(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176143
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】蛍光X線分析装置及び方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/223 20060101AFI20221117BHJP
【FI】
G01N23/223
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022077951
(22)【出願日】2022-05-11
(31)【優先権主張番号】2106959.6
(32)【優先日】2021-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】503310327
【氏名又は名称】マルバーン パナリティカル ビー ヴィ
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ブルーノ ヴレボス
(72)【発明者】
【氏名】リーヴェン ケンペナールス
(72)【発明者】
【氏名】ユホン シャオ
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA04
2G001CA01
2G001EA06
2G001GA01
2G001GA16
2G001KA01
2G001LA04
2G001NA04
2G001NA07
2G001NA08
(57)【要約】
【課題】経済的で利便性が高く且つ信頼性の高い分析を提供できるXRF分析装置を提供する。
【解決手段】試料を分析するための蛍光X線分析装置を提供する。蛍光X線分析装置は、X線源と、試料を空気中で保持するための計測室と、X線検出器とを備える。X線源は、試料に一次X線ビームを照射して試料が蛍光を発するように配置されている。X線検出器は、試料が放射する特性X線を検出して、特性X線に関連するX線強度計測値を決めるように配置されている。X線源と試料との間に、一次X線ビームを透過させるX線フィルタが配置されている。X線源は、原子番号が25未満の材料の陽極を有する。蛍光X線分析装置は更に、空気圧及び空気温度を感知するように構成されたセンサ機構を備える。プロセッサは、X線強度計測値を受信する。また、プロセッサは、センサ機構から、空気圧データ及び空気温度データを受信する。プロセッサは、空気圧データと空気温度データとを用いて、X線強度計測値を調整する補正計算を実行するように構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を分析するための蛍光X線分析装置であって、
前記試料を空気雰囲気中で保持するための計測室と、
前記試料に一次X線ビームを照射するように配置されたX線源であって、原子番号が25未満の材料を含む陽極を有するX線源と、
X線フィルタであって、
前記X線源と前記試料との間に配置されており、
前記一次X線ビームを透過させるように構成されており、且つ、2keV~3keVの間のエネルギーを有する各X線の少なくとも一部を減衰させるように構成されているX線フィルタと、
X線検出器であって、
前記試料が放射するX線を検出するために配置されており、
X線強度計測値とX線エネルギー計測値とを決めるように構成されているX線検出器と、
空気圧及び空気温度を計測するように構成されているセンサ機構と、
プロセッサであって、
前記X線強度計測値を受信し、且つ、
前記センサ機構から、空気圧計測値及び空気温度計測値を受信し、且つ、
前記空気圧計測値と前記空気温度計測値とを用いて、前記X線強度計測値を調整する補正計算を実行する
ように構成されているプロセッサと
を備える蛍光X線分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の蛍光X線分析装置であって、
前記補正計算は、前記X線強度計測値に対する計測時の空気圧及び空気温度の影響について、該影響を表す修正係数を計算することを含む、
蛍光X線分析装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の蛍光X線分析装置であって、
前記X線検出器は、複数のX線強度を判定するように構成されており、
前記複数のX線強度はそれぞれ、異なるX線エネルギーが対応しており、
前記プロセッサは、対応する複数の修正係数を計算するように構成されている、
蛍光X線分析装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の蛍光X線分析装置であって、
前記X線源は、20W以下のX線管出力で動作するように構成されているX線管を有する、
