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特開2022-176052塗布装置、塗布方法、及び感光体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176052
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】塗布装置、塗布方法、及び感光体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B05C 3/10 20060101AFI20221117BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20221117BHJP
   B05D 1/28 20060101ALI20221117BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20221117BHJP
   G03G 5/00 20060101ALI20221117BHJP
   G03G 5/10 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
B05C3/10
B05C11/10
B05D1/28
B05D3/00 C
B05D3/00 B
G03G5/00 101
G03G5/10 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021202691
(22)【出願日】2021-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2021080891
(32)【優先日】2021-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 寛晃
(72)【発明者】
【氏名】我妻 優
(72)【発明者】
【氏名】木村 博
(72)【発明者】
【氏名】中村 章彦
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 隆彰
【テーマコード(参考)】
2H068
4D075
4F040
4F042
【Fターム(参考)】
2H068AA54
2H068CA32
2H068EA18
4D075AC56
4D075AC62
4D075AC84
4D075AC88
4D075AC91
4D075AC93
4D075AC94
4D075AC95
4D075BB16X
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA15
4D075DA20
4D075DB01
4D075DB07
4D075DC16
4D075DC19
4D075EA05
4D075EB19
4D075EB38
4D075EC02
4D075EC33
4D075EC45
4F040AA04
4F040AB20
4F040CC02
4F040CC10
4F040CC14
4F040CC18
4F040CC20
4F042AA03
4F042AB00
4F042CB02
4F042CB20
4F042CB25
4F042CC09
4F042CC30
(57)【要約】
【課題】塗布液保持部に環状体が固定されている場合と比較して、円筒体の外周面への塗布液の膜厚ムラが抑制される塗布装置、塗布方法、及び感光体の製造方法を得る。
【解決手段】塗布装置10は、上部開口部25と下部開口部とを備え、循環部16から供給される塗布液Lを保持する塗布液保持部12と、塗布液保持部12の内部に配置され、塗布液保持部12における上部開口部25と下部開口部とを貫通する円筒体100が貫通され、円筒体100との相対移動に伴って塗布液保持部12で保持されている塗布液Lが上方から流入して下方から流出する環状体32と、を有する。環状体32は、塗布液保持部12に対して円筒体100の相対移動の方向と交差する設置面30に沿って相対変位可能に設置されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部開口部と下部開口部とを備え、塗布液供給部から供給される塗布液を保持する塗布液保持部と、
前記塗布液保持部の内部に配置され、前記塗布液保持部における前記上部開口部と前記下部開口部とを貫通する円筒体が貫通され、前記円筒体との相対移動に伴って前記塗布液保持部で保持されている前記塗布液が上方から流入して下方から流出する環状体であって、前記塗布液保持部に対して前記相対移動の方向と交差する設置面に沿って相対変位可能に設置されている前記環状体と、
を有する塗布装置。
【請求項2】
前記環状体と前記設置面との静摩擦係数が0.2以下である請求項1に記載の塗布装置。
【請求項3】
前記環状体と前記設置面との静摩擦係数が0.08以下である請求項2に記載の塗布装置。
【請求項4】
前記環状体の内面には、前記塗布液保持部で保持されている前記塗布液が流入される位置から下り勾配となる傾斜面が設けられている請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の塗布装置。
【請求項5】
前記傾斜面の鉛直方向に対する角度は、2°以上20°以下である請求項4に記載の塗布装置。
【請求項6】
前記傾斜面は、
上部側に配置され、鉛直方向に対する角度が第1傾斜角度とされた第1傾斜面と、
前記第1傾斜面の下部側に配置され、鉛直方向に対する角度が前記第1傾斜角度と異なる第2傾斜角度とされた第2傾斜面と、
を有する請求項4に記載の塗布装置。
【請求項7】
前記第1傾斜角度及び前記第2傾斜角度は、それぞれ2°以上20°以下である請求項6に記載の塗布装置。
【請求項8】
第1傾斜角度は、第2傾斜角度よりも大きい請求項7に記載の塗布装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の塗布装置を用いて塗布液を塗布する塗布方法であって、
前記円筒体を前記塗布液保持部における前記上部開口部と前記下部開口部に貫通させると共に前記環状体に貫通させ、前記円筒体の上部を前記塗布液保持部と対向する位置に配置する工程と、
前記塗布液保持部に前記塗布液供給部から前記塗布液を供給する工程と、
前記円筒体を前記塗布液保持部に対して上下方向上方側に相対移動させ、前記塗布液保持部で保持されている前記塗布液を前記環状体と前記円筒体との間に上方から流入して下方から流出させ、前記設置面に沿って前記環状体を相対変位させる工程と、
を有する塗布方法。
【請求項10】
前記円筒体は、円筒状部材、又は円筒状の芯材の周囲に無端ベルト状部材を巻き付けたものである請求項9に記載の塗布方法。
