(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175993
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】船舶用自動操舵装置
(51)【国際特許分類】
G05D 1/00 20060101AFI20221117BHJP
B63B 79/40 20200101ALI20221117BHJP
B63H 25/04 20060101ALI20221117BHJP
B63B 49/00 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
G05D1/00 A
B63B79/40
B63H25/04 D
B63B49/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082836
(22)【出願日】2021-05-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003388
【氏名又は名称】東京計器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101856
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 日出夫
(72)【発明者】
【氏名】羽根 冬希
【テーマコード(参考)】
5H301
【Fターム(参考)】
5H301AA04
5H301BB20
5H301CC03
5H301CC06
5H301CC10
5H301GG14
5H301GG17
5H301HH18
(57)【要約】
【課題】船舶を自動で離着桟させることができる技術を提供する。
【解決手段】計画航路に基づいて、出発点から到達点までの軌道と、出発点から到達点までのsurge方向距離の時間関数である参照距離と、方位の時間関数である参照方位とを含む参照軌道を生成する参照軌道生成部と、船舶の位置を前記参照距離に追従させる距離制御と、船舶の位置を軌道に追従させるとともに船舶の方位を参照方位に追従させる航路制御とによって、船舶を制御する移動制御部121と、船舶の位置を保持するように船舶を制御する保持制御部122と、船舶の位置から船舶のsway方向に延在する線と、軌道との交点が到達点に達した場合、移動制御部による制御から保持制御部による制御に切り替える切替部123とを備えた。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
surge方向及びsway方向の速度とyaw周りの角速度とを制御可能な推進駆動装置と、船首方位及び船体位置を検出するセンサとを備える船舶を制御する船舶用自動操舵装置であって、
計画航路に基づいて、出発点から到達点までの軌道と、該出発点から該到達点までのsurge方向距離の時間関数である参照距離と、方位の時間関数である参照方位とを含む参照軌道を生成する参照軌道生成部と、
前記船舶の位置を前記参照距離に追従させる距離制御と、前記船舶の位置を前記軌道に追従させるとともに前記船舶の方位を前記参照方位に追従させる航路制御とによって、前記船舶を制御する移動制御部と、
前記船舶の位置を保持するように前記船舶を制御する保持制御部と、
前記船舶の位置から該船舶のsway方向に延在する線と、前記軌道との交点が前記到達点に達した場合、前記移動制御部による制御から前記保持制御部による制御に切り替える切替部と
を備える船舶用自動操舵装置。
【請求項2】
前記保持制御部は、前記船舶の保持位置が前記到達点ではない場合、前記船舶の位置と前記到達点との誤差を低減させるように前記船舶を制御することを特徴とする請求項1に記載の船舶用自動操舵装置。
【請求項3】
前記移動制御部及び前記保持制御部は、それぞれ、前記船舶の対水速度に対応する船体パラメータに基づいて制御ゲインを更新し、
