(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175990
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/18 20160101AFI20221117BHJP
H02P 21/24 20160101ALI20221117BHJP
H02P 6/18 20160101ALI20221117BHJP
H02P 27/06 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
H02P21/18
H02P21/24
H02P6/18
H02P27/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082831
(22)【出願日】2021-05-14
(71)【出願人】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】戸張 和明
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 裕太
(72)【発明者】
【氏名】田口 義行
【テーマコード(参考)】
5H505
5H560
【Fターム(参考)】
5H505BB04
5H505CC01
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE55
5H505FF07
5H505FF08
5H505GG02
5H505GG04
5H505GG06
5H505HA10
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ24
5H505LL14
5H505LL16
5H505LL20
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL28
5H505LL39
5H505LL40
5H505LL41
5H560BB04
5H560BB12
5H560DA12
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5H560DA16
5H560DB20
5H560DC01
5H560DC12
5H560DC13
5H560EB01
5H560SS01
5H560TT15
5H560UA06
5H560XA02
5H560XA04
5H560XA06
5H560XA13
(57)【要約】
【課題】
異なる周波数の範囲で、それぞれ異なる位相誤差推定の技術を使う場合において、トルクショックを防止することが可能な電力変換装置を提供することにある。
【解決手段】
モータの出力周波数と出力電圧と出力電流を可変にする信号をモータに出力する電力変換器と、電力変換器を制御する制御部を有し、制御部は、出力電圧および出力電流から第1の電力を演算し、出力電流、電気回路パラメータ、および周波数推定値から第2の電力を演算し、第1の電力が第2の電力に追従するように、第1の周波数領域において第1の位相誤差推定値を演算し、第1の周波数領域と異なる第2の周波数領域において第2の位相誤差推定値を演算し、第1の位相誤差推定値もしくは第2の位相誤差推定値が、位相誤差推定値の指令値に追従するように周波数推定値を制御する電力変換装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの出力周波数と出力電圧と出力電流を可変にする信号を前記モータに出力する電力変換器と、
前記電力変換器を制御する制御部を有し、
前記制御部は、
前記出力電圧および前記出力電流から第1の電力を演算し、前記出力電流、電気回路パラメータ、および周波数推定値から第2の電力を演算し、前記第1の電力が前記第2の電力に追従するように、第1の周波数領域において第1の位相誤差推定値を演算し、
前記第1の周波数領域と異なる第2の周波数領域において第2の位相誤差推定値を演算し、
前記第1の位相誤差推定値もしくは、前記第2の位相誤差推定値が、位相誤差推定値の指令値に追従するように周波数推定値を制御する電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記第1の電力および前記第2の電力は、それぞれ第1の無効電力、第2の無効電力である電力変換装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
d軸の電圧指令値、q軸の電圧指令値、およびd軸の電流検出値、q軸の電流検出値に基づいて、前記第1の無効電力を演算し、
