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特開2022-176093減速機構制御システム、およびサーボシステム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176093
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】減速機構制御システム、およびサーボシステム
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20221117BHJP
   F16H 59/68 20060101ALI20221117BHJP
   F16H 61/686 20060101ALI20221117BHJP
   H02P 31/00 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H59/68
F16H61/686
H02P31/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062401
(22)【出願日】2022-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2021082717
(32)【優先日】2021-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390014672
【氏名又は名称】株式会社アマダ
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一也
(72)【発明者】
【氏名】古舘 隼
【テーマコード(参考)】
3J552
5H501
【Fターム(参考)】
3J552MA02
3J552NB05
3J552PA61
3J552RA02
3J552SA26
3J552SA30
3J552VA01W
3J552VA74W
3J552VC00W
5H501AA13
5H501BB08
5H501DD01
5H501LL35
5H501PP01
5H501PP02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】遊星歯車機構による減速機構およびクラッチ機構を備えたサーボモータシステムにおいて、歯の摩耗を発生させることなく、また意図しない位置での不適切な噛み合いを発生させることのないクラッチの歯の噛み合い制御技術を提供する。
【解決手段】減速比切り替えを行うクラッチ2、サーボモータMの回転角度情報に基づき減速比切り替えタイミングを検出する切り替えタイミング検出部8、切り替えタイミング検出部8により特定された減速比切り替えタイミングに基づきクラッチ2における切り替えを駆動するクラッチ駆動部9とから構成され、クラッチ2は減速機構1中の相異なる速度切り替え対象歯車に対してそれぞれ固定された固定歯6、7と切り替え歯3とからなり、切り替え歯3は各固定歯6、7とそれぞれ噛み合う歯構造4、5を有して各固定歯6―7間での噛み合いの切り替えを行うように形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーボモータに備えられた遊星歯車機構による減速機構における減速比の切り替え制御を行うシステムであって、
減速比切り替えを行うクラッチと、
該サーボモータの回転角度情報に基づき減速比切り替えタイミングを検出する切り替えタイミング検出部と、
該切り替えタイミング検出部により特定された減速比切り替えタイミングに基づき該クラッチにおける切り替えを駆動するクラッチ駆動部と、
からなることを特徴とする、減速機構制御システム。
【請求項2】
前記クラッチは、相異なる速度切り替え対象歯車にそれぞれ固定された固定歯と、該各固定歯と噛み合う歯構造を有して各固定歯間での噛み合いの切り替えを行うための切り替え歯とからなることを特徴とする、請求項1に記載の減速機構制御システム。
【請求項3】
前記切り替えタイミング検出部は、前記サーボモータの回転角度と前記減速機構のギア比から、現在切断中の前記固定歯の歯位置であるところの切断中固定歯歯位置を算出することを特徴とする、請求項1、2のいずれかに記載の減速機構制御システム。
【請求項4】
前記切り替えタイミング検出部は、検出された前記サーボモータの回転角度から現在接続中の前記固定歯の歯位置を算出し、算出された接続中固定歯歯位置に基づき前記遊星歯車機構を構成する噛み合い関係にある諸歯車の位置を算出し、算出された諸歯車位置に基づき現在切断中の前記固定歯の歯位置であるところの切断中固定歯歯位置を算出することを特徴とする、請求項1、2のいずれかに記載の減速機構制御システム。
【請求項5】
前記切り替えタイミング検出部は、前記切り替え歯の歯構造のうち前記固定歯とは現在切断中の歯構造であるところの切断中歯構造と、前記切断中固定歯歯位置との相対位置関係に基づき、噛み合いを行えるタイミングの情報であるところの切り替えタイミング情報を前記クラッチ駆動部に送信することを特徴とする、請求項3、4のいずれかに記載の減速機構制御システム。
【請求項6】
前記相対位置関係は、前記切断中歯構造に対する相対的な切断中固定歯歯位置であるところの累積回転量により管理されることを特徴とする、請求項5に記載の減速機構制御システム。
【請求項7】
前記累積回転量は、前記切断中歯構造が直前に前記切り替え歯と所定姿勢により噛み合っていた際における所定位置を基準として定期的に算出されることで、常時管理されることを特徴とする、請求項6に記載の減速機構制御システム。
【請求項8】
前記所定位置は、噛み合う歯の側面同士の接触している姿勢が前記所定姿勢である時の位置、すなわちガタを寄せた位置であることを特徴とする、請求項7に記載の減速機構制御システム。
【請求項9】
前記累積回転量をもとに噛み合い目標位置までに必要な追加回転量が算出され、該追加回転量の回転がなされた時点で切り替えタイミング情報が生成されることを特徴とする、請求項7、8のいずれかに記載の減速機構制御システム。
【請求項10】
前記追加回転量は、ガタに基づく一定値(ガタ変換値)を加味して算出されることを特徴とする、請求項9に記載の減速機構制御システム。
【請求項11】
前記切り替えタイミング情報はフォトセンサまたはその他の切り替えタイミング検出用センサの検出により生成されることを特徴とする、請求項9、10のいずれかに記載の減速機構制御システム。
【請求項12】
前記切り替えタイミング情報に基づき前記クラッチ駆動部によるクラッチ切り替えが駆動された結果、
