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特開2022-176030完全腹腔鏡下での巡肝テープ法による病巣側肝臓の二期的切除の手術方法及びその器機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176030
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】完全腹腔鏡下での巡肝テープ法による病巣側肝臓の二期的切除の手術方法及びその器機
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/32 20060101AFI20221117BHJP
【FI】
A61B17/32 528
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021152754
(22)【出願日】2021-09-21
(31)【優先権主張番号】202110529657.7
(32)【優先日】2021-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】505072650
【氏名又は名称】浙江大学
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】蔡秀▲軍▼
(72)【発明者】
【氏名】彭淑▲ュ▼
(72)【発明者】
【氏名】王一帆
(72)【発明者】
【氏名】▲陸▼▲チン▼
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼▲鳴▼宇
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160FF23
(57)【要約】      (修正有)
【課題】完全腹腔鏡下での巡肝テープ法による病巣側肝臓の二期的切除の手術に使用される機器を提供する。
【解決手段】軟質材料により作成された巡肝テープ5を含み、巡肝テープ5の片端は自由端で、他端には1つの貫通孔が設けられており、自由端は貫通孔を通って肝臓を締め付けることができる1つのリングを形成しており、巡肝テープ5の外側にはラチェット51が設けられており、巡肝テープ5の自由端は、貫通孔、腹壁カテーテル6、圧力制御装置7をこの順に貫通しており、腹壁カテーテル6は患者の腹壁を貫通している。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
完全腹腔鏡下での巡肝テープ法による病巣側肝臓の二期的切除の手術方法において、前記手術方法は、6~15日の間隔で2回の手術を遂行するものであり、前記方法が、
1)第1期手術:患者に全身麻酔状態で完全腹腔鏡手術を行い、巡肝テープ法手術による結紮を用いて、切除予定の病巣側肝臓の門脈を分岐すると同時に、巡肝テープを用いて左右の肝臓の間の接続部位を締め付けることにより、切除予定の病巣側肝臓と残す必要のある側の肝臓との間の血流の往来を遮断し、肝門部に(1)本の腹腔ドレーンを留置して閉腹し、第1期手術を完了するステップ、
2)短期肝臓養生:患者は第1期手術後、徐々に飲食を回復させ、6~15日間休養し、残す必要のある側の肝臓の容積を所期残存肝容積まで増加させるステップであって、前記の所期残存肝容積は標準肝容積の30~40%以上であり、前記標準肝容積SLV=706.2×BSA+2.4,BSA=BW0.425×BH0.725×0.007184であり、BWは体重kg、BHは身長cm、BSAは体表面積m、SLVは標準肝容積mlであるステップ、
3)第2期手術:第1期手術から6~15日の間で、患者の残す必要のある側の肝臓の容積が所期残存肝容積まで増加してから、第2期手術を行い、全身麻酔下で完全腹腔鏡手術を行って、病巣側の肝臓を切除し、完全に回復するまで休養するステップ、に基づいて行われることを特徴とする、
手術方法。
【請求項2】
前記ステップ1)が、腹腔鏡下で、肝臓周辺の靱帯を遊離し、第1肝門を切開して病巣側の肝動脈及び門脈を分離し、第2肝門部分で右肝静脈と中肝、左肝静脈の間の上肝静脈の腺窩を露出させ、肝後下大静脈を遊離し、一部の短肝静脈を結紮し、右下肝静脈を露出させて、切除予定の病巣側肝臓の静脈を結紮し、離断して、残す必要のある側の肝静脈を保護し、再び巡肝テープを用いて左右の肝臓の間の接続部位を締め付けることにより、切除予定の病巣側肝臓と残す必要のある側の肝臓との間の血流の往来を遮断し、肝門部に(1)本の腹腔ドレーンを留置して閉腹するという方法で行われることを特徴とする、請求項1に記載の手術方法。
【請求項3】
前記第1期手術の腹腔鏡の開孔は、左側肋骨縁下と左鎖骨中線の交点を主操作孔とし、腹腔内の癒着を分離した後、右側腹部に2つの副操作孔を作り、前記第2期手術で腹腔鏡手術を行う際の開孔に、第1期腹腔鏡で開けた孔と同じ操作孔を使用する、請求項1に記載の手術方法。
【請求項4】
患者が肝硬変患者である場合、前記の所期残存肝容積は標準肝容積の40%以上であり、患者が非肝硬変患者である場合、前記の所期残存肝容積は標準肝容積の30%以上である、請求項1に記載の手術方法。
【請求項5】
前記ステップ1)の第1期手術が、患者の肝臓周囲の左側肋骨縁下と左鎖骨中線の交点に主操作孔を作り、超音波ナイフで腹腔内の癒着を分離した後、右側腹部に2つの副操作孔を作り、腹腔内及び肝門部、第2肝門の癒着を分離し、肝固有動脈、左肝動脈及び門脈左枝を切開し、門脈左枝の根元部を糸で結紮した後、再びハムロックで挟んで閉じ、左肝動脈上でプロリン糸を用いてマーキングすることで第1肝門部の処理を完了し、その後、環状靱帯、左三角靭帯を離断して肝臓の左半分を遊離し、第2肝門部で左肝静脈を切開し、ガイド芯付きの経鼻胃管を使用し、左肝静脈右側を経て肝表面に貼り付かせ、後ろに向かって左側尾状葉前方まで回し、左肝静脈を回避した後、左肝茎の根元付近で肝臓の前面に回し、巡肝テープの両尾端を合わせ、右鎖骨中線の腹壁ポートから体外に引き出し、36号胸部ドレーンを被せ、巡肝テープとしての巡肝テープを引っ張り、外スリーブを押し込んだ後、血管鉗子で挟み、引っ張る前に術中超音波を使用して病巣側部位を明確にし、肝門部に1本の腹腔ドレーンを留置して閉腹するというステップで行われる、請求項1に記載の手術方法。
【請求項6】
前記ステップ3)の第2期手術が、第1期腹腔鏡で開けた孔から腹部に入り、吸引器を用いて腹水を吸い取り、癒着を取って肝門部を露出させた後、腹壁で巡肝テープを引き上げ、まず肝門部でマーキングした左肝動脈を見つけ、クリップして離断し、その後、巡肝テープに沿って腹腔鏡彭氏多機能手術解剖器(LPMOD)を使用し、掻爬吸引法で肝臓を離断するとともに、ティッシュリンクを使用して肝臓の離断を補助し、左肝静脈部分で確実にクリップしてから離断し、病巣側の肝臓を切除し、腹腔内を適切に止血して断面に腹腔ドレーンを留置し、閉腹するというステップで行われる、請求項1に記載の手術方法。
【請求項7】
軟質材料により作成された巡肝テープ(5)を含み、巡肝テープ(5)の片端は自由端で、他端には1つの貫通孔が設けられており、前記自由端は前記貫通孔を通って肝臓(4)を縛ることのできる1つのリングを形成しており、巡肝テープ(5)の肝臓から背離している側を外側と定義している、請求項1に記載の完全腹腔鏡下での巡肝テープ法による病巣側肝臓の二期的切除の手術方法を実施するための器機において、巡肝テープ(5)の外側には第1ラチェット(51)が設けられており、巡肝テープ(5)の自由端は、前記貫通孔、腹壁カテーテル(6)圧力制御装置(7)をこの順に貫通しており、前記腹壁カテーテル(6)は患者の腹壁(2)を貫通しており、
