(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176153
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】植物由来抽出物を有効成分とするウイルス不活化剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/185 20060101AFI20221117BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20221117BHJP
A01N 65/00 20090101ALI20221117BHJP
A01N 65/08 20090101ALI20221117BHJP
A61K 31/353 20060101ALI20221117BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20221117BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
A61K36/185
A01P1/00
A01N65/00 G
A01N65/08
A61K31/353
A61P31/16
A61P31/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078447
(22)【出願日】2022-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2021081943
(32)【優先日】2021-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504300088
【氏名又は名称】国立大学法人北海道国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】520159444
【氏名又は名称】村田 敏拓
(72)【発明者】
【氏名】武田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】村田 敏拓
(72)【発明者】
【氏名】小川 晴子
【テーマコード(参考)】
4C086
4C088
4H011
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086GA02
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA28
4C086NA14
4C086ZB33
4C088AB66
4C088AC01
4C088BA08
4C088BA19
4C088BA24
4C088BA25
4C088BA32
4C088CA08
4C088CA14
4C088MA28
4C088NA14
4C088ZB33
4H011AA04
4H011BB22
(57)【要約】
【課題】 Saxifraga属植物から得られた成分であって、新型コロナウイルス、A型インフルエンザウイルス、ノロウイルスに対する不活化効果を有する成分を含む抗ウイルス剤、抗ウイルス性クリーム及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 Saxifraga属のユキノシタ、ダイモンジソウ、ハルユキノシタ、ジンジソウ及びシコタンソウから成る群から選ばれる少なくとも1種の植物の粗抽出エキス、オープンカラムクロマトグラフィー画分、HPLC画分、有効成分である縮合型タンニンを含有する抗ウイルス剤。抗ウイルス剤として用いるための、Saxifraga属のユキノシタ、ダイモンジソウ、ハルユキノシタ、ジンジソウ及びシコタンソウから成る群から選ばれる少なくとも1種の植物からの縮合型タンニンを含む抽出物の製造方法。得られた抗ウイルス剤を含有するウイルス感染症治療剤、消毒薬、抗ウイルス性クリーム等の予防剤。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンニンを含有するユキノシタ属(Saxifraga)植物の抽出物(以下「ユキノシタ属抽出物」という。)を有効成分とする抗ウイルス剤。
【請求項2】
前記ユキノシタ属抽出物が、ユキノシタ属植物をアセトン-水4:1の混合液に浸漬処理した抽出液を留去、乾固することで得られた粗抽出エキスである請求項1に記載の抗ウイルス剤。
【請求項3】
前記ユキノシタ属抽出物が、請求項2で得られた粗抽出エキスを水で溶解し、スチレン-ジビニルベンゼン系合成吸着剤樹脂カラムに吸着させ、洗浄後、40%~60%メタノール/水で溶出した画分である請求項1に記載の抗ウイルス剤。
【請求項4】
前記ユキノシタ属抽出物が、請求項3で得られた40%~60%メタノール/水溶出画分を、逆相クロマトグラフィー用充填カラムに導入し、アセトニトリル/水で濃度勾配溶出させた精製画分である請求項1に記載の抗ウイルス剤。
【請求項5】
前記ユキノシタ属抽出物が、少なくとも縮合型タンニンを含有するものである請求項1から4のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
【請求項6】
前記ユキノシタ属抽出物が、タンニン(1量体~18量体)を含有する請求項1から4のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の抗ウイルス剤を含有することを特徴とする新型コロナウイルス、A型インフルエンザウイルス、ノロウイルスに起因する感染症の治療剤、消毒薬や抗ウイルス性クリーム等の予防剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規抗ウイルス剤に関する。さらに詳しくはSaxifraga属植物由来抽出物を有効成分とする新規ウイルス不活化剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルス(Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2:SARS-CoV-2)やA型インフルエンザウイルス、ノロウイルスはヒトに感染し世界中で膨大な数の感染者、死亡者を出す公衆衛生上重要な病原ウイルスである。これら病原ウイルスの感染拡大を防ぐための重要なアプローチのひとつとして、ウイルス不活化活性を有する物質を用いた環境中のウイルス(または身体に付着したウイルス)の不活化が挙げられる。新型コロナウイルスやA型インフルエンザウイルスといったエンベロープを有するウイルスの不活化においてはアルコール消毒薬が非常に有効である。
