(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175995
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】水力機械
(51)【国際特許分類】
F03B 3/12 20060101AFI20221117BHJP
【FI】
F03B3/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082838
(22)【出願日】2021-05-14
(71)【出願人】
【識別番号】520219508
【氏名又は名称】株式会社ユームズ・フロンティア
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】林 優
【テーマコード(参考)】
3H072
【Fターム(参考)】
3H072AA07
3H072BB07
3H072BB31
3H072CC43
3H072CC44
(57)【要約】
【課題】流路内を水がスムーズに流れ、発電効率に優れる水力機械を提供する。
【解決手段】ケーシング2と、ケーシング2の中心部に回転可能に配置されたランナ3とを備えた水力機械1が有する複数のランナベーン33のうち少なくとも1つは、固定流路21を通ってランナ3へ流入する水から流入方向に圧力を受ける圧力面を有し、ランナベーン33の回転軸の方向に垂直な断面において、圧力面の水の出口側の先端部における接線と、回転軸と圧力面の出口側の先端部を結ぶ線分とのなす出口角度が0°以上20°未満である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、前記ケーシングの中心部に回転可能に配置されたランナとを備えた水力機械であって、
前記ケーシングは、外側に配置される渦巻き形状の流路であって渦巻きの中心方向へ進むにつれて内径が縮径する主流路と、内側に配置され前記主流路からの水を前記ランナへと導入する固定流路とを内部に有し、
前記ランナは、その回転軸に沿った主軸に連結され、周方向に亘って離間して配置された複数のランナベーンを有し、
前記複数のランナベーンのうち少なくとも1つは、前記固定流路を通って前記ランナへ流入する水から流入方向に圧力を受ける圧力面を有し、前記ランナベーンの前記回転軸の方向に垂直な断面において、前記圧力面の水の出口側の先端部における接線と、前記回転軸と前記圧力面の出口側の先端部を結ぶ線分とのなす出口角度が0°以上20°未満であることを特徴とする水力機械。
【請求項2】
前記水力機械は、小水力発電装置に用いられる水力機械であることを特徴とする請求項1記載の水力機械。
【請求項3】
前記複数のランナベーンのうち少なくとも1つのランナベーンを前記回転軸を含む平面に展開した場合に、前記ランナベーンの水の入口側の縁である外縁および前記ランナベーンの水の出口側の縁である内縁が、それぞれ前記回転軸と平行であり、
前記内縁は、前記外縁よりも長いことを特徴とする請求項1または請求項2記載の水力機械。
【請求項4】
前記固定流路は、同心円上に離間して配置された複数のステーベーンによって形成され、
前記複数のステーベーンのうち隣接するステーベーンの間に配置される前記固定流路の内周側の円弧の長さである流路幅が、前記主流路の渦巻きの中心方向へ進むにつれて順次変化することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項記載の水力機械。
【請求項5】
前記主流路は、その流路において最大内径の流入部と、最小内径の終端部とを有し、
前記流路幅が、前記主流路の渦巻きの中心方向へ進むにつれて順次減少し、
前記流路幅の減少率D1が、下記式(1)で表されることを特徴とする請求項4記載の水力機械。
D1=-2(L-YN-SN)/YN(N-1)・・・(1)
N:前記ステーベーンの枚数
Y:前記流入部から延出する第1のステーベーンと、流水方向に隣接する第2のステーベーンとの間に配置される第1の流路幅
D1:隣接する前記流路幅の減少率
S:前記ステーベーンの内周側の円弧の長さ
L:前記ケーシングの前記ランナと摺接する面の内周の長さ
【請求項6】
前記主流路は、その流路において最大内径の流入部と、最小内径の終端部とを有し、
前記流路幅が、前記主流路の渦巻きの中心方向へ進むにつれて順次増加し、
前記流路幅の増加率D2が、下記式(2)で表されることを特徴とする請求項4記載の水力機械。
D2=2(L-YN-SN)/YN(N-1)・・・(2)
N:前記ステーベーンの枚数
Y:前記流入部から延出する第1のステーベーンと、流水方向に隣接する第2のステーベーンとの間に配置される第1の流路幅
D2:隣接する前記流路幅の増加率
S:前記ステーベーンの内周側の円弧の長さ
L:前記ケーシングの前記ランナと摺接する面の内周の長さ
【請求項7】
前記複数のランナベーンは、第1のランナベーンと、前記第1のランナベーンよりも羽根長さの短い第2のランナベーンとを有し、
前記第1のランナベーンと前記第2のランナベーンは互いに交互に設けられ、
前記第2のランナベーンの羽根長さは、前記第1のランナベーンの羽根長さに対して、40%~80%であることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項記載の水力機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小水力発電装置などの高い発電効率が要求される発電装置に用いられる水力機械に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素排出量の削減が世界的な課題となっている。例えば、世界の発電量の大半は火力発電により賄われているが、二酸化炭素排出量削減のために、火力から、水力、地熱、太陽光などの自然エネルギーを用いた発電の比率を増大させることが期待されている。
