(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176043
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】菌又はウイルスの不活化装置、及び菌又はウイルスの不活化処理方法
(51)【国際特許分類】
A61L 2/10 20060101AFI20221117BHJP
A61L 9/20 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
A61L2/10
A61L9/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021182284
(22)【出願日】2021-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2021082151
(32)【優先日】2021-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥村 善彦
(72)【発明者】
【氏名】小川 義正
【テーマコード(参考)】
4C058
4C180
【Fターム(参考)】
4C058AA23
4C058BB06
4C058DD16
4C058KK02
4C058KK23
4C058KK28
4C180AA07
4C180DD03
4C180HH17
4C180HH19
4C180LL04
(57)【要約】
【課題】人に対する紫外光の照射を抑制しつつ、装置周辺の領域を効率的に不活化処理することができる菌又はウイルスの不活化装置、及び菌又はウイルスの不活化処理方法を提供する。
【解決手段】筐体と、筐体内に配置された、紫外光を出射する光源部と、光源部から出射された紫外光を、筐体の外側に取り出すための光出射窓と、光出射窓から出射された前記紫外光の少なくとも一部を、筐体の周囲に導くように筐体側に向かって反射する反射部材とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
前記筐体内に配置された、紫外光を出射する光源部と、
前記光源部から出射された前記紫外光を、前記筐体の外側に取り出すための光出射窓と、
前記光出射窓から出射された前記紫外光の少なくとも一部を、前記筐体の周囲に導くように前記筐体側に向かって反射する反射部材とを備えることを特徴とする菌又はウイルスの不活化装置。
【請求項2】
前記反射部材は、前記光出射窓から出射された前記紫外光の一部を、前記筐体の周囲に導くように前記筐体側に向かって反射すると共に、前記紫外光の他の一部を前記光出射窓と平行な平面に沿って進行させることを特徴とする請求項1に記載の菌又はウイルスの不活化装置。
【請求項3】
前記反射部材の反射面は、前記筐体側に向かって凸状に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の菌又はウイルスの不活化装置。
【請求項4】
前記反射部材は、反射面が拡散反射面であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の菌又はウイルスの不活化装置。
【請求項5】
前記反射部材は、前記光出射窓から出射された前記紫外光の一部を透過させる透過窓を備えていることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の菌又はウイルスの不活化装置。
【請求項6】
前記反射部材は、前記筐体に対して着脱可能に構成されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の菌又はウイルスの不活化装置。
【請求項7】
前記筐体は、前記光出射窓とは反対側に、前記筐体を載置するための脚部を備えることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の菌又はウイルスの不活化装置。
【請求項8】
前記反射部材は、前記光出射窓から出射された前記紫外光の一部を透過することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の菌又はウイルスの不活化装置。
【請求項9】
前記反射部材は、反射面が拡散反射面であることを特徴とする請求項8に記載の菌又はウイルスの不活化装置。
【請求項10】
前記反射部材は、互いに非平行な複数の反射面を備えることを特徴とする請求項8に記載の菌又はウイルスの不活化装置。
【請求項11】
前記反射部材の反射面は、前記筐体側に向かって凸である曲面状に形成されていることを特徴とする請求項8に記載の菌又はウイルスの不活化装置。
【請求項12】
前記反射部材が、前記光出射窓から出射された前記紫外光の一部を反射し、他の一部を透過する、紫外光制御材を有することを特徴とする請求項8に記載の菌又はウイルスの不活化装置。
【請求項13】
前記反射部材は、前記光出射窓から出射される前記紫外光に対して、当該紫外光制御材よりも高い透過率を示す、前記紫外光制御材が主面上に配置される基板を備えることを特徴とする請求項12に記載の菌又はウイルスの不活化装置。
【請求項14】
前記反射部材は、前記紫外光制御材を支持するためのフレームを備えることを特徴とする請求項12に記載の菌又はウイルスの不活化装置。
【請求項15】
請求項1に記載の不活化装置を載置して、前記光出射窓から出射された前記紫外光を前記筐体の周囲に照射することを特徴とする菌又はウイルスの不活化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菌又はウイルスの不活化装置に関し、特に紫外光を利用する菌又はウイルスの不活化装置に関する。また、本発明は、菌又はウイルスの不活化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紫外光を照射して菌やウイルスを不活化する技術が知られており、DNAが波長260nm付近に最も高い吸収特性を示すことから、多くの場合、低圧水銀ランプ等を光源とする波長が254nm付近の紫外光が利用されている。紫外光によって菌やウイルスを不活化する方法は、薬剤等を散布することなく、処理対象空間や処理対象物に紫外光を照射するだけで殺菌処理が行うことができるという特徴がある。
【0003】
しかし、特定の波長帯の紫外光は、人体に照射すると、人体に影響を及ぼすリスクがあることが知られている。このため、人に紫外光を照射しないように、空間内に存在する菌やウイルスを不活化するための方法や装置が検討されている。
【0004】
例えば、下記特許文献1には、空間内の天井に吊るすように設置して、殺菌用ランプから出射される紫外光が空間内にいる人に直接照射されないように、天井側に向かって出射する殺菌灯が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、本発明者は、不活化装置の構成について鋭意検討を行っていたところ、以下のような課題が存在することを見出した。
