(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176128
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】電解液処理システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20221117BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20221117BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20221117BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20221117BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20221117BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/0566
H01M10/052
H01M10/0569
H01M10/0568
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022077122
(22)【出願日】2022-05-09
(31)【優先権主張番号】63/188,016
(32)【優先日】2021-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】513089291
【氏名又は名称】パシフィック インダストリアル デベロップメント コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ジェフリー ラシャペル
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィッド シェパード
(72)【発明者】
【氏名】アシュウィン サンカラン
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ ウー
(72)【発明者】
【氏名】ユンクイ リー
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ14
5H029AM01
5H029CJ12
5H029HJ05
5H029HJ07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】電気化学セルで使用される非水電解液から不純物を除去するための装置、システムおよび方法を提供する。
【解決手段】装置は、電解液が1つ以上のチャンバーを通って流れることができるように構成された入口および出口のある1つ以上のチャンバーを有する容器と、1つ以上のチャンバー内に配置された無機捕捉剤と、を含む。無機捕捉剤は、1種類以上のゼオライト粒子、少なくとも1種類の吸収性フィラー粒子またはゼオライト粒子と吸収性フィラー粒子との組み合わせを含む。無機捕捉剤は、非水電解液中に不純物として存在する水分、遊離遷移金属イオンおよびフッ化水素(HF)のうちの1つ以上を吸収する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学セルで使用される非水電解液から不純物を除去するための装置であって、
入口および出口を有する1つ以上のチャンバーを含む容器と、
前記1つ以上のチャンバー内に配置された無機捕捉剤と、を含み、
前記入口および前記出口は、前記電解液が前記1つ以上のチャンバーを通って流れることができるように構成され、
前記無機捕捉剤は、1種類以上のゼオライト粒子、少なくとも1種類の吸収性フィラー粒子または前記ゼオライト粒子と前記吸収性フィラー粒子との組み合わせを含み、
前記無機捕捉剤は、前記非水電解液中に不純物として存在する水分、遊離遷移金属イオンおよびフッ化水素(HF)のうちの1つ以上を吸収する、装置。
【請求項2】
前記容器は、前記電解液の存在下で物理的特性の悪化に対する化学的な耐性を発揮しつつ、最大500psiの圧力と約50℃の温度への曝露に耐えることができるように、所定の容積を有するチャンバーで構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記1種類以上のゼオライト粒子は、FAU構造、MFI構造、CHA構造、LTA構造、BEA構造またはそれらの混合物を有する骨格を呈し、シリカ/アルミナ比(SAR)が1~約100の範囲である、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記吸収性フィラー粒子は、本質的に、酸化アルミニウム、硫酸銅、シリカゲル、塩化カルシウム、硫酸カルシウムまたはそれらの混合物からなる、請求項1~3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記無機捕捉剤は、粒度(D50)が約5マイクロメートル(μm)~約100マイクロメートル(μm)の範囲にある、請求項1~4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記1種類以上のゼオライト粒子は、ナトリウムイオン濃度が前記複数の種類のゼオライトの総重量に対して25wt.%未満である、請求項1~5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記1種類以上のゼオライト粒子は、リチウムイオンの濃度が前記1種類以上のゼオライト粒子の総重量に対して約0.5wt.%~約20wt.%になるように、前記リチウムイオンが前記ナトリウムイオンと交換されたリチウムイオン交換ゼオライトである、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記無機捕捉剤は、イオン交換メカニズムによって遷移金属カチオンおよびフッ化水素酸を捕捉する、請求項1~7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
前記非水電解液は、リチウム塩を有機溶媒に分散させた溶液である、請求項1~8のいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
