(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176131
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】ポリアミドイミド組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 79/08 20060101AFI20221117BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20221117BHJP
C08G 18/34 20060101ALI20221117BHJP
C08G 18/76 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
C08L79/08 C
C08K3/04
C08G18/34 030
C08G18/76 057
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077613
(22)【出願日】2022-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2021081086
(32)【優先日】2021-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉野文子
(72)【発明者】
【氏名】森北達弥
(72)【発明者】
【氏名】柴田健太
(72)【発明者】
【氏名】山田宗紀
(72)【発明者】
【氏名】越後 良彰
【テーマコード(参考)】
4J002
4J034
【Fターム(参考)】
4J002CM041
4J002CM042
4J002DA036
4J002FD016
4J002GM01
4J002GQ00
4J034BA02
4J034CA25
4J034CC12
4J034CC54
4J034CC61
4J034CC65
4J034HA07
4J034HA14
4J034HC12
4J034HC61
4J034HC64
4J034HC67
4J034HC71
4J034JA02
4J034KA01
4J034KB02
4J034KD12
4J034KE02
4J034QA01
4J034QA02
4J034QA03
4J034QA05
4J034RA11
4J034RA14
(57)【要約】
【課題】 高い剛性と高い靭性が両立したCB含有ポリアミドイミド(PAI)フィルムとすることができるPAI組成物の提供。
【解決手段】
ポリアミドイミド(PAI-1)と、PAI-1とは異なる酸価を有する
ポリアミドイミド(PAI-2)と、カーボンブラック(CB)と、溶媒と、からなり、1)-4)を満たすPAI組成物。
1)PAI―1、PAI―2ともに、無水トリメリット酸(TMA)、o-トリジンジイソシアネート(TODI)を用いたPAIである。
2)PAI―1の酸価は、10mg-KOH/g以下であり、PAI―2の酸価は10mg-KOH/g超、その酸価が20mg-KOH/g以下である。
3)CBは、pHが7未満の酸性CBである。
4)PAI固形分比率(「PAI-1とPAI-2との合計質量」の「PAI-1とPAI-2と溶媒との合計質量」に対する比率)が、15%質量%超、22質量%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミドイミド(PAI-1)と、PAI-1とは異なる酸価を有するポリアミドイミド(PAI-2)と、カーボンブラック(CB)と、溶媒と、からなる組成物であって、以下を特徴とするポリアミドイミド(PAI)組成物。
1)PAI―1、PAI―2ともに、酸成分として無水トリメリット酸(TMA)、イソシアネート成分としてo-トリジンジイソシアネート(TODI)を用いたPAIである。
2)PAI―1の酸価は、10mg-KOH/g以下であり、PAI―2の酸価は10mg-KOH/g超、20mg-KOH/g以下である。
3)CBは、pHが7未満の酸性CBである。
4)PAI固形分比率(「PAI-1とPAI-2との合計質量」の「PAI-1とPAI-2と溶媒との合計質量」に対する比率)が、15質量%超、22質量%以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、フィルム状に成形して、複写機、プリンタ等の中間転写ベルト、定着ベルト等として好適に用いられるポリアミドイミド(PAI)組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
高速化が求められる複写機、プリンタの中間転写ベルト、定着ベルトとして、耐熱性、機械特性、寸法安定性に優れたPAI等のポリイミド系材料からなるフィルムが広く用いられている。
これらのベルトは、例えば、PAIとカーボンブラック(CB)と溶媒とからなる組成物(溶液)を金型に塗布、乾燥することにより得ることができ、通常、厚みが30μm~150μmのPAIフィルムからなるシームレスのベルトとして用いられる。
【0003】