蛍光X線分析装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の蛍光X線分析装置であって、
前記X線フィルタは、
2keV超~3keV未満のX線エネルギーで減衰が95%より大きい、又は、
前記フィルタは、2.0keV~2.9keVの間のエネルギー範囲で減衰が95%より大きい、
蛍光X線分析装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の蛍光X線分析装置であって、
前記X線フィルタは、X線を減衰させるためのフィルタ要素を有し、
前記フィルタ要素は、アルミニウムを含み、且つ、その厚さが10μm~25μmの間である、
蛍光X線分析装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の蛍光X線分析装置であって、
前記陽極は、バナジウム、クロム、チタン、スカンジウムのいずれかを含む、
蛍光X線分析装置。
【請求項8】
請求項6に記載の蛍光X線分析装置であって、
前記X線源は、バナジウム陽極を有する、
蛍光X線分析装置。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の蛍光X線分析装置であって、
前記X線検出器は、エネルギー分散型X線検出器である、
蛍光X線分析装置。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の蛍光X線分析装置であって、
ハウジングを更に備え、
該ハウジングの内部には、前記X線源と、前記計測室と、前記X線検出器と、前記X線フィルタとが設けられている、
蛍光X線分析装置。
【請求項11】
試料に対して蛍光X線分析を行う方法であって、
計測室内において、空気雰囲気中で前記試料を保持することと、
原子番号が25未満の材料を含む陽極から一次X線ビームを発生させて、該一次X線ビームを前記試料に照射することと、
前記陽極からの少なくとも幾つかのX線であってそのエネルギーが2keV~3keVの間であるX線を減衰させるために、X線フィルタを使用することと、
周囲空気圧及び周囲空気温度を感知することと、
前記試料が放射するX線を検出することと、
前記空気圧計測値と前記空気温度計測値とを用いて、前記X線強度計測値を調整する補正計算を実行することと
を含む方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法であって、
前記X線源は、X線管を有しており、
前記X線は、前記X線管を20W未満のX線管出力で動作させることにより発生する、
方法。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の方法であって、
前記補正計算は、前記X線強度計測値に対する計測時の空気圧及び空気温度の影響について、該影響を表す修正係数を計算することを含む、
方法。
【請求項14】
請求項11~13のいずれか1項に記載の方法であって、
陽極は、バナジウム、クロム、チタン、スカンジウムのいずれかを含み、
前記方法は更に、エネルギーが2keV~3keVの間である少なくとも幾つかのX線を減衰させることによって前記X線源からのX線をフィルタリングするために、X線フィルタを使用することを含む、
方法。
【請求項15】
請求項11~14のいずれか1項に記載の方法であって、
前記試料は、石油、石油製品、バイオ燃料のいずれか含むか、又は、
前記試料は、原子番号が17である分析対象物を含むか、又は、
その両方である、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光X線分析装置と、蛍光X線分析を実行する方法とに関する。特に、本発明は、微量(例えば50mg/kg未満)の軽元素を含む試料の特性を明らかにする蛍光X線分析装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線(XRF)分析は、試料の組成についての情報を獲得するために使用される元素分析技術である。XRF分析中、X線が試料に照射され、試料は蛍光を発する(即ち特性X線を放射する)。試料により放射されるX線は、X線検出器により検出される。エネルギー分散型蛍光X線分析(ED‐XRF)では、異なる特性X線(即ち、放射されたX線で、エネルギーが異なるもの)をほぼ同時に検出することができる。これにより、利便性が高く且つ時間効率の良い分析の促進を支援することができる。
【0003】