前記非水電解液は、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合物(EC/DEC=50/50vol.)にLiPF6を加えた溶液である、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記容器は、開いているときに前記チャンバーを通って電解液が流れることができるように構成された少なくとも1つのバルブをさらに含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
前記組成物が、ゼオライト粒子と吸収性フィラー粒子の均質な混合物、ゼオライト粒子と吸収性フィラー粒子の偏りのある混合物またはゼオライト粒子と吸収性フィラー粒子の分離された領域を含むように、前記1種類以上のゼオライト粒子と前記吸収性フィラー粒子が前記チャンバーに充填されている、請求項1~11のいずれか1項に記載の装置。
【請求項13】
ゼオライト粒子と吸収性フィラー粒子との比が、1:3~3:1である、請求項1~12のいずれか1項に記載の装置。
【請求項14】
前記1種類以上のゼオライト粒子および前記吸収性フィラー粒子は、緩く充填された粒子、前記チャンバーに合う形状の少なくとも1つの錠剤、ディスクまたは押出物を形成するように圧縮された粒子またはこれらの組み合わせとして存在する、請求項1~13のいずれか1項に記載の装置。
【請求項15】
前記緩く充填された粒子は、前記チャンバーを形成する前記容器の内面によって、1つ以上の膜、スクリーンまたはフィルターが前記電解液を通過させるかぎり、当該1つ以上の膜、スクリーンまたはフィルターを前記チャンバーに取り入れることによって、あるいはそれらの組み合わせによって適切な位置に保持されている、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記複数の種類のゼオライト粒子の粒度(D50)と前記吸収性フィラー粒子の粒度(D50)が、少なくとも2倍異なる、請求項1~15のいずれか1項に記載の装置。
【請求項17】
電気化学セルで使用される非水電解液から不純物を除去するための処理システムであって、
前記非水電解液の入った貯蔵タンクと、
前記非水電解液を流すように構成されたポンプと、
電気化学セルと、
請求項1~16のいずれか1項に従って形成された少なくとも1つの装置であって、前記貯蔵タンクおよび前記電気化学セルの両方と流体の行き来ができるようになっている前記装置と、
所定量の前記非水電解液を前記電気化学セルに充填することができるように構成された計器と、を備え、
前記装置は、前記電解液が通って流れることができるように構成された入口および出口のある1つ以上のチャンバーを有する容器と、無機捕捉剤と、を含み、前記無機捕捉剤は、前記1つ以上のチャンバー内に配置され、1種類以上のゼオライト、少なくとも1種類の吸収性フィラー粒子または前記ゼオライトと前記吸収性フィラー粒子との組み合わせを含み、
前記無機捕捉剤は、前記非水電解液中に不純物として存在する水分、遊離遷移金属イオンおよびフッ化水素(HF)のうちの1つ以上を吸収する、システム。
【請求項18】
前記装置内の温度または圧力、前記装置を流れる前記電解液の流量、前記電気化学セルを充填することができる前記所定量の前記電解液うちの1つ以上を制御するように構成された制御システムをさらに備える、請求項17に記載の処理システム。
【請求項19】
電気化学セルで使用される非水電解液から不純物を除去するための方法であって、
前記非水電解液を貯蔵タンクから請求項1~16のいずれかに従って形成された少なくとも1つの装置に移す工程と、
前記少なくとも1つの装置を前記非水電解液が流れるようにする工程と、
前記非水電解液中に不純物として存在する水分、遊離遷移金属イオン、フッ化水素(HF)のうちの1つ以上を除去する工程と、
前記電気化学セルに、前記装置内を流れて前記装置から出る所定量の前記電解液を充填する工程と、
前記電気化学セルを密閉または封止する工程と、を含み、
前記少なくとも1つの装置は、前記電解液が通って流れることができるように構成された入口および出口のある1つ以上のチャンバーを有する容器と、無機捕捉剤と、を含み、前記無機捕捉剤は、前記1つ以上のチャンバー内に配置され、1種類以上のゼオライト、少なくとも1種類の吸収性フィラー粒子または前記ゼオライトと前記吸収性フィラー粒子との組み合わせを含む、方法。
【請求項20】
前記少なくとも1つの装置において前記無機捕捉剤を再生または交換することをさらに含む、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広義には、リチウムイオン二次電池などの電気化学セルに用いられる電解液中に存在するHF、水分または他の不純物を除去する無機捕捉剤に関する。特に、本開示は、ゼオライト粒子と吸収性フィラー粒子との混合物を無機捕捉剤として使用する装置およびシステムならびに方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術の記載は、単に本開示に関連する背景情報を提供するものであり、先行技術を構成しない場合もある。
【0003】
リチウムイオン二次セル電池の重要な利点のひとつに、効果がなくなるまでに何度も充電できることがあげられる。リチウムイオン二次電池が何度も充放電サイクルを繰り返すことができるのは、生じる酸化還元反応の可逆性による。リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高いため、多くの携帯型電子機器(携帯電話やノートパソコンなど)、電動工具、電気自動車、グリッドエネルギー貯蔵などのエネルギー源として広く利用されている。
【0004】
しかしながら、リチウムイオン二次電池の性能の悪化を引き起こし得る様々な要因が存在する。これらの要因の1つとして、非水電解液中に、様々な有害な種が存在することがあげられる。これらの有害な種としては、水分(例えば、水または水蒸気)、フッ化水素(HF)、溶存遷移金属イオン(TMn+)があげられる。
【0005】
電解液中の水分には、主に、製造時に残ったものと有機電解液の分解によって発生するものがある。乾燥した環境が望ましいとはいえ、電池または電池セルを作製するのに用いられる従来の製造方法では、通常は水分の存在が完全に排除されるわけではない。電解液中の有機溶媒は、特に高温での電池の作動時に分解してCO