前記圧力制御装置(7)は第1スリーブ(72)とクリップ(71)を含み、第1スリーブ(72)の中心軸線方向を縦方向としており、第1スリーブ(72)には巡肝テープ(5)を通過させるための縦方向第1内孔(721)が設けられており、クリップ(71)は第1スリーブ(72)の縦方向案内溝(722)内に設置され、かつ案内溝(722)に沿って縦方向に移動することができ、クリップ(71)には前記第1内孔(721)に伸入する第2ラチェット(711)が設けられており、巡肝テープ(5)が第1スリーブ(72)を通過すると第1ラチェット(51)と第2ラチェット(711)が噛合し、第2ラチェット(711)は第1ラチェット(51)を前記リングを締める正方向に摺動させると同時に、第1ラチェット(51)の逆方向の摺動を阻止しており、
クリップ(71)と第1スリーブ(72)との間には縦方向に沿って設置されたバネ(73)が設けられており、
前記クリップ(71)上には巡肝テープ(5)の緊張度を示すための副尺(714)が設けられ、第1スリーブ(72)上に副尺の目盛り(723)が設けられていることを特徴とする器機。
【請求項8】
前記クリップ(71)は前記第1スリーブ(72)内の第2スリーブに被装され、第1スリーブ(72)には巡肝テープ(5)を通過させるための縦方向第2内孔(712)が設けられており、第2スリーブの外壁には突出部(713)が設けられ、突出部(713)は第1スリーブ(72)の壁面上の縦方向案内溝(722)内に摺動可能に穿設されており、突出部(713)上には前記副尺(714)が設けられており、第2スリーブの内壁に前記第2ラチェット(711)が設けられていることを特徴とする請求項7に記載の器機。
【請求項9】
巡肝テープ(5)の前記自由端に対向する他端には台座(52)が設けられ、前記貫通孔は台座(52)上に設けられており、巡肝テープ(5)の引張作用下で、第1スリーブ(72)、腹壁カテーテル(6)、台座(52)がこの順に抵触して巡肝テープ(5)を位置決めすることを特徴とする請求項8に記載の器機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重篤な肝硬変や肝腫瘍を患っている肝臓がん患者のための、完全腹腔鏡下で病巣側肝臓を二期的切除する手術方法及びその手術器機に関する。
【背景技術】
【0002】
中国は、世界の中で、B型肝炎、肝硬変及び肝臓がんに最も多くの社会的コストを費やしている国である。B型肝炎、肝硬変及び肝臓がんは、密接に関連するB型肝炎ウイルス感染後の病状の進行における異なるステージであり、B型肝炎ウイルス感染者の多くは、最終的に肝臓がんに進行する。公開データによると、全世界で3.5億人いるB型肝炎ウイルスキャリアのうち、1億人近くが中国人であり、世界における年間約70万人のウイルス性肝炎関連死亡者群の中で、半分近くを中国が占めている。原発性肝臓がんは中国でよく見られる悪性腫瘍であり、死亡率は悪性腫瘍中の第2位である。肝臓がん患者にとって、肝切除術が今のところ最も有効な治療法であるが、すべての患者が肝切除術を受けられるわけではない。大多数の肝臓がん患者は、数十年の長きにわたってB型肝炎の病歴を持ち、深刻な肝硬変を併発しているので、肝臓の代償能力が低く、半分以上の肝臓切除に耐えることは難しいので、無理に手術をすると、肝機能不全を引き起こして死亡する可能性が非常に高い。医学的には、肝硬変を伴う肝臓がん患者に対して、手術後に残る肝臓容積が40%を下回ると予測されると、肝切除術の禁忌と見なされる。これらの患者にとっては、手術を放棄するか、辛抱強く肝移植を待つしかないが、肝臓の提供源が逼迫しており、大部分の患者は肝移植を待つことができない。
【0003】
近年では、肝臓の離断と門脈の結紮という二期法による肝切除術(ALPPS)が、徐々に肝胆外科界の注目を集めるようになった。このような二期的手術を採用する方法により、肝切除の実施が不可能と見なされた患者に肝切除を実施するのである。第1期手術では、切除したい側の肝臓の門脈分枝を切断すると同時に、左右両側の肝臓を切開して分離し、術後に残す側の肝臓の容積を迅速に増加させる。その後、第2期手術を行い、病巣側の肝臓を切除するのである。現時点の経験から見ると、この種の手術方法は、以前は肝切除ができなかった肝臓がん患者に対して肝切除を実施することができ、比較的良好な治療効果を得ている。既存のこのような方法では、(1)手術中の出血を減らし、(2)虚血による自己血輸血の損傷を減らし、(3)切開的に肝切除を行うことで、残存肝機能を保護し、(4)腫瘍の飛散を減少させることができる。しかし、この種の手術にもいくつかの問題が存在しており、その中で最も突出しているのは、第1期手術で左右両側の肝臓を切断分離し、左右の半肝の間の血流往来を遮断する必要があり、肝臓の切断面に胆汁漏が発生するリスクが極めて高いという点である。ドイツのレーゲンスブルク病院では、該手術の胆汁漏の発生率は24%にものぼっている。また、2回の手術の間隔が長すぎると、腹腔内部の癒着が増加しやすくなり、2回の手術の間隔が短すぎると、患者の第1期手術時の創面が大きいため、自身の体力を上手く回復させられないまま、第2期手術を行わなければならない。
【発明の概要】
【0004】
本発明では、従来の技術上の欠点を克服し、完全腹腔鏡下での巡肝テープ法による病巣側肝臓の二期的切除の手術方法及びその器機を提供している。
【0005】
本発明では、患者に完全腹腔鏡下で第1期及び第2期手術を受けさせるが、このような手術は、創面が大幅に減少するので、術後の回復と肝再生に有利である。
【0006】
腹腔鏡下での巡肝テープ法による病巣側肝臓の二期的切除の手術方法において、前記手術方法は、6~15日の間隔で2回の手術を遂行するものであり、前記方法が以下のステップに基づいて行われることを特徴としている。
【0007】
(1)第1期手術:患者に全身麻酔状態下で完全腹腔鏡手術を行い、巡肝テープ法手術による結紮を用いて、切除予定の病巣側肝臓の門脈を分岐すると同時に、巡肝テープを用いて左右の肝臓の間の接続部位を締め付けることにより、切除予定の病巣側肝臓と残す必要のある側の肝臓との間の血流の往来を遮断し、肝門部に1本の腹腔ドレーンを留置して閉腹し、第1期手術を完了する。
【0008】
(2)短期肝臓養生:患者は、第1期手術後、徐々に飲食を回復させ、6~15日間休養し、残す必要のある側の肝臓の容積を所期残存肝容積まで増加させる。前記の所期残存肝容積は標準肝容積の30~40%以上であり、前記標準肝容積SLV=706.2×BSA+2.4,BSA=BW0.425×BH0.725×0.007184であり、そのうち、BWは体重(kg)、BHは身長(cm)、BSAは体表面積(m)、SLVは標準肝容積(ml)である。
【0009】
(3)第2期手術:第1期手術から6~15日の間で、患者の残す必要のある側の肝臓の容積が前記の所期残存肝容積まで増加してから、第2期手術を行い、全身麻酔下での完全腹腔鏡手術で病巣側肝臓の切除術を行い、完全に回復するまで休養する。
【0010】
通常、患者が肝硬変患者である場合、好適には前記の所期残存肝容積は標準肝容積の40%以上であり、患者が非肝硬変患者である場合は、好適には前記の所期残存肝容積は標準肝容積の30%以上である。
【0011】
本発明では、巡肝テープを使用して左右の肝臓の間の接続部位を締め付けることにより、左右の肝臓の血流の往来を遮断する。
【0012】
本発明の前記ステップ(1)は、以下の方法で行うことが推奨されている。腹腔鏡下で、肝臓周囲の靱帯を遊離し、第1肝門を切開して病巣側の肝動脈及び門脈を分離し、第2肝門部分で右肝静脈と中肝、左肝静脈の間の上肝静脈の腺窩を露出させ、肝後下大静脈を遊離し、一部の短肝静脈を結紮し、右下肝静脈を露出させて、切除予定の病巣側肝臓の静脈を結紮、離断して、残す必要のある側の肝静脈を保護し、再び巡肝テープを用いて切除予定の病巣側肝臓と残す必要のある側の肝臓との間の血流の往来を遮断し、肝門部に1本の腹腔ドレーンを留置して閉腹する。