前記船体パラメータは、前記移動制御部による制御において所定の対水速度閾値より大きい対水速度において該対水速度に比例し、前記保持制御部による制御において前記対水速度閾値以下である対水速度において一定であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の船舶用自動操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶を自動操舵する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、船舶の航行技術において、離着桟航行に関する研究開発が精力的に進められている。離着桟航行の実現には、船体位置を出発地から移動させ、途中で旋回させ、そして目標地で停止させる船体位置制御技術が要求される。船舶は、自動車と比較して慣性力が大きくまた制動力が弱く、更に低速時には流体抵抗力が弱くなるため、船舶が停止するように制御することは容易ではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】羽根冬希,“コンパスを用いた速度制御を含んだ離着桟制御システムの設計”,日本船舶海洋工学会講演会論文集,2019年,29:497-503
【非特許文献2】羽根冬希,“非干渉化と経路順序による船位保持装置の設計”,日本船舶海洋工学会講演会論文集,2020年5月,(30):33-41
【非特許文献3】羽根冬希,“航路保持システムのための保針制御に基づく解析的方法による設計”,日本船舶海洋工学会論文集,2016年1月,23:33-44
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、船舶を自動で離着桟させることができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の船舶用自動操舵装置は、surge方向及びsway方向の速度とyaw周りの角速度とを制御可能な推進駆動装置と、船首方位及び船体位置を検出するセンサとを備える船舶を制御する船舶用自動操舵装置であって、計画航路に基づいて、出発点から到達点までの軌道と、該出発点から該到達点までのsurge方向距離の時間関数である参照距離と、方位の時間関数である参照方位とを含む参照軌道を生成する参照軌道生成部と、前記船舶の位置を前記参照距離に追従させる距離制御と、前記船舶の位置を前記軌道に追従させるとともに前記船舶の方位を前記参照方位に追従させる航路制御とによって、前記船舶を制御する移動制御部と、前記船舶の位置を保持するように前記船舶を制御する保持制御部と、前記船舶の位置から該船舶のsway方向に延在する線と、前記軌道との交点が前記到達点に達した場合、前記移動制御部による制御から前記保持制御部による制御に切り替える切替部とを備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、船舶を自動で離着桟させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】船舶用自動操舵装置を含むシステムの全体構成を示すブロック図である。
【
図8】船体モデルと駆動機モデルとを含む制御対象を示すである。
【
図9】船体パラメータT
rの船速特性を示す図である。
【
図14】移動制御部による制御システムの構成を示す図である。
【
図15】保持制御部による制御システムの構成を示す図である。
【
図16】潮流がゼロの場合における計画航路と船位航跡を示す図である。
【
図17】潮流がある場合における計画航路と船位航跡を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
【0009】
(1 船舶用自動操舵装置の構成)
まず、本実施形態に係る船舶用自動操舵装置を含むシステムについて説明する。
図1は、船舶用自動操舵装置を含むシステムの全体構成のブロック図である。
【0010】
図1に示すように、本実施形態における船舶用自動操舵装置1は、推進駆動装置3、センサ類4が備えられた船体2を有する船舶を制御するものである。本実施形態において、推進駆動装置3は、surge方向及びsway方向の速度、yaw周りの角速度を制御可能な駆動装置であり、本実施形態においては、船体2の船首と船尾とに設けられたアジマススラスターとして構成される。
【0011】
センサ類4は、船体2の船首方位を検出するジャイロコンパス、船体2の対水速度を検出する速度計、GPS等の衛星測位システム(GNSS)からの船体位置を検出するGNSSセンサを含む。なお、センサ類4は、船首方位、船体位置をそれぞれ検出可能なセンサを含むものであれば良い。
【0012】
船舶用自動操舵装置1は、参照軌道生成部11と、制御部12とを備える。参照軌道生成部11は、軌道計画部5により出力された計画航路に基づいて参照軌道を生成する。制御部12は、参照軌道生成部11により生成された参照軌道に船体2が追従するように、センサ類4により検出された船首方位、船体位置に基づいて推進駆動装置3に指令を出力して船体速度及び角速度を制御する。