2およびH
2Oを生じる傾向がある。この水(H
2O)がLiPF
6などのリチウム塩と反応して、フッ化リチウム(LiF)やフッ化水素(HF)を発生させることがある。残った水分がリチウムイオン電池に存在することで生じる反応を、式1)及び2)に示す。式中、Mは、正極の材料中に典型的に存在する遷移金属を表す。
【化1】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
不溶性のフッ化リチウム(LiF)は、アノードまたはカソードの活物質の表面に堆積して、固体電解質界面(SEI)を形成する場合がある。この固体電解質界面(SEI)は、リチウムイオンの(デ)インターカレーションを減少または遅延させ、活物質の表面を不活化することで、レート能力の低下および容量の損失をもたらす可能性がある。
【0007】
さらに、フッ化水素(HF)が存在すると、遷移金属イオンと酸素イオンとを含む正極を攻撃し、活物質とは組成的に異なる遷移金属化合物と水がさらに生じる場合がある。水が存在して反応物として作用すると、生じる反応が周期的になり得ることから、電解液や活物質が継続的に悪影響を受ける場合がある。
【0008】
加えて、形成される遷移金属化合物が不溶性で電気化学的に不活性な場合がある。これらの遷移金属化合物が正極の表面に存在する場合があり、それによって固体電解質界面(SEI)すなわち不動態層が形成されることがある。一方、可溶性の遷移金属化合物は、電解液に溶解して遷移金属イオン(TMn+)になることがある。これらの遊離遷移金属イオン、例えば、Mn2+やNi2+は、アノードに向かって移動することができ、アノードでSEIとして堆積して様々な異なる反応を引き起こす場合がある。これらの反応によって、電極の活物質や電解液中のリチウムイオンが消費される場合があり、こうした反応がリチウムイオン二次電池の容量損失の原因となり得る。
【0009】
動作している間、リチウムイオン二次電池のクーロン効率すなわち電流効率と放電容量が比較的一定に維持されることが望ましい。クーロン効率とは、電池内で電子が移動する際の充電効率を表す。放電容量とは、電池から取り出せる電気量を表す。リチウムイオン二次電池は、水分(水など)、フッ化水素(HF)、溶存遷移金属イオン(TMn+)などに長時間さらされることで、容量および/または効率が低下することがある。実際、もとの可逆容量の20%以上が失われたり、不可逆的になったりすると、リチウムイオン二次電池の寿命が著しく制限される場合がある。リチウムイオン二次電池の充電可能容量や全体としての寿命を延ばすことができれば、交換時のコスト削減や廃棄およびリサイクル時の環境リスクの低減につながる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、広義には、電気化学セルで使用される非水電解液から不純物を除去するための装置に関する。特に、本開示は、ゼオライト粒子と吸収性フィラー粒子との混合物を無機捕捉剤として使用する装置およびシステムならびに方法に関する。
【0011】
本開示の一態様によれば、この装置は、電解液が1つ以上のチャンバーを通って流れることができるように構成された入口および出口を有する1つ以上のチャンバーを含む容器と、1つ以上のチャンバー内に配置された無機捕捉剤と、を含む。無機捕捉剤は、1種類以上のゼオライト粒子、少なくとも1種類の吸収性フィラー粒子またはゼオライト粒子と吸収性フィラー粒子との組み合わせを含む。無機捕捉剤は、非水電解液中に不純物として存在する水分、遊離遷移金属イオンおよびフッ化水素(HF)のうちの1つ以上を吸収する。この無機捕捉剤は、イオン交換メカニズムによって遷移金属カチオンおよびフッ化水素酸を捕捉することができる。
【0012】
この容器は、電解液の存在下で物理的特性の悪化に対する化学的な耐性を発揮しつつ、最大500psiの圧力と約50℃の温度への曝露に耐えることができるように、所定の容積を有するチャンバーで構成されている。この容器は、開いているときにチャンバーを通って電解液が流れることができるように構成された少なくとも1つのバルブをさらに含んでもよい。
【0013】
組成物が、ゼオライト粒子と吸収性フィラー粒子の均質な混合物、ゼオライト粒子と吸収性フィラー粒子の偏りのある混合物またはゼオライト粒子と吸収性フィラー粒子の分離された領域を含むように、1種類以上のゼオライト粒子と吸収性フィラー粒子がチャンバーに充填されている。ゼオライト粒子と吸収性フィラー粒子の比が、1:3~3:1であってもよい。1種類以上のゼオライト粒子および吸収性フィラー粒子は、緩く充填された粒子、チャンバーに合う形状の少なくとも1つの錠剤、ディスクまたは押出物を形成するように圧縮された粒子またはこれらの組み合わせとして存在してもよい。緩く充填された粒子は、チャンバーを形成する容器の内面によって、1つ以上の膜、スクリーンまたはフィルターが電解液を通過させるかぎり、当該1つ以上の膜、スクリーンまたはフィルターをチャンバーに取り入れることによって、あるいはそれらの組み合わせによって適切な位置に保持されていてもよい
【0014】
ゼオライト粒子は、FAU構造、MFI構造、CHA構造、LTA構造、BEA構造またはそれらの混合物を有する骨格を呈し、シリカ/アルミナ比(SAR)が1~約100の範囲である。ゼオライト粒子は、ナトリウムイオン濃度が複数種類のゼオライトの総重量に対して25wt.%未満であってもよい。ゼオライト粒子は、リチウムイオンの濃度が1種類以上のゼオライト粒子の総重量に対して約0.5wt.%~約20wt.%になるように、リチウムイオンがナトリウムイオンと交換されたリチウムイオン交換ゼオライトであってもよい。
【0015】
吸収性フィラー粒子は、本質的に、酸化アルミニウム、硫酸銅、シリカゲル、塩化カルシウム、硫酸カルシウムまたはそれらの混合物からなる。無機捕捉剤は、粒度(D50)が約5マイクロメートル(μm)~約100マイクロメートル(μm)の範囲にあってもよい。複数種類のゼオライト粒子の粒度(D50)と吸収性フィラー粒子の粒度(D50)が、少なくとも2倍異なっていてもよい。
【0016】