【0013】
本発明の前記巡肝テープの合わせ目には、好適には圧力調節式肝臓締付装置が設けられている。
【0014】
前記圧力調節式肝臓締付装置は、巡肝テープを閉じ合わせた後の外周と緊密に係合する弾性装置である。動作していない状態では、圧力調節式肝臓締付装置が巡肝テープをロックし、巡肝テープを肝臓の周囲に固縛しており、巡肝テープを強く引き上げたり緩めたりする際には、巡肝テープの肝臓に対する縛りを強めたり緩めたりすることができ、圧力調節式肝臓締付装置はかなり強い弾性を有しているので、肝臓外周の巡肝テープの緊締長さを随時固定することができる。
【0015】
さらに、前記第1期手術の腹腔鏡の開孔については、左側肋骨縁下と左鎖骨中線の交点に主操作孔を作り、腹腔内の癒着を分離した後、右側腹部に2つの副操作孔を作る。
【0016】
さらに、前記第2期手術で腹腔鏡手術を行う際の開孔については、第1期腹腔鏡で開けた孔と同じ操作孔を使用する。
【0017】
前記ステップ(1)の第1期手術は、好適には、患者の肝臓周囲の左側肋骨縁下と左鎖骨中線の交点に主操作孔を作成し、超音波ナイフで腹腔内の癒着を分離した後、右側腹部に2つの副操作孔を作り、腹腔内及び肝門部、第2肝門の癒着を分離し、肝固有動脈、左肝動脈及び門脈左枝を切開し、門脈左枝の根元部を糸で結紮した後、再びハムロック(Hamlock)で挟んで閉じ、左肝動脈上でプロリン糸を用いてマーキングし、第1肝門部分の処理を完了した後、環状靱帯、左三角靭帯を離断して肝臓の左半分を遊離し、第2肝門部で左肝静脈を切開し、ガイド芯付きの経鼻胃管を使用し、左肝静脈右側を経て、肝表面に貼り付かせ、後ろに向かって左側尾状葉前方まで回し、左肝静脈を回避した後、左肝茎の根元付近で肝臓の前面に回し、巡肝テープの両尾端を合わせ、右鎖骨中線の腹壁ポートから体外に引き出し、36号胸部ドレーンを被せ、巡肝テープとしての巡肝テープを引っ張り、外スリーブを押し込んだ後、血管鉗子で挟み、引っ張る前に術中超音波を使用して病巣側部位を明確にし、肝門部に1本の腹腔ドレーンを留置して閉腹するというステップで行われる。
【0018】
さらに、前記ステップ(3)の第2期手術は、好適には、第一期腹腔鏡で開けた孔から腹部に入り、吸引器を用いて腹水を吸い取り、癒着を取って肝門部を露出させた後、腹壁で巡肝テープを引き上げ、まず肝門部でマーキングした左肝動脈を見つけ、クリップして離断し、その後、巡肝テープに沿って腹腔鏡彭氏多機能手術解剖器(LPMOD)を使用し、掻爬吸引法で肝臓を離断するとともに、ティッシュリンクを使用して肝臓の離断を補助し、左肝静脈部分で確実にクリップしてから離断し、病巣側の肝臓を切除し、腹腔内を適切に止血して断面に腹腔ドレーンを留置し、閉腹するというステップで行われる。
【0019】
具体的には、前記ステップ(2)では、第1期手術後、患者は徐々に飲食を回復させ、前記第1期手術から6日目に、巡肝テープをさらに下向きに1回締める。
【0020】
前記ステップ(3)では、患者の第1期手術から6~15日以内に、残す必要のある側の肝臓の容積が、好適には所期残存肝容積である標準肝容積の60%以上まで増加してから、第2期手術を行う。期間が短すぎると所期残存肝容積が小さすぎ、期間が長すぎると腹腔内に癒着が起こりすぎる可能性があるので、期間は1~2週が適切であり、通常は2週間を超えることは勧めない。
【0021】
本発明の腹腔鏡下での巡肝テープによる緊締を用いた二期法肝切除術において、第1期手術では、完全腹腔鏡下で、切除したい側の肝臓の門脈分枝を完全に切断し、巡肝テープを使用して左右の肝臓の間の接続部位を締め付けることにより、左右の肝臓の血流の往来を遮断する。術後、残す側の肝臓の容積が急激に増加する。その後、第2期手術を行い、病巣側の肝臓を切除する。この方法では腹腔鏡技術を採用しており、手術創が小さいので、生体免疫システムに対する打撃や生体自身の抗腫瘍能力に対する影響が小さく、しかも患者が早期に回復するので、患者に他の抗腫瘍の補助的治療をより早く受けさせることができる。この技術の巡肝テープの使用を、左右側の肝臓を切断分離して左右の肝臓の血液の往来を遮断することの代替とすることで、術後に肝切断面に胆汁漏が発生するという合併症を徹底的に解決することができる。また、手術の費用は通常の肝移植手術費用の30%なので、患者の家庭の経済的負担を軽減することもできる。
【0022】
本発明はさらに、完全腹腔鏡下での巡肝テープ法による病巣側肝臓の二期的切除の手術方法を実施するための専用器機を含んでおり、それは圧力調節式肝臓締付装置である。
【0023】
弾性リングで巡肝テープを締め付けるという先例は存在しているが、既存の技術には依然として以下のような欠点がある。その一、巡肝テープの締付張力は、取り付ける際、すべて医師の経験に頼っており、マスターすることが難しく、緩すぎや締めすぎが生じやすく、緩すぎると左右の肝臓の血流往来を完全に遮断することができず、手術の目的を達成することができない。締めすぎると、肝臓組織を損ねやすくなる。その二、第1期手術と第2期手術の間隔が6~15日と長く、左右の肝臓間の接続部の萎縮がかなり大きいので、弾性リングがあっても、巡肝テープの締付度がかなり変化するため、常に最適な度合いを保つことができず、手術目的の実現に影響する。その三、巡肝テープは人体の内部に位置するので、その緊張度を医師が識別することが難しく、医師による速やかな巡肝テープの調節に影響する。その四、第1期手術の後、巡肝テープの締付度の調節は医師個人の経験と手の感覚に委ねられ、正確に測定することができず、かなり盲目的である。つまり、本発明の手術方法の実施難度を引き下げるためには、その手術器機の改善が必要なのである。
【0024】
完全腹腔鏡下での巡肝テープ法による病巣側肝臓の二期的切除の手術方法を実施するための専用器機として、圧力調節式肝臓締付装置は、軟質材料により作成された巡肝テープ5を含み、巡肝テープ5の片端は自由端で、他端には1つの貫通孔が設けられており、前記自由端は前記貫通孔を通って肝臓4を締め付けることのできる1つのリングを形成しており、巡肝テープ5の肝臓から背離している側が外側と定義されている。巡肝テープ5の外側には第1ラチェット51が設けられており、巡肝テープ5の自由端は、前記貫通孔、腹壁カテーテル6、圧力制御装置7をこの順に貫通しており、前記腹壁カテーテル6は患者の腹壁2を貫通している。
【0025】
前記圧力制御装置7は第1スリーブ72とクリップ71を含み、第1スリーブ72の中心軸線方向を縦方向としており、第1スリーブ72には巡肝テープ5を通過させるための縦方向第1内孔721が設けられており、クリップ71は第1スリーブ72の縦方向案内溝722内に設置され、かつ案内溝722に沿って縦方向に移動することができ、クリップ71には前記第1内孔721に伸入する第2ラチェット711が設けられており、巡肝テープ5が第1スリーブ72を通過すると第1ラチェット51と第2ラチェット711が噛合し、第2ラチェット711は、第1ラチェット51を前記リングを引っ張る正方向に摺動させると同時に、第1ラチェット51の逆方向の摺動を阻止する。
【0026】
クリップ71と第1スリーブ72との間には、縦方向に沿って設置されたバネ73が設けられている。
【0027】
前記クリップ71上には巡肝テープ5の緊張度を示すための副尺714が設けられ、第1スリーブ72上には副尺の目盛り723が設けられている。
【0028】
好適には、前記クリップ71は前記第1スリーブ72内の第2スリーブに被装されており、第2スリーブには巡肝テープ5を通過させるための縦方向第2内孔712が設けられており、第2スリーブの外壁には突出部713が設けられ、突出部713は第1スリーブ72の壁面上の縦方向案内溝722内に摺動可能に穿設されており、突出部713上には前記副尺714が設けられており、第2スリーブの内壁には前記第2ラチェット711が設けられている。