【0003】
一方、エンベロープを有さないノロウイルスでは、ウイルス株によってはアルコールに抵抗性があり容易に不活化されない場合もある。そのためノロウイルスの不活化には次亜塩素酸ナトリウムの使用が推奨されている。
【0004】
人体への安全性を重視し、天然物由来の抗ウイルス剤の探索もなされており、オリーブの葉に含まれるヒドロキシチロソールがインフルエンザウイルスに対する不活化能を有している、との報告がある(特許文献1)。また柿タンニンがエンベロープを持たないノロウイルスに対するウイルス不活化能を有しているとの報告もある(特許文献2)。
【0005】
ユキノシタ(Saxifraga stolonifera)、ダイモンジソウ(Saxifraga fortunei)、ハルユキノシタ(Saxifraga nipponica)、ジンジソウ(Saxifraga cortusifolia)及びシコタンソウ(Saxifraga bronchialis)は日本に自生するユキノシタ科(Saxifragaceae)ユキノシタ属(Saxifraga属)の多年草である。ユキノシタは葉を生薬コジソウと称し、民間薬として解熱・解毒・消炎に用いる。具体的には、湿疹、蕁麻疹、咳、膿痰に煎じて飲む。外用に葉から絞った汁を化膿性中耳炎に点耳する。挫創や腫れ物に生薬の汁をつける。などの方法がとられるほか、健康茶として美白、利尿、消炎などを目的に利用されている。含有成分として硝酸カリウム、塩化カリウム、クエルシトリン、アルブチン、ベルゲニン、カテキン、縮合型タンニンなどが知られる(非特許文献1,2)。ダイモンジソウも薬用として利尿などに用い、また食用とされるが、含有成分は精査されていない(非特許文献1)。
【0006】
このようにユキノシタ及びダイモンジソウはどちらも日本において薬用とされ食経験もある野草である。また、ユキノシタ、ダイモンジソウ、ハルユキノシタ、ジンジソウ及びシコタンソウはいずれも庭や玄関などを彩る観賞用植物として日本国内で栽培され、流通している植物である。このようにユキノシタ属植物は日本において身近な存在であり、多方面で利用されているが、これまでウイルスの不活化に利用されたことはなく、また抗ウイルス作用の報告例もなかった。
【0007】
Takeda et al.,Viruses(非特許文献3)では、モンゴル産ユキノシタ属植物から抽出精製したガロカテキンガレート(GCG)、エピガロカテキンガレート(EGCG)をはじめ、ガロイル基を有する化合物が抗ウイルス活性を示すことが報告されている。しかし、その抗ウイルス活性の強さは化合物精製前の画分の抗ウイルス活性の強さには及ばなかった。またそれら化合物それぞれの含有量は比較的少量であり、またユキノシタ属に共通する成分であるかも不明であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開番号WO2008/143137
【特許文献2】国際公開番号WO2008/060705
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】岡田稔ら.,新訂原色牧野和漢薬草大図鑑.2002:161
【非特許文献2】波多野力ら .,和漢医薬学会誌.1986,3:434-435
【非特許文献3】Takeda et al.,Viruses 12:699.2020.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
新型コロナウイルスの感染拡大初期に消毒用エタノールが入手できない事態となったが、今後再びウイルスの世界的大流行(パンデミック)が起こった際などには深刻な消毒剤の供給不足が生じる恐れがある。更にはアルコールに対し有害応答を示す人々が一定数存在することや、医療従事者等において度重なるアルコール消毒薬の使用が原因の皮膚トラブルが発生する可能性があるといった問題もある。
【0011】
またアルコールに抵抗性を示すノロウイルスに効果を有す次亜塩素酸ナトリウム溶液であるが、次亜塩素酸ナトリウムは人体に対し有害であり、かつ金属素材などを腐食させるため取り扱いが容易ではない。その他、各種病原ウイルスに対し不活化活性を有する化学物質が複数同定されているが、それらの多くが人体への有害性や環境汚染性、残留性などを有しているため、安全かつ容易に環境中や身体に付着したウイルスの消毒に使用できる物質は限定されている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らはユキノシタ(Saxifraga stolonifera)、ダイモンジソウ(Saxifraga fortunei)、ハルユキノシタ(Saxifraga nipponica)、ジンジソウ(Saxifraga cortusifolia)及びシコタンソウ(Saxifraga bronchialis)由来の粗抽出エキス、特定の分画画分、及び分画画分から精製した化合物が新型コロナウイルスやA型インフルエンザウイルス、ヒトノロウイルスの代替ウイルスである猫カリシウイルスやマウスノロウイルスを短時間で不活化することを見出し、更に皮膚表面に塗布可能な抗ウイルス性クリームを作出したことにより本発明を完成させた。
【0013】
即ち、本発明は、
(1)タンニンを含有するユキノシタ属(Saxifraga)植物の抽出物(以下「ユキノシタ属抽出物」と表記)を有効成分とする抗ウイルス剤。
(2)前記ユキノシタ属抽出物が、ユキノシタ属植物をアセトン-水4:1の混合液に浸漬処理した抽出液を留去、乾固することで得られた粗抽出エキスである(1)に記載の抗ウイルス剤。
(3)前記ユキノシタ属抽出物が、(2)で得られた粗抽出エキスを水で溶解し、スチレン-ジビニルベンゼン系合成吸着剤樹脂カラムに吸着させ、洗浄後、40%~60%メタノール/水で溶出した画分である(1)に記載の抗ウイルス剤。
(4)前記ユキノシタ属抽出物が、(3)で得られた40%~60%メタノール/水溶出画分を、逆相クロマトグラフィー用充填カラムに導入し、アセトニトリル/水で濃度勾配溶出させた精製画分である(1)に記載の抗ウイルス剤。