【0013】
(2.2 離着桟仕様)
(2.2.1 計画航路)
計画航路について説明する。
図2は、計画航路の形態を示す図である。
【0014】
計画航路は、
図2に示すように、出発点と到達点、船速と旋回の条件とを含み、直線と円弧の組み合せにより構成される。
図2において、O-XYは地球固定座標、ψ
planは計画方位、点Aは出発点、点Bは到達点である。また、点C,S,Fのそれぞれは旋回の中心点、開始点、終了点であり、ρは旋回半径、ψ
setは旋回角である。また、点Dは船速の減速開始点、点Eは変針の開始点である。
【0015】
計画航路において、船舶は、その船速が点Aから前進速度が加速され、等速を経て、点Dから減速され、到達点Bに達するように制御される。また、船舶は、船位を旋回航路に乗せるため、点Sよりも手間に位置する点Eから変針が開始される。
【0016】
(2.2.2 全体動作)
船舶用自動操舵装置の全体動作について概略的に説明する。
【0017】
船舶用自動操舵装置1は、まず、出発点Aにおける方位ψを旋回制御によって、計画方位ψplanに収束させた後、船体位置を出発点Aから到達点Bに移動させて停止させる。また、船舶用自動操舵装置1は、停止後の船体位置が到達点Bに対して誤差を有する場合、船体位置を経路順序制御によって到達点Bに移動させて停止させる。
【0018】
経路順序制御は、surge方向、sway方向の船体位置x,yと方位ψを、surge方向、sway方向の参照位置、参照方位の時系列信号である参照信号にそれぞれ追従させる制御であり、各参照信号は、互いにタイミングが異なっており、望ましくは他の参照信号と時間的に重複しないように生成される。また、経路順序制御におけるsurge方向制御、sway方向制御、方位制御は、それぞれ、船体モデルにおけるsurgeモデル、swayモデル、yawモデルに基づく状態フィードバック制御である。なお、経路順序制御の詳細については非特許文献2を参照されたい。
【0019】
これらの動作のうち、船体位置を出発点Aから到達点Bへ移動させる制御について、船体位置制御として以下に説明する。
【0020】
(2.3 船体位置制御)
船体位置制御について説明する。
図3は、制御システムの分類を示す図である。
【0021】
船体位置制御は、移動モードと保持モードとを含む。移動モードは、船体位置を参照軌道に追従させて到達点Bに移動させる。しかしながら、船体位置は到達点Bに必ず一致できるわけではない。保持モードは、到達点Bの付近に位置する、すなわち到達点Bに対して誤差をもつ移動モードによる終端点B’に船体位置を保持する。船体位置が到達点Bで保持される場合には初期応答による過渡現象が生じる(非特許文献2参照)。この過渡現象を低減するため、保持モードにおいては船体位置を終端点B’に保持する。
【0022】
(2.3.1 参照軌道)
参照軌道は、軌道計画を満足する位置と時間で構成され、移動モードにおいて用いられる。制御部12は、参照軌道の基準は船体位置からsway方向を向く線と参照軌道との交点である点Hを用いて、参照軌道に沿う船体位置を判断する。例えば、制御部12は、点Hが点Eと一致した場合に変針を開始する。
【0023】
(2.3.2 制御システムの概要)
制御システムの概要について説明する。
図3は、制御システムの分類を示す図である。
【0024】
制御部12は、移動モード、保持モードそれぞれの制御システムを有する。制御部12は、移動モードにおいて、参照軌道で設定された時刻に対応する位置に船体位置を追従させ、保持モードにおいて到達点B付近の終端点B’に船体位置を保持させる。
【0025】
図3において、DCは距離制御、TCは航路制御、DPは航路保持制御をそれぞれ示す。また、航路保持制御は、静定制御と上述した経路順序制御とを含む。静定制御は、船体位置Pを終端点B’に収斂させる制御である。
【0026】
制御部12は、移動モードにおいて、参照軌道と船体位置との誤差を点Hから求め、この誤差を距離制御と航路制御とによって修正する。また、制御部12は、保持モードにおいて、終端点B’と船体位置との誤差を静定制御によって修正し、経路順序制御により船体位置を終端点B’から到達点Bへ移動させる。なお、終端点B’から到達点Bへの移動は、経路順序制御以外の他の制御則により制御されても良い。
【0027】
