(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176041
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】土留壁
(51)【国際特許分類】
E02D 17/04 20060101AFI20221117BHJP
E02D 5/04 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
E02D17/04 E
E02D5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177501
(22)【出願日】2021-10-29
(31)【優先権主張番号】P 2021082313
(32)【優先日】2021-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085394
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 哲夫
(74)【代理人】
【識別番号】100165456
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 佑子
(72)【発明者】
【氏名】浅野 均
(72)【発明者】
【氏名】山本 純一
(72)【発明者】
【氏名】眞鍋 啓輔
(72)【発明者】
【氏名】地引 千紘
(72)【発明者】
【氏名】吉田 聡一郎
【テーマコード(参考)】
2D049
【Fターム(参考)】
2D049EA02
2D049FB03
2D049FB13
(57)【要約】
【課題】補助杭から親杭に対して確実にモーメントを伝達できる土留壁を提供する。
【解決手段】土留壁施工地盤に所定の間隔で挿入される複数の親杭2と、親杭2の側部位置から背面側地盤に対して挿入され、かつ親杭2に連結部材5を介して連結される複数の補助杭4と、を備える土留壁1であって、連結部材5は、1本の補助杭4に対して上下一対で使用され、上下一対の連結部材5は、補助杭4の上下幅寸法と同等の間隔を介して上下方向に並ぶように複数のボルトを介して親杭2に締結され、上下一対の連結部材5の互いに対向する対向部位は、補助杭4を背面側地盤に挿入する際のガイドとして機能し、且つ挿入された補助杭4のフランジ4aと複数のボルトを介して締結される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
土留壁施工地盤に所定の間隔で挿入される複数の親杭と、
隣接する前記親杭間に設置される複数の横矢板と、
前記親杭の側部位置から背面側地盤に対して挿入され、かつ前記親杭に連結部材を介して連結される複数の補助杭と、を備える土留壁であって、
前記親杭及び前記補助杭は、一対のフランジと、一対の前記フランジ同士を連結するウェブと、を一体に有するH形鋼であり、前記ウェブを溝底面とし、一対の前記フランジを溝側面とする一対の溝部を有し、
前記連結部材は、1本の前記補助杭に対して上下一対で使用され、
上下一対の前記連結部材は、前記補助杭の上下幅寸法と同等の間隔を介して上下方向に並ぶように複数の第1ボルトを介して前記親杭に締結され、
上下一対の前記連結部材の互いに対向する対向部位は、前記補助杭を背面側地盤に挿入する際のガイドとして機能し、且つ挿入された前記補助杭の前記フランジと複数の第2ボルトを介して締結される土留壁。
【請求項2】
前記連結部材は、前記親杭の前記ウェブに締結される親杭締結板部と、前記補助杭の前記フランジに締結される補助杭締結板部と、前記親杭締結板部と前記補助杭締結板部とを一体的に連結する複数の連結板部と、によって箱形に形成される請求項1に記載の土留壁。
【請求項3】
上下一対の前記連結部材は、エンドプレートを介して一体的に連結されている請求項1又は2に記載の土留壁。
【請求項4】
前記補助杭の挿入方向基端側には、一対の前記フランジ及び前記ウェブに対して溶着される補強部材が設けられる請求項1~3のいずれか1項に記載の土留壁。
【請求項5】
前記補強部材は、前記補助杭の挿入方向基端面を覆う第1補強部材を含む請求項4に記載の土留壁。
【請求項6】
