(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176095
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】尿中カロテノイドの検査方法、採尿キット、および血清中カロテノイド濃度または野菜摂取量の推定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/493 20060101AFI20221117BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
G01N33/493 A
G01N33/50 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063757
(22)【出願日】2022-04-07
(31)【優先権主張番号】P 2021082147
(32)【優先日】2021-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】豊田 晴香
(72)【発明者】
【氏名】雄長 誠
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA16
2G045CB03
2G045DA80
2G045FB06
(57)【要約】
【課題】尿中カロテノイド濃度を簡便に検出可能な尿検査方法を提供すること。
【解決手段】アルカリ性添加剤を添加した尿検体を用いて、尿中カロテノイド濃度を検出する尿検査方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ性添加剤を添加した尿検体を用いて、尿中カロテノイド濃度を検出することを特徴とする尿検査方法。
【請求項2】
前記尿検体が、pHが8.0以上であることを特徴とする請求項1に記載の尿検査方法。
【請求項3】
尿採取容器とアルカリ性添加剤とを有し、尿中カロテノイド濃度測定用であることを特徴とする採尿キット。
【請求項4】
請求項1または2の尿検査方法により検出した尿中カロテノイド濃度から、血清中カロテノイド濃度または野菜摂取量を推定する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象者の尿中カロテノイドの検査方法と、採尿キット、尿中カロテノイド濃度から血清中カロテノイド濃度または野菜摂取量を推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本国厚生労働省は、健康を維持するために、野菜を1日あたり350g以上摂取することを推奨としているが、令和元年度の平均摂取量は280.5gと不足している(非特許文献1)。
野菜は、ビタミン、ミネラル、食物繊維などとともに、カロテノイドを豊富に含む。
カロテノイドは、8個のイソプレン単位が結合して構成された基本骨格(化学式C40H56)を備える化合物であり、この基本骨格中の共役二重結合により400~500nmの間の可視光を吸収して黄色、橙色、赤色等を呈する天然の色素成分である。カロテノイドは、これまでに600種類以上の化合物が同定されているが、例えば、ニンジンに多く含まれるβカロテン、トマトに多く含まれるリコピン、ほうれん草などに多く含まれるルテインなどがよく知られている。カロテノイドは、抗酸化作用を有することが知られているが、活性酸素を消去する働きを有することから、癌、心筋梗塞、脳卒中、生活習慣病等の予防効果が期待されている。
【0003】
カロテノイドは、動物や微生物中にも存在するが、ヒトが摂取するカロテノイドのほとんどは野菜由来である。そのため、体内のカロテノイド濃度から野菜摂取量を推定することができ、例えば、特許文献1には、非侵襲的に測定した皮膚カロテノイド値から野菜摂取量を推定し、野菜摂取を啓発する方法が提案されている。この方法は、非侵襲的ではあるが、摂取したカロテノイドが皮膚に蓄積するには2~4週間程度かかるため、得られる皮膚カロテノイド値データは、直前の野菜摂取量を反映したものではない。
また、非特許文献2、3には、尿中カロテノイド濃度と血漿中(血清)カロテノイド濃度とが相関関係を有し、尿中カロテノイド濃度は血清中の濃度を反映しているが、尿中βカロテノイド濃度は、血清中カロテノイド濃度の1/1000以下であることが報告されている。そして、尿中のカロテノイド濃度は非常に薄いため、40mlという大量の尿から有機溶媒で抽出した画分を測定に利用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】厚生労働省 令和元年「国民健康・栄養調査」
【非特許文献2】大島俊二、稲熊隆博、長尾昭彦、「尿中および血漿中カロテノイド濃度の相関性」、ビタミン、日本ビタミン学会、2001年、75巻、4号、p.211
【非特許文献3】「体内カロチノイド濃度、尿で測定可能-血中と尿中のカロチノイドの相関を解明-」、[online]、令和元年5月22日検索、カゴメ株式会社、2001年5月18日付けニュースリリース、インターネット<URL:https://www.kagome.co.jp/company/news/2001/010518_02.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
尿中カロテノイド濃度を簡便に検出可能な尿検査方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の主な構成は、次のとおりである。
1.アルカリ性添加剤を添加した尿検体を用いて、尿中カロテノイド濃度を検出することを特徴とする尿検査方法。
