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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175951
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】段差防止材および橋梁
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/04 20060101AFI20221117BHJP
【FI】
E01D19/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082750
(22)【出願日】2021-05-14
(71)【出願人】
【識別番号】505389695
【氏名又は名称】首都高速道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507230382
【氏名又は名称】首都高メンテナンス西東京株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】515282669
【氏名又は名称】日本エンジニアリング株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391021329
【氏名又は名称】株式会社童夢
(71)【出願人】
【識別番号】515281651
【氏名又は名称】株式会社ITWパフォーマンスポリマーズ&フルイズジャパン
(71)【出願人】
【識別番号】393013618
【氏名又は名称】光海陸産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】中村 充
(72)【発明者】
【氏名】久保田 成是
(72)【発明者】
【氏名】中溝 翔
(72)【発明者】
【氏名】田中 誠
(72)【発明者】
【氏名】政門 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】久保 真由
(72)【発明者】
【氏名】白波瀬 徹
(72)【発明者】
【氏名】天澤 天二郎
(72)【発明者】
【氏名】中川 健太
(72)【発明者】
【氏名】大西 竜馬
(72)【発明者】
【氏名】樋口 和男
(72)【発明者】
【氏名】高野 雄造
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA05
2D059AA32
2D059GG29
(57)【要約】
【課題】所望の機械的強度を有するとともに、軽量であって簡便に設置することが可能な段差防止材およびこの段差防止材を有する橋梁を提供する。
【解決手段】段差防止材10は、橋梁1の橋脚13の上部131に、橋桁14を支持する支承部15の近い位置に設けられ、支承部15による橋桁14の支持が十分に行えなくなる状況が生じた場合であっても、支承部15とともに、または支承部15に代わって橋桁14を支持することにより、橋桁14が下方変位することを抑制して段差が生じるのを防止するものであって、樹脂と、引張強さが2000MPa以上である複数本の繊維とで構成され、柱状または筒状の形状を有する繊維強化樹脂複合体である本体部を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁の橋脚の上部の、橋桁を支持する支承部の近い位置に設けられ、前記支承部による前記橋桁の支持が十分に行えなくなる状況が生じた場合であっても、前記支承部とともに、または前記支承部に代わって前記橋桁を支持することにより、前記橋桁が下方変位することを抑制して段差が生じるのを防止する段差防止材であって、
樹脂と、引張強さが2000MPa以上である複数本の繊維とで構成され、柱状または筒状の形状を有する繊維強化樹脂複合体である本体部を備える、段差防止材。
【請求項2】
前記本体部は、前記複数本の繊維が第1の方向に対して略平行に配列されている第1の繊維層を有する、請求項1に記載の段差防止材。
【請求項3】
前記本体部は、前記第1の方向とは異なる第2の方向に対して略平行に配列されている第2の繊維層をさらに有する、請求項2に記載の段差防止材。
【請求項4】
前記段差防止材は、前記本体部を前記橋脚に固定する台座部をさらに備える、請求項1、2または3に記載の段差防止材。
【請求項5】