【請求項11】
請求項9又は請求項10に記載の塗布方法を用いて感光体を製造する感光体の製造方法であって、
前記円筒体は、金属製の円筒状部材、又は円筒状の芯材の周囲に金属製の無端ベルト状部材を巻き付けたものであり、
前記塗布液は、感光材料を含有している感光体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布装置、塗布方法、及び感光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、上部開口部と下部開口部とを有する塗布液保持具を有し、前記上部開口部および下部開口部に円筒体を貫通させ、前記円筒体を前記塗布液保持具に対して鉛直上方向に相対移動させることにより前記円筒体の外周面に塗布液を塗布する塗布装置において、前記塗布液保持具は、前記円筒体を前記上部開口部および下部開口部に貫通させた際に、前記下部開口部より下方に位置する前記円筒体外周面に塗布液を供給する供給手段を有する塗布装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-083225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、塗布液保持部に環状体が固定されている場合と比較して、円筒体の外周面への塗布液の膜厚ムラが抑制される塗布装置、塗布方法、及び感光体の製造方法を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1態様に係る塗布装置は、上部開口部と下部開口部とを備え、塗布液供給部から供給される塗布液を保持する塗布液保持部と、前記塗布液保持部の内部に配置され、前記塗布液保持部における前記上部開口部と前記下部開口部とを貫通する円筒体が貫通され、前記円筒体との相対移動に伴って前記塗布液保持部で保持されている前記塗布液が上方から流入して下方から流出する環状体であって、前記塗布液保持部に対して前記相対移動の方向と交差する設置面に沿って相対変位可能に設置されている前記環状体と、を有する。
【0006】
第2態様に係る塗布装置は、第1態様に記載の塗布装置において、前記環状体と前記設置面との静摩擦係数が0.2以下である。
【0007】
第3態様に係る塗布装置は、第2態様に記載の塗布装置において、前記環状体と前記設置面との静摩擦係数が0.08以下である。
【0008】
第4態様に係る塗布装置は、第1態様から第3態様までのいずれか1つの態様に記載の塗布装置において、前記環状体の内面には、前記塗布液保持部で保持されている前記塗布液が流入される位置から下り勾配となる傾斜面が設けられている。
【0009】
第5態様に係る塗布装置は、第4態様に記載の塗布装置において、前記傾斜面の鉛直方向に対する角度は、2°以上20°以下である。
【0010】
第6態様に係る塗布装置は、第4態様に記載の塗布装置において、前記傾斜面は、上部側に配置され、鉛直方向に対する角度が第1傾斜角度とされた第1傾斜面と、前記第1傾斜面の下部側に配置され、鉛直方向に対する角度が前記第1傾斜角度と異なる第2傾斜角度とされた第2傾斜面と、を有する。
【0011】
第7態様に係る塗布装置は、第6態様に記載の塗布装置において、前記第1傾斜角度及び前記第2傾斜角度は、それぞれ2°以上20°以下である。
【0012】
第8態様に係る塗布装置は、第7態様に記載の塗布装置において、第1傾斜角度は、第2傾斜角度よりも大きい。
【0013】
第9態様に係る塗布方法は、第1態様から第8態様までのいずれか1つの態様に記載の塗布装置を用いて塗布液を塗布する塗布方法であって、前記円筒体を前記塗布液保持部における前記上部開口部と前記下部開口部に貫通させると共に前記環状体に貫通させ、前記円筒体の上部を前記塗布液保持部と対向する位置に配置する工程と、前記塗布液保持部に前記塗布液供給部から前記塗布液を供給する工程と、前記円筒体を前記塗布液保持部に対して上下方向上方側に相対移動させ、前記塗布液保持部で保持されている前記塗布液を前記環状体と前記円筒体との間に上方から流入して下方から流出させ、前記設置面に沿って前記環状体を相対変位させる工程と、を有する。
【0014】
第10態様に係る塗布方法は、第9態様に記載の塗布方法において、前記円筒体は、円筒状部材、又は円筒状の芯材の周囲に無端ベルト状部材を巻き付けたものである。
【0015】
第11態様に係る感光体の製造方法は、第9態様又は第10態様に記載の塗布方法を用いて感光体を製造する感光体の製造方法であって、前記円筒体は、金属製の円筒状部材、又は円筒状の芯材の周囲に金属製の無端ベルト状部材を巻き付けたものであり、前記塗布液は、感光材料を含有している。
【発明の効果】
【0016】
第1態様に係る塗布装置によれば、塗布液保持部に環状体が固定されている場合と比較して、円筒体の外周面への塗布液の膜厚ムラが抑制される。
【0017】
第2態様に係る塗布装置によれば、環状体と設置面との静摩擦係数が0.2より大きい場合と比較して、円筒体の外周面への塗布液の膜厚ムラが抑制される。
【0018】
第3態様に係る塗布装置によれば、環状体と設置面との静摩擦係数が0.08より大きい場合と比較して、円筒体の外周面への塗布液の膜厚ムラが抑制される。
【0019】
第4態様に係る塗布装置によれば、塗布液が流入される位置から環状体の内面が上下方向に沿って真直ぐ配置されている場合と比較して、円筒体の外周面への塗布液の膜厚ムラが抑制される。
【0020】
第5態様に係る塗布装置によれば、傾斜面の鉛直方向に対する角度が2°より小さい場合と比較して、塗布液の膜厚ムラが抑制される。傾斜面の鉛直方向に対する角度が20°より大きい場合と比較して、環状体の高さを低くすることができる。
【0021】
第6態様に係る塗布装置によれば、傾斜面が1つの傾斜角度である場合と比較して、環状体の高さを低くすることができる。
【0022】
第7態様に係る塗布装置によれば、第1傾斜角度及び第2傾斜角度が2°より小さい場合と比較して、塗布液の膜厚ムラが抑制される。第1傾斜角度及び第2傾斜角度が20°より大きい場合と比較して、環状体の高さを低くすることができる。
【0023】
第8態様に係る塗布装置によれば、第1傾斜角度が第2傾斜角度よりも小さい場合と比較して、円筒体の外周面への塗布液の膜厚ムラが抑制される。
【0024】
第9態様に係る塗布方法によれば、塗布液保持部の内部で環状体が固定されている場合と比較して、円筒体の外周面への塗布液の膜厚ムラが抑制される。
【0025】
第10態様に係る塗布方法によれば、塗布液保持部の内部で環状体が固定されている場合と比較して、円筒状部材又は無端ベルト状部材の外周面への塗布液の膜厚ムラが抑制される。