(5)前記ユキノシタ属抽出物が、少なくとも縮合型タンニンを含有するものである(1)から(4)のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
(6)前記ユキノシタ属抽出物が、タンニン(1量体~18量体)を含有する(1)から(4)のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
(7)(1)から(6)のいずれかに記載の抗ウイルス剤を含有することを特徴とする新型コロナウイルス、A型インフルエンザウイルス、ノロウイルスに起因する感染症の治療剤、消毒薬や抗ウイルス性クリーム等の予防剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、ユキノシタ属植物抽出物とその有効成分である縮合型タンニンについて、新型コロナウイルス、A型インフルエンザウイルス、ノロウイルスに対する抗ウイルス剤としての有効成分とする新規な有用性および用途を提供する。ユキノシタ属植物は日本において薬用とされ食経験もある野草であり、ヒトや動物に対する安全性が高く、本発明の抗ウイルス剤は食品として摂取することや抗ウイルス性ハンドクリームとして応用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】ユキノシタ属タンニンの
13C NMRスペクトル
【
図2】ユキノシタから得られた画分の
13C NMRスペクトル(ユキノシタ画分1C)。
【
図3】ユキノシタから得られた画分の
13C NMRスペクトル(ユキノシタ画分1D)。
【
図4】ユキノシタから得られた画分の
13C NMRスペクトル(ユキノシタ画分3H+3I)。
【
図5】ダイモンジソウから得られた画分の
13C NMRスペクトル(ダイモンジソウ画分1C)。
【
図6】ダイモンジソウから得られた画分の
13C NMRスペクトル(ダイモンジソウ画分1D)。
【
図7】ダイモンジソウから得られた画分の
13C NMRスペクトル(ダイモンジソウ画分2H)。
【
図8】ダイモンジソウから得られた画分の
13C NMRスペクトル(ダイモンジソウ画分3G)。
【
図9】ハルユキノシタから得られた画分の
13C NMRスペクトル(ハルユキノシタ画分1C)。
【
図10】ハルユキノシタから得られた画分の
13C NMRスペクトル(ハルユキノシタ画分1D)。
【
図11】ハルユキノシタから得られた画分の
13C NMRスペクトル(ハルユキノシタ画分2E+3F)。
【
図12】ジンジソウから得られた画分の
13C NMRスペクトル(ジンジソウ画分1C)。
【
図13】ジンジソウから得られた画分の
13C NMRスペクトル(ジンジソウ画分1D)。
【
図14】ジンジソウから得られた画分の
13C NMRスペクトル(ジンジソウ画分2E+3F)。
【
図15】シコタンソウから得られた画分の
13C NMRスペクトル(シコタンソウ画分1C)。
【
図16】シコタンソウから得られた画分の
13C NMRスペクトル(シコタンソウ画分2E)。
【
図17】基剤クリームにユキノシタ画分1Dを添加したクリームのウイルス不活化活性。
【
図18】LinearTOFモードでMALDI-TOF-MS測定した、ユキノシタ属タンニン並びに活性画分。
【
図19】SpiralTOFモードでMALDI-TOF-MS測定した、ユキノシタ属タンニン並びに活性画分。
【
図20】ユキノシタ画分2R(100μg/mL)またはコントロール(DMSO)で新型コロナウイルスまたはA型インフルエンザウイルスを24時間、マウスノロウイルスを6時間処理した各種ウイルスの構造タンパク質を標的としたウエスタンブロッティング解析結果。
【
図21】ユキノシタ画分2R(100μg/mL)またはコントロール(DMSO)で3時間処理した各種ウイルスのウイルス粒子構造観察結果。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<製造方法>
本発明のウイルス不活化剤として用いるための、ユキノシタ属植物から選ばれる少なくとも1種の植物の抽出物は、例えば、前記植物の一部もしくは全植物体を抽出溶媒で抽出することで製造することができる。ここで用いる抽出溶媒としては、一般には水及び有機溶媒、好ましくはメタノール、エタノール、プロパノール、アセトン等の水混和性溶媒が挙げられる。抽出溶媒は限定されるものではないが、アセトンと水とを4:1の比率で混合した溶媒で行うことが、有効成分が高い濃度で含有される抽出液が得られるという観点から好ましい。また溶媒の沸点に応じて40-100℃に加温、加熱して抽出操作を行うことで抽出効率を高めることができる。抽出効率という観点からは、植物は、粉砕または裁断等した物であることが好ましい。粉砕または裁断等した物の寸法に特に制限はなく、植物の種類にもよるが、例えば、最も長い部分の長さを5mm以内とすることができる。また、乾燥の程度によらず有効成分が得られるため、植物は抽出前に適宜乾燥することもできる。
【0017】
溶媒の留去の程度は、特に制限はないが、後の利用や精製の方法によっては、溶媒をほぼ留去し、エキスを乾固することが好ましい。
【0018】
精製は、液液分配、順相クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、向流クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、遠心分離、限外ろ過等を適宜組み合わせることにより行うことができる。植物から得た抽出エキスを、水に溶解させ、それをスチレン-ジビニルベンゼン系合成吸着剤樹脂カラムに吸着させた場合、はじめに水や20%メタノール/水の溶出溶媒を流すことで、不溶物・不要物を除いた後、40%~60%メタノール/水の溶出溶媒により溶出した画分に有効成分が高い濃度で含有されることから、この方法で行うことが好ましい。
【0019】
更に、前記の精製方法を複数組み合わせて、あるいは繰り返し行うことで有効成分濃度を上げることができる。逆相系ODSカラムを使用した有効成分の精製と構造の決定については実施例で後述する。
【0020】
以上のようにして得られる下記式(I)、(II)で示されるユキノシタ属タンニン、及びそれを含む画分やエキスは、ウイルス不活化剤として使用できる。
ユキノシタ属タンニンの化学構造