【0007】
天井から床に向かって紫外光を照射する構成や、床やテーブルに載置して天井に向かって紫外光を照射する構成の不活化装置は、空間内に人が存在している場合に、紫外光を空間内にいる人に照射してしまうおそれがある。
【0008】
そして、上記特許文献1に記載されているような殺菌灯は、殺菌灯と天井との間の領域には紫外光が照射されるが、殺菌灯の周辺には、光出射窓から出射される紫外光がほとんど照射されず、非常に狭い領域しか不活化処理が行われていなかった。
【0009】
また、殺菌灯を天井に設置して、天井から床に向かって紫外光を照射するような場合、殺菌灯と、照射対象物やテーブル上面や床における照射対象領域等との離間距離が大きくなりやすい。そして、照射対象物に照射される紫外光の照度は、紫外光の進行距離が長くなるほど低下してしまう。このため、天井に設置した殺菌灯では、天井から離れた照射対象物や、テーブル上面や床等の照射対象領域を効率的に不活化処理することが困難であった。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑み、人に対する紫外光の照射を抑制しつつ、装置周辺の領域を効率的に不活化処理することができる菌又はウイルスの不活化装置、及び菌又はウイルスの不活化処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の菌又はウイルスの不活化装置は、
筐体と、
前記筐体内に配置された、紫外光を出射する光源部と、
前記光源部から出射された前記紫外光を、前記筐体の外側に取り出すための光出射窓と、
前記光出射窓から出射された前記紫外光の少なくとも一部を、前記筐体の周囲に導くように前記筐体側に向かって反射する反射部材とを備えることを特徴とする。
【0012】
また、上記不活化装置において、
前記反射部材は、前記光出射窓から出射された前記紫外光の一部を、前記筐体の周囲に導くように前記筐体側に向かって反射すると共に、前記紫外光の他の一部を前記光出射窓と平行な平面に沿って進行させるように構成されていても構わない。
【0013】
本明細書において、「不活化」とは、菌やウイルスを死滅させる又は感染力や毒性を失わせることを包括する概念を指し、「菌」とは、細菌や真菌(カビ)等の微生物を指す。以下において、「菌又はウイルス」を「菌等」と総称することがある。
【0014】
上記構成とすることで、光出射窓から出射された紫外光のうちの少なくとも一部が、筐体周辺の領域(空間や物体表面)に照射される。このため、従来の不活化装置では紫外光が照射されず、不活化処理がされなかった不活化装置周辺の領域に対して、紫外光を照射することができ、当該領域に存在する菌等を不活化処理することができる。
【0015】
また、上記構成の不活化装置は、不活化処理の対象となる照射対象物の近傍や、照射対象領域となる空間の近傍、テーブル上面や床等に設置することで、照射対象物や照射対象領域の近傍から紫外光を照射することができる。つまり、天井から床に向かって紫外光を照射する構成と比較すると、照射対象物や照射対象領域に対して照射される紫外光の照度の低下が抑制され、照射対象物や照射対象領域を効率的に不活化処理することができる。
【0016】
上記不活化装置において、
前記光源部は、190nm以上240nm未満の波長範囲内にピーク波長を有する紫外光を出射するものであっても構わない。
【0017】
さらに、上記不活化装置において、
前記光出射窓は、少なくとも240nm以上280nm未満の波長範囲内の光強度を抑止するための光学フィルタを備えていても構わない。
【0018】
図21は、たんぱく質の紫外光領域における吸光度特性を示すグラフである。
図21に示すように、たんぱく質は、波長200nmに吸光ピークを有し、波長240nm以上では紫外光が吸収されにくいことがわかる。波長が240nm以上の紫外光は、人の皮膚を透過しやすく、皮膚内部まで浸透する。そのため、人の皮膚内部の細胞がダメージを受けやすい。これに対して、波長240nm未満の紫外光は、人の皮膚表面(例えば角質層)で吸収されやすく、皮膚内部まで浸透し難い。そのため、皮膚に対して安全性が高くなる。
【0019】
一方で、波長190nm未満の紫外光が存在すると、大気中に存在する酸素分子が光分解されて酸素原子を多く生成し、酸素分子と酸素原子との結合反応によってオゾンを多く生成させてしまう。そのため、波長190nm未満の紫外光を大気中に照射させることは望ましくない。
【0020】
したがって、波長が190nm以上240nm未満の範囲内の紫外光は、人や動物に対する安全性が高い紫外光であるといえる。なお、人や動物に安全性をより高める観点から、光源部から出射される紫外光は、波長範囲が190nm以上237nm以下の範囲内であることが好ましく、190nm以上235nm以下の範囲内であることがより好ましく、190nm以上230nm以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0021】
本発明の対象製品は、人や動物の皮膚や目に紅斑や角膜炎を起こすことはなく、紫外光本来の殺菌、ウイルスの不活化能力を提供することができる。特に、従来の紫外光源とは異なり、有人環境で使用できるという特徴を生かし、屋内外の有人環境に設置することで、環境全体を照射することができ、空気と環境内設置部材表面のウイルス抑制・除菌を提供することができる。
【0022】
このことは、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標3「あらゆる年齢の全ての人々が健康的な生活を確保し、福祉を促進する」に対応し、また、ターゲット3.3「2030年までに、エイズ、結核、マラリア及び顧みられない熱帯病といった伝染病を根絶すると共に、肝炎、水系感染症及びその他の感染症に対処する」に大きく貢献するものである。
【0023】
上記不活化装置において、
前記反射部材の反射面は、前記筐体側に向かって凸状に形成されていても構わない。
【0024】
例えば、反射部材が角錐形状や角錐台形状等の多面体状であって、反射面の凸側が光出射窓側と対向するように設けられていた場合、光出射窓から出射されて反射面に入射した紫外光は、筐体から周方向に離れた位置に照射されることになる。そのため、紫外光が広範囲にわたって照射される。
【0025】
上記不活化装置において、
前記反射部材の反射面は、前記筐体側を凸とする曲面状に沿って形成されていても構わない。
【0026】