(3 参照軌道)
参照軌道について説明する。参照軌道は、参照軌道生成部11により生成されるものであり、計画航路に基づいて構成される。制御部12は、参照軌道に船体位置を追従させる。参照軌道には、制御誤差を低減させるため、次の要因に対する対策が講じられる。
【0028】
1.船速変化による過渡現象
2.旋回時の角速度による過渡現象
3.上記1,2に対する対策と船体運動に伴って発生する航路誤差
【0029】
これらの対策について以下に説明する。なお、説明上、上記2、上記1、上記3の順に記載する。
【0030】
(3.1 参照方位)
参照軌道における参照方位について説明する。
図4は、参照角速度を示す図である。
図5は、参照方位の時系列を示す図である。
【0031】
参照方位の軌道計画は、計画航路の旋回条件を満足するように設定される。旋回条件は、半径ρ、船速u
R、変針量ψ
set、角速度r=u
R÷ρ、加速時間T
a、等速時間T
v、減速時間T
dである。ここで、添字
Rは参照信号を意味する。変針量の符号は式の煩雑化を防ぐため、ψ
set>0とする。参照方位は
図4に示すように,点Hが点Eを通過した時点で変針が開始されるように設定される。
【0032】
参照方位ψ
Rの時間関数は
図5に示すように、次式になる。
【0033】
【数1】
ここで、添字
a,
v,
dはそれぞれ加速モード、等速モード、減速モードを示し、添字
1,
2,
3はそれぞれ角加速度、角速度、角度を示す。また、μは軌道係数であり、加速時間は{0≦t<T
a}、等速時間は{0≦t<T
d}、減速時間は{0≦t<T
d}であり、Cは初期値である。変針量の符号が正ならば、μ
a>0,μ
d>0になる。
【0034】
上式の軌道係数と初期値は、次式になる。
【0035】
【0036】
変針量ψsetは各モードの変針量の総和になるから、次式になる。
【0037】
【0038】
参照方位の微分値を各モードの開始と終端で求めると
【0039】
【数4】
になる。参照方位とその微分値は上式から各モードで滑らかに接続される。よって、制御システムは参照方位の微分値による過渡現象を生じ難くなる。
【0040】
(3.2 参照距離)
参照軌道における参照距離について説明する。
図6は、参照速度を示す図である。
【0041】
参照距離d
Rは、出発点Aから到達点Bまでのsurge方向距離で定める。参照距離の軌道計画は計画航路の船速条件を満足するように設定される。船速条件は加速モードと減速モードを定める。
図6に示すように、加速モードは出発点Aから加速時間T
a
uまで、減速モードは点Dから減速時間T
d
uまでに設定される。等速モードは、加速モードと減速モードとの間に設定され、出発点Aから加速時間T
a
u経過した時点から点Dを通過するまでの時間に設定される。参照方位による変針動作は等速モードで実施される。したがって、参照距離の軌道計画は、参照方位と同様に構成できる。制御システムは参照方位と同様に、参照距離の微分値による過渡現象を生じ難くなる。
【0042】
参照距離dRは、上述した(3.1 参照方位)に記載の(1)~(3)式において、
【0043】
【数5】
の置換をすれば良い。ここで、d
Rは参照距離、ψ
Rは参照方位である。よって、参照距離は
【0044】
【数6】
になる。ここで、添字
uは参照距離に関し、T
Dは点Hが点Dを通過する時点を示す。
【0045】
点Dまでの距離dADは次式になる。
【0046】
【0047】
【0048】
(3.3 リーチ修正)
リーチ修正について説明する。
【0049】
参照軌道は、船速変化、旋回時の角速度変化のそれぞれによる過渡現象に対する対策が講じられることによって、参照方位、参照距離それぞれの加減速時間の影響を受ける。
【0050】
参照方位による影響を示す。変針時間は(9)式から
【0051】
【数9】
になる。ここで、T
rampはランプ入力を用いた時間で最短となる。等速時間は上式から、
【0052】
【数10】
になる。ここで、括弧の簡略化をする。よって、変針時間は
【0053】
【数11】
になり、T
rampよりT
aだけ長くなる。そのため、参照方位による参照軌道はランプ入力のものに比べて遅れる。参照距離も同様に加速時間に伴う遅れを生じる。さらに、船体運動の時定数による応答遅れや横流れ速度による斜航角が加わる。そのため、参照軌道は数値計算によって求められる。
【0054】
図7は計画航路と参照軌道を示す。なお、
