(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176179
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】接合基板の製造方法及び接合基板の製造装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/02 20060101AFI20221117BHJP
H01L 21/66 20060101ALI20221117BHJP
B23K 20/00 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
H01L21/02 B
H01L21/66 P
B23K20/00 310Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080129
(22)【出願日】2022-05-16
(31)【優先権主張番号】P 2021082464
(32)【優先日】2021-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】519261725
【氏名又は名称】株式会社IIPT
(71)【出願人】
【識別番号】503177074
【氏名又は名称】須賀 唯知
(71)【出願人】
【識別番号】000146009
【氏名又は名称】株式会社昭和真空
(74)【代理人】
【識別番号】100091443
【弁理士】
【氏名又は名称】西浦 ▲嗣▼晴
(74)【代理人】
【識別番号】100130432
【弁理士】
【氏名又は名称】出山 匡
(72)【発明者】
【氏名】潟岡 泉
(72)【発明者】
【氏名】須賀 唯知
【テーマコード(参考)】
4E167
4M106
【Fターム(参考)】
4E167AA01
4E167AA18
4E167AA19
4E167AA21
4E167BA00
4E167CA05
4E167CB01
4M106AA01
4M106BA05
4M106CA24
4M106DH12
4M106DH39
(57)【要約】
【課題】平滑化加工から超低損傷な表面活性化処理を一貫して行える接合基板の製造方法及び接合基板の製造装置を提供する。
【解決手段】第1の無機結晶材料基板14と第2の無機結晶材料基板13とを接合して接合基板を製造する方法に関するものである。照射条件の変更が可能なGCIB装置を用いて、真空中に配置した第1の無機結晶材料基板14の表面粗さを、接合が可能なRa数nm以下にする平滑化処理工程と、第1の無機結晶材料基板14と第2の無機結晶材料基板13の接合界面に形成されるダメージ層の厚さが2nm以下になるように、超平滑化処理工程を経た第1の無機結晶材料基板14の接合表面と、第2の無機結晶材料基板13の接合表面をGCIB装置を用いてそれぞれ不活性ガス雰囲気中で活性化する表面活性化工程と、第1の無機結晶材料基板14の活性化された接合表面と第2の無機結晶材料基板13の活性化された接合表面を接触させて接合する接合工程とからなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の無機結晶材料基板と、該第1の無機結晶材料基板と同種または異種の第2の無機結晶材料基板とを接合して接合基板を製造する方法であって、
照射条件の変更が可能なガスクラスタイオンビーム(GCIB)装置を用いて、真空中に配置した前記第1の無機結晶材料基板の表面粗さを、接合が可能なRa数nm以下にする超平滑化処理工程と、
前記第1の無機結晶材料基板と前記第2の無機結晶材料基板の接合界面に形成されるダメージ層の厚さが2nm以下になるように、前記超平滑化処理工程を経た前記第1の無機結晶材料基板の接合表面と、前記第2の無機結晶材料基板の接合表面を前記GCIB装置を用いてそれぞれ不活性ガス雰囲気中で活性化する表面活性化工程と、
前記第1の無機結晶材料基板の活性化された前記接合表面と前記第2の無機結晶材料基板の活性化された前記接合表面を接触させて接合する接合工程とからなることを特徴とする接合基板の製造方法。
【請求項2】
前記超平滑化処理工程では、真空中に配置した前記第1の無機結晶材料基板の表面粗さをモニタリングしながら、モニタリング結果に基づいて前記第1の無機結晶材料基板の表面粗さRa数100nmの粗い表面を数10nm程度に低減させる平坦化加工処理を施す照射条件から、超平滑加工処理を施す照射条件に切替えを行って予め相関関係を求めておいた接合可能な表面粗さと光学モニターの散乱光の強度との関係に基づき前記第1の無機結晶材料基板の表面を超平滑化する請求項1に記載の接合基板の製造方法。
【請求項3】