例えば、反射部材が半球面状であって、反射面の頂点が光出射窓と対向するように設けられていた場合、光出射窓から出射されて反射面の頂点周辺に入射した紫外光は、筐体の近傍、又は筐体に照射される。そして、頂点から離れる程、反射面は光出射窓に対して傾斜角度が大きくなるため、反射面の頂点から離れた位置に入射した紫外光ほど、筐体から遠い位置に照射されることになる。つまり、反射面が光出射窓に対する傾斜角度が一定の平面状であった場合と比較すると、より広範囲にわたって紫外光が照射されることになる。そして、上述したような効果は、反射面が半球面状である場合に限られず、放物面状や半扁球状、半長円状等の筐体側を凸とする曲面状であれば同様に得られる。
【0027】
したがって、上記構成とすることで、不活化装置は、装置周辺の領域のより広範囲にわたって、紫外光を照射することができる。したがって、不活化装置周辺の領域を、広範囲にわたって菌等の不活化処理をすることができる。
【0028】
上記不活化装置において、
前記反射部材は、反射面が拡散反射面であっても構わない。
【0029】
上記構成とすることで、反射部材の反射面に入射した紫外光は、単に正反射する場合と比較して、拡散されてより広範囲に照射される。したがって、不活化装置周辺の領域を、より広範囲にわたって菌等の不活化処理をすることができる。
【0030】
上記不活化装置において、
前記反射部材は、前記光出射窓から出射された前記紫外光の一部を透過させる透過窓を備えていても構わない。
【0031】
上記構成とすることで、不活化装置周辺の不活化処理と同時に、反射部材から見て、筐体とは反対側の領域にも紫外光を照射して菌等の不活化処理をすることができる。
【0032】
上記不活化装置において、
前記反射部材は、前記筐体に対して着脱可能に構成されていても構わない。
【0033】
上記構成とすることで、使用用途や、空間内の構造や配置されている備品の位置等に応じて、光出射窓から出射される紫外光の照射方向を容易に調整することができる。
【0034】
また、既に設置されている不活化装置に対して、追加的に反射部材を設けることで、装置周辺に紫外光を照射できる不活化装置を簡単に構成することができる。
【0035】
なお、本発明の不活化装置に搭載される反射部材は、反射面が所定の角度に固定されている反射部材である必要はなく、例えば、ネジの締め具合等で反射面の角度を調整できるように構成されていても構わない。
【0036】
上記不活化装置において、
前記筐体は、前記光出射窓とは反対側に、前記筐体を載置するための脚部を備えていても構わない。
【0037】
上記不活化装置において、
前記反射部材は、前記光出射窓から出射された前記紫外光の一部を透過するように構成されていても構わない。
【0038】
上記構成とすることで、不活化装置周辺の不活化処理と同時に、反射部材から見て、筐体とは反対側の領域に対し、広範囲にわたって紫外光を照射して菌等の不活化処理をすることができる。
【0039】
なお、本願出願日の時点では、人体に対して1日(8時間)あたりの紫外光の照射量に関して、ACGIH(American Conference of Governmental Industrial Hygienists:米国産業衛生専門家会議)やJIS Z 8812(有害紫外放射の測定方法)等によって、波長ごとの許容限界値(TLV:Threshold Limit Value)が定められている。つまり、人間が存在する環境下で紫外光が利用される場合には、所定の時間内に照射される紫外光の積算照射量がTLVの基準値以内となるように、光源部の放射強度や点灯時間を決定することが推奨されている。したがって、不活化装置は、光出射窓から出射された紫外光の一部を透過するように構成される場合、光出射窓に対面する方向において、上記許容限界値を厳守するような光照射を行うことが望ましい。
【0040】
上記不活化装置において、
前記反射部材は、互いに非平行な複数の反射面を備えていても構わない。
【0041】
上記不活化装置において、
前記反射部材の反射面は、前記筐体側に向かって凸である曲面状に形成されていても構わない。
【0042】
上記不活化装置において、
前記反射部材は、前記光出射窓から出射された前記紫外光の一部を反射し、他の一部を透過する、紫外光制御材を有していても構わない。
【0043】
ここでいう「紫外光制御材」とは、材質、形状、厚み等を調整することで、光出射窓から出射される紫外光に対する透過率と反射率とを制御可能な部材である。例えば、紫外光の一部を透過し、他の一部を反射する特性を有する材料からなる薄膜状、フィルム状、シート状、又は板状の部材であって、厚みを調整することによって、紫外光に対する透過率と反射率とを調整できる部材を採用し得る。
【0044】
上記不活化装置において、
前記反射部材は、前記光出射窓から出射される前記紫外光に対して、当該紫外光制御材よりも高い透過率を示す、前記紫外光制御材が主面上に配置される基板を備えていても構わない。
【0045】
上記不活化装置において、
前記反射部材は、前記紫外光制御材を支持するためのフレームを備えていても構わない。
【0046】
本発明の菌又はウイルスの不活化処理方法は、
上記不活化装置を載置して、前記光出射窓から出射された前記紫外光を前記筐体の周囲に照射することを特徴とする。
【0047】
上記構成、又は上記方法によれば、不活化処理を行いたい任意の場所に不活化装置を載置して、不活化装置の周辺の不活化処理をしつつ、床面や卓上面に付着した菌等を不活化処理することができる。
【発明の効果】
【0048】
本発明によれば、人に対する紫外光の照射を抑制しつつ、装置周辺の領域を効率的に不活化処理することができる菌又はウイルスの不活化装置、及び菌又はウイルスの不活化処理方法が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】不活化装置の一実施形態を模式的に示す図面である。
【
図2】
図1の不活化装置をX方向に見たときの断面図である。
【
図3】
図1の不活化装置を+Z側から見たときの図面である。
【
図4】
図3の不活化装置から反射部材を取り除いた図面である。
【
図5】不活化装置からテーブルに対して紫外光が照射されている状態を+Z側から見たときの図面である。
【
図6】不活化装置の配光特性を検証している状態を示す模式的な図面である。
【
図7】不活化装置の配光特性の検証結果を示すグラフである。
【
図8】不活化装置からテーブルに対して紫外光が照射されている状態を+Z側から見たときの図面である。
【
図9】不活化装置の一実施形態をX方向に見たときの模式的な断面図である。
【
図10】不活化装置の一実施形態をY方向に見たときの模式的な断面図である。
【
図11】不活化装置からテーブルに対して紫外光が照射されている状態を+Z側から見たときの図面である。
【
図12】不活化装置の一実施形態をX方向に見たときの模式的な図面である。
【
図13】不活化装置の一実施態様を示す模式的な図面である。
【
図15】不活化装置の配光特性の検証結果を示すグラフである。
【
図16】不活化装置の一実施形態を模式的に示す図面である。
【
図17】不活化装置の一実施形態を模式的に示す図面である。