【0029】
巡肝テープ5の前記自由端に対向する他端には台座52が設けられ、前記貫通孔は台座52上に設けられており、巡肝テープ5の引張作用下で、第1スリーブ72、腹壁カテーテル6、台座52がこの順に抵触して巡肝テープ5を位置決めしている。
【0030】
本発明の第1スリーブ72、クリップ71及びバネ73については、手術中の肝臓に対する締付力の要求に基づいて、物理的パラメータを設定する。第1期手術では、巡肝テープの張力が所期の値に到達すると、クリップ上の副尺が第1スリーブの目盛りに位置合わせされ、手術医が巡肝テープの位置を固定することができる。このようにすると、医師個人の経験に頼ることを避けられる。
【0031】
第1、2期手術の間では、左右の肝葉をつなぐ接続部が萎縮し、巡肝テープの張力が下がるが、圧力制御装置7に位置する副尺と目盛りが、この変化を直接反映することができる。圧力制御装置7は体外にあるので、医師は巡肝テープ5の張力の変化をたやすく観察し、調整することができ、開腹の必要はない。つまり、医師は随時、巡肝テープ5の肝臓に対する締付力を最適な値に保持することができるのである。
【0032】
本発明の長所は以下の通りである。(1)本発明では、巡肝テープの使用を、左右側の肝臓を切断分離して左右の肝臓の血流往来を遮断することの代替とすることで、術後に肝切断面に胆汁漏が発生するという合併症を徹底的に解決することができる。それと同時に、2回の手術を腹腔鏡下で行うことで、従来の開腹手術に較べて、手術創が小さく、生体免疫システムに対する打撃や生体自身の抗腫瘍能力に対する影響を減らし、しかも患者が早期に回復するので、患者に他の抗腫瘍の補助的治療をより早く受けさせることができる。(2)本発明では、完全腹腔鏡下で巡肝テープを使用する方法により、かつては手術不能と見なされていた肝硬変肝臓がん患者に2期的肝切除術を実施し、肝臓腫瘍を徹底的に切除することで、残存肝容積が40%を下回ると予測される肝硬変を伴う肝臓がん患者が手術治療を受けられないという難題を解決しており、一部の患者に有効な治療を受けさせることができる。特に、この手術は重篤な肝硬変があり広い範囲の肝切除を必要とする肝臓がん患者にとって治療の福音であるだけでなく、広範囲の肝切除ができないという苦境を打破しており、患者は肝臓提供を待つことなく手術を受けることができる。また、経済的な角度から言うと、該手術の費用は通常の肝移植手術費用の30%であり、患者の家庭の経済的負担を大幅に軽減している。(3)本発明では、二期法肝切除術において肝切断面に胆汁漏が発生するという問題を克服し、所期残存肝容積が標準肝容積の40%を下回る肝硬変を伴う肝臓がん患者が手術治療を受けられないという難題を解決しており、患者の術後の回復が良好で、治療費が軽減される。(4)本発明の方法では、巡肝テープの合わせ目に巡肝テープの緩さを調節できる圧力調節式肝臓締付装置が設けられており、手術時に巡肝テープを引き上げて締め付けることが容易にでき、適切な時期に巡肝テープの合わせ目を締めることができる。
【0033】
第1期手術では、器機の目盛りを用いて巡肝テープの肝臓に対する締付度を確定することができるので、医師個人の経験に頼ることを避けることができる。医師は、患者の体外で巡肝テープの締付力の大きさを直接観察することができ、しかも巡肝テープの肝臓に対する締付力を簡単に調節し、開腹を回避することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1図1は、従来の左右の肝実質の分離原理図である。
【0035】
図2図2は、本発明の巡肝テープを利用して左右の肝臓を縛る方法の実施原理図である。
【0036】
図3図3は、ALPPSで患者に手術を行う前後のCT画像の比較である。X部分は巡肝テープを留置する前の右肝臓の容積、Y部分は巡肝テープを留置した後の肝臓の容積を表している。
【0037】
図4図4は、実施例1のALPPS第1期手術の術中写真である。
【0038】
図4aの白の矢印が指しているのが門脈左枝、縦縞矢印が指しているのが左肝動脈である。図4bの白の矢印は左肝静脈を指している。図4cでは、巡肝止血帯を締める前に術中超音波を使って腫瘍が巡肝止血帯の左側にあることを確認するとともに、左右の肝臓の間の血流往来をチェックしている。図4dは、第1期手術後の腹部手術創の情況を示しており、白の矢印は巡肝止血帯の体外部分を指しており、血管鉗子でクリップしている。
【0039】
図5図5は、実施例1のALPPS第2期手術の術中写真である。
【0040】
図5aは、左肝表面の潰瘍及び癒着を示している。図5bは、第1期手術時にマーキングした左肝動脈を示している。図5cは、LPMOD掻爬吸引法での肝臓の離断を示している。図5dの縦縞矢印は左肝動脈の断端、白の矢印は門脈左枝の断端を示している。
【0041】
図6図6は、実施例1のALPPS手術後の肝臓標本であり、肝硬変が顕著である。
【0042】
図7図7は、本発明の1つの実施例における動作原理概略図である。
【0043】
図8a図8aは、本発明の1つの実施例におけるクリップの概略図である。
【0044】
図8b図8bは、本発明の1つの実施例におけるクリップの縦方向断面図である。
【0045】
図9図9は、本発明の1つの実施例における第1スリーブの概略図である。
【0046】
図10図10は、本発明の1つの実施例における圧力制御装置の概略図である。
【0047】
図11図11は、本発明の1つの実施例における圧力制御装置の縦方向断面図である。
【0048】
図12図12は、本発明の1つの実施例における使用状態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下の記述は、当業者が本発明を実現できるよう本発明を開示するものである。以下の記述における好適な実施例は単なる例にすぎず、当業者は他の自明の変型を想起することができる。以下の記述で確定される本発明の基本原理は、他の実施形態や変型手法、改良手法、同等の手法、及び本発明の主旨及び範囲に背離しないその他の技術手法に応用することができる。
【0050】
本発明の開示の中で、用語の「縦方向」、「横方向」、「上」、「下」、「前」、「後」、「左」、「右」、「垂直」、「水平」、「頂」、「底」、「内」、「外」などが指す方位または位置関係は、図面に示す方位または位置関係に基づいており、本発明を記述し、記述を簡略化しやすくするためのものにすぎず、それらが指す装置や素子が必ずしも特定の方位を有し、特定の方位により構成され、操作されることを示したり、暗示したりするものではないので、上記用語を本発明に対する限定と理解することはきないことを、当業者は理解しておかなければならない。
【0051】
本発明では、請求項及び明細書の用語の「1」は「1つまたは複数」と理解しなければならず、つまり、ある実施例において、1つの素子の数は1つであってよいが、別の実施例では、該素子の数は複数であってよい。本発明の開示の中で該素子の数が1つだけであると明確に示している場合を除き、用語の「1」は唯一または単一と理解することはできず、用語の「1」を数に対する限定と理解することはできない。
【0052】
本発明の記述の中で理解しておかなければならないのは、「第1」、「第2」などは目的を説明するためにのみ用いられるもので、相対的な重要性を指示、または暗示すると理解することはできないという点である。本発明の記述の中で、説明しておかなければならないが、別途明確な規定及び限定がある場合を除き、「連結」、「接続」は広義に理解しなければならない。例えば、固定接続でもよいし、着脱可能な接続でもよいし、一体的な接続でもよい。機械的接続であってもよいし、電気的接続であってもよいし、直接的な連結であっても、媒体を介しての間接的な接続であってもよい。当業者であれば、具体的な状況により、上記の用語の本発明における具体的な意味を理解することができる。