一般に、XRF分析の計測値は精密かつ正確であるべきである。計測値は、(同じ試験環境において同じ装置を用いて同じ操作者により実行される試験により測定されるものとして)反復可能であり、(独立した各試験により測定されるものとして)再現可能であるべきである。これを達成するには、XRF分析装置は、高レベルの分析性能を備えていなければならない。XRF計測値が国家規格又は国際規格に準拠することが要求される場合、このことは特に重要となりうる。利便性よく実行できる費用効果的なXRF分析が必要となっている。(例えば処理量を最大にするための)長時間の計測を必要とせず正確に計測することが望まれている。計測時間が短くても、X線分析装置が検出の下方限界及び定量化の下方限界に達することができることも望まれている。
【0004】
分野によっては、信頼性且つ利便性が高く費用効果的なXRF分析を実現することが特に難しいこともある。例えば、幾つかの業界では、試料(例えば石油及び石油製品又はバイオ燃料)を分析し、幾つかの微量の軽元素(即ち、原子番号Zが18以下の元素である「軽」元素)を同定し定量化することを要求されることがある。既に述べたように、これらの計測値は、国家規格/国際規格(例えば国際規格ISO13032:2012「石油製品―自動車燃料中の低濃度硫黄の測定―エネルギー分散型X線蛍光分光法」)に適合することが要求されることがある。
【0005】
既存のXRF分析装置には微量の軽元素を同定し定量できるものがあるが、そのためには、それらは通常、ヘリウムを必要とする。ヘリウムがより高価になり入手が難しくなるにつれて、ヘリウムに関する要件が費用効果や利便性を損なうことがある。更に、ヘリウムは不用の補助剤と見なされる場合もある(例えば石油掘削装置上でヘリウムを安全に保管するのは簡単ではないか又は費用がかかることがある)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
経済的で、利便性が高く且つ信頼性の高い分析を提供できるXRF分析装置を提供することが望ましいであろう。特に、国際規格ISO13032:2012「石油製品―自動車燃料中の低濃度硫黄の測定―エネルギー分散型X線蛍光分光法」に適合可能であり且つ費用効果的なX線分析装置を提供することが望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の或る態様によれば、試料を分析するための蛍光X線分析装置であって、
試料を空気雰囲気中で保持するための計測室と、
試料に一次X線ビームを照射するように配置されたX線源であって、原子番号が25未満の材料を含む陽極を有するX線源と、
X線フィルタであって、X線源と試料との間に配置されており、一次X線ビームを透過させるように構成されており、且つ、2keV~3keVの間のエネルギーを有する各X線の少なくとも一部を減衰させるように構成されているX線フィルタと、
X線検出器であって、試料が放射するX線を検出するために配置されており、X線強度計測値とX線エネルギー計測値とを決めるように構成されているX線検出器と、
空気圧及び空気温度を計測するように構成されているセンサ機構と、
プロセッサであって、
X線強度計測値を受信し、且つ、
センサ機構から、空気圧計測値及び空気温度計測値を受信し、且つ、
空気圧計測値と空気温度計測値とを用いて、X線強度計測値を調整する補正計算を実行する
ように構成されているプロセッサと
を備える蛍光X線分析装置が提供される。
【0008】
試料は、原子番号が17であり得る分析対象物を含有する。分析対象物が試料中に少量しか存在していなくても、特徴をこのように組み合わせることにより、蛍光X線分析装置を使用して、極めて信頼性の高い結果を獲得することができる。同時に、試料が空気雰囲気中で計測されることから、ヘリウムの使用は避けられている。このようにして、X線分析装置は、より利便性がよく且つより費用効果的に使用されるものとなる。
【0009】
X線フィルタは、分析対象物の特性放射線に対応するエネルギー範囲内のX線を減衰させるためのものである。センサ機構は、空気圧と空気温度の両方を検出できる単一のセンサを有してもよい。または、これの代わりに、センサ機構は、空気圧センサと、別体の空気温度センサとを有してもよい。幾つかの実施形態において、センサ機構は、複数の空気圧センサ又は複数の空気温度センサ又はその両方を含んでもよい。
【0010】
補正計算は、X線強度計測値に対する計測時の空気圧及び空気温度の影響について、該影響を表す修正係数を計算することを含んでもよい。
【0011】
X線検出器は複数のX線強度を測定するように構成されており且つこれらの複数のX線強度はそれぞれ異なるX線エネルギーが対応していてもよい。また、プロセッサは、対応する複数の修正係数を計算するように構成されていてもよい。異なる修正係数は、異なるXRF放射物に対応してもよく、特に、異なる元素のXRF放射物に対応してもよい。
【0012】
X線源は、20W以下のX線管出力で動作するように構成されているX線管を含んでもよい。
【0013】