このようなPAI溶液から得られる、CBを含有したPAIフィルムとしては、酸成分としてトリメリット酸(TMA)、イソシアネート成分としてo-トリジンジイソシアネート(TODI)を用いたPAIからなるフィルムが知られている。 特許文献1~3には、このような化学構造を有するPAIフィルムからなるPAIベルトは、寸法安定性、耐熱性、力学特性(特に剛性)に優れることが開示されている。ここで、PAIに配合されるCBは、PAIフィルムを中間転写ベルトとした際の、ベルトの帯電特性を調整するためのフィラとして多用されている。
これらTMAとTODIとを用いたPAIと、CBとからなる組成物として、特許文献4には、対数粘度の異なる2種類のPAIを含む溶液組成物が開示されており、この組成物から得られるPAIフィルムは、引張弾性率が高いと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-261768号公報
【特許文献2】特開2005-25586号公報
【特許文献3】特開2009-237364号公報
【特許文献4】特開2008-266430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献4に記載されたCBを含有するPAI組成物には、改良すべき点があった。 すなわち、ここで用いられているCBは「塩基性CB」であり、このCBはPAI溶液に対する分散性が良好ではなく、溶液保管時にCBが凝集してしまうということがあった。CBが凝集した状態で、ベルト状のフィルムに成形すると、フィルムの高い剛性は、確保されるにしても、フィルムの高い靭性、すなわち高い引張伸度を得ることが難しくなるという問題があった。このようなベルトを複写機に装着して長時間使用した際、破断や割れが起こることがあった。このようなことから、CBの分散性が良好であり、フィルムとした時の高い剛性と高い靭性とが同時に確保できる、PAI溶液が求められていた。また、特許文献4の実施例に記載されたPAI溶液組成物のPAI濃度は、15質量%と低いものであり、PAI溶液の生産性という観点からは、PAI溶液のPAI固形分濃度をもっと高くすることが望まれていた。すなわち、CBの良好な分散性を確保しつつ、PAI溶液のPAI固形分濃度を高めることが必要であった。
【0006】
そこで、本発明は前記課題を解決するものであって、高い剛性と高い靭性とが両立したCB含有PAIフィルムとすることができ、PAIが高濃度であっても、CB分散性の良好なPAI組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために鋭意研究した結果、特定の化学構造と酸価とを有する2種類以上のPAIに特定のCBを配合した溶液状のPAI組成物とすることにより、前記課題が解決されることを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
本発明は、以下を特徴とする、「ポリアミドイミド(PAI-1)と、PAI-1とは異なる酸価を有するポリアミドイミド(PAI-2)と、CBと、溶媒と、からなるPAI組成物」に関するものである。
1)PAI―1、PAI―2ともに、酸成分としてTMA、イソシアネート成分としてTODIを用いたPAIである。
2)PAI―1の酸価は、10mg-KOH/g以下であり、PAI―2の酸価は10mg-KOH/g超、20mg-KOH/g以下である。
3)CBは、pHが7未満の酸性CBである。
4)PAI固形分比率(「PAI-1とPAI-2との合計質量」の「PAI-1とPAI-2と溶媒との合計質量」に対する比率)が、15質量%超、22質量%以下である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のPAI組成物は、PAI濃度が高くなっているにも拘らずCBの分散性が良好なので、フィルム状に成形するための溶液としての高生産性を確保した上で、フィルム状に成形した際、フィルムの高い剛性と高い靭性とを同時に確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明の組成物は、ポリアミドイミド(PAI-1)と、PAI-1とは異なる酸価を有するポリアミドイミド(PAI-2)と、カーボンブラック(CB)と、溶媒と、からなる。ここで、PAI―1、PAI―2ともに、酸成分としてTMA、イソシアネート成分としてTODIを用いたPAIであることが必要である。 そして、PAI―1の酸価は、10mg-KOH/g以下であり、PAI―2の酸価は10mg-KOH/g超、20mg-KOH/g以下であることが必要である。PAI―1の酸価は、8mg-KOH/g以下であることが好ましく、PAI―2の酸価は12mg-KOH/g以上、16mg-KOH/g以下であることが好ましい。ここで、酸価は、主として、PAIの末端カルボン酸濃度に依存して計測される数値であり、この数値を上記の範囲とすることにより、このPAI溶液にCBを分散させた際、良好な分散性を確保することができる。
酸価は、JIS K0070(1992)の規定に基づき、PAI溶液約1.0gをN-メチル-2-ピロリドン(NMP)でPAI濃度がおよそ1質量%になるように希釈し、ブロモチモールブルー(BTB)を指示薬として用い、水酸化カリウム(KOH)で滴定をおこない、中和に消費されたKOHのmg数をPAI1gあたりに換算した値として確認することができる。