【
図18】不活化装置の一使用態様を模式的に示す図面である。
【
図19】不活化装置の一使用態様を模式的に示す図面である。
【
図20】不活化装置の別実施形態をY方向から見たときの模式的な図面である。
【
図21】たんぱく質の紫外光領域における吸光度特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明の不活化装置について、図面を参照して説明する。なお、以下の各図面は、いずれも模式的に図示されたものであり、図面上の寸法比や個数は、実際の寸法比や個数と必ずしも一致していない。
【0051】
[第一実施形態]
図1は、不活化装置1の第一実施形態を模式的に示す図面である。そして、
図2は、
図1の不活化装置1をX方向に見たときの断面図であって、
図3は、
図1の不活化装置1を+Z側から見たときの図面である。
図1に示すように、不活化装置1は、光出射窓10aが形成された筐体10と、反射部材11と、載置するための脚部12とを備える。そして、
図2に示すように、筐体10は、内側に光源部20を備える。
【0052】
第一実施形態の不活化装置1は、水平面であるテーブル2の上面2aに載置して用いられる構成で説明するが、本発明の不活化装置1は、床、天井、壁、さらには、空間内に設置されたポールに固定された状態で使用すること等も想定される。なお、例えば、天井に設置して使用する場合や、ポールに固定して使用するような場合は、不活化装置1は、脚部12が設けられていなくても構わない。
【0053】
以下の説明においては、
図1及び
図2に示すように、筐体10と反射部材11とが対向する方向をZ方向とし、
図3に示すように、後述するネジ11bによる反射部材11の固定位置の配列方向をX方向とし、X方向とZ方向に直交する方向をY方向として説明する。なお、以下説明においては、Z方向が鉛直方向、X方向とY方向からなるXY平面が水平面として説明される。
【0054】
また、方向を表現する際に、正負の向きを区別する場合には、「+Z方向」、「-Z方向」のように、正負の符号を付して記載され、正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「Z方向」と記載される。
【0055】
筐体10は、
図1に示すように、紫外光L1を外側に向けて出射する光出射窓10aを備える。光出射窓10aは、XY平面に平行な壁面に、後述される光源部20から出射される紫外光L1に対して透過性を示す材料で形成されている。光出射窓10aを構成する具体的な材料は、例えば、石英ガラスやサファイアガラス等を採用し得る。また、光出射窓10aは、開口であっても構わない。
【0056】
第一実施形態における光出射窓10aは、人体に対する影響を抑止して安全性を向上させるために、240nm~280nmの波長範囲の光強度を抑止するための、図示されない光学フィルタが設けられている。ただし、光源部20から出射される紫外光L1のスペクトルにおいて、240nm~280nmの波長域の光強度が、十分低いような場合は、光学フィルタが設けられていなくても構わない。
【0057】
反射部材11は、
図1に示すように、光出射窓10aから出射された紫外光L1を、テーブル2の上面2aに向かって反射させるための反射面11aが形成されている。第一実施形態の反射部材11は、
図3に図示されている二つのネジ11bを付け外しすることによって容易に着脱することができるように構成されているが、反射部材11は筐体10に固定、又は一体的に構成されていても構わない。このように、反射部材11は、光出射窓10aから出射された紫外光L1を、筐体10が配置された面に向かって反射させることで、筐体10の周囲の領域(ここでは筐体が配置された面)に紫外光L1を照射することができる。また、反射部材11は、光出射窓10aから出射された紫外光L1を、光出射窓10aと平行なXY平面に沿う方向に反射させることで、筐体10の周囲の領域(ここでは筐体の周囲の空間)に紫外光L1を照射することができる。
【0058】
また、
図1に示すように、反射部材11をネジ11bで固定する部分の一方には、バネ11cが設けられており、バネ11cが設けられている側のネジ11bの締め具合によって、反射部材11の反射面11aの角度を調整することができる。なお、第一実施形態における、反射部材11の固定方法や角度を調整するための機構は、単なる一例であって、別の構成を採用しても構わない。
【0059】
反射部材11は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を母材として構成されている。反射部材11の母材としては、紫外光に対して透過性を有する樹脂であることが好ましく、短波長域の紫外光に対しても耐性が高いフッ素樹脂であることがより好ましく、PTFEやアルミニウム等であることが特に好ましい。
【0060】
第一実施形態における反射部材11は、母材であるPTFE自体が反射面11aを構成しており、PTFEで形成された反射面11aは、紫外光L1を拡散反射する拡散反射面を形成している。なお、各図面において図示されている紫外光L1は、説明の便宜のために、全て正反射しているものとして進行経路が図示されている。
【0061】
第一実施形態における反射部材11の各反射面11aは、光出射窓10aが形成されている平面であるXY平面に対して35°傾斜するように設けられている。反射部材11の反射面11aの傾斜角度は、光出射窓10aが形成されている平面に対して、25°~45°の範囲内であることが好ましく、30°~40°の範囲内であることがより好ましい。
【0062】
図4は、
図3の不活化装置1から反射部材11を取り除いた図面であり、
図1とは異なり、筐体10内の構成が確認できるように、光出射窓10aにハッチングが施されていない。第一実施形態における光源部20は、
図4に示すように、二つの電極20b上に載置された複数の管体20aからなるエキシマランプで構成されている。
【0063】
管体20aには、発光ガスとしてクリプトン(Kr)と塩素(Cl)が封入されており、電極20b間に所定の閾値以上の電圧が印加されると、管体20aからピーク波長が222nmの紫外光L1が出射される。なお、第一実施形態における光源部20は、エキシマランプで構成されているが、菌等の不活化処理に利用できる波長帯の紫外光を出射できる光源であれば、例えば、LEDで構成されていても構わない。
【0064】
光源部20から出射された紫外光L1は、
図2に示すように、光出射窓10aから筐体10の外側へと出射されて、反射部材11の反射面11aに向かって進行する。そして、反射部材11の反射面11aに入射した紫外光L1の一部は、筐体10の周辺に照射されるように、筐体10側(すなわち-Z側)に向かって反射される。
【0065】