【0003】
大型ダムに付随する水力発電所や、地熱発電所のような自然エネルギーを用いた大規模発電所は、主な電力消費地である都市圏から離れた場所にあることが多く、発電所から消費地までの長距離送電による電力損失が大きい。また、エネルギー源が自然エネルギーであっても、山間部に大型ダムや大規模発電所を建設することは、生態系や自然を破壊するおそれがあり、環境負荷が大きい場合がある。
【0004】
上述の理由から、電力消費地の近くで小規模に発電することが検討されている。例えば、用水路、工場排水、家庭用排水、浄水場などからの流水を利用した水力発電の技術開発が行われている。このような水力発電は、従来の大型ダムに併設した水力発電に比べ山間部での大規模な工事を必要とせず環境負荷が小さいことから、環境調和型の発電方法として注目を集めている。
【0005】
用水路、工場排水などを利用した発電は、太陽光発電と比べ、時間による出力変動が小さく、安定した発電が可能であり、設備利用率に優れる。また、地域での電力の地産地消が可能なため、大型ダムでの水力発電の場合に問題となる長距離送電による電力損失への解決策となる。特に、流量100L/s未満、有効落差200m以下の条件、または発電出力10,000kW以下の水力発電(いわゆる小水力発電)の利用事例は非常に少なく、将来的なエネルギー利用余地が大きいことからも、その普及が期待されている。
【0006】
水力発電装置としては、スクリュー状の羽根を水の流れの中で回転させる方式や、回転する流水の流圧で回転エネルギーを得る方式などの様々な方式が提案されている。
【0007】
特許文献1には、内部にらせん状板を密着して取り付けた円筒内に水を通過させることによって得られる回転エネルギーを発電に利用する多機能傾斜型発電装置が開示されている。
【0008】
特許文献2には、周方向に亘って配置された複数のステーベーン、各ステーベーンの上流側に配置されて各ステーベーンに流入する水の流入方向を定める複数の流入方向調整ベーン、および、ステーベーンを通過した水が導かれる複数のガイドベーンを有するケーシングと、複数のランナベーンを有してガイドベーンを通過した水によって回動駆動されるランナとを備えた水力機械が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011-149341号公報
【特許文献2】特開2013-72304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の水力発電装置は一般的に、大型である程発電効率が高く、小型になる程発電効率が低くなる関係にある。例えば、特許文献1には、発電効率を上げるために、らせん状板の段数を多くするか、円筒本体の直径を大きくすることが記載されており、発電効率の高い装置は大型化しやすいことが示唆されている。そのため、非山間部などの低流量、低落差となりやすい地域で一定以上の発電量を確保しようとした場合、大型の高効率発電装置を適用しても発電効率が低下してしまうので適当ではない。また、発電装置が大きいと所定の広さの設置場所や大掛かりな工事が必要となるので、適切なサイズでありつつ発電効率に優れることが望ましい。
【0011】
また、特許文献2には、水力機械の発電効率を上げるために、ケーシングの内部に流入方向調整ベーンおよびガイドベーンを設け、流入方向調整ベーンの配置位置や配置方向を調整したり、ガイドベーンの開度を調整したりすることが記載されている。しかし、このようにケーシング内部の羽根の種類を増やしたり、形状を複雑化したりすることは、製造コストやメンテナンス負担が増大したり、装置を小型化しにくくなったりするおそれがある。
【0012】
上記理由から、ダムなどで用いられる従来の大型水力発電装置よりも小型であっても発電効率に優れる水力発電装置や、当該装置に用いられる水力機械の開発が望まれている。発電効率の向上には種々の方策があるが、水力機械を小型とした場合、特に水力機械内部の流路内を水がスムーズに流れ、流水のエネルギー損失を極力抑えることや、ランナに均一な回転力が負荷されることが重要である。
【0013】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、流路内を水がスムーズに流れ、発電効率に優れる水力機械の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の水力機械は、ケーシングと、上記ケーシングの中心部に回転可能に配置されたランナとを備えた水力機械であって、上記ケーシングは、外側に配置される渦巻き形状の流路であって渦巻きの中心方向へ進むにつれて内径が縮径する主流路と、内側に配置され上記主流路からの水を上記ランナへと導入する固定流路とを内部に有し、上記ランナは、その回転軸に沿った主軸に連結され、周方向に亘って離間して配置された複数のランナベーンを有し、上記複数のランナベーンのうち少なくとも1つは、上記固定流路を通って上記ランナへ流入する水から流入方向に圧力を受ける圧力面を有し、上記ランナベーンの上記回転軸の方向に垂直な断面において、上記圧力面の水の出口側の先端部における接線と、上記回転軸と上記圧力面の出口側の先端部を結ぶ線分とのなす出口角度が0°以上20°未満であることを特徴とする。
【0015】
