより発揮される弾性力(以下、「全リブによる弾性力」と称する。)を示す比(H/H0)が0.70以上0.90以下であることにより、高温環境下の使用時に、セパレータおよび正極板の耐久性を確保しつつ、セパレータ5の基部51と正極板1の格子状基板21との間に必要な空間が確保されて、過充電時に正極板から発生する酸素ガスによるセパレータの基部の酸化劣化の進行を抑制することができる。その結果、高温地域で使用された場合の寿命を長くすることができる。
【0021】
リブの無加圧時の高さH0が0.25mm以上1.15mm以下を満たす場合であっても、比(H/H0)が0.70未満であると、高温環境下の使用時に上記必要な空間が確保できず、過充電時に正極板から発生する酸素ガスによるセパレータの基部の酸化劣化を抑制できる効果が得られない。一方、比(H/H0)が0.90を超えると、全リブによる弾性力が不十分となり、高温環境下で正極板の湾曲によりセパレータが加圧された場合に、リブが、当接する正極板を破損させる可能性が高くなる。
【0022】
全リブによる弾性力を示す比(H/H0)が0.70以上0.90以下を満たす場合であっても、リブの無加圧時の高さH0が0.25mm未満であると、積層体における正極板とセパレータの基部との距離が極端に短くなることで、高温環境下の使用時に上記必要な空間が確保できず、過充電時に正極板から発生する酸素ガスによりセパレータの基部が酸化劣化するリスクが著しく高くなる。また、この観点から、リブの無加圧時の高さH0は0.30mm以上であることが好ましく、0.40mm以上であることがより好ましい。
【0023】
リブの無加圧時の高さH0が高いほど、高温環境下の過充電時に正極板から発生する酸素ガスによるセパレータの基部の酸化劣化を抑制できる効果が大きくなる。しかし、高さH0が1.15mmを超えると、積層体における正極板とセパレータの基部との距離が極端に長くなることで、高温環境下で正極板の湾曲によりセパレータが加圧されることで生じるリブの撓み量が、極端に大きくなるため、リブと基部との境界部に亀裂が生じ易くなって、セパレータの耐久性が確保できない。また、この観点から、リブの無加圧時の高さH0は0.80mm以下であることが好ましく、0.60mm以下であることがより好ましい。
【0024】
また、この実施形態の鉛蓄電池は、アルミニウムイオンを0.01mol/L以上0.3mol/Lの濃度で含む希硫酸、またはナトリウムイオンを0.002mol/L以上0.05mol/Lの濃度で含む希硫酸を、電解液として使用することにより、充電受入れ性に優れたものとなっている。電解液の希硫酸に含まれるアルミニウムイオンの濃度が0.01mol/L未満であると、充電受入れ性の向上効果が得られず、0.3mol/Lを超えると、極板群の内部に生じたガスが外部に排出されにくくなる。
以上のことから、この実施形態の鉛蓄電池によれば、高温地域で使用された場合の寿命を長くすることができ、充電受入れ性にも優れたものとなる。
【0025】
なお、リブ52のY方向に沿った断面形状が等脚台形でW1>W2であることにより、加圧下においても、リブがたわみにくく、倒れにくく、変形しにくくなり、セパレータ自体が傷みにくくなるという効果が得られる。リブの寸法W1は0.3mm以上0.8mm以下であることが好ましく、リブの寸法W2は0.1mm以上0.4mm以下であることが好ましい。また、W2/W1は、リブの形状保持特性およびセパレータ耐酸化優位性の観点から、0.25以上0.85以下であることが好ましい。
また、基部51の厚さTが0.15mm以上0.3mm以下であるため、0.15mm未満である場合よりも耐酸化性能に優れ、0.3mmを超える場合よりも電池内部抵抗を低減することができる。
【0026】
〔その他〕
比(H/H0)を0.70以上0.90以下に調整する方法としては、リブの先端面の面積(上記実施形態では先端の幅W2)、リブの形成密度、およびリブ(セパレータ全体)の材料を適切に選定する方法が挙げられる。
【実施例0027】
[試験電池の作製]
サンプルNo.1~60の鉛蓄電池として、実施形態の鉛蓄電池と同じ構造でD23サイズの鉛蓄電池を作製した。
<化成前の正極板および負極板の作製>
先ず、鉛合金からなる正極集電体をブックモールド式の鋳造方式により作製した。また、鉛合金からなる負極集電体を連続鋳造方式により作製した。次に、正極集電体の格子状基板に、通常の方法で作製した正極活物質を含む合剤(正極合剤)のペーストを充填し、熟成乾燥させて、化成前の正極板(正極充填板)を得た。また、負極集電体の格子状基板に、通常の方法で作製した負極活物質を含む合剤(負極合剤)のペーストを充填し、熟成乾燥させて、化成前の負極板(負極充填板)を得た。
【0028】
<セパレータの作製>