(A)噛み合い状態が形成された場合は、その後、
(A-2)噛み合った歯同士による前記所定姿勢が形成され、
(B)一方、噛み合いがなされずに双方の歯の端面同士が当接した場合は、まず(A)の噛み合い状態形成がなされ、その後(A-2)の所定姿勢形成がなされる
ことを特徴とする、請求項9、10、11のいずれかに記載の減速機構制御システム。
【請求項13】
前記(A-2)の所定姿勢形成時点で前記累積回転量が初期化されることを特徴とする、請求項12に記載の減速機構制御システム。
【請求項14】
前記切り替え歯における前記各固定歯と噛み合う各歯構造については、それら相互の相対位置関係情報であるところの歯構造位置関係情報が前記切り替えタイミング検出部にあらかじめ設定されており、該歯構造位置関係情報に基づいて前記切り替えタイミング情報が生成されることを特徴とする、請求項3、4のいずれかに記載の減速機構制御システム。
【請求項15】
前記クラッチ駆動部は、前記切り替えタイミング情報を該クラッチ駆動部が受信している際に前記クラッチの切り替え駆動が可能なよう形成されていることを特徴とする、請求項4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14のいずれかに記載の減速機構制御システム。
【請求項16】
前記クラッチ駆動部は、前記切り替えタイミング情報、および切り替え指令入力の双方の受信がなされた際に前記クラッチの切り替え駆動を行うことを特徴とする、請求項15に記載の減速機構制御システム。
【請求項17】
前記回転角度情報は前記サーボモータに搭載された角度センサにより得られることを特徴とする、請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16のいずれかに記載の減速機構制御システム。
【請求項18】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17のいずれかに記載の減速機構制御システムと、該減速機構制御システムに係る減速機構が備えられたサーボモータからなることを特徴とする、サーボシステム。
【請求項19】
サーボドライバまたはコンピュータにより実行可能なプログラムであって、請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17のいずれかに記載の減速機構制御システムにおける切り替えタイミング検出部およびクラッチ駆動部の作用をなすための各手順を、サーボドライバまたはコンピュータに機能させることを特徴とする、減速機構制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は減速機構制御システム、およびサーボシステムに係り、特に、遊星歯車機構による減速機構およびクラッチ機構を備えたサーボモータシステムにおいて、当該減速機構のクラッチにおける歯の噛み合い制御技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図9、10は、サーボモータに備えられた遊星歯車機構による減速機構における減速比切り替え用クラッチの従来技術を示す要部説明図であり、図9は切り替え前、図10は切り替え直前の状態を示す。図中の固定歯56、57はそれぞれ、減速機構をなす遊星歯車機構(図示せず)の特定の歯車、たとえば内歯車や太陽歯車に固定されていて、切り替え歯5の歯構造54、55との噛み合いによってクラッチ作用を各歯車に伝える機能を果たす。
【0003】
従来技術では図9に示した、切り替え歯53がその歯構造54によって固定歯56に噛み合って接続している状態から、歯構造55によって固定歯57に噛み合って接続する状態へと切り替える際、固定歯57の凸部(歯)に当接している歯構造55の凸部(歯)が凸部(歯)の先の凹部(歯間)へと嵌入するように、切り替え歯53に対して歯を強制的に滑らせるトルクTをかける。それにより図10に示すように、歯構造55の凸部(歯)は固定歯57の凸部(歯)の上面を滑って凹部(歯間)の位置まで移動し、この後、凹部(歯間)に嵌入することで噛み合いが実現する。つまり、歯構造54等とこれに対向する固定歯56等の歯先同士を当接させた状態で、歯先同士が当接した状態を保つことができないポイントまで回そうとするトルクTを発生させて、強制的に歯先同士を滑らせ、噛み合わせるという制御方法である。
【0004】
遊星歯車機構による減速機構については従来、特許出願等も広範な製品分野においてなされている。たとえば後掲特許文献1には、ドラム式洗濯機において、洗浄性能向上と駆動部の大サイズ化抑制可能な技術として、駆動ユニットを、遊星歯車機構を挟んで配置される第1転がり軸受および第2転がり軸受を有する軸受ユニットを用いて構成し、ドラム軸は遊星歯車機構の内歯車に固定し、遊星歯車機構の遊星キャリアはドラム軸からロータ側に突出するキャリア軸を含み、クラッチ機構部はキャリア軸の先端部に係わるよう設けられ、翼軸がドラム軸の回転より速く回転する第1形態と、翼軸、遊星歯車機構およびドラム軸が一体的に回転する第2形態との間で駆動ユニットの形態を切り替える構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-208499号公報「ドラム式洗濯機」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図9等により示した従来技術では、切り替え歯53の歯構造54等とこれに対向する固定歯56等の当接した歯先同士を滑らせるため、歯が摩耗してしまうという問題がある。また、トルクTによって歯先同士を滑らせる際の速度が大き過ぎる場合には、凹部(歯間)への嵌入すなわち噛み合いがなされる間もなく、次の歯先へと進んでそれとの当接状態が生じてしまい、意図した適切な噛み合いができないという現象も発生する。
【0007】
そこで本発明が解決しようとする課題は、かかる従来技術の問題点をなくし、遊星歯車機構による減速機構およびクラッチ機構を備えたサーボモータシステムにおいて、クラッチの切り替え歯と固定歯との間における噛み合い制御のための強制的なトルクをかけることなく、したがって歯の摩耗を発生させることなく、また意図しない位置での不適切な噛み合いを発生させることのない、クラッチの歯の噛み合い制御技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者は上記課題について検討した。その結果、クラッチと遊星歯車機構の内歯車が固定され、かつモータ出力部と太陽歯車が固定されている状態において、モータ搭載のセンサにより減速機構における歯車部の歯数によって内歯車の回転速度が算出でき、回転速度から内歯車に固定されているクラッチの歯の位置を算出でき、それによって歯先同士が当接、衝突する状態を回避する制御を行い、噛み合いさせられることに想到した。そして、これに基づいて本発明を完成するに至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0009】