前記補強部材は、一対の前記溝部内であって、前記連結部材との締結位置近傍に設けられる複数の第2補強部材を含む請求項4又は5に記載の土留壁。
【請求項7】
前記補助杭が上下一対の前記連結部材に連結されたとき、側面視において、複数の前記第2補強部材と複数の前記連結板部とが上下方向に直線状に並ぶ請求項6に記載の土留壁。
【請求項8】
前記第2ボルトは、上下一対の前記連結部材の互いに対向する対向部位と、該対向部位間に挿入された前記補助杭を上下方向に貫通するロングボルトである請求項1~7のいずれか1項に記載の土留壁。
【請求項9】
前記連結部材は、複数の前記連結板部同士を一体的に連結する補強板部を更に備える請求項2~8のいずれか1項に記載の土留壁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親杭、横矢板及び補助杭を備える土留壁に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、土留壁施工地盤に所定の間隔で挿入される複数の親杭と、隣接する親杭間に設置される複数の横矢板と、親杭の側部位置から背面側地盤に対して挿入され、かつ親杭に連結部材を介して連結される複数の補助杭(挿入杭)と、を備える土留壁が記載されている。このような土留壁では、補助杭に作用する背面側地盤の土圧が、親杭を背面側地盤に押し付ける方向のモーメントに変換されるので、親杭の根入れ部の長さを短くしたり、親杭の断面寸法を小さくできるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載される土留壁では、親杭と補助杭との連結部がモーメントによって変形した場合、補助杭から親杭にモーメントが伝達されず、土留機能が低下する可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、土留壁施工地盤に所定の間隔で挿入される複数の親杭と、隣接する前記親杭間に設置される複数の横矢板と、前記親杭の側部位置から背面側地盤に対して挿入され、かつ前記親杭に連結部材を介して連結される複数の補助杭と、を備える土留壁であって、前記親杭及び前記補助杭は、一対のフランジと、一対の前記フランジ同士を連結するウェブと、を一体に有するH形鋼であり、前記ウェブを溝底面とし、一対の前記フランジを溝側面とする一対の溝部を有し、前記連結部材は、1本の前記補助杭に対して上下一対で使用され、上下一対の前記連結部材は、前記補助杭の上下幅寸法と同等の間隔を介して上下方向に並ぶように複数の第1ボルトを介して前記親杭に締結され、上下一対の前記連結部材の互いに対向する対向部位は、前記補助杭を背面側地盤に挿入する際のガイドとして機能し、且つ挿入された前記補助杭の前記フランジと複数の第2ボルトを介して締結される。
また、請求項2の発明は、請求項1に記載の土留壁であって、前記連結部材は、前記親杭の前記ウェブに締結される親杭締結板部と、前記補助杭の前記フランジに締結される補助杭締結板部と、前記親杭締結板部と前記補助杭締結板部とを一体的に連結する複数の連結板部と、によって箱形に形成される。
また、請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の土留壁であって、上下一対の前記連結部材は、エンドプレートを介して一体的に連結されている。
また、請求項4の発明は、請求項1~3のいずれか1項に記載の土留壁であって、前記補助杭の挿入方向基端側には、一対の前記フランジ及び前記ウェブに対して溶着される補強部材が設けられる。
また、請求項5の発明は、請求項4に記載の土留壁であって、前記補強部材は、前記補助杭の挿入方向基端面を覆う第1補強部材を含む。
また、請求項6の発明は、請求項4又は5に記載の土留壁であって、前記補強部材は、一対の前記溝部内であって、前記連結部材との締結位置近傍に設けられる複数の第2補強部材を含む。
また、請求項7の発明は、請求項6に記載の土留壁であって、前記補助杭が上下一対の前記連結部材に連結されたとき、側面視において、複数の前記第2補強部材と複数の前記連結板部とが上下方向に直線状に並ぶ。
また、請求項8の発明は、請求項1~7のいずれか1項に記載の土留壁であって、前記第2ボルトは、上下一対の前記連結部材の互いに対向する対向部位と、該対向部位間に挿入された前記補助杭を上下方向に貫通するロングボルトである。