上記水力機械は、小水力発電装置に用いられる水力機械であることを特徴とする。
【0016】
上記複数のランナベーンのうち少なくとも1つのランナベーンを上記回転軸を含む平面に展開した場合に、上記ランナベーンの入口側の縁である外縁および上記ランナベーンの出口側の縁である内縁が、それぞれ上記回転軸と平行であり、上記内縁は、上記外縁よりも長いことを特徴とする。
以下、各部の説明において、特定の部材中で水が流入してくる側を入口側、水が排出される側を出口側という。
【0017】
上記固定流路は、同心円上に離間して配置された複数のステーベーンによって形成され、上記複数のステーベーンのうち隣接するステーベーンの間に配置される上記固定流路の内周側の円弧の長さである流路幅が、上記主流路の渦巻きの中心方向へ進むにつれて順次変化することを特徴とする。
【0018】
ステーベーンの間隔減少の場合:
上記主流路は、その流路において最大内径の流入部と、最小内径の終端部とを有し、上記流路幅が、上記主流路の渦巻きの中心方向へ進むにつれて順次減少し、上記流路幅の減少率D1が、下記式(1)で表されることを特徴とする。
D1=-2(L-YN-SN)/YN(N-1)・・・(1)
N:上記ステーベーンの枚数
Y:上記流入部から延出する第1のステーベーンと、流水方向に隣接する第2のステーベーンとの間に配置される第1の流路幅
D1:隣接する上記流路幅の減少率
S:上記ステーベーンの内周側の円弧の長さ
L:上記ケーシングの上記ランナと摺接する面の内周の長さ
【0019】
ステーベーンの間隔増加の場合:
上記主流路は、その流路において最大内径の流入部と、最小内径の終端部とを有し、上記流路幅が、上記主流路の渦巻きの中心方向へ進むにつれて順次増加し、上記流路幅の増加率D2が、下記式(2)で表されることを特徴とする。
D2=2(L-YN-SN)/YN(N-1)・・・(2)
N:上記ステーベーンの枚数
Y:上記流入部から延出する第1のステーベーンと、流水方向に隣接する第2のステーベーンとの間に配置される第1の流路幅
D2:隣接する上記流路幅の増加率
S:上記ステーベーンの内周側の円弧の長さ
L:上記ケーシングの上記ランナと摺接する面の内周の長さ
【0020】
上記複数のランナベーンは、第1のランナベーンと、上記第1のランナベーンよりも羽根長さの短い第2のランナベーンとを有し、上記第1のランナベーンと上記第2のランナベーンは互いに交互に設けられ、上記第2のランナベーンの羽根長さは、上記第1のランナベーンの羽根長さに対して、40%~80%であることを特徴とする。
ここで、ランナベーンの羽根長さは、羽根の圧力面と負圧面との中点を順々に結んで得られる曲線(「キャンバーライン」ともいう)の長さである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の水力機械は、ケーシングと、その中心部に回転可能に配置されたランナとを備え、ケーシングは、外側に配置される渦巻き形状の流路であって渦巻きの中心方向へ進むにつれて内径が縮径する主流路と、内側に配置され主流路からの水をランナへと導入する固定流路とを内部に有し、ランナは、その回転軸に沿った主軸に連結され、周方向に亘って離間して配置された複数のランナベーンを有し、複数のランナベーンのうち少なくとも1つは、出口角度が0°以上20°未満であるので、ランナの中心部に渦が発生しにくく、水の排出に抵抗がかからずスムーズに行われる。これにより、本発明の水力機械は、流路内を水がスムーズに流れ、発電効率に優れる。
ここで発電効率とは、所定の有効落差にある所定の量の水が有している位置エネルギーに対する、当該水が当該有効落差分だけ位置変化して発電装置に流入した場合に得られる電気エネルギーの比率である。
【0022】
水力機械は、小水力発電装置に用いられる水力機械であるので、ランナベーンに過度に高い圧力が掛からず、ランナの中心部に渦がより発生しにくい。
【0023】
複数のランナベーンのうち少なくとも1つのランナベーンを回転軸を含む平面に展開した場合に、ランナベーンの入口側の縁である外縁およびランナベーンの出口側の縁である内縁が、それぞれ回転軸と平行であり、内縁は、外縁よりも長いので、ランナベーンは排出される水との接触部分が増えることでより多くの回転力を得やすく、発電効率により優れる。ランナ流路の入口側が比較的狭いため、ランナの回転への寄与が大きいランナ外周側での流速が上がりやすい。
【0024】
固定流路は、同心円上に離間して配置された複数のステーベーンによって形成され、複数のステーベーンのうち隣接するステーベーンの間に配置される固定流路の内周側の円弧の長さである流路幅が、主流路の渦巻きの中心方向へ進むにつれて順次変化するので、各固定流路からランナへ流入する水の流速の均一化が図れ、発電効率を一層向上できる。
【0025】
流路幅が、主流路の渦巻きの中心方向へ進むにつれて順次減少し、流路幅の減少率D1が、上記式(1)で表されるので、主流路後半部分と繋がる固定流路を流れる水の流速が増大する。これにより、固定流路からランナへ流入する水の流速が均一化され、ランナが全周に亘って均一な回転力を負荷されることで、振動の発生が低減され、発電効率に一層優れる。
【0026】
流路幅が、主流路の渦巻きの中心方向へ進むにつれて順次増加し、流路幅の増加率D2が、上記式(2)で表されるので、流量が比較的大きく、主流路後半部分と繋がる固定流路を流れる水の流速が高くなりやすい場合に、当該固定流路を流れる水の流速が低減される。これにより、固定流路からランナへ流入する水の流速が均一化され、ランナが全周に亘って均一な回転力を負荷されることで、振動の発生が低減され、発電効率に一層優れる。