〔1〕 サーボモータに備えられた遊星歯車機構による減速機構における減速比の切り替え制御を行うシステムであって、
減速比切り替えを行うクラッチと、
該サーボモータの回転角度情報に基づき減速比切り替えタイミングを検出する切り替えタイミング検出部と、
該切り替えタイミング検出部により特定された減速比切り替えタイミングに基づき該クラッチにおける切り替えを駆動するクラッチ駆動部と、
からなることを特徴とする、減速機構制御システム。
〔2〕 前記クラッチは、相異なる速度切り替え対象歯車にそれぞれ固定された固定歯と、該各固定歯と噛み合う歯構造を有して各固定歯間での噛み合いの切り替えを行うための切り替え歯とからなることを特徴とする、〔1〕に記載の減速機構制御システム。
〔3〕 前記切り替えタイミング検出部は、前記サーボモータの回転角度と前記減速機構のギア比から、現在切断中の前記固定歯の歯位置であるところの切断中固定歯歯位置を算出することを特徴とする、〔1〕、〔2〕のいずれかに記載の減速機構制御システム。
〕 前記切り替えタイミング検出部は、検出された前記サーボモータの回転角度から現在接続中の前記固定歯の歯位置を算出し、算出された接続中固定歯歯位置に基づき前記遊星歯車機構を構成する噛み合い関係にある諸歯車の位置を算出し、算出された諸歯車位置に基づき現在切断中の前記固定歯の歯位置であるところの切断中固定歯歯位置を算出することを特徴とする、〔1〕、〔2〕のいずれかに記載の減速機構制御システム。
〕 前記切り替えタイミング検出部は、前記切り替え歯の歯構造のうち前記固定歯とは現在切断中の歯構造であるところの切断中歯構造と、前記切断中固定歯歯位置との相対位置関係に基づき、噛み合いを行えるタイミングの情報であるところの切り替えタイミング情報を前記クラッチ駆動部に送信することを特徴とする、〔3〕、〔4〕のいずれかに記載の減速機構制御システム。
【0010】
〔6〕 前記相対位置関係は、前記切断中歯構造に対する相対的な切断中固定歯歯位置であるところの累積回転量により管理されることを特徴とする、〔5〕に記載の減速機構制御システム。
〔7〕 前記累積回転量は、前記切断中歯構造が直前に前記切り替え歯と所定姿勢により噛み合っていた際における所定位置を基準として定期的に算出されることで、常時管理されることを特徴とする、〔6〕に記載の減速機構制御システム。
〔8〕 前記所定位置は、噛み合う歯の側面同士の接触している姿勢が前記所定姿勢である時の位置、すなわちガタを寄せた位置であることを特徴とする、〔7〕に記載の減速機構制御システム。
〔9〕 前記累積回転量をもとに噛み合い目標位置までに必要な追加回転量が算出され、該追加回転量の回転がなされた時点で切り替えタイミング情報が生成されることを特徴とする、〔7〕、〔8〕のいずれかに記載の減速機構制御システム。
〔10〕 前記追加回転量は、ガタに基づく一定値(ガタ変換値)を加味して算出されることを特徴とする、〔9〕に記載の減速機構制御システム。
〔11〕 前記切り替えタイミング情報はフォトセンサまたはその他の切り替えタイミング検出用センサの検出により生成されることを特徴とする、〔9〕、〔10〕のいずれかに記載の減速機構制御システム。
〔12〕 前記切り替えタイミング情報に基づき前記クラッチ駆動部によるクラッチ切り替えが駆動された結果、
(A)噛み合い状態が形成された場合は、その後、
(A-2)噛み合った歯同士による前記所定姿勢が形成され、
(B)一方、噛み合いがなされずに双方の歯の端面同士が当接した場合は、まず(A)の噛み合い状態形成がなされ、その後(A-2)の所定姿勢形成がなされる
ことを特徴とする、〔9〕、〔10〕、〔11〕のいずれかに記載の減速機構制御システム。
〔13〕 前記(A-2)の所定姿勢形成時点で前記累積回転量が初期化されることを特徴とする、〔12〕に記載の減速機構制御システム。
14〕 前記切り替え歯における前記各固定歯と噛み合う各歯構造については、それら相互の相対位置関係情報であるところの歯構造位置関係情報が前記切り替えタイミング検出部にあらかじめ設定されており、該歯構造位置関係情報に基づいて前記切り替えタイミング情報が生成されることを特徴とする、〔3〕、〔4〕のいずれかに記載の減速機構制御システム。
15〕 前記クラッチ駆動部は、前記切り替えタイミング情報を該クラッチ駆動部が受信している際に前記クラッチの切り替え駆動が可能なよう形成されていることを特徴とする、〔4〕、〔5〕、〔6〕、〔7〕、〔8〕、〔9〕、〔10〕、〔11〕、〔12〕、〔13〕、〔14〕のいずれかに記載の減速機構制御システム。
16〕 前記クラッチ駆動部は、前記切り替えタイミング情報、および切り替え指令入力の双方の受信がなされた際に前記クラッチの切り替え駆動を行うことを特徴とする、〔15〕に記載の減速機構制御システム。
17〕 前記回転角度情報は前記サーボモータに搭載された角度センサにより得られることを特徴とする、請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16のいずれかに記載の減速機構制御システム。
18〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕、〔6〕、〔7〕、〔8〕、〔9〕、〔10〕、〔11〕、〔12〕、〔13〕、〔14〕、〔15〕、〔16〕、〔17〕のいずれかに記載の減速機構制御システムと、該減速機構制御システムに係る減速機構が備えられたサーボモータからなることを特徴とする、サーボシステム。
〔19〕 サーボドライバまたはコンピュータにより実行可能なプログラムであって、〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕、〔6〕、〔7〕、〔8〕、〔9〕、〔10〕、〔11〕、〔12〕、〔13〕、〔14〕、〔15〕、〔16〕、〔17〕のいずれかに記載の減速機構制御システムにおける切り替えタイミング検出部およびクラッチ駆動部の作用をなすための各手順を、サーボドライバまたはコンピュータに機能させることを特徴とする、減速機構制御プログラム。
【発明の効果】