d軸の電流検出値あるいは電流指令値、q軸の電流検出値あるいは電流指令値、前記モータの前記電気回路パラメータ、および前記周波数推定値に基づいて、前記第2の無効電力を演算する電力変換装置。
【請求項4】
請求項2に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
三相交流の1相分の電圧振幅値と電流振幅値および電圧指令値と電流検出値の位相差の正弦信号に基づいて、前記第1の無効電力を演算し、
前記モータの前記電気回路パラメータ、d軸とq軸の電流検出値あるいは電流指令値、および周波数推定値に基づいて、前記第2の無効電力を演算する電力変換装置。
【請求項5】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
前記モータの前記出力電圧と前記出力電流から第1の有効電力を演算し、
前記モータの前記電気回路パラメータ、前記出力電流および、前記周波数推定値から第2の有効電力を演算し、
前記第1の有効電力が前記第2の有効電力に追従するように、前記第2の位相誤差推定値を演算する電力変換装置。
【請求項6】
請求項5に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
d軸の電圧指令値、q軸の電圧指令値、およびd軸の電流検出値、q軸の電流検出値に基づいて、前記第1の有効電力を演算し、
前記モータの前記電気回路パラメータ、d軸の電流検出値あるいは電流指令値、q軸の電流検出値あるいは電流指令値、および前記周波数推定値から前記第2の有効電力を演算する電力変換装置。
【請求項7】
請求項5に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
三相交流の1相分の電圧振幅値と電流振幅値、および電圧指令値と電流検出値の位相差の余弦信号に基づいて、前記第1の有効電力を演算し、
前記モータの前記電気回路パラメータ、d軸とq軸の電流検出値あるいは電流指令値、および前記周波数推定値に基づいて、前記第2の有効電力を演算する電力変換装置。
【請求項8】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
前記第1の電力と前記第2の電力の偏差を、零とするように比例制御と積分制御により、前記第1の位相誤差推定値を演算する電力変換装置。
【請求項9】
請求項8に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
前記モータの回転速度が低速域であれば、第1の無効電力と第2の無効電力を演算し、
前記第1の無効電力と前記第2の無効電力の偏差を、零とするように比例制御と積分制御して前記第1の位相誤差推定値を演算し、
前記モータの回転速度が中高域であれば、第1の有効電力と第2の有効電力を演算し、前記第1の有効電力と前記第2の有効電力の偏差を零とするように比例制御と積分制御して、前記第2の位相誤差推定値を演算する電力変換装置。
【請求項10】
請求項8に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
前記モータの回転速度が低速域であれば、第1の無効電力と第2の無効電力を演算し、
前記第1の無効電力と前記第2の無効電力の偏差を零とするように比例制御と積分制御して前記第1の位相誤差推定値を演算し、
前記モータの回転速度が中高域であれば、拡張誘起電圧方式により前記第2の位相誤差推定値を演算する電力変換装置。
【請求項11】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
前記出力電圧および前記出力電流、および前記第1の位相誤差推定値もしくは前記第2の位相誤差推定値を、
上位装置であるIOTコントローラにフィードバックして解析し、
前記モータの電気回路パラメータを修正する電力変換装置。
【請求項12】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
前記第1の周波数領域と前記第2の周波数領域を切替える周波数値、または位相誤差を推定する比例制御あるいは積分制御に設定する制御応答を上位装置から設定もしくは変更する電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
位置センサレス制御の低速域において、安定かつ高精度な制御方法としては、特許文献1に記載のように、電力変換器への電圧指令値、電流検出値、磁石モータの電気回路パラメータおよび周波数推定値に基づいて、無効電力を演算し磁石モータの周波数を推定する技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術は、2種類の無効電力(QとQhat)を演算し、その偏差ΔQをゼロにするようインバータの周波数推定値を演算する。周波数推定値が、磁石モータの巻線抵抗値の温度変化に低感度化できるため、高精度な制御特性を実現できる。