非水電解液は、リチウム塩を有機溶媒に分散させた溶液である。この非水電解液は、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合物(EC/DEC=50/50vol.)にLiPF6を加えた溶液であってもよい。
【0017】
本開示のさらに別の態様によれば、電気化学セルで使用される非水電解液から不純物を除去するための処理システムが提供される。このシステムは、非水電解液の入った貯蔵タンクと、非水電解液を流すように構成されたポンプと、電気化学セルと、ここでさらに定義される上述したような少なくとも1つの装置であって、貯蔵タンクおよび電気化学セルの両方と流体の行き来ができるようになっている装置と、所定量の非水電解液を電気化学セルに充填することができるように構成された計器と、を備える。この装置は、電解液が通って流れることができるように構成された入口および出口のある1つ以上のチャンバーを有する容器と、無機捕捉剤と、を含み、無機捕捉剤は、1つ以上のチャンバー内に配置され、1種類以上のゼオライト、少なくとも1種類の吸収性フィラー粒子またはゼオライトと吸収性フィラー粒子との組み合わせを含む。無機捕捉剤は、非水電解液中に不純物として存在する水分、遊離遷移金属イオンおよびフッ化水素(HF)のうちの1つ以上を吸収する。この処理システムは、装置内の温度または圧力、装置を流れる電解液の流量、電気化学セルを充填することができる所定量の電解液うちの1つ以上を制御するように構成された制御システムをさらに備えてもよい。
【0018】
本開示のさらに別の態様によれば、電気化学セルで使用される非水電解液から不純物を除去するための方法が提供される。この方法は、上述し、ここでさらに特定するように、1種類以上のゼオライト、少なくとも1種類の吸収性フィラー粒子またはこれらの組み合わせを含む無機捕捉剤を含む少なくとも1つの装置に、貯蔵タンクから非水電解液を移す工程と、少なくとも1つの装置を非水電解液が流れるようにする工程と、非水電解液中に不純物として存在する水分、遊離遷移金属イオン、フッ化水素(HF)のうちの1つ以上を除去する工程と、電気化学セルに、装置内を流れて装置から出る所定量の電解液を充填する工程と、電気化学セルを密閉または封止する工程と、を含む。この方法は、少なくとも1つの装置内の無機捕捉剤を再生または交換することを含むステップをさらに含んでもよい。
【0019】
本明細書の記載から、さらなる適用分野が明らかになるであろう。なお、説明および具体例は例示のみを目的としたものであり、本開示の範囲を限定することを意図したものではないことを理解されたい。
【0020】
本開示を十分に理解できるようにするために、添付の図面を参照しながら、例として示す様々な形態について説明する。それぞれの図面の構成要素を必ずしも縮尺通りに示したわけではなく、むしろ、本発明の原理を説明することに重点をおいている。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本開示の教示内容に従って不純物を除去するために電解液が処理された、本開示の教示内容に従って作製したリチウムイオン二次電池の概略図である。
【
図2A】
図2Aは、本開示の教示内容に従ってゼオライト粒子と吸収性フィラー粒子との均質な混合物を含む電解液中の不純物を除去するための装置の概略図である。
【
図2B】
図2Bは、本開示の教示内容によるゼオライト粒子と吸収性フィラー粒子との勾配のある混合物を含む別の装置の概略図である。
【
図2C】
図2Cは、本開示の別の態様による、ゼオライト粒子と吸収性フィラー粒子との偏りのある混合物を含むさらに別の装置の概略図である。
【
図2D】
図2Dは、本開示の教示内容によるゼオライト粒子と吸収性フィラー粒子の分離された領域を含む別の装置の概略図である。
【
図2E】
図2Eは、本開示の別の態様による、ゼオライト粒子と吸収性フィラー粒子の分離された領域を含むさらに別の装置の概略図である。
【
図2F】
図2Fは、本開示の別の態様による、ゼオライト粒子と吸収性フィラー粒子の混合物を含む領域とともに、ゼオライト粒子と吸収性フィラー粒子の分離された領域の組み合わせを含む、さらに別の装置の概略図である。
【
図2G】
図2Gは、本開示の別の態様による、ゼオライト粒子と吸収性フィラー粒子の異なる偏りのある混合物が分離された領域に配置されている、
図2Cの装置の概略図である。
【
図2H】
図2Hは、本開示の教示内容による無機捕捉剤に対する電解液の曝露量を増すために、
図2Aおよび
図2Fの装置を複数接続して直列に使用することを示す概略図である。
【
図2I】
図2Iは、複数の装置が接続されて直列に使用され、各装置がゼオライト粒子または吸収性フィラー粒子のいずれかを含む、概略図である。
【
図3】
図3は、本開示の教示内容による電解液中の不純物を除去するための装置を取り入れた処理システムの概略図である。
【
図4】
図4は、本開示の教示内容による電解液中の不純物を除去するための方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書で説明する図面は例示を目的としたものであり、いかなる形でも本開示の範囲を限定することを意図したものではない。
【0023】
以下の説明は、本質的に単に例示的なものであり、本開示またはその適用もしくは使用を限定することを何ら意図したものではない。例えば、構造要素とその使用を一層完全に説明するために、本開示全体を通して、本明細書に含まれる教示内容に従って処理および使用される電解液を、リチウムイオン二次電池で使用するための二次セルと組み合わせて説明する。リチウムイオン電池で使用される一次セルなどの他の電気化学セルを含むがこれらに限定されるものではない他の用途で、このような処理した電解液を取り入れて使用することは、本開示の範囲内であると考えられる。
【0024】
本明細書および図面を通して、対応する参照数字は、同様または対応する部品および特徴を示すことを理解されたい。本明細書で使用する場合、「セル」とは、電極と、セパレータと、電解液とを含む電池の基本的な電気化学的単位をいう。これに対して、「電池」とは、例えば1つ以上のセルなどのセルの集合体をいい、筐体と、電気的接続と、場合によっては制御および保護用の電子機器とを含む。
【0025】
本開示の目的で、本明細書では、「約」および「実質的に」という語を、当業者に知られた予想されるばらつき(例えば、測定時の限界やばらつき)に起因する測定可能な値および範囲に関して使用する。