図7において、点Fと点R以降の航路は省略され、計画航路は原点Oから北向きに右旋回するものとする。計算は簡単化のため、
図7に示すように直線航路の計画方位ψ
planを北向きに回転させる。
【0055】
参照軌道は参照速度と参照方位から
【0056】
【数12】
になる。ここで、R
x,R
yは点Rの位置、t
Bは参照距離d
Rが到達点Bに達するまでの時間、u
Rf(t),θ
Rf(t)はそれぞれ参照速度、参照角度で加速モード・等速モード・減速モードをもち、
【0057】
【数13】
である。ここで、sはラプラス演算子、θ
Rf(t)の第2項は船体横流れ速度による斜航角成分であり、T
v,T
rは、それぞれ、船体パラメータのsurge方向、yaw周りの時定数である。
【0058】
航路誤差d
rは、
図7において、旋回終端点R,Fでの接線の切片x
R,x
Fから求めると、
【0059】
【数14】
になる。ここで、αは点Rの傾き、Δは微小な変化量、ψ
setは変針量である。
【0060】
したがって、航路誤差drを修正する方策は、変針開始点を軌道計画の開始点Sからdrだけ手前の点Eに移動するものとなる。点EはWOP(Wheel Over Point)であり、点Eへの移動はリーチ修正と呼ばれる。
【0061】
(4. 船体制御)
参照軌道と船体位置初期値に船体を追従させる制御システムについて説明する。
【0062】
(4.1 制御対象)
制御対象について説明する。
図8は、船体モデルと駆動機モデルとを含む制御対象を示す。
図9は、船体パラメータT
rの船速特性を示す図である。
【0063】
制御対象は、
図8に示すように、船体モデルと駆動機モデルからなる。
【0064】
(4.1.1 船体モデル)
船体モデルはsurge方向を添字u、sway方向を添字v、yaw周りを添字rでそれぞれ表し、
【0065】
【数15】
とする。ここで、sはラプラス演算子、P(s)は伝達関数、U(s)はsurge速度、V(s)はsway速度、R(s)はyaw角速度である。また、Λu(s),Θv(s),Θr(s)は制御入力(指令量)であり、それぞれプロペラ回転数、2つの角度である。船体モデルの伝達関数は
【0066】
【数16】
である。ここで、T,Kはいずれも船体パラメータで、それぞれ時定数とゲインである。
【0067】
図9には、船体パラメータの船速(対水速度)特性が示される。
図9においては、船体パラメータのうち、T
rのみが示されるが、他の変数{K
r,K
u,T
u,K
v,T
v}も船速に関係するものとする。T
rにおける低速域特性は推進抵抗を無視して、慣性項を主要と仮定したものである。
図9から、船体パラメータは次の船速特性をもつ。
【0068】
1.保持モード域は|u|≦2knで、一定とする。
2.移動モード域はu>2knで、船速に比例する。
【0069】
(4.1.2 駆動機モデル)
駆動機モデルについて説明する。
【0070】
駆動機のアジマススラスターモデル(以降、ATMと呼称)はそのプロペラ回転数(逆転しない)とその方向とによって推力ベクトルを制御する。方向角度(開度)と回転数は制限をもつ。
図8において、2機のATMの回転数λと推力Fは
【0071】
【数17】
になる。ここで、添字
f,
aは船首(fore)、船尾(aft)を示し、λ
f,λ
aはそれぞれプロペラ回転数、λ
0は一定回転数、Fは対水推力、X
uは推力係数である。その方向は
【0072】
【数18】
になる。ここで、θは船の基線からの推力方向の角度である。よって、発生する力とモーメントγは、
【0073】
【数19】
になる。ここで、lはミッドシップから駆動機までのレバー長でl
f=l
a=lである。
【0074】
一方、ATMの出力γを指令量で置き換えると、
【0075】
【0076】
(4.2 誤差の定義)
(4.2.1 移動モード)
移動モードにおける誤差について説明する。
図10は、移動モードにおける誤差を示す図である。
【0077】
移動モードにおける誤差は、
図10に示すように、直線航路、円弧航路のそれぞれに設定される。
【0078】
方位誤差ψeは、
【0079】
【数21】
になる。ここで、ψは船首方位、ψ
Rは参照方位である。
【0080】
航路誤差yeは、船体位置Pと点Hとの距離で
【0081】
【数22】
になる。ここで、L(x,y)は直線の式で計画航路から定まり、
【0082】
【数23】
である。ここで、a,b,cは直線の係数である。y