【0005】
ところで、周波数が高い場合(中高速)と、周波数が低い場合(低速)で、異なる技術で速度制御をする場合がある。そのような場合に、例えば、低速域では特許文献1の技術を使い2種類の無効電力を演算し、その偏差ΔQをゼロにするように第1のモータ周波数を推定する。一方、中高速域について、例えば別の技術として拡張誘起電圧により位相誤差(制御の位相と磁石モータの位相)を推定し、零に追従するようPI制御により第2のモータ周波数を推定する。低速域と中高速域とで、第1のモータ周波数と第2のモータ周波数とを切替えたとき、2つの周波数に差異があると電流変化によるトルクショック(トルクの変動)の発生が考えられる。
【0006】
また、磁石モータの巻線抵抗値の温度変化に低感度化にすることで抵抗値などの電気回路パラメータの調整が不要で安定かつ高精度な制御特性が求められる。
【0007】
本発明の目的は、モータの周波数が変わる際のトルクショックを防止できるとともに、電気回路パラメータの調整が不要で安定かつ高精度な制御特性の電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、モータの出力周波数と出力電圧と出力電流を可変にする信号を前記モータに出力する電力変換器と、
前記電力変換器を制御する制御部を有し、
前記制御部は、
前記出力電圧および前記出力電流から第1の電力を演算し、前記出力電流、電気回路パラメータ、および周波数推定値から第2の電力を演算し、前記第1の電力が前記第2の電力に追従するように、第1の周波数領域において前記第1の位相誤差推定値を演算し、
前記第1の周波数領域と異なる第2の周波数領域において第2の位相誤差推定値を演算し、
前記第1の位相誤差推定値もしくは、前記第2の位相誤差推定値が、位相誤差推定値の指令値に追従するように周波数推定値を制御する電力変換装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、モータの周波数が変わる際のトルクショックを防止できるとともに、電気回路パラメータの調整が不要で安定かつ高精度な制御特性を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1における電力変換装置などのシステム構成図。
【
図2】高速域における拡張誘起電圧を用いた位相誤差の推定演算部の構成図。
【
図3】実施例1における低速域における位相誤差の推定演算部の構成図。
【
図4】実施例1における周波数および位相の推定演算部の構成図。
【
図5】中高速域の拡張誘起電圧方式を低速域に用いた場合の制御特性を示す図。
【
図7】実施例1において低速域/中高速域の切替えをした場合の制御特性を示す図。
【
図9】実施例2における電力変換装置などのシステム構成図。
【
図10】実施例2における低速域の位相誤差推定演算部の構成図。
【
図11】実施例3における電力変換装置などのシステム構成図。
【
図12】実施例3における中高速域の位相誤差推定演算部の構成図。
【
図13】実施例4における電力変換装置などのシステム構成図。
【
図14】実施例4における中高速域における位相誤差の推定演算部の構成図。
【
図15】実施例5における電力変換装置などのシステム構成図。
【
図16】実施例6における電力変換装置などのシステム構成図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて本実施例を詳細に説明する。なお、各図における共通の構成については同一の参照番号を付してある。また、以下に説明する各実施例は図示例に限定されるものではない。
【実施例0012】
図1は、実施例1における電力変換装置と磁石モータとを有するシステム構成図である。
【0013】
本実施例の電力変換装置は、磁石モータの磁石位相を検出するエンコーダなどを省略する位置センサレス制御において、停止から基底周波数の10%程度となる低速域でも、安定かつ高精度な制御特性を実現する。
【0014】
磁石モータ1は、永久磁石の磁束によるトルク成分と電機子巻線のインダクタンスによるトルク成分を合成したモータトルクを出力する。
【0015】
電力変換器2はスイッチング素子としての半導体素子を備える。電力変換器2は、3相交流の電圧指令値vu
*、vv
*、vw
*を入力し、3相交流の電圧指令値vu
*、vv
*、vw
*に比例した電圧値を出力する。電力変換器2の出力に基づいて、磁石モータ1は駆動され、磁石モータ1の出力電圧値と出力周波数値および出力電流は可変に制御される。スイッチング素子としてIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を使うようにしてもよい。