特徴をこのように組み合わせることにより、比較的低出力の(且つ費用効果的な)X線管をも使用しつつも、原子番号が小さい元素でも高い分析性能を達成できることを本発明者らは実現した。X線管出力は、X線管電流とX線管電圧(即ち陰極と陽極の両端に印加される電圧)との積である。当業者ならば理解するであろうが、X線管は通常、最大電圧及び最大出力の範囲内で動作する。X線管を動作させるX線管電圧により、X線管が動作すべき最大電流が決まる。換言すれば、(最大電圧以下の)動作電圧全てに、この動作電圧に関連する最大電流がある。X線管の最大出力は、陰極の設計及び材料、陽極の材料及び構造、高電圧発生器の設計等、設計パラメータにより限定される。X線管の最大出力は20Wであってもよい。
【0014】
X線フィルタは、2keV超~3keV未満のX線エネルギーでは減衰が95%より大きくてもよい。X線フィルタは、2.0keV~2.9keVの間のエネルギー範囲では減衰が95%より大きくてもよい。
【0015】
X線フィルタは、X線を減衰させるためのフィルタ要素を備えてもよく、このフィルタ要素はアルミニウムを含み且つその厚さが10μm~25μmの間であってもよい。
【0016】
X線フィルタの厚さは、フィルタ要素を交換することにより変更してもよい。
【0017】
陽極は、バナジウム、クロム、チタン、スカンジウムのいずれかを含んでもよい。
【0018】
陽極は、固体陽極であってもよく、好ましくはバナジウム又はクロムであってもよい。最も好ましくは、陽極はバナジウム陽極であってもよい。つまり、X線源はバナジウム陽極を有してもよい。
【0019】
X線検出器は、エネルギー分散型X線検出器であってもよい。
【0020】
エネルギー分散型X線検出器は、エネルギーが異なる(即ち、異なる特性XRF放射に対応する)X線を実質的に同時に検出することができる。X線検出器は、電圧パルスを処理するように構成されたパルスプロセッサを有してもよい。X線検出器は、ソリッドステートプロセッサであってもよく、50eV超~300eV未満(例えば150eV)の分解能を有してもよい。
【0021】
蛍光X線分析装置は、ハウジングを更に備え、このハウジング内部には、X線源と、計測室と、X線検出器と、X線フィルタとが設けられていてもよい。
【0022】
ハウジング内部にセンサ機構を設けることにより、センサ機構は、周囲空気圧及び周囲空気温度を計測することができる。このようにして、センサ機構は、計測室内部の空気圧及び空気温度の計測値を提供する。
【0023】
本発明の別の態様によれば、試料に対して蛍光X線分析を行う方法であって、
計測室内において、空気雰囲気中で試料を保持することと、
原子番号が25未満の材料を含む陽極から一次X線ビームを発生させて、この一次X線ビームを試料に照射することと、
陽極からの少なくとも幾つかのX線であってそのエネルギーが2keV~3keVの間であるX線を減衰させるために、X線フィルタを使用することと、
周囲空気圧及び周囲空気温度を感知することと、
試料が放射するX線を検出することと、
空気圧計測値と空気温度計測値とを用いて、X線強度計測値を調整する補正計算を実行することと
を含む方法が提供される。
【0024】
計測室は、空気雰囲気中で試料を保持する。そのため、蛍光X線分析装置は、計測室内のヘリウム量が蛍光X線計測中に1容量%未満になるように構成されてもよい。
【0025】
X線源はX線管を有してもよく、且つ、このX線管を20W未満のX線管出力で動作させることによりX線を発生させてもよい。
【0026】
補正計算は、X線強度計測値に対する計測時の空気圧及び空気温度の影響について、該影響を表す修正係数を計算することを含んでもよい。
【0027】
X線検出器は、複数のX線強度を測定するように構成されており且つこれら複数のX線強度はそれぞれ異なるエネルギー範囲が対応していてもよい。また、プロセッサは、対応する複数の修正係数を計算するように構成されていてもよい。異なる修正係数は、異なるXRF放射物に対応してもよく、特に、異なる元素のXRF放射物に対応してもよい。
【0028】
陽極は、バナジウム、クロム、チタン、スカンジウムのいずれかを含んでもよい。この方法は更に、エネルギーが2keV~3keVの間である少なくとも幾つかのX線を減衰させることによってX線源からのX線をフィルタリングするために、X線フィルタを使用することを含んでもよい。
【0029】
陽極は、固体陽極であり、好ましくはバナジウム又はクロムである。最も好ましくは、陽極はバナジウム陽極である。X線フィルタは、X線を減衰させるためのフィルタ要素を備える。フィルタ要素は、アルミニウムを含んでもよく、厚さが10μm~25μmの間であってもよい。X線フィルタは、エネルギーが2keV~3keVの間であるX線の少なくとも95%を減衰させてもよい。またはこれの代わりに、X線フィルタは、エネルギーが2.0keV~2.9keVの間であるX線の少なくとも95%を減衰させてもよい。