前記繊維は、カーボン繊維、ガラス繊維およびアラミド繊維のうち、少なくとも1種を含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の段差防止材。
【請求項6】
前記段差防止材を構成する前記繊維の含有量が30質量%以上70質量%以下の範囲である、請求項1から5のいずれか1項に記載の段差防止材。
【請求項7】
前記段差防止材の耐荷重が2000kN以上である、請求項1から6のいずれか1項に記載の段差防止材。
【請求項8】
前記橋梁が道路橋として用いられるものであり、
前記橋桁が前記段差防止材によって支持されるときに、前記橋桁の床版上面の高さと、前記橋桁の床版上面に隣接する道路面の高さとの差が30mm以下になるように構成される、請求項1から7のいずれか1項に記載の段差防止材。
【請求項9】
複数の橋脚を有するとともに、複数の前記橋脚に跨って設けられる橋桁が、前記橋脚の上部に設けられた支承部によって支持されている橋梁であって、
前記支承部による前記橋桁の支持が十分に行えなくなる状況が生じた場合であっても、前記支承部とともに、または前記支承部に代わって前記橋桁を支持することにより、前記橋桁が下方変位することを抑制して段差が生じるのを防止する段差防止材を、前記橋脚の上部に設けられた前記支承部の近い位置に有し、
前記段差防止材は、樹脂と、引張強さが2000MPa以上である複数本の繊維とで構成され、柱状または筒状の形状を有する繊維強化樹脂複合体である本体部を備える、橋梁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁の橋脚に設けられ、支承部による橋桁の支持が十分に行えなくなる状況が生じた場合であっても、橋桁が下方変位することを抑制して段差が生じるのを防止する段差防止材および前記段差防止材を有する橋梁に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁の橋桁は、鉄などの金属によって作られていることが多く、気温の変化による膨張および収縮や、車両の走行に伴う振動などによってある程度変位するため、かかる変位量を吸収して橋脚の破損を防ぐために、橋脚と橋桁との間の連結を、橋桁上に設置され、外部からの力によって弾性変形する性質を有する支承部を介して行うのが一般的である。
【0003】
しかし、揺れが大きい強い地震などが発生した場合には、支承部が支持できる橋桁の変位量を超えて大きく変形したり破損したりすることによって、支承部によって、橋桁を橋脚上の所定の高さ位置での支持が行えなくなり、それにより橋桁が支承部から落下するなどの下方変位をして、橋桁の床版上面と、それに隣接して位置する道路面との境目の位置で大きな段差が生じる恐れがある。特に道路橋として用いられる橋梁では、このような強い地震などが発生した場合、橋桁に残留している走行車両を橋梁外に退避させるとともに、緊急車両などが走行できるようにして、交通機関を速やかに健全な状態に戻せるようにすることが求められているが、橋桁が橋脚の上に下方変位して路面に段差が生じた箇所は、このような交通機関の妨げになる恐れがある。一般に、50~100mmの段差が路面に生じると、緊急車両の通行も難しくなるといわれている。
【0004】
そこで、段差防止材を橋脚上に設置することが提案されている(非特許文献1)。段差防止材は、地震などによって支承部による橋桁の支持が十分に行えなくなる状況が生じたときに、橋桁を適切な高さに支持するものであり、既設の橋梁に段差防止材を設けることで、地震などの災害時に、橋桁の前後に生じる段差(路面段差など)を低減することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】“段差防止構造 SEブロック”、[online]、株式会社エスイー、[令和3年5月13日検索]、インターネット〈URL:http://se-kyoryokozo.jp/prod10-1.html〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1に記載の段差防止材は、橋桁を支持できる機械的強度を持たせるために鋼鉄で作製されており、重量も重いものであった。このような段差防止材を設置するためには、固定式の足場を組む必要があり、設置作業に多くの時間が掛かっていた。
【0007】