【0011】
本発明の減速機構制御システム、およびサーボシステムは上述のように構成されるため、これらによれば、遊星歯車機構による減速機構およびクラッチ機構を備えたサーボモータシステムにおいて、クラッチの切り替え歯と固定歯との間における噛み合い制御のための強制的なトルクをかけることなく、したがって歯の摩耗を発生させることなく、また意図しない位置での不適切な噛み合いを発生させることなく、クラッチの歯を噛み合せることができる。したがって、切り替え歯の歯構造とこれに対向する固定歯との間の歯先同士を当接させトルクをかけて滑らせるという従来技術よりも、信頼性が高い噛み合い制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明減速機構制御システムおよびサーボシステムの基本構成を示す概念図である。
図2図1に示す減速機構制御システムの動作を示す概念図である。
図3】本発明減速機構制御システムに係るクラッチの動作を実施例によって示す要部説明図である(その1)。
図4】本発明減速機構制御システムに係るクラッチの動作を実施例によって示す要部説明図である(その2)。
図5】本発明減速機構制御システムに係るクラッチの動作を実施例によって示す要部説明図である(その3)。
図6】本発明減速機構制御システムの切り替えタイミング検出部における作用を示すフロー図である。
図7】切り替えタイミング情報送信過程を有する本発明減速機構制御システムの切り替えタイミング検出部における作用を示すフロー図である。
図8】本発明減速機構制御システムおよびサーボシステムの構成例を示す説明図である。
図9】サーボモータに備えられた遊星歯車機構による減速機構における減速比切り替え用クラッチの従来技術を示す要部説明図である(切り替え前)。
図10】サーボモータに備えられた遊星歯車機構による減速機構における減速比切り替え用クラッチの従来技術を示す要部説明図である(切り替え直前)。
図11本発明減速機構制御システム適用対象の減速機構の例について、そのクラッチおよびトルク伝達ルートを示した説明図であり、低速モードを示す。
図12本発明減速機構制御システム適用対象の減速機構の例について、そのクラッチおよびトルク伝達ルートを示した説明図であり、高速モードを示す。
図13基本版発明においてなお残存していた問題点を示す、クラッチの断面視説明図であり、一方の固定歯への切り替えにおける問題を示す。
図13-2】 基本版発明においてなお残存していた問題点を示す、クラッチの断面視説明図であり、他方の固定歯への切り替えにおける問題を示す。
図14本発明減速機構制御システムに係るクラッチにおける基準設定方式を示す断面視の説明図であり、一方の固定歯(I)における基準設定方式を示す。
図15本発明減速機構制御システムに係るクラッチにおける基準設定方式を示す断面視の説明図であり、他方の固定歯(II)における基準設定方式を示す。
図16本発明減速機構制御システムに係るクラッチにおける累積回転量管理の方式を示す断面視の説明図である。
図17本発明減速機構制御システムに係るクラッチにおける噛み合い位置合わせ動作例を示す断面視の説明図である。
図18本発明減速機構制御システムに係るクラッチにおける噛み合い位置合わせ動作例を示す断面視の説明図であり、特に成功率を高める方法の一例を示す。
図19本発明減速機構制御システムに係るクラッチにおける噛み合い位置合わせ動作例を示す断面視の説明図であり、位置合わせが完了した状態を示す。
図20本発明減速機構制御システムに係るクラッチにおける噛み合い位置合わせ動作例を示す断面視の説明図であり、クラッチ切り替えが完了した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面により本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明減速機構制御システムおよびサーボシステムの基本構成を示す概念図である。また、図2は、図1に示す減速機構制御システムの動作を示す概念図である。これらに示すように本減速機構制御システム10は、サーボモータMに備えられた遊星歯車機構による減速機構1における減速比の切り替え制御を行うシステムであり、減速比切り替えを行うクラッチ2と、サーボモータMの回転角度情報に基づき減速比切り替えタイミングを検出する切り替えタイミング検出部8と、切り替えタイミング検出部8により特定された減速比切り替えタイミングに基づきクラッチ2における切り替えを駆動するクラッチ駆動部9とからなることを、主たる構成とする。
【0014】
図示するようにクラッチ2は、減速機構1中の相異なる速度切り替え対象歯車に対してそれぞれ固定された固定歯6、7と、および切り替え歯3とからなり、切り替え歯3は、各固定歯6、7とそれぞれ噛み合う歯構造4、5を有して各固定歯6―7間での噛み合いの切り替えを行うように形成されている。なお、これらの図はあくまでも概念図であり、各要素の形態や位置関係は単純化・概念化されており、実際のシステムにおける形態や位置関係を表すものではない。なお、図1では、クラッチ2の切り替え歯3がいずれの固定歯6、7にも接続しておらず、あたかもニュートラル状態であるように示しているが、実際には図2に示すように、固定歯6、7のいずれか一方に必ず接続している状態となるように形成されるものとすることができる。
【0015】
かかる構成により本減速機構制御システム10においては、切り替えタイミング検出部8によってサーボモータMの回転角度情報に基づく減速比切り替えタイミングが検出、特定されると、かかる減速比切り替えタイミングに基づいてクラッチ駆動部9によってクラッチ2における切り替えが駆動され、クラッチ2による減速機構1における減速比の切り替え制御が完遂される。ここで、クラッチ2における切り替えは、切り替え歯3の歯構造とそれに対応する固定歯との間における噛み合い状態を、別の歯構造とそれに対応する固定歯との間における噛み合いに切り替える作用であるが、図2を用いてさらに説明する。
【0016】
図2中、(x)は切り替え歯3の歯構造4が固定歯6に噛み合って接続している状態、一方(y)は切り替え歯3の歯構造5が固定歯7に噛み合って接続している状態を示す。(x)から(y)への切り替えは、まず、切り替えタイミング検出部8によるサーボモータMの回転角度情報に基づく減速比切り替えタイミング検出がなされるのだが、この減速比切り替えタイミングとは、現在接続していない方の歯構造5とこれに対応する固定歯7との間の噛み合いが、これらの歯先を当接させた状態でトルクによって強制的に滑らせるという動作をとることなく、噛み合い位置が合うタイミング、換言すれば、歯構造5の凹凸と固定歯7側の凸凹の位置が合い、後は歯構造5の凸部を固定歯7の凹部に嵌入させるだけで噛み合いが実現するというタイミングである。