2.前記尿検体が、pHが8.0以上であることを特徴とする1.に記載の尿検査方法。3.尿採取容器とアルカリ性添加剤とを有し、尿中カロテノイド濃度測定用であることを特徴とする採尿キット。
4.1.または2.の尿検査方法により検出した尿中カロテノイド濃度から、血清中カロテノイド濃度または野菜摂取量を推定する方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の検査方法は、測定試料の前処理にかかる時間を短縮することができる。本発明の検査方法は、採尿から測定までの時間を短縮することができるため、尿検体の変質を防ぐことができる。本発明の検査方法は、少量の尿から尿中カロテノイド濃度を検出することができ、採尿、および採取した尿の郵送が容易であり、また、廃棄物の量を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】添加剤毎のHPLCクロマトグラフのβカロテンの面積値を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
尿は、糖、タンパク、塩類等の多様な成分を含む。尿検査により、尿中に含まれる成分の量的変化、質的変化、異常物質の有無等を調べることにより、腎臓、尿管、膀胱のみならず、肝臓、胆のう等の状態を知ることができる。尿検査項目の一つに沈渣の検査があるが、これは、尿中に含まれる赤血球、白血球、尿酸結晶、細菌等の固形分を沈殿させて、その組成や量を検査するものである。
本発明者らは、鋭意研究の結果、尿中カロテノイドが沈殿に含まれることにより、液中のカロテノイド濃度が低下するため、検出感度が低下して定量が困難となっていることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
・尿検査方法
本発明の尿検査方法は、アルカリ性添加剤を添加した尿検体を用いて、尿中カロテノイド濃度を検出することを特徴とする。
【0012】
本発明の尿検査方法で使用するアルカリ性添加剤としては、水溶液がアルカリ性を呈するものであれば特に制限されず、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属塩、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、ピリジン類、イミダゾール類等のアミン系有機化合物、アルギニン、リシン等の塩基性タンパク質等を挙げることができる。これらの中で、臭気や安全性の点から、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、イミダゾール、アルギニンが好ましい。
【0013】
尿にアルカリ性添加剤を添加することにより、沈殿の少なくとも一部を溶解して減らすことができ、沈殿に含まれるカロテノイド量を減らし、液中に含まれるカロテノイド量を高く保つことができる。アルカリ性添加剤を添加した尿検体は、pHが8.0以上であることが好ましく、8.5以上であることがより好ましく、8.8以上であることがさらに好ましく、9.0以上であることがよりさらに好ましい。
【0014】
そして、本発明の尿検査方法は、液中のカロテノイド濃度を高く保つことができるため、少量の尿で尿中カロテノイド濃度を検出することができる。本発明において、尿中カロテノイド濃度を検出するために必要な尿の量は、検出可能な尿検体を作成可能であれば特に制限されないが、10ml以下であることが好ましく、5ml以下であることがより好ましく、3ml以下であることがさらに好ましく、2ml以下であることがよりさらに好ましい。
【0015】
・採尿キット
本発明の尿検査方法は、少なくとも、尿採取容器とアルカリ性添加剤とを有する採尿キットを用いることが好ましい。
尿採取容器は、病院や検査機関等で実施されている尿検査のために使用される尿中成分の変質を引き起こさない形状、材質であれば特に限定されず用いることができる。尿採取容器に採取できる尿の量は、尿検体を作成可能な量であれば特に制限されないが、例えば、10ml以下である。尿採取容器は、直接尿を採取できる形態のものでもよく、採尿カップ等に採取した尿を移し替える形態のものでもよい。また、尿採取容器は、所定量の尿が採取できるように目盛りが設けられていることが好ましい。さらに、尿採取容器は、密封が可能であることが、尿を封入した尿採取容器を病院や検査機関に郵送して検査することが可能であり、被検者が病院や保健所に行く必要がないため好ましい。採尿キットは、尿採取容器とアルカリ性添加剤の他に、外箱、検査手順や注意事項等を記載した説明書、採尿カップ、チャック付ビニール袋、被検者の氏名、生年月日、性別等の情報を記載する尿検査依頼書、返信用封筒等を有することができる。
【0016】
ここで、健常者の尿のpHは、摂取した食物等に応じて4.5~8の間で変動する。そのため、アルカリ性添加剤の量は、所定量の尿検体を作成する場合に、pHが8.0以上となる量であることが好ましく、8.5以上となる量であることがより好ましく、8.8以上となる量であることがさらに好ましく、9.0以上となる量であることがよりさらに好ましい。
【0017】
本発明の尿中カロテノイド濃度を検出する尿検査方法は、治療的、非治療的のいずれでもよい。治療的とは、医療機関での治療、検査等と併用して使用するものであり、非治療的とは、医療行為を含まない概念、すなわち人間を手術、治療又は診断する方法を含まない概念、より具体的には医師又は医師の指示を受けた者が人間に対して手術、治療又は診断を実施する方法を含まない概念である。
【0018】