前記モニタリングは、前記GCIB装置内に配置した光源から前記第1の無機結晶材料基板に照射した光の散乱光と反射光の割合が前記表面粗さによって変化することに基づいて、前記表面粗さに対応した電気信号を出力するモニタリング装置を用いて実施し、
前記GCIB装置は前記電気信号により前記照射条件の切替を行う請求項2に記載の接合基板の製造方法。
【請求項4】
前記第2の無機結晶材料基板は、前記第1の無機結晶材料基板に対する平滑化処理工程と同じ平滑化処理工程を経て、表面粗さが、接合が可能なRa数nm以下になっている請求項1に記載の接合基板の製造方法。
【請求項5】
前記第2の無機結晶材料基板は、前記第1の無機結晶材料基板に対する平滑化処理工程とは別の平滑化処理工程を経て、表面粗さが、接合が可能なRa数nm以下になっている請求項1に記載の接合基板の製造方法。
【請求項6】
前記第1の無機結晶材料基板は、ダイヤモンド基板である請求項1に記載の接合基板の製造方法。
【請求項7】
第1の無機結晶材料基板と、該第1の無機結晶材料基板と同種または異種の第2の無機結晶材料基板とを接合して接合基板を製造する製造装置であって、
照射条件の変更が可能なガスクラスタイオンビーム(GCIB)装置と、
真空中に配置した前記第1の無機結晶材料基板の表面粗さをモニタリングするモニタリング装置と、
前記真空中にある超平滑化した前記第1の無機結晶材料基板と前記第2の無機結晶材料基板とを接合する接合装置とを備え、
前記GCIB装置は、真空中に配置した前記第1の無機結晶材料基板の表面粗さを、接合が可能なRa数nm以下にする平滑化処理工程と、前記第1の無機結晶材料基板と前記第2の無機結晶材料基板の接合界面に形成されるダメージ層の厚さが2nm以下になるように、前記超平滑化処理工程を経た前記第1の無機結晶材料基板の接合表面と、前記第2の無機結晶材料基板の接合表面を前記GCIB装置を用いてそれぞれ不活性ガス雰囲気中で活性化する表面活性化工程とを実施するように構成されていることを特徴とする接合基板の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合基板の製造方法及び接合基板の製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、無機結晶材料基板と、該無機結晶材料基板と同種または異種の無機結晶材料基板とを接合して、接合基板を製造することが様々な工業分野で行われている。なお、本明細書において、「無機結晶材料基板」とは、金属、半導体、セラミックス、酸化物、窒化物、炭化物、珪化物、及びそれらを含む無機結晶材料からなるウエハ状、ないしはチップ状の基板のことである。
【0003】
例えば、シリコンウエハ同士を接合して半導体デバイスの3次元化やMEMSセンサデバイスを製造したり、化合物半導体やシリコン半導体を接合して異種デバイスの多層化や多接合型の太陽電池セルを製造したり、酸化物結晶材料を接合して光学素子を製造したり、圧電単結晶のウエハを接合して表面弾性波フィルタを製造したりすることが行われるようになっている。
【0004】
これらの接合は、基板上に形成される素子や材料の耐熱性の制約から、高温(例えば、150℃以上)で接合することができず、また、接合後に高温での熱処理(ポストアニーリング)をすることができない。
【0005】
また、上記の異種基板の接合の場合は、異種基板の材料間で熱膨張係数が異なるため、高温での接合では、熱歪や熱応力が発生し、接合できなかったり、接合後の特性が劣化するなどの問題もある。
【0006】
上記のような課題があるため、無機結晶材料基板と、該無機結晶材料基板と同種または異種の無機結晶材料基板の接合は、150℃以下の低温・常温で接合が可能な接合方法が使われるようになっている。この接合方法の1つが、表面活性化接合(Surface Activated Bonding[SAB])である。表面活性化接合は、アルゴンなどの不活性ガスをイオン化してイオンビームを作り、このイオンビームやプラズマを接合すべき材料の表面に照射することで、接合材料の表面に存在する酸化膜や汚染層を除去し、表面を活性化することで、低温・常温での接合を実現するものである。
【0007】
ただし、表面活性化接合では、低温・常温で接合面を密着させる必要があるため、接合すべき活性化表面は非常に平坦である必要がある。例えば、表面粗さRa(算術平均表面粗さ)で、1nmを切る超平滑化が必要である。
【0008】
また、表面をイオンで照射するため、ほとんどの結晶性の無機材料については、イオンの照射により、活性化表面には、5nm近い厚さのダメージ層が形成されることが避けられない。このダメージ層は直接には、透過電子顕微鏡観察で、アモルファスないしは微細結晶粒の集合体として観察することができる。