【0012】
本発明のPAI―1またはPAI―2は、例えば、以下のような方法で、溶液として得ることができる。
すなわち、略等モルのTMAとTODIとを、溶媒中、重合反応させることにより得ることができる。
ここで、本発明のPAIにおいては、TODIの一部を、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)または/およびトリレンジイソシアネート(TDI)に置換することが好ましい。トリレンジイソシアネート(TDI)としては、2,4-TDI、2,6-TDIまたはそれらの混合物を用いることができる。前記混合物としては、例えば、2,4-TDI/2,6-TDI=70~100/0~30のモル比のものを用いることができる。この置換比率としては、TODIの5~70モル%をMDIおよび/またはTDIに置換することが好ましく、10~60モル%とすることがより好ましい。このようにすることにより、光学的に均一なPAI溶液とすることができる。光学的に均一かどうかは目視により判定することができる。すなわち、溶液を観察し、白濁が認められた場合を光学的に不均一、白濁が認められない場合を光学的に均一とする。
なお、PAI―1とPAI―2とは、そのモノマー組成が、同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0013】
また本発明のPAIにおいては、TMAの一部は、他の酸成分で置換されていてもよい。他の酸成分としては、例えば、トリカルボン酸無水物、脂環式ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、が挙げられる。前記置換率は20モル%以下であることが好ましい。
TMAを置換する具体的な酸成分として、シクロヘキサントリカルボン酸無水物等のトリカルボン酸無水物、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。脂肪族ジカルボン酸の中でも、高い靭性を確保する上で、ダイマー酸(DA)が好ましい。ここでダイマー酸(DA)とは、植物系油脂を原料とするC18不飽和脂肪酸の二量化によって製造されたC36ジカルボン酸の二塩基酸を主成分とする脂肪酸であり、クローダジャパン社、築野食品工業社等から市販品として入手することができる。
【0014】
また、酸成分として、TMAの一部を、ピロメリット酸無水物、3,3′,4,4′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸無水物等のテトラカルボン酸二無水物に置換してもよい。TMAからの置換率は、10モル%以下とすることが好ましい。この置換率が5モル%を超えると、良好な分散性を確保することが難しくなることがある。 従って、例えば、国際公開2003/072639号に開示されているような、「酸成分としてトリメリット酸無水物/3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物/3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物=70~90/5~25/5~25(モル%)であり、ジイソシアネート成分として3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニルジイソシアネートを含む」PAI等とすることは、高い引張弾性率と高い引張伸度とを同時に確保する観点からは、有効な方法とはいえない。
【0015】
酸成分と、イソシアネート成分とのモル比は、1/0.95~1.05とすることが好ましい。
このように、イソシアネート成分の酸成分に対するモル比を調整することにより、本発明で規定された酸価を有するPAI―1溶液またはPAI―2溶液を得ることができる。
さらに重合反応に際しては、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)、トリエチレンジアミン(DABCO)等の塩基性化合物を触媒としてTMAに対し、0.01~1モル%配合することができる。
このような塩基性触媒を用いることにより、酸価がより低いPAI溶液とすることができる。
【0016】
重合反応に用いられる溶媒に制限はないが、アミド系溶媒を用いることが好ましい。アミド系溶媒の具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)等を挙げることができる。これらの溶媒は、単独または混合物として用いることができる。これらの中で、NMP、DMAc、およびそれらの混合物が好ましい。これらの重合溶媒は、その水分率が100ppm以下に脱水されていることが好ましい。
【0017】
重合反応を行う際の反応温度としては、100~200℃が好ましく、120~180℃がより好ましい。この反応において、モノマーおよび溶媒の添加順序は特に制限はなく、いかなる順序でもよい。
【0018】