【0053】
本明細書の記述において、参考用語の「1つの実施例」、「いくつかの実施例」、「例示」、「具体的例示」、または「いくつかの例示」といった記述は、該実施例または例示している記述の具体的な特徴、構造、材料または特性と結び付けて、本発明の少なくとも1つの実施例または例示に含まれているという意味である。本明細書では、上記の用語に対する意図的な記述は、必ずしも同じ実施例または例示を指すものではない。また、記述の具体的な特徴、構造、材料または特性は、1つまたは複数の実施例や例示の中で、適切な形で結合させることができる。また、互いに矛盾しない情況において、当業者は、本明細書に記載されている様々な実施例または例示、及び様々な実施例または例示の特徴を結合させたり、組み合わせたりすることができる。
【実施例0054】
1 臨床資料
【0055】
患者、女性、61歳。「AFPが5dまで上昇していることがわかり」入院。既往歴:慢性B型ウイルス性肝炎30年、長期的に訪問指導を受けており、ラミブジン及びアデホビルを服用し、抗ウイルス治療を行っている。2年前に外部の病院で「開腹右肝臓結節切除+胆嚢切除術」を受けており、術後の病理によると、粗結節性肝硬変、慢性萎縮性胆嚢炎が示されている。入院検査:身長156cm、体重47kg。肝疾患の容貌があり、肝性手掌紅斑やクモ状血管腫、皮膚強膜はなく、黄色染色は見られない。腹部は柔らかく、圧痛や反跳圧痛はなし。入院後の検査室での検査では、AFPは39.94μg/L。肝機能チャイルド分類A。上腹部の強化CTによると、ゾーンIIに占拠性病変があり、まず肝臓がん、肝硬変、脾腫、胆嚢欠如を検討、肝内胆管がやや拡張している(図1a参照)。MRCPによると、左肝内の胆管が軽度拡張、胆嚢欠如。経皮肝穿刺による生検を行ったところ、病理から、(左肝組織の)高分化肝細胞性肝がんであることがわかった。肝臓の左半分の切除を行うため、標準肝容積を測定:1010ml(標準肝容積SLV=706.2×BSA+2.4,BSA=BW0.425×BH0.725×0.007184)
【0056】
そのうち、BWは体重kg、BHは身長cm、BSAは体表面積m、SLVは標準肝容積mlである。
【0057】
CTで測定した肝臓全体の容積は1038ml(GEHCソフトウェア、Volume Viewer 9.6.25b;ワークステーション、Ge advantage Workstation、GEメディカル)、残存肝容積は387mlで、標準肝容積の38.3%を占めている。肝硬変患者の将来的な残存肝容積の要求は40%以上なので、ALPPSを行う。
【0058】
2 手術方法
【0059】
2.1 第1期手術 2014.05.14、全身麻酔により患者に対して完全腹腔鏡手術を行う。左側肋骨縁下と左鎖骨中線の交点に主操作孔を作り、超音波ナイフで腹腔内の癒着を分離した後、右側腹部に2つの副操作孔を作る。腹腔内の癒着が顕著であるため、腹腔内及び肝門部、第2肝門の癒着を丁寧に分離し、肝固有動脈、左肝動脈及び門脈左枝を切開し(図2a)、門脈左枝の根元部を糸で結紮した後、再びハムロックで挟んで閉じ、左肝動脈上でプロリン糸を用いてマーキングし、第1肝門部分の処理を完了した後、環状靱帯、左三角靭帯を離断して肝臓の左半分を遊離する。第2肝門部で左肝静脈を切開し(図2b)、ガイド芯付きの経鼻胃管を使用し、左肝静脈の右側を経て、肝表面に貼り付かせ、後ろに向かって左側尾状葉前方まで回し、左肝静脈を回避した後、左肝茎の根元付近で肝前面に回し、巡肝テープの両尾端を合わせ、右鎖骨中線の腹壁ポートから体外に引き出し、36号胸部ドレーンを被せる(圧力印加用外スリーブとして)。巡肝テープを締め、外スリーブを押し込んだ後、血管鉗子で挟み、引っ張った後、巡肝テープの合わせ目に圧力調節式肝臓締付装置を設置し、締める前に術中超音波を使用して、腫瘍が巡肝テープの左側にあることを明らかにする(図2c)。肝門部に1本の腹腔ドレーンを留置して閉腹する。術後の腹部の手術創は画像の通りである(図2d)。
【0060】
2.2 第2期手術 第1期手術から11日目(5月25日)に、第2期手術として腹腔鏡左半肝切除術を行った。もとの腹腔鏡ポートから腹部に入ると、腹腔内に少し癒着が見られたが、比較的柔らかく、巡肝テープの下面に貼り付いている左肝表面には多発潰瘍形成が見られ(図3a)、腹腔内には中等量の薄い血性腹水があったので、吸引器を使って腹水を吸引し、癒着を剥がして肝門部を露出させた後、助手が腹壁で巡肝テープを引き上げた。まず、肝門部でマーキングした左肝動脈を見つけ(図3b)、クリップして離断し、その後、巡肝テープに沿って腹腔鏡彭氏多機能手術解剖器(LPMOD)を使用し、掻爬吸引法で肝臓を離断するとともに(図3c)、ティッシュリンクを使用して肝臓の離断を補助し、左肝静脈部分で確実にクリップしてから離断し、標本を切除し、腹腔内を適切に止血して断面に腹腔ドレーンを留置し、閉腹した(図3d)。左肝標本は体積が巨大で、約21cm×16cmあり、腹壁のポートから取り出すことができなかったため、もとの右上腹肋骨縁下を小さく切開して腹部に入り、標本を取り出した(図4)。手術の経過は順調であった。
【0061】
3 結果
【0062】
3.1 第1期手術時間は290分で、術中の出血量は100mlであり、術中の輸血はなかった。第1期手術後の患者の体温は36.2~37.7℃、心拍は81~104回/分、1日の腹腔排液は200~1033mlであった。術後1日目から起床して活動、術後4日目の超音波検査Bモードで胸水があることがわかったので、ドレーンを設置した。ドレーン量は1日に350~911ml。術後、患者は徐々に飲食を回復し、術後6日目に、巡肝テープをさらに下向きに1回締め、圧力調節式肝臓締付装置を調節すると、巡肝テープが引き続き緊張作用を果たした。術後2日目にALTがピークの2998U/Lに達した。術後1日目にASTがピークの2232U/Lに達した。総ビリルビンが徐々に上昇し、術後4日目にピークの112.7μmol/L達し、その後、徐々に下がった。白血球及びC-反応性タンパク質は、それぞれ術後2日目及び術後4日目にピークに達した。PTは13.9~25.0sを維持し、APTTは36.1~44.6sを維持した。患者の術後5日目のCT検査で測定された残存肝容積は669mlで、術前より72.9%増加しており、術後9日目のCT再検査で測定された残存肝容積は753.7mlで、術前より94.8%増加した。この時、残存肝容積は標準肝容積の74.6%を占めており、即ち所期残存肝容積が標準肝容積の74.6%となり(図1)、肝機能は略正常に回復しており、腹腔内に感染はなく、栄養状態もよく、肝臓の安全切除範囲に達している。
【0063】
3.2 第2期手術時間は160分で、術中の出血量は100mlであり、術中に赤血球2Uを輸血した。手術翌日にはベッドから下りて動き、飲食が戻り、体温は35.8~37.6℃、心拍は72~86回/分で、血圧は安定。白血球は軽度に上昇後、徐々に下がり、ALT及びASTは1期から持続的に下降、総ビリルビンは翌日に一過性の上昇があった後、下降し続けた。1日の腹腔排液は300~1100mlで、徐々に24~64mlまで下がった。
【0064】
3.3 術後の病理検査結果 術後の病理切片から、(左半)肝細胞がん、出血を伴う凝固性壊死があり、(肝十二指腸靱帯)リンパ節にはがん転移は見られないことがわかった(0/2)。
【0065】