【0027】
複数のランナベーンは、第1のランナベーンと、第1のランナベーンよりも羽根長さの短い第2のランナベーンとを有し、第1のランナベーンと第2のランナベーンは互いに交互に設けられ、第2のランナベーンの羽根長さは、第1のランナベーンの羽根長さに対して、40%~80%であるので、本発明の水力機械は水からの回転力を得やすいとともに水の排出流れを阻害せず、発電効率にさらに優れる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図2】本発明の水力機械が備えるケーシングの斜視図および断面図である。
【
図3】本発明の水力機械が備えるランナの斜視図である。
【
図4】本発明の水力機械が備えるランナの子午面図である。
【
図5】ステーベーンおよびランナの拡大断面図である。
【
図6】本発明の水力機械が備えるケーシングの断面図である。
【
図7】ステーベーン間隔が変化するケーシングの断面図である。
【
図8】
図7に示したケーシングのステーベーン部分の拡大断面図である。
【
図9】ケーシングとランナの摺接部分の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の水力機械の一例について、全体的な構造を
図1に基づいて説明する。
図1は水力機械が備えるランナの回転軸に対して直交する面での断面図である。ここで、
図1(a)は、水力機械を水が排出される方向に沿って見た図である。
図1(b)は、水力機械を水が排出される方向から向かって見た図である。図面において、水の流入方向を黒矢印で示す。
【0030】
図1(a)および(b)に示すように、水力機械1は、渦巻き形状を有するケーシング2と、ケーシング2の中心部に回転可能に配置されたランナ3とを備える。ケーシング2は、ケーシング2の外周側に配置される渦巻き形状の流路であって渦巻きの中心方向へ進むにつれて内径が縮径する主流路21と、ケーシング2の内周側に配置され主流路21からの水をランナ3へと導入する固定流路22とを内部に備える。主流路21は、その流路において最大内径の流入部23と、最小内径の終端部24とを有する。固定流路22は、同心円上に離間して配置された複数のステーベーン25によって形成される。
【0031】
ランナ3は、ランナ3の回転軸Oに沿った主軸(図示省略)に連結される。また、ランナ3は、主軸側に配置されるクラウン31と、クラウン31から離間して配置されたバンド32と、クラウン31とバンド32との間に周方向に亘って離間して配置された複数のランナベーン33とを備える。
【0032】
ランナを構成するクラウンと、バンドと、ランナベーンとは、それぞれ別の部材から構成されていてもよいし、一体的に成形されていてもよい。ランナがそれぞれ別の部材から構成される場合、各部材同士をネジなどで固定してランナを製造できる。ランナを一体的に成形する場合、ランナは三次元積層造形法、鋳造などの方法により成形できる。
【0033】
図1に示すケーシング2およびランナ3は、炭素鋼により構成される。ケーシングおよびランナは、炭素鋼、ステンレス、鉄などの金属のほか、エンジニアリングプラスチックなどの樹脂素材、炭素繊維強化プラスチックなどの複合素材を、それぞれ単独または組み合わせて製造することができる。
【0034】
本発明の水力機械は、種々の水力発電装置に用いることができる。例えば、都市の中の用水路、工場排水、家庭用排水、浄水場などから排出される比較的少量の流水で発電する小水力発電装置や、山間部に配置される中型から大型の水力発電装置に用いることができる。特に、本発明の水力機械は、発電効率に優れ、小型化しても実用上必要な電力を発生できるので、設置場所の自由度の観点から小水力発電装置に用いることが好ましい。上記小水力発電装置は、流量100L/s未満、および/または、有効落差200m以下の条件下で使用されることが好ましい。さらに、上記小水力発電装置は、流量50L/s未満、および/または、有効落差100m以下の条件下で使用されることが好ましく、流量30L/s未満、および/または、有効落差30m以下の条件下で使用されることがより好ましく、流量20L/s未満、および/または、有効落差20m以下の条件下で使用されることが一層好ましい。
また、上記小水力発電装置は、発電出力が10,000kW以下の水力発電装置であることが好ましい。さらに、上記小水力発電装置は、発電出力が1,000kW以下の水力発電装置であることが好ましく、発電出力が100kW以下の水力発電装置であることがより好ましく、発電出力が10kW以下の水力発電装置であることが一層好ましい。
上記小水力発電装置がこのような条件下で使用された場合、水力機械のランナベーンに過度に高い圧力が掛からず、ランナの中心部に渦がより発生しにくいため、一層発電効率に優れる。
【0035】
本発明の水力機械において、水は水力機械の配置される位置よりも高い位置から、重力に従って配管を流れ、ケーシングの流入部へ流入する。流入部は、円筒状の直管構造を有する。水は、その後主流路を回転しながら複数のステーベーンの間の固定流路を通って、ランナへと導かれる。水はさらに、ランナベーンの間のランナ流路を通り、ランナの中心部に回転軸方向に開口して配置されるランナの開口部から排出される。
【0036】
図2には、本発明の水力機械が備えるケーシングを示す。
図2(a)はケーシングを水が排出される側から見た斜視図であり、
図2(b)はケーシングを水が流入する側から見た斜視図である。また、
図2(c)はケーシングのランナ回転軸に沿った平面での断面図である。
【0037】