【0009】
例えば、シリコンや化合物半導体では、5nm程度以上のアモルファス層ができ、そのために、界面電気伝導が低下し、太陽電池セルでは理論的な発電効率に至らないという問題が知られている。また、圧電単結晶でも同様に結晶層へのダメージが知られており、圧電特性の低下につながるという問題が知られている。
【0010】
一方、ハイパワー電子デバイスや5G情報通信に代表される高速通信分野では、消費電力の増大に伴い、素子の放熱が大きな課題となっている。同分野で放熱基板として熱伝導率の高いダイヤモンドは良好な無機結晶基板材料として期待されているが、単結晶ダイヤモンドは大きな基板の作成が困難である。一方、化学蒸着法(Chemical Vapor Deposition[CVD])によりSi等の基板上に形成された多結晶ダイヤモンド膜は、近年4インチから6インチ程度の基板が流通し始めており、高熱伝導基板として期待されている。このダイヤモンド基板を高熱伝導基板として使うためには、ワイドバンドギャップ半導体などからなるパワーデバイスやSAWフィルタ等の高周波デバイス等と接合する必要があるが、この場合も、接合界面には、アモルファスないしは微細結晶粒のダメージ層が形成されることが知られている。そのため、界面熱抵抗を理論値まで低下させることができないという問題が生じている。
【0011】
前述のダメージ層は接合界面での熱伝導効果を低下させるため、放熱基板としてダイヤモンドを用いる場合、ダメージ層を薄くすることは極めて重要な課題である。特に今後のパワーデバイスにとって、放熱技術は大きく期待されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記のように、無機結晶材料基板を用いた接合基板の製造においては、1)150℃以下の低温・常温で接合するためには、表面粗さRa(算術平均表面粗さ)で、1nmを切る超平滑化が必要であり、2)またその接合基板の特性を損なわないようにするためには、活性化した接合表面のダメージ層をできるだけ薄くする必要がある。
【0013】
しかしながら、無機結晶材料基板の一例であるダイヤモンド基板の場合、成長したままの状態(as grown)のCVDダイヤモンド多結晶の表面には数百nmの凹凸があり、そのままではGaNやLT/LNの様なデバイスを構成するウエハ基板を接合することはできない。また、単結晶基板や多結晶の自立基板についても、表面の粗さは数十nm以上の凹凸があり、そのままでは接合することができない。
【0014】
そこで基板の平滑化加工を行おうとするが、最も固い素材であるダイヤモンドを平滑にするのには従来の研磨加工では、長時間(1000時間程度)の研磨加工が必要になる。また従来の砥粒を用いた研磨では、前述のようなウエハ基板との常温接合が可能なレベルの粗さ(例えば、算術平均表面粗さRaで1nm以下)まで安定して研磨することはできない。
【0015】
またGaN基板のような化合物半導体では、ダイヤモンドほど硬度は高くないものの、結晶の方向によって化学的に不安定な方向があり、機械的研磨では研磨速度が早すぎて平坦化が困難であるという問題がある。また、イオン照射による活性化では、GaとNの表面からの離脱速度が異なるために、活性化表面には、Nが欠如した欠陥が導入されてしまうという問題もある。
【0016】
これらの欠陥やダメージは接合後のポストアニーリングにより、300℃以上に接合基板を加熱することにより低減することができるが、異種材料を用いた接合基板では、上記のように高温での加熱をすることができない。
【0017】
そこで、ガスクラスタイオンビーム(Gas Cluster Ion Beam[GCIB])(以下、GCIB)による加工が考えられる。GCIBによる加工処理は分子過程であり、被加工材の原子同士の結合エネルギより大きな運動エネルギで加工するため、被加工材の硬度に関係なく平滑化が可能である。
【0018】
ただし、GCIBによる平滑化処理では、加工速度と加工面の粗さの関係は必ずしも一致せず、相反的になるケースが多い。ダイヤモンドの場合も、粗面を高速で平滑化できる条件では到達粗さは算術平均表面粗さRaで1nmには到達しない。
【0019】
しかし、Ra150nm程度の表面粗さを持つ4インチ(Φ4")のダイヤモンド基板全面を1μmエッチングするのに100μA/cm2のGCIB照射で、およそ108分程度で加工することは可能である。この場合には、到達面粗さはRa10~数nm程度である。一方、到達表面粗さを上記Ra0.5nm程度まで加工するのには、超平滑化条件でおよそ3.7時間程度かかるが、実現は可能である。