前記のようにして得られたPAI溶液のPAI濃度は、PAI-1溶液、PAI-2溶液ともに、15質量%超、22質量%未満とすることが好ましく、16質量%以上、21質量%以下とすることがより好ましい。
このようにすることにより、本発明の組成物とした時の、PAI固形分比率(「PAI-1とPAI-2との合計質量」の「PAI-1とPAI-2と溶媒との合計質量」に対する比率)を、15質量%超、22質量%以下とすることができる。
PAI固形分比率は、16質量%以上、22質量%以下とすることがより好ましい。
ここでPAI固形分比率は、例えば、必要に応じ濾過等でCBを除去した、PAI溶液の約5gをシャーレ上に採取し、窒素気流中300℃で120分処理して溶媒を揮発させた後の固形分の質量を測定することにより確認することができる。
【0019】
本発明のPAI組成物は、前記のようにして得られたPAI溶液に、CBを混合することにより得ることができる。
ここで、CBは、pHが7未満の酸性CBであることが必要であり、pHは5以下が好ましく、4以下がより好ましい。
ここで、CBのpHは、CBの水性懸濁液(濃度約0.05質量%)を調整し、ガラス電極で測定することにより確認することができる。
【0020】
pHが7未満である酸性CBの具体例としては、デグサ社製の「プリンテックス150T」(pH4.5、揮発分10.0%)、同「スペシャルブラック350」(pH3.5、揮発分2.2%)、同「スペシャルブラック100」(pH3.3、揮発分2.2%)、同「スペシャルブラック250」(pH3.1、揮発分2.0%)、同「スペシャルブラック5」(pH3.0、揮発分15.0%)、同「スペシャルブラック4」(pH3.0、揮発分14.0%)、同「スペシャルブラック4A」(pH3.0、揮発分14.0%)、同「スペシャルブラック550」(pH2.8、揮発分2.5%)、同「スペシャルブラック6」(pH2.5、揮発分18.0%)、同「カラーブラックFW200」(pH2.5、揮発分20.0%)、同「カラーブラックFW2」(pH2.5、揮発分16.5%)、同「カラーブラックFW2V」(pH2.5、揮発分16.5%)、キャボット社製「MONARCH1000」(pH2.5、揮発分9.5%)、キャボット社製「MONARCH1300」(pH2.5、揮発分9.5%)、キャボット社製「MONARCH1400」(pH2.5、揮発分9.0%)、同「MOGUL-L」(pH2.5、揮発分5.0%)、同「REGAL400R」(pH4.0、揮発分3.5%)等を挙げることができる。これらのCBは、単独または混合物として用いることができる。
【0021】
PAI溶液に、酸性CBを混合して本発明の組成物とする際は、先ず、PAI-2溶液にCBを高濃度に分散させたCB分散体とし、この分散体と、PAI-1溶液とを混合することにより、PAIとCBと溶媒との組成物とすることが好ましい。
このようにすることにより、良好な分散性を確保することができる。
【0022】
PAI―2溶液とCBとを混合するには、 PAI―2溶液にCBを適宜配合し、攪拌器等で予備混合した後、リングミル、ボールミル、サンドミル等を用いて分散させればよい。
また、CBを分散したPAI―2溶液とPAI―1溶液とを混合するには、攪拌器等を用いて混合すればよい。
【0023】
前記したように、この分散工程において、最終的な分散体、すなわち本発明の組成物とした後のPAI濃度を、15%質量%超、22質量%以下とすることは、良好な分散安定性を確保する観点から、極めて重要である。
PAIの酸価を所定の酸価としたとしても、PAI濃度を、15%質量%以下または22質量%超とすると、CBの凝集が起こりやすくなり、結果として、良好な分散安定性を確保しにくくなることがある。
【0024】
CBのPAI組成物中の含有量に制限はないが、組成物の全固形分に対して10質量%以上、80質量%以下とすることが好ましく、15質量%以上、60質量%以下とすることがより好ましい。
【0025】
PAI―2溶液とPAI―1溶液との混合比率に制限はないが、PAI固形分換算で、PAI―2溶液の使用量をPAI―1溶液の50~500質量%とすることが好ましく、100~300質量%とすることがより好ましい。
【0026】
本発明の組成物においては、CBの分散性をより高めるために、さらに分散剤を含有していてもよい。
このような分散剤としては、低分子量でも高分子量でもよく、カチオン系、アニオン系、非イオン系等いずれであってもよいが、非イオン系高分子が好ましい。
【0027】
前記のようにして得られた本発明のPAI組成物は、これを基材上に塗布、乾燥することにより、CBを含有したPAIフィルムとすることができる。
用いる基材に制限はないが、銅箔等の金属箔、ポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム等の有機高分子フィルムを好ましく用いることができる。
また、本発明のPAIを含有する溶液を、円筒状の金型に塗布、乾燥後、脱型することにより、PAIフィルムからなるシームレスのベルトとすることができる。
なお、PAI溶液からフィルムを得る際の乾燥条件としては、50~180℃の温度で予備乾燥した後、200~300℃で乾燥することが好ましい。