図2に示すように、ケーシング2はランナ(図示省略)の開口部から排出される水を排水管へと導く円筒状の排水部26を有する。排水部26の中心軸と、ランナの回転軸は一致する。ランナは、ケーシング2の中心部のランナ配置部27へ嵌合できる。
【0038】
図2(c)に示すケーシング2の最大幅W1は自由に選択でき、例えば、10cm~100cmとすることができる。ケーシング2の最大高さH1は自由に選択でき、例えば、3cm~30cmとすることができる。設置場所の自由度の観点から、ケーシング2の最大幅W1は20cm~60cmであることが好ましい。また、ケーシング2の最大高さH1は5cm~20cmであることが好ましい。
【0039】
図3には、本発明の水力機械が備えるランナの斜視図を示す。
図3(a)はランナを主軸(図示省略)が取り付けられるクラウン側から見た斜視図であり、
図3(b)はランナをバンド側から見た斜視図である。また、
図3(c)は
図3(a)においてクラウンを取り外した状態の斜視図である。
【0040】
図3(a)に示すように、クラウン31は円盤状の上側円盤部31aと、主軸を取り付ける取付部31bを有する。また、
図3(b)に示すように、バンド32は水が排出される開口部32aと、当該開口部を備えた円盤状の下側円盤部32bとを有する。さらに、
図3(c)に示すように、ランナベーン33は開口部32aまで達する長羽根33aと、開口部32aまで達しない短羽根33bを有する。ランナ3は、長羽根33aを9枚、短羽根33bを9枚、合計18枚のランナベーン33を備える。
【0041】
ランナは、上記のような長さの異なる羽根を有するスプリッタランナであってもよいし、全て同じ長さの羽根からなるランナであってもよい。低流量でも高い発電効率を得る観点からは、水からの力を受けやすく、排出流れをスムーズにできるスプリッタランナが好ましい。
【0042】
ランナが備えるランナベーンの枚数は18枚に限られず自由に設定できる。ランナベーンの枚数は、例えば、6枚~30枚とすることができる。発電効率、製造コスト、強度などの観点から、ランナベーンの枚数は10枚~20枚が好ましく、14枚~20枚がさらに好ましい。
【0043】
ランナ3の直径W2は自由に選択でき、例えば、4cm~40cmとすることができる。ランナ3の高さH2は自由に選択でき、例えば、1cm~16cmとすることができる。設置場所の自由度の観点から、ランナ3の直径W2は8cm~20cmであることが好ましい。また、ランナ3の高さH2は1cm~8cmであることが好ましい。
【0044】
図4には、本発明の水力機械が備えるランナの複数のランナベーンのうち少なくとも1つの長羽根のランナベーンの子午面上への展開図(子午面図)を示す。子午面図とは、ランナ回転軸を含む面でのランナの断面図に、ランナベーンを平面に展開した形状を示す図である。
図4に示すように、ランナベーンを子午面上へ展開して見た場合に、長羽根のランナベーン33aは開口部32aへ達している。ランナベーン33aの入口側の縁である外縁33a’および出口側の縁である内縁33a’’が、それぞれランナの回転軸100と平行であり、内縁33a’’は、外縁33a’よりも長い。
【0045】
複数のランナベーンのうち少なくとも1つのランナベーン33aにおいて、外縁33a’の長さH3に対する内縁33a’’の長さH4の比H4/H3は、例えば、1.1~3.0である。発電効率の向上と排出流れのスムーズ化の観点から、外縁の長さに対する内縁の長さは、1.3~2.5であることが好ましく、1.5~2.0であることがより好ましい。
【0046】
外縁および内縁がそれぞれのランナの回転軸と平行であり、内縁が外縁よりも長いと、ランナベーンは排出される水との接触部分が増えることでより多くの回転力を得やすく、発電効率により優れる。ランナ流路の入口側が比較的狭いため、ランナの回転への寄与が大きいランナ外周側での流速が上がりやすい。しかし、流量が過度に大きかったり、有効落差が過度に高かったりする場合、抵抗が高まるおそれがある。本構造のランナベーンを有するランナを備えた水力機械は、流量100L/s未満の低流量、有効落差200m以下の低落差の条件、または発電出力10,000kW以下の水力発電装置において使用されることが特に好ましい。また、内縁の長さが過度に長い場合、ランナ開口部からの水の排出にかかる抵抗(出口圧)が上がり、発電効率が低下するおそれがある。
【0047】
図5には、ステーベーンおよびランナの、回転軸に対して直交する面での拡大断面図を示す。
図5に示すように、複数のランナベーンのうち少なくとも1つであるランナベーン33aは長羽根で開口部32aまで達する。ランナベーン33aは、固定流路22を通ってランナ3へ流入する水から流入方向に圧力を受ける圧力面Spと、圧力面Spの裏側の面で圧力面Spよりも低い圧力を受ける負圧面Snとを有する。ランナベーン33aを回転軸方向から平面視した場合に、圧力面Spの出口側の先端部における接線と、回転軸の中心oと圧力面Spの出口側の先端部を結ぶ線分とのなす出口角度θ1は0°以上、20°未満である。
【0048】
少なくとも1つのランナベーンの出口角度θ1が0°以上20°未満であることにより、ランナの中心部に渦が発生しにくく、水の排出に抵抗がかからずスムーズに行われる。これにより、本発明の水力機械は、流路内を水がスムーズに流れ、発電効率に優れる。なお、出口角度θ1は0°以上20°未満に限られず自由に設定できる。渦の発生を低減する観点から、出口角度θ1は0°以上15°未満が好ましく、0°以上10°未満がさらに好ましい。
【0049】