本発明の目的は、所望の機械的強度を有するとともに、軽量であって簡便に設置することが可能な段差防止材と、この段差防止材を有する橋梁を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、段差防止材の本体部を、引張強さが2000MPa以上である繊維を用いた繊維強化樹脂複合体で構成するとともに、本体部を柱状または筒状の形状にすることで、段差防止材の軽量化が図られるとともに、段差防止材の機械的強度が高められることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は、以下のものを提供する。
【0009】
(1)橋梁の橋脚の上部の、橋桁を支持する支承部の近い位置に設けられ、前記支承部による前記橋桁の支持が十分に行えなくなる状況が生じた場合であっても、前記支承部とともに、または前記支承部に代わって前記橋桁を支持することにより、前記橋桁が下方変位することを抑制して段差が生じるのを防止する段差防止材であって、
樹脂と、引張強さが2000MPa以上である複数本の繊維とで構成され、柱状または筒状の形状を有する繊維強化樹脂複合体である本体部を備える、段差防止材。
【0010】
(2)前記本体部は、前記複数本の繊維が第1の方向に対して略平行に配列されている第1の繊維層を有する、上記(1)に記載の段差防止材。
【0011】
(3)前記本体部は、前記第1の方向とは異なる第2の方向に対して略平行に配列されている第2の繊維層をさらに有する、上記(2)に記載の段差防止材。
【0012】
(4)前記段差防止材は、前記本体部を前記橋脚に固定する台座部をさらに備える、上記(1)、(2)または(3)に記載の段差防止材。
【0013】
(5)前記繊維は、カーボン繊維、ガラス繊維およびアラミド繊維のうち、少なくとも1種を含む、上記(1)から(4)のいずれか1項に記載の段差防止材。
【0014】
(6)前記段差防止材を構成する前記繊維の含有量が30質量%以上70質量%以下の範囲である、上記(1)から(5)のいずれか1項に記載の段差防止材。
【0015】
(7)前記段差防止材の耐荷重が2000kN以上である、上記(1)から(6)のいずれか1項に記載の段差防止材。
【0016】
(8)前記橋梁が道路橋として用いられるものであり、前記橋桁が前記段差防止材によって支持されるときに、前記橋桁の床版上面の高さと、前記橋桁の床版上面に隣接する道路面の高さとの差が30mm以下になるように構成される、上記(1)から(7)のいずれか1項に記載の段差防止材。
【0017】
(9)複数の橋脚を有するとともに、複数の前記橋脚に跨って設けられる橋桁が、前記橋脚の上部に設けられた支承部によって支持されている橋梁であって、前記支承部による前記橋桁の支持が十分に行えなくなる状況が生じた場合であっても、前記支承部とともに、または前記支承部に代わって前記橋桁を支持することにより、前記橋桁が下方変位することを抑制して段差が生じるのを防止する段差防止材を、前記橋脚の上部に設けられた前記支承部の近い位置に有し、前記段差防止材は、樹脂と、引張強さが2000MPa以上である複数本の繊維とで構成され、柱状または筒状の形状を有する繊維強化樹脂複合体である本体部を備える、橋梁。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、所望の機械的強度を有するとともに、軽量であって簡便に設置することが可能な段差防止材と、この段差防止材を有する橋梁を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態に係る段差防止材を設けた橋梁の構成の一例を示す要部正面図である。
図2】本実施形態に係る段差防止材を設けた橋梁の構成の一例を示す要部側面図である。
図3】本実施形態に係る段差防止材によって橋桁が支持されているときの橋梁の構成の一例を示す要部側面図である。
図4】本実施形態に係る段差防止材を設けた橋梁の構成の変形例を示す要部正面図である。
図5】本実施形態に係る橋梁の一例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0021】
<段差防止材>
図1は、本実施形態に係る段差防止材10を設けた橋梁1の一例を示す要部正面図である。また、図2は、本実施形態に係る段差防止材10を設けた橋梁1の一例を示す要部側面図である。
【0022】