【0026】
第11態様に係る感光体の製造方法によれば、塗布液保持部の内部で環状体が固定されている場合と比較して、感光体の外周面に塗布液を塗布する際に塗布液の膜厚ムラが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】第1実施形態に係る塗布装置の全体構成の概略を示す断面図である。
図2】第1実施形態に係る塗布装置に用いられる塗布液保持部の一部を拡大した状態で示す断面図である。
図3】第1実施形態に係る塗布装置に用いられる塗布液保持部から円筒体に塗布液が塗布されるときの塗布液の流れを示す断面図である。
図4】(A)は、第1実施形態に係る塗布装置に用いられる環状体を示す斜視図であり、(B)は、環状体の一部を切断した状態で示す斜視図である。
図5】(A)は、第1実施形態に係る塗布装置の塗布液保持部に円筒体を挿入する前の状態を示す構成図であり、(B)は、塗布装置の塗布液保持部に円筒体を挿入して下降させた状態を示す構成図であり、(C)は、塗布液保持部に対して円筒体を上下方向上側に移動させる途中の状態を示す構成図である。
図6】(A)は、円筒体の外周面に塗布液による塗膜が形成された円筒体の一部を示す側面図であり、(B)は、(A)中の5B-5B線に沿った断面図である。
図7】環状体と設置面との間に作用する力を示す模式的な断面図である。
図8】環状体と設置面との間に作用する力を示す模式的な平面図である。
図9】環状体と設置面との静摩擦係数を測定する測定装置を示す構成図である。
図10】第2実施形態に係る塗布装置に用いられる環状体付近の構成を示す断面図である。
図11】第2実施形態に係る塗布装置に用いられる環状体の一部を切断した状態で示す斜視図である。
図12】第2実施形態に係る塗布装置に用いられる環状体の一部を示す断面図である。
図13】(A)は、環状体と設置面との間に作用する力を示す模式的な断面図であり、(B)は、環状体の第1傾斜面と第2傾斜面の鉛直方向に対する角度の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本開示の技術を実施するための形態について説明する。以下の説明では、図面において適宜示される矢印UPで示す方向を装置上下方向上方側とする。
【0029】
〔第1実施形態〕
<塗布装置の全体構成>
図1には、第1実施形態に係る塗布装置10の一例が断面図にて示されている。
【0030】
図1に示されるように、塗布装置10は、円筒体100の外周面100Aに塗布液Lを塗布する装置である。塗布装置10は、塗布液Lが保持される塗布液保持部12と、塗布液保持部12の内部に配置された環状体32と、を備えている。また、塗布装置10は、塗布液保持部12側から流下した塗布液Lを収容する容器14と、容器14の内部の塗布液Lを塗布液保持部12に循環させる循環部16と、を備えている。循環部16は、塗布液供給部の一例である。さらに、塗布装置10は、塗布液保持部12を支持する筒状の筐体20を備えている。
【0031】
(円筒体)
円筒体100は、例えば、金属製の円筒状部材、又は円筒状の芯材の周囲に金属製の無端ベルト状部材を巻き付けたものである。円筒体100を構成する円筒状部材又は無端ベルト状部材は、例えば、電子写真用の感光体基体などである。また、例えば、円筒体100として、電子写真用の感光体基体を用いる場合、塗布液Lは、感光材料を含有している液体などが用いられる。本実施形態では、塗布装置10により、円筒体100を構成する円筒状部材又は無端ベルト状部材に塗布液Lが塗布される。塗布液Lとして、感光材料を含有している液体を用いることで、電子写真用の感光体を製造することができる。
【0032】
(筐体)
図1に示されるように、筐体20は、円筒状の部材で構成されており、筐体20の軸方向が上下方向となるように配置されている。一例として、例えば、筐体20は、上下方向に沿って配置された円筒部20Aを備えている。
【0033】
円筒部20Aの上端部には、半径方向内側に延びた上壁部21Bを備えており、上壁部21Bには、円形の開口21Cが形成されている。開口21Cの内径は、円筒体100の外径よりも大きい。上壁部21Bの開口21Cには、円筒体100が軸方向に貫通される構成とされている。
【0034】
(塗布液保持部)
図1及び図2に示されるように、塗布液保持部12は、循環部16から供給される塗布液Lを保持する機能を有する。塗布液保持部12は、ケース24を備えている。ケース24は、円筒部24Aと、円筒部24Aの上端部から半径方向内側に屈曲された上壁部24Bと、円筒部24Aの下部側に設けられたブロック部24Cと、を備えている。
【0035】
円筒部24Aにおける半径方向の一方側(図1中の右側)の下部には、塗布液Lが流入される流入口24Eが設けられている。
【0036】
上壁部24Bには、円形状の上部開口部25が設けられている(図2参照)。上部開口部25の内径は、円筒体100の外径よりも大きい。上壁部24Bの上部開口部25には、円筒体100が軸方向に貫通される構成とされている。
【0037】
ブロック部24Cは、円筒部24Aの下端部と繋がる底壁部26Aと、底壁部26Aの半径方向内側端部から上方側に延びた筒状の内側壁部26Bと、を備えている(図1参照)。内側壁部26Bの上部側には、半径方向内側に向かって上り勾配となるように配置された傾斜部27が形成されている。内側壁部26Bの傾斜部27の上端部には、円形状の下部開口部28が設けられている。下部開口部28の内径は、円筒体100の外径よりも大きい。また、下部開口部28の内径は、上部開口部25の内径の内径よりも小さい。ブロック部24Cの下部開口部28には、円筒体100が軸方向に貫通される構成とされている。
【0038】
塗布液保持部12は、図示しない支持部により筐体20の内部の上下方向上部側に支持されている。
【0039】
ケース24は、円筒部24Aと上壁部24Bとブロック部24Cとを備えることで、ブロック部24Cの上方側が半径方向内側に開口している。ブロック部24Cの上部には、環状体32が相対変可能に配置される設置面30が設けられている。設置面30は、環状体32を相対変位可能に支持する機能を有している。設置面30は、平面状とされており、水平方向に沿って配置されている。
【0040】
ケース24の内部には、円筒部24Aとブロック部24Cとの間、及び円筒部24Aと環状体32との間に、塗布液Lが流れる流路34が設けられている。流路34における塗布液Lの流れ方向上流側の端部は、流入口24E(図1参照)に繋がっている。
【0041】