さらに、本発明の水力機械が小水力発電装置に用いられ、例えば流量100L/s未満の低流量、有効落差200m以下の低落差の条件、または発電出力10,000kW以下の水力発電装置において使用された場合、比速度が小さいためランナの中心部に渦がより発生しにくく、水の排出に抵抗がかからずスムーズに行われる。これにより、流路内を水がスムーズに流れ、発電効率に一層優れる。従来の大型水車に用いられるランナベーンの出口側の先端部の角度は20°よりも大きく、ランナから円を描いて水を排出する構造が多い。このような構造を上記のような小水力発電装置で用いると、ランナの中心部に渦ができ水の排出がスムーズにできにくくなるおそれがある。
【0050】
図5に示すランナはスプリッタランナである。当該スプリッタランナが備える複数のランナベーンは、第1のランナベーン33aと、第1のランナベーン33aよりも羽根長さの短い第2のランナベーン33bとを有する。長羽根である第1のランナベーン33aと短羽根である第2のランナベーン33bは互いに交互に設けられる。第2のランナベーンの羽根長さL2は、第1のランナベーンの羽根長さL1に対して、約60%である。
【0051】
スプリッタランナの場合、第1のランナベーンの羽根長さL1は、第2のランナベーンの羽根長さL2よりも長ければよい。発電効率を向上させる観点から、第2のランナベーンの羽根長さL2は、第1のランナベーンの羽根長さL1に対して、40%~80%であることが好ましく、50%~70%であることがさらに好ましい。第1のランナベーンと第2のランナベーンの羽根長さが上記関係であることにより、ランナが水からの回転力を得やすいとともに水の排出流れを阻害せず、水力機械の発電効率に優れる。
【0052】
ランナを単純に、第2のランナベーンの羽根長さL2は、第1のランナベーンの羽根長さL1に対して、40%~80%となるようにスプリッタランナとした場合、回転力は向上するが、ランナ流路が狭くなる。ランナがスプリッタランナであるとともに、複数のランナベーンのうち少なくとも1つの長羽根のランナベーンの出口角度θ1を0°に近づけて排出流れをスムーズにすることで、発電効率が特に向上する。
【0053】
ランナベーン33の圧力面Spの入口側の曲率半径R1(以下、「入口側曲率半径」という)および圧力面Spの出口側の曲率半径R2(以下、「出口側曲率半径」という)は、それぞれに自由に設定でき、例えば、入口側曲率半径R1は50mm~80mm、出口側曲率半径R2は40mm~70mmとすることができる。ランナからの水の排出流れのスムーズ化の観点から、入口側曲率半径R1は出口側曲率半径R2よりも大きく、かつ、入口側曲率半径R1は50mm~80mm、出口側曲率半径R2は40mm~70mmであることが好ましい。
なお、圧力面Spにおいて入口側はランナベーンのうちランナ外周側で羽根長さの1/2の部分であり、出口側はランナベーンのうちランナ内周側(開口部側)で羽根長さの1/2の部分である。
【0054】
ステーベーン25の出口側のキャンバーライン先端の接線と、ランナベーン33の入口側のキャンバーライン先端の接線とがなす角度θ2は自由に設定でき、例えば、85°~120°とすることができる。ここでのランナベーンは長羽根に限定されない。ランナが流入する水から回転力を得やすくする観点から、角度θ2は90°~96°であることが好ましく、92°~96°であることがより好ましい。角度θ2が上記範囲内である場合、発電効率の向上に寄与する。また、流量が大きい場合には、流れのスムーズ化の観点から、角度θ2は90°~120°であることが好ましく、100°~120°であることがより好ましい。
【0055】
ランナベーン33の入口側端部の負圧面Snの曲率半径R3は自由に設定でき、例えば、1mm~10mmとすることができる。また、ランナベーン33の入口側の平均厚みは自由に設定でき、例えば、4mm~15mmとすることができる。ランナベーンの入口側の平均厚みが過度に薄い場合、流れのスムーズ化はできるものの、ランナベーンに高い負荷がかかるため、一定以上の強度を確保する必要がある。そこで上記厚みを維持しつつ水の流れをスムーズ化し、キャビテーションを抑制するために、曲率半径R3を規定することが有効である。負圧面側の流れのスムーズ化、キャビテーション発生抑制、高落差への対応などの観点から、曲率半径R3は2mm~8mmであることが好ましい。ランナベーンの曲率半径R3が上記範囲内である場合、ランナの回転力の変動や振動の抑制に繋がり、発電効率が向上する。また、ステーベーンとランナベーンが近接する状況を減らせるため、ステーベーンとランナベーンに同時に発生する圧力(同時圧)が掛かりにくくなり、振動や騒音の抑制、発電効率の向上に寄与する。角度θ2が90°に近いと流速が上がった際に負圧面側でキャビテーションが発生する場合がある。その場合でも、曲率半径R3が2mm~8mmであると、負圧面側に水がスムーズに流れ込み、キャビテーションの発生が抑制される。
【0056】
図6には、本発明の水力機械が備えるケーシングのランナ回転軸に対して直交する面での断面図を示す。本断面図は
図2におけるA-A’線断面図である。
図6に示すように、主流路21の終端部24と流入部23との間の空間は、流入部23から延出する第1のステーベーン28によって仕切られ、終端部24と流入部23とは連通しておらず、各部は直接的に繋がっていない(以下、「非貫通構造」ともいう)。
【0057】
上記のように主流路が非貫通構造である場合、ケーシングへ流入する水の全てが固定流路を通ってランナに向かう。そのため、終端部と流入部との間に仕切りが無く直接的に繋がっている構造(以下、「貫通構造」ともいう)である場合と比べて、主流路を一周まわった流れが終端部から流入部へ再度流れ込まないため、流路内の水の流速が均一となり、合流によるエネルギー損失が起こらない。その結果、本発明の水力機械は発電効率に優れる。