【0017】
かかる切り替えタイミングが検出されると、これに基づいてクラッチ駆動部9は、現在(図中(x))、歯構造4により固定歯6側に噛み合って接続している切り替え歯3を、固定歯7に対して歯構造5が嵌入して噛み合うよう、固定歯7側に向かって進行させる駆動を行う。これにより切り替え歯3は、歯構造5でもって固定歯7へと噛み合って接続し、減速比の切り替えが完了する(図中(y))。
【0018】
図3、4、5は、本発明減速機構制御システムに係るクラッチの動作を実施例によって示す要部説明図であり(その1、2、3)、順に、切り替え歯33が固定歯36に接続している状態から固定歯37への接続へと切り替えがなされていく過程を示す。歯構造34でもって固定歯36側に噛み合い接続している切り替え歯33(図3)は、他方の歯構造35とこれに対応する固定歯37とが噛み合える位置となった(図4)ことを、上述した切り替えタイミング検出部8が検出すると、その検出に基づいてクラッチ駆動部9が切り替え駆動Cを行い(図4)、これによって歯構造35の凸部(歯)は固定歯37の凹部(歯間)に円滑に嵌入して噛み合い、接続し、減速比の切り替えが完了する(図5)。
【0019】
たとえば、固定歯36が遊星歯車機構を構成する内歯車(図示せず)に固定されている場合、当該固定歯36は内歯車と同じ回転速度で回転している。そのため、遊星歯車の各歯数とモータに搭載されたセンサにより検知される回転位置(角度)情報から、内歯車の回転速度がわかる。それにより、現在接続していない方の固定歯37の位置を知ることができる。したがって、固定歯37とこれに対応する歯構造35とがそれぞれの歯先によって当接、衝突しない位置関係、つまり適切に噛み合える位置関係となるタイミングを検出、特定することが可能であり、それに基づきクラッチ駆動部による切り替え駆動Cが行われる。なお、遊星歯車機構中における減速比切り替え対象の歯車は限定されない。
【0020】
図6は、本発明減速機構制御システムの切り替えタイミング検出部における作用を示すフロー図である。前掲図1での符号も用いつつ説明する。図示するように本減速機構制御システムの切り替えタイミング検出部8は、検出されたサーボモータMの回転角度Rから現在接続中の固定歯6等の歯位置である接続中固定歯歯位置Xjを算出する第一算出過程P1、接続中固定歯歯位置Xjに基づき遊星歯車機構を構成する噛み合い関係にある諸歯車の位置である諸歯車位置Xgを算出する第二算出過程P2、および、諸歯車位置Xgに基づき現在切断中の固定歯7等の歯位置であるところの切断中固定歯歯位置Xrを算出する第三算出過程P3が、順になされるよう構成される。
【0021】
かかる構成の本減速機構制御システムの切り替えタイミング検出部8においては、まず第一算出過程P1において、検出されたサーボモータMの回転角度Rから現在接続中の固定歯6等の歯位置である接続中固定歯歯位置Xjが算出され、次いで第二算出過程P2において、接続中固定歯歯位置Xjに基づき遊星歯車機構を構成する噛み合い関係にある諸歯車の位置である諸歯車位置Xgが算出され、そして第三算出過程P3においては、諸歯車位置Xgに基づき現在切断中の固定歯7等の歯位置であるところの切断中固定歯歯位置Xrが算出される。換言すれば切り替えタイミング検出部における作用は、サーボモータの回転角度と減速機構のギア比から、現在切断中の固定歯の歯位置であるところの切断中固定歯歯位置を算出することであると言える。
【0022】
図7は、切り替えタイミング情報送信過程を有する本発明減速機構制御システムの切り替えタイミング検出部における作用を示すフロー図である。前掲図2での符号も用いつつ説明する。図示するように切り替えタイミング検出部8は、切り替え歯3の歯構造4、5のうち固定歯とは現在切断中の歯構造であるところの切断中歯構造の位置すなわち切断中歯構造位置Ycと、第三算出過程P3で算出済みの切断中固定歯歯位置Xrとの相対位置関係に基づき、噛み合いを行えるタイミングの情報であるところの切り替えタイミング情報をクラッチ駆動部9に送信する切り替えタイミング情報送信過程P4がなされるように構成される。
【0023】
かかる構成の本減速機構制御システムの切り替えタイミング検出部8でなされる切り替えタイミング情報送信過程P4においては、たとえば固定歯7と対応関係にある歯構造5が切断中の場合は(図2中、(x))、切断中歯構造5の位置すなわち切断中歯構造位置Ycと、第三算出過程P3で算出済みの切断中固定歯7の位置すなわち切断中固定歯歯位置Xrとの相対位置関係に基づき、噛み合いを行えるタイミングの情報であるところの切り替えタイミング情報がクラッチ駆動部9に対して送信される。クラッチ駆動部9は受信した切り替えタイミング情報に基づいて、切り替え歯3に対する切り替え駆動を行う。
【0024】
また、固定歯6と対応関係にある歯構造4が切断中の場合は(図2中、(y))、切断中歯構造4の位置すなわち切断中歯構造位置Ycと、第三算出過程P3で算出済みの切断中固定歯6の位置すなわち切断中固定歯歯位置Xrとの相対位置関係に基づき、噛み合いを行えるタイミングの情報であるところの切り替えタイミング情報がクラッチ駆動部9に対して送信され、クラッチ駆動部9は受信した切り替えタイミング情報に基づいて切り替え歯3に対する切り替え駆動を行う。
【0025】
なお本発明減速機構制御システム10の切り替えタイミング検出部8は、各固定歯6、7と噛み合う各歯構造4、5につき、それら相互の相対位置関係情報であるところの歯構造位置関係情報をあらかじめ設定されている構成とすることができる。これにより、歯構造4-5間の位置関係情報である歯構造位置関係情報に基づいて、上記切り替えタイミング情報の生成を得ることができる。
【0026】
また、本減速機構制御システム10のクラッチ駆動部9は、切り替えタイミング検出部8により検出され発信された切り替えタイミング情報を受信していることを、クラッチ2の切り替え駆動の条件として設定するものとする。固定歯6等と切り替え歯の歯構造4等とが噛み合える適切な位置関係であることを知らせる切り替えタイミング情報を得ていることが、クラッチ駆動部9の作用には必要だからである。なおまた、本減速機構制御システム10のクラッチ駆動部9は、切り替えタイミング情報、および切り替え指令入力の双方の受信がなされた際に、これを条件として、クラッチ2の切り替え駆動を行う構成とすることができる。