成形されたPAIフィルムの厚みに制限はないが、通常、1~200μm程度である。
【0028】
本発明のPAI組成物から得られるフィルムは、引張弾性率が、4.5GPa以上であることが好ましく、5.5GPa以上がより好ましい。
また、引張伸度が15%以上であることが好ましく、25%以上がより好ましい。
このようにすることにより、例えば、強靭性を有するCB含有複写機ベルト用のフィルムとして用いることができる。
なお、PAIフィルムの引張弾性率、引張伸度は、JIS-K7127(1999)に準拠して測定することにより確認することができる。具体的には、PAIフィルムを幅1.0mm、長さ100mmに切出し、インテスコ社製、インテスコ精密万能材料試験機2020型を使用し、チャック間距離を50mm、引張速度を20mm/分として測定した。
【実施例0029】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0030】
<実施例1>
ガラス製反応容器に、窒素雰囲気下、TMA:1.00モル、TODI:0.81モル、MDI:0.20モル、DABCO:0.0005モルを固形分濃度が25質量%となるように、脱水されたNMP(水分率80ppm)と共に仕込み、攪拌しながら150℃に昇温して5時間反応させた後、NMPで希釈することにより、PAI固形分濃度が16質量%のPAI―1溶液を得た。
次に、TMA:1.03モルとしたこと以外は、この実施例におけるPAI―1溶液の場合と同様にして、重合反応を行いPAI固形分濃度が16質量%のPAI―2溶液を得た。
PAI―2溶液100質量部に酸性CBである、デグサ社製の「スペシャルブラック4」(pH3.0)12質量部を加え、撹拌機で予備混合した後、ボールミルを用い、25℃で20時間分散処理することにより、CBが均一に分散したPAI溶液を得た。
得られたCB分散液160質量部に、PAI―1溶液200質量部を加え、撹拌機で混合することにより、CBが分散された、PAI固形分濃度が16質量%のPAI組成物(溶液)を得た。
次に、ポリエステルフィルム上に、得られたPAI溶液を塗布し、80℃で10分、130℃で10分乾燥後、塗膜をポリエステルフィルムから剥離した。その後、この塗膜を金枠に挟持し、窒素ガス雰囲気下、260℃で60分乾燥することにより、厚みが50μmのPAIフィルムを得た。
このPAIフィルムの引張弾性率、引張伸度を前記したJISに基づく方法により測定し、以下の基準で評価した。
<引張弾性率>
A:5.5GPa以上(優良)
B:5.5GPa未満、4.5GPa以上(実用上問題なし)
C:4.5GPa未満(実用上問題あり)
<引張伸度>
A:25%以上(優良)
B:25%未満、15%以上(実用上問題なし)
C:15%未満(実用上問題あり)
【0031】
<実施例2>
実施例1におけるPAI―1溶液およびPAI―2溶液のPAI固形分濃度を変更して、PAI―1溶液およびPAI―2溶液のPAI固形分濃度を20質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして、CBが分散された、PAI固形分濃度が20質量%のPAI組成物(溶液)を得た。
次に、このPAI溶液から、実施例1と同様にして、PAIフィルムを得た。
【0032】
<実施例3>
ガラス製反応容器に、窒素雰囲気下、TMA:1.00モル、TODI:0.61モル、TDI:0.40モル、DABCO:0.0004モルを固形分濃度が20質量%となるように、脱水されたNMP(水分率80ppm)と共に仕込み、攪拌しながら150℃に昇温して5時間反応させた後、NMPで希釈することにより、PAI固形分濃度が16質量%のPAI―1溶液を得た。
次に、TMA:1.03モルとしたこと以外は、この実施例におけるPAI―1溶液の場合と同様にして、重合反応を行いPAI固形分濃度が16質量%のPAI―2溶液を得た。
次に、このPAI溶液から、実施例1と同様にして、PAIフィルムを得た。
【0033】
<実施例4>
実施例3におけるPAI―1溶液およびPAI―2溶液のPAI固形分濃度を変更して、PAI―1溶液およびPAI―2溶液のPAI固形分濃度を、18質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして、CBが分散された、PAI固形分濃度が18質量%のPAI組成物(溶液)を得た。
次に、このPAI溶液から、実施例1と同様にして、PAIフィルムを得た。
【0034】
<実施例5>
PAI―1溶液を、実施例1におけるPAI―1溶液(PAI固形分濃度:16質量%)とし、PAI―2溶液を、実施例3におけるPAI―2溶液(PAI固形分濃度:16質量%)としたこと以外は、実施例1と同様にして、CBが分散された、PAI固形分濃度が16質量%のPAI組成物(溶液)を得た。
次に、このPAI溶液から、実施例1と同様にして、PAIフィルムを得た。
【0035】
<実施例6>