eは点Pを与えると求まる。
【0083】
距離誤差deは、軌道計画上の位置までの距離によって
【0084】
【数24】
に定められる。ここで、d
eは距離誤差、d
Rは参照位置Rまでの距離、d
Hは点Hまでの距離
【0085】
【数25】
である。ここで、添字
L,
Cはそれぞれ直線軌道、円弧軌道を示し、(0)は初期値であり、
【0086】
【数26】
である。ここで、ψ
Hは円弧上の点Hの方位である。
【0087】
(4.2.2 保持モード)
保持モードにおける誤差について説明する。
図11は、保持モードにおける誤差を示す図である。なお、
図11には、移動モードから保持モードへ切り替えられた状態が示される。
【0088】
図11に示される移動モードから保持モードへの切り替えは、船体位置Pに基づく点Hが到達点Bに達した時点で実施される。この際、保持モードの到達点はBから終端点B’に変更される。よって、終端点B’は移動モードにおける船体位置Pの終端位置である。この到達点Bから終端点B’への置換によれば、保持モードの初期値による過渡現象が防止される(非特許文献2参照)。
【0089】
移動モードから保持モードへ切り替えられる際、船体位置Pの位置と方位とを終端点B’に置換する。即ち、次式になる。
【0090】
【0091】
方位誤差ψeは、
【0092】
【数28】
になる。ここで、ψは船首方位、ψ
B’は移動モードの最終方位である。
【0093】
位置誤差xe,yeは船体座標で表し、次式になる。
【0094】
【数29】
ここで、Ω
B
E(ψ)は地球座標(添字
E)から船体座標(添字
B)に変換する行列であり、
【0095】
【0096】
(4.3 制御システム)
制御システムについて説明する。
図12は、制御システムの基本構成を示す図である。
図13は、制御部の構成を示す図である。
図14、
図15は、それぞれ、移動制御部、保持制御部による制御システムの構成を示す図である。
【0097】
上述したように、制御システムは、距離制御(DC)と、航路制御(TC)と、航路保持制御(DP)から構成される(
図3参照)。制御システムの基本構成は、
図12に示すように、誤差を入力し指令を出力して、対水速度に対応する船体パラメータを用いて制御ゲインを更新するものである。
【0098】
図13に示すように、制御部12は、移動モードによる制御を行う移動制御部121と、保持モードによる制御を行う保持制御部122と、切替部123とを備える。切替部123は、船体位から(48)式を検出して、制御主体を移動制御部121または保持制御部122に切り替えることによって、制御システムを移動モードから保持モードへ切り替える。
【0099】
図14、
図15において、C(s)は制御器を示す。また、
図14において、添字
dは距離制御、添字
tは航路誤差制御、添字
hは方位制御を示す。また、
図15において、添字
x、添字
y、添字
ψはいずれ船体位置保持制御を示し、それぞれ、surge,sway,yawに対応する。
図14に示すように、移動制御部121は距離制御器、航路制御器、及び方位制御器を有する。また、
図15に示すように、保持制御部122は、surge,sway,yawのそれぞれに対応する船体位置保持制御器を有する。航路制御器以外の制御器は同一の構成となるため、これらの制御器に対応する船体パラメータや設計パラメータが与えられることで、距離制御器、方位制御器、船体位置保持制御器として機能する。
【0100】
(4.3.1 航路制御)
航路制御について説明する。
【0101】
航路制御は航路誤差yeをゼロに収斂させるもので、方位制御と航路誤差修正からなる。航路制御の詳細については非特許文献3を参照されたい。また、方位制御は舵角オフセットを修正する。航路誤差制御は積分動作を加えることで潮流成分による航路誤差を修正する。
【0102】
方位制御は推定器に状態フィードバックゲインを加えたもので、次式になる。
【0103】
【数31】
ここで、ψ
eは方位誤差でありψ
e=ψ
R-ψ、θ
rは航路制御の指令であり、x
h^=[x
r^ x
w^ θ
ro^]
T,x
r^=[ψ
e^ r
x^]
T,x
w^=[ξ^ ψ
w^]
Tである。添字^は推定値、添字
Tは転置行列を示し、ξは変数である。また、K
hは推定ゲイン、F
hはフィードバックゲインであり、
【0104】
【数32】
である。ここで、f,kはゲインの要素、O
i×jはi行j列のゼロ行列である。K
r,T
r,T