炭素番号は下記式(II)を参照。縮合型タンニンは、フラバン-3-オール構造を基本単位にフラボノイドC-4位-6位間、また/あるいはC-4位-8位間で重合し、多量体構造となっている。フラバン-3-オール基本単位の種類、重合の結合様式、重合度、アシル基の有無に多様性がみられ、一般的に植物抽出エキスから得られる縮合型タンニンは単一の化合物としてではなく、前述した多数の重合度や結合様式、構成単位の構造が異なった重合体の混合物状態で下記式(I)のように得られる。
【化1】
【化2】
【0021】
今回得た一連のユキノシタ属タンニンも混合物として得られた。非特許文献2によるとユキノシタの場合、C-4位-6位間とC-4位-8位間での重合化した化合物双方が含まれていることが報告されている。また、構成単位となるフラバン-3-オール構造部分にも多様性が見られるため、ユキノシタ属タンニン中にもこれらの構造が含まれる可能性がある。
【0022】
今回得たユキノシタ属タンニンについては、縮合型タンニンの特徴をよく反映させて化学構造に関する情報が得られる
13C NMRスペクトルを用いて、その主成分の化学構造の特徴を検討した[
図1]。今回活性本体として特定したユキノシタ属タンニンの主成分は次の特徴を有する。δ
C 158-153(C-5、7、8a)、146-143(C-3’、4’)、132-129(C-1’)、122-118(C-6’)、117-113(C-2’、5’)、108-105(C-8)、98-94(C-4a、6)、80-72(C-2、3)、35-32(C-4)からエピカテキン骨格をもち、また、δ
C 167-164(C-7’’)、146-143(C-3’’、C-5’’)、140-137(C-4’’)、122-118(C-1’’)、111-109(C-2’’、C-6’’)より、ガロイル基がC-3位に結合する。つまりエピカテキン-3-O-ガレートを基本的な構成単位とする下記式(II)のとおりの重合体である。
【化2】
【0023】
13C―NMR [アセトン-d6-重水(1:1)、100MHz、JEOL―JNM―AL400] 167-164ppm(C-7’’)、158-153ppm(C-5、7、8a)、146-143ppm(C-3’、4’、3’’、5’’)、140-137ppm(C-4’’)、132-129ppm(C-1’)、122―118ppm(C-6’、1’’)、117-113ppm(C-2’、5’)、111-109ppm(C-2’’、6’’)、108-105ppm(C-8)、98-94ppm(C-4a、6)、80-72ppm(C-2、3)、35-32ppm(C-4)。
【0024】
ユキノシタ属タンニンを含む画分をアセトン-水混合液に溶解し、アミコンウルトラ15ウルトラセル10K(Merck Millipore Ltd.)に入れて遠心分離(4500rpm、20分間)をかけると、ほぼ全ての溶解液が限外ろ過膜を通過した。そこで通過した溶解液を更にアミコンウルトラ15ウルトラセル3K(Merck Millipore Ltd.)に入れて遠心分離(4500rpm、10時間)をかけると、溶媒と分子量がおよそ1000未満の低分子化合物が限外ろ過膜を通過したことがNMRにより確認でき、ユキノシタ属タンニンがフィルター上部に高度に濃縮されて得られることから、ユキノシタ属タンニンの主成分の分子量は1000-10000である。
【0025】
また、実施例で後述するユキノシタ属タンニン精製画分についてMALDI-TOF-MS(質量分析)測定を行った。なお、[
図18],[
図19]中で示した各サンプルはSST-2R(ユキノシタ由来ユキノシタ属タンニンで、実施例[0031]で述べるユキノシタ画分2Rと同義)、SFo-3G(ダイモンジソウ由来ユキノシタ属タンニンで、実施例[0038]で述べるダイモンジソウ画分3Gと同義)、KT
2021-10(タンニン精製の一段階前のユキノシタ由来粗分画画分でユキノシタ画分1Dと同等)である。
【0026】
図18はLinearTOFモードで測定したMALDI-TOF-MSの結果である。測定試料由来と想定されるシグナルがm/z8,000付近まで観測されたことから、ユキノシタ属タンニンの分子量分布は1,000~10,000程度とした推測が裏付けられた。また、主に440u間隔でシグナルが観測されたことから、(II)ユキノシタ属タンニンの推定化学構造で示した構造式の通り、(エピ)カテキンガレート構造の繰り返し構造であることが支持された。これら知見により、ユキノシタ属タンニンは1~18量体程度であると決定できる。
【0027】
図19はSpiralTOFモードで測定したMALDI-TOF-MSの結果である。ユキノシタ属タンニン(SST-2R、SFo-3G)、ならびにその前の粗分画段階 (KT
2021-10)でも共通して440u間隔でシグナルが観測された。この結果からは、ユキノシタ属タンニンが活性画分に共通して含まれる成分であり、またユキノシタとダイモンジソウとで構造や重合度に大きな違いはないことを示している。さらにシグナルの強度から、多量体のうち3~7量体の存在比が大きいことが考察された。以上により、ユキノシタ属タンニンは、(エピ)カテキンガレートの繰り返し構造であり、3~7量体を中心とした、18量体程度(m/z 8,000)までの範囲で存在することが確認された。
【実施例0028】
以下、非限定的な実施例を示して、本発明をさらに詳細に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0029】
<実施例1>
植物
日本産ユキノシタ、ダイモンジソウ、ハルユキノシタ、ジンジソウ、シコタンソウはいずれも栽培品を用いた。ただし、クリーム作出用には生薬販売品のユキノシタ(株式会社小島漢方)を用いた。
【0030】
・ユキノシタからの抽出
ユキノシタの抽出と分画
乾燥したユキノシタ全草10gをアセトン-水(4:1)の混合液に一か月間浸漬し、成分を抽出した。抽出液を留去して乾固させ、粗抽出エキス(2.6g)とした。次にこれを水に溶解させて、スチレン-ジビニルベンゼン系合成吸着剤樹脂である三菱化学Diaion HP-20樹脂(60g)を担体に用いたオープンカラムに付し、クロマトグラフィーによって分画した。溶出は次のメタノールと水の混合液を用いて順次行い、濃縮乾固することで括弧内の重量の各分画フラクション(ユキノシタ画分1A~1F)、即ち、水画分 300mL(ユキノシタ画分1A、1.55g)、20%メタノール画分300mL(ユキノシタ画分1B、101mg)、40%メタノール画分300mL(ユキノシタ画分1C、282mg)、60%メタノール画分300mL(ユキノシタ画分1D、355mg)、90%メタノール画分300mL(ユキノシタ画分1E、35.2mg)、メタノール画分300mL(ユキノシタ画分1F、11.6mg)を得た。