ガラス製反応容器に、窒素雰囲気下、TMA:0.985モル、DA:0.015モル、TODI:0.81モル、MDI:0.20モル、DABCO:0.0005モルを固形分濃度が25質量%となるように、脱水されたNMP(水分率80ppm)と共に仕込み、攪拌しながら150℃に昇温して5時間反応させた後、NMPで希釈することにより、PAI固形分濃度が16質量%のPAI―1溶液を得た。
次に、TMA:1.015モル、DA:0.015モル、としたこと以外は、この実施例におけるPAI―1溶液の場合と同様にして、重合反応を行いPAI固形分濃度が16質量%のPAI―2溶液を得た。
次に、このPAI溶液から、実施例1と同様にして、PAIフィルムを得た。
【0036】
<実施例7>
ガラス製反応容器に、窒素雰囲気下、TMA:0.90モル、DA:0.1モル、TODI:0.81モル、MDI:0.20モル、DABCO:0.0005モルを固形分濃度が25質量%となるように、脱水されたNMP(水分率80ppm)と共に仕込み、攪拌しながら150℃に昇温して5時間反応させた後、NMPで希釈することにより、PAI固形分濃度が16質量%のPAI―1溶液を得た。
次に、TMA:0.93モル、DA:0.1モル、としたこと以外は、この実施例におけるPAI―1溶液の場合と同様にして、重合反応を行いPAI固形分濃度が16質量%のPAI―2溶液を得た。
次に、このPAI溶液から、実施例1と同様にして、PAIフィルムを得た。
【0037】
<比較例1>
実施例1におけるPAI―1溶液およびPAI―2溶液のPAI固形分濃度を変更して、PAI―1溶液およびPAI―2溶液のPAI固形分濃度を23質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして、CBが分散された、PAI固形分濃度が23質量%のPAI組成物(溶液)を得た。
次に、このPAI溶液から、実施例1と同様にして、PAIフィルムを得た。
【0038】
<比較例2>
実施例1におけるPAI―1溶液およびPAI―2溶液のPAI固形分濃度を変更して、PAI―1溶液およびPAI―2溶液のPAI固形分濃度を、12質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして、CBが分散された、PAI固形分濃度が12質量%のPAI組成物(溶液)を得た。
次に、このPAI溶液から、実施例1と同様にして、PAIフィルムを得た。
【0039】
<比較例3>
実施例7におけるPAI―1溶液およびPAI―2溶液のPAI固形分濃度を変更して、PAI―1溶液およびPAI―2溶液のPAI固形分濃度を、12質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして、CBが分散された、PAI固形分濃度が12質量%のPAI組成物(溶液)を得た。
次に、このPAI溶液から、実施例1と同様にして、PAIフィルムを得た。
【0040】
<比較例4>
実施例1におけるPAI―2溶液のPAI固形分濃度を変更して、PAI―2溶液のPAI固形分濃度を10質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして、CBが分散された、PAI固形分濃度が14質量%のPAI組成物(溶液)を得た。
次に、このPAI溶液から、実施例1と同様にして、PAIフィルムを得た。
【0041】
<比較例5>
PAI―1溶液を、実施例1におけるPAI―2溶液(PAI固形分濃度:16質量%)とし、PAI―2溶液を、実施例1におけるPAI―2溶液のPAI固形分濃度を変更して10質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして、CBが分散された、PAI固形分濃度が14質量%のPAI組成物(溶液)を得た。
次に、このPAI溶液から、実施例1と同様にして、PAIフィルムを得た。
【0042】
<比較例6>
CBを、塩基性CBである、電気化学工業製の「デンカブラック」(pH10)としたこと以外は、実施例1と同様にして、CBが分散された、PAI固形分濃度が16質量%のPAI組成物(溶液)を得た。
次に、このPAI溶液から、実施例1と同様にして、PAIフィルムを得た。
【0043】
実施例、比較例で得られた各PAIの酸価、および、各PAI組成物から得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0044】
【0045】
実施例で示したように、本発明のPAI組成物(溶液)は、PAI固形分濃度が高く、この溶液から、高い引張弾性率と高い引張伸度とが両立したPAIフィルムを得ることができる。
これに対して、各比較例には以下のような問題があった。
比較例1は、PAI固形分比率が高かったため、十分な引張伸度を有するフィルムが得られなかった。比較例2、3は、PAI固形分比率が低かったため、高い引張弾性率、引張伸度を両立したフィルムが得られなかった。比較例4は、高い引張弾性率は得られたが、十分な引張伸度を得られなかった。これはPAI固形分比率が低いためと考えられる。比較例5は、PAI―1の酸価が高かったため、高い引張弾性率、引張伸度を両立したフィルムが得られなかった。比較例6は塩基性CBを用いたため、分散性が低下し、高い引張弾性率、引張伸度を両立したフィルムが得られなかった。