また、請求項9の発明は、請求項2~8のいずれか1項に記載の土留壁であって、前記連結部材は、複数の前記連結板部同士を一体的に連結する補強板部を更に備える。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明によれば、連結部材は、1本の補助杭に対して上下一対で使用され、上下一対の連結部材は、補助杭の上下幅寸法と同等の間隔を介して上下方向に並ぶように複数の第1ボルトを介して親杭に締結され、上下一対の連結部材の互いに対向する対向部位は、補助杭を背面側地盤に挿入する際のガイドとして機能するので、補助杭を容易、且つ高精度に背面側基盤に挿入することができる。また、上下一対の連結部材の互いに対向する対向部位は、挿入された補助杭のフランジと複数の第2ボルトを介して締結されるので、挿入された補助杭を上下一対の連結部材を介して強固に親杭に連結することができ、その結果、補助杭から親杭に対するモーメントの伝達を確実に行うことが可能になる。
また、請求項2の発明によれば、連結部材は、親杭のウェブに締結される親杭締結板部と、補助杭のフランジに締結される補助杭締結板部と、親杭締結板部と補助杭締結板部とを一体的に連結する複数の連結板部と、によって箱形に形成されるので、連結部材をH形鋼などで構成する場合に比べ、連結部材自体の変形を抑制し、補助杭から親杭に対するモーメントの伝達をより確実に行うことが可能になる。
また、請求項3の発明によれば、上下一対の連結部材は、エンドプレートを介して一体的に連結されているので、上下一対の連結部材を個別に親杭に締結する場合に比べ、上下一対の連結部材の間隔を正確に管理できる。
また、請求項4の発明によれば、補助杭の挿入方向基端側には、一対のフランジ及びウェブに対して溶着される補強部材が設けられるので、補助杭の変形を抑制し、補助杭から親杭に対するモーメントの伝達をより確実に行うことが可能になる。
また、請求項5の発明によれば、補強部材は、補助杭の挿入方向基端面を覆う第1補強部材を含むので、補助杭の挿入を邪魔することなく、補助杭を補強できる。
また、請求項6の発明によれば、補強部材は、一対の溝部内であって、連結部材との締結位置近傍に設けられる複数の第2補強部材を含むので、補助杭の挿入を邪魔することなく、補助杭を補強できる。
また、請求項7の発明は、請求項6に記載の土留壁であって、前記補助杭が上下一対の前記連結部材に連結されたとき、側面視において、複数の前記第2補強部材と複数の前記連結板部とが上下方向に直線状に並ぶので、補助杭から親杭に対するモーメントの伝達をより確実に行うことが可能になる。
また、請求項8の発明によれば、第2ボルトは、上下一対の連結部材の互いに対向する対向部位と、該対向部位間に挿入された補助杭を上下方向に貫通するロングボルトなので、補助杭の上下の連結部材に対する締結を同時に行うことができるだけでなく、補助杭のフランジ内側面に事前にナットを配置(溶接)するような作業も不要となり、土留壁の施工性を向上させることができる。
また、請求項9の発明によれば、連結部材は、複数の連結板部同士を一体的に連結する補強板部を更に備えるので、連結部材自体の変形をさらに抑制し、補助杭から親杭に対するモーメントの伝達をより確実に行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一実施形態に係る土留壁の構造を示す斜視図である。
【
図2】親杭に連結部材を取り付けた状態を示す斜視図である。
【
図3】親杭に連結部材を介して補助杭を連結した状態を示す斜視図である。
【
図4】補助杭から掴み代部材を取り外した状態を示す斜視図である。
【
図5】親杭に連結部材を介して補助杭を連結した状態を示す正面図である。
【
図6】親杭に連結部材を介して補助杭を連結した状態を示す平面図である。
【
図7】親杭に連結部材を介して補助杭を連結した状態を示す側面図である。
【
図8】(a)は
図5のX-X断面図であり、(b)は補助杭から掴み代部材を取り外した状態を示すX-X断面図である。
【
図10】本発明の第2実施形態に係る土留壁を示す図であり、親杭に連結部材を取り付けた状態を示す斜視図である。