図5は、第一実施形態の不活化装置1からテーブル2に対して紫外光L1が照射されている状態を+Z側から見たときの図面である。なお、説明の便宜のため、紫外光L1が照射される領域については、不活化装置1が備える各部材によって遮光される部分等は考慮されていない。
図5に示すように、水平面であるテーブル2の上面2aに載置された第一実施形態の不活化装置1は、テーブル2の上面2aにおける筐体10の周囲の領域A1に対して紫外光L1を照射する。
【0066】
ここで、第一実施形態の不活化装置1における、X方向及びY方向における配光特性を確認する検証実験を行ったので、当該検証内容と検証結果について説明する。
【0067】
図6は、不活化装置1の配光特性を検証している状態を示す模式的な図面である。
図6に示すように、不活化装置1の+Z側に紫外光L1を受光して紫外光L1の照度を測定する受光器C1を、反射部材11の反射面11aから500mmだけ離間した位置に配置して、所定の方向に10°ずつ回転させて、それぞれの角度θにおいて受光器C1が受光する紫外光L1の照度を測定した。
【0068】
なお、回転させる方向について、
図6には不活化装置1の光源部20の中心を通過するX軸の周りに回転させている状態が図示されているが、不活化装置1の光源部20の中心を通過するY軸の周りに回転させる場合も同様に測定した。X軸の周りに回転させた場合は、不活化装置1からY方向に出射される紫外光L1の配光特性が得られ、Y軸の周りに回転させた場合は、不活化装置1からX方向に出射される紫外光L1の配光特性が得られる。
【0069】
図7は、不活化装置1の配光特性の検証結果を示すグラフであって、横軸は、回転させた角度θを示し、縦軸は、最も高い照度を示す角度θでの照度を100%とした相対照度を示している。
【0070】
図7に示すように、0°~±30°の範囲では、光出射窓10aから出射された紫外光L1が反射部材11によって遮られてしまい、紫外光L1が受光器C1にほとんど到達しないため、相対照度がほぼ0%となっている。
【0071】
±40°~±100°の範囲では、
図6に示すように、反射部材11によって反射した紫外光L1が、受光器C1に到達するようになり、光出射窓10aと平行なXY平面上を進行する紫外光L1に相当する、±90°付近で照度がピークとなっている。なお、X方向及びY方向、角度θの正負における相対照度の差は、実際の反射部材11の非対称な構造や、検証環境によって生じるズレ等に起因して生じている。
【0072】
±110°~±180°の範囲では、筐体10の光出射窓10aとは反対側の面が、受光器C1側に向くため、紫外光L1が受光器C1にほとんど到達せず、相対照度がほぼ0%となっている。
【0073】
θが±90°において高い照度が測定されていることから、紫外光L1の相対照度、第一実施形態の不活化装置1において、光出射窓10aから出射された紫外光L1の一部は、光出射窓10aと平行なXY平面上を進行することがわかる。これにより、筐体10の周囲に紫外光L1が照射されることがわかる。また、θが±100°においても、数%の相対照度が測定されていることから、第一実施形態の不活化装置1は、光出射窓10aから出射された紫外光L1の少なくとも一部が、筐体10側に向かって反射されて、
図5に示すように、筐体10の周囲に照射されることがわかる。
【0074】
以上より、上記構成とすることで、不活化装置1は、光出射窓10aから出射された紫外光L1のうちの少なくとも一部が、筐体10周辺の領域A1に照射される。このため、従来の不活化装置では紫外光が照射されず、不活化処理がされなかった不活化装置1の周辺について不活化処理することができる。
【0075】
第一実施形態における反射部材11は、反射面11aが四角錘形状の側面に沿うような形状で、X方向とY方向に向くように配置された四つ平面で構成されているが、反射面11aは、円錐形状の側面に沿うような形状で構成されていても構わない。
【0076】
図8は、反射部材11の反射面11aが円錐形状の側面に沿うような形状で形成された不活化装置1からテーブル2に対して紫外光L1が照射されている状態を+Z側から見たときの図面である。上記構成とすることで、
図8に示すように、筐体10の周辺における紫外光L1が照射される領域A2は、
図5に示す領域A1とは異なり、Z軸を中心とした周方向に連続的な領域となる。つまり、筐体10の周辺に対する紫外光L1の照射ムラが抑制される。
【0077】
第一実施形態の反射部材11の反射面11aは、PTFEによって拡散反射面が形成されているが、反射部材11の反射面11aは、紫外光L1を拡散させる特性が抑制された反射面11aであっても構わない。紫外光L1を拡散させる特性が抑制された反射面11aは、例えば、PTFEで構成された母材に、アルミニウム等の反射膜が形成された反射面11aである。
【0078】
また、第一実施形態の反射部材11は、PTFEによって紫外光L1を拡散反射する反射面11aが形成されているが、例えば、母材としてPTFE以外の材料を用いて、反射面11aに凹凸を形成して紫外光L1を拡散反射するように構成されていても構わない。
【0079】
[第二実施形態]
本発明の不活化装置1の第二実施形態の構成につき、第一実施形態と異なる箇所を中心に説明する。
【0080】
図9は、不活化装置1の第二実施形態をX方向に見たときの模式的な断面図であって、
図10は、不活化装置1の第二実施形態をY方向に見たときの模式的な断面図である。
図9及び
図10に示すように、第二実施形態の不活化装置1が備える反射部材11は、筐体10側を凸とする曲面状に沿って反射面11aが構成されている。
【0081】
図11は、第二実施形態の不活化装置1からテーブル2に対して紫外光が照射されている状態を+Z側から見たときの図面である。上記構成とすることで、
図11に示すように、テーブル2上に載置された第二実施形態の不活化装置1は、不活化装置1とテーブル2の上面2aにおける筐体10の周囲の領域A3に対して紫外光L1を照射する。
【0082】
上記構成とすることで、不活化装置1の筐体10の側面も含め、より広範囲にわたってムラなく紫外光L1を照射することができる。
【0083】
第二実施形態における反射部材11は、半球状の反射面11aが形成されているが、反射面11aの形状は,半球面状ではなく、放物面状や半扁球状、半長円状等の筐体10側を凸とする曲面状であっても構わない。
【0084】
[第三実施形態]
本発明の不活化装置1の第三実施形態の構成につき、第一実施形態及び第二実施形態と異なる箇所を中心に説明する。
【0085】
図12は、不活化装置1の第三実施形態をX方向に見たときの模式的な図面である。
図12に示すように、第三実施形態の不活化装置1が備える反射部材11は、光出射窓10aから出射された紫外光L1の一部を透過させる透過窓11wを備えている。
【0086】
上記構成とすることで、光源部20から出射された紫外光L1を、反射部材11の+Z側の領域に照射することができ、反射部材11の+Z側の領域も同時に不活化処理することができる。