袋状のセパレータは以下の方法で作製した。先ず、基部の厚みが0.25mmで、幅が152mmの帯状であって、サンプル毎に寸法が異なるリブを有する多孔性合成樹脂製セパレータがロール状に巻かれたもの(セパレータロール)を用意した。いずれのサンプル用のセパレータロールにおいても、リブは7mm間隔で18本形成されている。各セパレータロールから長さ240mmに切り出したセパレータを、リブ側を外側に折って重ねて縁部をギヤシールすることで、Z方向が120mmでY方向が152mmである袋状セパレータを得た。
リブの断面形状である等脚台形の下底W1、上底W2、および高さH0,Hを、サンプル毎に表1および表2に示す。
【0029】
<組み立て前のH
0,Hの測定>
組み立て前のリブの高さH
0,Hは、セパレータロールから長さ240mmに切り出した試験片を用いて、以下の方法で測定した。
無加圧時の高さH
0については、先ず、リブを上に向けてセパレータを水平な台上に置き、マイクロメーターを用いて、リブの上面と基部の下面とを挟んでリブの高さと基部の厚さの合計値(
図3の「H
0+T」)を測定した。次に、基部のみを挟んで基部の厚さTを測定し、その値を合計値から差し引いた値を、リブの無加圧時の高さH
0とした。
加圧状態での高さHは、リブを上に向けてセパレータを水平な台上に置き、押し付け板をリブの上に載せた状態で、押し付け板に対して上側から9kPa(より正確には8.889kPa)の圧力を付与した際の値である。この高さHを、ミネベア製の引張圧縮試験機を使用して次の方法で測定した。
【0030】
先ず、引張圧縮試験機の本体基盤の上にリブを上に向けてセパレータを置き、その上に、押し付け板として、長さ150mm、幅150mm、厚み9mmの金属製の平板を置き、平板の上に5kNのロードセルが丁度接触する状態とした後、5kNのロードセルを0.01mm/minの速度で降下させ、押し付け板に対して0.2kNの圧力が掛かった時点でロードセルの移動を停止した。この時のロードセルの移動距離から、セパレータのリブの加圧状態での高さHと基部の厚さTの合計値(H+T)を算出した。また、この状態で基部には圧力が掛からないため、無加圧時の高さH0の測定時に測定した基部の厚さTを、算出した「H+T」から差し引いた値が、加圧状態での高さHとなる。
長さ150mm、幅150mmの押し付け板の押し付け面積は0.0225m2(=0.15m×0.15m)であるため、この押し付け板に対して0.2kNの圧力を掛けることは、0.2kN/0.0225m2=8.889kPaの圧力を掛けることを意味する。
【0031】
<極板群の作製とそれ以降の工程>
上述の方法で作製した5枚の正極充填板と、6枚の負極充填板を用意した。次に、6枚の負極充填板をそれぞれ袋状セパレータ内に収納し、この負極充填板入りセパレータと正極充填板とを交互に積層することで、正極充填板を5枚、および負極充填板を6枚有する積層体を六個得た。なお、袋状セパレータのリブが正極充填板に当接するように積層した。
【0032】
次に、COS(キャストオンストラップ)方式の鋳造装置を用いて、得られた六個の積層体の正極充填板および負極充填板に、それぞれストラップ、中間極柱、端子極柱を形成することで、六個の極板群を得た。次に、得られた六個の極板群を、ポリプロピレン製のモノブロックタイプの電槽の六個のセル室にそれぞれ入れた。なお、積層体の各セル室内での圧迫力が5kPa以上10kPa以下の範囲で一定になるように、電槽内壁のガイドリブの突出寸法を調整した。
【0033】
その後、通常の方法で、隣接するセル室間の中間極柱の抵抗溶接、電槽と蓋の熱溶着を行った。次に、比重が1.245である希硫酸に硫酸アルミニウムを添加することにより、アルミニウムイオンの濃度が0.1mol/Lである電解液(比重は1.255)を得て、この電解液を蓋の注液孔から各セル室内へ注入した。次に、注液孔を塞いで未化成の鉛蓄電池を組み立てた後、通常の方法で電槽化成を行うことで、正極充填板および負極充填板を正極板および負極板にした。
以上のようにして、No.1~No.60の鉛蓄電池を二体ずつ得た。
【0034】
<化成後のH0,Hの測定>
得られたNo.1~No.60の各二体の鉛蓄電池のうちの一体を解体して、化成後のリブの高さH0,Hを測定した。具体的には、先ず、正極端子極柱を有する極板群が収納されたセル室(一番目のセル室)の二つ隣のセル室(三番目のセル室)から極板群を取り出して分解し、四番目のセル室側に配置されていた袋状セパレータから負極板を取り出して、袋状セパレータのギヤシール部を切断して伸ばしたものを用意した。次に、これを使用して、組み立て前の測定方法と同じ方法で、リブの高さH0,Hを測定した。
【0035】
[評価試験]
得られたNo.1~No.60の各二体の鉛蓄電池の残りの一体は、解体せずに、これを用いて高温耐久サイクル寿命試験を実施した。