【
図11】本発明の第2実施形態に係る土留壁を示す図であり、親杭に連結部材を介して補助杭を連結した状態を示す斜視図である。
【
図12】本発明の第2実施形態に係る土留壁を示す図であり、補助杭から掴み代部材を取り外した状態を示す斜視図である。
【
図13】本発明の第2実施形態に係る土留壁を示す図であり、親杭に連結部材を介して補助杭を連結した状態を示す正面図である。
【
図14】本発明の第2実施形態に係る土留壁を示す図であり、親杭に連結部材を介して補助杭を連結した状態を示す平面図である。
【
図15】本発明の第2実施形態に係る土留壁を示す図であり、親杭に連結部材を介して補助杭を連結した状態を示す側面図である。
【
図16】本発明の第2実施形態に係る土留壁を示す図であり、(a)は
図13のY-Y断面図であり、(b)は補助杭から掴み代部材を取り外した状態を示すY-Y断面図である。
【
図17】本発明の第2実施形態に係る土留壁を示す図であり、連結部材の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[土留壁の構成]
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
図1において、1は土留壁であって、該土留壁1は、土留壁施工地盤に所定の間隔で挿入される複数の親杭2と、隣接する親杭2間に設置される複数の横矢板3と、親杭2の側部位置から背面側地盤に対して挿入され、かつ親杭2に連結部材5を介して連結される複数の補助杭4と、を備える。
【0009】
図1~
図8に示すように、親杭2は、通常、土留壁施工地盤に鉛直方向に挿入(打設)される。使用部材としては、親杭横矢板土留壁などに一般的に使用されているH形綱が用いられる。H形鋼からなる親杭2は、一対のフランジ2aと、一対のフランジ2a同士を連結するウェブ2bと、を一体に有するとともに、ウェブ2bを溝底面とし、一対のフランジ2aを溝側面とする一対の溝部2cを有する。ウェブ2bには、第1ボルトB1を介して連結部材5を連結するためのボルト挿通孔(図示せず)が複数加工される。ボルト挿通孔は、親杭2を地盤に挿入する前に加工してもよいし、親杭2を地盤に挿入した後、親杭2に連結部材5を締結するタイミングで加工してもよい。
【0010】
親杭2を構成するH形綱の断面寸法は、壁高に応じて選定されるが、概ねH300~H500程度のものが多く使用される。また、親杭2は、土留壁施工地盤の掘削前に、掘削予定地盤の境界線に沿って所定間隔で地盤に挿入される。挿入間隔は、概ね1.0~2.0m程度とされる。
【0011】
横矢板3は、掘削に伴って隣接する親杭2間に順次嵌め込んでいき、土留めを図る板材である。横矢板3としては、通常、唐松などの木材が用いられている。
【0012】
補助杭4は、高さ方向に1又は複数段で設置される。
図1は、補助杭4を上下方向に2段設置した例を示している。補助杭4としては、概ねH200~H400程度の断面のH形鋼を用いられる。H形鋼からなる補助杭4は、一対のフランジ4aと、一対のフランジ4a同士を連結するウェブ4bと、を一体に有するとともに、ウェブ4bを溝底面とし、一対のフランジ4aを溝側面とする一対の溝部4cを有する。補助杭4の段数及び挿入深さは、親杭2の天端許容変形量を基準とした設計計算によって決定されるが、通常のケースでは、高さ方向に2~4段程度で設置され、挿入深さは概ね2~5m程度である。
【0013】
補助杭4は、掘削の進行に伴って、所定の掘削段階毎に各親杭2に対して設置される。1箇所あたりの設置数は1本とすることも可能であるが、図示するように、1箇所あたり、親杭2の両側に左右一組で配置するのがモーメントを大きく確保する上で望ましい。設置は、親杭2の側部位置から略水平方向に沿って背面側地盤中に挿入し、挿入元側を連結部材5を介して親杭2に連結する。補助杭4の挿入方向は、水平方向を基本とするが、施工誤差を含め僅かに傾斜させて設置されていてもよい。
【0014】
図3~
図8に示すように、補助杭4の挿入方向基端側には、一対のフランジ4a及びウェブ4bに対して溶着される複数の補強部材41~43が設けられる。これらの補強部材41~43は、補助杭4の挿入方向基端側の変形を抑制し、補助杭4から親杭2に対するモーメントの伝達を確実に行わせる。