【0087】
第三実施形態の不活化装置1が備える反射部材11の透過窓11wは、紫外光L1に対して透過性を示す材料で構成されているが、紫外光L1を通過させる開口であっても構わない。なお、透過窓11wを形成する材料としては、例えば、石英ガラスやサファイアガラス、薄厚のPTFE等を採用し得る。
【0088】
また、透過窓11wが紫外光L1に対して透過性を示す材料で形成されている場合、透過窓11wには、例えば、表面に凹凸形状等を構成して、入射した紫外光L1を拡散させる拡散面が形成されていても構わない。透過窓11wから紫外光L1が出射される際に、透過窓11wの表面等で拡散されることで、不活化装置1は、反射部材11の+Z側の領域の、より広い範囲にわたって紫外光L1を照射することができる。
【0089】
[第四実施形態]
本発明の不活化装置1の第四実施形態の構成につき、第一実施形態~第三実施形態と異なる箇所を中心に説明する。
【0090】
図13は、不活化装置1の第四実施形態を模式的に示す図面であり、
図14は、
図13に示す反射部材11を分解した状態の図面である。第四実施形態における反射部材11は、
図14に示すような四枚のシート状の紫外光制御材11pが、それぞれフレーム11fの所定の位置に嵌め込まれて、互いに非平行な複数の反射面11aが形成されている。
【0091】
なお、第四実施形態における反射部材11の反射面11aは、いずれの面もXY平面に対して、30°傾斜するように構成されているが、当該傾斜角度は、紫外光を照射する領域や方向に応じて任意に調整されても構わない。
【0092】
図13に示す反射部材11の形状と、
図14に示す紫外光制御材11pの形状からわかるように、第四実施形態の反射部材11は、光出射窓10aと平行な平面、すなわちXY平面と平行な反射面11aが構成されていない。このため、光出射窓10aから出射された紫外光L1が、再び光出射窓10aに向かい、筐体10内の光源部20にほとんど照射されない。このため、出射される紫外光L1を有効利用でき、さらには、光源部20を構成する管体20aや電極20bの紫外光による劣化が抑制され、長寿命化が図られる。
【0093】
なお、管体20aの材質や電極20bの材質、光出射窓10aを通過することによる紫外光強度の減衰率等から、光出射窓10aから出射されて紫外光制御材11pで反射された紫外光が光源部20に照射されても問題が無い場合には、反射部材11は、XY平面と平行な反射面11aを備えるように構成されていても構わない。
【0094】
紫外光制御材11pは、
図13に示すように、光出射窓10aから出射された光の一部を反射し、他の一部を透過する。
図13においては、紫外光制御材11pの反射面11aで反射された光が反射光L2(二点鎖線矢印)、紫外光制御材11pを透過した光が透過光L3(破線矢印)として図示されている。
【0095】
第四実施形態における紫外光制御材11pは、PTFEを材料とする厚さが0.5mmのシート状の部材であり、波長が222nmの紫外光に対する透過率が10%、反射率が90%となるように設計されている。なお、光出射窓10aから出射される紫外光L1に対する透過率及び反射率は、使用用途や使用場所に応じて、紫外光制御材11pの材料や厚さによって適宜調整されるが、不活化装置周辺を重点的に不活化処理しつつ、人に照射される紫外光をできる限り抑制する観点から、反射率が透過率よりも大きくなるように構成されていることが好ましい。また、紫外光制御材11pを構成する材料としては、紫外光に対して透過性を有する樹脂であることが好ましく、短波長域の紫外光に対しても耐性が高いフッ素樹脂であることがより好ましく、具体的には、PTFEの他に、例えば、アルミニウム等を採用し得る。
【0096】
さらに、反射部材11は、反射光L2や透過光L3を拡散させる特性を有する部材であることが好ましい。反射部材11に入射する紫外光L1が、反射部材11の反射面11aによって反射されると共に拡散されること、又は透過すると共に拡散されることによって、より広範囲に紫外光を照射することができる。上述したような特性を有するような部材は、例えば、PTFEを材料としたシート状や板状の部材によって実現される。また、他の実現方法としては、紫外光が出射する出射面に凹凸を形成する方法等が採用され得る。
【0097】
実施態様における一例ではあるが、居住空間や職場空間等のような人が往来する空間内の、例えば、天井付近や壁等に設置した不活化装置1は、紫外光制御材11pで反射された反射光L2は、不活化装置周辺を重点的に不活化処理しつつ、紫外光制御材11pを透過した透過光L3は、人が往来する空間に対して照射することができる。ここで、人が往来する空間に対して照射される透過光L3は、ACGIHによって規定されている許容限界値を遵守できるよう照度や照射量を調整することが望ましい。この際、ACGIHによって規定されている許容限界値を遵守する観点と、効率的に不活化処理を実施する観点から、反射光L2の光強度が透過光L3の光強度よりも大きくなるよう、紫外光制御材11pの紫外光L1に対する反射率が透過率よりも大きいことが望ましい。
【0098】
所定の実施態様における一例ではあるが、ACGIHによって規定されている許容限界値を遵守する観点と、効率的に不活化処理を実施する観点から、居住空間や職場空間等のような、天井付近に設置した不活化装置1と、光出射窓10aに対向する空間内を移動する人との距離が1m程度しか確保できないような場合、PTFEを材料とする紫外光制御材11pの厚さは、0.75mm以上1.00mm以下であることが好ましく、0.80mm以上0.95mm以下であることがより好ましい。
【0099】
また、駅構内やホテルのフロント等、天井付近に設置した不活化装置1と、光出射窓10aに対向する空間内を移動する人との距離が1.5m程度確保できるような場所では、上記と同様の観点により、PTFEを材料とする紫外光制御材11pの厚さは、0.25mm以上0.50mm以下とすることが好ましく、0.30mm以上0.45mm以下とすることがより好ましい。
【0100】
フレーム11fは、
図13に示すような反射面11aを形成するように各紫外光制御材11pを支持するための部材である。第四実施形態におけるフレーム11fは、
図13に示すように、各紫外光制御材11pが所定の位置に嵌め込まれる構成であって、反射部材11として組み立てられた状態において各紫外光制御材11pのそれぞれの辺(稜線)に沿う形状を呈している。フレーム11fは、紫外光制御材11pを支持して反射部材11として所定の形状を維持できるのであれば、材料及び形状は任意であるが、頻繁なメンテナンスや急速な劣化を避けるために、フレーム11fの材料は、紫外光による劣化が少ない金属や樹脂であることが好ましい。より具体的には、フレーム11fの材料は、例えば、アルミニウムやステンレス等を採用し得る。