【0058】
非貫通構造の主流路を有するケーシングは、過度に大流量の条件下では、終端部での水の流れが滞り(高抵抗となり)エネルギーの損失が大きくなるおそれがある。そのため、本発明の水力機械は小水力発電装置に用いられることが好ましく、例えば流量100L/s未満の低流量、有効落差200m以下の低落差の条件、または発電出力10,000kW以下の水力発電装置において使用されることがより好ましい。この場合、水の流れは滞りにくく低抵抗となり、発電効率に一層優れる。
【0059】
主流路は、渦巻きの中心方向へ進むにつれて所定の変化率で連続的に内径が縮径してもよいし、一定の内径の流路が段々と内径が小さくなっていくように繋がることで段階的に内径が縮小してもよい。また、連続的な内径の縮径と段階的な内径の縮径が組み合わされてもよい。
【0060】
主流路は、所定の角度範囲における入口側の内径に対する出口側の内径の比率である縮径比率が段階的に変化しながら縮径してもよい。縮径比率は、例えば、主流路前半部分、中間部分、後半部分で縮径比率が増減してもよい。縮径比率は、例えば、渦巻きの中心方向へ45°または90°進むごとに内径が5%~35%ずつ小さくなるように設定できる。
【0061】
例えば、
図6の主流路21は、流入部23の下流側端部から渦巻きの中心方向へ90°の位置における内径d90が、流入部23の下流側端部の内径d0よりも約20~30%小さい。また、流入部23の下流側端部から渦巻きの中心方向へ180°の位置における内径d180が、上記内径d90よりも約30%強小さい。さらに、流入部23の下流側端部から渦巻きの中心方向へ270°の位置における内径d270が、上記内径d180よりも約20~30%小さい。このように、主流路の中間部分の縮径比率を、前半部分および後半部分の縮径比率よりも大きくしてもよい。
【0062】
図7には、本発明の水力機械が備えるケーシングの一例として、ステーベーン間隔が変化するケーシングのランナ回転軸に対して直交する面での断面図を示す。
図7に示すように、ケーシング2の内部の複数のステーベーン25は、主流路21の流入部23から終端部24へ向かって渦巻きの中心方向に進むにつれて、隣接するステーベーン25との間隔が順次減少している。なお、主流路前半部分(主流路入口側)に繋がる複数の固定流路の流路幅は一定で、中間部分から後半部分の主流路に繋がる複数の固定流路の流路幅は順次減少するなどとしてもよい。後述する主流路の渦巻きの中心方向へ進むにつれて流路幅が順次増加する場合も同様である。
【0063】
(流路幅減少の場合)
図8には、
図7に示したケーシングのステーベーン部分の拡大断面図を示す。
図8に示すように、複数のステーベーン25のうち隣接するステーベーン25の間に配置される固定流路22の内周側の円弧の長さである流路幅が、主流路の渦巻きの中心方向へ進むにつれて順次減少している。
ここで、流路幅の減少率D1は、下記式(1)で表される。
D1=-2(L-YN-SN)/YN(N-1)・・・(1)
N:ステーベーンの枚数
Y:流入部から延出する第1のステーベーンと、流水方向に隣接する第2のステーベーンとの間に配置される第一の流路幅
D1:隣接する流路幅の減少率
S:ステーベーンの内周側の円弧の長さ
L:ケーシングのランナと摺接する面の内周の長さ
【0064】
主流路後半部分は内径が縮径する効果により流速が上がりやすいが、それによりステーベーン側に水が流れにくくなり、主流路後半部分と繋がる固定流路内の流速は遅くなる場合がある。このような場合に、上記式に基づいて隣接するステーベーンの間隔を設定することで、主流路後半部分と繋がる固定流路の流路幅が狭まり流速が増大する。これにより、固定流路からランナへ流入する水の流速が均一化され、ランナが全周に亘って均一な回転力を負荷されることで、振動の発生が低減され、発電効率に一層優れる。
【0065】
(流路幅増加の場合)
本発明の水力機械が備えるケーシングは、上述した、複数のステーベーンのうち隣接するステーベーンの間に配置される固定流路の内周側の円弧の長さである流路幅が、主流路の渦巻きの中心方向へ進むにつれて順次減少するものに限られない。上記流路幅は、例えば、主流路の渦巻きの中心方向へ進むにつれて順次増加してもよい。
この場合、流路幅の増加率D2が、下記式(2)で表される。
D2=2(L-YN-SN)/YN(N-1)・・・(2)
N:ステーベーンの枚数
Y:流入部から延出する第1のステーベーンと、流水方向に隣接する第2のステーベーンとの間に配置される第1の流路幅
D2:隣接する流路幅の増加率
S:ステーベーンの内周側の円弧の長さ
L:ケーシングのランナと摺接する面の内周の長さ
【0066】
流量が比較的大きいと、主流路後半部分の流速が大きくてもステーベーン間に水が流れ込み、主流路後半部分と繋がる固定流路を流れる水の流速も大きくなる場合がある。このような場合に、上記式に基づいて隣接するステーベーンの間隔を設定することで、ステーベーンの間隔が順次広がり、主流路後半部分に繋がる固定流路を流れる水の流速が低減される。これにより、固定流路からランナへ流入する水の流速が均一化され、ランナが全周に亘って均一な回転力を負荷されることで、振動の発生が低減され、発電効率に一層優れる。
【0067】
ステーベーンの間隔を変化させるとともに、ランナベーンの入口側端部の負圧面に丸みをつけ、曲率半径R3を2mm~8mmとすることで、同時圧がより発生しにくくなり、振動の低減につながる。