塗布液保持部12における上部開口部25と下部開口部28には、円筒体100が貫通され、円筒体100は、塗布液保持部12に対して上下方向に相対移動する構成とされている(図5参照)。設置面30は、円筒体100の相対移動の方向と交差する方向に配置されている。
【0042】
(環状体)
図1及び図2に示されるように、環状体32は、ケース24内の半径方向内側の開口された部分に設けられている。環状体32は、ケース24内におけるブロック部24Cの上部の設置面30の上方側に配置されている。環状体32は、ブロック部24Cの上部の設置面30に沿って相対変位可能に設置されている。
【0043】
環状体32の内径は、円筒体100の外径よりも大きい。環状体32の内部には、円筒体100が軸方向に貫通される構成とされている。すなわち、環状体32の内部には、塗布液保持部12における上部開口部25と下部開口部28とを貫通する円筒体100が貫通される。一例として、環状体32の内径は、下部開口部28の内径よりも小さい。環状体32の内周面32A側は、円筒体100が貫通する領域に露出している(図2参照)。ここで、内周面32Aは、環状体32の内面の一例である。
【0044】
一例として、環状体32は、ブロック部24Cの上部の設置面30に塗布液Lが介在された状態で配置されている。環状体32は、設置面30に塗布液Lが介在された状態で設置面30に対して可動(本実施形態では摺動)可能とされている。本実施形態では、環状体32を直接駆動する駆動部は設けられておらず、環状体32が自律的に設置面30に対して相対的に摺動するようになっている。
【0045】
図2及び図3に示されるように、塗布液保持部12における上壁部24Bの上部開口部25と環状体32との間には、周方向に沿ってスリット状の吐出部36が設けられている。吐出部36から塗布液Lが吐出される(図3参照)。すなわち、吐出部36は、塗布液保持部12における円筒体100が貫通する領域と対向しており、円筒体100側に向かって塗布液Lが吐出される。図3に示されるように、吐出部36から吐出された塗布液Lは、矢印Cに示すように上部開口部25から上壁部24Bの上面側に流れてオーバーフローすると共に、矢印Dに示すように環状体32と円筒体100の外周面100Aとの間を下方側に流れる。すなわち、環状体32は、円筒体100との相対移動に伴って塗布液保持部12で保持されている塗布液Lが上方から流入して下方から流出する構成とされている。
【0046】
塗布装置10では、円筒体100を塗布液保持部12に対して上下方向上方側に相対移動させることで、円筒体100の外周面100Aに塗布液Lが塗布されるようになっている(図5(B)及び図5(C)参照)。塗布液保持部12では、円筒体100の外周面100Aと環状体32の内周面32Aとの間に塗布液Lが流れることで、塗布液Lが流れる圧力により、環状体32が設置面30に対して相対変位する。このとき、円筒体100の外周面100Aと環状体32の内周面32Aとの隙間が周方向に沿って均一になるように、環状体32は、設置面30に対して相対変位するようになっている。設置面30に対する環状体32の相対変位、すなわち、円筒体100の外周面100Aに対する環状体32の調芯原理については、後に詳述する。
【0047】
図3及び図4に示されるように、環状体32の内周面32Aには、上部側に配置されると共に上部開口部25側から下り勾配となる傾斜面33Aと、傾斜面33Aの下端部から上下方向に沿って真直ぐに配置されたストレート部33Bとが設けられている(図2参照)。
【0048】
図5には、塗布装置10の塗布液保持部12により円筒体100の外周面100Aに塗布液Lを塗布する方法の一例が示されている。図5(A)に示されるように、塗布液保持部12の上方側から円筒体100を軸方向に沿って挿入し、下方(矢印A方向)に円筒体100を移動させる。図5(B)に示されるように、円筒体100をさらに矢印A方向に下降させると共に、塗布液保持部12に循環部16(図1参照)により塗布液Lを供給することで、塗布液保持部12の環状体32と円筒体100の外周面100Aとの間に塗布液Lを充填させていく。そして、円筒体100が最下部に到達することで、円筒体100の軸方向の上端部が塗布液保持部12と対向する位置に配置される。
【0049】
その後、図5(C)に示されるように、円筒体100を塗布液保持部12に対して上方(矢印B方向)に移動させる。このとき、塗布液Lが塗布液保持部12の上方からオーバーフローするように吐出部36から塗布液Lを吐出させる。これにより、塗布液Lが下部開口部28から下方に流出し、上部開口部25より上方に位置する円筒体100の外周面100Aに塗布液Lが塗布されることで、円筒体100の外周面100Aに塗膜102が形成される(図6(B)参照)。なお、図5は、円筒体100の外周面100Aに塗布液Lを塗布する方法の一例であり、塗布方法は変更可能である。
【0050】
図6(A)に示されるように、円筒体100の外周面100Aに塗布液Lが塗布される過程では、円筒体100の外周面100Aに塗布された塗布液Lが円筒体100の外周面100Aを伝って下方に流下する。
【0051】
また、図1に示されるように、塗布装置10では、筐体20の内部における塗布液保持部12の下方側には、壁部50が設けられている。壁部50には、円筒体100が貫通する開口部50Aが設けられている。また、壁部50の斜め方向の下端部には、筐体20の内壁面と隣接する位置に配置された孔部50Bが設けられている。これにより、壁部50の孔部50Bから筐体20の内壁面を伝って塗布液Lが流下し、塗布液Lは容器14に回収される。
【0052】
(環状体の調芯原理)
ここで、円筒体100の外周面100Aに対する環状体32の調芯原理について説明する。
【0053】
理想流体の定常流れにおいては、流体内のエネルギーの和が法線上で常に一定であるというベルヌーイの定理が適用される。ベルヌーイの定理は、数1に示す(1)式で示される。流体のエネルギーには、運動、位置、圧力、及び内部エネルギーの4つがあり、非圧縮性流体であれば内部エネルギーは無視できる。
【数1】
【0054】
(1)式の第2項は、環状体32の内外に等しく作用するため、無視できる。このため、(2)式となる。また、流路中では、流量Q=USは一定である。このため、(3)式が成立する。上記の関係から、流速Uが増加し、又は流路面積Sが減少すると、圧力が低下する。すなわち、流速や流路面積の変化率が大きいほど、圧力の低下が大きい。
【0055】
図7には、環状体32の一部が示されており、図8には、環状体32及び円筒体100の軸方向と交差する方向に沿った断面が示されている。なお、図3には、円筒体100の外周面100Aと環状体32の内周面32Aとの間に流れる塗布液Lの状態が示されている。