本実施形態に係る段差防止材10は、橋梁1の橋脚13の上部131上で、橋桁14を支持する支承部15の近い位置に用いられ、支承部15による橋桁14の支持が十分に行えなくなる状況が生じたときに、橋桁14が下方変位することを抑制して橋桁14の前後での段差を防止するものである。ここで、段差防止材10は、樹脂と、引張強さが2000MPa以上である複数本の繊維とで構成され、柱状または筒状の形状を有する繊維強化樹脂複合体である本体部11を備える。
【0023】
このような、引張強さが2000MPa以上である繊維を用いた繊維強化樹脂複合体で構成された本体部11を備えた段差防止材10によることで、段差防止材10のうち特に本体部11の機械的強度が高められるため、支承部15による橋桁14の支持が十分に行えなくなる状況が生じたとしても、段差防止材10が橋桁14を支持することで、橋桁14の下方変位による段差を抑制することができる。また、このような繊維強化樹脂複合体で構成された本体部11を備えることで、本体部11を柱状または筒状の形状にすることが可能になり、それにより段差防止材10の軽量化が図られるため、段差防止材10を橋脚13上に簡便に設置することができる。したがって、このような段差防止材10によることで、所望の機械的強度を有するとともに、軽量であって簡便に設置することが可能な段差防止材10と、この段差防止材10を有する橋梁1を提供することができる。
【0024】
段差防止材10は、少なくとも本体部11を備える。また、段差防止材10は、本体部11を橋脚13に固定する台座部12をさらに備えることが好ましい。
【0025】
(本体部)
本体部11は、樹脂と、引張強さが2000MPa以上である複数本の繊維とで構成される、繊維強化樹脂複合体からなる。このような繊維強化樹脂複合体によることで、本体部11の機械的強度を高めることができる。
【0026】
このうち、繊維は、カーボン繊維、ガラス繊維およびアラミド繊維のうち、少なくとも1種を含むことが好ましい。その中でも、樹脂との混合し易さの観点から、カーボン繊維を含むことがより好ましい。これらの繊維は、引張強さが2000MPa以上の繊維を含んで構成され、特に、引張強さが3500MPa以上の繊維を含んで構成されることが好ましく、引張強さが4000MPa以上の繊維を含んで構成されることがより好ましい。このような引張強さの大きい繊維を用いて繊維強化樹脂複合体を構成することで、本体部11の機械的強度が高められるため、支承部15による橋桁14の支持が十分に行えなくなったときに、本体部11が橋桁14を支持することができる。なお、これらの繊維の引張強さの上限は、特に限定されないが、例えば7000MPaとしてもよい。
【0027】
ここで、本体部11に含まれる複数本の繊維は、第1の方向に対して略平行に配列されている、第1の繊維層を構成することが好ましい。このとき、複数本の繊維は、それぞれ、橋脚13への設置面に対して交差する方向に延在することがより好ましい。このように、本体部11に含まれる繊維を略平行に配列することで、本体部11の高さ方向についての引張強さが高められるため、橋脚13への設置面積が限られている場合であっても、より確実に橋桁14を支持することができる。また、本体部11により多くの繊維を含めることができるため、本体部11の機械的強度をより一層高めることも可能である。
【0028】
また、本体部11に含まれる複数本の繊維は、上述の第1の方向とは異なる第2の方向に対して略平行に配列されている第2の繊維層をさらに構成することが好ましい。このように、複数本の繊維が、異なる複数の方向に沿って並ぶことで、あらゆる方向に沿って高い機械的強度がもたらされるため、橋桁14を支持する際の確実性を、より一層高めることができる。
【0029】
また、本体部11に含まれる複数本の繊維は、橋脚13への設置面に平行な面と略直角に交差する方向に連続して延在することがより好ましい。このとき、第1の繊維層を構成する繊維と、第2の繊維層を構成する繊維のうち一方または両方が、橋脚13への設置面に平行な面と略直角に交差する方向に連続して延在することがさらに好ましい。ここで、繊維が「設置面に平行な面と略直角に交差する」とは、設置面に対して垂直な断面で見たときに、繊維が延在する方向が、設置面に対して60°以上90°以下の角度で交差することをいう。また、段差防止材10の設置面と垂直な方向についての圧縮強度をより高める観点から、この角度は、好ましくは65°以上90°以下、より好ましくは70°以上90°以下、さらに好ましくは75°以上90°以下としてもよい。なお、設置面に対して垂直な断面で見たときの、繊維が延在する方向の設置面に対する角度は、90°以外の場合、鋭角側の角度で見たときの角度とする。