【0027】
本発明減速機構制御システム10における回転角度情報Rは、サーボモータMに搭載された角度センサSにより得られ
るものとすることができるが、角度センサSとしてはレゾルバを好適に用いることができる。しかしこれに限定されず、たとえばエンコーダでもよい。
【0028】
図8は、本発明減速機構制御システムおよびサーボシステムの構成例を示す説明図である。図示するように、以上説明したいずれかの構成を備えた減速機構制御システム210と、これによる制御を受ける減速機構21が備えられたサーボモータ2Mとからなるサーボシステム230全体もまた、本発明の範囲内である。サーボモータ2Mに搭載された角度センサ2Sから回転角度情報を得て切り替えタイミング情報を検出する切り替えタイミング検出部28、およびそれに基づき動作するクラッチ駆動部29、これらによって切り替え歯23の切り替え制御がなされる。なお、図中、切り替え歯23の歯構造の表示は省略している。また、減速機構は「減速機」と表記している。
【0029】
本図は、固定歯A(固定歯26A)に対して切り替え歯23が噛み合い接続している状態を示している。遊星歯車による減速機構21は、減速比100:1の歯車A(歯車20A)、減速比1:1の歯車B(歯車20B)、およびこれらと接続する諸歯車C(歯車20s)とからなっている。固定歯A(固定歯26A)は減速機構の歯車A(歯車20A)に、固定歯B(固定歯27B)は歯車B(歯車20B)にそれぞれ固定されており、したがって本図では、クラッチ22は減速比100:1の速度に切り替えられている状態である。
【0030】
切替タイミング検出部28は、モータ軸位置算出の機能280、上述の第一算出過程P1、第二算出過程P2、ならびに第三算出過程P3(図6、7)をそれぞれ担う第一算出過程の機能281、第二算出過程の機能282、第三算出過程の機能283を有し、さらに上述の切り替えタイミング情報送信過程P4を担う機能(図示せず)を備えて構成される。
【0031】
角度センサ2Sからのサーボモータ2Mの回転角度情報に基づき、モータ軸位置算出機能280によりモータ軸位置算出がなされ、次いで第一算出過程の機能281によりモータ軸位置に基づき固定歯A(固定歯26A)の歯位置が算出され、次いで第二算出過程の機能282により固定歯A歯位置に基づき遊星歯車機構を構成する諸歯車の位置が算出される。ここでは、クラッチ22の固定歯B(固定歯27B)が固定されている歯車B(歯車20B)の位置が最終的に算出される。そして、第三算出過程の機能283により歯車B(歯車20B)の位置に基づき固定歯B(固定歯27B)の位置が算出される。
【0032】
かかる固定歯B(固定歯27B)位置算出により、これと切り替え歯23の対応する歯構造位置との関係から切替タイミングが検出されてクラッチ駆動部29(図では「切り替え歯の駆動部」)に伝えられ、クラッチ駆動部29は、クラッチ22の切り替え歯23を現在接続中の固定歯A(固定歯26A)から切断中の固定歯B(固定歯27B)へと切り替える駆動を行う。このようにして、減速比100:1から1:1への切り替えが完了する。
【0033】
以上は本発明の基本版であるが、これに基づく改良版の本発明について説明する。まず、以下の説明において用いる例における前提の構成を、図として示す。
図11、12は、本発明減速機構制御システム適用対象の減速機構の例について、そのクラッチおよびトルク伝達ルートを示した説明図である。このうち図11は低速モードを、図12は高速モードを、それぞれ示す。また各図共通で、(a)はクラッチ要部の断面視、(b)はクラッチ周辺を含めた断面視、(c)は平面視にて示している。
【0034】
各図中に示す各要素と、基本版発明において用いた各用語との対応は、次の通りである。
モータ軸MJ ― 対応なし
高速側ツースHT ― 一方の固定歯
低速側ツースLT ― 他方の固定歯
アーマチュアAM ― 切り替え歯
遊星(歯車)1 PL1 ― 減速機構の諸歯車の一部
遊星(歯車)2 PL2 ― 減速機構の諸歯車の一部
出力端OP ― 対応なし
【0035】
図11に示すように低速モードでは、トルクの伝達ルートは次の通りである。
モータ軸MJ → 遊星1PL1(公転)→ 遊星2PL2(公転) ⇒ 出力端OP
すなわち、本減速機構において遊星歯車PL1、PL2は自転しつつ公転し、高速側ツースHTは遊星歯車1PL1の公転に連動して回転し、出力端O+は低速側ツースLTが固定された側のトルクが伝達されて、低速回転する。
【0036】
一方、図12に示すように高速モードでは、トルクの伝達ルートは次の通りである。
モータ軸MJ → 遊星1PL1(自転) → 遊星2PL2(自転) → 出力端OP
すなわち、本減速機構において遊星歯車PL1等は高速側ツースHTで公転を禁止されて自転のみになり、低速側ツースLTは、遊星歯車1PL1の自転に連動して回転し、出力端OPは高速側ツースHTが固定された側のトルクが伝達されて、高速回転する。
【0037】
さて、基本版には次のような問題点が残存していた。すなわち、クラッチには、基準となる回転角が存在しない。そのため、歯の相対位置が管理できない、という問題である。図13図13-2は、基本版発明においてなお残存していた問題点を示す、クラッチの断面視説明図であり、前者は一方の固定歯への切り替えにおける問題、後者は他方の固定歯への切り替えにおける問題をそれぞれ示す。図13では、切り替え歯93は固定歯(II)97に噛み合っている状態から固定歯(I)96へと切り替えがなされようとしている。しかし、固定歯(I)96の相対位置が分からないため、クラッチ切り替え時に、切り替え歯93、固定歯(I)96双方の歯が衝突する場合がある。
【0038】
一方、図13-2では、切り替え歯93は固定歯(I)96に噛み合っている状態から固定歯(II)97へと切り替えがなされようとしている。しかし、固定歯(II)97の相対位置が分からないため、クラッチ切り替え時に、切り替え歯93、固定歯(II)97双方の歯が衝突する場合がある。
【0039】
このように円滑な切り替えが行われないのは、切り替え歯93に対する固定歯(I)96の位置関係、および切り替え歯93に対する固定歯(II)97の位置関係が把握できていない、つまり歯の相対位置が管理できていないことによる。すなわち、現在の固定歯96、97の山が、切り替え歯93の歯構造との間で、どの位置にあるか、という相対位置の管理が必要である。そうしないと歯の摩耗が発生し、クラッチを低寿命化させてしまうことになる。
【0040】