【0030】
試料は、石油、石油製品、バイオ燃料のいずれかを含むか、又は、試料は、原子番号が17である分析対象物を含むか、又は、その両方であってもよい。
【0031】
試料は更に、硫黄、塩素、リンの少なくとも1つを含んでもよい。試料中の、硫黄、塩素、リンの少なくとも1つの量は、50mg/kg未満であってもよく、好ましくは10mg/kg未満であってもよい。
【0032】
次に、本発明の実施形態を、添付の図面を参照し、例示して記載する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】或る実施形態における蛍光X線分析装置の概略図を斜視図で示している。
【
図3】或る実施形態による蛍光X線分析装置の、極めて概略的な図を示す。
【
図4】本発明の或る実施形態における蛍光X線分析方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
これらの図は、図式的なものであり、縮尺通りに描いていないことに留意すべきである。これらの図の一部の相対的寸法及び比率は、図面における明確さ及び利便性のため、サイズを誇張して又は縮小して示している。
【0035】
図1は、本発明の或る実施形態における蛍光X線分析装置1を示す。XRF装置は、「ベンチトップ型」XRF分析器である。これは、ハウジング3を備え、このハウジング3は、試料(図示せず)を保持するための計測室5を有する。計測室5は、ハウジング3の内部のキャビティ4と、カバー9とを有する。
図1には、計測室5のキャビティ4内に使用者が試料を挿入できるようにカバー9を開放した構成において示している。試料が計測室5内に挿入されると、キャビティ4を閉鎖する閉じた構成へとカバー9を移動させることができる。続けて、試料に対してXRF分析を実行してもよい。
【0036】
XRF分析中、試料は計測室5内で保持される。X線分析装置は、計測室5の真空密封又はヘリウムを必要とすることなく、高い分析性能を達成できる。そのため、各実施形態において、計測室5内の大気を制御していない。つまり、計測室5は真空密封されておらず、計測室のヘリウムパージを必要としない。従って、蛍光X線分析装置を、より費用効率的に且つ利便性高く使用することができる。
【0037】
蛍光X線分析装置1はX線源(
図1には不図示)も有し、このX線源は、ハウジング3内部に位置決めされ、計測室5内の試料に照射するように配置されている。XRF分析装置は、X線管を20W未満のX線管出力で動作させるように構成されている。それため、XRF分析装置は、低出力X線源で高い分析性能を達成することができる。
【0038】
ハウジング3の内部には、計測室の近くにセンサ機構11が取付けられている。
図1において、センサ機構11は2つのセンサ要素12を有する。センサ要素12のうちの一方は、空気圧を計測するように構成されており、他方のセンサ要素12は、空気温度を計測するように構成されている。これらのセンサ要素を破線で示すことにより、センサ要素が、ハウジング内部であるが計測室の外部に位置することを示している。センサ要素12を使用して周囲空気圧及び周囲空気温度を計測することにより、計測室5内部の空気圧及び空気温度を見積もることができる。センサ機構は、空気圧計測値及び空気温度計測値をプロセッサ(
図1には不図示)に伝達するように構成されている。プロセッサは、計測値を使用して環境補正を実行する。環境補正は、X線検出器により獲得されたX線強度データを調整することによって行われる。
【0039】
図1に示すように、X線分析装置1は、タッチスクリーンディスプレイ7等のディスプレイも有し、このディスプレイはハウジング3によって支持されている。蛍光X線分析装置を使用者が制御できるようにするために、ディスプレイ7が制御入力部へのアクセスを提供してもよい。ディスプレイ7は、計測データ(X線強度データやセンサ機構により獲得されるデータ等)を表示するように構成されていてもよい。
【0040】
試料が硫黄等の原子番号が小さい元素を少量含む場合は、計測室5内の大気を制御せずに(即ち、真空密封された計測室を使用せずに、又は、パージをせずに)反復可能かつ再現可能な計測値を得るのは難しい。しかし、本発明者らは、入射X線成分と環境補正という組み合わせを有するXRF分析装置を提供することで高い分析性能を驚異的なことであるが達成できることを発見した。特に、硫黄を含む試料を評価する場合、国際規格ISO13032:2012「石油製品―自動車燃料中の低濃度硫黄の測定―エネルギー分散型X線蛍光分光法」)により要求される反復可能性及び再現可能性に適合させることが可能である。
【0041】
図2は、試料15が計測室内にある時の、