【0030】
本体部11における繊維の合計含有量は、特に限定されないが、本体部11の総質量100質量%に対して、30質量%以上70質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0031】
他方で、段差防止材10に含まれる樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、フェノール、シアネートエステル、ポリイミド、ポリアミド(PA)、ポリカーボネイト(PC)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)から選択される1種以上を含むことができる。このような樹脂によって繊維が覆われていることで、引張強さの大きい繊維による軽量化の効果を失わせることなく、段差防止材10の機械的強度をより一層高めることができる。
【0032】
なお、カーボン材料と樹脂を用いて本体部11を得る手段としては、特に限定されず、例えばオートクレーブ成形法やRTM(レジントランスファーモールディング)成形法、VaRTM(真空レジントランスファーモールディング)成形法、SMC(シートモールディングコンパウンド)法、FW(フィラメントワインディング)法、シートワインディング法、プルトルージョン法(引抜成形法)などを用いることができる。
【0033】
(台座部)
台座部12は、本体部11の下側に隣接して設けられるものであり、本体部11を橋脚13の上部131に固定可能なように構成される。これにより、段差防止材10の本体部11が橋桁14を支持する必要が生じた場合であっても、本体部11が橋脚13に対して傾き難くなるため、より安定して橋桁14を支持することができる。
【0034】
台座部12の材質は、本体部11と接合可能なものであれば、特に限定されない。例えば、台座部12は、例えば、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカーボネイト(PC)、ナイロン66から選択される1種以上によって構成することができる。
【0035】
台座部12は、本体部11から、橋脚13への設置面に沿って延出する部分を有するように構成されることが好ましい。これにより、本体部11を橋脚13に対して、より一層傾き難くすることができる。
【0036】
(段差防止材の形状、特性)
段差防止材10の本体部11の形状は、軽量化を図る観点から、円筒や角筒などの筒状や、円柱や角柱などの柱状の形状を有する。また、段差防止材10の大きさや形状は、橋桁14の重さなどから求められる、橋脚13上で橋桁14を支持する際に掛かることが予想される荷重よりも大きな荷重に耐えられる範囲で設定する。その中でも、軽量化を図る観点から、橋桁14を支持する際に掛かることが予想される荷重よりも、1割~3割だけ大きな荷重に耐えられるように、段差防止材10の大きさや形状を設定することが好ましい。
【0037】
本実施形態に係る段差防止材10は、耐荷重が2000kN以上であることが好ましい。これにより、段差防止材10が橋桁14を支持する必要が生じた場合であっても、段差防止材10が高さ方向に圧縮され難くなるため、橋桁14の下方変位による段差を抑制することができる。なお、段差防止材10の耐荷重の上限は、特に限定されず、例えば耐荷重が8000kNに及ぶ段差防止材10を得ることも可能である。
【0038】
(段差防止材の設置箇所)
本実施形態に係る段差防止材10は、橋梁1の橋脚13の上部131に設けられ、橋桁14を支持する支承部15から近い位置に設けられる。ここで、段差防止材10は、支承部15が設けられている橋脚13上に設けられることが好ましく、より具体的には、支承部15が設けられている橋脚13の上面や、橋脚13の上面から延出する保持具(縁端拡幅ブラケット、図示せず)の上面に設けられることが好ましい。これにより、支承部15による橋桁14の支持が十分に行えなくなる状況が生じた場合であっても、支承部15の近くにある段差防止材10が支承部15とともに、またはこの段差防止材10が支承部15に代わって橋桁が支持されるため、段差防止材10および支承部15に掛かる橋桁14の荷重のバランスが大きく変わることを抑え、それにより橋桁14の傾きを抑制することができる。それとともに、橋桁14が下方に変位することによって生じる段差を抑制することができる。