r3=0は船体パラメータでそれぞれ旋回力ゲインと2つの時定数である。ζ
w,ω
wはいずれも波浪パラメータであり、それぞれ減衰係数、固有周波数である。
【0105】
航路誤差制御は航路誤差をフィルタし、航路ゲインを乗じたものであり、次式になる。
【0106】
【数33】
ここで、T
yはフィルタ時定数、f
yは航路ゲイン、f
iは積分ゲイン、K
vは船体パラメータで横流れゲイン、θ
ro^は推定舵角オフセットである。
【0107】
航路制御による指令は次式になる。
【0108】
【0109】
(4.3.2 距離制御と船体位置保持制御)
距離制御及び船体位置保持制御について説明する。
【0110】
距離制御、船体位置保持制御は、いずれも方位制御と同様に構成される。(52)式に対して、距離制御、船体位置保持制御のそれぞれの船体パラメータや設計パラメータが与えられることで、距離制御、船体位置保持制御の制御システムが得られる。
【0111】
(5 検証)
本実施形態に係る船舶用自動操舵装置の有効性をシミュレーションによって検証する。
【0112】
(5.1 シミュレーション条件)
シミュレーション条件について説明する。
【0113】
シミュレーションにおいて、計算時間は25分、その前半は移動モード、後半は保持モードによる制御がなされるものとし、刻み時間は0.1sである。外乱は潮流成分で1.0kn、北向きとする。また、船体パラメータは速度対応でなく一定値を用いる。計画航路の設定値を以下に示す。
【0114】
【0115】
【0116】
駆動機については、一定回転数をλ0=110rpm、角度制限を45degとする。
【0117】
船体パラメータと主要な設計パラメータを以下に示す。
【0118】
【数37】
ここで、K
pは比例ゲイン、ζは減衰係数であり、mは移動モード、hは保持モードを示す。なお、比例ゲイン、減衰係数の詳細については非特許文献3を参照されたい。
【0119】
航路誤差制御は積分動作を含まないため、潮流成分による航路誤差が生じる。スケール変換はγr′=0.2γrとし、sway方向指令速度を角度換算する係数は45deg/10knとする。リーチ量は上述の条件でreach=76.0mになる。
【0120】
(5.2 シミュレーション結果)
シミュレーション結果について説明する。
図16~
図21はいずれもシミュレーション結果を示す。
図16、
図17は、それぞれ、潮流がゼロの場合、潮流がある場合における計画航路と船位航跡を示す図である。
図18は、船体運動の応答を示す図である。
図19は、誤差の応答を示す図である。
図20は、指令の応答を示す図である。
図21は、駆動機出力の応答を示す図である。
【0121】
図16に示すように、リーチ量は旋回時に大きいようにみえるが、航路誤差は旋回後ゼロに収束している。なお、
図16~
図21のうち、
図16のみが潮流なしの場合のシミュレーション結果を示す。
【0122】
図17に示すように、航路誤差が潮流により生じるが、一定値に収束している。終端点B’と到達点Bとの誤差は25.5mである。
【0123】
図18に示すように、surge速度uは、時間または距離が足りず、前半では旋回までに対地速度に収束できない。sway速度vは前半では旋回時yaw運動との干渉誤差を生じるが、安定している。yaw角速度rには問題は生じていない。
【0124】
図19に示すように、x
eの収斂がy
eとψ
eに比べて悪い。y
eとψ
eは
【0125】
【数38】
になる(非特許文献3参照)。ここで、f
1は方位制御の比例ゲイン、f
yは航路ゲイン、v
cRは参照方位の法線方向潮流成分、u
Rは船速である。未収束状態を考慮すれば、上式と
図19に示される結果は妥当である。後半の初期応答ではx
eの過渡誤差は20m強を生じる。
【0126】
図20に示すように、後半の保持モードでは、船体位置を終端点B’に保持するため、指令はバイアスをもつ。
【0127】
図21に示すように、駆動機出力の応答において飽和制限は生じていない。
【0128】
よって、本実施形態に係る船舶用自動操舵装置1による制御は適切に動作していることが確認できた。
【0129】
本発明の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0130】
1 船舶用自動操舵装置
2 船体
3 推進駆動装置
4 センサ
11 参照軌道生成部
12 制御部
121 移動制御部
122 保持制御部
123 切替部