【0026】
本開示の目的で、要素での「少なくとも1つ」および「1つ以上の」という表現を同義に使用しており、これらの表現が同じ意味を持つ場合もある。単一の要素または複数の要素を含むことを示すこれらの表現を、要素の最後に接尾辞「(s)」を付して表す場合もある。例えば、「少なくとも1種の金属」、「1種類以上の金属」および「金属(s)」を同義に用いることができ、これらの語が同じ意味を持つことを意図している。
【0027】
本開示は、広義には、装置およびシステムならびに、二次リチウムイオンセルなどの電気化学セルで電解液の使用前に電解液を処理するのに上述した装置を使用する方法を提供するものである。
図1を参照すると、二次リチウムイオンセル1は主に、正極10と、負極20と、非水電解液30と、セパレータ40とを備える。正極10は、セル1のカソード5として機能する活物質と、カソード5に接触している集電体7とを含み、セル1が充電している時にカソード5からアノード15にリチウムイオン45が流れるようになっている。同様に、負極20は、セル1のアノード15として機能する活物質と、アノード15と接触する集電体17とを含み、セル1が放電している時にアノード15からカソード5にリチウムイオン45が流れるようになっている。カソード5と集電体7との接触ならびにアノード15と集電体17との接触には、独立に、直接接触または間接接触が選択されてもよく、あるいは、アノード15またはカソード5と、対応する集電体17、7とが直接的に接触する。
【0028】
非水電解液30は、負極20と正極10との間にあり、それらの両方と接触すなわち流体連通している。この非水電解液30によって、正極10と負極20との間でのリチウムイオン45の可逆的な流れが助けられる。正極10と負極20との間にはセパレータ40が配置され、このセパレータ40が電解液30の一部およびアノード15を、残りの電解液30およびカソード5から分離するようになっている。セパレータ40は、このセパレータ40を通るリチウムイオン45の可逆的な流れに対して透過性がある。
【0029】
ここで
図2A~
図2Gを参照すると、電気化学セルで使用される非水電解液から不純物を除去するための装置50は、主に、入口60と出口65とを有する1つ以上のチャンバー70を含む容器55を備える。入口60および出口65は、電解液30が1つ以上のチャンバー70を通って流れることができるように構成されている。この装置は、1つ以上のチャンバー70内に配置された無機捕捉剤75をさらに含む。無機捕捉剤75は、1種類以上のゼオライト粒子85、少なくとも1種類の吸収性フィラー粒子80またはゼオライト85の粒子と吸収性フィラー80の粒子との組み合わせを含む。無機捕捉剤75は、非水電解液中に不純物として存在する水分、遊離遷移金属イオン、フッ化水素(HF)のいずれか1つ以上を吸収するものである。
【0030】
この装置の容器55は、所定の容積のチャンバー70を備えて構成されている。この所定の容積は、約250ミリリットル(mL)~200リットルであってもよく、あるいは、500mL~100リットル、あるいは、5リットル~75リットル、あるいは1リットルを超えてもよいが、これらに限定されるものではない。容器55は、この容器が作動時に500psiまでの圧力と約50℃の温度に曝露されても耐えることができるかぎり、金属、プラスチック、セラミックまたはそれらの組み合わせで製造されていてもよい。容器55は、例えば単一の電気化学セルの充填用などの限定的な使用または例えば複数の電気化学セルの充填用などの複数回の使用のために製造されたものであってもよい。あるいは、容器55が曝露される圧力は、大気圧から500psiの間であってもよく、あるいは、100psi~約450psiの間であってもよい。温度はさらに、室温と50℃の間、あるいは、約30℃~約50℃であってもよい。また、装置55の製造に用いられる材料は、採用される圧力および温度条件下で電解液の存在下で、当該材料の物理的特性の悪化に対して化学的に耐性があることが望ましい。
【0031】
このまま
図2A~
図2Gを参照すると、装置50は、少なくとも1つのバルブ90をさらに含む。バルブ90は、当該バルブが開いているときに電解液がチャンバーを通ることができるように構成されている。バルブ90は、入口60、出口65に配置されてもよいし、入口60と出口65の両方に配置されてもよい。それぞれのバルブは、手動で操作されてもよいし、制御システムまたはコントローラによって遠隔操作されてもよい。入口と出口の両方に継手95が配置されてもよい。それぞれの継手95は、標準的な配管/ねじ切り設計、クイックコネクトデザインの一種などを含んでいてもよい。
【0032】
電解液30を処理するのに使用される無機捕捉剤75は、1種類以上のゼオライト粒子85と少なくとも1種類の吸収性フィラー粒子80との混合物を含む、本質的に当該混合物からなる、あるいは当該混合物からなるものであってもよい。上述したような問題に対処するために、ゼオライト85の粒子とフィラー80の粒子は、電解液30中に存在する有害な種に対するトラップ剤またはスカベンジャーとして機能する。言い換えれば、ゼオライト85の粒子とフィラー80の粒子は、リチウムイオンおよび有機輸送媒体を含む非水電解液30の性能に影響を与えることなく、水分、遊離遷移金属イオンおよび/またはフッ化水素(HF)を選択的かつ効果的に吸収することで、上記の目的を達成する。これらの有害な種を除去すると、電池のカレンダー寿命とサイクル寿命が効果的に延長される。
【0033】
ゼオライトは、TO4四面体単位の繰り返しで構成される結晶性または準結晶性のアルミノケイ酸塩であり、Tは最も一般的にはケイ素(Si)またはアルミニウム(Al)である。これらの繰り返し単位は、互いに結合し、内部に分子の大きさの空洞および/またはチャネルを含む結晶骨格すなわち結晶構造を形成する。このため、アルミノケイ酸塩ゼオライトでは、少なくとも酸素(O)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)が原子として骨格構造に組み込まれている。ゼオライトは、シリカ(SiO2)とアルミナ(Al2O3)が酸素原子を共有して相互に結合した結晶骨格になるため、結晶骨格中に存在するSiO2:Al2O3(SAR)の比率によって特徴付けられることがある。