【0101】
ここで、
図13に示す構成の不活化装置1において、反射部材11がある場合とない場合とで、配光分布がどのように変化するかを確認するための検証実験を行ったので、その内容を説明する。
【0102】
配光分布を取得する方法は、第一実施形態の項目において
図6を参照して上述した測定方法と同様とした。また、第四実施形態における反射部材11の形状は、第一実施形態の反射部材11と反射面11aが形成されている位置や領域がほぼ同等である。そして、
図7に示すように、当該構成の反射面11aによる配光特性が、X方向及びY方向でほぼ同等となる。このため、ここでの検証は、X方向のみで比較することとした。
【0103】
不活化装置1の+Z側に紫外光L1を受光して紫外光L1の照度を測定する受光器C1を、光出射窓10aの中心から300mmだけ離間した位置に配置して、所定の方向に10°ずつ回転させて、それぞれの角度θにおいて受光器C1が受光する紫外光L1の照度を測定した。光出射窓10aと反射部材11との離間距離は10mmとした。
【0104】
図15は、
図13の不活化装置1の配光特性の検証結果を示すグラフであって、横軸は、回転させた角度θを示し、縦軸は、最も高い照度を示す角度θ(θ=0°)での照度を100%とした相対照度を示している。
図15に示すように、反射部材11がある場合は、紫外光が0°~±110°の範囲にわたって、ピーク値に対する相対強度が50%以上の紫外光を照射できている。つまり、反射部材11なしの構成では、角度θが0°~30°の範囲内の狭い範囲に集中していた紫外光が、0°~±110°の広い範囲に拡げられていることが確認される。
【0105】
なお、
図15は、反射部材11ありの場合と反射部材11なしの場合とで、角度θが0°における値が同じように図示されているが、これは相対照度によって示された結果のためである。照度の絶対値で比較すると、反射部材11ありで測定した角度θが0°における照度値は、不活化装置1の構成等によって若干の変動はあるものの、反射部材11なしで測定した照度値に対しては非常に小さい。
【0106】
まず、±120°~±180°の範囲では、
図15に示すように、
図7に示す結果と同様に相対照度がほぼ0%となっている。±110°付近の照度は、測定条件に応じて大きく変動が生じやすく、本検証においては、
図7に示す結果に対して、比較的大きな相対照度が測定された。
【0107】
0°~±30°の範囲は、ほとんどが反射部材11を透過した透過光L3となるが、紫外光制御材11pによる紫外光の吸収や、反射面11aの先端部の形状等の影響により、結果としてθ=0°の近傍が相対的に高い照度となった。
【0108】
以上より、上記構成とすることで、不活化装置1は、不活化装置1周辺の不活化処理を行うと共に、反射部材11の+Z側の領域を広範囲にわたって不活化処理することができる。さらに、紫外光制御材11pの材質、形状、厚み等を適宜調整し、使用態様に応じて光出射窓10aから出射される紫外光L1に対する透過率を調整することで、より効率的かつ安全な不活化処理を実現することができる。
【0109】
また、上述したような人が往来する空間や領域に対して紫外光の照射が想定される場合は、紫外光制御材11pの透過率を調整することにより、単位時間あたりの紫外光の照射量を調整することができる。
【0110】
人への紫外線照射が想定される場合、上述したように、光出射窓10aから出射される紫外光L1は、人や動物に対する安全性をより高める観点から、主たる波長帯域が190nm以上240nm未満の範囲内に属する紫外光であることが好ましく、190nm以上237nm以下の範囲内に属することがより好ましく、190nm以上235nm以下の範囲内に属することがさらに好ましく、190nm以上230nm以下の範囲内に属することが特に好ましい。
【0111】
また、紫外光L1は、波長帯域によって空間中の酸素に吸収されてオゾンが生成してしまうため、オゾンの発生を抑制する観点から、主たる波長帯域が200nm以上230nm以下の範囲内に属する紫外光であることが望ましい。なお、ここでいう「主たる波長帯域」とは、スペクトルにおけるピーク強度に対して、10%以上の相対強度を示す波長帯域をいう。
【0112】
なお、光源部20(
図2参照)から出射される光の主たる波長帯域の一部が240nm以上280nm未満の範囲内に属する場合は、波長240nm以上280nm未満の範囲内の光を抑止するための光学フィルタを設けても構わない。当該光学フィルタは、例えば、HfO
2層及びSiO
2層を有する誘電体多層膜による光学フィルタや、SiO
2層及びAl
2O
3層を有する誘電体多層膜による光学フィルタを用いることができる。
【0113】
本発明の不活化装置1に適用される光学フィルタは、入射面に対して入射角0度で入射した、波長190nm以上235nm以下の範囲内に属する紫外光の少なくとも一部を透過するように構成されていることが好ましい。さらに、本発明の不活化装置1に適用する光学フィルタは、波長190nm以上235nm以下の範囲内に属する紫外光のピーク強度に対して、波長240nm以上280nm以下の範囲内に属する紫外光の相対強度が、5%以下にまで抑止されるように構成されていることが好ましく、3%以下にまで抑止されるように構成されていることがより好ましく、1%以下にまで抑止されるように構成されていることが特に好ましい。
【0114】
なお、光学フィルタは、入射する角度によって透過率が異なる入射角依存性を有する場合がある。具体的には、光学フィルタに入射する紫外光の入射角が大きくなるにつれて、透過率が低下し、透過率の波長特性やピークを示す波長が短波長側にシフトする場合がある。当該特性により、光源部20と光学フィルタとの位置関係等にも依るが、出射角ごとの紫外光の強度分布が、入射角ごとの紫外光の強度分布に比べて狭小なスペクトルとなる場合が多い。
【0115】
しかしながら、不活化装置1の構成によれば、反射部材11が紫外光L1を反射及び透過することで、紫外光が広範囲に拡がることになる。したがって、不活化装置1は、光学フィルタをさらに備える構成とすることが望ましい。
【0116】
図16は、
図13とは別の不活化装置1を模式的に示す図面である。
図16に示すように反射部材11は、円錐形状の側面に沿うような形状を呈するように構成された籠状のフレーム11fに、同様に円錐形状の側面に沿うような形状を呈する紫外光制御材11pが載置されて固定されている。すなわち、
図16に示す構成の不活化装置1は、筐体10側に向かって凸である曲面状に形成された反射面11aが形成されている。なお、
図16において紫外光制御材11pの表面に図示されている一点鎖線は、紫外光制御材11pによって隠されているフレーム11fの一部を仮想的に図示した線である。
【0117】
なお、
図16に示すフレーム11f及び紫外光制御材11pは、円錐形状の側面に沿うような形状を呈しているが、