【0056】
図8に示されるように、環状体32の内部で円筒体100が図8中の右側に偏っていた場合、図8中の左側では円筒体100の外周面100Aと環状体32の内周面32Aとの間隔(ギャップ)が大きくなるため、塗布液Lの流速が大きくなり、圧力が小さくなる。これに対し、図8中の右側では円筒体100の外周面100Aと環状体32の内周面32Aとの間隔(ギャップ)が小さくなるため、塗布液Lの流速が小さくなり、圧力が大きくなる。すなわち、円筒体100の外周面100Aと環状体32の内周面32Aとの間隔(ギャップ)が偏ると、ベルヌーイの定理に従い、圧力差が生じる。このため、図7及び図8に示されるように、円筒体100の外周面100Aと環状体32の内周面32Aとの間隔(ギャップ)を均一に保とうとする環状体32の調芯力(F2:調芯力)が生じる。
【0057】
図7及び図8に示されるように、設置面30に対する環状体32の動作条件は、F2(調芯力)>F1(摩擦力)である。このため、F2(調芯力)を最大化するため、環状体32の傾斜面33Aの鉛直方向に対する角度θ1を調整し、又は上壁部24Bの上方側への塗布液Lのオーバーフローが成立する範囲内で円筒体100と環状体32との間隔(ギャップ)を大きくしている。また、F1(摩擦力)を最小化するため、環状体32を軽量化し、又は環状体32と設置面30との静摩擦係数を小さくしている。
【0058】
環状体32は、例えば、金属製とされている。環状体32を軽量化するため、例えば、ポリエチレン(PE)樹脂などが用いられる。また、設置面30を備えたブロック部24Cは、例えば、SUSなどが用いられる。設置面30は、環状体32に対する摩擦抵抗を少なくするため、研磨仕上げ又はコーティング処理を行うことが好ましい。
【0059】
環状体32の傾斜面33Aの鉛直方向に対する角度θ1は、2°以上20°以下であることが好ましく、5°以上18°以下であることがより好ましく、7°以上15°以下であることがさらに好ましい。一例として、環状体32の傾斜面33Aの鉛直方向に対する角度θ1は、7°とされている。
【0060】
また、環状体32と設置面30との静摩擦係数は、0.2以下であることが好ましく、0.08以下であることがより好ましく、0.05以下であることがより好ましい。一例として、環状体32と設置面30との静摩擦係数は、0.08に設定されている。
【0061】
図9には、環状体32と設置面30との静摩擦係数の測定装置200が示されている。図9に示されるように、測定装置200は、ロードセル204と、塗布液Lが収容された容器206と、を備えている。容器206の内部には、設置面30を想定した受け台としての第1テストピース210と、第1テストピース210の上部に環状体32を想定した第2テストピース212とが配置される。ロードセル204は、図示を省略するが、力に比例して変形する起歪体と、起歪体の変形量を測定するひずみゲージと、を備えている。ロードセル204のロッド204Aは、第2テストピース212に接触している。
【0062】
第1テストピース210は、設置面30と同様の材料で形成されており、例えば、SUSで形成されている。第1テストピース210の上面には、設置面30と同様に研磨仕上げ又はコーティング処理が施されている。また、第2テストピース212は、環状体32と同様の材料で形成されており、例えば、ポリエチレン(PE)で形成されている。
【0063】
測定装置200では、下記数2により、静摩擦係数が計測される。ここで、Fは摩擦力であり、Nは接触面に作用する垂直抗力であり、μは静止摩擦係数である。
【数2】
【0064】
(容器)
図1に示されるように、容器14は、筐体20の上下方向下部に設けられている。一例として、容器14は、筐体20の円筒部20Aの下端部に繋がっている。
【0065】
容器14は、円筒部20Aと繋がる円筒部14Aと、円筒部14Aの下部に配置されると共に底面が谷型に窪んだ凹部14Bと、を備えている。本実施形態では、凹部14Bの底面は、下側に向かって内径が徐々に縮小された逆円錐状に窪んだ形状とされている。
【0066】
凹部14Bは、円筒部14A側から半径方向の中心部に向かって下り勾配となるように傾斜した底面を備えており、凹部14Bの中心部が最下部とされている。容器14の凹部14Bには、塗布液保持部12側から流下した塗布液Lが溜まるようになっている。一例として、塗布液Lの液面L1は、凹部14Bの上部側に位置している。
【0067】
(循環部)
図1に示されるように、循環部16は、容器14の内部の塗布液Lを塗布液保持部12に供給する供給管60と、供給管60の途中に設けられたポンプ62と、を備えている。ポンプ62は、供給管60の塗布液Lを容器14側から塗布液保持部12側に移送する。
【0068】
供給管60における塗布液Lの流れ方向の上流側端部60Aは、容器14の下部に接続されている。本実施形態では、供給管60の上流側端部60Aは、凹部14Bの最下部である中心部に接続されている。また、供給管60における塗布液Lの流れ方向の下流側端部60Bは、筐体20を貫通し、塗布液保持部12の流入口24Eに接続されている。これにより、供給管60を流れる塗布液Lは、流入口24Eから流路34に供給される。なお、塗布液Lの流れ方向の上流側又は下流側は、「塗布液Lの流れ方向」を省略して、単に「上流側」又は「下流側」という場合がある。
【0069】
また、供給管60の途中には、塗布液Lの流れ方向におけるポンプ62の下流側に、塗布液Lの粘度を測定する粘度測定部66が設けられている。さらに、供給管60の途中には、塗布液Lの流れ方向における粘度測定部66の上流側に、塗布液Lに含まれる異物を除去するフィルタ68が設けられている。
【0070】
塗布装置10では、循環部16のポンプ62を駆動することで、容器14内の塗布液Lが供給管60を通って塗布液保持部12に供給される。塗布液保持部12では、塗布液Lが円筒体100の外周面100Aに塗布され、円筒体100の外周面100Aを伝って流下した塗布液Lは、容器14内に回収される。そして、容器14内の塗布液Lは、供給管60を通って塗布液保持部12に供給される。このため、循環部16により、容器14内の塗布液Lが塗布液保持部12に循環されるようになっている。
【0071】
<作用及び効果>
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0072】
塗布装置10では、上部開口部25と下部開口部28とを備えると共に塗布液Lが保持される塗布液保持部12が設けられている。塗布液保持部12では、上部開口部25と下部開口部28に円筒体100を貫通させ、円筒体100を上下方向上方側に相対移動させることにより、円筒体100の外周面100Aに塗布液Lを塗布する。