【0034】
本開示の無機添加剤は、チャバザイト(骨格表記=「CHA」)、キアベナイト(CHI)、フォージャサイト(FAU)、リンデタイプA(LTA)およびラウモンタイト(LAU)の骨格トポロジーを示す。骨格表記とは、ゼオライトの骨格構造を定義する国際ゼオライト学会(International Zeolite Associate(IZA))が定めたコードを表す。したがって、例えば、チャバザイトとは、ゼオライトの主結晶相が「CHA」であるゼオライトを意味する。
【0035】
ゼオライトの結晶相または骨格構造を、X線回折(XRD)データによって解析することができる。しかしながら、XRDの測定値は、ゼオライトの成長方向、構成元素の比率、吸着物質や欠陥などの存在、XRDスペクトルにおける各ピークの強度比またはポジショニングのずれなど、様々な要因の影響を受ける可能性がある。したがって、IZAが提供する定義に記載された各ゼオライトの骨格構造の各々のパラメータについて測定された数値に、10%以下、あるいは5%以下、あるいは1%以下のずれがあっても、予想される許容範囲内である。
【0036】
本開示の一態様によれば、本開示のゼオライト85は、天然ゼオライト、合成ゼオライトまたはそれらの混合物を含んでもよい。あるいは、ゼオライトは合成ゼオライトである。なぜなら、そのようなゼオライトは、SAR、結晶子の大きさ、結晶子のモルフォロジーの点で他のゼオライトより均一性が高く、不純物(例えば、アルカリ土類金属)が少なく集中していないためである。
【0037】
本開示の別の態様によれば、1種類以上のゼオライト粒子85は、SiO2:Al2O3(SAR)比が約1~100の範囲であってもよいし、あるいは、約2~75、あるいは約2~50、あるいは約2~25であってもよく、あるいは、約2~約20、あるいは約5~約15の範囲であってもよい。
【0038】
ゼオライト85は、ABW、AFG、BEA、BHP、CAS、CHA、CHI、DAC、DOH、EDI、ESV、FAU、FER、FRA、GIS、GOO、GON、HEU、KFI、LAU、LTA、LTN、MEI、MER、MOR、MSO、NAT、NES、PAR、PAU、PHI、RHO、RTE、SOD、STI、TER、THO、VET、YUGおよびZSMとして選択されるがこれらに限定されるものではない骨格を有するゼオライトから選択される少なくとも1つのタイプのゼオライトまたは複数のゼオライトタイプの組み合わせを含んでもよい。あるいは、ゼオライトの骨格は、FAU、MFI、CHA、LTAまたはBEA構造またはこれらの組み合わせである。
【0039】
ゼオライト85は、板状、立方体、球状またはそれらの組み合わせであるモルフォロジーを示すものであってもよい。あるいは、このモルフォロジーは、大部分が球状である。これらの粒子は、平均粒度(D50)が約1マイクロメートル(μm)~約200マイクロメートル(μm)、あるいは、約3マイクロメートル(μm)~約150マイクロメートル(μm)、あるいは、5マイクロメートル(μm)~約100マイクロメートル(μm)、あるいは、7マイクロメートル(μm)~約75マイクロメートル(μm)の範囲であるか、あるいは1μm以上であるか、あるいは5μm以上であるか、150μm未満であるか、あるいは、100μm以下である。当技術分野で知られている走査型電子顕微鏡(SEM)または他の光学的イメージング法またはデジタルイメージング法を使用して、無機添加剤の形状および/またはモルフォロジーを決定してもよい。平均粒度と粒度分布の測定については、例えば、ふるい分け、顕微鏡検査、コールター計数、動的光散乱または粒子画像分析など、従来のどのような技術を用いて行ってもよい。あるいは、平均粒度とそれに対応する粒度分布の決定には、レーザー粒子分析装置を使用する。
【0040】
また、ゼオライト85は、表面積が約5m2/g~約5000m2/g、あるいは約10m2/g~約2500m2/g、あるいは約10m2/g~約1000m2/g、あるいは約25m2/g~約750m2/gの範囲内であってもよい。ゼオライトの細孔容積は、約0.05cc/g~約3.0cc/g、あるいは0.1cc/g~約2.0cc/g、あるいは0.15cc/g~約1.5cc/gの範囲であってもよい。ゼオライトの表面積および細孔容積の測定を達成するには、顕微鏡検査、小角X線散乱、水銀ポロシメトリー、BET分析を含むがこれらに限定されるものではない、既知のどのような技術を用いてもよい。あるいは、BET分析を使用して、表面積および細孔容積を決定する。
【0041】
ゼオライト85は、無機添加剤の総重量に対して約0.05wt.%~約30wt.%である初期のナトリウム(Na)濃度を含んでもよい。あるいは、初期のNa濃度が、約0.1wt.%~約25wt.%、あるいは、約0.25wt.%~約20wt.%の範囲であってもよく、あるいは、25wt.%未満であってもよい。ゼオライト粒子は、リチウムイオンがイオン交換によって骨格内のナトリウムイオンの少なくとも一部を置き換えるような、リチウムイオン交換ゼオライトであってもよい。リチウムイオンは、濃度が0.1wt.%~25wt.%になるように、イオン交換によって骨格内の初期のナトリウムイオンの一部を置き換える。あるいは、リチウムイオンの濃度は、リチウム交換したゼオライトの総重量に対して約0.5wt.%~約20wt.%、あるいは、約0.75wt.%~約15wt.%である。リチウムイオン交換後の無機添加剤の最終的なナトリウム(Na)濃度は、15wt.%未満、あるいは10wt.%未満、あるいは7.5wt.%未満であってもよい。望ましい場合、ゼオライトは、Li、Na、Al、Mn、Sm、Y、Cr、Eu、Er、Ga、ZrおよびTiから選択している1種類以上のドーピング元素をさらに含んでもよい。
【0042】
無機捕捉剤75中の吸収性フィラー粒子80は、酸化アルミニウム、硫酸銅、シリカゲル、塩化カルシウム、硫酸カルシウムまたはそれらの混合物を含むか、本質的にこれらからなるものであってもよい。あるいは、吸収性フィラー粒子は、本質的に、塩化カルシウム、シリカゲルまたはそれらの混合物からなるものであってもよい。
【0043】