将来的な残存肝容積の増殖を促進するための従来の方法には、(1)幕内氏の門脈塞栓法(1990)、(2)Adam氏(2000)の二期的肝切除術、(3)Jaeck氏(2004)の二期的肝切除術による多発性左または右半肝肝腫瘍の治療、(4)Clavien氏の二期的肝切除術(2007)があり、第1期手術中にジョイントウェッジを用いて左半肝のすべての腫瘍を切除した後、右門脈を結紮し、数週間後、左半肝が十分に増殖した時点で、第2期拡大右半肝切除術を行う。これらの手術の最大の欠点は2回の手術の間隔が長すぎることで、平均で4週を上回り、4ヶ月に及ぶ場合もあり、この期間に腫瘍が引き続き成長する可能性があり、また第1期手術による癒着は第2期手術をより困難にするだけでなく、術後の残存肝の増殖も不十分である。2~8週間で10%~46%増殖することに較べて、ALPPSの特徴は、7日以内に残存肝が急速かつ顕著に増殖し(74%~87%)、わずか1週間後に第2期手術が可能であるという点にある。しかし、ALPPS手術は合併症の発生率が74%にのぼり、死亡率が12%~23%にのぼるという報告もある。手術のリスクはかなり高い。胆汁漏と、それに伴う深刻な感染症の発生率が高く(20%~25%)、これが死亡率の高さの重要な原因となっている。第1期手術では、肝実質の離断を行うが、その目的は、両側の門脈の交通枝を遮断することにより、残存する肝臓の急速かつ顕著な増殖を促すことにある。しかし、胆汁漏という深刻な結果をもたらす可能性もある。肝臓の離断を回避でき、両側門脈の交通枝を遮断することで残存肝の急速かつ顕著な増殖を促すことのできる他の方法はあるのだろうか。我々は、各種の肝切除術において巡肝ハンギング法を数多く手がけた経験に基づき、巡肝テープを止血帯とすることで、ALPPSにおける肝実質の離断の代替とし、それにより肝臓の離断を回避し、胆汁漏を徹底的に防止できると考えた。文献を査閲したところ、Camposも似たような構想を持っており、しかも2011、2013年に1例ずつ実施しているが、いずれも開腹手術である。
【0066】
国内でも、すでに腹腔鏡補助下で肝臓離断と門脈結紮を結合させた報告がなされており、かなり良い結果を得ている。しかし、完全腹腔鏡下でALPPSを実施したという報告は国際的にも非常に少なく、2例のみである。完全腹腔鏡下で肝切除を実施し、巡肝ハンギング法を使用した経験があるため、我々はその二つを結合させて応用し、良好な効果を得た。
【0067】
巡肝止血帯は、左右両側の血流を遮断する作用を果たすだけでなく、第2期手術の肝実質の離断時の操作の助けにもなる。我々は、腹腔鏡多機能手術解剖器LPMODの使用に慣れており、肝臓離断時には巡肝テープに対して電気凝固を直接強化することができる。巡肝テープの絶縁作用により、深部組織、特に後面の肝後下大静脈の損傷を心配する必要はなく、このようにすることで、肝臓の離断プロセスが安全で確実なものになる。
【0068】
本例の巡肝止血帯の留置は、従来の方法とは異なる部分がある。通常、巡肝テープは、右肝静脈と中肝静脈の間で肝臓後方トンネルを通り抜ける。中肝静脈を二期の肝臓離断時に残存肝のために残し、肝機能をより適切に保護するためには、何とかして巡肝止血帯を左肝静脈と中肝静脈の間に通すしかない。そのため、肝上縁で切開を行う際には、より注意する必要がある。
【0069】
ALPPSで残存肝を急速に増殖させるメカニズムについては、4種類の可能性が提示されている。巡肝止血帯の応用結果から、左右両側の血流の往来を遮断することで、対側の門脈血をすべて残存肝に流入させることこそが、最も重要な要因であることがわかる。本例の治療効果からも、肝硬変を伴った原発性肝がんに対しても、ALPPSが同様の作用を果たせることがわかっている。第1期手術で肝実質を離断する必要がなく、肝臓に創面がないので、深刻な胆汁漏の合併症及びそれがもたらす感染を回避できるのである。
【0070】
本例で巡肝止血帯を引き上げて締める際には、肝動脈を回避するが、左肝茎を圧迫し、術後の黄疸が上昇する。このように、残存肝の急速な増殖の助けにはなるが、肝機能にとっては悪影響が生じる。よって、得失を考慮すると、肝茎を避ける方が望ましい。実施方法としては、肝門板を下げ、巡肝止血帯を肝門板と肝表面の間に通すことで、肝茎を離隔する。
【0071】
手術適応症については、本例の術式の選択は実に難しく、その理由は、腫瘍は比較的小さいものの、門脈矢状部に非常に近く、焼灼のリスクがかなり高いので、腫瘍の焼灼が不完全になる可能性があるからである。患者の術前のCT、MRには肝硬変が示されているので、例え肝機能がチャイルド分類Aで、肝切除を行う実行可能性があるとしても、他方では、残存肝容積は38%しかなく、肝硬変患者の要求である40%という下限を下回っているので、左半肝切除にはリスクも伴う。上記の原因を総合し、我々は二期法による肝切除を選択したのである。この患者は術後の回復が非常に早く、第1期手術後及び第2期手術後、いずれも1日目からベッドを下りて動いており、このことから、選択した治療方法が該患者に利益をもたらしたことがわかる。
【0072】
以上のように、臨床での実践を通して、我々は、ALPPSの二期的手術はいずれも腹腔鏡下で安全に実施できると認識している。肝硬変を伴う原発性肝がんに対して、ALPPSは将来的な残存肝容積の短期間での迅速な増大を同様に促すことができる。巡肝テープの実施難易度が肝臓離断より高いとはいえ、巡肝テープ法を採用した場合の手術創は肝臓を離断する方法より明らかに小さく、患者はより短い期間内に第2次手術のチャンスを得ることができ、また、巡肝テープ法は肝実質を離断する必要がないので、胆汁漏などの合併症の発生を回避することもできる。巡肝止血帯を肝実質の離断に置き換えると、似たような効果があり、合併症は大幅に減少する。左右両側の血流の往来を遮断することで、対側の門脈血をすべて残存肝に流入させることが、ALPPSの残存肝急速増殖の主要なメカニズムなのである。
【0073】
本例のように、完全腹腔鏡下でALPPSを実施し、かつ巡肝止血帯を肝実質の離断の代替とする効果は良好であり、短期間で肝臓が急速に増大するが、まだ実践の初期段階なので、より多くの病例の検証が待たれる。それと同時に、動物実験によりそのメカニズムについて深く研究する必要もある。
【実施例0074】
患者は2年前に北京の某病院で肝臓がんの「肝臓ラジオ波焼灼術」を受けており、術後も目立った不快主訴はなく、3ヶ月ごとにアルファフェトタンパクを再検査したが、結果は常に正常であった。2ヶ月前に当科でTACEを行ったが、術後から現在まで、右上腹部に不快感がある以外、他に目立った異常はなく、現在はさらなる治療を求めて当院を受診し、外来で「肝臓がん、TACE術後」と診察され、入院。患者は慢性B型肝炎歴16年で、アデホビル1錠QD。
【0075】
術前のCTで計算した残存肝容積は標準肝容積の35.6%であった。肝硬変患者の将来的な残存肝容積の要求は40%以上なので、腹腔鏡下での巡肝テープ法による二期的肝切除術を行って、右半肝を切除することとする。
【0076】
2014.5.22に第1期手術を行う。術中に腹腔内を観察したが、明らかな転移性結節は見られず、腹水の形成もなく、肝臓組織には結節状の変化があり、触れると出血しやすく、左肝は大きくなく、右肝は肥厚しており、術中超音波では右肝内のゾーンVIIIに直径約5cmの腫瘍が見られ、右肝のゾーンVIも直径0.8cmの小さな病変が見られた。胆嚢の大きさは約7*3cmで、中に結石の形成が見られた。
【0077】