【0039】
ここで、段差防止材10は、図1および図2に記載されるように、橋桁14の直下に設けられるとともに、支承部15によって橋桁14が支持されている際は、橋桁14との間に大きさhの空隙を有することが好ましい。段差防止材10と橋桁14との間に空隙を有することで、支承部15によって橋桁14が支持されているときは、支承部15によって橋桁14の伸縮や振動などを吸収することができる。それとともに、図3に記載されるように、地震などによって支承部15による橋桁14の支持が行えなくなり、段差防止材10によって橋桁14が支持されているときであっても、橋桁14の床版の下方変位の大きさhは、最大でも空隙の大きさh以下の範囲に収めることができる。
【0040】
特に、橋梁1を道路橋として用いる場合には、段差防止材10と橋桁14との間における空隙の大きさhを、30mm以下にすることが好ましい。これにより、橋桁14が段差防止材10によって支持されるときに、橋桁14の床版上面141の高さと、橋桁14の床版上面141に隣接する道路面21の高さとの差(路面段差)が30mm以下の範囲に収まるため、橋桁14の床版上面141に残留している走行車両を橋梁外に退避させるとともに、橋桁14の床版上面141を緊急車両などが走行できるようにして、交通機関を速やかに健全な状態に戻すことができる。
【0041】
他方で、段差防止材10は、ジャッキアップブラケットを介して橋脚上に設けてもよい。これにより、橋脚13の上面の面積に制約がある場合であっても、橋桁14の床版の下方変位によって生じる段差を抑制することができる。
【0042】
本実施形態に係る段差防止材10は、支承部15によって橋桁14を支持する構造を有する橋梁1に、広く用いることができる。例えば、図1に記載されるような、箱桁からなる橋桁14を有する橋梁1に用いてもよく、また、図4に記載されるような、鈑桁からなる橋桁14’を有する橋梁1’に用いてもよい。ここで、図1に記載されるような、箱桁からなる橋桁14を有する橋梁1に用いる場合、段差防止材10は、橋桁14の幅方向または延長方向の少なくともいずれかについて複数設けることが好ましく、例えば橋桁14の幅方向に複数設けられた支承部15a~15eのそれぞれの近傍に設けることが好ましい(図1では、支承部15a、15bの近傍にある段差防止材10については図示せず)。また、図4に記載されるような、鈑桁からなる橋桁14’を有する橋梁1’に用いる場合、複数の支承部15を鈑桁ごとに設けるとともに(支承部15f~15h)、これらの支承部15の近くにそれぞれ段差防止材10を設けることが好ましい。このように段差防止材10を複数設けることで、段差防止材10に求められる機械的強度を小さくすることができるため、段差防止材10の軽量化をより一層図ることができる。
【0043】
<段差防止材の施工方法>
本実施形態に係る段差防止材10の施工方法は、特に限定されず、例えば段差防止材10の台座部12と橋脚13とを接合させる接合工程によって、上述の段差防止材10を橋梁1の橋脚13上に設けてもよい。本実施形態の施工方法では、段差防止材10の軽量化が図られているため、固定式の足場を組まなくても、移動式の足場を用いて橋脚13に設置することができ、その結果、段差防止材10を簡便に設置することができる。
【0044】
段差防止材10の台座部12と橋脚13との接合手段は、特に限定されず、アンカーボルトなどの固定具によって接合してもよく、粘着剤によって接合してもよい。また、段差防止材10は、粘着剤と固定具とを併用して橋脚13上と接合してもよい。
【0045】
ここで、台座部12と橋脚13との接合に用いられる粘着剤としては、異種の素材を接合することが可能であり、かつ耐疲労性に優れる観点から、メタクリル酸メチル(MMA)系の粘着剤を用いることが好ましい。
【0046】
<橋梁>
図5は、本実施形態に係る橋梁1Aの一例を示す側面図である。本実施形態に係る橋梁1Aは、複数の橋脚13を有するとともに、これらの橋脚13に跨って設けられる橋桁14が、支承部15によって複数の橋脚13にそれぞれ支持されている。この橋梁1Aは、複数の支承部15の一方または両方において橋桁14の支持が十分に行えなくなる状況が生じた場合に、橋桁14が下方変位することを抑制して橋桁14の前後に段差が生じるのを防止する段差防止材10を、複数の橋脚13のそれぞれに有しており、これらの段差防止材10は、それぞれ、樹脂と、引張強さが2000MPa以上である複数本の繊維とで構成され、柱状または筒状の形状を有する繊維強化樹脂複合体である本体部11を備える。