そこでかかる問題の解決手段として、あらかじめ、両固定歯について、歯同士が衝突することなく円滑に噛み合うことのできる切り替え位置を探し出し、その位置を基準として設定し、基準設定後は入力軸の基準からの回転量・回転速度に減速比を乗じることによってクラッチ歯の相対位置・回転速度を算出し、切り替えを行うという方式を考案した。以下、この改良版発明についてより詳細に説明する。
【0041】
基本版発明において、クラッチ駆動部に送信される切り替えタイミング情報は、切断中歯構造と切断中固定歯歯位置との相対位置関係に基づくことを述べた。改良版発明では、この相対位置関係を、切断中歯構造に対する相対的な切断中固定歯歯位置であるところの累積回転量によって管理する方式とした。累積回転量は、切断中歯構造が直前に切り替え歯と所定姿勢により噛み合っていた際における所定位置を基準として定期的に算出され、それによって常時管理される。そして所定位置としては、噛み合う歯の側面同士の接触している姿勢が当該所定姿勢である時の位置、すなわちガタを寄せた位置とすることができる。図を用いて説明する。
【0042】
図14、15は、本発明減速機構制御システムに係るクラッチにおける基準設定方式を示す断面視の説明図であり、前者は一方の固定歯(I)、後者は他方の固定歯(II)における基準設定方式を示す。まず、図14により、固定歯(I)66の基準設定定義(基準定義)について説明する。図中(a)に示す初期状態、、すなわち、固定歯(I)66、固定歯(II)67双方とも切り替え歯63との位置関係が不定の状態から、切り替え歯63を固定歯(I)66と噛み合う方向(図では上方向)に動かす。ここで、双方の歯同士が噛み合う場合と噛み合わずに歯同士が当たる場合があり得るが、当たった場合は、その状態から固定歯(I)66を一定方向(図では右方向)に回転させて、両者を?み合わせる。
【0043】
ついで、固定歯(I)66と切り替え歯63のガタが端に寄った状態を形成する(図中(b))。そしてこの位置を、切り替え歯63に対する固定歯(I)66の基準として設定するために、固定歯(I)66の累積回転量を初期化(0クリア)する。このことをもって基準の定義が完了する。このようにして設定された基準により、切り替え歯63に対する固定歯(I)66の相対位置が管理される。
【0044】
次に図15により、固定歯(II)67の基準設定定義(基準定義)について説明する。図中(a)に示す初期状態、、すなわち、固定歯(I)66、固定歯(II)67双方とも切り替え歯63との位置関係が不定の状態から、切り替え歯63を固定歯(II)67と噛み合う方向(図では下方向)に動かす。ここで、双方の歯同士が噛み合う場合と噛み合わずに歯同士が当たる場合があり得るが、当たった場合は、その状態から固定歯(II)67を一定方向(図では右方向)に回転させて、両者を?み合わせる。
【0045】
ついで、固定歯(II)67と切り替え歯63のガタが端に寄った状態を形成する(図中(b))。そしてこの位置を、切り替え歯63に対する固定歯(II)67の基準として設定するために、固定歯(II)67の累積回転量を初期化(0クリア)する。このことをもって基準の定義が完了する。このようにして設定された基準により、切り替え歯63に対する(II)67の相対位置が管理される。このように、既に一方の固定歯に対する位置合わせ動作が終わった段階で、他方の固定歯に対する位置合わせ動作をする。
【0046】
なお、累積回転量の初期化は、固定歯(I)66や固定歯(II)67にかかる基準設定の際に、常になされる。つまり、クラッチ切り替えが完了するたびに、噛み合っている方の固定歯の累積回転量を初期化(0クリア)することで、改めて基準を設定し直す、いわば基準の再定義を行う。一方の固定歯において定義された基準は、切り替え歯63との間における現在の噛み合いが継続し、その後クラッチ切り替えがなされて切り替え歯63との噛み合いが切断され、自身による回転可能状態が継続している間、つまり次のクラッチ切り替えによって再び自身に切り替え歯63が噛み合わされるまで有効であり、その間、継続して累積回転量の管理がなされる。
【0047】
なお、図15中の(b)では、図14においてガタが端に寄った状態にあった固定歯(I)66が、回転によって基準から離れていることが示されているが、固定歯(I)66は既に基準が定義されて累積回転量の算出が継続して行われている状況であるから、問題はない。
【0048】
図16は、本発明減速機構制御システムに係るクラッチにおける累積回転量管理の方式を示す断面視の説明図である。図示するように、固定歯(I)66のガタを端に寄せた位置が、累積回転量算出・管理の基準となる。固定歯(I)66累積回転量は、モータ軸MJ回転角と減速機ギア比から算出される。固定歯(II)67の場合も同様である。なお累積回転量の管理は、単位時間周期で常に行うこととするのがよい。
【0049】
クラッチ切り替え動作は、たとえば次のような過程にしたがって行うことができる。まず、クラッチ励磁切替の指令がなされ、それに基づいて切り替え対象側の固定歯と切り替え歯との噛み合い位置を合わせる過程がなされ、それによってクラッチ切り替え過程がなされ、その切り替えの結果が成功か否かを判定する判定過程がなされ、成功の場合は基準の定義(再定義)のための所定姿勢が形成される過程がなされ、基準の定義(再定義)すなわちそれまでの累積回転量の初期化の過程がなされて、クラッチ切り替え動作が完了する。
【0050】
なお、上記判定過程においてクラッチ切り替え失敗と判定された場合には、所定のリカバリー動作過程がなされた後、上記所定姿勢形成の過程、基準定義(再定義)の過程がなされる。ここでリカバリー動作とは、噛み合わせの過程の目的である<切り替え歯と固定歯の歯同士が当たらないように回転させてから切り替え歯を動かす>ことが失敗した場合に、噛み合いが完了するまで追加で固定歯を回転させる動作である。
【0051】
図17は、本発明減速機構制御システムに係るクラッチにおける噛み合い位置合わせ動作例を示す断面視の説明図である。図では、現在噛み合っている固定歯(I)66から、他方の固定歯(II)67へとクラッチ切り替えを行う前の状態を示す。この状態で、累積回転量に基づいて、切り替え対象である固定歯(II)67の歯が、適切な噛み合いを実現するための目標からどの程度ずれているかが計算される。すなわち、累積回転量をもとに噛み合い目標位置までに必要な追加回転量が算出され、追加回転量の回転がなされた時点で、切り替え歯63の切り替えタイミング情報が生成されることになる。
【0052】