【0068】
ケーシング2は、13枚のステーベーン25を備える。ステーベーンの枚数は自由に設定でき、例えば、5枚~30枚とすることができる。ステーベーンとランナベーンに同時圧が掛かることを低減する観点から、ステーベーンの枚数よりもランナベーンの枚数が多く、かつ、ステーベーンの枚数は5枚~20枚であることが好ましく、8枚~15枚であることがより好ましい。ステーベーンの枚数が上記範囲内である場合、ステーベーンとランナベーンに同時圧が掛かりにくくなることで、振動や騒音が抑制され、発電効率が向上する。
【0069】
ステーベーンの枚数およびランナベーンの枚数と、ステーベーンの内周側の円弧の長さおよびランナベーンの外周側の円弧の長さとは、下記式(3)を満たすように設定することが好ましい。
Nx=ランナベーンとステーベーンを重ねた状態からそれぞれ左側に数えてx番目に位置する羽根の番号
NS=ステーベーンの枚数
NR=ランナベーンの枚数
S=ステーベーンの内周側の円弧の長さ
T=ランナベーンの外周側の円弧の長さ
R4=ランナの半径
ここで、Tは具体的には、ランナベーンの入口側の圧力面と負圧面それぞれの先端部における接線を外周方向へ延長した場合に形成されるランナ外周上の円弧の長さである。
【0070】
【0071】
ステーベーンとランナベーンが上記式を満たす関係とすることで、x番目のステーベーンとランナベーンは重ならず、ステーベーンの内周側の円弧の長さSとランナベーンの外周側の円弧の長さTとの和に相当する角度と同じか、それ以上に離れた位置関係となる。これにより、ステーベーンとランナベーンに同時圧が掛かりにくくなり、振動や騒音が抑制され、発電効率が向上する。
【0072】
図9には、ケーシングとランナの摺接部分のランナ回転軸に沿った面での拡大断面図を示す。
図9に示すように、ランナ3およびケーシング2はそれぞれ、互いに摺動自在に接触する摺接部を有する。ランナ3の摺接部は、ランナ3がケーシングのランナ配置部27と対向する側の面に回転軸を中心とする同心円上に形成され、ランナ3から水が排出される方向である排出方向(黒矢印の方向)へと突出した円環状の凸部32cである。ケーシング2の摺接部は、ランナ3が配置されるランナ配置部27に主軸の軸心を中心とする同心円上に形成され、排出方向へ窪んだ円環状の溝部27aである。凸部32cは、溝部27との間に僅かに隙間を空けて嵌合する。
【0073】
凸部と溝部の間の隙間は自由に設定でき、例えば、0.5mm~5mmとすることができる。ランナのケーシングに対する摺動性と、上記隙間から漏出する水量低減の観点から、凸部と溝部の間の隙間は1mm~3mmであることが好ましい。凸部と溝部の間の隙間が上記範囲内である場合、ケーシングとランナとの間を流れてランナに回転力を与えずに排出される水量を減らし、ランナベーンの間を通って流れる水量を増大させることができる。これにより、流れる水のエネルギーを効率的にランナの回転に利用できるので、本発明の水力機械は発電効率に一層優れる。
【0074】
本発明の水力機械には、当該水力機械に作用する加速度を測定する加速度センサや、電流および電圧を測定可能な電流・電圧センサ、外観写真や外観動画を撮影可能なカメラ、人や動物が近付いた際に検知できる人感センサなどの検知システムを設けてもよい。
【0075】
加速度センサは、例えば、水力機械の回転軸付近に取り付けてX,Y,Z軸の移動値を検知し、設定した閾値を超えた場合にはメールなどで管理者へ通知することができる。電流・電圧センサは、例えば、発電機からの三相交流の配線にクランプ式センサを取り付けて電流値および電圧値を検知し、設定した閾値を超えた場合にはメールなどで管理者へ通知することができる。X,Y,Z軸の移動値と、電流値および電圧値はWEB上でリアルタイムにグラフで確認できる。データの取得間隔は、例えば1秒毎であり、設置環境によって0.5秒毎から1日毎などで取得してもよい。カメラは、例えば、水力機械の周囲に設置して、破損や、衝撃、災害などのトラブルが無いか定時にカメラを起動して外観写真や動画を撮影してメールなどで管理者へ通知することができる。これらにより、災害時や水力機械への異物混入時などの異常発生時に管理者が迅速に対応できるので、継続的に発電ができる。
【0076】
上述した種々の検知システムは、取得した情報を基にデータ解析をして将来の異常発生予測を行う予測システムを有してもよい。予測システムは予測した情報を管理者へ通知し、管理者が対処することで、水力機械の故障を回避できる。
【0077】
以上、本発明の水力機械について、各図を用いて説明したが上述の構成に限られない。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の水力機械は、流路内を水がスムーズに流れ、発電効率に優れるので、用水路、工場排水、家庭用排水、浄水場などからの流水を利用した発電用途に広く利用できる。
【符号の説明】
【0079】
1 水力機械
2 ケーシング
21 主流路
22 固定流路
23 流入部
24 終端部
25 ステーベーン
26 排水部
27 ランナ配置部
27a 溝部
28 第一のステーベーン
3 ランナ
31 クラウン
31a 上側円盤部
31b 取付部
32 バンド
32a 開口部
32b 下側円盤部
32c 凸部
33 ランナベーン
33a 長羽根
33a’ 外縁
33a’’ 内縁
33b 短羽根
H1 ケーシングの最大高さ
H2 ランナの高さ
H3 外縁の長さ
H4 内縁の長さ
L1 第1のランナベーンの羽根長さ
L2 第2のランナベーンの羽根長さ
W1 ケーシングの最大幅
W2 ランナの直径
100 回転軸