図1の蛍光X線分析装置1のハウジングの内部の一部を示す。試料15は、例えば、硫黄等原子番号が小さい分析対象物を、少量含有する燃料試料であってもよい。X線源13は、20W未満のX線管出力で動作するように構成されているX線管であり、このX線源13は、試料15にX線14を照射するように配置されている。動作中、X線管は、試料を励起させるためのX線も、他のX線(バックグラウンド放射線に寄与するもの)と共に放射する。試料とX線源との間にX線フィルタ17が配置され、このX線フィルタは、分析対象物が放射する特性X線に対応するエネルギー範囲内のX線、例えば2keV超から3keV未満のX線を著しく減衰させるように構成されている。X線フィルタ17は、試料を励起させるX線を、低減衰で又は減衰なしで透過させる。エネルギー分散型X線検出器19は、試料15が放射する特性X線18を受けるように配置されている。
【0042】
本発明者らは、原子番号が小さい元素(即ち原子番号≦18の元素)を含む試料を、高い分析性能を達成しつつ、低コストで、しかもヘリウム又は真空密封を必要とせずに、驚異的なことであるが分析できることを発見した。特に、原子番号が25未満の材料である陽極を有するX線源と、2keV~3keV未満の範囲内のX線を減衰させるように構成されたX線フィルタと、環境補正とを組み合わせることにより、幾つかの実施形態における蛍光X線分析装置は、利便性がよく且つ費用効果的なやり方で、高い反復可能性及び再現可能性を達成することができる。
【0043】
或る実施形態において、X線源は、クロム陽極を含むX線管であり、X線フィルタはアルミニウムフィルタである。フィルタの厚さは10μm~25μmの間である。例えば、フィルタは、フィルタ要素と、フィルタ要素を保持するための枠とを有してもよい。フィルタ要素は厚さが10μm~25μmの間であり、枠は、その範囲内の任意の厚さのフィルタを保持することができる。フィルタ要素は、枠から取り外して、厚さが異なる別のフィルタ要素と交換することができる。そのため、フィルタ要素は相互交換可能である。入射X線成分と環境補正とのこの組み合わせにより、少量(例えば50mg/kg未満)の軽元素(塩素又は硫黄又はリン又はそれらの組み合わせ等)を含有する試料に対して、ヘリウム又は真空密封を使用することなく、しかも低X線管出力(例えば20W未満)での動作で、高い分析性能を達成することができる。
【0044】
別の実施形態においては、X線源は、バナジウム陽極を含むX線管である。X線フィルタは、厚さが少なくとも10μmのアルミニウムフィルタである。フィルタ要素を交換することにより、X線フィルタの厚さを変更することができる。バナジウム陽極から一次X線が試料に照射されると、蛍光二次X線を放射する。これらのX線は、エネルギー分散型X線検出器19により検出される。入射X線成分と環境補正とのこの組み合わせにより、少量の、原子番号が小さい元素(塩素又は硫黄又はリン又はそれらの組み合わせ等)を含有する試料に対して、ヘリウム又は真空密封を使用することなく、しかも低X線管出力(例えば20W未満)での動作で、高い分析性能を達成することができる。更に、この実施形態は、極微量の硫黄(例えば10mg/kg未満)を含有する試料に対してさえ、高い分析性能を達成することができる。
【0045】
図3は、本発明の或る実施形態における蛍光X線分析装置20の概略図を示す。蛍光X線分析装置20は、ハウジング23と、X線源33と、X線検出器39と、試料を保持するための計測室25とを備える。X線源と試料との間には、X線フィルタ37が配置されている。X線フィルタは、エネルギーが2keV~3keVの間のX線を減衰させるように構成されている。蛍光X線分析装置20は、ハウジング23内部(且つ計測室の外部)の周囲空気圧及び周囲空気温度を感知するように配置されているセンサ機構31をも備える。
【0046】
図3に示す実施形態では、プロセッサ40は、ハウジングの外部の、ハウジングから離れた場所に位置する。一方、他の幾つかの実施形態においては、プロセッサ40は、ハウジング内部に位置することができる。センサ機構31及びX線検出器39は、プロセッサ40と(破線で示すように)通信している。X線検出器は、X線強度データをプロセッサに出力する。センサ機構31は、X線強度データが計測された時点の計測室内部の、空気温度を示す空気温度計測値と空気圧を示す空気圧計測値とを出力する。センサ機構31は、空気温度計測値及び空気圧計測値を、プロセッサ40に送信する。センサ機構31とプロセッサ40との間の通信は、有線接続を介してなされてもよく、又は、無線接続(例えば無線インターネット、Bluetooth(商標)等)を介してなされてもよい。プロセッサ40は、X線強度データと、空気温度データ及び空気圧データとを使用して、補正済みX線強度値を算出する。これについては、
図4を用いてより詳細に説明する。
【0047】