【0020】
本発明の目的は、ガスクラスタイオンビーム(GCIB)装置を用いることで、平滑化加工から超低損傷な表面活性化処理を一貫して行える接合基板の製造方法及び接合基板の製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、第1の無機結晶材料基板と、該第1の無機結晶材料基板と同種または異種の第2の無機結晶材料基板とを接合して接合基板を製造する方法に関するものである。本明細書において「無機結晶材料基板」とは、金属、半導体、セラミックス、酸化物、窒化物、炭化物、珪化物、及びそれらを含む無機結晶材料からなるウエハ状、ないしはチップ状の基板のことである。
【0022】
本発明の製造方法は、照射条件の変更が可能なガスクラスタイオンビーム(GCIB)装置を用いて、真空中に配置した第1の無機結晶材料基板の表面粗さを、接合が可能なRa数nm以下(例えば、算術平均表面粗さRaで1nm以下)にする平滑化処理工程と、第1の無機結晶材料基板と第2の無機結晶材料基板の接合界面に形成されるダメージ層の厚さが2nm以下になるように、超平滑化処理工程を経た第1の無機結晶材料基板の接合表面と、第2の無機結晶材料基板の接合表面をGCIB装置を用いてそれぞれ不活性ガス雰囲気中で活性化する表面活性化工程と、第1の無機結晶材料基板の活性化された接合表面と第2の無機結晶材料基板の活性化された接合表面を接触させて接合する接合工程とからなる。
【0023】
本発明によれば、第1の無機結晶材料基板の平滑化処理、第1及び第2の無機結晶材料基板の表面活性化処理、その後の接合まで一貫して本発明を実施する製造装置でできるため、製造プロセスの合理化、信頼性の向上を図ることが可能になる。
【0024】
平滑化処理工程では、真空中に配置した第1の無機結晶材料基板の表面粗さをモニタリングしながら、モニタリング結果に基づいて第1の無機結晶材料基板の表面粗さRa数100nmの粗い表面を数10nm程度に低減させる平坦化加工処理を施す照射条件から、超平滑加工処理を施す照射条件に切替えを行って予め相関関係を求めておいた接合可能な表面粗さと光学モニターの散乱光の強度との関係に基づき第1の無機結晶材料基板の表面を超平滑化する。このようにすると平坦化加工処理を施す照射条件から超平滑加工処理を施す照射条件に切替える作業をモニタリングにより高い精度で実施することができるので、第1の無機結晶材料基板の表面粗さを、接合が可能なRa数nm以下に確実にすることができる。
【0025】
モニタリングは、GCIB装置内に配置した光源から第1の無機結晶材料基板に照射した光の散乱光と反射光の割合が表面粗さによって変化することに基づいて、表面粗さに対応した電気信号を出力するモニタリング装置を用いて実施し、GCIB装置は電気信号により照射条件の切替を行うようにすればよい。このようにすれば、自動化が可能になる。
【0026】
なお、第2の無機結晶材料基板については、事前に第2の無機結晶材料基板に適した方法により、表面粗さを接合が可能なRa数nm以下になるようにして、少なくとも表面活性化処理及び接合を本発明によって行ってもよい。すなわち、第2の無機結晶材料基板は、第1の無機結晶材料基板に対する平滑化処理工程と同じ平滑化処理工程を経て、表面粗さが、接合が可能なRa数nm以下になるようにしてもよいし、また、第1の無機結晶材料基板に対する平滑化処理工程とは別の平滑化処理工程を経て、表面粗さが、接合が可能なRa数nm以下になるようにしてもよい。
【0027】
第1の無機結晶材料基板は、金属、半導体、セラミックス、酸化物、窒化物、炭化物、珪化物、及びそれらを含む無機結晶材料からなるウエハ状、ないしはチップ状の基板であればよく、例えば、ダイヤモンド基板であってもよい。さらに具体的には、化学蒸着法(CVD)により形成されたダイヤモンド層を有するCVDダイヤモンド基板であってもよい。
【0028】
本発明は第1の無機結晶材料基板と、該第1の無機結晶材料基板と同種または異種の第2の無機結晶材料基板とを接合して接合基板を製造する製造装置としても特定することができる。本発明の接合基板の製造装置は、照射条件の変更が可能なガスクラスタイオンビーム(GCIB)装置と、真空中に配置した第1の無機結晶材料基板の表面粗さをモニタリングするモニタリング装置と、真空中にある超平滑化した第1の無機結晶材料基板と第2の無機結晶材料基板とを接合する接合装置とを備え、GCIB装置は、真空中に配置した第1の無機結晶材料基板の表面粗さを、接合が可能なRa数nm以下にする超平滑化処理工程と、第1の無機結晶材料基板と第2の無機結晶材料基板の接合界面に形成されるダメージ層の厚さが2nm以下になるように、超平滑化処理工程を経た第1の無機結晶材料基板の接合表面と第2の無機結晶材料基板の接合表面を、GCIB装置を用いてそれぞれ不活性ガス雰囲気中で活性化する表面活性化工程とを実施するように構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本実施の形態の接合基板の製造装置の概略図(断面図)である。