具体的には、「JIS D5301:2019 始動用鉛蓄電池」で規定する軽負荷寿命試験を、40℃ではなく75℃で行った。つまり、各鉛蓄電池を75℃±2℃に保持された水槽中に置き、試験温度以外は上記規格で規定された条件で試験を実施し、寿命に至るまでのサイクル数を調べた。なお、精製水による補水を、一週間に一度の頻度で行った。
また、この寿命試験後に各鉛蓄電池を解体し、セパレータのリブと基部との接続部に亀裂が発生しているかどうかと、正極板のリブが当接している面に破損が生じているかどうかを、目視で確認した。
これらの試験の結果も表1および表2に示す。
【0036】
【0037】
【0038】
これらの結果から以下のことが分かる。
組み立て前と解体後で、セパレータのリブの無加圧時の高さH0は変化しなかったが、加圧時の高さHは解体後に組み立て前よりも低くなった。
セパレータのリブの無加圧時の高さH0が0.20mmであって、組み立て前の比(H/H0)が0.60~0.95であるNo.1~No.6の鉛蓄電池は、リブに亀裂は発生しなかったが、高温寿命サイクル数が1500~1990であり、必要なサイクル数である2300サイクルに達しないものであった。また、組み立て前の比(H/H0)が0.95であるNo.6の鉛蓄電池では、正極板に破損が生じていた。
【0039】
セパレータのリブの無加圧時の高さH0が1.30mmであって、組み立て前の比(H/H0)が0.60~0.95であるNo.55~No.60の鉛蓄電池は、高温寿命サイクル数が1400~1970であるとともに、リブに亀裂が発生していた。また、組み立て前の比(H/H0)が0.95であるNo.60の鉛蓄電池では、正極板に破損が生じていた。
セパレータのリブの無加圧時の高さH0が0.25mm以上1.15mm以下であるNo.7~No.54の鉛蓄電池についても、リブに亀裂は発生しなかった。
【0040】
セパレータのリブの無加圧時の高さH0が0.25mm以上1.15mm以下であるNo.7~No.54の鉛蓄電池において、組み立て前の比(H/H0)が0.70以上であるNo.8~No.12、No.14~No.18、No.20~No.24、No.26~No.30、No.32~No.36、No.38~No.42、No.44~No.48、No.50~No.54の鉛蓄電池は、高温寿命サイクル数が2370以上であったのに対して、組み立て前の比(H/H0)が0.60であるNo.7、No.13、No.19、No.25、No.31、No.37、No.43、No.49の鉛蓄電池は、高温寿命サイクル数が1900以下であった。
【0041】
セパレータのリブの無加圧時の高さH0が0.25mm以上1.15mm以下であるNo.7~No.54の鉛蓄電池において、組み立て前の比(H/H0)が0.70以上0.90以下であるNo.8~No.11、No.14~No.17、No.20~No.23、No.26~No.29、No.32~No.35、No.38~No.41、No.44~No.47、No.50~No.53の鉛蓄電池では、正極板に破損が生じていなかったのに対して、組み立て前の比(H/H0)が0.95であるNo.12、No.18、No.24、No.30、No.36、No.42、No.48、No.54の鉛蓄電池では、正極板に破損が生じていた。
【0042】
セパレータのリブの無加圧時の高さH0が0.30mm以上0.80mm以下で、組み立て前の比(H/H0)が0.70以上であるNo.14~No.18、No.20~No.24、No.26~No.30、No.32~No.36、No.38~No.42、No.44~No.48の鉛蓄電池は、高温寿命サイクル数が2500以上であった。
セパレータのリブの無加圧時の高さH0が0.40mm以上0.60mm以下で、組み立て前の比(H/H0)が0.70以上であるNo.20~No.24、No.26~No.30、No.32~No.36の鉛蓄電池は、高温寿命サイクル数が2860以上であった。
【0043】
つまり、組み立て前の比(H/H0)が0.70以上である鉛蓄電池は、セパレータのリブの無加圧時の高さH0が0.25mm以上1.15mm以下であることで、高温環境下の使用でリブに亀裂が生じることが防止されるとともに、優れた高温寿命性能が得られ、この高さH0が0.30mm以上0.80mm以下であるとより優れた高温寿命性能が得られ、この高さH0が0.40mm以上0.60mm以下であるとさらに優れた高温寿命性能が得られる。
【0044】
また、セパレータのリブの無加圧時の高さH0が0.25mm以上1.15mm以下であって、組み立て前の比(H/H0)が0.70以上0.90以下である鉛蓄電池は、高温環境下の使用でリブに亀裂が生じることが防止されるとともに、優れた高温寿命性能が得られることに加えて、高温環境下の使用で正極板の破損も防止できるものとなる。