図4は、本発明の或る実施形態による蛍光X線分析方法を示す。初めに、照射ステップにおいて、ベンチトップ型XRF分析装置(例として、
図1と共に記載するXRF分析装置)の計測室内に試料が置かれる。原子番号が25未満の陽極を含むX線管からX線ビームが発生する。X線管は20W未満のX線管出力で動作する。そして、空気雰囲気(計測室内のヘリウム量が1容量%未満であり得るもの)中で試料を保持した状態で、試料にX線を照射する。
【0048】
試料が照射されている間に、XRF分析装置のハウジングの外側に取付けられたセンサ機構によって周囲空気圧及び周囲空気温度が計測される。空気圧計測値及び空気温度計測値がプロセッサに伝達される。
【0049】
X線検出ステップでは、X線検出器によって、試料により放射される各X線が、電圧パルスとして検出される。X線検出器は電圧パルスをプロセッサに伝達し、検出された電圧パルスはプロセッサにより処理されて、X線強度データ(X線強度対エネルギー)が得られる。
【0050】
次に、補正計算ステップでは、プロセッサが、空気圧計測値と空気温度計測値とを用いて、X線強度計測値を調整する補正計算を実行する。補正計算は、特定の特性X線に対応するX線強度がどのように減衰するかを判定する。補正計算は、空気圧計測値及び空気温度計測値を考慮に入れて特性X線のX線強度を修正することを含んでもよい。例えば、補正計算は、計測大気中の試料により放射される特性X線の強度が同じエネルギーでの(且つ参照空気圧及び空気温度下での)参照X線強度に対して減衰する分について、その減衰分を表す修正係数を計算することを含んでもよい。
【0051】
幾つかの実施形態において、補正計算は、試料から放射される複数の特性X線のそれぞれに対応するX線強度がどのように減衰するかを判定することを含んでもよい。例えば、修正係数が、複数の特性X線のそれぞれについて計算されてもよい。更に、補正計算は、入射X線スペクトラムのX線強度、又は、バックグラウンド散乱のX線強度、又は、その両方がどのように減衰するかを判定することを含んでもよい。
【0052】
図示する実施形態に対しては、特許請求の範囲から逸脱することなく様々な変更が可能であることが理解されるべきである。
【0053】
図1の実施形態は2つのセンサ要素を備えるが、蛍光X線分析装置は任意の数のセンサ要素を備えられる。
【0054】
好ましくは、センサ機構は、ハウジング内部に、ただし計測室の外部に配置されている。しかしながら、幾つかの実施形態においては、センサ機構は、計測室の内部に設けられてもよい。他の幾つかの実施形態においては、センサ機構は、XRF装置のハウジングの外部に配置されている。
【0055】
X線フィルタは、好ましくはアルミニウムフィルタである。しかしながら、X線フィルタは、これの代わりに、シリコン系のフィルタであってもよい。幾つかの実施形態においては、X線フィルタは、ポリマー支持体上にセレンの層を有する。
【0056】
X線管の陽極は、バナジウムでなくてもよい。代わりに、X線管の陽極は、クロム、チタン、スカンジウムのいずれかの陽極であってもよい。陽極は、バナジウム又はクロム又はチタン又はスカンジウム又はこれらの組み合わせであってもよい。
【0057】
X線分析装置は、ディスプレイを備えていてもよく、備えていなくてもよい。蛍光X線分析装置がディスプレイを備える場合、ディスプレイは、計測データを表示できる電子ディスプレイであれば任意の種類のものでよい。例えば、ディスプレイは、LCDディスプレイであってもよく、又は、LED系のディスプレイであってもよい。ディスプレイは、タッチスクリーンディスプレイであってもよく、そうでなくてもよい。
【0058】
幾つかの実施形態においては、プロセッサは、ハウジングから離れている。他の実施形態においては、プロセッサは、ハウジング内部に設けられてもよい。プロセッサは、X線検出器と一体化されていてもよく、別体であってもよい。
【手続補正書】
【提出日】2022-09-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を分析するための蛍光X線分析装置であって、
前記試料を空気雰囲気中で保持するための計測室と、
前記試料に一次X線ビームを照射するように配置されたX線源であって、原子番号が25未満の材料を含む陽極を有するX線源と、
X線フィルタであって、
前記X線源と前記試料との間に配置されており、
前記一次X線ビームを透過させるように構成されており、且つ、2keV~3keVの間のエネルギーを有する各X線の少なくとも一部を減衰させるように構成されているX線フィルタと、
X線検出器であって、
前記試料が放射するX線を検出するために配置されており、
X線強度計測値とX線エネルギー計測値とを決めるように構成されているX線検出器と、
空気圧及び空気温度を計測するように構成されているセンサ機構と、
プロセッサであって、