吸収性フィラー粒子80は、平均粒度(D50)が約1マイクロメートル(μm)~約200マイクロメートル(μm)、あるいは約3マイクロメートル(μm)~約150マイクロメートル(μm)、あるいは5マイクロメートル(μm)~約100マイクロメートル(μm)あるいは、7マイクロメートル(μm)~約75マイクロメートル(μm)の範囲であってもよいし、1μm以上、あるいは5μm以上、あるいは、150μm未満、あるいは100μm以下であってもよい。吸収性フィラー粒子80は、粒度がゼオライト粒子85とほぼ同じであってもよい。あるいは、吸収性フィラー粒子80は、ゼオライト粒子85よりも粒度が小さくてもよい。吸収性フィラー80の粒子とゼオライト85の粒子を混合したときの充填密度を高めるために、ゼオライト粒子の粒度(D50)と吸収性フィラー粒子の粒度(D50)は、少なくとも1.5倍、あるいは2倍以上、約3倍、あるいは2~9倍異なっている。
【0044】
非水電解液30は、酸化/還元プロセスを助け、リチウムイオンが電気化学セルのアノード15とカソード5との間を流れるための媒体を提供するために用いられる。非水電解液30は、リチウム塩を有機溶媒に入れた溶液であってもよい。リチウム塩のいくつかの例としては、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LIBOB)およびリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSi)があげられるが、これらに限定されるものではない。これらのリチウム塩は、例えば、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート(PC)、ビニレンカーボネート(VC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)などの有機溶媒での溶液を形成することができる。電解液の具体例としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合物(EC/DEC=50/50vol.)にLiPF6を加えた1モル溶液があげられる。
【0045】
上述した要因によって生じる劣化を抑制するために、本開示の吸収性フィラー粒子と好ましくはリチウム(Li)でイオン交換処理したゼオライト粒子は、二次リチウムイオンセルの製造時に電解液中に存在する遊離遷移金属イオン、フッ化水素酸および/または水分をはじめとする有害な種を捕捉する。ゼオライト粒子と吸収性フィラー粒子とを用いて電解液を処理すると、最終的な結果として、セルの全体的なサイクル寿命が長くなる。理論にとらわれることは望まないが、Li交換ゼオライトおよび/またはフィラー粒子がHFと反応して、金属フッ化物と水とを形成することなくLiFおよびH交換ゼオライトを形成するときに生じるイオン交換によって、式1)および2)に示すようなサイクル反応が中断されると考えられている。また、無機捕捉剤は、イオン交換のメカニズムで遷移金属カチオンおよびフッ化水素酸を捕捉してもよい。
【0046】
再び
図2A~
図2Gを参照すると、1種類以上のゼオライト粒子85と吸収性フィラー粒子80がチャンバー70に充填されている。無機捕捉剤75の組成には、ゼオライト85の粒子と吸収性フィラー80の粒子の均質な混合物(
図2A)、ゼオライト85の粒子と吸収性フィラー80の粒子の偏りのある混合物(
図2B~
図2C、
図2G)、ゼオライト粒子85と吸収性フィラー粒子80の分離された領域(
図2D~
図2E)、ゼオライト粒子85、吸収性フィラー粒子80およびこれらの偏りのある混合物の分離された領域の組み合わせ(
図2F)を含んでもよいし、ゼオライト85の粒子と吸収性フィラー80の粒子の混合物(偏りのある混合物など)を分離された領域に配置したもの(
図2G)を含んでもよい。偏りのある混合物に関して、ゼオライト粒子85の量は、
図2Bに示すように容器55の入口60付近、あるいは、
図2Cおよび
図2Gに示すように容器55の出口65付近で多くなっていてもよい。同様に、
図2Dおよび
図2Fに示すように、分離された領域では、ゼオライト粒子85が入口(図示せず)の近くまたは出口65の近くに配置されてもよい。
【0047】
ゼオライト粒子85および吸収性フィラー粒子80は、チャンバー70を形成する容器55の内面によって、1つ以上の膜、スクリーンまたはフィルター97をチャンバー70に取り入れることによって、あるいはそれらの組み合わせによって、分離された状態で適切な位置に保持されてもよい。ただし、そのような膜、スクリーンまたはフィルター97は、電解液を通過させることができるものとする(
図2D~
図2G)。膜、スクリーンまたはフィルター97の組成は、採用される圧力および温度条件下で電解液の存在下での化学的特性と機械的特性の悪化を発生させないように選択される。
【0048】
図2A~
図2Gに示すように、ゼオライト粒子85および吸収性フィラー粒子80は、緩く充填された粒子として存在してもよい。しかしながら、本開示の範囲を超えることなく、粒子を圧縮して、少なくとも1つの錠剤、ディスクまたは押出物を作製してもよい。また、圧縮された構造物を容易にチャンバー70に入れることができるように、圧縮された構造がチャンバー70の形状に対応していると好ましい。望ましい場合、緩く充填された粒子と、圧縮された錠剤、ディスクまたは押出物との組み合わせを利用してもよい。
【0049】
使用するゼオライト粒子および吸収性フィラー粒子量は、チャンバーを満たす。チャンバー内に存在するゼオライト粒子と吸収性フィラー粒子との比は、10:1~1:10であってもよいし、5:1~1:5、あるいは1:3~3:1、あるいは1:2~2:1、あるいは約1:1であってもよい。
【0050】
ここで、
図2Hおよび
図2Iを参照すると、複数の装置50は、それぞれの装置50の間で流体が行き来できるように接続または連結されていてもよい。直列に連結された複数の装置50を使用すると、無機捕捉剤75に対する電解液の曝露量が増す。接続された装置50は、それぞれゼオライト85の粒子と吸収性フィラー80の粒子の分布が同一であってもよいし、ゼオライト85の粒子と吸収性フィラー80の粒子の分布が異なっていてもよい。例えば、
図2Hでは、すでに
図2Aと
図2Fに示した装置50の組み合わせが、直列で使用するために接続または連結されている。装置50は、クイック接続などであるがこれに限定されるものではない従来のカップリング99を使用して接続されていてもよい。望ましい場合、連結される装置50は、それぞれ、