第1期手術の経過:仰臥、気管挿管全身麻酔成功、通常の導尿、シートの消毒。2.臍の右側5cmの所を弧形に小さく切開し、気腹針を腹腔に刺し、炭酸ガス15mmHgを注入して気腹する。気腹針を抜き取り、スリーブ針を腹腔に刺し、内部芯を抜き取り、腹腔鏡を挿入し、腹腔の術中の所見をチェックする。3.腹腔鏡の明視下でさらに複数のスリーブ針を穿刺する。主操作孔は12mmのエクセルトロッカーで、右肋骨縁下に位置する。右側の腋前線、腋中線にそれぞれ2つの5mmトロッカーを置き、補助操作孔とする。4.頭を高い位置に、足を低い位置にし、超音波ナイフを用いて腹腔内の少量の癒着を分離する。右肝を十分に遊離し、右肝を左側に引っ張り、肝短血管を分離し、1本ずつ縫って結紮し、引き続き上向きに分離し、第2肝門を切開して右肝静脈を分離する。5.肝十二指腸靱帯を切開、分離し、患者が胆嚢結石を併発し、胆嚢が視線を遮ることから、胆嚢切除を行い、引き続き切開して肝固有動脈、左肝動脈及び右肝動脈を分離し、引き続き後方の分離部分で門脈左枝、右枝及び尾状葉分枝を分離し、吸収性の糸で門脈右枝を結紮し、ハムロックでクリップする。6.この時、ガイド芯付きの経鼻空腸栄養チューブを使用し、第2肝門から大静脈裂孔を通して肝臓の後ろまで回し、下大静脈に沿って右肝動脈の後方を貫通して肝臓の前方に到達させ、前方の栄養チューブと合流させ、長さ約10cmの36号胸部ドレーンを留置し、胸部ドレーンとともに腹壁から突き出させ、栄養チューブを締める。ゴムカバー付きの血管鉗子でクリップし、左右の肝実質を縛り、引っ張った後、巡肝テープの合わせ目に圧力調節式肝臓締付装置を設置する。7.腹腔を再度洗浄し、活動性の出血がないかを調べた後、肝門部に腹腔ドレーン1本を留置する。切開部を一つずつ縫合し、ドレーンを固定して手術終了。8.手術の経過は順調で、出血量は約100ml、手術中、患者のバイタルサインは安定しており、麻酔の効果も十分であり、患者をPACUに送った。
【0078】
患者は術後1日目からベッドを下りて活動。術後1日目に、アラニンアミノ基転移酵素(ALT)及びアスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST)がそれぞれ1520U/L及び1460U/Lのピーク値となった。術後6日目に、巡肝テープをさらに下向きに1回締め、圧力調節式肝臓締付装置を調節すると、巡肝テープが引き続き緊張作用を果たした。術後10日目のCT検査で測定された残存肝容積は670mlで、術前より37.9%増加しており、この時、残存肝容積は標準肝容積の49.1%を占めており、所期残存肝容積は標準肝容積の49.1%なので、第1期手術から12日目に、第2期手術で右半肝の切除を行った。
【0079】
第2期手術の術中所見:腹腔内には明らかな転移結節は見られず、微量の腹水があり、肝臓組織には結節状の変化があり、左肝の容積は前より増加し、表面には明らかな膿苔の形成は見られず、第1期手術の巡肝テープはそのままの位置にあり、肝門部に留置した右肝動脈結索糸もあり、右半肝切除術を行って取り出した標本には、右肝のゾーンVIIIに直径約1.5cm前後の腫瘍があり、腫瘍の断面は灰色であった。その他の臓器には明らかな異常は見られなかった。
【0080】
第2期手術の経過:1.仰臥、気管挿管全身麻酔成功、通常の導尿、シートの消毒。2.もとの腹腔鏡手術の切開部から入り、臍下を切開して気腹針を腹腔に刺し、炭酸ガス15mmHgを注入して気腹する。気腹針を抜き取り、スリーブ針を腹腔に刺し、内部芯を抜き取り、腹腔鏡を挿入し、腹腔の術中の所見をチェックする。3.腹腔鏡の明視下でさらに3本のスリーブ針を穿刺する。主操作孔は12mmのエクセルトロッカーで、左肋骨縁下に置く。右側の腋中線に2つの5mmトロッカーを置き、補助操作孔とする。4.頭を高い位置に、足を低い位置にし、吸引器を用いて肝臓表面と腹腔内の癒着を分離した後、肝門部に留置した右肝動脈を分離し、吸収性のクリップで両端を閉じた後、離断する。5.この時、腹壁の外から巡肝締付テープを引き上げ、腹腔鏡彭氏多機能手術解剖器を使用し、掻爬吸引法で肝臓を離断する。締付後の巡肝テープ内の肝実質はかなり少なく薄く、比較的多くの管道構造が存在しているので、EC60を使って離断する。手術創面を徹底的に止血する。6.右肝は容積が非常に大きく、腹腔鏡で開けたポートから取り出すことができないので、上腹部の剣状突起の下を小さく切って標本を取り出す。7.標本を取り出した後、肝臓断面及び腹腔内を適切に止血し、術中造影を行ったところ、総胆管及び左肝内の胆管ははっきりと写っており、明らかな印影欠損や胆汁漏などはなく、活動性の出血や胆嚢瘻がないことをチェックして、肝臓断面に腹腔ドレーン2本を置いた。切開部を一つずつ縫合し、ドレーンを固定して手術終了。8.手術の経過は順調で、出血量は約300ml、手術中、患者のバイタルサインは安定しており、麻酔の効果も十分であり、術後はPACUに送り返した。
【0081】
患者の術後の回復は良好で、術後1日目からベッドを下りて活動。術後の病理診断:肝臓がん。
【実施例0082】
本実施例では、本発明の完全腹腔鏡下での巡肝テープ法による病巣側肝臓の二期的切除の手術方法の専用器機として、圧力調節式肝臓締付装置を紹介している。
【0083】
図8図13の図面符号は次の通り。腹腔1、腹壁2、体外3、肝臓4、巡肝テープ5(第1ラチェット51、台座52を含む)、腹壁カテーテル6、圧力制御装置7。圧力制御装置7は、クリップ71、第1スリーブ72、バネ73を含む。クリップ71は、第2ラチェット711、第2内孔712、突出部713、副尺714を含む。第1スリーブ72は、第1内孔721、案内溝722、目盛り723を含む。
【0084】
完全腹腔鏡下での巡肝テープ法による病巣側肝臓の二期的切除の手術方法を実施するための専用器機である圧力調節式肝臓締付装置は、軟質材料により作成された巡肝テープ5を含み、巡肝テープ5の片端は自由端で、他端には1つの貫通孔が設けられており、前記自由端は前記貫通孔を通って肝臓4を締め付けることができる1つのリングを形成しており、巡肝テープ5の肝臓から背離している側が外側と定義されている。巡肝テープ5の外側には第1ラチェット51が設けられており、巡肝テープ5の自由端は、前記貫通孔、腹壁カテーテル6、圧力制御装置7をこの順に貫通しており、前記腹壁カテーテル6は患者の腹壁2を貫通している。
【0085】
前記圧力制御装置7は第1スリーブ72とクリップ71を含み、第1スリーブ72の中心軸線方向を縦方向としており、第1スリーブ72には巡肝テープ5を通過させるための縦方向第1内孔721が設けられており、クリップ71は第1スリーブ72の縦方向案内溝722内に設置され、かつ案内溝722に沿って縦方向に移動することができ、クリップ71には前記第1内孔721に伸入する第2ラチェット711が設けられており、巡肝テープ5が第1スリーブ72を通過すると第1ラチェット51と第2ラチェット711が噛合し、第2ラチェット711は、第1ラチェット51を前記リングを締める正方向に摺動させると同時に、第1ラチェット51の逆方向の摺動を阻止している。
【0086】
クリップ71と第1スリーブ72との間には縦方向に沿って設置されたバネ73が設けられている。
【0087】
前記クリップ71上には巡肝テープ5の緊張度を示すための副尺714が設けられ、第1スリーブ72上には副尺の目盛り723が設けられている。
【0088】
前記クリップ71は前記第1スリーブ72内の第2スリーブに被装され、第2スリーブには巡肝テープ5を通過させるための縦方向第2内孔712が設けられており、第2スリーブの外壁には突出部713が設けられ、突出部713は第1スリーブ72の壁面上の縦方向案内溝722内に摺動可能に穿設されており、突出部713上には前記副尺714が設けられており、第2スリーブの内壁には前記第2ラチェット711が設けられている。
【0089】
巡肝テープ5の前記自由端に対向する他端には台座52が設けられ、前記貫通孔は台座52上に設けられており、巡肝テープ5の張力作用下で、第1スリーブ72の底端と台座52の上端がそれぞれ腹壁カテーテル6の上端及び下端に近接し、第1スリーブ72、腹壁カテーテル6、台座52がこの順に抵触して巡肝テープ5を位置決めしている。
【0090】