【0031】
これらのうち、40%メタノール画分(ユキノシタ画分1C)について更にHPLC(ポンプ:8.0mL/min、カラム:TOSOH ODS-120T,21.5mm I.D.×300mm、検出:紫外吸収210nm)で精製を行った。溶出溶媒には10%アセトニトリル/水(0.2%トリフルオロ酢酸添加)から30%アセトニトリル/水(0.2%トリフルオロ酢酸添加)に至る濃度勾配をつけた組成を用いた。クロマトグラムの形状によって分画し、溶出液を濃縮乾固することで合計20種類の分画フラクション(ユキノシタ画分2A~2T)、即ち、ユキノシタ画分2A~2Q(合計134.2mg)、ユキノシタ画分2R(45.1mg)、ユキノシタ画分2S~2T(合計29.4mg)を得た。
【0032】
とりわけ強いウイルス不活化活性を示したユキノシタ画分2RについてNMRを測定し、含有化合物の化学構造を推定したところ、縮合型タンニンに特有の
13C NMRスペクトルが得られた[
図1]。このことからユキノシタ画分2Rをユキノシタ属タンニンと決定し、これをユキノシタ抽出物においてウイルス不活化する最も有力な活性本体として特定した。
【0033】
以下、これと同等のユキノシタ属抽出物をユキノシタ属タンニンと表記する。なお、ユキノシタ画分2A~ユキノシタ画分2Tにおいて、ユキノシタ属タンニンはユキノシタ画分2L~ユキノシタ画分2Tに及ぶ周辺の画分にも含まれていた。このように、ユキノシタ属タンニンを含むエキスならびに画分について、カラムクロマトグラフィーによる分離操作で、1.ユキノシタ属タンニンの純度を上げることができること、また、2.最もユキノシタ属タンニン濃度が高い画分の周辺画分にもユキノシタ属タンニンが含まれていることは、以下で述べるユキノシタ並びにユキノシタ以外のユキノシタ属植物の分離操作に共通である。
【0034】
次に60%メタノール画分(ユキノシタ画分1D)についてHPLC(ポンプ:8.0mL/min、カラム:TOSOH ODS-120T,21.5mm I.D.×300mm、検出:紫外吸収210nm)で精製を行った。溶出溶媒には20%アセトニトリル/水(0.2%トリフルオロ酢酸添加)から30%アセトニトリル/水(0.2%トリフルオロ酢酸添加)に至る濃度勾配をつけた組成を用いた。クロマトグラムの形状によって分画し、溶出液を濃縮乾固することで合計11種類の分画フラクション(画分ユキノシタ画分3A~3K)、即ち、ユキノシタ画分3A~3G(合計118.0mg)、ユキノシタ画分3H及び3I(合計98.0mg)、ユキノシタ画分3J~3K(合計29.7mg)を得た。このうちユキノシタ画分3H及び3Iはユキノシタ属タンニンであった[
図4]。
【0035】
ユキノシタ画分1Cの抗ウイルス活性本体がユキノシタ属タンニンであることが特定されたことから、ユキノシタ画分1Cと同様に抗ウイルス活性を示したユキノシタ画分1Dについても
13C NMR測定したところ、いずれにも主成分としてユキノシタ属タンニンが含まれていた[
図2、
図3]。
【0036】
・ダイモンジソウからの抽出
ダイモンジソウの抽出と分画
乾燥したダイモンジソウ地上部61gをアセトン-水(4:1)の混合液に一週間浸漬し、成分を抽出した。抽出液を留去して乾固させ、粗抽出エキス(10.9g)とした。次にこれを水に溶解させて三菱化学Diaion HP-20樹脂(200g)を担体に用いたオープンカラムに付し、クロマトグラフィーによって分画した。溶出はメタノールと水の混合液を用いて順次行い、濃縮乾固することで括弧内の重量の各分画フラクション(ダイモンジソウ画分1A~1F)即ち、水画分600mL(ダイモンジソウ画分1A、5.29g)、20%メタノール画分60mL(ダイモンジソウ画分1B、316.3mg)、40%メタノール画分600mL(ダイモンジソウ画分1C、362.0mg)、60%メタノール画分600mL(ダイモンジソウ画分1D、745.8mg)、90%メタノール画分600mL(ダイモンジソウ画分1E、161.8mg)、メタノール画分600mL(ダイモンジソウ画分1F、30.1mg)を得た。うち、40%メタノール画分(ダイモンジソウ画分1C)及び60%メタノール画分(ダイモンジソウ画分1D)は、NMRスペクトルにより、その主成分はユキノシタ属タンニンであった[
図5、
図6]。
【0037】
ダイモンジソウ画分1CについてHPLC(ポンプ:8.0mL/min、カラム:TOSOH ODS-120T,21.5mm I.D.×300mm、検出:紫外吸収210nm)で精製を行った。溶出溶媒には20%アセトニトリル/水(0.2%トリフルオロ酢酸添加)から30%アセトニトリル/水(0.2%トリフルオロ酢酸添加)に至る濃度勾配をつけた組成を用いた。クロマトグラムの形状によって分画し、溶出液を濃縮乾固することで合計9種類の分画フラクション(ダイモンジソウ画分2A~2I)、即ち、ダイモンジソウ画分2A~2G(合計138.5mg)、ダイモンジソウ画分2H(22.5mg)、ダイモンジソウ画分2I(6.3mg)得た。ダイモンジソウ画分2HはNMRスペクトルよりユキノシタ属タンニンであった[
図7]。
【0038】
ダイモンジソウ画分1DについてHPLC(ポンプ:8.0mL/min、カラム:TOSOH ODS-120T,21.5mm I.D.×300mm、検出:紫外吸収210nm)で精製を行った。溶出溶媒には20%アセトニトリル/水(0.2%トリフルオロ酢酸添加)から30%アセトニトリル/水(0.2%トリフルオロ酢酸添加)に至る濃度勾配をつけた組成を用いた。クロマトグラムの形状によって分画し、溶出液を濃縮乾固することで合計8種類の分画フラクション(ダイモンジソウ画分3A~3H)、即ち、ダイモンジソウ画分3A~3F(合計116.3mg)、ダイモンジソウ画分3G(44.7mg)、ダイモンジソウ画分3H(16.0mg)を得た。ダイモンジソウ画分3GはNMRスペクトルよりユキノシタ属タンニンであった[
図8]。
【0039】
・ハルユキノシタの抽出と分画