図に示した位置関係のままで切り替え歯63が固定歯(II)67方向(図では下方向)へと切り替えらると、双方の歯同士が衝突してしまうことが、累積回転量、および切り替え歯63における歯の歯間距離からわかる。また、当該歯間距離から、固定歯(II)67が適正な噛み合い目標位置までに必要な追加回転量もわかる。なお、図中の「1歯(6.0°)」は切り替え歯63の歯構造における歯間距離を例示したものであり、本発明がこれに限定されるものではない。
【0053】
図18は、本発明減速機構制御システムに係るクラッチにおける噛み合い位置合わせ動作例を示す断面視の説明図であり、特に成功率を高める方法の一例を示す。図示するように追加回転量は、ガタに基づく一定値(ガタ変換値)を加味して算出するようにしてもよい。たとえば、切り替え歯63における歯と歯の中間位置に固定歯(II)67の歯が位置するような狙いで、追加回転量を決めるのである。そのようにすれば、歯同士の衝突可能性を低減して適正な噛み合わせをせしめることができる。図では、ガタ変換値としてガタの1/2を加算した追加回転量とした例を示している。なお、図中の「0.65°」は例示であり、本発明がこれに限定されるものではない。
【0054】
なお、図17、18中に示したように、本減速機構制御システムにおける切り替えタイミング情報は、フォトセンサまたはその他の切り替えタイミング検出用センサの検出により生成されるものとすることができる。
【0055】
図19は、本発明減速機構制御システムに係るクラッチにおける噛み合い位置合わせ動作例を示す断面視の説明図であり、位置合わせが完了した状態を示す。この状態では、いずれの固定歯(I)66、(II)67とも停止しており、切り替え歯63による切り替えを待機している。切り替え実行は、上述のフォトセンサ等の切り替えタイミング検出用センサによる検出によって行わしめるようにすることができる。
【0056】
図20は、本発明減速機構制御システムに係るクラッチにおける噛み合い位置合わせ動作例を示す断面視の説明図であり、クラッチ切り替えが完了した状態を示す。
【0057】
以上、本発明改良版により得られる動作をまとめると、次の通りである。
切り替えタイミング情報に基づきクラッチ駆動部によるクラッチ切り替えが駆動された結果、
(A)一方の固定歯との噛み合い状態が形成された場合は、その後、
(A-2)噛み合った歯同士による所定姿勢(ガタを寄せた姿勢)が形成され、
(B)一方、噛み合いがなされずに双方の歯の端面同士が当接した場合は、まず(A)の噛み合い状態形成がなされ、その後(A-2)の所定姿勢形成がなされる。
【0058】
(C) (A-2)の所定姿勢形成時点で累積回転量が初期化され、現在噛み合っている固定歯における基準定義(再定義)がなされる。
(D) その後、他方の固定歯への切り替えが指令されると、他方固定歯の累積回転量に基づいて、切り替えのために必要な追加回転量が算出される。
(E) 追加回転量にしたがって位置合わせがなされ、他方固定歯への切り替えが駆動される。
これにより、他方固定歯において、上記(A)からの過程が繰り返される。
【0059】
このように改良版本発明は、モータ軸の回転角と減速機ギア比からクラッチ歯の移動量を算出・管理することで、クラッチ歯を望ましい位置に動かしてから切り替えを行う、という方式である。
【0060】
なお、以上説明した改良版減速機構制御システムの各構成においては、基本版で説明した下記各構成等のいずれか一以上を備えたものとすることができる。
・クラッチ駆動部が、切り替えタイミング情報を該クラッチ駆動部が受信している際にクラッチの切り替え駆動が可能なよう形成されている構成
・クラッチ駆動部が、切り替えタイミング情報、および切り替え指令入力の双方の受信がなされた際にクラッチの切り替え駆動を行うよう形成されている構成
・回転角度情報は、サーボモータに搭載された角度センサから得ることとする構成
・また、改良版減速機構制御システムが、減速機構を備えたたサーボモータとからなるサーボシステムを構成し得ること
【0061】
また、サーボドライバまたはコンピュータにより実行可能なプログラムであって、以上説明したいずれかの構成の減速機構制御システムにおける切り替えタイミング検出部およびクラッチ駆動部の作用をなすための各手順を、サーボドライバまたはコンピュータに機能させる減速機構制御プログラムもまた、本発明の範囲内である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の減速機構制御システム、およびサーボシステムによれば、遊星歯車機構による減速機構およびクラッチ機構を備えたサーボモータシステムにおいて従来のような噛み合い制御のためのトルクを用いないため、歯の摩耗や不適切な噛み合いの発生を回避でき、信頼性の高い噛み合い制御を行うことができる。また、特に改良版発明によれば、切り替え歯に対する固定歯の相対位置を管理できるため、噛み合いの信頼性がより高い制御となる。したがって、サーボシステム、サーボドライバ製造・使用分野、および関連する全分野において、産業上利用性が高い発明である。
【符号の説明】
【0063】
1、21…減速機構
2、22、32…クラッチ
3、23、33…切り替え歯
4、34…歯構造
5、35…歯構造
6、26A、36…固定歯
7、27B、37…固定歯
8、28…切り替えタイミング検出部
9、29…クラッチ駆動部
10、210…減速機構制御システム
20A、20B…減速機構の歯車(固定歯が固定される)
20s…減速機構の諸歯車
280…モータ軸位置算出機能
281…第一算出過程の機能
282…第二算出過程の機能
283…第三算出過程の機能
30、230…サーボシステム
C…切り替え駆動
M、2M…サーボモータ
P1…第一算出過程
P2…第二算出過程
P3…第三算出過程
P4…切り替えタイミング情報送信過程
R…回転角度
S、2S…角度センサ
Xj…接続中固定歯歯位置
Xg…諸歯車位置
Xr…切断中固定歯歯位置
Yc…切断中歯構造位置
(以下は従来技術に係る)
52…クラッチ
53…切り替え歯
54、55…歯構造
56、57…固定歯
T…歯を滑らせるトルク
【0064】
62、92…クラッチ
63、93…切り替え歯
66、96…固定歯(I)
67、97…固定歯(II)
MJ…モータ軸
HT…高速側ツース
LT…低速側ツース
AM…アーマチュア
PL1…遊星(歯車)1
PL2…遊星(歯車)2
OP…出力端
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図13-2】
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20