【0016】
直流電源3は、電力変換器2に直流電圧および直流電流を供給する。
【0017】
電流検出器4は、磁石モータ1の3相の交流電流iu、iv、iwの検出値であるiuc、ivc、iwcを出力する。また該電流検出器4は、磁石モータ1の3相の内の2相、例えば、u相とw相の交流電流を検出し、v相の交流電流は、交流条件(iu+iv+iw=0)から、iv=-(iu+iw)として求めてもよい。
【0018】
本実施例では、電流検出器4は、電力変換装置内に設けた例を示したが、電力変換装置の外部に設けてもよい。
【0019】
制御部は、以下に説明する座標変換部5、速度制御演算部6、ベクトル制御演算部7、中高速域の位相誤差推定演算部8、低速域の位相誤差推定演算部9、周波数および位相の推定演算部10、座標変換部11を備える。そして、制御部は、磁石モータ1の出力電圧値と出力周波数値および出力電流は可変に制御するように電力変換器2の出力を制御する。
【0020】
制御部は、マイコン(マイクロコンピュータ)やDSP(Digital Signal Processor)などの半導体集積回路(演算制御手段)によって構成される。制御部は、いずれかまたは全部をASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などのハードウェアで構成することができる。制御部のCPU(Central Processing Unit)が、メモリなどの記録装置に保持するプログラムを読み出して、上記した座標変換部5などの各部の処理を実行する。
【0021】
次に、制御部の各構成要素について、説明する。
【0022】
座標変換部5は、3相の交流電流iu、iv、iwの検出値iuc、ivc、iwcと位相推定値θdcからd軸およびq軸の電流検出値idc、iqcを出力する。
【0023】
速度制御演算部6は、周波数指令値ωr
*と周波数推定値ωdcに基づいてトルク指令値τ*を演算し、トルク係数で除算することよりq軸の電流指令値iq
*を出力する。周波数指令値ωr
*は、中高速域や、低速域の判断に用い、周波数推定値ωdcはモータの速度推定値(モータの回転速度推定値)に対応する。
【0024】
ベクトル制御演算部7は、d軸およびq軸の電流指令値id
*、iq
*、電流検出値idc、iqc、周波数推定値ωdcと磁石モータ1の電気回路パラメータに基づいて演算したd軸およびq軸の電圧指令値vdc
**、vqc
**を出力する。
【0025】
中高速域の位相誤差推定演算部8は、制御軸であるdc軸およびqc軸の電圧指令値vdc
**、vqc
**、周波数推定値ωdc、電流検出値idc、iqcおよび磁石モータ1の電気回路パラメータを用いて、中高速域における制御の位相θdcと磁石モータ1の磁石の位相θdとの偏差である位相誤差Δθの推定値Δθc_Hを出力する。
【0026】
低速域の位相誤差推定演算部9は、制御軸であるdc軸およびqc軸の電圧指令値vdc
**、vqc
**、周波数推定値ωdc、電流検出値idc、iqcおよび磁石モータ1の電気回路パラメータを用いて、低速域における制御の位相θdcと磁石モータ1の磁石の位相θdとの偏差である位相誤差Δθの推定値Δθc_Lを演算する。
【0027】
周波数および位相の推定演算部10は、低速域の位相誤差の推定値Δθc_Lあるいは中高速域の位相誤差の推定値Δθc_Hに基づいて、周波数推定値ωdcと位相推定値θdcを出力する。
【0028】
座標変換部11は、dc軸とqc軸の電圧指令値vdc
*、vqc
**と、位相推定値θdcから3相交流の電圧指令値vu
*、vv
*、vw
*を出力する。
【0029】
最初に、低速域の位相誤差推定演算部9を用いた場合のセンサレスベクトル制御方式の基本動作について説明する。
【0030】
速度制御演算部6は、周波数指令値ωr
*に周波数推定値ωdcが追従するよう、比例制御と積分制御により(数式1)に従いトルク指令τ*とq軸の電流指令値iq
*を演算する。
【0031】
【数1】
ここに、K
sp:速度制御の比例ゲイン、K
si:速度制御の積分ゲイン、P
m:極対数、K
e:誘起電圧係数、L
d:d軸インダクタンス、L
q:q軸インダクタンス、*:設定値、sはラプラス演算子
【0032】
ベクトル制御演算部7は、第1に、永久磁石モータ1の電気回路パラメータである巻線抵抗の設定値R*、d軸インダクタンスの設定値Ld
*、q軸のインダクタンスの設定値Lq
*、誘起電圧係数の値Ke
*、dc軸およびqc軸の電流指令値id
*、iq