【0073】
より具体的には、図5(A)に示されるように、塗布液保持部12の上方側から円筒体100を矢印A方向に挿入する。図5(B)に示されるように、円筒体100を矢印A方向に下降させると共に、塗布液保持部12に循環部16(図1参照)により塗布液Lを供給することで、塗布液保持部12の環状体32と円筒体100の外周面100Aとの間に塗布液Lを充填させていく。そして、円筒体100を最下部に到達させる。
【0074】
その後、図5(C)に示されるように、円筒体100を塗布液保持部12に対して上方(矢印B方向)に移動させると共に、塗布液Lが上方からオーバーフローするように吐出部36から塗布液Lを吐出させる。これにより、塗布液Lが下部開口部28から下方に流出し、上部開口部25より上方に位置する円筒体100の外周面100Aに塗布液Lが塗布される。これにより、円筒体100の外周面100Aに塗膜102が形成される(図6(B)参照)。
【0075】
本実施形態の塗布装置10では、塗布液保持部12の内部に環状体32が配置されており、環状体32には、塗布液保持部12における上部開口部25と下部開口部28とを貫通する円筒体100が貫通される。そして、塗布液保持部12に対する円筒体100の相対移動に伴って、塗布液保持部12で保持されている塗布液Lが環状体32と円筒体100との間を上方から流入して下方から流出する。環状体32は、塗布液保持部12に対して円筒体100の相対移動の方向と交差する設置面30に沿って相対変位可能に設置されている。その際、円筒体100の外周面100Aと環状体32の内周面32Aとの間隔(ギャップ)が偏ると、ベルヌーイの定理に従い、圧力差が生じる。このため、円筒体100の外周面100Aと環状体32の内周面32Aとの間隔を均一に保とうとする環状体32の調芯力F2が生じる。したがって、円筒体100の外周面100Aと環状体32の内周面32Aとの間隔が周方向に沿って均一となる。
【0076】
塗布装置10には、塗布液保持部12側から流下した塗布液Lを収容する容器14が設けられている。これにより、円筒体100の外周面100Aを伝って下方に流下する塗布液Lが流れ落ちることで、塗布液Lが容器14に回収される(図3参照)。
【0077】
さらに、塗布装置10では、容器14の内部の塗布液Lを塗布液保持部12に循環させる循環部16が設けられている。循環部16では、ポンプ62を駆動することで、容器14内の塗布液Lが供給管60を通って塗布液保持部12に供給される。
【0078】
上記の塗布装置10では、環状体32が塗布液保持部12に対して円筒体100の相対移動の方向と交差する設置面30に沿って相対変位可能に設置されている。このため、塗布装置10では、塗布液保持部に環状体が固定されている場合と比較して、円筒体100の外周面100Aへの塗布液Lの膜厚ムラ(塗膜102の膜厚ムラ)が抑制される。
【0079】
また、塗布装置10では、環状体32と設置面30との静摩擦係数が0.2以下である。これにより、環状体32と設置面30との静摩擦係数が0.2より大きい場合と比較して、環状体32が設置面30に沿って相対変位しやすくなる。これにより、環状体32の内周面32Aと円筒体100の外周面100Aとの隙間が均一に保持されやすい。このため、塗布装置10では、環状体と設置面との静摩擦係数が0.2より大きい場合と比較して、円筒体100の外周面100Aへの塗布液Lの膜厚ムラ(塗膜102の膜厚ムラ)が抑制される。
【0080】
また、塗布装置10では、環状体32と設置面30との静摩擦係数が0.08以下である。これにより、環状体32が設置面30に沿って相対変位しやすくなり、環状体32の内周面32Aと円筒体100の外周面100Aとの隙間が均一に保持されやすい。このため、塗布装置10では、環状体と設置面との静摩擦係数が0.08より大きい場合と比較して、円筒体100の外周面100Aへの塗布液Lの膜厚ムラ(塗膜102の膜厚ムラ)が抑制される。
【0081】
また、塗布装置10では、環状体32の内周面32Aには、塗布液保持部12で保持されている塗布液Lが流入される位置から下り勾配となる傾斜面33Aが設けられている。これにより、塗布液Lが環状体32の傾斜面33Aと円筒体100の外周面100Aに流入しやすくなり、環状体32と円筒体100の外周面100Aとの間を流れやすくなる。このため、塗布装置10では、塗布液が流入される位置から環状体の内面が上下方向に沿って真直ぐ配置されている場合と比較して、円筒体100の外周面100Aへの塗布液Lの膜厚ムラ(塗膜102の膜厚ムラ)が抑制される。
【0082】
また、塗布装置10では、傾斜面33Aの鉛直方向に対する角度θ1は、2°以上20°以下である。このため、塗布装置10では、傾斜面の鉛直方向に対する角度が2°より小さい場合と比較して、円筒体100の外周面100Aへの塗布液Lの膜厚ムラ(塗膜102の膜厚ムラ)が抑制される。また、傾斜面の鉛直方向に対する角度が20°より大きい場合と比較して、環状体32の高さを低くする(すなわち、環状体32の上下方向の長さを短くする〉ことができ、環状体32の小型化が可能である。
【0083】
また、塗布装置10を用いて塗布液を塗布する塗布方法では、円筒体100を塗布液保持部12における上部開口部25と下部開口部28に貫通させると共に環状体32に貫通させ、円筒体100の上部を塗布液保持部12と対向する位置に配置する工程を備えている。また、塗布方法では、塗布液保持部12に循環部16から塗布液Lを供給する工程を備えている。さらに、塗布方法では、円筒体100を塗布液保持部12に対して上下方向上方側に相対移動させ、塗布液保持部12で保持されている塗布液Lを環状体32と円筒体100との間に上方から流入して下方から流出させる工程を備えている。これにより、設置面30に沿って環状体32を相対変位させる。
【0084】
このため、上記の塗布方法によれば、塗布液保持部の内部で環状体が固定されている場合と比較して、円筒体100の外周面100Aへの塗布液Lの膜厚ムラ(塗膜102の膜厚ムラ)が抑制される。
【0085】
また、塗布装置10を用いて塗布液を塗布する塗布方法では、円筒体100は、円筒状部材、又は円筒状の芯材の周囲に無端ベルト状部材を巻き付けたものである。このため、塗布方法では、塗布液保持部の内部で環状体が固定されている場合と比較して、円筒状部材又は無端ベルト状部材の外周面100Aへの塗布液Lの膜厚ムラ(塗膜102の膜厚ムラ)が抑制される。
【0086】