乾燥したハルユキノシタ地上部230gをアセトン-水(4:1)の混合液に一週間浸漬し、成分を抽出した。抽出液を留去して乾固させ、粗抽出エキス(13.2g)とした。次にこれを水に溶解させて三菱化学Diaion HP-20樹脂(200g)を担体に用いたオープンカラムに付し、クロマトグラフィーによって分画した。溶出はメタノールと水の混合液を用いて順次行い、濃縮乾固することで括弧内の重量の各分画フラクション(ハルユキノシタ画分1A~1F)即ち、水画分600mL(ハルユキノシタ画分1A、10.1g)、20%メタノール画分600mL(ハルユキノシタ画分1B、156.1mg)、40%メタノール画分600mL(ハルユキノシタ画分1C、299.6mg)、60%メタノール画分600mL(ハルユキノシタ画分1D、438.4mg)、90%メタノール画分600mL(ハルユキノシタ画分1E、230.3mg)、メタノール画分600mL(ハルユキノシタ画分1F、14.5mg)を得た。うち、40%メタノール画分(ハルユキノシタ画分1C)及び60%メタノール画分(ハルユキノシタ画分1D)は、NMRスペクトルにより、その主成分はユキノシタ属タンニンであった[
図9、
図10]。
【0040】
ハルユキノシタ画分1CについてHPLC(ポンプ:8.0mL/min、カラム:TOSOH ODS-120T,21.5mm I.D.×300mm、検出:紫外吸収210nm)で精製を行った。溶出溶媒には20%アセトニトリル/水(0.2%トリフルオロ酢酸添加)から30%アセトニトリル/水(0.2%トリフルオロ酢酸添加)に至る濃度勾配をつけた組成を用いた。クロマトグラムの形状によって分画し、溶出液を濃縮乾固することで合計6種類の分画フラクション(ハルユキノシタ画分2A~2F)、即ち、ハルユキノシタ画分2A~2D(合計187.3mg)、ハルユキノシタ画分2E(7.5mg)、ハルユキノシタ画分2F(2.4mg)を得た。ハルユキノシタ画分2EはNMRスペクトルよりユキノシタ属タンニンであった[
図11]。
【0041】
ハルユキノシタ画分1DについてHPLC(ポンプ:8.0mL/min、カラム:TOSOH ODS-120T,21.5mm I.D.×300mm、検出:紫外吸収210nm)で精製を行った。溶出溶媒には20%アセトニトリル/水(0.2%トリフルオロ酢酸添加)から30%アセトニトリル/水(0.2%トリフルオロ酢酸添加)に至る濃度勾配をつけた組成を用いた。クロマトグラムの形状によって分画し、溶出液を濃縮乾固することで合計7種類の分画フラクション(ハルユキノシタ画分3A~3G)、即ち、ハルユキノシタ画分3A~3E(合計217.0mg)、ハルユキノシタ画分3F(23.5mg)、ハルユキノシタ画分3G(3.6mg)を得た。ハルユキノシタ画分3FはNMRスペクトルよりユキノシタ属タンニンであった[
図11]。
【0042】
・ジンジソウの抽出と分画
乾燥したジンジソウ地上部19gをアセトン-水(4:1)の混合液に一週間浸漬し、成分を抽出した。抽出液を留去して乾固させ、粗抽出エキス(3.0g)とした。次にこれを水に溶解させて三菱化学Diaion HP-20樹脂(50g)を担体に用いたオープンカラムに付し、クロマトグラフィーによって分画した。溶出はメタノールと水の混合液を用いて順次行い、濃縮乾固することで括弧内の重量の各分画フラクション(ジンジソウ画分1A~1F)即ち、水画分300mL(ジンジソウ画分1A、1.53g)、20%メタノール画分300mL(ジンジソウ画分1B、176.2mg)、40%メタノール画分300mL(ジンジソウ画分1C、344.9mg)、60%メタノール画分300mL(ジンジソウ画分1D、217.8mg)、90%メタノール画分300mL(ジンジソウ画分1E、52.8mg)、メタノール画分300mL(ジンジソウ画分1F、27.9mg)を得た。うち、40%メタノール画分(ジンジソウ画分1C)及び60%メタノール画分(ジンジソウ画分1D)は、NMRスペクトルにより、その主成分はユキノシタ属タンニンであった[
図12、
図13]。
【0043】
ジンジソウ画分1CについてHPLC(ポンプ:8.0mL/min、カラム:TOSOH ODS-120T,21.5mm I.D.×300mm、検出:紫外吸収210nm)で精製を行った。溶出溶媒には20%アセトニトリル/水(0.2%トリフルオロ酢酸添加)から30%アセトニトリル/水(0.2%トリフルオロ酢酸添加)に至る濃度勾配をつけた組成を用いた。クロマトグラムの形状によって分画し、溶出液を濃縮乾固することで合計6種類の分画フラクション(ジンジソウ画分2A~2F)、即ち、ジンジソウ画分2A~2D(合計235.6mg)、ジンジソウ画分2E(15.2mg)、ジンジソウ画分2F(2.9mg)を得た。ジンジソウ画分2EはNMRスペクトルよりユキノシタ属タンニンであった[
図14]。
【0044】
ジンジソウ画分1DについてHPLC(ポンプ:8.0mL/min、カラム:TOSOH ODS-120T,21.5mm I.D.×300mm、検出:紫外吸収210nm)で精製を行った。溶出溶媒には20%アセトニトリル/水(0.2%トリフルオロ酢酸添加)から30%アセトニトリル/水(0.2%トリフルオロ酢酸添加)に至る濃度勾配をつけた組成を用いた。クロマトグラムの形状によって分画し、溶出液を濃縮乾固することで合計7種類の分画フラクション(ジンジソウ画分3A~3G)、即ち、ジンジソウ画分3A~3E(合計112.9mg)、ジンジソウ画分3F(24.4mg)、ジンジソウ画分3G(9.7mg)を得た。ジンジソウ画分3FはNMRスペクトルよりユキノシタ属タンニンであった[
図14]。
【0045】
・シコタンソウの抽出と分画
乾燥したシコタンソウ地上部19.3gをアセトン-水(4:1)の混合液に一週間浸漬し、成分を抽出した。抽出液を留去して乾固させ、粗抽出エキス(0.77g)とした。次にこれを水に溶解させて三菱化学Diaion HP-20樹脂(50g)を担体に用いたオープンカラムに付し、クロマトグラフィーによって分画した。溶出はメタノールと水の混合液を用いて順次行い、濃縮乾固することで括弧内の重量の各分画フラクション(シコタンソウ画分1A~1F)即ち、水画分300mL(シコタンソウ画分1A、278.7mg)、20%メタノール画分300mL(シコタンソウ画分1B、39.8mg)、40%メタノール画分300mL(シコタンソウ画分1C、201.1mg)、60%メタノール画分300mL(シコタンソウ画分1D、45.8mg)、90%メタノール画分300mL(シコタンソウ画分1E、10.6mg)、メタノール画分300mL(シコタンソウ画分1F、8.7mg)を得た。うち、40%メタノール画分(シコタンソウ画分1C)は、NMRスペクトルにより、その主成分はユキノシタ属タンニンであった[