【0047】
このような、カーボン材料を含んだ段差防止材10を橋梁1Aに用いることで、段差防止材10がそれぞれ軽量化されるため、段差防止材10を複数の橋脚13に簡便に設置することができる。また、これにより段差防止材10が所望の機械的強度を有することになるため、複数の支承部15の一方または両方において橋桁14の支持が十分に行えなくなる状況が生じたとしても、橋桁14の下方変位による段差を抑制することができる。
【実施例0048】
次に、本発明の効果をさらに明確にするために、本発明例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
[本発明例1]
カーボン繊維からなり、引張強さが4900MPaである繊維(線径:5μm~8μm、東レ株式会社製、型番:P3252S-25)を用い、橋脚への設置面と平行な面に対して90°の角度をなす第1の方向に、繊維が略平行に配列した状態で、エポキシ系の樹脂を用いて固めることで、第1の繊維層を構成した。次いで、この第1の繊維層の外側に、第1の繊維層と同じ繊維を用いて、橋脚への設置面と平行な面に対して45°の角度をなす第2の方向に、繊維が略平行に配列した状態で、エポキシ系の樹脂を用いて固めることで、第2の繊維層を構成した。このような第1の繊維層および第2の繊維層の形成を繰り返し行うことで、内径200mm、外径224mmの円筒形状の本体部を形成した。この本体部における繊維の合計含有量は、本体部の総質量100質量%に対して、60質量%であった。
【0050】
次いで、この本体部の底面に沿って、縦320mm、横320mmの大きさを有し、
ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)からなる矩形の台座部を配置し、本体部と台座部を、構造用接着剤(株式会社ITWパフォーマンスポリマーズ&フルイズジャパン製、型番:プレクサスAO420)を用いて接着することで、段差防止材を得た。
【0051】
得られた段差防止材について、静的圧縮試験機を用いて耐荷重を測定したところ、3000kNとなった。
【0052】
また、一般的な道路橋として用いられる、幅20m、長さ35mの箱桁からなる橋桁(重さ1200t)の一方の端部を、箱桁の幅方向に4個並べた段差防止材で支持する場合に必要となる耐荷重(以下、「橋桁を支持するのに必要な耐荷重」という。)は、構造計算により2000kN以上と求められる。これに関し、本発明例1の段差防止材の耐荷重は、いずれもこの数値を上回っていた。
【0053】
また、固定式の足場を組むことなく、移動式の足場を用いて橋脚に設置することができる段差防止材の重量は、最大で30kgである。これに関し、本発明例1の段差防止材は、重量が10.3kgであるため、移動式の足場を用いて橋脚に設置することが可能である。
【0054】
[比較例1]
本体部に用いる繊維として、引張強さが2000MPa未満である繊維を用いた以外は、本発明例1と同様にして段差防止材を形成した。
【0055】
得られた段差防止材について、静的圧縮試験機を用いて耐荷重を測定したところ、橋桁を支持するのに必要な耐荷重(2000kN)を下回っていた。
【0056】
以上のことから、本発明例1の段差防止材は、比較例1の段差防止材と比べて、高い機械的強度を有するとともに、軽量であって簡便に設置することが可能であることが分かった。
【0057】
以上、本発明の実施の形態および実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態および実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態および実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0058】
1、1’、1A 橋梁
10 段差防止材
11 本体部
12 台座部
13 橋脚
131 橋脚の上部
14、14’ 橋桁
141 床版上面
15、15a~15h 支承部
21 道路面
図1
図2
図3
図4
図5