【0015】
補強部材41~43には、補助杭4の挿入方向基端面を覆う第1補強部材41が含まれる。第1補強部材41は、補助杭4の挿入方向基端面において、補助杭4の一対の溝部4cを塞ぐように溶着されている。また、第1補強部材41には、後述する掴み代部材6を連結するためのボルト挿通孔41aが加工されている。
【0016】
また、補強部材41~43には、補助杭4の一対の溝部4c内であって、連結部材5との締結位置近傍に設けられる複数の第2補強部材42、43が含まれる。
【0017】
挿入用重機(図示せず)を用いて補助杭4を背面側地盤に挿入する際には、補助杭4の挿入方向基端側に挿入用重機の掴み代が必要になる。
図3~
図8に示すように、本実施形態の土留壁施工方法では、補助杭4の挿入方向基端部に着脱可能に装着され、補助杭4を背面側地盤に挿入する際、補助杭4を挿入する挿入用重機の掴み代となり、挿入後は補助杭4から取り外される掴み代部材6が用いられる。
【0018】
掴み代部材6は、一対のフランジ6aと、一対のフランジ6a同士を連結するウェブ6bと、を一体に有するH形鋼であり、補助杭4と同一断面のH形鋼が用いられる。掴み代部材6を構成するH形鋼には、挿入方向先端面を覆うように掴み代側継手部材61が溶着されている。掴み代側継手部材61には、複数の第3ボルトB3を介して補助杭4の第1補強部材41に締結するための複数のボルト挿通孔(図示せず)が加工されている。
【0019】
連結部材5は、1本の補助杭4に対して上下一対で使用される。上下一対の連結部材5は、補助杭4の上下幅寸法と同等の間隔を介して上下方向に並ぶように複数の第1ボルトB1及び第1ナットN1を介して親杭2に締結される。上下一対の連結部材5の互いに対向する対向部位は、補助杭4を背面側地盤に挿入する際のガイドとして機能する。また、上下一対の連結部材5の互いに対向する対向部位は、挿入された補助杭4のフランジ4aと複数の第2ボルトB2及び第2ナットN2を介して締結される。
【0020】
具体的に説明すると、本実施形態の連結部材5は、
図9に示すように、親杭2のウェブ2bに締結される親杭締結板部51と、補助杭4のフランジ4aに締結される補助杭締結板部52と、親杭締結板部51と補助杭締結板部52とを一体的に連結する複数の連結板部53と、複数の連結板部53同士を一体的に連結する第1補強板部54及び第2補強板部55と、によって箱形に形成されている。
【0021】
親杭締結板部51には、第1ボルトB1を挿通可能な複数のボルト挿通孔51aが形成され、補助杭締結板部52には、第2ボルトB2を挿通可能な複数のボルト挿通孔52aが形成されている。また、連結部材5は、箱内部に連通する開口部56を有し、この開口部56を介してボルトB1、B2及びナットN1、N2Nの締結操作が行われる。
【0022】
また、
図9に示すように、上下一対の連結部材5は、エンドプレート57を介して一体的に連結されて連結ユニットUを構成しており、連結ユニットUの状態で親杭2に締結される。つまり、上下一対の連結部材5は、個別に親杭2に締結されるのではなく、予め間隔を正確に計測してエンドプレート57に溶着されたユニット状態で一体的に親杭2に締結される。
【0023】
[土留壁の施工方法]
つぎに、土留壁1の施工手順について、
図1~
図8を参照して説明する。
【0024】
まず、杭打ち機などの施工機械を用いて、掘削境界線に沿って所定の間隔で親杭2を地盤に挿入する。
【0025】
つぎに、親杭2によって囲まれた領域内を油圧ショベルなど掘削機械で掘削する。掘削の進行に伴い、親杭2間に横矢板3を架け渡し、土留めを図りながら徐々に掘り下げていく。所定の深さ、すなわち1段目の補助杭4の設置位置よりもやや掘り下げた位置まで掘削したら、1段目の補助杭4の設置作業に入る。
【0026】
補助杭4の挿入に先立ち、まず、親杭2の左右両側部に、それぞれ上下一対の連結部材5(連結ユニットU)を固定する。この作業は、親杭2のウェブ2bを挟むように、左右一組の連結ユニットUを配置し、複数の第1ボルトB1及び第1ナットN1を用いて、左右一組の連結ユニットUを親杭2のウェブ2bに締結することにより行われる。また、挿入する補助杭4の挿入方向基端部には、複数の第3ボルトB3及び第3ナットN3を用いて、掴み代部材6を装着する。