図15]。
【0046】
シコタンソウ画分1CについてHPLC(ポンプ:8.0mL/min、カラム:TOSOH ODS-120T,21.5mm I.D.×300mm、検出:紫外吸収210nm)で精製を行った。溶出溶媒には20%アセトニトリル/水(0.2%トリフルオロ酢酸添加)から30%アセトニトリル/水(0.2%トリフルオロ酢酸添加)に至る濃度勾配をつけた組成を用いた。クロマトグラムの形状によって分画し、溶出液を濃縮乾固することで合計6種類の分画フラクション(画分シコタンソウ画分2A~2F)、即ち、シコタンソウ画分2A~2D(合計140.4mg)、シコタンソウ画分2E(7.5mg)、シコタンソウ画分2F(2.4mg)を得た。シコタンソウ画分2EはNMRスペクトルよりユキノシタ属タンニンであった[
図16]。
【0047】
・ユキノシタクリームの作製
ユキノシタ(株式会社小島漢方)450gをアセトン-水(4:1)の混合液に浸漬し、成分を抽出した。抽出液を留去して乾固させ、粗抽出エキス(117.2g)とした。次にこれを水に溶解させて、スチレン-ジビニルベンゼン系合成吸着剤樹脂である三菱化学Diaion HP-20樹脂(1L)を担体に用いたオープンカラムに付し、クロマトグラフィーによって分画した。溶出は次のメタノールと水の混合液を用いて順次行い、濃縮乾固することで括弧内の重量の各分画フラクション(クリーム用ユキノシタ画分1A~1F)、即ち、水画分2L(クリーム用ユキノシタ画分1A、71g)、20%メタノール画分2L(クリーム用ユキノシタ画分1B、2.9g)、40%メタノール画分2L(クリーム用ユキノシタ画分1C、5.7g)、60%メタノール画分2L(クリーム用ユキノシタ画分1D、14.6g)、90%メタノール画分1L(クリーム用ユキノシタ画分1E、2.5g)、メタノール画分1L(クリーム用ユキノシタ画分1F、405mg)を得た。続いてクリーム用ユキノシタ画分1D (500mg)を1.5gのグリセロールに溶解させ、更にそれに白色ワセリンを加えてホモジナイザーで混合し、クリーム用ユキノシタ画分 1Dを5%(w/w)含有するクリームを調整した。また、クリーム用ユキノシタ画分1D(500mg)を500mgのグリセロールに溶解させ、更にそれらに白色ワセリンを加えてホモジナイザーで混合し、クリーム用ユキノシタ画分1Dを10%(w/w)含有するクリームを調整した。
【0048】
・ウイルス、細胞
本実験において対象としたウイルスは、新型コロナウイルス[元株 (A系統):2019-nCoV/Japan/TY/WK-521/2020株、アルファ株 (B.1.1.7系統):hCoV-19/Japan/QHN001/2020株、ベータ株 (B.1.351系統):hCoV-19/Japan/TY8-612-P1/2021株、ガンマ株 (P.1系統):hCoV-19/Japan/TY7-501/2021株、デルタ株 (B.1.617.2系統):hCoV-19/Japan/TY11-927-P1/2021株、オミクロン株 (BA.1系統):hCoV-19/Japan/TY38-873P0/2021株]、H1N1亜型A型インフルエンザウイルス[A/Puerto Rico/8/1934株]、猫カリシウイルス[F9株]、マウスノロウイルス[S9株]である。なお、新型コロナウイルスについては以降の記載にて株名の特段の表記が無い場合は元株のことを指す。各ウイルスを任意のウイルス力価になるよう希釈する際にはリン酸緩衝液を用いた。新型コロナウイルスはVeroE6/TMPRSS2細胞、A型インフルエンザウイルスはMDCK細胞、猫カリシウイルスはCRFK細胞、マウスノロウイルスはRAW264細胞へそれぞれ感染させた。
【0049】
・ユキノシタ属抽出物を含む溶液のウイルス不活化活性評価方法
上述の様に作製した各ユキノシタ属抽出物を含む溶液を最終濃度が25μg/mLまたは100μg/mLとなるよう新型コロナウイルス液、A型インフルエンザウイルス液、猫カリシウイルス液[ウイルス力価:3.25-5.25 log10 50%組織培養感染量(TCID50)/mL]とそれぞれ混合し、10秒または1分間反応させたのち培養細胞へ混合液を接種した。或いは、各抽出物を含む溶液を最終濃度が100μg/mLとなるようマウスノロウイルス液(ウイルス力価:4.25-4.75 log10 TCID50/mL)と混合し、1分間反応させたのち培養細胞へ混合液を接種した。なお、対照群としてウイルス不活化活性を有さないジメチルスルホキシド(DMSO;各抽出物の溶媒)とウイルス液を混合した群も置いた。
【0050】
その後、培養細胞上で混合液の10倍階段希釈を行い、37℃のCO2インキュベーター内で3日間培養した。その後、顕微鏡でウイルス感染・増殖に起因する細胞変性効果を観察し、それをもとにベーレンスケルバー法を用いてウイルス力価(TCID50/mL)を算出しDMSOコントロール群のウイルス力価と各抽出物群のウイルス力価の差を比較することで各抽出物によるウイルス不活化の程度を評価した。
【0051】
・ユキノシタ属抽出物を含むクリームのウイルス不活化活性評価方法
上述の様に精製したクリーム用ユキノシタ画分1Dを5%または10%(w/w)含有するクリーム10mgを2.25cm2(1.5cm X 1.5cm)のポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布した。なお、対照群として有効成分を含まない基剤クリームをフィルムへ塗布した。続いて60μLの新型コロナウイルス液、A型インフルエンザウイルス液、猫カリシウイルス液、マウスノロウイルス液[ウイルス力価:4.00―5.00 log10 TCID50/60μL]をポリスチレン製プレート上に滴下し、その上にクリーム塗付面がウイルス液と接するようにフィルムで覆った。22℃で10分間反応させた後にウイルス液を回収し培養細胞へ添加した。その後、培養細胞上でウイルス液の10倍階段希釈を行い、37℃のCO2インキュベーター内で1時間培養した。その後培養液を入れ替え更に37℃のCO2インキュベーター内で3日間培養した。その後、顕微鏡でウイルス感染・増殖に起因する細胞変性効果を観察し、それをもとにベーレンスケルバー法を用いてウイルス力価(TCID50/mL)を算出した。対照群のウイルス力価と各濃度のユキノシタ画分1D群のウイルス力価の差を比較することで、各濃度のユキノシタ画分1D含有クリームによるウイルス不活化の程度を評価した。