また、上記の塗布方法を用いて感光体を製造する感光体の製造方法では、円筒体100は、金属製の円筒状部材、又は円筒状の芯材の周囲に金属製の無端ベルト状部材を巻き付けたものであり、塗布液Lは、感光材料を含有している。このため、感光体の製造方法では、塗布液保持部の内部で環状体が固定されている場合と比較して、感光体の外周面に塗布液を塗布する際に塗布液Lの膜厚ムラ(塗膜102の膜厚ムラ)が抑制される。
【0087】
〔第2実施形態〕
次に、図10図13を用いて、第2実施形態の塗布装置120について説明する。なお、前述した第1実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0088】
図10に示されるように、塗布装置120は、第1実施形態の塗布装置10の環状体32に代えて、環状体122を備えている。環状体122の内周面122Aの内径は、円筒体100の外径よりも大きく、円筒体100が環状体122の内部を貫通可能とされている。内周面122Aは、内面の一例である。
【0089】
図10図12に示されるように、環状体122の内周面122Aには、鉛直方向に対する角度が異なる複数段(本実施形態では2段)の傾斜面が形成されている。本実施形態では、環状体122の内周面122Aには、環状体122の上部側に配置されると共に鉛直方向に対する角度が第1傾斜角度θ21とされた第1傾斜面123Aが設けられている(図12参照)。また、環状体122の内周面122Aには、第1傾斜面123Aの下部側に配置されると共に鉛直方向に対する角度が第1傾斜角度θ21と異なる第2傾斜角度θ22とされた第2傾斜面123Bが設けられている。第2傾斜面123Bの上端部は、第1傾斜面123Aの下端部に繋がっている。また、環状体122の内周面122Aには、傾斜面123Bの下端部から上下方向に沿って配置されたストレート部123Cが設けられている。
【0090】
図13(A)に示されるように、設置面30に対する環状体122の動作条件は、F2(調芯力)>F1(摩擦力)である。設置面30と環状体122との間には、塗布液Lが介在されている。上記のような動作条件を満たすため、環状体122は、例えば、ポリエチレン(PE)で形成されている。
【0091】
また、第1傾斜角度θ21及び第2傾斜角度θ22は、それぞれ2°以上20°以下であることが好ましく、5°以上18°以下であることがより好ましく、7°以上15°以下であることがさらに好ましい。
【0092】
一例として、第1傾斜角度θ21は、第2傾斜角度θ22よりも大きい。
【0093】
上記のような動作条件を満たすため、図13(A)に示されるように、例えば、第1傾斜角度θ21は20°に設定されており、第2傾斜角度θ22は10°に設定されている。
【0094】
また、環状体122と設置面30との静摩擦係数は、0.2以下であることが好ましく、0.08以下であることがより好ましく、0.05以下であることがより好ましい。例えば、環状体122と設置面30との静摩擦係数は、0.08に設定されている。
【0095】
上記の塗布装置120では、第1実施形態の塗布装置10と同様の構成により、同様の作用及び効果を得ることができる。
【0096】
また、塗布装置120では、環状体122の内周面122Aには、上部側に鉛直方向に対する角度が第1傾斜角度θ21とされた第1傾斜面123Aと、下部側に鉛直方向に対する角度が第1傾斜角度θ21と異なる第2傾斜角度θ22とされた第2傾斜面123Bが設けられている。このため、塗布装置120では、例えば、上下方向に沿って同等の長さの傾斜面を配置する際に傾斜面が1つの傾斜角度である場合と比較して、環状体122の高さを低くすることができる。
【0097】
また、塗布装置120では、第1傾斜角度θ21及び第2傾斜角度θ22は、それぞれ2°以上20°以下である。このため、塗布装置120では、第1傾斜角度及び第2傾斜角度が2°より小さい場合と比較して、円筒体100の外周面100Aへの塗布液Lの膜厚ムラ(塗膜102の膜厚ムラ)が抑制される。また、第1傾斜角度及び第2傾斜角度が20°より大きい場合と比較して、環状体122の高さを低くすることができる。
【0098】
また、塗布装置120では、第1傾斜角度θ21は、第2傾斜角度θ22よりも大きい。これにより、環状体122と円筒体100との間に塗布液Lが入り込みやすくなる。このため、塗布装置120では、第1傾斜角度が第2傾斜角度よりも小さい場合と比較して、円筒体100の外周面100Aへの塗布液Lの膜厚ムラ(塗膜102の膜厚ムラ)が抑制される。
【0099】
〔補足説明〕
上記第1~第2実施形態において、環状体の形状は、変更可能であり、環状体の内周面側に傾斜面がない構成でもよい。
【0100】
上記第1~第4実施形態において、塗布液保持部12の各部材の構成は、円筒体100の外周面100Aに塗布液Lを塗布できる構成であれば、変更可能である。
【0101】
なお、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかである。
【実施例0102】
以下、本開示の塗布装置及び塗布方法を実施例により更に具体的に説明するが、本開示の塗布装置及び塗布方法はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0103】
まず、第1実施例として、環状体における傾斜面の鉛直方向に対する角度を変えて円筒体100の外周面100Aに塗布液Lを塗布し、塗膜の膜厚ムラを評価した。
【0104】
[実施例1]
< 塗布液の作成>
(金属酸化物微粒子Aの調製)
酸化亜鉛:(平均粒子径70μm:テイカ社製試作品)100重量部をトルエン450重量部及びメタノール50重量部と攪拌混合し、シランカップリング剤(KBM 603:信越化学社製)0.25重量部を添加し、サンドグラインダーミルにて1時間分散した。その後トルエンを減圧蒸留にて留去し、150 ℃で2時間焼き付けを行ったのち室温まで冷却し、解砕して表面処理酸化亜鉛を得た。
【0105】
(塗布液の作製)
金属酸化物微粒子A33重量部、ブロック化イソシアネート(スミジュール3175、住友バイエルンウレタン社製)6重量部及びメチルエチルケトン25重量部を30分間混合した後、ブチラール樹脂(BM-1、積水化学社製)5重量部、シリコーンボール( トスパール145、東芝シリコーン社製)3重量部及びレベリング剤(シリコーンオイルSH29PA、東レダウコーニングシリコーン社製)0 .01重量部を上記の混合液に添加し、サンドミルにて2時間の分散処理を行い、塗布液Lを得た。
【0106】
上記塗布液Lの粘度は、粘度計として「RE500H 」型粘度計(東機記産業株式会社製)を用いて、標準コーン(1 °3 4 ′)、25 ℃ 、ずり速度100s-1の条件で、100mPa・sであった。