【0027】
補助杭4の挿入は、挿入用重機で掴み代部材6のウェブ6bを掴みながら行われる。補助杭4の挿入中は、補助杭4を上下一対の連結部材5間に位置させることにより、上下一対の連結部材5を挿入ガイドとして機能させる。挿入が完了したら、複数の第2ボルトB2及び第2ナットN2によって、補助杭4の一対のフランジ4aを上下一対の連結部材5に締結させる。その後、掴み代部材6を補助杭4から取り外す。
【0028】
1段目の補助杭4の設置作業が完了したら、掘削を開始し、横矢板3の設置を併行しながら徐々に地盤を掘り下げる。2段目の補助杭4の設置位置よりもやや掘り下げた位置まで掘削したら、2段目の補助杭4の設置作業に入る。設置要領は1段目の場合と同様である。2段目の補助杭4の設置作業が完了したら、所定深さまで掘削を行い、土留壁1の施工が完了する。
【0029】
[実施形態の効果]
叙述の如く構成された本実施形態によれば、土留壁施工地盤に所定の間隔で挿入される複数の親杭2と、隣接する親杭2間に設置される複数の横矢板3と、親杭2の側部位置から背面側地盤に対して挿入され、かつ親杭2に連結部材5を介して連結される複数の補助杭4と、を備える土留壁1であって、親杭2及び補助杭4は、一対のフランジ2a、4aと、一対のフランジ2a、4a同士を連結するウェブ2b、4bと、を一体に有するH形鋼であり、ウェブ2b、4bを溝底面とし、一対のフランジ2a、4aを溝側面とする一対の溝部2c、4cを有し、連結部材5は、1本の補助杭4に対して上下一対で使用され、上下一対の連結部材5は、補助杭4の上下幅寸法と同等の間隔を介して上下方向に並ぶように複数の第1ボルトB1を介して親杭2に締結され、上下一対の連結部材5の互いに対向する対向部位は、補助杭4を背面側地盤に挿入する際のガイドとして機能するので、補助杭4を容易、且つ高精度に背面側基盤に挿入することができる。
【0030】
また、上下一対の連結部材5の互いに対向する対向部位は、挿入された補助杭4のフランジ4aと複数の第2ボルトB2を介して締結されるので、挿入された補助杭4を上下一対の連結部材5を介して強固に親杭2に連結することができ、その結果、補助杭4から親杭2に対するモーメントの伝達を確実に行うことが可能になる。
【0031】
また、連結部材5は、親杭2のウェブ2bに締結される親杭締結板部51と、補助杭4のフランジ4aに締結される補助杭締結板部52と、親杭締結板部51と補助杭締結板部52とを一体的に連結する複数の連結板部53と、によって箱形に形成されるので、連結部材5をH形鋼などで構成する場合に比べ、連結部材5自体の変形を抑制し、補助杭4から親杭2に対するモーメントの伝達をより確実に行うことが可能になる。
【0032】
また、上下一対の連結部材5は、エンドプレート57を介して一体的に連結されているので、上下一対の連結部材5を個別に親杭2に締結する場合に比べ、上下一対の連結部材5の間隔を正確に管理できる。
【0033】
また、補助杭4の挿入方向基端側には、一対のフランジ4a及びウェブ4bに対して溶着される補強部材41~43が設けられるので、補助杭4の変形を抑制し、補助杭4から親杭2に対するモーメントの伝達をより確実に行うことが可能になる。
【0034】
また、補強部材41~43は、補助杭4の挿入方向基端面を覆う第1補強部材41を含むので、補助杭4の挿入を邪魔することなく、補助杭4を補強できる。
【0035】
また、補強部材41~43は、一対の溝部4c内であって、連結部材5との締結位置近傍に設けられる複数の第2補強部材42、43を含むので、補助杭4の挿入を邪魔することなく、補助杭4を補強できる。また、連結部材5は、補助杭4の溝部4cに嵌入することなく、補助杭4の挿入ガイドを行うので、連結部材5との干渉を考慮せずに、一対の溝部4c内に補強部材42、43を配置し、補助杭4を補強できる。
【0036】
[第2実施形態]
つぎに、本発明の第2実施形態に係る土留壁1について、
図10~
図17を参照して説明する。ただし、前述した第1実施形態と共通の構成については、第1実施形態と同じ符号を用いることで、第1実施形態の説明を援用する場合がある。
【0037】
図11~