【0052】
・ユキノシタ属抽出物を含む溶液のウイルス不活化活性評価結果
各ユキノシタ属由来の粗抽出エキスを含む溶液(100μg/mL)と新型コロナウイルス液またはA型インフルエンザウイルス液を混合し1分間反応させた結果、ユキノシタ、ダイモンジソウ、シコタンソウ、ジンジソウ由来粗抽出エキス群においてDMSOコントロール群と比較して統計学的に有意なウイルス力価の低下が認められた。その結果は[表1]および[表2]に示す。また、各ユキノシタ属由来の粗抽出エキスを含む溶液(100μg/mL)と猫カリシウイルス液を混合し1分間反応させた結果、ユキノシタ、ダイモンジソウ、シコタンソウ、ハルユキノシタ、ジンジソウ由来粗抽出エキス群においてDMSOコントロール群と比較して統計学的に有意なウイルス力価の低下が認められた[表3]。
【表1】
【表2】
【表3】
【0053】
次に粗抽出エキス以外の各ユキノシタ属抽出物を含む溶液(25μg/mL)と新型コロナウイルス(元株)液を混合し10秒間反応させた結果、ユキノシタ画分1C・1D、ダイモンジソウ画分1C・1D、シコタンソウ画分1C、ハルユキノシタ画分1C・1D、ジンジソウ画分1C・1D、およびユキノシタ属タンニン画分(ユキノシタ画分2R、ダイモンジソウ画分2H、ダイモンジソウ画分3G、ハルユキノシタ画分2E+3F、ジンジソウ画分2E+3F)群においてDMSOコントロール群と比較して統計学的に有意なウイルス力価の低下が認められた。その結果は[表4]に示す。また、元株以外の新型コロナウイルス変異株(アルファ株、ベータ株、ガンマ株、デルタ株、オミクロン株)に対するユキノシタ画分1C・1D・2R(25μg/mL)の10秒間における不活化活性を評価したところ、これら変異株に対しても統計学的に有意なウイルス力価の低下が認められた。その結果は[表5]に示す。
【表4】
【表5】
【0054】
また、粗抽出エキス以外の各ユキノシタ属抽出物を含む溶液(25μg/mL)とA型インフルエンザウイルス液を混合し10秒間反応させた結果、ユキノシタ画分1C・1D、ダイモンジソウ画分1C・1D、シコタンソウ画分1C、ハルユキノシタ画分1C、ジンジソウ画分1C・1D、およびユキノシタ属タンニン画分(ユキノシタ画分2R、ダイモンジソウ画分2H、ダイモンジソウ画分3G、ハルユキノシタ画分2E+3F、ジンジソウ画分2E+3F)群においてDMSOコントロール群と比較して統計学的に有意なウイルス力価の低下が認められた。その結果は[表6]に示す。
【表6】
【0055】
また、粗抽出エキス以外の各ユキノシタ属抽出物を含む溶液(25μg/mL)と猫カリシウイルス液を混合し10秒間反応させた結果、ユキノシタ画分1C・1D、ダイモンジソウ画分1C・1D、シコタンソウ画分1C、ハルユキノシタ画分1C・1D、ジンジソウ画分1C・1D、およびユキノシタ属タンニン画分(ユキノシタ画分2R、ダイモンジソウ画分2H、ダイモンジソウ画分3G、ハルユキノシタ画分2E+3F、ジンジソウ画分2E+3F)群においてDMSOコントロール群と比較して統計学的に有意なウイルス力価の低下が認められた。その結果は[表7]に示す。
【表7】
【0056】
また、粗抽出エキス以外の各ユキノシタ属抽出物を含む溶液(100μg/mL)とマウスノロウイルス液を混合し1分反応させた結果、ユキノシタ画分1C・1D、ダイモンジソウ画分1C・1D、シコタンソウ画分1C、ハルユキノシタ画分1C・1D、ジンジソウ画分1C、およびユキノシタ属タンニン画分(ユキノシタ画分2R、ダイモンジソウ画分2H、ダイモンジソウ画分3G、ハルユキノシタ画分2E+3F、ジンジソウ画分2E+3F)群においてDMSOコントロール群と比較して統計学的に有意なウイルス力価の低下が認められた。その結果は[表8]に示す。
【表8】
【0057】
これらの結果から、ユキノシタ属タンニンを含むユキノシタ属抽出物は極めて短時間でエンベロープを有さないウイルス及びエンベロープを有するウイルスの両者を不活化できることが示された。
【0058】
・ユキノシタ属抽出物を含むクリームの新型コロナウイルス不活化活性評価結果
クリーム用ユキノシタ画分1Dを5%または10%含有するクリームと各種病原ウイルス液を10分間反応させた結果、基剤クリーム群と比較してクリーム用ユキノシタ画分1D(5%および10%)群においてウイルス力価が統計学的に有意に低下していた。新型コロナウイルスに対しては濃度依存的なウイルス不活化活性が認められ、5%群では99.58%以上、また10%群では99.87%以上のウイルスの不活化が認められた。A型インフルエンザウイルスに対しては5%および10%群において共に99.90%以上のウイルスの不活化が認められた。猫カリシウイルスに対しては5%および10%群において共に99.76%以上のウイルスの不活化が認められ、ウイルス力価は殆ど検出限界以下となっていた。マウスノロウイルスにおいては5%群では98.67%以上、また10%群では99.00%以上のウイルスの不活化が認められた。その結果は[
図17]に示す。この結果から、ユキノシタ属タンニンを含むユキノシタ属抽出物を含有するクリームは各種病原ウイルスを不活化できることが示された。
【0059】
・ユキノシタ属タンニンのウイルス不活化機序
ユキノシタ属タンニンであるユキノシタ画分2Rによるウイルス構造タンパク質への作用を評価した。陰性対照液DMSO(コントロール)またはユキノシタ画分2Rで処理した各ウイルスについて構造タンパク質を標的としたウエスタンブロッティングを実施したところ、ユキノシタ画分2R処理により標的タンパク質のバンドが減弱または消失するという結果が得られた[
図20]。この結果は、ユキノシタ画分2Rがウイルス構造タンパク質の破壊や構造異常を引き起こした可能性を示唆する。
【0060】
また、陰性対照液DMSO(コントロール)またはユキノシタ画分2R処理した牛コロナウイルス (新型コロナウイルスの代替ウイルス)、A型インフルエンザウイルス、マウスノロウイルスのウイルス粒子構造を電子顕微鏡を用いて観察したところ、ユキノシタ画分2R処理によるウイルス粒子の破壊や凝集が確認された [
図21]。