*と周波数推定値ωdcを用いて、(数式2)に従いdc軸およびqc軸の電圧基準値vdc
*、vqc
*を出力する。
【0033】
【0034】
ベクトル制御演算部7は、第2に、dc軸およびqc軸の電流指令値id
*、iq
*に各成分の電流検出値idc、iqcが追従するよう比例制御と積分制御により、(数式3)に従いdc軸およびqc軸の電圧補正値Δvdc、Δvqcを演算する。
【0035】
【数3】
ここに、K
pd:d
c軸の電流制御の比例ゲイン、K
id:d
c軸の電流制御の積分ゲイン、K
pq:q
c軸の電流制御の比例ゲイン、K
iq:q
c軸の電流制御の積分ゲイン
【0036】
さらに、ベクトル制御演算部7は、(数式4)に従い、dc軸およびqc軸の電圧指令値vdc
**、vqc
**を演算する。
【0037】
【0038】
図2に中高速域の位相誤差推定演算部8のブロックを示す。中高速域の位相誤差推定演算部8は、d
c軸およびq
c軸の電圧指令値v
dc
**、v
qc
**、電流検出値i
dc、i
qcと磁石モータ1の電気回路パラメータ (R
*、L
q
*)に基づき、拡張誘起電圧方式による中高速域における位相誤差の推定値の演算部81は、(数式5)に従い、中高速域における位相誤差の推定値Δθ
c_Hを演算する。
【0039】
【0040】
ここで、低速域の位相誤差推定演算部9について説明する。
図3に低速域の位相誤差推定演算部9のブロックを示す。
【0041】
低速域の位相誤差推定演算部9は、第1の無効電力演算部91において、磁石モータ1の出力電圧としてのdc軸の電圧指令値vdc
**およびqc軸の電圧指令値vqc
**と、磁石モータ1の出力電流としてのdc軸の電流検出値idc、qc軸の電流検出値iqcを用いて、第1の無効電力Qcを(数式6)に従い演算する。
【0042】
【0043】
第2の無効電力演算部92は、dc軸の電流検出値idc、およびqc軸の電流検出値iqc、周波数推定値ωdc、磁石モータ1の電気回路パラメータ(Ld
*、Lq
*、Ke
*)を用いて、第2の無効電力Qc
^を(数式7)に従い演算する。
【0044】
【0045】
減算部93には、第1の無効電力Qcと第2の無効電力Qc
^が入力され、その偏差であるΔQcを演算する。無効電力の偏差ΔQcは、無効電力の偏差の指令値94である「0」に追従するようにPI制御演算部95(以下PI制御部という)に入力される。PI制御部95が、P(比例)+I(積分)制御演算により、(数式8)に従い、低速域における位相誤差Δθの推定値Δθc_Lを演算する。
【0046】
【数8】
ここに、K
pθ:位相誤差推定演算の比例ゲイン、K
iθ:位相誤差推定演算の積分ゲイン
【0047】
周波数および位相の推定演算部10について説明する。
図4に周波数および位相の推定演算部10のブロックを示す。
【0048】
切替部101には、低速域における位相誤差の推定値Δθc_Lと、中高域における位相誤差の推定値Δθc_H、および周波数指令値ωr
*が入力される。切替部101は、周波数指令値ωr
*の大きさにより、低速域であればΔθc =Δθc_L、中高速域であればΔθc =Δθc_Hを、位相誤差の推定値Δθcとして出力する。
【0049】
減算部103は、前述の位相誤差の推定値Δθcが、位相誤差の指令値Δθc
*102に追従するように、位相誤差の推定値ΔθcとΔθc
*との間の偏差がPI制御部104に入力される。PI制御部104は、P(比例)+I(積分)制御演算により、(数式9)に従い周波数推定値ωdcを演算する。また、I制御演算部(I制御部)105ではPI制御部104の出力に基づいて(数式10)に従い位相推定値θdcを演算する。
【0050】
【数9】
ここに、Kp
pll:PLL制御の比例ゲイン、Ki
pll:PLL制御の積分ゲイン
【0051】
【0052】
つぎに本発明が安定かつ高精度な制御特性となる原理について説明する。
【0053】
図5は、本発明である低速域の位相誤差推定演算部9を用いない(ΔQ
c_Hを使用した)場合の制御特性を示す図である。周波数指令値ω
r
*を基底周波数の2%に設定している。(数式2)に示すd
c軸およびq
c軸の電圧指令値v
dc
**、v
dc
**と(数式5)に示す中高速域における位相誤差の演算式に含まれる抵抗値Rの設定値R
*に誤差がないときを(a)R
*/R=1(基準)とする。
【0054】
抵抗値Rの設定値R
*に誤差があるときを(b)R
*/R=0.5として、(a)と(b)のシミュレーション結果を
図5に示す。
【0055】
図5において、上段は負荷トルクT
L、中段は周波数指令ω
r
*とモータ周波数ω
r、下段は位相誤差Δθを表示している。図中の時刻A点からランプ状の負荷トルクを与え始め、時刻B点の100%まで変化させ、B点より右以降は負荷トルクを与えたままの状態である。