【
図2】接合基板の製造装置の一部を構成するGCIB装置の詳細を説明するための模式図である。
【
図3】(a)は多孔型ファラディーカップ装置の模式図であり、(b)はファラディーカップ本体の概略部分断面図である。
【
図4】光学式表面粗さモニタリング装置の原理を説明するために用いる模式図である。
【
図5】散乱光と反射光の強度と面粗さの関係を示す簡易的なグラフである。
【
図6】クラスタサイズとダメージ層の厚さの関係をシミュレーションと実験で確認したグラフである。
【
図7】クラスタサイズ変更機構によりクラスタサイズを変化させることができることを示すグラフである。
【
図8】第2の実施の形態の接合基板の製造装置の概略図(断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は、本発明の方法を実施する本発明の接合基板の製造装置の実施の形態の一例を示す概略図(断面図)である。接合基板の製造装置は、大きく分けて、GCIB装置と、プロセスチャンバと、光学式表面粗さモニタリング装置と、接合装置と、ロードロックチャンバとから構成されている。
【0031】
GCIB装置は、クラスタを生成するガスクラスタ室1と、このクラスタをイオン化して加速するイオン室2と(モノマーイオン除去及びクラスタサイズ選別用磁場の挿入ができる)、イオン化したクラスタを静電レンズとしてのアインツェルレンズ31で収束し中和する中和室3を有している。このクラスタを生成するガスクラスタ室1にはクラスタサイズを変化させるためにノズル1Aとスキマー1Bの位置関係を変化させることができるクラスタサイズ変更機構1Cが有る。ガスクラスタのビーム経路に磁場を出し入れし所定のクラスタサイズが得られていることを
図3の多孔型ファラディーカップ装置25で確認できるようになっている。GCIB装置には、領域内を排気するターボポンプ6A及び6Bと、ガスの導入系GISが接続されている。
【0032】
後述のように、第1の無機結晶材料基板14に対して、GCIB装置を用いてガスクラスタイオンビーム(以下、GCIBという場合もある)を照射し、第1の無機結晶材料基板の表面粗さを、接合が可能なRa数nm以下にする平滑化処理を行う。なお、本実施の形態では、接合が可能な表面粗さは、算術平均表面粗さRaで1nm以下を想定している。
【0033】
プロセスチャンバ5は、被加工材である第1の無機結晶材料基板14が配置される機械的走査ステージを有している。本実施の形態では、第1の無機結晶材料基板14は、具体的には、化学蒸着法(CVD)により形成されたダイヤモンド層を有するCVDダイヤモンド基板である。
【0034】
光学式表面粗さモニタリング装置18は、ダイヤモンド基板の表面粗さをモニタリングするものである。
【0035】
ロードロックチャンバ8及び10は、プロセスチャンバ5と真空的に遮断が可能なチャンバである。例えば、ロードロックチャンバ10は、GCIB装置による平滑化処理を受ける第1の無機結晶材料基板14を搬送機構16により搬送されるサンプルホルダ16Aにセットしてプロセスチャンバ5に導入するに当たって、予め真空に引いておくためのチャンバである。ロードロックチャンバ8には、ターボポンプ6Cが接続されており、また、ロードロックチャンバ10には、ターボポンプ9が接続されている。高真空用ベローズ11及び12は、真空を維持しながら前後に稼働できるものである。
【0036】
第2の無機結晶材料基板13は、第1の無機結晶材料基板14と接合をする様に、予め超平滑化、すなわち、接合が可能な表面粗さRa数nm以下(算術平均表面粗さRa1nm以下)に処理されたものである(本装置内で超平滑化されても良い)。本実施の形態では、第2の無機結晶材料基板13は、GaN基板である。接合直前に、搬送機構7によりGCIB装置のGCIB照射位置まで搬送し、GCIB装置を用いて、不活性ガス(例えばArガス)のGCIBを接合表面に照射して表面活性化処理を行う。表面活性化処理により、接合表面の付着物が除去され、同時に、表面の原子が励起され超低損傷で活性化される。
【0037】
GCIB装置により超平滑化された第1の無機結晶材料基板14は、必要に応じて第2の無機結晶材料基板13と同様に、GCIB装置を用いて、不活性ガス(例えばArガス)のGCIBによる表面活性化処理後、サンプルホルダ16Aにより保持されて同じ真空環境下にある第2の無機結晶材料基板13に対向する位置に搬送される。そして第1の無機結晶材料基板14は予め搬送機構7により