図17に示すように、第2実施形態の土留壁1は、上下の連結部材5と補助杭4を連結する第2ボルトB2の構成と、補助杭4に設けられる複数の第2補強部材42~44の構成と、連結部材5に設けられる補強板部58の構成が第1実施形態と相違している。以下、これらの相違点を順次説明する。
【0038】
第2実施形態の第2ボルトB2は、上下一対の連結部材5の互いに対向する対向部位(補助杭締結板部52)と、該対向部位間に挿入された補助杭4(上下のフランジ4a)を上下方向に貫通するロングボルトで構成されている。第1実施形態では、上下一対の連結部材5に対する補助杭4の締結に際して8本の第2ボルトB2が必要であったが、第2実施形態は、第2ボルトB2を4本に削減できるだけでなく、上下の連結部材5に対する補助杭4の締結を同時に行うことができる。また、連結作業時に閉空間となる補助杭4のフランジ内側面に事前にナットを配置(溶接)するような作業も不要となるので、土留壁1の施工性を大幅に向上させることができる。なお、第1実施形態では、すべての第2ボルトB2をショートボルトとし、第2実施形態では、すべての第2ボルトB2をロングボルトとしているが、第2ボルトとして、ショートボルトとロングボルトを混在させてもよい。
【0039】
また、第2実施形態では、補助杭4が上下一対の連結部材5に連結されたとき、側面視において、補助杭4の複数の第2補強部材42~44と、上下一対の連結部材5の複数の連結板部53とが上下方向に直線状に並ぶ配置構成となっている。具体的に説明すると、第2補強部材42~44は、前後方向において第2ボルトB2の貫通空間を挟むように補助杭4に3枚設けられ、補助杭4が上下一対の連結部材5に連結されたとき、側面視において、上下一対の連結部材5の3枚の連結板部53とが上下方向に直線状に並ぶ。これにより、補助杭4の連結部材5との連結部分を強固に補強できるだけでなく、補助杭4から親杭2に対するモーメントの伝達をより確実に行うことが可能になる。なお、第2補強部材42~44の枚数は、2枚であってもよいし、4枚以上であってもよい。
【0040】
また、第1実施形態及び第2実施形態の連結部材5は、複数の連結板部53同士を一体的に連結する補強板部54、55、58を備えるが、第1実施形態の連結部材5では、連結板部53の上端部同士を連結する第1補強板部54と、連結板部53の下端部同士を連結する第2補強板部55とを設けているのに対し、第2実施形態の連結部材5では、外側の連結板部53の上下方向中間部同士を連結する1本の補強板部58(例えば、断面L字形のアングル材)を設けている。このような第1実施形態及び第2実施形態の連結部材5によれば、連結部材5自体の変形をさらに抑制し、補助杭4から親杭2に対するモーメントの伝達をより確実に行うことが可能になる。また、第2実施形態の連結部材5では、外側の連結板部53の上下方向中間部同士を補強板部58で連結することのよって補強効率が高められるので、1本の補強板部58でも十分な補強効果が得られる。
【0041】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。例えば、土留壁1は、仮設構造物として適用される他、そのまま本設構造物としての利用も可能である。本設構造体とした土留壁1は、立体交差道路の堀割道路の擁壁、造成地盤などにおける盛土擁壁、腹付け盛土の擁壁、もたれ擁壁として適用することができる(例えば、特開2017-197950号公報参照)。また、土留壁1を大深度掘削に適用する場合は、補助杭4だけでなく、グランドアンカーを併用してもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 土留壁
2 親杭
2a フランジ
2b ウェブ
2c 溝部
3 横矢板
4 補助杭
4a フランジ
4b ウェブ
4c 溝部
41 第1補強部材
41a ボルト挿通孔
42~44 第2補強部材
5 連結部材
51 親杭締結板部
52 補助杭締結板部
53 連結板部
54 第1補強板部
55 第2補強板部
56 開口部
57 エンドプレート
58 補強板部
6 掴み代部材
6a フランジ
6b ウェブ
61 掴み代側継手部材
U 連結ユニット
B1 第1ボルト
B2 第2ホルト
B3 第3ボルト