【0056】
(a)R*/R=1(基準)設定にした場合には、位相誤差Δθは定常でゼロ、モータ周波数ωrは周波数指令ωr
*に一致する。(b)R*/R=0.5に設定した場合では、位相誤差Δθは「負」に増加してモータ周波数ωrはゼロ付近で停滞しており、磁石モータ1が脱調している。
【0057】
本実施例では、dc軸およびqc軸の電圧指令値vdc
**、vqc
**と電流検出値idc、iqcを用いて、第1の無効電力Qcを(数式6)より演算する。また、dc軸およびqc軸の電流検出値idc、iqc、周波数推定値ωdc、磁石モータ1の電気回路パラメータの設定値(Ld
*、Lq
*、Ke
*)を用いて、第2の無効電力Qc
^を(数式7)より演算する。
【0058】
演算した結果であるQc
^とQcの偏差を零に追従するよう、低速域における位相誤差の推定値Δθc_Lを(数式8)より自動調整し、推定値Δθc_Lを周波数および位相の推定演算部10に用いることで、抵抗値に低感度化することで制御特性を改善できる。
【0059】
本実施例に係る低速域における制御特性を
図6に示す。R
*/R=0.5に設定した場合で、低速域の位相誤差推定演算部9および周波数および位相の推定演算部10を動作させ、
図4と同様な負荷トルクを与えている。抵抗値Rに低感度な無効電力により位相誤差の推定値Δθ
c_
Lを演算するため、R*/R=0.5に設定した場合でも実際の位相誤差Δθをゼロに抑制できる。
【0060】
さらに本実施例では、周波数指令値ωr
*を基底周波数の2%から20%まで加速し、20%から2%まで減速する。このとき周波数指令値ωr
*が10%の大きさで、低速域と中高速域の位相誤差の推定値を切替えている。
【0061】
ω
r
*が基底周波数の10%未満の低速域は(数式8)を用いて演算する。ω
r
*が基底周波数の10%以上の中高速域は(数式5)より演算する。本実施例における低速域から中高速域への切替え特性、もしくは中高速域から低速域への切替え特性を
図7に示す。
【0062】
図7の中段に示したように、C領域では低速域から中高速域へ切替え、D領域では中高速域から低速域へ切替えている。下段の位相誤差Δθを観ると、切替えのタイミングで多少大きさは変わるが、モータ周波数ω
rにショックはなく、トルクのショックもなくなり、本実施例の効果が明白であることがわかる。
【0063】
本実施例では、ωr
*が基底周波数の10%の大きで、低速域と中高速域の位相誤差の推定値を切替えているが、ωr
*が基底周波数のゼロ以上で10%以下の値で切替えしても問題はない。
【0064】
また低速域の位相誤差の推定値Δθc_Lには「1」~「0」の間で変化するテーパゲインをG_L、中高速域の位相誤差の推定値Δθc_Hには「0」~「1」の間で変化するテーパゲインG_Hをそれぞれ乗算して、位相誤差の推定値の平均値をΔθcとしてもよい。
【0065】
ここで、
図8を用いて本実施例を採用した場合の検証方法について説明する。磁石モータ1を駆動する電力変換装置20に、電圧検出器21、電流検出器22を取り付け、磁石モータ1のシャフトにはエンコーダ23を取り付ける。
【0066】
ベクトル電圧・電流成分の計算部24には、電圧検出器21の出力である三相交流の電圧検出値(vuc、vvc、vwc)、三相交流の電流検出値(iuc、ivc、iwc)とエンコーダの出力である位置θが入力され、ベクトル電圧成分のvdc、vqc、ベクトル電流成分のidc、iqcと、位置θを微分した検出値ωdcを演算する。
【0067】
各部波形の観測部25では、(数式11)を用いて位相誤差Δθ_calを演算する。
【0068】
【0069】
電力変換器2のコントローラに設定するパラメータ(R*,Ld
*,Lq
*,Ke
*)の大きさを変更して、(数式11)のΔθ_calを算出し、実際の位相誤差Δθと一致すれば本発明を採用していることが明白となる。
【0070】
本実施例によれば、磁石モータの磁石位相を検出するエンコーダなどを省略する位置センサレス制御において、停止から基底周波数の10%程度となる低速域でも、制御部(コントローラ)に設定する磁石モータの電気回路パラメータや制御ゲインの調整なしに、安定かつ高精度な制御特性を実現する電力変換装置を実現できる。
【0071】
さらに、低速域において特許文献1にあるようにモータ周波数を推定するのではなく、本実施例によれば、2種類の無効電力の偏差から中高速域と同様に位相誤差を推定する。そのような構成にすることで、低速域も中高速域と同様に、位相誤差の推定値をその指令値に追従するようモータ周波数(モータ回転速度)を推定し、トルクショックを防止することが可能となる。