図1に示した位置に搬送された第2の無機結晶材料基板13と、圧接機構17及び17´により圧接されて常温接合(表面活性化接合[SAB])される。
【0038】
なお、上記で第1の無機結晶材料基板14に対して「必要に応じて」表面活性化処理を行うとしているのは、超平滑化処理の最後に照射したGCIBが不活性ガス(例えばArガス)であれば、あえて別工程として表面活性化処理を行う必要がない、という意図であり、表面活性化処理が不要という意図ではない。
【0039】
接合された第1の無機結晶材料基板14と第2の無機結晶材料基板13は、サンプルホルダ16Aによりロードロックチャンバ10に搬送され、または、搬送機構7によりロードロックチャンバ8に搬送され、ロードロックチャンバ8及び/またはロードロックチャンバ10が、プロセスチャンバ5と真空的に遮断された後、装置外に取り出される。
【0040】
図2は、接合基板の製造装置の一部を構成するGCIB装置の詳細を説明するための模式図であり、
図3はクラスタサイズを確認するための多孔型ファラディーカップ装置25を示す模式図である。ファラディーカップ本体25Aに形成された複数の孔Hの径のそれぞれはΦ1mm程度でそれぞれの孔Hに対応して小径の複数のファラディーカップ25Bが設置され、ファラディーカップ25Bは計測するビーム径の半値幅が十分に計測できる程度の領域に配置されている。
図4は、モニタリング装置の原理を示す模式図であり、
図5は、散乱光と反射光の強度と面粗さの関係を示す簡易的なグラフであり、
図6は、ノズルとスキマー間の距離とクラスタサイズの相関関係を示すグラフである。
【0041】
図2に示すように、GCIB装置は、ガスの導入系GISと、クラスタを生成する部分(ガスクラスタ室1とノズル1Aとスキマー1B)と、このクラスタをイオン化し加速し静電レンズで収束し中和する部分(イオン室2,中和室3,引出し電極4,アインツェルレンズ31,マグネット32,中和器33)を有しており、プロセスチャンバ5内に延びるサンプルフォルダ16A上に配置された第1の無機結晶材料基板14にGCIBを照射するようになっている。また同装置はモノマーイオンMIを除去或いはクラスタサイズを選別するマグネット32をクラスタビーム経路に挿入可能な機構(搬送機構34,高真空用ベローズ35)を備えている。
図3に示した多孔型ファラディーカップ装置25の設置により、GCIBの照射位置を計測し、その位置からクラスタサイズ変更機構1CでガスクラスタGCのサイズを変化させたクラスタのサイズを知ることができる。具体的には、マグネット32により偏向されたクラスタは小さいほど大きく曲げられるので、クラスタのピークが検出されるファラディーカップ25Bの位置とクラスタの大きさに相関があることを利用してクラスタのサイズを判断する。その他構成部材等については、
図2に明記した通りである。
【0042】
本実施の形態では、GCIB装置は、平滑化処理工程を行うために、光学式表面粗さモニタリング装置18を備えている。光学式表面粗さモニタリング装置18は、
図4に示す原理で第1の無機結晶材料基板14の表面粗さを測定する。
図4において、モニタリング装置18は半導体レーザ等の光源19、偏光板20、20’、半球型の凹面鏡21、反射光用フォトセンサ22及び散乱光用フォトセンサ23を備えている。凹面鏡21は頂点に反射光が通る穴が開いている。GCIBは加工用ガスクラスタイオンビーム、SLは散乱光、PLは偏光板20を通った偏光、RLは反射光、20´は反射光から入射光の偏光方向に合わせた偏光板、符号11は同偏光板を通過した反射光である。
【0043】
光源19から発せられたレーザ光は偏光板20を通過し偏光PLとなり、被加工物である第1の無機結晶材料基板14の表面に照射される。照射位置はGCIBが照射される位置に一致している。表面粗さが大きい時は、偏光PLは散乱され、一部は散乱光SLとなって表面から周囲に散乱され、一部が穴の開いた凹面鏡21の内側で反射され集光され散乱光用フォトセンサ23により受光される。反射光RLは凹面鏡21の穴を通過し、偏光板20´を通過して入射光の偏向方向の成分が反射光用フォトセンサ22に入る。
【0044】
GCIBの照射が進み、被加工物の面の粗さが減少するに従って散乱光SLが減り反射光RLが増加する。この過程は、
図5に示す通りである。
【0045】
予め表面粗さと上記2個のフォトセンサ(反射光用フォトセンサ22及び散乱光用フォトセンサ23)の指示値との関係を求めておき、所望の粗さになったら、GCIBの照射条件を超平滑処理条件に切り替える。平坦化加工にはSF