図9及び
図10に示すような、前記筐体側に向かって凸である球面に沿うような形状を呈するように構成されていても構わない。また、紫外光制御材11pは、
図14に示す構成のように、反射面11aがXY平面と平行となるように配置されていても構わない。
【0118】
さらに、反射部材11は、紫外光制御材11pが、配置された状態で所定の形状を維持できるようなシート状や板状の部材である場合、又は一つの紫外光制御材11pが、反射部材11の形状を呈するように構成されている場合等は、フレーム11fを備えていなくても構わない。上記の他にも、反射部材11は、複数のシート状の紫外光制御材11p、又は所定の形状に切り抜かれた一枚のシート状の紫外光制御材11pが、接着剤や粘着テープ、又は紫外光制御材11pの一辺を把持して連結させる部材等を用いて組み立てられた構成であっても構わない。
【0119】
[第五実施形態]
本発明の不活化装置1の第五実施形態の構成につき、第一実施形態~第四実施形態と異なる箇所を中心に説明する。
【0120】
図17は、不活化装置1の第五実施形態を模式的に示す図面である。
図17に示すように、第五実施形態における反射部材11は、紫外光を透過する材料からなる基板11dの主面上に、膜状の紫外光制御材11pが形成されて構成されている。
【0121】
第五実施形態の反射部材11は、筐体10に形成された二つの支持台(10b,10b)上に載置されて固定されている。なお、二つの支持台(10b、10b)は、載置する反射部材11のバリエーションに応じて形状を変更できるように構成されていてもよい。さらに、反射部材11を固定する方法は、当該方法に限られず、他にも筐体10に接続されたクリップや嵌合部材等によって固定する方法等であっても構わない。
【0122】
第五実施形態における基板11dは、
図17に示すように、二枚の板状の部材が一辺で接合されたような形状を呈しており、それぞれの主面が所定の角度θとなるように構成されている。
図18に示す反射部材11は、角度θが120度となるように設計されており、各反射面(11a,11a)がXY平面に対して同じ傾斜角度となるように配置されている。
【0123】
また、第五実施形態における基板11dは、紫外光制御材11pよりも光出射窓10aから出射された紫外光L1に対する透過率が高い、石英ガラスで構成されている。なお、基板11dの材料としては、石英ガラス等を採用し得る。
【0124】
上記構成とすることで、不活化装置1は、不活化装置1周辺の不活化処理を行うと共に、反射部材11の+Z側の領域を広範囲にわたって不活化処理することができる。さらに、紫外光制御材11pの材質、形状、厚み等を適宜調整し、使用態様に応じて光出射窓10aから出射される紫外光L1に対する透過率と反射率を調整することで、より効率的かつ安全な不活化処理を実現することができる。
【0125】
さらに、上記構成の不活化装置1は、フレーム11fでの固定が困難なフィルム状や膜状の紫外光制御材11pを、反射部材11を構成する部材として採用することができる。
【0126】
[別実施形態]
以下、別実施形態につき説明する。
【0127】
〈1〉
図18は、
図1とは別の不活化装置1の一使用態様を示す模式的な図面である。
図13に示すように、不活化装置1は、天井3に設置して使用しても構わない。上記構成とすることで、天井3付近における筐体10の周囲の領域A4に存在する菌等を効率的に不活化処理することができる。
【0128】
また、
図18に示す構成によれば、空間の下方に向かって紫外光L1が直接照射されない。このため、空間内に人が存在していた場合に、紫外光L1が人に直接照射されるおそれが少ない。
【0129】
図19は、
図13に示す不活化装置1の一使用態様を示す模式的な図面である。
図19に示す態様は、
図18と同様に、不活化装置1が天井3に設置されて使用される態様である。上記構成とすることで、天井3付近における筐体10の周囲の領域A4と、さらに反射部材11から見て筐体10とは反対側の領域A5に存在する菌等を不活化処理することができる。なお、
図19に示す使用態様は、第三実施形態~第五実施形態を適用することで、上記同様に筐体10の周囲の領域A4と、反射部材11から見て筐体10とは反対側の領域A5に存在する菌等を不活化処理することができる。
【0130】
図19に示す構成では、空間の下方に向かって透過光L3が照射されるが、紫外光制御材11pを透過した光は、上述したように、強度が十分に抑制されている。したがって、空間内に人が存在する場合であっても、ACGIHによって定められる許容限界値を厳守しやすく、安全性が確保されやすい。さらに、人の往来が想定される領域A5と、筐体10の周辺の領域A4とに紫外光を照射することができるため、より効率的に、空間内に存在する菌等の不活化処理を進めることができる。
【0131】
なお、ここでは、
図18及び
図19において、いずれも不活化装置1が不活化処理対象の空間の天井3に設置される態様が図示されているが、壁に設置して使用する態様等も当然に想定されている。さらに、第一実施形態の説明においても上述したように、不活化装置1は、空間内に設置されたポールに固定された状態で使用すること等も想定され、天井に設置して使用する場合や、ポールに固定して使用するような場合は、脚部12が設けられていなくても構わない。
【0132】
〈2〉
図20は、不活化装置1の別実施形態をY方向から見たときの模式的な図面である。
図20に示すように、反射部材11は、反射面11aがXY平面上に光出射窓10aと対向するように設けられていても構わない。
【0133】
上記構成は、例えば、
図2に示す構成と比較すると、より筐体10に近い領域に紫外光L1を照射することができる。また、上記構成の反射部材11は、構造が単純であるため、製造コストを抑えることができる。
【0134】
〈3〉 不活化装置1がテーブル2に載置されて使用される態様の各実施形態では、不活化装置1が水平面上に載置されることを前提として説明したが、本発明の不活化装置1は、水平面に対して傾斜した平面、曲面、凹凸のある地面等に載置して使用しても構わない。このような使用態様が想定される場合は、例えば、
図1等に示す脚部12のそれぞれが、個別に高さを調整できるような構成を採用し得る。
【0135】
〈4〉 上述した不活化装置1が備える構成は、あくまで一例であり、本発明は、図示された各構成に限定されない。
【符号の説明】
【0136】
1 : 不活化装置
2 : テーブル
2a : 上面
3 : 天井
10 : 筐体
10a : 光出射窓
11 : 反射部材
11a : 反射面
11b : ネジ
11c : バネ
11d : 基板
11f : フレーム
11p : 紫外光制御材
11w : 透過窓
12 : 脚部
20 : 光源部
20a : 管体
20b : 電極
C1 : 受光器
L1 : 紫外光
L2 : 反射光
L3 : 透過光