本発明において、尿を採取するタイミングとして、特に限定されるものではないが、1日の中で最初に食事を摂取するまでに採取することが好ましく、起床後すぐ(早朝)に採取する第1尿が特に好ましい。尿中成分濃度は、食事や水分摂取、発汗などの影響を受けやすく、そのときの尿量によって大きく変動するため、同時に測定したクレアチニン値との比率を求めるクレアチニン補正を行うこともできる。
【0019】
本発明の尿検査方法により、尿中カロテノイド濃度をより正確に検出することができる。そして、本発明の尿検査方法で検出した尿中カロテノイド濃度は、血清中カロテノイド濃度、野菜摂取量と高い相関を備えているため、本発明の尿検査方法で検出した尿中カロテノイド濃度により、血清中カロテノイド濃度、野菜摂取量を精度良く推定することができる。
【実施例0020】
<臨床試験方法>
20~60代の健常人22名(男性11名、女性11名)を対象に、背景調査(性別、生年月日、FFQg調査票による一日の野菜摂取量調査アンケート)、尿中のカロテノイド濃度の測定、血清中のカロテノイド濃度の測定を実施した。
以下のとおり、除外規準を設けた。
1)重篤な既往歴及び消化管の切除手術歴がある方(虫垂切除を除く)
2)妊娠している方及び授乳中の方
3)アルコール多飲及び過度の喫煙の方
4)その他、試験責任医師により本試験参加に不適切と判断された方
【0021】
本試験は倫理的配慮として、倫理審査委員会に当該試験を行うことの適否についての審査を受け、本臨床試験の実施に際しては、事前に被検者全員に試験の主旨を十分に説明したうえで、本人の自由意思で書面による参加の同意を得た。被検者は、来院日の第1尿を採尿し、来院日の午前中に病院にて採血を受けた。
【0022】
(採尿)
試験日の早朝第1尿(起床後すぐの尿)を自宅で200mL採取し、試験会場に持参させた。
(尿中カロテノイド濃度の定量)
・添加剤
以下の8種類の添加剤を用いた。
【表1】
【0023】
5mLチューブに尿1mLと上記添加剤のいずれか100μL添加した。
1名の被検者(以下、被検者Aという)の尿について、添加前後での沈殿の変化を目視で確認した。また、pH試験紙を用いて添加後のpHを測定した。結果を表2に示す。なお、pHについて幅がある記載となっているサンプルは、pH試験紙の色を目視で確認したため、正確な判別が難しかったものである。
【表2】
【0024】
その後0.1%BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)/エタノール溶液を2mL加えて振とうし、室温で5分間静置した。内部標準の0.1ppbアポカロテナールを10μLと、ヘキサン2mLを加えて振とうし、遠心分離(3000rpm 5分)した。遠心分離後の上清を4/5分取し、遠心エバポレーターで45℃に加温し乾燥させ、0.1%BHT/エタノール溶液100μLで溶解して尿検体を得た。
【0025】
尿検体を、下記条件でHPLCに供し、尿中カロテノイド濃度を定量した。
(カラム)
ACQUITY UPLC BEH C18Column、1.7μm、2.1mm×150mm(Waters社製)
(分析条件)
装置 UHPLC(Nexera X2シリーズ、島津製作所社製)
移動相 アセトニトリル:メタノール=9:1
流速 0.50mL/分
カラム温度 40℃
注入量 5μL
検出波長 450nm
【0026】
被検者Aの添加剤毎の尿検体のHPLCクロマトグラフを
図1に示す。また、被検者Aの尿について、同様にして3個の検体を作成して分析したHPLCクロマトグラフのβカロテンの面積値の平均値を
図2に示す。
アルカリ性添加剤を添加剤として添加することにより、カロテノイドの検出強度が上昇した。特に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、イミダゾール、アルギニンにより、検出強度が顕著に上昇した。
【0027】
(採血)
試験日の午前中、9mLの血液を添加剤なしの採血管に採取し、血液凝固を確認した後遠心分離(3000rpm 10分)し、血清を得た。
(血清中カロテノイド濃度の定量)
血清中のカロテノイド濃度は、株式会社エスアールエルに分析を委託し、HPLC法で分析した。
【0028】
・相関1
尿中βカロテン濃度と血清中βカロテン濃度、および尿中βカロテン濃度とFFQg調査票による一日の野菜摂取量を、一元配置分散分析して決定係数を求めた。結果を表3に示す。
【表3】
【0029】
尿素、アルギニンを添加することにより、添加なしと比較して、決定係数が大きくなり(1に近づく)、特にアルギニンを添加した場合に高い相関を示した。また、尿中βカロテン濃度は、血清中βカロテン濃度と比較して野菜摂取量とより高い相関を示した。このことから、添加剤により尿をアルカリ性とすることにより、尿中カロテノイド濃度をより正確に測定することができ、測定した尿中カロテノイド濃度から、血清中カロテノイド濃度と野菜摂取量とを高い精度で推定できることが確認できた。
【0030】
・相関2
尿中カロテン総量(αカロテン+βカロテン)濃度と血清中βカロテン濃度、および尿中カロテン総量濃度とFFQg調査票による一日の野菜摂取量を、一元配置分散分析して決定係数を求めた。結果を表4に示す。
【表4】
【0031】
尿素、アルギニンを添加することにより、添加なしと比較して、決定係数が大きくなり(1に近づく)、特にアルギニンを添加した場合に高い相関を示した。また、尿中βカロテン濃度と同じく、尿中カロテン総量も血清中βカロテン濃度と比較して野菜摂取量とより高い相関を示した。このことから、添加剤により尿をアルカリ性とすることにより、尿中カロテノイド濃度をより正確に測定することができ、測定した尿中カロテノイド濃度から、血清中カロテノイド濃度と野菜摂取量とを高い精度で推定できることが確認できた。