6,NF
3,CF
4等の反応性ガス或いはAr,Kr,Xe等を前記の反応性ガスに加えても良くガス種は照射条件により選択できる。平坦化加工から超平滑加工への切り替えは上記ガス種の他照射エネルギ、照射電流、クラスタサイズ、照射角度、基板温度等照射パラメータを変更して行う。この時GCIBのビーム経路に磁場を挿入しモノマーイオンMIの除去、クラスタサイズの確認を多孔型ファラディーカップ装置25で行うこともできる。光量の変化が十分な場合はどちらか一方の信号でも良く、また不十分な場合両者を演算して使用しても良い。さらに、同様にして、超平滑状態になったことを示す指示値が得られたら、超平滑処理を完了し、必要に応じてGCIB装置を用いて、不活性ガス(例えばArガス)のGCIBによる表面活性化処理後、
図1に示したように、無機材料基板との接合を行う。
【0046】
このようにして、本実施の形態では、光学式表面粗さモニタリング装置18を用いることで、平滑化処理工程を、基板の表面粗さRa数100nmの粗い表面を数10nm程度に低減させる平坦化加工処理と、接合が可能なRa数nm以下にする超平滑加工処理の2段階で実施している。
【0047】
図6にクラスタサイズとダメージ層の厚さの関係をシミュレーションと実験で確認したグラフを示す。同図はSi表面にArクラスタ(5KVで照射)を様々なサイズで照射した時のダメージ層をシミュレーションと実験で確認しており、この場合ダメージ層の厚さを1nmより十分に小さくできることを示している。
【0048】
また
図7に、
図2に示したクラスタサイズ変更機構1Cによりクラスタサイズを変化させることができることを示す。同図よりノズル1Aとスキマー1B間の距離を凡そ5mm程度変化させることでクラスタサイズのピーク位置を1000個から5000個程度まで変化させることができることが分かる。
【0049】
図8は、本発明の第2の実施の形態を示す、接合基板の製造装置の概略図(断面図)である。接合基板の製造装置は、GCIB装置室100と前処理室101と接合室102とから構成されている。前処理室101と接合室102はそれぞれ排気系を備え、ゲートバルブで仕切られることにより、各室内の圧力を独立制御する。接合室は、10-7~10-8Paの超高真空を維持し、ゲートバルブが開く際には前処理室101も接合室102と同じ圧力まで真空排気される。前処理室101と接合室102との間の基板の搬出入は図示しない搬送機構により実施される。
【0050】
前処理室101は、GCIB装置、基板を保持するXYステージ103、表面粗さをモニタリングするモニタリング装置18を備える。XYステージ103により、基板をXY方向に駆動することにより、GCIBを基板上にてスキャンすることが可能である。XYZステージ103を用いることにより、GCIB装置と基板との相対距離を可変させて照射条件を調整してもよい。また、基板ステージの角度可変機構を設けることにより、基板の法線に対するGCIBの入射角度を最適化してもよい。
【0051】
接合室102は、前処理室101から接合対象基板を受け取り、上下接合ステージ106,106’に接合対象基板を保持する。基板の位置合わせ後、昇降装置105,105’を駆動させることにより、上下接合ステージ106,106’を相対移動させ、接合対象基板を対面接近させて接触させる。制御装置により、接合対象基板を所定時間加圧する。加圧の力及び時間は、接合対象基板に応じて設定すればよい。上下接合ステージにヒーターを設け、接合面の温度を制御してもよい。
【0052】
前処理室101は、接合前の基板に平坦化加工、超平滑加工、表面活性化処理、及び成膜処理を実施する。平坦化加工及び超平滑加工を平滑化加工処理として一括して実施してもよい。平坦化加工は、凹凸構造を有する基板に対して、表面粗さRaが数十nm以下となるまで平坦化する処理である。GCIB装置を用いて基板表面にGCIBを照射することにより、基板材料の一部を除去し、平坦化を実施する。本実施の形態では、平坦化加工にSF6、CF4、NF3、CHF3等の反応性ガスを使用し、高速処理を実現する。ただし、Ar、N2等の不活性ガスを使用してもよく、O2、N2O、C2F6、C3F8、C4F6、SiF4、COF2、Kr、Xe等含め、ガス種は照射条件に合わせて適宜選択すればよい。接合対象基板の表面粗さRaが数十nm以下である場合は、平坦化加工処理は省略してよい。
【0053】