【0107】
(塗布)
円筒体100としてφ84×340mm のアルミパイプを用い、図1図4、又は図10図13に示す塗布装置及び上記の塗布液Lを用いて塗布を行った。環状体の第一傾斜角(第1傾斜面の第1傾斜角度θ21)は5°、第二傾斜角(第2傾斜面の第2傾斜角度θ22)は2°である。また、環状体の内径は85.0mmであり、塗布液保持部12には毎分0.4L 、上部開口部25より下方の円筒体100へは毎分0.4Lの塗布液Lを常時循環供給した。そして、塗布液Lを常時循環供給しながら、円筒体100の内面上部を図示しない把持部で把持し、鉛直上方より毎分500mmの一定速度で塗布液保持部に設けられた上部開口部25を貫通させた。円筒体100が最下点に到達するまでには、塗布液Lは塗布液保持部12を満たしてオーバーフロー状態となった。
【0108】
次いで円筒体100を毎分250mmの一定速度で引き上げて円筒体100の外周面100Aに塗膜102(塗布膜)を形成した。円筒体100が上部開口部25を上下する間、上部開口部25より下方の円筒体100の外周面100Aは上部開口部25に設けられたスリット状の吐出部36より吐出された塗布液Lによって全周が覆われて、重力によって円筒体100の外周面100Aより流れ落ちていった。円筒体100に塗布液Lを塗布したサンプル(円筒体100の外周面100Aに塗膜102が形成されたもの)は、170℃ 、40分熱風乾燥した。
【0109】
また、環状体と設置面30との静摩擦係数は、0.02に設定した。静摩擦係数は、図9に示す測定装置を用い、得られた摩擦力から算出した。
【0110】
塗膜の膜厚測定は渦電流膜厚計を使用し、塗布開始位置から軸方向に20mm間隔で300mm、周方向は90°間隔で測定し、平均膜厚と膜厚の最大値と最小値の差(レンジ(Max-min))を膜厚ムラとして評価した。100本塗布を実施し、100本の平均膜厚と膜厚ムラの平均値を表1に示した。
【0111】
[実施例2]
(塗布)
環状体の第一傾斜角(第1傾斜面の第1傾斜角度θ21、以下同様)は7°、第二傾斜角(第2傾斜面の第2傾斜角度θ22、以下同様)は7°とし、実施例1と同様に塗布液Lの塗布を行った。すなわち、実施例2は、図3に示すように、環状体に1つの傾斜面33Aが形成された例であり、傾斜面33Aの鉛直方向に対する角度θ1は、7°である。
【0112】
[実施例3]
環状体の第一傾斜度は10°、第二傾斜角は5°とし、実施例1と同様に塗布液Lの塗布を行った。
【0113】
[実施例4]
環状体の第一傾斜度は20°、第二傾斜角は10°とし、実施例1と同様に塗布液Lの塗布を行った。
【0114】
[実施例5]
環状体の第一傾斜角は0°、第二傾斜角は0°とし、実施例1と同様に塗布液Lの塗布を行った。実施例5は、環状体の内周面に傾斜面を設けない例である。
【0115】
[実施例6]
環状体の第一傾斜角は2°、第二傾斜角は5°とし、実施例1と同様に塗布液Lの塗布を行った。
【0116】
[実施例7]
環状体の第一傾斜角は10°、第二傾斜角は20°とし、実施例1と同様に塗布液Lの塗布を行った。
【0117】
[比較例1]
環状体を用いず(すなわち、塗布液保持部に傾斜面を有しない環状の固定部材を設け)、塗布液保持部に固定された下部開口部を用いて、実施例1と同様に塗布液Lの塗布を行った。
【0118】
100本塗布を実施し、100本の平均膜厚と膜厚ムラの平均値を評価した結果を表1に示す。
【表1】
【0119】
表1に示されるように、実施例1-実施例4では、膜厚ムラの平均値が少ないことが確認できた。また、実施例1-実施例4と実施例6-実施例7の結果から、環状体の第一傾斜角(第1傾斜面の第1傾斜角度θ21)が第二傾斜角(第2傾斜面の第2傾斜角度θ22)よりも大きい方が、膜厚ムラが少ないことが確認できた。さらに、実施例1-実施例7と比較例1から、環状体の内周面に傾斜面を設けた方が、膜厚ムラが少ないことが確認できた。
【0120】
次に、第2実施例として、環状体と設置面30との静摩擦係数を変えて円筒体100の外周面100Aに塗布液Lを塗布し、塗膜の膜厚ムラを評価した。
【0121】
[実施例2-1]
塗布液Lの生成及び作製は、実施例1と同様である。
(塗布)
円筒体としてφ 84 × 3 4 0 m m のアルミパイプを用い、環状体の第一傾斜角(第1傾斜面の第1傾斜角度θ21)は5°、第二傾斜角(第2傾斜面の第2傾斜角度θ22)は2°である。環状体の設置面30の部材として、ポリテトラフルオロエチレンを用い、このときの環状体と設置面との静摩擦係数は0.05であった。その他の条件は、実施例1と同様である。
【0122】
塗膜の膜厚測定は渦電流膜厚計を使用し、塗布開始位置から軸方向に20mm間隔で300mm 、周方向は90°間隔で測定し、平均膜厚と膜厚の最大値と最小値の差(レンジ(Max - min))を膜厚ムラとして評価した。100本塗布を実施し、100本の平均膜厚と膜厚ムラの平均値を表2に示した。
【0123】
[実施例2-2]
(塗布)
環状体の設置面30の部材をダイヤモンドライクカーボンコートのアルミニウムとした以外は実施例2-1と同様に塗布液Lの塗布を行った。
【0124】
[実施例2-3]
環状体の設置面30の部材をポリイミド樹脂とした以外は実施例2-1と同様に塗布液Lの塗布を行った。
【0125】
[比較例2-1]
環状体の設置面30の部材をSUS316とした以外は実施例2-1と同様に塗布液Lの塗布を行った。
【0126】
[比較例2-2]
環状体の設置面30の部材をTiCNコートのSUS316とした以外は実施例2-1と同様に塗布液Lの塗布を行った。
【0127】
[比較例2-3]
環状体の設置面30の部材をアルミニウム合金とした以外は実施例2-1と同様に塗布液Lの塗布を行った。
【0128】
100本塗布を実施し、100本の平均膜厚と膜厚ムラの平均値を評価した結果を表2に示す。
【表2】
【0129】
表2に示されるように、環状体と設置面との静摩擦係数が0.2以下の場合は、膜厚ムラの平均値が少ないことが確認できた。
【符号の説明】
【0130】
10 塗布装置
12 塗布液保持部
16 循環部(塗布液供給部の一例)
25 上部開口部
28 下部開口部
30 設置面
32 環状体
32A 内周面(内面の一例)
33A 傾斜面
100 円筒体
100A 外周面
102 塗膜
120 塗布装置
122 環状体
122A 内周面(内面の一例)
123A 第1傾斜面
123B 第2傾斜面
θ1 角度
θ21 第1傾斜角度
θ22 第2傾斜角度
L 塗布液
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13