図2Iに示すように、ゼオライト粒子85または吸収性フィラー粒子80のいずれかが全体に含まれていてもよい。
【0051】
本開示の別の態様によれば、電気化学セルで使用される非水電解液から不純物を除去するための処理システムが提供される。ここで
図3を参照すると、この処理システム100は、主に、非水電解液30の入った貯蔵タンク110と、非水電解液30を流すように構成されたポンプ120と、電気化学セル140と、貯蔵タンク110と電気化学セル140の両方との間で流体の行き来が可能な、上述したように形成され、ここでさらに定義する少なくとも1つの装置50と、所定の量の非水電解液30を電気化学セル140に充填することができるように構成されている計器130と、を含む。装置50は、主に、電解液の流れを通すことができるように構成された入口と出口のある1つ以上のチャンバーを有する容器と、1つ以上のチャンバー内に配置され、1種類以上のゼオライト粒子、少なくとも1種類の吸収性フィラー粒子またはゼオライト粒子と吸収性フィラー粒子との組み合わせを含む無機捕捉剤と、を含む。無機捕捉剤は、非水電解液中に不純物として存在する水分、遊離遷移金属イオン、フッ化水素(HF)のうちの1つ以上を吸収する。
【0052】
処理システム100は、装置内の温度または圧力、装置内を流れる電解液の流量および電気化学セルに充填することができる所定量の電解液を測定するためのものの1つ以上を制御するように構成された制御システム(図示せず)をさらに含んでもよい。この制御システムは、処理システム内に配置されたセンサ(例えば、圧力、温度、流量など)をモニターし、処理システム内の様々な構成要素の動作を制御することができる、対応するソフトウェアとともに、コントローラまたはコンピュータを含んでもよい。
【0053】
本開示のさらに別の態様によれば、電気化学セルで使用される非水電解液から不純物を除去するための方法が提供される。ここで
図4を参照すると、この方法150では、主に、
図2A~
図2Eで説明したような装置とともに、すでに
図3で説明したような処理システムを利用する。この方法150には、非水電解液を貯蔵タンクから上述したような装置に移す工程155が含まれる。この方法150では、先に定義したような装置内を非水電解液が流れるようにする。この装置は、主に、電解液の流れを通すことができるように構成された入口と出口のある1つ以上のチャンバーを有する容器と、1つ以上のチャンバー内に配置され、1種類以上のゼオライト、少なくとも1種類の吸収性フィラー粒子またはゼオライト粒子と吸収性フィラー粒子との組み合わせを含む無機捕捉剤と、を含む。無機捕捉剤は、非水電解液中に不純物として存在する水分、遊離遷移金属イオン、フッ化水素(HF)のうちの1つ以上を吸収または除去する(165)。次に、電気化学セルに、装置内を流れて装置から出る所定量の電解液を充填する(170)。その後、電気化学セルを密閉または封止する(175)。
【0054】
任意に、方法150には、装置内の無機捕捉剤を再生または交換する工程180がさらに含まれていてもよい。無機捕捉剤は、相当量の不純物が電解液中に残るようになる前に再生または交換すべきである。あるいは、使用済みの装置を未使用の装置と交換することで、無機捕捉剤を交換する。状況によっては、無機捕捉剤を、単一の電気化学セルの充填に利用してもよいし、複数の電気化学セルの充填に利用してもよい。
【0055】
処理済みの電解液中に存在する水分、遷移金属イオンおよび/またはHFの量の定期的なモニタリングを使用して、無機捕捉剤の再生または交換が必要な時期を判断するようにしてもよい。電解液中に遷移金属イオンが存在することは、誘導結合プラズマ-発光分光分析(ICP-OES)によって判断してもよい。電解液中に存在するHFの量については、フッ化物イオン特異的(ISE)メーターを用いて分析してもよい。電解液中に存在する水分(H2O)の量は、クロマトグラフィ、カールフィッシャー滴定などを含むがこれらに限定されるものではない従来の任意の方法で判断してもよい。
【0056】
本開示で提供する具体例は、本発明の様々な実施形態を説明するためのものであり、本開示の範囲を限定すると解釈されるべきではない。これらの実施形態は、明確かつ簡潔な明細書を書くことができるような方法で説明されているが、本発明から逸脱することなく、実施形態を様々に組み合わせたり、分離したりできることが想定され、理解されるであろう。例えば、本明細書で説明した好ましい特徴はいずれも、本明細書で説明した本発明のすべての態様に適用可能であることが理解されるであろう。
【0057】
本明細書では、明確かつ簡潔な明細書を書くことができるような方法で実施形態を説明したが、本発明から逸脱することなく、実施形態を様々に組み合わせたり、分離したりできることが想定され、理解されるであろう。例えば、本明細書で説明した好ましい特徴はいずれも、本明細書で説明した本発明のすべての態様に適用可能であることが理解されるであろう。
【0058】
本開示に照らして、当業者であれば、本開示の意図または範囲から逸脱したりこれを越えたりすることなく、本明細書に開示した特定の実施形態に多くの変更を加えることができ、依然として同様または類似の結果を得ることができることを理解するであろう。また、当業者であれば、本明細書で報告した特性はいずれも、日常的に測定され、複数の異なる方法で得られる特性を表していることも、理解するであろう。本明細書で説明した方法は、そのような方法の1つを表しており、本開示の範囲を越えることなく、他の方法を用いることができる。
【0059】
本発明の様々な形態についての上述した説明は、例示および説明の目的で提示されたものである。網羅的であることや、開示された厳密な形態に本発明を限定することは、意図されていない。上記の教示内容に照らして、多数の改変または変形を施すことが可能である。ここに示す形態は、本発明の原理およびその実用的な用途を最もよく示すことで、当業者が、考えられる特定の用途に適した様々な形態で、様々な改変を施して本発明を利用できるようにするために選択され、説明されたものである。このようなすべての改変および変形は、添付の特許請求の範囲によって決定される本発明の範囲内であり、特許請求の範囲が公正かつ適法に、衡平に与えられる範囲に従って解釈される。
【外国語明細書】