本実施例では、第1期手術中に巡肝テープ5を左右の肝葉の接続部に縛り付け、医師が患者の体外の第2スリーブ72の上部から上に向かって巡肝テープ5を引き抜き、副尺714が第1スリーブ72上に設けられている目盛り723と位置合わせされた時に、引抜きを停止すると、第1ラチェット51と第2ラチェット711が噛合し、巡肝テープ5が位置決めされる。この時、巡肝テープ5の肝臓に対する締付力が自動的に設定値に到達する。巡肝テープ5の肝臓に対する締付力は、事前に手術器機の設定に基づいて定めることができるので、手術する医師個人の手の感覚や経験に頼らなくてすむのである。
【0091】
本実施例では、術後6日目に、巡肝テープをさらに下向きに締める必要があるが、開腹の必要はなく、体外の第2スリーブ72の上部から上に向かって巡肝テープ5を引き抜き、副尺714が第1スリーブ72上に設けられている目盛り723と位置合わせされた時に、引抜きを停止することで、巡肝テープ5を自動的に位置決めすることができる。この時、巡肝テープ5の肝臓に対する締付力が自動的に設定値に到達するので、便利で速く、医師が操作しやすく、患者の苦痛を軽減している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8a
図8b
図9
図10
図11
図12
【手続補正書】
【提出日】2021-09-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟質材料により作成された巡肝テープ(5)を含み、巡肝テープ(5)の片端は自由端で、他端には1つの貫通孔が設けられており、前記自由端は前記貫通孔を通って肝臓(4)を縛ることのできる1つのリングを形成しており、巡肝テープ(5)の肝臓から背離している側を外側と定義している、請求項1に記載の完全腹腔鏡下での巡肝テープ法による病巣側肝臓の二期的切除の手術方法を実施するための器機において、巡肝テープ(5)の外側には第1ラチェット(51)が設けられており、巡肝テープ(5)の自由端は、前記貫通孔、腹壁カテーテル(6)圧力制御装置(7)をこの順に貫通しており、前記腹壁カテーテル(6)は患者の腹壁(2)を貫通しており、
前記圧力制御装置(7)は第1スリーブ(72)とクリップ(71)を含み、第1スリーブ(72)の中心軸線方向を縦方向としており、第1スリーブ(72)には巡肝テープ(5)を通過させるための縦方向第1内孔(721)が設けられており、クリップ(71)は第1スリーブ(72)の縦方向案内溝(722)内に設置され、かつ案内溝(722)に沿って縦方向に移動することができ、クリップ(71)には前記第1内孔(721)に伸入する第2ラチェット(711)が設けられており、巡肝テープ(5)が第1スリーブ(72)を通過すると第1ラチェット(51)と第2ラチェット(711)が噛合し、第2ラチェット(711)は第1ラチェット(51)を前記リングを締める正方向に摺動させると同時に、第1ラチェット(51)の逆方向の摺動を阻止しており、
クリップ(71)と第1スリーブ(72)との間には縦方向に沿って設置されたバネ(73)が設けられており、
前記クリップ(71)上には巡肝テープ(5)の緊張度を示すための副尺(714)が設けられ、第1スリーブ(72)上に副尺の目盛り(723)が設けられていることを特徴とする器機。
【請求項2】
前記クリップ(71)は前記第1スリーブ(72)内の第2スリーブに被装され、第1スリーブ(72)には巡肝テープ(5)を通過させるための縦方向第2内孔(712)が設けられており、第2スリーブの外壁には突出部(713)が設けられ、突出部(713)は第1スリーブ(72)の壁面上の縦方向案内溝(722)内に摺動可能に穿設されており、突出部(713)上には前記副尺(714)が設けられており、第2スリーブの内壁に前記第2ラチェット(711)が設けられていることを特徴とする請求項に記載の器機。
【請求項3】
巡肝テープ(5)の前記自由端に対向する他端には台座(52)が設けられ、前記貫通孔は台座(52)上に設けられており、巡肝テープ(5)の引張作用下で、第1スリーブ(72)、腹壁カテーテル(6)、台座(52)がこの順に抵触して巡肝テープ(5)を位置決めすることを特徴とする請求項に記載の器機。
【手続補正書】
【提出日】2022-10-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟質材料により作成された巡肝テープ(5)を含み、前記巡肝テープ(5)の片端は自由端で、他端には1つの貫通孔が設けられており、前記自由端は前記貫通孔を通って肝臓(4)を縛ることのできる1つのリングを形成しており、前記巡肝テープ(5)の肝臓から背離している側を外側と定義している完全腹腔鏡下での巡肝テープ法による病巣側肝臓の二期的切除の手術方法を実施するための器機において
前記巡肝テープ法では、前記巡肝テープ(5)を用いて左右の肝臓の間の接続部位を締め付けることにより、切除予定の病巣側肝臓と残す必要のある側の肝臓との間の血流の往来を遮断し、
前記巡肝テープ(5)の外側には第1ラチェット(51)が設けられており、前記巡肝テープ(5)の自由端は、前記貫通孔、腹壁カテーテル(6)、および圧力制御装置(7)をこの順に貫通しており、前記腹壁カテーテル(6)は患者の腹壁(2)を貫通するように構成され
前記圧力制御装置(7)は第1スリーブ(72)とクリップ(71)を含み、前記第1スリーブ(72)の中心軸線方向を縦方向とし、前記第1スリーブ(72)には、前記クリップ(71)を配置するための縦方向第1内孔(721)が設けられており、前記クリップ(71)には、前記巡肝テープ(5)を通過させるための縦方向の第2内孔(712)が設けられており、前記クリップ(71)の一部、前記第1スリーブ(72)の縦方向案内溝(722)内に設置され、かつ前記案内溝(722)に沿って縦方向に移動することができ、前記クリップ(71)には前記第内孔(712内に延びる第2ラチェット(711)が設けられており、前記巡肝テープ(5)が前記クリップ(71)の前記第2内孔(712)を通過すると前記第1ラチェット(51)と前記第2ラチェット(711)が噛合し、前記第2ラチェット(711)は前記第1ラチェット(51)前記リングを締める正方向への摺動を許容すると同時に、前記第1ラチェット(51)の逆方向の摺動を阻止するように構成され
前記クリップ(71)と前記第1スリーブ(72)との間には縦方向に沿って設置されたバネ(73)が設けられており、
前記クリップ(71)上には、前記巡肝テープ(5)を用いて左右の肝臓の間の接続部位を締め付けたときの、前記巡肝テープ(5)の緊張度を示すための副尺(714)が設けられ、前記第1スリーブ(72)上に副尺の目盛り(723)が設けられていることを特徴とする器機。
【請求項2】
前記クリップ(71)の外壁には突出部(713)が設けられ、前記突出部(713)は前記第1スリーブ(72)の壁面上の縦方向の前記案内溝(722)内に摺動可能に配置されており、前記突出部(713)上には前記副尺(714)が設けられており、前記クリップ(71)の内壁に前記第2ラチェット(711)が設けられていることを特徴とする請求項に記載の器機。
【請求項3】
前記巡肝テープ(5)の前記自由端の反対側の前記他端には台座(52)が設けられ、前記貫通孔は前記台座(52)設けられており
前記第1ラチェット(51)と前記第2ラチェット(711)とが噛合し、かつ、前記巡肝テープ(5)を用いて左右の肝臓の間の接続部位を締め付けた状態の前記巡肝テープ(5)の引張作用下で、前記第1スリーブ(72)が前記腹壁カテーテル(6)に抵触し、且つ、前記腹壁カテーテル(6)が前記台座(52)抵触し、そして、前記副尺(714)が前記目盛り(723)と位置合わせされたときに前記巡肝テープ(5)の縦方向の引抜きを停止することで、前記巡肝テープ(5)位置決めされることを特徴とする請求項に記載の器機。
【外国語明細書】