前記X線強度計測値を受信し、且つ、
前記センサ機構から、空気圧計測値及び空気温度計測値を受信し、且つ、
前記空気圧計測値と前記空気温度計測値とを用いて、前記X線強度計測値を調整する補正計算を実行する
ように構成されているプロセッサと
を備える蛍光X線分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の蛍光X線分析装置であって、
前記補正計算は、前記X線強度計測値に対する計測時の空気圧及び空気温度の影響について、該影響を表す修正係数を計算することを含む、
蛍光X線分析装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の蛍光X線分析装置であって、
前記X線検出器は、複数のX線強度を判定するように構成されており、
前記複数のX線強度はそれぞれ、異なるX線エネルギーが対応しており、
前記プロセッサは、対応する複数の修正係数を計算するように構成されている、
蛍光X線分析装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の蛍光X線分析装置であって、
前記X線源は、20W以下のX線管出力で動作するように構成されているX線管を有する、
蛍光X線分析装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の蛍光X線分析装置であって、
前記X線フィルタは、
2keV超~3keV未満のX線エネルギーで減衰が95%より大きい、又は、
前記フィルタは、2.0keV~2.9keVの間のエネルギー範囲で減衰が95%より大きい、
蛍光X線分析装置。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の蛍光X線分析装置であって、
前記X線フィルタは、X線を減衰させるためのフィルタ要素を有し、
前記フィルタ要素は、アルミニウムを含み、且つ、その厚さが10μm~25μmの間である、
蛍光X線分析装置。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の蛍光X線分析装置であって、
前記陽極は、バナジウム、クロム、チタン、スカンジウムのいずれかを含む、
蛍光X線分析装置。
【請求項8】
請求項6に記載の蛍光X線分析装置であって、
前記X線源は、バナジウム陽極を有する、
蛍光X線分析装置。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の蛍光X線分析装置であって、
前記X線検出器は、エネルギー分散型X線検出器である、
蛍光X線分析装置。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の蛍光X線分析装置であって、
ハウジングを更に備え、
該ハウジングの内部には、前記X線源と、前記計測室と、前記X線検出器と、前記X線フィルタとが設けられている、
蛍光X線分析装置。
【請求項11】
試料に対して蛍光X線分析を行う方法であって、
計測室内において、空気雰囲気中で前記試料を保持することと、
原子番号が25未満の材料を含む陽極から一次X線ビームを発生させて、該一次X線ビームを前記試料に照射することと、
前記陽極からの少なくとも幾つかのX線であってそのエネルギーが2keV~3keVの間であるX線を減衰させるために、X線フィルタを使用することと、
周囲空気圧及び周囲空気温度を感知することと、
前記試料が放射するX線を検出することと、
前記空気圧計測値と前記空気温度計測値とを用いて、前記X線強度計測値を調整する補正計算を実行することと
を含む方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法であって、
前記X線源は、X線管を有しており、
前記X線は、前記X線管を20W未満のX線管出力で動作させることにより発生する、
方法。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の方法であって、
前記補正計算は、前記X線強度計測値に対する計測時の空気圧及び空気温度の影響について、該影響を表す修正係数を計算することを含む、
方法。
【請求項14】
請求項11又は12に記載の方法であって、
陽極は、バナジウム、クロム、チタン、スカンジウムのいずれかを含み、
前記方法は更に、エネルギーが2keV~3keVの間である少なくとも幾つかのX線を減衰させることによって前記X線源からのX線をフィルタリングするために、X線フィルタを使用することを含む、
方法。
【請求項15】
請求項11又は12に記載の方法であって、
前記試料は、石油、石油製品、バイオ燃料のいずれか含むか、又は、
前記試料は、原子番号が17である分析対象物を含むか、又は、
その両方である、
方法。
【外国語明細書】