超平滑加工は、接合対象基板の表面粗さRaを1nm以下でまで平滑化する処理である。平坦化加工に同じGCIB装置を使用するが、平坦化加工とはGCIBの照射条件を変更することを特徴とする。平坦化加工時、モニタリング装置18は、平坦加工処理中の基板の表面粗さをin-situで測定する。表面粗さが所定の値を満たした場合、制御機構はGCIBの照射条件を変更する。本実施の形態では、平坦化加工から超平滑加工に切替えを行うタイミングで、モノマーイオン除去用磁石をGCIBのビーム経路に突出させる。平坦化加工中は、モノマーイオン除去用磁石を後退させることで、処理電流を増大させ、エッチング処理速度を大きくすることができる。超平滑加工中は、モノマーイオン除去用磁石を突出させることにより、基板面に損傷を生じさせる原因となるモノマーイオンを確実に排除することができる。
【0054】
表面活性化処理は、接合対象基板の貼合わせ面を活性化させる処理である。表面活性化処理も、平坦化加工及び超平滑加工に同じGCIB装置を使用する。超平滑加工時も、モニタリング装置18は、加工処理中の基板の表面粗さをin-situで測定する。超平滑加工における表面粗さの変化量は非常に小さいため、モニタリング装置18は、精度の高い光学系を備え、サブオングストローム単位の表面粗さ変化量を検知可能なものを準備する。表面粗さが所定の値を満たした場合、制御機構はGCIBの照射条件を変更する。本実施の形態では、超平滑加工から表面活性化処理に切替えを行うタイミングで、ガス種を反応性ガスから不活性ガスに変更する。フッ素系の反応ガスは、エッチング速度が大きく平坦化加工や超平滑加工に適しているが、接合面に残留するため、表面活性化処理では不活性ガスを用いることにより、接合面をクリーニングしながら活性化も行う。
【0055】
成膜処理は、接合対象基板の貼合わせ面に接合に適した材料を堆積させる処理である。成膜材料としてはSi,Fe,Ti,Al,Cu等の金属や、酸化物、窒化物等があげられる。成膜処理も、平坦化加工、超平滑加工、及び表面活性化処理に同じGCIB装置を使用し、ガス種と加速電圧を変更することにより、エッチングからデポジションへと切替えを行う。成膜処理は接合処理の前に実施されればよい。超平滑加工後に成膜処理した後、表面活性化処理をしてから接合処理をしてもよいし、超平滑加工後に表面活性化処理し、その後成膜処理をしてから接合処理をしてもよい。成膜処理により基板表面が不活性化してしまう場合は、超平滑加工後に表面活性化処理し、その後成膜処理をした後、更に表面活性化処理をし、接合処理を実施すればよい。成膜処理前に表面活性化処理を実施することで、成膜処理時に材料が堆積しやすいという効果もある。さらに、成膜材料に難加工材料を用いる場合は、平坦化加工または超平滑加工の前に成膜処理を実施してもよい。
本実施の形態では、1台のGCIB装置で平坦化加工、超平滑加工、表面活性化処理、及び成膜処理を全て実施することができるため、装置構成の簡略化及び低コスト化に貢献する。さらに、平坦化加工、超平滑加工、及び表面活性化処理は基板表面の洗浄化にも寄与する。
【0056】
本実施の形態では前処理室101を一室構成としているが、前処理室を複数設けてもよい。例えば第一の前処理室では平坦化加工を実施し、第二の前処理室では、超平滑加工、表面活性化処理、及び成膜処理を実施する構成としてもよい。第一の前処理室で反応性ガスを、第二の前処理室で不活性ガスを使用すれば、接合室への反応性ガスの持ち込みを抑止し、接合室の汚染防止を可能とする。
【0057】
GCIBの照射条件切替えは、基板の種類や要求仕様に応じて決定すればよい。照射条件切替えのパラメータとしては、ガス種、ガス流量、電流、クラスタサイズ、照射エネルギ、入射角度、基板温度等があげられる。
【0058】
本実施の形態では、モニタリング装置18を用いてGCIB照射条件の切替えを実施するが、事前に条件出しを行い、時間制御によりGCIB照射条件の切替えを実施してもよい。
【0059】
超平滑加工及び表面活性化処理において、GCIBを用いることにより、単原子イオンビームを用いた場合に比較して、低損傷かつ歪みの少ない活性化表面を得ることが可能となる。
【0060】
本実施の形態では、接合基板にダイヤモンドを用いたが、基板の種類はこれに限定されない。LiNbO3やLiTaO3などの圧電単結晶と、サファイアやSiOx等の音響層、その他の無機材料との接合に本装置を用いてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 ガスクラスタ室
2 イオン室
3 中和室
5 プロセスチャンバ
6A,6B,6C,9 ターボポンプ
7 搬送機構
8,10 ロードロックチャンバ
11,12 高真空用ベローズ
13 第2の無機結晶材料基板
14 第1の無機結晶材料基板
16 搬送機構
16A サンプルホルダ
17 圧接機構
18 モニタリング装置